JP5023441B2 - ダイカスト金型用鋼部材の熱処理方法 - Google Patents
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(1)焼き入れ温度から600℃付近までは、粒界炭化物の析出とパーライト変態とを回避するため、一定以上の冷却速度で急冷する。
(2)更に、ベーナイト変態を回避するため、250〜150℃まで急冷する。
例えば、焼き入れによる歪みや割れを防ぎ、ヒートクラックが生じにくい靭性の高い鋼製の金型を得るため、焼き入れ温度から650〜300℃の温度帯までは、トルースタイトまたは粒界炭化物が析出する冷却速度よりも速い速度で冷却し、その後ポリマー液中で冷却することで、ベーナイトの析出を抑制する金型の焼き入れ方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかも、上記(1)、(2)の双方の条件を満たす焼き入れは、金型の変形量(歪)が大きくなる傾向にあるため、その後で仕上げ加工による修正のための工数が増加する、という問題もあった。
焼き入れ工程の第1冷却ステップ:焼き入れ温度からパーライト変態およびフェライト変態の少なくとも一方が開始し得る温度までの高温度帯において、パーライト相およびフェライト相の析出が回避できる平均冷却速度で冷却する。
焼き入れ工程の第2冷却ステップ:ベーナイト変態開始温度からベーナイト変態終了温度およびマルテンサイト変態終了温度よりも低温度までの低温度帯において、1℃/分以上の平均冷却速度CTで冷却する。但し、平均冷却速度CTは、500℃からマルテンサイト変態開始温度Ms(あるいは、べーナイト変態開始温度Bs)までの平均冷却温度C2Uが5℃/分以上であり、且つこれからマルテンサイト変態終了温度Mf(あるいは、べーナイト変態終了温度Bf)までの平均冷却温度C2Lが1℃/分以上である。
焼き戻し工程:上記焼き入れ工程後に、該焼き入れを施された前記鋼部材を、50〜750℃に加熱および保持する。
更に、前記第2冷却ステップの低温度帯では、1℃/分以上の平均冷却速度で冷却するため、400℃〜マルテンサイト変態開始温度の間で、マルテンサイト変態またはベーナイト変態が開始され易くなる。また、130℃になるまで上記速度で冷却するため、残留オーステナイト相を低減できる。この結果、500℃〜400℃超の温度帯での変態を防止できる。即ち、粗大な結晶粒のマルテンサイト相またはベーナイト相が析出する事態を防止できるので、前記焼き戻し工程を施すことで、ダイカスト金型用鋼部材の強靱化を図ることができる。
しかも、前記焼き入れ工程の後で前記焼き戻し工程を施すので、前記熱処理工程の後でも残った残留オーステナイト相を分解し、且つ微細な炭化物を排出した安定した前記マルテンサイト相またはベーナイト相の組織になるため、当該鋼種本来の特性を発揮させることができる。
図1は、本発明と比較例とにおける焼き入れ工程の概略を示す温度−時間グラフ、図2は、本発明の焼き入れ工程および焼き戻し工程の温度履歴を示すグラフである。以下において、熱処理の対象としたダイカスト金型用鋼部材は、JIS:SKD61からなり、サイズが10.5×10.5×56mmの試験片である。
上記鋼部材を、例えば油中に挿入し、図1中のカーブした実線で示すように、1030℃(焼き入れ温度)からパーライト変態およびフェライト変態の少なくとも一方の変態終了温度(線)Pf,Ff(具体的には、600℃)までの高温度帯htにおいて、パーライト相およびフェライト相の析出が回避できる平均冷却速度C1で冷却(急冷)する第1冷却ステップを行う。係る平均冷却速度C1は、具体的には3℃/分超であり、例えば、放置冷却、衝風冷却、高温冷媒中での冷却などの方法が用いられる。
以上の結果から、平均冷却速度C1は、3℃/分超としたものである。尚、高温度帯htで最も重要なことは、フェライト相やパーライト相の析出を回避することであり、炭化物のある程度の析出は、許容し得ることが分かった。
また、衝撃値を高めるには、図4,図5のグラフに示すように、後述する焼き戻し工程後の硬度(HRC)を下げると共に、焼き入れ温度におけるオーステナイト相の平均結晶粒径dγを小さくすると良い、ことも確認された。
