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JP4940520B2 - 金属粉末およびその製造方法、導電性ペーストならびに積層セラミック電子部品 - Google Patents

金属粉末およびその製造方法、導電性ペーストならびに積層セラミック電子部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、金属粉末の製造方法、この製造方法によって得られた金属粉末、ならびに、この金属粉末を用いて得られる導電性ペーストおよび積層セラミック電子部品に関するもので、特に、より微粒でありかつ粒径のより均一な金属粉末を得るための改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品の内部導体を形成するため、導電性ペーストが用いられる。導電性ペーストは、導電成分となる金属粉末を含有している。金属粉末としては、現在、ニッケル粉末や銅粉末が多く用いられるようになっている。
【0003】
このような積層セラミック電子部品において、その小型化およびセラミック層の薄層化が進むに伴って、内部導体に含有される金属粉末には、より微粒であるとともに、粒径がより均一であり、したがって粗粒の少ないものが求められている。
【0004】
金属粉末、特に微粒の金属微粉末の製造方法には、大別して、特開平10−324906号公報に記載される噴霧熱分解法や特開平11−80816号公報に記載される還元性ガスによる金属塩蒸気の還元法に代表される気相法によるものと、特開2000−87121公報に記載される水または有機溶媒中で還元剤により金属塩を還元する液相法によるものとがある。この発明にとって興味ある金属粉末の製造方法は、後者の液相法によるものである。
【0005】
液相法によって作製された、ニッケル粉末に代表される金属粉末の、電子顕微鏡により観察された粒子個々の粒度分布は、一般に、気相法によるものと比較して、ばらつきの小さいシャープなものとなるため、その生産設備の簡便さと合わせ、たとえば積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品における内部電極の材料として広く用いられている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、気相法によるか液相法によるかを問わず、このような製造方法によって金属粉末を製造した場合、その粒子の平均粒径の2〜10倍以上の粒径をもつ粗大粒子が特異的に発生することがある。このことを、液相法に関連して、以下に、より具体的に説明する。
【0007】
液相法における、還元剤による、たとえばニッケル粉末のような金属粉末を得るための還元反応においては、通常、反応温度、反応溶液の攪拌状態、金属塩濃度、還元剤濃度等のコントロールによって、所望の粉末粒径を得るためのコントロールがなされている。
【0008】
しかしながら、このようなコントロールがなされたとしても、前述のような、突発的に発生する、その粒子の平均粒径の2〜10倍以上の粒径をもつ粗大粒子、たとえば、平均粒径が0.1μmの粒子であれば、粒径が2〜3μmの粗大粒子を全くなくすことは非常に困難である。この傾向は、特に、目標とする粒径が0.2μm以下という微粉末になるほど顕著となる。
【0009】
これは、粒径が0.2μmと細かい微粒子を製造するためには、粒径が比較的大きな粒子を製造する場合と比較して、還元反応のスピードを高めなければならないからである。より詳細に説明すると、還元反応のスピードを高めると、金属粉末の一次粒子自体の生成反応の割合が高まり、これによって、粒成長、すなわち粒径の増加を抑えた、たとえば粒径が0.2μm以下の微粒子を製造することができる。しかしながら、還元反応のスピードを高めると、このスピードがより遅い場合と比較して、その反応自体のばらつきが大きくなり、結果的に、突発的な粗大粒子を生成してしまう原因となる。
【0010】
このような理由から、粒径が0.2μm以下の金属微粒子においては、粒径が2〜3μmの粗大粒子を全くなくすことが非常に困難となる。そして、このような粗大粒子の存在は、次のような問題を引き起こす。
【0011】
たとえば積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品を製造するにあたって、その積層された複数のセラミック層間の特定の界面に沿って内部電極を印刷等によって形成するため、金属粉末を含む導電性ペーストが用いられる。この導電性ペーストに含まれる金属粉末が、その平均粒径の2〜10倍以上の粒径をもつ粗大粒子を含んでいると、セラミック層の厚みがたとえば5μm以下と薄層化されたとき、特定のセラミック層を挟むように位置される内部電極間でショートし、積層セラミック電子部品の歩留まりを大きく低下させるという問題を招く。
