したがって,本発明が解決しようとする課題は,希土類磁石以外の低抗磁力磁石を使用出来る回転電機システム,更にリラクタンストルクを利用しながら低回転速度域でのトルクを強化出来る回転電機システム及び磁束量制御方法を提供する事である。
請求項1の発明は,回転子は電機子との対向面に於いて周方向に配置された一以上の磁性体突極を有し,磁性体突極に接するよう配置された永久磁石により周方向に隣接する磁性体突極が互いに異極に磁化され,電機子は回転子との対向面に於いて一以上の電機子コイルを周方向に有し,電機子と回転子とが微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成された回転電機装置であって,磁性体が充填された1以上の孔部を有する非磁性導体層を含む非磁性導体層と磁性体層とを交互に積層して構成された交流フラックスバリアを有し,前記交流フラックスバリアの一方の最外層である磁性体層が前記永久磁石の磁極面に接するよう配置されている事を特徴とする。
回転子内で永久磁石からの磁束は直流的に流れ,電機子コイルからの磁束は交流的に流れる。交流フラックスバリアはこれらの磁束の特徴を利用して電機子コイルから永久磁石に至る交流磁界の強度を減じ,永久磁石からの磁束を磁性体突極に通過させる。すなわち,交流フラックスバリアは磁性体が充填された1以上の孔部を有する非磁性導体層を含む非磁性導体層と磁性体層とを交互に積層して構成され,交流磁束は非磁性導体層内に渦電流を誘起して通過し難い。しかし,非磁性導電体層の孔部に磁性体が配置されて直流的な磁束に対する磁気抵抗は実効的に小である。孔部は貫通孔或いは有底孔で構成する。したがって,非磁性導体層に誘起される渦電流により流れる方向が変えられた一部の交流磁束は磁性体層に誘導されて無用な渦電流を生じることなく永久磁石から逸れ,非磁性導体層を越えて流れる直流磁束も磁性体層に沿って流れるよう誘導される。当然に各非磁性導体層同士は電気的に絶縁されている。
永久磁石の磁極に導体を配置した場合,電機子コイルからの交流磁束は導体内に渦電流を誘起して流れ難いが,導体は磁気的な空隙と等価であるので永久磁石からの磁束も流れ難く,永久磁石に大きな減磁界が加わる。交流フラックスバリアはこの課題を解消している。交流フラックスバリアに於いて,各導体層の厚みは小さくできるので各導体層に於いて交流磁束に対する磁気抵抗,直流磁束に対する磁気抵抗はそれぞれ小さく設定され,各磁性体層に誘導された交流磁束が永久磁石から逸れて流れる事で永久磁石に加えられる交流磁界強度が抑えられる。永久磁石の磁極面には常に磁路となる磁性体層が接するので永久磁石に作用する減磁界は抑制される。本発明により電機子からの交流磁界強度が減じられ,また永久磁石への減磁界は抑えられるので永久磁石には抗磁力が小の磁石素材を採用できる。
請求項2の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,非磁性導体層は導電性を有する磁性体板の積層により構成される磁性体突極から電気的に絶縁されている事を特徴とする。導電性を有する磁性体板の積層により構成される磁性体突極と非磁性導体層とは電気的に絶縁されて導電性磁性体板及び非磁性導体層を含む経路に循環電流が流れないよう構成される。導電性を有する磁性体板には硅素鋼板,パーマロイ等があり,電気的に絶縁する手段は導体層からの放熱を兼ねて熱伝導性に優れるセラミック層及び熱伝導性に優れる充填剤を利用できる。
請求項3の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子表面近傍の磁性体突極間には非磁性導体が少なくとも配置され,前記永久磁石は磁性体突極に於いて電機子との対向面から離れた側に配置されている事を特徴とする。回転子は表面近傍の磁性体突極間に非磁性導体を少なくとも有し,周方向の交流的な磁気抵抗変化が大に構成されてリラクタンストルクを利用できる回転電機装置であって,低速時のトルクを改善するために隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化する永久磁石を有する。永久磁石は磁性体突極に於いて電機子との対向面から離れた側に配置されるので電機子コイルからの磁界強度は小さく,更に交流フラックスバリアにより永久磁石に加えられる交流磁界は抑制される。
請求項4の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,前記永久磁石と交流フラックスバリアとが周方向に隣接する磁性体突極間に配置されている事を特徴とする。回転子は表面近傍の磁性体突極間に永久磁石と交流フラックスバリアを有する構造である。電機子コイルから永久磁石に至る交流磁界強度は交流フラックスバリアにより抑制され,また回転子表面に沿って交流的な磁気抵抗が交流フラックスバリアによって大とされ,リラクタンストルクを利用できる回転電機装置である。
請求項5の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子表面近傍の磁性体突極は空隙を含む非磁性体領域によって周方向に磁気的に区分され,前記永久磁石は磁性体突極に於いて電機子との対向面から離れた側に配置されている事を特徴とする。回転子は表面近傍の磁性体突極間に空隙を含む非磁性体領域を有し,周方向の磁気抵抗変化が大に構成されてリラクタンストルクを利用できる回転電機装置である。永久磁石は磁性体突極に於いて電機子との対向面から離れた側に配置されるので電機子コイルからの磁束は分散して磁界強度は弱められ,更に交流フラックスバリアにより永久磁石に加えられる交流磁界強度は抑制される。
請求項6の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,回転子を構成する磁性体基板の一部と前記磁性体突極とが回転子の表面近傍に周方向に交互に配置され,前記磁性体突極は前記永久磁石及び非磁性体により前記磁性体基板から磁気的に区分されている事を特徴とする。前記磁性体突極は少なくとも永久磁石を含む部材によりにより周囲の磁性体から磁気的に区分される構造であって,回転子を構成する磁性体基板の表面近傍に周方向に略周期的に埋め込まれている事を特徴とする。すなわち,磁性体突極は一様な磁性体基板中に配置された島状の磁極であって,磁性体突極間に位置する磁性体基板の一部を介して電機子コイルの作る磁束通過を可能にしてリラクタンストルクを発生させる。周囲の磁性体基板から磁性体突極を磁気的に区分する部材は永久磁石に加えて非磁性体,非磁性導体等が用いられる。
請求項7の発明は,請求項1記載の回転電機システムに於いて,電機子コイルは回転子との対向面近傍に於いて周方向に配置された一以上の磁性体歯に巻回され,更に制御磁石が前記永久磁石と磁気的に並列接続され,且つ回転子に於いて電機子との対向面から離れた側に配置され,前記磁性体突極に対向する磁性体歯を少なくとも含む二つの磁性体歯内に互いに逆方向の磁束を発生させるよう磁性体歯に巻回されている電機子コイルそれぞれにパルス状電流を供給して前記制御磁石の磁化状態が不可逆的に変更されるよう構成され,回転電機装置の出力を最適化するよう前記出力に応じて前記制御磁石の磁化状態を変え,電機子コイルと鎖交する磁束量が制御される事を特徴とする。
回転子は低速時のトルクを改善するために隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化する永久磁石及び制御磁石を有する。永久磁石の磁極近傍には交流フラックスバリアが配置され,永久磁石に電機子コイルから加えられる交流磁界強度が制限されるよう構成される。制御磁石が配置される位置は,電機子と対向する表面近傍から離れ,通常の回転駆動時に主として隣接する磁性体歯間からの漏れ磁界が減衰して制御磁石に不可逆的な磁化変化を生じさせないような位置である。制御磁石と永久磁石とは磁気的に並列接続され,制御磁石の磁化を変更する事により永久磁石からの磁束を制御磁石で短絡,或いは永久磁石からの磁束に制御磁石からの磁束を加算して電機子コイルと鎖交する磁束量が制御される。最適化の対象とする出力とは,電動機の場合には回転駆動力,回生制動時の制動力及び回収エネルギー量,発電機の場合には発電電圧等である。
回転子を駆動する際には磁性体突極及び回転子表面に沿って磁束が流れるよう主として隣接する磁性体歯間からの漏れ磁束が回転子に加えられる。制御磁石の磁化状態を変更する際には磁性体突極内部まで励磁磁束が流れるよう少なくとも磁性体突極と対向する磁性体歯を含む二つの磁性体歯に巻回された電機子コイルそれぞれにパルス状電流が供給される。前記二つの磁性体歯は隣接する磁性体歯に限定される事無く,磁化変更しようとする制御磁石にパルス状励磁磁束を流すに適切な磁性体歯であって,制御磁石の磁化方向,磁性体突極と磁性体歯との位置関係により選択される。電機子コイルと回転子との位置に応じて電機子コイルに供給する電流を制御して回転子が駆動され,制御磁石の磁化状態が変更される。
永久磁石と制御磁石とは磁気的に並列に接続されるが,永久磁石の磁極近傍には交流フラックスバリアが配置されて交流磁束が流れ難いよう構成されるので電機子コイルからの磁束は制御磁石に集中されるよう構成される。永久磁石と制御磁石とは抗磁力と磁化方向厚みとがほぼ等しい条件においても磁化変更の容易さに差を設けられて制御磁石のみの磁化を変更できる。また,永久磁石,制御磁石共に希土類磁石以外の抗磁力が小さい磁石素材で構成できる。
請求項8の発明は,請求項7記載の回転電機システムに於いて,制御磁石は磁性体間に配置された磁化方向長さと抗磁力の積が異なる磁石要素を有し,前記磁性体により前記磁石要素を互いに並列接続して構成される事を特徴とする。制御磁石は磁化容易さの異なる一以上の磁石要素が並列に接続される構成,或いは磁化容易さ,すなわち,磁化方向長さと抗磁力の積が連続的に変わる磁石で構成される。制御磁石内に於いて異なる磁化容易さの分布態様は一つの磁極断面内に限定されることなく,電機子コイルと鎖交する磁束量全体として反映されるよう回転子全体に配分されればよい。電機子コイルによる起磁力(磁気ポテンシャル差)はほぼ均等に制御磁石を構成する磁石要素に加えられ,起磁力を磁化方向長さで除した値が各磁石要素に加わる磁界強度となるので磁化方向長さと抗磁力の積の小さな磁石要素が磁化されやすく,電機子コイルに加えられる電流により並列接続された磁石要素の磁化状態は選択的に制御される。
