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JP4389438B2 - 水性顔料分散体及び水性顔料記録液 - Google Patents

水性顔料分散体及び水性顔料記録液 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水性顔料分散体及び水性顔料記録液に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録用水性インクとしては、例えば、顔料、水分散型の水性ポリウレタン樹脂、アクリル酸系共重合体やスチレン−アクリル酸系共重合体の塩の様な水溶性樹脂及び水性媒体を含むインクジェット記録用水性インクが記載されている(特許文献1参照)。
【0003】
また別の従来技術としては、顔料、エチレンオキサイド重合単位とカルボキシル基とを含み特定酸価・特定分子量の水分散型のポリウレタン樹脂及び水性媒体を含むインクジェット記録用水性インクが記載されており、同時にこの水分散型のポリウレタン樹脂には、重量平均分子量が5千〜3万程度のアクリル酸系共重合体やスチレン−アクリル酸系共重合体の様な水溶性樹脂が必要に応じて併用できることが記載されている(特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、これらの公開公報のインクジェット記録用水性インクは、いずれもポリウレタン樹脂を主体として含むものであり、(メタ)アクリル酸エステル樹脂を主体としたインクの様な優れた特性、例えば着色皮膜の耐光性や優れた分散性は期待できないものであった。
【0005】
この様なポリウレタン樹脂主体のインク組成ではなく、(メタ)アクリル酸エステル樹脂を主体としたものとして、顔料、水分散型のアクリル−ウレタン共重合体樹脂(エマルジョン)、(メタ)アクリル酸エステル(オキシアルキレン基を持つ)及び/又はスチレンと(メタ)アクリル酸の共重合体の塩の様な樹脂(高分子分散剤)、水溶性有機溶剤及び水を含むインクジョエット記録用水性インクが記載されている(特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、この公開公報で用いている水分散型のアクリル−ウレタン共重合体樹脂エマルジョンは、アクリル酸又はその誘導体の共重合体とポリウレタン重合物のグラフト又はブロック共重合物からなり、その製法(ポリマーとポリマーをグラフト又はブロック共重合させるという製法)上、樹脂の重量平均分子量は大きなものとなってしまう。この公開公報ではエマルジョン粒子の平均粒子径の記載はないが、アクリル−ウレタン樹脂の重量平均分子量の大きさから推察されるには、エマルジョン粒子サイズは大きなものとなっていることが予想される。本発明者らの知見によれば、エマルジョン粒子径が大きすぎると、水性顔料分散体ないし水性インクの様な水性記録液の貯蔵安定性が劣ったものとなるという欠点があった。
【0007】
【特許文献1】
特開平8−302264号公報(第4〜6頁)
【特許文献2】
特開2000−1639号公報(第2頁及び第5頁)
【特許文献3】
特開平10−60353号公報(第2〜3頁及び第9頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐光性と耐擦過性とを兼備する着色皮膜が得られ貯蔵安定性にも優れた水性顔料分散体及び水性顔料記録液を得ることを課題とする。
【0009】
【発明を解決しようとする手段】
即ち本発明は、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とを含む水性顔料分散体において、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とが、顔料がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル系樹脂で被覆された複合粒子として含まれており、樹脂成分として(メタ)アクリル酸エステル樹脂が不揮発分でより多く含まれており、かつポリウレタン樹脂が、有機ジイソシアネートとジオールと必要に応じて二官能鎖伸長剤のみを反応させた線状の熱可塑性ポリウレタン樹脂であり、平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂であることを特徴とする水性顔料分散体及びこの水性顔料分散体を用い、質量換算による分散粒子含有率1〜8%に調製した水性顔料記録液を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の水性顔料分散体は、顔料、水性媒体、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂を含有する。ここで水性媒体とは、水のみまたは水と水溶性有機溶剤との混合物で、質量換算で60%以上の水を含んでいるものを言う。また(メタ)アクリル酸エステル樹脂とは、アクリル酸エステル及び/又はメタアクリル酸エステルを必須成分として重合させた樹脂を言う。
【0011】
本発明の最大の特徴は、(メタ)アクリル酸エステル樹脂の方がポリウレタン樹脂よりも質量換算の不揮発分が水性顔料分散体に多く含まれていることと、そのポリウレタン樹脂は、平均分散粒子径1〜45nmであることである。
【0012】
本発明の水性顔料分散体の調製に用いる顔料は、有機顔料或いは無機顔料であり、公知慣用のものがいずれも挙げられる。
【0013】
本発明で使用されるポリウレタン樹脂は、それ自体が、水性媒体への分散性を有する平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂である。
【0014】
本発明におけるポリウレタン樹脂は、一分子中にウレタン結合2以上を必須として含んだものである。このポリウレタン樹脂には、ウレタン結合だけでなく更に尿素結合を含んだポリウレタンポリ尿素樹脂等もふくまれる。
【0015】
この様なポリウレタン樹脂は、例えば有機ジイソシアネートとジオールとを必須成分として反応させることにより得ることが出来る。このジオールとしては、分子量800未満の低分子ジオールと、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオール等の分子量800以上の高分子ジオールがある。なかでも本発明においては、ポリウレタン樹脂を構成する、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位を形成するための原料成分として、密着性・耐久性の良好なポリエステルジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリカーボネートジオールを用いることが好ましい。
【0016】
この様なポリウレタン樹脂は、例えば、低分子ジオールとジカルボン酸とを反応させて得た高分子ジオールと有機ジイソシアネートとをイソシアネート基が過剰となる様に反応させて得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、第1級及び/又は第2級アミノ基を有するジアミン化合物、または前記アミノ基と水酸基、前記アミノ基とその他の活性水素官能基などのイソシアナート基と反応しうる二官能性化合物(鎖伸長剤)とを、水及び/又は有機溶媒中で鎖伸長反応させて得ることが出来る。
【0017】
本発明においては、水性媒体中にポリウレタン樹脂を安定的に分散させるために、その構造中にアニオン性基を含ませることが好ましい。分子内にアニオン性基を有するポリウレタン樹脂は、前記製造方法においてアニオン性基を含有する、ポリエステルジオールや鎖伸長剤を用いることで得ることが出来る。アニオン性基含有ポリエステルジオールとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、チオカルボキシル基またはそれらの塩を官能基として含有するポリエステルジオールが挙げられる。
