本発明は、運転者のブレーキ操作に対して車両に付与する制動力を電子制御する車両用制動装置に関するものである。
車両の制動装置として、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作力や操作量などに対して制動装置の制動力、つまり、この制動装置を駆動するホイールシリンダへ供給する油圧を電気的に制御する電子制御制動装置として、アキュムレータに蓄えられた油圧により制動力を制御するECB(Electronically Controlled Brake)が知られている。
このECBは、ポンプによって昇圧した油圧をアキュムレータに蓄えておき、運転者の制動要求に応じて調圧制御して制動装置としてのホイールシリンダに供給するものである。即ち、運転者がブレーキペダルを操作すると、マスタシリンダがその操作量に応じた油圧を発生すると共に、作動油の一部がストロークシミュレータに流れ込み、ブレーキペダルの踏力(操作力)に応じたブレーキペダルの操作量が調整される一方、ブレーキECUはペダルストロークに応じて車両の目標減速度を設定し、各車輪に付与する制動力分配を決定し、アキュムレータから各ホイールシリンダに対して所定の油圧を付与するようにしている。
上述したECBでは、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作に応じた適正な制動油圧を設定し、アキュムレータから各ホイールシリンダに対して適正な油圧を供給することで、制動力を電気的に制御することから、電源系統の失陥時には、ホイールシリンダに適正な油圧を供給することができない。そこで、電源系統の失陥時であっても、ブレーキペダルから入力されたブレーキ操作に応じた適正な制動油圧を各ホイールシリンダに対して供給することで、制動力を確保するようにしたものが、例えば、下記に示す特許文献1に記載されている。
この特許文献1に記載された車両用ブレーキ装置は、ケーシングに倍力液圧室に背面を臨ませたマスタピストンを摺動可能に収容するマスタシリンダと、ケーシングに倍力液圧室に前面を臨ませつつ後退限を規制して摺動可能に嵌合すると共に倍力液圧室の液圧低下時にブレーキ操作部材の操作に応じてマスタピストンを後方から直接押圧し得るバックアップピストンと、倍力液圧室の液圧に基づく反力ならびにブレーキ操作部材からのブレーキ操作入力が釣り合うように作動する制御ピストンならびにこの制御ピストンが軸方向に作動するのに応じて液圧発生源の出力液圧を調圧して倍力液圧室に作用せしめるようにしてバックアップピストンに内蔵される制御弁手段を有する液圧ブースタとを備え、マスタシリンダを車輪ブレーキに接続したものである。
従って、液圧発生源が失陥したとき、倍力液圧室の液圧が低下し、バックアップピストンを後退限側に押しつける液圧力が低下するため、ブレーキ操作部材の操作に応じてバックアップピストンを前進させることができ、このバックアップピストンによりマスタピストンを前進し、マスタシリンダから倍力されたブレーキ液圧を出力して車輪ブレーキを作動することができる。
ところが、上述した従来の車両用ブレーキ装置にて、液圧発生源が正常であるとき、この液圧発生源から倍力液圧室に所定の液圧が作用しており、バックアップピストンは、後退限側に押しつけられた位置に保持される。そのため、バックアップピストンは、長期間にわたってケーシング内で停止した状態となるため、マスタシリンダやブレーキ液の温度変化によりシール部材などが熱膨張を繰り返し、固着してしまうおそれがある。すると、液圧発生源が失陥したとき、倍力液圧室の液圧が低下しても、ブレーキ操作部材の操作によりバックアップピストンを前進させることが困難となり、車輪ブレーキを適正に作動することができない。
また、車両用ブレーキ装置おいて、液圧発生源は、液圧ポンプとアキュムレータとから構成されており、各種の電磁弁を作動させるための電源系統が失陥したとき、液圧ポンプを作動することができなくても、アキュムレータに所定の液圧が蓄圧されていることがある。このとき、倍力液圧室には、このアキュムレータの液圧が作用することとなり、倍力液圧室の液圧が十分に低下せず、ブレーキ操作部材の操作に応じてバックアップピストンを前進させるためには、多大な踏力が必要となってしまう。
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、電源系統や油圧供給源などの失陥時であっても適正な制動力を確保することで信頼性及び安全性の向上を図った車両用制動装置を提供することを目的とする。
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の車両用制動装置は、運転者が制動操作する操作部材と、シリンダ内に加圧ピストンが移動自在に支持されることで前方圧力室及び後方圧力室が区画されると共に前記操作部材により前記加圧ピストンを移動することで前記前方圧力室の油圧を出力可能なマスタシリンダと、前記操作部材の操作力に応じた目標制御圧を設定する制御圧設定手段と、油圧供給源と、前記前方圧力室に連結されて車輪に制動力を発生させるホイールシリンダと、前記目標制御圧に基づいて電磁力により駆動弁を移動することで前記油圧供給源からの油圧を調圧して前記後方圧力室に出力可能である圧力制御弁とを具えた車両用制動装置において、前記マスタシリンダにおける前記シリンダ内に前記操作部材の操作力を前記加圧ピストンに伝達可能なバックアップピストンが移動自在に支持されることで反力室が区画されると共に、前記マスタシリンダの作動状態に応じて前記反力室に対する油圧の給排を制御する反力制御弁が設けられることを特徴とするものである。
本発明の車両用制動装置では、前記圧力制御弁及び前記反力制御弁を作動する電源系統の正常運転時には、前記圧力制御弁を制御して前記後方圧力室への油圧を調圧すると共に前記反力制御弁により前記反力室に対する油圧の給排を制限する一方、前記電源系統の失陥時には、前記反力制御弁により前記反力室に対する油圧の給排を可能とすることを特徴としている。
本発明の車両用制動装置では、前記反力室の油圧を検出する反力室圧検出センサが設けられ、回生制御中に前記反力室圧検出センサが検出した前記反力室の油圧に基づいて前記バックアップピストンの作動不良を判定する作動不良判定手段が設けられることを特徴としている。
本発明の車両用制動装置では、前記操作部材の操作力により前進可能な前記バックアップピストンの前面側に前記反力室が区画される一方、前記バックアップピストンの背面側に前記後方圧力室に連通する循環圧力室が区画され、前記圧力制御弁及び前記反力制御弁を作動する電源系統の正常運転時には、前記圧力制御弁を制御して前記後方圧力室または前記循環圧力室への油圧を調圧すると共に前記反力制御弁により前記反力室に対する油圧の給排を制限する一方、前記電源系統の失陥時には、前記反力制御弁により前記反力室に対する油圧の給排を可能とすることを特徴としている。
本発明の車両用制動装置では、前記圧力制御弁は、前記前方圧力室からの油圧により移動することで前記駆動弁を移動可能な外部ピストンを有し、前記電源系統の失陥時には、前記前方圧力室からの油圧により前記外部ピストンを介して前記駆動弁を移動することで前記油圧供給源からの油圧を調圧して前記後方圧力室または前記循環圧力室に出力することを特徴としている。
本発明の車両用制動装置では、前記反力室の油圧を検出する反力室圧検出センサが設けられ、回生制御中に前記反力室圧検出センサが検出した前記反力室の油圧に基づいて前記バックアップピストンの作動不良を判定する作動不良判定手段が設けられることを特徴としている。
本発明の車両用制動装置では、前記バックアップピストンに対して相対移動自在な入力ピストンが設けられ、該入力ピストンと前記バックアップピストンとの間にストロークシュミレータが介装され、前記入力ピストンに前記操作部材が連結されることを特徴としている。
本発明の車両用制動装置では、前記入力ピストンと前記バックアップピストンとの間に前記操作部材から前記入力ピストンに入力された操作力を吸収する操作力吸収室が区画されると共に、前記バックアップピストンが所定ストローク前進した時に、前記入力ピストンに入力された操作力を吸収せずに前記バックアップピストンに伝達する操作力切換手段が設けられることを特徴としている。
本発明の車両用制動装置によれば、シリンダ内に加圧ピストンを移動自在に支持することで前方圧力室及び後方圧力室を区画すると共に操作部材により加圧ピストンを移動することで前方圧力室の油圧を出力可能なマスタシリンダを設け、この前方圧力室に車輪に制動力を発生させるホイールシリンダを連結し、目標制御圧に基づいて電磁力により駆動弁を移動することで油圧供給源からの油圧を調圧して後方圧力室に出力可能である圧力制御弁を設けると共に、マスタシリンダにおけるシリンダ内に操作部材の操作力を加圧ピストンに伝達可能なバックアップピストンが移動自在に支持されることで反力室を区画し、マスタシリンダの作動状態に応じてこの反力室に対する油圧の給排を制御する反力制御弁を設けている。
