JP4123508B2 - スイッチング電源装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スイッチング素子のゼロ電圧スイッチングを実現するスイッチング電源装置に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、電源システムにおける共通の技術的課題とは、システムの小型化,高効率化,低ノイズ化,低コスト化、高信頼性化である。とりわけ、スイッチング電源装置の小型化のためには、スイッチング周波数を高くしてトランス,インダクタ,コンデンサなどの回路部品を小型化する必要がある。しかし、スイッチング周波数の増加に伴いスイッチングロスが増加すると共に、駆動回路の寄生容量の充放電に伴うスイッチングロスも増加する。そこでスイッチングロスを低減し、周波数を高周波化して装置を小型化、高効率化する技術手段としてスイッチング周波数を基本波とする共振回路を用いたスイッチング電源が数多く提案されている。
【0003】
しかし、従来の電圧共振型スイッチング電源では、共振による電圧ストレスの増加に起因し、スイッチ素子の耐圧増加によるコストアップおよび高耐圧素子の内部抵抗増加によるオンロスの増加などが問題となる。また、電流共振型スイッチング電源では、ゼロ電流スイッチングによりスイッチングノイズが低減されるが、完全な電流共振状態では、スイッチ素子の寄生容量の充放電がハードスイッチングとなるため、周波数の高周波化に伴いスイッチングロスおよびスイッチングノイズが増加する。さらに、これらの電圧共振型および電流共振型スイッチング電源では、出力電圧の安定化を図るためにスイッチング素子を周波数制御する場合が多い。
【0004】
一方、2個のFETスイッチング素子を交互にオンオフし、負荷を誘導性負荷にし、スイッチング素子の寄生容量を充放電する期間に、双方のスイッチング素子がオフになるデッドタイムを設けると、次にオンになるFETのボディダイオードにオン期間の始まる時点で回生電流が流れ、この期間のスイッチング素子の両端電圧をゼロにする。そして、この期間にゲート電圧をオンにすれば、ゼロ電圧スイッチングが実現されるスイッチング電源装置も提案されている。この方法では電圧波形は矩形波となり、スイッチング素子のパルス導通幅(PWM)制御が可能となる。
【0005】
しかし、ゼロ電圧スイッチングを実現するためには、常にオン期間の始まる時点でFETのボディーダイオードに回生電流が流れる程度に、トランスまたはフィルタのインダクタンスを小さくする必要があり、その結果、回路には大きな無効電流が流れ、スイッチング素子およびコンデンサのコンダクションロスが増加する。こうした回路の無効電流を少なくするために、新たに転流用のインダクタと半導体の補助スイッチを回路に追加し、次の主スイッチング素子がオンする前に補助スイッチをオンにすれば、主スイッチング素子はゼロ電圧スイッチングの状態でオンできるが、補助スイッチまではゼロ電圧スイッチングにすることはできず、結局は新たなノイズを発生する原因ともなる。また、補助スイッチのタイミング回路および駆動回路も必要となり、コスト的に問題となる。
【0006】
本発明は、上記の課題に着目して成されたものであって、その目的は、デッドタイム生成用の回路を必要とせずに、常にゼロ電圧スイッチングを実現できるスイッチング電源装置を得ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1のスイッチング電源装置は、直列接続された一対の電圧源と、 この一対の電圧源の両端間に直列接続される第1および第2のスイッチング素子と、前記第1および第2のスイッチング素子の駆動回路とからなり、前記一対の電圧源の接続点と、前記第1および第2のスイッチング素子の接続点との間に負荷が接続されると共に、前記駆動回路は、第1の可飽和トランスの一次巻線および第1のダイオードからなる直列回路と、第2の可飽和トランスの一次巻線および第2のダイオードからなる直列回路とを、前記一対の電圧源の接続点と前記第1および第2のスイッチング素子の接続点との間にそれぞれ接続し、前記第1の可飽和トランスの一次巻線および前記第1のダイオードの接続点と、前記第2の可飽和トランスの一次巻線および前記第2のダイオードの接続点との間に、制御抵抗を接続し、前記第1および第2の可飽和トランスの二次巻線を、それぞれ駆動巻線として前記第1および第2のスイッチング素子の制御端子に接続して構成され、前記第1の可飽和トランスは、飽和するまでは二次巻線から発生する電圧により前記第1のスイッチング素子のオン状態を保持し、飽和するとその飽和インダクタンスを利用して、前記第1のスイッチング素子の制御端子に蓄積される電荷を放電し、かつ前記第1および第2のスイッチング素子に存在する寄生容量を充放電させ、飽和が開放すると前記制御抵抗に励磁電流を流し、前記第2の可飽和トランスは、飽和するまでは二次巻線から発生する電圧により前記第2のスイッチング素子のオン状態を保持し、飽和するとその飽和インダクタンスを利用して、前記第2のスイッチング素子の制御端子に蓄積される電荷を放電し、かつ前記第1および第2のスイッチング素子に存在する寄生容量を充放電させ、飽和が開放すると前記制御抵抗に励磁電流を流すように構成したものである。