【0018】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2′−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、1,4−ナフチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、2−ニトロジフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジフェニルプロパン−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルプロパンジイソシアネート、3,3′−ジメトキシジフェニル−4,4′−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、3−メチル−1,5−ペンタンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、水素添加テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートや、これらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0019】
上記の有機ジイソシアネートの中では、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネート系ポリウレタン樹脂を形成するために耐光性に優れ皮膜の着色が少ない点で、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートの様な、脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートが特に好ましい。
【0020】
ポリエステルポリオールは、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族二塩基酸、コハク酸、酒石酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、クルタコン酸、アゼライン酸、セバシン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の脂肪族二塩基酸、1,4−シクロヘキシルジカルボン酸、α−ハイドロムコン酸、β−ハイドロムコン酸、α−ブチル−α−エチルグルタル酸、α,β−ジエチルサクシン酸、マレイン酸、フマル酸等のカチオン性基を有さないジカルボン酸類、5−スルホ−イソフタル酸等の−SOH 含有ジカルボン酸類や、これらのアンモニア、有機アミン、アルカリ金属、アルカリ土類金属との各種塩類、これらの酸無水物、酸ハライド、ジアルキルエステル等や、これらの酸無水物、酸ハライド、ジアルキルエステル等の1種類以上と、後述の低分子ジオールとの反応よって得ることが出来る。
【0021】
更に、後述の低分子ジオールを開始剤として、ε−カプロラクトン、アルキル置換ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、アルキル置換δ−バレロラクトン等の環状エステル(いわゆるラクトン)モノマーを開環重合させて得られるラクトン系ポリエステルジオール等が挙げられる。
【0022】
ポリエステルジオールとしては、前記した二塩基酸と後記する低分子ジオールとを必須成分として縮合させた構造の直鎖ポリエステル単位を有するものが好ましく、中でも主鎖に芳香環を有する直鎖ポリエステル単位を有するものがより好ましい。このポリエステル中の芳香環の濃度は高い程好ましい。
【0023】
ポリエステルエーテルジオールとしては、例えば前記した直鎖ポリエステル単位を主体としてその他にポリエーテル単位を含むものが挙げられる。前記同様、主鎖に芳香環を有するものがより好ましい。このポリエステルエーテルジオール中の芳香環の濃度も高い程好ましい。
【0024】
ポリカーボネートジオールとしては、例えば直鎖カーボネート単位を含むものが挙げられる。前記同様、主鎖に芳香環を有するものがより好ましい。このポリカーボネートジオール中の芳香環の濃度も高い程好ましい。
【0025】
低分子ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、デカメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−n−ヘキサデカン−1,2−エチレングリコール、2−n−エイコサン−1,2−エチレングリコール、2−n−オクタコサン−1,2−エチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル−3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオネート、ダイマー酸ジオール、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物、水素添加ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0026】
ポリウレタン樹脂に水分散性を付与するためポリエステルジオールにアニオン性基を導入する原料としては、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸等の−COOH含有低分子ジオール類、−COOH含有低分子ジオール類とアンモニア、有機アミン、アルカリ金属、アルカリ土類金属との塩、2−スルホ−1,3−プロパンジオール、2−スルホ−1,4−ブタンジオール等の−SOH含有低分子ジオール類、−SOH含有低分子ジオール類とアンモニア、有機アミン、アルカリ金属、アルカリ土類金属との各種塩等が挙げられ、また、これらの2種類以上の混合物が挙げられる。これらは鎖伸長剤としても使用できる。
【0027】
鎖伸長剤として使用できるジアミン化合物としては、例えば、アンモニア、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、トリレンジアミン等の脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミンや、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン等のジアルカノールアミンが挙げられる。
【0028】
尚、前記高分子ジオールやポリウレタン樹脂を製造する際には、それらが、アニオン性基のみを有する場合の技術的効果を損なわない限りにおいて、ポリオキシエチレンの様な非イオン性の親水性原子団を構造中に含ませても良い。また実質的に直鎖である場合の技術的効果を損なわない限りにおいて、前記した各種の原料に加えて、必要に応じて、活性水素原子が1つの有機化合物や活性水素原子が3つ以上の有機化合物を併用しても良い。
【0029】
本発明におけるポリウレタン樹脂としては、後記する(メタ)アクリル酸エステル樹脂と組み合わせた場合に、優れた耐擦過性を発揮できる点で、ポリウレタン樹脂が、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位とアニオン性基とを含むポリウレタン樹脂であることが密着性・耐久性の様な皮膜特性に優れる点で好ましく、なかでも、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位とアニオン性基とを含む脂肪族または脂環式ジイソシアネート系ポリウレタン樹脂であることが更に耐光性に優れ皮膜の着色が少ない点で特に好ましい。この特に好ましいポリウレタン樹脂としては、前記した直鎖芳香族ポリエステル単位、直鎖芳香族ポリエステルエーテル単位及び直鎖芳香族カーボネート単位からなる群から選ばれる、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位と、アニオン性基とを含み、有機ジイソシアネートとしては脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートを用いて得たポリウレタン樹脂が挙げられる。
【0030】
ポリウレタン樹脂中に含まれるアニオン性基を中和する中和剤(塩基性物質と呼ぶ場合もある)としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール等の有機アミン類、リチウム、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機アルカリ類等が挙げられる。
【0031】
本発明におけるポリウレタン樹脂としては、有機ジイソシアネートとジオールと必要に応じて二官能鎖伸長剤のみを反応させた線状の熱可塑性ポリウレタン樹脂であることが、その皮膜特性に優れ取扱いが容易な点でも好ましい。
【0032】
