図1は本発明の実施形態の参考例1における光ピックアップの概略構成を示す図である。図1に示すように、単一の対物レンズ108で、異なる光源波長を用いて、3種類の光記録媒体(BD系,DVD系,CD系)を異なる開口数:NAで記録または再生を行う互換型の光ピックアップである。
BD系、DVD系,CD系の光記録媒体109a,109b,109cの基板厚は、それぞれ0.1mm,0.6mm,1.2mmであり、またBD系,DVD系,CD系の光記録媒体109a,109b,109cに対応する。開口数(NA)は、それぞれNA0.85,NA0.65,NA0.50であり、第1,第2,第3の光源の波長λ1,λ2,λ3は、それぞれλ1=395〜415nm,λ2=650〜670nm,λ3=770〜805nmである。
図1に示す光ピックアップは、BD系光記録媒体109aに対して、半導体レーザ101,コリメートレンズ102,偏光ビームスプリッタ103,波長選択性ビームスプリッタ104,偏向プリズム105,1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108,検出レンズ110,受光素子112により構成される。第1の光源である半導体レーザ101の中心波長は405nmであり、対物レンズ108の開口数(NA)は0.85である。また、BD系光記録媒体109aの基板厚は0.1mmである。
半導体レーザ101の出射光は、コリメートレンズ102により略平行光にされる。コリメートレンズ102を通過した光は偏光ビームスプリッタ103に入射し、偏向プリズム105により偏向される。そして、1/4波長板106で円偏光に変換され、収差補正素子107,対物レンズ108を介してBD系光記録媒体109aに集光されることにより、情報の記録,再生がされる。そして、BD系光記録媒体109aからの反射光は1/4波長板106を通過した後、往路の光の偏光方向とは直交する直線偏光に変換され、偏光ビームスプリッタ103により反射,入射光と分離して偏向され、検出レンズ110により受光素子112上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
なお、この光ピックアップにおいては、DVD系光記録媒体109b用のレーザ光と、CD系光記録媒体109c用のレーザ光と発生する2波長レーザユニット120を有しており、すなわち、互いに波長の異なるレーザ光を出射することができる。
また、DVD系光記録媒体109bに対して、中心波長が660nmのDVD系半導体レーザ113aから出射した光は、コリメートレンズ115,波長選択性ビームスプリッタ104を経て、偏向プリズム105により偏向される。そして、1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108を介して、DVD系光記録媒体109bに集光される。このDVD系光記録媒体109bの基板厚は0.6mmであり、開口数(NA)は0.65である。NAの切り替えは、収差補正素子107により制限される。そして、DVD系光記録媒体109bからの反射光は対物レンズ108,1/4波長板106を通過した後、波長選択性ビームスプリッタ104により偏向され、ホログラム素子114により入射光と分離してDVD系受光素子113c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
さらに、CD系光記録媒体109cに対して、中心波長が785nmのCD系半導体レーザ116aから出射した光は、コリメートレンズ115,波長選択性ビームスプリッタ104を経て、偏向プリズム105により偏向される。そして、1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108を介して、CD系光記録媒体109cに集光される。このCD系光記録媒体109cの基板厚は1.2mmであり、対物レンズの開口数(NA)は0.50である。NAの切り替えは、収差補正素子107により制限される。そして、CD系光記録媒体109cからの反射光は対物レンズ108,1/4波長板106を通過した後、波長選択性ビームスプリッタ104により偏向され、ホログラム素子114により入射光と分離してCD系受光素子116c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
また、光ピックアップの構成はこれに限定されるものでなく、例えば2波長レーザユニット120のように1つのパッケージに収められている受光素子を他のパッケージに収めてもよい。すなわち、図1に示す2波長レーザユニット120の代わりに、DVD系,CD系受光素子113c,116c、ホログラム素子114を除いた2波長レーザユニットを用い、受光素子、ホログラムは別の位置に配置してもよい。さらに、DVD系,CD系受光素子113c,116cのように各波長に対応して受光素子を配置する代わりに、共通の受光素子で2つの波長の光を受光してもよい。
ここで、対物レンズ108は厚さ0.1mmのBD系光記録媒体109aを高精度に記録/再生できるように最適に設計されている。設計波長は405nmであり、波長405nmでは波面収差0.01λrms以下と十分小さくなるよう設計されている。対物レンズ108は、高NA化,短波長化に伴い製造誤差の影響を受けやすい、言い方をかえると製造マージンが狭いため、本実施形態1では対物レンズ108は3種類の光記録媒体のうちのBD系光記録媒体109aに対応した設計としている。
なお、本参考例1の対物レンズ108は、厚さ0.1mmのBD系光記録媒体109aに最適に設計されているが、これに限定されるものではない。例えば、情報記録面を2層有する2層Blu-ray Discの光記録媒体では、情報記録面を光入射側から0.075mmと0.100mmの位置に情報記録面を有するため、その中間値の厚さ0.0875mmを設計中央値とした対物レンズであってもよい。
図2に対物レンズ108の具体的な構成例を示す。本参考例1の対物レンズ108は両面非球面形状であり、面の頂点を原点とし、光軸方向をX軸とした直交座標系において、rを近軸曲率半径、κを円錐形数、A,B,C,D,E,F,G,H,J,・・・を非球面係数とするとき、面の光軸方向の距離xと半径Rの関係より、非球面形状は、(数1)
で表される。各面および各領域の面データを(表1)に示す。
ここで、ガラスの硝材は住田光学製のKVC81、対物レンズ108の有効瞳半径は2.15mmである。なお、対物レンズ108の材料としては、ガラスに限らず、樹脂を用いてもよい。
図3〜図6は収差補正素子107を説明するための図であり、図3,図4は拡大された断面図、図5,図6は各回折面を示す図である。
