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JP4185285B2 - 色素増感型光電変換素子およびそれを用いた太陽電池 - Google Patents

色素増感型光電変換素子およびそれを用いた太陽電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光電変換素子およびそれを用いた太陽電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の温暖化現象を抑制するために、環境を汚染することなくクリーンなエネルギーを利用することが重要な課題として挙げられている。太陽電池はクリーンなエネルギーの供給源として有望である。これらの太陽電池において、シリコン系太陽電池に代わる新たな太陽電池として、色素増感型太陽電池が注目されている。
【0003】
色素増感型太陽電池の基本的な構造は、透明電極、多孔質光電変換層、ホール輸送層および対電極からなる。単層である多孔質半導体層の表面には、可視光領域に吸収スペクトルを有する1〜2種類の光増感色素が吸着されている。太陽電池は次のような動作(過程)が繰り返されることにより、電気エネルギーが取り出される。すなわち、多孔質光電変換層に光が照射されると、多孔質光電変換層側で電子が発生し、この電子が電気回路を通って対電極に移動し、さらに電子が電解質中のイオンによって運ばれ、多孔質光電変換層に戻される。このような金属錯体の光誘起電子移動を応用した色素増感型太陽電池は、特許第2664194号公報、国際公開公報WO9405025号公報に開示されている。
【0004】
特開2000−243466号公報には、多孔質光電変換層である酸化物半導体層を多層にし、かつ各層に異なる吸収スペクトルを有する色素を担持させる技術が開示されている。この技術では、まず、短波長吸収の色素を吸着させた酸化チタンを乾燥させ、さらにアルコールに溶解したバインダと混合して懸濁液を調製し、これを透明導電膜上に成膜し乾燥させる。その後、中波長吸収の色素を用いて同様に懸濁液を調製し、得られた懸濁液を前記工程で形成した膜上に成膜し乾燥させる。さらに、長波長色素を用いて同様に懸濁液を調製し、得られた懸濁液を前記工程で形成した膜上に成膜し乾燥させる。このようにして異なる色素が吸着した3層の酸化チタン層を形成して、太陽電池を得ている。
【0005】
しかしながら、この太陽電池では、太陽光スペクトルに比べて光電変換に用いられる色素の吸収波長域が狭く、太陽光を有効に利用できないので、シリコン系太陽電池と比較して光電変換効率が低いという問題があった。
また、この技術では、多層構造の半導体層の各層が同様の方法で形成されるので、受光面側から取り込まれる光は、第1層および第2層以降で一様に散乱する。したがって、第1層で光が散乱し、第2層以降で取り込まれる光が減少し、第2層以降では効率よく電流を取り出すことが困難であった。
【0006】
上記の問題を解決する方法として、特開2001−76772号公報には、酸化物半導体層の粒径を制御し、Jsc(電流密度)を向上させて、太陽電池の光電変換効率を改善する技術が開示されている。この技術によれば、金属酸化物からなる平均粒径200nm〜10μmの中空状粒子を多孔質酸化物半導体層に含ませることで、色素およびホール輸送層を十分かつ容易に拡散および吸着させることが可能な酸化物半導体電極を提供できるとしている。
【0007】
しかしながら、J.Am.Chem.Soc.1993,115,6382−6390には、上記の技術で作製されるような外部量子効率が80%を超える太陽電池における内部量子効率は、ガラスによる透過・反射・散乱などの要因を考慮すると、100%近い値になることが示されている。このことは、散乱によって外部量子効率を改善することに限界が存在することを示している。すなわち、これ以上のJscを得るためには、色素の光感度領域を拡大する以外に方法がない。
【0008】
