JP5118277B2 - 消色可能水性インキ組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、消色可能水性インキ組成物、特にボールペン、マーキングペン等の筆記具用インキ、印刷用インキ、インクジェット用インキに使用され、有機溶剤及び/又は加熱により消色可能な水性インキに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
これまでに、様々なタイプの消色可能なインキが提案されている。それらの中で、例えば、呈色性化合物、顕色剤、熱可塑性樹脂を混練して調製した粗生成物を、ジェットミル等によって気相中で微粉砕して着色剤とするものがある(特願2000−162509号明細書)。この方法で調製された着色剤には、1)粉砕機の構造上粒子径3μm以下の着色剤を得ることが困難であり、インキとしたときに着色剤の沈降及び密着性に問題がある、2)粒子径が均一でないため、ボールペン用インキとした際の筆感が悪い、3)粒子径が大きいため、マーキングペン用インキとした際に繊維束ペン先を通過しない、または、インクジェット用インキとした際にノズルを詰まらせてしまう、4)消色剤を含有しないため筆記又は印刷面の種類によっては有機溶剤や加熱での消色が不十分であるなどの問題があった。また、特願2001−18118号明細書で提案されている、微小樹脂球をロイコ染料を代表とする呈色性物質で染色してなる着色剤を用いた水性インキは、インキ中に消色剤を含有しないため筆記面又は印刷面の種類によっては有機溶剤並びに加熱での消色が不十分であるなどの問題があった。
【0003】
上記したように、微小樹脂球にロイコ染料を代表とする呈色性物質で染色し、有機溶剤及び/又は加熱によって消色可能なインキ組成物及びその製造方法は提案されているが(特願2001−18118号明細書)、筆記面又は印刷面の種類によっては消色が不十分である等の問題があった。筆記面又は印刷面が紙の場合、多くの紙には消色作用を有するデンプンが含まれるため、インキ中に消色剤を含有しないタイプのインキでも、有機溶剤並びに加熱による消色が可能であったが、デンプンを含有しない紙やガラスやプラスチック等の表面に筆記又は印刷した場合は、有機溶剤並びに加熱では充分に消色しなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この種の従来の消色可能なインキは、筆記面又は印刷面の種類によって有機溶剤並びに加熱での消色が不十分である、また筆記具に用いた場合、筆感が悪いなどの問題があった。そこで、本発明は、非常に微小な着色剤の作成が可能で、筆記具用インキやインクジェット用インキとして使用でき、更には筆記面又は印刷面の種類によらず有機溶剤及び/又は加熱での消色が良好な水性インキを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記先行技術の有する問題点を解決するためには、インキ組成物中に消色を促進する消色剤を含有させるのが有効と考え、有効な消色剤の開発研究に従事した。消色剤としては、塩基性物質が挙げられるが、塩基性化合物の種類によってはインキ自体を消色させてしまったり、着色剤の分散安定性を阻害する、又は消色作用がない等の問題が生ずることがある。そのため、本発明者らはインキに悪影響を及ぼさず、それでいて消色作用が充分な、塩基性物質からなる消色剤を見いだせば、消色可能水性インキとして作成することが可能となるとの立場に立った。
通常、塩基性物質としては、塩基性水酸基を有する水酸化アルカリ金属塩や水酸化アルカリ土類金属塩、アルカリ金属アルコキシドなどが考えられるが、これらの物質は塩基性度が強いためインキを消色させてしまう。その他の塩基性物質としてはいわゆるルイス塩基が考えられるが、その中でも3,5−ジメチルイミダゾリジノンはインキ色を消してしまい、また尿素やヒダントイン誘導体はインキ色を消色しないが、筆記又は印刷した描線を加熱しても消色する効果が極めて低い。対して、窒素原子を含む重合体である化合物を消色剤として用いると、インキ色を消色させることなく、それでいて有機溶剤並びに加熱時の消色は充分に得られることを発見し、本発明に至ったものである。
【0006】
上記した本発明の目的には以下に要約した各発明及び態様によって達成することができる。
(1)微小樹脂球と呈色性物質とを混合することで微小樹脂球を呈色性物質で着色してなる着色剤及び窒素原子を含む重合体である塩基性化合物を含有し、塩基性化合物は、繰り返し単位として下記A〜Gのいずれかで示される繰り返し単位のみを有する重合体であり、呈色性物質がロイコ染料であり、ロイコ染料と顕色剤であるフェノール性水酸基を有する化合物又はリン酸基を有する化合物とを反応させて発色させた状態で微小樹脂球を着色し、有色のインキとしたことを特徴とする消色可能水性インキ組成物。
