JP4587418B2 - 回折光学素子及び該回折光学素子を有する光学系 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回折光学素子及び該回折光学素子を有する光学系に関するものであり、特に、複数の波長、あるいは帯域光で使用する回折光学素子及びそれを用いた光学系に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、硝材の組み合わせにより色収差を減じる方法に対して、レンズ面やあるいは光学系の1部に回折作用を有する回折光学素子(以下回折格子とも言う)を設けることで、色収差を減じる方法がSPIE Vol.1354 International Lens Design Conference(1990)等の文献、あるいは特開平4−213421号公報、特開平6−324262号公報、米国特許第5044706号明細書等により開示されている。これらは、光学系中の屈折面と回折面とでは、ある基準波長の光線に対する色収差の出方が逆方向に発現するという物理現象を利用したものである。さらに、このような回折光学素子は、その周期的構造の周期を変化させることで、非球面レンズ的な効果をも持たせることができ、収差の低減に大きな効果がある。
【0003】
ここで、屈折においては、1本の光線は屈折後も1本の光線であるのに対し、回折においては、各次数に光が分かれてしまう。そこで、レンズ系として回折光学素子を用いる場合には、使用波長領域の光束が1つの特定次数(以後設計次数とも言う)に集中するように格子構造を決定する必要がある。特定の次数に光が集中している場合では、それ以外の回折光の光線強度は低いものとなり、強度が0の場合にはその回折光は存在しないものとなる。
【0004】
そのため、前記特長を活用する上で、使用波長域全域において設計次数の光線の回折効率が十分高いことが必要になる。また、設計次数以外の回折次数をもった光線が存在する場合は、設計次数の光線とは別な所に結像するため、フレア光となる。従って回折効果を利用した光学系においては、設計次数での回折効率の分光分布及び設計次数以外の光線の振る舞いについても十分考慮する事が重要である。
【0005】
図13に示すような回折光学素子をある面に形成した場合、特定の回折次数に対する回折効率の特性を図14に示す。以下、回折効率の値は全透過光束に対する各回折光の光量の割合であり、格子境界面での反射光などは説明が複雑になるので考慮していない値になっている。この図で、横軸は波長をあらわし、縦軸は回折効率を表している。この回折光学素子は、1次の回折次数(図中実線)において、使用波長領域でもっとも回折効率が高くなるように設計されている。即ち設計次数は1次となる。さらに、設計次数近傍の回折次数(1次±1次の0次と2次)の回折効率も併せ並記しておく。図14に示されるように、設計次数では回折効率はある波長で最も高くなり(以下設計波長と言う)それ以外の波長では序々に低くなる。この設計次数での回折効率の低下分は、他の次数の回折光となり、フレアとなる。また、回折光学素子を複数個使用した場合には特に、設計波長以外の波長での回折効率の低下は透過率の低下にもつながる。
【0006】
従来例において、この回折効率の低下を減少できる構成が特開平9−127322号公報に開示されている。これは図15に示すように3種類の異なる材料と、2種類の異なる格子厚を最適に選び、等しいピッチ分布で近接して配置することで可視域全域で高い回折効率を実現している。
この図15に示されている回折光学素子は、2層に重ね合わされた積層断面形状を有し、この2層を構成する材質の屈折率、分散特性および各格子厚を最適化することにより、高い回折効率を実現している。
さらに、これ以外にも、従来例として、複数の回折光学素子を組み合わせる場合、図16に示すように格子面の向きを異なる構成としたほうが入射角特性が良くなること、等が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例において、特開平9−127322号公報や、あるいは図16に示す格子面の向きを異なるように構成したものでは、格子先端を連ねた面は平面形状であり、曲面上に回折光学素子を形成するようにする具体的構成については、何も示されていない。
【0008】
