JP4638996B2 - イオン交換による複合金属多塩基性塩の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イオン交換による複合金属多塩基性塩の製造方法に関するもので、より詳細には、金属成分が二価金属及び三価金属からなる複合金属多塩基性硫酸塩を原料として硫酸イオン以外のアニオンのイオン交換による導入を有効に行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、合成の複合金属水酸化物としては、ハイドロタルサイト型合成鉱物(例えば特公昭47−32198号公報)や、リチウムアルミニウム複合水酸化物塩(例えば特公平7−2858号公報)などが知られている。
【0003】
多塩基性アルミニウムマグネシウム塩も既に知られており、特公昭49−38997号公報には、水の存在下多塩基性硫酸アルミニウムと水酸化マグネシウムとをAl/Mg=1/2〜4/3のモル比で反応させることを特徴とする多塩基性アルミニウム・マグネシウム塩の製造法が記載されており、この多塩基性アルミニウムマグネシウム塩は、制酸剤として有用であることも記載されている。
【0004】
特開昭60−204617号公報には、式;Al5Mg10(OH)31(SO4)2・xH2Oのマグアルドレート(Magaldrate)の製法において、活性水酸化アルミニウムを化学量論量の水溶性の硫酸塩含有化合物ならびに活性酸化マグネシウムおよび(または)水酸化マグネシウムと水の存在のもとに反応させ、発生したマグアルドレートペーストを必要に応じてさらに乾燥することを特徴とするマグアルドレートの製法が記載されている。
【0005】
本発明者らは、先に、下記一般式(1)
M3 pMgq(OH)y(A)z・nH2O ‥(1)
式中、M3は三価金属を表し、
Aは無機または有機のアニオンを表し、
p、q、y及びzは下記式
3p+2q−y−mz=0(式中mはアニオンAの価数であり、)、
0.3≦q/p≦2.5
を満足する数であり、
nは7以下の数である、
で表される化学組成を有し、X線回折(Cu−α)において、2θ=2乃至15゜、2θ=19.5乃至24゜及び2θ=33乃至50゜に回折ピークを有し、且つ2θ=60乃至64゜には単一のピークが存在し、且つ下記数式(2)
IO=I10/I60 …(2)
式中、I10は2θ=2乃至15゜のX線回折ピーク強度を表し、
I60は2θ=60乃至64゜のX線回折ピーク強度を表す、
で定義される配向度(I0)が1.5以上であることを特徴とする複合金属多塩基性塩を提案し、この複合金属多塩基性塩が、三価金属の水可溶性塩とマグネシウムの酸化物、水酸化物或いは水可溶性塩とを、pH6.0乃至9.0の条件下で、且つ50℃以上の温度で反応させ、必要により酸或いは酸の可溶性塩の存在下にイオン交換することにより得られることをも提案した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
金属成分が二価金属及び三価金属からなる上記の複合金属多塩基性硫酸塩においては、この化合物中の硫酸アニオンがイオン交換性を有しており、種々の無機酸アニオン及び有機酸のアニオンとイオン交換する特性を有している。
【0007】
しかしながら、複合金属多塩基性硫酸塩粒子と無機酸、有機酸或いはそれらの塩類の水溶液とを固液接触させる通常のイオン交換方式では、イオン交換の速度が概して低く、イオン交換体の収率も未だ不十分であり、より効率の高い方法が望まれている。
特に、過塩素酸アニオンのような硫酸アニオンに比べてイオン半径の大きいアニオンではこの傾向が顕著であり、交換速度が遅く、収率も極端に低いという傾向が認められる。
【0008】
従って、本発明の目的は、複合金属多塩基性硫酸塩を原料として、硫酸アニオンがそれ以外のアニオンでイオン交換された複合金属多塩基性塩を、高い収率でしかも高いイオン交換率で製造しうる方法を提供するにある。
本発明の他の目的は、上記複合金属多塩基性塩を、面倒な水洗操作、固液分離操作などを必要とせずに、生産性よく製造しうる方法を提供するにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、金属成分が二価金属及び三価金属からなる複合金属多塩基性硫酸塩の粒子と、硫酸以外の水に溶解度を有する無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩とを、水の存在下に固形分濃度が10乃至50重量%のペースト状態で摩砕混合することを特徴とするイオン交換による複合金属多塩基性塩の製造方法が提供される。
【0010】
本発明の製造方法においては、硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩を、複合金属多塩基性硫酸塩中の硫酸根当たり10乃至200当量%の量で存在させて摩砕混合することが好ましい。
【0011】
原料となる複合金属多塩基性硫酸塩としては、前記条件を満足するものであれば、特に限定されないが、実質上下記一般式(1)
M3+ pM2+ q(OH)y(SO4 )z・nH2O ‥(1)
式中、M3+は三価金属を表し、M2+は二価金属を表し、
p、q、y及びzは下記式
3p+2q−y−2z=0、
0.3≦q/p≦2.5、
1.5≦y/(p+q)≦3.0、
及び
1.0≦(p+q)/z≦8.0
を満足する数であり、
nは7以下の数である、
で表される化学組成を有する複合金属多塩基性硫酸塩が好適なものである。
【0012】
また、上記原料に関連して、本発明で生成する複合金属多塩基性塩は、実質上下記一般式(2)
M3+ pM2+ q(OH)y(A)z・nH2O ‥(2)
式中、M3+は三価金属を表し、M2+は二価金属を表し、
Aは硫酸以外の無機アニオン、有機アニオン或いはこれらと硫酸アニオン
との組み合わせを表し、
p、q、y及びzは下記式
3p+2q−y−mz=0(式中mはアニオンAの価数であり、)、
0.3≦q/p≦2.5、
1.5≦y/(p+q)≦3.0、
及び
1.0≦(p+q)/z≦20.0
を満足する数であり、
nは7以下の数である、
で表される化学組成を有する複合金属多塩基性塩であることが好ましい。
【0013】
本発明による複合金属多塩基性塩においては、硫酸以外の無機アニオン及び/または有機アニオンと硫酸アニオンとが100:0乃至1:99の当量%で存在するのが好ましく、硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩としては、ホウ素、炭素、窒素、ハロゲン、ケイ素、リン、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズ、アンチモン、テルル、タングステン及びビスマスからなる群より選択された元素のオキシ酸、前記オキシ酸のアルカリ金属塩或いはアンモニウム塩が挙げられ、また有機酸乃至有機酸塩としては、1価または多価のカルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸、そのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。
【0014】
【発明の実施形態】
[作用]
