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JP4713012B2 - テープ状酸化物超電導体 - Google Patents

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JP4713012B2
JP4713012B2 JP2001145599A JP2001145599A JP4713012B2 JP 4713012 B2 JP4713012 B2 JP 4713012B2 JP 2001145599 A JP2001145599 A JP 2001145599A JP 2001145599 A JP2001145599 A JP 2001145599A JP 4713012 B2 JP4713012 B2 JP 4713012B2
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Fujikura Ltd
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は酸化物超電導線材に係り、特に超電導マグネット、超電導ケーブル、電力機器等に使用するテープ状酸化物超電導体に関する。
【0002】
【従来の技術】
酸化物超電導体は、その臨界温度が液体窒素温度を超えることから超電導マグネット、超電導ケーブル及び電力機器等への応用が期待されており、種々の研究が鋭意進められている。
【0003】
酸化物超電体を上記の分野に適用するためには、臨界電流密度(Jc)が高く、かつ長尺の線材を作成する必要がある。長尺テープを得るためには試験的強度、可とう性の観点から金属テープ上に酸化物超電導体を形成する必要がある。また酸化物超電導体はその結晶学的方向により超電導特性が変化することから、面内配向性を向上させることが必要であり、このため、酸化物超電導体をテープ状の配向基板上に形成する必要がある。この場合、臨界電流密度を向上させるため、酸化物超電導体のc軸を基板の板面に垂直に配向させ、かつそのa軸(又はb軸)をほぼ電流方向に平行に面内配向(以下、c軸配向及びa軸面内配向という)させて、超電導状態の量子的結合性を良好に保持する必要がある。
【0004】
テープ状の基板上に、スパッタリング法、パルスレーザ蒸着法(PLD)、蒸着法又は金属有機酸を用いた化学気相堆積法(MOCVD)等の方法により酸化物超電導層を形成した場合、通常、基板はその結晶配向が無秩序な多結晶粒からなるため、この基板上に形成される酸化物超電導体も下地の基板の影響を受けて高配向性を有することはできない。
【0005】
このような理由から、テープ状の基板として配向性Ni基板を用いる方法が検討されている。
【0006】
この方法は、冷間加工したNi基板を真空中で熱処理を施して高配向させたもので、米国オークリッジ国立研究所で開発され、RABiTS(商標:rolling-assisted biaxially textured-substrates)と称されている。この配向性Ni基板の上に、高温の不活性ガス雰囲気中でエレクトロンビーム蒸発によりセリウムを堆積させ、この堆積中に水素を存在させることによりCeO2 のエピタキシャル層の薄膜を設け、さらにその上にスパッタリング法により高温減圧下でYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)の厚膜を形成したものを複合基板として用いる方法が報告されている。
【0007】
この方法においては、上記の複合基板の上に、パルスレーザ蒸着法によりYBCO(Y−Ba−Cu−O系超電導体。以下同じ。)層が形成される(例えば、John E MATHIS 他、Jpn.J.Appl.Phys,Vol 37(1998)pp.L1379-1382 )。
【0008】
この場合、配向性Ni基板上のCeO2 層はNi基板とYSZとの反応抑制及びNi上での島状のNiOの生成を抑制し、またYSZ層はNiの拡散を防ぐバッファ層としての機能により、超電導層との反応を抑制して超電導特性の低下を防止し、超電導層との整合性を維持するために配置されている。即ち、配向性Ni基板とYSZが直接接触するとその界面で基板中のNiとYSZ中のZrとが反応してエピタキシャル成長しないため、Ni基板上に基板との反応を生じないCeO2 層を介し、また、YSZをNi基板上に直接配置すると、Ni上に島状にNiOが生成し、エピタキシャル成長しないため、還元性雰囲気で成長可能なCeO2を介して基板を構成する元素の超電導層への拡散を防ぐためにYSZが積層される。また、CeO2 は破断し易いため、CeO2 の薄膜の上にYSZの厚膜が形成されている。