従って、電源系統や油圧供給源が正常であるとき、圧力制御弁は、目標制御圧に基づいて油圧供給源からの油圧を調圧して後方圧力室に出力し、加圧ピストンをアシストして前方圧力室を加圧し、発生する油圧をホイールシリンダに出力することで、車輪に対してホイールシリンダが適正な制動力を付与することができる。このとき、反力制御弁は、反力室に対する油圧の給排を制御(制限)しており、マスタシリンダの作動状態に応じてバックアップピストンが移動することとなり、固着を抑制することができる。一方、電源系統や油圧供給源が失陥したとき、反力制御弁は、反力室に対する油圧の給排を制御(可能)しており、操作部材の操作によりバックアップピストンが移動し、加圧ピストンを押圧して前方加圧室を加圧し、発生する油圧をホイールシリンダに出力することで、車輪に対してホイールシリンダが適正な制動力を付与することができることとなる。その結果、シリンダに対するバックアップピストンの固着が抑制され、電源系統や油圧供給源などの失陥時であっても、適正な制動力を確保することで信頼性及び安全性の向上を図ることができる。
以下に、本発明に係る車両用制動装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例1に係る車両用制動装置を表す概略構成図、図2は、実施例1の車両用制動装置におけるバックアップピストンの固着判定制御を表すフローチャートである。
実施例1の車両用制動装置において、図1に示すように、マスタシリンダ11は、シリンダ12にバックアップピストン13と加圧ピストン14が直列に配設され、それぞれ軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、バックアップピストン13に入力ピストン15が軸方向に沿って移動自在に支持されて構成されている。このシリンダ12は、基端部(図1にて右端部)が開口し、先端部に蓋部材16が固定されて閉塞した円筒形状をなし、内部にバックアップピストン13と加圧ピストン14が同軸上に配置されて軸方向に沿って移動自在に嵌合している。
バックアップピストン13は、円筒形状をなす本体17と、この本体17の軸方向における一端部に固定された蓋部18とから構成されている。そして、バックアップピストン13は、本体17の外周面がシリンダ12の第1内周面12aに嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。また、バックアップピストン13は、本体17における基端部側の外周部に円盤形状をなすフランジ部13aが一体に形成されており、このフランジ部13aの外周面がシリンダ12の第1内周面12aより大径の第2内周面12bに嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。そして、シリンダ12内の基端部側には、貫通孔19aを有して円筒形状をなす支持部材19が嵌着されており、バックアップピストン13は、フランジ部13aが第1内周面12aと第2内周面12bとの間の段部12cに当接することで、前進側の移動ストロークが規制され、フランジ部13aが支持部材19に当接することで、後退側の移動ストロークが規制される。
加圧ピストン14は、基端部側が閉塞された円筒形状をなし、シリンダ12にて、バックアップピストン13より先端部側に配置されている。この加圧ピストン14は、外周面がシリンダ12の第1内周面12aに移動自在に支持されている。また、加圧ピストン14は、先端部側の外周部に円盤形状をなすフランジ部14aが一体に形成されており、このフランジ部14aの外周面がシリンダ12の第1内周面12aより大径の第3内周面12dに嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。そして、加圧ピストン14は、フランジ部14aが蓋部材16に当接することで、前進側の移動ストロークが規制され、フランジ部14aが第1内周面12aと第3内周面12dとの間の段部12eに当接することで、後退側の移動ストロークが規制される。また、加圧ピストン14は、蓋部材16の突起部16aに支持される支持板20との間に付勢スプリング21が介装されており、この付勢スプリング21の付勢力によりフランジ部14aが段部12eに当接する位置に付勢支持されている。
この場合、バックアップピストン13は、フランジ部13aが支持部材19に当接した後退位置にあるとき、このバックアップピストン13の前面と加圧ピストン14の後面との間には、所定ストロークS0が確保されている。
入力ピストン15は、円筒形状をなし、先端部に押圧部材(弾性部材)22が固定される一方、基端部に支持板23が固定されている。この入力ピストン15は、支持部材19の貫通孔19aを貫通して外周面がバックアップピストン13の内周面に嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。そして、バックアップピストン13の蓋部18には、支持柱18aが形成され、この支持柱18aに付勢スプリング24が支持されており、この付勢スプリング24は、バックアップピストン13の蓋部18と入力ピストン15の押圧部材22に支持される支持板25との間に介装されることで、入力ピストン15は、バックアップピストン13に対して基端部側に離間する方向に付勢支持されている。
一方、操作部材としてのブレーキペダル26は、上端部が図示しない車体の取付ブラケットに支持軸27により回動自在に支持されており、下端部に運転者が踏み込み操作可能なペダル28が取付けられている。そして、ブレーキペダル26は、中間部に連結軸29によりクレビス30が取付けられ、このクレビス30には操作ロッド31の基端部が連結されている。そして、この操作ロッド31は、入力ピストン15内に進入し、先端部に形成された球面形状の連結部31aが押圧部材22の背面に当接すると共に、係止部15aにより拘束されることで、入力ピストン15に連結されている。また、シリンダ12(支持部材19)と入力ピストン15の支持板23との間には、付勢スプリング32が介装されている。
なお、入力ピストン15、操作ロッド31、ブレーキペダル26などは、付勢スプリング24,32の付勢力により基端部側、つまり、ブレーキペダル26の戻し側に付勢支持されており、図示しないストッパによりブレーキペダル26の戻し位置が規制されている。そして、運転者がブレーキペダル26を踏み込んだとき、この付勢スプリング24,32の付勢力が操作反力としてドライバに作用する。
従って、ペダル28を踏み込むと、ブレーキペダル26が支持軸27を支点として回動し、その操作力(ペダルストローク)が操作ロッド31を介して入力ピストン15に伝達され、この入力ピストン15が付勢スプリング24,32の付勢力に抗して前進することができる。この場合、バックアップピストン13がシリンダ12内で拘束状態にあるとき、ドライバがブレーキペダル26を踏み込むと、操作ロッド31を介して入力ピストン15が前進し、押圧部材22が付勢スプリング24の付勢力に抗して前進することとなることから、押圧部材22及び付勢スプリング24等によりストロークシュミレータ(操作力吸収機構)が構成されている。
また、上述したように、シリンダ12内にバックアップピストン13と加圧ピストン14と入力ピストン15が同軸上に相対移動自在に配置されることで、加圧ピストン14における前進方向(図1にて左方)に前方圧力室R1が区画され、加圧ピストン14における後退方向(図1にて右方)、つまり、バックアップピストン13と加圧ピストン14との間に後方圧力室R2が区画される。また、バックアップピストン13の外周側で、且つ、フランジ部13aの前進方向(図1にて左方)に環状をなす反力室R3が区画されると共に、バックアップピストン13の後退方向(図1にて右方)に環状をなす循環圧力室R4が区画されている。即ち、ブレーキペダル26の操作力により前進可能なバックアップピストン13の前面側に反力室R3が区画される一方、バックアップピストン13の背面側に循環圧力室R4が区画される。更に、バックアップピストン13と入力ピストン15との間に圧力吸収室(操作力吸収室)R5が区画される。
一方、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれブレーキ装置(制動装置)を作動させるホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLが設けられており、ABS(Antilock Brake System)34により作動可能となっている。即ち、マスタシリンダ11の前方圧力室R1に連通する第1圧力ポート35には、第1油圧配管36の一端部が連結されており、この第1油圧配管36の他端部は、2つの油圧供給配管37a,37bに分岐され、前輪FR,FLに配置されるホイールシリンダ33FR,33FLに連結されている。また、マスタシリンダ11の後方圧力室R2に連通する第2圧力ポート38には、第2油圧配管39の一端部が連結されており、この第2油圧配管39の他端部は、2つの油圧供給配管40a,40bに分岐され、後輪RR,RLに配置されるホイールシリンダ33RR,33RLに連結されている。
