JP3786193B2 - 呈色性化合物を含有する着色剤及び該着色剤の製造方法並びにこれを利用したインキ及びトナー - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ロイコ染料に代表される呈色性化合物を含有することにより、消色或いは変色することができる着色剤、及び該着色剤の製造方法、並びにこれを利用した筆記具用等のインキ及び印刷用トナーに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、ロイコ染料に代表される呈色性化合物を利用したインキが、消色又は変色可能なインキとして広く知られている。例えば、特開平7−81236号公報には、有機溶剤中でいずれも無色のロイコ染料と顕色剤とを化学反応させることにより生成する有色化合物を用いたインキが記載されている。該インキ中には減感剤も含まれるため、このインキを用いて印字された字は、加熱による減感剤の作用により消色される。
また、特開平10−287081号公報には、ロイコ染料と顕色剤を加熱溶融し、放冷後粉砕した粉体を着色剤としたインキを利用した水性ボールペンの発明について記載されている。この水性ボールペンにより描かれた筆記線は、減感剤を含む水を主成分とする剥離液に浸した後、加熱されることにより消色する。
しかし、これらのインキは、加熱のみによって消色されるものであるため、消色手段が限定される。また、ロイコ染料や顕色剤が溶剤である水に直接接触するため、経時的に褪色してしまう上、直接日光に晒されるため耐光性も低い、という欠点があった。
【0003】
また、特開平10−88046号公報に記載されたロイコ染料は、顕色剤、消色剤と共に樹脂と混練するので、樹脂のコーティング効果により比較的高い耐光性を有する。更に、この混練物を含んだインキは、有機溶剤を用いて樹脂を溶解すると、消色剤が顕色剤と優先的に化学結合するため、加熱のみでなく有機溶剤によっても消色可能であった。
しかし、前記インキは、該混練物をジェットミルで微粉砕して着色剤とするものであるため、得られた着色剤の粒子径が比較的大きくて均一でなく、特に筆記具用のインキに用いた場合、筆感が悪くなり、トナーに用いた場合は、印刷された画質が粗くなってしまう。また、該着色剤の粒子形、粒子径が均一とならないため、インキに用いた場合は、インキの粘度を注意深く調整しない限り液体のインキ中における分散性に劣り、トナーに用いた場合は、トナー粒子の帯電量にムラが生じ、画質が悪くなる等の問題点があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の第一の目的は、上記課題を解決すべく、呈色性化合物を用いた場合に、消色手段として加熱のみでなく有機溶剤をも利用することができ、耐光性に優れている上に、比較的粒子径が小さくて均一であり、粒子形が球状で均一である着色剤及び該着色剤の製造方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、前記着色剤を含む筆記具用等のインキ並びに印刷用トナーを提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述した本発明の目的を達成する着色剤は、ビニル系単量体を少なくとも原料とする乳化重合体であって、乳化重合前に顕色剤により発色しているロイコ染料を前記単量体中に分散させた後、乳化重合してなる。
この際、前記ビニル系単量体が、シアノ基含有ビニル系単量体Aと、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、カルバモイル基、スルホン酸基、リン酸基、並びにこれらの官能基から誘導される基から選択される一種又は二種以上の基を有するビニル系単量体Bと、前記ビニル系単量体A,B以外のビニル系単量体Cとを混合したものであることがよい。
単量体混合物中における前記シアノ基含有ビニル系単量体Aの混合割合は、1〜80質量%であって、好ましくは10〜60質量%混合することがよい。
また、単量体混合物中における前記ビニル系単量体Bの混合割合は、0.5〜20質量%であって、好ましくは2〜12質量%混合することがよい。
更に、単量体混合物中における前記ビニル系単量体Cの混合割合は、10〜80質量%であって、好ましくは35〜70質量%混合することがよい。
なお、上記顕色剤は、分子内にリン酸基を有する化合物とすることができる。
また、本発明に係る着色剤の製造方法は、上記ビニル系単量体と、上記ロイコ染料と、上記顕色剤とを、水中で混合するとともに、その混合物中のビニル系単量体を乳化重合するようにしたことを特徴とする。
