一般に、前後輪ロール剛性配分比を制御すると、左右輪の接地荷重の比が前輪側及び後輪側に於いて変化するので、各車輪が発生可能な前後力及び横力も変化し、車輌の旋回限界も変化する。上述の如き従来のロール剛性制御装置に於けるこの問題に対処し、車輌の旋回限界が向上するよう前後輪ロール剛性配分比を制御すべく、本願出願人は特願2004−200339に於いて、「車輌の前後輪ロール剛性配分比可変手段と、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を推定する手段と、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御する制御手段とを有することを特徴とする車輌のロール剛性制御装置」を提案した。
この先の提案にかかるロール剛性制御装置によれば、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されるよう前後輪ロール剛性配分比可変手段が制御されるので、前輪と後輪との間に於いて低い方の余裕度合を高くすると共に高い方の余裕度合を低くすることができ、これにより前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されない場合に比して車輌全体の横力を高くして車輌の旋回限界を向上させることができる。
しかし上記先の提案にかかるロール剛性制御装置が各車輪の前後力若しくは横力を変化させることにより車輌の挙動を安定化させる挙動制御装置を備えた車輌に適用される場合には、例えば車輌がオーバーステア状態になると、挙動制御装置によってオーバーステア状態が抑制されるよう特に旋回外側前輪に制動力が付与されることによって車輌にアンチスピンモーメントが付与されると共に車輌が減速される。かくして旋回外側前輪の制動力が増大されると、ロール剛性制御装置により前輪の横力発生の余裕度合が低下したと判定され、車輌のロール剛性配分が後輪寄りに制御されるため、ロール剛性配分の制御によって車輌のステア状態がオーバーステア側へ変化されてしまい、その結果挙動制御装置及びロール剛性制御装置の制御にハンチングが発生するという問題が生じる。
また車輌の走行挙動が安定であるときに駆動力の配分を制御することにより車輌のヨー運動を制御し車輌の走行性能を向上させるヨー運動制御装置が搭載された車輌に於いては、上述の如き制御のハンチングの問題は、ヨー運動制御装置の制御及びロール剛性制御装置の制御の間に於いても同様に上述の如き制御のハンチングの問題が発生する。
本発明は、上記先の提案にかかるロール剛性制御装置に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、車輌が挙動制御装置やヨー運動制御装置の如き車輪発生力変化装置を備えている場合には車輪発生力変化装置の制御による前後力若しくは横力の変化を除外して前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を推定することにより、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合に応じて前後輪ロール剛性配分比を制御する場合に於ける車輪発生力変化制御及びロール剛性制御のハンチングを防止することである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち車輌の前後輪ロール剛性配分比可変手段と、前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を推定する手段と、前記前輪の横力発生の余裕度合と前記後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前記前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御する制御手段とを有する車輌のロール剛性制御装置に於いて、車輌は走行運動の制御の目的で各車輪の前後力若しくは横力を変化させる車輪発生力変化手段を有し、前記横力発生の余裕度合を推定する手段は前記車輪発生力変化手段により何れかの車輪の前後力若しくは横力が変化されているときには前記車輪発生力変化手段による変化分を差し引いた車輪の前後力及び横力に基づいて横力発生の余裕度合を推定することを特徴とする車輌のロール剛性制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記車輪発生力変化手段は走行挙動が不安定であるときに各車輪の前後力を変化させることにより走行挙動を安定化させる挙動制御手段を含むよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記車輪発生力変化手段は走行挙動が不安定であるときに各車輪の横力を変化させることにより走行挙動を安定化させる挙動制御手段を含むよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の構成に於いて、前記車輪発生力変化手段は走行挙動が安定であるときに駆動力の配分を制御することにより車輌のヨー運動を制御するヨー運動制御手段を含むよう構成される(請求項4の構成)。
上記請求項1の構成によれば、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されるよう前後輪ロール剛性配分比可変手段が制御されるので、前輪と後輪との間に於いて低い方の余裕度合を高くすると共に高い方の余裕度合を低くすることができ、これにより前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさが低減されない場合に比して車輌全体の横力を高くして車輌の旋回限界を向上させることができるだけでなく、車輪発生力変化手段により何れかの車輪の前後力若しくは横力が変化されているときには車輪発生力変化手段による変化分を差し引いた車輪の前後力及び横力に基づいて横力発生の余裕度合が推定されるので、車輪発生力変化手段による車輪の前後力若しくは横力の変化の影響を受けない前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御することができ、これにより車輪発生力変化手段の制御及びロール剛性の制御にハンチングが発生することを確実に防止することができる。