また、第1油圧配管36から分岐した各油圧供給配管37a,37bには、油圧排出配管41a,41bの基端部が連結されており、第2油圧配管39から分岐した各油圧供給配管40a,40bには、油圧排出配管42a,42bの基端部が連結されている。そして、各油圧排出配管41a,41b,42a,42bは、先端部が集合して第3油圧配管43に連結され、この第3油圧配管43は、マスタシリンダ11の循環圧力室R4に連通する第4圧力ポート44に連結されている。また、マスタシリンダ11の循環圧力室R4には、第5圧力ポート45が連通しており、この第5圧力ポート45は、油圧給排配管46を介してリザーバタンク47に連結されている。
そして、各油圧供給配管37a,37b,40a,40bには、各油圧排出配管41a,41b,42a,42bとの接続部より上流側(第1、第2油圧配管36,39側)に、それぞれ電磁式の増圧弁48a,48b,49a,49bが配置されている。また、各油圧排出配管41a,41b,42a,42bには、それぞれ電磁式の減圧弁50a,50b,51a,51bが配置されている。この増圧弁48a,48b,49a,49bは、ノーマルオープンタイプの開閉弁であって、電力供給時に閉止する。一方、減圧弁50a,50b,51a,51bは、ノーマルクローズタイプの開閉弁であって、電力供給時に開放する。
油圧ポンプ52はモータ53により駆動可能であり、配管54を介してリザーバタンク47に連結されると共に、配管55を介してアキュムレータ56に連結されている。従って、モータ53を駆動すると、油圧ポンプ52はリザーバタンク47に貯留されている作動油をアキュムレータ56に供給して昇圧することができ、アキュムレータ56は、所定圧力の油圧を蓄圧することができる。本実施例では、油圧ポンプ52とアキュムレータ56により油圧供給源が構成されている。
油圧ポンプ52及びアキュムレータ56は、高圧供給配管57を介して圧力制御弁58に連結されている。この圧力制御弁58は、電磁力により作動してアキュムレータ56に蓄圧された油圧を調圧してマスタシリンダ11の後方圧力室R2及びABS34のホイールシリンダ33RR,33RLに出力可能であり、後方圧力室R2への油圧により加圧ピストン14を前進させ、マスタシリンダ11の前方圧力室R1からの油圧をABS34のホイールシリンダ33FR,33FLに出力可能である。
この圧力制御弁58において、ハウジング71は円筒形状をなし、内部に駆動弁72が上下に移動自在に支持され、この駆動弁72は、リターンスプリング73により上方に付勢支持される一方、ソレノイド74に通電することで、発生する電磁力により下方に移動可能となっている。また、ハウジング71には、高圧ポートP1と減圧ポートP2と制御圧ポートP3が形成されている。一方、駆動弁72には、軸方向に沿った貫通孔と径方向に沿った貫通孔とが交差する連通路75が形成されている。
従って、ソレノイド74に通電していないとき、駆動弁72はリターンスプリング73の付勢力により上方に位置決めされており、駆動弁72の連通路75により制御圧ポートP3と減圧ポートP2が連通し、高圧ポートP1が遮断されている。一方、ソレノイド74に通電すると、電磁力により駆動弁72がリターンスプリング73の付勢力に抗して下方に移動する。すると、駆動弁72の連通路75により高圧ポートP1と制御圧ポートP3が連通し、減圧ポートP2が遮断されることとなる。
そして、油圧ポンプ52及びアキュムレータ56からの高圧供給配管57が圧力制御弁58の高圧ポートP1に連結されている。また、圧力制御弁58は、制御圧ポートP3が制御圧供給配管59を介して第2油圧配管39に連結されている。
また、マスタシリンダ11に対して、このマスタシリンダ11の作動状態に応じて反力室R3に対する油圧の給排を制御する反力制御弁60が設けられている。即ち、マスタシリンダ11の反力室R3に連通する第3圧力ポート61には、第4油圧配管62の一端部が連結され、他端部は第3油圧配管43に連結されると共に、圧力制御弁58の減圧ポートP2に連結されている。そして、この第4油圧配管62には、反力制御弁60が装着されており、この反力制御弁60は、ノーマルオープンタイプの開閉弁であって、電力供給時に閉止する。
更に、圧力制御弁58の高圧ポートP1と第1油圧配管36との間には、連結配管63が架設されており、この連結配管63に連通弁64が装着されている。この連通弁64は、ノーマルクローズタイプの開閉弁であって、電力供給時に開放する。
また、マスタシリンダ11にて、シリンダ12及び加圧ピストン14を貫通して前方圧力室R1に連通する戻しポート65a,65bが形成されており、この戻しポート65a,65bは戻し配管66を介してリザーバタンク47に連結されている。この場合、シリンダ12における戻しポート65aの前後にはワンウェイシール67が装着されている。更に、マスタシリンダ11にて、シリンダ12及びバックアップピストン13を貫通して圧力吸収室R5に連通する給排ポート68a,68bが形成されており、この給排ポート68a,68bは油圧給排配管46を介してリザーバタンク47に連結されている。この場合、シリンダ12における給排ポート68aの前後にはワンウェイシール69が装着されている。
この場合、本実施例では、バックアップピストン13と入力ピストン15との間に圧力吸収室(操作力吸収室)R5が区画されており、バックアップピストン13が支持部材19に当接した後退位置に保持されているとき、圧力吸収室R5は給排ポート68a,68bから油圧給排配管46を通してリザーバタンク47に連通している。そのため、ブレーキペダル26が踏み込まれて入力ピストン15が前進すると、圧力吸収室R5の容積が減少し、油圧がリザーバタンク47に排出されることで、ブレーキペダル26の操作力が吸収される。一方、バックアップピストン13の保持が解除されているとき、ブレーキペダル26が踏み込まれて入力ピストン15が前進すると、この入力ピストン15と共にバックアップピストン13が前進する。すると、シリンダ12の給排ポート68aに対して、バックアップピストン13の給排ポート68bがずれて連通しなくなる。そのため、圧力吸収室R5の容積が減少せず、ブレーキペダル26の操作力が吸収されずに、入力ピストン15を介してバックアップピストン13に伝達される。即ち、給排ポート68a,68bにより操作力切換手段が構成される。
なお、シリンダ12、バックアップピストン13、加圧ピストン14、入力ピストン15等の要部には、シール部材としてのOリングやワンウェイシールが装着されており、油圧の漏洩を防止している。
このように構成された本実施例の車両用制動装置にて、電子制御ユニット(ECU)81は、ブレーキペダル26から入力ピストン15に入力される操作力(ペダルストロークまたはペダル踏力)に応じた目標制御圧を設定(制御圧設定手段)し、圧力制御弁58によりこの設定された目標制御圧を後輪側のホイールシリンダ33RR,33RLに出力させると共に、後方圧力室R2に作用させて加圧ピストン14をアシストし、前方圧力室R1から前輪側のホイールシリンダ33FR,33FLに出力される。そのため、ABS34を介して各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLに適正な制動油圧が付与されて作動し、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させる。
即ち、ブレーキペダル26には、このブレーキペダル26のペダルストロークSpを検出するストロークセンサ82と、そのペダル踏力Fpを検出する踏力センサ83が設けられており、各検出結果をECU81に出力している。また、第1油圧配管36には、油圧を検出する第1圧力センサ84が設けられている。第1圧力センサ84は、前方圧力室R1から第1油圧配管36を通して前輪FR,FLのホイールシリンダ33FR,33FLへ供給される制御圧(マスタシリンダ圧)Pmを検出し、検出結果をECU81に出力している。
また、第4油圧配管62における反力制御弁60より第3圧力ポート61側には、油圧を検出する第2圧力センサ(反力室圧検出センサ)85が設けられている。第2圧力センサ85は、第4油圧配管62から第3圧力ポート61を通して反力室R3の反力油圧Pfを検出し、検出結果をECU81に出力している。更に、連結配管63には、油圧を検出する第3圧力センサ86が設けられている。第3圧力センサ86は、アキュムレータ56から圧力制御弁58を介して連結配管63に供給される油圧を検出し、検出結果をECU81に出力している。また、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、それぞれ車輪速センサ87が設けられており、検出した各車輪速度をECU81に出力している。
従って、ECU81は、踏力センサ83が検出したブレーキペダル26のペダル踏力Fp(または、ストロークセンサ82が検出したペダルストロークSp)に基づいて目標制御圧Pmtを設定し、圧力制御弁58における駆動弁72を駆動制御する一方、第1圧力センサ84が検出した制御圧Pmをフィードバックし、目標制御圧Pmtと制御圧Pmとが一致するように制御している。この場合、ECU81は、ペダル踏力Fpに対する目標制御圧Pmtを表す制御マップを有しており、この制御マップに基づいて圧力制御弁58を駆動制御する。