図1に示すように、収差補正素子107は、DVD系光記録媒体109bに対して、660nmのDVD系半導体レーザ113aから出射した光が、対物レンズ108で基板厚の違いにより発生する球面収差を補正、および対物レンズ108のNAを切り替えするための開口制限の機能を有するとともに、CD系光記録媒体109cに対して、785nmのCD系半導体レーザ116aから出射した光が、対物レンズ108で基板厚の違いにより発生する球面収差を補正、および対物レンズ108のNAを切り替えするための開口制限の機能を有する。
図3,図4に本参考例1の収差補正素子107の断面図を示す。収差補正素子107の材料としては、ガラスや樹脂あるいはガラス基板上にUV樹脂層を設けて、この樹脂層に回折構造を設けたものであればよいが、ガラスと比べて軽く、成型加工が容易で大量生産がしやすいという観点から樹脂が望ましい。本実施形態1の収差補正素子107は、対物レンズ保持体108bに搭載され、フォーカシングやトラッキングのために可動することから、軽い方が望ましい。樹脂としては、例えばPMMA(ポリメチルメタクリレート:405nm,660nm,785nmの各波長での屈折率は、1.51,1.49,1.48)や、吸湿特性がよい日本ゼオン社製の光学樹脂であるゼオネックスなどが挙げられる。
なお、回折構造の作製方法としては、材料がガラスの場合はエッチングやモールディングで行えばよく、また樹脂材料の場合はインプリントやモールディングで行えばよい。
DVD系補正用の回折面53は、図5に示すように光束が通過する範囲内に、同心円状に分割された2つの第1,第2の領域53a,53bを有する。第1の領域53aはDVD系光記録媒体109bに対するNA0.65の領域に相当し、本参考例1では半径1.57mmと設定する。第1の領域53aには、回折構造が形成されてなり、波長405nmの第1の光束については、その大半が0次光で透過し、波長660nmの第2の光束については、その大半が1次回折光となり、波長785nmの第3の光束については、その大半が0次光で透過する。
第2の領域53bは、DVD系光記録媒体109bに対するNA0.65からBD系光記録媒体109cに対するNA0.85の領域に相当し、本参考例1では半径1.57mmから2.2mmに設定する。そして、第2の領域53bは回折構造が形成されない平坦な構造となっている。
CD系補正用の回折面52は、図6に示すように光束が通過する範囲内に、同心円状に分割された2つの第1,第2の領域52a,52bを有する。第1の領域52aはCD系光記録媒体109cに対するNA0.50の領域に相当し、本参考例1では半径1.32mmと設定する。第1の領域52aには、回折構造が形成されてなり、波長405nmの第1の光束、波長660nmの第2の光束については、その大半が0次光で透過し、波長785nmの第3の光束については、その大半が1次回折光となる。
第2の領域52bは、CD系光記録媒体109cに対するNA0.50からBD系光記録媒体109aに対するNA0.85の領域に相当し、本参考例1では半径1.32mmから2.2mmに設定する。第2の領域52bは回折構造が形成されない平坦な構造となっている。
回折面53の第1の領域53aは、光軸垂直面内で光軸中心に同心円状のパターンからなる回折構造が形成されていて、+1次回折光を生成する。同心円状の回折パターンは、BD系光記録媒体109aに対して最適設計された対物レンズ108で波長660nm、基板厚0.6mmのDVD系光記録媒体109bに集光した際に発生する球面収差を打ち消すように設計されており、結果、DVD系光記録媒体109b上に回折限界まで集光するスポットを形成する。
回折面52の第1の領域52aは、光軸垂直面内で光軸中心に同心円状のパターンからなる回折構造が形成されていて、+1次回折光を生成する。同心円状の回折パターンは、BD系光記録媒体109aに対して最適設計された対物レンズ108で波長785nm、基板厚1.2mmのCD系光記録媒体109cに集光した際に発生する球面収差を打ち消すように設計されており、結果、CD系光記録媒体109c上に回折限界まで集光するスポットを形成する。
回折面52,53の両面で回折構造の外側(輪帯領域)の第2の領域52b,53bは回折構造が形成されない平坦部であり、第2の光束,第3の光束をそのまま透過させる。例えば、第1の領域53aを透過した光はDVD系光記録媒体109bに対しては対物レンズ108より集光され、第2の領域53bを通過した光はDVD系光記録媒体109bに対しては集光されず、図7(a),(b)に示すような散乱光となり集光には作用せず、記録再生に影響しない。すなわち、特別な構造やコートを行わずにDVD系光記録媒体109bに対するNA0.65の制限を行うことができる。
次に、収差補正素子107に形成される回折面53,52の各段の高さについて説明する。まず、回折面53の各段の高さについて図8を用いて説明する。回折光学系では、入射光すべてのエネルギーが出射光に変換されるのではなく、回折効率と呼ばれる効率でしか変換されない。図8の点線に示すような鋸歯状のキノフォーム形状は、ある波長でブレーズ化されると、その波長での回折効率は薄型近似の場合、理論的には100%である。
回折面53は、3波長のうち、660nmの第2の光束に対してのみ1次の回折光として使用し、回折面52は、3波長のうち、785nmの第3の光束に対してのみ1次の回折光として使用する図8に示すような階段近似した形状とする。また、階段状にすると、理想的なキノフォーム形状を製作するよりも容易となる。
図9(a),(b)に階段状の溝深さDと効率の関係を示す。図9(a)は回折面53の第1の領域53aとして、4段の階段構成を選択した場合で、BD_0次光,DVD_−1次光,DVD_0次光,DVD_+1次光,CD_0次光に対する結果である。材料にPMMAを用いる場合、溝深さDを5.9μmとすると、どの波長に対しても所望の効率を得ることができる。効率は、第1の光束の0次透過光,第2の光束の1次回折光,第3の光束の0次透過光でそれぞれ72%,65%,63%となる。5.9μmの溝深さDは一段に換算すると0.196μmの溝深さとなる。
図9(b)は回折面52の第1の領域52aとして、2段の階段構成を選択した場合で、BD_0次光,DVD_0次光,CD_+1次光,CD_0次光に対する結果である。材料にPMMAを用いる場合、溝深さDを3.7μmとすると、どの波長に対しても所望の効率を得ることができる。効率は、第1の光束の0次透過光,第2の光束の1次回折光,第3の光束の0次透過光でそれぞれ81%,76%,39%となる。
また、収差補正素子107の回折面53で第1の領域53aの断面は、図3に示されるように同心円上に形成された複数の輪帯状凹凸部からなる。各輪帯状凹凸部は階段状であり、4つの段を有する。輪帯状凹凸部のピッチは、この回折構造がレンズ効果を有するように内側から外側に向かって徐々に狭くなっている。
この輪帯状凹凸部のピッチは、DVD系光記録媒体109bに対しては、+1次回折光で収差を補正するよう設定される。
回折面の光路差関数は(数2)