【0012】
上述の問題を解消するため、金属粉末の分級処理を予め行ない、粗粒を除去した上で、導電性ペーストを製造するという方法もとられているが、このような処理の結果、金属粉末の歩留まりが著しく低下してしまうことがあり、また、導電性ペーストの生産性を低下させてしまうという問題も招く。
【0013】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し、より微粒でありかつ粒径のより均一な金属粉末を液相法によって製造することができる、金属粉末の製造方法、およびこの製造方法によって得られた金属粉末を提供しようとすることである。
【0014】
この発明の他の目的は、上述のような金属粉末を用いて得られる導電性ペーストおよび積層セラミック電子部品を提供しようとすることである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
この発明は、少なくとも還元剤と水とを含む還元剤溶液および少なくとも金属塩が溶媒に溶解した金属塩溶液をそれぞれ用意する工程と、金属塩に含まれる金属からなる金属粉末を析出させるように金属塩を還元させるため、還元剤溶液中に金属塩溶液を投入する工程とを備える、金属粉末の製造方法にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0016】
すなわち、上記還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物であり、上記金属塩に含まれる金属は、Niであり、上述した還元剤溶液中に金属塩溶液を投入する工程において、金属塩溶液の投入開始から金属塩の還元に伴う発熱ピークを示すまでの時間の2/3以下の長さの時間までに、金属塩溶液の投入を完了させるとともに、この金属塩溶液の投入を、金属塩溶液の投入開始から金属塩の還元に伴う発熱ピークを示すまでの時間の1/40以上の長さの時間をかけて実施し、粒径が0.2μm以下の金属粉末を得ることを特徴としている。
【0018】
また、この金属塩溶液の投入工程を開始する段階では、還元剤溶液および金属塩溶液は、30℃〜90℃の温度に設定されることが好ましい。
【0019】
また、金属塩溶液を投入するにあたっては、還元剤溶液と金属塩溶液とが均一に混合されるように攪拌されることが好ましい。
【0020】
また、還元剤溶液および金属塩溶液の少なくとも一方は、苛性アルカリを含むことが好ましい。この苛性アルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムおよびアンモニアから選ばれた少なくとも1種が好適に用いられる。
【0022】
また、金属塩は、塩化物、硫酸塩および硝酸塩から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
また、金属塩溶液を得るため、上述のような金属塩を溶解する溶媒としては、たとえば、アルコールと水との混合液、アルコール、または水が有利に用いられる。
【0024】
この発明は、また、上述のような製造方法によって得られた金属粉末にも向けられる。
【0026】
また、この発明は、上述のような金属粉末を含有する、導電性ペーストにも向けられる。
【0027】
この導電性ペーストは、好ましくは、焼成後の内部電極間に挟まれたセラミック層の厚みが5μm以下である積層セラミック電子部品における内部電極を形成するために用いられる。
【0028】
さらに、この発明は、積層された複数のセラミック層と、特定のセラミック層を挟むように形成された複数の内部電極とを備える、積層セラミック電子部品にも向けられる。この積層セラミック電子部品は、内部電極が、上述したような導電性ペーストを用いて形成されたものであることを特徴としている。
【0029】
上述した積層セラミック電子部品において、内部電極に挟まれたセラミック層の厚みが5μm以下であるとき、この発明が特に有利に適用される。
【0030】
【発明の実施の形態】
この発明に係る金属粉末の製造方法は、基本的には、液相法によるものであり、その好ましい実施形態は、以下のように実施される。
【0031】
まず、還元剤としてのヒドラジンまたはヒドラジン水和物および水を少なくとも含むとともに、より好適には、苛性アルカリおよびアルコールをさらに含む還元剤溶液が用意される。なお、苛性アルカリは、以下に説明する金属塩溶液側に添加されても、還元剤溶液および金属塩溶液の双方に添加されてもよい。
【0032】
他方、少なくとも金属塩を溶媒に溶解させた金属塩溶液が用意される。ニッケル粉末を製造しようとする場合には、金属塩としての塩化ニッケル、硫酸ニッケルまたは硝酸ニッケル等のニッケル塩を、アルコール、アルコールと水との混合液、または水を溶媒として溶解したニッケル塩溶液が用意される。
【0033】
