以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
図1は運転席等におけるシートベルト装置の装備状態を示し、図2はシートベルト用のリトラクタの要部構成を示し、図3〜図5は回転検知部に関する構成を示し、図6は車両のシートベルト装置の制御システムの全体的な構成を示す。
図1において、シートベルト装置10は、乗員11の身体を座席12に拘束するベルト(ウェビング)13を備える。ベルト13は、乗員11の上体を拘束するベルト部分13aと、乗員11の腰部を拘束するベルト部分13bとから成る。ベルト部分13bの一端はアンカープレート14により車室下部の車体部分に固定されている。ベルト部分13aは、乗員11の肩近傍の箇所に設けられたスルーアンカー15で折り返され、その端部はリトラクタ16のベルトリールに連結されている。ベルト13の他方の共通端部(折返し部)にはタングプレート17が取り付けられている。このタングプレート17は、座席12の下側縁部に固定されたバックル18に着脱自在である。バックル18には、タングプレート17の連結を検出するバックルスイッチ19が設けられている。
図2に、シートベルト用のリトラクタ16の要部構成を模式的に示す。リトラクタ16は、ハウジング21内に回転自在に設けられたベルトリール(スピンドル)22と、ベルトリール22を回転駆動する電気モータ23とを備える。ベルトリール22にはベルト13の上記ベルト部分13aの端部が結合され、ベルト部分13aはベルトリール22で巻き取られる。ベルトリール22の軸22aには、動力伝達機構(ギヤ機構)24を介してモータ23の駆動軸23aに接続される。ベルトリール22は、動力伝達機構24を経由してモータ23で回転駆動される。またリトラクタ16は、ベルトリール22の軸22aに接続された回転検知部25を備える。
回転検知部25は、好ましくは、回転角センサを利用して構成される。当該回転角センサには、例えば、磁気ディスクと2個のホールICとを組み合わせて成る磁気センサが利用される。この回転角センサの最小分解角度は例えば4°であり、ベルトの長さに換算すると1.3〜1.6mm程度である。
図3〜図5を参照して、回転検知部25の一例として回転角センサを利用した構成を説明する。
回転角センサとして磁気センサが利用されている。この磁気センサにおいて、円板形状の磁気ディスク101は、その中心部はベルトリール22の軸22aに連結され、ベルトリール22の軸22aの回転動作と連動して回転する。磁気ディスク101の円周縁部に沿った環状領域には、微小なN極領域102aとS極領域102bを交互に配列した磁極配列部102が形成されている。磁気ディスク101における環状の磁極配列部102は、通常、磁化作用で作られる。磁極配列部102におけるN極領域とS極領域の各々の大きさは、上記のごとき所定の最小分解角度を実現するために必要な程度に設定される。磁気ディスク101の磁極配列部102に対応して、磁極配列部102のN極領域102aとS極領域102bの各々に対して磁気的に感応する2つのホールIC103,104が適宜な位置に配置される。磁気ディスク101に近接して配置された2つのホールIC103,104は、それぞれ、ホールIC同士の位置関係と、感応する磁気ディスク101の磁極配列部102の各磁極との関係に基づいて、位相的に所定量だけずれた2つの相の異なるパルス信号P1,P2を出力する。2つのパルス信号P1,P2は、そのパルスの生じる位相的関係に基づいてベルトリール22の軸22aの回転方向(巻取り方向かまたは引出し方向か)を検知することが可能となる。換言すれば、2つのパルス信号P1,P2は、ベルトリール22の軸22aの回転方向に応じて先後関係が反転するという特性を有している。さらに、2つのパルス信号P1,P2のいずれかを用いて、発生したパルス数を計数することによりベルトリール22の軸22aの回転動作で生じた回転角(回転位置、回転量)を検知することが可能となる。
上記の回転検知部25から出力される2つのパルス信号P1,P2は、図2に示されるごとく制御装置26に入力される。制御装置26は、図5に示すごとく、回転検知部25から供給される2つのパルス信号P1,P2を利用して、下記に説明する所要の信号処理を行う機能部を有している。
