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JP5044869B2 - 熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents

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JP5044869B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、透明性を有するゴム含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物に関するものであり、さらに詳しくは、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れたゴム含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジエン系ゴムなどのゴム質重合体に、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物を共重合したグラフト共重合体を含有してなる透明ABS樹脂は、透明性、耐衝撃性、剛性などの機械的強度バランス、成形加工性およびコストパフォーマンスなどに優れることから、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用されている。
【0003】
しかし、このような透明ABS樹脂は、有機溶媒などの薬品類や洗剤などの溶剤に対する耐性が低いことに起因して、使用される用途が制限されているのが実情である。
【0004】
透明を有しない一般ABS樹脂の耐薬品性を改善するための手段としては、シアン化ビニル化合物の含有割合を高めることが一般に知られており、いわゆる高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物が種々提案されている。
【0005】
たとえば、耐薬品性の向上という点では、グラフト共重合体のグラフト率を規定した樹脂組成物(特開平4−258619号公報、特開平5−78428号公報)、およびマトリックス成分にメタクリル酸エステルを必須成分とした高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物(特開平4−126756号公報)などが知られている。
【0006】
しかしながら、上述した従来の高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物においては、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物との反応速度が異なるため、均一な組成のポリマーを得ることが困難であった。そのため、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物からなる共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物は、成形加工時に黄色に着色しやすく、変色により品質が低下してしまうという問題が生じていた。
【0007】
このように高ニトリル化による耐薬品性向上技術では高ニトリル化による変色、透明性低下という問題を生じ易いので、この高ニトリル化技術を透明ABSに応用すると透明樹脂製品にとって致命的な欠陥となると従来は考えられてきた。
【0008】
したがって、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡に優れた高ニトリル含有熱可塑性樹脂組成物は得られていなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れたゴム含有スチレン系熱可塑性樹脂組成物の提供を目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ビニル系単量体混合物を、特定の方法を用いて重合してなるビニル系共重合体に、ゴム含有グラフト重合体が分散した熱可塑性樹脂組成物を調製するに際し、特定の条件を満たす場合に、さらに特定の物性を満足させることにより、透明性、耐薬品性に優れ、かつ色調安定性に優れた熱可塑性樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明の透明性熱可塑性樹脂組成物は芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)を連続塊状重合または連続溶液重合してなるビニル系共重合体(A)に、ゴム質重合体(b)の存在下に1種以上のビニル系単量体(c)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)が分散してなる熱可塑性樹脂組成物であって、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが10.5〜12.5(cal/ml) 1/2 であり、この熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分中に存在するアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が、前記アセトン可溶分に対し10重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明の透明性熱可塑性樹脂組成物においては、ヘイズ値が30%以下であること、前記グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体成分と前記アセトン可溶分との屈折率の差が0.03以内であること、前記アセトン可溶分の酸価が0.01〜1mgKOH/gであること、ビニル系単量体混合物(a)及びビニル系単量体混合物(c)が、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)を実質的に含有しないこと、連続塊状重合または連続溶液重合によりビニル系共重合体(A)を製造し、続いて溶融状態のビニル系共重合体(A)に、グラフト共重合体(B)を添加し、溶融混合する方法で熱可塑性樹脂組成物を製造すること、ビニル系単量体混合物(a)の重合に続いて脱モノマーを行うことによりビニル系共重合体(A)を製造する工程における脱モノマー工程の途中もしくは脱モノマー工程の後、溶融状態のビニル系共重合体(A)に、グラフト共重合体(B)を添加すること、およびビニル系共重合体(A)に添加される時のグラフト共重合体(B)が半溶融もしくは溶融状態であることが、いずれも好ましい条件として挙げられ、これらの条件を満たす場合にはさらに優れた効果の取得を期待することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用する芳香族ビニル系単量体(a1)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、o−クロロスチレンおよびo,p−ジクロロスチレンなどが挙げられるが、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0014】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)においては、芳香族ビニル系単量体(a1)を5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%の範囲で使用する必要がある。上記の範囲未満ではIzod衝撃強度、剛性などの機械特性が著しく低下し、また上記の範囲を越えると透明性が著しく低下する傾向となる。
【0015】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用する不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸クロロメチルおよび(メタ)アクリル酸2−クロロエチルなどが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0016】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)においては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を30〜80重量%、好ましくは35〜75重量%の範囲で使用する必要がある。上記の範囲未満では透明性を得ることが困難となり、また上記の範囲を越えると耐薬品性が著しく低下する傾向となる。