また、本発明に係るインキ並びにトナーは、前記着色剤を含有することを特徴とする。
この際、上記インキは、窒素原子を含む重合体である塩基性化合物を含有してもよい。これにより容易に有機溶剤又は加熱による消色或いは変色することができる。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の態様を詳細に説明する。
まず初めに、乳化重合体の原料として使用可能な単量体について詳細に説明する。
乳化重合体の原料としては、シアノ基含有ビニル系単量体(以下ビニル系単量体Aと称す。)と、シアノ基以外の特定の官能基を有するビニル系単量体(以下ビニル系単量体Bと称す。)と、前記ビニル系単量体A,B以外のビニル系単量体(以下ビニル系単量体Cと称す。)とを混合して使用する。
ビニル系単量体Aとしては、ビニル系単量体のうち、シアノ基を有するものであればよく、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を使用することができる。
ビニル系単量体Aの混合割合は、単量体混合物中1〜80質量%であり、10〜60質量%が好ましい。ビニル系単量体Aの混合割合が、単量体混合物中80質量%を越えると乳化重合が困難となり、貯蔵安定性も悪くなる。
【0007】
ビニル系単量体Bは、得られる乳化重合体の染色性向上機能及び染料受容性(吸着性)を有するものであり、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、カルバモイル基、スルホン酸基、リン酸基等の各官能基、並びに前記官能基から誘導される基、から選ばれた一種以上の基を有するビニル系単量体を使用することができる。前記官能基から選ばれた一種以上の基を有するビニル系単量体Bとして、具体的には、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸(以下アクリル基又はメタクリル基を総称して(メタ)アクリルと、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを総称して(メタ)アクリレートと、それぞれ称す。)、β−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ω−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシ(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、スチレンスルホネート、(メタ)アクリルスルホネート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート等を使用することができる。
また前記官能基から誘導される基から選ばれた一種以上の基を有するビニル系単量体Bとしては、例えば、カルボキシル基又はアミノ基を有する酸又は塩基性の単量体を中和して得られる塩等が挙げられる。
ビニル系単量体Bは、一種又は二種以上を使用することができ、その混合割合は、単量体混合物中0.5〜20質量%であり、2〜12質量%が好ましい。ビニル系単量体Bの混合割合が0.5質量%未満では、鮮明で且つ高濃度の乳化重合体が得られず、20質量%を越えると乳化重合が困難となり、残存単量体が多くなり、強い刺激臭が発生する。
【0008】
ビニル系単量体Cは、上述したようにビニル系単量体A及びB以外のビニル系単量体であって、二重結合以外に反応性基を有せず共重合可能なビニル系単量体、及び該ビニル系単量体と重合性の不飽和基を二つ以上有する単量体との混合物である。
その中で、二重結合以外に反応性基を有せず、共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート等が挙げられる。
また、上記したビニル系単量体と混合物を形成する重合性の不飽和基を二つ以上有する単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
ビニル系単量体Cの混合割合は、単量体混合物中10〜80質量%が好ましく、更には40〜70質量%が好ましい。混合割合が10質量%未満の場合は乳化重合が困難となり、貯蔵安定性の良好なインキを得難い。また混合割合が80質量%を越えると、鮮明な乳化重合体が得られず、耐光性にも劣る。
以上、乳化重合体の原料として使用可能な単量体について詳細に説明した。
【0009】
次に、上記ビニル系単量体A〜Cの混合物から得られる乳化重合体に含有される、本発明に係る呈色性化合物及び顕色剤について詳細に説明する。