次いで、金属塩溶液としてのニッケル塩溶液を還元剤溶液中に投入し、攪拌することによって、金属塩としてのニッケル塩が還元され、それによって、金属粉末としてのニッケル粉末が析出される。
【0034】
上述した金属塩溶液および還元剤溶液のpHは、目的とする粒径、反応効率などを考慮して適宜選定される。たとえば、粒径が0.2μm以下のニッケル微粉末を得ようとする場合、通常、還元剤溶液のpHは、11以上の高アルカリに設定される。ニッケル塩溶液のpHについては、ニッケル塩は、通常、アルカリ域では、水酸化物として沈殿してしまうため、pHは7以下の酸性側に設定されるが、ポリカルボン酸等の錯化剤を用いて、ニッケル塩を錯配位させると、水酸化物としての沈殿が抑制されるため、必要に応じて、各種錯化剤が適宜使用されてもよい。なお、錯化剤は、還元剤溶液側に添加されてもよい。
【0035】
また、反応温度も、還元速度を高める重要な因子となる。前述のとおり、粒径0.2μm以下の微粉末を製造しようとする場合には、還元速度を高める必要があるため、反応速度は、比較的高温、具体的には、30℃〜90℃前後に設定される場合が多い。これに関連して、金属塩溶液と還元剤溶液の各々の温度を別々に設定することもあり、また、金属塩溶液と還元剤溶液とを混合した後、加熱または冷却して、反応温度のコントロールを行なうこともある。
【0036】
重要なことは、金属塩溶液と還元剤溶液とを一挙に混合し、反応を生じさせるのではなく、金属塩溶液を、還元剤溶液中に投入しながら反応を生じさせるということである。
【0037】
金属塩溶液がニッケル塩溶液である場合、ニッケル塩溶液をヒドラジンまたはヒドラジン水和物を含む還元剤溶液中に投入した場合、一旦、溶解したニッケルイオンに、還元剤であるヒドラジンが結合し、反応中間生成物を生成してから還元反応が開始するため、ニッケル塩溶液の投入と同時には、ニッケル粉末を析出させる還元反応は生じない。この反応中間生成物は、反応溶液の内容物によっては、ニッケル塩と錯体との錯形成物を含むものであったり、ニッケル塩の水酸化物を含むものであったり、ニッケル塩の亜酸化物および/または酸化物を含むものであったりする。すなわち、端的に言えば、ニッケル塩溶液の投入開始後、ある時間を経過してからニッケル粉末への還元反応が開始するということである。
【0038】
上述のニッケル粉末のような金属粉末への還元反応の開始の有無は、反応溶液を経時的にサンプリングすることによっても確認できるが、より簡便には、反応中の反応溶液の温度変化を監視することによって確認できる。
【0039】
通常、金属塩から金属粉末への還元反応においては、その反応中に発熱を伴う。還元反応が開始すると、この反応で生じる熱により、反応溶液の温度が上昇する。したがって、この温度上昇を監視することによって、還元反応の開始の有無を確認することができる。
【0040】
また、反応溶液温度は、還元反応による発熱のために、一旦、ピークに達した後、その反応の収束により、設定温度近くにまで温度が低下していく。この反応溶液温度がピークを迎えるまでの時間、すなわち、金属塩溶液の投入開始から発熱ピークまでの時間は、その反応溶液のpH、温度、攪拌条件等の設定により変化する。通常は、反応溶液の温度をより高く設定すると、発熱ピークまでの時間がより短くなり、逆に、反応溶液の温度をより低く設定すると、発熱ピークまでの時間がより長くなる。
【0041】
このような基本反応において、粗大粒子を突発的に発生させない反応条件を見出すため、本件発明者が鋭意研究した結果、金属塩溶液を還元剤溶液中に投入する際の投入速度が非常に重要であるということが判明した。
【0042】
すなわち、粗大粒子の突発的な生成を防止するためには、金属塩溶液を還元剤溶液中に投入するにあたって、金属粉末への還元反応によって生じる発熱ピークを示すまでの時間の2/3以下の長さの時間までに、この投入を完了させることが有効であることを見出した。以下に、その理由について考察する。
【0043】
金属塩溶液の投入後、金属粉末への還元反応が開始されると、金属粒子が反応溶液中に存在することになる。
【0044】
この場合、金属塩溶液の投入速度が不適切であると、すなわち、発熱ピークを示すまでの時間の2/3までに金属塩溶液の投入が完了していないと、金属塩溶液の投入を終える前に、金属粉末への還元反応が開始されており、すでに生成した金属粒子が存在する反応溶液中に、金属塩溶液が投入されることになる。
【0045】
その結果、金属粒子が存在する溶液中に投入された金属塩溶液に含まれる金属イオンは、前述のような反応中間生成物を経ず、いきなり金属として金属粒子表面に析出してしまう。なぜなら、生成されたばかりの金属粒子の表面は、非常に活性が高く、金属イオンが反応中間生成物を経由しなくとも、金属に還元し得るだけの触媒性を付与してしまうからである。
【0046】