図5において、符号110は、2つのパルス信号P1,P2に基づいて、ベルトリール22の回転状態(または回転動作状態)を検知する回転状態検知部である。ここで「回転状態(または回転動作状態)」は、上記の回転方向と回転角(回転位置、回転量)を含む概念であり、さらにはベルトリール22のベルト巻取り位置、ベルト巻取り位置の変化等を含む概念である。
上記回転状態検知部110は、ベルト13が巻回されたベルトリール22の軸22の回転状態を検知し処理する機能部分である。回転状態検知部110は、回転方向検知部111と回転角検知部112を含んでいるが、これらに限定するものではない。また回転状態検知部110の次段には、回転角変化検知113が設けられている。回転角変化検知部113は、回転状態検知部110に含まれる回転角検知部112が出力する回転角検知信号を入力し、当該回転角検知信号の変化状態を検知して回転角変化に係る信号を出力する。回転角変化検知部113から出力された回転角変化に係る信号は、ベルトリール22によるベルト巻取り位置を検知する情報として用いられる。リトラクタ16のベルト巻取り動作は、ベルト巻取り位置の検知情報に基づいて、制御装置26によって制御される。
制御装置26は、電源27からモータ23へ供給される駆動電流I1の通電量を通電量調整部28で制御することにより、リトラクタ16のベルト巻取り動作等を制御する。制御装置26により制御されるリトラクタ16は、乗員11の姿勢を保持するための電気式プリテンショナ機構部として構成されている。
上記のごとく、回転検知部25から出力される位相の異なる2つの検知信号(パルス信号)P1,P2は制御装置26に入力され、これらの検知情報を用いて最終的に巻取り位置等のデータを取り出すために、制御装置26内では所要の上記演算処理が実行される。
リトラクタ16の動作は、制御装置26の各種の制御機能によって制御される。制御装置26は、電源27からモータ23へ供給される駆動電流I1の通電量を通電量調整部28で制御することにより、リトラクタ16のベルト引き込みまたは送り出し等の動作を制御する。
座席12に乗車した乗員11は、車両の緊急時や走行状態の不安定時に、ベルト13による保護・拘束を受け、姿勢や位置の変化を抑止され、望ましい安全状態に保持される。
以上の構成を有する上記のシートベルト装置10およびリトラクタ16等は運転席側の装置であったが、助手席側にも同様なシートベルト装置およびリトラクタ等が装備されている。以下において「R側」は運転席側、「L側」は助手席側とする。
次に、図6のブロック図を参照して、シートベルト装置10等の制御システムをハードウェアの観点から説明する。
図6において、制御装置26はCPUで構成される。制御装置26を含むブロック30は、シートベルトによって乗員11の姿勢を保持するための電気式プリテンショナユニットを示している。ブロック30では、制御装置(CPU)26の入力側に電源部31、車内ネットワーク(CAN)通信部32、回転角インターフェース(回転角I/F)部33、通信部34を備え、その出力側にR側モータ駆動制御部35、L側モータ駆動制御部36、記録部37を備えている。記録部37は、データや制御プログラムを格納するメモリである。
ブロック30の入力側には、シートベルト用リトラクタの一例として上記のリトラクタ16を示すブロックが設けられる。リトラクタ16は、前述した巻取り位置検知部25から出力される検知信号を制御装置26に送信するための回転角インターフェース(回転角I/F)部41を含む。回転角インターフェース部41は、ブロック30内の上記回転角インターフェース部33に接続され、回転角インターフェース部33に対して検知信号を送る。上記のリトラクタ16は運転席側および助手席側等のそれぞれについて設けられている。