また上記請求項2の構成によれば、車輪発生力変化手段は走行挙動が不安定であるときに各車輪の前後力を変化させることにより走行挙動を安定化させる挙動制御手段を含むので、車輪発生力変化手段による車輪の前後力の変化の影響を受けない前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御することができ、これにより挙動制御手段による車輪前後力の制御及びロール剛性の制御にハンチングが発生することを確実に防止することができる。
また上記請求項3の構成によれば、車輪発生力変化手段は走行挙動が不安定であるときに各車輪の横力を変化させることにより走行挙動を安定化させる挙動制御手段を含むので、車輪発生力変化手段による車輪の横力の変化の影響を受けない前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御することができ、これにより挙動制御手段による車輪横力の制御及びロール剛性の制御にハンチングが発生することを確実に防止することができる。
また上記請求項4の構成によれば、車輪発生力変化手段は走行挙動が安定であるときに駆動力の配分を制御することにより車輌のヨー運動を制御するヨー運動制御手段を含むので、ヨー運動制御手段による駆動力の配分制御に起因する車輪駆動力の変化の影響を受けない前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するよう前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御することができ、これによりヨー運動制御手段による駆動力の配分制御及びロール剛性の制御にハンチングが発生することを確実に防止することができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4の構成に於いて、横力発生の余裕度合を推定する手段は各車輪の前後力及び横力を推定し、車輪発生力変化手段による車輪の前後力及び横力の変化分を推定し、各車輪の前後力より前後力の変化分を減算することにより補正後の各車輪の前後力を演算し、各車輪の横力より横力の変化分を減算することにより補正後の各車輪の横力を演算し、補正後の前後力及び横力に基づいて前輪及び後輪の横力発生の余裕度合を演算するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至4又は上記好ましい態様1の構成に於いて、挙動制御手段は走行挙動が不安定であるときに各車輪の制動力を変化させることにより走行挙動を安定化させるよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3又は4又は上記好ましい態様1又は2の構成に於いて、挙動制御手段は走行挙動が不安定であるときに操舵輪の舵角を変化させることにより走行挙動を安定化させるよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至3の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は前輪が発生可能な横力に対する前輪が増大可能な横力の比として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は後輪が発生可能な横力に対する後輪が増大可能な横力の比として演算されるよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は左右前輪が発生可能な横力の和に対する左右前輪が増大可能な横力の和の比として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は左右後輪が発生可能な横力の和に対する左右後輪が増大可能な横力の和の比として演算されるよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至3の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は前輪が発生可能な横力と前輪が発生している横力との差として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は後輪が発生可能な横力と後輪が発生している横力との差として演算されるよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様6の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合は左右前輪が発生可能な横力の和と左右前輪が発生している横力の和との差として演算され、後輪の横力発生の余裕度合は左右後輪が発生可能な横力の和と左右後輪が発生している横力の和との差として演算されるよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至7の構成に於いて、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさの低減は、横力発生の余裕度合が高い方のロール剛性配分比を増大させると共に横力発生の余裕度合が低い方のロール剛性配分比を低下させることより行われるよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至8の構成に於いて、挙動制御手段は車輌のスピンの程度を示すスピン状態量を演算し、スピン状態量に応じて車輌にスピン抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