請求項9の発明は,請求項7記載の回転電機システムに於いて,制御磁石の磁化状態を変更する際にパルス状電流が供給される電機子コイル以外の電機子コイルは電機子コイル単位或いは電機子コイルの属するグループ単位でそれぞれ短絡される事を特徴とする。磁性体突極に対向して互いに逆方向のパルス状電流が供給される電機子コイルが巻回された磁性体歯近傍に非通電電機子コイルが巻回された磁性体歯が存在する場合にはその磁性体歯を介してパルス状磁束が短絡する可能性がある。前記非通電の電機子コイル両端を短絡させてパルス状磁束が短絡的に流れ難い構成とする。
請求項10の発明は,請求項7記載の回転電機システムに於いて,互いに並列に接続されている制御磁石及び永久磁石の対に於いて制御磁石から流れる磁束量が永久磁石から流れる磁束量以上に設定された制御磁石及び永久磁石対を有し,制御磁石の磁化変更により電機子側に通過して流れる磁束量がほぼゼロとなる磁性体突極及び或いは電機子側に通過して流れる磁束の方向が逆転する磁性体突極が配置され,制御磁石の磁化を変更して電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数が変更される事を特徴とする。
高速回転では電機子コイルに供給する電流の切り替え周波数は高くなる。本発明は制御磁石及び永久磁石からの磁束が互いに加算されて電機子に流れる状態と,制御磁石及び永久磁石からの磁束が互いに相殺されて電機子側に流れる磁束量がほぼゼロになる状態とを制御磁石の磁化変更により切り替え可能に構成された磁性体突極を少なくとも有し,制御磁石の磁化を変更して電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数が変更可能に構成される。更に前記二つの状態と共に磁化方向が逆転された制御磁石からの磁束量が永久磁石からの磁束量を凌駕して電機子側に流れる磁束の方向が逆転される状態をも含めて電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数を変更自在に構成する。これにより高速回転に於いても電機子コイルに供給する電流の周波数は抑えられて回転駆動を容易に出来る。
請求項11の発明は,回転子は電機子との対向面近傍に於いて周方向に一以上の磁性体突極を有し,電機子は回転子との対向面近傍に於いて一以上の電機子コイルを周方向に有し,電機子と回転子とを微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成した回転電機装置の磁性体突極励磁方法であって,磁性体が充填された1以上の孔部を有する非磁性導体層を含む非磁性導体層と磁性体層とを交互に積層して構成された交流フラックスバリアと,交流フラックスバリアの一方の最外層である磁性体層に磁極面が接する永久磁石との組み合わせを各磁性体突極近傍に有し,電機子コイルから永久磁石に加えられる交流磁界の強度を交流フラックスバリアにより抑制しながら永久磁石からの磁束は交流フラックスバリアを通過させ,隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化する事を特徴とする磁性体突極励磁方法である。
交流フラックスバリアに於いて,交流磁束は非磁性導体層に渦電流を誘起して流れの方向を変えられ,一部は磁性体層に誘導される。非磁性導体層の長さを永久磁石部分と同程度とすると,磁性体層に誘導された交流磁束及び直流磁束が速やかに磁性体及び空隙を含む空間に開放される。更に各非磁性導体層の厚みは小に設定すると,渦電流による発熱を抑えながら磁性体層に誘導される磁束量が大とされ,直流磁束に対する非磁性導体層での磁気抵抗を小になる。また,永久磁石の磁極面には常に磁路となる磁性体層が存在するので永久磁石に作用する減磁界は抑制される。したがって,本発明により電機子からの交流磁界強度が減じられ,また永久磁石により磁性体突極を支障なく磁化できる。
請求項12の発明は,回転子は電機子との対向面近傍に於いて周方向に一以上の磁性体突極を有し,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石により周方向に隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化し,電機子は回転子との対向面近傍に於いて周方向に配置した一以上の磁性体歯及び磁性体歯に巻回された電機子コイルを有し,電機子と回転子とを微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成した回転電機装置の磁束量制御方法であって,制御磁石を有し,電機子との対向面から離れた部分で且つ前記永久磁石と磁気的に並列接続するよう前記制御磁石を配置し,更に磁性体が充填された1以上の孔部を有する非磁性導体層を含む非磁性導体層と磁性体層とを交互に積層して構成された交流フラックスバリアを有し,交流フラックスバリアの一方の最外層である磁性体層を前記永久磁石の磁極面に接するよう交流フラックスバリアを配置し,磁性体突極に対向する磁性体歯に巻回された電機子コイルにパルス状電流を供給して前記磁性体突極に接している制御磁石の磁化状態を不可逆的に変更するよう構成し,前記制御磁石の磁化状態を変え,電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する磁束量制御方法である。
請求項13の発明は,回転子は電機子との対向面近傍に於いて周方向に一以上の磁性体突極を有し,磁性体突極内及び或いは隣接する磁性体突極間に配置された永久磁石により周方向に隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化し,電機子は回転子との対向面近傍に於いて周方向に配置した一以上の磁性体歯及び磁性体歯に巻回された電機子コイルを有し,電機子と回転子とを微小間隙を介して互いに対向し且つ相対的に回転可能に構成した回転電機装置の磁極数制御方法であって,制御磁石を有し,電機子との対向面から離れた部分で且つ前記永久磁石と磁気的に並列接続するよう前記制御磁石を配置し,互いに並列に接続されている制御磁石及び永久磁石の対に於いて制御磁石から流れる磁束量が永久磁石から流れる磁束量以上に設定された制御磁石及び永久磁石対を有し,制御磁石の磁化変更により電機子側に通過して流れる磁束量がほぼゼロとなる磁性体突極及び或いは電機子側に通過して流れる磁束の方向が逆転する磁性体突極を配置し,更に磁性体が充填された1以上の孔部を有する非磁性導体層を含む非磁性導体層と磁性体層とを交互に積層して構成された交流フラックスバリアを有し,交流フラックスバリアの一方の最外層である磁性体層を前記永久磁石の磁極面に接するよう交流フラックスバリアを配置し,磁性体突極に対向する磁性体歯に巻回された電機子コイルにパルス状電流を供給して前記磁性体突極に接している制御磁石の磁化状態を不可逆的に変更するよう構成し,前記制御磁石の磁化状態を変え,電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数を制御する磁極数制御方法である。
回転電機装置には一以上の円筒状電機子と回転子が径方向に空隙を介して対向する構造,一以上の略円盤状電機子と回転子が軸方向に空隙を介して対向する構造,一以上の電機子と回転子とが円錐面形状の対向面を有する構造等が存在する。本発明は上記何れの構造の回転電機システムにも適用される。さらに,回転電機は電機子コイルへの電流を入力として回転力を出力とすれば電動機であり,回転力を入力として電機子コイルから電流を出力すれば発電機である。電動機或いは発電機に於いて最適の磁極構成は存在するが,可逆的であり,上記の請求項に規定する回転電機システム及び磁束量制御方法は電動機,発電機の何れにも適用される。
本発明によれば,隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化する永久磁石には交流フラックスバリアが配置されて電機子コイルから永久磁石に加えられる交流磁界強度を減じ,低抗磁力磁石の使用を可能にする。また,電機子との対向面から離れた磁性体突極の内部に制御磁石を有し,電機子コイルにパルス状の磁束を発生させて制御磁石の磁化状態を変更する。これにより,低速度域では磁石トルクを強化して発生トルクを大にし,高速度域では永久磁石及び制御磁石からの磁束を相殺させてリラクタンスモータとして機能する。更に本発明では,回転子の磁極構成により永久磁石,制御磁石へのパルス状磁束の流れ易さを変え,制御磁石の磁化状態を変更するので両磁石を構成する自由度は大きく,例えば同一の磁石素材によって永久磁石及び制御磁石を構成できる。
以下に本発明による回転電機システムについて,その実施例及び原理作用等を図面を参照しながら説明する。
本発明による回転電機システムの第一実施例を図1から図3を用いて説明する。第一実施例は,希土類磁石以外の磁石を採用可能な磁石励磁回転電機である。図1はラジアルギャップ構造の回転電機装置に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,回転軸11がベアリング13を介してハウジング12に回動可能に支持されている。電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,磁性体歯14と,電機子コイル16とを有する。回転子は表面磁極部17,回転子支持体18を有して回転軸11と共に回転する。番号19は回転子両端に配置された放熱板であり,熱伝導の良いアルミニウムで構成され,表面磁極部17内の非磁性導体層と熱伝導性の良い絶縁体を介して連結されて放熱を容易にしている。
図2は図1のA−A’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部17は一様な磁性体中に2つの交流フラックスバリア24及び永久磁石23が周方向に略周期的に埋め込まれて磁性体突極が形成され,隣接する磁性体突極は磁性体突極21,磁性体突極22として識別されている。永久磁石23は隣接する磁性体突極21,22を互いに異極に磁化するよう周方向に隣接する永久磁石23同士の磁化方向は互いに逆に設定されている。永久磁石23に付された矢印は磁化方向を示す。交流フラックスバリア24(以下ではAFB24と略称する)の構成及び機能は図3を参照して説明される。磁性体突極21,磁性体突極22は幅の狭い可飽和磁性体部で連結された構成として所定の型でケイ素鋼板を打ち抜き,積層して構成され,ケイ素鋼板に設けられたスロットに永久磁石23,AFB24のブロック部分が挿入される。
