JP4311806B2 - ガスバリア性フィルムおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガスバリア性に優れた熱可塑性樹脂フィルムおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリアミド、ポリエステル等の熱可塑性樹脂フィルムは強度、透明性、成形性、ガスバリア性に優れていることから、包装材料として幅広い用途に使用されている。しかしながら、レトルト処理食品等の長期間の保存性が求められる用途に用いる場合には、さらに高度なガスバリア性が要求される。
【0003】
ガスバリア性を改良するために、これらの熱可塑性樹脂フィルムの表面にポリ塩化ビニリデン(PVDC)を積層したフィルムが食品包装等に幅広く使用されてきたが、PVDCは焼却時に酸性ガス等の有機物質を発生するため、近年環境への関心が高まるとともに他材料への移行が強く望まれている。
【0004】
PVDCに変わる材料として、ポリビニルアルコール(PVA)は有毒ガスの発生もなく、低湿度雰囲気下でのガスバリア性も高いが、湿度が高くなるにつれて急激にガスバリア性が低下し、水分を含む食品等の包装には用いることができない場合が多い。
【0005】
PVAの高湿度下でのガスバリア性の低下を改善したフィルムとして、ビニルアルコールとエチレンの共重合体(EVOH)からなるフィルムが知られているが、高湿度下でのガスバリア性を実用レベルに維持するためにはエチレンの含有量をある程度高くする必要があり、そのようなポリマーは水に難溶であり、コーティング材料とする場合には有機溶媒または水と有機溶媒の混合溶媒を用いる必要があり、環境問題の観点からも望ましくなく、また有機溶媒の回収工程などを必要とするため、コスト高になるという問題がある。。
【0006】
水溶性のポリマーからなる液状組成物をフィルムにコートし、高湿度下でも高いガスバリア性を発現させる方法として、PVAとポリアクリル酸またはポリメタクリル酸の部分中和物とからなる水溶液をフィルムにコートし熱処理することにより、両ポリマーをエステル結合により架橋する方法が提案されているが(特開10-237180号公報)、この方法ではエステル化を十分に進行させて、フィルムのガスバリア性を十分に高めるためには高温で長時間の加熱が必要であり生産性問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決し、高湿度下でも高いガスバリア性を維持することができる熱可塑性樹脂フィルム、およびそれを工業的に安価に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0008】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の樹脂組成物をフィルムの表面に積層することにより、上記の課題を解決できることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)フィルムの少なくとも片面に、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニル系ポリマー(A)と、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するビニル系ポリマー(B)を含有し、かつ、(A)のビニルアルコール単位と(B)のマレイン酸または無水マレイン酸単位のモル比が90/10〜40/60である層が形成されており、20℃、85%RHで測定した、酸素透過度が20ml/m 2 ・day・MPa以上かつ140ml/m2・day・MPa以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
(2)上記(1)のガスバリア性フィルムを製造するに際し、フィルムの少なくとも片面に、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニル系ポリマー(A)と、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するビニル系ポリマー(B)を含有し、かつ、(A)のビニルアルコール単位と(B)のマレイン酸または無水マレイン酸単位のモル比が90/10〜40/60である水系溶液を塗布した後、150℃以上の温度で熱処理することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明において用いられる、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニルアルコール系ポリマー(A)は、ビニルエステルの重合体、またはビニルエステルと他のビニル系モノマーとの共重合体を完全または部分ケン化する方法により得ることができる。
ビニルエステルとしては、ぎ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが工業的に好ましい。
ビニルエステルと共重合させる他のビニル系モノマーとしては、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和モノカルボン酸およびそのエステル、塩、無水物、アミド、ニトリル化合物や、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和スルホン酸およびその塩、炭素数2〜30のオレフィン類、アルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン類などが挙げられる。
上記のポリマーはケン化され、ビニルエステル単位の全部または一部がビニルアルコール単位となる。ケン化方法としては公知のアルカリケン化法及び酸ケン化法を適用することができ、中でもメタノール中で水酸化アルカリを使用して加アルコール分解する方法が好ましい。
【0011】