本発明で用いる前記した特定平均分散粒子径のポリウレタン樹脂は、例えば、ポリウレタン樹脂の分子量、アニオン性基の含有量及びそれらの中和率を調節することにより調製出来る。本発明におけるこの平均分散粒子径は、動的光散乱法(ドップラー散乱光解析)によるもので、レーザードップラー型粒度分析計にて測定したメディアン径をもって表す。本発明では、市販されている平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂水性分散体がいずれも使用できるが、より好ましくは1〜30nm、更に好ましくは1〜20nmであるものを用いる。
【0033】
本発明に好適に用いられる、前記特定の平均分散粒子径を有する、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位とアニオン性基とを含む脂肪族または脂環式ジイソシアネート系の線状ポリウレタン樹脂としては、例えば、ハイドランAP−40F(大日本インキ化学工業(株)製)、スーパーフレックス460、同460S、同126(第一工業製薬(株)製)等のポリウレタン樹脂水性分散体が挙げられる。
【0034】
平均分散粒子径が前記した範囲より大きいポリウレタン樹脂では、例えば水性顔料分散液やインクジェット記録用水性インクの様な水性顔料記録液の保存安定性の低下が見られたり、樹脂の沈降安定性の点で劣るものになる。また、水性顔料分散体がインクジェット記録用インクの様な水性顔料記録液の調製に用いられる場合には、吐出安定性の観点からも前記した範囲であることが好ましい。
【0035】
本発明者らは、ポリウレタン樹脂を水性分散液として用いる場合には、前記特定平均分散粒子径範囲と等価の選択尺度として、ポリウレタン樹脂水性分散液が遠心分離前後対比での不揮発分の保持率が一定範囲内であることが好ましいことも知見している。この観点から、ポリウレタン樹脂水性分散液としては、当該水性分散液を最大遠心力165000Gで遠心分離した後の上澄み液の質量換算の不揮発分が、遠心分離前の当該水性分散液の同不揮発分に対して40%以上(40〜100%)であるものを用いることが好ましい。
【0036】
遠心分離後の上澄み液の樹脂不揮発分と平均分散粒子径は、具体的には、ポリウレタン樹脂水性分散液30gを遠心チューブに計り入れ、この遠心チューブを遠心分離器(ベックマンコールター製)にセットし、40000rpm(最大遠心力165000G)で1時間遠心分離し、分離後の遠心チューブを静かに取り出し、上澄み部分6gをスポイトで抜き取り、これを用いて測定する。
【0037】
本発明においては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂が、前記ポリウレタン樹脂と併用される。(メタ)アクリル酸エステル樹脂とは、アクリル酸エステルまたはメタアクリル酸エステルを必須成分として重合させたものを言う。本発明においては、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルとの両方を包含して(メタ)アクリル酸エステルと呼ぶものとする。本発明においては、水性媒体中に(メタ)アクリル酸エステル樹脂を安定的に分散させるために、その構造中にアニオン性基を含ませることが好ましい。
【0038】
この様なアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基、チオカルボキシル基等のアニオン性基を含有するエチレン性不飽和単量体の一種以上と、(メタ)アクリル酸エステルと、必要に応じてそれらと共重合し得るその他のエチレン性不飽和単量体とを共重合させた共重合体樹脂が挙げられる。
【0039】
原料モノマーの入手のしやすさ、価格等を考慮すると、カルボキシル基またはスルホン基を含有する共重合体樹脂が好ましく、電気的中性状態とアニオン状態の共存範囲を広く制御できる点でカルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル樹脂がさらに好ましい。最適な(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、アニオン性基がカルボキシル基およびカルボキル基の塩の両方を含有する(メタ)アクリル酸エステル樹脂である。
【0040】
カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、4−ビニル安息香酸等の不飽和カルボン酸類;コハク酸ビニル、マレイン酸アリル、テレフタル酸ビニル、トリメトリット酸アリル等の多塩基酸不飽和エステル類が挙げられる。またスルホン酸基を含有するモノマーの例としてはアクリル酸2−スルホエチル、メタクリル酸4−スルホフェニル等の不飽和カルボン酸スルホ置換アルキルまたはアリールエステル類:スルホコハク酸ビニル等のスルホカルボン酸不飽和エステル類;スチレン−4−スルホン酸等のスルホスチレン類を挙げることができる。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
【0042】
共重合し得るその他のエチレン性不飽和単量体としては、例えば、マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、等の不飽和脂肪酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド等の不飽和脂肪酸アミド類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の不飽和エーテル類;スチレン、α―メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−クロロスチレン、等スチレン類;エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテン、ビニルシクロヘキサン、4−ビニルシクロヘキセン、等の不飽和炭化水素類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、3−クロロプロピレン、等の不飽和ハロゲン化炭化水素類;4−ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルピロリドン、等のビニル置換複素環化合物類;上記例示単量体中のカルボキシル基、水酸基、アミノ基、等活性水素を有する置換基を含有する単量体とエチレンオキシド、プロピレンオキシド、シクロヘキセンオキシド等、エポキシド類との反応生成物;上記例示単量体中の水酸基、アミノ基等を有する置換基を含有する単量体と酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、デカン酸、ドデカン酸等のカルボン酸類との反応生成物等を挙げることができる。
【0043】
前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、ポリウレタン樹脂との併用による着色画像の濃度と耐擦過性においてより高い効果が得られる点で、スチレンを重合単位として含有する様なスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂を選択するのが好ましい。中でもスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂は、前記好適な芳香族ポリエステル系ポリウレタン樹脂と組み合わせて用いることが好ましい。
【0044】
本発明において、カルボキシル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、例えば、架橋部分を有していてもいなくとも良い。架橋部分を有する前記樹脂は、前記した様な単量体に、例えば(メタ)アクリル酸2,3−エポキシプロピルの様なグリシジル基含有のエチレン性不飽和単量体を併用して共重合させ架橋性を有する樹脂となしてから、水性顔料分散体を製造する任意の工程において、必要に応じて硬化促進剤を併用して架橋させることで得ることが出来る。
【0045】
本発明に用いられる(メタ)アクリル酸エステル樹脂の重量平均分子量は、分散体の粘度が低く、分散安定性も良好で、インクジェット記録用インクに適用した場合に長期間安定した印字を行わせることが容易な点で、2,000〜100,000の範囲にあることが好ましく、5,000〜50,000の範囲にあることが特に好ましい。
【0046】