本発明によれば、金属成分が二価金属及び三価金属からなる複合金属多塩基性硫酸塩の粒子と、硫酸以外の水に溶解度を有する無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩とを、少量の水の存在下に固形分濃度が10乃至50重量%のペースト状態で摩砕混合することが特徴であり、これにより、イオン交換された複合金属多塩基性塩の高い収率でしかも高いイオン交換率で製造することができる。
【0015】
無機酸、有機酸或いはその塩類の水溶液中に複合金属多塩基性硫酸塩を懸濁させてイオン交換を行う従来の方式では、後述する例に示すとおり、仕込んだ複合金属多塩基性硫酸塩の量に比して、回収されるイオン交換後の複合金属多塩基性塩の量はかなり減少している。
これは、硫酸アニオンを他の無機酸或いは有機酸のアニオンに交換する際に、原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出が生じるためである。
【0016】
これに対して、本発明に従い、複合金属多塩基性硫酸塩と無機酸、有機酸或いはその塩とを、少量の水の存在下に固形分濃度が10乃至50重量%のペースト状態で摩砕混合すると、イオン交換された複合金属多塩基性塩がほぼ定量的な収率で回収されるのであって、これは本発明による予想外の効果である。この理由は、上記湿式摩砕混合条件下では、原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出が抑制される一方で、硫酸以外のアニオンによるイオン交換活性を高めているためと解される。
【0017】
本明細書において、摩砕処理或いは摩砕混合という用語は、例えば特公平3−17863号公報にも示されているとおり、それ自体明確な文言であるが、一般に粒子にメカノケミカル的な力が作用する処理であり、その化学的な影響は、後に詳述するように、例えばX線回折学的に検出することができる。
本発明において、少量の水とは、無機酸、有機酸或いはその塩のイオン化を許容し且つ原料混合物の摩砕を有効に行うための最低限の水であり、また原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出が抑制されるに十分に少ない水の量である。
このような少量の水の存在下においては、複合金属多塩基性硫酸塩と無機酸、有機酸或いはその塩との混合物は、一般にペースト状の外観を示し、混合物の摩砕が有効に行われ、イオン交換が有効に進行すると共に、原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出が抑制されるものである。
【0018】
このためには、複合金属多塩基性硫酸塩の粒子と、硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩とを、固形分濃度が10乃至50重量%、特に20乃至30重量%のペースト状態で摩砕混合することが好ましく、上記範囲内であれば、原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出を抑制しながら、混合物の摩砕をが有効に行いながら、イオン交換を有効に進行させることができる。
【0019】
複合金属多塩基性塩における硫酸アニオン以外の無機酸或いは有機酸アニオンの存在は、赤外線吸収スペクトルにより、或いはX線回折像により確認することができる。
添付図面において、
図1は、ベースとしての複合金属多塩基性硫酸塩の赤外線吸収スペクトル(硫酸アニオンの特性吸収1100cm−1)であり、
図2は、過塩素酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトル(硫酸アニオンの特性吸収1000乃至1200cm−1の3ピーク)であり、
図3は、硝酸イオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトル(硝酸アニオンの特性吸収800乃至860及び1340乃至1410cm−1)であり、
図4は、塩素アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルであり、
図5は、リン酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトル(リン酸アニオンの特性吸収1000乃至1100及び2350乃至2440cm−1)であり、
図6は、ホウ酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトル(ホウ酸アニオンの特性吸収810及び1340cm−1付近)であり、
図7は、シュウ酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトル(シュウ酸アニオンの特性吸収1680及び3400cm−1付近)であり、
図8は、マレイン酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトル(マレイン酸アニオンの特性吸収870及び1600cm−1付近)であり、
これらの図2乃至図8においては、従来の懸濁イオン交換法によるもの(点線)と、本発明による湿式摩砕イオン交換法によるもの(実線)とが対比して示されている。
注目すべきは、無機酸或いは無機酸塩に関してはベースに用いたウェットケーキ保存中に、大気中より自然に吸着されたと思われるCO2−(1350乃至1400cm−1)が従来の懸濁法によるものでは明瞭にその存在が認められるのに対し、摩砕法によるものでは殆どそれが認められず、目的とするアニオンの導入により、CO2−は系外に排除されたものと考えられる。
【0020】
これらの赤外線吸収スペクトルを参照すると、イオン交換した複合金属多塩基性塩には、交換したアニオンに特有の特性吸収が明確に表れていることが了解される。
しかしながら、イオン交換された複合金属多塩基性塩においては、構造中にイオン交換されて存在しているアニオンの他に、単に物理的に吸着され或いは付着しているアニオンが存在し、赤外線吸収スペクトル法では、これらのアニオンを区別することが困難である。
【0021】
添付図面の図9には、ベースの複合金属多塩基性硫酸塩(A)と過塩素酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性塩(B)とのX線回折像が示されている。
この図9の結果によると、2θ=10度付近に表れる面指数[001]のピークが、過塩素酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性塩では、低角側にシフトしており、これは硫酸アニオンよりもイオン半径の大きい過塩素酸アニオンが層間にイオン交換により有効に導入されているためと認められる。
このような結果は、図9に示す硝酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性塩のX線回折像(C)においても同様に認められる。
【0022】
一方、塩素イオンでイオン交換された複合金属多塩基性塩では、図9のX線回折像(D)に示すとおり、逆に2θ=10°付近に表れる面指数[001]のピークが広角側にシフトしている。これは、硫酸イオンよりもイオン半径の小さな塩素イオンが導入されたためと考えられる。
【0023】
