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JP5109330B2 - 燃料電池システム - Google Patents

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Description

本発明は、セル電圧の異常検出を改善した燃料電池システムに関する。
従来、酸素を主成分とする酸化剤ガスと水素を主成分とする燃料ガスとを、多数のセルにて電気化学反応させて電気エネルギを発生させる燃料電池を備える燃料電池システムにおいて、セル電圧に基づいてシステムの出力変動の要因を推定する技術としては、例えば以下に示す文献に記載されたものが知られている(特許文献1参照)。
この文献に記載された技術では、燃料電池システムの多数のセルを複数のセルグループに分けて、セルグループ毎の出力電圧を計測し、出力電圧の平均電圧ならびに出力電圧のばらつきを演算し、出力電圧、出力電圧の平均電圧ならびに出力電圧のばらつきに基づいて、燃料電池内のガス流路の水分が過剰であるか否か、ならびに電解質膜の湿潤状態を推定している。
特開2004−127915
従来の燃料電池においては、低負荷運転(低負荷発電)ほど発電効率が高くまたセル電圧も高いため、低負荷運転では多少のセル電圧異常が発生しても、セル電圧異常が発生したセルのセル電圧は正常なセルのセル電圧に対して明確な違いとなって現れることがない場合があった。このため、低負荷運転において、セル(またはセル群)の出力電圧に基いてセル電圧異常を判定する場合に、判定条件を厳しくすれば誤判定を招くおそれがある一方、判定条件を緩くすれば異常を確実に検出することが困難となる。
ここで、セル電圧が異常となる原因としては、燃料電池のガス流路に水分が滞留して水分過剰状態となりフラッディング(水詰まり)によるもの、一方水分が不足してドライアウト(電解質膜の乾燥)によるもの、燃料ガス不足あるいは酸化剤ガス不足によるストイキ不足によるもの等が挙げられる。
さらに、システムが低負荷運転から過渡的に高負荷運転に切り替わった場合に、低負荷運転では検出できない程度のセル電圧異常でも、高負荷運転ではセル電圧異常の影響を受け易くなる。すなわち、セル電圧異常が発生していたセルのセル電圧が急激に低下して、システムの信頼性を低下させるという問題があった。
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低負荷運転においてもセル電圧の異常を確実に検出できる燃料電池システムを提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明の課題を解決する手段は、燃料ガス供給手段により供給される燃料ガスと、酸化剤ガス供給手段により供給される酸化剤ガスとの電気化学反応により発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムにおいて、前記燃料電池を構成する各セルのセル電圧、もしくは複数のセルからなるセル群のセル群電圧を検出する電圧検出手段と、前記燃料電池の発電に係わる状態量を制限した低負荷運転の発電が前記燃料電池システムで可能か否かを判定する制限発電判定手段と、状態量を制限した低負荷運転の発電が前記燃料電池システムで可能であると前記制限発電判定手段で判定された場合には、状態量を制限した低負荷運転で発電を行う制限発電制御手段と、前記制限発電制御手段で状態量が制限されて低負荷運転の発電を行っている前記燃料電池のセル電圧、もしくはセル群電圧が前記電圧検出手段で検出され、検出されたセル電圧もしくはセル群電圧に基づいて、セル電圧が異常であるか否かを判定するセル電圧異常判定手段とを有することを特徴とする。
本発明によれば、状態量を制限して意図的に不安定な発電状態を生み出し、セル(もしくはセル群)電圧のばらつきを増幅させることで、低負荷運転状態であってもセル電圧の異常を精度よく検出することが可能となる。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の実施例を説明する。
図1は本発明の実施例1に係る燃料電池システムの構成を示す図である。図1に示す実施例1のシステムは、燃料電池スタック1と、燃料電池スタック1に対して燃料ガスの水素ガスを供給、排出する水素系(アノード系)の構成として、水素タンク2、水素タンク元弁3、減圧弁4、水素供給弁5、水素循環ポンプ6、パージ弁7、希釈装置8、圧力センサ9、温度センサ10を備えている。また、燃料電池スタック1に対して酸化剤ガスの空気を供給、排出する空気系(カソード系)の構成として、コンプレッサ11、空気調圧弁12、圧力センサ13、温度センサ14を備えている。さらに、このシステムは、電圧センサ15、パワーマネージャー16、2次バッテリ17、バッテリコントローラ18、大気圧センサ19ならびにコントローラ20を備えている。