また、重量が50kg未満の比較的小型の鋼部材を対象とする比較例Bは、図1中の左側にカーブした二点鎖線で示すように、本発明例よりも、速い冷却速度で冷却しても、鋼部材全体がほぼ均一に冷却されるため、焼き割れや変形を生じにくい。また、係る比較例Bの小型の鋼部材は、高温度帯htにおける炭化物の析出も回避し易いので、強靱化は比較的容易である。これらのため、本発明は、重量が50kg以上の鋼部材を対象としたものである。
次に、ベーナイト変態開始温度Bsからベーナイト変態終了温度Bfおよびマルテンサイト変態終了温度Mfよりも低い制御冷却終了温度Tfまで、即ち、前記鋼部材では、500℃以下で且つ制御終了温度の130℃までの低温度帯ltにおいては、図2に示すように、1℃/分以上の平均冷却速度CTで冷却される。
以下では、マルテンサイト変態開始温度Msは、単にMsとし、ベーナイト変態開始温度Bsは、単にBsと記する。
上記平均冷却速度C2Uは、マルテンサイト変態およびベーナイト変態の少なくとも一方が、400℃〜Msの範囲で開始するような値、例えば2℃/分以上である。この結果、400℃超の温度帯で変態が開始された際に、析出する粗大な結晶粒のマルテンサイト相またはベーナイト相の混入を防止できる。
先ず、前記オーステナイト相の平均結晶粒径dγと平均冷却速度C1とを一定として、前記平均冷却速度C2Uと変態開始温度(MsあるいはBs)との関係を、図6のグラフで示す。これによれば、平均冷却速度C2Uが小さいほど、変態開始温度は高くなり、特に平均冷却速度C2Uが5℃/分未満になると、変態開始温度は著しく高くなることが判明した。従って、上記速度C2Uは、5℃/分以上が必須とされる。
また、前記平均結晶粒径dγ、平均冷却速度C1、平均冷却速度C2L、および、制御終了温度Tfを一定として、変態開始温度(MsまたはBs)と焼き戻し工程後の硬度(HRC)との関係を、図7のグラフで示す。これによれば、変態開始温度(MsまたはBs)が高く且つ上記硬度が高いほど、衝撃値は低くなるので、衝撃値を高めるには、変態開始温度(MsまたはBs)を400℃以下にし、且つ上記硬度を下げる必要があることが判明した。
以上の図6〜図8のグラフの結果から、変態開始温度(MsまたはBs)を、400℃〜Msの間にする必要があることが判明した。尚、変態開始温度(MsまたはBs)を、400℃〜Msの間で開始させる冷却方法には、比較的低温(20〜200℃)の冷媒中での冷却が有効である。係る冷媒には、水、油、水溶性焼き入れ剤などが含まれる。また、本発明の鋼部材は、その組成や冷却条件などにより、図1中のカーブした実線で示すように、低温度帯ltでは、マルテンサイト変態またはベーナイト変態の何れかを生じる。
ここで、上記変態開始後の平均冷却速度C2Lの影響を調べた。
先ず、前記平均結晶粒径dγ、平均冷却速度C1,C2U、および、制御終了温度Tfを一定として、上記変態開始後の平均冷却速度C2Lと、焼き戻し後の衝撃値および硬度(HRC)との関係を図9のグラフに示す。
また、前記平均冷却速度C1,C2U、制御終了温度Tf、および、焼き戻し後の硬度(HRC)を一定として、上記変態開始後の平均冷却速度C2Lと前記平均結晶粒径dγと衝撃値との関係を、図10のグラフに示す。これによれば、平均冷却速度C2Lが高くなり、且つ平均結晶粒径dγが小さくなるほど、衝撃値は高くなることが判明した。
以上の結果から、鋼部材の衝撃値を高めるには、前記平均結晶粒径dγを小さくし、且つ平均冷却速度C2Lを1℃/分以上とすると共に、焼き戻し後の硬度(HRC)を下げる必要があることが判明した。
尚、上記平均冷却速度C2Lを得る方法は、比較的低温の冷媒(水、油、水溶性焼き入れ剤)中での冷却が有効である。
更に、前記平均冷却速度C1,CT(C2U,C2L)と、焼き戻し後の硬度(HRC)とを一定として、鋼部材の衝撃値と制御冷却終了温度Tfと前記平均結晶粒径dγとの関係を、図12のグラフに示す。これにても、制御冷却終了温度Tfが低くなるほど、衝撃値は高くなり、特に130℃以下で著しかった。また、前記平均結晶粒径dγが小さいほど、衝撃値は高くなる傾向も示した。
以上の結果から、マルテンサイト変態(あるいは、ベーナイト変態)開始後では、平均冷却速度C2Lによる制御冷却を130℃以下の制御冷却終了温度Tfまで、維持する必要があることが判明した。
また、焼き入れ工程の直後に、鋼部材に残留するオーステナイト相は、その後の緩冷(130℃から室温までの間、あるいは焼き戻し工程後の冷却中)により、粗大なベーナイト相に分解するが、その量が40vol%未満であれば、衝撃値への悪影響は極く小さいことも判明した。係る結果から、焼き入れ時に存在したオーステナイト相の60vol%以上が、130℃以下の制御冷却終了温度Tfに至った時点でマルテンサイト相またはベーナイト相に相変態していることが望ましい。