本発明によれば、複合金属多塩基性硫酸塩と硫酸以外のアニオン含有溶液とを、固形分濃度が10乃至50重量%の混合ペーストを摩砕処理することにより、イオン交換が促進されるが、この原因を明らかにするために、次の実験を行った。即ち、亜鉛型の複合金属多塩基性硫酸塩、この複合金属多塩基性硫酸塩を単に水性懸濁液としたもの、及び上記複合金属多塩基性硫酸塩を1時間摩砕処理したものについて、X線回折により層間距離を算出した。更に、これらの各複合金属多塩基性硫酸塩について、グリセリンと水との1:1の混合液を湿潤させ、約1時間後の層間変化の様子を観察した。これらの試料の底面反射ピーク位置から求められる層間距離を下記表1に示す。また、X線回折像を図17に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
以上の結果から、複合金属多塩基性硫酸塩を湿式で摩砕処理したものでは、グリセリンで湿潤処理する前も、また湿潤処理した後でも、層間距離が広がっており、この層間距離の広がりにより、インターカレーション反応が促進されたものと思われる。
【0026】
[複合金属多塩基性硫酸塩]
本発明で原料として用いる複合金属多塩基性硫酸塩は、金属成分として、二価金属及び三価金属を含有し、アニオン成分として硫酸イオンを含有するものである。
この複合金属多塩基性硫酸塩は、前記式(1)で表される化学的組成を有することが好ましい。
【0027】
複合金属多塩基性硫酸塩を構成する二価金属M2+としては、Be、Mg、Ca、Ba、Sr、Zn、Cd、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pd、Sn、Pf、Pbなどが挙げられるが、これらの内でもMg及び/またはZnが好適である。
【0028】
一方、複合金属多塩基性硫酸塩を構成する三価金属M3+としては、Al、Sc、 Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Ga、Y、Ru、Rh、In、Sb、La、Ce、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Os、Ir、Au、Bi、Ac、Thなどが挙げられるが、これらの内でもAlが好適である。
【0029】
三価金属のモル数p、二価金属のモル数q、水酸基のモル数y及び硫酸根のモル数zは下記式i)
i)3p+2q−y−2z=0、
下記式ii)
ii)0.3≦q/p≦2.5、
下記式iii)
iii)1.5≦y/(p+q)≦3.0、
及び下記式iv)
iv)1.0≦(p+q)/z≦8.0
を満足する関係にあり、nは一般に7以下の数である。
【0030】
本発明に用いる複合金属多塩基性硫酸塩は、次の化学的構造を有するものと考えられる。この化合物では、M2+(OH)6八面体層のM2+がM3+で同型置換されたものが基本層となり、この基本層間に前記置換による過剰カチオンと釣り合う形で硫酸根が組み込まれたものであって、この基本構造が多数積み重なって層状結晶構造を形成している。
【0031】
この複合金属多塩基性硫酸塩中に存在する硫酸根は、アニオン交換性を有しており、後述する無機酸或いは有機酸のアニオンでイオン交換されうる。
複合金属多塩基性塩中の硫酸根の含有量をQ0(ミリ当量/100g)としたとき、Q0は一般に240〜420ミリ当量/100gである。
【0032】
上記の複合金属多塩基性硫酸塩は、三価金属の水可溶性塩と、二価金属の酸化物、水酸化物或いは水可溶性塩とを、反応終了時のpHが3.5乃至10.0となる条件下で、且つ50℃以上、好ましくは80乃至180℃の温度で反応させることにより製造される。
【0033】
Alなどの三価金属の水可溶性塩としては、塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの水可溶性塩であれば、何れをも使用しうるが、合成の容易さの点から、複合金属多塩基性塩を硫酸塩の形で合成するのが望ましく、この点から、硫酸塩の形で用いるのがもっとも望ましい。
【0034】
Mg、Zn等の二価金属の原料としては、酸化物、水酸化物或いは水溶性塩の何れも使用できるが、酸化物、例えば酸化マグネシウム、酸化亜鉛や水酸化物、例えば水酸化マグネシウムを用いるのが合成上もっとも便利である。勿論、本発明においては、二価金属の塩化物、硝酸塩、硫酸塩などの水可溶性塩を用いても、反応系のpHを上記の範囲に制御することにより、複合金属多塩基性硫酸塩の合成を行うことが可能である。
【0035】
複合金属多塩基性硫酸塩の合成に際しては、上記各原料を、反応終了時のpHが3.5乃至10.0、特に4.0乃至9.0の範囲となり、且つ反応温度を50℃以上、特に80乃至180℃の範囲に維持して、反応を行うことが好ましい。
反応系のpHが上記範囲外では、複合金属多塩基性塩の生成が困難となる傾向がある。即ち、この複合金属多塩基性塩では、水酸基とアニオン性基との両方を結合して有することが特徴であるが、pHが上記範囲を上回るとアニオン性基の導入が困難となり、pHが上記範囲を下回ると水酸基の導入が困難となる傾向がある。
一方、反応温度が上記範囲を下回るとやはり複合金属多塩基性塩の合成が困難となる傾向がある。
【0036】
三価金属化合物と、マグネシウム金属化合物との反応混合比は、前記一般式(1)の組成比が満足されるように定める。一般に、原料におけるM2+/M3+の仕込みモル比よりも生成物におけるM2+/M3+のモル比は小さくなる傾向がある。
【0037】
[無機酸、有機酸或いはその塩類]
本発明において、複合金属多塩基性硫酸塩のイオン交換に用いる硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩としては、ホウ素、炭素、窒素、ハロゲン、ケイ素、リン、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズ、アンチモン、テルル、タングステン及びビスマスからなる群より選択された元素のオキシ酸、前記オキシ酸のアルカリ金属塩或いはアンモニウム塩、ハロゲン化水素酸、が挙げられ、また有機酸乃至有機酸塩としては、1価または多価のカルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸、そのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩が挙げられる。
塩類としては、水溶性であるという条件を満足する範囲内でカルシウム塩等を用いることもできる。塩化カルシウムや、硝酸カルシウム等がその例である。
【0038】
ホウ素のオキシ酸としてはホウ酸、メタホウ酸やそれらの塩類、炭素のオキシ酸としては炭酸やその塩類、窒素のオキシ酸としては硝酸、亜硝酸やその塩類、ハロゲンのオキシ酸としては過塩素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、過臭素酸、過ヨウ素酸やその塩類、ケイ素のオキシ酸としてはケイ酸ナトリウムや縮合ケイ酸ナトリウム、リンのオキシ酸としてはオルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸やその塩類、チタンのオキシ酸としてはチタン酸やその塩類、バナジウムのオキシ酸としてはバナジウム酸塩やメタバナジウム酸塩、クロムのオキシ酸としてはクロム酸塩や重クロム酸塩、ジルコニウムのオキシ酸としてはジルコニウム酸塩、ペルオクソジルコニウム酸塩、ニオブのオキシ酸としてはニオブ酸塩、モリブデンのオキシ酸としてはモリブデン酸塩、スズのオキシ酸としてはスズ酸塩、アンチモンのオキシ酸としてはアンチモン酸塩、テルルのオキシ酸としてはテルル酸塩、タングステンのオキシ酸としてはタングステン酸塩、ビスマスのオキシ酸としてはビスマス酸塩などが挙げられる。また、ハロゲン化水素酸としては、塩化水素酸、臭化水素酸、或いは塩類などが挙げられる。