燃料電池スタック1は、アノードに燃料ガスとして水素ガスが供給され、カソードに酸化剤ガスとして空気(酸素)が供給され、以下に示す電極反応が進行し、電力が発電される。
アノード(水素)極反応:H→2H+2e
カソード(酸素)極反応:2H+2e+(1/2)O→H
燃料電池スタック1のアノードへの水素供給は、水素タンク2から水素タンク元弁3、減圧弁4、水素供給弁5を介してなされる。水素タンク2から供給される高圧水素は、減圧弁4で機械的に所定の圧力まで減圧され、水素供給弁5で燃料電池入口での水素圧力が、所望の水素供給量を満たすような所望の水素圧となるように、燃料電池入口側に設けられた圧力センサ9で計測された圧力に基づいて制御される。
水素供給弁5は、例えば駆動コイルに生じる電磁力を用いてバルブ開度が調整され、温度によって駆動コイルに流れる電流が変化したり、機械系の摩擦が変化したりすることによって、指令開度に対する実際の開度が変化する特性を有している。このため、温度センサ10で水素供給弁5の代表温度を計測し、計測した温度に基づいて実際の開度に対応して指令開度を設定している。
すなわち、温度に対する指令開度と実開度との関係を予め実験や机上検討のシミュレーション等で求め、求めた関係をマップとして記憶装置等に記憶させて用意し、このマップを参照して水素供給弁5の開度を調整制御する。なお、温度と開度との基本特性は、温度が上昇するにしたがって指令開度に対する実開度の誤差が小さくなる傾向がある。
水素循環ポンプ6は、アノードで消費されなかった水素を再循環させるために設置される。カソード側には空気を供給するため、空気に含まれて化学反応しない窒素が、燃料電池スタック1の電解質膜を透過して水素経路内に蓄積する。蓄積した窒素量が多くなりすぎると、水素循環ポンプ6によって水素を循環させることができなくなるため、循環経路内の窒素量を管理する必要がある。したがって、循環経路内の窒素をパージ弁7を介して外部に排出し、水素経路内に存在する窒素量を循環性能が維持できる程度に管理する。
希釈装置8は、パージ弁7を介して窒素を排出する際に同時に排出される水素をシステム外へ放出する前に、燃料電池スタック1から排出された未使用の空気を導入し、導入した空気と水素とを撹拌して希釈し、システム外に排気する。
燃料電池スタック1のカソードには、コンプレッサ11により加圧された空気が供給され、空気調圧弁12はカソードに供給される空気の圧力を調整し、空気の圧力はコンプレッサ11に設けられた圧力センサ13で計測された圧力に基づいて調整される。例えば、燃料電池スタック1から取り出す電力を大きくしたい場合には、燃料電池スタック1に供給される空気を加圧することによって、取り出し可能なエネルギー密度へ燃料電池スタック1内の反応効率を上げる。
コンプレッサ11は、温度が上昇することによって体積効率が悪化し、回転数に対する流量特性が悪化するといった特性を有している。このため、燃料電池スタック1のカソード入口に設けられた温度センサ14でコンプレッサ11から排出される空気の温度を計測し、計測した空気の温度をコンプレッサ11の代表温度とし、この代表温度に基づいてコンプレッサ11の回転駆動を制御する。すなわち、温度に対する回転数と排出流量との関係を予め実験や机上検討のシミュレーション等で求め、求めた関係をマップとして記憶装置等に記憶させて用意し、このマップを参照してコンプレッサ11の回転駆動を制御する。
また、コンプレッサ11は、大気圧が低下することによって吸入する空気密度が低下し、回転数に対する流量特性が悪化するといった特性を有している。このため、大気圧センサ19で大気圧を計測し、計測した大気圧に基づいてコンプレッサ11の回転駆動を制御する。すなわち、大気圧に対する回転数と排出流量との関係を予め実験や机上検討のシミュレーション等で求め、求めた関係をマップとして記憶装置等に記憶させて用意し、このマップを参照してコンプレッサ11の回転駆動を制御する。
電圧センサ15は、燃料電池スタック1に設けられ、燃料電池スタック1を構成する多数のセル毎、または所定のセル枚数のセル群毎のセル電圧を測定する。
パワーマネージャー16は、燃料電池スタック1から電力を取り出して、取り出した電力を主に消費する消費体、例えば燃料電池車両等の移動体を駆動させる駆動モータ(図示せず)へ供給する。パワーマネージャー16は、電力取り出し制御のために、燃料電池スタック1から取り出す電流を計測する機能を有している。
