図5は、本発明の遅延デバイスD10の構成を示す。本発明の遅延デバイスD10は、図5に示すように直列に接続された複数の遅延素子DLと、複数の遅延素子DLの各出力に対してそれぞれ接続した複数の付加回路ADCとを備える。付加回路ADCはCMOS回路で構成されるインバータINV(極性反転回路)に全帰還回路NFを接続して構成することができる。遅延素子DLは、入力された電圧に応じて2つの電源電圧VSS及びVDD(VDD>VSS)のいずれかを出力する。付加回路ADCは、電源電圧VSS及びVDDのほぼ中点の電圧を遅延素子DLの出力に対して出力する。そのため、遅延素子DLが出力した電圧が、付加回路ADCが出力する中点電圧Vcより高いときには、遅延素子DLが出力した電圧に対して中点電圧Vcが加えられることにより電圧の上昇が抑えられる。一方、遅延素子DLが出力した電圧が、付加回路ADCが出力する中点電圧Vcより低いときには、遅延素子DLが出力した電圧に対して中点電圧Vcが加えられることにより電圧の低下が抑えられる。このようにして付加回路ADCが出力する中点電圧Vcは、遅延素子DLが出力する電圧の変動を減少させる。
図6は、遅延デバイスD10に流れる電源電流の波形を示す。Aに示すように遅延デバイスD10に単一のパルス信号が入力されると、Bのようにバースト状の電源電流が遅延デバイスD10に流れる。また、付加回路ADCが中点電圧Vcを遅延素子DLに与えるので遅延素子DL及び付加回路ADCの電源電圧VDDからVSSへ貫通電流Ihlが流れる。Bに示すように電源電流全体の大きさは、貫通電流Ihlに、入力された信号によって遅延素子DLに流れる駆動電流が足された大きさとなる。付加回路ADCが出力する中点電圧Vcが遅延素子DLが出力する電圧に加えられることによって、信号電圧の変動が小さくなっているので信号を駆動するために消費される電源電流の変動は、従来より小さい。Cに示すように連続したパルス信号が入力されても、Dに示すように各パルスによって消費される電源電流の振幅が小さいので、Eに示すように電源電流の振幅は、従来より小さくなる。このため遅延デバイスD10の電源電圧の変動が小さくなるので、遅延時間の精度が高まる。
図7にこの発明による遅延デバイスD10の一実施形態を示す。図7に示すDR、RC、LIN、CL、及びCGは駆動回路、被駆動回路、信号線路、配線容量、及び入力容量をそれぞれ示す。駆動回路DR及び被駆動回路RCは、図5に示す遅延素子DLに対応する。この発明では信号線路LINに付加回路ADCを接続する。付加回路ADCは例えばCMOS回路で構成されるインバータINV(極性反転回路)に全帰還回路NFを接続して構成することができる。高速信号伝送を行う場合には、信号線路LINで伝播された信号が、被駆動回路RCで反射し、被駆動回路RCで取り込まれる信号波形に、オーバーシュート及びアンダーシュートが生じることがある。このようなオーバーシュート及びアンダーシュートを小さくするために、付加回路ADCを信号線路LINの終端に接続してもよい。
図8に遅延デバイスD10の具体的回路構造の一例を示す。この例では駆動回路DRと被駆動回路RCもCMOS回路で構成したインバータINVを用いている。付加回路ADCもCMOS回路構造のインバータINVに全帰還回路NFを接続して構成することができる。この付加回路ADCの回路構造によれば、インバータINVの入力端子及び出力端子の共通接続点Jの電位を電源電圧VDD−VSSのほぼ中点電位に安定させることができる。図9を用いてその理由を説明する。
図9において、曲線YはインバータINVの直流伝達特性(入力電圧に対する出力電圧の関係)を示している。インバータINVは論理反転(否定)の機能を有しているため、論理的閾値の近傍で右下がりの特性を示す。ここで、本発明による付加回路ADCを構成するため、入力と出力の端子を短絡して(あるいは抵抗のような素子で接続して)全帰還をかけると、入力と出力電圧が等しい値になるので、曲線Yに重ねてVin=Voutの直線Xを描くと、この回路の出力電圧は直線Xと曲線Yの交点に等しくなる。この交点はちょうど直流伝達特性において出力電圧が反転する点であり、すなわち、インバータINVの論理的閾値に等しい。インバータINVを構成するP型FETQPとN型FETQNのオン抵抗が等しい場合はこの交点は電源電圧VSS及びVDDのちょうど中点になる。
ここで簡単のためにオン抵抗という語を用いたが、実際には非線形性を持っている。もう少し正確に表現するため、FETのドレイン電流の流れ易さを表す指標として、ドレイン係数βを用いる。ドレイン電流係数βは、MOSFETの大きさ、アスペクト比等で定まる比例定数である。
N型FETQN,P型FETQPのβをそれぞれβn、βpとすると、
βn=(W/Leff)・(εox/Tox)・μn,eff
βp=(W/Leff)・(εox/Tox)・μp,eff
W;ゲート幅、Leff;実効ゲート長、Tox;ゲート酸化膜厚、εox;ゲート酸化膜誘電率、μn,eff;電子の実効移動度、μp,eff;正孔の実効移動度
このβを使えばMOSFETのドレイン電流は以下のように簡単に表すことができる。
Id=β{(Vgs−Vt)Vds−(1/2)(Vds2)}
(Vds≦Vgs−Vt)
Id=(1/2)β(Vgs−Vt)2 (Vds>Vgs−Vt)
シリコンの場合、正孔の移動度は電子の移動度の約半分だから、N型FETQNとP型FETQPを同じ形に作れば(閾値電圧は等しいという前提で)、N型FETQNにはP型FETQPの倍の電流が流れる。また、N型FETQNのオン抵抗はP型FETQPの半分である。