また本発明に用いられる(メタ)アクリル酸エステル樹脂の酸価およびガラス転移点はそれぞれ30〜220mgKOH/gおよび−20〜100℃の範囲、中でも80〜220mgKOH/gおよび0〜90℃にあることが、分散体の分散性や分散安定性が良好で、またインクジェット記録用インクに適用した場合の印字安定性が良く、画像の耐水性も良好な上、耐摩擦性、耐棒積み性等の画像保存性も良好となるので好ましい。
【0047】
本発明の水性顔料分散体中における(メタ)アクリル酸エステル樹脂は、アニオン性基の少なくとも一部が塩基性物質によってイオン化された形態をとっていることが分散性、分散安定性の発現のうえで好ましい。アニオン性基のうちイオン化された基の最適割合は、通常30〜100%、特に40〜60%の範囲に設定されることが好ましい。このイオン化された基の割合はアニオン性基と塩基性物質のモル比を意味しているのではなく、解離平衡を考慮に入れたものである。例えばアニオン性基がカルボキシル基の場合、化学量論的に当量の強塩基性物質を用いても解離平衡によりイオン化された基(カルボキシラート基)の割合は100%未満であって、カルボキシラート基とカルボキシル基の混在状態である。
【0048】
このように、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、アニオン性基の少なくとも一部をイオン化するために用いられる中和剤(塩基性物質)としては、公知慣用のものが挙げられる。前記ポリウレタン樹脂の中和剤として例示したものがいずれも挙げられる。
【0049】
本発明における(メタ)アクリル酸エステル樹脂としては、組み合わせるポリウレタン樹脂よりも大きな平均分散粒子径のものを選択することがより好ましい。この平均分散粒子径はポリウレタン樹脂のところで前記した方法と同様にして測定できる。
【0050】
本発明において顔料と、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂の合計との割合は特に制限されるものではないが、質量換算で顔料100部に対して、通常はこれら樹脂の合計が10〜100部、好ましくは20〜60部とするのが好ましい。
【0051】
本発明の水性顔料分散体においては、相対的に、前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂をポリウレタン樹脂より多く含ませることで、着色皮膜の耐光性を優れたものとしている。質量換算におけるポリウレタン樹脂の使用量が、不揮発分で前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂100部に対して10〜50部であると、着色皮膜の耐光性と耐擦過性がいずれも優れたものとなる点で、特に好ましい。
【0052】
組成不明の水性顔料分散体にポリウレタン樹脂が含まれているか否か、また含まれているとしたら、どの程度の平均分散粒子径を有しているかは、例えば水性顔料分散体の総不揮発分、顔料分及び水性顔料分散体を遠心分離した沈降物と上澄み液等の組成を調べることで確認することが出来る。顔料は有機溶剤に不溶であるから、樹脂成分との分離は容易である。
【0053】
ポリウレタン樹脂の存否は、例えば、水性顔料分散体の前記した条件での遠心分離後の上澄み液の不揮発分について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等で異なるリテンションタイムの各成分を分取し、その各成分について赤外線吸収スペクトル(IR)を測定し、ウレタン結合に固有の吸収波長におけるピークの有無で確認できる。
【0054】
また本発明者らの知見によると、分散粒子の平均分散粒子径の絶対値に応じて、調製された水性顔料分散体を165000Gで遠心分離した時のポリウレタン樹脂不揮発分総量の沈降物と上澄み液への分配率は定まるから、検量線を予め作成しておき、沈降物と上澄み液中のポリウレタン樹脂成分の各比率を求めることで、ポリウレタン樹脂と(メタ)アクリル酸エステル樹脂の両方を含んだ水性顔料分散体中におけるポリウレタン樹脂の平均分散粒子径を特定することが出来る。
【0055】
ちなみに、本発明において最適なポリウレタン樹脂水性分散液である、平均分散粒子径8nmのポリウレタン樹脂水性分散液を用いて、本発明の水性顔料分散体を調製した場合、その水性顔料分散体を165000Gで遠心分離すると、元のポリウレタン樹脂水性分散液の不揮発分の79%が上澄み液に分配されることがわかっている。さらに、平均分散粒子径56nmのポリウレタン樹脂水性分散液を用いて、本発明の水性顔料分散体を調製した場合、その水性顔料分散体を165000Gで遠心分離すると、元のポリウレタン樹脂水性分散液の不揮発分は全て沈降物に分配されることもわかっている。
【0056】
予め前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂の水性顔料分散体とポリウレタン樹脂の水性顔料分散体を調製しておけば、本発明における水性顔料分散体は、これらと顔料粒子とを均一に混合分散することで例えば調製することが出来る。
【0057】
本発明の水性顔料分散体における、そこに含まれる前記分散粒子は、顔料粒子と前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子とポリウレタン樹脂粒子とが各々独立した粒子であっても良いが、顔料が前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子との混合物であることが好ましい。また、複合粒子を含む水性顔料分散体においても、顔料が前記ポリウレタン樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子との混合物であるよりも、顔料が前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子との混合物であるほうが、顔料分散性と耐擦過性の効果を存分に発揮させることが出来る点で好ましい。
【0058】
本発明における水性顔料分散体では、水性媒体に分散している粒子(分散粒子)が、平均分散粒子径が50〜200nmとなる様に水性媒体中に分散していることが好ましい。本発明における最適な水性顔料分散体である、分散粒子が、顔料が前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子と、ポリウレタン樹脂粒子とからなる混合物の場合、前者複合粒子単独における平均分散粒子径がポリウレタン樹脂粒子単独のそれよりも大きくなる様にすることが、優れた耐擦過性を発現させる上で好ましい。
【0059】
本発明においてポリウレタン樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子または複合粒子中の(メタ)アクリル酸エステル樹脂と化学的に結合していない方が、着色皮膜の耐擦過性がより良好となるので好ましい。
【0060】
本発明で用いる(メタ)アクリル酸エステル樹脂粒子または前記複合粒子を含む水性顔料分散体は、例えば下記する様な1)〜4)の方法で製造することが出来る。
1)上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂の水性分散体に、顔料を機械的に強制分散する水性顔料分散体の製造方法。
2)顔料の存在下の水中で分散剤を用いて上記した各単量体を重合させ必要に応じて会合させる水性顔料分散体の製造方法。
3)顔料と上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂と有機溶剤の混合物を、水と塩基性物質を用いて徐徐に油相から水相に転相させてから脱溶剤して、顔料が上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子とする、同複合粒子を含む水性顔料分散体の製造方法。
4)顔料と上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂と塩基性物質と有機溶剤と水との均一混合物から脱溶剤を行い、酸を加えて酸析し析出物を洗浄後、この析出物を塩基性物質と共に水性媒体に分散させる、顔料が上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子とする、同複合粒子を含む水性顔料分散体の製造方法。
【0061】