【化2】
(2)塩基性化合物がポリビニルピロリドンであることを特徴とする上記(1)に記載された消色可能水性インキ組成物。
(3)微小樹脂球がアクリロニトリル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルよりなる群から選択される単量体を構成単位として含むポリマー又はポリオレフィンより選択される1種類以上のポリマーからなることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載された消色可能水性インキ組成物。
【0008】
(4)ロイコ染料を発色させる顕色剤が、フェノール性水酸基を有する化合物又はリン酸基を有する化合物であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載された消色可能水性インキ組成物。
【0009】
本発明のインキ組成物で、有機溶剤及び/又は加熱による消色で充分な効果を与える消色剤の選定における物理・化学的な根拠は明らかではないが、おおよそ次のように考えられる。1)発色状態にある(ロイコ染料―顕色剤)の結合を切断するほどの活性化エネルギーを供し得ない弱塩基性物質である、2)有機溶剤及び/又は加熱による消色時、つまり着色剤が溶解又は融解時、つまりロイコ染料と顕色剤の結合が切断されている際には、消色剤が顕色剤と優先的に結合し、発色状態に戻さないような塩基性物質である、3)加熱時の消色が良好であるために、加熱消色の温度である100〜230℃で塩基性化合物が融解する等の条件が考えられる。これらの条件を満たす消色剤としては、窒素原子を含む重合体である塩基性化合物であり、特に一般式(1)で示される化合物であれば、インキ色を消色させることなく、更には紙の種類によらず充分に消色させることが可能であることを見いだしたものである。
【0010】
【発明実施の形態】
本発明において、筆記面又は印刷面の種類によらず有機溶剤並びに加熱による消色が良好なインキを得るためには、微小樹脂球を呈色性物質で着色してなる着色剤を用いた水性インキにおいて、窒素原子を含む重合体である塩基性化合物を含有させることにより、筆記面又は印刷面の種類によらず有機溶剤並びに加熱による良好な消色が可能となる。消色作用を有する窒素原子を含む重合体である塩基性化合物としては、特に一般式(1)で示される化合物である。
【0011】
【化3】
〔式中、X、Yは任意の官能基であり、Qは単結合、アルキレン基、フェニレン基、又は−COO−L−、−CONH−L−、−CONR−L−で表される基を表す。ここで、L及びRは炭化水素により構成される基であり、R1 、R2 及びR3 は水素、炭素、窒素、酸素及び硫黄より選択される原子により結合される基である。ここで、L、R、R1 、R2 、R3 は互いに同じであっても、異なっていてもよい。l、m、nは一般式(1)で表される構成単位を構成する各最小構成単位のモル百分率を表し、lは0〜90までの整数、mは0〜90までの整数、nは0〜100までの整数を表し、l+m+n=100を満たす。〕
【0012】
実際の消色能を有する部位は、窒素原子を中心とする基であるので、使用できる具体的な化合物としては、窒素原子を含む構成単位の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。X及びYは、任意の官能基を導入した化合物を使用することができるが、親水性基及び/又は疎水性基を導入し、その割合を変えることによって、溶解性を制御することが出きる。窒素原子を含む重合体は、水溶性でも、水性エマルションでも使用できる。以下に上記窒素原子含有重合体の構成単位の具体例A〜Gを構造式によって示す。
【0013】
【化4】
【0014】
ここで、Aがポリビニルピロリドンであり、GがPUVAシリーズ(大塚化学株式会社製、商品名)である。また、PUVAシリーズは、紫外線吸収効果があるため、水性インキに使用すると紫外線を吸収し、着色剤の褪色を抑制し、筆記線の耐光性を向上することができる。
ここで、本発明で使用する呈色性物質とは、代表的にはロイコ染料であり、例えば、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系等の分子内にラクトン環を有する化合物であり、それらのうち1種又は2種以上混合して使用できる。
【0015】