色素の光感度領域を拡大する方法として、特開2000−243466号公報には、2つの色素を使用した太陽電池が開示されている。この技術では、酸化チタン微粒子に色素を吸着した後に成膜を行い、これを繰り返すことにより太陽電池を作製している。したがって、この方法では焼成工程を行っていないために、酸化チタン同士の導電性が大きく損なわれ、光の照射により発生したキャリアが電極に効率的に到達できないので、効率的に光電流を取り出すことができないという問題がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、Jscを向上させることで、高効率な光電変換素子およびそれを用いた太陽電池を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、光電変換素子の多孔質半導体層に多層構造を採用し、かつそのヘイズ率を一定値以上に制御することにより、Jscを向上できること、さらに、多孔質半導体層を形成している半導体微粒子の粒径を各層毎に変えること、すなわち、多孔質半導体層が2層構造の場合、第1層では小さい粒径または揃った粒径の半導体微粒子を用いて光の散乱を抑え、第2層では光が散乱するような半導体微粒子を用いて光を効率よく光を取り込ませることにより、高効率な光電変換素子が得られることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
本発明によれば、導電性支持体と、色素を含む多孔質半導体層で構成された多孔質光電変換層と、ホール輸送層と、対極とからなる色素増感型光電変換素子において、前記多孔質光電変換層が多層構造を有し、かつ前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率が62〜89%であり、前記多層構造の多孔質光電変換層が、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を短波長側に有する層から吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を長波長側に有する層の順で受光面側から配置されていることを特徴とする色素増感型光電変換素子が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、上記の光電変換素子を用いた太陽電池が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明は一例に過ぎず、種々の形態での実施が本発明の範囲内で可能である。
【0014】
図1に基づいて本発明の実施形態を説明する。図1に示す色素増感型光電変換素子は、導電性支持体10上に形成され、光増感色素が吸着された多孔質光電変換層3と対極側支持体20との間にホール輸送層6が充填され、側面を封止材9で封止された構造をとっている。また、多孔質光電変換層3は多層構造を有しており、第1層多孔質光電変換層4および第2層多孔質光電変換層5には、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を短波長側に有する色素および長波長側に有する色素がそれぞれ吸着されている。
【0015】
導電性支持体10は、基板1と透明性導電膜2から構成される。
基板1に用いられる材料は特に制限されず、各種透明材料が使用可能であり、ガラスを用いることが好ましい。
【0016】
また、透明性導電膜2に用いられる材料に関しても特に制限はないが、フッ素ドープ酸化スズ(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化スズ(SnO2:Sb)、スズドープ酸化インジウム(In23:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)などに代表される透明導電性酸化物電極を用いることが好ましい。
基板1上に透明性導電膜2を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、ゾル−ゲル法によるコーティングなどの方法が挙げられる。
【0017】
多孔質光電変換層3の多孔質半導体層を構成する材料はn型半導体であれば特に限定されず、TiO2、SnO2、ZnO、Nb25、ZrO2、CeO2、WO3、SiO2、Al23、NiO、CuAlO2、SrTiO3、SrCu22などの酸化物もしくはこれら複合酸化物が挙げられる。
【0018】
多孔質光電変換層3は多層構造である。ここで、「多層構造」とは、同一または異種の多孔質半導体層を積層させ、かつ各層に最大感度波長領域が異なる色素が吸着されている構造を意味する。また、「最大感度波長領域」とは、色素の吸収スペクトルのうち、最大の吸収感度を示すピーク波長を基準として、吸収感度がピーク波長の吸収感度に対して、20%減少したときの短波長側の波長と長波長側の波長との間の波長領域、もしくはピーク波長に対して±50nmの波長領域のいずれか広い方を意味する。