2次バッテリ17は、燃料電池システムで発電を行うために必要な補機類を駆動させるために必要な電力を供給し、燃料電池システムに要求される電力に対して燃料電池スタック1の発電電力が不足する場合に、不足分の電力を供給する。2次バッテリ17は、逆に燃料電池スタック1の発電電力が余剰になったときには余剰電力を蓄電する。また、2次バッテリ17は、燃料電池スタック1で得られた電力を主に消費する消費体が駆動モータである場合には、この駆動モータの回生電力を充電する。
バッテリコントローラ18は、上記2次バッテリ17の充電量を計測し、2次バッテリの充放電を制御する。
コントローラ20は、本システムの運転を制御する制御中枢として機能し、プログラムに基づいて各種動作処理を制御するコンピュータに必要な、CPU、記憶装置、入出力装置等の資源を備えた例えばマイクロコンピュータ等により実現される。コントローラ20は、上記各センサならびにこれらのセンサで得られない他の圧力、温度、濃度、電圧、電流等本システムの運転に必要な情報を収集するセンサ(図示せず)からの信号を読み込み、読み込んだ各種信号ならびに予め内部に保有する制御ロジック(プログラム)に基づいて、上記各弁のアクチュエータを含む本システムの制御を要する構成要素に指令を送り、以下に説明するセル電圧異常の判定動作を含む本システムの運転/停止に必要なすべての動作を統括管理して制御する。
コントローラ20は、セル電圧異常を判定する手段として、図2に示すように、燃料電池車両の運転者が要求する駆動力値を検出し、検出値と2次バッテリ17の供給可能電力とに基づいて、燃料電池スタック1の目標発電電力を決定する発電電力決定手段201と、この発電電力決定手段201で決定された目標発電電力に基づいて、何らの制限も加えられない通常の発電運転の通常発電モードからシステムの状態量を制限した発電運転となる制限発電モードへの切り替え、ならびにその逆の切り替えを決定する発電モード切替判定手段202を備えている。
ここで、制限発電モード時に制限されるシステムの状態量とは、発電電力量、水素供給量等のアノード系の状態量、空気供給量等のカソード系の状態量であり、詳しくは後述する。
また、コントローラ20は、目標発電電力ならびに燃料電池システムの状態に基づいて、通常発電モード時に燃料電池システムの補機類を制御する通常発電モード制御手段203と、燃料電池システムの状態に基づいて、制限発電モード時に燃料電池システムの補機類を制御する制限発電モード制御手段204とを備えている。
さらに、コントローラ20は、通常発電モード時にセル(群)電圧を読み込み電圧ばらつき指標とするパラメータを演算し、得られたパラメータに基いて通常発電モード時のセル電圧異常を判定し、かつ制限発電モード時にセル(群)電圧を読み込み電圧ばらつき指標とするパラメータを演算し、このパラメータに基いて制限発電モード時のセル電圧異常を判定する電圧ばらつき判定手段205とを備えている。
発電電力決定手段201は、移動体の移動速度、運転者の要求駆動力値(車両ならばアクセルの操作量)、2次バッテリ17の残量や供給可能電力に基づいて燃料電池スタック1での目標発電電力を決定する。
発電モード切替判定手段202は、発電電力決定手段201で決定された燃料電池スタック1での目標発電電力、移動体の移動速度、運転者の操作状況(車両ならばアクセルやブレーキの操作量)、2次バッテリ17の残量や供給可能電力に基づいて、移動体の駆動性能を確保する観点で状態量を制限した発電運転が可能か否かを判定し、発電モードを切り替えるか否かを判定する。発電モード切替判定手段202は、通常発電モード時に電圧ばらつき判定手段205のセル電圧異常判定結果に基いて状態量を制限した発電運転が必要か否かを判定し、発電モードを切り替えるか否かを判定する。
通常発電モード制御手段203は、発電電力決定手段201で決定された燃料電池スタック1での目標発電電力や燃料電池システムの状態量に基づいて、通常発電モード時の燃料電池システムの発電にかかわる補機類の水素供給弁5、水素循環ポンプ6、パージ弁7、希釈装置8、コンプレッサ11、空気調圧弁12等を如何様に制御するのかを決定する。
制限発電モード制御手段204は、燃料電池システムの状態量に基づいて、制限発電モード時の燃料電池システムの発電にかかわる補機類の水素供給弁5、水素循環ポンプ6、パージ弁7、希釈装置8、コンプレッサ11、空気調圧弁12等を如何様に制御するのかを決定する。
電圧ばらつき判定手段205は、周期的に(例えば10msec毎に)セル(群)電圧を読み込んで、読み込んだセル電圧の平均値とそれぞれのセル電圧との差に基いて、ばらつき指標となるパラメータ、例えば最低セル電圧、標準偏差値、分散値等を演算し、これらのパラメータの1つ、またはセル電圧の平均値、最高セル電圧をパラメータに加えて2つ以上のパラメータの組み合わせと判定しきい値とを比較し、その比較結果に基づいてセル電圧が異常であるか否かを判定する。