ただし、光軸垂直面の光軸と交わる点を原点とし、光軸方向をX軸とした直交座標系において、φ:光路差関数、R:半径(光軸からの距離)、C1,C2,・・・:光路差係数である。
DVD系補正用の回折面53の第1の領域53aの光路差係数を(表2(a))、同様に、CD系補正用の回折面52の第1の領域52aの光路差係数を(表2(b))に示す。
次に、本
参考例1の収差補正素子107の外形形状について、詳細に説明する。図5,図6に示したように、収差補正素子107の外形の形状は、回折部(第1の領域)と平坦部(第2の領域)との境界と同様の円形状とする。なお、円形状とは、多角形を含み、図10に示すような8角形においても、同様の効果が得られる。さらに、これらの円形状、多角形形状は外形形状が光束有効径の30%増しの場合であり、それ以上に外形形状が大きい場合は四角の形状であってもよい。
本参考例1で用いているPMMA等の樹脂は、射出成形ができる等の強みがあるため光学部品に最も広く使用され、大量生産しやすいという特徴があるが、一方で吸湿性が弱点として挙げられる。これは屈折率や透過率といった光学特性を変動させるだけでなく、変形としても現れる。
図11(a)〜(d)に収差補正素子が四角形状の場合の波長405nmの透過波面の実測結果を示す。図11(a)は光線有効径内の第1の領域53a,第2の領域53bにおける透過波面測定の結果であり、波面形状を示す。図11(b),(c)は図11(a)の結果を各領域に分割して波面測定した結果である。図11(b)は回折部のみの透過波面形状53g、図11(c)は平坦部のみの透過波面形状53fを示す。波面形状をもとに波面収差を計算させたところ、図11(a)の光線有効径(第1,第2の領域53a,53b)内の波面形状はPV値が0.5λ、波面収差0.1λrmsと波面精度が非常に悪い。通常、光学部品の波面収差は0.02λrms以下であることが望ましい。
図11(b)の回折部(第1の領域53a)内の波面収差は、0.02λrmsとなり良好な波面精度であるのに対して、図11(c)の平坦部(第2の領域53b)の波面収差は0.13λrmsと大きく、光線有効径内の波面精度が悪い原因は、平坦部にあることがわかる。図11(d)は平坦部の波面形状を円周方向に沿って、プロットしたものである。平坦部は収差補正素子107の四角の形状に沿って、うねりが発生しており波面劣化の要因となっていると考えられる。
収差補正素子107の回折部と平坦部との境界において、外形の四角形の辺から近いところ53dと遠いところ53eが存在し、近いところ53dと遠いところ53eではPMMAの吸湿に差異がある。この吸湿の差異が変形の差異となり、うねりが発生している。
また、図12(a)〜(d)に収差補正素子が円形状の場合の波長405nmの透過波面の実測結果を示す。図12(a)は光線有効径内の第1の領域53a,第2の領域53bにおける透過波面測定の結果であり、波面形状を示す。図12(b),(c)は図12(a)の結果を各領域に分割して波面測定した結果である。図12(b)は回折部のみの透過波面形状53g、図12(c)は平坦部のみの透過波面形状53fを示す。図12(d)は平坦部の波面形状を円周方向に沿って、プロットしたものである。図12(a)の光線有効径(第1,第2の領域53a,53b)内の波面形状より波面収差を計算するとPV値が0.1λ、波面収差0.02λrms、図12(b)の回折部(第1の領域53a)内の波面収差は、0.015λrms、図12(c)の平坦部(第2の領域53b)の波面収差は0.017λrmsであり、周辺部のうねりはなく良好な波面精度である。
このように、収差補正素子107の外形形状を、回折部と平坦部との境界と同様の円形状にすることで、PMMAの吸湿による形状の変化が均一化され、うねりを低減することができ、高精度な光ピックアップを提供することができる。
図13は光ピックアップのアクチュエータ部の概略構成を示す図である。光ピックアップは対物レンズ108と、この対物レンズ108を保持する対物レンズ保持体108bとを備えている。また、対物レンズ保持体108bを支持するベース部25と、このベース部25と対物レンズ保持体108bとの間に介在される弾性支持機構26,27とを備えている。弾性支持機構26,27は、対物レンズ保持体108bをフォーカス方向,トラッキング方向の計2方向に動けるよう、ベース部25に対して弾性的に支持している。ここで、前述のフォーカス方向とは図13のZ軸方向(対物レンズ108の光軸方向)をいい、トラッキング方向とは図13のX軸方向(光記録媒体109の半径方向)をいう。
また、図13には示されない駆動手段を備えており、この駆動手段は、例えば対物レンズ保持体108bに設けられた永久磁石と、ベース部25に対して相対的に固定された駆動コイルとからなる、いわゆるボイスコイルモータによって構成されている。そして、この駆動手段は、駆動コイルへの入力電流に応じて、対物レンズ保持体108bを前記2方向に駆動するようになっている。駆動手段の駆動コイルへの入力電流を制御して、光記録媒体109の情報記録面における記録トラック上に所定のレーザ光スポットを追従させるフォーカスサーボおよびトラッキングサーボを行う。
図3に示す断面図は、本参考例1における収差補正素子107と対物レンズ108の構成を模式的に示す図である。図3に示すように、収差補正素子107と対物レンズ108は、対物レンズ保持体108bにより同軸で一体化されている。具体的には、一端に、収差補正素子107を固定し、他端に対物レンズ108を固定して、これらを光軸に沿って同軸に一体化した構成となっている。
光記録媒体を記録/再生するときに、対物レンズ108はトラッキング制御により、光軸に対して垂直方向に±0.5mm程度の範囲内で移動する。ところが、DVD系光記録媒体109bやCD系光記録媒体109cに対しては、収差補正素子107により回折を受けるため、収差補正素子107が移動せずに、対物レンズ108だけが移動すると、収差が発生して集光スポットが劣化してしまう。そこで、収差補正素子107と対物レンズ108を一体化させ、トラッキング制御時に一体で移動させることにより、良好な集光スポットを得る構成としている。
また、図1に示すように、DVD/CD用の2波長レーザユニット120を用いれば、光ピックアップの小型化、組付工数の低減が図れる。しかしながら、このような2波長レーザユニット120では、2光源は数百ミクロン程度の間隔を有する。そのため、DVD系半導体レーザ113a(光源)を対物レンズ108およびコリメートレンズ115の光軸上に配置した場合、CD系半導体レーザ116a(光源)からの光は図14に示す(破線の光束)ように像高をもってしまい、結果、図15に示すようなコマ収差が発生してしまう。図15は像面上での波面収差であり、横軸は瞳半径位置、縦軸が波面収差であって、コマ収差と呼ばれる非対称な形状になっている。