ブロック30の入力側には、さらに、ACC(Adaptive Cruise Control)ユニット(障害物検知装置等の制御ユニット)42、VSA(Vehicle Stability Assist)ユニット(車両挙動安定化制御ユニット)43、FI/AT(Fuel Injection / Automatic Transmission)ユニット44、SRS(Supplement Restraint System)ユニット(補助拘束装置ユニット)45等が設けられている。これらの入力側要素の中には、車速センサ等の車両の走行状態または挙動状態を検出する検出ユニットも含まれる。ACCユニット42、VSAユニット43、FI/ATユニット44等は車内ネットワーク46を介してそれらの出力信号を車内ネットワーク通信部32に供給する。SRSユニット45は、R側バックル47RおよびL側バックル47Lからの各信号を受けるSRS制御部45aと、通信部45bとを有している。ここでR側バックル47Rは運転席側の上記バックル17に相当し、L側バックル47Lは助手席側に装備されたシートベルト装置のバックルである。R側バックル47RおよびL側バックル47Lから出力される各信号は、内蔵されるバックルスイッチの検知信号である。SRS制御部45aは、R側バックル47RまたはL側バックル47Lからの信号を受けると、通信部45bを介してその信号をブロック30の通信部32に送信する。またSRSユニット45は、車両走行時にシートベルトが正規に使用されていない場合には、警告灯48に対して警告信号を供給する。
ブロック30の出力側には、R側モータ51とL側モータ52が設けられる。R側モータ51は、運転席側のシートベルト装置の駆動用モータであり、R側モータ駆動制御部35に対応して配置されている。R側モータ駆動制御部35は、制御装置26からの制御指令信号に基づいて上記の電源(+V)27からの通電量を制御してR側モータ51に対して駆動電流を供給する。なおブロック53は接地部である。またL側モータ52は、助手席のシートベルト装置の駆動用モータであり、L側モータ駆動制御部36に対応して配置されている。L側モータ駆動制御部36は、制御装置26からの制御指令信号に基づいて電源(+V)54からの通電量を制御してL側モータ52に対して駆動電流を供給する。またブロック55は接地部である。上記の接地部53,55は、車体の一部をなす接地端子である。
図7は、本実施形態に係るシートベルト装置10の制御システムの基本的な機能部の構成を概念的に示す機能ブロック図である。この制御システムは、主要素として、ベルト装着・非装着判定部61と、原点位置記憶部62と、ベルト変位検知部63と、シートベルト装置制御部64と、ベルト駆動部65とから構成されている。
ベルト装着・非装着判定部61は、座席12においてベルト13が乗員11に装着されているか否かを判定する手段である。本実施形態の場合、ベルト装着・非装着は、バックルスイッチ19のオン・オフ状態に基づいて判定される。原点位置記憶部62は、ベルト13の装着状態が解除された後ベルト13がリトラクタ16によって巻き取られる場合において、原点位置(ベルトの完全収納位置または格納位置)に収納させるための当該原点位置に係るデータを記憶する手段である。ベルト変位検知部63は、リトラクタ16によってベルト13が巻き取られる時、当該ベルト13の位置変化(巻取り状態)を検出する手段である。ベルト変位検知部63は、前述した回転検知部25と回転状態検知部110等で構成されている。
シートベルト装置制御部64は、電気式プリテンショナとしての通常の乗員保護のための拘束制御の機能と、ベルト装着解除後にベルトを原点位置(ベルト完全収納位置)に収納するための収納制御の機能と、収納制御を行う際の引掛り状態の検知機能と、本実施形態での特徴的な引掛り状態を検知するための判定条件を変更するための制御機能とを有している。シートベルト装置制御部64は、前述した制御装置(CPU)26の演算処理機能と、R側モータ駆動制御部35およびL側モータ駆動制御部36とから構成されるものである。
またベルト駆動部65は、前述のリトラクタ16に相当するものであり、より詳しくは前述のR側モータ51とL側モータ52である。
次に、図6および図7に示された上記構成と、図8および図9に示すフローチャートとに基づき、シートベルト装置制御部64等によって実施されるシートベルト装置10の特徴的な動作制御例を説明する。この例ではR側モータ51の例で説明する。図8は特徴的な動作制御を示すフローチャートを示し、図9は「収納制御」ついての詳細なフローチャートを示している。