また、従来、図17に示すように曲面上に回折光学素子の格子形状を形成することが、提案されているが、これにおいても格子ピッチや格子厚に関しては開示されているものの、複数の格子を組み合わせる方式などに関しては、具体的な開示はない。このように、曲面上に積層構造を有する回折光学素子を形成する際に格子の組み合わせる方式が規定されていないと、実際には、曲面上の回折光学素子を、型での成形などによって精度良く作れず、また、場合によっては、平面上に形成した積層構造の回折光学素子と同等の性能が得られないこともある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を解決し、曲面上に積層構造の回折光学素子を形成した場合においても、高い回折効率を維持することが可能な回折光学素子を提供することができ、また、このような回折光学素子を組み込むことによって、フレア等を有効に抑制することができる光学系を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を達成するために、つぎの(1)〜(14)のように構成した回折光学素子及び該回折光学素子を有する光学系を提供するものである。
(1)少なくとも2種類の分散の異なる材質から構成される2つ以上の回折格子を重ね合わせた回折光学素子において、
前記回折格子が形成される基板が曲面からなり、前記基板の曲面における屈折に起因した光学的パワーと前記回折格子の回折に起因した光学的パワーが異なる符号を有する回折格子が前記2つ以上の回折格子の内、格子厚が最も薄い回折格子であり、
前記格子厚が最も薄い回折格子は、該回折格子の格子エッジと格子面のなす角度が、前記最も薄い回折格子における格子先端を連ねた面と格子先端が交わる位置での面法線と、格子面がなす角度より鈍い角度となるように構成されていることを特徴とする回折光学素子。
(2)前記回折格子の格子エッジは、光軸と平行となるように形成されていることを特徴とする上記(1)に記載の回折光学素子。
(3)前記格子先端を連ねた面の曲率が、前記2つ以上重ね合わされた各回折格子間において、ほぼ等しい曲率に構成されていることを特徴とする上記(2)に記載の回折光学素子。
(4)前記2つ以上の回折格子の内、少なくとも1つの回折格子は2種類の分散の異なる材質の境界に形成されていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の回折光学素子。
(5)前記2つ以上重ね合わされた回折格子は、非格子領域で接合されていることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の回折光学素子。
(6)前記2つ以上重ね合わされた回折格子において、格子の厚さの向きが異なる形状の格子が少なくとも一つ以上含まれていることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の回折光学素子。
(7)前記回折光学素子は、使用波長の可視光域全域で特定次数の回折効率を高くする回折光学素子であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の回折光学素子。
(8)前記使用波長の範囲内に、次の条件式を満たす波長が複数あることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の回折光学素子。
±(n01−1)d1±(n03−1)d2±(n02−1)d2=mλ0
ここで、n01:波長λ0での第1の回折格子の材質の屈折率
n02:波長λ0での第2の回折格子の材質の屈折率
n03:波長λ0での第3の回折格子の材質の屈折率
d1、d2:第1の回折格子と第2、3の回折格子の格子厚
m:回折次数
(9)前記基板が、レンズ作用を有することを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の回折光学素子。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の回折光学素子を有することを特徴とする回折光学系。
(11)前記光学系は、結像光学系であることを特徴とする上記(10)に記載の光学系。
(12)前記回折光学素子が、前記結像光学系を構成するレンズの貼り合せ面、またはレンズ表面、あるいはレンズ内等に設けられていることを特徴とする上記(11)に記載の光学系。
(13)前記光学系は、観察光学系であることを特徴とする上記(10)に記載の光学系。