【0017】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用するシアン化ビニル系単量体(a3)の具体例としては、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましい。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)においては、シアン化ビニル系単量体(a3)を10〜50重量%、好ましくは12〜40重量%の範囲で使用する必要がある。上記の範囲未満では耐薬品性が著しく低下し、また上記の範囲を越えると望ましい色調安定性が得られない傾向となる。
【0019】
本発明において、ビニル系共重合体(A)に使用する共重合可能な他の単量体(a4)には特に制限はないが、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミドなどのマレイミド化合物およびアクリルアミドなどの不飽和アミドなどが挙げられ、なかでもN−フェニルマレイミドが好ましく使用される。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0020】
ビニル系単量体混合物(a)は、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが、熱可塑性樹脂組成物におけるアセトン可溶分の酸価を調整するため、また、色調を向上させるために特に好ましい。ここでいう、「実質的に含有しない」とは、これら酸性単量体を意図的に単量体混合物として添加しないことであり、たとえば単量体混合物(a)に対し0.01%以上の添加は意図的な添加とみなすことができる。なお、単量体混合物(a)の各単量体中の不純物に由来する不飽和カルボン酸、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)中に不純物として含有される0.01%未満の不飽和カルボン酸は、意図的な添加したものではない。不飽和カルボン酸系単量体(a5)としては、アクリル酸、メタクリル酸等が例示される。
【0021】
ビニル系共重合体(A)を形成するビニル系単量体混合物(a)において、共重合可能な他の単量体(a4)は、0〜40重量%の範囲で使用でき、特に耐薬品性の点からは0〜30重量%の範囲で使用できる。
【0022】
本発明は熱可塑性樹脂組成物としてヘイズ値が好ましくは30%以下のもの、より好ましくは15%以下のものに適用した場合にその効果が顕著である。
【0023】
ビニル系単量体混合物(a)は、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが、10.5〜12.5(cal/ml)1/2となるように、各単量体の組成を選択する。ここでいう溶解度パラメーターの定義を下記の(式1)に示す。
【0024】
δ=(ΣΔEi・X/ΣΔVm・X)1/2 (式1)
δ:ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーター((cal/ml)1/2
X:ビニル系共重合体(A)を構成する共重合成分のモル分率(%)
ΔEi:ビニル系共重合体(A)を構成する共重合成分の蒸発エネルギー(cal/mol)
ΔVm:ビニル系共重合体(A)を構成する共重合成分の分子容量(ml/mol)
上記の(式1)およびΔEi、ΔVmの各数値は、H.Burrell,Offic.Dig.、A.J.Tortorello,M.A.Kinsella,J.Coat.Technol.から引用したものである。熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性および機械特性の点からは、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーター10.5〜12.5(cal/ml)1/2 であり、好ましくは、10.7〜12.3(cal/ml)1/2である。
【0025】
本発明においては、この熱可塑性樹脂組成物中に含まれるアセトン可溶分の酸価が0.01〜1mgKOH/gであることが透明性、耐衝撃性、剛性、色調安定性の点から好ましい。
【0026】
さらに、アセトン可溶分を構成する単量体組成における芳香族ビニル系単量体(a1)と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)との重量比(φST/φMMA)の組成分布において、その重量比(φST/φMMA)の平均値の0.75〜1.2倍の範囲内に、アセトン可溶分の80重量%以上の部分が含まれることが、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の加水分解等による酸成分を含有した際の熱可塑性樹脂組成物の透明性低下を抑制するために好ましい。また、平均値の0.75〜1.2倍の範囲内に90重量%以上が含まれることがより好ましく、95重量%以上であることが最も好ましい。
【0027】
アセトン可溶分の単量体組成が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%及びこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%であると、樹脂組成物の透明性、色調、耐衝撃性などをよりバランス良く優れたものとすることができるため好ましい。
【0028】
上記アセトン可溶分の組成は、FT−IRチャートに現れる下記ピークにより定量して求めればよい。
・芳香族ビニル系単量体(a1): ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク、
・不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2): エステルのカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1730cm−1のピーク、
・シアン化ビニル系単量体(a3): −C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク、
アセトン可溶分は、主として、ビニル系共重合体(A)に由来する樹脂成分からなるが、グラフト共重合体(B)中においてビニル系単量体混合物(c)から重合された共重合体部分に由来する樹脂成分も一部含まれる。従って、アセトン可溶分の組成を上記した所定範囲内に制御するためには、その主成分をなすビニル系共重合体(A)の組成を上記した所定範囲内に制御することが有効であり、さらに、ビニル系単量体混合物(c)から重合された共重合体部分の組成も上記した所定範囲内に制御することが好ましい。
【0029】
また、アセトン可溶分中における(φST/φMMA)の組成分布条件、即ち、アセトン可溶分を構成する芳香族ビニル系単量体(a1)と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)との重量比、その重量比(φST/φMMA)の平均値の0.75〜1.2倍の範囲内に、アセトン可溶分の80重量%以上の部分が含まれることは、アセトン可溶分の組成分布が狭いことを意味するものであり、この組成分布条件は、得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性を一層高めるために好ましい。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、そのマトリックス樹脂中に共重合された微量の酸成分が存在するとより良好な物性を与えことから好ましい。即ち、樹脂組成部中におけるアセトン可溶分の酸価が0.01〜1mgKOH/gであることが耐衝撃性、剛性、色調の点から好ましい。色調、物性バランスの点からより好ましくは0.012〜0.5mgKOH/g、特に好ましくは0.015〜0.1mgKOH/gである。
【0031】
本発明においての酸価を上記範囲内に制御する方法は特に制限はないが、得られる熱可塑性樹脂組成物の色調の悪化を最小限に抑えるという点から、ビニル系共重合体(A)の原料であるビニル系単量体混合物(a)および/またはゴム質含有グラフト共重合体(b)の原料であるビニル系単量体混合物(c)が、不飽和カルボン酸系単量体(不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有せず、また、工程中において不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を加水分解させることにより、酸価を所定範囲内に制御することが特に好ましい。なかでも、ビニル系単量体混合物(a)およびビニル系単量体混合物(c)がどちらも不飽和カルボン酸系単量体(不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0032】
