JP4185226B2 - 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、医療用具及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は医療用具の材料表面に存在している高分子化合物により、湿潤時に潤滑性の優れた効果を発現する医療用具及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にカテーテルやガイドワイヤー等の医療材料においては、組織損傷の低減化や操作性の向上を目的として、その表面の摩擦抵抗の低減化が要求されることから表面の潤滑化が必須の項目となっている。
【0003】
従来、表面の摩擦抵抗を低減化する方法としては、材料自体が低摩擦材料であるテフロンなどを使用する方法、或いは基材表面に各種オイルを塗布する方法が用いられてきた。しかしながらこれらの方法では、摩擦抵抗の低減化が十分でなかったり、潤滑性が持続しないといった欠点があった。
【0004】
一方、別の方法としては、親水性ポリマーをコーティングすることにより表面の潤滑性を得る方法がある。このようなコーティングでは、上記のテフロン等やオイル塗布といった処理法よりも潤滑性においては優れているものの、耐久性に問題があると考えられている。このため、その耐久性の向上を解決するものとして、いくつかの方法が挙げられている。
【0005】
例として、特開昭59-19582号公報には、開示される親水性重合体のポリビニルピロリドン(PVP)と反応性官能基のイソシアネート基を用いて網目状に化学結合を形成させてPVPを基材表面に固定化する表面潤滑化方法が開示されており、特公昭59-193766号公報には、ポリエチレンオキサイド(PEO)とイソシアネート基を用いた反応による表面潤滑化方法が開示されている。また、特公平1-55023号公報には、官能基を有する二種以上のモノマーからなる共重合体とイシシアナート基を組み合わせて塗布することによる表面潤滑化方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法では、イソシアナートに代表される反応性の高いプロトン受容性官能基とプロトン供与性官能基の反応を使用しているため、溶媒が非プロトン供与性の有機溶媒に限定されてしまうだけでなく、コーティング操作の複雑化、コート溶液或いは作業域の厳密な水分管理が必要であるといった問題点があった。
【0007】
また近年、特開平10-5325号公報には、ポリウレタンのエマルジョンを用いて、イソシアナート基(或いはカルボキシル基)をブロックしておき、温度を上げることによりイソシアナート基(或いはカルボキシル基)が活性を取り戻すことを利用した表面潤滑化方法も報告されている。しかしながら、この反応を用いた場合は反応に高い温度を必要とするため、基材自体にも高い温度がかかり、基材自体が本来要求されている物性を失ってしまう恐れがある。
【0008】
また、親水性ポリマーを用いて表面潤滑性を得る方法においては、通常、基材の表面にコーテイング操作により親水性ポリマーを被覆し固定化したあと、水中に浸漬する或いは水蒸気中で加湿する等の方法で水との接触処理を施すことにより、コーテイングされた表面に対して水との親和性を向上し、湿潤時における表面の潤滑性がより短時間で発現されるという効果がある。しかしながら、上記のような表面潤滑化方法においては、コーティング用の溶媒としては有機溶媒が通常使われているため、水との接触処理はコーティング操作を行った後に、コーティング操作と別途の工程で行われておりその分だけ工程が煩雑になり、製造コストが高くなるという問題点がある。
【0009】
また、例えばヘパリン等の水溶性の生理活性物質を用いて潤滑性と共に生理活性(例えば、抗血栓性)も付与したい場合、水溶性の生理活性物質は通常有機溶媒には不溶のため、潤滑性を付与するための親水性ポリマーを有機溶媒に溶解した溶液によるコーティング操作とは別に、水溶性の生理活性物質を水系の溶媒に溶解した溶液による処理を行わなければならないため、同一の工程で潤滑性処理と生理活性付与処理とを行うことができず工程が煩雑となるといった問題点があった。
【0010】
従って本発明の目的は、以上の問題点を解決し、イソシアナート基に代表される反応性の高いプロトン受容性官能基を使用することなく温和なコーティング条件により、基材自体に本来要求される物性を損なうことなく、永続的な潤滑性を有する安全性の高い医療用具およびその製造方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、水との接触処理をコーティング操作と同工程で行うことができ、より簡素な工程で表面潤滑性を得ることができ、従ってより低コストで表面潤滑性を得られる医療用具およびその製造方法を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の目的は、例えばヘパリンなどの水溶性の生理活性物質を安定的にかつ簡単なコーティング操作により潤滑性発現物質とともに表面に固定化でき、潤滑性と生理活性とを安定的に発現できる表面を有する医療用具およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的は、下記(1)〜(15)の本発明により解決される。
【0014】
(1) 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有する反応性部位と潤滑性を発現する親水性の部位とを有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆することにより基材表面に被覆された該親水性高分子化合物と一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤との反応生成物を含む表面潤滑層を形成したことを特徴とする医療用具。
【0015】
(2) 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のヒドラジン残基を含有する反応性部位と潤滑性を発現する親水性の部位とを有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆することにより基材表面に被覆された該親水性高分子化合物と一分子当たり少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物からなる架橋剤との反応生成物を含む表面潤滑層を形成したことを特徴とする湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具。
【0016】
(3) 前記表面潤滑層は、水溶性または水膨潤性の高分子物質を含んでいることを特徴とする(1)又は(2)に記載の医療用具。
【0017】
(4) 前記架橋剤は水系溶媒に可溶であることを特徴とする(1)ないし(3)のいずれかに記載の医療用具。
【0021】
(5) 前記表面潤滑層に水溶性の生理活性物質を含むことを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載の医療用具。
【0022】
