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JP4285124B2 - 最大路面摩擦力推定装置、及びブレーキトルク制御装置 - Google Patents

最大路面摩擦力推定装置、及びブレーキトルク制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両が走行している路面と同車両のタイヤとの間に発生している路面摩擦力の最大値である最大路面摩擦力を推定する最大路面摩擦力推定装置、及び、この最大路面摩擦力推定装置を利用したブレーキトルク制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、車両が走行する路面と同車両のタイヤとの間に発生する路面摩擦力(路面摩擦係数)は、タイヤ(車輪)のスリップ率(本明細書においては、「(車体速度−車輪速度)/車体速度」と定義する。)に応じて変化し、同スリップ率が路面等により決定される或る値(例えば、5〜30%の間の値)となるときに最大となる(即ち、最大路面摩擦力となる)ことが広く知られている。従って、ABS(アンチロックブレーキシステム)装置においては、車両の制動距離を最短とするため、タイヤのスリップ率を最大路面摩擦力が発揮され得る値に維持できるように同タイヤに働くブレーキトルク(従って、ブレーキ液圧)を制御することが好ましい。
【0003】
このため、例えば、下記特許文献1に開示されたABS装置は、タイヤに働く路面摩擦力と同タイヤに働くブレーキトルクとをセンサによりそれぞれ検出するとともに、同路面摩擦力から同ブレーキトルクを減じた値に応じた値であって同タイヤの角加速度と等価な差分パラメータを計算する。そして、この装置は、差分パラメータの値を監視することでタイヤのスリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値を増加しながら、或いは減少しながら通過したことを判定し、かかる判定結果に基づいてブレーキ液圧の加圧・減圧制御を交互に行うようになっている。換言すれば、タイヤのスリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値を含んだ所定の範囲内を変動するように同タイヤに働くブレーキトルクが制御される。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−115722号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記開示された装置においては、ブレーキ液圧の上記減圧制御の結果、タイヤのスリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値から一時的に比較的大きく下回り、従って、路面摩擦力が最大路面摩擦力から一時的に比較的大きく低下することで制動距離が長くなる場合がある。即ち、ブレーキ液圧の余分な減圧を大きく行ってしまう場合があるという問題がある。
【0006】
かかる問題は、路面摩擦力の最大値である最大路面摩擦力を正確に推定できれば解消され得る。即ち、最大路面摩擦力を正確に推定できればより緻密にブレーキ液圧の加圧・減圧制御が実行され得、その結果、上述したブレーキ液圧の余分な減圧を大きく行うことが回避され得る。従って、路面摩擦力の最大値である最大路面摩擦力を正確に推定することが望まれていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、車両が走行している路面の最大路面摩擦力を精度良く推定できる最大路面摩擦力推定装置を提供すること、並びに、この最大路面摩擦力推定装置を利用することでブレーキ液圧の余分な減圧を大きく行うことを回避できるブレーキトルク制御装置を提供することにある。
【0008】
【発明の概要】
本発明による最大路面摩擦力推定装置は、車両が走行している路面と同車両のタイヤとの間に発生している摩擦力を路面摩擦力として取得する路面摩擦力取得手段と、前記タイヤの角加速度に基づく角加速度対応値を取得する角加速度対応値取得手段と、前記角加速度対応値取得手段により取得された角加速度対応値が所定の基準値を超えたときにおいて前記路面摩擦力取得手段により取得されている路面摩擦力を推定最大路面摩擦力として設定する推定最大路面摩擦力設定手段とを備えている。
【0009】
ここにおいて、前記タイヤの角加速度に基づく角加速度対応値は、例えば、タイヤの角加速度そのものであっても、同タイヤの角加速度に同タイヤ(同タイヤが装着されたホイールも含む)の慣性モーメントを乗じた値(本明細書では、後述するように、「慣性トルク」と称呼する。)であってもよい。また、前記路面摩擦力取得手段は、例えば、タイヤに対応する車軸に装着された歪ゲージ等のセンサにより物理的に路面摩擦力を検出するものであっても、車両に働く車体前後方向の加速度の値と車体左右方向の加速度の値とに基づいて路面摩擦係数を推定し、同推定した路面摩擦係数とタイヤに働く路面に垂直な方向の荷重とから路面摩擦力を計算するものであってもよい。
【0010】
一般に、車両が走行する路面の路面摩擦力は、タイヤのスリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値より小さいとき同スリップ率の増加に伴って比較的急激に増加し、同スリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えると同スリップ率の増加に伴って比較的緩やかに減少する。
【0011】
従って、タイヤに働く(指示)ブレーキトルク(後述するホイールトルク)の増大に伴って同タイヤのスリップ率が増大していく過程について考察すると、同スリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えるまでは、ブレーキトルクの増大に応じて路面摩擦力も増大していく。ここで、ブレーキトルクはタイヤを減速させる方向に働くトルクであって、路面摩擦力は同タイヤを加速させる方向に働くトルクを発生せしめる力となる。従って、この段階では、ブレーキトルクによるタイヤを減速させる方向に働くトルクと路面摩擦力による同タイヤを加速させる方向に働くトルクとが互いに相殺される程度が大きいことから、タイヤの慣性トルクが大きく増大することはない。
【0012】
一方、タイヤのスリップ率が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えると、ブレーキトルクが増大しても路面摩擦力が増大しなくなり、路面摩擦力によるトルクとブレーキトルクの差、即ち、慣性トルクが増加する。この結果、かかる慣性トルクの増加がタイヤの角運動量の増加をもたらすことで同タイヤの角加速度がが比較的急激に増加するため、同タイヤの角加速度対応値も比較的急激に増加するようになる。
【0013】
以上のことから、上記構成のように、前記角加速度対応値が所定の基準値を超えた時点において取得されている路面摩擦力を推定最大路面摩擦力として設定するように構成すれば、同基準値を適切な値に設定することでその時点における路面の最大路面摩擦力を精度良く推定することができる。
【0014】
更に、本発明による最大路面摩擦力推定装置においては、前記推定最大路面摩擦力設定手段は、既に前記推定最大路面摩擦力が設定されている場合において、前記取得された路面摩擦力が同設定されている推定最大路面摩擦力より大きくなったとき、及び/又は前記取得された角加速度対応値が前記基準値を超えたとき、同取得された路面摩擦力を新たな推定最大路面摩擦力として設定するように構成される
【0015】
これによれば、前記取得された路面摩擦力が既に設定されている推定最大路面摩擦力より大きくなったとき、同取得された路面摩擦力が新たな推定最大路面摩擦力として設定される。従って、推定最大路面摩擦力が既に設定された後において車両が走行している路面の変化等により最大路面摩擦力が増加する場合、推定最大路面摩擦力が同増加した後の最大路面摩擦力の値に適切に更新され得る。
【0016】
一方、推定最大路面摩擦力が既に設定された後において車両が走行している路面の変化等により最大路面摩擦力が低下する場合、タイヤに働くブレーキトルクを同低下した後の最大路面摩擦力が発揮され得るスリップ率が発生する値を超える値まで増大させると、前述と同様、同ブレーキトルクに対して前記取得される路面摩擦力(をトルクに換算した値)が相対的に小さくなることで前記角加速度対応値が増大して前記基準値を超えることになる。従って、上記のように、推定最大路面摩擦力が既に設定された後において前記取得された角加速度対応値が前記基準値を超えたとき、その時点において取得された路面摩擦力を新たな推定最大路面摩擦力として設定するように構成すれば、路面の変化等により最大路面摩擦力が低下する場合において、推定最大路面摩擦力が同低下した後の最大路面摩擦力の値に適切に更新され得る。
【0017】
上記本発明による最大路面摩擦力推定装置においては、前記車両に働く車体前後方向の減速度を車体減速度として取得する車体減速度取得手段を更に備え、前記推定最大路面摩擦力設定手段は、前記取得された車体減速度に応じて前記基準値を変更するように構成されることが好適である。
【0018】
上述したように、一般に、最大路面摩擦力が発揮され得るタイヤのスリップ率は比較的小さい値であるから、同スリップ率が同最大路面摩擦力が発揮され得る値よりも小さい値となる場合においては、車両に働く車体前後方向の減速度である車体減速度は同タイヤの角加速度(従って、前記角加速度対応値)に略比例する値となり得る。
【0019】
従って、車体減速度の値は、現時点での路面摩擦力が最大路面摩擦力となっているか否かを正確に判定するために前記取得された角加速度対応値と比較される前記基準値を設定する際の基準として使用されるべき値となり得る。よって、上記のように、前記取得された車体減速度に応じて前記基準値を変更するように構成すれば、同基準値を適切な値に容易に設定することができる。
【0020】
また、上記本発明による最大路面摩擦力推定装置においては、前記タイヤに対応する車軸に発生するトルクをホイールトルクとして取得するホイールトルク取得手段を更に備え、前記角加速度対応値取得手段は、前記取得されたホイールトルクと前記取得された路面摩擦力とに基づいて前記角加速度対応値を算出するように構成されることが好適である。
【0021】
タイヤに対してブレーキトルクが働くと、同タイヤに対応する車軸には同ブレーキトルクに相当するホイールトルクが発生する。従って、タイヤには、同タイヤを減速させる方向に働く前記ホイールトルクと、同タイヤを加速させる方向に働く路面摩擦力に基づくトルクが働くことになる。よって、タイヤの回転についての運動方程式は、前記ホイールトルクと前記路面摩擦力とに基づいて表され得る。従って、上記構成のように、タイヤの角加速度(従って、角加速度対応値)は、前記取得されたホイールトルクと前記取得された路面摩擦力とに基づいて正確に算出することができる。
【0022】
