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JP4788058B2 - ケイ素化合物 - Google Patents

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JP4788058B2
JP4788058B2 JP2001127536A JP2001127536A JP4788058B2 JP 4788058 B2 JP4788058 B2 JP 4788058B2 JP 2001127536 A JP2001127536 A JP 2001127536A JP 2001127536 A JP2001127536 A JP 2001127536A JP 4788058 B2 JP4788058 B2 JP 4788058B2
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健一 渡辺
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、重合性単量体に対して重合開始能を有することを特徴とする新規ケイ素化合物に関する。
【0002】
【従来の技術】
工業的に生産されているシランカップリング剤は、一般的には、有機ポリマーに対して親和性、反応性を有する有機官能基(アミノ基、エポキシ基、ビニル基、メタクリル基、メルカプト基など)と、無機、金属系に対して親和性、反応性を有する加水分解性シリル基(メトキシシリル基、エトキシシリル基など)とを1分子中に有する化合物であり、有機ポリマーと無機、あるいは、無機材料の接する界面における接着改良剤としての適性を示すとされている(「シリコーンハンドブック」、伊藤邦雄著、日刊工業新聞社(1990)、55頁−)。例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの場合では、ガラス繊維をこのシランカップリング剤で処理し、これを不飽和ポリエステルなどに添加して樹脂硬化させるといった、いわゆるガラス繊維補強プラスチック用の有機・無機界面における接着改良剤として利用されることが多い。
【0003】
また、シランカップリング剤は、加水分解性シリル基を有するコモノマーとして、有機過酸化物、アゾ化合物などの開始剤の存在下、他のアクリル系モノマーとのラジカル共重合により、加水分解性シリル基を側鎖に有するポリマーの合成にも用いられている。これにより、無機表面へのプライマー処理等を必要とすることなく優れた接着性を発現し、且つ無機成分が有機ポリマー中に複合化されていることから、優れた力学的特性を併せ持つ耐候性塗料のベース材料として用いられている(特開平6-65464号公報、特開平6-256706号公報など)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記の加水分解性シリル基を側鎖に有するポリマーにあっては、無機表面へのプライマー処理効果が充分でない場合が多く、また無機表面の接着性改良材として、シランカップリング剤を直接利用する場合は、無機表面とシランカップリング剤との結合は充分であっても、その上に重ねられるポリマーとシランカップリング剤との親和性・接着性が充分でないことが多い。本発明は、シランカップリング剤の機能を強化することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、シランカップリング剤とポリマーとの接着性を向上させるための方策について検討し、シランカップリング剤に重合開始剤としての機能を持たせることに想到した。すなわち、重合開始能を有するシランカップリング剤であれば、無機表面をこのシランカップリング剤で処理した後、その表面に、例えばアクリル系モノマーを塗布することにより重合を開始させて、有機ポリマー層を形成させることが可能である。この場合、重合開始点が無機表面に対して強く結合しているシランカップリング剤中に存在するのであり、従来とは異なるカップリング効果を期待できる。また、末端に加水分解性シリル基を有する新規な有機ポリマーの合成などへの応用も可能であり、シランカップリング剤の諸特性や用途に多様性をもたらすものと期待される。
【0006】
本発明は、下記のような構成からなる。
(1)式(1)
【化8】
Figure 0004788058
(式中、Xは単量体に対する重合開始能を有する基であり、Zは炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキレンであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(2)で表される基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、CHCO−またはHであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレンであり、nは0〜2の整数であるが、n=2のとき2個のRは異なる基であってもよい。また、フェニレン環へのRの結合位置は、Zの結合位置に対してメタ位およびパラ位のどちらでもよい。)
で表されるケイ素化合物。
【化9】
Figure 0004788058
(式中のX、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
(2)式(3)
【化10】
Figure 0004788058