本発明における熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の屈折率については特に制限は無いが、熱可塑性樹脂組成物の透明性の点から、屈折率が実質的にゴム質重合体(b)と同じ又は僅差であることが好ましい。具体的な範囲としては、ビニル系共重合体(A)とゴム質重合体(b)の屈折率の差を0.03以下、さらには0.01以下に抑えることが好ましい。
【0033】
本発明におけるビニル系共重合体(A)の還元粘度(ηsp/ c)には特に制限はないが、0.1〜1.0dl/g、特に0.2〜0.7dl/gの範囲にあることが、耐衝撃性および成形性のバランスの点から好ましい。
【0034】
また、ビニル系共重合体(A)中における芳香族ビニル系単量体(a1)と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)との重量比(φST/φMMA)の組成分布において、その重量比(φST/φMMA)の平均値の0.75〜1.2倍の範囲内に、ビニル系共重合体(A)の80重量%以上の部分が含まれることが好ましい。
【0035】
得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性、色調安定性の点から、また、熱可塑性樹脂組成物の特性を所定値に制御するために、本発明におけるビニル系共重合体(A)の重合方法には連続塊状重合または連続溶液重合が用いられる。
【0036】
本発明においてビニル系単量体混合物(a)を共重合させてビニル系共重合体(A)を製造する工程において連続塊状重合または連続溶液重合を行う方法は特に制限はなく、任意の方法が採用可能であり、例えば、重合槽で重合した後、脱モノマー(脱溶媒・脱揮)する方法をとることができる。
【0037】
重合槽としては、各種の撹拌翼、たとえばパドル翼、タービン翼、プロペラ翼、ブルマージン翼、多段翼、アンカー翼、マックスブレンド翼、ダブルヘリカル翼、などを有する混合タイプの重合槽、または各種の塔式の反応器などが使用できる。また、多管反応器、ニーダー式反応器、二軸押出機などを重合反応器として使用することもできる(例えば、高分子製造プロセスのアセスメント10「耐衝撃性ポリスチレンのアセスメント」高分子学会、1989年1月26日発行などを参照)。これら重合槽類(反応器)は、1基(槽)または、2基(槽)以上で使用され、また必要に応じて2種類以上の反応器を組み合わせても使用される。なかでも、得られる熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の組成分布を狭くするという点、またアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンス割合を低く抑えるという点から、2基(槽)以下が好ましく、特に1槽式の完全混合型重合槽が好ましく選択される。
【0038】
これらの重合槽または反応器で重合して得られた反応混合物は、通常、次に脱モノマー工程に供され、モノマ、溶媒その他の揮発成分が除去される。脱モノマーの方法としては、ベントを有する一軸または二軸の押出機で加熱下、常圧または減圧下でベント穴より揮発成分を除去する方法、遠心型などのプレートフィン型加熱器をドラムに内臓する蒸発器で揮発成分を除去する方法、遠心型などの薄膜蒸発器で揮発成分を除去する方法、多管式熱交換器を用いて余熱、発泡して真空槽へフラッシュして揮発成分を除去する方法などがあり、いずれの方法も使用できるが、特にベントを有する一軸または二軸の押出機が好ましく用いられる。
【0039】
図1は、連続塊状重合し樹脂混合する方法により本発明法を実施するための装置の一実施態様を示す装置縦断面概略図であり、順に、ビニル系単量体(a)を連続塊状重合してビニル系共重合体(A)を製造するための反応槽(1)、重合して得られたビニル系共重合体(A)を所定温度に昇温させるための予熱機(2)、及び、脱モノマーのためのベント口(31)を有する二軸押出機型脱モノマー機(3)が連結されており、さらに、脱モノマー機に対してタンデムに、グラフト共重合体(B)添加用の二軸押出機型フィーダー(5)が接続されている。
【0040】
図1においては、反応槽(1)から連続的に供給される反応生成物は、予熱機(2)で昇温され、次いで、二軸押出機型脱モノマー機(3)に供給され、150〜280℃程度、常圧または減圧下で、ベント口(31)から単量体などの揮発成分が系外に除去される。この揮発成分の除去は、未反応単量体量が所定量、例えば10重量%以下、より好ましくは5重量%以下になるまで行なわれる。
【0041】
図1においては、脱モノマー機(3)の途中の下流側に近い位置に、フィーダー(5)からの添加口が開口していて、所定温度(例えば100〜220℃程度)のグラフト共重合体(B)が系内に添加される。このフィーダー(5)には加熱装置が配設されていて、添加されるグラフト共重合体(B)を半溶融もしくは溶融状態の所定温度に加熱しておくことが、混合状態を良くするために好ましい。例えば、スクリュー、シリンダー、スクリュー駆動部からなり、シリンダーは加熱・冷却機能を有する装置構造をとることが好ましい。また、このフィーダーとして、加熱装置を有する一軸又は二軸の押出機型のフィーダーを使用することができる。
【0042】
このグラフト共重合体(B)の供給口が接続された位置においては、未反応単量体の含有量が10重量%以下、より好ましくは5重量%以下まで低減していることが、その後の未反応単量体を除去する操作中におけるゴム成分の熱劣化を防止するために好ましい。
【0043】
二軸押出機型脱モノマー機(3)の溶融混練域(4)内でビニル系共重合体(A)とグラフト共重合体(B)とが溶融混合された後に、吐出口(6)から樹脂組成物が系外に吐出される。
【0044】
さらに上記溶融混練域(4)に水注入口(41)を設け、所定量の水を添加することが好ましく、注入された水および残存モノマーはさらに下流に設けられたベント口(42)から脱揮される。
【0045】
ビニル系共重合体(A)の連続塊状重合または溶液重合では、開始剤を使用せずに熱重合することも、開始剤を用いて開始剤重合することも、さらに熱重合と開始剤重合を併用することも可能である。開始剤としては、過酸化物またはアゾ系化合物などが用いられる。
【0046】
過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカルボネート、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオクテート、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートなどが挙げられる。なかでもクメンハイドロパーオキサイドおよび1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3、3、5−トリメチルシクロヘキサンが特に好ましく用いられる。アゾ系化合物の具体例として、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4ジメチルバレロニトリル)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、1,1′−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2′−アゾビスイソブチレート、1−t−ブチルアゾ−1−シアノシクロヘキサン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノブタン、2−t−ブチルアゾ−2−シアノ−4−メトキシ−4−メチルペンタンなどが挙げられる。これらの開始剤を使用する場合、1種または2種以上併用で使用される。なかでも1,1′−アゾビスシクロヘキサン−1−カーボニトリルが特に好ましく用いられる。
【0047】
ビニル系共重合体(A)の重合度調節を目的として、メルカプタン、テルペンなどの連鎖移動剤を使用することも可能であり、その具体例として、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、テルピノレンなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤を使用する場合、1種または2種以上併用で使用される。なかでも特にn−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタンが好ましく用いられる。