(14)前記回折光学素子が、前記観察光学系を構成するレンズにおいて、対物レンズ側に設けられていることを特徴とする上記(13)に記載の光学系。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態においては、上記構成を適用することによって、曲面上に回折光学素子を設けた場合においても、回折効率の低下を抑制することが可能となり、広い波長域で高い回折効率を有する回折光学素子を曲面上に形成する場合の最適な格子形状を提供することができる。特に、向きが異なる格子形状を曲面上に形成する場合の最適な格子形状を実現することができ、これにより、平板上に形成した回折光学素子と同等の高い回折効率が維持でき、且つ製造上からも型での成形など量産性の良い製造方式を使用することが可能となる。
また、2つの回折光学素子が各素子の非格子領域で接合されるようにした構成を適用することで、回折光学素子の取扱い性が大幅に改善され、また格子部へのゴミの付着のない良好な回折光学素子を提供することができる。
また、非格子領域の格子高さ規制箇所を設けるようにした構成を適用することで、2つの格子の位置合わせが格子輪帯方向のみの合せとすることができ、作業性を改善することができる。さらに、位置合わせ中に格子同士が干渉し、格子先端部が変形するなどの事故を大幅に低減することができる。
また、基板と回折光学素子の格子部を形成する材料を同一とし、基板と回折光学素子を一体で作成するようにした構成を適用することで、基板外径と格子中心の位置精度や、基板がレンズの場合は、基板レンズの芯と格子中心を精度良く合せることができ、上記偏心による結像性能の劣化を大幅に低減でき、性能の良いレンズ系を提供することができる。
また、上記した構成の回折光学素子を撮影レンズに使用すれば、安価で高精度な撮影レンズを提供することができる。
また、上記した構成の回折光学素子を観察光学系に使用すれば、安価で高精度な観察光学系を提供することができる。
【0012】
【実施例】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1における回折光学素子の正面図及び側面図である。回折光学素子1は第1の回折光学素子2と第2の回折光学素子3が近接した構成となっている。図中回折格子は同心円状の格子形状からなり、レンズ作用を有している。また、格子面6、7、8は曲面上に形成されている。
【0013】
図2は、図1の回折光学素子を図中A−A’断面で切断した断面形状の一部である。図2において格子深さ方向にかなりデフォルメされた図となっている。また、解りやすくするために格子ピッチも実際よりは少なく描かれている。
本回折光学素子の断面格子形状は、基板4の表面に回折格子6が作成された第1の回折光学素子2と、基板5の表面に第2の回折格子7、第3の回折格子8が作成された第2の回折光学素子3とが空気9を介して近接した構成となっている。そして、全層を通して一つの回折光学素子として作用することを特徴としている。
【0014】
また、回折格子8の格子面11と反対の面12は格子が形成されていない曲面で、基板5の格子を形成する側の曲面と実効的に等しい曲率を有している。
さらに、基板4、基板5ともに、格子形成面及び反対の面は曲面であり、基板自体で屈折レンズとしての作用を有する。
【0015】
まず、回折光学素子の回折効率について説明する。
通常の図13に示すような1層の透過型回折格子で、設計波長λ0で回折効率が最大となる条件は、光束が格子に対して垂直入射した場合は、回折格子の山と谷の光学光路長差が波長の整数倍になればよく
(n01-1)d=mλ0 (1)
となる。ここでn01は波長λ0での材質の屈折率である。dは格子厚、mは回折次数である。
【0016】
2層以上の構造からなる回折光学素子でも、基本は同様で、全層を通して一つの回折格子として作用させるためには、各材質の境界に形成された回折格子の山と谷の光学光路長差を求め、それを全層にわたって加え合わせたものが、波長の整数倍になるように決定する。従って図2に示した積層構造の回折光学素子に光束が垂直入射する場合の回折効率が最大となる条件式は、
±(n01-1)d1±(n03-1)d2±(n02-1)d2=mλ0 (2)
となる。
【0017】
ここでn01は波長λ0での第1の回折格子の材質の屈折率、n02は波長λ0での第2の回折格子の材質の屈折率、n03は波長λ0での第3の回折格子の材質の屈折率である。d1とd2はそれぞれ第1の回折格子と第2、3の回折格子の格子厚である。回折格子7と回折格子8は格子厚は同じd2となっている。ここで回折方向を図2中の0次回折光から下向きに回折するのを正の回折次数とすると、(2)式での各層の加減の符号は、図に示すように上から下に格子厚が増加する格子形状(図中、回折格子6、7)の場合が正となり、逆に下から上に格子厚が増加する格子形状(図中、回折格子8)の場合が負となる。従って(2)式は図2の構成においては