(式中、RおよびRはそれぞれ独立してH、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルキル、炭素数5〜10の脂環式基、または炭素数6〜10の芳香族基であり、RとRとが結合して窒素原子と共に環を形成してもよく、R、ZおよびRの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(4)で表される基である。)
で表されることを特徴とする、前記(1)項に記載のケイ素化合物。
【化11】
Figure 0004788058
(式中のR、R、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
(3)式(3)におけるRがメチレンであり、Zが1,2−エタンジイルであり、Rがメチルであることを特徴とする、前記(2)項に記載のケイ素化合物。
(4)式(3)におけるRおよびRが共にエチルであり、nが0であることを特徴とする、前記(3)項に記載のケイ素化合物。
(5)式(5)
【化12】
Figure 0004788058
(式中、RおよびRはそれぞれ独立してH、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルキル、炭素数5〜10の脂環式基、または炭素数6〜10の芳香族基であり、RとRとが結合して窒素原子と共に環を形成してもよく、Mは周期律表第1族または第2族の金属元素であり、mはMの原子価である。)
で表されるジチオカルバミン酸塩と、式(6)
【化13】
Figure 0004788058
(式中、Xはハロゲン原子であり、R、ZおよびRの意味およびフェニレン環へのRの結合位置は前記(1)項に記載の式(1)におけるものと同じであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(7)で表される基である。)
で表される加水分解性シリル基を有する化合物とを反応させて、前記(2)項に記載のケイ素化合物を製造する方法であって、反応に先立ち、前記ジチオカルバミン酸塩の脱水処理を行うことを特徴とするケイ素化合物の製造方法。
【化14】
Figure 0004788058
(式中のX、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は、前記と同じである。)
(6)ジチオカルバミン酸塩の脱水処理を加水分解性ケイ素化合物を用いて行うことを特徴とする、前記(5)項に記載の製造方法。
(7)加水分解性ケイ素化合物がモノアルコキシシリル基を有する化合物であることを特徴とする、前記(6)項に記載の製造方法。
(8)加水分解性ケイ素化合物が式(8)
(CHSi−OR (8)
(式中、Rは炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキルである。)
で表される化合物であることを特徴とする、前記(7)項に記載の製造方法。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のケイ素化合物は下記の式(1)で表される。
【化15】
Figure 0004788058
この式中のXは単量体に対する重合開始能を有する基であり、Zは炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(2)で表される基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、CHCO−またはHであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレンであり、nは0〜2の整数であるが、n=2のとき2個のRは異なる基であってもよい。また、フェニレン環へのRの結合位置はZの結合位置に対してメタ位およびパラ位のどちらでもよい。
【化16】
Figure 0004788058
(式中のX、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
【0008】
そして、Xとしては、ジチオカルバメート基が好ましい。ジチオカルバメート基が光によりラジカル解離し、優れた重合開始能、増感能を有することは良く知られているところである。また、この光重合がラジカル重合であり、しかも結果的にリビング重合的であることもよく知られているところである。従って、ジチオカルバメート基を有する本発明のケイ素化合物は、光照射されているかぎり、重合開始能を維持し続けることが可能であり、あらゆるラジカル重合性単量体に対して光重合開始能力を有する。なお、ジチオカルバメート基は、その光開始剤としての特性の他、耐放射線性、除草効果等の薬理活性、錯体形成能、および親水性等を活用することも可能である。
【0009】
従って、本発明のケイ素化合物としては、下記の式(3)で表される化合物が好ましい。
【化17】
Figure 0004788058
この式中のRおよびRはそれぞれ独立してH、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルキル、炭素数5〜10の脂環式基、または炭素数6〜10の芳香族基であり、RとRとが結合して窒素原子と共に環を形成してもよく、R、ZおよびRの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(4)で表される基である。
【化18】
Figure 0004788058
(式中のR、R、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