図2に示されるように電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク15と,円筒状磁気ヨーク15から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯14と,磁性体歯14に巻回された電機子コイル16とから構成されている。本実施例では回転子の8極に対して12個の電機子コイルが配置され,3相に結線されている。
本実施例のAFB24を永久磁石23近傍に配置する目的は,永久磁石23からの磁束を支障なく通過させながら電機子コイル16から永久磁石23に加えられる磁界の強度を減少させる事である。回転子内では永久磁石からの磁束は直流的に流れ,電機子コイルからの磁束はパルス状で交流成分を多く含む。AFB24はこれらの磁束の特徴を利用して直流磁束を通過させながら交流磁束の磁界強度を減じている。電機子コイルから永久磁石23に加えられる磁界強度を減ずる事により,従来希土類磁石を使用していた位置に抗磁力が小の希土類以外の磁石採用を可能とする。或いは従来構造より薄い希土類磁石の採用を可能にして省希土類磁石を可能にする。またAFB24は回転子表面に沿う交流的な磁気抵抗変化を大にしてリラクタンストルクを大にしている。
図3は回転子の磁性体突極間近傍に於ける断面図の一部を拡大し,AFB24の構成及び動作原理を説明する為の図である。永久磁石23は径方向の磁化を有し,それぞれの磁極面近傍にはAFB24が配置されている。AFB24は5層の非磁性導体層31,32,33,34,35と磁性体層37,38,39,3a,3bとがそれぞれ交互に積層されて構成され,永久磁石23の磁極面には磁性体層37が接し,磁性体突極側には非磁性導体層35が配置されている。番号36は非磁性導体層31に設けられた貫通孔を示し,内部に圧粉鉄心が配置されている。
0.2ミリメートルの厚さを持つ銅の薄板である非磁性導体層31,32,33,34,35と1ミリメートルの厚さを持つ圧粉鉄心である磁性体層38,39,3a,3bは一体としてブロック状に構成され,ケイ素鋼板に設けられたスロットに挿入される。磁性体層37はケイ素鋼板の一部である。番号3cは永久磁石23端に配置された非磁性体を示す。図示されていないが,非磁性導体層31,32,33,34,35表面は熱伝導性の良い絶縁体層として薄いセラミック層で被覆され,放熱板19と非磁性導体層31,32,33,34,35とは熱伝導性の良い絶縁体,例えばセラミックを介して連結されている。非磁性導体層31,32,33,34,35それぞれも互いに電気的に絶縁されている。これらの絶縁体層及び絶縁体は磁性体突極を構成するケイ素鋼板と非磁性導体層とが閉じた電流回路を形成しないよう配置されている。
非磁性導体層31,32,33,34,35は磁気的には空隙と等価であり,磁束の通過に際して若干の抵抗となるが,0.2ミリメートル程度の厚さの銅板で構成されているので磁気抵抗は小さく,更に非磁性導体層31は内部に圧粉鉄心が配置された複数の貫通孔を有しているので直流的な磁束に対する磁気抵抗は小さく,永久磁石23からの磁束は容易に非磁性導体層31,32,33,34,35を越え,磁気抵抗の小さい磁性体層37,38,39,3a,3bに沿って流れる。更にABF24は永久磁石23とほぼ同程度の長さであるのでABF24の外側を通過して磁性体突極に至る磁束も存在できる。したがって,永久磁石23からの磁束は容易に磁性体突極及び電機子を介して流れ,永久磁石23に過大な減磁界が作用する事はない。
回転子が無い状態で電機子からの交流磁束は隣接する磁性体歯14をブリッジするよう弧状に流れようとする。回転子の表面近傍の磁性体突極21,22間にはABF24が埋め込まれているのでABF24内の非磁性導体層31,32,33,34,35には交流磁束の時間変化を妨げる方向の渦電流が誘起され,交流磁束は各非磁性導体層31,32,33,34,35を避け,回り込むように流れる。したがって,電機子からの交流磁束は各非磁性導体層31,32,33,34,35で誘起される渦電流により流れる方向が変えられる。方向を変えられた交流磁束の一部は非磁性導体層を越えて流れ,一部は磁性体層37,38,39,3a,3bに沿って回転子外に導かれ,永久磁石23にまで到達して通過する磁束量は減少される。ABF24は回転子の表面に沿って交流磁束に対する磁気抵抗を大にすると共に全体として回転子表面に沿う磁束を多くするので回転子を周方向に吸引するリラクタンストルクは大になる。
交流磁束の流れを阻止するには導体ブロックをABF24の位置に配置しても同様の効果を得られるが,その場合に厚みが大の導体ブロックは永久磁石23からの磁束も流れ難くして永久磁石には過大な自己減磁界が作用する事になる。本実施例によれば,永久磁石23からの直流的な磁束の流れを妨げることなく,電機子コイル16から永久磁石23に至る交流磁界の強度を抑制出来るので抗磁力の小さな希土類以外の永久磁石素材,或いは比較的厚みが小の希土類磁石素材を採用する事が出来る。
以上はシンプルなモデルによる説明である。実際に非磁性導体層31,32,33,34,35に作用する磁束は粗密分布を有して磁束の流れもシンプルではないが,本発明の趣旨を十分に理解できる。ABF24及び永久磁石23近傍の磁界分布は,ABF24を構成する各非磁性導体層,各磁性体層の形状,厚み,導電率,透磁率,層数,更に電機子コイル16が発生する磁界の周波数成分等の各種パラメータに依存し,前記各パラメータは回転電機装置の仕様により設定される。
本実施例ではAFB24内の非磁性導体層に誘起される渦電流により永久磁石23に加わる磁界強度を抑制している。中高速領域に於いて,回転子を駆動させるために電機子コイル16が加える磁界は必然的にパルス状或いは交流磁界であって上記条件を容易に満たす事が出来る。しかし,起動時及び低速時においてはAFB24内の非磁性導体層に十分な大きさの渦電流を誘起できず,永久磁石23に過大な磁界強度が加わる可能性がある。そのような懸念のある場合には,起動時及び低速時に於ける駆動電流として所定時間間隔の連続パルス電流を電機子コイル16に加える事で解決される。AFB24内の非磁性導体層により電機子コイル16のインダクタンスは小となるので短い時間間隔でのパルス状電流は容易に流せる。
従来の回転電機に於いて,電機子に対向する回転子表面には容易に非可逆減磁を生じないネオジウム磁石(NdFeB)の配置が望ましいが,本実施例では上記説明のように通常の回転駆動時に電機子コイルから永久磁石23に加えられる磁界強度は減じられる。ネオジウム磁石(NdFeB)では不可逆的な磁化変更に必要な磁界強度が2400kA/m(キロアンペア/メートル)程度であり,アルニコ磁石(AlNiCo)では不可逆的な磁化変更に必要な磁界強度は240kA/m程度である。本実施例に於いて永久磁石23はアルニコ磁石で構成されている。
以上,図1から図3を用いて第一実施例の構成を示し,交流フラックスバリア(AFB)を用いて電機子コイル16から永久磁石23に加えられる交流磁界の強度を抑制しながら永久磁石23から電機子コイル16と鎖交する磁束量を確保出来る回転電機装置をAFBの作用原理を中心に説明した。本実施例に示した回転電機装置は電動機或いは発電機として動作するが,新規なAFBを含む磁極構成以外は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
また,本実施例に於いて,永久磁石からの磁束量は一定であるが,従来の回転電機装置と同様に駆動電流の位相を進ませて弱め界磁とする事が出来る。すなわち,磁性体突極と電機子コイル16との位置に応じた電流を電機子コイル16に流し,自己インダクタンスにより逆起電力を発生させ,電機子コイル16に現れる総合的な誘起電圧を抑制して高速回転域でも回転駆動力を得る事が出来る。これは従来の回転電機装置と同様に負のd軸(磁性体突極に於いて径方向)電流を供給する事による弱め界磁制御と同じであり,物理的に永久磁石23の磁化を弱める事にならないが,電機子コイル16に現れる誘起電圧を減ずる結果は同じである。このように本実施例に示した回転電機装置は従来の回転電機装置と同様に弱め界磁可能な電動機或いは発電機として使用できる。
本発明による回転電機システムの第二実施例を図4,5,6を用いて説明する。第二実施例は,希土類磁石以外の磁石採用が可能な磁石励磁回転電機システムである。図4はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,第一実施例とは回転子の磁極構造が異なり,異なる点に集中して説明する。番号41は回転子の表面磁極部を示している。
図5は図4のB−B’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部41は少なくとも永久磁石を含む部材により磁性体基板から磁気的に区分された磁性体突極が回転子を構成する磁性体基板の表面近傍に周方向にほぼ等間隔で配置されている。すなわち,磁性体突極は一様な磁性体基板59中に配置された島状の磁極であって,磁性体突極間を介する磁路に電機子コイルの作る磁束通過を可能にしてリラクタンストルクを発生出来る。
隣接する磁性体突極は磁性体突極51,磁性体突極52として識別され,磁性体突極51に接する永久磁石54,55,磁性体突極52に接する永久磁石56,57は隣接する磁性体突極51,52を互いに異極に磁化するよう永久磁石54,55,56,57の磁化方向が設定されている。永久磁石54,55,56,57に付された矢印は磁化方向を示す。磁性体突極51,52間の中間磁性体突極53は磁性体基板59の一部である。永久磁石54,55,56,57の近傍にはそれぞれ銅板58が配置され,その具体的な構造は図6を用いて説明される。
図6は更に磁性体突極51近傍の拡大された断面図を示し,磁性体突極51の構成を説明する。同図に示されるように磁性体突極51は永久磁石54,55,更にそれぞれの永久磁石に磁性体層61を介して配置された厚さ1ミリメートルの銅板58により磁性体基板59から磁気的に区分されるよう構成されている。銅板58には直径1ミリメートルの貫通孔62が設けられ,内部には圧粉鉄心が配置されている。貫通孔62は底部の厚みが微小な有底の孔としてもよく,その場合は組み立てに際して圧粉鉄心の脱落を避ける事が出来る。銅板58及び磁性体層61は本実施例に於いて交流フラックスバリア(AFB)を構成している。番号63,64は永久磁石54,55端に配置された非磁性体部分を示し,永久磁石54,55が磁気的に短絡され難いよう配置されている。磁性体基板59をケイ素鋼板とし,所定の型でケイ素鋼板を打ち抜いて積層し,ケイ素鋼板に設けられたスロットに永久磁石54,55,銅板58が挿入されて構成される。