ところで、本参考例1の収差補正素子107のような平板素子を用いる場合、フレア光への配慮が必要である。光源から対物レンズ108へ向かう光の一部は、光学部品の入射面で、透過せずに正反射光となる。収差補正素子107を入射光に対して垂直に配置した場合、その正反射光が光記録媒体109からの反射光、すなわち信号光と図16(a)に示すように受光素子上に重なってしまい、ノイズ光となる場合がある。そこで対処手段として、光学部品への入射面をわずかに傾ける方法がある。図16(b)に示すように収差補正素子107を傾斜配置させることにより、信号光への正反射光を重畳させずに済む。
しかしながら、収差補正素子107が傾斜すると、これに伴って回折領域が光軸に対して傾斜するとともに、その中心が光軸垂直な方向にシフトする。このような傾斜やシフトは、回折領域に形成される回折構造により回折作用を受けないBD用の波長405nmの第1の光束に関する集光特性に特に影響を与えないが、回折構造により回折作用を受けるDVD用の波長660nmの第2の光束や、CD用の波長785nmの第3の光束に関する集光特性に影響を与え、集光に際して収差が生じる。
そこで、本参考例1の収差補正素子は、次のようなレイアウトをとっている。まず、図4に示すように、取りつけ精度が要求されるDVD系補正用の回折面53を対物レンズ側に配置し、その回折パターンの中心を対物レンズの光軸と略一致させた。回折によってパワーをもった光が光軸に対して傾斜配置した平板を通過した場合の収差の方が大きいため、取りつけ精度が要求されるDVD系補正用の回折面53を対物レンズ側に配置した。なお、コマ収差は、一般に対物レンズのNA値の3乗と、光記録媒体の基板厚と、光源(レーザ光)の波長の逆数とに比例する。
ここで、収差補正素子107において、回折面53の第1の領域53aは、例えばDVD用のもので、NA0.65,基板厚0.6mm,波長660nmであり、回折面52の第1の領域52aは、例えばCD用のもので、NA0.50,基板厚1.2mm,波長785nmである。よって、CD用の第1の領域52aの位置ズレに対し、DVD用の第1の領域53aの位置ズレによって生じるコマ収差の方が大きくなる。
このCD用のコマ収差については、CD用の回折面52の第1の領域52aを通過した光は傾斜した平板を通過するとともに、回折面52が光軸に対してシフトしてしまい、コマ収差が発生する。ここで、本参考例1は、CD用のコマ収差については、前記2波長レーザユニットを用いることによって発生する画角によるコマ収差と、収差補正素子107の傾斜に伴うコマ収差によって低減するように、収差補正素子107の傾斜方向と2波長レーザユニットの配置を工夫する。
図17に示すように2波長レーザユニット120のCD系半導体レーザ116aから出射し、対物レンズ108に斜めに入射する光に対して、収差補正素子107の光軸を対物レンズ108に斜めに入射する光とは反対方向に傾けることにより、図18に示すように、収差補正素子107の傾斜に伴うコマ収差と、2波長レーザユニット120の画角によるコマ収差とにより打ち消すことが可能となる。
例えば、対物レンズ、収差補正素子を用いた光学系において、収差補正素子を対物レンズの光軸に対して2°傾けた場合、CD系の発生コマ収差量は0.03λrms程度である。これに対し、対物レンズの入射光を、対物レンズの光軸に対して収差補正素子を傾ける方向とは反対の方向に0.05°程度傾けて入射させることにより、発生コマ収差量を0.01λrms程度にすることができる。
なお、対物レンズへの入射光の角度:θは、2波長レーザユニットのDVD系,CD系の各半導体レーザの間隔(CD系半導体レーザの光軸からのズレ):ΔXと、コリメートレンズの焦点距離:fによって定まる(θ=asin(Δx/f))。よって、光学系として、最適なコリメートレンズの焦点距離、あるいは収差補正素子の傾斜角を選択すればよい。
また、本参考例1においては、BD,DVD,CD系の3種類の光記録媒体に集光する光ピックアップの構成について説明したが、「BDとDVD」,「BDとCD」,「DVDとCD」の2種類の光記録媒体に集光する光ピックアップであってもよい。
すなわち、「BDとDVD」の場合、
BD用の対物レンズ、DVD用の収差補正素子、BD用とDVD用の2つの光源を備えた光源ユニットからなる光ピックアップにおいて、BD用の光源を対物レンズの光軸上に配置し、DVD用の収差補正素子を光軸に対して傾けて配置し、DVD用の光源が対物レンズの光軸からずれた位置に配置されることにより対物レンズへ斜め入射することに伴い発生するコマ収差と、収差補正素子を斜め配置することにより発生するコマ収差を打ち消す構成であってもよい。
また、「BDとCD」の場合、
BD用の対物レンズ、CD用の収差補正素子、BD用とCD用の2つの光源を備えた光源ユニットからなる光ピックアップにおいて、BD用の光源を対物レンズの光軸上に配置し、CD用の収差補正素子を光軸に対して傾けて配置し、CD用の光源が対物レンズの光軸からずれた位置に配置されることにより対物レンズへ斜め入射することに伴い発生するコマ収差と、収差補正素子を斜め配置することにより発生するコマ収差を打ち消す構成であってもよい。
また、「DVDとCD」の場合、
DVD用の対物レンズ、CD用の収差補正素子、DVD用とCD用の2つの光源を備えた光源ユニットからなる光ピックアップにおいて、DVD用の光源を対物レンズの光軸上に配置し、CD用の収差補正素子を光軸に対して傾けて配置し、CD光源が対物レンズの光軸からずれた位置に配置されることにより対物レンズへ斜め入射することに伴い発生するコマ収差と、収差補正素子を斜め配置することにより発生するコマ収差を打ち消す構成であってもよい。
なお、本参考例1では、収差補正素子を斜め配置する構成について説明してきたが、収差補正素子は図19に示すようなフランジ部107bを有し、回折構造が形成された面のみが対物レンズ108の光軸に対して傾いた構造であってもよい。
図20は本発明の実施形態の参考例2における光ピックアップの概略構成を示す図である。単一の対物レンズ108で、異なる光源波長を用いて、3種類の光記録媒体を異なるNAで記録または再生を行う互換型の光ピックアップである。本参考例2において、前述した参考例1で説明した光ピックアップと異なる点は、3波長レーザユニットを用いていることである。これにより、光学部品点数の削減ができ、組付工程の低減、低コスト化が可能となる。
以下、本参考例2の光ピックアップについて説明する。ここで、参考例1を示す図1において説明した構成要件に対応し同等の機能を有するものには同一の符号を付し示す。
また、本参考例2における3種類のBD系,DVD系,CD系の光記録媒体において、基板厚は、それぞれ0.1mm,0.6mm,1.2mmであり、NAは、それぞれNA0.85,NA0.65,NA0.50であり、使用波長は、それぞれλ1=395〜415nm,λ2=650〜670nm,λ3=770〜805nmである。