上述のように、金属粒子上に金属が直接析出した場合、他の反応中間生成物を経て得られた金属粉末に比べると、粒径の著しく大きな金属粉末となってしまう。これが、突発的に発生する粗大粒子の原因であると考えられる。
【0047】
これに対して、金属塩溶液の還元剤溶液中への投入を、発熱ピークを示すまでの時間の2/3以下の長さの時間までに完了すれば、金属塩溶液投入中において、反応溶液中には還元により生成した金属粒子が存在せず、前述のような金属粒子表面への直接的な金属析出が生じず、すべての金属塩が反応中間生成物を経る反応をとるため、粗大粒子の突発的な生成は生じにくい。
【0048】
目的とする金属粉末の粒径が0.2μm以下というように小さい場合には、前述のように、還元反応速度をより高める必要があり、還元反応による発熱ピークの出現時間もより短くなり、通常、金属塩溶液の投入開始から1分〜20分の間に現れる場合が多い。したがって、意識して投入速度を高めるようにしなければ、金属塩溶液の投入が、発熱ピーク時間の2/3までに完了しないことになり、粒径が0.2μm以下の金属微粉末を製造するための反応においては、突発的な粗大粒子を生みやすい原因となっている。
【0049】
これに対して、この発明のように、意図的に金属塩溶液の投入速度をコントロールすることによって、粒径0.2μm以下といった金属微粉末の製造のための反応においても、粗大粒子を生じさせず、したがって安定した粒径をもって、金属粉末を製造することができる。
【0050】
図1は、この発明における特徴的構成を図解するモデル図である。図1において、横軸は金属塩溶液の投入開始からの時間を示し、縦軸は反応溶液の温度を示している。
【0051】
図1のモデル図では、65℃の温度で反応を開始させ、金属塩の還元反応に伴う発熱によって反応溶液の温度が上昇し、金属塩溶液の投入開始から6分後において、75℃の発熱ピークを示している。
【0052】
実際の反応では、金属塩溶液を還元剤溶液中に投入した場合、還元反応に伴う温度変化以外に、金属塩溶液の投入に伴う温度変化をも示すことが多いが、図1では、この発明の概念をわかりやすくするため、金属塩溶液の投入に伴う温度変化を無視して図示している。
【0053】
図1に示したモデルでは、前述したように、金属塩溶液の投入開始後6分の時点で発熱ピークを示している。この場合、経験的に、この発熱ピーク時間の2/3、すなわち4分を経過した時点から、金属塩から、金属粒子への還元反応が開始していると考えられる。したがって、金属塩溶液の投入開始から4分までの間は、反応中間生成物を形成しており、金属粒子への還元反応は、未だ活発には開始していないと推測される。
【0054】
このモデルにおいて、粒径のばらつきの少ない金属粉末を得るためには、金属塩溶液の投入を4分以内に完了させればよいことがわかる。金属塩溶液の投入完了が、4分より遅れてしまうと、金属イオンが、反応中間生成物を経由せず、直接、高い触媒性を有する金属粒子上に金属として析出してしまい、粒径のばらついた金属粉末となってしまう。これに対して、金属塩溶液の投入を4分以内に完了させる場合には、ほぼすべての金属塩が、反応中間生成物を経由し、粒径の揃った金属粉末となる。
【0055】
なお、この発明において、金属塩溶液の投入を完了させるべき時間を、昇温を開始する時間(図1においては、4分)と規定せず、発熱ピーク時間の2/3以下の長さの時間としているのは、前述のように、金属塩溶液の投入に伴う温度変化もあり、昇温開始時間が、この金属塩溶液投入に伴う温度変化によって隠されてしまうことが多いからである。
【0056】
金属塩溶液の投入速度については、投入の完了が発熱ピーク時間の2/3以下である限り、速ければ速い方が良いというものでもない。すなわち、金属塩溶液の投入速度があまりに速い場合には、反応溶液の混合状態や温度分布の不均一さを生む原因となるため、発熱ピーク時間の1/40以上の長さの時間をかけて、金属塩溶液の投入が実施される。
【0057】
金属塩溶液の投入速度は、この投入にあたって用いられるポンプの送り速度を変えることによってコントールされる。ポンプの種類については、特に限定されるものではないが、汎用的に送液に用いられる、ロータリーポンプ、チューブポンプ、ダイヤフラムポンプ、ガス圧送等が適用される。
【0060】
金属塩は、通常、塩化物、硫酸塩および硝酸塩から選ばれた少なくとも1種の塩として供給される。金属塩は、金属塩溶液を得るために選択された溶媒に良好に溶解し得るものが望ましい。
【0061】
苛性アルカリとしては、たとえば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムおよびアンモニアから選ばれた少なくとも1種が用いられる。ヒドラジンが金属を還元する際には、水酸化物イオンの供給が必要となる。苛性アルカリは、この水酸化物イオンの供給源として存在する。より好ましくは、水酸化ナトリウム単体が苛性アルカリとして用いられる。