すなわち,磁性体突極51は永久磁石54,55,非磁性導体である銅板58によって磁性体基板59から磁気的に区分され,銅板58を含むAFBにより電機子コイルが発生する交流磁束が通過し難いよう構成されている。磁性体突極52も磁性体突極51と同じ構成であり,磁性体突極51が近傍に配置された永久磁石54,55によってN極に磁化され,磁性体突極52が近傍に配置された永久磁石56,57によってS極に磁化されるよう構成されている点が異なる。
磁性体層61は磁性体基板59の一部であり,銅板58及び磁性体層61は層数,形状は異なるが,第一実施例に於ける交流フラックスバリアに相当する。圧粉鉄心の飽和磁束密度は永久磁石54,55の残留磁束密度の2倍程度であるので銅板58に設ける貫通孔62の断面積の総和を銅板58の面積の約半分程度に設定する。電機子コイル16から加えられる交流磁束は銅板58に誘起される渦電流により妨げられ,銅板58を回り込むよう流れる。更に磁性体層61の厚みは約1ミリメートルとして永久磁石54或いは55からの磁束により磁性体層61がほぼ磁気的に飽和される程度に設定し,銅板58を回り込むよう流れる交流磁束が磁性体層61を介して永久磁石54,55を流れ難いよう構成されている。本実施例による交流フラックスバリアは銅板58の厚みを1ミリメートルと十分に大にして電機子コイル16からの交流磁界の強度を十分に抑制させ,また永久磁石からの磁束が磁性体突極,磁性体層61,貫通孔62を介して電機子側に支障なく流れるよう構成されている。
本実施例に於いて,銅板58に誘起される渦電流は実効的に回転子表面の周方向に沿う交流磁気抵抗を増大させてリラクタンストルクを大にし,また永久磁石54,55,56,57は磁石トルクの利用を可能にする。永久磁石54,55,56,57は銅板58を含むAFBにより交流磁束の流れは抑制されるので電機子コイル16からの磁束が永久磁石54,55,56,57の磁化に及ぼす影響は抑制される。従って,永久磁石54,55,56,57には比較的低抗磁力の希土類磁石以外の永久磁石素材採用が可能である。更にまた,磁性体突極51,52は磁性体基板59から磁気的に区分された島状の突極であって,磁性体突極51,52間には中間磁性体突極53が配置され,中間磁性体突極53を介して電機子コイル16が発生する磁束が流れる事が出来る。すなわち,本実施例では電機子コイル16が発生する磁束が中間磁性体53及び回転子内部の磁性体基板59を介して流れてリラクタンストルクを発生出来る。
以上,図4,5,6を用いて第二実施例の構成を示し,交流フラックスバリア(AFB)を用いて電機子コイル16から永久磁石54,55,56,57に加えられる交流磁界の強度を抑制しながら永久磁石54,55,56,57から電機子コイル16と鎖交する磁束量を確保出来る回転電機装置を説明した。本実施例に示した回転電機装置は電動機或いは発電機として動作するが,新規な回転子構成以外は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例に於いて,銅板58に設けられた貫通孔62の直径を約1ミリメートルに設定したが,貫通孔62の直径の設定には柔軟性がある。しかし,貫通孔62の直径をあまりに大きく設定すると,貫通孔62を介して交流磁束が滲み出す可能性がある。交流磁束の滲み出しを考慮して貫通孔62の直径は銅板58及び磁性体層61の厚みの和より小とし,交流磁束の波長より小とする。また,本実施例では交流フラックスバリアを永久磁石に関して磁性体突極の反対側に配置したが,磁性体突極側に配置する事も可能であり,永久磁石の二つの磁極面に接するよう配置する事も可能である。
本実施例で用いられた交流フラックスバリア(AFB)は一種の低域通過フィルタであって低周波数の磁束を通過させ,高周波数の磁束の通過を困難にする。この目的に最も適合する構成は導電性の磁性体ブロック,例えば軟鉄ブロックを銅板58の位置に配置する事である。しかし,導電性の磁性体ブロックは高周波数の磁束の遮断特性は優れているが,電気抵抗が大で渦電流損に伴う発熱が過大である。更に高周波数の磁束の遮断特性が急峻であって周方向の交流磁気抵抗の制御も容易ではない。本実施例では上記理由で銅板58を採用してAFBを構成したが,導電性に優れ,透磁率の均一な導電性磁性体を採用してAFBを構成する事も出来る。
本発明による回転電機システムの第三実施例を図7,8,9を用いて説明する。第三実施例は,希土類磁石以外の磁石採用が可能な磁石励磁回転電機システムである。図7はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,第一実施例とは回転子の磁極構造が異なり,異なる点に集中して説明する。番号71は回転子の表面磁極部を,番号72は永久磁石を,番号73は銅板をそれぞれ示している。永久磁石72に付された矢印は磁化方向を示す。
図8は図7のC−C’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部71は周方向に交互に凸部と凹部とを表面に有する磁性体で構成されている。隣接する凸部は磁性体突極81,82として周方向に交互に配置されている。番号83は凹部を示す。磁性体突極81の電機子から離れた側には銅板73,永久磁石72がそれぞれの間に磁性体層84を挟むよう配置され,磁性体突極81,82が互いに異なる方向に磁化されている。銅板73及び磁性体層84は交流フラックスバリアを構成し,磁性体層84は圧粉鉄心より構成されて銅板73,磁性体層84,永久磁石72は一体のブロックとして構成されている。磁性体突極81,82は幅の狭い可飽和磁性体部で連結された構成として所定の型でケイ素鋼板を打ち抜き,積層して構成され,ケイ素鋼板に設けられたスロットに銅板73,磁性体層84,永久磁石72のブロックが挿入される。永久磁石72内の矢印は磁化方向を示している。凹部83では回転子の表面に於ける磁気抵抗が大であり,リラクタンストルクが大にされる。電機子は図2に示された第一実施例の電機子と同じであるので再度の説明は省略する。
図9は更に磁性体突極81近傍の拡大された断面図を示し,交流フラックスバリアの構成を説明する。本実施例に於いて,銅板73及び磁性体層84は交流フラックスバリア(AFB)を構成している。銅板73は厚さ1ミリメートルとし,直径1ミリメートルの貫通孔91が設けられ,貫通孔91内部には圧粉鉄心が配置されている。圧粉鉄心の飽和磁束密度は永久磁石72の残留磁束密度の2倍程度であるので銅板73に設けられた貫通孔91の断面積の総和を銅板73の面積の約半分程度に設定されている。電機子コイル16から加えられる交流磁束は銅板73に誘起される渦電流により銅板73を回り込むよう流れる。更に磁性体層84の厚みは約1ミリメートルとして永久磁石72からの磁束により磁性体層84がほぼ磁気的に飽和される程度に設定し,銅板73を回り込むよう流れる交流磁束が永久磁石72を流れ難いよう構成されている。本実施例による交流フラックスバリアは銅板73の厚みは1ミリメートルと十分に大にして電機子コイル16からの交流磁界の強度を十分に抑制させ,また永久磁石72からの磁束が磁性体層84,貫通孔91,磁性体突極81を介して電機子側に支障なく流れるよう構成されている。番号92は永久磁石72端に配置された非磁性体を示す。
本実施例に於いて,磁性体突極間の凹部83は回転子表面の周方向に沿う磁気抵抗を増大させてリラクタンストルクを大にし,また永久磁石72は磁石トルクの利用を可能にする。永久磁石72は磁性体突極81,82の延長部それぞれに配置されるので電機子コイル16から遠く離れ,更に永久磁石72の外周側に配置された交流フラックスバリアにより交流磁界の強度は抑制されるので電機子コイル16からの磁束が永久磁石72の磁化に及ぼす影響は抑制される。従って,永久磁石72には比較的低抗磁力の希土類磁石以外の永久磁石素材採用が可能である。
以上,図7,8,9を用いて第三実施例の構成を示し,交流フラックスバリア(AFB)を用いて電機子コイル16から永久磁石72に加えられる交流磁界の強度を抑制しながら永久磁石72から電機子コイル16と鎖交する磁束量を確保出来る回転電機装置を説明した。本実施例に示した回転電機装置は電動機或いは発電機として動作するが,新規な回転子構成以外は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本発明による回転電機システムの第四実施例を図10から図14を用いて説明する。第四実施例は,電機子コイルと鎖交する磁束量を制御可能な磁石励磁回転電機システムである。第一実施例から第三実施例の回転電機はセグメント構造のリラクタンスモータに於いて,低速トルクを強化する為に永久磁石を埋め込んだ構造として理解できる。しかしながら,回転速度が大になると,永久磁石からの磁束により逆起電力が大となり,高速回転は制限される事になった。本実施例では更に制御磁石を有し,制御磁石の磁化を変更する事により高速回転領域で電機子コイルと鎖交する磁束量を減じて高速回転限界を拡大する。図10はラジアルギャップ構造の回転電機に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,第二実施例とは回転子の磁極構造が異なり,異なる点に集中して説明する。番号101は回転子の表面磁極部を,番号102は制御磁石をそれぞれ示している。
図11は図10のD−D’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部101は少なくとも永久磁石を含む部材により周囲の磁性体から磁気的に区分された磁性体突極が回転子の表面近傍に周方向にほぼ等間隔で配置されるよう構成されている。すなわち,磁性体突極は一様な磁性体基板11b中に配置された島状の磁極であって,磁性体突極間を介する磁路に電機子コイルからの作る磁束を通過させてリラクタンストルクを発生出来る。
隣接する磁性体突極は磁性体突極111,磁性体突極112として識別され,磁性体突極111に接する永久磁石114,115,磁性体突極112に接する永久磁石116,117は隣接する磁性体突極111,112を互いに異極に磁化するよう永久磁石114,115,116,117の磁化方向が設定されている。磁性体突極111,112間の中間磁性体突極113は磁性体基板11bの一部である。永久磁石114,115,116,117の近傍にはそれぞれ銅板118が配置され,更に磁性体突極111に接する制御磁石119,磁性体突極112に接する制御磁石11aが配置されている。永久磁石114,115,116,117,制御磁石119,11aに付された矢印は磁化方向を示す。磁性体突極111,112の更に詳しい構造は図12を用いて説明される。