図20に示す光ピックアップは、BD系光記録媒体109aに対してBD系半導体レーザ201と、DVD系光記録媒体109bに対してDVD系半導体レーザ213aと、CD系光記録媒体109cに対してCD系半導体レーザ216aとから光を発生する3波長レーザユニット220を有しており、すなわち、互いに波長の異なるレーザ光を出射することができる。
BD系光記録媒体109aに対して、光ピックアップは、BD系半導体レーザ201,コリメートレンズ215,偏向プリズム105,1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108より構成される。第1の光源であるBD系半導体レーザ201の中心波長は405nmであり、対物レンズ108のNAは0.85である。またBD系光記録媒体109aの基板厚は0.1mmである。
BD系半導体レーザ201からの出射光は、コリメートレンズ215により略平行光にされる。コリメートレンズ215を通過した光は偏向プリズム105より偏向される。そして、1/4波長板106で円偏光に変換され、収差補正素子107,対物レンズ108を介してBD系光記録媒体109aに集光されることにより、情報の記録/再生がされる。
また、BD系光記録媒体109aからの反射光は、1/4波長板106を通過した後、往路の光の偏光方向とは直交する直線偏光に変換され、ホログラム素子214により回折され、入射光と分離してBD系およびDVD系受光素子213c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。ここで、ホログラム素子214は偏光選択性のものを用いることが望ましい。すなわち光記録媒体へ向かう往路に対してはそのまま透過し、光記録媒体で反射された往路とは直交する偏光方向の復路光を回折させるような偏光選択性のホログラム素子がよい。
また、DVD系光記録媒体109bに対して、中心波長が660nmのDVD系半導体レーザ213aから出射した光は、コリメートレンズ215を通過し、偏向プリズム105より偏向される。そして、1/4波長板106,収差補正素子107、対物レンズ108を介して、DVD系光記録媒体109bに集光される。DVD系光記録媒体109bの基板厚は0.6mmであり、NAは0.65である。NAの切り替えは、収差補正素子107により行う。DVD系光記録媒体109bからの反射光は対物レンズ108、1/4波長板106を通過した後、ホログラム素子214により回折され、入射光と分離してBD系およびDVD系受光素子213c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
なお、BD系およびDVD系受光素子213cは、ここではBD系の信号検出と共用しているが、別個の受光素子を設けてもよい。例えば、図20に示すコリメートレンズ215と偏向プリズム105の光路間に、波長選択性ビームスプリッタ104,検出レンズ110,受光素子112を設けて構成してもよい。
さらに、CD系光記録媒体109cに対して、中心波長が785nmのCD系半導体レーザ216aから出射した光は、コリメートレンズ215を経て、偏向プリズム105より偏向される。そして、1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108を介して、CD系光記録媒体109cに集光される。CD系光記録媒体109cの基板厚は1.2mmであり、対物レンズ108のNAは0.50である。NAの切り替えは、収差補正素子107により制限される。
CD系光記録媒体109cからの反射光は対物レンズ108,1/4波長板106を通過した後、偏向プリズム105により偏向され、ホログラム素子214により入射光と分離してCD系受光素子216c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
なお、受光素子を3波長レーザユニットの外部に配置したり、3波長で受光素子を共通化してもよいことは参考例1と同じである。
図21は本参考例2で用いられる3波長レーザユニット220内の各半導体レーザの縦断面構造を説明する図である。図21から明らかなように、左側部分には、BD系半導体レーザ201とDVD系半導体レーザ213aが2層構造に配置されてなり、右側部分には、単独のCD系半導体レーザ216aが形成されている。
図21に示すように、BD系半導体レーザ201とDVD系半導体レーザ213aは近接配置されている。また、前述のとおり高NA、短波長ほどコマ収差の発生量が大きくなる。そこで本参考例2では、図21の左側の半導体レーザが2層配置されている部分を光軸上に配置し、CD系半導体レーザ216aは光軸からずらして配置するとともに、実施形態1と同様に、収差補正素子107を斜め配置することで発生するコマ収差を打ち消すような光学系のレイアウトを選べばよい。
図22は本発明の実施形態1における光ピックアップの概略構成を示す図である。単一の対物レンズ108で、異なる光源波長を用いて、3種類の光記録媒体を異なるNAで記録または再生を行う互換型の光ピックアップである。本実施形態1は、収差補正素子207と2波長レーザユニット121(光源)内の配置を除いて、図1に示した参考例1と同様の構成である。
以下、本実施形態1の光ピックアップについて説明する。本実施形態1の光ピックアップにおける収差補正素子207は、参考例1と異なり一方の面で2つの異なる光記録媒体で発生する球面収差を補正する。これにより、他方の面に、波長板や色収差補正など、異なる機能を有する光学素子を一体に形成できるため、光学部品点数の削減ができ、組付工程の低減、低コスト化が可能となる。
また、図23は収差補正素子207を説明するための図であり、図24は拡大された断面図、図25は各回折面を示す図である。収差補正素子207は、DVD系光記録媒体109bに対して、660nmのDVD系半導体レーザ013aから出射した光が、対物レンズ108で基板厚の違いにより発生する球面収差を補正、および対物レンズ108のNAを切り替えるための開口制限の機能を有するとともに、CD系光記録媒体109cに対して、785nmのCD系半導体レーザ116aから出射した光が、対物レンズ108で基板厚の違いにより発生する球面収差を補正、および対物レンズ108のNAを切り替えるための開口制限の機能を有する。
図24に本実施形態1の収差補正素子207の断面図を示す。収差補正素子207の材料としては、ガラスや樹脂、あるいはガラス基板上にUV樹脂層を設け、この樹脂層に回折構造を形成したものであればよいが、ガラスと比べて軽く、成型加工が容易で大量生産がしやすいという観点から樹脂が望ましい。本実施形態1の収差補正素子207は、対物レンズ保持体108bに搭載され、フォーカシングやトラッキングのために可動するため、軽い方が望ましい。樹脂として、例えばPMMA(405nm,660nm,785nmの各波長での屈折率は、1.51,1.49,1.48)や、吸湿特性がよい日本ゼオン社製の光学樹脂であるゼオネックスなどが挙げられる。