(6) 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液を被覆することを特徴とする医療用具の製造方法。
【0023】
(7) 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のヒドラジン残基を含有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物からなる架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液を被覆することを特徴とする医療用具の製造方法。
【0024】
(8) 前記親水性高分子化合物を含む溶液および前記架橋剤を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させることを特徴とする(6)又は(7)に記載の医療用具の製造方法。
【0026】
(9) 前記架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液に水溶性の生理活性物質を共存させることを特徴とする(6)ないし(8)のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
【0027】
(10) 医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有するカルボニル基含有高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物を含む溶液を被覆する医療用具の製造方法であって、該カルボニル基含有高分子化合物を含む溶液と該ヒドラジド化合物を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させることを特徴とする、湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法。
【0028】
(11) 医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のヒドラジン残基を含有するヒドラジド高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物を含む溶液を被覆する医療用具の製造方法であって、該カルボニル基含有化合物を含む溶液と該ヒドラジド高分子化合物を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させることを特徴とする、湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法。
【0029】
【発明の実施の形態】
本発明は、医療用具を構成する基材の表面に、一個以上のヒドラジン残基もしくはカルボニル基を含有する親水性高分子化合物と、このヒドラジン残基もしくはカルボニル基と反応し得る官能基、すなわちカルボニル基若しくはヒドラジン残基を二個以上有する化合物からなる架橋剤とを反応させ、これらの反応生成物により表面潤滑層を形成することを特徴とする、湿潤時に潤滑性を発現する医療用具とその製造方法に関するものである。
【0030】
また、本発明は、医療用具を構成する基材の表面で、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有するカルボニル基含有化合物と一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物との反応生成物と、水溶性または水膨潤性の高分子物質ととが相互侵入網目構造を形成し、これにより表面潤滑層を形成することを特徴とする、湿潤時に潤滑性を発現する医療用具とその製造方法に関するものである。
【0031】
本発明は、カルボニル基とヒドラジン残基との反応を利用したものであるため、穏和な条件での反応により親水性高分子化合物と架橋剤との間に共有結合を形成させて、基材自体が本来要求されている物性を損なうことなく、基材表面に強固に親水性高分子化合物を固定化することが可能となる。またこのような反応では、プロトン供与性の溶媒も用いることができ、反応時の作業域の厳密な水分管理等を行う必要もない。
【0032】
以下、まず本発明を、上記親水性高分子化合物と上記架橋剤との反応生成物により表面潤滑層を形成する場合について詳細に説明する。
【0033】
上記親水性高分子化合物および架橋剤の組み合わせとしては、一方がヒドラジン残基を含有するヒドラジド化合物であり、他方がカルボニル基含有化合物であれば特に制限なく使用することができる。ただし、反応の際の作業環境或いは臭気を考慮した場合には、親水性高分子化合物としてカルボニル基含有化合物を用い、一分子内に二個以上のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物を架橋剤として使用する方が望ましい。
【0034】
本発明において、親水性高分子化合物とは、複数個の官能基を有する架橋剤と反応し得る官能基(ヒドラジン残基若しくはカルボニル基)を分子内に一個以上有し、かつ水を吸水して膨潤若しくは溶解する高分子化合物である。この親水性高分子化合物は、生理食塩水、緩衝水、血液などの水系溶媒に浸漬すると吸水して膨潤するが、吸水された水は、血管壁等の体腔内壁と医療用具とが接触した際、医療用具の表面で潤滑性を発現することとなる。従って、親水性高分子化合物としては、使用する温度(通常30〜40℃)領域で吸水率が50重量%以上であるものが潤滑性発現の観点からは好適であり、100重量%以上であるものがより好適である。
【0035】
上記親水性高分子化合物としては、潤滑性を発現する親水性の部位と反応性官能基(ヒドラジン残基若しくはカルボニル基)を有する反応性の部位とを含有する共重合体が好適に用いられる。この親水性共重合体としては、共重合体であれば特に限定されないが、潤滑性発現の観点からは、ブロック共重合体或いはグラフト共重合体の方が望ましく、また、架橋反応後の膜強度の向上という観点からは、架橋点の分散しているランダム共重合体の方が望ましい。しかしながら、これらは要求される膜物性により適宜選択されるべきである。
【0036】
上記親水性共重合体において、潤滑性を発現する部位は親水性共重合体中に90重量部以上、好ましくは95重量部以上、更に好ましくは98重量部以上が望ましい。
【0037】
このような親水性共重合体は、ヒドラジン残基若しくはカルボニル基を分子内に有する反応性モノマーと親水性モノマーとを共重合する、或いはヒドラジン残基若しくはカルボニル基に変換可能な他の反応性官能基を分子内に有する反応性モノマーと親水性モノマーとを共重合し、その後に当該反応性官能基をヒドラジン残基若しくはカルボニル基に変換することにより得ることができる。上記反応性モノマーにより、上記親水性共重合体中の官能基を含有する反応性の部位が構成され、親水性モノマーにより、上記親水性共重合体中の潤滑性を発現する親水性(潤滑性)の部位が構成される。
【0038】