図12(a),(b)は磁性体突極111,112近傍の拡大された断面図を示し,磁性体突極111,112の構成及び通常,弱め界磁に於ける磁束の流れを説明する。同図に示されるように磁性体突極111は永久磁石114,115,更に永久磁石114,115に磁性体層121を介して配置された厚さ1ミリメートルの銅板118,制御磁石119により磁性体基板11bから磁気的に区分されるよう構成されている。銅板118には直径1ミリメートルの貫通孔122が設けられ,内部には圧粉鉄心が配置されている。銅板118及び磁性体層121は本実施例に於いて交流フラックスバリア(AFB)を構成している。磁性体突極112も同様に構成されている。磁性体基板11bをケイ素鋼板とし,所定の型でケイ素鋼板を打ち抜いて積層し,ケイ素鋼板に設けられたスロットに永久磁石114,115,116,117,制御磁石119,11a,銅板118が挿入されて構成される。永久磁石114,115,116,117,制御磁石119,11a内の矢印はそれぞれの磁化方向を示す。
磁性体層121は磁性体基板11bの一部であり,銅板118及び磁性体層121は第二実施例に於ける交流フラックスバリアと同じである。圧粉鉄心の飽和磁束密度は永久磁石114,115の残留磁束密度の2倍程度であるので銅板118に設ける貫通孔122の断面積の総和を銅板118の面積の約半分程度に設定する。電機子コイル16から加えられる交流磁束は銅板118に誘起される渦電流により妨げられ,銅板118を回り込むよう流れる。更に磁性体層121の厚みは約1ミリメートルとして永久磁石114或いは115からの磁束により磁性体層121がほぼ磁気的に飽和される程度に設定し,銅板118を回り込むよう流れる交流磁束が永久磁石114,115を流れ難いよう構成されている。本実施例による交流フラックスバリアは銅板118の厚みは1ミリメートルと十分に大にして電機子コイル16からの交流磁界の強度を十分に抑制させ,また永久磁石からの磁束が磁性体突極を介して電機子側に支障なく流れるよう構成されている。
図12(a)は通常界磁,図12(b)は弱め界磁の状態を示す。図12(a)に於いて,点線123は永久磁石114,115,116,117からの磁束を代表して示し,点線124は制御磁石119,11aからの磁束を代表して示している。同図に示されるように永久磁石114,115と制御磁石119とが磁性体突極111をN極に磁化し,永久磁石116,117と制御磁石11aとが磁性体突極112をS極に磁化する場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態である。制御磁石119の磁化方向が外径方向である場合,制御磁石11aの磁化方向が内径方向である場合が通常界磁に相当する。
図12(b)は図12(a)に示す状態から制御磁石119,11aの磁化方向が反転された状態である。制御磁石119と永久磁石114,115は閉磁路を構成し,制御磁石11aと永久磁石116,117は閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号125は閉磁路を構成している磁束を代表して示し,図12(b)の場合が弱め界磁の状態に相当する。この状態で電機子側に流れる磁束量は制御磁石119,11a,永久磁石114,115,116,117の飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。図12(b)に示されるように制御磁石119の磁化方向が内径方向である場合,制御磁石11aの磁化方向が外径方向である場合が弱め界磁に相当する。
図13は図11に示された電機子及び回転子の一部を拡大して示した断面図であり,この図を用いて制御磁石の磁化変更に際して電機子コイルから加えられる励磁磁束の流れを説明する。同図に於いて,磁性体突極111,112と対向する磁性体歯及びそれに巻回されている電機子コイルを識別する為に磁性体歯に番号131,132,133が付され,電機子コイルには番号134,135,136が付されている。図11に示したように本実施例では回転子の8極に対して12個の電機子コイルが配置されて3相に結線されている。電機子コイル134,135,136はそれぞれU相,V相,W相の電機子コイルに相当し,電機子コイル16を各相毎に識別する為に番号が付されている。
図14は磁化方向の厚みが異なる磁石要素141,142が軸方向に繰り返し配置されている制御磁石119の縦断面の一部を拡大して示した図であり,同図により磁石要素141,142の関係及び通常,弱め界磁状態を説明する。番号143は圧粉鉄心を示し,番号144は磁石要素141,142間の磁気的な結合を減じる為に配置された非磁性体を示す。磁石要素141は磁性体突極111と接し,磁石要素142は圧粉鉄心143を介して磁性体突極111と接している。圧粉鉄心143は比抵抗が大であるのでパルス状磁束が容易に通過できる。
電機子コイル16により磁性体突極111,中間磁性体突極113間に磁界が加えられると,磁石要素141,142を挟んでいる磁性体突極111と磁性体基板11b間の磁気ポテンシャル差(起磁力)はほぼ一様として磁石要素141,142内では磁気ポテンシャル差を長さで除した値に相当する磁界強度が加えられ,その磁界強度が抗磁力を越えた磁石要素の磁化が変更される。したがって,厚みの小さい磁石要素142が磁化されやすく,厚みの大きい磁石要素141は磁化され難い。磁石要素141,142の磁化状態を変更する際に電機子コイル16にはパルス状の電流が供給され,誘起されたパルス状磁束は銅板118を含む交流フラックスバリアを通り難くて永久磁石114,115に加わる磁界強度は弱く,永久磁石114,115の磁化状態は変更されない。
磁石要素141,142の磁極面積は等しく設定され,永久磁石114,115の磁極面積の和と残留磁束密度との積は磁石要素141,142の磁極面積の和と残留磁束密度との積に等しく設定されている。図14(a)に於いて磁石要素141,142の磁化方向は上方向(外径方向)であり,電機子コイル16と鎖交する磁束量が最大となる。この状態を基準として電機子コイル16と鎖交する磁束量を1.0とする。図14(b),(d)の状態では磁石要素141,142の磁化方向が互いに逆であって磁石要素141,142は閉磁路を構成するので電機子コイル16と鎖交する磁束は永久磁石114,115に起因する磁束のみであって0.5に相当する。図14(c)では磁石要素141,142の磁化方向が下方向(内径方向)であって永久磁石114,115と磁石要素141,142とは閉磁路を構成するので電機子コイル16と鎖交する磁束量は最小で0.0となる。
磁石要素141,142の磁化状態を弱め界磁方向に変更するには磁性体突極111を介して制御磁石119の磁化方向と逆方向に流れるパルス状磁束137,138が流れるよう電機子コイル134と電機子コイル135,136とに互いに逆方向のパルス状電流を供給する。パルス状の磁束137は銅板118では渦電流が誘起されて流れ難く,制御磁石119(磁石要素141,142)に集中されて磁化状態が変更される。パルス状磁束138は制御磁石119及び隣接する制御磁石11aを介して流れるが,磁路が長く,制御磁石119と制御磁石11aが直列に含まれるのでその磁束量は少なく,制御磁石11aの磁化を変更するに至らない。
図14(a)の状態から電機子側に流れる磁束量を減ずる為には最も磁化方向厚みの小さい磁石要素142の磁化方向を反転させると共に磁石要素141の磁化に影響しないよう電機子コイル134,135,136に供給するパルス状電流を設定してパルス状磁束137を発生させる。その結果が図14(b)であり,磁石要素141,142からの磁束は互いに相殺されて磁性体突極141,142を介して電機子コイルと鎖交する磁束量は0.5となる。
更に図14(b)の状態から電機子側に流れる磁束量を減ずる為には二番目に磁化方向厚みの小さい磁石要素141の磁化方向を反転させるよう電機子コイル134,135,136に供給するパルス状電流を設定してパルス状磁束137を発生させる。その結果が図14(c)であり,磁石要素141,142が供給する磁束は永久磁石114,115からの磁束と相殺されるので磁性体突極141,142を介して電機子コイルと鎖交する磁束量はほぼ0.0となる。
磁石要素141,142の磁化状態を強め界磁方向に変更するには磁性体突極111を介して制御磁石119の磁化方向と逆方向に流れるパルス状磁束137,138が流れるよう電機子コイル134と電機子コイル135,136とに互いに逆方向のパルス状電流を供給する。パルス状の磁束137は銅板118では渦電流が誘起されて流れ難く,制御磁石119(磁石要素141,142)に集中されて磁化状態が変更される。パルス状磁束138は制御磁石119及び隣接する制御磁石11aを介して流れるが,磁束量は少なく,制御磁石11aの磁化を変更するに至らない。
電機子コイルとの鎖交磁束量が最も少ない場合は磁石要素141,142の磁化状態が図14(c)に示される状態であり,磁性体突極141,142を介して電機子コイルと鎖交する磁束量はほぼ0.0である。この状態から電機子コイルとの鎖交磁束量を増やすには磁石要素141,142に於いて上方向の磁化を増やす事である。磁化方向厚みが最も小さい磁石要素142の磁化方向を反転させて磁石要素141の磁化方向に影響しない大きさのパルス状電流を134,135,136に供給して磁石要素142の磁化方向を上方向とする。この状態が図14(d)であり,磁性体突極141,142を介して電機子コイルと鎖交する磁束量は0.5となる。
更に電機子コイルとの鎖交磁束量を増やすには磁化方向厚みが2番目に小さい磁石要素141の磁化方向を上方向に変える大きさのパルス状電流を電機子コイル134,135,136に供給して磁石要素141の磁化方向を上方向とする。この状態が図14(a)であり,磁性体突極141,142を介して電機子コイルと鎖交する磁束量は1.0となる。
上記の過程は制御磁石119の磁化状態を変更する為の説明であり,制御磁石11aの磁化状態は変更されない。制御磁石11aの磁化変更は制御磁石119の磁化変更に引き続いて磁性体突極112と磁性体歯131が対向した時に制御磁石119の磁化変更と同じステップにより変更する。