これらの化合物の具体例は、「CVL」、「Green DCF」、「Vermilion DCF」、「Red DCF」、「Orange DCF」、「TH−106」、「TH−107」、「TH−108」、「TH−109」、「CF−51」、「D.L.M.B.」(以上、保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名)、「DEBN」、「RED 500」、「RED 520」、「S−205」、「Black 100」、「Black 202」、「Black 305」、「ETAC」、「Blue 220」、「NIR Black 78」、「Green 300」、「PINK 535」(以上、山田化学工業株式会社製、商品名)、「ODB」、「ODB−2」、「ODB−7」、「Black−15」、「Black−173」、「Blue−63」、「Blue−502」、「Green−40」、「Red−3」、「Red−40」、「MNSP」、「LCV」、「GN−2」、「GN−169」、「GN−118」(以上、山本化成株式会社製、商品名)、「PERGASCRIPT RED I−6B」、「PERGASCRIPT GREEN I−2GN」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製、商品名)等を使用することができる。
【0016】
上記呈色性物質の対となり、呈色性物質を呈色させる顕色剤としては、ヒドロキシアセトフェノン系、ヒドロキシベンゾフェノン系、没食子酸エステル系、ベンゼントリオール系、ビスフェノール系、トリフェノール系及びクレゾール系などの分子内にフェノール性水酸基を有する化合物又はリン酸、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル等の分子内にリン酸基を有する化合物であり、それらのうち1種又は2種以上混合して使用することができる。
【0017】
これらの化合物の具体例としては、フェノール性水酸基を有する化合物としては、ジヒドロキシアセトフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロ安息香酸、ビスフェノール、ヒドロキシフェニルアルキル−ベンゾトリアゾール、メチレントリス−p−クレゾール、没食子酸アルキルエステル等が挙げられる。また、リン酸基を有する化合物としては、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジアルキルリン酸エステル等であり、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ラウリル基、オレイル基、ステアリル基等が挙げられる。更に、リン酸基を有する化合物の具体的な商品名としては、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業株式会社製)、プライサーフシリーズ(第一工業製薬株式会社製)、ニューコール 565−PS(日本乳化剤株式会社製)等が挙げられる。
【0018】
ここで、それぞれインキ組成物質量に基づいて、ロイコ染料は0.1〜2質量%、顕色剤は0.1〜3質量%の範囲で使用することが可能である。又、ロイコ染料に対する顕色剤の割合は、顕色剤の価数により異なるが、概ね1化学当量以上、好ましくは1〜3化学当量の範囲で使用可能である。更に着色された球状微粒子は、インキ組成物質量に対して5〜40%、好ましくは10〜25%の範囲で使用することが可能である。また、上記インキ組成物に用いられる溶剤の割合は、着色された球状微粒子を懸濁液としてインキ化するのに用いる場合は、5〜30質量%である。更に、窒素原子を含む重合体である塩基性化合物は、インキ組成物質量に対して、1〜20%、好ましくは5〜15%を用いることが可能である。
【0019】
微小樹脂球としては、アクリロニトリル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルよりなる群から選択される単量体を構成単位として含むポリマー又はポリオレフィンであり、ホモポリマー、コポリマーのいずれも用いることができる。アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸重合体、メタクリル酸メチル重合体、ポリエチレン重合体が好ましい。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、気相重合の区別なく用いることができる。この際、球状微粒子の平均粒子径は、印刷用インキの場合は、特に制限なく使用できるが、筆記具用インキの場合は、0.05〜1μmまで使用が可能である。更に好ましくは0.05〜0.5μmである。ここで、球状微粒子の平均粒子径が0.05μm以下である場合は、実用上問題ないものと考えられるが実際の作成が非常に困難である。又、1μmを超えると、マーカーでは繊維束ペン先を通過しにくくなったり、インキ中で着色剤の沈降が発生し筆記困難となる等の問題が発生する。
【0020】