【0039】
一方、有機アニオンとしては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、アジピン酸、フマール酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、サリチル酸、フタル酸、テレフタル酸などのカルボン酸アニオン;メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、リグニンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、などのスルホン酸アニオン;スルファニル酸、アニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、メタニル酸、ベンジルアミンなどの芳香族第一アミン及びその塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、フッ化水素酸等の酸付加塩が挙げられる。
【0040】
本発明において、硫酸以外の無機酸或いは有機酸のアニオンは、一般に硫酸に対して、10乃至200当量%、特に50乃至150当量%の量で用いることが好ましい。
勿論、硫酸の実質上全てを他のアニオンでイオン交換させることもできるし、また硫酸の一部を他のアニオンでイオン交換させることもできることが了解されるべきである。
【0041】
本発明では、複合金属多塩基性硫酸塩の硫酸イオンを硫酸以外の無機アニオンでイオン交換させることがイオン交換の収率及び生産性の点で特に望ましい。
この場合、一般に強酸に属する無機酸では、遊離の状態で用いたとき、複合金属多塩基性硫酸塩の分解を生じる場合もあるので、その場合には、無機酸の一部或いは全部をアルカリ金属塩やアンモニウム塩などの塩類の形でイオン交換に用いることが推奨される。
【0042】
[摩砕処理によるイオン交換]
本発明では、原料の複合金属多塩基性硫酸塩と、前述した硫酸以外の無機酸、有機酸、或いは塩とを少量の水の存在下に固形分濃度が10乃至50重量%のペースト状態で摩砕混合して、イオン交換を行う。
少量の水の存在下とは、既に指摘したとおり、複合金属多塩基性硫酸塩と無機酸、有機酸或いはその塩との混合物は、一般にペースト状の外観を示し、混合物の摩砕が有効に行われ、イオン交換が有効に進行すると共に、原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出が抑制されるものである。
【0043】
一般に、複合金属多塩基性硫酸塩の粒子と、硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩とを、固形分濃度が10乃至50重量%、特に20乃至30重量%のペースト状態で摩砕混合することが好ましく、上記範囲内であれば、原料である複合金属多塩基性塩の化学的分解乃至溶出を抑制しながら、混合物の摩砕をが有効に行いながら、イオン交換を有効に進行させることができる。
【0044】
摩砕処理は、それ自体公知の摩砕混合機を用いて行うことができ、例えば、雷潰機、サンドグラインダーミル、アトライター、高速剪断攪拌機、アトマイザー、奈良式粉砕機、円盤振動ミル、振動ボールミル、回転ボールミルなどが単独或いは組合せで使用されるが、勿論例示したものに限定されない。
【0045】
摩砕処理によるイオン交換は、常温で十分行うことができるが、所望によっては90℃程度までの温度に加温することもできる。例えば、加熱された無機酸、有機酸、或いはその塩類の溶液を複合金属多塩基性硫酸塩に添加することもできるし、また摩砕混合機を外部から加熱したり、また摩擦により発生する熱を利用することもできる。或いは、摩砕処理時における過度の温度上昇を避けるために、混合系を外部から積極的に冷却することもできる。
【0046】
摩砕混合時における少量の水分は、外部から添加してもよく、また無機酸、有機酸或いはその塩類の溶液として混合系に持ち込んでもよく、或いは複合金属多塩基性硫酸塩の含水濾過ケーキの形で混合系に持ち込んでもよい。
複合金属多塩基性硫酸塩の濾過ケーキによって、十分な水分が持ち込まれる場合には、組み込むべきアニオンの塩類として固体の塩類をも使用できることが理解されるべきである。
【0047】
摩砕混合の処理時間は、摩砕混合機の能力(出力)、混合物の充填量、組み込むべきアニオンの種類などによっても相違するが、一般的にいって、5乃至120分間、特に10乃至60分間の時間から、目的とするアニオン交換率が達成されるに十分な時間を選べばよい。
【0048】
摩砕混合処理が終了した生成物は、これをそのまま乾燥し、必要により粉砕処理してイオン交換された製品とすることもできるし、或いは水洗、濾過、乾燥などの後処理を行って、イオン交換製品とすることもできる。
更に、イオン交換で遊離する硫酸根を中和乃至水に不溶化する目的で、生成したいイオン交換体を石灰乳等で処理し、硫酸根を石膏の形に転化しておくこともできる。
【0049】
[イオン交換された複合金属多塩基性塩]
本発明で得られる複合金属多塩基性塩は、二価金属成分及び三価金属成分を含有し、硫酸アニオンの少なくとも一部が前述した硫酸以外の無機アニオン或いは有機アニオンでイオン交換されたものである。
この複合金属多塩基性塩は、一般に前記式(2)で表される化学組成を有していることが好ましく、二価金属成分M2+及び三価金属成分M3+としては、前に例示したものがある。アニオンAも前に例示したものである。
【0050】
本発明による複合金属多塩基性塩のX線回折像は既に図面を参照して説明したが、基本的には原料として用いた複合金属多塩基性硫酸塩と同様の層状の結晶構造を有している。勿論、イオン交換により導入されるアニオンの種類に応じて、底面反射によるピーク位置は変化している。
原料に用いる複合金属多塩基性硫酸塩は、結晶構造がよく発達しているのに対して、イオン交換された複合金属多塩基性塩では結晶構造に乱れがある場合もあり、回折ピーク高さが低くなっている場合や、回折ピークがブロードになっている場合も見受けられる。
【0051】
本発明による複合金属多塩基性塩は、更に図11から明らかなとおり、積層不整というX線回折学的な微細構造上の特徴を有している。
即ち、本発明による複合金属多塩基性塩では、2θ=33乃至50゜の回折ピークが非対称ピークとなっていることが明らかである。
【0052】
即ち、このピークは挟角側(2θの小さい側)では立ち上がりが比較的急で、広角側(2θの大きい側)では傾斜のゆるやかな非対称のピークとなっていることが了解される。この非対称ピーク構造は、上述した2θ=33乃至50゜のピークにおいて特に顕著であるが、他に2θ=60乃至64゜のピークにおいても程度は小さいものの同様に認められる。
【0053】