本実施例では磁化方向厚みの異なる磁石要素を軸方向に並べて制御磁石を構成したので電機子コイルと鎖交する磁束量は軸方向に異なり,逆起電圧,出力トルクも軸方向に異なる事になる。しかし,各磁石要素からの磁束は軸方向に分散して平均化される傾向にあり,軸方向に鎖交磁束量の変動が残って逆起電圧が軸方向に変動しても電機子コイル内で平均化される。出力トルクが軸方向に変動し,振動を引き起こす可能性はあるが,各磁石要素の配列周期を小さくする事で解消される。
本実施例では磁化方向厚みの異なる磁石要素を軸方向に並べ,並列接続して制御磁石を構成したが,制御磁石の磁化方向長さが連続的に変わる構成,磁化方向長さを一定として抗磁力の異なる磁石要素を並列接続する構成も可能であり,構造はシンプルになる。また,各磁石要素を軸方向に並べる替わりに磁性体突極と接する範囲で周方向に並べる事も勿論可能である。
本実施例では,磁石要素141,142の磁化状態を不可逆的に変えて電機子コイルと鎖交する磁束量を制御する。従来の回転電機に於いて,電機子に対向する回転子表面には容易に非可逆減磁を生じないネオジウム磁石(NdFeB)の配置が望ましいが,上記説明のように通常の回転子駆動時に磁石要素141,142には電機子コイルが誘起する磁束は到達し難いので磁化変更容易な磁石素材を使用する事が出来る。ネオジウム磁石(NdFeB)では着磁に必要な磁界強度が2400kA/m(キロアンペア/メートル)程度であり,アルニコ磁石(AlNiCo)の着磁に必要な磁界強度は240kA/m程度である。本実施例に於いて磁石要素141,142はアルニコ磁石で構成されている。また永久磁石114,115,116,117を流れる交流磁束は銅板118を含む交流フラックスバリアにより抑制され,更に銅板118と永久磁石114,115,116,117との間に磁性体層121が存在して自己減磁界は抑制されている。
回転子の回転駆動,制御磁石の磁化変更に際して電機子コイルに供給される電流は回転子の磁性体突極と電機子コイルとの位置関係に応じて制御される。回転子の回転駆動時に制御磁石の磁化状態を更に安定的に保持するよう制御磁石の抗磁力,磁化方向厚みを大に設定する構成は可能である。その場合には制御磁石の磁化変更に先立って電源電圧より高い電圧をコンデンサーに充電し,選択された電機子コイルに放電させ,大振幅のパルス状電流を供給する。
このように回転子の位置に応じて電機子コイル16に供給する電流を変え,制御磁石内の磁石要素の磁化方向を変えて電機子を流れる磁束量は制御される。電機子を流れる磁束量と電流との関係は設計段階でマップデータとして設定する。しかし,回転電機の量産段階では部材の寸法のバラツキ,磁気特性のバラツキも存在して電機子を流れる磁束量の精密な制御が困難になる場合がある。そのような場合には回転電機を組み立て後に回転電機個々に前記関係を検査し,前記マップデータを修正する。
さらに磁性体は温度による影響を受けやすく,経時変化による影響も懸念される場合には回転電機の運転中に磁化変更の為の電流とその結果である制御磁石の磁化状態との関係を監視して前記マップデータを修正する情報を学習的に取得する事も出来る。電機子を流れる磁束量を直接に把握する事は難しいが,電機子コイル16に現れる誘起電圧を参照して電機子を流れる磁束量を推定する。
例えば,電機子コイル16に現れる誘起電圧の振幅は電機子コイル16と鎖交する磁束量及び回転速度にほぼ比例する。制御磁石内の磁石要素の磁化を変更するよう電機子コイルに電流を加えた結果として誘起電圧の振幅の変化量が目標値より小の場合は同一条件に於ける電流の振幅を大に,誘起電圧の振幅の変化量が目標値より大の場合は同一条件に於ける電流の振幅を小にするよう磁化変更の為に供給する電流に係わるパラメータを修正する。
以上,図10から図14を用いて第四実施例の構成を示し,電機子と鎖交する磁束量変更の為に制御磁石の磁化変更の原理を説明した。本実施例に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機として動作するが,界磁制御に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例は電機子を流れる磁束量を制御して出力を最適化するシステムであり,電動機システムとしての制御を説明する。回転電機が電動機として用いられる場合において,磁束量制御を行って回転力を最適に制御する。回転子内に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する制御磁石内の磁石要素を第一磁化とし,制御装置は回転速度が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には制御磁石に於いて第一磁化を持つ磁石要素数を減じるよう駆動制御回路を介して電機子コイルにパルス状電流を供給して制御磁石の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置は回転速度が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には制御磁石に於いて第一磁化を持つ磁石要素数を増すよう駆動制御回路を介して電機子コイルにパルス状電流を供給して制御磁石の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を大とする。
回転電機が発電機として用いられる場合において,磁束量制御を行って発電電圧を所定範囲の電圧となるよう制御する定電圧発電システムを説明する。回転子内に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する制御磁石内の磁石要素を第一磁化とし,制御装置は発電電圧が所定の値より大となり電機子に流れる磁束量を小とする時には制御磁石に於いて第一磁化を持つ磁石要素数を減じるよう駆動制御回路を介して電機子コイルにパルス状電流を供給して制御磁石の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置は発電電圧が所定の値より小となり電機子に流れる磁束量を大とする時には制御磁石に於いて第一磁化を持つ磁石要素数を増すよう駆動制御回路を介して電機子コイルにパルス状電流を供給して制御磁石の磁化状態を変えて電機子を流れる磁束量を大とする。
本発明による回転電機システムの第五実施例を図15から図22を用いて説明する。第五実施例は,磁性体突極延長部内に永久磁石及び制御磁石が軸方向に交互に並んで配置された回転電機装置である。図15はラジアルギャップ構造の回転電機装置に本発明を適用した実施例の縦断面図を示し,第四実施例とは電機子構成,回転子の磁極構造が異なり,相違点に集中して説明する。電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク155と,磁性体歯154と,電機子コイル156とを有している。回転子は表面磁極部157を有し,番号158は永久磁石を,番号159は制御磁石を,番号15aは銅板を,番号15bは圧粉鉄心をそれぞれ示している。同図に於いて永久磁石158,制御磁石159が軸方向に交互に繰り返し配置されているが,両者は一様な棒状永久磁石であって,その外周に軸方向に交互に配置された銅板15a,圧粉鉄心15bによって実効的に永久磁石158,制御磁石159として機能するよう構成されている。永久磁石158,制御磁石159に付された矢印は磁化方向を示す。
図16は図15のE−E’に沿う電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。表面磁極部157は磁性体突極と非磁性体とが周方向に交互に配置された構成であって,非磁性体は更に非磁性体163及びその両側に配置された銅板164,165で構成され,隣接する磁性体突極は番号161,162として識別されている。回転子の内周部分に於いて,磁性体突極161,162の延長部それぞれには銅板15a及び永久磁石158が配置され,磁性体突極161,162は互いに異極に磁化されるよう周方向に隣接する永久磁石158の磁化方向は互いに逆に設定されている。永久磁石158に付された矢印は磁化方向を示す。図17は図15のF−F’に沿う電機子及び回転子の断面図を示している。図17と図16とはほぼ同じ構成を示すが,図16に於いて銅板15a及び永久磁石158が配置されている位置に圧粉鉄心15b,制御磁石159がそれぞれ配置されている点が異なる。制御磁石159に付された矢印は磁化方向を示す。
本実施例では磁性体突極間に銅板164,165と非磁性体163を配置し,銅板164,165の厚みと非磁性体163の周方向厚みとを調整して回転子表面に沿う交流磁気抵抗を制御出来る。非磁性体163には熱伝導に優れるセラミックを採用して放熱板19と接続し,銅板164,165に誘起される渦電流に伴う熱を放散させる。
永久磁石158の外周側に配置された銅板15aは永久磁石158の磁極との間に磁路となる磁性体を挟むよう構成されている。更に銅板15aには貫通孔が設けられ,貫通孔15aには磁性体が配置されている。すなわち,銅板15a,銅板15aと永久磁石158間の磁性体は第三実施例に於いて説明した交流フラックスバリアと同じ趣旨である。
図16,17に示されるように電機子はハウジング12に固定された円筒状磁気ヨーク155と,円筒状磁気ヨーク155から径方向に延び,周方向に磁気空隙を有する複数の磁性体歯154と,磁性体歯154に巻回された電機子コイル156とから構成されている。本実施例では回転子の8極に対して24個の電機子コイルが配置され,3相に結線されている。
図15から図17に於いて,同一の磁性体突極延長部に配置された制御磁石159と永久磁石158とは磁化方向が同じであって,電機子コイル156と鎖交する磁束量は大とされる。同一の磁性体突極延長部に配置された制御磁石159と永久磁石158の磁化方向が互いに逆の場合が弱め界磁であって,図18に示される。図18は図15に示された回転子の縦断面を拡大して示し,更に弱め界磁の場合の磁束の流れを示している。制御磁石159の磁化方向が図15,16,17の場合から反転されると,永久磁石158からの磁束と制御磁石159からの磁束とは互いに閉磁路を構成する。番号181は閉磁路を構成して流れる磁束を代表して示している。本実施例に於いては,永久磁石158の総磁極面積は制御磁石159の総磁極面積より大に設定され,若干量の磁束が電機子コイルと鎖交する構成である。磁性体突極161,162の殆どの部分に永久磁石158,制御磁石159からの磁束は流れないのでリラクタンストルクを利用して回転子を回転駆動する。