【0062】
金属塩溶液を得るための金属塩の溶媒としては、たとえば、アルコールと水との混合液が用いられる。ここで、アルコールとしては、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール等の1価のアルコールの少なくとも1種が用いられる。また、ヒドラジンを還元剤として金属粒子を析出させる場合、溶媒をアルコールにすることにより、粒径が0.1μm以下の金属粉末が製造可能となる。また、溶媒に水を用いても、反応条件の設定によっては、粒径0.2μm以下の金属粉末の製造が可能である。これら粒径が0.2μm以下の金属粉末は、特に、積層セラミック電子部品における内部電極の薄層化にとって好適である。
【0063】
より特定的な好ましい実施形態では、エタノールが溶媒として用いられ、苛性アルカリとして水酸化ナトリウム単体が用いられる。そして、エタノール中に水酸化ナトリウムを0.5〜15モル/リットルのモル濃度で溶解させるとともに、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物を、金属塩を還元するために化学量論的に必要な量から当該必要な量の15倍までの範囲で溶解させることによって、還元剤溶液が用意される。この還元剤溶液中には、また、水が適宜加えられる。
【0064】
このように、還元剤溶液中に水を加えたり、あるいは金属塩溶液中に水を加えたりすることによって、得ようとする金属粉末の粒径のコントロールをより容易にすることができる。
【0065】
次に、金属塩溶液を、還元反応に伴う発熱ピークを示す時間の2/3以下の長さの時間までに完了する速度をもって、還元剤溶液中に投入する。このときの還元剤溶液および金属塩溶液の温度は、30℃〜90℃であることが好ましく、また、これら溶液は、均一に攪拌されていることが好ましい。
【0066】
このようにして、反応溶液中において金属粒子すなわち金属粉末が生成され、この得られた金属粉末は、洗浄された後、乾燥される。これによって、粒径が0.2μm以下であり、かつ粗大粒子の存在しない、均一な金属粉末を得ることができる。
【0067】
上述の金属粉末を、適宜のビヒクル中に分散させることによって、導電性ペーストを得ることができる。この導電性ペーストは、たとえば積層セラミックコンデンサのような積層セラミック電子部品における内部電極を形成するために有利に用いることができる。
【0068】
図2を参照して、積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサについて説明する。
【0069】
図2を参照して、積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数のセラミック層2と、特定のセラミック層2を挟むように形成された複数の内部電極3とを備えている。また、積層セラミックコンデンサ1の外表面上であって、各端部には、外部電極4がそれぞれ形成され、外部電極4上には、めっき膜5が形成されている。
【0070】
また、隣り合う内部電極3は、その間に位置するセラミック層2を介して互いに対向することによって、静電容量を形成するとともに、隣り合う内部電極3が互いに異なる外部電極4に電気的に接続されることによって、上述の静電容量が外部電極4間に取り出される。
【0071】
積層セラミックコンデンサ1を製造するため、誘電体セラミック材料を含む複数のセラミックグリーンシートが用意され、特定のセラミックグリーンシート上には、内部電極3を形成するための導電性ペーストが印刷され、次いで、これら複数のセラミックグリーンシートが積層され、得られた生のセラミック積層体が焼成される。この焼成によって、セラミックグリーンシートがセラミック層2となり、また、導電性ペーストによって内部電極3が与えられる。
【0072】
次に、外部電極4が、導電性ペーストを付与し焼き付けることによって形成され、さらに、その上に、たとえば錫やニッケル等の無電解めっきが施されたり、半田めっきが施されたりして、少なくとも1層のめっき膜5が形成される。
【0073】
このように積層セラミックコンデンサ1を製造するにあたって、内部電極3が、この発明に係る金属粉末を含む導電性ペーストを用いて形成される。この導電性ペーストに含まれる金属粉末は、前述したように、微細でありかつ粗大粒子を全くまたはほとんど含んでいないので、焼成後のセラミック層2の厚みがたとえば5μm以下というように薄層化されても、セラミック層2を挟むように位置される内部電極3間でショートするといった不都合を生じにくくすることができる。
【0074】
以下に、この発明に係る金属粉末の製造方法による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0075】