【0008】
この場合、一方の電圧源から第1の飽和トランスの一次巻線に電圧が印加されると、第1の飽和トランスの磁心が飽和するまで第1のスイッチング素子をオンするに十分な電圧が二次巻線に発生する。やがて、第1の飽和トランスの磁心が飽和すると、第1の飽和トランスの飽和インダクタンスと第1のスイッチング素子の制御端子容量が共振して、第1のスイッチング素子の制御端子に蓄積した電荷が急速に放電し、この第1のスイッチング素子はターンオフする。さらには、可飽和トランスの飽和インダクタンスと第1および第2のスイッチング素子の寄生容量との間でも共振が生じ、第2のスイッチング素子はその両端間電圧がゼロの状態でターンオンできる。これは第2の飽和トランスについても同様で、第1のスイッチング素子はその両端間電圧がゼロの状態でターンオンできる。そして、これらの各スイッチング素子のオン・オフ動作に伴ない、各電圧源から負荷に交番電圧が供給される。
【0009】
このように、各スイッチング素子の寄生容量を充放電するだけでなく、スイッチング素子の制御端子に存在する駆動回路の寄生容量も、可飽和トランスの飽和に伴ない急速に放電させることができるので、電力損失を極めて小さくできる。しかも、各可飽和トランスのリセット時にのみ、制御抵抗に励磁電流が流れるので、各スイッチング素子の制御に際しては、この制御抵抗を調整するだけでよく、回路構成を簡単にできる。したがって、デッドタイム生成用の回路を必要とせずに、常にゼロ電圧スイッチングを実現できる。
【0010】
また本発明の請求項2におけるスイッチング電源装置は、前記制御抵抗を可変可能に構成したことを特徴とする。
【0011】
制御抵抗を可変すると、各可飽和トランスのリセット磁束が変化し、各スイッチング素子のパルス幅を制御できる。したがって、例えば負荷電力に応じて制御抵抗を可変するフィードバック回路を設けると、負荷に安定した電力を供給できる。
【0012】
また本発明の請求項3におけるスイッチング電源装置は、前記一対の電圧源の接続点と、前記第1および第2のスイッチング素子の接続点との間に主トランスの一次巻線を接続し、この主トランスの二次巻線に誘起される電圧を整流器で整流して前記負荷に供給する構成としたものである。
【0013】
このようにすると、直流動作の負荷に対して高効率で所望の電力を供給することができる。
【0014】
また本発明の請求項4におけるスイッチング電源装置は、前記主トランスの二次巻線と二次側コンデンサとの直列共振回路を接続して構成される。
【0015】
この場合、負荷への出力電流が増加しても、トランスの二次巻線と二次側コンデンサとによる直列共振回路により、力率は改善され効率は低下しない。
【0016】
【発明の実施形態】
以下、本発明におけるスイッチング電源装置の好ましい実施態様について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1〜図13は、本発明の第1実施例を示す基本回路図で、1,2は入力電源(図示せず)からの直流入力電圧Eiを印加する入力端子であって、この入力端子1,2間には、いずれもMOS型FETからなる第1のスイッチング素子FET1と第2のスイッチング素子FET2の直列回路と、直流入力電圧Eiの半分すなわち電圧Ei/2をその両端間に生成する同一特性のコンデンサC1,C2の直列回路がそれぞれ接続される。また、3はスイッチング素子FET1の発振起動用に接続された起動回路で、これは入力端子1,2間に接続される抵抗RbとコンデンサCbとの直列回路と、アノードを抵抗RbとコンデンサCbとの接続点に接続し、カソードをスイッチング素子FET1,FET2の接続点に接続したダイオードDbとにより構成される。図1では回路構成として明示していないが、スイッチング素子FET1,FET2のドレイン・ソース間には、ソースからドレインに向けて導通するボディダイオードDs1,Ds2と、寄生容量Cs1,Cs2が、それぞれスイッチング素子FET1,FET2の特性として存在する。
【0018】