この場合、前記推定最大路面摩擦力設定手段は、前記取得されたホイールトルクと前記取得された路面摩擦力の少なくとも一つの増加速度を求めるとともに、同増加速度に応じて前記基準値を変更するように構成されることが好適である。
【0023】
例えば、運転者による急激なブレーキ操作等によりタイヤに働く(指示)ブレーキトルクが急激に増加する場合、これに伴ってホイールトルク、及び路面摩擦力も急激に増加し得る。このような場合、ホイールトルク取得手段や路面摩擦力取得手段に応答遅れが存在すると、これらにより取得されるホイールトルクの値や路面摩擦力の値に誤差が生じ易くなる。この結果、かかるホイールトルクと路面摩擦力に基づいて算出される角加速度対応値にも誤差が生じ易くなり、例えば、同算出される角加速度対応値が実際の値よりも大きめに計算される傾向がある場合、実際には角加速度対応値が前記基準値を超えていないにもかかわらず超えたとの誤判定がなされる可能性がある。従って、上記のように、前記取得されたホイールトルクと前記取得された路面摩擦力の少なくとも一つの増加速度に応じて前記基準値を変更するように構成すれば、例えば、同増加速度の増加に応じて前記基準値をより大きく設定することができ、前述の誤判定が防止され得る。
【0024】
また、上記本発明による最大路面摩擦力推定装置においては、前記タイヤが装着された車輪の車輪角速度を取得する車輪角速度取得手段を更に備え、前記角加速度対応値取得手段は、前記取得された車輪角速度に基づいて前記角加速度対応値を算出するように構成してもよい。
【0025】
一般に、ABS装置は、車輪の車輪角速度を取得する車輪角速度取得手段を備えている場合が多い。また、タイヤの角加速度は、同タイヤが装着された車輪の車輪角速度を時間微分して得られる値である。従って、かかる車輪角速度取得手段が備えられている場合においては、前記取得された車輪角速度に基づいて前記角加速度対応値を算出するように構成しても、同角加速度対応値が正確に算出され得る。
【0026】
また、上記何れかの最大路面摩擦力推定装置を利用した本発明によるブレーキトルク制御装置は、前記車両の状態に応じて指示ブレーキトルクを算出するとともに、前記タイヤを制動するために同タイヤに働く実際のブレーキトルクが前記指示ブレーキトルクになるように同実際のブレーキトルクを制御するブレーキトルク制御手段を備え、前記ブレーキトルク制御手段は、前記最大路面摩擦力推定装置により前記推定最大路面摩擦力が設定されている間においては、同推定最大路面摩擦力を前記タイヤに働くトルクに換算した値に所定値を加算した値を上限値として前記指示ブレーキトルクを算出するように構成されている。
【0027】
ここにおいて、前記ブレーキトルク制御手段は、例えば、車輪のホイールシリンダに供給されるブレーキ液圧を加圧・減圧制御することでブレーキトルクを間接的に制御する手段であっても、モータ等の電気的な手段によりブレーキトルクを直接的に制御する手段であってもよい。
【0028】
先に述べたタイヤの回転についての運動方程式から、前述した慣性トルクを含めた同タイヤに働くトルクのつりあいを考えると、前記推定最大路面摩擦力が設定された時点でタイヤに働いていたブレーキトルクは、同推定最大路面摩擦力を同タイヤに働くトルクに換算した値(具体的には、推定最大路面摩擦力にタイヤ半径を乗じた値)に前記慣性トルク分を加えた値となる。
【0029】
従って、上記本発明による最大路面摩擦力推定装置により推定最大路面摩擦力が設定(更新)されている間においては、例えば、前記車両の状態(例えば、ブレーキペダル踏力)に応じた(目標)ブレーキトルクが同推定最大路面摩擦力をタイヤに働くトルクに換算した値に前記慣性トルク分を加えた値を超える値となる場合、前記指示ブレーキトルクを同加えた値になるように設定すれば、路面摩擦力が前記推定最大路面摩擦力に維持され続けるように実際のブレーキトルクが制御され得る。
【0030】
即ち、上記のように、前記推定最大路面摩擦力を前記タイヤに働くトルクに換算した値に所定値を加算した値を上限値として前記指示ブレーキトルクを算出するように構成すれば、同所定値を前記慣性トルク分に相当する適切な値に設定することで、指示ブレーキトルクの上限値、従って、ABS制御を実行する際の指示ブレーキトルクの目標値が一つの値として明確に設定される。従って、例えば、ブレーキ液圧を加圧・減圧制御することでブレーキトルクが間接的に制御される場合、上述の従来の装置に比してより緻密に同ブレーキ液圧の加圧・減圧制御が実行され得るようになり、その結果、ブレーキ液圧の余分な減圧を大きく行うことが回避され得る。
【0031】
この場合、前記車両に働く車体前後方向の減速度を車体減速度として取得する車体減速度取得手段を更に備え、前記ブレーキトルク制御手段は、前記取得された車体減速度に応じて前記所定値を変更するように構成されることが好適である。
【0032】
これによれば、後に詳述するように、タイヤのスリップ率の時間微分値を「0」とすることができ、従って、同スリップ率を狙いの値(例えば、前記推定最大路面摩擦力が設定された時点における値)に維持するように制御することができる。
【0033】
上記本発明によるブレーキトルク制御装置においては、前記ブレーキトルク制御手段は、前記算出された指示ブレーキトルクと、前記取得されたホイールトルクの少なくとも一つよりも前記最大路面摩擦力推定装置の前記路面摩擦力取得手段により取得された路面摩擦力を前記タイヤに働くトルクに換算した値が大きくなったとき、前記最大路面摩擦力推定装置による前記推定最大路面摩擦力の設定を解除せしめるとともに、前記最大路面摩擦力推定装置により前記推定最大路面摩擦力が設定されていない間においては、上限値を設定することなく前記指示ブレーキトルクを算出するように構成されることが好適である。
【0034】
前記推定最大路面摩擦力が設定された後において、路面の状態が急変して同一のスリップ率における路面摩擦力(路面摩擦係数)が大きく増大する場合(例えば、路面状態が濡れた路面から乾いた路面に変化した場合)、前記指示ブレーキトルクと前記ホイールトルクの少なくとも一つよりも前記路面摩擦力をトルクに換算した値が大きくなることがある。
【0035】
このように路面の状態が大きく変化する場合においては、変化した後の路面の最大路面摩擦力が発揮され得るタイヤのスリップ率が現時点で設定(更新)されている前記推定最大路面摩擦力が設定された時点でのスリップ率よりも大きくなっている場合がある。この場合、現時点で設定(更新)されている前記推定最大路面摩擦力が前記変化した後の路面の最大路面摩擦力よりも小さい値となっている。一方、上述したように指示ブレーキトルクの上限値を設定すると、同指示ブレーキトルクが同推定最大路面摩擦力を超える路面摩擦力を発生し得る値に設定され得ない。この結果、前記推定最大路面摩擦力が前記変化した後の路面の最大路面摩擦力に到達し得ず、同推定最大路面摩擦力の値は、同変化した後の路面の最大路面摩擦力とは異なる(よりも小さい)値に維持され続けることになる。
【0036】
従って、かかる場合、上記のように、前記推定最大路面摩擦力の設定を一旦解除するとともに、同推定最大路面摩擦力が設定されていない間においては上限値を設定することなく前記指示ブレーキトルクを算出するように構成すれば、指示ブレーキトルクが前記変化した後の路面の最大路面摩擦力を発生し得る値を超える値に設定され得るようになる。この結果、前記角加速度対応値が再び前記基準値を超えたときに新たな推定最大路面摩擦力が前記変化した後の路面の最大路面摩擦力と一致するように設定され得る。
【0037】
また、上記本発明によるブレーキトルク制御装置においては、前記ブレーキトルク制御手段は、前記算出された指示ブレーキトルクの増加速度を求めるとともに、同増加速度に応じて、前記最大路面摩擦力推定装置の前記推定最大路面摩擦力設定手段が使用する前記基準値を変更せしめるように構成してもよい。
【0038】
先に説明したように、例えば、運転者による急激なブレーキ操作等により指示ブレーキトルクが急激に増加する場合、前記取得される角加速度対応値に誤差が生じ易くなり、同角加速度対応値と前記基準値との大小判定において誤判定がなされる可能性がある。従って、上記のように、前記算出された指示ブレーキトルクの増加速度に応じて前記基準値を変更するように構成すれば、前述と同様、前記誤判定が防止され得る。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による最大路面摩擦力推定装置を含んだブレーキトルク制御装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るブレーキトルク制御装置10を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、非駆動輪である前2輪(左前輪FL及び右前輪FR)と、駆動輪である後2輪(左後輪RL及び右後輪RR)を備えた後輪駆動方式の4輪車両である。
【0040】
このブレーキトルク制御装置10は、各車輪にブレーキ液圧によるブレーキトルクを発生させるためのブレーキ液圧制御装置30と、各種センサから構成されるセンサ部40と、電気式制御装置50とを含んで構成されている。
【0041】
ブレーキ液圧制御装置30は、その概略構成を表す図2に示すように、高圧発生部31と、ブレーキペダルBPの操作力に応じたブレーキ液圧を発生するブレーキ液圧発生部32と、各車輪FR,FL,RR,RLにそれぞれ配置されたホイールシリンダWfr,Wfl,Wrr,Wrlに供給するブレーキ液圧をそれぞれ調整可能なFRブレーキ液圧調整部33,FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35,RLブレーキ液圧調整部36とを含んで構成されている。
【0042】
高圧発生部31は、電動モータMと、同電動モータMにより駆動されるとともにリザーバRS内のブレーキ液を昇圧する液圧ポンプHPと、液圧ポンプHPの吐出側にチェック弁CVHを介して接続されるとともに同液圧ポンプHPにより昇圧されたブレーキ液を貯留するアキュムレータAccとを含んで構成されている。
【0043】
電動モータMは、アキュムレータAcc内の液圧が所定の下限値を下回ったとき駆動され、同アキュムレータAcc内の液圧が所定の上限値を上回ったとき停止されるようになっており、これにより、アキュムレータAcc内の液圧は常時所定の範囲内の高圧に維持されるようになっている。
【0044】
また、アキュムレータAccとリザーバRSとの間にリリーフ弁RVが配設されており、アキュムレータAcc内の液圧が前記高圧より異常に高い圧力になったときに同アキュムレータAcc内のブレーキ液がリザーバRSに戻されるようになっている。これにより、高圧発生部31の液圧回路が保護されるようになっている。
【0045】
ブレーキ液圧発生部32は、ブレーキペダルBPの作動により応動するハイドロブースタHBと、同ハイドロブースタHBに連結されたマスタシリンダMCとから構成されている。ハイドロブースタHBは、液圧高圧発生部31から供給される前記高圧を利用してブレーキペダルBPの操作力を所定の割合で助勢し同助勢された操作力をマスタシリンダMCに伝達するようになっている。