本発明における、ビニルアルコール系ポリマー(A)のビニルアルコール単位の含有量は全ビニル基単位に対して40モル%以上含まれていることが必要である。ビニルアルコール単位が40モル%より少ないと、充分なガスバリア性を有するフィルムを得ることができない。これは、ビニルアルコール単位の水酸基は、マレイン酸もしくは無水マレイン酸単位を含有するポリマー(B)と反応して架橋構造を形成する反応性基として働くだけでなく、未反応の水酸基の強い凝集力がガスバリア性を高めるのに有効に働くからである。
ビニルアルコール系ポリマーの最も好適な例としては、ポリビニルアルコールを挙げることができるが、無水マレイン酸基や他のビニル系化合物を共重合したものでもよい。また、ビニルアルコール単位の一部を化学的に修飾したものを用いることもできる。
【0012】
本発明における、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するポリマー(B)は、マレイン酸または無水マレイン酸と他のビニルモノマーを溶液ラジカル重合などの方法により重合することにより得られる。
他のビニル系モノマーとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどの炭素数3〜30までのアルキルビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等のアクリル酸エステル類、ギ酸ビニル、酢酸ビニルなどのビニルエステル類、スチレン、p−スチレンスルホン酸、プロピレン、イソブチレンなどの炭素数2〜30のオレフィン類等や、ポリマー(A)の水酸基等と反応する反応性基を有する化合物を用いることもできる。
ポリマー(B)の具体例としては、メチルビニルエーテルとマレイン酸または無水マレイン酸の共重合体、スチレンとマレイン酸または無水マレイン酸の共重合体、イソブチレンとマレイン酸または無水マレイン酸の共重合体などを挙げることができる。
【0013】
本発明におけるポリマー(B)は、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有することが必要である。ポリマー(B)中のマレイン酸や無水マレイン酸単位は、ビニルアルコール単位含有ポリマー(A)と反応して架橋構造を形成することにより高度なガスバリア性が得られる。
【0014】
本発明におけるポリマー(A)中のビニルアルコール単位と、(B)ポリマー中のマレイン酸または無水マレイン酸単位のモル比率は、90/10〜40/60の範囲であることが必要である。モル比率が99/1〜40/60の範囲を外れる場合には、特に高湿度雰囲気下でのフィルムのガスバリア性の発現のために有効な架橋密度を得ることができず、本発明の目的とするガスバリア性フィルムを得ることができない。
【0015】
本発明におけるポリマー(A)とポリマー(B)とからなる層中には、さらに、バーミキュライト、モンモリロナイト、ヘクトライトなどの水膨潤性の層状無機化合物を少量添加することによってフィルムのガスバリア性をさらに向上させることができる。
また、フィルムの特性を改良するために、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリマー(A)とポリマー(B)からなる層中に有機または無機の各種の添加剤を含有させることができる。
【0016】
本発明のフィルムは、ポリマー(A)とポリマー(B)の混合溶液を作製し、これをフィルムの表面にコートした後、加熱乾燥することによって得られる。混合溶液を作製するときの溶媒としては、水、低級アルコール、メチルエチルケトン、酢酸メチル、ベンゼン、トルエン等の溶媒の1種または2種以上の混合溶媒を用いることができるが、両ポリマーが充分な水溶性を示す場合は水を溶媒として用いることが工程の環境または溶媒コストの面から好ましい。しかし、溶解性を高める目的や乾燥工程の短縮、溶液の安定性の改善などの目的により、水にアルコールや有機溶媒を少量添加する方法が有効である。
また、本発明のフィルムのガスバリア性を高めるためには、ポリマー(A)とポリマー(B)間にエステル結合による架橋反応が起こることが必要であるが、架橋反応を促進させるために、酸などの触媒を添加することもできる。
【0017】
本発明におけるポリマー(A)とポリマー(B)からなる層の厚みは、フィルムのガスバリア性を十分高めるためには少なくとも0.1μmより厚くすることが望ましい。
また、ポリマー(A)とポリマー(B)からなる混合溶液をフィルムにコートする際のポリマー濃度は、液の粘度や反応性、用いる装置の仕様によって適宜変更されるものであるが、あまりに希薄な溶液ではガスバリア性を発現するのに充分な厚みの層をコートすることが困難となり、また、その後の乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。一方、溶液の濃度が高すぎると、混合操作や保存性などに問題を生じることがある。この様な観点から、ポリマー濃度は溶液全体の10〜70重量%の範囲にすることが好ましい。
【0018】
ポリマー(A)とポリマー(B)からなる混合溶液をフィルムにコーティングする方法は特に限定されないが、グラビアロールコーティング、リバースロールコーティング、ワイヤーバーコーティング等の通常の方法を用いることができる。またコーティングは、フィルムの延伸前に行ってもよく、また、延伸後のフィルムに行ってもよい。
【0019】
本発明においては、フィルムの片面あるいは両面に形成された、ポリマー(A)とポリマー(B)からなる層においては、両ポリマーを架橋反応させるために、コーティング後の熱処理温度を150℃以上の雰囲気で行うことが好ましい。熱処理の温度が低いと架橋反応を充分に進行させることができず、充分なガスバリア性を有するフィルムが得ることが困難になる。また、コーティングを延伸に先だって行い、その後に延伸、熱処理を行う方法は延伸、熱処理時の高い温度を架橋反応に利用できるので好ましい方法である。
【0020】
本発明において、ポリマー(A)とポリマー(B)からなる層を形成させる基材フィルムとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、またはそれらの混合物よりなるフィルム、またはそれらのフィルムの積層体が上げられ、未延伸フィルムであっても延伸フィルムであってもよい。