【0009】
以上の方法においては、YBCOと整合性の良好なYSZの上にYBCOが形成されているが、YBCOとの結晶学的な整合性はYSZよりもCeO2 の方が優れていることに加えて、MOD溶液との反応性の点からもCeO2が優れているため、YSZの上にさらにCeO2 の薄膜を設け、その上にYBCO層をMOD法により形成して、配向性Ni基板/CeO2 /YSZ/CeO2 /YBCOの5層構造とする方法が報告されている(A.P.,Malozemoff 他、Submitted to Eucas Conference 、Sep.14-17 )。
【0010】
このMOD法(Metal Organic Deposition)は、金属有機酸塩を塗布後熱分解させるもので、金属成分の有機化合物を均一に溶解した溶液を基板上塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基板上に薄膜を形成する方法であり、真空プロセスを必要とせず、低コストで高速製膜が可能であるため長尺のテープ状酸化物超電導線材の製造に適している。
【0011】
MOD法は金属有機酸塩を出発原料とするため、RE(123 )超電導体、即ちRE1+X Ba2-X Cu3Y超電導体(ここでREは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu,Yb又はHoを示す。以下同じ。)やCeO2 等の中間層にも適用することができる。有機酸塩を熱分解させると通常アルカリ土類金属(Ba等)の炭酸塩が生成されるが、この炭酸塩を経由する固相反応による酸化物超電導体の形成には800℃以上の高温熱処理を必要とするため、Fを含む有機酸塩(例えば、TFA塩:トリフルオロ酢酸塩)を出発原料とし、水蒸気雰囲気中での熱処理及び水蒸気分圧の制御により、RE(123 )超電導体を形成する方法が近年精力的に行われている。
【0012】
このTFA塩を出発原料とする方法は、前駆体中に核生成を生ぜず、水蒸気とフッ素を含むアモルファス前駆体との反応により基板からRE(123 )超電導体をエピタキシャル成長させることができる。
【0013】
以上述べた配向性Ni基板上に、CeO2 、YSZ、CeO2 及びMOD法により形成したRE(123 )超電導層を順に設けた5層構造のテープ状酸化物超電導体10を図8に示す。図において、配向性Ni基板11上に、CeO2 からなる第1中間層12、YSZからなる第2中間層13及びCeO2 からなる第3中間層14が設けられ、この第3中間層14の上にMOD法によりTFA塩を用いて形成したRE(123 )超電導層15が成膜された構造を有する。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べた5層構造のテープ状酸化物超電導体10においては、配向性Ni基板上にCeO2 第1中間層、YSZ第2中間層、CeO2 第3中間層及び超電導層がエピタキシャル成長し、かつ配向性Ni基板と超電導層を構成する元素間の反応も抑制されるため、超電導特性の低下を防止することが可能であり。原理的には優れたテープ状酸化物超電導体の製造方法であると言える。
【0015】
しかしながら、この方法で使用する配向性Ni基板は、高配向させるために冷間加工したNi基板を真空中で熱処理する必要があり、この熱処理で再結晶化する際に粒成長が起こり、結晶粒が100μm以上と大きく、この影響が超電導層に及ぶという難点があり、実際上、期待されるJc値は得られていない。
【0016】
即ち、配向性Ni基板を構成する(表面の)結晶粒界においては結晶構造の整合性が乱れるため、この上に形成される中間層及び超電導層もこの影響を受け、この影響は特に隣接する結晶粒の方位差が大きくなるほど大きくなる。
【0017】