本発明で使用する呈色性化合物は、酸化還元反応や酸塩基反応等の呈色反応を起こし、特に無色から有色へ可逆的に変化する化合物であり、ロイコ染料である。このロイコ染料は、例えば、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、スピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系等の分子内にラクトン環を有する化合物であり、それらのうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。
これらの化合物としては、例えば、「CVL」、「Green DCF」、「Vermilion DCF」、「Red DCF」、「Orange DCF」、「TH−106」、「TH−107」、「TH−108」、「TH−109」、「CF−51」、「D.L.M.B.」(以上、保土ヶ谷化学工業株式会社製、商品名)、「DEBN」、「RED 500」、「RED 520」、「S−205」、「Black 100」、「Black 202」、「Black 305」、「ETAC」、「Blue 220」、「NIR Black 78」、「Green 300」、「PINK 535」(以上、山田化学工業株式会社製、商品名)、「ODB」、「ODB−2」、「ODB−7」、「Black−15」、「Black−173」、「Blue−63」、「Blue−502」、「Green−40」、「Red−3」、「Red−40」、「MNSP」、「LCV」、「GN−2」、「GN−169」、「GN−118」(以上、山本化成株式会社製、商品名)、「PERGASCRIPT RED I−6B」、「PERGASCRIPT GREEN I−2GN」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ株式会社製、商品名)等を使用することができる。
【0010】
また、本発明で使用する顕色剤は、呈色性化合物の対となり、呈色性化合物を発色させるものである。この顕色剤として、ロイコ染料に対するものとしては、例えば、ヒドロキシアセトフェノン系,ヒドロキシベンゾフェノン系,没食子酸エステル系,ベンゼントリオール系,ビスフェノール系,トリフェノール系,クレゾール系等の分子内にフェノール性水酸基を有する化合物か、又はリン酸,リン酸モノエステル,リン酸ジエステル等の分子内にリン酸基を有する化合物であり、それらのうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。
これらの化合物のうち、フェノール性水酸基を有する化合物としては、例えば、ジヒドロキシアセトフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシベンゾフェノン、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロ安息香酸、ビスフェノール、ヒドロキシフェニルアルキル−ベンゾトリアゾール、メチレントリス−p−クレゾール、没食子酸アルキルエステル等を使用することができる。
また、リン酸基を有する化合物としては、モノアルキルリン酸エステル、ジアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンモノアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンジアルキルリン酸エステル等を使用することができる。
ここで、上記フェノール性水酸基又はリン酸基を有する化合物は、アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ラウリル基、オレイル基、ステアリル基等を有する。
上記リン酸基を有する化合物の具体例としては、例えば、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業株式会社製、商品名)、プライサーフシリーズ(第一工業製薬株式会社製、商品名)、ニューコール 565−PS(日本乳化剤株式会社製、商品名)等を挙げることができる。
【0011】
次に、本発明に係る消色剤について詳細に説明する。
上述した本発明に係る呈色性化合物及び顕色剤は、筆記面又は印刷面が紙の場合、多くの紙には消色能を有するデンプンが含まれるため、該呈色性化合物等を含む着色剤系(例えば、インキやトナー)が特に消色剤を含有しなくても、有機溶剤並びに加熱による消色が可能である。しかし、筆記面等が、デンプンを含まない紙だったり、ガラスやプラスチック等の場合では、有機溶剤並びに加熱によっては充分に消色されない。このような場合には、着色剤系中に別途消色剤を添加することによって消色が可能となる。消色剤としては、塩基性化合物が挙げられる。