回折面54は、図25に示すように光束が通過する範囲内に、同心円状に分割された3つの第1,第2,第3の領域54a,54b,54cを有する。第1の領域54aはCD系光記録媒体109cに対するNA0.45の領域に相当し、本実施形態1では半径1.25mmと設定する。第1の領域54aには、回折構造が形成されており、波長405nmの第1の光束については、その大半が0次光で透過し、波長660nmの第2の光束については、その大半が−1次回折光となり、波長785nmの第3の光束については、その大半が−2次回折光となる。
第2の領域54bはDVD系光記録媒体109bに対するNA0.65の領域に相当し、本実施形態1では半径1.715mmと設定する。第2の領域54bにも、回折構造が形成されており、波長405nmの第1の光束については、その大半が0次光で透過し、波長660nmの第2の光束については、その大半が1次回折光となり、波長785nmの第3の光束については、その大半が0次光で透過する。
第3の領域54cは、DVD系光記録媒体109bに対するNA0.65からBD系光記録媒体109aに対するNA0.85の領域に相当し、本実施形態1では半径1.715mmから2.2mmに設定する。そして第3の領域54cは回折構造が形成されない平坦な構造となっている。
また、回折面54の第1の領域54aは、光軸垂直面内で光軸中心に同心円状のパターンからなる回折構造が形成されていて、波長660nmに対しては−1次回折光を生成する。同心円状の回折パターンは、BD系光記録媒体109aに対して最適設計された対物レンズ108で波長660nm、基板厚0.6mmのDVD系光記録媒体109bに集光した際に発生する球面収差を打ち消すように設計されており、結果、DVD系光記録媒体109b上に回折限界まで集光するスポットを形成する。
同時に回折面54の第1の領域54aは、光軸垂直面内で光軸中心に同心円状のパターンからなる回折構造が形成されていて、波長785nmに対しては−2次回折光を生成する。同心円状の回折パターンは、BD系光記録媒体109aに対して最適設計された対物レンズ108で波長785nm、基板厚1.2mmのCD系光記録媒体109cに集光した際に発生する球面収差を打ち消すように設計されており、結果、CD系光記録媒体109c上に回折限界まで集光するスポットを形成する。
回折面54の回折構造の外側(輪帯領域)である第3の領域54cは、回折構造が形成されない平坦部であり、第2の光束,第3の光束をそのまま透過させる。例えば、第1,第2の領域54a,54bを透過した光はDVD系光記録媒体109bに対しては対物レンズ108により集光され、第3の領域54cを通過した光はDVD系光記録媒体109bに対しては集光されず、前述の図7(b)に示すような散乱光となり集光には作用せず、記録再生に影響しない。すなわち、特別な構造やコートを行わずにDVD系光記録媒体109bに対するNA0.65の制限を行う。
次に、収差補正素子207に形成される回折面54の各段の高さについて説明する。図26(a),(b),(c)、図27(a),(b),(c)に階段状の溝深さDと効率の関係を示す。図26(a),(b),(c)は回折面54の第1の領域54aとして、4段の階段構成を選択した場合で、BD_0次光,DVD_−1次光,CD_−2次光に対する結果である。材料にPMMAを用いる場合、溝深さDを7.2μmとすると、どの波長に対しても所望の効率を得ることができる。効率は、第1の光束の0次透過光,第2の光束の−1次回折光,第3の光束の−2次回折光でそれぞれ86%,67%,39%となる。7.2μmの溝深さDは一段に換算すると2.4μmの溝深さとなる。
図27(a),(b),(c)は回折面54の第2の領域54bとして、5段の階段構成を選択した場合で、BD_0次光,DVD_+1次光,CD_0次光に対する結果である。材料にPMMAを用いる場合、溝深さDを6.4μmとすると、どの波長に対しても所望の効率を得ることができる。効率は、第1の光束の0次透過光,第2の光束の+1次回折光,第3の光束の0次回折光でそれぞれ84%,73%,78%となる。6.4μmの溝深さDは一段に換算すると1.6μmの溝深さとなる。
また、収差補正素子207の回折面54の第1の領域54aの断面は、図24に示されるように同心円上に形成された複数の輪帯状凹凸部からなる。各輪帯状凹凸部は階段状であり、4つの段を有する。輪帯状凹凸部のピッチは、この回折構造がレンズ効果を有するように内側から外側に向かって徐々に狭くなっている。
回折面54の第1の領域54aの光路差係数を(表3(a))、同様に、回折面54の第2の領域54bの光路差係数を(表3(b))に示す。
次に、本実施形態
1における2波長レーザユニット121について説明する。
参考例1で説明したように、DVD/CD用の2波長レーザユニット121を用いれば、光ピックアップの小型化、組付工数の低減が図れる。しかしながら、このような2波長レーザユニット121では、光源に数百ミクロン程度の間隔を有している。本実施形態
1において、
参考例1とは異なる、CD系半導体レーザ116a(光源)を対物レンズ108およびコリメートレンズ115の光軸上に配置した場合について説明する。2波長レーザユニット121のDVD系半導体レーザ113a(光源)からの光は図28に示す(実線の光束)ように像高をもってしまい、結果、前述した図15に示すようなコマ収差が発生してしまう。
また、本実施形態1の収差補正素子207のような平板素子を用いる場合、フレア光への配慮が必要である。光源から対物レンズ108へ向かう光の一部は、光学部品の入射面で、透過せずに正反射光となる。収差補正素子107を入射光に対して垂直に配置した場合、その正反射光が光記録媒体109からの反射光、すなわち信号光と図16(a)に示すように受光素子上に重なってしまい、ノイズ光となる場合がある。そこで対処手段として、光学部品への入射面をわずかに傾ける方法がある。図16(b)に示すように収差補正素子207を傾斜配置させることにより、信号光への正反射光を重畳させずに済む。
しかしながら、収差補正素子207が傾斜すると、これに伴って回折領域が光軸に対して傾斜するとともに、その中心が光軸垂直な方向にシフトする。このような傾斜やシフトは、回折領域に形成される回折構造により回折作用を受けないBD用の波長405nmの第1の光束に関する集光特性に特に影響を与えないが、回折構造により回折作用を受けるDVD用の波長660nmの第2の光束や、CD用の波長785nmの第3の光束に関する集光特性に影響を与え、集光に際して収差が生じる。
そこで、本実施形態1の収差補正素子は、次のようなレイアウトをとっている。図28に示すように2波長レーザユニット121において、光束をDVD系半導体レーザ113aから出射し、対物レンズ108に斜めに入射する。例えば、0.35deg斜めに入射すると、DVDはコマ収差が0.04λrms発生してしまう。