本明細書において、積層不整指数(Is)は、次のように定義される。即ち、後述する実施例記載の方法で、図11に示すようなX線回折チャートを得る。この2θ=33乃至50゜のピークについて、ピークの挟角側最大傾斜ピーク接線aと広角側最大傾斜ピーク接線bを引き、接線aと接線bの交点から垂線cを引く。次いで接線aと垂線cとの角度θ1、接線bと垂線cとの角度θ2を求める。これらの角度から、下記式(3)
IS = tanθ2 /tanθ1 …(3)
式中、θ1は一定の面間隔のX線回折ピークにおけるピー
ク垂線と狭角側ピーク接線とがなす角度を表し、θ2は
該ピークにおけるピーク垂線と広角側ピーク接線とがなす
角度を表す、
により、積層不整指数(Is)が求められる。
この積層不整指数(Is)は、完全に対称なピークである場合には、1.0であり、立ち上がり角度に比して立ち下がり角度が大きくなる方が大きな値をとるようになる。本発明による複合金属多塩基性塩では、積層不整指数(Is)が1.0以上、特に1.0乃至2.5の値をとる。
【0054】
この積層不整指数(Is)の意味するところは、次のものと思われる。即ち、本発明による複合金属多塩基性塩では、M3+ pM2+ q(OH)yの基本層が積み重なった層状結晶構造を有することは既に指摘したところであるが、各基本層のサイズ(長さや面積)が一様でなく、その分布が広い範囲にわたっており、また、基本層にねじれや湾曲などを生じて、非平面構造となっていると信じられる。
【0055】
このため、本発明による複合金属多塩基性塩では、樹脂配合剤としての諸活性が大きく、これを例えば塩素イオン捕捉用の樹脂配合剤として用いた場合、その能力に優れているという利点が達成されるものである。
【0056】
本発明による複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルは既に示したが、本発明による複合金属多塩基性塩は、波数3800乃至2700cm−1に水酸基による特性吸収を有すると共に、波数900乃至1500cm−1に組み込まれたアニオンによる特性吸収を有することが分かる。特に、本発明による複合金属多塩基性塩は波数2000cm−1以下の遠赤外域に顕著な吸収ピークを有しており、熱線を吸収する保温剤としての用途に有用であることが理解される。
【0057】
本発明による複合金属多塩基性塩は、室温から200℃の温度に加熱したときの重量減少率が15重量%以下、特に5重量%以下であり、樹脂中に配合したとき、樹脂の加工温度で発泡を生じることがないという顕著な利点をも有している。ハイドロタルサイトの欠点として、樹脂の加工温度で水分の離脱に伴う発泡の問題が指摘されている。本発明による複合金属多塩基性塩では、この問題が解消されている。
図12は、本発明による複合金属多塩基性塩及び図13は、ハイドロタルサイトについての示差熱分析(DTA)の結果をそれぞれ示している。ハイドロタルサイトの場合、温度190乃至240℃の範囲に水分の揮発に基づく極めて大きな吸熱ピークが認められるのに対して、本発明による複合金属多塩基性塩ではこのような大きな吸熱ピークは認められず、耐発泡性に優れていることを示している。
【0058】
[用途]
本発明による複合金属多塩基性塩は、そのままで樹脂用配合剤、アニオン交換体、保温剤などとして使用し得るが、必要に応じ有機及び無機の助剤により被覆などの後処理を行って各種用途に供することができる。
【0059】
このような有機の助剤としては、例えば次のものが挙げられる。
ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等のカルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、バリウム塩等の金属石鹸、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、各種ワックス類、未変性乃至変性の各種樹脂(例えばロジン、石油樹脂等)等のコーテイング剤で表面処理して、各種用途に使用することができる。
これらのコーテイング剤は、複合金属多塩基性塩当たり0.5乃至10重量%、特に1乃至5重量%の量で用いるのがよい。
【0060】
また、無機系助剤としては、エアロジル、疎水処理エアロジル等の微粒子シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等のケイ酸塩、カルシア、マグネシア、チタニア等の金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム等の金属炭酸塩、A型、P型等の合成ゼオライト及びその酸処理物又はその金属イオン交換物から成る定形粒子を、複合金属多塩基性塩にブレンド乃至マブシして使用することもできる。
これらの無機系助剤は、複合金属多塩基性塩当たり0.01乃至200重量%、特に0.1乃至100重量%の量で用いるのがよい。
また添加助剤として尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、5−ヒドロキシプロピレン尿素、5−メトキシプロピレン尿素、5−メチルプロピレン尿素、パラバン酸、4,5−ジメトキシエチレン尿素、ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、ジシアンジアミド、2−ヒドラゾベンゾチアゾール、過マンガン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、ヨードホール、、ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、硫酸アルミニウム硫酸ヒドラジン複塩、有機・無機抗菌剤(ヨードホールや銀交換ゼオライト)、光触媒(酸化チタン等)等をブレンドして使用することができる。
【0061】
本発明による複合金属多塩基性塩は、前述した優れた特性を有し、これらの特性を利用して、樹脂用配合剤、イオン(アニオン)交換体、保温剤、化粧品基材、消臭・抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤、ナノコンポジット原料などの用途に用いることができる。
【0062】
本発明による複合金属多塩基性塩は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂或いは各種ゴムなどに対する配合剤として有用である。
即ち、本発明による複合金属多塩基性塩は、樹脂の加工温度で水分の離脱に伴う発泡を生じることがなく、樹脂への配合が容易であり、樹脂に対して熱安定化作用のある成分、即ち、マグネシウムや亜鉛などの二価金属や三価金属成分更には水酸基を含有しており、熱安定性に優れている。
更に、この複合金属多塩基性塩はアニオン交換性を有しており、塩素イオンなどの捕捉性に優れている。
更にまた、この複合金属多塩基性塩は遠赤外線に対して吸収性を有しており、保温性にも優れている。
また、錫酸アニオンやホウ酸アニオンを組み込んだ複合金属多塩基性塩、特にZn型のものでは、樹脂に配合したときの難燃性、消煙性に優れている。
かくして、本発明の複合金属多塩基性塩は、熱安定剤、ハロゲンキャッチャー、保温剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、消炎剤などとして樹脂中に配合することができる。