【0019】
多層構造の多孔質光電変換層を、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を短波長側に有する層から吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を長波長側に有する層の順で受光面側から配置することにより、単層構造の多孔質光電変換層では、吸収できなかった短波長側および/または長波長側の光を効率よく吸収し、高い光電変換率を得ることができる。異なる最大感度波長領域を有する多孔質光電変換層を積層するのであれば、その波長領域が部分的に重なっていても本発明の効果を奏することは言うまでもない。
【0020】
多層構造の多孔質光電変換層に光を効率よく吸収させるため、多孔質光電変換層の可視光領域の波長におけるヘイズ率は60%以上が好ましい。
【0021】
ここで、「ヘイズ率」とは、可視光領域にスペクトルを有する光線(例えば、標準光源D65や標準光源C)を測定試料に入射した際の拡散透過率を、全光線透過率で割った値であり、本発明においては、ヘイズ率は透明性支持体上に形成した多孔質光電変換層側から光線を照射し、全光線透過率および拡散透過率を測定することにより得られる。
【0022】
この測定は、光源と光量測定部があれば簡単に測定することが可能な、簡便な評価方法である。実際には、測定試料に密着した積分球と、積分球の測定試料と反対側にライトトラップ(暗箱)もしくは標準板を供えた装置を用いて測定することができる。すなわち、標準板をセットした状態において、試料がない場合の入射光線の光量T1、試料がある場合の全光線透過光の光量T2を測定し、ライトトラップをセットした状態において、試料がない場合の装置からの拡散光の光量T3、試料がある場合の拡散透過光の光量T4を測定し、
全光線透過率Tt=T2/T1
拡散透過率Td=[T4−T3(T2/T1)]/T1
を算出し、これらからヘイズ率Td/Ttを求めることができる。
【0023】
発明者らは、多層構造の多孔質光電変換層のヘイズ率を制御した度重なる形成実験を行った結果、ヘイズ率が60%以上のときに、Jscの向上が顕著であることを見出した。
図2は、多層構造の多孔質光電変換層を用いた太陽電池のJscとヘイズ率の関係を示している(実施例2〜8参照)。この図から、ヘイズ率が60%以上のとき、20%〜50%のときに比べて、Jscが向上していることがわかる。光増感色素への光照射回数とヘイズ率の関係が単純な比例関係にあるわけではなく、ヘイズ率が増大するにつれて、光増感色素への光照射回数もより増大する関係があるため、ヘイズ率が60%以上においては、光増感色素への光照射回数が急激に増大していくことにより、Jscが向上するものと考えられる。すなわち、多孔質光電変換層のヘイズ率を60%以上に制御することにより、より多くの電流を得ることができるようになる。
【0024】
また、多層構造である多孔質光電変換層において、前述のように、第1層多孔質光電変換層には短波長側の色素が、第2層多孔質光電変換層には長波長側の色素が含まれている。このため、第1層に吸着されている色素で吸収されない光は第1層多孔質光電変換層でなるべく散乱されることなく、第2層へ光を到達させることが好ましい。さらに、第2層多孔質光電変換層において光を散乱させることにより、第2層多孔質光電変換層で電流を多く取り出すことができるようになる。
【0025】
したがって、第2層以後の光電変換層に光が到達しやすくするため、第1層より第2層以後の光電変換層は大きなヘイズ率を有することが好ましい。このためには、第1層多孔質半導体層を構成する粒子の粒径と第2層多孔質半導体層を構成する粒子の粒径は異なるものとすればよい。それは以下の原理により、説明することができる。
光は何も障害がなければ直進性をもっている。仮に、第1層多孔質半導体層をで小さい粒径の半導体粒子で形成すると、粒径が小さいため、大きく散乱することなく、光は層内を透過することができる。これは、粒子が小さく、光の回折角が小さいために、多孔質半導体層を透過する光量の大きな減少がないからである。このとき、第2層多孔質半導体層を第1層よりも大きな粒径の半導体粒子で形成すると、粒子が大きいために、これらの粒子により光の回折角が大きくなり、多孔質半導体層を透過する光量が大きく減少することになる。したがって、各層の粒径を異なるものとすることにより、第2層へ多くの光を取り込むことができるようになる。