親水性モノマーとしては、体液や水系の溶媒中において潤滑性を発現すればいかなるものであっても良いが、アクリルアミドやその誘導体、ビニルピロリドン、アクリル酸やメタクリル酸およびその誘導体で水溶性のモノマーを主な構成成分とするものを例示できる。例えば、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート等のアクリルアミド誘導体、ビニルピロリドン、2−メタクリロイルオキシエチル−D−グリコシド、2−メタクリロイルオキシエチル−D−マンノシド、ビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体やその部分アルキルエステル等の無水マレイン酸系高分子物質などを好適に例示できる。これらのうち、合成の容易性や操作性等を考慮すると、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド誘導体や無水マレイン酸系高分子物質、ビニルメチルエーテルなどが好ましい。上記無水マレイン酸系高分子としては、水溶解性に限定されず、無水マレイン酸系高分子を主成分としていれば不溶化されたものであってもよい。そして、上記親水性モノマーとして最も好ましくはジメチルアクリルアミドを主成分とするものが望ましい。
【0039】
また、上記反応性モノマーとしては、上記親水性共重合体中にカルボニル基を含有する構成単位もしくはヒドラジン残基を有する構成単位を形成可能なモノマーであればいかなるものでもよく、あらかじめカルボニル基或いはヒドラジン残基を含有するモノマーのほか、カルボニル基或いはヒドラジン残基と変換可能な他の反応性官能基を有するモノマーを用い、当該モノマーと上記親水性モノマーとを共重合した後にその官能基をカルボニル基若しくはヒドラジン残基に変換してもよい。
【0040】
カルボニル基を含有する反応性モノマーとしては、一分子中に少なくとも一個のカルボニル基を含有するものであれば特に制限なく使用可能であるが、重合可能な二重結合を有するモノマーが好適に用いられる。具体例としては、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン類等が挙げられるが、特に好ましいのはダイアセトンアクリルアミドである。
【0041】
ヒドラジン残基を含有する反応性モノマーとしては、一分子中に少なくとも一個のヒドラジン残基を有し重合可能であれば特に制限なく使用可能であるが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、α−クロロアクリル酸のような重合性の二重結合を有する不飽和酸のエステル好ましくは低級アルコールとのエステル中のカルボン酸エステル基に、ヒドラジン又はヒドラジン水化物(すなわちヒドラジンヒドラード)を反応させてヒドラジン残基に変換したモノマーを好適に用いることができる。また、ヒドラジン残基に変換可能な他の反応性官能基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、α−クロロアクリル酸のような重合性の二重結合を有する不飽和酸のエステル好ましくは低級アルコールとのエステルを用いることができ、これらのモノマーと上記親水性モノマーとを共重合させた後に、そのカルボン酸エステル基をヒドラジン又はヒドラジン残基を有するように処理することにより、ヒドラジン残基を含有する親水性共重合体を好適に製造することも可能である。
【0042】
本発明において、親水性高分子化合物と反応し得る架橋剤とは、親水性高分子化合物がカルボニル基含有化合物である場合は一分子内に少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物であり、また親水性高分子化合物がヒドラジン残基を含有する化合物である場合は一分子内に少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物である。これらの架橋剤は、上記親水性高分子化合物のカルボニル基若しくはヒドラジン残基と反応して共有結合を形成し、医療用具を構成する基材の表面でこれらの反応生成物(架橋物)が不溶化することにより、医療用具を構成する基材の表面に親水性高分子化合物を強固に固定化するものである。
【0043】
このような架橋剤は、親水性共重合体中に含まれる官能基1モルに対して、0.01〜1.5モル、望ましくは0.1〜1.0モルになる割合で適用することが望ましい。
【0044】
さらに、架橋剤としては、水系溶媒に可溶なものである(水溶性である)ことが好ましい。これにより、後述する架橋剤を溶解する溶媒として水系溶媒を用いることが可能となり、架橋剤を含有する溶液を基材表面に被覆し親水性高分子化合物と反応させる際の臭気等の作業環境の改善が図れる。また、親水性高分子化合物と架橋剤との反応と同時あるいは並行して、得られる潤滑表面層の水に対する親和性を高めることが可能となり、別途水との接触処理を行う必要が無く、表面潤滑化工程の簡素化が図れる。さらに、後述するような水溶性の生理活性物質を架橋剤とともに水系溶媒中に共存させることが可能となり、表面潤滑化に必要な工程と共通の工程で生理活性も合わせ持つ表面を得ることが可能となる。
【0045】
本発明において、上記親水性高分子化合物としてカルボニル基含有化合物を用いる場合は、分子内に少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物が架橋剤として使用される。そのようなヒドラジド化合物としては、例えば、カルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒドラジド化合物、或いはポリ(メタ)アクリル酸エステルを重合後にヒドラジン残基を有するように処理した重合体若しくは共重合体、または、モノマーの時点でヒドラジン残基を有するように予め処理したモノマーの重合体或いは共重合体が挙げられる。このうち、反応性、精製工程を考慮した場合、特に好ましいのは容易に水に溶解できるカルボヒドラジドである。
【0046】
また、本発明において、上記親水性高分子化合物としてヒドラジン残基を含有する化合物を用いる場合は、分子内に少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物が架橋剤として使用される。そのようなカルボニル基含有化合物としては、例えば、グリオキザール、ブタンジオン、2,4-ペンタンジオン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン等の化合物、あるいは、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン等のカルボニル基を含有する重合可能なモノマーを(共)重合した重合体若しくは共重合体が挙げられる。
【0047】
本発明では、親水性高分子化合物を溶媒に溶解した溶液と架橋剤を溶媒に溶解した溶液とをそれぞれ作製し、医療用具を構成する基材の表面に親水性高分子化合物を含有する溶液を被覆した後、架橋剤を含有する溶液を被覆し、親水性高分子化合物と架橋剤とを架橋反応させることにより、これらの反応生成物(架橋物)が基材表面で不溶化し、親水性高分子化合物が基材の表面に強固に固定化され、体液や生理食塩水等の水系溶媒に接触して潤滑性を発現する。
【0048】