このような構成において、図3のフローチャートに示す手順にしたがってセル電圧が異常か否かの判定処理を実行する。
図3において、先ず発電電力決定手段201で移動体の運転者の要求駆動力を検出し、さらに上記補機類の消費電力を測定もしくは予め実験等で得られたデータに基づいて推定する。要求駆動力と発電状態を維持するために必要となる補機類の消費電力との和から、2次バッテリ17の供給可能電力を減算して目標発電電力を決定する(ステップS301)。
続いて、発電モード切替判定手段202で目標発電電力が予め設定された判定しきい値(Pa)以下であるか否かを判定し、かつ通常発電モードから制限発電モード時に移行することを許可判定する許可判定フラグを確認する(ステップS302)。
ここで、制限発電モードに移行する目標発電電力の判定しきい値(Pa)は、予め実験等により求められて設定される。許可判定フラグは、発電モード切替判定手段202の判定結果に基いて、制限発電の必要が認められ、かつ制限発電を許容できると判定された場合に許可(オン)するフラグである。制限発電を許容できると判定される(許可フラグがオンする)のは、例えば燃料電池車両のような移動体においては例えば以下に示すような場合である。
(1)車両の急激な再加速が認められない場合であり、例えば低負荷運転が継続されると判断された場合である。
(2)燃料電池スタック1の劣化を促進するおそれがない場合である。
(3)通常発電モードでセル電圧異常と判定されなかった場合である。これは、通常発電モードでセル電圧異常が発生している場合には、制限発電モードではさらに異常が促進するためである。
判定の結果、目標発電電力が判定しきい値(Pa)以上である場合には、通常発電モードであってもセル電圧異常を容易に検出することができるので、あえて制限発電を行う必要がないので、通常発電モードでシステムを発電運転する(ステップS304)。
一方、目標発電電力が判定しきい値(Pa)以下である場合には、システムは低負荷運転状態であるものと判別する。このため、通常の発電で検出できないセル電圧異常が発生している可能性があるので、制限発電の許可判定(許可フラグの参照)を行い、許可された場合には制限発電モード制御手段204の制御の下に制限発電を行う(ステップS303)。なお、発電に係わる何れの状態量を如何様に制限して制限発電を行うのかといった具体的な手法については後述する。
一方、制限発電が許可されなかった場合には、通常発電モード制御手段203の制御の下に通常発電を行う(ステップS304)。
制限発電が許可された場合には、続いて電圧ばらつき判定手段205の制御の下に、電圧センサ15で計測された燃料電池スタック1のそれぞれのセル(またはセル群)毎のセル電圧をコントローラ20に読み込む(ステップS305)。
その後、読み込んだセル電圧に基いて、先ずセル電圧異常判定の指標となる平均セル電圧、最高セル電圧、最低セル電圧を演算し、かつセル間の電圧ばらつきとして標準偏差σ、分散σを演算する。これらの指標に基づいてセル電圧異常を判定する。ここでは、理解を容易にするために、便宜上上記平均電圧と最低セル電圧とを組み合わせたもので説明する。なお、上記各判定指標の他の組み合わせであっても勿論かまわず、本発明の技術的思想が制約を受ける訳ではない。
平均電圧と最低セル電圧が得られると、平均セル電圧Vaveと予め実験等で設定した判定しきい値Vaとの差(Vave−Va)が正(>0)であるか否か、かつ最低セル電圧Vminが予め実験等で設定された判定しきい値Vbとの差(Vmin−Vb)が正(>0)であるか以下かを判定する(ステップS306)。
判定の結果、(Vave−Va)>0、かつ(Vmin−Vb)>0である場合は、目標発電電力が先の判定しきい値Pa以上であるか否か、かつ先の許可フラグを参照して制限発電が行われているか否かを確認し、(Vave−Va)>0、かつ(Vmin−Vb)>0という判定結果が、低負荷または中、高負荷運転状態で得られた結果であるのか否か、また状態量に制限を加えて意図的に不安定な発電状態を生み出し、セル間の電圧ばらつきを増幅させた状態で得られた結果であるのか否かを検証する(ステップS307)。
検証の結果、目標発電電力が判定しきい値Pa以上で燃料電池システムが中、高負荷運転状態で判定結果が得られた場合には、判定結果が(Vave−Va)>0、かつ(Vmin−Vb)>0であるので、セル電圧は正常であるものと判定し、判定結果をコントローラ20に保存する(ステップS308)。また、制限発電が行われている状態で判定結果が得られた場合には、判定結果が(Vave−Va)>0、かつ(Vmin−Vb)>0であるので、セル電圧は正常であるものと判定し、判定結果をコントローラ20に保存する(ステップS308)。