更に図19(a),(b)は図16に示された電機子及び回転子の一部を拡大して示した断面図であり,図19(a)は通常界磁を,図19(b)は弱め界磁の状態を示し,それぞれに於いて磁束の流れが説明される。これらの図に於いて,番号191は永久磁石158と銅板15aとの間の磁性体層を,番号192は銅板15aに設けられた貫通孔を示している。貫通孔192は直径1ミリメートルで圧粉鉄心が配置され,銅板15a及び磁性体層191の厚みはそれぞれ1ミリメートルである。
図19(a)に於いて,点線193は永久磁石158からの磁束を代表して示す。同図に於いて,磁性体突極161,162は幅の狭い磁性体で互いに連結されているが,幅の狭い磁性体は容易に磁気的に飽和するので磁気的には無視できる。同図に示されるように永久磁石158が磁性体突極161をN極に磁化し,磁性体突極162をS極に磁化し,制御磁石159の磁化方向が永久磁石158と同じ方向である場合が電機子コイルと鎖交する磁束量を大とする状態である。
図19(b)は制御磁石159の磁化方向が永久磁石158と逆方向である場合に於ける磁束の流れを示す。制御磁石159と永久磁石158とは図18に示されるように閉磁路を構成して電機子側に流れる磁束量が減少される。番号194は閉磁路を構成して流れる磁束を代表して示し,永久磁石158からの磁束194は図18に示されるように軸方向に流れて制御磁石159と閉磁路を構成する。この状態で電機子側に流れる磁束量は制御磁石159,永久磁石158の飽和磁束密度,磁極面積等によって設定される。
図20,21,22は図16に示された電機子及び回転子の一部を拡大して示した断面図であり,これらの図を用いて制御磁石159の磁化変更に際して電機子コイルから加えられる磁束の流れを説明する。これらの図に於いて,磁性体突極と対向する磁性体歯及びそれに巻回されている電機子コイル,制御磁石を識別する為に磁性体突極には番号201,202,203が,電機子コイルには番号204,205,206,207,208,209,20a,20b,20cが,制御磁石には番号20d,20e,20fがそれぞれ付されている。
図20に於いて,磁性体突極201に対向する電機子コイル204,205,206と,磁性体突極202に対向する電機子コイル207,208,209とに互いに逆方向のパルス状電流を供給し,パルス状磁束を磁性体突極201,制御磁石20d,制御磁石20e,磁性体突極202の方向に流して制御磁石20d,制御磁石20eの磁化方向を同時に反転させる事が出来る。圧粉鉄心15bは電気抵抗が大であるのでパルス状磁束は支障無く通過する。そのパルス状磁束が銅板15a及び永久磁石158内を流れる磁路も存在するが,銅板15aはパルス状の磁束を通し難いので永久磁石158を流れる磁束は少ない。しかし,この磁路内に制御磁石20d,制御磁石20eが直列に接続されているので電機子コイル204,205,206,207,208,209に供給する電流振幅を大にする必要がある。本実施例では制御磁石の磁化変更を小さな電流振幅で行う方法を採用し,図20,21,22を用いてそのステップを説明する。
第一ステップとして図20に示すように,磁性体突極201に対向する電機子コイル205と,磁性体突極203に対向する電機子コイル20bとに互いに逆方向のパルス状電流を供給し,パルス状の磁束20gを磁性体突極201,制御磁石20d,制御磁石20f,磁性体突極203の方向に流して制御磁石20dの磁化方向を反転させる。制御磁石20fの磁化方向と磁束20gの方向は同じであるので殆どの起磁力は制御磁石20dの両端に加えられ,小さな電流振幅で制御磁石20dの磁化は変更される。パルス状磁束20gは銅板158を通過し難いので制御磁石20d,20fを通る上記の磁路内に集中される。
電機子コイル205,20bにパルス状電流を供給してパルス状磁束20gを発生させると,パルス状磁束20gは通電されていない電機子コイルが巻回された磁性体歯を介して短絡的に環流し,十分なパルス状磁束20gが制御磁石20d,20fに流れない可能性がある。本実施例では電機子コイル205,20bにパルス状電流を供給する際に通電されない電機子コイルを短絡させるよう構成される。回転電機の運転中に電機子コイルを短絡させる事は回転への影響が大であるので電機子コイル205,20bへのパルス状電流供給と同期させて上記電機子コイルの短絡を短時間に限定する。
第二ステップは図21に示すように,磁性体突極201に対向する電機子コイル205と,磁性体突極202に対向する電機子コイル208とに互いに逆方向のパルス状電流を供給し,パルス状の磁束211を磁性体突極201,制御磁石20d,制御磁石20e,磁性体突極202の方向に流して制御磁石20eの磁化方向を反転させる。制御磁石20dの磁化方向と磁束211の方向は同じであるので殆どの起磁力は制御磁石20eの両端に加えられ,制御磁石20eの磁化は小さな電流振幅で変更される。
第三ステップは図22に示すように,磁性体突極202に対向する電機子コイル208と,磁性体突極203に対向する電機子コイル20bとに互いに逆方向のパルス状電流を供給し,パルス状の磁束221を磁性体突極203,制御磁石20f,制御磁石20e,磁性体突極202の方向に流して制御磁石20fの磁化方向を反転させる。制御磁石20eの磁化方向と磁束221の方向は同じであるので殆どの起磁力は制御磁石20fの両端に加えられ,制御磁石20fの磁化は小さな電流振幅で変更される。
以上,図15から図22を用いて第五実施例の構成を示し,制御磁石の磁化変更の為に選択された制御磁石に磁束を集中させるステップを中心に説明した。本実施例に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機として動作するが,界磁制御に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例では永久磁石158,制御磁石159は連続する棒状磁石を用いたので抗磁力と磁化方向厚さとの積で示される磁化容易さは同じであり,棒状磁石の磁極面に配置した銅板15a,圧粉鉄心15bによりパルス状磁束を局部的に通過し難く構成して磁化変更が困難な永久磁石158,磁化変更が容易な制御磁石159としている。更に抗磁力を軸方向に連続的に変えた磁石,磁石の磁極面に配置された磁性体の導電率を連続的に変える構成等も可能であり,回転電機装置の仕様に応じて選択する事が出来る。
また,本実施例で磁性体突極間に両側面に銅板を有する非磁性体が配置されたが,銅板を非磁性体の一方の側面のみに配置する構成も可能である。すなわち,図16に於いて,回転子は時計回りの一方向に回転する事が多い回転電機装置の場合,回転電機装置の駆動方法に応じて銅板164或いは銅板165のみとする構成が可能である。
本発明による回転電機システムの第六実施例を図23から図27を用いて説明する。第六実施例は,回転子に於いて,電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数を変更し,高速回転での駆動を容易にする回転電機システムである。第六実施例は第四実施例とほぼ同じ構造で,磁性体突極周辺の永久磁石及び制御磁石のパラメータを変えて構成される。以下に第四実施例と異なる点に集中して説明する。
第六実施例による回転電機の縦断面図は図10に示された第四実施例の回転電機と同じである。図23は第六実施例に於ける回転電機の電機子及び回転子の断面図を示し,相互の関係を説明する為に構成部分の一部に番号を付している。回転子は永久磁石を含む部材により磁性体基板11bから磁気的に区分された磁性体突極が回転子の表面近傍に周方向にほぼ等間隔で配置されている。
番号231,232,233で識別される磁性体突極が回転子表面近傍に周方向に磁性体突極231,磁性体突極232,磁性体突極233,磁性体突極232の順で繰り返し配置されている。磁性体突極231に接する永久磁石234,235,磁性体突極232に接する永久磁石236,237,磁性体突極233に接する永久磁石238,239は隣接する磁性体突極を互いに異極に磁化するようそれぞれの磁化方向が設定されている。磁性体突極間の中間磁性体突極113は磁性体基板11bの一部である。永久磁石234,235,236,237,238,239の近傍にはそれぞれ銅板118が配置され,更に磁性体突極231に接する制御磁石23a,磁性体突極232に接する制御磁石23b,磁性体突極233に接する制御磁石23cが配置されている。永久磁石234,235,236,237,238,239,制御磁石23a,23b,23cに付された矢印は磁化方向を示す。銅板118の構成は第四実施例に説明されているので再度の説明は省略する。
図23に示された回転子表面の磁性体突極は周方向にN極とS極とが交互に配置されている。永久磁石234,235,236,237,238,239,制御磁石23a,23b,23cにより磁性体突極231及び磁性体突極233はN極に磁化され,磁性体突極232はS極に磁化されている。本実施例では制御磁石23a,23b,23cの磁化状態を変更して磁性体突極232の磁化状態はほぼゼロに,磁性体突極233はS極に磁化されるよう制御し,電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数を変更する。制御磁石の磁化状態を変更するステップは第四実施例と同じであるが,各磁性体突極に接する永久磁石と制御磁石の磁極面の面積比が第四実施例と異なり,制御磁石23a,23b,23cの構成及び永久磁石との関係は図24を用いて説明される。
図24(a)は磁性体突極231と接する制御磁石23a,図24(b)は磁性体突極232と接する制御磁石23b,図24(c)は磁性体突極233と接する制御磁石23cそれぞれの一区分の縦断面を示し,制御磁石23a,23b,23cはこれら一区分が軸方向に繰り返し配置されている。図24(a)に於いて,番号247は非磁性体を,番号241は第二磁石要素を,番号246は圧粉鉄心をそれぞれ示している。図24(b)に於いて,番号248は非磁性体を,番号242は第一磁石要素を,番号243は第二磁石要素をそれぞれ示している。図24(c)に於いて,番号249は非磁性体を,番号244は第一磁石要素を,番号245は第二磁石要素をそれぞれ示している。