親水性高分子化合物を溶解する溶媒および架橋剤を溶解する溶媒としては、従来のイソシアネートを利用した反応では使用出来なかったプロトン供与性の溶媒も含めて特に制限無く使用することができ、医療用具を構成する基材の構成材料に応じて適宜選択することが可能である。例えば、含水有機溶媒に親水性高分子化合物および架橋剤を溶解させて基材表面に被覆し、架橋反応を行うことも可能である。しかしながら、より強固に基材表面に親水性高分子化合物を固定化するためには、親水性高分子化合物を溶解させる溶媒として、基材を膨潤させる溶媒を選択することが好ましい。これにより、親水性高分子化合物が基材の内部に含浸され、強固に固定化される。一方、架橋剤を溶解させる溶媒としては、基材をあまり膨潤させない溶媒を用いることが好ましい。
【0049】
なお、基材の構成材料が溶媒に対して膨潤しない材料であっても、溶媒に可溶な官能基を有さない重合体中に上記親水性高分子化合物を分散させて基材表面に被覆した後、架橋剤を反応させる方法、或いは親水性高分子化合物として上記した親水性共重合体を用いる場合には、この共重合体中に基材の構成材料と親和性の高いモノマー(構成単位)を含有させる方法によっても、膨潤性の溶媒を用いた場合と同じ効果が得ることが可能である。
【0050】
親水性高分子化合物と架橋剤との架橋反応を行う条件は、反応系のpHが酸性側(pH<7)に傾いていれば反応が促進されるためどのような調製を行ってもよいが、短時間で架橋反応を行うためにはpH≦5、更に好ましくはpH≦3以下の架橋剤溶液を調製することが望ましい。溶液の取り扱いの容易さという観点からはpHが7に近い溶液を使用する方がより好ましく、更に好ましくは反応に使用する共重合体中にアクリル酸等のアニオン性のモノマーを予め含有する共重合体を使用することである。これらの反応条件も系のpH処理を行う工程、処理時間にあわせて適宜選択するべきであり、特に限定されない。
【0051】
本発明では、上記した表面潤滑層に、さらに高分子量の水溶性または水膨潤性の高分子物質を含ませてもよい。水溶性または水膨潤性の高分子物質としては、体液や生理食塩水等の水系溶媒と接触して潤滑性を発現するものであれば特に制限されず、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸-ビニルメチルエーテル共重合体等の無水マレイン酸系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム等を好適に用いることができる。
【0052】
このような水溶性ないし水膨潤性の高分子物質は、親水性高分子化合物および架橋剤との反応生成物(架橋物)と基材の表面で相互侵入網目構造を形成していることが好適である。これにより、水溶性または水膨潤性の高分子物質を強固に基材表面に固定化することが可能となる。上記相互侵入網目構造の形成は、親水性高分子化合物を含有する溶液中或いは架橋剤を含有する溶液中の少なくともいずれかに上記水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させて基材表面に被覆することによって行うことができる。
【0053】
なお、上記した水溶性または水膨潤性の高分子物質を表面潤滑層に含ませる方法としては、上記相互侵入網目構造の形成による方法に限定されるものではなく、例えば、親水性高分子化合物と架橋剤との反応生成物に例えば該反応生成物中の反応性官能基を介して結合させてもよく、あるいは、例えば親水性高分子化合物と架橋剤とを反応させてこれらの反応生成物を形成した後、水溶性または水膨潤性の高分子物質を含有する溶液を基材表面に被覆、含浸することにより、表面潤滑層に水溶性または水膨潤性の高分子物質を含有させてもよい。
【0054】
次に、本発明を、カルボニル基含有化合物とヒドラジド化合物との反応生成物と水溶性または水膨潤性の高分子物質とが相互侵入網目構造を形成し、表面潤滑層を形成する場合について詳細に説明する。
【0055】
本発明において、上記したカルボニル基含有化合物およびヒドラジン化合物としては、反応して高分子網目構造をなす反応生成物(架橋物)を形成するものであれば特に制限無く使用することができる。しかしながら、高分子網目構造を充分に形成するためには、上記カルボニル基含有化合物および上記ヒドラジン化合物の一方は、分子内に少なくとも1個のカルボニル基若しくはヒドラジン残基を有し、かつある程度以上の分子量を有する高分子化合物であり、他方が分子内に少なくとも2個のカルボニル基若しくはヒドラジド残基を有する架橋剤として作用するものであることが好ましい。
【0056】
上記分子内に少なくとも1個のカルボニル基若しくはヒドラジン残基を有する高分子化合物の平均分子量は特に制限されないが、2千〜500万、さらには2万〜200万の範囲であることが好ましい。当該分子量が上記範囲を下回ると、水溶性または水膨潤性の高分子物質との相互侵入網目構造の形成が不充分となる虞れがある。他方、当該分子量が上記範囲を上回ると、溶媒への溶解率が低下し、基材表面の被覆を困難とする傾向が強まる。
【0057】
上記高分子化合物としては、ヒドラジン残基若しくはカルボニル基を有する構成単位と他の構成単位からなる共重合体が好適に用いられる。この共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体およびグラフト共重合体のいずれでも制限無く使用することができる。
【0058】
このような共重合体は、ヒドラジン残基若しくはカルボニル基を分子内に有するモノマーと他の重合性を有するモノマーとを共重合する、或いはヒドラジン残基若しくはカルボニル基に変換可能な他の反応性官能基を分子内に有するモノマーと他の重合性を有するモノマーとを共重合し、その後に当該反応性官能基をヒドラジン残基若しくはカルボニル基に変換することにより得ることができる。
【0059】
カルボニル基を含有するモノマーとしては、一分子中に少なくとも一個のカルボニル基を含有するものであれば特に制限なく使用可能であるが、重合可能な二重結合を有するモノマーが好適に用いられる。具体例としては、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン類等が挙げられるが、特に好ましいのはダイアセトンアクリルアミドである。
【0060】
ヒドラジン残基を含有するモノマーとしては、一分子中に少なくとも一個のヒドラジン残基を有し重合可能であれば特に制限なく使用可能であるが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、α−クロロアクリル酸のような重合性の二重結合を有する不飽和酸のエステル好ましくは低級アルコールとのエステル中のカルボン酸エステル基に、ヒドラジン又はヒドラジン水化物(すなわちヒドラジンヒドラード)を反応させてヒドラジン残基に変換したモノマーを好適に用いることができる。また、ヒドラジン残基に変換可能な他の反応性官能基を有するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、α−クロロアクリル酸のような重合性の二重結合を有する不飽和酸のエステル好ましくは低級アルコールとのエステルを用いることができ、これらのモノマーと他の重合性モノマーとを共重合させた後に、そのカルボン酸エステル基をヒドラジン又はヒドラジン残基を有するように処理することにより、ヒドラジン残基を含有する共重合体を好適に製造することができる。他方、ヒドラジン残基を含有するモノマー若しくはヒドラジン残基に変換可能な他の反応性官能基を有するモノマーと共重合する他のモノマーとして、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、α−クロロアクリル酸のような重合性の二重結合を有する不飽和酸モノマーを用いることも可能である。