4は、2個の可飽和トランスST1,ST2を備えたスイッチング素子FET1,FET2の駆動回路である。この駆動回路4は、カソードをスイッチング素子FET1,FET2の接続点に接続したダイオードD1と、アノードをスイッチング素子FET1,FET2の接続点に接続したダイオードD2と、ダイオードD1とアノードとダイオードD2のカソードとの間に接続した制御抵抗Rcと、ダイオードD1と抵抗Rcとの接続点に一次巻線Np1のドット側端子を接続し、コンデンサC1,C2の接続点に一次巻線Np1の非ドット側端子を接続した第1の可飽和トランスST1と、ダイオードD2と抵抗Rcとの接続点にドット側端子を接続し、コンデンサC1,C2の接続点に非ドット側端子を接続した第2の可飽和トランスST2とにより構成される。そして、第1の可飽和トランスST1の二次巻線は、前記第1のスイッチング素子FET1のゲート駆動巻線Ng1として、非ドット側端子がスイッチング素子FET1のゲートに接続され、ドット側端子が起動回路3を構成する抵抗RbとコンデンサCbとの接続点に接続される。また、第2の可飽和トランスST2の二次巻線は、前記第2のスイッチング素子FET2のゲート駆動巻線Ng2として、ドット側端子がスイッチング素子FET2のゲートに接続され、非ドット側端子がスイッチング素子FET2のソースに接続される。さらに負荷5は、スイッチング素子FET1,FET2の接続点と、コンデンサC1,C2の接続点との間に接続される。
【0019】
図2は、可飽和トランスST1,ST2の磁束密度B(B1,B2)と磁界の強さH(H1,H2)との関係を示すグラフである。可飽和トランスST1,ST2は同一特性を有し、図2に示すように、ヒステリシス面積ができる限り小さい理想ヒステリシスループで表わされるものと仮定して使用する。Ls1,Ls2は可飽和トランスST1,ST2の飽和インダクタンスであって、この値を調整するのに、外付けの線形インダクタンス素子を直列に追加してもよい。図1に示す回路では、可飽和トランスST1,ST2の磁束がマイナーループMLで動作するようになっている。また、可飽和トランスST1,ST2が飽和していない状態のインダクタンスLm1,Lm2は無限大になる。
【0020】
前記第1の可飽和トランスST1は、直列に接続されたダイオードD1を通して駆動され、別のダイオードD2および抵抗Rcを通してリセットされる。同様に、第2の可飽和トランスST2は、直列に接続されたダイオードD2を通して駆動され、別のダイオードD1および抵抗Rcを通してリセットされる。その際、リセット期間のみ抵抗Rcを通して励磁電流が流れるために、一次巻線Np1,Np2に加わる電圧は、駆動期間よりリセット期間の方が励磁電流と抵抗Rcとの積による電圧降下分だけ低くなり、各可飽和トランスST1,ST2の磁束は駆動期間に移動する側に偏磁し、それぞれ駆動期間の後半に飽和する。つまり、各可飽和トランスST1,ST2における磁束のリセット量の制御は、抵抗Rcを可変して簡単に行えるように構成されている。
【0021】
次に、図3〜図6に示す各状態毎の等価回路と、図7に示す可飽和トランスST1,ST2のヒステリシスループとを参照しながら、上記構成における動作を説明する。
【0022】
先ず電源が投入され、入力端子1,2間に所定の直流入力電圧Eiが印加されると、起動回路3の抵抗Rbを通してコンデンサCbが充電される。コンデンサCbの充電電圧は、可飽和トランスST1のゲート駆動巻線Ng1を経由してスイッチング素子FET1のゲートに加わり、スイッチング素子FET1のゲート閾値電圧に達すると、スイッチング素子FET1に電流が流れ、コンデンサC1の電圧、即ち、直流入力電圧Eiの半分の電圧Ei/2が可飽和トランスST1の一次巻線Np1に加わる。こうなると、磁気的に結合された一次巻線Np1からゲート駆動巻線Ng1への正帰還により、スイッチング素子FET1のゲート電圧は更に上昇して、このスイッチング素子FET1は急速にターンオンし、可飽和トランスST1が飽和するまでスイッチング素子FET1のオン状態が保持される。 スイッチング素子FET1がオンで、可飽和トランスST1が飽和するまでの状態は、図3の状態1にて等価的に表わせる。この状態1では、コンデンサC1の端子電圧Ei/2が負荷5に印加され、負荷5の一方向に電流が流れる。また、そのときの各可飽和トランスST1,ST2は、図7に示すヒステリシスループの「1」に相当する部分で、それぞれの磁束密度B1,B2が変化している。
【0023】
その後、可飽和トランスST1が飽和すると、ゲート駆動巻線Ng1のインピーダンスが極めて小さくなり、スイッチング素子FET1のゲート・ソース間容量とゲート駆動巻線Ng1の飽和インダクタンスLs1が共振する。この共振によって、スイッチング素子FET1のゲート・ソース間容量の電荷が急速に放電され、スイッチング素子FET1のゲート・ソース間電圧が閾値電圧以下になり、スイッチング素子FET1はターンオフする。可飽和トランスST1の磁心が飽和してスイッチング素子FET1がターンオフする期間、飽和インダクタンスLs1の電流は増加する。
【0024】