(n01-1)d1+(n02-1)d2-(n03-1)d2=mλ0 (3)
となる。
【0018】
以下に具体的な例を引用し説明する。
まず、第1の回折光学素子2は以下の構成をとる。格子部を形成する材質は第1の回折光学素子2は紫外線硬化樹脂(nd=1.635、νd=23.0)であり、格子厚は3.54μmとする。
同様に第2の回折光学素子3は以下の構成をとる。第2の回折光学素子3は第2の回折格子7と第3の回折格子8から構成されている。格子部を形成する材質は第2の回折格子7は大日本インキ化学工業(株)製の紫外線硬化樹脂RC8922(nd=1.5129、νd=50.8)、第3の回折格子8はアーデル(ADELL)(株)製の紫外線硬化樹脂HV16(nd=1.598、νd=28.0)、格子厚d2は19.5μmである。この構成での、1次回折光及び近傍の0次2次の回折効率を図3(a)、(b)に示す。図からわかるように1次回折光が可視域全域で高い回折効率を維持していることがわかる。また、0次及び2次回折光は図14の従来例に比べて大幅に低減されていることがわかる。
【0019】
次に、本発明の曲面上に回折格子が形成された場合の形状について図2、図4を用いながら順をおって説明する。
構成としては、曲率半径Rをもつ曲面(以下基準曲面という)上に上記回折光学素子が形成されるとする。また図2に示すように回折格子面10、11の格子面の向きが異なる場合について説明する。
ここでは、図16に示すように、回折格子の格子面の向きを異ならせて構成することで、図17に示したような格子面の向きが同じ回折光学素子よりも、入射角の変化による回折効率の変動を抑制している。
【0020】
また、図2に示す回折光学素子は、格子部を形成するベース面の曲率を除いた格子部のみで、正の回折レンズとして作用するように構成されている。第1の回折格子6は、同様に格子部のみで正の回折レンズとして作用する。第2の回折格子7と第3の回折格子8は、合成された状態では、格子部のみで負の回折レンズとして作用する。そしてこれらの回折格子は、近接または密接することで、全体として前述したように正の回折レンズとして作用する。全体として1つの回折光学素子の作用をするために、第1の回折格子の格子頂点を連ねた曲面14、第3の回折格子の格子面と反対の曲面12、第2、第3の回折格子の格子頂点を連ねた曲面13は、ほぼ等しい曲率、厳密には各面の曲率中心が一致する曲率となっている。このことは面を凹凸として考えれば、曲面13と曲面14の一方が凸面、一方が凹面となることを意味している。(図4では曲面13が凸面、曲面14が凹面となっている。)
図2、図4において、第1の回折格子6は凹面14の上に正の回折レンズが作成されている。さらに第1の回折格子6の格子エッジは曲面14に垂直になるように形成されている。同様に第2の回折格子7は凸面13の上に正の回折レンズが作成されている。そして、第3の回折格子8を第2の回折格子7の格子部を埋めるように形成することで、第2の回折光学素子2は格子形状のみで負の回折レンズとなっている。また第2、第3の回折格子の格子エッジも曲面13に垂直になるように形成されている。
【0021】
次に、本発明の構成の回折光学素子を作成することを考える。
量産性を考えると、金型に格子形状を作成し、これを用いて成形により回折光学素子を複製するなどが好ましい。金型により成形する場合には、成形したものを金型から離す必要がある。
図2、図4の第1の回折格子6を型から離型する状態を図5に記載する。金型16から離型するのに図中光軸Oの方向に剥がしていくわけであるが、格子エッジ部15がベース曲面に垂直に形成されているため型に引っ掛かっていることがわかる。従ってこの形状では、光軸方向に離型することは不可能である。
そこで、図6に示すように回折格子のエッジ部15を光軸と平行になるように形成する。このような格子形状にすることで光軸方向に型から離型できるようになる。この場合、曲面14に格子頂点から下ろした垂線と格子エッジのなす角度はθ1となる。格子輪帯が光軸から離れるにしたがって、θ1は除々に大きくなる。
【0022】
次に、図6に示したような格子形状が回折効率にどう影響するかを説明する。図2の構成で第2の回折光学素子は、成形による複製を考えた場合、格子エッジが曲面13に垂直であっても離型には問題ない形状になっている。