【0046】
マスタシリンダMCは、前記助勢された操作力に応じたマスタシリンダ液圧を発生するようになっている。また、ハイドロブースタHBは、このマスタシリンダ液圧を入力することによりマスタシリンダ液圧と略同一の液圧である前記助勢された操作力に応じたレギュレータ液圧を発生するようになっている。これらマスタシリンダMC及びハイドロブースタHBの構成及び作動は周知であるので、ここではそれらの詳細な説明を省略する。このようにして、マスタシリンダMC及びハイドロブースタHBは、ブレーキペダルBPの操作力に応じたマスタシリンダ液圧及びレギュレータ液圧をそれぞれ発生するようになっている。
【0047】
マスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部33の上流側及びFLブレーキ液圧調整部34の上流側の各々との間には、3ポート2位置切換型の電磁弁である制御弁SA1が介装されている。同様に、ハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部35の上流側及びRLブレーキ液圧調整部36の上流側の各々との間には、3ポート2位置切換型の電磁弁である制御弁SA2が介装されている。また、高圧発生部31と制御弁SA1及び制御弁SA2の各々との間には、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である切換弁STRが介装されている。
【0048】
制御弁SA1は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々との連通を遮断して切換弁STRとFRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々とを連通するようになっている。
【0049】
制御弁SA2は、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々とを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときハイドロブースタHBとRRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々との連通を遮断して切換弁STRとRRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々とを連通するようになっている。
【0050】
これにより、FRブレーキ液圧調整部33の上流部及びFLブレーキ液圧調整部34の上流部の各々には、制御弁SA1が第1の位置にあるときマスタシリンダ液圧が供給されるとともに、制御弁SA1が第2の位置にあり且つ切換弁STRが第2の位置(励磁状態における位置)にあるとき高圧発生部31が発生する高圧が供給されるようになっている。
【0051】
同様に、RRブレーキ液圧調整部35の上流部及びRLブレーキ液圧調整部36の上流部の各々には、制御弁SA2が第1の位置にあるときレギュレータ液圧が供給されるとともに、制御弁SA2が第2の位置にあり且つ切換弁STRが第2の位置にあるとき高圧発生部31が発生する高圧が供給されるようになっている。
【0052】
FRブレーキ液圧調整部33は、2ポート2位置切換型の常開電磁開閉弁である増圧弁PUfrと、2ポート2位置切換型の常閉電磁開閉弁である減圧弁PDfrとから構成されており、増圧弁PUfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとを連通するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときFRブレーキ液圧調整部33の上流部とホイールシリンダWfrとの連通を遮断するようになっている。減圧弁PDfrは、図2に示す第1の位置(非励磁状態における位置)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとの連通を遮断するとともに、第2の位置(励磁状態における位置)にあるときホイールシリンダWfrとリザーバRSとを連通するようになっている。
【0053】
これにより、ホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧は、増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrが共に第1の位置にあるときホイールシリンダWfr内にFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧が供給されることにより増圧され、増圧弁PUfrが第2の位置にあり且つ減圧弁PDfrが第1の位置にあるときFRブレーキ液圧調整部33の上流部の液圧に拘わらずその時点の液圧に保持されるとともに、増圧弁PUfr及び減圧弁PDfrが共に第2の位置にあるときホイールシリンダWfr内のブレーキ液がリザーバRSに戻されることにより減圧されるようになっている。
【0054】
また、増圧弁PUfrにはブレーキ液のホイールシリンダWfr側からFRブレーキ液圧調整部33の上流部への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV1が並列に配設されており、これにより、制御弁SA1が第1の位置にある状態で操作されているブレーキペダルBPが開放されたときホイールシリンダWfr内のブレーキ液圧が迅速に減圧されるようになっている。
【0055】
同様に、FLブレーキ液圧調整部34,RRブレーキ液圧調整部35及びRLブレーキ液圧調整部36は、それぞれ、増圧弁PUfl及び減圧弁PDfl,増圧弁PUrr及び減圧弁PDrr,増圧弁PUrl及び減圧弁PDrlから構成されており、これらの各増圧弁及び各減圧弁の位置が制御されることにより、ホイールシリンダWfl,ホイールシリンダWrr及びホイールシリンダWrl内のブレーキ液圧をそれぞれ増圧、保持、減圧できるようになっている。また、増圧弁PUfl,PUrr及びPUrlの各々にも、上記チェック弁CV1と同様の機能を達成し得るチェック弁CV2,CV3及びCV4がそれぞれ並列に配設されている。
【0056】
また、制御弁SA1にはブレーキ液の上流側から下流側への一方向の流れのみを許容するチェック弁CV5が並列に配設されており、同制御弁SA1が第2の位置にあってマスタシリンダMCとFRブレーキ液圧調整部33及びFLブレーキ液圧調整部34の各々との連通が遮断されている状態にあるときに、ブレーキペダルBPを操作することによりホイールシリンダWfr,Wfl内のブレーキ液圧が増圧され得るようになっている。また、制御弁SA2にも、上記チェック弁CV5と同様の機能を達成し得るチェック弁CV6が並列に配設されている。
【0057】
以上、説明した構成を備えたブレーキ液圧制御装置30は、通常、制御弁SA1,切換弁STR及び増圧弁PUflを総て励磁状態(従って、第2の位置)に保持している。そして、ブレーキ液圧制御装置30は、各車輪毎に独立して、増圧弁PU及び減圧弁PDをそれぞれ制御することによりホイールシリンダ内の実際のブレーキ液圧Pwが後述する踏力センサ45により検出されるブレーキペダル踏力Fp等に応じて後述するCPU51により算出される指示ブレーキトルクToutに応じた指示ブレーキ液圧Poutと一致するように各車輪に働くブレーキトルクを制御するようになっている。これにより、各車輪毎に独立して、車輪に働くブレーキトルクが指示ブレーキトルクToutになるように制御されるようになっている。
【0058】
また、ブレーキ液圧制御装置30は、異常が発生している場合においては、全ての電磁弁を非励磁状態とし、ブレーキペダルBPの踏力Fpに応じたブレーキ液圧Pwを各ホイールシリンダに供給できるようになっている。これにより、フェールセーフ機能が達成されるようになっている。
【0059】
再び図1を参照すると、センサ部40は、各車輪FL,FR,RL及びRRが所定角度回転する度にパルスを有する信号をそれぞれ出力するロータリーエンコーダから構成される車輪速度センサ41fl,41fr,41rl及び41rrと、各車輪の車軸内部の所定位置に埋設されていて各車軸に発生するトルクをホイールトルクとしてそれぞれ検出するとともに同ホイールトルクTwfl,Twfr,Twrl及びTwrrを示す信号をそれぞれ出力するホイールトルクセンサ42fl,42fr,42rl及び42rrと、各車輪の車軸内部であって対応するホイールトルクセンサ42よりも車体内側の所定位置に埋設されていて各車輪のタイヤと路面との間に発生している摩擦力を路面摩擦力としてそれぞれ検出するとともに同路面摩擦力Ftfl,Ftfr,Ftrl及びFtrrを示す信号をそれぞれ出力する路面摩擦力センサ43fl,43fr,43rl及び43rrと、車体前後方向の減速度を車体減速度として検出し同車体減速度dV/dtを示す信号を出力する車体減速度センサ44と、運転者によるブレーキペダルBPの踏力を検出し同ブレーキペダル踏力Fpを示す信号を出力する踏力センサ45と、各車輪のホイールシリンダWfl,Wfr,Wrl及びWrr内のブレーキ液圧をそれぞれ検出するとともに同ブレーキ液圧Pwfl,Pwfr,Pwrl及びPwrrを示す信号をそれぞれ出力するブレーキ液圧センサ46fl,46fr,46rl及び46rrとから構成されている。なお、車体減速度dV/dtは、車体加速度の値に対して符号を逆にした値である。
【0060】
電気式制御装置50は、互いにバスで接続されたCPU51、CPU51が実行するルーチン(プログラム)、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM52、CPU51が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM53、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納したデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM54、及びADコンバータを含むインターフェース55等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース55は、前記センサ41〜46と接続され、センサ41〜46からの信号をCPU51に供給するとともに、同CPU51の指示に応じてブレーキ液圧制御装置30の各電磁弁及びモータMに駆動信号を送出するようになっている。
【0061】
また、かかるCPU51の指示によりブレーキ液圧制御装置30は、周知のトラクション制御、周知の車両安定性制御等、ブレーキペダルBPの操作の有無にかかわらず車輪毎に独立して所定のブレーキトルクを付与する自動ブレーキ制御を実行できるようになっていて、CPU51は、自動ブレーキ制御が実行されている間、車輪毎に、必要制御量Gを算出するとともに同必要制御量Gにも基づいて指示ブレーキトルクToutを算出するようになっている。
【0062】
(最大路面摩擦力の推定方法の概要)