させることにより車輌の走行運動を安定化させるよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至9の構成に於いて、挙動制御手段は車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量を演算し、ドリフトアウト状態量に応じて車輌にドリフトアウト抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させることにより車輌の走行運動を安定化させるよう構成される(好ましい態様10)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至10の構成に於いて、制御手段は基本ロール剛性配分比と、前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するためのロール剛性配分比増減量との和として目標前後輪ロール剛性配分比を演算し、目標前後輪ロール剛性配分比に基づき前後輪ロール剛性配分比可変手段を制御するよう構成される(好ましい態様11)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至11の構成に於いて、制御手段は車輌のロールモーメントを推定し、車輌のロールモーメントの大きさが小さいときには車輌のロールモーメントの大きさが大きいときに比して前記偏差の大きさの低減度合を小さくするよう構成される(好ましい態様12)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至4又は上記好ましい態様1乃至12の構成に於いて、前後輪ロール剛性配分比可変手段は前輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより前輪位置のロール剛性を変化させる前輪位置のロール剛性可変手段と、後輪位置のアンチロールモーメントを変化させることにより後輪位置のロール剛性を変化させる後輪位置のロール剛性可変手段とを含むよう構成される(好ましい態様13)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様13の構成に於いて、制御手段は前記偏差の大きさを低減する目標前後輪ロール剛性配分比を演算し、車輌のロールモーメントを推定し、前記車輌のロールモーメントに基づき車輌の目標アンチロールモーメントを演算し、前後輪ロール剛性配分比が前記目標前後輪ロール剛性配分比になると共に車輌のアンチロールモーメントが前記目標アンチロールモーメントになるよう前記前輪位置のロール剛性可変手段及び前記後輪位置のロール剛性可変手段を制御するよう構成される(好ましい態様14)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11又は13の構成に於いて、制御手段は車輌の横加速度を検出し、検出された車輌の横加速度に基づいて車輌のロールモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様15)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11又は13の構成に於いて、制御手段は車速及び操舵角に基づき車輌の横加速度を推定し、推定された車輌の横加速度に基づいて車輌のロールモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様16)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様11又は13の構成に於いて、制御手段は車輌の横加速度を検出すると共に車速及び操舵角に基づき車輌の横加速度を推定し、推定された車輌の横加速度及び推定された車輌の横加速度に基づいて車輌のロールモーメントを推定するよう構成される(好ましい態様17)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様13又は14の構成に於いて、ロール剛性可変手段は二分割のスタビライザと該スタビライザのトーションバーを相対回転させるアクチュエータとを有するアクティブスタビライザを含み、アクチュエータの回転角度の増減によってアンチロールモーメントを増減することによりロール剛性を増減するよう構成される(好ましい態様18)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様13又は14の構成に於いて、ロール剛性可変手段はサスペンションスプリングのばね定数を増減することによってサスペンションの支持剛性を増減することによりロール剛性を増減するよう構成される(好ましい態様19)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は前輪側及び後輪側にアクティブスタビライザ装置を有し自動転舵装置として機能する転舵角可変装置を備えた四輪駆動車に適用された本発明による車輌のロール剛性制御装置の一つの実施例の要部を示す概略構成図、図2は実施例の駆動系及び転舵角可変装置を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の操舵輪である前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌12の非操舵輪である左右の後輪を示している。左右の前輪10FL及び10FRの間にはアクティブスタビライザ装置16が設けられ、左右の後輪10RL及び10RRの間にはアクティブスタビライザ装置18が設けられている。アクティブスタビライザ装置16及び18はアンチロールモーメントを車輌(車体)に付与すると共に必要に応じてアンチロールモーメントを増減するアンチロールモーメント付与手段として機能する。