スイッチング素子FET1がターンオフすると、別のスイッチング素子FET2はオフ状態にあるために、可飽和トランスST1を構成する一次巻線Np1の飽和インダクタンスLs1とスイッチング素子FET1,FET2が共振して、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間の寄生容量Cs1は充電される一方で、スイッチング素子FET2のドレイン・ソース間の寄生容量Cs2は放電される。こうなると、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間の電圧VFET1はゼロから上昇してEiに達し、スイッチング素子FET2のドレイン・ソース間の電圧VFET2はEiから下降してゼロになる。この後、可飽和トランスST1に残留するエネルギーはスイッチング素子FET2のボディダイオードDs2を通して入力電源側に回生される。
【0025】
可飽和トランスST1が飽和した状態は、図4の状態2にて等価的に表わせる。このときの各可飽和トランスST1,ST2は、図7に示すヒステリシスループの「2」に相当する部分で、それぞれの磁束密度B1,B2が変化している。この状態2は、詳しくはさらにスイッチング素子FET1のゲート・ソース間容量とゲート駆動巻線Ng1の飽和インダクタンスLs1とによる共振期間と、一次巻線Np1の飽和インダクタンスLs1とスイッチング素子FET1,FET2の各寄生容量Cs1,Cs2とによる共振期間と、可飽和トランスST1の残留エネルギーの回生期間が存在する。
【0026】
寄生容量Cs1,Cs2の充放電に伴ない、可飽和トランスST2の電圧極性が反転すると、ダイオードD1はオフする一方で、別のダイオードD2はオンする。可飽和トランスST1が飽和から開放された時点の状態は、図5の状態3にて等価的に表わせる。このときの各可飽和トランスST1,ST2は、図7に示すヒステリシスループの「3」に相当する部分に、その磁束密度B1,B2が位置している。
【0027】
こうなると、可飽和トランスST2の一次巻線Np2からゲート駆動巻線Ng2への正帰還により、スイッチング素子FET2のゲート・ソース間に正の電圧が加わって、スイッチング素子FET2がターンオンする。この時点では、既にスイッチング素子FET2のドレイン・ソース間電圧は寄生容量Cs2が放電していてゼロとなっているので、デッドタイム生成用の特別な回路を必要とせずに、常に自動的にゼロ電圧スイッチングが実現される。そして、スイッチング素子FET2のオン状態は、可飽和トランスST2が飽和するまで保持される。
【0028】
このスイッチング素子FET2がオンで、可飽和トランスST2が飽和していない状態は、図6の状態4にて等価的に表わせる。この状態4では、コンデンサC2の端子電圧Ei/2が負荷5に印加され、状態1とは逆方向に負荷5への電流が流れる。
【0029】
その後、可飽和トランスST2が飽和すると、ゲート駆動巻線Ng2のインピーダンスが極めて小さくなり、スイッチング素子FET2のゲート・ソース間容量とゲート駆動巻線Ng2の飽和インダクタンスLs2との間で共振が生じる。この共振によって、スイッチング素子FET2のゲート・ソース間容量の電荷が急速に放電され、スイッチング素子FET2のゲート・ソース間電圧が閾値電圧以下になって、スイッチング素子FET2はターンオフする。可飽和トランスST2の磁心が飽和してスイッチング素子FET2がターンオフする期間、飽和インダクタンスLs2の電流は増加する。
【0030】
スイッチング素子FET2がターンオフすると、スイッチング素子FET1はオフ状態にあるため、一次巻線Np2の飽和インダクタンスLs2とスイッチング素子FET1,FET2が共振して、スイッチング素子FET2のドレイン・ソース間の寄生容量Cs2は充電される一方で、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間の寄生容量Cs1は放電される。すなわち、スイッチング素子FET2のドレイン・ソース間の電圧VFET2はゼロから上昇してEiに達し、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間の電圧VFET1はEiから下降してゼロになる。
【0031】
この後、可飽和トランスST2に残留するエネルギーはスイッチング素子FET1のボディダイオードDs1を通して入力電源側に回生される。寄生容量Cs1,Cs2の充放電に伴ない、可飽和トランスST1の電圧極性が反転すると、ダイオードD2はオフする一方で、別のダイオードD1はオンする。こうなると、可飽和トランスST2の一次巻線Np2からゲート駆動巻線Ng2への正帰還により、スイッチング素子FET1のゲート・ソース間に正の電圧が加わって、スイッチング素子FET2がターンオンする。この時点では、既にスイッチング素子FET1のドレイン・ソース間電圧は寄生容量Cs1が放電していてゼロとなっている。その後は、上記一連の動作が繰り返されることになる。