ここで、粒間方位差のばらつきが一定の下で長尺テープのJcに与える粒径の効果を考えてみる。テープ材のJcは最もJcの低い部分で決定され、仮に方位差のばらつきが同等であっても粒径が大きい場合、電流に垂直方向での粒の数が少なくなり大きな方位差をもつ粒界のJc値の低下量の全体のJc値の低下に与える影響が大きくなることによりJc値が低くなり易い。一方、粒径が小さい場合には、垂直方向での粒の数が多くなり大きな方位差をもつ低いJc値の粒界の全Jc低下量に与える影響はばらつきと同程度になり、大きな低下につながらない。我々の研究においても、結晶粒が大きくなるほどJc値が低下する結果が得られている。
【0018】
さらに、配向性Ni基板は強磁性であり、かつその機械的強度が小さいため、テープ状に形成した酸化物超電導体を用いて超電導マグネットや超電導ケーブルを構成した場合に外部磁場の影響が大きくなりJc値が低下するという問題がある。
【0019】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたもので、超電導層の量子的結合性を向上させ、即ち、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有することにより、Jc値を向上させることができ、超電導特性に優れ超電導マグネットや超電導ケーブルへの使用に適したテープ状酸化物超電導体を提供することをその目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するために、本願第1の発明のテープ状酸化物超電導体は、テープ状金属基板上に、この金属基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、金属基板上にターゲットから発生した粒子を堆積させ、金属基板を構成する元素の超電導層への拡散を抑制することにより超電導体を構成する元素との反応を抑制する中間層及び金属有機酸塩を塗布後、4.0vol%以下の水蒸気を含んだ低酸素雰囲気下で熱分解させて形成したYBCO超電導層を順次積層したことを特徴としている。
【0021】
また、上記の中間層を2層構造とした本願第2の発明のテープ状酸化物超電導体によりその目的を達成することができる。これは、テープ状酸化物超電導体を、テープ状金属基板上に、この金属基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、金属基板上にターゲットから発生した粒子を堆積させ、金属基板を構成する元素の超電導層への拡散を抑制することにより超電導体を構成する元素との反応を抑制する第1中間層、この第1中間層上に形成された第2中間層及び金属有機酸塩を塗布後、4.0vol%以下の水蒸気を含んだ低酸素雰囲気下で熱分解させて形成したYBCO超電導層を順次積層したものである。
【0022】
本発明によれば、金属基板に対してイオンを照射しながら基板上にターゲットから発生した粒子を堆積させて中間層を形成するため、基板上に直接配向性に優れたYSZ等を成膜することができ、前述した基板上でのNiOの生成を防ぎ、基板との反応を生じないCeO2 層を介してYSZを成膜する必要がなくなる。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明において使用される基板として、非磁性もしくは弱磁性で高強度のテープ状金属基板を用いることができる。この基板は、通常無配向であり、例えば、Ni以外にMo、W、Cr、Fe等を合金元素として含む耐熱・耐塩酸合金として知られるハステロイ等の圧延板等の10nm程度の小さな結晶粒を有する多結晶体からなるものである。
【0024】
この基板上の中間層、即ち、本願第1の発明における中間層又は本願第2の発明における第1中間層は、基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、基板上にターゲットから発生した粒子を堆積させることにより形成される。
【0025】
この方法は、IBAD法(Ion Beam Assisted Deposition)として知られている。
【0026】
通常、多結晶体からなる基板上に酸化物超電導層を形成すると、配向性の良好な超電導層は得られず、また基板と超電導体を構成する元素とが反応して超電導体の結晶構造が崩れ超電導特性が劣化するという問題があり、この問題を回避するために、基板と酸化物超電導層との間に中間層を設ける必要がある。
【0027】