一方、低負荷運転でかつ通常発電が行われている状態で判定結果が得られた場合には、セル電圧異常を正確に判定する環境が整っていない状態で判定結果が得られたものと判断し、判定結果を無効とし、セル電圧が異常か否かは不明であると判断して、その結果をコントローラ20に保存する(ステップS309)。
先のステップS306の判定結果において、(Vave−Va)>0かつ(Vmin−Vb)>0でない場合、すなわち(Vave−Va)≦0、(Vmin−Vb)≦0、もくは(Vave−Va)≦0かつ(Vmin−Vb)≦0である場合には、セル電圧異常であると判定し、その結果をコントローラ20に保存する(ステップS310)。さらに、以下に説明する異常の原因も合わせて保存することで、異常の原因に基いて異常状態からの回復制御の選択が可能となり、適切な異常回復操作を行うことが可能となる。
上記判定の結果、(Vave−Va)>0かつ(Vmin−Vb)≦0である場合には、ある特定のセルだけがセル電圧の低下が起こっていると推定される。この原因は、燃料電池スタック1のガス流路に水が溜まって(フラッディングして)ガス供給不足に陥ったと推定できる。また、(Vave−Va)≦0かつ(Vmin−Vb)>0である場合には、多くのセルで電圧がほぼ均等に低下しているものと推定される。この原因は、電解質膜の乾燥(ドライアウト)により抵抗が増大(IRドロップ)してセル電圧が低下したものと推定される。また、(Vave−Va)≦0かつ(Vmin−Vb)≦0である場合には、多くのセルで電圧が低下し、かつセル間の電圧ばらつきが大きくなっているものと推定される。この原因は、燃料ガスSR(ストイキ比)不足により電圧が低下したものと推定される。
なお、上記判定しきい値Va、Vbは、燃料ガス温度、酸化剤ガス温度、燃料電池スタック1を冷却する冷却水の温度、燃料電池スタック1のスタック温度等の温度をパラメータとする可変値として設定することも可能である。この場合には、上記判定しきい値と温度との関係を予め実験や机上検討のシミュレーション等で求め、求めた関係をマップとして記憶装置等に記憶させて用意し、このマップを参照して判定しきい値Va、Vbを設定した後判定処理を実行する。このようにすることで、より正確に判定処理を行うことができるようになる。
次に、図4を参照して、先に触れた制限発電を行う際に制限が加えられる状態量を制限する制御方法について説明する。
制限する状態量としては、発電電力量、空気供給量、水素循環量、水素供給量、水素供給圧力ならびに空気供給圧力であり、これらの状態量のいずれか1つの項目、または2つ以上の項目を組み合わせて選択する。また、制限する量に関して、コントローラ20からそれぞれ対応した補機類へ与える通常の発電運転時の目標指令値に対して所定の割合で制限するのでもよいし、もしくは所定量だけ差し引いて制限するのでもよい。さらに、状態の制限は休止する操作も含まれるものとする。
(発電電力量の制限)
発電電力量の制限は、コントローラ20からパワーマネージャー16へ指令を送って燃料電池スタック1から取り出す電力を制限する。発電電力量を制限する操作では、目標発電電力と2次バッテリ17の供給可能電力とを比較し、燃料電池スタック1の発電によって不足分の電力を供給するところまで、目標発電電力を制限することが含まれる。
(空気供給量の制限)
空気供給量の制限は、コントローラ20からコンプレッサ11へ指令を送ってコンプレッサの回転数を調整制御することで行われる。空気供給量を制限する操作では、パージ弁7を介して排出される水素量を希釈装置8で希釈するために必要とされる目標希釈空気流量まで、目標空気供給量を制限することが含まれる。また、制限する操作では、パージ弁7を閉弁した場合にはコンプレッサ11の回転駆動を停止することも含まれる。
(水素循環量の制限)
水素循環量の制限は、コントローラ20から水素循環ポンプ6へ指令を送って水素循環ポンプ6の回転数を調整制御することで行われる。水素循環量の制限では、目標発電電力に基づいて決まる目標取出電流に対応した水素消費量における所定の過剰量分を循環量によって燃料電池スタック1に再供給できる量まで水素循環量を制限することが含まれる。
発電電流を0にできる場合は、水素循環ポンプ6の回転駆動を停止してもよい。燃料電池スタック1の電解質膜を介してアノードとカソードとの間の窒素のクロスリークによってアノード内に窒素が蓄積するので、アノード循環系において水素濃度の偏在化が起こる場合は、所定時間ごとに水素循環ポンプ6を回転させてアノードにおける水素濃度分布の平準化を行ってもよい。