この画角によるコマ収差を、収差補正素子207の傾斜とシフトに伴うコマ収差とで、低減するように、収差補正素子207の傾斜とシフト方向と2波長レーザユニット121の配置を工夫する。
図29に収差補正素子のシフトに伴うコマ収差を示す。本実施形態1の収差補正素子はシフトに対し、DVD系でコマ収差が大きく発生するのに対して、CD系のコマ収差の発生量は小さい。そのため、対物レンズに斜めに入射する際に発生するコマ収差を補正するのは2波長レーザユニットのDVD系とした。
なお、前記の構成に限らず、収差補正素子のシフトに対し、CD系でコマ収差が大きく発生する場合は、参考例1,2の図17,図20,図21と同様の光源配置となる。
図28に示すように2波長レーザユニット121のDVD系半導体レーザ113aから出射し、対物レンズ108に斜めに入射する光に対して、収差補正素子207の光軸を対物レンズ108に斜めに入射する光と同じ方向に傾け、かつシフトさせることにより、図18に示すように収差補正素子の傾斜とシフトに伴うコマ収差と、2波長レーザユニット121の画角によるコマ収差を打ち消すことが可能となる。
例えば、DVD系半導体レーザ113aから出射した光が0.35deg斜めに入射する場合、前述の対物レンズ,収差補正素子を用いた光学系において、収差補正素子を対物レンズの光軸に対して2°傾け、0.035mmシフトさせた場合、DVD系の発生コマ収差量を0.01λrms程度にすることができる。
なお、対物レンズへの入射光の角度:θは、2波長レーザユニットのDVD系,CD系の各半導体レーザの間隔(CD系半導体レーザの光軸からのズレ):ΔXと、コリメートレンズの焦点距離:fによって定まる(θ=asin(Δx/f))。よって、光学系として、最適なコリメートレンズの焦点距離、あるいは収差補正素子の傾斜角を選択すればよい。
図30は本発明の実施形態2における光ピックアップの概略構成を示す図である。単一の対物レンズ108で、異なる光源波長を用いて、3種類の光記録媒体を異なるNAで記録または再生を行う互換型の光ピックアップである。本実施形態2において、前述した実施形態1で説明した光ピックアップとは異なる点は、3波長レーザユニットを用いていることである。
以下、本実施形態2の光ピックアップについて説明する。図30に示す光ピックアップは、BD系光記録媒体109aに対してBD系半導体レーザ201と、DVD系光記録媒体109bに対してDVD系半導体レーザ216aと、CD系光記録媒体109cに対してCD系半導体レーザ213aから発生する3波長レーザユニット221を有しており、すなわち、互いに波長の異なるレーザ光を出射することができる。
BD系光記録媒体109aに対して、光ピックアップは、BD系半導体レーザ201,コリメートレンズ215,偏向プリズム105,1/4波長板106,収差補正素子207,対物レンズ108より構成される。第1の光源であるBD系半導体レーザ201の中心波長は405nmであり、対物レンズ108のNAは0.85である。BD系光記録媒体109aの基板厚は0.1mmである。
BD系半導体レーザ201の出射光は、コリメートレンズ215により略平行光にされる。コリメートレンズ215を通過した光は偏向プリズム105より偏向される。そして、1/4波長板106で円偏光に変換され、収差補正素子107,対物レンズ108を介してBD系光記録媒体109aに集光されることにより、情報の記録/再生がされる。
また、BD系光記録媒体109aからの反射光は、1/4波長板106を通過した後、往路の光の偏光方向とは直交する直線偏光に変換され、ホログラム素子214により回折され、入射光と分離してBD系およびDVD系受光素子213c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。ここで、ホログラム素子214は偏光選択性のものを用いることが望ましい。すなわち光記録媒体へ向かう往路に対してはそのまま透過し、光記録媒体で反射された往路とは直交する偏光方向の復路光を回折させるような偏光選択性のホログラム素子がよい。
また、DVD系光記録媒体109bに対して、中心波長が660nmのDVD系半導体レーザ213aから出射した光は、コリメートレンズ215を通過し、偏向プリズム105により偏向される。そして、1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108を介して、DVD系光記録媒体109bに集光される。DVD系光記録媒体109bの基板厚は0.6mmであり、NAは0.65である。NAの切り替えは、収差補正素子207により行う。
DVD系光記録媒体109bからの反射光は対物レンズ108,1/4波長板106を通過した後、ホログラム素子214により回折され、入射光と分離してBD系およびDVD系受光素子213c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
なお、BD系およびDVD系受光素子213cは、ここではBD系の信号検出と共用しているが、別個の受光素子を設けてもよい。例えば、図20に示すコリメートレンズ215と偏向プリズム105の光路間に、波長選択性ビームスプリッタ104,検出レンズ110,受光素子112を設けて構成してもよい。
さらに、CD系光記録媒体109cに対して、中心波長が785nmのCD系半導体レーザ216aから出射した光は、コリメートレンズ215を経て、偏向プリズム105により偏向される。そして、1/4波長板106,収差補正素子107,対物レンズ108を介して、CD系光記録媒体109cに集光される。CD系光記録媒体109cの基板厚は1.2mmであり、対物レンズ108のNAは0.50である。NAの切り替えは、収差補正素子107により制限される。
CD系光記録媒体109cからの反射光は対物レンズ108,1/4波長板106を通過した後、偏向プリズム105により偏向され、ホログラム素子214により入射光と分離してCD系受光素子216c上に導かれ、再生信号,フォーカス誤差信号,トラック誤差信号が検出される。
また、受光素子を3波長レーザユニットの外部に配置したり、3波長で受光素子を共通化してもよいことは参考例1と同じである。
図31は本実施形態2で用いられる3波長レーザユニット221内の縦断面構造を説明する図である。図31から明らかなように、左側部分には、BD系半導体レーザ201とCD系半導体レーザ216aが2層構造に配置されてなり、右側部分には、単独のDVD系半導体レーザ213aが形成されている。なお、前述の構成に限らず、図21で説明したような光源配置でもよい。