【0063】
本発明による複合金属多塩基性塩を配合する熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂が好適なものであり、特に低−、中−或いは高−密度のポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、あるいはこれらのエチレン乃至α−オレフィンとの共重合体であるポリプロピレン系重合体、線状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、イオン架橋オレフィン共重合体(アイオノマー)、エチレン−アクリル酸エステル共重合体等が挙げられ、これらは単独でも或いは2種以上のブレンド物の形でも使用できる。
【0064】
勿論、本発明の樹脂配合剤は、それ自体公知の他の樹脂フィルムや繊維更には他の樹脂成形品にも配合することができ、例えばナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン11、ナイロン12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルフォン、塩化ビニール樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂等に配合することもできる。
【0065】
樹脂配合剤としての用途の場合、上記複合金属多塩基性塩を、熱可塑性樹脂100重量部当たり、0.01乃至200重量部、特に0.1乃至100重量部の量で用いるのがよい。
【0066】
勿論、本発明の複合金属多塩基性塩は、改質用樹脂配合剤として、上記熱可塑性樹脂や、各種ゴム、或いは熱硬化性樹脂に配合することができる。
【0067】
ゴム用のエラストマー重合体としては、例えばニトリル−ブタジエンゴム(NBR),スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IIPI)、ブチルゴム、天然ゴム、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ポリウレタン、シリコーンゴム、アクリルゴム等;熱可塑性エラストマー、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、水素化スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、水素化スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、部分架橋オレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0068】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、フラン−ホルムアルデヒド樹脂、キシレン−ホルムアルデヒド樹脂、ケトン−ホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、トリアリルシアヌレート樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、シリコーン樹脂、或いはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0069】
このような用途の場合、上記熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂或いはエラストマー100重量部当たり、0.01乃至200重量部、特に0.1乃至100重量部の量で配合することができる。
【0070】
【実施例】
本発明を次の例で説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
なお、物性測定は以下の方法に従って行った。
【0071】
(1)化学分析
化学分析は、湿式分析、原子吸光分析、イオンクロマトグラフィーにより行った。
【0072】
(2)X線回析
理学電機(株)製のGeigerflexRAD−Bシステムを用いて、Cu−Kαにて測定した。
ターゲット Cu
フィルター 湾曲結晶グラファイトモノクロメーター
検出器 SC
電圧 40KV
電流 20mA
カウントフルスケール 700c/s
スムージングポイント 25
走査速度 2°/min
ステップサンプリング 0.02°
スリット DS1° RS0.15mm SS1°
照角 6°
【0073】
(3)赤外線吸収スペクトル分析
日本分光(株)製FT/IR−8000赤外吸収スペクトル分析装置を用いて測定を行った。
【0074】
(ベース品合成1)複合金属多塩基性硫酸塩(1)の合成
3000mlビーカーに水酸化マグネシウム(MgO=64.2%)322.18gとイオン交換水を加えて1200mlとし、攪拌、分散させてスラリーを調製した。このスラリーに室温下にて硫酸バンド(Al2O3=7.68%,SO3=18.1%)1200gを攪拌下で徐々に注加した後、2400mlまでメスアップした。その後90℃まで昇温し、6時間反応を行った。反応終了後ヌッチェにて減圧濾過、6000mlの温水で洗浄を行い、固形分35.5%の複合金属多塩基性塩ウェットケーキを得た。これを後のイオン交換反応のベースとして蓄え、またその一部を110℃にて一晩乾燥し、粉砕して白色粉末を得た。
得られた白色粉末を分析した結果、この合成物のモル組成比は以下のようであった。
Al1.00 Mg1.58 (OH)5.30 (SO4)0.43・1.6H2O
【0075】
(ベース品合成2)複合金属多塩基性硫酸塩(2)の合成
3000mlビーカーに水酸化マグネシウム(MgO=64.2%)293.16gと純度99.6%の酸化亜鉛36.81g、塩化アンモニウム24.19gとイオン交換水を加えて1200mlとし、攪拌、分散させてスラリーを調製した。このスラリーに室温下にて硫酸バンド(Al2O3=7.68%,SO3=18.1%)1200gを攪拌下で徐々に注加した後、2400mlまでメスアップした。その後90℃まで昇温し、6時間反応を行った。反応終了後ヌッチェにて減圧濾過、6000mlの温水で洗浄を行い、固形分29.5%の複合金属多塩基性塩ウェットケーキを得た。これを後のイオン交換反応のベースとして蓄え、またその一部を110℃にて一晩乾燥し、粉砕して白色粉末を得た。
得られた白色粉末を分析した結果、この合成物のモル組成比は以下のようであった。
Al1.00 Mg1.41 Zn0.28(OH)5.48 (SO4)0.45・1.5H2O
【0076】
(実施例1)
1000ml石川式攪拌ライカイ機に、ベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)と水約10mlを仕込み、ライカイ機を攪拌しながら濃度70%の過塩素酸0.155molを徐々に加えた。必要に応じて更に水を加えて最適なペースト状に調製し、適正なペースト状態を維持するために、適宜水を補給しながら30分間摩砕混合を行った。得られたペースト状合成物を、最小限の水と共に全量1000mlビーカーに移し替え、110℃で一晩蒸発乾固を行い白色粉末を回収した。
回収量は50.6gであった。
【0077】
