JP4242621B2 - プラスチック光学部品の射出成形方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、カメラ等の光学系に用いられる高度な光学性能を必要とするプラスチック光学部品の射出成形方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の様々な射出成形方法や製造機器の開発によりプラスチック光学部品の製造がなされている。例えば、特開平11−28745号公報には、低歪みのプラスチック光学部品の成形方法が記載されている。プラスチック光学部品の場合には、部品内部の残留応力の緩和と光学面の形状精度を確保することが成形の課題であり、レーザプリンタ等に用いられるfθレンズにおいても、これらの課題が原因で従来はガラスからなるレンズが用いられてきた。特開平11−28745号公報記載の方法では、キャビティに設けた移動駒と樹脂の間に空隙を形成して製品の一部にヒケを誘発させ、ヒケ誘発部位を自由面として変形させることにより、冷却収縮に伴う内部歪みの発生を吸収させ、光学面の形状精度向上及び複屈折の低減を可能にしており、これにより、fθレンズのプラスチック化を可能としている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平11−28745号公報記載の方法は、非光学面にヒケを誘発させるために移動駒と樹脂の間に強制的に空隙を画成しているが、これでは移動駒と樹脂の間に空気の断熱層ができるものとなっている。従って、この方法では、断熱層により空隙部分に面しているキャビティ面(ここでは非光学面)からの樹脂の冷却速度と、移動駒以外の移動しない他の駒が接触している樹脂面からの冷却速度に差異が生じることから、結果的に不均一な冷却となり局部的な歪みや屈折率の分布が生成している。
【0004】
また、空気の断熱層により、キャビティ部の樹脂に冷却速度が著しく低下する部分が生じるために却って成形サイクルタイムが長いものとなっている。このように成形サイクルが長くなることは、プラスチック射出成形の長所である量産性、コストメリットを損なう要因となるものである。
【0005】
さらには、金型内部あるいは外部に移動駒を摺動させ、強制的に空隙を画成するための特別な油圧回路、空圧回路、電動モータ等の圧力制御機構が必要であるため、金型機構が複雑になると共に金型コストが高くなり、プラスチック化のメリットが最大限発揮できない問題を有している。
【0006】
本発明はこれらの問題点を考慮してなされたものであり、短い成形サイクルで成形品内部の歪みを均一に抑え、面形状精度や屈折率分布などの光学特性が優れた低コストのプラスチック光学部品を製造することが可能なプラスチック光学部品射出成形方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明のプラスチック光学部品の射出成形方法は、溶融樹脂を金型のキャビティに射出・充填し、転写圧力を発生させて樹脂に所望形状を転写してプラスチック光学部品を成形した後、冷却し、該プラスチック光学部品を金型内から取り出す射出成形方法において、前記光学部品の非光学面を成形する移動可能な入子を含む部材でキャビティを形成し、前記キャビティ内部の圧力をP、キャビティ容積をVとした場合、前記キャビティに樹脂を充填し、前記キャビティ内部の樹脂に圧力を加えてキャビティ形状を転写させる際のP×Vを、成形の1サイクル内で最大値とした後、前記移動可能な入子を樹脂の転写圧力によって後退させることにより、キャビティ容積を拡大して前記最大値よりも小さいP×Vの第2のピークを形成し、その後、前記移動可能な入子の転写面と樹脂とを密着させた状態で樹脂の冷却収縮に伴って入子を追従して移動させることによりP×Vを減少させることを特徴とする。
【0008】
図1は、通常の成形時のキャビティ内圧Pとキャビティ容積Vとの積の変化を時間に応じてプロットした特性図を示す。P×Vは射出充填、保圧により立ち上がりがあり、ピーク圧を発生させることで、時刻A1で最大値が発生する。その後、冷却に伴う樹脂の収縮が開始されることにより圧力の低下が起こり、P×Vも漸次減少する。