アクティブスタビライザ装置16は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分16TL及び16TRと、それぞれトーションバー部分16TL及び16TRの外端に一体に接続された一対のアーム部16AL及び16ARとを有している。トーションバー部分16TL及び16TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の回りに回転可能に支持されている。アーム部16AL及び16ARはそれぞれトーションバー部分16TL及び16TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部16AL及び16ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右前輪10FL及び10FRの車輪支持部材又はサスペンションアームに連結されている。
アクティブスタビライザ装置16はトーションバー部分16TL及び16TRの間にアクチュエータ20Fを有している。アクチュエータ20Fは必要に応じて一対のトーションバー部分16TL及び16TRを互いに逆方向へ回転駆動することにより、左右の前輪10FL及び10FRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右前輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、前輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
同様に、アクティブスタビライザ装置18は車輌の横方向に延在する軸線に沿って互いに同軸に整合して延在する一対のトーションバー部分18TL及び18TRと、それぞれトーションバー部分18TL及び18TRの外端に一体に接続された一対のアーム部18AL及び18ARとを有している。トーションバー部分18TL及び18TRはそれぞれ図には示されていないブラケットを介して図には示されていない車体に自らの軸線の回りに回転可能に支持されている。アーム部18AL及び18ARはそれぞれトーションバー部分18TL及び18TRに対し交差するよう車輌前後方向に延在し、アーム部18AL及び18ARの外端はそれぞれ図には示されていないゴムブッシュ装置を介して左右後輪10RL及び10RRの車輪支持部材又はサスペンションアームに連結されている。
アクティブスタビライザ装置18はトーションバー部分18TL及び18TRの間にアクチュエータ20Rを有している。アクチュエータ20Rは必要に応じて一対のトーションバー部分18TL及び18TRを互いに逆方向へ回転駆動することにより、左右の後輪10RL及び10RRが互いに逆相にてバウンド、リバウンドする際に捩り応力により車輪のバウンド、リバウンドを抑制する力を変化させ、これにより左右後輪の位置に於いて車輌に付与されるアンチロールモーメントを増減し、後輪側の車輌のロール剛性を可変制御する。
尚アクティブスタビライザ装置16及び18の構造自体は本発明の要旨をなすものではないので、電子制御装置22によって制御されることにより車輌のロール剛性を可変制御し得るものである限り当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよいが、例えば本願出願人の出願にかかる特開2005−88722の公開公報に記載のアクティブスタビライザ装置、即ち一方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車が取り付けられた回転軸を有する電動機と、他方のトーションバー部分の内端に固定され駆動歯車に噛合する従動歯車とを有し、駆動歯車及び従動歯車は駆動歯車の回転を従動歯車へ伝達するが、従動歯車の回転を駆動歯車へ伝達しない歯車であるアクティブスタビライザ装置であることが好ましい。
各車輪の制動力は制動装置26の油圧回路28によりホイールシリンダ30FL、30FR、30RL、30RR内の圧力Pi(i=fl、fr、rl、rr)、即ち制動圧が制御されることによって制御されるようになっている。図1には示されていないが、油圧回路28はオイルリザーバ、オイルポンプ、種々の弁装置等を含み、各ホイールシリンダの制動圧は通常時には運転者によるブレーキペダル32の踏み込み操作に応じて駆動されるマスタシリンダ34により制御され、また必要に応じて後に詳細に説明する如く運転者によるブレーキペダル32の踏み込み操作に関係なく電子制御装置22により個別に制御される。
また図示の実施例に於いては、図2に示されている如く、左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型のパワーステアリング装置36によりラックバー38及びタイロッド40L及び40Rを介して転舵される。
ステアリングホイール14は第一のステアリングシャフトとしてのアッパステアリングシャフト42、転舵角可変装置44、第二のステアリングシャフトとしてのロアステアリングシャフト46、ユニバーサルジョイント48を介してパワーステアリング装置36のピニオンシャフト50に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置44はハウジング44Aの側にてアッパステアリングシャフト42の下端に連結され、回転子44Bの側にてロアステアリングシャフト46の上端に連結された補助転舵駆動用の電動機52を含んでいる。
かくして転舵角可変装置44はアッパステアリングシャフト42に対し相対的にロアステアリングシャフト46を回転駆動することにより、ステアリングホイール14の回転角度に対する操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRの舵角の比、即ち操舵伝達比(ステアリングギヤ比の逆数)を変化させる操舵伝達比可変手段として機能し、電子制御装置22により制御される。