また、アノード循環系に窒素濃度推定手段(もしくは窒素濃度測定手段)を備え、これらの手段で得られた窒素濃度が所定濃度以上に達した場合には、水素循環量を制限した発電を終了させて通常の発電運転に戻すようにしてもよい。このように、アノード循環系の窒素濃度を調整制御することで、燃料電池車両の運転者のアクセル操作等により燃料電池システムが低負荷運転から高負荷運転に移行した際に、発電の応答性を低下させることは回避され、システムの信頼性低下を招くことはなくなる。
(水素供給量の制限)
水素供給量の制限は、コントローラ20から水素供給弁5へ指令を送って弁開度を調整制御することで行われる。水素供給弁5は、目標発電電力とコントローラ20の記憶装置に記憶された燃料電池スタック1の基準I(電流)−V(電圧)特性とで決まる目標取出電流に対応した水素消費量分を燃料電池スタック1に供給するので、水素供給量は発電電力の制限と一緒に制限することができる。
(水素供給圧力の制限)
水素圧の制限は、コントローラ20から水素供給弁5およびパージ弁7へ指令を送ってそれぞれの弁開度を調整制御することで行われる。水素供給弁5は、燃料電池スタック1での水素消費量に対して、水素供給流量を増減することで水素圧力を増減することができる。したがって、水素圧力は水素消費量から所定の量または割合だけ水素供給量を削減することで水素圧力を低下することができる。
(空気供給圧力の制限)
空気供給圧力の制限は、コントローラ20から空気調圧弁12へ指令を送って弁開度を調整制御することで行われる。空気供給圧力の制限には、空気調圧弁12が閉じきり弁でない場合には、少なくとも略大気圧まで制限することが含まれる。
以上説明したように、上記実施例1においては、安定した発電状態である低負荷運転であって、かつ状態量の制限が許容できる環境下において、状態量を制限して意図的に不安定な発電状態を生み出し、セル(もしくはセル群)間の電圧ばらつきを増幅させることで、低負荷運転状態であってもセル電圧異常を精度よく検出することが可能となる。
発電電力量、空気供給量、水素循環量、水素供給量、水素供給圧力ならびに空気供給圧力の状態量のいずれか1つ、もしくはこれら2つ以上を組み合わせて制限することで、燃料電池システムが低負荷運転状態であっても、意図的に不安定な発電状態を作り出すことが可能となる。
セル電圧のばらつき、分散、標準偏差または平均値と最小値との差のいずれか、もしくはこれら2つ以上の組み合わせに基いて、セル電圧異常を判定することで、セル電圧異常を精度よく検出することができる。
予め設定された特定のセル(またはセル群)の出力電圧の分散、標準偏差、平均値、最低値のいずれか、またはこれら2つ以上の組み合わせに基いて、セル電圧異常を判定することで、システム構成の小型化ならびに簡単化を図ることができる。
次に、この発明の実施例2について説明する。
先の実施例1では、意図的に状態量を制限してセル電圧異常を判定していたのに対して、この実施例2の特徴とするところは、間欠的に発電を停止したアイドルストップ状態に燃料電池システムを制御するアイドルストップ制御手段を備え、このアイドルストップ制御手段の制御の下に燃料電池システムがアイドルストップ状態になったときにセル電圧異常を判定するようにしたことにあり、他は先の実施例1と同様である。
ここで、燃料電池スタックの「アイドル運転」とは、外部負荷に電力を供給せず、運転(発電)に必要な最低負荷を自らが供給して運転している状態を示し、無負荷運転、待機運転(日本工業規格番号:JISC8800)を含む概念である。
これに対して、燃料電池スタックの「アイドルストップ状態」とは、アイドル運転から燃料電池スタックの発電のみを停止した状態や、アイドル運転から燃料電池スタックの他に燃料電池システムを構成する各補機類の運転も停止した状態を含む概念である。燃料電池スタックの他に各補機類の運転も停止した状態とは、燃料ガスの供給に係わる補機、酸化ガスの供給に係わる補機、反応ガスを加湿する水の供給に係わる補機の少なくとも何れか1つの運転を停止した状態を含む概念である。
次に、図5のフローチャートを参照して、この実施例2の動作手順を説明する。図5に示すこの実施例2の動作手順の特徴とするところは、先の実施例1の動作手順を示す図3に比べて、図3に示すステップS302の処理を図5のステップS501で示す処理に代え、図3に示すステップS303の処理を図5のステップS502で示す処理に代え、図3に示すステップS307の処理を図5のステップS503で示す処理に代えたことにあり、他は先の図3に示す手順と同様である。
すなわち、状態量の制限を許可するフラグを参照する代わりに、アイドルストップ状態が許可されたか否かを示すフラグを参照し(ステップS501)、アイドルストップが許可された場合には、アイドルストップ制御手段の制御の下に燃料電池システムをアイドルストップ状態に制御する(ステップS502)。その後、状態量の制限を許可するフラグを参照する代わりに、アイドルストップ状態が許可されたか否かを示すフラグを参照し(ステップS503)、先の図3に示すステップS307と同様の検証を行う。