通常の素子においては、N型FETQNとP型FETQPのβを等しくとるか、あるいは形状(W,H)を等しくするのが普通である。P型FETQPのβpとN型FETQNのβnの比(βR=βn/βp、ベータレシオ)を10倍程度変えた場合、概ね、図9に示す曲線Y1とY2の曲線程度の変化になる。但し、Y1は例えば、βn>βp,(βR=10)、Y2はβn<βp,(βR=0.1)とすることができる(βn,βpはそれぞれN型FETQN,P型FETQPのドレイン電流係数)。この場合、被駆動回路RCを構成するインバータINVもN型FETQNとP型FETQPのベータレシオを付加回路ADCと同様に設定することにより、被駆動回路RCが反転動作する閾値電圧を電源電圧VDD−VSSの中点電圧Vcに合致させることができる。従って付加回路ADCを構成するインバータINVと被駆動回路RCを構成するインバータINVの関係を上述のような関係(一般にベータレシオを等しく採ると言われている)に設定することにより、被駆動回路RCは自己の閾値電圧を中心に駆動回路DRから送られて来る信号を受取ることになる。
図10は、図8の遅延デバイスD10における駆動回路DR及び付加回路ADCに流れる電源電流Ih又はIlと、駆動回路DRに流れる貫通電流Ihlとを示す。図10(A)は、駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより低いときの状態を示す。駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより低いときには、駆動回路DRの電源電圧VDDから付加回路ADCの電源電圧VSSへ電源電流Ihが流れる。また、駆動回路DRの電源電圧VDDから当該駆動回路DRの電源電圧VSSへ貫通電流Ihlが流れる。図10(B)は、駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより高いときの状態を示す。駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより高いときには、付加回路ADCの電源電圧VDDから駆動回路DRの電源電圧VSSへ電源電流Ilが流れる。また、駆動回路DRの電源電圧VDDから当該駆動回路DRの電源電圧VSSへ貫通電流Ihlが流れる。
図11は、図10に示した遅延デバイスD10に流れる電源電流Ih及びIlと貫通電流Ihlとを示す。図11(A)は、駆動回路DRの入力電圧Vinと駆動回路DRにおける電源電圧VDDから電源電圧VSSへの貫通電流Ihlとの関係を示す。一方、図11(B)は、駆動回路DRの入力電圧Vinと電源電流Ih及び電源電流Ilとの関係を示す。図11(A)において駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcのときは、駆動回路DRの2つのFETのゲートGに中点電圧Vcが加わるので、貫通電流Ihlは最大値となる。また、駆動回路DRの入力電圧Vinと付加回路ADCが出力する中点電圧Vcとが等しいので、図11(B)に示すように駆動回路DRと付加回路ADCとの間に電流は流れない。
更に、図11(A)において駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより低いときには、駆動回路DRのN型FETQNのゲートGに逆バイアス電圧が加えられ、当該駆動回路DRのP型FETQPのゲートGに順バイアス電圧が加えられる。駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより低いほど駆動回路DRのN型FETQNのゲートGにより高い逆バイアス電圧が加えられるので貫通電流Ihlは減少する。また、駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより低いほど駆動回路DRのP型FETQPのゲートGに高い順バイアス電圧が加えられて駆動回路DRが出力する電圧が中点電圧Vcより高くなる。したがって、駆動回路DRの電源電圧VDDから付加回路ADCの電源電圧VSSへ流れる電源電流Ihが大きくなる。
更に、図11(A)において駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより高いときは、駆動回路DRのP型FETQPのゲートGに逆バイアス電圧が加えられ、当該駆動回路DRのN型FETQNのゲートGに順バイアス電圧が加えられる。駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより高いほど駆動回路DRのP型FETQPのゲートGにより高い逆バイアス電圧が加えられるので、貫通電流Ihlは減少する。また、駆動回路DRの入力電圧Vinが中点電圧Vcより高いほど駆動回路DRのN型FETQNのゲートGに高い順バイアス電圧が加えられて付加回路ADCが出力する中点電圧Vcが駆動回路DRが出力する電圧より高くなる。したがって、付加回路ADCの電源電圧VDDから駆動回路DRの電源電圧VSSへ流れる電源電流Ilが大きくなる。
図11(C)は、駆動回路DRの入力電圧Vinと貫通電流Ihl及び電源電流Ih若しくはIlの和との関係を示す。貫通電流Ihl及び電源電流Ihとの和と貫通電流Ihl及び電源電流Ilとの和は、駆動回路DRの入力電圧Vinに対してほぼ一定である。したがって、付加回路ADCが駆動回路DRの出力に対して中点電圧Vcを出力することにより電源電流の変動が小さくなる。
図12に図8に示した遅延デバイスD10の等価回路を示す。駆動回路DRは等価的にスイッチSWで表すことができる。ROUTは駆動回路DRの出力インピーダンスを示す。図9では信号線路LINの直流抵抗は省略して示す。RMは付加回路ADCの出力インピーダンスに等しい等価抵抗器を表す。つまり、付加回路ADCは抵抗値がRTの等価抵抗器RMを通じて中点電圧VCに接続された回路として表わすことができる。駆動回路DRにおいてスイッチSWが接点A側に切替わると、信号線路LINには出力インピーダンスROUTを通じて電源電圧VDDが印加される。このとき等価抵抗器RMのインピーダンスRTに電流I1が流れ共通接続点Jには中点電圧VCより大きい電圧が発生する。この電圧をVc+E1とすると、電圧E1は、
E1=(VDD−VC)RT/(RT+ROUT)
で表わされる。一方、駆動回路DRにおいて、スイッチSWが接点B側に切替わると、信号線路LINには電源電圧VSSが与えられる。よってこのとき付加回路ADCのインピーダンスRTには電流I2が流れ、共通接続点Jの電圧は中点電位VCよりE2だけ負側に振れる。この電圧E2は