また、本実施例では、マスタシリンダ11の反力室R3に連通する第3圧力ポート61に、リザーバタンク47に連通する第4油圧配管62が連結され、この第4油圧配管62にノーマルオープンタイプの電磁式反力制御弁60が装着されている。従って、圧力制御弁58や反力制御弁60を作動する電源系統の正常運転時には、この圧力制御弁58を制御して出力油圧を調圧すると共に、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を制限(停止)する。そのため、運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれたとき、操作ロッド31を介して入力ピストン15が前進するものの、反力室R3から第3圧力ポート61を通して反力制御弁60までの第4油圧配管62が閉回路となっていることから、バックアップピストン13は前進せず、圧力吸収室R5の油圧がリザーバタンク47に排出される。
一方、電源系統の失陥時には、圧力制御弁58を制御することができず、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を許可(可能)する。そのため、運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれたとき、操作ロッド31を介して入力ピストン15が前進し、反力制御弁60が開放状態にあることから、バックアップピストン13を押圧し、反力室R3の油圧が第3圧力ポート61から反力制御弁60を通ってリザーバタンク47に排出されることとなり、バックアップピストン13が前進し、加圧ピストン14を押圧する。
ところで、上述したように、電源系統の正常運転時に、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が制限され、且つ、アキュムレータ56から圧力制御弁58を通して後方圧力室R2に制御圧が作用することから、運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれても、バックアップピストン13が前進することができない。この場合、バックアップピストン13が支持部材19に当接した位置に長期間にわたって保持されると、マスタシリンダ11やブレーキ油圧の温度変化によりシール部材などが熱膨張を繰り返し、固着してしまうおそれがある。
そこで、本実施例では、電源系統の正常運転時にて、バックアップピストン13が作動するマスタシリンダ11の作動状態を判定し、このときに、反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン13の作動不良を判定(作動不良判定手段)するようにしている。本実施例の車両用制動装置は、エンジンと電気モータとを動力源として走行可能なハイブリッド車両に適用されており、バックアップピストン13が作動するマスタシリンダ11の作動状態とは、ブレーキ回生制御中である。即ち、このブレーキ回生制御中には、電気モータが発電機として機能し、運動エネルギを電気エネルギに変換して回収することで制動力を発生させることから、運転者がブレーキペダル26を踏み込んで入力ピストン15を前進しても、ABS34では制動油圧を発生させない。つまり、ブレーキ回生制御中は、アキュムレータ56から圧力制御弁58を通して後方圧力室R2に制御圧が作用しないことから、入力ピストン15がバックアップピストン13を押圧して微小移動することができ、このときに反力室R3の油圧が変動するため、この反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン13の作動不良を判定することができる。
ここで、本実施例の車両用制動装置による制動力制御について具体的に説明する。図1に示すように、運転者がブレーキペダル26を踏むと、その操作力により操作ロッド31を介して入力ピストン15が付勢スプリング32の付勢力に抗して前進する。このとき、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が停止され、後方圧力室R2に所定の制御圧が作用していることから、バックアップピストン13は前進せずに、押圧部材22が付勢スプリング32を撓ませることで操作力が吸収される。
また、ブレーキペダル26を踏み込まれたとき、踏力センサ83はペダル踏力Fpを検出し、ECU81は、このペダル踏力Fpに基づいて目標制御圧Pmtを設定する。そして、ECU81は、この目標制御圧Pmtに基づいて圧力制御弁58を制御し、所定の制御圧を出力させる。
即ち、圧力制御弁58にて、ソレノイド74に通電し、発生する電磁力により駆動弁72をリターンスプリング73の付勢力に抗して下方に移動する。すると、駆動弁72の連通路75により高圧ポートP1と制御圧ポートP3が連通する一方、減圧ポートP2と制御圧ポートP3が遮断される。そのため、アキュムレータ56の油圧が高圧供給配管57から高圧ポートP1に供給され、連通路75を通って制御圧ポートP3に流れ、この制御圧ポートP3から制御圧供給配管59を通して第2油圧配管39に供給される。すると、第2油圧配管39に供給された油圧がマスタシリンダ11の第2圧力ポート38から後方圧力室R2に作用し、加圧ピストン14をアシストすることから、この加圧ピストン14が前方圧力室R1を加圧し、前方圧力室R1から第1油圧配管36に対して適正な制御油圧が吐出される。
従って、第1油圧配管36から前輪FR,FLのホイールシリンダ33FR,33FLに制御圧が付与されると共に、第2油圧配管39から後輪RR,RLのホイールシリンダ33RR,33RLに制御圧が付与されることとなり、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた制動力を発生させることができる。なお、ECU81は、第1圧力センサ84が検出した制御圧Pmをフィードバックし、目標制御圧Pmtと制御圧Pmとが一致するように圧力制御弁58を制御する。
この電源系統の正常運転時におけるブレーキ操作では、上述したように、バックアップピストン13が前進しないことから、固着してしまうおそれがある。しかし、ブレーキ回生制御中には、後方圧力室R2に制御圧が作用しないことから、バックアップピストン13が微小移動することができる。そこで、このブレーキ回生制御中に、反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン13の作動不良を判定する。
即ち、図2に示すように、ステップS11にて、本実施例の車両用制動装置のシステムが正常かどうか、つまり、電源系統が正常運転されているかどうかを判定する。ここで、電源系統が正常運転されていると判定されたら、ステップS12にて、ブレーキ回生制御中であるかどうかを判定する。ハイブリッド車両では、通常、ECU81がブレーキペダル26の操作力に応じて目標制動力を設定し、電気モータによる回生ブレーキを制御し、目標制動力から実行した回生制動力を減算して目標油圧制動力を設定し、この目標油圧制動力に基づいて目標制御圧Pmtを設定し、圧力制御弁58を駆動制御する。そのため、このステップS12では、電気モータによる回生ブレーキを制御中であるかどうかを判定する。
このステップS12で、ブレーキ回生制御中であると判定されたら、ステップS13にて、ブレーキ操作力による入力ピストン15の推進力F1を下記数式により演算する。ここで、Fpは、踏力センサ83の検出値、Rpは、ブレーキペダル26のレバー比L2/L1であり、L1は、支持軸27と連結軸29との軸心距離、L2は、支持軸27からブレーキペダル26の先端までの距離である。
F1=Fp×Rp
続いて、ステップS14にて、ブレーキ制御圧によるブレーキ反力F2を下記数式により演算する。ここで、Pmは、第1圧力センサ84の検出値、Amは、マスタシリンダ11におけるシリンダ12の第1内周面12aの油路面積A1,A3である。
F2=Pm×Am
ステップS15では、ブレーキ操作力による入力ピストン15の推進力F1がブレーキ制御圧によるブレーキ反力F2より大きいかどうか、つまり、バックアップピストン13の前進する圧力が、後方圧力室R2からバックアップピストン13が受ける圧力より大きいかどうかを判定する。ここで、ブレーキ操作力による入力ピストン15の推進力F1がブレーキ制御圧によるブレーキ反力F2より大きいと判定されたら、ステップS16にて、反力室R3における基準反力室圧Pfkを下記数式より演算する。ここで、Afは、マスタシリンダ11におけるシリンダ12の第2内周面12bの油路面積A2から第1内周面12a内の油路面積A1を減算した油路面積である。
Pfk=(F1−F2)/Af
一方、ステップS11にて、電源系統が正常運転されていないと判定されたり、ステップS12にて、ブレーキ回生制御中でないと判定されたり、ステップS15にて、入力ピストン15の推進力F1がブレーキ反力F2より大きくないと判定されたときには、バックアップピストン13の作動不良を判定する条件が成立しないことから、何もしないでこのルーチンを抜ける。