【実験例1】
水酸化ナトリウム20gと、20%の水を含む抱水ヒドラジン70gとを、3000mlビーカーを用いて、エタノール1000mlに溶解して、還元剤溶液を作製した。
【0076】
他方、塩化ニッケル・六水和物60gを、2000mlビーカーを用いて、エタノール1000mlに溶解して、ニッケル塩溶液を作製した。
【0077】
次いで、還元剤溶液およびニッケル塩溶液の各々の液温を40℃にして、還元剤溶液中に、表1に示すような種々の投入完了時間をもって、ニッケル塩溶液を投入した。なお、予備実験によって、この投入の結果もたらされる還元反応における発熱ピーク温度を示す時間は、ニッケル塩溶液の投入後840秒経過時であることを予め確認しておいた。
【0078】
より詳細には、表1に示すように、投入完了時間は、反応溶液の温度が還元反応によりピークを示す時間に対する比率、すなわちピーク時間比で表わすと、試料1では1/60(=14秒)、試料2では1/40(=21秒)、試料3では1/10(=84秒)、試料4では1/2(=420秒)、試料5では2/3(=560秒)、試料6では3/4(=630秒)、試料7では1/1(=840秒)であり、ポンプ送り速度を変えることによって、これらの投入完了時間となるようにコントロールした。
【0079】
反応中は、直径30mmの3枚羽根を用いて、100rpmの速度で攪拌を続けた。
【0080】
ニッケル塩溶液の投入後、20分で反応が終了したため、この反応溶液からニッケル粉末を分離・回収し、純水で洗浄した後、アセトンで洗浄し、オーブン中で乾燥した。
【0081】
このようにして得られた各試料に係るニッケル粉末を、5万倍の走査型電子顕微鏡で観察し、無作為に選んだ粒子100個の粒径を測定した。そして、100個の粒子の平均粒径とσとを求め、粒径ばらつきの指標であるCV値(σ/平均粒径の百分率)を算出した。さらに、無作為で選んだ5視野を観察し、平均粒径の20倍以上の粗大粒子数をカウントした。
【0082】
次に、試料1〜7の各々に係るニッケル粉末50重量部に対して、エチルセルロース系バインダ10重量部をテルピネオール90重量部に溶解して作製した有機ビヒクル50重量部を加えて、3本ロールミルによって入念に分散混合処理を行なうことによって、良好に分散したニッケル粉末を含有する導電性ペーストを作製した。
【0083】
この導電性ペーストを、BaTiO3 を主成分とする耐還元性セラミック材料を含む複数のセラミックグリーンシートの特定のものの上に印刷し、これらセラミックグリーンシートを積層して得られた生のセラミック積層体を焼成することによって、ニッケルを含む内部電極を備える積層セラミックコンデンサを作製した。この焼成後の積層セラミックコンデンサにおいて、各セラミック層の厚みは3μmであり、内部電極の積層数は50であった。また、試料1〜7の各々について、100個の積層セラミックコンデンサを作製した。
【0084】
得られた積層セラミックコンデンサの電気抵抗を、IRメータによって測定し、ショート不良率を求めた。
【0085】
以上の評価結果が表1に示されている。
【0086】
【表1】
Figure 0004940520
【0087】
表1からわかるように、ニッケル塩溶液の投入完了時間が、還元反応による発熱ピーク時間の2/3以下である、試料1〜5の場合には、粗大粒子数が0〜4個と少なかった。
【0088】
これに対して、ニッケル塩溶液の投入完了時間を表わすピーク時間比が2/3を超える、試料6および7においては、多数の粗大粒子が生成されていた。
【0089】
また、これら試料6および7では、この粗大粒子の存在により、積層セラミックコンデンサを構成した場合のショート不良率も、25%以上と高い値を示した。
【0090】
これに対して、ニッケル塩溶液の投入完了時間を表わすピーク時間比が2/3以下である、試料1〜5では、ショート不良率を2〜5%程度に抑えることができた。因みに、このような数%の比率で生じたショート不良は、ニッケル粉末中に含まれる粗大粒子の影響ではなく、セラミックグリーンシートがもつピンホール等の欠陥によるものであることが、不良品の解析により判明した。
【0091】
なお、ニッケル塩溶液の投入完了時間を表わすピーク時間比が1/60と小さく、投入速度が速かった、試料1については、粗大粒子数こそ少なかったが、CV値が若干大きくなった。これは、ニッケル塩の投入速度があまりに速い場合、反応溶液の混合状態および温度分布の不均一さが生んだ結果であると考えられる。
【0092】
【実験例2】
水酸化ナトリウム20gと、20%の水を含む抱水ヒドラジン70gとを、3000mlビーカーを用いて、水とエタノールとの50:50混合溶液1000mlに溶解して、還元剤溶液を作製した。
【0093】
他方、塩化ニッケル・六水和物60gを、2000mlビーカーを用いて、水とエタノールとの50:50混合溶液1000mlに溶解して、ニッケル塩溶液を作製した。