この中間層としてYSZ、MgOやSrTiO3 を一般的な気相法を用いて成膜して用いることが行われているが、この中間層は基板面に対して直角にc軸が配向するものの、基板面内でa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向しないため、この上に形成される酸化物超電導層もa軸(又はb軸)がほぼ同一の方向に面内配向せず、Jcが向上しないという問題があつた。
【0028】
上記のIBAD法は、この問題を解決するものであり、スパッタリング法によりターゲットから叩き出した構成粒子を基板上に堆積させる際に、イオン銃から発生されたアルゴンイオンと酸素イオン等を同時に斜め方向(例えば、45度)から照射しながら堆積させるもので、この方法によれば、基板上の成膜面に対して、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有する中間層が得られる(特開平4−329867号、特開平4−331795号)が、従来は、この中間層の上に成膜される酸化物超電導層がパルスレーザ蒸着法によって形成されているため、コストが大きく長尺線材の製造には適さないという問題がある。
【0029】
本発明における上記の中間層としては、CeO2 、Y23 、YSZ、Zr2 Rx27 (ここでRxは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu,Yb、Ho、Tm、Dy、Ce、La又はErを示す。以下同じ。)から選択されたいずれか1種以上からなるものが好適している。
【0030】
中間層を2層構造とする場合には、第1中間層としてIBAD法で効率よく配向するYSZ又はZr2Rx27 を用い、第2中間層としてYBCOとの整合性に優れたCeO2 又はRE23 を用いることが好ましい。
【0031】
前記中間層又は第2中間層の上に整合性をもって、即ち、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有するYBCOを形成するために、真空プロセスを必要とせず高速製膜が可能な金属有機酸塩を塗布後熱分解させるMOD法が採用される。
【0032】
この金属有機酸塩としては、トリフルオロ酢酸塩、オクチル酸塩、ナフテン酸塩又は酢酸塩からなる材料を用いることが好ましく、またYBCOとしては、RE1+X Ba2-X Cu3Y が好適する。
【0033】
本発明における酸化物超電導層は、金属有機酸塩を塗布後熱分解させることにより形成されるが、この酸化物超電導層を多層に形成することもできる。この場合、酸化物超電導体を構成する各金属元素を所定のモル比で含む金属有機酸塩の混合溶液を塗布後、仮焼熱処理を施して酸化物超電導前駆体を形成する工程を繰返して、酸化物超電導前駆体を複数層設け、次いで結晶化熱処理を施す。
【0034】
上記の多層構造の超電導体の形成に際しては、仮焼熱処理のうち少なくとも最外層の酸化物超電導前駆体を除く仮焼熱処理温度を400℃未満で行うことが好ましい。これは、例えば、3層構造の仮焼膜を結晶化させて酸化物超電導体を形成する場合、1及び2層目の仮焼熱処理温度400℃未満で行うことを意味しており、3層目の仮焼熱処理温度は400℃未満でも400℃を越えても問題はない。
【0035】
以上の場合において、仮焼熱処理のうち少なくとも最外層の酸化物超電導前駆体を除く仮焼熱処理温度を250〜350℃の範囲内で行うことがより好ましい。
【0036】
さらに、結晶化熱処理中の少なくとも最外層の酸化物超電導前駆体の結晶化到達前の結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧を4.0vol%以下にして行うことが好ましい。これは、例えば、3層構造の仮焼膜を結晶化させて酸化物超電導体を形成する場合、3層目の結晶化が開始されるまでの1及び2層目の結晶化熱処理中の導入ガスの水蒸気分圧を4.0vol%以下にして行うことを意味している。
【0037】
以上の場合において、結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧又は結晶化熱処理中の少なくとも最外層の酸化物超電導前駆体の結晶化到達前の結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧を0.5〜3.0vol%の範囲内にして行うことがより好ましく、結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスは、水蒸気、酸化物超電導体と反応しないガス及び酸素からなる混合ガスを用いることが好ましい。結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧は、以上の条件が満足されれば、一定の勾配下又は段階的に上昇させることもできる。