該消色剤を着色剤系に含有させる方法としては、乳化重合法等の着色微粒子を作成する方法と同様の方法による微粒子化や従来公知のマイクロカプセル化により、閉鎖系の粒子として着色微粒子と隔離して用いる方法がある。また、該着色剤系が液状組成物である場合は、液中に直接消色剤を加える方法も可能である。このうち、着色微粒子と隔離して用いる方法では、消色剤として、水酸化アルカリ金属塩、水酸化アルカリ土類金属塩、アルカリ金属アルコキシド等の塩基性水酸基を有する化合物、尿素及びヒダントイン並びにそれらの誘導体等の窒素原子を有するルイス塩基化合物が使用できる。
また、液中に直接消色剤を加える方法では、液中に消色剤が存在することとなるため、消色時とほぼ同様の状態となり、上記した塩基性水酸基を有する化合物では塩基度が強いために、着色微粒子が消色されてしまう。また、ルイス塩基化合物のうち、上記した尿素及びヒダントイン並びにそれらの誘導体はインキの色を消さないものの、筆記又は印刷した描線を加熱しても消色効果が極めて低い。これに対して、窒素原子を含む重合体を消色剤として用いると、通常の状態ではインキの色を消さないが、有機溶剤並びに加熱により消色させることが可能となる。この消色作用を有する窒素原子を含む重合体である塩基性化合物としては、特に一般式(1)で示される化合物を挙げることができる。
【化1】
〔式中、X,Yは任意の官能基であり、Qは単結合、アルキレン基、フェニレン基、又は−COO−L−,−CONH−L−,−CONR−L−で表される基を示す。ここで、L及びRは炭化水素により構成される基であり、R1,R2,R3は水素、炭素、窒素、酸素、硫黄より選択される原子により構成される基である。ここで、L,R,R1,R2,R3は互いに同じであってもよく、異なっていてもよく、置換基を有するものであってもよい。また、l,m,nは一般式(1)で表される構成単位を構成する各最小構成単位のモル百分率を示し、l,mは夫々0〜90までの整数、nは0〜100までの整数を表し、l+m+n=100となる。〕
【0012】
上記化合物において実際の消色能を有する部位は、窒素原子を中心とする基である。またX,Yは、任意の官能基であるが、親水性基及び/又は疎水性基を導入し、その割合を変えることによって、溶解性を制御することも可能である。消色剤に使用できる化合物の具体例としては、例えば、以下にA〜Gの構造式で示す窒素原子含有重合体を挙げることができる。
【化2】
〔nは正の整数を示す。〕
ここで、Aはポリビニルピロリドンであり、GはPUVAシリーズ(大塚化学株式会社製、商品名)である。また、PUVAシリーズは、紫外線吸収効果を有するため、水性インキに使用すると紫外線を吸収し、着色剤の褪色を抑制するので、筆記線の耐光性を向上させることができる。
【0013】
また、変色させる目的で、通常使用される従来公知の染料及び/又は顔料が、上述した呈色性化合物及び顕色剤に加えて使用されてもよい。これらの染料及び/又は顔料をも含有した乳化重合体は、加熱により、若しくは有機溶剤を用いることで呈色性化合物の色のみが消色されて、前記通常の染料及び/又は顔料の色のみが残り、変色されることとなる。染料としては、酸性染料、塩基性染料及び直接染料を用いることができる。そして顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系等の有機顔料、カーボンブラック、合成マイカ、酸化チタン、金属微粉末等の無機顔料、乳化重合で得られる球状微粒子を通常の染料で着色した従来公知の樹脂顔料を用いることができる。
【0014】
次に、本発明に係る着色剤の製造方法について詳細に説明する。
本発明が適用される着色剤の製造方法としては通常の乳化重合法を採用することができ、界面活性剤の種類やその量等を目的に応じて適宜選択することによって行われるが、重合温度は50〜90℃が好ましい。
前記界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩,アルキルフェノールスルホン酸塩,アルキルジフェニール環を有するスルホン酸塩,アルキルアリルスルホン酸のホルマリン縮合物,アルキルアリルスルホン酸塩のケトン化合物,スルホコハク酸エステル塩,或いはポリオキシエチレンアルキルスルホネート塩等の陰イオン界面活性剤、並びに、脂肪酸と、グリセリン,グリコール,ペンタエリスリトール,或いはソルビタン若しくはマンニタン等のエステル類との縮合化合物、又は、ポリエチレンオキシドと、高級脂肪酸,高級アルコール,高級アルキルアミン,或いはアルキルフェノールリン酸との縮合化合物、又は、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェノール等の非イオン界面活性剤を使用することができる。