通常、車両を走行させるべく、乗員11が座席12に座り、ベルト13を体に巻き付け、タングプレート17をバックル18(R側バックル47R)に結合すると、ベルト13が乗員11の体に装着される。このとき、バックルスイッチ19がオンする。反対に、車両の走行が終了し、座席12に座乗中の乗員11がバックル18からタングプレート17を取り外すと、バックルスイッチ19はオフする。通常、ベルト13の装着を解除し、ベルト13が自由な状態にされると、ベルト13はリトラクタ16の電気式プリテンショナユニット30の「収納制御」の機能に基づいて原点位置に引き込まれ、リトラクタ16の中に収納される。
図8に示されたフローチャートで最初の判定ステップS11ではバックルスイッチ19の動作状態がオンであるかまたはオフであるかが判定される。バックルスイッチ19がオンであるとき(ステップS11でYES)には「弛み取り制御」のプロセスが実行される。バックルスイッチ19がオフであるとき(ステップS11でNO)には「収納制御」のプロセスが実行される。
最初に、判定ステップS11でバックルスイッチ19がオンであるときの「弛み取り制御」のプロセスを説明する。
通常、乗員11の体にベルトが装着されたシートベルト装置10では、基本的な動作として、乗員11の個人的な情報と設定情報が取得される。乗員情報と設定情報は事前に用意されており、図6に示した記録部37に保存されているものとする。乗員情報としては、性別情報、体格情報等である。設定情報としては、乗員11の意思により好みとして設定された情報である。乗員11の乗員情報と設定情報、および座席12に乗員11が実際に座ってベルト13を装着し回転検出部25でベルト13が変位した時のベルト変位情報に基づいて、座席12における乗員11の位置が決定される。乗員情報や設定情報、または回転検知部25によるベルト変位情報が得られないときには、乗員11の位置を決定することはできなくなる。
次の判定ステップS12では、乗員11の位置が決定されたか否かが判定される。判定ステップS12でNOであるときにはリターン端子に移行し、YESであるときには「弛み取り制御」のステップS13に移行する。「弛み取り制御」のプロセスはよく知られるものであり、前述の電気式プリテンショナユニット30の機能に基づいて、座席12に座った乗員11に装着されたベルト13の弛みが最適になるように、ベルト13がリトラクタ16によって巻き取られる。
所定の「弛み取り制御」の後、判定ステップS14で、ベルト13が最適テンションにあるか否か、または弛みがなしであるか否かが判定される。判定ステップS14での判定には、回転検知部25から得られるベルト変位情報が用いられる。判定ステップS14でYESである場合には制御停止の処理が実行される(ステップS15)。この制御停止処理では、「弛み取り制御」が停止される。また判定ステップS14でNOである場合にはリターン端子に移行し、「弛み取り制御」を所定条件下で繰り返す。
次に「収納制御」のプロセスを説明する。「収納制御」は、判定ステップS11でバックルスイッチ19がオフであるときに、次の段階として実行される。なおバックルスイッチ19がオフであるということは、ベルト13が非装着の状態になったことを意味している。
処理ステップS21は「収納制御」のプロセスを実行するステップである。「収納制御」のプロセスを実行するステップS21の詳細な内容は図9に示される。まず図9を参照して収納制御のプロセスの全体を概説する。
収納制御は、バックルスイッチ19がオフであるという条件の下で(判定ステップS201でNO)で実行される。収納制御では、最初に予め設定された所定時間が経過した後に(ステップS202でYES)、モータ23に対してベルト巻取り動作を行わせるための通電を開始する(ステップS203)。モータ23への巻取り動作のための通電を開始すると、次のステップS204でタイマをt=t0として設定してスタートする。
次に、予め用意された変数iを0に設定する(ステップS205)。変数iはカウンタとして設定され、収納制御に基づくベルト13の収納動作において生じる引掛り状態を判定するために使用されるカウンタである。引掛り判定は、変数iが、予め設定された値N以上になっても引掛りであるという判定状態が維持されるときに確定する。
次の判定ステップS206では変数iがNよりも小さいか否かが判定される。変数iがNよりも小さいときには、ステップS207に移行して回転角変化があるか否かが判定される。回転角の変化に係る情報は、前述した回転検知部25、回転状態検知部110、回転角検知部113等を経由して取り出される信号に基づいて得られる。