【0048】
ビニル系共重合体(A)を連続溶液重合法により製造する場合には、溶媒の量に特に限定はないが、生産性の点から、好ましくは重合溶液に対して30重量%以下、より好ましくは20重量%以下の溶媒量が使用される。用いる溶媒としては特に制限はないが、重合安定性の点からエチルベンゼンまたはメチルエチルケトンが好ましく、エチルベンゼンが特に好ましい。
【0049】
本発明におけるグラフト共重合体(B)に用いられるゴム質重合体(b)には特に制限はないが、具体例としては、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、ポリイソプレン、ポリ(ブタジエン−アクリル酸ブチル)、ポリ(ブタジエン−メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸ブチル−メタクリル酸メチル)、ポリ(ブタジエン−アクリル酸エチル)、エチレン−プロピレンラバー、エチレン−プロピレン−ジエンラバー、ポリ(エチレン−イソプレン)、およびポリ(エチレン−アクリル酸メチル)などが挙げられる。これらのゴム質重合体(b)は、1種または2種以上の混合物で使用される。なかでも、ポリブタジエン、ポリ(ブタジエン−スチレン)、ポリ(ブタジエン−アクリロニトリル)、およびエチレン−プロピレンラバーの使用が、耐衝撃性の点で好ましい。
【0050】
また、グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体(b)の含有量には特に制限はないが、20〜80重量部、特に35重量部〜60重量部の範囲が好ましく、20重量部未満では得られる熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度が低下し、80重量部を越えると溶融粘度が上昇して成形性が悪くなるため好ましくない。
【0051】
上記ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径は、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形加工性、流動性および外観の点から、0.1〜1.5μm、好ましくは0.15〜1.2μmの範囲である。
【0052】
グラフト共重合体(B)のグラフト成分(d)の重合原料となるビニル系単量体混合物(c)の組成は特に制限は無いが、得られる熱可塑性樹脂組成物の色調および耐衝撃性と剛性との物性バランスの点から、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%を含有してなることが好ましい。このビニル系単量体混合物(c)を構成する単量体組成は、ビニル系共重合体(A)を構成するビニル系単量体混合物(a)と同一であっても異なっていてもよい。
【0053】
また、このビニル系単量体混合物(c)にも、スチレン系共重合体の重合原料のビニル系単量体混合物(a)の場合と同様、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)等の酸性単量体を実質的に含有しないことが、熱可塑性樹脂組成物におけるアセトン可溶分の酸価を所望水準とするため、また、色調を向上させるために特に好ましい。ここでいう、「実質的に含有しない」とは、スチレン系共重合体の重合原料のビニル系単量体混合物(a)の場合と同様である。
【0054】
得られる熱可塑性樹脂組成物の透明性の点から、グラフト共重合体(B)のグラフト成分(d)の屈折率がゴム質重合体(b)の屈折率と実質的に同じ又は僅差となるようにビニル系単量体混合物(c)の組成を調整することが好ましい。具体的な範囲としては、グラフト成分(d)とゴム質重合体(b)の屈折率の差を0.03以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.01以下である。
【0055】
グラフト共重合体(B)は1種または2種以上を用いることができるが、2種以上のブレンド物を用いる場合は、各成分に含有されるゴム質重合体(b)およびグラフト成分(d)の屈折率が実質的に合致するように調製されることが得られる熱可塑性樹脂の透明性の点から好ましい。
【0056】
本発明におけるグラフト共重合体(B)を構成するグラフト成分の還元粘度(ηsp/ c)は特に制限はないが、0.05〜1.2dl/g、特に0.1〜0.7dl/gの範囲にあることが、耐衝撃性および成形性のバランスの点から好ましい。
【0057】
グラフト共重合体(B)のグラフト率には制限はないが、耐衝撃性の点からは5〜150重量%、好ましくは10〜100重量%のものが使用される。
【0058】
グラフト共重合体(B)製造時のグラフト重合の方法としては制限ないが、公知の乳化重合法、懸濁重合法、連続塊状重合法、連続溶液重合法等の任意の方法により製造でき、好ましくは乳化重合法または塊状重合法で製造される。なかでも、過度の熱履歴によるゴム成分の劣化および着色を抑制するため、また、ビニル系共重合体(A)との溶融混練工程における不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)の加水分解を制御するために、グラフト共重合体(B)中の乳化剤含有量、水分量を調整しやすいという点から、乳化重合法で製造されることが最も好ましい。
【0059】
通常の乳化重合はゴム状重合体ラテックスの存在化に単量体混合物を乳化グラフト重合する。この乳化グラフト重合に用いられる乳化剤に特に制限はなく、各種の界面活性剤が使用できるが、カルボン酸塩型、硫酸エステル塩型、スルホン酸塩型などのアニオン系界面活性剤が特に好ましく使用される。
【0060】
このような乳化剤の具体例としては、カプリル酸塩、カプリン酸塩、ラウリン酸塩、ミスチリン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、リノール酸塩、リノレン酸塩、ロジン酸塩、ベヘン酸塩、ヒマシ油硫酸エステル塩、ラウリルアルコール硫酸エステル塩、その他高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルジフェニールエーテルジスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンラウリル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩などが挙げられる。ここでいう塩とはアルカリ金属塩、アンモニウム塩などであり、アルカリ金属塩の具体例としてはカリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩、などが挙げられる。なかでも加水分解の制御のためには、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、のカリウム塩、ナトリウム塩が好ましく用いられる。これらの乳化剤は、1種または2種以上を併用して使用される。
【0061】
また、これら乳化グラフト重合で使用可能な開始剤および連鎖移動剤としては、前記ビニル系共重合体(A)の製造であげた開始剤および連鎖移動剤が挙げられ、開始剤はレドックス系でも使用される。
【0062】
乳化グラフト重合で製造されたグラフト共重合体(B)は、次に凝固剤を添加してラテックス分を凝固させた後、グラフト共重合体(B)を回収する。凝固剤としては酸または水溶性塩が用いられ、その具体例として、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化バリウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムナトリウムなどが挙げられる。これらの凝固剤は1種または2種以上の混合物で使用される。ラテックス分を凝固させて得られたグラフト共重合体(B)スラリーは、そのままもしくは脱水・洗浄工程を経てスラリーや含水ケークの形状で用いることも可能であるが、脱水・洗浄・再脱水・乾燥工程を経てパウダー形状とし、このパウダー形状で溶融状態にあるビニル系共重合体(A)に添加することが工程における取り扱い性の点から好ましい。
【0063】