【0061】
上記分子内に少なくとも2個のカルボニル基若しくはヒドラジド残基を有する架橋剤は、上記した分子内に少なくとも1個のカルボニル基若しくはヒドラジン残基を有する化合物と反応して共有結合を形成し、医療用具を構成する基材の表面でこれらの反応生成物(架橋物)と水溶性或いは水膨潤性高分子物質とが相互侵入網目構造を形成して不溶化することにより、医療用具を構成する基材の表面に水溶性或いは水膨潤性高分子物質を強固に固定化するものである。
【0062】
このような架橋剤は、上記した分子内に少なくとも1個のカルボニル基若しくはヒドラジン残基を有する化合物中に含まれる官能基1モルに対して、0.01〜1.5モル、望ましくは0.1〜1.0モルになる割合で適用することが望ましい。
【0063】
さらに、上記架橋剤としては、水系溶媒に可溶なものである(水溶性である)ことが好ましい。これにより、後述する架橋剤を溶解する溶媒として水系溶媒を用いることが可能となり、架橋剤を含有する溶液を基材表面に被覆し親水性高分子化合物と反応させる際の臭気等の作業環境の改善が図れる。また、カルボニル基含有化合物とヒドラジド化合物との反応並びに水溶性或いは水膨潤性高分子物質の相互侵入網目構造の形成と同時あるいは並行して、得られる潤滑表面層の水に対する親和性を高めることが可能となり、別途水との接触処理を行う必要が無く、表面潤滑化工程の簡素化が図れる。さらに、後述するような水溶性の生理活性物質を架橋剤とともに水系溶媒中に共存させることが可能となり、表面潤滑化に必要な工程と同一の工程で生理活性も合わせ持つ表面を得ることが可能となる。
【0064】
本発明において、分子内に少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物を架橋剤として使用する場合、そのようなヒドラジド化合物としては、例えば、カルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒドラジド化合物、或いはポリ(メタ)アクリル酸エステルを重合後にヒドラジン残基を有するように処理した重合体若しくは共重合体、または、モノマーの時点でヒドラジン残基を有するように予め処理したモノマーの重合体或いは共重合体が挙げられる。このうち、反応性、精製工程を考慮した場合、特に好ましいのは容易に水に溶解できるカルボヒドラジドである。
【0065】
また、本発明において、分子内に少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物を架橋剤として使用する場合、そのようなカルボニル基含有化合物としては、例えば、グリオキザール、ブタンジオン、2,4-ペンタンジオン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン等の化合物、あるいは、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、ビニルアルキルケトン等のカルボニル基を含有する重合可能なモノマーを(共)重合した重合体若しくは共重合体が挙げられる。
【0066】
本発明において、水溶性または水膨潤性の高分子物質とは、水を吸水して膨潤若しくは溶解する化合物である。この水溶性または水膨潤性の高分子物質は、生理食塩水、緩衝水、血液等の体液などの水系溶媒に浸漬すると吸水して膨潤するが、吸水された水は、血管壁等の体腔内壁と医療用具とが接触した際、医療用具の表面で潤滑性を発現することとなる。従って、水溶性または水膨潤性の高分子物質としては、使用する温度(通常30〜40℃)領域で吸水率が50重量%以上であるものが潤滑性発現の観点からは好適であり、100重量%以上であるものがより好適である。
【0067】
上記水溶性または水膨潤性の高分子物質は、上記したカルボニル基含有化合物とヒドラジド化合物との反応生成物(架橋物)と相互侵入網目構造を形成し、かつ生体内で繰り返し摩擦を受けても基材表面から脱離、剥離、溶出しない物質であることが必要であり、そのためには、ある程度以上の分子量を有する高分子である必要がある。このような水溶性または水膨潤性の高分子物質の平均分子量としては、2千〜500万、さらには2万〜200万の範囲であることが好ましい。当該分子量が上記範囲を下回ると、上記したカルボニル基含有化合物とヒドラジド化合物との反応生成物(架橋物)との相互侵入網目構造の形成が不充分となり、かつ生体内で当該水溶性または水膨潤性の高分子物質が基材表面から脱離、剥離、溶出する可能性が高くなる。また、当該分子量が上記範囲を上回ると、当該水溶性ないし水膨潤性の高分子物質の溶媒に対する溶解性が低下し、基材表面への被覆が困難となる傾向が強まる。
【0068】
以上の水溶性または水膨潤性の高分子物質としては、例えばポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸−ビニルメチルエーテル共重合体等の無水マレイン酸系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム等を好適に用いることができる。
【0069】
本発明では、上記した分子内に少なくとも1個のカルボニル基またはヒドラジド基を含有するカルボニル基含有化合物またはヒドラジド化合物を溶媒に溶解した溶液と、分子内に少なくとも2個のヒドラジド基またはカルボニル基を含有するヒドラジド化合物またはカルボニル基含有化合物(架橋剤)を溶媒に溶解した溶液とをそれぞれ作成し、これらの溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性高分子物質を共存させて、医療用具を構成する基材の表面に上記した分子内に少なくとも1個のカルボニル基またはヒドラジド基を含有する化合物を溶媒に溶解した溶液を被覆した後、上記架橋剤を含有する溶液を被覆し、親水性高分子化合物と架橋剤とを架橋反応させることにより、これらの反応生成物(架橋物)と水溶性または水膨潤性高分子物質とが相互侵入網目構造を形成して基材表面で不溶化し、水溶性または水膨潤性高分子物質が基材の表面に強固に固定化され、体液や生理食塩水等の水系溶媒に接触して潤滑性を発現する。
【0070】
上記カルボニル基含有化合物を含む溶液とヒドラジド化合物を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性高分子を共存させることにより、水溶性または水膨潤性の高分子物質を基材表面に被覆する工程と、カルボニル基含有化合物とヒドラジド化合物のいずれかを基材表面に被覆する工程とを同時に行うことができ、製造工程の簡略化が図れる。
【0071】
カルボニル基含有化合物を溶解する溶媒およびヒドラジド化合物を溶解する溶媒としては、従来のイソシアネートを利用した反応では使用出来なかったプロトン供与性の溶媒も含めて特に制限無く使用することができ、医療用具を構成する基材の構成材料に応じて適宜選択することが可能である。例えば、含水有機溶媒に親水性高分子化合物および架橋剤を溶解させて基材表面に被覆し、架橋反応を行うことも可能である。しかしながら、上記カルボニル基含有化合物またはヒドラジド化合物のうち、架橋剤として作用する化合物を溶解させる溶媒としては、基材をあまり膨潤させない溶媒を用いることが好ましい。