【0015】
また、乳化重合の重合開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素等を使用することができ、或いは必要に応じて還元剤を併用することも可能である。
【0016】
ロイコ染料及び顕色剤等は、乳化重合前に単量体に混合されていればよい。この場合、ロイコ染料及び顕色剤は単量体中に分散させることができ、界面活性剤を利用すれば水中にも分散させることができる。又、その条件に関しては窒素気流中大気圧下若しくは加圧下で50〜100℃、1〜5時間撹拌状態に置くのが好ましく、染料の使用量は不揮発分の乳化重合体100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、更には0.1〜5質量部が更に好ましい。
以上、本発明に係る着色剤の製造方法について詳細に説明した。
【0017】
次に、本発明に係るインキについて詳細に説明する。
本発明に係るインキは、上述した乳化重合法により得られた微粒子分散液(乳化重合体分散液)を、そのまま使用することができる。また、インキの原料として通常用いられる界面活性剤、防腐剤、防錆剤、乾燥抑制剤、潤滑剤、分散樹脂等の添加剤が、必要に応じて、得られた微粒子分散液に添加されてもよい。但し、本発明の目的に鑑み、呈色性化合物、顕色剤、並びに乳化重合体と反応したり、発色や消色を妨げるものであってはならない。
【0018】
次に、本発明に係る発色したロイコ染料を消色させる消色用溶剤について詳細に説明する。
消色用溶剤組成物に使用する有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルブチルケトン、ジブチルケトン、アセチルアセトン、アセトフェノン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−メチル−2−ブタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、ピラン、フラン、メチルフラン、テトラヒドロフラン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ジオキサン等のエーテル系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のエステル系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶剤、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のグリコールエーテル系溶剤、メチルグリコールアセテート、エチルグリコールアセテート等のグリコールエーテルエステル系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、塩化メチル、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、パークロロエタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、アニリン、トルイジン、ピリジン、ビピリジン、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルフォキシド等の含ヘテロ炭化水素系溶剤であり、このうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。その中でも、消色能、人体に対する安全性及び溶剤の乾燥性等の点から、アセトン、シクロヘキサノン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンが特に好ましい。
【0019】
又、消色用溶剤に消色を促進する消色助剤として、揮発性液状アミン又はアミドを使用することができる。消色用溶剤組成物に添加する揮発性液状アミンとしては、例えば、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、アニリン、ピリジン、ビピリジン等のアミンを使用することができ、これらのうち一種又は二種以上を混合して使用することができる。その中でも、消色能、人体に対する安全性及び溶剤の乾燥性などの点から、トリエタノールアミンが特に好ましい。更に、消色用溶剤組成物に添加する揮発性液状アミドとしては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド等のアミドを使用することができる。