次に、最大路面摩擦力の推定方法の概要について説明する。先ず、制動中のタイヤに働くトルクについて図3を参照しながら説明する。図3は、半径Rtの或るタイヤが反時計回りに角速度ωで回転しながら紙面左方向に進行している場合において同タイヤにブレーキトルクを働かせたときの同タイヤに働くトルク(及び力)を示した図である。ここにおいて、タイヤが装着された車輪の車輪速度VwはRt・ωとなる。この車輪速度Vwはタイヤのスリップ率が「0」のときタイヤの進行速度と等しくなる。
【0063】
図3に示したように、この場合、タイヤには、同タイヤを減速させる方向(時計回り)に働くブレーキトルク(従って、ホイールトルクTw)と、ホイールトルクTwに応じて発生する紙面右方向に働く路面摩擦力Ftに基づく同タイヤを加速させる方向(反時計回り)に働くトルクFt・Rtとが作用する。ここで、ホイールトルクTwは、前記ホイールトルクセンサ42により検出される値であって、タイヤに働くブレーキトルクと同じ値となる。また、路面摩擦力Ftは、前記路面摩擦力センサ43により検出される値である。
【0064】
従って、このタイヤの回転についての運動方程式(或いは、タイヤに働くトルクのつりあいの式)は、下記数1にて表すことができる。
【0065】
【数1】
I・dω/dt=Tw - Ft・Rt
【0066】
上記数1において、Iはタイヤ(同タイヤが装着されたホイールも含む)の慣性モーメントである。また、タイヤの角加速度dω/dtは、後の説明の便宜上、同タイヤを減速させる方向(時計回り)の値を正として扱われる。また、図3に示すように、I・dω/dtを慣性トルクTineと定義する。慣性トルクTineは角加速度対応値に相当する値である。
【0067】
図4に示すように、路面摩擦力Ftは、一般に、タイヤのスリップ率Sが最大路面摩擦力Ftamaxが発揮され得る値Samax(点Aに相当する値。一般に、5〜30%)より小さいとき同スリップ率Sの増加に伴って比較的急激に増加する。一方、路面摩擦力Ftは、スリップ率Sが値Samaxを超えると同スリップ率Sの増加に伴って比較的緩やかに減少する。
【0068】
従って、タイヤに働くブレーキトルク(従って、ホイールトルクTw)の増大に伴ってスリップ率Sが増大していく場合、同スリップ率Sが値Samaxを超えるまでは、ホイールトルクTwの増大に応じて路面摩擦力Ftに基づくトルクFt・Rtも増大していくことになる。従って、この段階では、上記数1から理解できるように、ホイールトルクTwと路面摩擦力Ftに基づくトルクFt・Rtとが互いに殆ど相殺されることで、慣性トルクTineが大きく増大することはない。
【0069】
一方、スリップ率Sが値Samaxを超えると、ホイールトルクTwが増大しても路面摩擦力Ftが増大しなくなる(次第に減少する)。この結果、上記数1から理解できるように、慣性トルクTineは比較的急激に増加するようになる。
【0070】
以上のことから、基準値αを適切な値に設定し、慣性トルクTineが同基準値αを超えた時点において路面摩擦力センサ43により検出されている路面摩擦力Ftを推定最大路面摩擦力Fmaxとして設定すれば、同設定した時点における路面の最大路面摩擦力(図4においてFtamax)を同推定最大路面摩擦力Fmaxとして精度良く推定することができる。
【0071】
ところで、前記基準値αを如何なる値に設定すべきかが問題となる。先に述べたように、一般に、最大路面摩擦力が発揮され得るスリップ率Samaxは比較的小さい値であるから、スリップ率Sが値Samaxよりも小さい段階においては、車体減速度dV/dtはRt・dω/dtと略同一になる。従って、この段階では、慣性トルクTine(=I・dω/dt)は、車体減速度dV/dtをタイヤ半径Rtで除した値に慣性モーメントIを乗じた値に略等しくなる。よって、車体速度センサ44により検出される車体減速度dV/dtの値は、基準値αを設定する際の基準として使用されるべき値となり得る。
【0072】
具体的には、例えば、車体減速度dV/dtに(I/Rt)を乗じた値を所定の整数倍(例えば、3倍)した値や、車体減速度dV/dtに(I/Rt)を乗じた値に所定の定数γを加算した値を前記基準値αとして使用すれば、慣性トルクTineの計算誤差やノイズによる悪影響を排除した状態で前記推定最大路面摩擦力Fmaxが精度よく設定され得る。
【0073】
また、前述したように、路面摩擦力センサ43はホイールトルクセンサ42よりもタイヤからより遠い位置における車軸内に埋設されている。従って、例えば、運転者による急激なブレーキペダル操作等によりタイヤに働くブレーキトルクが急増することに伴ってホイールトルクTw、及び路面摩擦力Ftも急増するような場合、ホイールトルクセンサ42よりも路面摩擦力センサ43において応答遅れがより大きく発生する傾向がある。この場合、上記数1により計算される慣性トルクTineが実際の値よりも大きめに計算されることになり、実際には慣性トルクTineが基準値αを超えていないにもかかわらず超えたとの誤判定がなされる可能性がある。よって、かかる誤判定を防止するため、ホイールトルクセンサ42により検出されるホイールトルクTw、及び路面摩擦力センサ43により検出される路面摩擦力Ftの少なくとも一つ(本例では、ホイールトルクセンサTwのみ)の増加速度dTw/dtの値も基準値αを設定する際に参酌されるべきである。
【0074】
以上のことから、本実施形態にかかるブレーキトルク制御装置10(以下、「本装置」と云うこともある。)は、車輪毎に個別に、下記数2に従って基準値αを逐次設定していく。下記数2において、関数fは、車体減速度dV/dtの増加に応じて増加するとともに、ホイールトルクTwの増加速度dTw/dtの増加に応じて増加する値を採る関数である。
【0075】
【数2】
α=f(dV/dt,dTw/dt)
【0076】
そして、本装置は、車輪毎に個別に、ホイールトルクTwの値と、路面摩擦力Ftの値と、上記数1とに基づいて計算した慣性トルクTineの値が前記設定された基準値αを超えたとき、その時点における路面摩擦力Ftの値を推定最大路面摩擦力Fmaxとして設定する。以上が、最大路面摩擦力の推定方法の概要である。
【0077】
(最大路面摩擦力の更新)
上述したように推定最大路面摩擦力Fmaxが設定された後においても、路面状態の変化等により路面摩擦力センサ43により検出される路面摩擦力Ftが同設定されている推定最大路面摩擦力Fmaxよりも大きくなることがある。この場合、推定最大路面摩擦力Fmaxが前記路面摩擦力Ftと等しくなるように同推定最大路面摩擦力Fmaxの値を更新すべきである。
【0078】
そこで、本装置は、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定された後において路面摩擦力Ftが同設定されている推定最大路面摩擦力Fmaxより大きくなった場合、同路面摩擦力Ftの値を新たな推定最大路面摩擦力Fmaxとして設定することで同推定最大路面摩擦力Fmaxの値を更新していく。
【0079】
一方、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定された後において路面状態の変化等により最大路面摩擦力が低下する場合もある。この場合、その時点まで制御されていたホイールトルクTwに対して路面摩擦力Ftに基づくトルクFt・Rtが相対的に小さくなる。この結果、前述と同様に、慣性トルクTineの値が増大して前記基準値αを超えることになる。
【0080】
そこで、本装置は、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定された後において上記数1に従って計算される慣性トルクTineの値が上記数2に従って設定される基準値αを超えた場合、その時点における路面摩擦力Ftの値を新たな推定最大路面摩擦力Fmaxとして設定することで同推定最大路面摩擦力Fmaxの値を更新していく。
【0081】
(指示ブレーキトルクの上限値の設定)
上記数1に基づいて慣性トルクTineを含めたタイヤに働くトルクのつりあいを考えると、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(及び、更新)された時点で同タイヤに働いていたブレーキトルク(従って、ホイールトルクTw)は、同推定最大路面摩擦力Fmaxに基づくトルクFmax・Rtに慣性トルクTine分(以下、慣性トルクTine分を所定値βと呼ぶことにする。)を加えた値となる。
【0082】
従って、推定最大路面摩擦力Fmaxが一旦設定された後であって更新され続けている間においては、ブレーキペダル踏力Fp等に応じて設定される後述する目標ブレーキトルクTdが値(Fmax・Rt+β)を超える値となるような場合、指示ブレーキトルクToutを同値(Fmax・Rt+β)になるように設定(制限)することで、路面摩擦力Ftが前記設定・更新されている推定最大路面摩擦力Fmaxに維持され続けるようにタイヤに働く実際のブレーキトルク(従って、ホイールトルクTw)が制御され得る。従って、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)されている間においては、前記値(Fmax・Rt+β)を上限値として指示ブレーキトルクToutを算出することが好ましい。
【0083】
ところで、前記所定値βを如何なる値に設定すべきかが問題となる。タイヤのスリップ率Sは下記数3にて表される。下記数3において、Vは車体速度(本例では、各車輪の車輪速度Vw(=Rt・ω)のうちの最大値)であり、ωはタイヤの角速度である。
【0084】
【数3】
S=(V-Rt・ω)/V
【0085】
上記数3を時間で微分して整理すると、下記数4が得られる。下記数4において、dV/dtは車体減速度である。
【0086】
【数4】
dω/dt=((1-S)/Rt)・dV/dt - (V/Rt)・dS/dt
【0087】
従って、上記数4から理解できるように、「dω/dt=((1-S)/Rt)・dV/dt」となるようにブレーキトルク(即ち、指示ブレーキトルクTout)を制御すれば、スリップ率Sの時間微分値「dS/dt=0」となり、従って、スリップ率Sを狙いの値に維持するように制御することができる。ここで、制動距離を最短とするため、前記狙いのスリップ率Sは、最新の推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)された時点でのタイヤのスリップ率Scに設定されることが好ましい。
【0088】
そこで、本装置は、下記数5に従って、車輪毎に個別に、下記数5に従って、慣性トルクTine分(=I・dω/dt)である前記所定値βを逐次設定していく。下記数5において、車体減速度dV/dtは車体減速度センサ44により検出される値である。
【0089】
【数5】
β=(I/Rt)・(1-Sc)・dV/dt
【0090】