更に、着色剤を紙面に密着させるための固着樹脂としては、水溶性樹脂及び水性樹脂エマルションを使用することができる。水溶性樹脂としては、水溶性ナイロン樹脂、水溶性ポリビニルアセタール樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリアミド樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エステル化デンプン、デキストリン、還元麦芽糖、糖アルコール、カルボキシメチルセルロースであり、好ましくはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリンであり、また水性樹脂エマルションとしては、エチレン酢酸ビニルエマルション、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルエマルション、エチレン酢酸ビニルアクリルエマルション、アクリルエマルション、スチレンアクリルエマルション、スチレンアクリロニトリルエマルション、アクリロニトリルブタジエンエマルション、アクリルブタジエンエマルション、ウレタンエマルション、ポリエステルエマルションであり、好ましくは、エチレン酢酸ビニルエマルション、エチレン酢酸ビニル塩化ビニルエマルションであり、そのうち1種又は2種以上混合して使用できる。
【0021】
変色をさせる目的で、消色可能な着色剤以外に、通常使用される従来公知の染料及び/又は顔料を同時に用いることで、呈色性化合物の色のみが消色されて通常の染料及び/又は顔料のみの色になり変色が可能となる。染料としては、酸性染料、塩基性染料及び直接染料を用いることができる。顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系等の有機顔料、カーボンブラック、合成マイカ、酸化チタン、金属微粉末等の無機顔料、乳化重合で得られる球状微粒子を通常の染料で着色した従来公知の樹脂顔料を用いることができる。また、変色可能インキを作成する方法としては、乳化重合で得られる球状微粒子を着色する際に、呈色性化合物と通常の染料を併用して着色すると、呈色性化合物の色のみが消色されて通常の染料のみの色になり変色が可能となる。
【0022】
消色用溶剤に用いる有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、3−メチル−2−ブタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン等のケトン系溶剤、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ピラン、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ジオキサン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル等のエステル系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶剤、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のグリコールエーテル系溶剤、メチルグリコールアセテート、エチルグリコールアセテート等のグリコールエーテルエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、パークロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、アニリン、トルイジン、ピリジン、ビピリジン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルフォキシド等のヘテロ原子を有する炭化水素系溶剤であり、そのうち1種又は2種以上混合して使用できる。消色性能、人体に対する安全性及び溶剤の乾燥性などの点から、アセトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンが特に好ましい。ここで言うヘテロ原子とは、酸素原子を含まず、特に窒素原子と硫黄原子を指す。
また、消色用溶剤に消色を促進する消色助剤を含有させてなる消色用溶剤組成物を消色用溶剤として用いることができる。消色助剤としては、塩基性化合物が挙げられる。塩基性化合物としては、塩基性水酸基を有する水酸化アルカリ金属塩や水酸化アルカリ土類金属塩、アルカリ金属やアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属アルコキシドなどの無機塩基性化合物、アンモニア、尿素及び尿素誘導体、第1級アミン、第2級アミン、第3級アミン、第1級アミド、第2級アミド、第3級アミド等のルイス塩基性化合物等の塩基性化合物であり、そのうち1種又は2種以上混合して使用できる。上述の塩基性化合物を含有してなる消色用溶剤組成物を用いて消色を行うと、筆記線や描線の消色は可能であるが、用いた塩基性化合物に揮発性がない場合、消色用溶剤組成物を使用した箇所には塩基性化合物が残留するため、そこへ筆記又は印刷しようとしても瞬時にインキと塩基性化合物が反応し、再筆記又は再印刷を行うことができない。