【0026】
前述のように、多層構造の多孔質光電変換層において、第1層では、なるべく散乱することなく、第2層へ光を到達させることが好ましいため、第1層多孔質光電変換層の可視光領域の波長におけるヘイズ率は20%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下である。そして、第2層多孔質光電変換層では、十分に散乱をさせることが好ましいため、第2層多孔質光電変換層のヘイズ率は60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上である。
【0027】
図2でのヘイズ率は、実施例で示しているように、多層構造の多孔質半導体層を形成した後に測定している。第1層および第2層の各層のヘイズ率を測定するとなると、一度形成した多孔質半導体層から各層を剥離した後、評価することになるため、各層のヘイズ率の評価は困難となる。また、第1層および第2層のヘイズ率を単層ごとに測定した結果と、多層構造にした第1層および第2層のヘイズ率を測定した結果には、顕著な違いは見られない。それは、第1層の多孔質半導体層は、粒径を制御することによりヘイズ率が第2層の多孔質半導体層に比べて小さいため、第2層の多孔質半導体層のヘイズ率により、多層構造の多孔質半導体層のヘイズ率がほぼ決定されているからに他ならない。したがって、単層ごとにヘイズ率を測定してもよいが、多層構造の多孔質半導体層のヘイズ率を測定するのが好ましい。
【0028】
上記のように、第2層以後の多孔質光電変換層は長波長光に対する感度を有する。一般的に一定の粒径の粒子に対して、粒径の倍程度の光は散乱が起こるため、第1層光電変換層で長波長光の散乱を起こさないためには、第1層光電変換層の多孔質半導体を構成する粒子の粒径が小さいことが好ましい。これは上記の理由による。
さらに、第1層光電変換層の多孔質半導体を構成する粒子の粒径を揃えることが好ましい。ここで、「粒径を揃える」とは、粒子の80%、好ましくは90%が平均粒径の50〜200%にあることを意味する。
【0029】
本発明において、多孔質光電変換層のヘイズ率は、粒径の異なる粒子同士の混合割合や粒径を変化させることにより制御することができる。
具体的には、第2層以後の多孔質光電変換層の多孔質半導体層を構成する粒子の粒径は、第1層多孔質光電変換層の多孔質半導体層を構成する粒子の粒径の4倍以上であるのが好ましく、10倍以上がより好ましい。このような場合、粒子のなかに、20%以上の粒子は粒径の大きいものが含まれていてもよい。
【0030】
また、粒径の大きい粒子が得られにくい場合、凝集した大きな二次粒子を用いることもできる。例えば、沈降法で作製した光触媒用チタニア粒子(一次粒子:20〜30nm、二次粒子:数百nm〜数μm)およびこの粒子と他の粒子との混合物が挙げられる。
【0031】
多孔質光電変換層を構成する膜状の多孔質半導体層を基板上に形成する方法としては、公知の種々の方法が挙げられる。具体的には、基板上に半導体粒子を含有する懸濁液を塗布し、乾燥および焼成する方法、基板上に所望の原料ガスを用いたCVD法またはMOCVD法などにより半導体膜を成膜する方法、原料固体を用いたPVD法、蒸着法、スパッタリング法、およびゾルーゲル法、電析法のような電気化学的手法などが挙げられる。これらの中でも、低コスト化の観点から、半導体粒子を含有する懸濁液を用いる方法が好ましい。
多孔質半導体層の膜厚は、特に限定されるものではないが、透過性、変換効率などの観点から、0.5〜20μm程度が好ましい。
【0032】
次のようにして、基板上に第1層多孔質半導体層を形成することができる。
まず、材料となる半導体微粒子を用意し、その半導体微粒子を分散剤、有機溶媒、水などに加えて分散させて懸濁液を調製し、その懸濁液を導電性支持体10上に塗布する。塗布する方法としては、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。その後、得られた塗膜を乾燥・焼成して、多孔質半導体層を得る。乾燥・焼成においては、使用する基板や半導体粒子の種類により、温度、時間、雰囲気などの条件を適宜調整することが必要になる。例えば、大気雰囲気下または不活性ガス雰囲気下、50〜800℃程度の範囲内で、10秒〜12時間程度で行うことができる。この乾燥・焼成は、単一の温度で1回または温度を変化させて2回以上行ってもよい。