【0072】
カルボニル基含有化合物とヒドラジド化合物との架橋反応を行う条件は、反応系のpHが酸性側(pH<7)に傾いていれば反応が促進されるためどのような調製を行ってもよいが、短時間で架橋反応を行うためにはpH≦5、更に好ましくはpH≦3以下の架橋剤溶液を調製することが望ましい。溶液の取り扱いの容易さという観点からはpHが7に近い溶液を使用する方がより好ましく、更に好ましくは反応に使用する共重合体中にアクリル酸等のアニオン性のモノマーを予め含有する共重合体を使用することである。これらの反応条件も系のpH処理を行う工程、処理時間にあわせて適宜選択するべきであり、特に限定さ以上説明した本発明では、表面潤滑層に、さらに水溶性の生理活性物質を含ませることにより、生理活性物質を表面潤滑層に担持させたり徐放させてもよい。水溶性の生理活性物質としては、ヘパリン、低分子ヘパリン、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、活性化プロテインC、ヒルディン、アスピリン、トロンボモジュリン、DHG、プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、アプロチニン、メシル酸ナファモスタット(FUT)、メシル酸ガベキサート(FOY)のような抗血栓性を有する物質や、ペニシリンN、セファロスポリンC、セファバシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、塩酸クロルヘキシジン(ヒビテン)、ポリミキシンB等の抗菌性を有する物質、および、DNA、RNA等の核酸類、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン等の多糖類、コラーゲン、アルブミン等のタンパク質を例示することができる。
【0073】
これらの生理活性物質を表面潤滑層に含ませる方法としては、カルボニル基含有化合物を含む溶液とヒドラジド化合物を含む溶液の少なくともいずれかに上記水溶性の生理活性物質を共存させて基材表面に被覆することによって行うことができる。あるいは、水溶性の生理活性物質を適当な溶媒に溶解した溶液を、カルボニル基含有化合物を含む溶液およびヒドラジド化合物を含む溶液と別に作成し、これらの溶液と別々に基材表面に被覆することによって行うこともできる。
【0074】
そして、本発明では、水系溶媒に可溶な物質を架橋剤として用いることが可能なため、架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液に、水溶性の生理活性物質を共存させて基材表面に被覆することも可能となる。これにより、架橋剤を基材表面に被覆する工程と、生理活性物質を基材表面に被覆する工程とを同一工程で行うことができ、潤滑性および生理活性を合わせ持つ表面を簡素な工程で得ることができる。
【0075】
本発明において、医療用具を構成する基材の構成材料は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステルやそれらの共重合体などの各種高分子材料や、金属材料、セラミック材料などが使用可能である。また、基材の形態としては、上記のような材料を単独で用いた成型体に限定されず、ブレンド成型物、アロイ化成型物、多層化成形物などでも使用可能である。但し、溶媒で基材を膨潤させて親水性高分子化合物を強固に固定化したい場合、少なくとも基材表面に存在させる材料としては、上記高分子材料が溶媒により良好に膨潤し得るため好ましい。
【0076】
本発明の医療用具としては、特に血管内で使用されるカテーテルやガイドワイヤを好適に例示できるが、その他にも下記の医療器を例示できる。
【0077】
1)胃管カテーテル、栄養カテーテル、経管栄養用(ED)チューブなどの経口ないし経鼻的に消化器管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0078】
2)酸素カテーテル、酸素カヌラ、気管内チューブのチューブやカフ、気管切開チューブのチューブやカフ、気管内吸引カテーテルなど経口ないし経鼻的に気道ないし気管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0079】
3)尿道カテーテル、導尿カテーテル、バルーンカテーテルのカテーテルやバルーンなどの尿道ないし尿管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0080】
4)吸引カテーテル、排液カテーテル、直腸カテーテルなど各種体腔、臓器、組織内に挿入ないし留置されるカテーテル類。
【0081】
5)留置針、IVHカテーテル、サーモダイリューションカテーテル、血管造影用カテーテル、血管拡張用カテーテル及びダイレーターあるいはイントロデユーサなどの血管内に挿入ないし留置されるカテーテル類。あるいは、これらのカテーテル用のガイドワイヤー、スタイレット等。
【0082】
6)各種器官挿入用の検査器具や治療器具、コンタクトレンズ等
【0083】
7)ステント類や人工血管、人口気管、人口気管支等。
【0084】
8)体外循環治療用の医療器(人工心臓、人工肺、人工腎臓等)やその回路類。
【0085】
【実施例】
以下、本発明の実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
ジメチルアクリルアミド(DMAA)24.6g、ダイアセトンアクリルアミド(DAAAm)0.4g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.005gを、1時間N2バブリングした1,4-ジオキサン100gを溶媒として、N2存在下で75℃、6時間攪拌しながら重合した。重合後の溶液はn-ヘキサン中に再沈させる精製操作を三度繰り返し、減圧乾燥してランダムコポリマーを得た。
【0087】
このランダムコポリマーの5wt%テトラヒドロフラン (THF)溶液にポリウレタン(日本ミラクトラン製 Miractran E998PNAT)のシートを15秒間浸漬後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた後、pH=3.0に調製した10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0088】
得られた親水性共重合体が固定化されたシートは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このシートは後述する摺動性試験を行った後も優れた潤滑性を示し、性能の低下は認められなかった。
【0089】
(実施例2)