そして、本装置は、車輪毎に個別に、ブレーキペダル踏力Fp、及び前記自動ブレーキ制御を実行するための必要制御量Gに基づいて目標ブレーキトルクTdを設定し、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)されている間においては、同目標ブレーキトルクTdの値と、上記数5に従って設定した所定値βと最新の推定最大路面摩擦力Fmaxとに基づいて得られる値(Fmax・Rt+β)のうち小さい方の値を指示ブレーキトルクToutとして設定する。即ち、前記値(Fmax・Rt+β)が指示ブレーキトルクToutの上限値として設定される。なお、指示ブレーキトルクToutの上限値を前記値(Fmax・Rt+β)に設定することは、タイヤのスリップ率Sが前述した最新の推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)された時点でのスリップ率Sc以下に制限されることを意味している。以上が、指示ブレーキトルクToutの上限値の設定の概要である。
【0091】
(路面状態が急変した場合の対処)
推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)されている間において、例えば、路面状態が濡れた路面から乾いた路面に変化した場合のように、路面の状態が急変して同一のスリップ率Sにおける路面摩擦力(路面摩擦係数)が大きく増大する場合、指示ブレーキトルクTout(従って、ホイールトルクTw)よりも路面摩擦力Ftに基づくトルクFt・Rtが大きくなることがある。このように路面の状態が大きく変化する場合においては、以下のような問題が生じる。
【0092】
即ち、図5に示すように、スリップ率Samaxにて最大路面摩擦力Ftamaxが発生する濡れた路面を車両が走行中に、運転者のブレーキペダル操作により推定最大路面摩擦力Fmaxが値Ftamaxに設定され、同推定最大路面摩擦力Fmaxが値Ftamaxに設定された状態で、同車両が走行する路面がスリップ率Sbmax(>Samax)にて最大路面摩擦力Ftbmax(>Ftamax)が発生する乾いた路面に変化した場合について考える。
【0093】
ここで、路面が変化した時点にて指示ブレーキトルクToutが上限値(Ftamax・Rt+β)に維持されているものとすると、この時点でのスリップ率Sは値Samaxとなっているから、路面が変化した直後においては、スリップ率Sが値Samaxに維持されたまま路面摩擦力Ftが値Ftamaxから値Ftbへと一時的に急増する(図5において、点Aから点Bへの移動(矢印1)を参照。)。この場合、路面摩擦力Ft(=Ftb)が推定最大路面摩擦力Fmax(=Ftamax)よりも大きくなるから、路面が変化した直後において前述のごとく、推定最大路面摩擦力Fmaxが値Ftbに更新され得る。なお、路面が変化した後も継続して指示ブレーキトルクToutが路面が変化した時点での前記値(Ftamax・Rt+β)に維持されていると、同指示ブレーキトルクTout(従って、ホイールトルクTw)よりも路面摩擦力Ftが一時的に大きくなるから、タイヤを加速させる方向のトルクが同タイヤに一時的に働く。この結果、スリップ率Sが急減し、これに伴って路面摩擦力Ftが同指示ブレーキトルクTout(従って、ホイールトルクTw)に応じた値(即ち、値Ftamax近傍の値)まで低下して安定する(図5において、矢印2を参照。)。
【0094】
一方、このような場合において、上述したように最新の推定最大路面摩擦力Fmax(=Ftb)を使用して指示ブレーキトルクToutの上限値(Ftb・Rt+β)が設定されるものとすると、スリップ率Sが値Samax以下に制限されることになるから、指示ブレーキトルクToutが値Ftbを超える路面摩擦力Ftを発生し得る値に設定され得ない。この結果、推定最大路面摩擦力Fmaxが乾いた路面の最大路面摩擦力Ftbmaxに到達し得ず、同推定最大路面摩擦力Fmaxの値は同最大路面摩擦力Ftbmaxよりも小さい値Ftbに維持され続けることになる。このような問題は、路面の状態が大きく変化することで、変化した後の路面の最大路面摩擦力が発揮され得るタイヤのスリップ率が路面が変化した時点(直後)での推定最大路面摩擦力Fmaxが設定された時点でのスリップ率よりも大きくなるような場合に発生し得る。
【0095】
そこで、本装置は、推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)されている間において、ホイールトルクTwよりも路面摩擦力Ftに基づくトルクFt・Rtが大きくなった場合、かかる問題が発生する可能性があるとして、推定最大路面摩擦力Fmaxの設定を解除する。そして、本装置は、推定最大路面摩擦力Fmaxの設定が解除されている間においては、上限値を設定することなく指示ブレーキトルクToutを算出する。
【0096】
これにより、上記例においては、指示ブレーキトルクToutが前記乾いた路面の最大路面摩擦力Ftbmaxを発生し得る値を超える値にまで増大され得るようになる(図5において、矢印3を参照。)。この結果、慣性トルクTineが再び前記基準値αを超えたとき、新たな推定最大路面摩擦力Fmaxが前記乾いた路面の最大路面摩擦力Ftbmaxと一致するように設定され得る。なお、本装置は、推定最大路面摩擦力Fmaxの設定が解除される直前にて設定されていた推定最大路面摩擦力Fmaxの値(上記例では、値Ftb)を仮の推定最大路面摩擦力として使用する。この点については後述する。
【0097】
(実際の作動)
次に、以上のように構成された本発明によるブレーキトルク制御装置10の実際の作動について、電気式制御装置50のCPU51が実行するルーチンをフローチャートにより示した図6〜図10を参照しながら説明する。
【0098】
CPU51は、図6に示した車輪速度Vw**等の計算を行うルーチンを所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ600から処理を開始し、ステップ605に進んで各車輪FR等の車輪速度(各車輪の外周の速度)Vw**をそれぞれ算出する。具体的には、CPU51は各車輪速度センサ41**が出力する信号が有するパルスの時間間隔に基づいて各車輪FR等の車輪速度Vw**をそれぞれ算出する。
【0099】
なお、上記「車輪速度Vw**」の末尾に付された「**」は、同車輪速度Vwが各車輪FR等のいずれに関するものであるかを示すために同車輪速度Vwの末尾に付される「fl」,「fr」等の包括表記であって、車輪速度Vw**は、左前輪の車輪速度Vwfl,
右前輪の車輪速度Vwfr, 左後輪の車輪速度Vwrl, 右後輪の車輪速度Vwrrを包括的に示している。以下、他の各種変数・フラグ・符号等の末尾に「**」が付されている場合の「**」についても同様である。
【0100】
次いで、CPU51はステップ610に進み、各車輪FR等の車輪速度Vw**のうちの最大値を車体速度Vとして算出する。なお、各車輪FR等の車輪速度Vw**の平均値を車体速度Vとして算出してもよい。
【0101】
次に、CPU51はステップ615に進み、ステップ610にて算出した車体速度Vの値と、ステップ605にて算出した各車輪FR等の車輪速度Vw**の値と、上記数3の右辺に基づくステップ615内に記載した式とに基づいて各車輪毎の実際のスリップ率S**を算出する。そして、CPU51はステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は、ステップ600〜615の処理を繰り返し実行する。
【0102】
次に、自動ブレーキ制御時に使用される必要制御量Gの算出について説明すると、CPU51は図7に示したルーチンを車輪毎、且つ、所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ700から処理を開始し、ステップ705に進んで、車輪**に対して自動ブレーキ制御が必要であるか否かを判定する。この判定は、前述のトラクション制御、車両安定性制御等が必要であるか否かに基づいて行われる。
【0103】
ステップ705の判定において、車輪**に対して自動ブレーキ制御が必要であると判定すると、CPU51はステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進み、車輪**についての制御対象フラグCONT**の値を「1」に設定する。ここで、制御対象フラグCONT**は、その値が「1」のとき、車輪**に対して必要制御量G**(≠0)を設定する必要があることを示し、その値が「0」のとき、車輪**に対して必要制御量G**(≠0)を設定する必要がないことを示す。
【0104】
次に、CPU51はステップ715に進んで、車輪**に対して設定すべき必要制御量G**を計算・設定し、その後、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0105】
一方、ステップ705の判定において、車輪**に対して自動ブレーキ制御が必要でないと判定すると、CPU51はステップ705にて「No」と判定してステップ720に進み、制御対象フラグCONT**の値を「0」に設定し、続くステップ725にて車輪**に対して設定すべき必要制御量G**の値を「0」に設定した後、ステップ795に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は同様の処理を繰り返し実行する。
【0106】
次に、推定最大路面摩擦力Fmaxの設定・更新について説明すると、CPU51は図8に示したルーチンを車輪毎、且つ、所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ800から処理を開始し、ステップ805に進んで、踏力センサ45により検出されているブレーキペダル踏力Fpが非ブレーキ操作判定基準値F0(例えば、「0」)よりも大きいか否か、又は、車輪**についての制御対象フラグCONT**の値が「1」になっているか否かを判定する。
【0107】
いま、車両走行中において、運転者がブレーキペダルBPを操作しておらず、且つ、車輪**に対して自動ブレーキ制御が不要であって制御対象フラグCONT**の値が「0」になっているものとして説明を続けると、CPU51はステップ805にて「No」と判定してステップ810に進み、車輪**についての(仮の)推定最大路面摩擦力Fmax**の値を値Finiに設定し、続くステップ815にて車輪**についての非設定中フラグUNSET**の値を「1」に設定する。
【0108】
ここで、非設定中フラグUNSET**は、その値が「1」のとき車輪**についての推定最大路面摩擦力Fmax**が(実質的に)設定されていないこと(或いは、設定解除されていること)を示し、その値が「0」のとき同推定最大路面摩擦力Fmax**が(実質的に)設定されていることを示す。即ち、非設定中フラグUNSET**の値が「1」になっている場合において推定最大路面摩擦力Fmax**として設定されている値は、実質的な推定最大路面摩擦力としてではなく「仮の」推定最大路面摩擦力として扱われるためのものである。従って、現段階での推定最大路面摩擦力Fmax**(=Fini)は車輪**についての仮の推定最大路面摩擦力である。また、値Finiは、通常の路面と通常のタイヤとの組み合わせにおいては発生し得ない程度に大きい路面摩擦力に相当する値である。