【0033】
半導体微粒子としては、市販されているもののうち適当な平均粒径、例えば1〜500nm程度の平均粒径を有する、前記のような単一または化合物半導体の粒子などが挙げられる。また、この半導体微粒子を分散するために使用される溶媒は、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのグライム系溶媒、イソプロピルアルコール、テルピネオールなどのアルコール系溶媒、イソプロピルアルコール/トルエンなどの混合溶媒、水などが挙げられる。
【0034】
上記の種々の手法により、粒径のそろった半導体微粒子を用いて、粒径の揃った第1層多孔質半導体層を形成することができる。ヘイズ率を制御するには、半導体微粒子の分散時間を変化させる方法や、多孔質半導体層と同一もしくは異種材料で大きな粒径を持つ粒子を混在させる方法などが挙げられる。
【0035】
導電性支持体上に第1層多孔質半導体層を形成した後、その上に第2層多孔質半導体層を形成する。多孔質半導体層を形成する際には、通常500℃程度の温度で焼成する必要がある。第2層多孔質半導体層を形成する際に、このような熱が加わると、第1層多孔質半導体層に吸着された色素が分解をしてしまう。したがって、このような分解を防ぐために、第2層多孔質半導体層を低温、好ましくは200℃以下の温度で形成するのが好ましい。低温での形成法として、水熱法、低温電気化学的手法などが挙げられ、低温電気化学的手法が好ましい。
【0036】
水熱法とは、金属アルコキシドを用いて導電性支持体上に塗膜を形成し、これを低温で乾燥させた後、沸騰水に導電性支持体ごと浸すことによって、多孔質半導体層を形成する方法である。
また、低温電気化学的手法とは、例えば、金属硝酸塩溶液を電気化学的に還元することによって、多孔質半導体層を形成する方法である。
【0037】
低温電気化学的手法では、金属硝酸塩溶液を電気化学的に還元することにより、色素を担持した金属酸化物の多孔質光電変換層を形成することができる。金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛が挙げられる。電気化学的な還元反応に用いる溶液には、硝酸亜鉛水溶液に色素を混合したものを使用することができる。第2層多孔質光電変換層を作製する場合、第1層の色素とは異なるものを使用し、上記の工程を繰り返すことにより、色素を担持した金属酸化物の多孔質光電変換層を形成することができる。
【0038】
具体的には、上記の硝酸亜鉛と色素の混合溶液に透明導電膜と対極及び参照電極を入れ、電解反応させることにより、下記の反応式のように酸化亜鉛が透明導電膜上に形成される。
NO3 -+H2O+2e―→NO2 -+2OH- (1)
Zn2 ++2OH―→Zn(OH)2 (2)
Zn(OH)2→ZnO+H2O (3)
【0039】
上記の反応式で示すとおり、酸化亜鉛の形成は硝酸イオンの亜硝酸イオンへの還元を伴う塩基生成によるものである。この生成過程において、溶液中に色素が混在する場合、酸化亜鉛表面の−OH基と色素の官能基(フタロシアニン系色素であるとスルホン酸基)の化学結合により酸化亜鉛は成長するとともに色素分子の修飾を受ける。ここで、色素の吸着は(002)面に対して優先的に起こり、この結果、(002)面の酸化亜鉛の成長は抑制され、(100)方向に成長する。この結果、色素を担持した酸化亜鉛の多孔質光電変換層作製が可能となる。
【0040】
硝酸亜鉛水溶液濃度は、1×10-2〜1モル/リットル程度が好ましく、0.1〜0.5モル/リットルが特に好ましい。また、色素水溶液濃度は、1×10-6〜1×10-4モル/リットル程度が好ましく、3×10-5モル/リットル程度が特に好ましい。
【0041】
色素を担持した酸化亜鉛の多孔質光電変換層を作製する場合、例えば0.1モル/リットルの硝酸亜鉛溶液に0.5マイクロモル/リットルの亜鉛フタロシアニン色素を溶解させ、溶液を70℃に加熱し、還元電解電位を−0.7V(vs.SCE)にて60分間反応させることにより、作製することができる。
【0042】
ここで、反応温度としては、0〜100℃の温度範囲で行うことができる。これ以外の温度域では、酸化亜鉛の成長速度が高温では速くなり、また、低温では低くなる傾向がある。このため、酸化亜鉛の基板への付着性や光透過性が悪くなるため、上記の温度範囲で行うことが好ましい。