ビニル系共重合体(A)に添加する際に、グラフト共重合体(B)側の材料に含まれる乳化剤の量は、工程中における不飽和カルボン酸エステル系単量体(a2)の加水分解反応を制御し、得られる熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の酸価を本発明の所定範囲内とするために、0.1〜5重量%が好ましく、特に0.15〜2重量%が好ましい。従来は、乳化剤をポリマーの加水分解抑制のために使用できるとの知見は得られていなかったので、通常は乳化剤はできるだけ樹脂製品から除外すべきと考えられていた。しかし、本発明においては、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の酸価を所定範囲内に制御するための有効な手段として、乳化剤を上記範囲内で積極的に含有させることが有効である。
【0064】
グラフト共重合体(B)中の乳化剤含有率を所定範囲内に調整する方法には特に制限はないが、例えば凝固後のスラリー状のグラフト共重合体(B)の脱水・洗浄の回数、洗浄水の温度・水量を制御することで目的の乳化剤含有量に調整することが可能である。また、その他例えばグラフト共重合体(B)に別途乳化剤を添加して調整することも可能である。
【0065】
ビニル系共重合体(A)に添加する際のグラフト共重合体(B)中に含有される水分の量(水分率)は、工程中における不飽和カルボン酸エステル系単量体(a2)の加水分解反応を制御し、得られる熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分の酸価を本発明の所定範囲内とするために、0.1〜5重量%が好ましく、特に0.15〜2重量%が好ましい。
【0066】
グラフト共重合体(B)中の水分率を所定範囲内に調整する方法に特に制限はないが、例えばグラフト共重合体(B)の脱水時間や乾燥温度・風量等を制御することで所望の水分率値に調整することが可能である。また、その他例えばグラフト共重合体(B)に水を別途加えて水分率を調整することも可能である。
【0067】
また、グラフト共重合体(B)は塊状重合法で製造することも可能である。塊状重合法で製造する場合は、脱モノマー機から出た溶融状態にあるグラフト共重合体(B)を直接ビニル系共重合体(A)に添加することも可能であるし、また、予め単離したグラフト共重合体(B)をビニル系共重合体(A)に添加することも可能であるが、通常熱劣化防止および工程の連続化の点から脱モノマー機から出た溶融状態にあるグラフト共重合体(B)を直接添加することがより好ましい。
【0068】
ビニル系共重合体(A)とグラフト共重合体(B)の混合方法は特に制限はないが、色調、耐衝撃性等の点から、連続塊状重合プロセス途中又は連続溶液重合プロセス途中の溶融状態にあるビニル系共重合体(A)に、グラフト共重合体(B)を添加した後、溶融混合する方法が好ましく選択される。またその際、溶融状態にあるビニル系共重合体(A)10〜95重量部にグラフト共重合体(B)90〜5重量部を添加することが好ましく、より好ましくはビニル系共重合体(A)30〜95重量部にグラフト共重合体(B)70〜5重量部を添加した後に溶融混合する。このグラフト共重合体(B)の添加は連続的に行うことが好ましい。この際のグラフト共重合体(B)の添加は、ビニル系共重合体(A)の連続塊状重合プロセスの脱モノマー工程の途中もしくは脱モノマー工程の後で、残存モノマー量が10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下になった時点で行うことが、その後の脱モノマー操作中におけるゴム成分の熱履歴による劣化を抑制し、色調や耐衝撃性などをさらに良好とするために特に好ましい。
【0069】
また、ビニル系共重合体(A)とグラフト共重合体(B)を混合した以降の溶融混練する工程中に、水を、熱可塑性樹脂組成物に対して0.1〜5重量%の量、添加することが、工程中における不飽和カルボン酸エステル系単量体(a2)の加水分解反応をさらに容易に制御するために特に好ましい。
【0070】
ビニル系共重合体(A)にグラフト共重合体(B)を添加した後の混合は、溶融混合することが耐衝撃性などの物性を十分に発現させるためにも好ましい。この溶融混合は添加混合時に行ってもあるいは混合物単離後、例えば溶融成形時に行ってもよい。
【0071】
グラフト共重合体(B)の添加方法には特に制限はなく、任意の方法で添加することが可能である。通常、各種のフィーダー類、例えばベルト式フィーダー、スクリュー式フィーダー、単軸押出機、二軸押出機などを用い連続的に添加されるが、ビニル系共重合体(A)の脱モノマー押出機の部分に、その吐出端が接続された単軸押出機および二軸押出機が特に好ましく用いられる。これら連続添加装置には樹脂定量供給構造を有することが好ましい。また、連続添加装置は加熱装置を有していてグラフト共重合体(B)を半溶融もしくは溶融状態で添加することが、混合状態の向上のために好ましい。この目的には加熱装置を有している押出機などを使用することができる。
【0072】
本発明における熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分中に存在するアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合は、アセトン可溶分に対し10重量%以下である。アクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスとは、下記の(式2)に表される、アセトン可溶分中に含有される共重合体中のセグメントであり、かかるセグメントを有する共重合体が高温にさらされる状態では、下記の(式3)に示す分子内環化反応が進むため、着色の原因となる。
【化1】
Figure 0005044869
【0073】
アクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が、上記アセトン可溶分に対し10重量%を越えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の溶融時の色調安定性が悪くなる。上記3連シーケンスの割合は、色調安定性の点から、好ましくは8重量%未満、さらに好ましくは5重量%以下である。このようなアセトン可溶分中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が10重量%以下に制御された熱可塑性樹脂組成物は、例えば上記のようにアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合を10重量%以下に制御したビニル系共重合体(A)を用いることにより達成される。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、各種エラストマー類を加えて成形用樹脂としての性能を改良することができる。また、必要に応じてヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系などの酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系などの熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系、ヒンダードアミン系などの光安定剤などの各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類などの滑剤、フタル酸エステル類、リン酸エステル類などの可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化ポリカーボネートオリゴマーなどの含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモンなどの難燃剤・難燃助剤、帯電防止剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料などを添加することもできる。さらに、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、金属繊維などの補強剤や充填剤を添加することもできる。
【0075】
これら添加物の添加方法については特に制限はなく、グラフト共重合体(B)とともに連続的に添加することも可能であり、またビニル系共重合体(A)とグラフト共重合体(B)との混合ペレットを作成した後に後工程として添加する等の種々の方法を用いることができる。
【0076】
かくしてなる本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れ、かつ耐衝撃性、剛性などの機械的強度バランス、成形加工性およびコストパフォーマンスなどにも優れることから、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用することができる。
【0077】