【0094】
次に、これら還元剤溶液およびニッケル塩溶液の双方の液温を80℃にした状態で、還元剤溶液中に、表2に示すような投入完了時間をもって、ニッケル塩溶液を投入した。なお、予備実験によって、この投入により生じる還元反応における発熱ピーク温度を示す時間は、ニッケル塩溶液投入後720秒経過時であることを予め確認しておいた。
【0095】
より詳細には、表2に示すように、投入完了時間は、反応溶液温度が還元反応によりピークを示す時間に対する比率、すなわちピーク時間比で表わすと、試料8では1/50(=14秒)、試料9では1/40(=18秒)、試料10では1/10(=72秒)、試料11では1/2(=360秒)、試料12では2/3(=480秒)、試料13では3/4(=540秒)、試料14では1/1(=720秒)であり、ポンプ送り速度を変えることによって、これらの投入完了時間となるようにコントロールした。
【0096】
反応中は、実験例1の場合と同様、直径30mmの3枚羽根を用いて、100rpmの速度で攪拌を続けた。
【0097】
ニッケル塩溶液の投入後、15分で反応が終了したため、この反応溶液からニッケル粉末を分離・回収し、純水で洗浄した後、アセトンで洗浄し、オーブン中で乾燥した。
【0098】
このようにして得られた試料8〜14の各々に係るニッケル粉末について、実験例1の場合と同様の方法によって、平均粒径、CV値、および粗大粒子数を評価した。
【0099】
また、これら試料8〜14の各々に係るニッケル粉末を用いて、焼成後のセラミック層の厚みが4μmであることを除いて、実験例1の場合と同様の操作を経て、積層セラミックコンデンサを作製し、この積層セラミックコンデンサのショート不良率を求めた。
【0100】
これらの評価結果が表2に示されている。
【0101】
【表2】
Figure 0004940520
【0102】
表2に示した評価結果には、表1に示した評価結果と実質的に同様の傾向が現れている。
【0103】
すなわち、ニッケル塩溶液の投入完了時間が、還元反応による発熱ピーク時間の2/3以下である、試料8〜12では、粗大粒子数が0〜2個と少なかった。
【0104】
これに対して、ニッケル塩溶液の投入完了時間を表わすピーク時間比が2/3を超える、試料13および14においては、多数の粗大粒子を生成していた。
【0105】
また、これら試料13および14では、上述のような粗大粒子の存在により、積層セラミックコンデンサを構成した場合のショート不良率も、18%以上と高い値を示した。
【0106】
これに対して、ニッケル塩溶液の投入完了時間を表わすピーク時間比が2/3以下である、試料8〜12では、ショート不良率は1〜3%程度と低かった。なお、この場合においても、このようなショート不良は、粗大粒子の影響ではなく、セラミックグリーンシートがもつピンホール等の欠陥によるものであることが、不良品の解析により判明した。
【0107】
なお、実験例1の場合と同様、ニッケル塩溶液の投入完了時間を表わすピーク時間比が1/50と小さく、投入速度が速かった、試料8については、粗大粒子数こそ少なかったが、CV値が若干大きくなった。これは、ニッケル塩の投入速度があまりに速い場合、反応溶液の混合状態および温度分布の不均一さが生んだ結果であると考えられる。
【0108】
【発明の効果】
以上のように、この発明に係る金属粉末の製造方法によれば、少なくとも還元剤と水とを含む還元剤溶液および少なくとも金属塩が溶媒に溶解した金属塩溶液をそれぞれ用意した後、金属塩に含まれる金属からなる金属粉末を析出させるように金属塩を還元させるため、還元剤溶液中に金属塩溶液を投入するようにするとともに、この投入する工程において、金属塩溶液の投入開始から金属塩の還元に伴う発熱ピークを示すまでの時間の2/3以下の長さの時間までに、金属塩溶液の投入を完了させるようにしているので、粒径が0.2μm以下というように微粒の金属粉末を得ようとする場合であっても、粗大粒子を生成させずに、粒径の均一な金属粉末を製造することができる。
【0109】
したがって、この発明に係る製造方法によって得られた金属粉末を含有する導電性ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品において、内部電極に挟まれたセラミック層の厚みがたとえば5μm以下と薄い場合であっても、金属粉末に含まれる粗大粒子が起因するショート不良を生じにくくすることができる。
【0110】
また、この発明によれば、上述した金属塩溶液を投入する工程において、金属塩溶液の投入が、単に短時間に済まされるのではなく、金属塩溶液の投入開始から金属塩の還元に伴う発熱ピークを示すまでの時間の1/40以上の長さの時間をかけて実施されるので、反応溶液における混合状態や温度分布が不均一になりにくくすることができ、得られた金属粉末の粒径の一層の均一化が図られるとともに、粗大粒子の生成の防止効果がより高められる。