本発明における水性顔料分散液の製造方法では、上記いずれの製造方法をとるにせよ、顔料、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、塩基性物質および水からなる混合物を分散する工程を必須として含ませることが好ましい。この混合物には水溶性有機溶剤を含めるのが好ましい。より具体的には、少なくとも顔料、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、塩基性物質、水溶性有機溶剤および水からなる混合物を分散する工程(分散工程)を含ませることが好ましい。
【0062】
また、分散工程において水溶性有機溶剤を併用することができ、それにより分散工程における液粘度を低下させることができる場合がある。水溶性有機溶剤の例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトンおよび炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。これらの水溶性有機溶剤は(メタ)アクリル酸エステル樹脂溶液として用いられても良く、別途独立に分散混合物中に加えられても良い。
【0063】
分散工程において用いることのできる分散装置として、既に公知の種々の方式による装置が使用でき、特に限定されるものではないが、例えば、スチール、ステンレス、ジルコニア、アルミナ、窒化ケイ素、ガラス等でできた直径0.1〜10mm程度の球状分散媒体の運動エネルギーを利用する方式、機械的攪拌による剪断力を利用する方式、高速で供給された被分散物流束の圧力変化、流路変化あるいは衝突に伴って発生する力を利用する方式、等の分散方式を採ることができる。
【0064】
本発明の水性分散体としては、分散到達レベル、分散所要時間および分散安定性の全ての面で、より優れた特性を発揮させるに当たっては、顔料が前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子(即ち前記したマイクロカプセル型複合粒子)という形態で水性媒体中に分散していることが好ましい。
【0065】
このような状態を形成するため、顔料が前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を含有する液媒体中に分散している状態において、前記の分散工程の後工程として、溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル樹脂で顔料表面を被覆する工程を組み込むことが好ましい。
【0066】
溶解状態にある前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を顔料表面に被覆させる工程としては、塩基性物質の水溶液に溶解している前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を、溶液を酸性化することにより析出させる工程(酸析工程)が好ましい。
【0067】
蒸留工程の例には、分散工程において有機溶剤を使用した場合に、これを除去する工程、所望の固形分濃度にするため余剰の水を除去する工程等がある。
【0068】
酸析工程の例には、分散工程で得られた水性分散体に塩酸、硫酸、酢酸等の酸を加えて酸性化し、塩基と塩を形成することによって溶解状態にある(メタ)アクリル酸エステル樹脂を顔料粒子表面に析出させる工程等がある。この工程により、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂との相互作用を高めることができる。その結果、前記した様なマイクロカプセル型複合粒子が水性分散媒中に分散している形態を取らせることができ、水性分散体として、分散到達レベルや分散安定性等の物性面や耐溶剤性等の使用適性の面で、より優れた特性を発揮させることができる。
【0069】
濾過工程の例には、前述した酸析工程後の固形分をフィルタープレス、ヌッチェ式濾過装置、加圧濾過装置等により濾過する工程等がある。再分散工程の例には、酸析工程、濾過工程によって得られた固形分に塩基性物質および必要により水や添加物を加えて再び分散液とする工程がある。それにより前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂中のイオン化したアニオン性基の対イオンを分散工程で用いたものから変更することができる。
【0070】
本発明においては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とが化学的に結合していないことが好ましいことを前記したが、さらに両者は物理的にも密着していないことがより好ましい。その意味で、前記(メタ)アクリル酸エステル樹脂を溶解する工程を前記ポリウレタン樹脂が存在しない状態で行い、前記した酸析工程以降に、前記特定の平均分散粒子径のポリウレタン樹脂を、顔料がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子を含む水性顔料分散体に加える様にする方法が最適である。こうすることで、複合粒子の周囲がより小さいポリウレタン樹脂粒子で包囲された着色樹脂皮膜となり、着色皮膜の耐光性を保ったまま最も効果的に耐擦過性を向上させることが出来る。
【0071】
顔料粒子及びアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂の粒子の混合物、または顔料がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆された粒子である複合粒子を含む水性顔料分散体に、前記ポリウレタン樹脂を添加し、均一に攪拌混合することで、本発明の水性顔料分散体を得ることができる。均一に攪拌するために既に公知の前記した種々の方式による装置が使用できる。
【0072】
前記ポリウレタン樹脂と顔料との割合は特に制限されるものではないが、前記ポリウレタン樹脂の不揮発分の質量換算で顔料100部に対し1〜30部の範囲から選択できる。水性顔料分散体の粘度は、インクジェット記録用水性インクとしては極力低いことが吐出特性を保つためには望まれるため、前記ポリウレタン樹脂を不揮発分の質量換算で顔料100部に対し1〜10部とすることがより好ましい。
【0073】
本発明で用いる前記ポリウレタン樹脂は、前記平均分散粒子径を有していれば、その形態は問わず、水に分散しているもの(水分散液)が望ましいが、場合により、水に分散させた場合に前記した平均分散粒子径となる様に水可溶性の有機溶剤にポリウレタン樹脂を溶解または分散しているものであっても良い。その場合は、この有機溶剤を除く工程が別途必要となる。水性顔料記録液に使用される水溶性有機溶剤に前記ポリウレタン樹脂を溶解または分散させることも可能である。この場合は、別途の溶剤除去工程は必要ない。
【0074】
水性顔料記録液に使用される水溶性有機溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、または、このアルコール類のアルキルエーテル、アリールエーテル、エステル、または、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、ピロリドン、2−メチルピロリドン、などの水溶性のある非プロトン性有機溶剤が使用可能である。これら水性顔料記録液に使用する有機溶剤の選定は、ヘッド方式に応じて行われ、添加量も限られるため、前記ポリウレタン樹脂の有機溶剤として使用することは可能ではあるが、水を溶媒、または分散媒として使用することが望ましい。
【0075】
こうして得られた本発明の水性顔料分散体は、例えば、水性インク、水性塗料等の各種着色用途において、被記録媒体上で、着色濃度が高く、耐擦過性に優れた着色皮膜を得ることが出来る。
【0076】
本発明の水性顔料分散体は、質量換算による分散粒子含有率1〜8%となる様に調製し水性顔料記録液とする。この際には、上記したより濃厚な水性顔料分散体に対して必要に応じて水や水溶性有機溶剤加えて必要な分散粒子含有率となる様に希釈したり、湿潤剤及び防かび剤等の水性インクの調製に必要な各種添加剤を併用することが出来る。また得られた水性顔料記録液は、必要に応じてミクロフィルターにより濾過をすることにより、インクジェット記録用に適したノズル目詰まり等の極めて少ない水性顔料記録液とすることが出来る。
【0077】
本発明の水性顔料分散体や水性顔料記録液の被記録媒体としては、例えば普通紙、樹脂コート紙、合成樹脂フィルム等の公知慣用の被記録媒体が挙げられる。中でも、本発明の水性顔料分散体や水性顔料記録液は、表面処理がなされた被記録媒体であって、かつインクが着弾した際にそのインク液滴がその表面処理層を膨潤させることで着色画像が定着される機構を有する様な膨潤型被記録媒体の記録用に供することが好ましい。