【0038】
また、結晶化熱処理終了後は、水蒸気と超電導体との反応による特性の劣化を抑制するために乾燥ガスを導入することが好ましい。
【0039】
長尺のテープ状酸化物超電導体を形成する場合には、真空容器の内部に非磁性もしくは弱磁性で高強度のテープ状金属基材の送出装置及び巻取装置を配置し、送出装置から連続的に基材を供給しながら、加熱ホルダ上で上記のIBAD法により中間層を形成し、これを巻取装置で巻き取る方法が採用される。
【0040】
図1は本発明のテープ状酸化物超電導体1の断面構造を示したもので、中間層を2層構造とした場合を示す。
【0041】
図において、テープ状金属基板として、非磁性もしくは弱磁性で高強度の多結晶体からなるハステロイ基板2が用いられ、この基板2に対して斜め方向からイオンを照射しながら、基板2上にターゲットから発生したYSZ粒子を堆積させて第1中間層3が形成される。この第1中間層3は、基板2に対して、高いc軸及びa軸面内配向性を有する。
【0042】
次いで、このYSZからなる第1中間層3の上に、YBCOとの整合性に優れたCeO2からなる第2中間層4が成膜され、さらに、この第2中間層4の上にFを含む金属有機酸塩を塗布後熱分解させて成膜したYBCO層5が形成される。これらの第2中間層4及びYBCO層5もそれぞれの下層の結晶配向に従って高いc軸及びa軸面内配向性を有する。
【0043】
〔実施例〕
実施例1
約10nmの平均結晶粒を有し、長さ10m、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイテープ上に、IBAD法を用いて室温下でYSZの第1中間層を1μmmの厚さに成膜し、この上にスパッタリング法を用いてCeO2 の第2中間層を厚さ0.5μmに形成して複合基板を作成した。
【0044】
次いで、この第2中間層上にトリフロロ酢酸(TFA)塩溶液を原料としてMOD法により厚さ0.15μmのYBCO層を、以下の手順により成膜した。
【0045】
まず、M −TFA塩(M=Y,Ba,Cu)をメタノール溶液中に混合し、溶液濃度0.25mol/リットルに調整した。この混合溶液を、ロールコート法により複合基板上に塗布し、その後、水蒸気を含んだ雰囲気中で低昇温速度で400℃まで加熱してM−(O、F)前駆体を得た。
【0046】
その後、水蒸気を含んだ低酸素雰囲気(10-3atm)中で725〜800℃×1時間の焼成を行った後、450℃×1時間の酸素アニール処理を施した。
【0047】
このようにして得られたテープ状酸化物超電導体のTc値及びJc値と面内配向性を測定した。
【0048】
測定結果を第2図〜第7図に示す。
【0049】
図2は、YBCO(123 )層の臨界温度(Tc)に及ぼす熱処理温度の影響を示したもので、同時にYSZ単結晶又はLaAlO3 単結晶上にCeO2 層を成膜した場合と比較して示してある。
【0050】
その結果、1時間の焼成時間に対して725℃では未反応のBaF2 が残存し、800℃以上ではBaCeO3 の生成が認められた。750及び775℃で成膜したYBCO膜はX線回折により異相は認められず、c軸及びa軸配向性(面内配向性)を有していることが確認された。
【0051】
図3は、YSZ、CeO2 及びYBCOのX線回折による半値幅(FWHM)の測定結果を示したもので、X線回折は、YBCO(123 )層の(103 )面に対する角度θでX線を入射させ、この入射X線に対して角度2θの位置にカウンタを設置し、入射及び回折X線を含む鉛直面に対する水平角度βに対する回折強度を測定した。
【0052】
この結果から、YSZの半値幅は8.8度であるのに対し、CeO2 は5.6度、YBCO膜は4.7度と配向性が向上しており、上記のテープ状酸化物超電導体は、高いc軸配向性及びa軸面内配向性を有することが明らかである。
【0053】
図4は、10mm長に切り出した試料のJc値の外部磁界依存性を示したもので、Jc値は、直流4端子法により電圧基準1μV/cmで測定した。
【0054】