図24(a),(b),(c)に示される第一磁石要素,第二磁石要素はアルニコ磁石で構成され,第二磁石要素の厚みは第一磁石要素の厚みより小に設定されているので第二磁石要素は第一磁石要素より磁化変更され易い。第一磁石要素,第二磁石要素から磁性体突極を介して電機子側に流れる磁束量はそれぞれの軸方向長さに比例する。磁性体突極に接する永久磁石から電機子側に流れる磁束量と第一磁石要素,第二磁石要素から磁性体突極を介して電機子側に流れる磁束量との関係は両者の磁極面積の比と残留磁束密度で決まる。
図24(a)に於いて,永久磁石234,235から電機子側に流れる磁束量と第二磁石要素241から電機子側に流れる磁束量との比は非磁性体247の長さと第二磁石要素241の長さとの比となるよう示されている。同様に図24(b)に於いて,永久磁石236,237から電機子側に流れる磁束量,第一磁石要素242から電機子側に流れる磁束量,第二磁石要素243から電機子側に流れる磁束量の比は非磁性体248の長さ,第一磁石要素242の長さ,第二磁石要素243の長さの比で表されている。図24(c)に於いて,永久磁石238,239から電機子側に流れる磁束量,第一磁石要素244から電機子側に流れる磁束量,第二磁石要素245から電機子側に流れる磁束量の比は非磁性体249の長さと第一磁石要素244の長さ,第二磁石要素245の長さの比で表されている。
図24(a),(b),(c)に於いて,非磁性体,第一磁石要素,第二磁石要素の長さの比を(非磁性体/第一磁石要素/第二磁石要素)で表すと,図24(a)では(0.75/0.0/0.25)であり,図24(b)では(−0.5/−0.25/−0.25)であり,図24(c)では(0.25/0.5/0.25)である。符号は磁化方向を表し,永久磁石及び制御磁石が接している磁性体突極をN極に磁化する場合をプラスに,S極に磁化する場合をマイナスとしている。非磁性体の項の符号は永久磁石の磁化方向を表している。
図24(a),(b),(c)にそれぞれ示される制御磁石23a,23b,23cの磁化状態を変えて回転子表面に於いて磁束が電機子側に漏れる磁極数が変更される。以下では更に図25,26,27を参照して制御磁石23a,23b,23cの磁化状態と磁極数との関係を説明する。制御磁石23a,23b,23cの磁化状態が図24(a),(b),(c)に示される状態が電機子側に流れる磁束量を最大にする場合であり,磁性体突極231/磁性体突極232/磁性体突極233を介して電機子側に流れる磁束量の比は+1.0/−1.0/+1.0である。プラスマイナスの符号は磁束の流れる方向を示している。この状態は図25に示され,番号251は永久磁石234,235,236,237,238,239から電機子側に流れる磁束を,番号252は制御磁石23a,23b,23cから電機子側に流れる磁束をそれぞれ代表して示している。
図24(a),(b),(c)に示される制御磁石23a,23b,23cの磁化状態からそれぞれの第二磁石要素241,243,245の磁化が反転されると,制御磁石23aでは(0.75/0.0/−0.25)であり,制御磁石23bでは(−0.5/−0.25/0.25)であり,制御磁石23cでは(0.25/0.5/−0.25)である。その結果,磁性体突極231/磁性体突極232/磁性体突極233を介して電機子側に流れる磁束量の比は+0.5/−0.5/+0.5となる。この状態は図26に示され,番号261は永久磁石234,235,236,237,238,239,制御磁石23a,23b,23cから電機子側に流れる磁束を代表して示している。図25より界磁が弱められた状態である。
図26の状態から更に第一磁石要素242,244の磁化方向を反転させると,制御磁石23aでは(0.75/0.0/−0.25)であり,制御磁石23bでは(−0.5/0.25/0.25)であり,制御磁石23cでは(0.25/−0.5/−0.25)である。その結果,磁性体突極231/磁性体突極232/磁性体突極233を介して電機子側に流れる磁束量の比は+0.5/0.0/−0.5となる。この状態は図27に示され,磁性体突極232を介して電機子側に流れる磁束量はほぼゼロとなり,磁性体突極233を介して電機子側に流れる磁束の方向は逆方向となり,電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数は4対から2対に減少される。番号271は磁性体突極231,233を介して電機子側に漏れる磁束を代表して示している。
以上,図23から図27を用いて第六実施例の構成を示し,電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数変更の為の磁極構成及び変更の原理を説明した。制御磁石の磁化変更は第四実施例の場合と同じであり,再度の説明は省略する。本実施例に示した回転電機装置は界磁制御可能な電動機或いは発電機としても動作し,界磁制御,磁極数変更に関係する以外の構成は従来の回転電機装置と同じであり,電動機或いは発電機としての動作の説明は省略する。
本実施例では回転子には8個の磁性体突極を有して電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数を4対から2対に減少させる例を説明した。これにより高速回転に於いて回転駆動の為に電機子コイルに供給する電流の周波数を低減して回転駆動が容易にされる。更に永久磁石と制御磁石の磁極構成を変えて磁極数の低減度合いを変える事も可能である。例えば,永久磁石,第一磁石要素,第二磁石要素からの磁束量を(**/**/**)で表し,(0.75/0.0/0.25),(−0.5/−0.25/−0.25),(0.5/0.25/0.25),(−0.75/0.0/−0.25)それぞれの状態に設定された永久磁石,第一磁石要素,第二磁石要素の組み合わせを有する磁性体突極が周方向に順次並ぶよう構成すると,回転子の磁極はN極,S極,N極,S極,N極,S極,,,がN極,0,0,S極,0,0,,,として電機子側に互いに逆方向の磁束を漏洩する磁性体突極対の数を1/3に減じる事が出来る。
本発明の第七実施例である回転電機システムを図28により説明する。第七実施例は第四実施例の回転電機システムをハイブリッドカーの発電機兼電動機システムとして用いた回転電機システムである。
同図に於いて,番号281は第四実施例で示した回転電機を示し,回転電機281はハイブリッドカーのエンジン282と回転力を伝達するよう結合された回転軸289を持ち,回転軸289の回転力はトランスミッション283を介して駆動軸28aに伝えられる。制御装置284は上位制御装置からの指令28bを受け,駆動回路285を介して回転電機281を電動機として駆動し,磁束量制御回路286を介して電機子に流入する磁束量を制御する。更に制御装置284は上位制御装置からの指令28bを受け,電機子コイル16の引き出し線28cに現れる発電電力を整流回路287を介して整流し,バッテリー288を充電する構成としている。制御装置284は指令28bの指示により駆動回路285を介して回転電機281を電動機として駆動し,エンジン282の回転をアシスト或いは単独で回転軸289を回転駆動させ,トランスミッション283,駆動軸28aを介してハイブリッドカーの駆動力に寄与する。
回転子内に配置された永久磁石が磁性体突極を磁化する極性と同じ極性に磁性体突極を磁化する制御磁石内の磁石要素を第一磁化とし,低回転速度域で磁石トルクを強化する必要がある場合は第一磁化の磁石要素数を増す方向のパルス電流を駆動回路285を介して電機子コイル16に供給して電機子を流れる磁束量を大とする。高回転速度域で弱め界磁とする場合には第一磁化の磁石要素数を減じる方向のパルス電流を駆動回路285を介して電機子コイル16に供給して電機子を流れる磁束量を小とする。
エンジン282の回転力のみでハイブリッドカーを駆動する時は,指令28bにより電機子を流れる磁束量を最小とするよう第一磁化の磁石要素数を減じる方向のパルス電流を駆動回路285を介して電機子コイル16に供給し,空転時に於ける回転電機281の引きずり抵抗を最小にする。更にエンジン282の回転力に余裕がある場合には,指令28bにより電機子コイル16の引き出し線28cに現れる発電電力を整流回路287を介して直流に変え,バッテリー288を充電させる。その場合に制御装置284は発電電圧がバッテリー288を充電する最適な電圧より大である場合は第一磁化の磁石要素数を減じる方向のパルス電流を駆動回路285を介して電機子コイル16に供給して電機子を流れる磁束量を小とする。制御装置284は発電電圧がバッテリー288を充電する最適な電圧より小である場合は第一磁化の磁石要素数を増す方向のパルス電流を駆動回路285を介して電機子コイル16に供給して電機子を流れる磁束量を大とする。
本実施例はまたハイブリッドカーの制動時に於けるエネルギー回収システムとしても有効に機能する。指令28bを通じて回生制動の指示を受けると,制御装置284は磁束量制御回路286を介して第一磁化の磁石要素数を増す方向のパルス電流を駆動回路285を介して電機子コイル16に供給して電機子を流れる磁束量を大とし,発電電力でバッテリー288に充電させる。電機子コイル16と鎖交する磁束量は増えるので取り出せる電力は大きく,電気二重層コンデンサ他の蓄電システムに一時的に蓄えて制動力の確保とエネルギー回収を大にする。回転電機281は駆動用電動機として用いられる体格であるので回生制動用の発電機として十分な制動力を発生できる。
本実施例はハイブリッドカーの発電機兼電動機として用いた回転電機システムであるが,電気自動車に於ける回転電機システムとする事も当然に可能である。その場合には上記実施例に於いてハイブリッドカーのエンジン282を取り除き,本発明による回転電機システムのみで電気自動車を駆動し,制動時に於けるエネルギー回収システムを構成する。
以上,本発明の回転電機システムについて,実施例を挙げて説明した。これらの実施例は本発明の趣旨,目的を実現する例を示したのであって本発明の範囲を限定するわけでは無い。例えば上記の説明に於いて電機子と回転子とが径方向に対向するラジアルギャップ構造の回転電機装置を実施例に挙げて説明したが,当然に略円盤状の電機子と回転子とが軸方向に対向するアキシャルギャップ構成の回転電機装置,更に一以上の回転子と電機子とが軸方向或いは径方向に対向するダブルステータ,或いはダブルロータ構造の回転電機装置も可能である。また,上記実施例に於ける回転子の磁極構成,電機子の構成,制御磁石の構成等はそれぞれ組み合わせを変えて本発明の趣旨を実現する回転電機装置を構成できる事は勿論である。