【0078】
また、インクジェット記録用水性インクの様な水性顔料記録液の場合は、その組成を吐出方式に応じて適宜調製することにより、ピエゾ方式でもサーマル方式でもいずれの方式にも対応できる水性顔料記録液を得ることが出来る。
【0079】
以下、実施例にて本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明を具体的に説明するものであり、実施の態様がこれにより限定されるものではない。
【0080】
【実施例】
次に本発明を合成例、実施例、比較例を示して具体的に説明する。以下、断りのない限り、%は質量%、部は質量部を意味する。
【0081】
[合成例1](アニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にメチルエチルケトン1,100部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ブチル500部、アクリル酸n−ブチル25部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル75部、メタクリル酸200部、スチレン200部、および「パーブチル O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)80部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価130、平均分子量23,000及びガラス転移温度53℃のアニオン性基含有有機高分子化合物の溶液を得た。
【0082】
[合成例2](アニオン性基含有有機高分子化合物の合成)
攪拌装置、滴下装置、温度センサー、および上部に窒素導入装置を有する環流装置を取り付けた反応容器を有する自動重合反応装置(重合試験機DSL−2AS型、轟産業(株)製)の反応容器にメチルエチルケトン1,100部を仕込み、攪拌しながら反応容器内を窒素置換した。反応容器内を窒素雰囲気に保ちながら80℃に昇温させた後、滴下装置よりメタクリル酸ブチル549部、アクリル酸n−ブチル38部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル75部、メタクリル酸138部、スチレン200部、および「パーブチル O」(有効成分ペルオキシ2−エチルヘキサン酸t−ブチル、日本油脂(株)製)80部の混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で15時間反応を継続させて、酸価90、平均分子量18,700及びガラス転移温度45℃のアニオン性基含有有機高分子化合物の溶液を得た。
【0083】
[実施例1]
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、合成例1で得た樹脂、20%水酸化ナトリウム水溶液、水およびFastogen Super Magenta RTS(大日本インキ化学工業(株)社製キナクリドン系顔料)を仕込み、攪拌、混合した。ここでそれぞれの仕込量は、キナクリドン系顔料が1,000部、樹脂はキナクリドン系顔料に対して不揮発分で20質量%の比率となる量、20%水酸化ナトリウム水溶液はアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が90%中和される量、水は混合液の不揮発分を30%とするのに必要な量である。
【0084】
混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填した分散装置(SCミル SC100/32型、三井鉱山(株)製)に通し、循環方式により6時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。希釈分散液をガラス製蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を常圧蒸留で除いた。
【0085】
メチルエチルケトンの除かれた分散液を冷却し、その後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が50%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、分散攪拌機(TKホモディスパ20型、特殊機化工業(株)製)にて再度分散した。
【0086】
この分散液に、ハイドランAP−40F(大日本インキ化学工業(株)製。平均分散粒子径8nm。主鎖に直鎖芳香族ポリエステル単位とアニオン性基とを含み、有機ジイソシアネートとしては脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネートを用いて得たポリウレタン樹脂の水分散体。不揮発分23%)を分散液中の顔料に対して樹脂分で6質量%となる量添加し、更に分散攪拌機で30分間攪拌したのち、純水を加えて不揮発分23%に調整した。この分散液を、遠心分離機(50A−IV型、(株)佐久間製作所)にて6000G、30分間かけて粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、不揮発分20%の水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0087】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは7.91、粒度分析計(マイクロトラック UPA150型、日機装(株)社製)で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は 138 nmであった。R型粘度計(モデル R−L、東機産業(株)製)で測定した粘度は5.54 mPa/sであった。
【0088】
[比較例1]
ハイドランAP−40Fを用いない以外は実施例1と同様の操作を行った。具体的には次の様にした。
まず実施例1と全く同条件の組成でSCミル SC100/32型で6時間分散した。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。希釈分散液をガラス製蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を常圧蒸留で除いた。
【0089】
メチルエチルケトンの除かれた分散液を冷却し、その後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が50%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、TKホモディスパ20型にて再度分散した。
【0090】
得られた分散液に、ハイドランAP−40Fでなく純水を加えて不揮発分23%に調整し、遠心分離機50A−IV型にて6000G、30分間かけて粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、不揮発分20%の水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0091】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは8.11、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は130nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は5.24mPa/sであった。
【0092】
[実施例2]
ハイドランAP−40Fの添加量を分散液中の顔料に対して樹脂分で3質量%とした以外は実施例1と同じ操作で水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0093】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは7.99、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は147nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は5.54mPa/sであった。
【0094】