【0043】
また、還元電解電位は−0.7〜−1.3V(vs.SCE)の範囲で反応させることにより、色素担持された多孔性光半導体電極の作製が可能である。上記の電位範囲より低い場合、亜鉛メッキが起こり、また、高い場合は、反応が生じないため、上記の電位範囲で反応させることが好ましい。
【0044】
また、電気化学的手法に用いる対極としては、白金、金、銀、グラファイト、亜鉛などが挙げられる。なかでも、酸化亜鉛の多孔質光電変換層を作製する場合、対極に亜鉛金属を用いることにより、硝酸亜鉛水溶液中の亜鉛濃度変化が少なくなり、また酸化亜鉛形成に伴う溶液のpH低下を抑制できるため、安定的に作製できる。
【0045】
電気化学法は、2極式および3極式でも作製は可能である。3極式の場合の参照電極としては、SCE(飽和甘コウ電極)、NHE(標準水素電極)、RHE(水素圧における可逆水素電極)、NCE(標準甘コウ電極)などが使用できる。
【0046】
また、色素の分解を防ぐために、第1層多孔質半導体層(層A)の色素を吸着する前に、第2層多孔質半導体層(層B)を形成し、その後で、多孔質半導体層の各層に各色素を吸着する方法を用いてもよい。具体的には、第1層多孔質半導体層または第2層多孔質半導体層(層B)の金属酸化物表面に予め皮膜をつけて、第1層多孔質半導体層に色素Aを吸着させてから、皮膜の除去により特定の層の色素を脱着した後、第2層多孔質半導体層に色素Bを吸着させる。
【0047】
すなわち、本発明の光電変換素子は、導電性支持体、この導電性支持体上に設けられた色素を吸着させた多層構造をする多孔質光電変換層、導電層、対極で構成された色素増感型光電変換素子において、多層構造を有する多孔質半導体層を形成している粒子に、少なくとも1層に皮膜層を形成させた後、色素吸着を行い、皮膜層を除去した後、別の色素を吸着させることにより光電変換層を作製することにより製造することができる。
【0048】
皮膜を形成するために上記の方法では半導体微粒子を入れるが、コロイド溶液や金属アルコキシドを使用して被覆させる粒子表面で加水分解などを行うことにより、形成することもできる。具体的には、層Aを形成後、金属アルコキシド水溶液中に浸漬し、層Aの酸化チタン粒子で金属アルコキシドを加水分解し表面を修飾させ、焼成することにより表面を被膜させる。この時に使用する金属アルコキシド水溶液中にエタノールを加えることにより、表面張力が低下し、多孔質膜中へ効率よく色素を浸透させることができる。
【0049】
また、被覆させる材料としては、酸性溶液および塩基性溶液に溶解する酸化物であれば問題なく、具体的には、酸性溶液を使用する場合には、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化ニッケル、酸化モリブデンなどが挙げられ、塩基性溶液を使用する場合には、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化鉛などが挙げられる。
【0050】
また、上記酸化物を溶解させる酸性溶液および塩基性溶液の種類も特に限定されるものではなく、上記酸化物を溶解できるものであればよい。酸性溶液としては、溶解後の陰イオンが焼結時に蒸発するものが特に好ましく、具体的には塩酸や硝酸が好ましい。塩基性溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。それらの濃度は、溶解時間、使用する色素にも影響されるが、0.2から2N(N:規定度)の範囲が好ましい。
【0051】
第2層多孔質半導体層に皮膜を形成する手法について説明する。
まず、通常のドクターブレード法で酸化チタン懸濁液を導電性支持体上に塗布し、500℃で焼成することにより、第1層多孔質半導体層(層A)を得る。その後、酸性の酸化チタン懸濁液に酸化マグネシウム粒子を混合し、分散させて懸濁液を調製し、これをドクターブレード法で層A上に塗布し、乾燥・焼成することにより、第2層多孔質半導体層を得る(層B)。ここで、酸性の酸化チタン懸濁液が酸化マグネシウム粒子を溶解しているので、層Bは酸化チタンの表面に、層状に酸化マグネシウムが形成される。その後、色素Aを吸着させ、層Aでは酸化チタン上に色素Aが吸着され、層Bでは、酸化マグネシウム上に色素Aが吸着された状態となる。次いで、多孔質半導体層を、例えば塩酸で処理することにより、酸化マグネシウムを溶かし、結果的に層B上の色素が除去される。