また図示の実施例に於いては、図2に示されている如く、例えばエンジン及びトランスミッションよりなる駆動装置54の駆動トルクはセンターディファレンシャル56により前輪プロペラシャフト58及び後輪プロペラシャフト60へ伝達される。前輪プロペラシャフト58へ伝達された駆動トルクは前輪ディファレンシャル62により左前輪車軸64L及び右前輪車軸64Rへ伝達され、これにより左右の前輪10FL及び10FRが回転駆動される。また後輪プロペラシャフト60へ伝達された駆動トルクは後輪ディファレンシャル66により左後輪車軸68L及び右後輪車軸68Rへ伝達され、これにより左右の後輪10RL及び10RRが回転駆動される。
センターディファレンシャル56は電子制御装置22によって制御されることにより、前輪プロペラシャフト58及び後輪プロペラシャフト60に対する駆動トルクの伝達比を制御可能である。また前輪ディファレンシャル62は電子制御装置22によって制御されることにより、左前輪車軸64L及び右前輪車軸64Rに対する駆動トルクの伝達比を制御可能であり、後輪ディファレンシャル66は電子制御装置22によって制御されることにより、左後輪車軸68L及び右後輪車軸68Rに対する駆動トルクの伝達比を制御可能である。
図3に示されている如く、電子制御装置22はアクチュエータ20F及び20Rを制御することによりアクティブスタビライザ装置16及び18を制御するアクティブスタビライザ制御用電子制御装置70と、制御装置26の油圧回路28を制御することにより各車輪の制動力を制御する挙動制御用電子制御装置72と、転舵角可変装置44を制御する転舵角制御用電子制御装置74と、駆動装置54の駆動トルク及び各ディファレンシャル(DFT)56、62、66を制御する駆動力配分制御用電子制御装置76とを含んでいる。各電子制御装置はそれぞれCPUとROMとRAMと入出力ポート装置とを有し、これらが双方向性のコモンバスにより互いに接続されたマイクロコンピュータ及び駆動回路よりなっていてよく、必要に応じてCAN78を経て相互に必要な情報の授受を行う。
図3に示されている如く、CAN78には車輌の前後加速度Gxを検出する前後加速度センサ80、車輌の前後加速度Gyを検出する横加速度センサ82、車輌のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ84、車速Vを検出する車速センサ86、操舵角θを検出する操舵角センサ88、アクチュエータ20F及び20Rの実際の回転角度φF、φRを検出する回転角度センサ90F、90Rが接続されており、これらのセンサにより検出された値を示す信号は必要に応じてCAN78を経てアクティブスタビライザ制御用電子制御装置70等へ出力される。
またCAN78にはマスタシリンダ圧力Pmを検出する圧力センサ92、各車輪の制動圧Piを検出する圧力センサ94FL〜94RR、アッパステアリングシャフト32に対するロアステアリングシャフト36の相対回転角度θreを検出する回転角度センサ96、アクセルペダル24の踏み込み量としてのアクセル開度φを検出するアクセル開度センサ98が接続されており、これらのセンサにより検出された値を示す信号も必要に応じてCAN78を経てアクティブスタビライザ制御用電子制御装置70等へ出力される。
尚横加速度センサ82、ヨーレートセンサ84、操舵角センサ88、回転角度センサ90F、90Rはそれぞれ車輌の左旋回時に生じる値を正として横加速度Gy、ヨーレートγ、操舵角θ、回転角度φF、φR、を検出し、回転角度センサ96は左旋回方向への左右前輪の相対転舵の場合を正として相対回転角度θreを検出する。
アクティブスタビライザ制御用電子制御装置70は、後に詳細に説明する如く前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arを演算し、余裕度合Af及びArの差を低減してこれらを同一にする前輪の目標ロール剛性配分比Rsdを演算する。また電子制御装置70は、少なくとも車輌の横加速度Gyに基づき車輌に作用するロールモーメントを推定し、ロールモーメントの大きさが基準値以上であるときには、ロールモーメントを打ち消す方向のアンチロールモーメントが増大するよう車輌の目標アンチロールモーメントMatを演算する。
そして電子制御装置70は、目標アンチロールモーメントMat及び前輪の目標ロール剛性配分比Rsdに基づき前輪の目標アンチロールモーメントMatf及び後輪の目標アンチロールモーメントMatrを演算し、目標アンチロールモーメントMatf及びMatrに基づきアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角度φFt、φRtを演算し、アクチュエータ20F及び20Rの回転角度φF、φRがそれぞれ対応する目標回転角度φFt、φRtになるよう制御し、これにより旋回時等に於ける車輌のロールを好ましい前後輪ロール剛性配分比にて低減する。
かくしてアクティブスタビライザ装置16及び18、電子制御装置70、横加速度センサ82等は、車輌に過大なロールモーメントが作用するときにはアンチロールモーメントを増減させて車輌のロール剛性を増減するロール剛性可変装置として機能する。
挙動制御用電子制御装置72は車輌の走行に伴い変化する車輌の横加速度Gyの如き車輌状態量に基づき車輌のスリップ角βを推定し、車輌の目標スリップ角βtと車輌のスリップ角βとの偏差に基づき車輌のスピンの程度を示すスピン状態量SSを演算する。また電子制御装置36はヨーレートγ偏差Δγに基づき車輌のドリフトアウトの程度を示すドリフトアウト状態量DSを演算する。
そして電子制御装置72はスピン状態量SS及びドリフトアウト状態量DSに基づき車輌のヨー運動が目標のヨー運動になるよう車輌の旋回走行状態を安定化させるための各車輪の目標制動圧Pti(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、各車輪の制動圧Piが目標制動圧Ptiになるよう制御し、これにより車輌にスピン抑制方向又はドリフトアウト抑制方向のヨーモーメントを与えると共に車輌を減速させて車輌の旋回走行状態を安定化させる車輌の走行運動制御を行う。