【0010】
式(3)および式(4)中のRおよびRの具体例として、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびフェニル等を挙げることができる。RおよびRのどちらもがこれらの基の1種であってもよいし、片方がこれらの基の1種であって、もう一方がHであってもよい。また、RとRとが結合して窒素原子と共に環を形成している場合のジチオカルバメート基の例として、N−シクロトリメチレンジチオカルバメート基、N−シクロテトラメチレンジチオカルバメート基、N−シクロペンタメチレンジチオカルバメート基、N−シクロヘキサメチレンジチオカルバメート基、N−シクロヘプタメチレンジチオカルバメート基、N−シクロオクタメチレンジチオカルバメート基等を挙げることができる。そして、ジチオカルバメート基の好ましい例として、N,N−ジメチルジチオカルバメート基、N,N−ジエチルジチオカルバメート基、N−メチルジチオカルバメート基、N−エチルジチオカルバメート基などを挙げることができ、N,N−ジエチルジチオカルバメート基が最も好ましい。
【0011】
下記の式(9)
【化19】
Figure 0004788058
は、式(1)および式(3)中の単量体に対する重合開始能を有する基/ジチオカルバメート基を除いた残基である。式(9)中のRは、メチレン、1,2−エタンジイル、1,3−プロパンジイル、1,2−プロパンジイル、1,4−ブタンジイルなどであるが、原料の入手しやすさを考慮するとメチレンが好ましい。Rがメチレンである場合について、式(9)で表される基の具体例の一部を、下記の表1で定義する記号を用い、表2〜6に示す。
【表1】
Figure 0004788058
【0012】
【表2】
Figure 0004788058
【0013】
【表3】
Figure 0004788058
【0014】
【表4】
Figure 0004788058
【0015】
【表5】
Figure 0004788058
【0016】
【表6】
Figure 0004788058
【0017】
式(9)で表される基は、上記の表2〜6に示した基に限られるわけではない。例えば、表2〜6はRがメチレンである場合に限定されたものであり、その表2〜6に示した具体例のうちでも、nが1および2の場合については、Zがメチレンまたは1,2−エタンジイルである場合しか示していない。しかしながら、これらの限定はその他の結合基が選択されないということを示すものではない。上記の他、例えば、Rが1,2−エタンジイルであってもよく、Zが1,3−プロパンジイルであってもよく、また式(9)中のRが下記の式(4)で表される基であってもよい。
【化20】
Figure 0004788058
(式中のR、R、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
【0018】
なお、式(9)中のRは、H以外の基である場合は、カップリング剤として使用される際に加水分解されて離脱する基である。従って、Rの選択範囲にHを含めることは意味のないことではない。通常、Si−OHは非常に縮合しやすい基であり、保存安定性がよくないが、アルコール系の溶媒を用いて溶液にするなどの手段により保存できる場合もある。
【0019】
式(9)で表される基は、nが0である場合、またはRがメチルである場合の基が好ましい。そして、式(9)におけるZは1,2−エタンジイルであることが好ましい。従って、前記の表2〜6において、表2中のNo.2、No.10、No.18およびNo.26など、および表5中のNo.7〜10およびNo.13〜16などの基を好ましい例として挙げることができる。
【0020】
本発明の式(3)で表されるケイ素化合物は、式(5)
【化21】
Figure 0004788058
で表されるジチオカルバミン酸塩と、式(6)
【化22】
Figure 0004788058
で表される加水分解性シリル基を有する化合物とを反応させることによって得ることができる。式(5)中のRおよびRは、前記の式(3)における場合と同じ意味であり、Mは周期律表第1族または第2族の金属元素であり、mはMの原子価である。そして、Mがナトリウムまたはカリウムであることが好ましい。式(6)中のXはハロゲン原子であり、ClまたはBrであることが好ましい。そして、この式からXを除いた基は式(9)と同じであり、式(9)の基の具体例および好ましい例は前記の通りである。
【0021】
式(5)のジチオカルバミン酸塩と式(6)の化合物との反応は、通常、式(6)中の加水分解性シリル基に何ら影響することなく、式(6)中のハロアルキル基とジチオカルバミン酸塩のみが関与するいわゆる求核置換反応により進行する。しかしながら、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムやN−エチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバミン酸塩は、水溶性の塩であり、通常、結晶水を持っている。式(6)の化合物中の加水分解性シリル基が、水に対して非常に敏感な基であって縮合反応を起こしやすいため、この結晶水を如何にして除くかが重要なポイントである。通常、結晶水を除去するには、常圧または減圧条件下において加熱する方法がとられている。しかしながら残り1分子に相当する結晶水を除去することが非常に難しく、結晶水をすべて除去するためには、高温条件下で長時間保持する必要がある。その際に、ジチオカルバミン酸塩が熱により分解する可能性もあり、加熱による結晶水の除去は実用上問題があると考えられる。