E2=(VSS−VC)RT/(RT+ROUT)
で表される。
図13は、図12に示す付加回路ADC及び被駆動回路RCの出力を示す。図12に示す付加回路ADCの等価抵抗器RMの抵抗値RTは小さい値でRT<<ROUTとなる。従って共通接続点Jに発生する信号の振幅E1とE2は微少な値となる(図13A)。然も、被駆動回路RCは中点電位VCを反転動作の閾値として動作するから、共通接続点Jに発生する電圧E1とE2の振幅の範囲内に存在する電圧EAとEB(図13B)で確実に反転動作する。従って被駆動回路RCは共通接続点Jの電位が中点電圧VCをわずかに横切ると直ちに反転動作し、配線容量CL及び入力容量CGの和の値が大きく、信号線路LINの電位変化に遅れが有っても、被駆動回路RCの出力は図13Cに示すように、波形歪がほとんどない波形で伝送することができる。
電圧E1及びE2は、上式で示されるように、RTとROUTの関数である。RT値を小さくするほど、電圧E1とE2は小さくなる。しかし、被駆動回路RCは、閾値電圧を有しており、被駆動回路RCの信号の感度範囲で、RTの値を定めなければならない。入力がLであるときに被駆動回路RCが安定したL又はHの値を出力することのできる最大の入力電圧をVthLとし、入力がHであるときに被駆動回路RCが安定したH又はLの値を出力することのできる最小の入力電圧をVthHとする。入力をLから徐々に大きくした場合において、被駆動回路RCの出力が実質的に変化し始めるときの入力電圧をVthLとし、入力をHから徐々に小さくした場合において、被駆動回路RCの出力が実質的に変化し始めるときの入力電圧をVthHとしてもよい。例えば、被駆動回路RCの入力電圧VthHが、VC+(VDD−VC)×0.2程度であり、同様に入力電圧VthLが、VC+(VSS−VC)×0.2程度であるとき、電圧E1とE2の式より、RTとROUTの比は、(1):(4以下)であるのが好ましい。また、RTをROUTで除した値は、1/2から1/4の間にあるのが更に好ましい。
本明細書では、用語「中点電圧」は、必ずしも電源電圧VDDからVSSの間の中心の電圧だけを意味するものではない。図9に関して説明したように、中点電圧Vcは、ベータレシオの値に応じて、電源電圧VDDからVSSの間のいずれかの電圧を意味し、中心の電圧から変動し得る。
図14は、遅延デバイスD10の他の実施形態を示す。図14(A)は、遅延デバイスD10の構成を示し、図14(B)は、遅延デバイスD10に流れる電源電流の波形を示す。遅延デバイスD10は、複数の直列に接続された遅延素子DLと、選択信号SLSに従って遅延素子DLの出力の1つを選択して出力するスイッチユニットSUと、スイッチユニットSUの出力に対して中点電圧Vcを出力する付加回路ADCと、スイッチユニットSUの出力を遅延デバイスD10の外部へ出力するインバータINVとを備える。スイッチユニットSUは、遅延素子DLのそれぞれの出力をインバータINVに接続又は切断する複数のスイッチSWを有する。遅延素子DLは、入力された伝送信号を遅延して、次の遅延素子DLへ与える。選択信号SLSをスイッチユニットSUに与えて遅延素子DLの出力の1つを選択することによって伝送信号を所望の時間遅延できる。また、付加回路ADCがスイッチユニットSUの出力に対して中点電圧Vcを出力することによって、電源電圧の変動を小さくして遅延時間の精度を上げることができる。スイッチユニットSUによって選択された伝送信号は、インバータINVを通して、遅延デバイスD10の外部へ出力される。
図14(B)は、1個のパルスによって遅延デバイスD10に電源電流が流れる時間が4nsであるときに、遅延デバイスD10に4nsの間隔でパルス信号を入力したときの電源電流の波形を示す。パルス信号の入力される間隔が遅延デバイスD10に電源電流が流れる時間と等しいので、電源電流は互いに重ならずに連続して流れる。そのため電源電流の波形は変動しない。遅延デバイスD10は、スイッチユニットSUが有する所望のスイッチSWを接続又は切断することでパルス信号の遅延時間を変えることができるので所望のクロックを生成することができる。スイッチユニットSUの出力側には多数のスイッチSWが共通接続されているため、負荷容量が大きい。そのため、スイッチSW及びインバータINVが駆動することによって遅延デバイスD10の電源電圧が変動する。付加回路ADCが、中点電圧Vcを出力することによってスイッチユニットSUから出力される信号電圧の振幅が小さくなる。従って信号が変化した際に遅延デバイスD10に流れる電源電流の変化が小さくなり、ひいては電源電圧の変動が小さくなる。このため遅延時間の精度が高まる。なお、ここで示した例ではスイッチユニットSUの出力にのみ負荷回路ADCを付加したが、遅延素子DLのそれぞれの出力側、及び複数のスイッチSWのそれぞれの入力側に付加回路ADCを接続することによって更に電源電流の変動を小さくすることができる。
図15は、遅延デバイスD10の更に他の実施形態を示す。遅延デバイスD10は、伝送信号INを遅延する複数の遅延素子DLと、入力された伝送信号INを後段に設けられた遅延素子DLに与える複数のオアゲートORと、選択信号SLSが入力されたときに後段に設けられたオアゲートORに伝送信号を与える複数のアンドゲートANDと、遅延デバイスD10の外部から入力された伝送信号を複数のアンドゲートに与えるインバータINVと、インバータINVが出力した伝送信号に対して中点電圧Vcを出力する付加回路ADCとを備える。
複数の遅延素子DLは、オアゲートORを介して直列に接続されており、入力された伝送信号をそれぞれ所定の時間ずつ遅延させる。伝送信号が通過する遅延素子DLの個数により遅延デバイスD10全体の遅延時間が決定される。したがって、どの遅延素子DLに選択信号SLSを与えるかを選択することにより遅延時間を調整することができる。例えば最上段のアンドゲートANDに選択信号SLSを与えると、そのアンドゲートANDが後段に設けられた最上段のオアゲートORに伝送信号を与える。次に、オアゲートORは、後段に設けられた最上段の遅延素子DLに伝送信号を与える。この伝送信号は、全ての遅延素子DLを通過して遅延デバイスD10の外部へ出力される。そのため、遅延デバイスD10によって遅延される時間は最も長くなる。