この結果から、上記のテープ状酸化物超電導体は、後述する比較例1のハステロイテープ上に、IBAD法によるYSZの第1中間層及びY23 の第2中間層上にレーザ蒸着法によりYBCO層を成膜した場合に比べ特性が優れていることがわかる。これはMOD法がPLD法に比べ、熱平衡に近いプロセスであることより、粒界特性が改善されるためであると考えられる。また、後述する比較例2の配向性Ni基板上にCeO2 及びYSZを成膜した複合基板上にMOD法によりYBCO層を成膜した場合に比較して10mm長では同等の、77.3K、0TでJc>1MA/cm2 、2TでJc>105 A/cm2 と外部磁界に対して高いJc値を有することが明らかである。図5には、10mテープの長さ方向のJc分布を示す。この結果より1MA/cm2以上で均一なJc分布が得られていることが明らかである。
【0055】
比較例1
約10nmの平均結晶粒を有し、長さ10m、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイテープ上に、IBAD法を用いて室温下でYSZの第1中間層を1μmの厚さに成膜し、この上にレーザ蒸着法を用いてY23 の第2中間層を厚さ0.5μmに形成して複合基板を作成した。
【0056】
次いで、この第2中間層上にレーザ蒸着法により厚さ0.15μmのYBCO層を成膜した。
【0057】
このようにして得られたテープ状酸化物超電導体のJc値の外部磁界依存性と面内配向性を測定した。
【0058】
測定結果を図4及び図6に示す。Jc値は実施例と同様の方法により測定した。
【0059】
これらの結果より、10mにおけるJc値のばらつきは小さいもののJc値は実施例1が優れている。
【0060】
比較例2
約50μm以上の結晶粒を有し、長さ10mm、幅10mm、厚さ0.1mmの配向性Ni基板(RABiTS)上に、CeO2 のエピタキシャル層の薄膜を厚さ0.5μmに設け、さらにその上にスパッタリング法により高温減圧下でYSZの厚膜を厚さ1μmに形成して複合基板を形成した。
【0061】
この複合基板上に実施例と同様の方法、即ち、TFA塩溶液を原料としてMOD法により厚さ0.15μmのYBCO層を成膜した。
【0062】
このようにして得られたテープ状酸化物超電導体のJc値の結果を図4および図7に示す。
【0063】
これらの結果より、比較例2は、短尺では実施例と同等のJc値を示すものの、長さ10mにおけるJcで値は数カ所Jc値の低い部位が見られ、総Jc値はこれにより決定されることにより実施例1に比べ小さなJc値となっている。
【0064】
実施例2
基板としてハステロイ/YSZ/CeO2 からなるIBAD複合基板を用いた。この複合基板は、約10nmの平均結晶粒を有し、長さ10mm、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイテープ上に、IBAD法を用いて室温下でYSZの第1中間層を1μmの厚さに成膜し、この上にスパッタリング法を用いてCeO2 の第2中間層を厚さ0.5μmに形成して作成した。
【0065】
この基板上に各金属TFA塩をY:Ba:Cuのモル数比が1:2:3となるようにメタノールに溶解し、溶液濃度をY換算で0.25mol/リットルに調整して原料溶液を作成した。
【0066】
この原料溶液を各基板上にスピンコート法により塗布して塗布膜を形成した。
このようにして得られた基板上の塗布膜に対して、水蒸気を含んだ酸素雰囲気下で低昇温速度で300℃まで加熱した後炉冷し、次いで再度上記と同様の方法により原料溶液を基板上に塗布して塗布膜を形成し、水蒸気を含んだ酸素雰囲気下で低昇温速度で400℃まで加熱した後、炉冷して2層構造のY−Ba−Cu前駆体を得た。
【0067】
この仮焼熱処理に続く結晶化熱処理においては、上記の前駆体膜を水蒸気を含んだ10-3atmの低酸素雰囲気下で25℃/minの昇温速度で加熱し、基板温度を750℃維持して結晶化熱処理後、次いで炉内雰囲気を乾燥ガスに切替えて10分間保持した後、炉冷した。
【0068】
以上のようにして得られた膜上に銀を蒸着して電極を形成し、酸素雰囲気中で450℃で1時間熱処理を施して超電導膜を形成した。
【0069】
この超電導膜はX線回折の結果、YBCOが主成分であることが確認された。
【0070】
上記の超電導膜について、直流4端子法によりTc値を測定した。またYBCO(102)極点図により、c軸及びa軸配向率を測定した。Tc値、c軸及びa軸配向率の測定結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