【0022】
本発明の製造方法は、ジチオカルバミン酸塩中の結晶水を、加水分解性ケイ素化合物を用いて除去することを特徴とする。加水分解性ケイ素化合物としては、モノアルコキシシリル基を有する化合物が好ましく、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン、トリメチルイソブトキシシランなどを挙げることができる。このうちトリメチルメトキシシランが最も好ましい。以下に、トリメチルメトキシシランを用い、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの結晶水を除去する例について詳細に説明する。まず、過剰量のトリメチルメトキシシランおよびN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム・3水和物をメタノールに溶解させる。次いで、加熱環流させると、トリメチルメトキシシランが、結晶水による加水分解およびこれに伴う縮合によって、ヘキサメチルジシロキサンになり、それに伴ってメタノールが生成する。これは、2モルのトリメチルメトキシシランによって、1モルの水を除去することができる反応である。そして、ヘキサメチルジシロキサン、メタノールおよび未反応のトリメチルメトキシシランは、比較的沸点が低いため、減圧蒸留により容易に除去される。すなわち、この脱水方法により、ジチオカルバミン酸塩中の結晶水を容易かつ効果的に脱水することができる。
【0023】
この脱水反応に用いられる有機溶媒は、原料をこれと反応することなく容易に溶解するものであれば特に制限は無く、メタノールなどの低級アルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環式エーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が好ましい。そして、ジチオカルバミン酸塩の溶解性、溶媒の沸点などを考慮すると、テトラヒドロフラン、メタノールおよびエタノールなどが最も好ましい。脱水反応を溶媒の環流下に行わせるのであれば、温度は選ばれる有機溶媒の沸点に依存する。しかしながら、加水分解性ケイ素化合物の分解によって生成するアルコールのみを溜去しながら、脱水反応を行わせる場合には、ジチオカルバメートが熱分解する可能性を考慮し、120℃以下、好ましくは100℃以下で行うことが望ましい。加熱時間には特に制限はないが、通常3〜10時間で結晶水が除去されたジチオカルバミン酸塩を得ることができる。なお、ジシロキサン化合物、アルコールおよび未反応の加水分解性ケイ素化合物を除去するための減圧蒸留の温度も、ジチオカルバメートが熱分解する可能性を考慮すると、120℃以下、好ましくは100℃以下であることが望ましい。そして、この温度以下で上記成分を溜去できるように減圧度を調節すればよい。
【0024】
ジチオカルバミン酸塩と前記の式(6)の化合物との反応に際しては、式(6)の化合物中のハロゲン含有量に対して、等モル〜5倍モルのジチオカルバミン酸塩を用いることが好ましい。反応は、通常、窒素ガスのような不活性気体雰囲気中、原料に対して不活性な乾燥した有機溶媒中で行う。溶媒としては、例えばメタノールなどの低級アルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環式エーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が使用できるが、ジチオカルバミン酸塩の溶解性、ジチオカルバメートの求核性などを考慮するとテトラヒドロフランやメタノールが好適である。反応温度は、ジチオカルバメートが熱分解する可能性を考慮し、120℃以下、好ましくは100℃以下であることが望ましい。反応時間には特に制限はないが、通常1〜10時間で目的のケイ素化合物を得ることができる。また、必要に応じてベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルアンモニウムクロライド、ジオクチルメチルアンモニウムクロライド、トリエチルアミンまたはジメチルアニリンなどの相間移動触媒を反応に用いることができる。
【0025】
得られたジチオカルバメート基含有加水分解性ケイ素化合物は、沸点が高いため、減圧蒸留では精製されにくいが、非水条件下で加圧濾過装置を用いた脱塩を繰り返し行なうことで、目的物の精製および単離が可能である。また、ジチオカルバミン酸塩と式(6)の化合物との反応、および目的物の精製および単離は、紫外線がカットされた蛍光灯(例えば、松下電器産業社製、ナシヨナルカラード蛍光灯、純黄色、FLR40S-Y-F/M)、および紫外線カットフィルム(例えばアキレス社製、アキレスセイデンクリスタル、防炎・帯電防止・紫外線吸収、FTZR4976)が装着されたドラフト内で行う必要がある。そして、単離された光重合開始能を有する加水分解性ケイ素化合物は、光増感基であるジチオカルバメートと加水分解性基であるアルコキシシリル基とを有しているため、非水環境下、窒素やアルゴンなどの不活性気体を封入した遮光容器内で冷暗所にて保存する必要がある。
【0026】
【実施例】
以下に実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