転舵角制御用電子制御装置74は車輌の挙動が安定な通常の走行時には、車速Vに基づき目標ステアリングギヤ比Rgtを演算し、運転者の操舵操作量を示す操舵角θ及び目標ステアリングギヤ比Rgtに基づき左右前輪の目標舵角δtを演算し、左右前輪の舵角δが目標舵角δtになるよう転舵角可変装置44を制御する。
また転舵角制御用電子制御装置74は電子制御装置72により車輌がスピン状態にあると判定されると、例えば当技術分野に於いて公知の要領にてスピン状態量SSを低減するための左右前輪のカウンタステアの目標舵角δtを演算し、左右前輪の舵角δが目標舵角δtになるよう転舵角可変装置44を制御する。
駆動力配分制御用電子制御装置76は通常時にはアクセル開度センサ98により検出されるアクセル開度φに基づいてエンジンの出力を制御すると共に、車輌の走行状況に基づいてトランスミッションの変速段を制御する。
また駆動力配分制御用電子制御装置76は車輌の挙動が安定であるときには、車速V及び操舵角θに基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて車輌の目標ヨーレートγtを演算し、車輌の実際のヨーレートγと目標ヨーレートγtとの偏差Δγを演算し、ヨーレート偏差Δγの大きさが大きく駆動力の配分制御による車輌のヨーモーメントの制御が必要であるときには、ヨーレート偏差Δγの大きさが小さくなるよう、センターディファレンシャル56を制御することによって駆動力の前後配分を制御し、若しくは前輪ディファレンシャル62若しくは後輪ディファレンシャル66を制御することによって駆動力の左右配分を制御する。
特に図示の実施例に於いては、アクティブスタビライザ制御用電子制御装置70は、後に詳細に説明する如く、当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の駆動力及び制動力に基づいて各車輪の前後力Fxi(i=fl、fr、rl、rr)を演算し、挙動制御による各車輪の前後力の変化分Fxdyci、左右前輪の転舵角制御による各車輪の横力の変化分Fystci、駆動力の左右配分制御による各車輪の前後力の変化分Fxdvciを演算し、前後力Fxiより前後力の変化分Fxdyci及びFxdvciを減算した補正後の各車輪の前後力Fxaiに基づいて各車輪の横力Fyiを演算し、各車輪の横力Fyiより横力の変化分Fystciを減算した補正後の各車輪の横力Fyaiに基づいて前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arを演算する。
尚、アクティブスタビライザ制御用電子制御装置70によるロール剛性の制御以外の上述の各電子制御装置による車輌の挙動制御等の各制御は本発明の要旨をなすものではなく、これらの制御は当技術分野に於いて公知の任意の要領にて実行されてよい。
次に図4に示されたフローチャートを参照して実施例に於いてアクティブスタビライザ制御用電子制御装置70により達成される前後輪ロール剛性配分比及びアンチロールモーメントの制御について説明する。尚図4に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチが閉成されることにより開始され、イグニッションスイッチが開成されるまで所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては車速センサ38により検出された車速Vを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては図6に示されたフローチャートに従って後に詳細に説明する如く前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arが演算される。
ステップ40に於いてはRsdnを前輪の基本ロール剛性配分比Rsdb(例えば0.5程度の値)とし、Kfを正の一定の係数として、前後輪の横力発生の余裕度合Af、Arに基づき下記の式1に従って前輪の目標ロール剛性配分比Rsdが演算される。
Rsd=Rsdb+Kf(Af−Ar)/(Af+Ar) ……(1)
ステップ50に於いては車輌の横加速度Gyに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより重みWgが0以上1以下の値として演算され、ステップ60に於いては車輌の横加速度Gyの大きさが小さいときの前輪の目標ロール剛性配分比をRsds(例えば0.6程度の値)として、下記の式2に従って前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算される。
Rsdt=Rsds(1−Wg)+Rsd・Wg ……(2)
ステップ70に於いては例えば車輌の横加速度Gyの大きさが大きいほど目標アンチロールモーメントMatが大きくなるよう、車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ80に於いてはそれぞれ下記の式3及び4に従って前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算される。
Maft=Rsdt・Mat ……(3)
Mart=(1−Rsdt)Mat ……(4)
ステップ90に於いてはそれぞれ前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartに基づきアクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rの目標回転角φft及びφrtが演算され、ステップ100に於いてはそれぞれアクチュエータ20F及び20Rの回転角φf及びφrがそれぞれ目標回転角φft及びφrtになるよう制御される。
次に図6に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける前後輪の横力発生の余裕度合Af、Ar演算ルーチンについて説明する。