実際は、図6に示す第1の回折光学素子と、第2の光学素子を合わせた回折光学素子として回折効率を説明するのが望ましいが、第2の回折光学素子は特に製造を考慮して形状を変更していないので、第1の回折光学素子が単独で図2から図6に示す形状に変わることで特性がどう変わるかを定性的に説明する。
【0023】
格子の性能は格子の周期方向のベクトルとそれに直交する成分で説明される。そこで説明を簡単にするため、格子周期ベクトルが常に一定の方向になるような形状を考える。格子周期ベクトルが常に一定の方向になるということは、格子が平面上に形成されていることを意味している。そこで図7に図6の回折光学素子のベース曲面14が平面となるように形状をベンディングした図を表わす。図6のように格子エッジを光軸と平行になるように形成することは、図7においては、各格子のエッジ面はθ1だけ傾くことである。この傾きを格子周期方向に射影すると、その成分Δpは
Δp=d1*tanθ1
と書き表される。
【0024】
ここで、d1は第1の回折光学素子の格子厚である。従って、格子厚が厚いほど、エッジ傾き角が大きいほど、Δpは大きくなる。そして、一般に格子ピッチに対してこのΔpが占める割合が大きくなればなるほど、エッジが格子周期ベクトルに垂直である理想形状の回折光学素子の性能からからずれてくることが知られている。本実施例の積層回折光学素子の場合も同様で、第2の回折光学素子と合成された状態でも、単独で第1の回折光学素子の性能が低下すると、それに応じて性能は低下してくる。このΔpの発生を抑制するためには、傾き角θ1を小さくするか、格子厚d1を薄くするか格子ピッチを大きくするかである。
【0025】
この中で、格子ピッチを大きくすることは、回折レンズのパワーを小さくすることであり、本実施例の回折光学素子を光学系の一部に組み込んだときに、回折レンズの効果を制限することになり好ましくない。同様に傾き角θ1を小さくすることは、ベース曲率を緩くすることで、光学素子としての性能に制限を加えるので好ましくない。そこで、格子構造としては、格子厚d1を小さくなるような構成をとることが望ましい。
【0026】
以上説明したように回折光学素子を形成する基板が曲面からなる場合、凹面に凸のパワーの回折格子、凸面に凹のパワーの回折格子を形成する際に、積層回折光学素子を構成する格子の順番を適切に設定すればよい。具体的には、積層回折光学素子を構成する各回折光学素子の格子厚とその符号(凸か凹か)と、基板曲面の符号を比較して、前述のように異なる符号(例えば凹面に凸の回折格子)が存在する場合には、その面には一番薄い格子厚を選べばよい。
【0027】
これは、図4において回折格子の格子ピッチが最も大きな格子箇所となる格子面(図4では第1輪帯)の曲率(図中x2、x3)の中で、前記回折格子の内、格子厚の最も薄い回折格子に対応する前記格子面の曲率(図中x3)が基板の曲率(図中x1)と異符号になるように構成することに対応している。
以上の説明は、基準曲面が球面となる回折光学素子について行ったが、図8に示す1次元格子や、基準曲面が非球面や、シリンドリカル面、トーリック面など任意の面に適応できることはいうまでもない。
【0028】
[実施例2]
実施例1では、第1の回折光学素子と第2の回折光学素子を近接して配置する構成となっていた。ここで2つの回折光学素子の相対的な位置はかなり精度良く合せられる必要がある。そこで、実施例2では図9に示すように回折光学素子の格子が存在しない非格子部で2つの回折光学素子を接着する構成をとる。
このような構成にすることで、接着までをクリーンルームなどのゴミの少ない環境で組み立てれば、格子面にゴミの付着は大幅に低減できる。また接着後は格子面に触れることはなくなるので、本光学素子を他の光学系に組込む際の作業性についても大幅に改善される。
【0029】
[実施例3]
前記各実施例における回折光学素子は、第1の回折光学素子と第2の回折光学素子を近接して配置する構成となっている。実施例2において2つの光学素子間の相対位置は3次元的に誤差を生じるため、接着前の位置合わせにかなりの時間を要していた。そこで実施例3では図10に示すように非格子領域に格子高さ方向の間隔を規制する箇所18を設けることで、格子深さ方向の相対間隔は精度良く出すことができる。このような構成により格子の位置合わせは、基板の曲面内の2次元方向のみの位置合わせを行うことになり作業性は大幅に改善される。