【0109】
次に、CPU51はステップ870に直ちに進み、現時点で車輪**についてのホイールトルクセンサ42**により検出されている車輪**のホイールトルクTw**の値を車輪**についての前回のホイールトルクTwb**として設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。以降、CPU51は、運転者がブレーキペダルBPを操作しておらず、且つ、車輪**に対して自動ブレーキ制御が不要である限りにおいて、ステップ800〜815、870の一連の処理を繰り返し実行する。
【0110】
次に、指示ブレーキトルクToutの算出について説明すると、CPU51は図9に示したルーチンを車輪毎、且つ、所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ900から処理を開始し、ステップ905に進んで、先のステップ805と同様の判定を行う。
【0111】
現段階では、運転者がブレーキペダルBPを操作しておらず、且つ、車輪**に対して自動ブレーキ制御が不要であるから、CPU51はステップ905にて「No」と判定してステップ910に進み、車輪**についての指示ブレーキトルクTout**の値を「0」に設定した後、ステップ995に直ちに進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0112】
以降、CPU51は、運転者がブレーキペダルBPを操作しておらず、且つ、車輪**に対して自動ブレーキ制御が不要である限りにおいて、ステップ900〜910の一連の処理を繰り返し実行する。
【0113】
次に、ブレーキトルク制御について説明すると、CPU51は図10に示したルーチンを車輪毎、且つ、所定時間の経過毎に繰り返し実行している。従って、所定のタイミングになると、CPU51はステップ1000から処理を開始し、ステップ1005に進んで、先の図9のステップ910の処理(或いは、後述するステップ935の処理)により設定されている最新の車輪**についての指示ブレーキトルクTout**の値と、同ステップ1005内に記載のテーブルとに基づいて車輪**についての指示ブレーキ液圧Pout**を設定する。
【0114】
これにより、指示ブレーキ液圧Pout**は、指示ブレーキトルクTout**の値に正比例するように設定される。現時点では、指示ブレーキトルクTout**の値は「0」であるから、指示ブレーキ液圧Pout**も「0」に設定される。
【0115】
次に、CPU51はステップ1010に進んで、車輪**についての指示ブレーキ液圧Pout**から車輪**についてのブレーキ液圧センサ46**により検出されている車輪**についての実際のブレーキ液圧Pw**を減じた値を車輪**についてのブレーキ液圧偏差ΔP**として設定する。
【0116】
次いで、CPU51はステップ1015に進み、車輪**についての液圧制御モードを設定する。具体的には、CPU51はステップ1010にて算出した車輪**についてのブレーキ液圧偏差ΔP**の値と、ステップ1015内に記載のテーブルとに基づいて、ブレーキ液圧偏差ΔP**の値が所定の正の基準値を超えるときは車輪**についての液圧制御モードを「増圧」に設定し、ブレーキ液圧偏差ΔP**の値が所定の負の基準値以上であって前記所定の正の基準値以下であるときは車輪**についての液圧制御モードを「保持」に設定し、ブレーキ液圧偏差ΔP**の値が前記所定の負の基準値を下回るときは車輪**についての液圧制御モードを「減圧」に設定する。
【0117】
次に、CPU51はステップ1020に進み、ステップ1015にて設定した車輪**についての液圧制御モードに基づいて、車輪**についての増圧弁PU**及び減圧弁PD**を制御する。
【0118】
具体的には、CPU51は車輪**についての液圧制御モードが「増圧」となっている場合には増圧弁PU**及び減圧弁PD**を共に第1の位置(非励磁状態における位置)に制御し、車輪**についての液圧制御モードが「保持」となっている場合には増圧弁PU**を第2の位置(励磁状態における位置)に制御するとともに減圧弁PD**を第1の位置に制御し、車輪**の液圧制御モードが「減圧」となっている場合には増圧弁PU**及び減圧弁PD**を共に第2の位置(励磁状態における位置)に制御する。
【0119】
これにより、車輪**についての液圧制御モードが「増圧」となっている場合には車輪**のホイールシリンダW**内のブレーキ液圧Pw**は増大し、また、車輪**についての液圧制御モードが「減圧」となっている場合には同ブレーキ液圧Pw**は減少することで、車輪**についてのブレーキ液圧Pw**が前記指示ブレーキ液圧Pout**に近づくように制御される。現時点では、車輪**についてのブレーキ液圧Pw**の値が「0」になるように制御される。このようにして、図9のルーチンにて設定されている最新の指示ブレーキトルクTout**(従って、指示ブレーキ液圧Pout**)に応じた車輪**についてのブレーキトルク制御が達成される。
【0120】
次に、この状態(運転者がブレーキペダルBPを操作しておらず、且つ、車輪**に対して自動ブレーキ制御が不要である状態)から、運転者がブレーキペダルBPの操作を開始し、ブレーキペダル踏力Fpの値が「0」から徐々に増加していく場合について説明する。
【0121】
いま、ブレーキペダル踏力Fpの値が前記非ブレーキ操作判定基準値F0を超えた直後であるものとすると、図8のステップ800〜815、870の一連の処理を繰り返し実行していたCPU51は、ステップ805に進んだとき「Yes」と判定してステップ820に進むようになる。
【0122】
ステップ820に進むと、CPU51はホイールトルクセンサ42**により検出されている車輪**についてのホイールトルクTw**の値と、路面摩擦力センサ43**により検出されている車輪**についての路面摩擦力Ft**の値と、上記数1に相当するステップ820内に記載の式とに基づいて車輪**についての慣性トルクTine**を算出する。
【0123】
次いで、CPU51はステップ825に進んで、ステップ820の処理にて使用したホイールトルクTw**の値から前回の本ルーチン実行時においてステップ870の処理にて設定されている前回のホイールトルクTwb**の値を減じた値を車輪**についてのホイールトルク偏差ΔTw**として設定する。
【0124】
次に、CPU51はステップ830に進み、前記ホイールトルク偏差ΔTw**を本ルーチンの演算周期Δtで除した値を車輪**についてのホイールトルク増加速度dTw/dt**として設定する。続いて、CPU51はステップ835に進んで、車体減速度センサ44により検出されている車体減速度dV/dtの値と、前記ステップ830にて設定されたホイールトルク増加速度dTw/dt**の値と、上記数2に相当するステップ835内に記載の式に基づいて車輪**についての基準値α**を計算する。
【0125】
次いで、CPU51はステップ840に進み、路面摩擦力Ft**の値が現時点で設定されている(仮の)推定最大路面摩擦力Fmax**よりも大きいか否か、又は、ステップ820にて計算した慣性トルクTine**の値がステップ835にて計算した基準値α**よりも大きいか否かを判定する。
【0126】
現時点では、仮の推定最大路面摩擦力Fmax**は十分に大きい前記値Finiに設定されている。また、現時点は、ブレーキペダル踏力Fpの値が前記非ブレーキ操作判定基準値F0を超えた直後であるから車輪**のスリップ率S**は最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えておらず、従って、慣性トルクTine**の値は基準値α**を超えていない。従って、CPU51はステップ840にて「No」と判定してステップ860に直ちに進む。
【0127】
ステップ860に進むと、CPU51は路面摩擦力Ft**に基づくトルクFt**・Rtの値がホイールトルクTw**よりも大きくなっているか否かを判定する。現時点では路面摩擦力Ft**に基づくトルクFt**・Rtの値はホイールトルクTw**よりも小さいから、CPU51はステップ860にて「No」と判定してステップ870に直ちに進み、前記ホイールトルクTw**の値を前回のホイールトルクTwb**として設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0128】
以降、車輪**のスリップ率S**が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えない限りにおいて(即ち、ステップ840にて「Yes」と判定されない限りにおいて)、CPU51はステップ800、805、820〜840、860、870の一連の処理を繰り返し実行する。
【0129】
同様に、いま、ブレーキペダル踏力Fpの値が前記非ブレーキ操作判定基準値F0を超えた直後であるものとすると、図9のステップ900〜910の一連の処理を繰り返し実行していたCPU51は、ステップ905に進んだとき「Yes」と判定してステップ915に進むようになる。
【0130】
ステップ915に進むと、CPU51は踏力センサ45により検出されているブレーキペダル踏力Fpの値と、図7のステップ725の処理(或いは、ステップ715の処理)により設定されている最新の車輪**についての必要制御量G**の値(現段階では「0」である。)と、ステップ915内に記載の関数gとに基づいて車輪**についての目標ブレーキトルクTd**を算出する。
【0131】
次に、CPU51はステップ920に進んで、車体減速度センサ44により検出されている車体減速度dV/dtの値と、後述する車輪**についての最新推定最大路面摩擦力設定時スリップ率Sc**の値と、上記数5に相当するステップ920内に記載の式とに基づいて車輪**についての所定値β**を算出する。
【0132】
続いて、CPU51はステップ925に進んで、非設定中フラグUNSET**の値が「1」であるか否かを判定する。現段階では、先の図8のステップ815の処理により非設定中フラグUNSET**の値が「1」になっている。従って、CPU51はステップ925にて「Yes」と判定してステップ930に進み、現時点での仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値と、現時点でのホイールトルクTw**の値に先の図8のステップ825の処理にて設定されている最新のホイールトルク偏差ΔTw**の値を加えた値をタイヤ半径Rtで除した値と、のうち大きい方の値を新たな仮の推定最大路面摩擦力Fmax**として設定する。
【0133】
現段階では、仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値は十分に大きい値Finiになっているから、仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値は更新されず、値Finiのまま維持される。