そして、ステップS17にて、バックアップピストン13の固着条件が成立したかどうかを判定する。即ち、基準反力室圧Pfkが予め設定された基準値より大きく、且つ、第2圧力センサ85が検出した反力室R3の油圧Pfが予め設定された基準値より小さいかどうかを判定する。ここで、バックアップピストン13の固着条件が成立していないと判定されたら、バックアップピストン13が固着せずに正常に作動していると判定することができる。一方、バックアップピストン13の固着条件が成立していると判定されたら、ステップS18にて、バックアップピストン13が固着し、正常に作動していないと判定し、警告ランプを点灯する。
このように電源系統の正常運転時におけるブレーキ操作時に、ブレーキ回生制御中であるという所定の運転状態であるとき、反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン13の作動不良を容易に判定することができる。
また、電源系統に故障が発生して失陥した場合には、圧力制御弁58のソレノイド74へ通電することで、各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLへ付与する制動油圧を適正油圧に制御することができない。ところが、本実施例では、反力室R3の第3圧力ポート61に連結された第4油圧配管62に電磁式の反力制御弁60を設けており、非通電時には、第4油圧配管62を開放してリザーバタンク47に連通している。
そのため、電源系統の失陥時に、運転者がブレーキペダル26を踏むと、その操作力により操作ロッド31を介して入力ピストン15が付勢スプリング32の付勢力に抗して前進する。このとき、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が許可されていることから、入力ピストン15と共にバックアップピストン13が前進する。この場合、バックアップピストン13が所定ストローク前進すると、シリンダ12の給排ポート68aとバックアップピストン13の給排ポート68bがずれて連通しなくなり、圧力吸収室R5内の油圧がリザーバタンク47に排出されなくなる。そのため、入力ピストン15はバックアップピストン13を適正に移動することができる。
そして、入力ピストン15と共にバックアップピストン13が前進すると、このバックアップピストン13が加圧ピストン14を押圧し、加圧ピストン14が前進することにより前方圧力室R1が加圧されることで、この前方圧力室R1の油圧が第1油圧配管36に吐出される。従って、電源系統が失陥しても、第1油圧配管36から前輪FR,FLのホイールシリンダ33FR,33FLに制御圧が付与されることとなり、前輪FR,FLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
このように実施例1の車両用制動装置にあっては、シリンダ12内に加圧ピストン14を移動自在に支持することで前方圧力室R1及び後方圧力室R2を区画すると共に、ブレーキペダル26により加圧ピストン14を移動することで前方圧力室R1の油圧を出力可能なマスタシリンダ11を設け、この前方圧力室R1にホイールシリンダ33FR,33FLを連結し、後方圧力室R2にホイールシリンダ33RR,33RLを連結し、目標制御圧に基づいた電磁力により駆動弁72を移動することでアキュムレータ56からの油圧を調圧した制御圧を後方圧力室R2及びホイールシリンダ33RR,33RLに出力可能である圧力制御弁58を設けると共に、マスタシリンダ11におけるシリンダ12内にブレーキペダル26の操作力を加圧ピストン14に伝達可能なバックアップピストン13を移動自在に支持することで反力室R3を区画し、マスタシリンダ11の作動状態に応じてこの反力室R3に対する油圧の給排を制御する反力制御弁60を設けている。
従って、電源系統の正常時に、ECU81は、運転者が踏み込んだブレーキペダル26のペダル踏力Fpに応じた目標制御圧Pmtを設定し、この目標制御圧Pmtに基づいて圧力制御弁58を制御することで、アキュムレータ56から圧力制御弁58により後方圧力室R2に適正な油圧が供給され、加圧ピストン14をアシストすることとなり、各油圧配管36,39に適正な制御圧を供給することができ、この制御油圧をABS34を介して各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLに作用させ、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
一方、電源系統の失陥時には、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が許可されるため、運転者がブレーキペダル26を踏み込むと、その操作力によりバックアップピストン13が前進し、加圧ピストン14を押圧して移動することから、この加圧ピストン14により前方圧力室R1が加圧され、前方圧力室R1の油圧を出力し、第1油圧配管36に適正な制御圧を供給することができ、この制御圧をABS34を介して各ホイールシリンダ33FR,33FLに作用させ、前輪FR,FLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
また、実施例1の車両用制動装置では、電源系統の正常運転時には、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を停止する一方、電源系統の失陥時には、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を許可し、ブレーキ回生制御中に、第2圧力センサ85が検出した反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン13の固着(作動不良)を判定するようにしている。
従って、電源系統の正常運転時におけるブレーキ操作時に、ブレーキ回生制御中であるという所定の運転状態であるとき、反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン13の作動不良を容易に判定することができる。
このように本実施例の車両用制動装置では、電磁力により作動する圧力制御弁58を設けると共に、反力室R3に対する油圧の給排を制御する反力制御弁60を設けることで、電源系統の状態に拘らず運転者によるブレーキペダル26の操作に応じた制御圧を確実に発生させることができると共に、バックアップピストン13の移動により固着を抑制することができ、その結果、適正な制動力制御を可能とすることができ、信頼性及び安全性の向上を図ることができる。
図3は、本発明の実施例2に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例2の車両用制動装置において、図3に示すように、マスタシリンダ111は、シリンダ12にバックアップピストン113と加圧ピストン14が直列に配設され、それぞれ軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、バックアップピストン113に入力ピストン115が軸方向に沿って移動自在に支持されて構成されている。
バックアップピストン113は、シリンダ12内に位置して円筒形状をなす本体117と、この本体117の軸方向における一端部に固定された蓋部118と、本体117の軸方向における他端部からシリンダ12外に突出して円筒形状をなす支持部119とから構成されている。そして、バックアップピストン113は、本体117の外周面がシリンダ12の第1内周面12aに嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。また、バックアップピストン113は、本体117における基端部側の外周部に円盤形状をなすフランジ部113aが一体に形成されており、このフランジ部113aの外周面がシリンダ12の第1内周面12aより大径の第2内周面12bに嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。更に、バックアップピストン113は、支持部119が支持部材19の貫通孔19aに移動自在に嵌合しており、フランジ部113aが第1内周面12aと第2内周面12bとの間の段部12cに当接することで、前進側の移動ストロークが規制され、フランジ部113aが支持部材19に当接することで、後退側の移動ストロークが規制される。
加圧ピストン14は、シリンダ12にて、バックアップピストン113より先端部側に配置され、外周面がシリンダ12の第1内周面12aに移動自在に支持されている。また、加圧ピストン14は、フランジ部14aが一体に形成され、このフランジ部14aの外周面がシリンダ12の第3内周面12dに移動自在に支持されている。そして、加圧ピストン14は、フランジ部14aが蓋部材16または段部12eに当接することで、移動ストロークが規制される。また、加圧ピストン14は、支持板20との間に介装された付勢スプリング21の付勢力により、フランジ部14aが段部12eに当接する位置に付勢支持されている。