一方、最下段のアンドゲートANDに選択信号を与えると、そのアンドゲートANDは後段に設けられた最下段のオアゲートORに伝送信号を与える。伝送信号を与えられた最下段のオアゲートORには遅延素子DLが出力側に設けられていないため伝送信号はいずれの遅延素子DLをも通過せずに遅延デバイスD10の外部へ出力される。このように最下段のアンドゲートANDに選択信号を与えると、伝送信号は遅延素子DLによって遅延されずに最も速く遅延デバイスD10から出力される。このようにして選択信号SLSを与える遅延素子DLを選択することにより、遅延時間を調整できる。インバータINVの出力側には多数のアンドゲートANDが接続されているため、インバータINVが駆動するときの負荷容量は大きくなる。このためインバータINV及びアンドゲートANDが入力された伝送信号により駆動されると、遅延デバイスD10の電源電圧が変動する。付加回路ADCが中点電圧Vcを出力することによってインバータINVから出力される信号電圧の振幅が小さくなる。従って信号が変化した際に遅延デバイスD10に流れる電源電流の変化が小さくなり、ひいては電源電圧の変動が小さくなる。このため遅延時間の精度が高まる。なお、ここで示した例では、インバータINVの出力にのみ付加回路ADCを接続したが、アンドゲートANDの出力側及びオアゲートORの出力側に付加回路ADCを接続することによって更に電源電流の変動を小さくすることができる。
図16は、遅延デバイスD10の他の実施形態を示す。信号線路LINに多数の被駆動回路RCが接続されると、信号線路LINの線路上における配線容量CL及び入力容量CGが大きくなる。このため、信号のレベルが変化したときに大きな電源電流が流れ、電源電圧が大きく変動する。したがって遅延時間の変動が大きくなる。付加回路ADCを電源電圧が大きく変動する原因となる多数の被駆動回路RCが接続されている信号線路LINに接続することによって、遅延デバイスD10の電源電圧の変動を効果的に減少し、遅延時間の変動を小さくすることができる。
図17は図16の変形実施形態を示す。信号線路LINの何れの位置に付加回路ADCを接続してもよい。
図18は、遅延デバイスD10の更に他の実施形態を示す。遅延デバイスD10は、直列に接続された複数の遅延素子DLと、遅延素子DLが出力する伝送信号の電荷を蓄積するコンデンサC10及びC12と、複数のコンデンサC10及びC12の各々と遅延素子DLの出力とを切断又は接続する、スイッチSW10及びSW12と、各遅延素子DLの出力に対して中点電圧Vcを出力する付加回路ADCとを備える。図18においてコンデンサC10及びコンデンサC12は、電源電圧VSSに接続されているが、電源電圧VDDに接続されていてもよい。
例えば、スイッチSW10が遅延素子DLの出力とコンデンサC10とを接続するようにスイッチ信号SW−CNT1をスイッチSW10に与える。更にスイッチSW12が遅延素子DLの出力とコンデンサC12とを接続するようにスイッチ信号SW−CNT2をスイッチSW12に与える。入力された伝送信号は、遅延素子DLによって遅延された後、次の遅延素子DLに与えられる。コンデンサC10及びコンデンサC12は、遅延素子DLから入力された伝送信号の電荷を蓄積することにより、伝送信号を遅延する。スイッチSW10及びSW12を接続又は切断するか選択することで遅延時間を調整することができる。例えば、スイッチSW10を接続し、スイッチSW12を切断した場合、伝送信号の電荷は、コンデンサC10にのみ蓄積されるため、スイッチSW10及びスイッチSW12を接続してコンデンサC10及びC12に伝送信号の電荷を蓄積した場合に比べ、遅延時間は短くなる。
複数の遅延素子DLが駆動されることによって遅延デバイスD10の電源電圧が変動する。コンデンサC10及びコンデンサC12に遅延素子DLの出力の電荷を蓄積することによって遅延デバイスD10の電源電圧の変動は更に大きくなる。しかし、付加回路ADCが中点電圧Vcを出力することにより、遅延デバイスD10の電源電圧の変動が小さくなるので遅延時間の精度を高めることができる。
図19は、図18のスイッチSW10及びSW12とコンデンサC10及びC12の具体的な回路の例を示す。コンデンサC10は、スイッチSW10と電源電圧VDDとを接続するP型FETQPと、スイッチSW10と電源電圧VSSとを接続するN型FETQNとを有する。このP型FETQPにおいては、ゲートGに電源電圧VDDが印加され、ソースSがゲートGに接続され、ドレインDがスイッチSW10に接続される。コンデンサC10のN型FETQNにおいては、ゲートGに電源電圧VSSが印加され、ソースSがゲートGに接続され、ドレインDがスイッチSW10に接続される。
コンデンサC12は、3個のP型FETQPと1個のN型FETQNとを有する。これらのP型FETQPにおいては、各々のゲートGに電源電圧VDDが印加されており、スイッチSW12は、これらのP型FETQPのドレインD及びソースS全体と遅延素子DLの出力とを接続又は切断する。コンデンサC12のN型FETQNにおいては、ゲートGに電源電圧VSSが印加され、ソースSがゲートGに接続され、ドレインDがスイッチSW12に接続される。コンデンサC10及びC12が有するP型FETQP及びN型FETQNのゲートGは、ゲート酸化膜によってチャネルから絶縁されており、ドレインD及びソースSがサブストレートSUBに対して逆バイアスになっているためサブストレートSUBからは絶縁されている。そのため、FETを用いてコンデンサを構成することができる。またコンデンサC10及びC12のP型FETQP及びN型FETQNの個数や配置を変えることで電荷を蓄積する容量を変えることができる。