(実施例2)
1000ml石川式攪拌ライカイ機に、ベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)と水約10mlを仕込み、ライカイ機を攪拌しながら濃度60%の硝酸0.155molを徐々に加えた。必要に応じて更に水を加えて最適なペースト状に調製し、適正なペースト状態を維持するために、適宜水を補給しながら30分間摩砕混合を行った。得られたペースト状合成物を、最小限の水と共に全量1000mlビーカーに移し替え、110℃で一晩蒸発乾固を行い白色粉末を回収した。
回収量は44.4gであった。
【0078】
(実施例3)
1000ml石川式攪拌ライカイ機に、ベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)と水約10mlを仕込み、ライカイ機を攪拌しながら濃度35%の塩酸0.155molを徐々に加えた。必要に応じて更に水を加えて最適なペースト状に調製し、適正なペースト状態を維持するために、適宜水を補給しながら30分間摩砕混合を行った。得られたペースト状合成物を、最小限の水と共に全量1000mlビーカーに移し替え、110℃で一晩蒸発乾固を行い白色粉末を回収した。
回収量は40.2gであった。
【0079】
(実施例4)
1000ml石川式攪拌ライカイ機に、ベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)と水約10mlを仕込み、ライカイ機を攪拌しながらマレイン酸0.078molを徐々に加えた。必要に応じて更に水を加えて最適なペースト状に調製し、適正なペースト状態を維持するために、適宜水を補給しながら、30分間摩砕混合を行った。得られたペースト状合成物を、最小限の水と共に全量1000mlビーカーに移し替え、110℃で一晩蒸発乾固を行い白色粉末を回収した。
回収量は44.2gであった。
【0080】
(実施例5)
1000ml石川式攪拌ライカイ機に、ベース品2由来のウェットケーキ100g(固形分29.5g)と水約10mlを仕込み、ライカイ機を攪拌しながら濃度85%の燐酸0.064molを徐々に加えた。必要に応じて更に水を加えて最適なペースト状に調製し、適正なペースト状態を維持するために、適宜水を補給しながら、30分間摩砕混合を行った。得られたペースト状合成物を、最小限の水と共に全量1000mlビーカーに移し替え、110℃で一晩蒸発乾固を行い白色粉末を回収した。
回収量は35.4gであった。
【0081】
(実施例6)
1000ml石川式攪拌ライカイ機に、ベース品1由来のウェットケーキ50g(固形分17.75g)と水約5mlを仕込み、ライカイ機を攪拌しながら濃度70%の過塩素酸0.0775molを攪拌しながら徐々に加えた。必要に応じて更に水を加えて最適なペースト状に調製し、適正なペースト状態を維持するために、適宜水を補給しながら、30分間摩砕混合を行った。
次に、このペースト状合成物に消石灰2.52gと適量の水を加え、ペースト状を維持しながら更に30分間摩砕混合を行った。得られたペースト状合成物を、最小限の水と共に全量1000mlビーカーに移し替え、110℃で一晩蒸発乾固を行い白色粉末を回収した。
得られた白色粉末のX線回折分析を行ったところ、CaSO4・0.5H2Oを示す回折ピークが随所に観察され、遊離硫酸根は半水石膏に転化したことが確認された。X線回折を図10に示す。
【0082】
(比較例1)
1000ml石川式攪拌ライカイ機にベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)を秤り取り、水400mlを加えて水和し、攪拌下にて85℃に昇温した。これとは別に、過塩素酸0.155molを当量の水酸化ナトリウムで中和した過塩素酸ナトリウム水溶液を調製し、水和物に徐々に注加した。85℃で1時間攪拌を継続して反応を終了し、ヌッチェにて減圧濾過、更に2000ml温水にて洗浄を行い、110℃で一晩乾燥して白色粉末を得た。
回収量は37.9gであった。
【0083】
(比較例2)
1000ml石川式攪拌ライカイ機にベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)を秤り取り、水400mlを加えて水和し、攪拌下にて85℃に昇温した。これとは別に、硝酸0.155molを当量の水酸化ナトリウムで中和した過塩素酸ナトリウム水溶液を調製し、水和物に徐々に注加した。85℃で1時間攪拌を継続して反応を終了し、ヌッチェにて減圧濾過、更に2000ml温水にて洗浄を行い、110℃で一晩乾燥して白色粉末を得た。
回収量は38.4gであった。
【0084】
(比較例3)
1000ml石川式攪拌ライカイ機にベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)を秤り取り、水400mlを加えて水和し、攪拌下にて85℃に昇温した。これに塩化ナトリウム9.1g(0.155mol)を水和物に徐々に添加した。85℃で1時間攪拌を継続して反応を終了し、ヌッチェにて減圧濾過、更に2000ml温水にて洗浄を行い、110℃で一晩乾燥して白色粉末を得た。
回収量は37.8gであった。
【0085】
(比較例4)
1000ml石川式攪拌ライカイ機にベース品1由来のウェットケーキ100g(固形分35.5g)を秤り取り、水400mlを加えて水和し、攪拌下にて85℃に昇温した。これとは別に、マレイン酸0.078molを当量の水酸化ナトリウムで中和したマレイン酸ナトリウム温水溶液を調製し、水和物に徐々に注加した。85℃で1時間攪拌を継続して反応を終了し、ヌッチェにて減圧濾過、更に2000ml温水にて洗浄を行い、110℃で一晩乾燥して白色粉末を得た。
回収量は37.2gであった。
【0086】
(比較例5)
1000ml石川式攪拌ライカイ機にベース品2由来のウェットケーキ100g(固形分29.5g)を秤り取り、水400mlを加えて水和し、攪拌下にて85℃に昇温した。これとは別に、燐酸0.064molを当量の水酸化ナトリウムで中和した燐酸ナトリウム水溶液を調製し、水和物に徐々に注加した。85℃で1時間攪拌を継続して反応を終了し、ヌッチェにて減圧濾過、更に2000ml温水にて洗浄を行い、110℃で一晩乾燥して白色粉末を得た。
回収量は31.9gであった。
【0087】
(比較例6)
実施例1において、ベース品1の代わりに、複合金属水酸化物炭酸塩であるハイドロタルサイトを用いた以外は、実施例1と同様にして行ったが、イオン交換はされなかった。
【0088】
(比較例7)
実施例1において、ベース品1の代わりに、リチウムアルミニウム複合水酸化物塩である水澤化学製ミズカラックを用いた以外は、実施例1と同様にして行ったが、イオン交換はされなかった。
【0089】
【表2】
【0090】
【発明の効果】
本発明によれば、金属成分が二価金属及び三価金属からなる複合金属多塩基性硫酸塩の粒子と、硫酸以外の水に溶解度を有する無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩と、少量の水の存在下に摩砕混合することにより、複合金属多塩基性硫酸塩を原料として、硫酸アニオンがそれ以外のアニオンでイオン交換された複合金属多塩基性塩を、高い収率でしかも高いイオン交換率で製造することができる。また、上記複合金属多塩基性塩を、面倒な水洗操作、固液分離操作などを必要とせずに、生産性よく製造することができる。