【0134】
続いて、CPU51はステップ935に進み、ステップ915の処理にて算出された目標ブレーキトルクTd**の値と、ステップ930の処理にて設定された(仮の)推定最大路面摩擦力Fmax**の値とステップ920の処理にて算出された所定値β**の値とに基づく値(Fmax**・Rt+β**)と、のうち小さい方の値を車輪**についての指示ブレーキトルクTout**として設定した後、ステップ995に進んで本ルーチンを一旦終了する。現段階では、仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値が十分に大きいから、指示ブレーキトルクTout**の値は目標ブレーキトルクTd**の値と等しい値となる。
【0135】
以降、車輪**のスリップ率S**が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えない限りにおいて(即ち、図8のステップ840にて「Yes」と判定されない限りにおいて)、CPU51はステップ900、905、915〜935の一連の処理を繰り返し実行する。これにより、指示ブレーキトルクTout**の値がブレーキペダル踏力Fpの増加に応じて増加していき、この結果、図10のルーチンの繰り返し実行により車輪**についてのブレーキ液圧Pw**がブレーキペダル踏力Fpの増加に応じて増加していくことになる。
【0136】
次に、このような状態から所定時間が経過して、ブレーキペダル踏力Fpの値が車輪**のスリップ率S**が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超える程度まで増加した場合(即ち、慣性トルクTine**の値が基準値α**を超える場合)について説明する。
【0137】
いま、車輪**のスリップ率S**が最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えた直後であるものとすると、図8のステップ800、805、820〜840、860、870の一連の処理を繰り返し実行していたCPU51は、ステップ840に進んだとき「Yes」と判定してステップ845に進むようになる。
【0138】
ステップ845に進むと、CPU51は現時点で路面摩擦力センサ43**により検出されている路面摩擦力Ft**の値を(実質的な)推定最大路面摩擦力Fmax**として(初めて)設定し、続くステップ850にて非設定中フラグUNSET**の値を「1」から「0」に変更するとともに、続くステップ855にて現時点で図6のステップ615の処理にて計算されている最新のスリップ率S**の値を車輪**についての最新推定最大路面摩擦力設定時スリップ率Sc**として設定する。
【0139】
そして、CPU51は前述したステップ860の判定にて「No」と判定してステップ870に直ちに進み、前記ホイールトルクTw**の値を前回のホイールトルクTwb**として設定した後、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0140】
以降、ステップ840にて「Yes」と判定されない限りにおいて、CPU51はステップ800、805、820〜840、860、870の一連の処理を繰り返し実行することで、非設定中フラグUNSET**の値を「0」に維持したまま推定最大路面摩擦力Fmax**の値を一定に維持する。一方、ステップ840にて「Yes」と判定される場合、即ち、路面状態の僅かな変化により路面摩擦係数が僅かに増大して路面摩擦力Ft**の値が推定最大路面摩擦力Fmax**よりも大きくなる場合、或いは、路面状態の変化により路面摩擦係数が低下して慣性トルクTine**の値が再び基準値α**よりも大きくなる場合においては、CPU51はステップ800、805、820〜860、870の一連の処理を繰り返し実行することで、非設定中フラグUNSET**の値を「0」に維持したまま推定最大路面摩擦力Fmax**の値を適宜、増減(更新)していく。
【0141】
このように、非設定中フラグUNSET**の値が「0」に設定・維持されるようになると、図9のステップ900、905、915〜935の一連の処理を繰り返し実行していたCPU51は、ステップ925に進んだとき「No」と判定してステップ935に直ちに進み、ステップ930の処理を実行しないようになる。
【0142】
即ち、ステップ935の処理においては、図8のルーチンにて設定・更新されている(実質的な)推定最大路面摩擦力Fmax**の値と、ステップ920の処理にて計算されている所定値β**の値とに基づく値(Fmax**・Rt+β**)が車輪**についての指示ブレーキトルクTout**の上限値として設定されるようになる。
【0143】
以降、非設定中フラグUNSET**の値が「0」に維持されている限りにおいて(即ち、図8のステップ805にて「No」と判定されない、或いは、後述するステップ860にて「Yes」と判定されない限りにおいて)、CPU51はステップ900、905、915〜925、935の一連の処理を繰り返し実行する。
【0144】
これにより、ブレーキペダル踏力Fpが更に増大していっても指示ブレーキトルクTout**の値が前記上限値(Fmax**・Rt+β**)に制限される。この結果、図10のルーチンの繰り返し実行により車輪**についてのブレーキ液圧Pw**(従って、車輪**に働く実際のブレーキトルク)は、ブレーキペダル踏力Fpの更なる増大にもかかわらず、車輪**についての実際のスリップ率S**が前記最新推定最大路面摩擦力設定時スリップ率Sc**に維持されるように(即ち、路面摩擦力Ft**が推定最大路面摩擦力Fmax**に維持されるように)制御されることになる。
【0145】
次に、このような状態から路面の状態が急変して、同一のスリップ率S**における路面摩擦力Ft**が大きく増大する場合、即ち、ホイールトルクTw**よりも路面摩擦力Ft**に基づくトルクFt**・Rtが大きくなる場合について説明する。
【0146】
この場合、図8のルーチンを繰り返し実行しているCPU51は、ステップ860に進んだとき「Yes」と判定してステップ865に進むようになる。ステップ865に進むと、CPU51は非設定中フラグUNSET**の値を「0」から「1」に変更する。これにより、実質的な推定最大路面摩擦力Fmax**の設定が解除され、路面状態が急変した直後にステップ845の処理により更新された推定最大路面摩擦力Fmax**の値(即ち、前記大きく増大した路面摩擦力Ft**の値)が仮の推定最大路面摩擦力Fmax**として扱われることになる。
【0147】
この非設定中フラグUNSET**の値の「0」から「1」への変更に伴って、図9のステップ900、905、915〜925、935の一連の処理を繰り返し実行していたCPU51はステップ925に進んだとき「Yes」と判定して前述のステップ930の処理を再び実行するようになる。
【0148】
これにより、指示ブレーキトルクTout**の上限値が実質的に設定されないようになる。即ち、仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値は、先ずは、ステップ930の処理により現時点での仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値である前記大きく増大した路面摩擦力Ft**の値に維持され、この結果、ステップ935の処理にて指示ブレーキトルクTout**の値が上記設定されていた上限値よりも大きい値に設定され得る。
【0149】
この結果、ブレーキペダル踏力Fpを更に増大させること等により、ブレーキ液圧Pw**(従って、ホイールトルクTw**)が更に増大され得るようになる。これに伴い、値(Tw**+ΔTw**)/Rtが前記維持されていた仮の推定最大路面摩擦力Fmax**の値よりも大きくなると、以降、ステップ930の処理により仮の推定最大路面摩擦力Fmax**が次第に大きくなり得る同値(Tw**+ΔTw**)/Rtに逐次更新されていくようになり、この結果、ステップ935の処理により、指示ブレーキトルクTout**の値が更に大きい値に設定されていく。このような処理の繰り返しにより、指示ブレーキトルクTout**は前記ホイールトルク偏差ΔTw**の値に応じた速度で際限なく増大し得るようになる。
【0150】
そして、かかるホイールトルクTw**の増大に伴って車輪**のスリップ率S**が新たな路面の最大路面摩擦力が発揮され得る値を超えると慣性トルクTine**の値が基準値α**を超えるようになるから、CPU51は図8のステップ840に進んだとき、再び「Yes」と判定してその時点での路面摩擦力Ft**の値を新たな実質的な推定最大路面摩擦力Fmax**として再設定するとともに、非設定中フラグUNSET**の値を「1」から「0」に変更する。この結果、以降、非設定中フラグUNSET**の値が「0」に維持されている限りにおいて、図8のルーチンにて設定・更新されている推定最大路面摩擦力Fmax**の値に基づく値(Fmax**・Rt+β**)が指示ブレーキトルクTout**の上限値として再び設定されていくようになる。
【0151】
このようにして、推定最大路面摩擦力Fmax**、及び指示ブレーキトルクTout**の上限値が車輪毎に設定・更新されていく。そして、このような状態から運転者がブレーキペダル操作を終了し、ブレーキペダル踏力Fpの値が「0」になると(及び、車輪**についての自動ブレーキ制御が不要(従って、CONT**=0)であるとき)、CPU51は図8のステップ805にて「No」と判定して非設定中フラグUNSET**の値を「0」から「1」に変更する。この結果、推定最大路面摩擦力Fmax**の設定が解除される(仮の推定最大路面摩擦力Fmax**が値Finiに設定される)とともに、指示ブレーキトルクTout**の上限値の設定も解除される。
【0152】
以上、説明したように、本発明による最大路面摩擦力推定装置を含んだブレーキトルク制御装置によれば、慣性トルクTineが前記基準値αを超えたことを判定するのみで最大路面摩擦力(推定最大路面摩擦力Fmax)を精度良く推定することができた。また、設定された推定最大路面摩擦力Fmaxはその後の路面状態の変化に応じて適切に増減(更新)されていくから、路面状態に応じて時々刻々と変化し得る最大路面摩擦力をより一層正確、且つ確実に推定することができた。
【0153】
また、このように設定・更新される推定最大路面摩擦力Fmaxに基づいて指示ブレーキトルクToutの上限値を設定して同指示ブレーキトルクToutを算出するから、指示ブレーキトルクToutの上限値、従って、ABS制御を実行する際の指示ブレーキトルクToutの目標値が一つの値として明確に設定される。従って、ブレーキ液圧を加圧・減圧制御することでブレーキトルクを制御する場合においてより緻密に同ブレーキ液圧の加圧・減圧制御が実行され得るようになり、その結果、ブレーキ液圧の余分な減圧を大きく行うことが回避された。
【0154】