図20は、遅延デバイスD10の更に他の実施形態を示す。遅延デバイスD10は、複数の遅延素子DLと、遅延素子DLが出力する伝送信号の電荷を蓄積する複数のコンデンサC14、C16、C18、及びC20と、コンデンサC14及びC16の一方と遅延素子DLの出力とを切断又は接続するスイッチSW20と、コンデンサC18及びC20の一方と遅延素子DLの出力とを切断又は接続するスイッチSW22と、遅延素子DLの出力に対して中点電圧Vcを出力する付加回路ADCとを備える。図20においてコンデンサC14、C16、C18、C20は、電源電圧VSSに接続されているが、電源電圧VDDに接続されていてもよい。
例えばスイッチSW20が遅延素子DLの出力とコンデンサC14とを接続するようにスイッチ信号SW−CNT3をスイッチSW20に与える。更にスイッチSW22が遅延素子DLの出力とコンデンサC18とを接続するようにスイッチ信号SW−CNT4をスイッチSW22に与える。入力された伝送信号は、遅延素子DLによって遅延された後、次の遅延素子DLに与えられる。そうするとコンデンサC14及びコンデンサC18は、遅延素子DLから入力された伝送信号の電荷を蓄積することにより、伝送信号を遅延する。スイッチSW20及びスイッチSW22が、2個並列に並べられたコンデンサC14又はC16の一方及びコンデンサC18又はC20の一方を遅延素子DLの出力と接続することにより、伝送信号を遅延する時間を調整することができる。また、スイッチSW20は、コンデンサC14及びC16のどちらも選択しないことができる。スイッチSW22は、コンデンサC18及びC20のどちらも選択しないこともできる。
複数の遅延素子DLが駆動されることによって遅延デバイスD10の電源電圧が変動する。コンデンサC14、C16、C18、及びC20に遅延素子DLの出力の電荷を蓄積することによって遅延デバイスD10の電源電圧の変動は更に大きくなる。しかし、付加回路ADCが中点電圧Vcを出力することにより、遅延デバイスD10の電源電圧の変動が小さくなるので遅延時間の精度を高めることができる。
図21は、図20のスイッチSW20及びSW22とコンデンサC14、C16,C18,及びC20の具体的な回路の例を示す。コンデンサC14は、スイッチSW20と電源電圧VDDとを接続するP型FETQPと、スイッチSW20と電源電圧VSSとを接続するN型FETQNとを有する。このP型FETQPにおいては、ゲートGに電源電圧VDDが印加され、ソースSがゲートGに接続され、ドレインDがスイッチSW20に接続される。コンデンサC14のN型FETQNにおいては、ゲートGに電源電圧VSSが印加され、スイッチSW20は、このN型FETQNのドレインD及びソースSと遅延素子DLの出力とを接続又は切断する。コンデンサC16は、N型FETQNを1個有する。このN型FETQNにおいては、ドレインD及びソースSに電源電圧VSSが印加され、ゲートGがスイッチSW20に接続される。
コンデンサC18は、スイッチSW22と電源電圧VDDとを接続する2個のP型FETQP及びスイッチSW22と電源電圧VSSとを接続する2個のN型FETQNを有する。2個あるP型FETQPの1つにおいては、ゲートGに電源電圧VDDが印加され、ソースSがゲートGに接続され、ドレインDがスイッチSW22に接続される。もう1個のP型FETQPにおいては、ゲートGに電源電圧VDDが印加されており、スイッチSW22は、このP型FETQPのドレインD及びソースSと遅延素子DLの出力とを接続又は切断する。コンデンサC18の2個あるN型FETQNの1つにおいては、ゲートGに電源電圧VSSが印加され、ソースSがゲートGに接続され、ドレインDがスイッチSW22に接続される。もう1個のN型FETQNにおいては、ゲートGに電源電圧VSSが印加され、スイッチSW22はドレインD及びソースSと遅延素子DLの出力とを接続又は切断する。コンデンサC20は、N型FETQNを1個有する。このN型FETQNにおいては、ドレインD及びソースSに電源電圧VSSが印加され、ゲートGがスイッチSW22に接続される。
コンデンサC14及びC18が有するP型FETQP及びN型FETQNのゲートGは、ゲート酸化膜によってチャネルから絶縁されており、ドレインD及びソースSがサブストレートSUBに対して逆バイアスになっているためサブストレートSUBからは絶縁されている。そのため、FETを用いてコンデンサを構成することができる。コンデンサC16及びコンデンサC20の場合には、ゲートGがスイッチSW20及びSW22に接続されているので、コンデンサC16及びコンデンサC20のゲートGに逆バイアス電圧が加わるような伝送信号が入力されたときに電荷を蓄積する。またコンデンサC14,C16、C18、及びC20のP型FETQPとN型FETQNの個数や配置を変えることで電荷を蓄積する容量を変えることができる。
図22は、図18及び図20に示したコンデンサC10,C12,C14,C16,C18,及びC20の他の実施形態の一例を示す。(A)は、N型FETQNを用いたコンデンサの例である。このN型FETQNのゲートG及びサブストレートSUBには電源電圧VSSが印加され、スイッチSWは、このN型FETQNのドレインD及びソースSと遅延素子DLの出力とを接続又は切断する。(B)は、P型FETQPを用いたコンデンサの例である。このP型FETQPのゲートG及びサブストレートSUBには電源電圧VDDが印加され、スイッチSWは、このP型FETQPのドレインD及びソースSと遅延素子DLの出力とを接続又は切断する。(C)は、N型FETQNを用いたコンデンサの例である。このN型FETQNのドレインD、ソースS及びサブストレートSUBには電源電圧VSSが印加され、ゲートGにスイッチSWが接続される。(D)は、P型FETQPを用いたコンデンサの例である。このP型FETQPのドレインD、ソースS及びサブストレートSUBには電源電圧VDDが印加され、ゲートGにスイッチSWが接続される。