【実施例】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例および比較例を挙げるが、これら実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、ここで特に断りのない限り「%」は重量%、「部」は重量部を示す。熱可塑性樹脂組成物の樹脂特性の分析方法を下記する。
(1)ゴム質重合体の重量平均ゴム粒子径
「Rubber Age Vol.88 p.484-490 (1960), by E.Schmidt, P.H.Biddison」記載のアルギン酸ナトリウム法、即ち、アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合とアルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率より累積重量分率50%の粒子径を求める方法、による。
(2)グラフト共重合体(B)のグラフト率
80℃で4時間真空乾燥を行ったグラフト共重合体(B)の所定量(m;約1g)にアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過し、この不溶分を80℃で4時間真空乾燥し、重量(n)を測定した。グラフト率は下記式より算出した。ここでLはグラフト共重合体のゴム含有量である。
グラフト率(%)={[(n)−(m)×L]/[(m)×L]}×100
【0078】
(3)グラフト共重合体(B)の乳化剤含有量
80℃で4時間真空乾燥を行ったグラフト共重合体(B)を約20g精秤し、10倍量の10%硫酸を加え、500mlビーカー中で30分間煮沸した。これを100メッシュの金網で濾別し、残留固形分をとり、200mlのイオン交換水中で1分間の洗浄、濾別を2回繰り返した。さらにこの固形分を2つに分けて丸底フラスコに入れ、それぞれ100mlのメタノールを加え、70℃に設定した湯浴中3時間還流を行った。さらにこの溶液および固形分を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離し、上澄み液を濾過して得られた濾液を蒸発乾固し、さらに80℃で4時間真空乾燥して固形分を得た。この固形分をグラフト共重合体(B)に含有されていた乳化剤として精秤し、乳化剤含有量を算出した。
(4)グラフト共重合体(B)の水分率
測定サンプルを精秤し、カールフィッシャー水分計を用いて測定した。
(5)ビニル系共重合体(A)の還元粘度ηsp/c
測定サンプルをメチルエチルケトンに溶解し、0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃で還元粘度ηsp/cを測定した。
(6)グラフト成分(d)の還元粘度ηsp/c
80℃で4時間真空乾燥を行ったグラフト共重合体(B)の1gにアセトン200mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過する。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物を80℃で4時間真空乾燥したものを、上記(5)と同様の方法で、0.4g/100mlメチルエチルケトン溶液として、ウベローデ粘度計を用い、30℃で還元粘度ηsp/cを測定した。
【0079】
(7)アセトン可溶分の単量体組成
樹脂組成物のサンプル1gにアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過する。濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物を80℃で4時間真空乾燥したもの(アセトン可溶分)を用いて220℃に設定した加熱プレスで作成した厚み30±5μmのフィルムを作成した。このフィルムを試料としてFT−IRで分析して得られたチャートに現れた各ピークの面積から単量体組成を求めた。各単量体とピークとの対応関係は次の通りである。
メタクリル酸メチル単量体単位: エステルのカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1730cm−1のピークの倍音ピークである3460cm−1のピーク、
メタクリル酸単量体単位: カルボン酸のカルボニル基のC=O伸縮振動に帰属される1690cm−1のピーク、
スチレン単量体単位: ベンゼン核の振動に帰属される1605cm−1のピーク、
アクリロニトリル単量体単位: −C≡N伸縮に帰属される2240cm−1のピーク、
(8)アセトン可溶分のφST/φMMA分布
上記(7)と同様にして得たアセトン可溶分のサンプル2gに、80mlのメチルエチルケトンを加え、室温で24時間静置して溶解し、そこへシクロヘキサンを少量ずつ添加し、順次、沈殿したビニル系共重合体の重量を測定し、その沈殿物を試料として、上記(7)と同様の操作でFT−IRにより単量体組成を求めた。そして、サンプルとして用いたアセトン可溶分に対する沈殿物の累積重量分率と、芳香族ビニル系単量体(a1)含有量と不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)含有量との重量比(φST/φMMA)をプロットし、アセトン可溶分全体の平均値の0.75〜1.2倍の範囲に含まれるアセトン可溶分の割合(重量%)を求めた。
【0080】
(9)アセトン可溶分の酸価
樹脂組成物のサンプル10gにアセトン100mlを加え、70℃の湯浴中で3時間還流し、この溶液を8800r.p.m.(10000G)で40分間遠心分離した後、不溶分を濾過する。この濾液を室温で2Lのメタノール中に撹拌しながら静かに注いで再沈し、上澄み液を捨てて沈殿物を得た。これをさらに200mlアセトンに溶解し、2Lメタノールでもう一度再沈し、得られた沈殿物を80℃で4時間真空乾燥し、固形分(アセトン可溶分)を得た。この操作を数サンプル行って得たアセトン可溶分の約10gを精秤して100mlの共栓付き三角フラスコにとり、これにアセトン40mlを加えて2時間撹拌し、均一に溶解させた。この溶液にフェノールフタレイン溶液を3滴加え、1/10NのKOHで中和滴定をおこなった。この滴定量を用いて、下記式に従って酸価を算出した。また、測定試料と同様に2時間撹拌したアセトンについても中和滴定を行い、これをブランクとして滴定量を補正した。
【数1】
Figure 0005044869
但し、式中の値は以下の通り。
X:滴定量(ml)、X0:ブランク滴定量(ml)、W:サンプル量(g)
【0081】
(8)アセトン可溶分中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンス割合
上記(7)と同じ操作により得たアセトン可溶分を試料として、13C−NMRに現れるアクリロニトリル単量体単位のα−炭素のシグナルシフトが隣接モノマー種の違いで若干異なることを利用し、3連シーケンスの割合をそのシグナル積分値から定量し、全単量体単位中、3連シーケンス中央のアクリロニトリル単量体単位の重量分率として表示した。測定条件は以下の通りである。
【0082】
装置 :JEOL JNM−GSX400型
観測周波数 :100.5MHz
溶媒 :DMSO−d6
濃度 :445mg/2.5mL
化学シフト基準:Me4 Si
温度 :110℃
観測幅 :20000Hz
データ点 :32K
flip angle :90°(21μs)
pulsedelaytime:5.0s
積算回数 :7400または8400
デカップリング:gated decoupling(without NOE)
アクリロニトリルシーケンスの帰属(A:アクリロニトリル、S:スチレン)
:−A−A−A− 118.6〜119.2ppm
−A−A−S− 119.3〜120.2ppm
−S−A−S− 120.2〜121.3ppm
【0083】
(9)ビニル系共重合体(A)中のアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンス割合
上記アセトン可溶分の代わりにビニル系共重合体(A)を試料として用いる以外は、上記(8)と同じ操作により求めた。
(10)ビニル系共重合体(A)、グラフト成分(d)又はアセトン可溶分の屈折率
測定サンプルに1−ブロモナフタレンを少量滴下し、アッベ屈折計を用いて以下の条件で屈折率を測定した。
光源: ナトリウムランプD線、 測定温度: 20℃
なお、グラフト成分(d)のサンプルとしては上記(6)と同様にして得た析出物の真空乾燥物を用いた。
また、アセトン可溶分の測定サンプルとしては、上記(7)と同様にして得たアセトン可溶分を用いた。
【0084】
(11)ゴム質重合体(b)の屈折率