そこで、塩基性化合物に揮発性があれば、消色用溶剤組成物を使用した箇所から、消色助剤である塩基性化合物が揮発するため、再筆記又は再印刷を行うことができる。消色用溶剤組成物に用いる揮発性塩基性化合物としては、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、アニリン、ピリジン、ビピリジン、3,5−ジメチルイミダゾリジノン等のアミンやホルムアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミドであり、それらのうち1種又は2種以上混合して使用できる。消色性能、人体に対する安全性及び溶剤の乾燥性などの点から、トリエタノールアミンが好ましい。
【0023】
その他インキの材料として通常用いられる界面活性剤、防腐剤、防錆剤、乾燥抑制剤、潤滑剤、分散樹脂等の添加剤についても必要に応じて用いることができるが、本発明の目的に鑑み、呈色性物質、顕色剤並びに球状微粒子と反応し、発色及び/又は消色を妨げるものであってはならない。
【0024】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、それにより本発明を限定するものではない。
(実施例1)
恒温槽中に、2リットル4つ口フラスコに冷却管、温度計、単量体投入用500ml分液ロート、撹拌装置を取り付けた装置をセットし、フラスコにイオン交換水300gを入れ80℃まで加熱した。
アクリルニトリル140g、スチレン228g、メタクリル酸32gの単量体混合物をイオン交換水218g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム80gの混合溶液中に混合撹拌させ更に過硫酸アンモニウム2gを溶解させ、これを上記分液ロートからフラスコ内に撹拌しながら3時間かけて滴下し、更に5時間後に重合を終了した。得られた乳化重合体懸濁液50gにイオン交換水30g、グリセリン15gを撹拌しながら添加した溶液に、RED 40(山本化成株式会社製、赤色系ロイコ染料、商品名)0.4g、フォスファノールRM710(東邦化学工業株式会社製、顕色剤、リン酸モノアルキルエステル及びリン酸ジアルキルエステルの混合物、商品名)2.0gにエチレングリコール3.0g、ペレックスNBL(花王株式会社製、界面活性剤、アルキルナフタレンスルフォン酸ナトリウム、商品名)2.0gを加え加熱撹拌し発色させた染料溶液を撹拌しながら滴下したのち、50℃に加熱して1時間染色すると平均粒子径0.12μmの赤色インキベースが得られた。
【0025】
得られたインキベース28gに、PVP K−15(アイエスピー・ジャパン株式会社製、ポリビニルピロリドン、商品名)2gを撹拌混合し、赤色インキを得た。得られたインキを、市販されている直液式マーカー(蛍光スパーキー1、ゼブラ株式会社製、商品名)と同様に、インクタンクに充填した後、バルブ組込済み先端カバーを装填し、ポリエステルペン先及びキャップを嵌着し、赤色マーカーを作成した。作成したマーカーを用いて、官製はがき(酸性紙)及びガラス面に手書きで筆記を行った。
【0026】
(実施例2)
実施例1で得られる赤色インキ50gにキサンタンガム0.25gを加え撹拌しジェルインクボールペン用インキを得た。得られたジェルインクボールペン用インキを、市販されているジェルインクボールペン(BW−100、ゼブラ株式会社製、商品名、ステンレスチップボール径0.7mm)と同様に、ポリプロピレン製チューブにインキを充填した後、ペン先を嵌着し、尾部よりインキ追随体を適量注入し、遠心機により200Gにて脱泡しボールペンを作成した。作成したジェルインクボールペンを用いて、官製はがき(酸性紙)に手書きで筆記を行った。
【0027】
(実施例3)
実施例1で得られる赤色インキベース50gにPUVA−EmOC60(大塚化学株式会社製、ポリマー塩基水性エマルション、商品名)10gとキサンタンガム0.25gを加え撹拌しジェルインクボールペン用インキを得た。得られたジェルインクボールペン用インキを、市販されているジェルインクボールペン(BW−100、ゼブラ株式会社製、商品名、ステンレスチップボール径0.7mm)と同様に、ポリプロピレン製チューブにインキを充填した後、ペン先を嵌着し、尾部よりインキ追随体を適量注入し、遠心機により200Gにて脱泡しボールペンを作成した。作成したジェルインクボールペンを用いて、官製はがき(酸性紙)に手書きで筆記を行った。
【0028】
(実施例4)