図22の(A)及び(B)に示すコンデンサのP型FETQP及びN型FETQNのゲートGは、ゲート酸化膜によってチャネルから絶縁されており、ドレインD及びソースSがサブストレートSUBに対して逆バイアスになっているためサブストレートSUBからは絶縁されている。そのため、FETを用いてコンデンサを構成することができる。図22の(C)及び(D)に示すコンデンサのP型FETQP及びN型FETQNのゲートGは、スイッチSWに接続されているので、ゲートGに逆バイアス電圧が加わるような伝送信号が入力されたときに電荷を蓄積する。
図23及び図24は付加回路ADCの変形実施形態を示す。図23に示す付加回路ADCはP型FETQP及びN型FETQNのゲートGにそれぞれ順バイアス電圧を直接与える構造とした場合を示す。このように構成することにより、P型FETQPと、N型FETQNは常時オンの状態を維持し、低いインピーダンスで共通接続点Jの電位を中点電圧Vcに維持することができる。
図24は低インピーダンスバッファ回路LOWと中点電圧源EJVとを組合せて付加回路ADCを構成した場合を示す。低インピーダンスバッファ回路LOWにおいては、電源電圧VDD側にN型FETQNのドレインDが接続され、電源電圧VSS側にP型FETQPのドレインDが接続され、ゲートG及びソースSがそれぞれ共通に接続され、ゲートGの共通接続点Jに中点電圧源EJVから中点電圧VCが与えられている。
図25に図24に示した付加回路ADCの等価回路を示す。図24に示した低インピーダンスバッファ回路LOWを構成するN型FETQNとP型FETQPは利得1の電圧バッファとして見ることができる。付加回路ADCは、中点電圧源EJVと、低インピーダンスバッファ回路LOWとを有する。駆動回路DRがL論理を出力すると、等価抵抗器RMから信号線路LINに向かって電流I1が流れ、共通接続点Jの電位は、中点電位からわずかに小さくなる。従ってこのとき被駆動回路RCはH論理を出力する。一方、駆動回路DRがH論理を出力すると、等価抵抗器RMには信号線路LINから付加回路に向かって電流I2が流れる。この電流I2が流れることによって共通接続点Jの電位は中点電位VCからわずかに小さくなる。よって被駆動回路RCはL論理を出力する。等価抵抗器RMの抵抗値RUは小さい値で、駆動回路DRの出力インピーダンスROUTに対して、ROUT>>RUとなり共通接続点Jの電位変化を小さくすることができる。したがって電源電圧の変動を小さくできる。
図26は、中点電圧源EJVに付加回路ADCを用いた実施形態を示す。図24に示した実施形態では中点電圧源EJVを抵抗分割回路によって構成したが、この中点電圧源EJVに図8又は図23に示した付加回路ADCを用いることもできる。中点電圧源EJVと低インピーダンスバッファ回路LOWとによって付加回路ADCを構成する場合、1個の中点電圧源EJVによって複数の低インピーダンスバッファ回路LOWに中点電圧VCを与え、複数の信号線路に対して付加回路ADCを接続してもよい。
ところでCMOS構造の遅延デバイスD10は、能動素子が静止状態であるときの消費電流はほとんど0となる。従って遅延デバイスD10を試験する場合、この静止時の電流を測定し、その電流値が規定した値以下であるか否かをテストする。これに対し、上述した付加回路ADCを遅延デバイスD10に組込んだとすると、付加回路ADCは静止状態でも電流を消費する。この結果、付加回路ADCを組込んだ遅延デバイスD10は静止電流測定が困難となる。
図27乃至図30に示す実施形態ではこの不都合を解消するために付加回路ADCに遮断手段CUTを付加し、この遮断手段CUTに制御信号を与え、必要に応じて付加回路ADCに流れる電流を遮断させ静止電流測定を可能とした。
図27は、付加回路ADCに遮断手段CUTを付加した例を示す。遮断手段CUTは制御端子CTを有する。この制御端子CTにH論理を与えると付加回路ADCは動作状態に維持され、L論理を与えると付加回路ADCは非動作状態に切替えられ、電流を全く消費しない状態に制御される。つまり、制御端子CTにH論理を与えると、FETQ1、Q3がオフ、Q2、Q4がオンの状態に制御される。FETQ2がオン、Q1がオフの状態に制御されることから、FETQ5がオン、Q6がオフの状態に制御される。結果として、FETQ4とQ5がオンの状態に制御され、これらFETQ4とQ5を通じてFETQPとQNのゲートG相互が接続された状態に維持されて付加回路ADCとして動作する。
制御電子CTにL論理を与えると、FETQ1、Q3がオン、FETQ2、Q4がオフの状態に制御される。FETQ1がオン、FETQ2がオフの状態に制御されることから、FETQ5はオフ、Q6がオンの状態に制御される。つまり、FETQ4とQ5がオフの状態に制御され、FETQ3とQ6がオンの状態に制御されるから、FETQPとQNはオフの状態に制御される。ここでFETQ1、Q3、Q6がオンの状態に制御されるが、これらに直列に接続されているFETQ2、Q4、Q5がオフの状態制御されるから付加回路ADCには全く電源電流が流れないことになる。よって制御端子CTにL論理を与えた状態にすれば静止電流測定を行うことができる。
図28に示す実施形態では遮断手段CUTを一般にアナログスイッチ等と呼ばれているスイッチ素子ANSによって構成した場合を示す。スイッチ素子ANSをオフの状態に制御することにより、付加回路ADCを構成するFETQPとQNはオフの状態に制御される。
図29は図23に示した付加回路ADCに遮断手段CUTを付加した場合を示す。制御端子CTにH論理を与えることによりFETQ4とQ5をオンの状態に制御すると、P型FETQPのゲートGとN型FETQNのゲートGには順バイアス電圧VSSとVDDが与えられ、P型FETQPとN型FETQNはオンの状態に制御され、付加回路ADCとして動作する。 制御端子CTにL論理を与えると、FETQ4とQ5がオフ、Q3とQ6がオンの状態に制御され、この状態ではP型FETQPとN型FETQNはオフの状態に制御され、電流の消費はほぼ0の状態に制御される。