[実施例3]
ハイドランAP−40Fの添加量を分散液中の顔料に対して樹脂分で2質量%とした以外は実施例1と同じ操作で水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0095】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは8.01、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は146nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は5.50 mPa/sであった。
【0096】
[実施例4]
ハイドランAP−40Fの添加量を分散液中の顔料に対して樹脂分で1質量%とした以外は実施例1と同じ操作で水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0097】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは8.00、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は 137 nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は5.50 mPa/sであった。
【0098】
[実施例5]
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、合成例2で得た樹脂、20%水酸化ナトリウム水溶液、水およびFastogen Blue TGR(大日本インキ化学工業(株)製銅フタロシアニン系顔料)を仕込み、攪拌、混合した。ここでそれぞれの仕込量は、銅フタロシアニン系顔料が1,000部、樹脂は顔料に対して不揮発分で30質量%の比率となる量、20%水酸化ナトリウム水溶液はアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が90%中和される量、水は混合液の不揮発分を30%とするのに必要な量である。
【0099】
混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したSCミル SC100/32型に通し、循環方式により4時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。希釈分散液をガラス製蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を常圧蒸留で除いた。
【0100】
メチルエチルケトンの除かれた分散液を冷却し、その後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が85%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、TKホモディスパ20型にて再度分散した。
【0101】
この分散液に、ハイドランAP−40Fを分散液中の顔料に対して樹脂分で6質量%となる量添加し、更に分散攪拌機で30分間攪拌したのち、純水を加えて不揮発分23%に調整した。この分散液を、遠心分離機50A−IV型にて6000G、30分間かけて粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、不揮発分20%の水性ブルー顔料分散体を得た。
【0102】
得られた水性ブルー顔料分散体のpHは9.66、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は158nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は 3.82mPa/sであった。
【0103】
[実施例6]
ハイドランAP−40Fの添加量を分散液中の顔料に対して樹脂分で10質量%とした以外は実施例5と同じ操作で水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0104】
得られた水性ブルー顔料分散体のpH9.57は、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は169nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は3.98mPa/sであった
【0105】
[比較例2]
ハイドランAP−40Fを用いない以外は実施例5と同様の操作を行った。具体的には次の様にした。
まず、実施例5と全く同条件の組成でSCミル SC100/32型で4時間分散した。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。希釈分散液をガラス製蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を常圧蒸留で除いた。
【0106】
メチルエチルケトンの除かれた分散液を冷却し、その後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が85%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、TKホモディスパ20型にて再度分散した。
【0107】
得られた分散液に、ハイドランAP−40Fでなく純水を加えて不揮発分23%に調整し、遠心分離機50A−IV型にて6000G、30分間かけて粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、不揮発分20%の水性ブルー顔料分散体を得た。
得られた水性ブルー顔料分散体のpHは9.85、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は153nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は 4.02mPa/sであった。
【0108】
[実施例7](印字物の耐擦過性および光沢評価)
各実施例および各比較例で得られた水性顔料分散体から、サーマル方式インクジェット記録用水性インクを調整した。インク組成を以下に示す。
水性顔料分散体 顔料分換算で5%となる量
グリセリン インク全体の10%相当量
ジエチレングリコール 〃 10% 〃
エマルゲン147(花王(株)製) 〃 3% 〃
水 残量(全体で100%となる様加える)
このようにして調製したインクを、サーマル方式のインクジェットプリンタ(BJ F600型、キヤノン(株)製)にて、フォト光沢フィルム(HG−201、キヤノン製)およびPM/MC写真用紙<半光沢>(セイコーエプソン(株)製)にベタ印字した。この印字物を印字後から一定時間毎に指で擦って色のにじみ方を耐擦過性として評価した。尚、前記フィルムは膨潤型被記録媒体である。
【0109】
光沢は上述のインクをPM/MC写真用紙<半光沢>(セイコーエプソン(株)製)にベタ印字したものを、ヘイズグロスメーター(BYK Gardner社製)を使用し測定角度60度で測定した。
【0110】
【表1】
表 1
Figure 0004389438
【0111】
表中の耐擦過性の評価区分は次の通りである。
A:滲み無し、B:滲み無し、指に色が付く、C:うっすらと滲む
D:滲む、E:激しく滲む
【0112】
この表1からわかる通り、従来のポリウレタン樹脂未添加のインクは印字から長時間経過しないと耐擦過性が向上しないばかりでなく、同一経過時間の対比でその耐擦過性の絶対値レベルも低い。これに対して、本発明の水性顔料分散体を用いたインクでは、ポリウレタン樹脂の添加量に応じて耐擦過性が改善されることがわかる。また、顔料としてフタロシアニン顔料を使用した場合にはポリウレタン樹脂未添加の場合よりも光沢が良好となる傾向が顕著になっている。
【0113】
[実施例8]
冷却用ジャケットを備えた混合槽に、合成例1で得た樹脂、20%水酸化ナトリウム水溶液、水およびFastogen Super Magenta RTSを仕込み、攪拌、混合した。ここでそれぞれの仕込量は、キナクリドン系顔料が1,000部、樹脂はキナクリドン系顔料に対して不揮発分で20質量%の比率となる量、20%水酸化ナトリウム水溶液はアニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が100%中和される量、水は混合液の不揮発分を30%とするのに必要な量である。