判定ステップS206で変数iがN以上であるときには、ベルト13の収納制御の動作状態において引掛りが生じ、リトラクタ16による巻取り動作で何かの原因でロック状態が生じたものとして、ステップS217に移行しモータ23への通電を停止して、ベルト巻取りの収納制御を停止させる。
判定ステップS207で判定される回転角変化の有無は、実質的に回転検知部25から出力される位相の異なる2つのパルス信号P1,P2に基づいて得られる情報である。
判定ステップS207で回転角の変化がない場合(NOである場合)において、この状態が所定時間経過する場合(判定ステップS218でYES)には引掛り判定の処理(ステップS219)を実行される。その後、変数iはカウント値を1だけ増して(ステップS220)、判定ステップS206に戻る。なお判定ステップS206でNOである場合には即座に判定ステップS217に戻る。引掛り判定の処理ステップS219とカウント値増加ステップS220で、「収納制御」での引掛り状態の発生が検知・監視される。
上記の判定ステップS207で回転角の変化がある場合(YESの場合)、次の判定ステップS208ではベルト13のベルトリール22による巻取り位置(x)が所定の範囲(x0<x<x1)に含まれているか否かが判定される。判定ステップS208でYESである場合には時間差閾値dtth がdt2に設定され(ステップS209)、NOである場合には時間差閾値dtth がdt1に設定される(ステップS210)。ステップS209またはステップS210の処理の後には、次の判定ステップS211に移行する。
次の判定ステップS211では、モータ23への通電によって回転動作するベルトリール22の回転が巻取り方向の回転であるか否かが判定される。判定ステップS211でNOである場合には、正常な巻取り動作ではないので、引掛り判定の処理ステップS219に移行し、ステップS220を経由して判定ステップS206に戻る。判定ステップS211でYESの場合には、変化間隔に係る時間(dt=tl−tl−1)の測定が行われる(ステップS212)。ここで「dt」は前回変化の際の時間と今回変化の際の時間との差分を意味している。
次の判定ステップS216では、測定された変化間隔に係る時間dtを、引掛り判定のための第1の基準値dt0と比較し、その大小関係を判断する。dtがdt0よりも小さい場合には、次の判定ステップS216でベルト13が本来的な収納位置すなわち原点位置(完全収納位置)に収納されたか否かを判定する。判定ステップS216でYESである場合には、ステップS217に移行し、収納制御が完了したものとして終了する。判定ステップS216でNOである場合には、判定ステップS206に戻る。
上記の判定ステップS213でNOである場合には判定ステップS214に移行する。判定ステップS214は、上記のdtと引掛り判定のための第2の基準値dtthとを比較し、その大小関係を判断する。判定ステップS214でdtがdtthよりも小さい場合には、引掛り状態に達していないとし、巻取り力を増大すべくモータ23への通電量を増加する(ステップS215)。その後、上記の判定ステップS216に移行する。また判定ステップS214でdtがdtth以上である場合には、引掛り状態に達しているとして上記のステップS219に移行して引掛り判定処理を実行する。
ここで、再び図8に示した「収納制御」のステップS21の説明に戻る。収納制御の処理ステップS21では、前述の通りバックルスイッチ19がオフの状態になったときに上記の収納制御が実行される。収納制御によれば、バックルスイッチ19がオフになる、すなわちベルト13が非装着の状態になることを条件に当該ベルト19を原点位置にまで変位させるための巻取り動作がリトラクタ16すなわち電気式プリテンショナ機構部によって行われる。しかし、処理ステップS21による収納制御では、実際には、上記した「収納制御」の途中の適宜な段階において判定ステップS22が実行されるようにしている。判定ステップS22は、収納制御に基づいて収納動作状態にあるベルト13に関して上記原点位置からの位置(または距離)について、すなわち近い位置(「近」)にあるかまたは遠い位置(「遠」)にあるかについて判定される。ここで「近い位置」および「遠い位置」は厳密に定義されるものではなく、判定の基準として、引掛り状態の生じやすさまたは生じにくさに応じて適宜に設定されるものである。