【0032】
次に、上記回路構成に基づく実験結果を図8以下で示す。図8は各部の波形で、トレース1はスイッチング素子FET1のドレイン・ソース間電圧(200V/1div),トレース2は可飽和トランスST1の一次巻線Np1を流れる電流(500mA/1div),トレース3は可飽和トランスST1のゲート駆動巻線Ng1の電圧(20V/1div),トレース4は可飽和トランスST1のゲート駆動巻線Ng1を流れる電流(1A/1div)を表わしていて、横軸の時間は1μs/1divである。また、これらの波形で細点線は各々ゼロ点を表している。
【0033】
t1〜t6は動作のタイミングを表しており、t1からt2までは可飽和トランスST1が飽和していない駆動期間、すなわち前述の状態1を表わしている。この期間t1〜t2において、スイッチング素子FET1のゲート・ソース間には、図8のトレース3に示すように、コンデンサC1にて生成される電源電圧Ei/2のNg1/Np1倍の電圧が加わりオン状態が保持される。この時、可飽和トランスST1にはトレース2に示すように、数mA程度の励磁電流が流れるのみである。
【0034】
t2の時点で可飽和トランスST1が飽和すると、可飽和トランスST1のゲート駆動巻線Ng1の飽和インダクタンスLs1と、スイッチング素子FET1のゲート・ソース間容量による共振が生じ、t2からt3にかけてトレース4に示す様なスイッチング素子FET1のゲート・ソース間容量を放電する逆向きの電流が流れる。このためトレース3に示すように、スイッチング素子FET1のゲート・ソース電圧は急速に減少し、スイッチング素子FET1はカットオフするが、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間容量により、その時点ではスイッチング素子FET1のドレイン・ソース間電圧はゼロに保たれるので、ゼロ電圧ターンオフが実現される。
【0035】
その後、一次巻線Np1の飽和インダクタンスLs1と、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間の寄生容量Cs1との共振により、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間の寄生容量Cs1を充電する電流と、スイッチング素子FET2のドレイン・ソース間の寄生容量Cs2を放電する電流が、トレース3に示すように、可飽和トランスST1の一次巻線Np1を通して流れる。このため、スイッチング素子FET1のドレイン・ソース間電圧は穏やかに上昇し、t4において電圧Eiに達する。一方、この時点で別のスイッチング素子FET2のドレイン・ソース間電圧はゼロまで減少し、その後、可飽和トランスST1に残存する磁気エネルギーはスイッチング素子FET2のボディダイオードDs2を通して電源側へ回生される。t4において、スイッチング素子FET2のゲート駆動巻線Ng2の電圧波形のオンタイミングは、ゲート駆動巻線Ng1のt1に相当するが、この時点はボディダイオードDs2を通して電源へ回生される期間になるので、スイッチング素子FET2のゼロ電圧ターンオンが実現される。
【0036】
本実施例における回路の制御特性について説明すると、各スイッチング素子FET1,FET2のオン期間は、半サイクル前における可飽和トランスST1,ST2の磁心のリセット量で決定される。したがって、専用のパルス発生用の回路を使用しなくても、各可飽和トランスST1,ST2の磁心のリセット量を制御するだけで、各スイッチング素子FET1,FET2に対するパルス周波数制御(PFM)やパルス導通幅制御(PWM)が可能である。
【0037】
ここでは、上記リセット量の制御の一例として、制御抵抗Rcを変化させてPFM制御を行う場合を示す。各スイッチング素子FET1,FET2の駆動時において、例えば一方の可飽和トランスST1の一次巻線Np1には、コンデンサC1の両端に発生する電源電圧Ei/2がダイオードD1を通して加えられる。これに対し、可飽和トランスST1の磁心のリセット時において、その一次巻線Np1には、ダイオードD2および制御抵抗Rcを通して電圧が加えられる。ここで、可飽和トランスST1の磁心が飽和していない時点では、一次巻線Np1に数mA程度の励磁電流が流れる。このため、可飽和トランスST1の駆動期間に比べリセット期間では励磁電流と制御抵抗Rcの積で求まる電圧降下の分だけ、一次巻線Np1に加わる電圧が低くなるので、制御抵抗Rcを可変にすればリセット磁束が変化し、したがって、各スイッチング素子FET1,FET2のパルス幅を制御できる。図9は、制御抵抗Rcに対するスイッチング素子FET1,FET2の発振周波数の関係を示す。各スイッチング素子FET1,FET2のゲートに与えられる電圧波形は、50%の矩形波となる。
【0038】