【0114】
混合液を直径0.3mmのジルコニアビーズを充填したSCミル SC100/32型に通し、循環方式により6時間分散した。分散装置の回転数は2700回転/分とし、冷却用ジャケットには冷水を通して分散液温度が40℃以下に保たれるようにした。
分散終了後、混合槽より分散原液を抜き採り、次いで水10,000部で混合槽および分散装置流路を洗浄し、分散原液と合わせて希釈分散液を得た。希釈分散液をガラス製蒸留装置に入れ、メチルエチルケトンの全量と水の一部を常圧蒸留で除いた。
【0115】
メチルエチルケトンの除かれた分散液を冷却し、その後、攪拌しながら10%塩酸を滴下してpH4.5に調整したのち、固形分をヌッチェ式濾過装置で濾過、水洗した。ケーキを容器に採り、アニオン性基含有有機高分子化合物の酸価が85%中和される量の20%水酸化カリウム水溶液と水を加え、TKホモディスパ20型にて再度分散した。
【0116】
この分散液に、ハイドランAP−40Fを分散液中の顔料に対して樹脂分で6質量%となる量添加し、更に分散攪拌機で30分間攪拌したのち、純水を加えて不揮発分23%に調整した。この分散液を、遠心分離機50A−IV型にて6000G、30分間かけて粗大粒子を除去したのち、純水を加えて不揮発分を調整し、不揮発分20%の水性マゼンタ顔料分散体を得た。
【0117】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは9.20、マイクロトラック UPA150型で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は110.6nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は6.68mPa/sであった。
【0118】
[比較例3]
ハイドランAP−40Fに代えて、ハイドランAP−20〔大日本インキ化学工業(株)製ポリエステル系ポリウレタン樹脂水性分散液。平均分散粒子径(メディアン径)56nm。不揮発分30%〕を不揮発分で同量となるように用いた以外は、実施例8と同様の操作を行って水性顔料分散体を得た。
【0119】
得られた水性マゼンタ顔料分散体のpHは9.23、マイクロトラック UPA150で測定した平均分散粒子径(メディアン径)は97.0nmであった。R型粘度計モデル R−Lで測定した粘度は6.74mPa/sであった。
【0120】
(ポリエステル系ポリウレタン樹脂を添加した分散液を使ったインクの貯蔵安定性)
実施例8、比較例3で得られた分散液を使用し、特開平2002−20673号公報の実施例1(3)インクジェット記録用インクの調製に従いインクジェット記録用水性インクを作成した。このインクで貯蔵安定性評価の試験を行った。試験は、インクを70℃で3日間加熱し、その前後で平均分散粒子径及び粘度を測定し、それらの各変化率を求めた(表2中のポリウレタン平均粒子径とは貯蔵安定性評価前の常態の平均分散粒子径を意味し、平均粒子径の表示は、平均分散粒子径を意味する。)。
【0121】
【表2】
表 2
Figure 0004389438
【0122】
表2からわかる通り、平均分散粒子径が本発明の特定範囲内のポリウレタン樹脂を使用して調製した実施例8の水性顔料分散体からのインクは、平均分散粒子径が本発明の特定範囲より大きいポリウレタン樹脂を使用して調製した比較例3の水性顔料分散体からのインクに比べて、貯蔵変化率が大きく貯蔵安定性が大きく劣っており、経時的に増粒したり増粘したりすることが確認された。
尚、実施例8の水性顔料分散体からのインクに用いた(メタ)アクリル酸エステル樹脂はその中のイオン化されたアニオン性基がアニオン性基全体の80〜90%となっており、貯蔵安定性は実施例1のそれよりやや劣るものの満足できるレベルにある。実施例8の水性顔料分散体からのインクの被記録媒体上の記録画像は、前記実施例1のそれより、やや優れた光沢と耐擦過性を有していた。
【0123】
【発明の効果】
本発明の水性顔料分散体は、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とを含む水性顔料分散体において、樹脂成分として(メタ)アクリル酸エステル樹脂が不揮発分でより多く含まれており、かつ含まれているポリウレタン樹脂が平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂であるので、この様な水性顔料分散体から調製した水性顔料記録液は、耐光性と優れた耐擦過性とを兼備する着色皮膜が得られ、貯蔵安定性にも優れるという格別顕著な効果を奏する。

Claims (9)

  1. 顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とを含む水性顔料分散体において、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とが、顔料がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル系樹脂で被覆された複合粒子として含まれており、樹脂成分として(メタ)アクリル酸エステル樹脂が不揮発分でより多く含まれており、かつポリウレタン樹脂が、有機ジイソシアネートとジオールと必要に応じて二官能鎖伸長剤のみを反応させた線状の熱可塑性ポリウレタン樹脂であり、平均分散粒子径1〜45nmのポリウレタン樹脂であることを特徴とする水性顔料分散体。
  2. 顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とポリウレタン樹脂とを含む水性顔料分散体において、顔料と(メタ)アクリル酸エステル樹脂とが、顔料がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル系樹脂で被覆された複合粒子として含まれており、樹脂成分として(メタ)アクリル酸エステル樹脂が不揮発分でより多く含まれており、かつポリウレタン樹脂として、最大遠心力165000Gで遠心分離した後の上澄み液の質量換算の不揮発分が、遠心分離前の同不揮発分に対して40%以上である、有機ジイソシアネートとジオールと必要に応じて二官能鎖伸長剤のみを反応させた線状の熱可塑性ポリウレタン樹脂からなるポリウレタン樹脂の水性分散液を含ませたことを特徴とする水性顔料分散体。
  3. ポリウレタン樹脂が、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位とアニオン性基とを含むポリウレタン樹脂である請求項1または2記載の水性顔料分散体。
  4. ポリウレタン樹脂が、主鎖に芳香環を含む直鎖芳香族単位とアニオン性基とを含む脂肪族ジイソシアネートまたは脂環式ジイソシアネート系ポリウレタン樹脂である請求項1または2記載の水性顔料分散体。
  5. 顔料がアニオン性基含有(メタ)アクリル酸エステル系樹脂で被覆された複合粒子が、顔料と上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂と塩基性物質と有機溶剤と水との均一混合物から脱溶剤を行い、酸を加えて酸析し析出物を洗浄後、この析出物を塩基性物質と共に水性媒体に分散させた、顔料が上記(メタ)アクリル酸エステル樹脂で被覆されたマイクロカプセル型複合粒子である請求項1、2、3または4のいずれか記載の水性顔料分散液。
  6. 質量換算によるポリウレタン樹脂不揮発分の使用量が、(メタ)アクリル酸エステル樹脂100部に対して、10〜50部である請求項1、2、3、4または5のいずれか記載の水性顔料分散体。
  7. (メタ)アクリル酸エステル樹脂が、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル系共重合体樹脂である請求項1、2、3、4、5または6のいずれか記載の水性顔料分散体。
  8. 請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか記載の水性顔料分散体を用い、質量換算による分散粒子含有率1〜8%に調製した水性顔料記録液。
  9. 請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか記載の水性顔料分散体を用い、質量換算による分散粒子含有率1〜8%に調製した、膨潤型被記録媒体用水性顔料記録液。
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