これらの揮発性液状アミン又はアミドは、一種又は二種以上を混合して使用することができ、消色用溶剤組成物中に、0.1〜10質量%添加され、好ましくは1〜5質量%添加される。
以上、本発明に係る発色したロイコ染料を消色させる消色用溶剤について詳細に説明した。
【0020】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
(実施例1)
2リットルの四つ口フラスコに冷却管、温度計、単量体投入用500cc分液ロート、撹拌装置を取り付け、温水槽中にセットし、イオン交換水400gを仕込んで内温を80℃まで昇温した。一方、メタクリロニトリル(シアノ基含有ビニル系単量体A)50g、メタクリル酸(ビニル系単量体B)10g、スチレン(ビニル系単量体C)150g、FUJI yellow 3(富士写真フイルム株式会社製、ロイコ染料、商品名)0.4g、フォスファノールRB410(東邦化学工業株式会社製、顕色剤、商品名)0.6gからなる混合物をイオン交換水150g、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ(界面活性剤)4g、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(界面活性剤)12gの混合溶液中に混合撹拌して乳化させ、更に過硫酸アンモニウム(重合開始剤)1gを溶解させ、これを上記分液ロートからフラスコ内に撹拌下で3時間に亘って添加し、5時間で重合を終了した。このようにして、平均粒子径0.12μm、粘度3.5mPa・s(25℃、150s−1)の鮮明な黄色の乳化重合体の微粒子分散液が得られた。
得られた分散液のうち28gは、PVP K−15(アイエスピー・ジャパン株式会社製、ポリビニルピロリドン、消色剤、商品名)2gを撹拌混合され、水性黄色インキが得られた。得られた水性黄色インキは、市販されている直液マーカー(蛍光スパーキー1、ゼブラ株式会社製、商品名)と同様の方法でインキタンクに充填した後、バルブ組込済み先端カバーを装填し、ポリエステルペン先及びキャップを嵌着し、水性黄色マーカーを作成した。作成したマーカーを用いて乾式PPC用紙(王子製紙株式会社製、商品名)に手書きで筆記を行った。
【0021】
(実施例2)
2リットルの四つ口フラスコに冷却管、温度計、単量体投入用500cc分液ロート、撹拌装置を取り付け、温水槽中にセットし、イオン交換水500g、ナフタレンスルホン酸ソーダホルマリン縮合物(界面活性剤)5g、ステアリン酸ナトリウム(界面活性剤)10g、過硫酸カリウム(重合開始剤)1gを溶解させ内温を80℃まで昇温した。一方、アクリロニトリル(シアノ基含有ビニル系単量体A)100g、アクリル酸(ビニル系単量体B)10g、グリシジルメタクリレート(ビニル系単量体B)10g、スチレン(ビニル系単量体C)100g、H−2114(山田化学株式会社製、ロイコ染料、商品名)0.3g、没食子酸プロピル(顕色剤)0.6gからなる混合物を混合撹拌分散させ、これを上記分液ロートからフラスコ内に撹拌下で3時間に亘って添加し、5時間で重合を終了した。このようにして、平均粒子径0.17μm、粘度3.9mPa・s(25℃、150s−1)の鮮明な緑色の乳化重合体の微粒子分散液が得られた。得られた分散液のうち50gは、PVP K−15を2g、キサンタンガム0.25g加え撹拌混合され、ジェルインキボールペン用インキが得られた。得られたジェルインキボールペン用インキは、市販されているジェルインキボールペン(BW−100、ゼブラ株式会社製、商品名、ステンレスボール径0.7mm)と同様の方法で、ポリプロピレン製リフィールに充填した後、ペン先を嵌着し、尾部よりインキ追従体を適量注入し、遠心機により1960m・s−2(200G)にて脱泡し、ジェルインキボールペンを作成した。
作成したジェルインキボールペンを用いて乾式PPC用紙に手書きで筆記を行った。
【0022】
(実施例3)