次に、本回路におけるパワーロスとノイズの関係について考察する。図10は、外部駆動によるハードスイッチングの場合の、無負荷時におけるスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧(上段:100V/1div)と、ドレイン・ソース間電流(下段:2A/1div)の各波形を示している。なお、横軸の時間は2μs/1divである。
【0039】
この図10に示すように、十分なデッドタイムを設けても、スイッチング素子がターンオンする時の寄生容量の充放電のために、20A程度のサージ電流が流れ、無負荷時に制御駆動電力を含めて40W程度のパワーロスが生じる。
【0040】
図11は、線形インダクタを負荷側に接続した時の、スイッチング素子のドレイン・ソース間電圧(上段)と、ドレイン・ソース間電流(下段)の各波形を示している。なお、横軸の時間は2μs/1divである。
【0041】
この場合、無効電流によりソフトスイッチングが実現され、制御駆動電力を含めたパワーロスを16W程度まで減少させることができる。さらに、本実施例におけるインパルス転流回路を使用した場合、転流時のみのパルス状の無効電流によりソフトスイッチングが実現されるために、制御駆動電力を含めたパワーロスを1.5W程度まで減少できる。
【0042】
図12は、図1の回路を直列共振コンバータ回路に応用させた変形例を示す回路図である。なお、同図において起動回路3は省略されている。ここでは負荷5に直流電圧を供給するために、スイッチング素子FET1,FET2の接続点と、コンデンサC1,C2の接続点との間に主トランスT1の一次巻線を接続し、この主トランスT1の二次巻線に誘起された電圧を整流器であるブリッジダイオードD11〜D14により整流する構成を有している。
【0043】
この図12の回路では、主トランスT1のギャップをなくして理想トランスに近い状態で使用することができる。但し、負荷5への出力電流が増加すると、主トランスT1の漏インダクタンスにより出力電圧が低下し、力率が悪くなり効率も低下する。この問題は、図12に示すように、トランスT1の二次巻線と二次側コンデンサC11との直列共振回路と併用することにより解決される。その場合の各部の波形図を図13に示す。同図において、上段はトランスT1の一次巻線の電圧波形(100V/1div)、中段はトランスT1の一次巻線の電流波形(5A/1div)、下段はトランスT1の二次巻線の電流波形(5A/1div)を示す。この図からも明らかなように、トランスT1の一次巻線および二次巻線の電流波形は、略正弦波状である。この回路では、主トランスT1に対しAC200V入力,出力DC50V,2kWで、95%以上の効率を得ることができる。
【0044】
このように、本実施例においては、例えば通信システム用バッテリー充電ユニットの高効率化,小型化,低コスト化を図る目的で、飽和インダクタ(可飽和トランスST1,ST2)を用いたインパルス共振ソフトスイッチングによる新しい自励型コンバータ回路を提案した。とりわけこの提案回路では、メインスイッチ(スイッチング素子FET1,FET2)の寄生容量Cs1,Cs2のみならず、メインスイッチのゲート・ソース間に存在する駆動回路4の寄生容量も、飽和インダクタと駆動回路4の寄生容量とのインパルス共振により充放電されるため、電力損失が極めて小さい。また、メインスイッチへの制御,絶縁駆動,デッドタイム制御が、可飽和トランスST1,ST2のみで行われるため回路構成が簡単である。さらに、図12に示すような簡単に各種コンバータ回路に応用できる。なお、そうした応用は、図12に示す回路構成に限定されない。
【0045】
本実施例のスイッチング電源装置は、コンデンサC1,C2により構成される直列接続された一対の電圧源と、この一対のコンデンサC1,C2の両端間に直列接続される第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2と、第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2の駆動回路4とにより構成され、コンデンサC1,C2の接続点と、第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2の接続点との間に負荷5が接続される。また駆動回路4は、第1の可飽和トランスST1の一次巻線Np1および第1のダイオードD1からなる直列回路と、第2の可飽和トランスST2の一次巻線Np2および第2のダイオードD2からなる直列回路とを、コンデンサC1,C2の接続点と第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2の接続点との間にそれぞれ接続し、第1の可飽和トランスST1の一次巻線および第1のダイオードD1の接続点と、第2の可飽和トランスST2の一次巻線および第2のダイオードD2の接続点との間に制御抵抗Rcを接続し、第1および第2の可飽和トランスST1,ST2の二次巻線を、それぞれ駆動巻線Ng1,Ng2として第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2の制御端子であるゲートに接続して構成される。