図30は低インピーダンスバッファ回路LOWと中点電圧源EJVとを組合せて付加回路ADCを構成した場合に、遮断手段CUTを付加した構成を示す。また、この実施形態では図8に示した付加回路ADCを中点電圧源EJVとして使用する。CUT1は中点電圧源EJVを構成するP型FETQP1とN型FETQN1を遮断の状態に制御するための遮断手段、CUT2は低インピーダンスバッファ回路LOWを構成するN型FETQN2とP型FETQP2を遮断の状態に制御するための遮断手段を示す。制御端子CTにH論理を与えると、遮断手段CUT1ではFETQ4−1とQ5−1がオンの状態に制御され、中点電圧源EJVを構成するP型FETQP1とN型FETQN1の各ゲートGがこれらFETQ4−1とQ5−1を通じて接続される。この結果、接続点J1に中点電圧Vcが出力される。
一方、遮断手段CUT2では制御端子CTにH論理が与えられることにより、FETQ4−2とFETQ5−2がオンの状態に制御される。この結果、低インピーダンスバッファ回路LOWを構成するN型FETQN2とP型FETQP2はゲートGがFETQ4−2とFETQ5−2を通じて共通に接続され、この共通の接続点J2に中点電圧源EJVから中点電圧Vcが与えられる。よって、この状態ではN型FETQN2とP型FETQP2は図24に示した低インピーダンスバッファ回路LOWと同じ回路構造とされ、接続点J2に駆動回路DRから信号電位が与えられることにより、図24で説明したと同様に動作する。制御端子CTにL論理が与えられると、遮断手段CUT1ではFETQ3−1とQ6−1がオン、Q4−1とQ5−1がオフに制御されるから中間電圧源EJVを構成するP型FETQP1とN型FETQN1はオフに制御される。遮断手段CUT2ではFETQ4−2とFETQ5−2がオフ、Q3−2とQ6−2がオンの状態に制御されるから、低インピーダンスバッファ回路LOWを構成するN型FETQN2とP型FETQP2はオフの状態に制御される。よってこの図30に示す付加回路ADCでも制御端子CTにL論理を与えると全ての電流が遮断の状態となり、静止電流測定を行うことができる。
これまでの実施形態では、付加回路ADCとして、インバータINVを用いた構成について説明してきた。以下に、インバータINV以外の回路、例えば、NANDゲート、NORゲートを利用して、付加回路ADCを形成する実施形態について説明する。
図31は、本発明による遅延デバイスD10の他の実施形態を示す。本実施形態による付加回路ADCは、NANDゲートを有する。付加回路ADCは、NANDゲートに全帰還回路NFを接続して構成される。NANDゲートは、複数の入力端子を有するので、図示されるように、一つの端子を制御端子CTとして利用することができる。
図32は、NANDゲートを用いた付加回路ADCの具体的な構成の一例を示す。この回路構成は、制御端子CTの入力信号をH論理とL論理の間で切り替えることにより、付加回路ADCの動作をオン/オフすることができる。この実施形態では、制御端子CTにH論理を与えると、付加回路ADCは動作状態に維持されて、中点電位を出力することができ、制御端子CTにL論理を与えると、付加回路ADCは非動作状態に切り替えられ、出力をHとする。制御端子CTにH論理を与えると、FETQ1がオン、FETQ4がオフの状態に制御される。従って、FETQ2とFETQ3のドレインD相互が接続された状態に維持されて、付加回路ADCが動作状態に維持され、中点電位を出力する。
一方、制御端子CTにL論理を与えると、FETQ1がオフ、FETQ4がオンの状態に制御される。従って、共通接続点Jの電位は、常にHになる。半導体集積回路素子の漏れ電流試験(静止電流試験)時には、送信側(駆動回路DR)の出力を、共通接続点Jの電位に等しく設定する必要がある。このように、制御端子CTの入力を制御することによって、NANDゲートを用いて構成された付加回路ADCの動作をオン/オフすることができる。
図33は、本発明による遅延デバイスD10の更に他の実施形態を示す。本実施形態による付加回路ADCは、NORゲートを有する。付加回路ADCは、NORゲートに全帰還回路NFを接続して構成される。また、NORゲートは、複数の入力端子を有するので、図示されるように、一つの端子を制御端子CTとして利用することができる。
図34は、NORゲートを用いた付加回路ADCの具体的な構成の一例を示す。この回路構成は、制御端子CTの入力信号をH論理とL論理の間で切り替えることにより、付加回路ADCの動作をオン/オフすることができる。この実施形態では、制御端子CTにL論理を与えると、付加回路ADCは動作状態に維持されて、中点電位を出力することができ、制御端子CTにH論理を与えると、付加回路ADCは非動作状態に切り替えられ、出力をLとする。制御端子CTにL論理を与えると、FETQ1がオフ、FETQ2がオンの状態に制御される。FETQ3のドレインDがFETQ2のソースSに接続しており、FETQ2がオンの状態となることから、FETQ3とFETQ4のドレインD相互が接続された状態に維持されて、付加回路ADCとして動作状態に維持され、中点電位を出力する。
一方、制御端子CTにH論理を与えると、FETQ1がオン、FETQ2がオフの状態に制御される。FETQ1がオン状態になるので、共通接続点Jの電位は、常にLになる。半導体集積回路素子の漏れ電流試験(静止電流試験)時には、送信側(駆動回路DR)の出力を、共通接続点Jの電位に等しく設定する必要がある。このように、制御端子CTの入力を制御することによって、NORゲートを用いて構成された付加回路ADCの動作をオン/オフすることができる。
図35は、付加回路ADCの更に他の実施形態を示す。付加回路ADCは遮断手段CUTとして制御端子CT及びXCTを有する。制御端子CTにH論理、制御素子XCTにL論理を与えると付加回路ADCは動作状態になる。また、制御端子CTにL論理、制御素子XCTにH論理を与えると付加回路ADCは非動作状態に切替えられ、電流を消費しない。つまり、制御端子CTにH論理、制御素子XCTにL論理を与えると、FETQ1、Q4がオンの状態に制御される。するとFETQ1からFETQ2に電源電圧VDDが印加され、FETQ4からFETQ3に電源電圧VSSが印加される。そのためFETQ2及びQQ3のゲートGの共通接続点Jに中点電圧Vcが与えられる。制御端子CTにL論理、制御素子XCTにH論理を与えると、FETQ1、Q4がオフの状態になる。するとFETQ1、Q4に電源電圧VDD及びVSSが印加されないので付加回路ADCには電源電流が流れない。よって制御端子CTにL論理、制御素子XCTにH論理を与えた状態にすれば遅延デバイスD10の静止電流を測定することができる。