2リットルの四つ口フラスコに冷却管、温度計、単量体投入用500cc分液ロート、撹拌装置を取り付け、温水槽中にセットし、イオン交換水400g、スルホコハク酸ソーダ(界面活性剤)3g、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.5gを溶解させた。リン酸ジ−n−ブチル(顕色剤)5gに、Pink535(山田化学株式会社製、ロイコ染料、商品名)0.4gを加えて加熱溶解させ、フラスコ内に撹拌混入させ、内温を80℃まで昇温した。一方、アクリロニトリル(シアノ基含有ビニル系単量体A)140g、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート(ビニル系単量体B)10g、スチレン(ビニル系単量体C)50g、ジビニルベンゼン(ビニル単量体C)10gからなる単量体の混合溶液を、分液ロートからフラスコ内に撹拌下で3時間に亘って添加し、5時間で重合を終了した。このようにして、平均粒子径0.15μm、粘度3.7mPa・s(25℃、150s−1)の鮮明な桃色の乳化重合体の微粒子分散液が得られた。得られた分散液をエバポレーターを用いて蒸発乾固し、桃色微粉体を得た。
2リットルの四つ口フラスコに冷却管、温度計、単量体投入用500cc分液ロート、撹拌装置を取り付け、温水槽中にセットし、イオン交換水400g、スルホコハク酸ソーダ(界面活性剤)3g、過硫酸アンモニウム(重合開始剤)0.5g、PVP K−15(ポリビニルピロリドン)20gを加え、内温を80℃まで昇温した。一方、アクリロニトリル(シアノ基含有ビニル系単量体A)140g、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート(ビニル系単量体B)10g、スチレン(ビニル系単量体C)50g、ジビニルベンゼン(ビニル単量体C)10gからなる単量体の混合溶液を、分液ロートからフラスコ内に撹拌下で3時間に亘って添加し、5時間で重合を終了した。このようにして、平均粒子径0.15μm、粘度4.2mPa・s(25℃、150s−1)の乳白色の乳化重合体の微粒子分散液が得られた。得られた分散液をエバポレーターを用いて蒸発乾固し、白色微粉体を得た。
上記桃色微粉体60gと白色微粉体40gは、比表面積200m2/g(BET法)の疎水性シリカ0.5gを外添し、乾式トナーとした。このトナー10gとフェライトキャリアー90gを混合し、非磁性二成分現像剤とした。この現像剤を用いて、レーザープリンター(京セラ株式会社製、FS−600、商品名)で乾式PPC用紙に印刷を行った。
【0023】
(実施例4〜9)
表1の実施例4〜9に示した配合の各原料から、実施例1の方法に従って、乳化重合体の微粒子分散液を調整した。
【表1】
【0024】
(比較例1)
PSD−184(日本曹達株式会社製、ロイコ染料、商品名)5g、3,5−ジヒドロアセトフェノン 3g、GPPS−673(エーアンドエムスチレン株式会社製、ポリスチレン、商品名)20gを加熱ニーダーを用いて、加熱混合し、発色した塊状の顔料を得た。この顔料をジェットミルで粉砕し、分級により分けられた粒子径5〜10μmの黒色微粉体顔料を得た。
この微粉体顔料15g、PVP K−15 8g、デルトップ(武田製薬株式会社製、防腐剤、商品名)0.3g、エマルゲン707(花王株式会社製、非イオン系界面活性剤、商品名)0.8g、キサンタンガム0.6g、イオン交換水75.3gを攪拌器を用いて撹拌混合し、粘度131mPa・s(25℃、150s−1)のジェルインキボールペン用インキを得た。このインキを用いて実施例2と同様にしてジェルインキボールペンを作成し、これを用いて乾式PPC用紙に手書きで筆記を行った。
【0025】
(比較例2〜7)
表2の比較例2〜7に示した配合の各原料から、実施例1の方法に従って、乳化重合体の微粒子分散液の調整を試みた。
【表2】
【0026】
乳化重合体の微粒子分散液の調整を試みた実施例4〜9及び比較例2〜7の結果、単量体混合物中の各単量体の配合割合を本願発明の範囲内にした実施例4〜9では、所望の乳化重合体が得られ、しかもその発色の状態(表1中、「微粒子分散液の色相」を参照のこと。)は鮮明なものであった。
対して、単量体混合物中の各単量体の配合割合を本願発明の範囲外にした比較例2〜7では、乳化重合体を調整することができず、微粒子分散液が得られなかった(単量体Aの配合割合が下限未満であった比較例2,単量体Cの配合割合が下限未満であった比較例4,単量体Aの配合割合が上限を超えた比較例5,単量体Bの配合割合が上限を超えた比較例6)。或いは、乳化重合体を得ることができても、その発色の状態(表2中、「微粒子分散液の色相」を参照のこと。)は鮮明なものではなかった(単量体Bの配合割合が下限未満であった比較例3,単量体Cの配合割合が上限を超えた比較例7)。
【0027】
(分散安定性試験)
上記実施例1〜3及び比較例1により得られたインキ及びトナーは、その粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2100(株式会社島津製作所製)を使用して測定した。その後、該インキ及びトナーを約半年間、静置した後、再び粒子径を測定した。静置前後の粒子径を比較し、これをもって分散安定性を評価した。