従って、本発明による最大路面摩擦力推定装置を含んだブレーキトルク制御装置は、例えば、通常のタイヤに比して大きい最大摩擦係数(最大摩擦力)を有する一方で、スリップ率が同最大摩擦力が発揮され得るスリップ率から離れるに従って摩擦係数(摩擦力)が急激に減少する特性を有するタイヤを装着した車両に適用されると、制動距離を効果的に短縮させることができる。
【0155】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態においては、路面摩擦力に基づくトルクFt・RtがホイールトルクTwよりも大きくなったときに推定最大路面摩擦力Fmaxの設定を解除するように構成されているが(ステップ860を参照)、路面摩擦力に基づくトルクFt・Rtが指示ブレーキトルクToutよりも大きくなったときに推定最大路面摩擦力Fmaxの設定を解除するように構成してもよい。
【0156】
また、上記実施形態においては、ホイールトルクTwと路面摩擦力Ftとに基づいて慣性トルクTineを算出しているが(ステップ820を参照)、車輪速度センサにより得られる車輪角速度ωを時間微分した車輪角加速度(従って、タイヤの角加速度)dω/dtに慣性モーメントIを乗じた値を慣性トルクTineとして計算するように構成してもよい。
【0157】
また、上記実施形態においては、車体減速度dV/dtを車体減速度センサにより物理的に直接検出することで取得するように構成されているが、車両の質量mを検出する車両質量センサを備えている場合においては、各車輪についての路面摩擦力Ft**の総和ΣFt**を車両質量mで除した値を車体減速度dV/dtとして計算するように構成してもよい。
【0158】
また、上記実施形態においては、前記基準値αをホイールトルクの増加速度dTw/dtに応じて設定しているが(ステップ835を参照)、路面摩擦力Ftの増加速度、或いは指示ブレーキトルクToutの増加速度に応じて同基準値αを設定するように構成してもよい。
【0159】
また、上記実施形態においては、推定最大路面摩擦力Fmaxが実質的に設定されていない間(即ち、仮の推定最大路面摩擦力Fmaxが設定されている間)、指示ブレーキトルクToutはホイールトルク偏差ΔTw**の値に応じた速度で増大し得るように構成されているが(ステップ930を参照)、指示ブレーキトルクToutが目標ブレーキトルクTdに応じて増大し得るように構成してもよい。
【0160】
また、上記実施形態においては、制動距離を最短とすることを最優先にするため、指示ブレーキトルクToutの上限値を設定する際に使用する所定値βを、車体減速度dV/dtと、最新の推定最大路面摩擦力Fmaxが設定(更新)された時点でのタイヤのスリップ率Scとに基づいて設定するように構成されているが(ステップ920を参照)、制動距離を最短とすることよりも車両の安定性を優先する場合には、車両の安定性を優先する程度に応じて同所定値βをステップ920にて計算される値よりも小さい値に設定すればよい。
【0161】
また、上記実施形態においては、ブレーキ液圧制御装置30は、正常である限りにおいて、マスタシリンダMCと各ホイールシリンダWとを常時遮断した状態でブレーキペダル踏力に応じて各ホイールシリンダ液圧を制御する構成を有しているが、自動ブレーキ制御が不要(即ち、必要制御量Gが「0」)であって、且つ、ブレーキペダル踏力Fpのみに応じて指示ブレーキトルクToutが設定される間(従って、実質的な推定最大路面摩擦力Fmaxが設定されていない間)においてのみ、マスタシリンダMCと各ホイールシリンダWとを連通させるように構成してもよい。
【0162】
また、上記実施形態においては、ブレーキ作動時において推定最大路面摩擦力Fmaxを設定するように構成されているが、タイヤの角加速度dω/dt、ホイールトルクTw、及び路面摩擦力Ftの符号を逆に設定することで、加速時における駆動輪についても同様に推定最大路面摩擦力Fmaxを設定することができる。従って、上記実施形態を、例えば、周知のトラクション制御等の駆動力制御に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態に係る最大路面摩擦力推定装置を含んだブレーキトルク制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】 図1に示したブレーキ液圧制御装置の概略構成図である。
【図3】 制動時においてタイヤに働く力・トルクを示した図である。
【図4】 一般的なタイヤのスリップ率と路面摩擦力との関係を示した図である。
【図5】 タイヤのスリップ率と路面摩擦力との関係を濡れた路面と乾いた路面とで比較しながら示した図である。
【図6】 図1に示したCPUが実行する車輪速度等を算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図7】 図1に示したCPUが実行する自動ブレーキ制御時の必要制御量を設定するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図8】 図1に示したCPUが実行する推定最大路面摩擦力の設定・更新を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【図9】 図1に示したCPUが実行する指示ブレーキトルクを算出するためのルーチンを示したフローチャートである。
【図10】 図1に示したCPUが実行するブレーキトルク制御を行うためのルーチンを示したフローチャートである。
【符号の説明】
10…ブレーキトルク制御装置、30…ブレーキ液圧制御装置、40…センサ部、41**…車輪速度センサ、42**…ホイールトルクセンサ、43**…路面摩擦力センサ、44…車体減速度センサ、45…踏力センサ、46**…ブレーキ液圧センサ、50…電気式制御装置、51…CPU

Claims (10)

  1. 車両が走行している路面と同車両のタイヤとの間に発生している摩擦力を路面摩擦力として取得する路面摩擦力取得手段と、
    前記タイヤの角加速度に基づく角加速度対応値を取得する角加速度対応値取得手段と、
    前記角加速度対応値取得手段により取得された角加速度対応値が所定の基準値を超えたときにおいて前記路面摩擦力取得手段により取得されている路面摩擦力を推定最大路面摩擦力として設定する推定最大路面摩擦力設定手段と、
    を備えた最大路面摩擦力推定装置において、
    前記推定最大路面摩擦力設定手段は、
    既に前記推定最大路面摩擦力が設定されている場合において、前記取得された路面摩擦力が同設定されている推定最大路面摩擦力より大きくなったとき、及び/又は前記取得された角加速度対応値が前記基準値を超えたとき、同取得された路面摩擦力を新たな推定最大路面摩擦力として更新するように構成された最大路面摩擦力推定装置
  2. 請求項1に記載の最大路面摩擦力推定装置であって、
    前記車両に働く車体前後方向の減速度を車体減速度として取得する車体減速度取得手段を更に備え、
    前記推定最大路面摩擦力設定手段は、前記取得された車体減速度に応じて前記基準値を変更するように構成された最大路面摩擦力推定装置。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の最大路面摩擦力推定装置であって、
    前記タイヤに対応する車軸に発生するトルクをホイールトルクとして取得するホイールトルク取得手段を更に備え、
    前記角加速度対応値取得手段は、前記取得されたホイールトルクと前記取得された路面摩擦力とに基づいて前記角加速度対応値を算出するように構成された最大路面摩擦力推定装置。
  4. 請求項3に記載の最大路面摩擦力推定装置において、
    前記推定最大路面摩擦力設定手段は、前記取得されたホイールトルクと前記取得された路面摩擦力の少なくとも一つの増加速度を求めるとともに、同増加速度に応じて前記基準値を変更するように構成された最大路面摩擦力推定装置。
  5. 請求項1又は請求項2に記載の最大路面摩擦力推定装置であって、
    前記タイヤが装着された車輪の車輪角速度を取得する車輪角速度取得手段を更に備え、
    前記角加速度対応値取得手段は、前記取得された車輪角速度に基づいて前記角加速度対応値を算出するように構成された最大路面摩擦力推定装置。
  6. 請求項5に記載の最大路面摩擦力推定装置において、
    前記推定最大路面摩擦力設定手段は、前記取得された路面摩擦力の増加速度を求めるとともに、同増加速度に応じて前記基準値を変更するように構成された最大路面摩擦力推定装置。
  7. 請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の最大路面摩擦力推定装置を搭載した車両に適用され、
    前記車両の状態に応じて指示ブレーキトルクを算出するとともに、前記タイヤを制動するために同タイヤに働く実際のブレーキトルクが前記指示ブレーキトルクになるように同実際のブレーキトルクを制御するブレーキトルク制御手段を備えたブレーキトルク制御装置において、
    前記ブレーキトルク制御手段は、
    前記最大路面摩擦力推定装置により前記推定最大路面摩擦力が設定されている間においては、同推定最大路面摩擦力を前記タイヤに働くトルクに換算した値に所定値を加算した値を上限値として前記指示ブレーキトルクを算出するように構成されたブレーキトルク制御装置。
  8. 請求項7に記載のブレーキトルク制御装置であって、
    前記車両に働く車体前後方向の減速度を車体減速度として取得する車体減速度取得手段を更に備え、
    前記ブレーキトルク制御手段は、前記取得された車体減速度に応じて前記所定値を変更するように構成されたブレーキトルク制御装置。
  9. 請求項7又は請求項8に記載のブレーキトルク制御装置において、
    前記ブレーキトルク制御手段は、
    前記算出された指示ブレーキトルクと、前記最大路面摩擦力推定装置が前記タイヤに対応する車軸に発生するトルクをホイールトルクとして取得するホイールトルク取得手段を備えている場合における同取得されたホイールトルクの少なくとも一つよりも前記最大路面摩擦力推定装置の前記路面摩擦力取得手段により取得された路面摩擦力を前記タイヤに働くトルクに換算した値が大きくなったとき、前記最大路面摩擦力推定装置による前記推定最大路面摩擦力の設定を解除せしめるとともに、
    前記最大路面摩擦力推定装置により前記推定最大路面摩擦力が設定されていない間においては、上限値を設定することなく前記指示ブレーキトルクを算出するように構成されたブレーキトルク制御装置。
  10. 請求項7乃至請求項9の何れか一項に記載のブレーキトルク制御装置において、
    前記ブレーキトルク制御手段は、
    前記算出された指示ブレーキトルクの増加速度を求めるとともに、同増加速度に応じて、前記最大路面摩擦力推定装置の前記推定最大路面摩擦力設定手段が使用する前記基準値を変更せしめるように構成されたブレーキトルク制御装置。
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