Figure 0004713012
【0072】
実施例3
実施例2と同様の方法によりIBAD複合基板を用いて、原料溶液を基板上に塗布して塗布膜を形成した。このようにして得られた基板上の塗布膜に対して、水蒸気を含んだ酸素雰囲気下で低昇温速度で400℃まで加熱した後炉冷してY−Ba−Cu前駆体を得た。次いでこの仮焼膜上に上記と同様の方法により原料溶液を塗布して塗布膜を形成した後、水蒸気を含んだ酸素雰囲気下で低昇温速度で400℃まで加熱し、炉冷してY−Ba−Cu前駆体を得た。このようにして得た2層構造のY−Ba−Cu前駆体に対して以後実施例2と同様の方法により超電導体を形成した。
【0073】
この超電導膜はX線回折の結果、いずれもYBCOが主成分であることが確認された。 上記の超電導膜について、実施例2と同様にしてTc値、c軸及びa軸配向率を測定した。結果を表1に示した。
【0074】
以上の実施例2及び実施例3の結果から明らかなように、仮焼膜を2層に形成した場合、1層目の仮焼熱処理を300℃で行った場合を400℃で行った場合と比較すると、1層目の仮焼熱処理を300℃で行った場合にはTc値が向上するとともに、c軸配向率が著しく向上していることが認められる。
【0075】
この原因は、結晶化熱処理時の1層目と2層目の界面に不純物層の生成により、基板からのエピタキシャル成長を妨げることによるものと考えられる。この不純物層の生成の要因としては、仮焼熱処理温度が高い場合にアモルファス前駆体膜中の結晶化が進行し、結晶化熱処理時に1層目と2層目の仮焼膜とその結晶粒が優先的に反応し不純物が生成し易くなるものと考えられる。
【0076】
実施例4
結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧(1.05vol%)と結晶化熱処理時間を変えた他は、実施例2と同様の方法により300℃で仮焼し、さらに400℃で仮焼して基板上に仮焼膜を2層に形成し、次いで結晶化熱処理を施して超電導膜を形成した。この超電導膜はX線回折の結果、YBCOが主成分であることが確認された。
【0077】
上記の超電導膜を直流4端子法によりJc値及びIc値(電圧基準1μV/cm)を測定した。また、X線回折(ロッキングカーブ)により、YBCO(005)面に対応するピークの積分強度及び半値幅を求めた。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
Figure 0004713012
【0079】
比較例3
結晶化熱処理雰囲気中の導入ガスの水蒸気分圧(4.2vol%)と熱処理時間を変えた他は、実施例4と同様の方法により300℃で仮焼し、さらに400℃で仮焼して基板上に仮焼膜を2層に形成し、次いで結晶化熱処理を施して超電導膜を形成した。この超電導膜はX線回折の結果、YBCOが主成分であることが確認された。
【0080】
上記の超電導膜のJc値、Ic値、ピーク積分強度及び半値幅を実施例3と同様にして測定した。結果を表2に示した。
【0081】
以上の実施例4並びに比較例3の結果から明らかなように、仮焼膜を2層に形成し、水蒸気分圧を1.05vol%と低下させて結晶化熱処理を施した場合を水蒸気分圧を4.2vol%で結晶化熱処理を施した場合と比較すると、Jc値及びIc値は著しく向上する。この場合のロッキングカーブから、水蒸気分圧を4.2vol%で結晶化熱処理を施した場合にはYBCOのc軸配向率の低下が確認された。
【0082】
以上の結果は、結晶化熱処理時の水蒸気分圧が増加するとYBCO膜の結晶の成長速度が大きくなるため、結晶性及びc軸配向率が低下することによるものと考えられる。
【0083】
以上述べた実施例及び比較例の測定結果から明らかなように、本発明のテープ状酸化物超電導体は、高配向性をもって中間層及び中間層上に酸化物超電導層を成膜することができ、その結果、外部磁界に対して高いJc値を有することができる。
【0084】
【発明の効果】
本発明によるテープ状酸化物超電導体は、以上述べたように、高いc軸及びa軸配向性(面内配向性)を有し、かつ結晶粒界における超電導特性の劣化を防止することができるため、結晶粒界における量子的結合に優れることにより超電導特性を向上させることができる。