【0009】
ここで、保圧完了後は冷却による収縮がさらに進行し、キャビティ内圧Pは一層低下する。一方、樹脂温度はスキン層を形成しながら金型のキャビティ部に充填されるため、充填当初よりキャビティ表面部とキャビティ中心部には温度差があるところから断面方向に温度分布を有している。キャビティ内の樹脂は金型からの製品の取り出しによる変形を発生させない弾性強度を有する程度に冷却されることにより、温度の観点からは取り出しが可能であるが、実際にはキャビティ内圧が分布を有して残留しているため、取り出しにより成形品は急激に膨張し、特に内圧が高い部分周辺の面が大きく膨張変形する。従って、取り出し時期が早いとキャビティ内圧が多く残留しているため、取り出しによる成形品の膨張が一段と大きくなり、その後の冷却による収縮を含め本来目的としている形状に対する移動変位が大きくなるため高精度な光学面形状を得ることが困難となる。
【0010】
図2は、上述した本発明のP×Vを時間に応じてプロットした特性図である。時刻A1でP×Vの最大値を発生させる点は、通常の成形と同じである。その後、1つ以上の移動可能な非光学面を有する入子を樹脂の転写圧力によって移動させて樹脂のキャビティの容積を拡大する。これにより、時刻A2で最大値よりは小さいP×Vの第2のピークを発生させる。そして、その後、樹脂の冷却を行うが、このときには、非光学面を有した入子の転写面と樹脂とを密着させた状態で樹脂の冷却収縮に伴って入子を追従して移動させることによりP×Vを減少させる。
【0011】
このような成形では、本来必要な光学面を形成する対応樹脂部分を金型に密着させ保持した状態でキャビティ内圧、すなわち転写圧を低下させることにより、特に残留応力が高くなっている部分の圧力を緩和させることができ、成形サイクルを長くすることなく、取り出し後の樹脂表面の移動変位が低減でき、良質の面形状精度のプラスチック光学部品とすることが可能となる。
【0012】
また、成形に際しては、光学面を形成する対応樹脂部分が金型に密着するだけの圧力が残留していれば良く、余分なキャビティ圧力を開放することができるため、冷却固化に伴い余計な圧力を封じ込めることがなく、歪みの少ない良質な光学特性のプラスチック光学部品を得ることが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
図3及び図4は、本発明の実施の形態における成形状態を示し、キャビティ1が、光学面2を有する固定入子7と、非光学面3を有する移動入子4と、突き出しピン5(以下、Eピン5と称する)と、ゲート部6とによって形成されている。キャビティ1は図示を省略したスプルー部及びランナー部を流動し、ゲート部6から射出された溶融樹脂が充填されることにより成形品であるプラスチック光学部品を形成する。また、移動入子4には位置センサ(図示省略)が設けられて、移動入子4の移動に伴うキャビティ1の容積の変化が計測される。さらに、Eピン5の後端には、図示を省略した圧力センサーが取付けられることにより、キャビティ1内の内圧が測定される。ここで、非光学面3を有する移動入子4は、キャビティ1に充填された樹脂の転写圧力によって移動可能になっている。
【0014】
射出成形機の加熱シリンダによって溶融・計量された光学樹脂は、所定の射出率で金型内のキャビティ1に射出充填される。射出充填の後、保圧を加え必要な転写圧力を発生させることによりキャビティ1の形状を反転させる。この際、Eピン5を介し圧力センサーによってキャビティ1の内圧を測定する一方、移動入子4を介してキャビティ1の容積をそれぞれ測定する。
【0015】
樹脂の充填を完了し、成形品に変形が発生しない表面の弾性強度を得た後、樹脂の押圧力、すなわち転写圧力によって移動入子4をキャビティ容積が拡大する方向に移動させる(図4参照)。このとき、キャビティ1の内圧Pとキャビティ1の容積Vの積P×Vが充填直後の最大値を超えない範囲の第2のピークが発生する(図2参照)。その後、キャビティ1内の樹脂は冷却されるにつれ収縮して行くが、収縮に追従して移動入子4を樹脂の収縮方向に移動させる。
【0016】