セバシン酸二塩化物72.3g中に50℃でトリエチレングリコール29.7gを滴下した後、50℃で3時間塩化水素を減圧除去して得られたオリゴエステル22.5gにメチルエチルケトン4.5gを加え、水酸化ナトリウム5.0g、31%過酸化水素水6.93g、界面活性剤ジオクチルホスフェート0.44g、水120gよりなる溶液中に滴下し、−5℃で20分間反応させた。得られた生成物を、水、メタノールで洗浄を繰り返した後、乾燥させて分子内に複数のパーオキサイド基を有するポリ過酸化物(PPO)を得た。続いて、このPPO10gを重合開始剤として、ダイアセトンアクリルアミド(DAAAm)90gを1,4-ジオキサンを溶媒として、N2存在下で80℃、30分間攪拌しながら重合した。反応物を、ヘキサンで再沈して、分子内にパーオキサイド基を有するポリDAAAmを得た。続いて、このポリDAAAm0.5gを重合開始剤とし、親水性モノマーとしてジメチルアクリルアミド(DMAA)24.5gを1,4-ジオキサン100g中に仕込み、80℃、6時間重合させることにより、反応性ドメインとしてポリDAAAm、水膨潤性の親水性のドメインとしてポリDMAAを有するブロックコポリマーを得た。
【0090】
このブロックコポリマーの5wt%テトラヒドロフラン (THF)溶液にポリウレタン(日本ミラクトラン製 Miractran E998PNAT)のシートを15秒浸漬後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた後、pH=3.0に調製した10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0091】
得られた親水性共重合体が固定化されたシートは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このシートは後述する摺動性試験を行った後も優れた潤滑性を示し、性能の低下は認められなかった。
【0092】
(比較例1)
実施例1と同じポリウレタンのシートを実施例2で合成されたブロックコポリマー5wt%のテトラヒドロフラン(THF)溶液に15秒浸漬後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた。得られたシートは、生理食塩水または水で湿潤させるとしばらくは潤滑性を示したが、後述する摺動性試験を行った後のサンプルは全く潤滑性を示さなくなり、耐摩耗性の低い事がわかった。
【0093】
(実施例3)
実施例1で合成されたランダムコポリマー5wt%とポリウレタン(大日本インキ社製 接着性ポリウレタン PANDEX T-5210)2.5wt%のTHF溶液を作製し、ポリエチレン(東ソー製 VLDPE ルミタック12-1)のシートをこの溶液に1分間浸漬させた後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた。次にこのシートをpH=3.0に調製した10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0094】
得られた親水性共重合体が固定化されたポリエチレンのシートは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このシートは後述する摺動性試験を行った後も優れた潤滑性を示し、性能の低下は認められなかった。
【0095】
(実施例4)
実施例1で合成されたランダムコポリマー5wt%とポリビニルピロリドン(和光純薬製 K−90、平均分子量(Mw):1,200,000)2.5wt%のCHCl3溶液を作製し、ポリウレタン(日本サーメディクス製TecoflexEG-65D)のシートをこの溶液に15秒間浸漬させた後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた。次にこのシートをpH=3.0に調製した10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0096】
得られた親水性共重合体が固定化されたシートは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このシートは後述する摺動性試験を行った後も優れた潤滑性を示し、性能の低下は認められなかった。
【0097】
(比較例2)
実施例1で合成されたランダムコポリマー5wt%とポリビニルピロリドン(和光純薬製 K−90、平均分子量(Mw);1,200,000)2.5wt%のCHCl3溶液を作製し、ポリエチレン(東ソー製 VLDPE ルミタック12-1)のシートをこの溶液に1分間浸漬させた後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた。
【0098】
得られたポリエチレンのシートは、生理食塩水または水で湿潤させるとしばらくは潤滑性を示したが、後述する摺動性試験を行った後のシートは全く潤滑性を示さなくなり、耐摩耗性の低い事が確認された。
【0099】
(実施例5)
ジメチルアクリルアミド(DMAA)22.0g、ダイアセトンアクリルアミド(DAAAm) 0.5g、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)2.5g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.005gを1時間N2バブリングした1,4-ジオキサン100gを溶媒として、N2下で75℃、6時間攪拌しながら重合した。重合後の溶液はn-ヘキサン中に再沈させる精製操作を三度繰り返し、減圧乾燥してランダムコポリマーを得た。
【0100】
このランダムコポリマーの5wt%テトラヒドロフラン (THF)溶液にポリエチレン(東ソー製 VLDPE ルミタック12-1)のシートを1分間浸漬し、引き上げて60℃、2時間乾燥させた後、pH=3.0に調製した10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0101】
得られたシートは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このシートは後述する摺動性試験を行った後も優れた潤滑性を示し、性能の低下は認められなかった。
【0102】
(実施例6)
ジメチルアクリルアミド(DMAA)24.5g、ダイアセトンアクリルアミド(DAAAm)0.5g、アクリル酸(AA)0.05g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.005gを、1時間N2バブリングした1,4-ジオキサン100gを溶媒として、N2下で75℃、6時間攪拌しながら重合した。重合後の溶液はn-ヘキサン中に再沈させる精製操作を三度繰り返し、減圧乾燥してランダムコポリマーを得た。
【0103】
このランダムコポリマーの5wt%テトラヒドロフラン (THF)溶液にポリウレタン(日本ミラクトラン製 Miractran E998PNAT)のシートを15秒間浸漬し、引き上げて60℃、2時間乾燥させた後、10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0104】
得られた親水性共重合体が固定化されたシートは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このシートは後述する摺動性試験を行った後も優れた潤滑性を示し、性能の低下は認められなかった。
【0105】
(実施例7)