以上のような焼き入れ工程および焼き戻し工程を経る本発明の熱処理方法によれば、例えば、ダイカスト金型などの大型の鋼部材であっても、確実に強靱化でき且つ変形や焼き割れを生じずに熱処理できるため、当該熱処理後の使用時において、ヒートクラックなどの予防も可能となる。
実機検証には、JIS:SKD61からなり、質量が750kgで、900×450×210mmのダイカスト用金型であって、中央部に窪みがあり、四隅に4本の脚を有する形態のものを複数個用意した。予め、係る金型の断面内に熱電対を12本挿入し、各種の焼き入れ工程における温度履歴をサンプリングした。
上記複数の金型を1030℃(焼き入れ温度)に30分間均熱し、表1に示す種々の冷却パターン(平均冷却速度C1,C2U,C2Lなど)による焼き入れ・焼き戻し工程をそれぞれに施した。尚、焼き入れと焼き戻しの均熱時間は、全て共通とし、焼き入れ工程では、500℃の炉中に各金型を挿入し、それらの断面内における最大温度差を小さくする方法を用いた。
また、焼き戻し工程後の硬度(HRC)は、焼き戻し条件を制御することで、全ての金型をHRC45になるように調整した。更に、各金型を、実際のダイカスト鋳造に同じ条件で適用し、それらの寿命を相対的な比によって表1に示した。
係る結果から、実施例1〜3,7〜9によれば、熱処理中における変形量が小さいため、矯正などの後工程や再作製が不要となり、衝撃値も比較的高いので、大きな金型であるにも拘わらず、長寿命で優れた耐久性を奏することが確認できた。
以上のような実施例1〜3,7〜9の結果により、本発明の効果が確認された。
例えば、本発明は、質量が50kg以上のダイカスト金型用鋼部材であれば、適用することが可能である。
また、冷却方法は、焼き入れ工程での前記平均冷却速度C1,CT,C2U,C2Lや、焼き戻しの冷却速度を遵守できるのであれば、水冷、油冷、衝風冷却、水溶性媒体中への浸漬など、各種の方法が適宜選択される。
尚、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々に改変することができる。
mt………………………………中間温度帯
lt………………………………低温度帯
Pf………………………………パーライト変態終了温度
Ff………………………………フェライト変態終了温度
Ms………………………………マルテンサイト変態開始温度
Bs………………………………ベーナイト変態開始温度
Mf………………………………マルテンサイト変態終了温度
Bf………………………………ベーナイト変態終了温度
C1,CT,C2U,C2L…平均冷却速度
Tf………………………………制御冷却終了温度
Tt………………………………焼き戻し温度
Claims (2)
- 質量が50kg以上であるダイカスト金型用鋼部材に対し、以下の冷却ステップを施す焼き入れ工程と、焼き戻し工程とを施す、ことを特徴とするダイカスト金型用鋼部材の熱処理方法。
焼き入れ工程の第1冷却ステップ:焼き入れ温度から600℃までの高温度帯において、パーライト相およびフェライト相の析出が回避できる3℃/分超の平均冷却速度で冷却する。
焼き入れ工程の第2冷却ステップ:500℃以下で且つ130℃までの低温度帯において、1℃/分以上の平均冷却速度CTで冷却する。但し、平均冷却速度CTは、500℃からマルテンサイト変態開始温度Ms(あるいは、べーナイト変態開始温度Bs)までの平均冷却温度C2Uが5℃/分以上であり、且つこれからマルテンサイト変態終了温度Mf(あるいは、べーナイト変態終了温度Bf)までの平均冷却温度C2Lが1℃/分以上である。
焼き戻し工程:上記焼き入れ工程後に、該焼き入れを施された前記鋼部材を、50〜750℃に加熱および保持する。 - 前記焼き入れ工程の第1冷却ステップの高温度帯と第2冷却ステップの低温度帯との間における中間温度帯では、焼き入れすべきダイカスト金型用鋼部材の断面における最高温度部位と最低温度部位との差が200℃以下となるように制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載のダイカスト金型用鋼部材の熱処理方法。
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