まずステップ22に於いては車輌の静止時に於ける各車輪の接地荷重Fzoi(i=fl、fr、rl、rr)、車輌の前後加速度Gx、車輌の横加速度Gyに基づき、当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の接地荷重Fzi(i=fl、fr、rl、rr)が演算され、ステップ24に於いては駆動力配分制御用電子制御装置76よりの情報に基づき各車輪の駆動力が演算され、挙動制御用電子制御装置72よりの情報に基づき各車輪の制動力が演算され、これらの駆動力及び制動力に基づき当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の前後力Fxi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
ステップ26に於いては各車輪のキャンバスラスト荷重依存係数をKi(i=fl、fr、rl、rr)として、下記の式5に従って各車輪のキャンバスラスト係数Kcami(i=fl、fr、rl、rr)が演算されると共に、当技術分野に於いて公知の要領にて推定される路面のキャンバ角(左下がり方向が正)をAcamとして、下記の式6に従って各車輪のキャンバスラストFcami(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Kcami=Fzi・Ki ……(5)
Fcami=Acam・Kcami ……(6)
ステップ28に於いては挙動制御による各車輪の前後力の変化分Fxdyci及び駆動力の配分制御による各車輪の前後力の変化分Fxdvciを示す信号の読み込みが行われると共に、下記の式7に従って前後力Fxiより前後力の変化分Fxdyci及びFxdvciを減算した補正後の各車輪の前後力Fxaiが演算される。
Fxai=Fxi−Fxdyci−Fxdvci ……(7)
ステップ30に於いては当技術分野に於いて公知の要領にて推定又は検出される路面の摩擦係数をμとして、下記の式8に従って各車輪の横力Fyi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Fyi=(μ 2 Fzi 2 −Fxai 2 ) 1/2 ……(8)
ステップ32に於いては転舵角制御による左右前輪の転舵角の増減量に基づいて当技術分野に於いて公知の要領にて各車輪の横力の変化分Fystciが演算されると共に、下記の式9に従って各車輪の横力Fyiより横力の変化分Fystciを減算した補正後の各車輪の横力Fyaiが演算される。
Fyai=Fyi−Fystci ……(9)
ステップ34に於いては下記の式10に従って各車輪の発生可能な最大横力Fymaxi(i=fl、fr、rl、rr)が演算される。
Fymaxfl=Fyafl+Fcamfl
Fymaxfr=Fyafr−Fcamfr
Fymaxrl=Fyarl+Fcamrl
Fymaxrr=Fyarr−Fcamrr ……(10)
ステップ36に於いては下記の式11に従って前輪の横力発生の余裕度合Afが演算される。
Af=1−(|Fyafl|+|Fyafr|)/(|Fymaxfl|+|Fymaxfr|) ……(11)
同様に、ステップ38に於いては下記の式12に従って後輪の横力発生の余裕度合Arが演算される。
Ar=1−(|Fyarl|+|Fyarr|)/(|Fymaxrl|+|Fymaxrr|) ……(12)
かくしてステップ20に於いて前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arが演算され、ステップ40に於いて前後輪の横力発生の余裕度合Af、Arに基づき余裕度合Af及びArの差を低減してこれらを同一にするための前輪の目標ロール剛性配分比Rsdが演算され、ステップ50及び60に於いて前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算され、ステップ70に於いて車輌の横加速度Gyに基づき目標アンチロールモーメントMatが演算され、ステップ80に於いて最終目標ロール剛性配分比Rsdtにて目標アンチロールモーメントMatを達成するための前輪の目標アンチロールモーメントMaft及び後輪の目標アンチロールモーメントMartが演算され、ステップ90及び100に於いて目標アンチロールモーメントMaft及びMartが達成されるようアクティブスタビライザ装置16及び18が制御される。
従って車輌全体のアンチロールモーメントを目標アンチロールモーメントMatに制御して車輌のロールを効果的に低減することができると共に、前後輪ロール剛性配分比を最終目標ロール剛性配分比Rsdtに対応する前後輪ロール剛性配分比に制御し、これにより前輪の横力発生の余裕度合Afと後輪の横力発生の余裕度合Arとの偏差の大きさが低減されるので、余裕度合Af及びArの偏差の大きさが低減されない場合に比して車輌全体の横力を高くして車輌の旋回限界を向上させることができる。
また図示の実施例によれば、車輌の旋回時のステア特性を自動的に好ましく変化させることができる。即ち車輌の前後輪ロール剛性配分比は一般に良好な旋回安定性を確保すべく前輪寄りに設定されるので、車輌が旋回を開始すると、まず前輪に旋回横力が発生して前輪の横力発生の余裕度合Afが低下し、これに対処して前後輪ロール剛性配分比が後輪寄り側へ変化され、車輌のステア特性がオーバーステア側へ変化され、車輌が容易に旋回し得るようになり、その後後輪の横力発生の余裕度合Arが低下した状況になると、これに対処して前後輪ロール剛性配分比が前輪寄り側へ変化され、車輌のステア特性がアンダーステア側へ変化され、車輌の良好な旋回安定性が確保される。