次に、色素Bを吸着させることにより、層Bには色素B、層Aには色素Aという2層構造を有する多孔質光電変換層を形成することができる。
【0052】
多孔質半導体層に吸着して光増感剤として機能する色素としては、種々の可視光領域および/または赤外光領域に吸収をもつが挙げられる。色素を半導体に強固に吸着させるために、色素分子中にカルボキシル基、スルホン酸基、エステル基、メルカプト基、ホスホニル基などのインターロック基を有するものが好ましい。例えば、ルテニウムビピリジン系色素、アゾ系色素、キノン系色素、キノンイミン系色素、キナクリドン系色素、スクアリリウム系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ベリレン系色素、インジゴ系色素、ナフタロシアニン系色素などが挙げられる。
【0053】
幅広い波長領域の光を有効利用するため、多層構造の多孔質光電変換層の各層に異なる色素を用いることが好ましい。例えば、多孔質光電変換層が2層からなる場合、第1層光電変換層に吸着させる色素と第2層光電変換層に吸着させる色素は異なる最大吸収波長を有することが望ましい。具体的には、630〜800nmの吸収波長を有するフタロシアニン系色素と450〜600nmの吸収波長を有するペリレン系色素との組み合わせが代表的なものとして挙げられる。
【0054】
多孔質半導体層に色素を吸着させる方法としては、色素を含有する溶液中に多孔質半導体層を形成した基板を浸漬する方法などが挙げられる。この方法では、色素溶液と多孔質半導体層を形成した基板とを同一の密閉容器に入れ、色素溶液を密閉容器内に循環させるのが好ましいが、単に大気圧下で多孔質半導体層を形成した基板を約5分〜96時間浸漬させるだけでもよい。
【0055】
色素を溶解する溶媒としては、エタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリルなどの脂肪族炭化水素、ベンゼンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル等のエステル類、水などが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を混合して用いることができる。
色素溶液中の色素濃度は、使用する色素および溶媒の種類により適宜調整することができ、例えば、約1×10-5モル/リットル以上、好ましくは5×10-5〜1×10-2モル/リットル程度である。
【0056】
対極側支持体20は、基板7と対向電極層8から構成される。
基板7に用いられる材料は、基板1と同様、特に制限されず、各種透明材料が使用可能であり、ガラスを用いることが好ましい。
【0057】
また、対向電極層8に用いられる材料に関しても特に制限はないが、白金、炭素、フッ素ドープ酸化スズ(SnO2:F)、アンチモンドープ酸化スズ(SnO2:Sb)、スズドープ酸化インジウム(In23:Sn)、Alドープ酸化亜鉛(ZnO:Al)、Gaドープ酸化亜鉛(ZnO:Ga)などの薄膜、これら複数の積層膜、およびこれら複数の複合膜を用いることが好ましい。
基板7上に対向電極層8を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、PVD法、ゾル−ゲル法によるコーティングなどの方法が挙げられる。
【0058】
本発明において、導電性支持体10上に形成された光増感色素を吸着させた多孔質半導体層3と対極側支持体20との間に充填されるホール輸送層6としては、電子、ホール、イオンを輸送できる材料で構成される。例えば、ポリビニルカルバゾールなどのホール輸送材料、テトラニトロフロオルレノンなどの電子輸送材料、ポリピロールなどの導電性ポリマー、液体電解質、高分子固体電解質などのイオン導電体が挙げられる。
【0059】
液状のイオン導電体としては、例えば、ヨウ化テトラプロピルアンモニウムおよびヨウ素をアセトニトリルなどに溶解したヨウ素系イオン導電体や、ヨウ化リチウム、ヨウ素、およびジメチルプロピルイミダゾリウムヨウ素を3−メトキシプロピオニトリルなどに溶解したヨウ素系イオン導電体などが挙げられる。
【0060】