入力ピストン115は、円筒形状をなし、先端部に押圧部材22が固定されており、外周面がバックアップピストン113の内周面に嵌合し、軸方向に沿って移動自在に支持されている。そして、バックアップピストン113の蓋部118には、支持柱118aが形成され、この支持柱118aに付勢スプリング24が支持されており、この付勢スプリング24は、バックアップピストン113の蓋部118と入力ピストン115の押圧部材22に支持される支持板25との間に介装されることで、入力ピストン115は、バックアップピストン113に対して基端部側に離間する方向に付勢され、バックアップピストン113の段部113bに当接した位置に付勢支持されている。
一方、ブレーキペダル26は、連結軸29によりクレビス30が取付けられ、このクレビス30には操作ロッド31の基端部が連結されている。そして、この操作ロッド31は、バックアップピストン113内を通って入力ピストン115内に進入し、連結部31aが係止部115aにより拘束されることで、入力ピストン115に連結されている。また、シリンダ12(支持部材19)とバックアップピストン113の支持板23との間には、付勢スプリング32が介装されている。
従って、ペダル28を踏み込むと、ブレーキペダル26が支持軸27を支点として回動し、その操作力(ペダルストローク)が操作ロッド31を介して入力ピストン115に伝達され、この入力ピストン115が付勢スプリング24,32の付勢力に抗して前進することができる。この場合、ドライバがブレーキペダル26を踏み込むと、操作ロッド31を介して入力ピストン115が前進し、押圧部材22が付勢スプリング24の付勢力に抗して前進することとなることから、押圧部材22及び付勢スプリング24等によりストロークシュミレータ(操作力吸収機構)が構成されている。
また、上述したように、シリンダ12内にバックアップピストン113と加圧ピストン14と入力ピストン115が同軸上に相対移動自在に配置されることで、前方圧力室R1と、後方圧力室R2と、反力室R3と、循環圧力室R4と、圧力吸収室R5が区画される。そして、後方圧力室R2と循環圧力室R4は、シリンダ12に形成された連通路112により連通されている。
一方、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLが設けられており、ABS34により作動可能となっている。即ち、マスタシリンダ111の前方圧力室R1に連通する第1圧力ポート35に第1油圧配管36が連結されており、この第1油圧配管36が油圧供給配管37a,37bを介してホイールシリンダ33FR,33FLに連結されている。また、マスタシリンダ111の後方圧力室R2と循環圧力室R4を連通する連通路112に連通する第2圧力ポート38には、第2油圧配管39が連結されており、この第2油圧配管39が油圧供給配管40a,40bを介してホイールシリンダ33RR,33RLに連結されている。
また、各油圧供給配管37a,37bには油圧排出配管41a,41bが連結され、各油圧供給配管40a,40bには油圧排出配管42a,42bが連結されており、各油圧排出配管41a,41b,42a,42bは、先端部が集合して第3油圧配管43に連結され、この第3油圧配管43は、マスタシリンダ111の第4圧力ポート44に連結され、第5圧力ポート45から油圧給排配管46を介してリザーバタンク47に連結されている。
そして、各油圧供給配管37a,37b,40a,40bに増圧弁48a,48b,49a,49bが配置され、各油圧排出配管41a,41b,42a,42bに減圧弁50a,50b,51a,51bが配置されている。
油圧ポンプ52はモータ53により駆動可能であり、配管54を介してリザーバタンク47に連結されると共に、配管55を介してアキュムレータ56に連結されている。この油圧ポンプ52及びアキュムレータ56は、高圧供給配管57を介して圧力制御弁158に連結されている。この圧力制御弁158は、電磁力により作動してアキュムレータ56に蓄圧された油圧を調圧してマスタシリンダ111の後方圧力室R2及びABS34のホイールシリンダ33RR,33RLに出力可能であり、後方圧力室R2への油圧により加圧ピストン14を前進させ、マスタシリンダ111の前方圧力室R1からの油圧をABS34のホイールシリンダ33FR,33FLに出力可能である。
この圧力制御弁158において、ハウジング171は円筒形状をなし、内部に駆動弁172が上下に移動自在に支持され、この駆動弁172は、リターンスプリング173により上方に付勢支持される一方、ソレノイド174に通電することで、発生する電磁力により下方に移動可能となっている。また、ハウジング171には、高圧ポートP1と減圧ポートP2と制御圧ポートP3が形成されている。一方、駆動弁172には、軸方向に沿った貫通孔と径方向に沿った貫通孔とが交差する連通路175が形成されている。
また、ハウジング171の内部には、駆動弁172の上方に直列をなして外部ピストン176が上下に移動自在に支持されている。制御圧ポートP3は、駆動弁172と外部ピストン176との間の高圧室に連通している。そして、ハウジング171には、外部ポートP4が形成されている。
従って、ソレノイド174に通電していないとき、駆動弁172はリターンスプリング173の付勢力により上方に位置決めされており、駆動弁172の連通路175により制御圧ポートP3と減圧ポートP2が連通し、高圧ポートP1が遮断されている。一方、ソレノイド174に通電すると、電磁力により駆動弁172がリターンスプリング173の付勢力に抗して下方に移動する。すると、駆動弁172の連通路175により高圧ポートP1と制御圧ポートP3が連通し、減圧ポートP2が遮断されることとなる。また、外部ポートP4に外部圧が作用すると、外部ピストン176が下方に移動し、駆動弁172をリターンスプリング173の付勢力に抗して下方に移動することから、連通路175により高圧ポートP1と制御圧ポートP3が連通し、減圧ポートP2が遮断されることとなる。
そして、油圧ポンプ52及びアキュムレータ56からの高圧供給配管57が圧力制御弁158の高圧ポートP1に連結されている。また、圧力制御弁158は、制御圧ポートP3が制御圧供給配管59を介して第2油圧配管39に連結されている。
また、マスタシリンダ111に対して、このマスタシリンダ111の作動状態に応じて反力室R3に対する油圧の給排を制御する反力制御弁60が設けられている。即ち、マスタシリンダ111の反力室R3に連通する第3圧力ポート61には、第4油圧配管62の一端部が連結され、他端部は第3油圧配管43に連結されると共に、圧力制御弁158の減圧ポートP2に連結されている。そして、この第4油圧配管62には、反力制御弁60が装着されており、この反力制御弁60は、ノーマルオープンタイプの開閉弁であって、電力供給時に閉止する。
更に、圧力制御弁158の高圧ポートP1と第1油圧配管36との間には、連結配管63が架設されており、この連結配管63に連通弁64が装着されている。この連通弁64は、ノーマルクローズタイプの開閉弁であって、電力供給時に開放する。また、圧力制御弁158の外部ポートP4には、外部圧供給配管180の一端部が連結され、他端部が第1油圧配管36に連結されている。従って、前方圧力室R1の油圧が第1油圧配管36及び外部圧供給配管180を通して外部ポートP4に外部圧として作用することで、外部ピストン176を下方に移動することができる。
ECU81は、ブレーキペダル26から入力ピストン115に入力される操作力(ペダルストロークまたはペダル踏力)に応じた目標制御圧を設定(制御圧設定手段)し、圧力制御弁158によりこの設定された目標制御圧を後輪側のホイールシリンダ33RR,33RLに出力させると共に、後方圧力室R2に作用させて加圧ピストン14をアシストし、前方圧力室R1から前輪側のホイールシリンダ33FR,33FLに出力される。そのため、ABS34を介して各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLに適正な制動油圧が付与されて作動し、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに制動力を作用させる。
即ち、ブレーキペダル26には、ペダルストロークSpを検出するストロークセンサ82と、ペダル踏力Fpを検出する踏力センサ83が設けられており、各検出結果をECU81に出力している。また、第1油圧配管36には、制御圧(マスタシリンダ圧)Pmを検出する第1圧力センサ84が設けられており、検出結果をECU81に出力している。第4油圧配管62における反力制御弁60より第3圧力ポート61側には、反力室R3の反力油圧Pfを検出する第2圧力センサ85が設けられており、検出結果をECU81に出力している。連通配管63には、アキュムレータ56から圧力制御弁158を介して連通配管63に供給される油圧を検出する第3圧力センサ86が設けられており、検出結果をECU81に出力している。また、前輪FR,FL及び後輪RR,RLには、車輪速度を検出する車輪速センサ87が設けられており、検出結果をECU81に出力している。