上記の判定ステップS22での原点位置からの位置(距離)の情報は、前述した回転検知部25、制御装置26内に設けられる回転状態検知部110等によって得られる。
判定ステップS22において「近い」と判定された場合には、回転検知部25から出力される2相のパルス信号P1,P2にパルス変化間隔(Pa)と対比して引掛り状態であるか否かを判定するための基準値が小さくなるように調整制御され(ステップS23)、「遠い」と判定された場合には当該基準値が大きくなるように調整制御される(ステップS24)。この基準値は、収納制御でのベルト13の巻取り動作で引掛り状態(ロック状態)が生じて収納制御を停止するか否かを判定するための閾値条件である。当該基準値は、図9に示された判定ステップS214において引掛り状態であるか否かの判定に用いた閾値「dtth」に対応するものである。
ステップS23,S24のそれぞれで基準値の調整が行われた後、リターン端子に移行する。従って、その後の「収納制御(ステップS21)」では新たに設定された基準値に基づいて収納制御中の引掛り状態が判断されることになる。
ここで、原点位置から「近い」場合には上記基準値を小さくし、「遠い」場合には基準値を大きくした理由は、原点位置から遠い位置にはバックル18の近辺位置にベルト13が存在して引掛り状態が生じやすいので基準値を大きくして引掛り状態発生の判定条件を緩くし、他方、原点位置に近い位置には引掛り状態が生じにくいので判定条件を厳しくしたということにある。
以上の理由から、基本的にベルト13の巻取り位置が当該ベルト13の原点位置(完全収納位置)に近いほど値が小さくなるように基準値を設定することが望ましい。さらには、ベルト13の収納制御においてベルト13の巻取り位置が引掛り状態が生じやすい範囲に含まれるときには上記基準値を相対的に大きい値に設定し、当該範囲に含まれないときには上記基準値を相対的に小さい値に設定することが望ましい。
図10に、回転検知部25から出力される2つの位相のパルス信号P1,P2を示し、さらにパルス変化間隔Paの例を示している。図10では、2つのタイプのパルス変化間隔Paが示されている。パルス変化間隔Paは、一方のパルス信号で変化が生じた後、他方のパルス信号で変化が生じるまでの時間としてカウントされる。
次に「弛み取り制御」について説明を加える。図8で説明した「弛み取り制御」のプロセスは、乗員11が座席に着座し、ベルト13を装着し、タングプレート17をバックル18に結合してバックルスイッチ19がオンになったときの弛み取り制御であった。この場合において、イグニッションスイッチの状態は問題にしていなかった。実際には、イグニッションスイッチがオンである場合と、オフである場合とに応じた弛み取り制御が行われる。イグニッションスイッチがオンである場合とはエンジン等を駆動させた後にシートベルトを装着する場合であり、イグニッションスイッチがオフである場合とはエンジン等を駆動させる前にシートベルトを装着する場合である。
図11を参照して、シートベルト装着時における「弛み取り制御」の流れを説明する。最初の判定ステップS31ではイグニッションスイッチ(IG)がオフであるか否かが判定される。判定ステップS31でYESであるときにはリトラクタ側の制御が実行され(ステップS32)、NOであるときにはバックル側の制御が実行される(ステップS33)。バックル側の制御については図8で既に説明した通りである。
ステップS32によるリトラクタ側の制御では、上記リトラクタ16が作動状態にセットされる。次の判定ステップS34では、ベルト13の引出しがあるか否かが判定される。判定ステップS34で引出しがない場合(NOの場合)には一定時間が経過したか否かを判定し(ステップS40)、一定時間が経過した場合には収納制御が実行される(ステップS41)。一定時間が経過しない場合にはリターン端子に移行する。ステップS41による収納制御は、図8で説明したステップS21での収納制御と実質的に同じである。ステップS41の後には、判定ステップS38に移行し、ベルト13が一定のテンション(張力)の状態にあるか否かが判定される。