また、位置合わせ中に格子同士が干渉し格子先端が変形するなどの問題もなくなる。なお、本実施例の格子高さ規制箇所18は格子部を作成するときに格子と同じ材料で一体に製造すれば、精度、コストともに好ましい。さらに、図1に示すような基板がレンズ形状を有する場合には、位置合わせ調整時に2つのレンズの相対的な偏心が相殺されるような調整を実施すれば、回折光学素子1は透過光学偏心の少ない良好な性能の素子を提供できる。
【0030】
[実施例4]
前記各実施例における回折光学素子は、基板と回折格子面を形成する材料が異なっていたが、これに限定するものではなく、格子面を形成する材料を基板と同じ材料で構成し基板と一体で製造してもよい。そこで、実施例4では、このように格子面を形成する材料を基板と同じ材料で構成することで、基板外径と格子中心の位置が精度良くあわせられるように構成した。或いは基板がレンズ形状を有する場合は、基板レンズの芯と格子中心を良子に合せることが可能になる。従って、本実施例においては、回折光学素子を他のレンズに組込む際の光軸合せ精度が向上し、素子が偏心することによって生じる結像性能等の収差の劣化を大幅に低減することができる。
【0031】
[実施例5]
本発明に係る実施例5の構成を図11に示す。
図11はカメラ等の撮影光学系の断面を示したものであり、同図中101は撮影レンズで、内部に102の絞りと本発明の回折光学素子1を持つ。103は結像面であるフィルムまたはCCDである。
このような回折光学素子構造にすることで、回折効率の波長依存性は大幅に改善されているので、フレアが少なく低周波数での解像力も高い高性能な撮影レンズが得られる。また、ここでの回折光学素子は、簡単な製法で作成できるので、撮影光学系としては量産性に優れた安価な光学系を提供できる。
【0032】
図11では前玉のレンズの貼り合せ面に本発明の構成を適用した回折光学素子を設けたが、これに限定するものではなく、レンズ表面に設けても良いし、撮影レンズ内に複数、この回折光学素子を使用しても良い。
また、本実施例では、カメラの撮影レンズの場合を示したが、これに限定するものではなく、ビデオカメラの撮影レンズ、事務機のイメージスキャナーや、デジタル複写機のリーダーレンズなど広波長域で使用される結像光学系に使用しても同様の効果が得られる。
【0033】
[実施例6]
本発明に係る実施例6の構成を図12に示す。
図12は、双眼鏡等観察光学系の断面を示したものであり、同図中1は回折光学素子である対物レンズ、104は像を成立させるためのプリズム、105は接眼レンズ、106は評価面(瞳面)である。図中1は本発明の回折光学素子である。1は対物レンズの結像面103での色収差等を補正する目的で形成されている。
このような回折光学素子構造にすることで、回折効率の波長依存性は大幅に改善されているので、フレアが少なく低周波数での解像力も高い高性能な対物レンズが得られる。また、ここでの回折光学素子は、簡単な製法で作成できるので、観察光学系としては量産性に優れた安価な光学系を提供できる。
【0034】
本実施例では、対物レンズ部に回折光学素子を形成した場合を示したが、これに限定するものではなく、プリズム表面や接眼レンズ内の位置であっても同様の効果が得られる。しかしながら、結像面より物体側に設けることで対物レンズのみでの色収差低減効果があるため、肉眼の観察系の場合すくなくとも対物レンズ側に設けることが望ましい。
また、本実施例では、双眼鏡の場合を示したが、これに限定するものではなく地上望遠鏡や天体観測用望遠鏡などであってもよく、またレンズシャッターカメラやビデオカメラなどの光学式のファインダーであっても同様の効果が得られる。
【0035】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、曲面上に積層構造の回折光学素子を形成した場合においても、高い回折効率を維持することができ、これを光学系に組み込むことによって、フレア等を有効に抑制することが可能な光学系を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例1における回折光学レンズを示す図。
【図2】 本発明の実施例1における断面回折格子形状を示す図。
【図3】 本発明の実施例1における回折光学素子の回折効率を示す図。
【図4】 本発明の実施例1における断面回折格子形状を示す図。
【図5】 本発明の実施例1における第1の回折光学素子の複製説明図。
【図6】 本発明の実施例1における第1の回折光学素子を示す図。
【図7】 本発明の実施例1における第1の回折光学素子の変形図。
【図8】 本発明の実施例1における1次元回折光学素子を示す図。
【図9】 本発明の実施例2における回折光学素子を示す図。