【0028】
(有機溶剤による消色試験)
上記実施例1〜2及び比較例1により得られたインキで筆記された描線及び上記実施例3により得られたトナーで印刷された描線は、有機溶剤としてアセトンを直接数滴滴下され、乾燥した後のそれらの線の色が、目視により確認された。(加熱による消色試験)
上記描線は、約200℃に加熱したアイロンを直接押し当てられ、冷却後のそれらの線の色が、目視により確認された。
【0029】
各試験の結果を表3に纏めて示す。
【表3】
【0030】
表3より明らかなとおり、本発明に係る実施例1〜3により作成されたインキ、トナーによる描線はいずれも、良好に消色された。その上、該インキ、トナーは分散安定性が高く、微粒子である乳化重合体の粒子径は約半年間変化がなかった。
一方、比較例は、消色性は良かったものの、分散安定性に劣り、約半年間の静置により微粒子が凝集したため、粒子径が大きくなったという結果になった。
【0031】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る着色剤はロイコ染料を含有するため、これを利用したインキ等は、加熱により消色することができる。更に、ロイコ染料が乳化重合体の樹脂によりコーティングされているため、本発明の着色剤を含有するインキ等に消色剤を共存させても、直接ロイコ染料に接触しないため消色することはない。そして、加熱のみでなく有機溶剤によっても、該乳化重合体を溶解させることで、消色剤が顕色剤と優先的に結合し、消色することが可能となる。
更に、該ロイコ染料は、乳化重合体の樹脂によるコーティングにより、直接日光に晒されないため、高い耐光性を有することとなる。
また、ロイコ染料を含有する微粒子は、粉砕法ではなく、乳化重合により生成されるため、粒子径が小さく比較的均一である上に、粒子形が球状で均一なものとなる。これは、該微粒子を液体インキに使用した場合、分散性が向上するため、インキの粘度等にそれほど注意を払わなくても沈殿しないという効果をもたらす。また、粒子径が小さくなることで筆記面に強く浸み込むこととなり、筆記線の耐水性が向上する上、筆感も良くなるという効果も得られる。
更に、該微粒子をトナーに使用した場合も、粒子径が小さく、粒子形も球状で均一なものが得られ、トナーが潜像に強く且つ均一に付着されるため、高品質な画像を得ることができる。
以上の効果により、これまで、その取扱いが比較的困難であったロイコ染料の利用範囲が広がることが期待される。
Claims (7)
- ビニル系単量体を少なくとも原料とする乳化重合体であって、乳化重合前に顕色剤により発色しているロイコ染料を前記単量体中に分散させた後、乳化重合してなる着色剤において、
前記ビニル系単量体が、シアノ基含有ビニル系単量体Aと、
ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、カルバモイル基、スルホン酸基、リン酸基、並びにこれらの官能基から誘導される基から選択される一種又は二種以上の基を有するビニル系単量体Bと、
前記ビニル系単量体A,B以外のビニル系単量体Cと、
を混合したビニル系単量体であり、
単量体混合物中の前記シアノ基含有ビニル系単量体Aの混合割合が1〜80質量%であって、前記ビニル系単量体Bの混合割合が0.5〜20質量%であって、前記ビニル系単量体Cの混合割合が10〜80質量%であることを特徴とする着色剤。 - 上記顕色剤が、分子内にリン酸基を有する化合物であることを特徴とする請求項1記載の着色剤。
- 上記ビニル系単量体と、上記ロイコ染料と、上記顕色剤とを、水中で混合するとともに、その混合物中のビニル系単量体を乳化重合するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の着色剤の製造方法。
- 請求項1又は2記載の着色剤、又は請求項3記載の製造方法により製造された着色剤を含有することを特徴とするインキ。
- 窒素原子を含む重合体である塩基性化合物を含有し、有機溶剤或いは加熱により容易に消色或いは変色できることを特徴とする請求項4記載のインキ。
- 請求項1又は2記載の着色剤、又は請求項3記載の製造方法により製造された着色剤を含有することを特徴とするトナー。
- 窒素原子を含む重合体である塩基性化合物を含有し、有機溶剤或いは加熱により容易に消色或いは変色できることを特徴とする請求項6記載のトナー。
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