文献から、以下の値を用いた。共重合ゴムに関しては、FT−IR、粘弾性測定等による同定を行い、各共重合成分から下記の式により共重合ゴムの屈折率(nD)を求めることができる。
ポリブタジエンの屈折率:1.516
nD=1.516・MB+1.594・MS+1.516・MA
但し、式中の値は以下の通り。
nD:共重合ゴムの屈折率、MB:ブタジエン含量(wt%)、MS:スチレン含量(wt%)、MA:アクリロニトリル含量(wt%)
【0085】
(12)樹脂組成物の色調(YI値)
JIS K7103に準拠して測定した。
(13)樹脂組成物の透明性(全光線透過率、ヘイズ値)
80℃熱風乾燥機中で3時間乾燥した樹脂組成物のペレットを、シリンダー温度250℃に設定した東芝(株)製IS50A成形機内に充填し、即時に成形した角板成形品(厚さ3mm)のヘイズ値[%]を東洋精機(株)製直読ヘイズメーターを使用して測定した。
(14)樹脂組成物のアイゾット衝撃強度
ASTM D256(23℃,Vノッチ付き)により測定した。
(15)樹脂組成物の引張強度
ASTM 638に準拠して測定した。
【0086】
(16)耐薬品性
プレス成形した試験片(127×12. 7×1.5mm)12を、図2に示すように、1/4楕円治具11に沿わして固定した後、薬剤(エタノール、イソプロパノール、又は、液体洗剤“トップ”)を成形品表面全体に塗布し、紙ワイパー((株)クレシア製“キムワイプ”)をその上から敷き、さらに薬剤を十分紙ワイパーにしみこませる。薬剤の蒸発を抑えるためにビニール袋に1/4楕円治具11とともに成形品をいれて密閉する。そのまま23℃環境下で24時間放置後、クレ−ズおよびクラックの発生有無を確認し、クラック発生点の長軸方向長(Xmm)を測定し、下記の(式4)により臨界歪み(ε%)を算出し、その値が0.5%未満のものを×、0.5%〜1.0%のものを△、1.0%〜2.0%のものを○、2.0%を超えるものを◎と評価した。
【数2】
Figure 0005044869
但し、式4および図2における符号は次のとおりである。
ε:臨界歪み(%)
a:治具の長軸 (mm) [127mm]
b:治具の短軸 (mm) [38mm]
t:試験片の厚み(mm) [1.5mm]
X:クラック発生点の長軸方向長(mm)
【0087】
(参考例)グラフト共重合体
B−1: ポリブタジエンラテックス(ゴム粒子径0.3μm、ゲル含率85%)50部(固形分換算)、純水180部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄0.01部およびリン酸ナトリウム0.1部を反応容器に仕込み、窒素置換後65℃に温調し、撹拌下、スチレン11.5部、アクリロニトリル4.0部、メタクリル酸メチル34.5部およびn−ドデシルメルカプタン0.3部の混合物を4時間かけて連続滴下した。同時に並行してクメンハイドロパーオキサイド0.25部、乳化剤であるオレイン酸ナトリウム2.5部および純水25部の混合物を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後さらに1時間保持して重合を終了させた。
【0088】
重合を終了して得られたラテックス状生成物を、硫酸1.0部を加えた95℃の水2000部中に、撹拌しながら注いで凝固させ、次いで水酸化ナトリウム0.8部で中和して凝固スラリーを得た。これを遠心分離した後、40℃の水2000部中で5分間洗浄し遠心分離し、60℃の熱風乾燥機中で12時間乾燥して、パウダー状のグラフト共重合体を調製した。得られたグラフト共重合体(B−1)のグラフト特性、グラフト成分の屈折率、乳化剤含有量及び水分率は表1に示すとおりであった。
【0089】
B−2: 表1に示す組成のビニル系単量体混合物およびポリブタジエンラテックスを用いた以外はB−1と同様の方法で重合・凝固・中和・洗浄・乾燥・分離して、表1に示すグラフト共重合体(B−2)を調製した。得られたグラフト共重合体のグラフト特性、グラフト成分の屈折率、乳化剤含有量及び水分率は表1に示したとおりであった。
【0090】
B−3: B−1と同様の方法で重合・凝固・中和した後の凝固スラリーを遠心分離した後、60℃の水2000部中で10分間の洗浄し遠心分離する作業を3回繰り返し、60℃の熱風乾燥機中で48時間乾燥を行って、パウダー状のグラフト共重合体(B−3)を調製した。得られたグラフト共重合体のグラフト特性、グラフト成分の屈折率、乳化剤含有量及び水分率は表1に示したとおりであった。
【0091】
[実施例1]
単量体蒸気の蒸発還流用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2m3の完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機と、2軸押出機型脱モノマー機および脱モノマー機の先端から1/3長のバレル部にタンデムに接続した加熱装置を有する2軸押出機型フィーダーとからなる連続式塊状重合装置を用いて、重合及び樹脂混合を実施した。
【0092】
まず、スチレン17.5部、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸メチル52.5部、n−オクチルメルカプタン0.15部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.01部からなる単量体混合物を、150kg/時で重合槽に連続的に供給し、重合温度130℃、槽内圧0.08MPaに保って連続塊状重合させた。重合槽出における重合反応混合物の重合率は74〜76%の間に制御した。
【0093】
重合反応混合物は単軸押出機型予熱機で予熱された後、2軸押出機型脱モノマー機により未反応の単量体をベント口より減圧蒸発回収し、回収した未反応単量体は連続的に重合槽へ還流させた。脱モノマー機の出口端より1/3の所で見掛け上の重合率が99%以上に上昇したスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体に、2軸押出機型フィーダーにより、フェノール系安定剤であるt−ブチルヒドロキシトルエン0.225kg/時、リン系の安定剤であるトリ(ノニルフェニル)ホスファイト0.225kg/時、及び、参考例で製造したグラフト共重合体(B−1)の半溶融状態物60kg/時を供給し、脱モノマー機中でスチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル共重合体と溶融混練した。その溶融混練工程中、脱モノマー機の出口端より1/6の所で水を2kg/時で供給した。この水およびその他の揮発分は、さらに脱モノマー機の下流に設置したベント口より減圧蒸発させて除去した。その後溶融ポリマーをストランド状に吐出させカッターにより樹脂組成物ペレットを得た。樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0094】
[実施例2]
単量体混合物の組成をスチレン17.5部、アクリロニトリル30.0部、メタクリル酸メチル52.5部、n−オクチルメルカプタン0.15部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.01部とし、加熱した2軸押出機型フィーダーより、参考例で製造したグラフト共重合体(B−2)を半溶融状態で表2に示す速度で供給した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0095】
[実施例3]
単量体混合物の組成をスチレン20.0部、アクリロニトリル20.0部、メタクリル酸メチル60.0部、n−オクチルメルカプタン0.15部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.01部とし、加熱した2軸押出機型フィーダーより、参考例で製造したグラフト共重合体(B−1)を半溶融状態で表2に示す速度で供給した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0096】
[実施例4]
単量体蒸気の蒸発還流用コンデンサーおよびヘリカルリボン翼を有する2m3の完全混合型重合槽と、単軸押出機型予熱機、および2軸押出機型脱モノマー機とからなる連続式塊状重合装置を用いて、重合を実施した。
【0097】
まず、スチレン20.0部、アクリロニトリル20.0部、メタクリル酸メチル60.0部、n−オクチルメルカプタン0.15部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.01部からなる単量体混合物を、150kg/時で重合槽に連続的に供給し、重合温度130℃、槽内圧0.08MPaに保って連続塊状重合させた。重合槽出における重合反応混合物の重合率は74〜76%の間に制御した。