【図10】 本発明の実施例3における回折光学素子を示す図。
【図11】 本発明の実施例5における撮影光学系を示す図。
【図12】 本発明の実施例6における観察光学系を示す図。
【図13】 従来例の格子形状(三角波形状)を示す図。
【図14】 従来例の回折効率を示す図。
【図15】 従来例の積層型回折光学素子の断面形状を示す図。
【図16】 従来例の他の積層型回折光学素子の断面形状を示す図。
【図17】 従来の曲面上に形成された回折光学素子の断面形状を示す図。
【符号の説明】
1:回折光学素子
2:第1の回折光学素子
3:第2の回折光学素子
4、5:回折光学素子の基板部
6、7、8:回折格子部
9:空気層
10、11:格子面
12:第3の回折格子の曲面部
13、14:格子先端曲面
15:エッジ部
16:成形用型
17:接着層
18:格子高さ規制部
101:撮影レンズ
102:絞り
103:結像面
104:像反転プリズム
105:接眼レンズ
106:評価面(瞳面)
Claims (14)
- 少なくとも2種類の分散の異なる材質から構成される2つ以上の回折格子を重ね合わせた回折光学素子において、
前記回折格子が形成される基板が曲面からなり、前記基板の曲面における屈折に起因した光学的パワーと前記回折格子の回折に起因した光学的パワーが異なる符号を有する回折格子が前記2つ以上の回折格子の内、格子厚が最も薄い回折格子であり、
前記格子厚が最も薄い回折格子は、該回折格子の格子エッジと格子面のなす角度が、前記最も薄い回折格子における格子先端を連ねた面と格子先端が交わる位置での面法線と、格子面がなす角度より鈍い角度となるように構成されていることを特徴とする回折光学素子。 - 前記回折格子の格子エッジは、光軸と平行となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の回折光学素子。
- 前記格子先端を連ねた面の曲率が、前記2つ以上重ね合わされた各回折格子間において、ほぼ等しい曲率に構成されていることを特徴とする請求項2に記載の回折光学素子。
- 前記2つ以上の回折格子の内、少なくとも1つの回折格子は2種類の分散の異なる材質の境界に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回折光学素子。
- 前記2つ以上重ね合わされた回折格子は、非格子領域で接合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
- 前記2つ以上重ね合わされた回折格子において、格子の厚さの向きが異なる形状の格子が少なくとも一つ以上含まれていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の回折光学素子。
- 前記回折光学素子は、使用波長の可視光域全域で特定次数の回折効率を高くする回折光学素子であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の回折光学素子。
- 前記使用波長の範囲内に、次の条件式を満たす波長が複数あることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の回折光学素子。
±(n01−1)d1±(n03−1)d2±(n02−1)d2=mλ0
ここで、n01:波長λ0での第1の回折格子の材質の屈折率
n02:波長λ0での第2の回折格子の材質の屈折率
n03:波長λ0での第3の回折格子の材質の屈折率
d1、d2:第1の回折格子と第2、3の回折格子の格子厚
m:回折次数 - 前記基板が、レンズ作用を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の回折光学素子。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の回折光学素子を有することを特徴とする回折光学系。
- 前記光学系は、結像光学系であることを特徴とする請求項10に記載の光学系。
- 前記回折光学素子が、前記結像光学系を構成するレンズの貼り合せ面、またはレンズ表面、あるいはレンズ内等に設けられていることを特徴とする請求項11に記載の光学系。
- 前記光学系は、観察光学系であることを特徴とする請求項10に記載の光学系。
- 前記回折光学素子が、前記観察光学系を構成するレンズにおいて、対物レンズ側に設けられていることを特徴とする請求項13に記載の光学系。
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