そして、第1の可飽和トランスST1は、飽和するまでは駆動巻線Ng1から発生する電圧により第1のスイッチング素子FET1のオン状態を保持し、飽和するとその飽和インダクタンスLs1を利用して、第1のスイッチング素子FET1のゲートに蓄積される電荷を放電し、かつ第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2に存在する寄生容量Cs1,Cs2を充放電させ、飽和が開放すると制御抵抗Rcに励磁電流を流し、同様に第2の可飽和トランスST2は、飽和するまでは駆動巻線Ng2から発生する電圧により第2のスイッチング素子FET2のオン状態を保持し、飽和するとその飽和インダクタンスLs2を利用して、第2のスイッチング素子FET2のゲートに蓄積される電荷を放電し、かつ第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2に存在する寄生容量Cs1,Cs2を充放電させ、飽和が開放すると制御抵抗Rcに励磁電流を流すように構成される。
【0046】
この場合、一方の電圧源から第1の飽和トランスST1の一次巻線Np1に電圧が印加されると、第1の飽和トランスST1の磁心が飽和するまで第1のスイッチング素子FET1をオンするに十分な電圧が二次巻線である駆動巻線Ng1に発生する。やがて、第1の飽和トランスST1の磁心が飽和すると、第1の飽和トランスST1の飽和インダクタンスLs1と第1のスイッチング素子FET1のゲート容量が共振して、第1のスイッチング素子FET1のゲートに蓄積した電荷が急速に放電し、この第1のスイッチング素子FET1はターンオフする。さらには、可飽和トランスST1の飽和インダクタンスLs1と第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2の寄生容量Cs1,Cs2との間でも共振が生じ、第2のスイッチング素子FET2はその両端間電圧がゼロの状態でターンオンできる。これは第2の飽和トランスFET2についても同様で、第1のスイッチング素子FET1はその両端間電圧がゼロの状態でターンオンできる。そして、これらの各スイッチング素子FET1,FET2のオン・オフ動作に伴ない、各コンデンサC1,C2から負荷5に交番電圧が供給される。
【0047】
このように、各スイッチング素子FET1,FET2のドレイン・ソース間の寄生容量Cs1,Cs2を充放電するだけでなく、スイッチング素子FET1,FET2の制御端子(ゲート)に存在する駆動回路4の寄生容量も、可飽和トランスST1,ST2の飽和に伴ない急速に放電させることができるので、電力損失を極めて小さくできる。しかも、各可飽和トランスST1,ST2のリセット時にのみ、制御抵抗Rcに励磁電流が流れるので、各スイッチング素子FET1,FET2の制御に際しては、この制御抵抗Rcを調整するだけでよく、回路構成を簡単にできる。したがって、デッドタイム生成用の回路を必要とせずに、常にゼロ電圧スイッチングを実現できる。
【0048】
またその場合は、制御抵抗Rcを可変可能に構成するのが好ましい。制御抵抗Rcを可変すると、各可飽和トランスST1,ST2のリセット磁束が変化し、各スイッチング素子FET1,FET2のパルス幅を制御できる。したがって、例えば負荷電力に応じて制御抵抗Rcを可変するフィードバック回路を設けると、負荷5に安定した電力を供給できる。
【0049】
また本実施例では、図12の回路図に示すように、一対のコンデンサC1,C2の接続点と、第1および第2のスイッチング素子FET1,FET2の接続点との間に、主トランスT1の一次巻線を接続し、この主トランスT1の二次巻線に誘起される電圧を整流器であるブリッジダイオードD11〜D14で整流して、負荷5に供給する構成を採用している。このようにすると、直流動作の負荷5に対して高効率で所望の電力を供給することができる。
【0050】
そしてこの場合は、主トランスT1の二次巻線と二次側コンデンサC11との直列共振回路を接続して構成するのが好ましい。こうすれば、負荷5への出力電流が増加しても、主トランスT1の二次巻線と二次側コンデンサC11とによる直列共振回路により、力率は改善され、DC/DCコンバータ回路としての効率は低下しない。
【0051】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば第1および第2のスイッチング素子は、実施例のようなMOS型FETに限定されるものではない。また、コンデンサC1,C2を直流電源に置換えてもよい。