このような射出成形では、固定入子7、移動入子4の各入子の転写面を転写させ、成形品に変形が発生しない表面の弾性強度を得た後、非光学面3を有する移動入子4を樹脂圧力によって移動(後退)させることにより、光学面を金型内に保持した状態でキャビティ1内の樹脂の比容積を低下させるため、変形させることなくキャビティ1内の余分な樹脂圧力を効率的に降下させることが可能となり、光学部品中に応力・歪みを封じ込めることがなくなる。また、非光学面3を有する移動入子4は、樹脂の収縮に追従して移動するため、各入子4,7が樹脂に常に接触しており、各面からの樹脂冷却速度に差が生じることなく冷却することが可能となる。従って、これらにより、不要圧力の解放、冷却を効率的に促進でき、短いサイクルで歪みが少なく均質で高い光学面精度を有したプラスチック光学部品を成形することが可能となる。
【0017】
表1は、実施の形態1及び2、比較例1及び2における成形及びその評価を示す。実施の形態1及び2では、P×Vの最大値に対してP×Vの第2のピークを0.8及び0.6の比とし、比較例1では、第2のピークをP×Vの最大値よりも大きな1.2の比とし、比較例2では0.3の比としている。図5は、このときの比較例1の特性図、図6は比較例2の特性図である。
【0018】
【表1】
【0019】
表1から、比較例1及び2に対し実施の形態1及び2では、成形品の品質が良好であると共に、成形のサイクルタイムが短くなっている。これは、実施の形態1及び2が、入子の転写面を転写させ、成形品に変形が発生しない表面の弾性強度を得た後、非光学面3を有する移動入子4を樹脂圧力によって移動させ、光学面を金型内に保持した状態でキャビティ内の樹脂の比容積を低下させるため、変形を伴うことなくキャビティ内の余分な樹脂圧力を効率的に降下させることが可能で、光学部品中に応力・歪みを封じ込めることがないためである。
【0020】
なお、表1において、P×Vの最大値と第2のピークの比は0.8、0.6としているが、0.45〜0.9の範囲であれば同様な効果が得られる。この比は、0.5〜0.9であればさらに良く、0.6〜0.8であればより良く、0.6〜0.75であれば特に良い。
【0021】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、成形品をキャビティの内部に保持した状態で効率的に応力緩和ができ、キャビティ内の樹脂を冷却することができるため、短いサイクルで歪みが少なく高精度な光学面形状精度を有したプラスチック光学部品を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】通常の成形におけるP×Vと時間との特性図である。
【図2】本発明におけるP×Vと時間との特性図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるキャビティを示す断面図である、
【図4】移動入子を移動させた状態を示す断面図である。
【図5】比較例1の成形におけるP×Vと時間との特性図である。
【図6】比較例2におけるP×Vと時間との特性図である。
【符号の説明】
1 キャビティ
2 光学面
3 非光学面
4 移動入子
7 固定入子
Claims (1)
- 溶融樹脂を金型のキャビティに射出・充填し、転写圧力を発生させて樹脂に所望形状を転写してプラスチック光学部品を成形した後、冷却し、該プラスチック光学部品を金型内から取り出す射出成形方法において、
前記光学部品の非光学面を成形する移動可能な入子を含む部材でキャビティを形成し、
前記キャビティ内部の圧力をP、キャビティ容積をVとした場合、前記キャビティに樹脂を充填し、前記キャビティ内部の樹脂に圧力を加えてキャビティ形状を転写させる際のP×Vを、成形の1サイクル内で最大値とした後、
前記移動可能な入子を樹脂の転写圧力によって後退させることにより、キャビティ容積を拡大して前記最大値よりも小さいP×Vの第2のピークを形成し、
その後、前記移動可能な入子の転写面と樹脂とを密着させた状態で樹脂の冷却収縮に伴って入子を追従して移動させることによりP×Vを減少させることを特徴とするプラスチック光学部品の射出成形方法。
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