3波長レーザユニットは、図31に示すように、BD系半導体レーザ201とCD系半導体レーザ216aは近接配置されている。そして、前述のとおり高NA、短波長ほどコマ収差の発生量が大きくなる。そこで本実施形態2では、図31の左側の半導体レーザが2層配置されている部分を光軸上に配置し、DVD系半導体レーザは光軸からずらして配置するとともに、実施形態1と同様に、収差補正素子207を斜めに傾けかつシフト配置することで発生するコマ収差を打ち消すような光学系のレイアウトを選べばよい。
なお、前述の構成に限らず、収差補正素子のシフトや傾き特性によっては、DVD系とCD系の光源配置が逆となる。
図32は本発明の実施形態3における収差補正素子を示す拡大された断面図である。図32に示すように、単一の対物レンズ108で、異なる光源波長を用いて、後述する4種類の光記録媒体を異なるNAで記録または再生を行う互換型の光ピックアップに用いる収差補正素子208である。本実施形態3の収差補正素子208においても、前述した各実施形態および参考例と同様にシフトと傾きでコマ収差を補正することができる。図22,図23記載の光ピックアップの収差補正素子207に代わり、収差補正素子208を用いる。
4種類の光記録媒体は、前述したBD系,DVD系,CD系に加え、BD系と同様に、青色の波長領域の光源を用いて、NA0.65の対物レンズを用いて、20GB相当の容量確保を満足する「HD−DVD」の規格(以下、HDという)のHD系である。
BD系,HD系,DVD系,CD系光記録媒体109a,109d,109b,109cの基板厚は、それぞれ0.1mm,0.6mm,0.6mm,1.2mmであり、NAは、それぞれNA0.85,NA0.65,NA0.65,NA0.50であり、使用波長は、それぞれλ1=395〜415nm,λ1=395〜415nm,λ2=650〜670nm,λ3=770〜805nmである。
収差補正素子208は回折面54と回折面55により構成されている。回折面54の回折構造は実施形態1,2の回折構造と同様である。そして、回折面55は、2焦点レンズを実現し、BD系光記録媒体109a、HD系光記録媒体109dに良好な集光スポットを形成し、DVD系,CD系の光束に対しては、0次回折光として効率よく透過させるよう構成されている。本実施形態3の収差補正素子も実施形態1と同様に、斜めに傾けかつシフト配置することで発生するコマ収差を打ち消すような光学系レイアウトを選べばよい。
図33は本発明の実施形態4における光情報処理装置の概略構成を示す図である。本実施形態4は、光情報処理装置の一形態であり、前述の実施形態1〜3のいずれかの光ピックアップを用いて、光記録媒体に対する情報の再生、記録、消去のうちの少なくとも1つを行う装置である。
前述した光ピックアップに相当する光ピックアップ91を備えて構成されている。そして光記録媒体109を回転駆動するスピンドルモータ98と、情報信号の記録再生を行うにあたって使用される光ピックアップ91と、光ピックアップ91を光記録媒体109の内外周に移動操作するための送りモータ92と、所定の変調および復調処理を行う変復調回路94と、光ピックアップ91のサーボ制御などを行うサーボ制御回路93と、光情報処理装置の全体の制御を行うシステムコントローラ96とを備えている。
スピンドルモータ98は、サーボ制御回路93により駆動制御され、所定の回転数で回転駆動される。すなわち、記録再生の対象となる光記録媒体109は、スピンドルモータ98の駆動軸上にチャッキングされ、サーボ制御回路93により駆動制御される。このスピンドルモータ98によって、所定の回転数で回転駆動される。
光ピックアップ91は、光記録媒体109に対する情報信号の記録および再生を行うとき、前述したように、回転駆動される光記録媒体109に対してレーザ光を照射し、その戻り光を検出する。この光ピックアップ109は、変復調回路94に接続されている。そして、情報信号の記録を行う際には、外部回路95から入力され変復調回路94によって所定の変調処理が施された信号が光ピックアップ109に供給される。光ピックアップ109は、変復調回路94から供給される信号に基づいて、光記録媒体109に対して、光強度変調が施されたレーザ光を照射する。また、情報信号の再生を行う際には、光ピックアップ91は、回転駆動される光記録媒体109に対して、一定の出力のレーザ光を照射し、その戻り光から再生信号が生成され、この再生信号が変復調回路94に供給される。
また、光ピックアップ91は、サーボ制御回路93にも接続されている。そして、情報信号の記録再生時に、回転駆動される光記録媒体109によって反射されて戻ってきた戻り光から、前述したように、フォーカスサーボ信号およびトラッキングサーボ信号が生成され、それらのサーボ信号がサーボ制御回路93に供給される。
変復調回路94は、システムコントローラ96および外部回路95に接続されている。この変復調回路94は、情報信号を光記録媒体109に記録するときには、システムコントローラ96による制御のもとで、光記録媒体109に記録する信号を外部回路95から受け取り、この信号に対して所定の変調処理を施す。
変復調回路94によって変調された信号は、光ピックアップ91に供給される。また、変復調回路94は、情報信号を光記録媒体109から再生するときには、システムコントローラ96による制御のもとで、光記録媒体109から再生された再生信号を光ピックアップ91から受け取り、再生信号に対して所定の復調処理を施す。そして、変復調回路94によって復調された信号は、変復調回路94から外部回路95へ出力される。
送りモータ92は、情報信号の記録および再生を行うとき、光ピックアップ91を光記録媒体109の半径方向で所定の位置に移動させるためのものであり、サーボ制御回路93からの制御信号に基づいて駆動される。すなわち、送りモータ92は、サーボ制御回路93に接続されており、サーボ制御回路93により制御される。
サーボ制御回路93は、システムコントローラ96による制御のもとで、光ピックアップ91が光記録媒体109に対向する所定の位置に移動されるように、送りモータ92を制御する。また、サーボ制御回路93は、スピンドルモータ98にも接続されており、システムコントローラ96による制御のもとで、スピンドルモータ98の動作を制御する。すなわち、サーボ制御回路93は、光記録媒体109に対する情報信号の記録および再生時に、光記録媒体109が所定の回転数で回転駆動されるように、スピンドルモータ98を制御する。
また、光記録媒体109の種類を判別する方法として、トラッキングサーボ信号やフォーカスサーボ信号を用いてもよい。複数種の光記録媒体に記録および再生処理する光情報処理装置に本発明の光ピックアップを具備することで、基板厚の異なる光記録媒体109に情報の記録,再生を行う品質の精度を高めることができる。
以上のように、本実施形態4の光情報処理装置によれば、単一の対物レンズにより異なる基板厚さを有する複数種類の光記録媒体(例えば、BD系,HD系,DVD系,CD系)の面上に良好なスポットが形成でき光記録媒体に対して情報信号の記録,再生または消去の最適な処理を行うことができる。