【0052】
【発明の効果】
本発明の請求項1では、デッドタイム生成用の回路を必要とせずに、常にゼロ電圧スイッチングを実現できるスイッチング電源装置を提供できる。
【0053】
本発明の請求項2のスイッチング電源装置では、制御抵抗を可変することで、各スイッチング素子のパルス幅を制御できる。
【0054】
本発明の請求項3のスイッチング電源装置では、特に直流動作の負荷に対して高効率で所望の電力を供給できる。
【0055】
本発明の請求項4のスイッチング電源装置では、負荷への出力電流が増加しても、力率を改善して効率の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すスイッチング電源装置のブロック構成図である。
【図2】同上各可飽和トランスの磁束密度と磁界の強さとの関係を示すグラフである。
【図3】同上状態1の等価回路を示す回路図である。
【図4】同上状態2の等価回路を示す回路図である。
【図5】同上状態3の等価回路を示す回路図である。
【図6】同上状態4の等価回路を示す回路図である。
【図7】同上第1および第2の可飽和トランスのヒステリシスループ上での変化を示すグラフである。
【図8】同上図1における各部の波形図である。
【図9】同上制御抵抗と発振周波数との関係を示すグラフである。
【図10】外部駆動によるハードスイッチングの場合の、無負荷時におけるスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧およびドレイン・ソース間電流を示す波形図である。
【図11】同上線形インダクタを負荷側に接続した時の、スイッチング素子のドレイン・ソース間電圧およびドレイン・ソース間電流を示す波形図である。
【図12】同上図1の回路を直列共振コンバータ回路に応用させた変形例を示す回路図である。
【図13】同上図12の直列共振コンバータ回路における各部の波形図である。
【符号の説明】
4 駆動回路
5 負荷
C11 二次側コンデンサ
C1,C2 コンデンサ(電圧源)
D11〜D14 ブリッジダイオード(整流器)
D1 第1のダイオード
D2 第2のダイオード
FET1 第1のスイッチング素子
FET2 第2のスイッチング素子
ST1 第1の可飽和トランス
ST2 第2の可飽和トランス
T1 主トランス
Claims (4)
- 直列接続された一対の電圧源と、
この一対の電圧源の両端間に直列接続される第1および第2のスイッチング素子と、
前記第1および第2のスイッチング素子の駆動回路とからなり、
前記一対の電圧源の接続点と、前記第1および第2のスイッチング素子の接続点との間に負荷が接続されると共に、
前記駆動回路は、第1の可飽和トランスの一次巻線および第1のダイオードからなる直列回路と、第2の可飽和トランスの一次巻線および第2のダイオードからなる直列回路とを、前記一対の電圧源の接続点と前記第1および第2のスイッチング素子の接続点との間にそれぞれ接続し、
前記第1の可飽和トランスの一次巻線および前記第1のダイオードの接続点と、前記第2の可飽和トランスの一次巻線および前記第2のダイオードの接続点との間に、制御抵抗を接続し、
前記第1および第2の可飽和トランスの二次巻線を、それぞれ駆動巻線として前記第1および第2のスイッチング素子の制御端子に接続して構成され、
前記第1の可飽和トランスは、飽和するまでは二次巻線から発生する電圧により前記第1のスイッチング素子のオン状態を保持し、飽和するとその飽和インダクタンスを利用して、前記第1のスイッチング素子の制御端子に蓄積される電荷を放電し、かつ前記第1および第2のスイッチング素子に存在する寄生容量を充放電させ、飽和が開放すると前記制御抵抗に励磁電流を流し、
前記第2の可飽和トランスは、飽和するまでは二次巻線から発生する電圧により前記第2のスイッチング素子のオン状態を保持し、飽和するとその飽和インダクタンスを利用して、前記第2のスイッチング素子の制御端子に蓄積される電荷を放電し、かつ前記第1および第2のスイッチング素子に存在する寄生容量を充放電させ、飽和が開放すると前記制御抵抗に励磁電流を流すように構成したことを特徴とするスイッチング電源装置。 - 前記制御抵抗を可変可能に構成したことを特徴とする請求項1記載のスイッチング電源装置。
- 前記一対の電圧源の接続点と、前記第1および第2のスイッチング素子の接続点との間に主トランスの一次巻線を接続し、この主トランスの二次巻線に誘起される電圧を整流器で整流して前記負荷に供給する構成としたことを特徴とする請求項1または2記載のスイッチング電源装置。
- 前記主トランスの二次巻線と二次側コンデンサとの直列共振回路を接続したことを特徴とする請求項3記載のスイッチング電源装置。
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