他方、ステップS34で引出しがある場合(YESの場合)には、ベルト13の長さが空席装着の状態における長さ以上であるか否かが判定される(ステップS35)。判定ステップS35でNOの場合にはリターン端子に移行し、YESの場合には次の判定ステップS36に進む。次の判定ステップS36でNOである場合には上記収納制御(ステップS41)を実行し、YESの場合には弛み取り制御(ステップS37)を実行する。弛み取り制御(ステップS37)が終了した場合に、次の判定ステップS38でテンションが一定であるか否かが判定される。判定ステップS38でNOである場合にはリターン端子に移行し、YESである場合には制御(弛み取り制御または収納制御)が停止される(ステップS38)。その後、リターン端子を経由してリターン処理が行われる。
なお上記の2つのステップS35,S36から成る部分300は、シートベルトの状態が装着状態であるか否かを判定する機能部分である。
上記の弛み取り制御において、上記の収納制御(ステップS41)における引掛り状態の判定では、図8を参照して説明した考え方と同様な手法で、引掛り状態の判定条件をベルト13の位置に応じて変化させるようにしている。このように調整制御された引掛り状態の判定条件を用いて、判定ステップS38で示されたテンションの判断すなわち引掛り状態の判断が行われることになる。
次に図12を参照して、シートベルト非装着時における「弛み取り制御」の流れを説明する。シートベルト非装着時の「弛み取り制御」は実質的に「収納制御」の内容となる。図12に示したフローチャートにおいて、ステップS31,S32,S33は前述した通りであるので、説明を省略する。
リトラクタ側の制御(ステップS32)では、次の判定ステップS51で、ベルト13が巻取り状態にあるか否かが判定される。判定ステップS51でNOである場合には、巻取り動作、すなわち収納制御は不要であるので即座にリターン端子に移行する。
他方、判定ステップS51でベルトの巻取りがある場合(YESの場合)には、ベルト13の長さが空席装着の状態における長さ以下であるか否かが判定される(ステップS52)。判定ステップS52でNOの場合にはリターン端子に移行し、YESの場合には次の上記収納制御(ステップS53)を実行する。
ステップS53による収納制御は、図8で説明したステップS21での収納制御と実質的に同じである。ステップS53の後には、判定ステップS54に移行し、ベルト13が一定のテンション(張力)の状態にあるか否かが判定される。判定ステップS54でNOである場合にはリターンされ、YESの場合には次の判定ステップS55に移行する。次の判定ステップS55では、巻取られたベルト13が収納位置にあるか否かが判定される。判定ステップS55でNOである場合にはリターンされ、YESの場合には制御停止の処理が実行される(ステップS56)。制御停止の処理ステップS56が実行された後には、収納制御は終了する。
上記において判定ステップS55でNOである場合にはリターンされて収納制御(ステップS53)が繰り返される。この制御の流れが数回繰り返されると、通常、制御停止へ遷移するように制御は構成される。
上記の2つのステップS51,S52から成る部分500は、シートベルトの状態が非装着状態であるか否かを判定する機能部分である。
上記の制御において、上記の収納制御(ステップS53)における引掛り状態の判定では、図8を参照して説明した考え方と同様な手法で、引掛り状態の判定条件をベルト13の位置に応じて変化させるようにしている。このように調整制御された引掛り状態の判定条件を用いて、判定ステップS54で示されたテンションの判断すなわち引掛り状態の判断が行われることになる。
次に、図13〜図16を参照して、本発明の他の実施形態に係るシートベルト装置の収納制御について説明する。この実施形態では、収納制御に基づきシートベルトを収納する場合において、ベルト引掛りが生じて収納動作が中断したとき、ベルト巻取り位置に関する区間に応じてベルト巻取り再開動作(リトライ)の回数を適宜に決め、収納動作の中断を防止しかつベルト収納に要する時間を短縮する。