特に図示の実施例によれば、ステップ22及び24に於いて各車輪の前後力Fxiが演算され、ステップ28に於いて前後力Fxiより挙動制御による前後力の変化分Fxdyci及び駆動力の配分制御による前後力の変化分Fxdvciを減算した補正後の各車輪の前後力Fxai、即ち駆動力の配分制御及び挙動制御による前後力の変化分を除外した各車輪の前後力が演算され、ステップ30に於いて補正後の各車輪の前後力Fxaiに基づいて各車輪の横力Fyiが演算され、ステップ32に於いて各車輪の横力Fyiより転舵角制御による横力の変化分Fystciを減算した補正後の各車輪の横力Fyai、即ち転舵角制御による横力の変化分を除外した各車輪の横力が演算される。
そしてステップ34に於いて補正後の各車輪の横力Fyaiと各車輪のキャンバスラストFcamiとの和として各車輪の発生可能な最大横力Fymaxiが演算され、ステップ36及び38に於いて補正後の各車輪の横力Fyai及び発生可能な最大横力Fymaxiに基づいて前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arが演算される。
従って駆動力の配分制御及び挙動制御による前後力の変化分を除外した各車輪の前後力及び転舵角制御による横力の変化分を除外した各車輪の横力に基づいて前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arを演算することができるので、駆動力の配分制御、挙動制御、転舵角制御による車輪の前後力若しくは横力の変化の影響を受けない前輪の横力発生の余裕度合と後輪の横力発生の余裕度合との偏差の大きさを低減するようロール剛性の前後輪配分比を制御することができ、これにより駆動力の配分制御、挙動制御、転舵角制御とロール剛性の制御との間にハンチングが発生することを確実に防止することができる。
また図示の実施例によれば、ステップ50に於いて車輌の横加速度Gyの大きさが小さい領域に於いては重みWgが小さくなるよう、車輌の横加速度Gyに基づいて重みWgが0以上1以下の値として演算され、ステップ60に於いて上記式2に従って前輪の最終目標ロール剛性配分比Rsdtが演算されるので、車輌の横加速度Gyの大きさが小さく前後輪ロール剛性配分比の制御による前後輪の横力の増減効果が低い状況に於いて前後輪ロール剛性配分比の制御が無駄に実行されることを防止し、前後輪ロール剛性配分比の制御頻度や制御によるエネルギの消費を低減することができ、特に前輪のロール剛性が低下することに起因する操舵フィーリングの悪化を低減することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、車輪の前後力の制御による挙動制御、操舵輪の舵角の制御による挙動制御、駆動力の配分制御による車輌のヨーコントロールが行われるようになっているが、本発明のロール剛性制御装置は制動力の制御による挙動制御、操舵輪の舵角の制御による挙動制御、駆動力の配分制御による車輌のヨーコントロールの何れかが行われない車輌に適用されてもよい。また車輪の前後力の制御による挙動制御は各車輪の制動力が制御されることにより実行されるようになっているが、各車輪の制駆動力が制御されることにより達成されてもよい。
また上述の実施例に於いては、前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arはそれぞれ上記式11及び12に従って演算されるようになっているが、前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arは各車輪の増大可能な横力の大きさを表わすよう、各車輪の発生可能な最大横力Fymaxiと各車輪の横力Fyiとの偏差Fymaxi−Fyiの絶対値として演算されてもよい。
また前輪の横力発生の余裕度合Af及び後輪の横力発生の余裕度合Arは各車輪の横力発生の余裕度合を間接的に表わすよう、それぞれ下記の式13及び14に従って各車輪の増大可能な力に対する横力の比である横力負荷率として演算されてもよく、その場合にはステップ70に於ける前輪の目標ロール剛性配分比Rsdは下記の式15に従って演算される。
Af=(|Fyfl|+|Fyfr|)/(|Fymaxfl|+|Fymaxfr|) ……(13)
Ar=(|Fyrl|+|Fyrr|)/(|Fymaxrl|+|Fymaxrr|) ……(14)
Rsd=Rsdb+Kf(Ar−Af)/(Af+Ar) ……(15)
また上述の実施例に於いては、重みWgはステップ50に於いて車輌の横加速度Gyに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより演算されるようになっているが、重みWgは車速Vが低いほど小さく、路面の摩擦係数μが低いほど大きく、アクティブスタビライザ装置16及び18のアクチュエータ20F及び20Rを駆動する電源電圧Veが低いほど小さくなるよう、車速V若しくは路面の摩擦係数μ若しくは電源電圧Veによっても可変設定されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、重みWgはステップ50に於いて車輌の横加速度Gyに基づき0以上1以下の値として演算されるようになっているが、重みWgは推定される車輌のロールモーメント又は目標アンチロールモーメントMatに基づいて演算されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、アクティブスタビライザ装置によりアンチロールモーメントを増減させて車輌のロールを低減すると共に前後輪ロール剛性配分比を可変制御するようになっているが、アンチロールモーメントを増減させる手段は例えばアクティブサスペンションの如く車輪の接地荷重を増減可能な当技術分野に於いて公知の任意の手段であってよい。
また上述の実施例に於いては、車輌の横加速度Gyに基づき車輌の目標アンチロールモーメントMatが演算されるようになっているが、目標アンチロールモーメントMatは車速V及び操舵角θに基づいて演算される車輌の推定横加速度Gyhに基づいて演算されてもよい、また例えば車輌の横加速度Gy及び車輌の推定横加速度Gyhの線形和に基づいて演算されてもよい。