従って、ECU81は、踏力センサ83が検出したブレーキペダル26のペダル踏力Fp(または、ストロークセンサ82が検出したペダルストロークSp)に基づいて目標制御圧Pmtを設定し、圧力制御弁158における駆動弁172を駆動制御する一方、第1圧力センサ84が検出した制御圧Pmをフィードバックし、目標制御圧Pmtと制御圧Pmとが一致するように制御している。この場合、ECU81は、ペダル踏力Fpに対する目標制御圧Pmtを表す制御マップを有しており、この制御マップに基づいて圧力制御弁158を駆動制御する。
また、圧力制御弁158や反力制御弁60を作動する電源系統の正常運転時には、この圧力制御弁158を制御して出力油圧を調圧すると共に、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を制限(停止)する。そのため、運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれたとき、操作ロッド31を介して入力ピストン115が前進し、バックアップピストン113を押圧して移動する。この場合、反力室R3から第3圧力ポート61を通して反力制御弁60までの第4油圧配管62が閉回路となっていることから、バックアップピストン113が微小前進するとき、後方圧力室R2の油圧が連通路112を通って循環圧力室R4に流れると共に、バックアップピストン113に対して入力ピストン115が相対的に前進し、圧力吸収室R5の油圧がリザーバタンク47に排出される。
一方、電源系統の失陥時には、圧力制御弁158を電気的に制御することができず、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を許可(可能)する。そのため、運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれたとき、操作ロッド31を介して入力ピストン115が前進し、反力制御弁60が開放状態にあることから、バックアップピストン113を押圧し、反力室R3の油圧が第3圧力ポート61から反力制御弁60を通ってリザーバタンク47に排出されることとなり、バックアップピストン113が前進し、加圧ピストン14を押圧する。
ところで、電源系統の正常運転時に、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が制限され、且つ、アキュムレータ56から圧力制御弁158を通して後方圧力室R2に制御圧が作用することから、運転者によりブレーキペダル26が踏み込まれても、バックアップピストン113が大きく前進することはない。この場合、バックアップピストン113が支持部材19に当接した位置に長期間にわたって保持されると、マスタシリンダ111やブレーキ油圧の温度変化によりシール部材などが熱膨張を繰り返し、固着してしまうおそれがある。
そこで、本実施例では、電源系統の正常運転時にて、バックアップピストン113が作動するマスタシリンダ111の作動状態を判定し、このときに、反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン113の作動不良を判定(作動不良判定手段)するようにしている。即ち、ブレーキペダル26が踏み込まれると、操作ロッド31を介して入力ピストン115が前進してバックアップピストン113を押圧することから、このバックアップピストン113が微小前進して反力室R3の油圧が変動するため、この反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン113の作動不良を判定することができる。
この場合、マスタシリンダ111における各油路面積を下記条件が成立するように設定する必要がある。この場合、アキュムレータ56の油圧が圧力制御弁158により調圧され、制御圧供給配管59によりマスタシリンダ111の後方圧力室R2及び循環圧力室R4に作用するブレーキ圧をPb、第2圧力センサ85が検出する反力室R3の反力油圧をPf、踏力センサ83が検出するペダル踏力をFp、バックアップピストン113における前方ブレーキ圧面積をAbf、後方ブレーキ圧面積をAbr、反力室R3の面積をAfiとする。また、マスタシリンダ111におけるシリンダ12の第1内周面12aの油路面積をA1、第2内周面12bの油路面積をA2、バックアップピストン113が貫通する貫通孔19aの面積をA3とするとき、
前方ブレーキ圧面積Abf=A1
後方ブレーキ圧面積Abr=A2−A3
反力室R3の面積Afi=A2−A1
となる。
そして、ブレーキペダル26が踏み込まれるとき、バックアップピストン113が移動して反力室R3の油圧が上昇する条件は、下記数式に表す条件である。
Fp+Pb×Abr>Pb×Abf
即ち、バックアップピストン113が固着する圧力に対して、ブレーキペダル26からその圧力以上の操作力が入力されればよい。このときの反力室R3の反力油圧Pfは、下記数式により求めることができる。
PF=(Fp+Pb×Abr−Pb×Abf)/Afi
ここで、本実施例の車両用制動装置による制動力制御について具体的に説明する。運転者がブレーキペダル26を踏むと、その操作力により操作ロッド31を介して入力ピストン115が付勢スプリング32の付勢力に抗して前進する。このとき、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が停止されるものの、後方圧力室R2と循環圧力室R4が連通路112により連通していることから、後方圧力室R2の油圧が連通路112を通って循環圧力室R4に流れ、バックアップピストン113は微小前進すると共に、押圧部材22が付勢スプリング32を撓ませることで操作力が吸収される。
また、ブレーキペダル26が踏み込まれたとき、踏力センサ83はペダル踏力Fpを検出し、ECU81は、このペダル踏力Fpに基づいて目標制御圧Pmtを設定する。そして、ECU81は、この目標制御圧Pmtに基づいて圧力制御弁158を制御し、所定の制御圧を出力させる。
即ち、圧力制御弁158にて、ソレノイド174に通電し、発生する電磁力により駆動弁172をリターンスプリング173の付勢力に抗して下方に移動する。すると、駆動弁172の連通路175により高圧ポートP1と制御圧ポートP3が連通する一方、減圧ポートP2と制御圧ポートP3が遮断される。そのため、アキュムレータ56の油圧が高圧供給配管57から高圧ポートP1に供給され、連通路175を通って制御圧ポートP3に流れ、この制御圧ポートP3から制御圧供給配管59を通して第2油圧配管39に供給される。すると、第2油圧配管39に供給された油圧がマスタシリンダ111の第2圧力ポート38から連通路112を通って後方圧力室R2に作用し、加圧ピストン14をアシストすることから、この加圧ピストン14が前方圧力室R1を加圧し、前方圧力室R1から第1油圧配管36に対して適正な制御油圧が吐出される。
従って、第1油圧配管36から前輪FR,FLのホイールシリンダ33FR,33FLに制御圧が付与されると共に、第2油圧配管39から後輪RR,RLのホイールシリンダ33RR,33RLに制御圧が付与されることとなり、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた制動力を発生させることができる。なお、ECU81は、第1圧力センサ84が検出した制御圧Pmをフィードバックし、目標制御圧Pmtと制御圧Pmとが一致するように圧力制御弁158を制御する。
この電源系統の正常運転時におけるブレーキ操作では、上述したように、バックアップピストン113が微小前進するものの、このバックアップピストン113が微小前進しなくても適正な制御油圧を吐出することができるため、バックアップピストン113の固着を常時検出する必要がある。この場合、ECU81は、反力制御弁60が閉止することで、反力室R3から第3圧力ポート61を通して反力制御弁60までの第4油圧配管62が閉回路となっている状態で、ブレーキペダル26が踏み込まれたとき、第2圧力センサ85が検出した反力室R3の油圧Pfが上昇したかどうかを判定する。ここで、ECU81は、反力室R3の油圧Pfが上昇したと判定したら、バックアップピストン113が固着せずに正常に作動していると判定する一方、反力室R3の油圧Pfが上昇しないと判定したら、バックアップピストン113が固着して正常に作動していないとして警告ランプを点灯する。
このように電源系統の正常運転時におけるブレーキ操作時に、反力室R3における油圧の上昇に基づいてバックアップピストン113の作動不良を容易に判定することができる。
また、電源系統に故障が発生して失陥した場合には、圧力制御弁158のソレノイド174へ通電することで、各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLへ付与する制動油圧を適正油圧に制御することができない。ところが、本実施例では、反力室R3の第3圧力ポート61に連結された第4油圧配管62に電磁式の反力制御弁60を設けており、非通電時には、第4油圧配管62を開放してリザーバタンク47に連通している。