イオン交換水100g、ペレックスNBL3g、MP−1451(綜研化学株式会社製、メタクリル酸メチル乳化重合体、商品名)20gをガラスビーズ75g(2mm)が入った容器に加え蓋をした後、振とう機で5分間振とうして得られた球状微粒子を分散させた懸濁液50gに、PINK 535(山田化学工業株式会社製、桃色系ロイコ染料、商品名)0.3g、リン酸ジ−n−ブチル(東京化成工業株式会社製、顕色剤)1gをエチルアルコール2g、エチレングリコール2gに加え溶解、加熱発色させた溶液を撹拌しながら滴下した後、50℃に加熱して1時間染色すると平均粒子径0.15μmの桃色インキベースが得られた。
得られたインキベース27gにPUVA−NW18(大塚化学株式会社製、ポリマー塩基水溶液、商品名)3gを撹拌混合し、桃色インキを得た。得られたインキを、ピエゾ素子を使用したインクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製、PM−700J、商品名)のインクとして、インクタンクに充填し、インクジェットプリンター用インクカートリッジを作成した。作成したインクカートリッジを用いて、官製はがき(酸性紙)に印刷を行った。
【0029】
(実施例5)
ケミパールW−700(三井石油化学工業株式会社製、ポリオレフィン気相重合体分散液、商品名)50g、イオン交換水20g、エチレングリコール10g、グリセリン10gをビーカーに加え撹拌し得られた分散液に、ピンク 535 0.3g、リン酸ジ−n−ブチル1g、ファーストグリーンFCF(大和化成工業株式会社製、緑色系染料、商品名)0.1gをエチルアルコール2g、エチレングリコール2gに加え溶解、加熱発色させた溶液を撹拌しながら滴下した後、70℃に加熱して1時間染色すると平均粒子径1μmの黒色インキベースが得られた。
得られたインキベース30gにPVP K−30(アイエスピー・ジャパン株式会社製、ポリビニルピロリドン、商品名)2gとPVP K−90(アイエスピー・ジャパン株式会社製、ポリビニルピロリドン、商品名)0.1gを撹拌混合し、印刷用インキとした。得られたインキを通常の凸版印刷機で、官製はがき(酸性紙)に印刷を行った。
【0030】
(比較例1)
実施例1で得られる赤色インキベースをそのままインキをして実施例1と同様にマーキングペンを作成し、同様の筆記を行った。
【0031】
(比較例2)
実施例1で得られる赤色インキベース30gに尿素5gを撹拌混合し、赤色インキを得た。得られたインキを実施例1と同様にマーキングペンを作成し、同様に筆記を行った。
【0032】
(比較例3)
実施例4で得られる桃色インキベース30gに5%水酸化ナトリウム水溶液3gを撹拌混合したところ、インク色が消え、乳白色懸濁液になった。
【0033】
(試験方法)
上記実施例1〜5及び比較例1〜3で筆記又は印刷した試験用紙を試験試料とし、下記の試験を行った。
インキ色の評価
得られたインキの色を目視により確認した。
官製はがき又はガラス面に筆記又は印刷した描線の色の評価
各実施例及び比較例で筆記又は印刷した描線の色を目視により確認した。
有機溶剤による消色の評価
各実施例及び比較例で筆記又は印刷した描線にアセトンを数滴滴下し、乾燥後の描線の色を目視により確認した。
加熱による消色の評価
各実施例及び比較例で筆記又は印刷した描線に約200℃に加熱したアイロンを押し当て、冷却後の描線の色を目視により確認した。
【0034】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の(注):「−」試験を実施せず
ポリマー塩基を含有しない比較例1及び比較例2は、有機溶剤並びに加熱による消色で色は薄くなるものの、完全に消色しなかった。比較例3は、消色剤が強塩基性である水酸化ナトリウムを用いたため、インキ色が消えてしまい、有色の筆記線を得ることが出来なかった。対して、実施例1〜5は、酸性紙での有機溶剤並びに加熱による消色が可能であり、またガラス面に筆記可能なマーキングペンで筆記した実施例1は、ガラス面でも有機溶剤並びに加熱による消色が可能であり、発明の効果が実証された。
【0037】
【発明の効果】
微小樹脂球を呈色性物質で着色してなる着色剤を用いた水性インキにおいて、窒素原子を含む重合体である塩基性化合物を含有させることにより、筆記面又は印刷面の種類によらず有機溶剤並びに加熱による良好な消色が可能となる。
Claims (3)
- 塩基性化合物がポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1に記載された消色可能水性インキ組成物。
- 微小樹脂球がアクリロニトリル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルよりなる群から選択される単量体を構成単位として含むポリマー又はポリオレフィンより選択される1種類以上のポリマーからなることを特徴とする請求項1又は2に記載された消色可能水性インキ組成物。
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