【0111】
また、金属塩溶液の投入工程を開始する段階で、還元剤溶液および金属塩溶液の各温度を30℃〜90℃の範囲に設定したり、金属塩溶液の投入工程において、還元剤溶液と金属塩溶液とが均一に混合されるように攪拌したりしても、上述の場合と同様、得られた金属粉末の粒径の一層の均一化を図ることが可能になるとともに、粗大粒子の生成の防止効果をより高めることができる。
【0112】
また、この発明によれば、還元剤溶液に含まれる還元剤として、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物が用いられるので、還元剤による不純物の混入が実質的にない状態で金属粉末を得ることができる。
【0113】
また、金属塩溶液において金属塩を溶解するために用いる溶媒として、アルコールと水との混合液を用いたり、アルコールを用いたり、水を用いたりすることによって、得ようとする金属粉末の粒径を容易にコントロールすることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に従って金属塩溶液を投入する場合の反応溶液の温度変化を示すとともに、この発明における特徴的工程を図解するモデル図である。
【図2】この発明が適用される積層セラミック電子部品の一例としての積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【符号の説明】
1 積層セラミックコンデンサ
2 セラミック層
3 内部電極

Claims (14)

  1. 少なくとも還元剤と水とを含む還元剤溶液および少なくとも金属塩が溶媒に溶解した金属塩溶液をそれぞれ用意する工程と、
    前記金属塩に含まれる金属からなる金属粉末を析出させるように前記金属塩を還元させるため、前記還元剤溶液中に前記金属塩溶液を投入する工程と
    を備える、金属粉末の製造方法であって、
    前記還元剤は、ヒドラジンまたはヒドラジン水和物であり、
    前記金属塩に含まれる前記金属は、Niであり、
    前記投入する工程において、前記金属塩溶液の投入開始から前記金属塩の還元に伴う発熱ピークを示すまでの時間の2/3以下の長さの時間までに、前記金属塩溶液の投入を完了させるとともに、前記金属塩溶液の投入を、前記金属塩溶液の投入開始から前記金属塩の還元に伴う発熱ピークを示すまでの時間の1/40以上の長さの時間をかけて実施することを特徴とする、粒径が0.2μm以下の金属粉末の製造方法。
  2. 前記投入する工程を開始する段階で、前記還元剤溶液および前記金属塩溶液は、30℃〜90℃の温度に設定される、請求項1に記載の金属粉末の製造方法。
  3. 前記投入する工程において、前記還元剤溶液と前記金属塩溶液とは均一に混合されるように攪拌される、請求項1または2に記載の金属粉末の製造方法。
  4. 前記還元剤溶液および前記金属塩溶液の少なくとも一方は、苛性アルカリを含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の金属粉末の製造方法。
  5. 前記苛性アルカリは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムおよびアンモニアから選ばれた少なくとも1種である、請求項4に記載の金属粉末の製造方法。
  6. 前記金属塩は、塩化物、硫酸塩および硝酸塩から選ばれた少なくとも1種である、請求項1ないしのいずれかに記載の金属粉末の製造方法。
  7. 前記溶媒は、アルコールと水との混合液である、請求項1ないしのいずれかに記載の金属粉末の製造方法。
  8. 前記溶媒は、アルコールである、請求項1ないしのいずれかに記載の金属粉末の製造方法。
  9. 前記溶媒は、水である、請求項1ないしのいずれかに記載の金属粉末の製造方法。
  10. 請求項1ないしのいずれかに記載の製造方法によって得られた、金属粉末。
  11. 請求項10に記載の金属粉末を含有する、導電性ペースト。
  12. 焼成後の内部電極間に挟まれたセラミック層の厚みが5μm以下である積層セラミック電子部品における前記内部電極を形成するために用いられる、請求項11に記載の導電性ペースト。
  13. 積層された複数のセラミック層と、特定の前記セラミック層を挟むように形成された複数の内部電極とを備える、積層セラミック電子部品であって、前記内部電極は、請求項11に記載の導電性ペーストを用いて形成されたものである、積層セラミック電子部品。
  14. 前記内部電極に挟まれた前記セラミック層は、その厚みが5μm以下である、請求項13に記載の積層セラミック電子部品。
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