【0021】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、フィルムの酸素バリア性は、モコン社製酸素バリア測定器により20℃、相対湿度85%の雰囲気における酸素透過度を測定した。
【0022】
実施例1
PVAとして、ユニチカケミカル社製UF040G(ケン化度99.6%、平均重合度500)を用い、無水マレイン酸共重合体として、International Specialty Products社製GANTREZ AN119(メチルビニルエーテル/無水マレイン酸等モル共重合体)を用いた。
まず、PVAを純水に溶解し、10重量%の水溶液を得た。一方、GANTREZをマレイン酸単位に対して10モル%の水酸化ナトリウムを含む水溶液に溶解し10重量%溶液とした。次いでPVA中のビニルアルコール単位およびGANTREZのマレイン酸単位のモル比が表1に示した割合となるように両水溶液を混合し、室温で撹拌してコート液を調製した。
このコート液を、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製エンブレット PET12、厚み12μm)上に、乾燥後の塗膜厚みが約2μmになるようにワイヤーバーでコートし、100℃で2分間乾燥した後、200℃で5分間熱処理した。
得られたフィルムの酸素透過率は表1に示すとおりであり、優れたガスバリア性を有していた。
【0023】
実施例2、3
PVAとGANTREZの混合比率を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行いコートフィルムを作成した。
得られたフィルムの酸素透過率を表1に示した。
【0024】
実施例4
無水マレイン酸共重合体として、スチレン−無水マレイン酸の等モル共重合体(アトケム社製SMA1000)を用い、無水マレイン酸単位に対して10モル%の水酸化ナトリウムを含む、SMA1000の10重量%水溶液を調製した。次に、この溶液と実施例1と同様のPVA溶液を、PVAのビニルアルコール単位とSMA1000の無水マレイン酸単位の比率が80/20となるように混合した。
実施例1と同様の方法で、二軸延伸PETフィルムにコートし、得られたフィルムの酸素透過度を測定した結果を表1に示した。
【0026】
実施例6
エチレン含量27モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)を水/イソプロパノール=35/65重量部に溶解し、EVOHの10重量%溶液とした。一方、GANTREZを実施例1と同様の方法で10重量%水溶液とした。次いで、EVOH中のビニルアルコール単位とGANTREZ中のマレイン酸単位のモル比が80/20になるように両溶液を混合し、室温で撹拌してコート液を調製した。
このコート液を実施例1と同様の方法により二軸延伸PETフィルムにコートし、得られたフィルムの酸素透過度を測定した結果を表1に示した。
【0027】
実施例7
実施例1と同様にして、PVAの10重量%水溶液を調製した。一方、無水マレイン酸共重合体として、イソブチレン−無水マレイン酸等モル共重合体(クラレ社製イソバン04)を用い、無水マレイン酸単位に対して60モル%の水酸化ナトリウムを含むイソバンの10重量%水溶液を調製した。両溶液を混合し、PVAのビニルアルコール単位とイソバンの無水マレイン酸単位の比率を80/20になるように両溶液を混合し、室温で撹拌してコート液を調製した。
このコート液を実施例1と同様の方法により二軸延伸PETフィルムにコートし、得られたフィルムの酸素透過度を測定した結果を表1に示した。
【0028】
比較例1
実施例1と同様のPVAの10重量%の水溶液を作成し、実施例1と同様の方法により二軸延伸PETフィルムにコートし、得られたフィルムの酸素透過度を測定した結果を表1に示した。
【0029】
比較例2
PVAのビニルアルコール単位に対するGANTRTEZのマレイン酸単位のモル比を20/80とした以外は、実施例1と同様にして、二軸延伸PETフィルムにコートし、得られたフィルムの酸素透過度を測定した結果を表1に示した。
【0030】
比較例3
PVAのビニルアルコール単位とSMA1000の無水マレイン酸単位の比率を20/80とした以外は、実施例1と同様にして、二軸延伸PETフィルムにコートし、得られたフィルムの酸素透過度を測定した結果を表1に示した。
【0031】
【表1】
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、PVDCのように焼却時に酸性ガス等の有機物質を発生することがなく、高湿度下でも高いガスバリア性を維持することができるフィルム、およびそれを工業的に安価に製造する方法が提供され、その実用的価値は極めて大きい。
Claims (2)
- フィルムの少なくとも片面に、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニル系ポリマー(A)と、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するビニル系ポリマー(B)を含有し、かつ、(A)のビニルアルコール単位と(B)のマレイン酸または無水マレイン酸単位のモル比が90/10〜40/60である層が形成されており、20℃、85%RHで測定した、酸素透過度が20ml/m 2 ・day・MPa以上かつ140ml/m2・day・MPa以下であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
- 請求項1に記載のガスバリア性フィルムを製造するに際し、フィルムの少なくとも片面に、ビニルアルコール単位を40モル%以上含有するビニル系ポリマー(A)と、マレイン酸または無水マレイン酸単位を10モル%以上含有するビニル系ポリマー(B)を含有し、かつ、(A)のビニルアルコール単位と(B)のマレイン酸または無水マレイン酸単位のモル比が90/10〜40/60である水系溶液を塗布した後、150℃以上の温度で熱処理することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。
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