更に、本発明によれば、二価金属、三価金属及びアニオンの広範囲の組み合わせから成る複合金属多塩基性塩の製造が可能となり、これらの組み合わせを生かした広範囲の用途が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】複合金属多塩基性硫酸塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図2】過塩素酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図3】硝酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図4】塩素アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図5】燐酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図6】硼酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図7】シュウ酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図8】 マレイン酸アニオンを含む複合金属多塩基性塩の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【図9】A.複合金属多塩基性硫酸塩(ベース品)のX線回折像
B. 過塩素酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
C.硝酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
D.塩素アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
をそれぞれ示す図である。
【図10】遊離硫酸根を石膏転化した過塩素酸アニオン交換複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像を示す図である。
【図11】本発明による複合金属多塩基性塩の積層不整を説明するためのX線回折チャートを示す図である。
【図12】本発明による複合金属多塩基性塩の示差熱分析(DTA)の結果を示す図である。
【図13】ハイドロタルサイトの示差熱分析(DTA)の結果を示す図である。
【図14】A.複合金属多塩基性硫酸塩(ベース品)のX線回折像
B. 比較例1で得られた過塩素酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
C.実施例1で得られた過塩素酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
をそれぞれ示す図である。
【図15】A.複合金属多塩基性硫酸塩(ベース品)のX線回折像
B. 比較例2で得られた硝酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
C.実施例2で得られた硝酸アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
をそれぞれ示す図である。
【図16】A.複合金属多塩基性硫酸塩(ベース品)のX線回折像
B. 比較例3で得られた塩素アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
C.実施例3で得られた塩素アニオンでイオン交換された複合金属多塩基性硫酸塩のX線回折像
をそれぞれ示す図である。
【図17】1.亜鉛型の複合金属多塩基性硫酸塩
2.複合金属多塩基性硫酸塩を摩砕処理したもの
3.複合金属多塩基性硫酸塩を懸濁処理したもの
4.1をグルセリンと水との混合液で湿潤させたもの
5.2をグリセリンと水との混合液で湿潤させたもの
6.3をグルセリンと水との混合液で湿潤させたもの
のそれぞれのX線回折像を示す図である。
Claims (7)
- 金属成分が二価金属及び三価金属からなる複合金属多塩基性硫酸塩の粒子と、硫酸以外の水に溶解度を有する無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩とを、水の存在下に固形分濃度が10乃至50重量%のペースト状態で摩砕混合することを特徴とするイオン交換による複合金属多塩基性塩の製造方法。
- 硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩或いは有機酸乃至有機酸塩を、複合金属多塩基性硫酸塩中の硫酸根当たり10乃至200当量%の量で存在させることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
- 複合金属多塩基性硫酸塩が実質上、下記一般式(1)
M3+ pM2+ q(OH)y(SO4)z・nH2O‥(1)
式中、M3+は三価金属を表し、M2+は二価金属を表し、
p、q、y及びzは下記式
3p+2q−y−2z=0、
0.3≦q/p≦2.5、1.5≦y/(p+q)≦3.0、
及び
1.0≦(p+q)/z≦8.0を満足する数であり、
nは7以下の数である、
で表される化学組成を有する複合金属多塩基性硫酸塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の製造方法。 - 複合金属多塩基性塩が実質上下記一般式(2)
M3+ pM2+ q(OH)y(A)z・nH2O‥(2)
式中、M3+は三価金属を表し、M2+は二価金属を表し、
Aは硫酸以外の無機アニオン、有機アニオン或いはこれらと硫酸アニオンとの組み合
わせを表し、
p、q、y及びzは下記式
3p+2q−y−mz=0(式中mはアニオンAの価数であり、)、
0.3≦q/p≦2.5、
1.5≦y/(p+q)≦3.0、
及び
1.0≦(p+q)/z≦20.0
を満足する数であり、
nは7以下の数である、
で表される化学組成を有する複合金属多塩基性塩であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の製造方法。 - 硫酸以外の無機アニオン及び/または有機アニオンと硫酸アニオンとが100:0乃至1:99の当量%で存在する請求項4に記載の製造方法。
- 硫酸以外の無機酸乃至無機酸塩がホウ素、炭素、窒素、ハロゲン、ケイ素、リン、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズ、アンチモン、テルル、タングステン及びビスマスからなる群より選択された元素のオキシ酸、前記オキシ酸のアルカリ金属塩或いはアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の製造方法。
- 有機酸乃至有機酸塩が1価または多価のカルボン酸、スルホン酸またはホスホン酸、そのアルカリ金属塩、またはアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の製造方法。
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