なお、図5のステップS306に示す判定処理に代えて、セル電圧のばらつき指標を表す標準偏差σを算出し、予め実験等の結果に基づいて設定されたセル電圧の正常/異常を判定する判定しきい値電圧(Vt)と標準偏差σとを比較し、その比較結果に基づいてセル電圧が異常か否かを判定するようにしてもよい。
燃料電池システムがアイドルストップ状態になると、システムによって異なるが例えば以下に示すような状態となり、先の実施例1の状態量が制限されたと同様の状態となる。アイドルストップ状態では、発電電力:停止、空気供給量:コンプレッサ停止、水素循環流量:水素循環ポンプ停止または弱回転(非アイドルストップ状態時:通常制御回転)、水素供給圧力:略大気圧または負圧(非アイドルストップ状態時:加圧)、水素供給量:停止または調圧制御により僅かに供給、空気圧力:調圧制御停止し大気圧相当(非アイドルストップ状態時:水素供給圧力と同程度に調圧)である。
図6は非アイドルストップ状態からアイドルストップ状態に移行した際の、平均セル電圧(Vave)、最低セル電圧(Vmin)、最高セル電圧(Vmax)ならびにセル電圧のばらつきの指標となる標準偏差σの時間変化を示す図であり、同図(a)はセル電圧が正常である場合を示し、同図(b)はセル電圧が異常である場合を示したものである。
なお、図6においては、先に触れたセル電圧の標準偏差σと判定しきい値電圧(Vt)との比較結果に基づいて、セル電圧異常を判定する手法を採用している。
図6(a)において、時刻t1でアイドルストップが許可されて燃料電池システムが非アイドルストップ状態からアイドルストップ状態に移行すると、セル電圧異常の判定処理が開始される。
燃料電池システムがアイドルストップ状態になると、燃料電池スタック1のアノード側からクロスリークしてきた水素によってカソード内での化学反応により消費されて、カソードの酸素分圧が低下し、セル電圧が低下していく。図6(a)に示すように、時間の経過とともに徐々に各電圧は低下していく。また、セル電圧の標準偏差σは徐々に大きくなっていく。しかし、標準偏差σの増加は僅かであり、判定処理を終了する終了時刻t3になっても標準偏差σは判定しきい値電圧(Vt)を上回ることはなく、これによりセル電圧は正常であると判定される。
一方、図6(b)においては、アイドルストップ状態になると、時間の経過とともに各セル電圧は低下していく。また、セル電圧の標準偏差σは同図(a)に比べて急激に増加し、セル電圧のばらつきは顕著となる。これは、例えば通常の発電において水詰まり気味だった状態でアイドルストップ状態に移行し、アイドリングストップ中に空気の供給が停止したことで分配ばらつきを増幅させ、その結果電圧ばらつきも増幅したものと考えられる。したがって、標準偏差σは、判定終了時刻t3より以前の時刻t2で判定しきい値電圧(Vt)を上回り、この時点でセル電圧が異常であると判定される。
以上説明したように、上記実施例2においては、燃料電池システムがアイドルストップ状態に移行した後にセル電圧異常を判定することで、低負荷運転において意図的に不安定な発電状態を生み出すことなく、セル(もしくはセル群)間の電圧ばらつきを増幅させることが可能となり、低負荷運転状態であってもセル電圧異常を精度よく検出することが可能となる。
なお、上記実施例1,2において、状態量を制限した発電を開始してからの経過時間、もしくはアイドルストップ状態に移行してからの経過時間を計測し、計測した経過時間を記憶する経過時間検出手段をコントローラ20に設け、この経過時間検出手段で計測されて記憶された経過時間が予め設定された所定時間に達したときに、セル電圧異常を判定する手法を採用してもよい。
このような手法を採用することで、セル電圧の異常が概ね確定した状態でセル電圧異常を判定することが可能となり、判定精度を高めることができる。
また、上記手法を採用した際に、セル電圧異常を判定する経過時間に応じて判定の際の判定しきい値を変えるようにしてもよい。このような場合には、誤判定を防止してセル電圧異常を短時間に精度よく判定することが可能となる。
本発明の実施例1に係る燃料電池システムの構成を示す図である。 図1に示すコントローラの構成を示す図である。 本発明の実施例1に係る処理の手順を示すフローチャートである。 図3に示すステップS303の処理を示す図である。 本発明の実施例2に係る処理の手順を示すフローチャートである。 セル電圧正常時ならびに異常時における、セル電圧ならびにセル電圧の標準偏差の時間変化を示す図である。
符号の説明
1…燃料電池スタック
2…水素タンク
3…水素タンク元弁