撹拌子、還流冷却器、温度計および滴下ロートを備えた500ml−ガラスフラスコに、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム・3水和物33.8gおよびメタノール200mlを入れた。窒素ガス雰囲気下、室温にてトリメチルメトキシシラン125.1gとメタノール50mlの混合物を、滴下ロートから徐々に滴下した。滴下終了後、70℃にて8時間環流を行った。ガスクロマトグラフ(GC)を用いて反応追跡を行った結果、還流時間の経過とともに、トリメチルメトキシシランに基づくピークが減少し、ヘキサメチルジシロキサンに基づくピークの増大が確認された。3時間経過後、ほぼ両者のピーク強度比が変動しなくなったので、反応終点とした。その後、ロータリーエバポレータを用いて、まず溶媒を除去した後、1.3×10Paの減圧下100℃にて低沸点成分の除去を3時間行い、目的とする脱水N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを得た(収率:99%)。得られたN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムにおける含水率の定量は、まず第一段階として含水率が既知の各種混合比を変化させた水/テトラヒドロフラン溶液を調製し、GC測定結果に基づいて検量線を作成した。その後、結晶水の除去操作を行ったN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムのテトラヒドロフラン溶液を調製し、これをGC測定試料として当該検量線を用いた解析を行った。その結果、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム中の水に基づくGCピークは観測されず、予想通り脱水が行われていることが分かった。なお、結晶水の除去操作を行う前のN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム・3水和物について、同様にして含水率を測定した結果、37.9重量%であることが分かった。この値は、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムに対するモル比で5.8に相当する水を含んでいることを示している。
【0027】
比較例1
300ml−セパラブルフラスコにN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム・3水和物33.8gを入れ、1.3×10Paの減圧下100℃にて加熱脱水を行った。時間経過とともに、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムの重量減少が確認され、8時間経過後重量変動が確認されなくなった時点で脱水終了とした。脱水後のN,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムについて、実施例1に準拠しその含水率の定量を行った結果、5.2重量%であることが分かった。この値は、N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムに対するモル比で0.52に相当する水が含まれていることを示している。
【0028】
実施例2
撹拌機、サンプル採取管および温度計を備えた100ml−ガラスフラスコに、乾燥窒素ガス雰囲気下に、実施例1で得られた脱水N,N−ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム2.7g、4−クロロメチル−フェニルエチルトリメトキシシラン3.9g、およびテトラヒドロフラン50mlを投入し攪拌しながら反応させた。反応は発熱を伴って進行し、塩化ナトリウムが沈殿した。GCを用いて反応追跡を行った結果、5時間経過後に4−クロロメチル−フェニルエチルトリメトキシシランに基づくピークの消失を確認した。反応終了後、加圧濾過を繰り返し行なうことによって塩化ナトリウムを除去し、赤褐色の粘ちょう性液体を得た(収率:88.3%)。反応前後のGPCによる分子量測定の結果、4−クロロメチル−フェニルエチルトリメトキシシランに基づくGPCピークは明らかに高分子量側へシフトし、目的とする4−(N,N−ジエチルジチオカルバモイルメチル)−フェニルエチルトリメトキシシランの分子量に相当する値388を示した。また、反応前後においてGPCピークは何れも単一ピークを示し、分子量分布になんら変化は見られなかった。下記に示すIRおよびNMRの結果から、この化合物が4−(N,N−ジエチルジチオカルバモイルメチル)−フェニルエチルトリメトキシシランであることが確認された。
IR:ν= 930(C-S), 1200(C-S), 1300([C-N]-C=S), 1480([N-C]=S)cm-1
1H NMR(CDCl3):δ= 7.1(m, 4H, -C6H4-), 4.4(s, 2H, -C6H4-[CH2]-S-),
3.9, 3.6(q, 4H, -N([CH2]CH3)2), 3.5(s, 9H, -(OMe)3),
2.6(broad, 2H, -Si-CH2-[CH2]-C6H4-), 1.2(t, 6H, -N(CH2[CH3])2),
0.9 (t, 2H, -Si-[CH2]-CH2-C6H4-)
【0029】
【発明の効果】