【0098】
重合反応混合物は単軸押出機型予熱機で予熱された後、2軸押出機型脱モノマー機により未反応の単量体をベント口より減圧蒸発回収し、回収した未反応単量体は連続的に重合槽へ還流させた。その後溶融ポリマーをストランド状に吐出させ、カッターによりビニル系共重合体(A)ペレットを得た。
【0099】
得られたペレット状ビニル系共重合体(A)と参考例で製造したグラフト共重合体(B−1)を表2に示す割合で配合し、さらにフェノール系安定剤であるt−ブチルヒドロキシトルエン0.1部およびリン系の安定剤であるトリ(ノニルフェニル)ホスファイト0.1部を加えてドライブレンドした後、出口端より1/3のところに水注入設備が、出口端より1/6のところにベントが付いた40mmφ押出機を用いて、水を樹脂組成物に対して1重量%の割合で注入しながら230℃で溶融混練し、押出しペレタイズして樹脂組成物ペレットを得た。樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0100】
[実施例5]
加熱した2軸押出機型フィーダーより参考例で製造したグラフト共重合体(B−3)を半溶融状態で表2に示す速度で供給したことと、脱モノマー機への水供給を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。
樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0101】
[比較例1]
単量体混合物の組成をスチレン24.0部、アクリロニトリル5.0部、メタクリル酸メチル71.0部、n−オクチルメルカプタン0.15部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.01部とし、加熱した2軸押出機型フィーダーより、参考例で製造したグラフト共重合体(B−1)を半溶融状態で表2に示す速度で供給した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0102】
[比較例2]
単量体混合物の組成をスチレン10.0部、アクリロニトリル60.0部、メタクリル酸メチル30.0部、n−オクチルメルカプタン0.15部およびジ−t−ブチルパーオキサイド0.01部とし、加熱した2軸押出機型フィーダーより、参考例で製造したグラフト共重合体(B−1)を半溶融状態で表2に示す速度で供給した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。樹脂特性評価結果を表3に示す。
【0103】
【表1】
Figure 0005044869
【0104】
【表2】
Figure 0005044869
【0105】
【表3】
Figure 0005044869
実施例1〜5のとおり、本発明で特定した熱可塑性樹脂組成物は、透明性、色調安定性および耐薬品性のすべてにおいて均衡に優れていることがわかる。また特に、実施例1〜3についてはビニル系共重合体(A)とグラフト共重合体(B)の混合方法およびアセトン可溶分中の酸価が前述の好ましい範囲にあるため、特に透明性、色調、耐衝撃性及び剛性において物性バランスが良く、優れたものであった。
【0106】
しかし、比較例1、2で得られた樹脂組成物は、ビニル系共重合体(A)を構成する単量体組成および、アセトン可溶分中のアクリロニトリル3連シーケンス割合が本発明の範囲外であったため、透明性、色調安定性および耐薬品性のいずれかが劣るものであった。
【0107】
【発明の効果】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、透明性、耐薬品性および色調安定性が均衡して優れ、かつ耐衝撃性、剛性などの機械的強度バランス、成形加工性およびコストパフォーマンスなどにも優れ、これら特性を生かして、家電製品、通信関連機器および一般雑貨などの用途分野で幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の樹脂組成物を、連続塊状重合し樹脂混合する方法により製造する際の装置の一実施態様を示す装置縦断面概略図である。
【図2】 耐薬品性の評価に使用する1/4楕円治具、及びその使用方法を説明する縦断面図である。
【符号の説明】
1: 反応槽
2: 予熱機
3: 二軸押出機型脱モノマー機
4: 溶融混練域
5: 二軸押出機型フィーダー
11: 1/4楕円治具
12: 試験片
13: 薬液塗布面
14: クラック
X: クラック発生箇所からの距離

Claims (9)

  1. 芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%を含有するビニル系単量体混合物(a)を連続塊状重合または連続溶液重合してなるビニル系共重合体(A)に、ゴム質重合体(b)の存在下に1種以上のビニル系単量体(c)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(B)が分散してなる熱可塑性樹脂組成物であって、ビニル系共重合体(A)の溶解度パラメーターが10.5〜12.5(cal/ml) 1/2 であり、熱可塑性樹脂組成物のアセトン可溶分中に存在するアクリロニトリル単量体単位の3連シーケンスの割合が、前記アセトン可溶分に対し10重量%以下であることを特徴とする透明性熱可塑性樹脂組成物。
  2. ヘイズ値が30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記グラフト共重合体(B)を構成するゴム質重合体成分と、前記アセトン可溶分との屈折率の差が0.03以内であることを特徴とする請求項1または2に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  4. 前記アセトン可溶分の酸価が0.01〜1mgKOH/gであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  5. ビニル系単量体混合物(a)及びビニル系単量体混合物(c)が、芳香族ビニル系単量体(a1)5〜40重量%、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)30〜80重量%、シアン化ビニル系単量体(a3)10〜50重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体(a4)0〜40重量%からなり、かつ、不飽和カルボン酸系単量体(但し不飽和カルボン酸アルキルエステル系単量体(a2)を除く)(a5)を実質的に含有しない単量体混合物である請求項1〜のいずれか1項に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  6. ビニル系単量体混合物(a)を連続塊状重合または連続溶液重合することによりビニル系共重合体(A)を製造し、続いて溶融状態のビニル系共重合体(A)に、グラフト共重合体(B)を添加し、溶融混合する方法により連続的に製造されるゴム強化スチレン系樹脂組成物である請求項1〜のいずれか1項に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  7. ビニル系単量体混合物(a)の重合に続いて脱モノマーを行うことによりビニル系共重合体(A)を製造する工程における脱モノマー工程の途中もしくは脱モノマー工程の後、溶融状態のビニル系共重合体(A)に、グラフト共重合体(B)を添加することにより製造される請求項記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  8. ビニル系共重合体(A)に添加される時のグラフト共重合体(B)を半溶融もしくは溶融状態とすることにより製造される請求項1〜のいずれか1項に記載の透明性熱可塑性樹脂組成物。
  9. ビニル系単量体混合物(a)を連続塊状重合または連続溶液重合することによりビニル系共重合体(A)を製造し、続いて溶融状態のビニル系共重合体(A)に、グラフト共重合体(B)を添加し、溶融混合することにより請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物を製造することを特徴とする透明性熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
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