実施例1で合成されたランダムコポリマー5wt%のTHF溶液を作製し、ポリウレタン(日本サーメディクス製TecoflexEG-65D)のチューブをこの溶液に15秒間浸漬させた後、引き上げて60℃、2時間乾燥させた。次にこのチューブをpH=3.0に調製したヘパリンナトリウム(和光純薬製)1wt%含有10wt%カルボヒドラジド水溶液中に3時間浸漬させて架橋反応を行った。
【0106】
得られた親水性共重合体が固定化されたチューブは、生理食塩水または水で湿潤させると優れた潤滑性を示した。また、このチューブをウサギの大腿静脈に2週間留置したところ、血栓の付着が全くみられなかった。以上のことから、本チューブにおいて潤滑性且つ抗血栓性を有する表面が形成されていることが確認された。
【0107】
(摺動性試験)
摺動抵抗の測定機器は、(株)山電製クリープメーター(レオナー RE-33005)を使用し、冶具に同社の摩擦摩耗試験治具(FW-3305-1)を用いた。測定は、サンプルが浸水した状態で200gの分銅で負荷をかけながら行った。各シートサンプルについて試験速度10mm/sec、試験幅20mmで50サイクルの摺動性試験を行い、それぞれのシートサンプルの試験開始時の抵抗値と試験終了時の抵抗値を比較した。結果を下記表1に示す。
【表1】
【0108】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の医療用具およびその製造方法は、基材の表面に親水性の重合体を化学的に堅固に導入しているものである。このため本発明の医療用具は材料表面に植物性オイルや他の合成オイルを塗布する方法において見られる材料表面からの塗布剤の脱離、剥離、溶出といった現象も観察されず、高い安全性を確保できる。
【0109】
また、本発明によれば、イソシアナート基等の高い反応性を有するプロトン受容性の官能基を使用することなく表面潤滑化処理が行えるため、プロトン供与性の溶媒の使用が可能となるだけでなく、作業域の厳密な水分管理等を行う必要がない。それに加えて、基材本来の物性を損なうことなく温和な条件で表面潤滑化処理を行うことができる。したがって、基材に対する制限も殆どなく、様々な医療用具に対して表面潤滑化処理を行うことができる。
【0110】
本発明の医療用具は医療用具の材料表面の摩擦抵抗が極めて低くなり、特に唾液、消化液、血液等の体液や生理食塩水、水等の水系液体に濡れた状態、即ち湿潤状態における摩擦抵抗は極めて小さくなるため、ガイドワイヤやカテーテル等の挿入の容易性、患者の苦痛軽減、粘膜や血管内膜の損傷防止等の利点が得られる。
【0111】
更に、本発明によれば、必要に応じてヘパリン等の水溶性の生理活性物質を共存させて表面潤滑化処理を行うことにより、材料表面に生理活性(例えば、抗血栓性)を合わせ持たせることも可能となるという利点も有する。
Claims (11)
- 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有する反応性部位と潤滑性を発現する親水性の部位とを有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆することにより基材表面に被覆された該親水性高分子化合物と一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤との反応生成物を含む表面潤滑層を形成したことを特徴とする医療用具。
- 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のヒドラジン残基を含有する反応性部位と潤滑性を発現する親水性の部位とを有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆することにより基材表面に被覆された該親水性高分子化合物と一分子当たり少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物からなる架橋剤との反応生成物を含む表面潤滑層を形成したことを特徴とする湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具。
- 前記表面潤滑層は、水溶性または水膨潤性の高分子物質を含んでいることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用具。
- 前記架橋剤は水系溶媒に可溶であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の医療用具。
- 前記表面潤滑層に水溶性の生理活性物質を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の医療用具。
- 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物からなる架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液を被覆することを特徴とする医療用具の製造方法。
- 湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法であって、該医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のヒドラジン残基を含有する親水性高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物からなる架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液を被覆することを特徴とする医療用具の製造方法。
- 前記親水性高分子化合物を含む溶液および前記架橋剤を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させることを特徴とする請求項6又は7に記載の医療用具の製造方法。
- 前記架橋剤を水系溶媒に溶解した溶液に水溶性の生理活性物質を共存させることを特徴とする請求項6ないし8のいずれかに記載の医療用具の製造方法。
- 医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のカルボニル基を含有するカルボニル基含有高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のヒドラジン残基を有するヒドラジド化合物を含む溶液を被覆する医療用具の製造方法であって、該カルボニル基含有高分子化合物を含む溶液と該ヒドラジド化合物を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させることを特徴とする、湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法。
- 医療用具を構成する基材の表面に、分子内に少なくとも一個のヒドラジン残基を含有するヒドラジド高分子化合物を含む溶液を被覆した後、一分子当たり少なくとも二個のカルボニル基を有するカルボニル基含有化合物を含む溶液を被覆する医療用具の製造方法であって、該カルボニル基含有化合物を含む溶液と該ヒドラジド高分子化合物を含む溶液の少なくともいずれかに水溶性または水膨潤性の高分子物質を共存させることを特徴とする、湿潤時に表面が潤滑性を発現する医療用具の製造方法。
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