本発明の実施形態を説明するために、用語「中点電圧」が用いられてきたが、「中点電圧」は、必ずしも電源電圧VDDからVSSの間の中心の電圧だけを意味するものではない。中点電圧Vcは、ベータレシオの値に応じて、電源電圧VDDからVSSの間のいずれかの電圧を意味し、中心の電圧から変動し得る。例えば、図24に示された「中点電圧源」は、必ずしも電源電圧VDDからVSSの間の中心の電圧だけを出力するのではなく、被駆動回路RCの閾値電圧に対応する電圧を出力することができる。
なお、本実施形態によれば、以下の遅延デバイスが提供されたことが明らかである。
(1)入力された伝送信号を遅延する遅延デバイスであって、2つの電源電圧VSS及びVDD(VDD>VSS)により駆動される、入力された前記伝送信号を遅延する遅延素子と、前記遅延素子の出力に対して、前記電源電圧VSSより大きく、前記電源電圧VDDより小さい所定の電圧を出力する付加回路とを備え、前記付加回路が、P型FET及びN型FETを有し、前記P型FET及び前記N型FETのゲートのそれぞれに、順方向バイアス電圧が印加されることを特徴とする遅延デバイス。
(2)入力された伝送信号を遅延する遅延デバイスであって、2つの電源電圧VSS及びVDD(VDD>VSS)により駆動される、入力された前記伝送信号を遅延する遅延素子と、前記遅延素子の出力に対して、前記電源電圧VSSより大きく、前記電源電圧VDDより小さい所定の電圧を出力する付加回路とを備え、前記付加回路が、前記電源電圧VSSより大きく、前記電源電圧VDDより小さい所定の電圧を出力する電圧源を有することを特徴とする遅延デバイス。
(3)前記付加回路が、前記電圧源が出力した前記電圧の出力インピーダンスを下げる低インピーダンスバッファ回路を更に有することを特徴とする(2)に記載の遅延デバイス。
(4)前記遅延素子と、前記付加回路との間に流れる電流を遮断する遮断手段を備えることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の遅延デバイス。
(5)入力された伝送信号を遅延する遅延デバイスであって、2つの電源電圧VSS及びVDD(VDD>VSS)により駆動される、入力された前記伝送信号を遅延する遅延素子と、前記遅延素子の出力に対して、前記電源電圧VSSより大きく、前記電源電圧VDDより小さい所定の電圧を出力する付加回路とを備え、前記付加回路が、NANDゲートと、前記NANDゲートの一つの入力端子と出力端子を接続した帰還回路とを有することを特徴とする遅延デバイス。
(6)前記NANDゲートが、前記遅延素子と前記付加回路との間に流れる電流及び前記付加回路内の電流を遮断する制御信号が入力される制御端子を有することを特徴とする(5)に記載の遅延デバイス。
(7)入力された伝送信号を遅延する遅延デバイスであって、2つの電源電圧VSS及びVDD(VDD>VSS)により駆動される、入力された前記伝送信号を遅延する遅延素子と、前記遅延素子の出力に対して、前記電源電圧VSSより大きく、前記電源電圧VDDより小さい所定の電圧を出力する付加回路とを備え、前記付加回路が、NORゲートと、前記NORゲートの一つの入力端子と出力端子を接続した帰還回路とを有することを特徴とする遅延デバイス。
(8)前記NORゲートが、前記遅延素子と前記付加回路との間に流れる電流及び前記付加回路内の電流を遮断する制御信号が入力される制御端子を有することを特徴とする(7)に記載の遅延デバイス。
(9)入力された伝送信号を遅延する遅延デバイスであって、2つの電源電圧VSS及びVDD(VDD>VSS)により駆動される、入力された前記伝送信号を遅延する遅延素子と、前記遅延素子の出力に対して、前記電源電圧VSSより大きく、前記電源電圧VDDより小さい所定の電圧を出力する付加回路とを備え、前記付加回路が、前記遅延素子の終端に接続されることを特徴とする遅延デバイス。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることができることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
以上説明したように、本実施形態によれば付加回路ADCを遅延素子DLに接続することにより、遅延デバイスD10の電源電圧の変動が小さくなるので、遅延デバイスD10による遅延時間の精度が高まる。また、付加回路ADCが出力する中点電圧VCは、電圧が変動しても、その変動に追従して変化するので遅延素子DLの閾値に追従し、常に正常動作させることができる。付加回路ADCは、遅延素子DLのベータレシオと等しいベータレシオを有し、全帰還回路を備える。付加回路ADCは、遅延素子DLの論理的閾値電圧に合致した電圧を自動的に発生することができる。
更に、上記実施形態では付加回路ADC及び中点電圧源EJV等の回路に遮断終端CUTを付設し、この遮断手段によって付加回路ADC及び中点電圧源EJV等の回路を流れる電流を遮断の状態に制御できるため、仮に付加回路ADC及び中点電圧源EJVが静止状態でもアイドリング電流を消費する回路であっても、遮断状態に制御することにより、アイドリング電流を除去することができる。この結果、付加回路ADC或いは中点電圧源EJVを組込んだ遅延デバイスD10を製造した場合、更にその遅延デバイスD10をテストする場合に、静止電流測定を簡単に実施できる利点も得られる。
以上の説明から明らかなように、本発明によれば遅延デバイスの電源電圧の変動を小さくすることにより、遅延デバイスの遅延時間の精度を高めることができる。