図13に、シートベルト収納制御時のベルト巻取り位置に関する区間を示す。図13は、運転席の座席12に座る乗員11を正面から見た図である。シートベルト装置10においてタングプレート17がバックル18から外され、ベルト13の装着状態が解除されると、収納制御が開始される。図13ではベルト13を原点位置まで収納する収納動作の途中の状態を示している。図13に示された状態図において、2つの区間201,202が示されている。区間201は「手当たり区間」であり、区間201はそれ以外のその他の区間である。ここで、「手当たり区間」201とは、バックル・オフから乗員11の右肩近傍の適宜な位置までの区間であって、ベルト引掛り(手当たり)が生じた場合に比較的に多数回のベルト巻取り再開動作を試みる区間である。またこの際、ベルト収納の作動速度は高い速度に設定されている。こうして、手当たり区間201では「手当たり制御」が実行される。他方、その他の区間202は、手当たり区間201以後のあまりベルト引掛りは生じない区間であり、全格納判定制御が実行され、ベルト引掛り(手当たり)が生じた場合には比較的に少数回のベルト巻取り再開動作を試みる区間である。「全格納判定制御」とは、全量収納を行う制御であり、その後にベルト引き出しがあっても手当たり制御には戻らず全格納制御が継続される。またこの際、ベルト収納の作動速度は低い速度に設定されている。こうして、その他の区間202では「全格納判定制御」が実行される。
本実施形態に係るシートベルト装置10のベルト収納制御を実行する装置構成について、基本的構成は図14に示し、基本的な制御フローを図15に示す。図14において、前述した図7で説明した要素と同一の要素には同一の符号を付している。
本実施形態の構成では、前述の通り、ベルト13が収納動作の状態にある場合に、手当たり区間201とその他の区間202が設定され、それぞれ、手当たり制御と全格納判定制御が実行される。手当たり制御と全格納制御のそれぞれでは、ベルト13の巻取り再開動作が異なっている。そこで、シートベルト装置制御部64では、機能要素として、ベルト13の引掛り状態を検知する引掛り検知手段64aと、引掛り検知手段64aがベルト13の引掛り状態を検知したとき、ベルト巻取り動作の制御を再度行う再開手段64bと、ベルト変位検知部63(回転位置検知手段)が検知する回転位置に応じて再開手段64bで設定されたベルト巻取り動作の制御の再開回数を変更する再開回数変更手段64cとを有している。
図15に示した本実施形態の基本的な制御フローによれば、バックルスイッチ19がオフか否かが判定され(ステップS301)、オフであるときには、手当たり区間201であるか否かが判定される(ステップS302)。判定ステップS302で、手当たり区間と判定された場合には手当たり制御が実行され(ステップS303)、そうでない場合には全格納判定制御が実行される(ステップS304)。ステップS304の後には、全格納フラグが立てられる(ステップS305)、それ以後においては全格納判定制御が継続される。
図16に本実施形態に係るシートベルト装置の収納制御を説明するための詳細なフローチャートを示す。図16に示した制御フローは、ベルト13の装着が解除されたときの原点位置への「収納制御」のプロセスを示し、かつ図13〜図15で説明した手当たり制御または全格納判定制御が実行されるプロセスである。図16において、前述した図9のフローチャートで説明したステップと同一のステップには同一の符号を付し、説明を省略する。このフローチャートでは、最初の判定ステップS401においてバックルスイッチ19がオフであるか否かを判定し、オフである場合にステップS202以降の処理が実行される。
特に、この制御フローにおける特徴的なステップは、判定ステップS207で回転角の変化がある場合(YESの場合)において、次の判定ステップS402ではベルト13のベルトリール22による巻取り位置(x)が所定範囲(x0<x<x1)に含まれているか否かが判定される。本実施形態の収納制御においては、当該所定範囲(x0<x<x1)は前述した「手当たり区間201」として設定される範囲である。判定ステップS402でYESである場合にはリトライ回数Nが手当たり制御(S303)の場合の「N1」に設定され(ステップS403)、NOである場合にはリトライ回数N が全格納判定制御の場合の「N2」に設定される(ステップS404)。ステップS403またはステップS404の処理の後には、次の判定ステップS211に移行する。
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。