【0085】
また、超電導マグネットや超電導ケーブルへの使用に適したテープ状酸化物超電導体を提供することが可能となり、また非真空プロセスであるMOD法により超電導層を形成するため、仮焼膜を複数層形成して結晶化させることにより厚膜化が可能となり、長尺線材の製造に適し、その製造コストを著しく低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるテープ状酸化物超電導体の断面図である。
【図2】本発明によるテープ状酸化物超電導体のYBCO(123 )層の臨界温度(Tc)に及ぼす熱処理温度の影響の一実施例及び比較例を示すグラフである。
【図3】本発明によるテープ状酸化物超電導体のYSZ、CeO2 及びYBCOのX線回折による半値幅の測定結果の一実施例を示すグラフである。
【図4】本発明によるテープ状酸化物超電導体のJc値の外部磁界依存性の一実施例、比較例1及び2を示すグラフである。
【図5】本発明におけるテープ状酸化物超電導体の長さ方向のJc値の変化を示すグラフである。
【図6】比較例1におけるテープ状酸化物超電導体の長さ方向のJc値の変化を示すグラフである。
【図7】比較例2におけるテープ状酸化物超電導体の長さ方向のJc値の変化を示すグラフである。
【図8】配向性Ni基板を用いた従来の酸化物超電導体の断面図である。
【符号の説明】
1…テープ状酸化物超電導体
2…ハステロイ基板
3…YSZ第1中間層
4…CeO第2中間層
5…YBCO超電導層
10…配向性Ni基板上を用いた従来の酸化物超電導体
11…配向性Ni基板
12…CeO第1中間層
13…YSZ第2中間層
14…CeO第3中間層
15…MOD法によるRE(123)超電導層

Claims (7)

  1. テープ状金属基板上に、以下の層を順次積層したことを特徴とするテープ状酸化物超電導体。
    イ)前記金属基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、前記金属基板上にターゲットから発生した粒子を堆積させ、前記金属基板を構成する元素の超電導層への拡散を抑制することにより超電導体を構成する元素との反応を抑制する中間層及び
    ロ)金属有機酸塩を塗布後、4.0vol%以下の水蒸気を含んだ低酸素雰囲気下で熱分解させて形成したYBCO超電導層
  2. テープ状金属基板上に、以下の層を順次積層したことを特徴とするテープ状酸化物超電導体。
    イ)前記金属基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、前記金属基板上にターゲットから発生した粒子を堆積させ、前記金属基板を構成する元素の超電導層への拡散を抑制することにより超電導体を構成する元素との反応を抑制する第1中間層、
    ロ)前記第1中間層上に形成された第2中間層及び
    ハ)金属有機酸塩を塗布後、4.0vol%以下の水蒸気を含んだ低酸素雰囲気下で熱分解させて形成したYBCO電導層
  3. 中間層は、CeO、Y、YSZ、ZrRxO(ここでRxは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu,Yb、Ho、Tm、Dy、Ce、La又はErを示す。以下同じ。)から選択されたいずれか1種以上からなる請求項1記載のテープ状酸化物超電導体。
  4. 第1中間層は、YSZ又はZrRxからなる請求項2記載のテープ状酸化物超電導体。
  5. 第2中間層は、CeO又はYからなる請求項2記載のテープ状酸化物超電導体。
  6. 金属有機酸塩は、トリフルオロ酢酸塩、オクチル酸塩、ナフテン酸塩又は酢酸塩からなる請求項1乃至5いずれか1項記載のテープ状酸化物超電導体。
  7. テープ状金属基板と、前記金属基板に対して斜め方向からイオンを照射しながら、前記金属基板上にターゲットから発生したYSZ又はZrRx粒子を堆積させ、前記金属基板を構成する元素の超電導層への拡散を抑制することにより超電導体を構成する元素との反応を抑制する第1中間層、CeO又はYからなる第2中間層及びFを含む金属有機酸塩を塗布後、4.0vol%以下の水蒸気を含んだ低酸素雰囲気下で熱分解させて形成したYBCO超電導層を順次形成したことを特徴とするテープ状酸化物超電導体。
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