そのため、電源系統の失陥時に、運転者がブレーキペダル26を踏むと、その操作力により操作ロッド31を介して入力ピストン115が付勢スプリング32の付勢力に抗して前進する。このとき、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が許可されていることから、入力ピストン115と共にバックアップピストン113が前進する。この場合、バックアップピストン113が所定ストローク前進すると、シリンダ12の給排ポート68aとバックアップピストン113の給排ポート68bがずれて連通しなくなり、圧力吸収室R5内の油圧がリザーバタンク47に排出されなくなる。そのため、入力ピストン115はバックアップピストン113を適正に移動することができる。
そして、入力ピストン115と共にバックアップピストン113が前進すると、このバックアップピストン113が加圧ピストン14を押圧し、加圧ピストン14が前進することにより前方圧力室R1が加圧されることで、この前方圧力室R1の油圧が第1油圧配管36に吐出される。そして、この前方圧力室R1から第1油圧配管36に吐出された油圧は、外部圧供給配管180を通して圧力制御弁158の外部ポートP4に外部圧として作用することで、外部ピストン176を下方に移動し、駆動弁172をリターンスプリング173の付勢力に抗して下方に移動する。すると、前述と同様に、駆動弁172の連通路175により高圧ポートP1と制御圧ポートP3が連通し、アキュムレータ56の油圧がこの圧力制御弁158により調圧され、制御圧供給配管59を通して第2油圧配管39に供給され、マスタシリンダ111の後方圧力室R2に作用し、加圧ピストン14をアシストする。
従って、電源系統が失陥しても、第1油圧配管36から前輪FR,FLのホイールシリンダ33FR,33FLに制御圧が付与されると共に、第2油圧配管39から後輪RR,RLのホイールシリンダ33RR,33RLに制御圧が付与されることとなり、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた制動力を発生させることができる。
このように実施例2の車両用制動装置にあっては、シリンダ12内にバックアップピストン113、加圧ピストン14、入力ピストン115を移動自在に支持することで、前方圧力室R1、後方圧力室R2、反力室R3、循環圧力室R4、圧力吸収室R5を区画し、後方圧力室R2と循環圧力室R4を連通路112により連通し、アキュムレータ56からの油圧を調圧した制御圧を後方圧力室R2及びホイールシリンダ33RR,33RLに出力可能である圧力制御弁158を設けると共に、マスタシリンダ111の作動状態に応じて反力室R3に対する油圧の給排を制御する反力制御弁60を設けている。
従って、電源系統の正常時に、ECU81は、運転者が踏み込んだブレーキペダル26のペダル踏力Fpに応じた目標制御圧Pmtを設定し、この目標制御圧Pmtに基づいて圧力制御弁158を制御することで、アキュムレータ56から圧力制御弁158により後方圧力室R2に適正な油圧が供給され、加圧ピストン14をアシストすることとなり、各油圧配管36,39に適正な制御圧を供給することができ、この制御油圧をABS34を介して各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLに作用させ、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
一方、電源系統の失陥時には、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排が許可されるため、運転者がブレーキペダル26を踏み込むと、その操作力によりバックアップピストン113が前進し、加圧ピストン14を押圧して移動することから、この加圧ピストン14により前方圧力室R1が加圧されて油圧を出力し、この油圧を外部圧として圧力制御弁158を作動することができ、前述と同様に、制御油圧をABS34を介して各ホイールシリンダ33FR,33FL,33RR,33RLに作用させ、前輪FR,FL及び後輪RR,RLに対して運転者のブレーキペダル26の操作力に応じた適正な制動力を発生させることができる。
また、実施例1の車両用制動装置では、電源系統の正常運転時には、反力制御弁60により反力室R3に対する油圧の給排を停止し、第2圧力検出センサ85が検出した反力室R3の油圧の上昇に基づいてバックアップピストン113の固着(作動不良)を判定するようにしている。従って、電源系統の正常運転時におけるブレーキ操作時に、反力室R3の油圧に基づいてバックアップピストン113の作動不良を容易に判定することができる。
図4は、本発明の実施例3に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
実施例3の車両用制動装置において、図4に示すように、マスタシリンダ211は、シリンダ12にバックアップピストン13と加圧ピストン14が直列に配設され、それぞれ軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、バックアップピストン13に入力ピストン15が軸方向に沿って移動自在に支持されて構成されている。
本実施例にて、バックアップピストン13は、本体17に蓋部18が固定されて構成され、本体17の外周面がシリンダ12の第1内周面12aに嵌合すると共に、フランジ部13aの外周面が第2内周面12bに嵌合して移動自在に支持されている。加圧ピストン14は、シリンダ12にて、バックアップピストン13より先端部側に配置され、外周面がシリンダ12の第1内周面12aに嵌合すると共に、フランジ部14aの外周面が第3内周面12dに嵌合して移動自在に支持され、付勢スプリング21によりバックアップピストン13側に付勢支持されている。入力ピストン15は、先端部に押圧部材22が固定され、支持部材19の貫通孔19aを貫通して外周面がバックアップピストン13の内周面に嵌合して移動自在に支持され、付勢スプリング24によりバックアップピストン13から離間する方向に付勢支持されている。そして、ブレーキペダル26に連結された操作ロッド31が入力ピストン15に連結されている。
従って、運転者がブレーキペダル26を踏み込むと、その操作力が操作ロッド31を介して入力ピストン15に伝達され、この入力ピストン15が付勢スプリング24,32の付勢力に抗して前進することができる。この場合、バックアップピストン13がシリンダ12内で拘束状態にあるとき、バックアップピストン13に対して入力ピストン15が前進し、押圧部材22が付勢スプリング24の付勢力に抗して前進することで、操作力が吸収される。一方、バックアップピストン13がシリンダ12内で拘束状態にないとき、入力ピストン15がバックアップピストン13を押圧して前進し、更に、バックアップピストン13が加圧ピストン14を押圧して前進することができる。
なお、その他のマスタシリンダ211の構成、並びに、圧力制御弁158や反力制御弁60などを含むABS34の構成、ECU81による制御系統については、前述した実施例2と同様であるため、図4に符号を付して説明は省略する。
このように実施例3の車両用制動装置にあっては、バックアップピストン13の内側に入力ピストン15を移動自在に嵌合し、ブレーキペダル26の操作ロッド31をこの入力ピストン15に連結して構成している。従って、シリンダ12に対するバックアップピストン13及び入力ピストン15の組付を容易に行うことができると共に、操作ロッド31の長さを短縮して装置の小型化及び簡素化を可能とすることができる。
以上のように、本発明に係る車両用制動装置は、電源系統や油圧供給源などの失陥時であっても、適正な制動力を確保することで信頼性及び安全性の向上を図るものであり、いずれの種類の制動装置に用いても好適である。
本発明の実施例1に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
実施例1の車両用制動装置におけるバックアップピストンの固着判定制御を表すフローチャートである。
本発明の実施例2に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
本発明の実施例3に係る車両用制動装置を表す概略構成図である。
符号の説明
11,111 マスタシリンダ
12 シリンダ
13,113 バックアップピストン
14 加圧ピストン
15,115 入力ピストン
21 付勢スプリング
24 付勢スプリング(ストロークシュミレータ)
22 押圧部材(ストロークシュミレータ)
26 ブレーキペダル(操作部材)
31 操作ロッド
32 付勢スプリング
33FR,33FL,33RR,33RL ホイールシリンダ
34 ABS
36 第1油圧配管
39 第2油圧配管
43 第3油圧配管
47 リザーバタンク
48a,48b,49c,49d 増圧弁(圧力制御弁)
50a,50b,51c,51d 減圧弁(圧力制御弁)
52 油圧ポンプ(油圧供給源)
56 アキュムレータ(油圧供給源)
58,158 圧力制御弁
60 反力制御弁
62 第4油圧配管
68a,68b 給排ポート(操作力切換手段)
81 電子制御ユニット、ECU(制御圧設定手段)
82 ストロークセンサ
83 踏力センサ
84 第1圧力センサ
85 第2圧力センサ(反力室圧検出センサ)
86 第3圧力センサ
R1 前方圧力室
R2 後方圧力室
R3 反力室
R4 循環圧力室
R5 圧力吸収室(操作力吸収室)