本発明は、重合性単量体に対して重合開始能を有することを特徴とする新規なケイ素化合物を提供するものである。本発明が提供するケイ素化合物は、アクリル系モノマーなどに代表されるラジカル重合性単量体に対し、光重合開始能を有しており、従来のシランカップリング剤とは全く異なる特性を発現することが期待される。例えば、本発明のケイ素化合物を用いて無機表面をカップリング処理した後、アクリル系モノマーを塗布してその重合を行なうことが可能である。これによって、無機表面上に従来とは異なる特性の有機ポリマー層が形成されると考えられる。更に、末端に加水分解性シリル基を有する新規な有機ポリマーの合成などへの応用も可能であり、また重合開始剤としての機能以外の諸特性、例えば耐放射線性、除草効果等の薬理活性、錯体形成能、親水性等を活用することも可能である。即ち、シランカップリング剤の諸特性や用途に多様性をもたらすものと期待される。

Claims (8)

  1. 式(1)
    Figure 0004788058
    (式中、Xジチオカルバメート基であり、Zは炭素数1〜10の直鎖もしくは分岐のアルキレンであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(2)で表される基であり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、CHCO−またはHであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレンであり、nは0〜2の整数であるが、n=2のとき2個のRは異なる基であってもよい。また、フェニレン環へのRの結合位置は、Zの結合位置に対してメタ位およびパラ位のどちらでもよい。)
    で表されるケイ素化合物。
    Figure 0004788058
    (式中のX、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
  2. 式(3)
    Figure 0004788058
    (式中、RおよびRはそれぞれ独立してH、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルキル、炭素数5〜10の脂環式基、または炭素数6〜10の芳香族基であり、RとRとが結合して窒素原子と共に環を形成してもよく、R、ZおよびRの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(4)で表される基である。nは0〜2の整数であるが、n=2のとき2個のR は異なる基であってもよい。
    で表されることを特徴とする、請求項1に記載のケイ素化合物。
    Figure 0004788058
    (式中のR、R、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は前記と同じである。)
  3. 式(3)におけるRがメチレンであり、Zが1,2−エタンジイルであり、Rがメチルであることを特徴とする、請求項2に記載のケイ素化合物。
  4. 式(3)におけるRおよびRが共にエチルであり、nが0であることを特徴とする、請求項3に記載のケイ素化合物。
  5. 式(5)
    Figure 0004788058
    (式中、RおよびRはそれぞれ独立してH、炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐のアルキル、炭素数5〜10の脂環式基、または炭素数6〜10の芳香族基であり、RとRとが結合して窒素原子と共に環を形成してもよく、Mは周期律表第1族または第2族の金属元素であり、mはMの原子価である。)
    で表されるジチオカルバミン酸塩と、式(6)
    Figure 0004788058
    (式中、Xはハロゲン原子であり、R、ZおよびRの意味およびフェニレン環へのRの結合位置は請求項1に記載の式(1)におけるものと同じであり、Rは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキル、置換もしくは無置換のフェニル、炭素数2〜6の直鎖もしくは分岐のアルケニル、H、または下記の式(7)で表される基である。nは0〜2の整数であるが、n=2のとき2個のR は異なる基であってもよい。
    で表される加水分解性シリル基を有する化合物とを反応させて、請求項2に記載のケイ素化合物を製造する方法であって、反応に先立ち、前記ジチオカルバミン酸塩の脱水処理を行うことを特徴とする、ケイ素化合物の製造方法。
    Figure 0004788058
    (式中のX、RおよびZの意味、およびフェニレン環へのRの結合位置は、前記と同じである。)
  6. ジチオカルバミン酸塩の脱水処理を加水分解性ケイ素化合物を用いて行うことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
  7. 加水分解性ケイ素化合物がモノアルコキシシリル基を有する化合物であることを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
  8. 加水分解性ケイ素化合物が式(8)
    (CHSi−OR (8)
    (式中、Rは炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキルである。)
    で表される化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の製造方法。
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