4…減圧弁
5…水素供給弁
6…水素循環ポンプ
7…パージ弁
8…希釈装置
9,13…圧力センサ
10,14…温度センサ
11…コンプレッサ
12…空気調圧弁
15…電圧センサ
16…パワーマネージャー
17…2次バッテリ
18…バッテリコントローラ
19…大気圧センサ
20…コントローラ
201…発電電力決定手段
202…発電モード切替判定手段
203…通常発電モード制御手段
204…制限発電モード制御手段
205…電圧ばらつき判定手段

Claims (7)

  1. 燃料ガス供給手段により供給される燃料ガスと、酸化剤ガス供給手段により供給される酸化剤ガスとの電気化学反応により発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムにおいて、
    前記燃料電池を構成する各セルのセル電圧、もしくは複数のセルからなるセル群のセル群電圧を検出する電圧検出手段と、
    前記燃料電池の発電に係わる状態量を制限した低負荷運転の発電が前記燃料電池システムで可能か否かを判定する制限発電判定手段と、
    状態量を制限した低負荷運転の発電が前記燃料電池システムで可能であると前記制限発電判定手段で判定された場合には、状態量を制限した低負荷運転で発電を行う制限発電制御手段と、
    前記制限発電制御手段で状態量が制限されて低負荷運転の発電を行っている前記燃料電池のセル電圧、もしくはセル群電圧が前記電圧検出手段で検出され、検出されたセル電圧もしくはセル群電圧に基づいて、セル電圧が異常であるか否かを判定するセル電圧異常判定手段と
    を有することを特徴とする燃料電池システム。
  2. 燃料ガス供給手段により供給される燃料ガスと、酸化剤ガス供給手段により供給される酸化剤ガスとの電気化学反応により発電を行う燃料電池を備えた燃料電池システムにおいて、
    前記燃料電池を構成する各セルのセル電圧、もしくは複数のセルからなるセル群のセル群電圧を検出する電圧検出手段と、
    前記燃料電池の発電に係わる状態量を制限して前記燃料電池の発電を間欠的に停止し、前記燃料電池システムをアイドルストップ状態に制御するアイドルストップ制御手段と、
    前記アイドルストップ制御手段の制御の下にアイドルストップ状態にある前記燃料電池のセル電圧、もしくはセル群電圧が前記電圧検出手段で検出され、検出されたセル電圧もしくはセル群電圧に基づいて、セル電圧が異常であるか否かを判定するセル電圧異常判定手段と
    を有することを特徴とする燃料電池システム。
  3. 前記制限発電制御手段で制限される状態量、もしくは前記アイドルストップ制御手段で制限される状態量は、燃料ガス圧力、酸化剤ガス圧力、燃料ガス供給量、酸化剤ガス供給量、燃料ガス循環量、発電電力量のいずれか1つ、または2つ以上の組み合わせである
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池システム。
  4. 前記燃料電池システムで状態量が制限された発電が開始されてから経過した経過時間、
    もしくは燃料電池システムがアイドルストップ状態に移行してから経過した経過時間を計測して記憶する経過時間検出手段を備え、
    前記セル電圧異常判定手段は、前記経過時間検出手段で検出された経過時間が予め設定された所定時間に達したときにセル電圧の異常を判定する
    ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
  5. 前記セル電圧異常判定手段は、前記経過時間検出手段で検出された経過時間に応じて、セル電圧の異常を判定する際の判定しきい値を変える
    ことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池システム。
  6. 前記セル電圧異常判定手段は、前記セル電圧検出手段で検出されたセル電圧、もしくはセル群電圧の分散値、標準偏差値、最大値、平均値、最小値のいずれか1つ、または2つ以上の組み合わせに基づいて、セル電圧の異常を判定する
    ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
  7. 前記セル電圧異常判定手段は、予め選択された特定のセルにおける前記セル電圧検出手段で検出されたセル電圧、もしくはセル群電圧の分散値、標準偏差値、最大値、平均値、最小値のいずれか1つ、または2つ以上の組み合わせに基づいて、セル電圧の異常を判定する
    ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
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