高分子固体電解質は、酸化還元種を溶解あるいは酸化還元種を構成する少なくとも1つの物質と結合することができる固体状の物質であれば、特に限定されない。例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンサクシネート、ポリ−β−プロピオラクトン、ポリエチレンイミン、ポリアルキレンスルフィドなどの高分子化合物またはそれらの架橋体、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアルキレンオキサイドなどの高分子官能基に、ポリエーテルセグメントまたはオリゴアルキレンオキサイド構造を側鎖として付加したものまたはそれらの共重合体などが挙げられる。それらの中でも、ポリエーテルセグメントまたはオリゴアルキレンオキサイド構造を側鎖として付加したものが特に好ましい。
【0061】
封止材9は、ホール輸送層6を構成する材料が漏れ出さないように光電変換素子をシールできるものであれば、特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ホール輸送層6を構成する材料が固体であって、光電変換素子からの流出の恐れがない場合には、封止材9は必ずしも設けなくてもよい。
以上の構成により、本発明における光電変換素子およびそれを用いた太陽電池が提供される。
【0062】
【実施例】
本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例では、本発明の実施例1を図1に基づいて説明する。
図1は、本発明の光電変換素子の層構成を示す要部の概略断面図である。図中、1は基板、2は透明性導電膜、3は多孔質光電変換層、4は第1層多孔質光電変換層、5は第2層多孔質光電変換層、6はホール輸送層、7は基板、8は対向電極層、9は封止材を示し、1と2を合わせた10は導電性支持体、7と8を合わせた20は対極側支持体を示す。
【0063】
(実施例1)
チタンイソプロポキシド(キシダ化学株式会社製、純度:99%)125mlを0.1M−硝酸水溶液(キシダ化学株式会社製)750mlに滴下し、80℃で8時間加熱して、加水分解反応をさせることにより、ゾル液を調製した。得られたゾル液をチタン製オートクレーブにて250℃で15時間保持し、粒子成長させ、その後、超音波分散を30分間行うことにより、平均一次粒径20nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を得た。
【0064】
得られた酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を、エバポレーターにて、酸化チタンが10wt%の濃度になるまでゆっくりと濃縮した後、ポリエチレングレコール(キシダ化学株式会社製、重量平均分子量:200000)を酸化チタンに対する重量比で40%添加し、攪拌することにより、酸化チタン粒子が分散した懸濁液を得た。
【0065】
透明導電膜2としてSnO2膜を形成したガラス基板1の透明導電膜2側に、調製した酸化チタン懸濁液をドクターブレード法で塗布し、面積10mm×10mm程度の塗膜を得た。この塗膜を120℃で30分間予備乾燥し、さらに酸素雰囲気下、500℃で30分間焼成し、第1層多孔質光電変換層4の第1層多孔質半導体層となる、膜厚が10μm程度の酸化チタン膜を形成した。
【0066】
次に、市販の酸化チタン微粒子(テイカ社製、製品名:TITANIX JA−1、粒径約180nm)4.0gと酸化マグネシウム粉末(キシダ化学株式会社製)0.4gを蒸留水20mlに入れ、塩酸でpH=1に調整した。さらに、ジルコニアビーズを加え、この混合溶液をペイントシェイカーで8時間分散処理した。その後、ポリエチレングレコール(キシダ化学株式会社製、重量平均分子量:200000)を酸化チタンに対する重量比で40%添加し、攪拌することにより、酸化チタン粒子が分散した懸濁液を得た。
【0067】
第1層多孔質半導体層の酸化チタン膜を形成したガラス基板1の第1層多孔質半導体層上に、調製した酸化チタン懸濁液をドクターブレード法で塗布し、塗膜を得た。この塗膜を80℃で20分間予備乾燥し、さらに酸素雰囲気下、約500℃で60分間焼成し、第2層多孔質光電変換層5の第2層多孔質半導体層となる、膜厚が22μm程度の酸化チタン膜を形成した。
多孔質半導体層のへイズ率を測定したところ、84%であった。
【0068】
吸収スペクトルにおける最大感度吸収波長領域を短波長側に有する色素(第1色素)として、式(1)で表されるメロシアニン系色素(株式会社林原生物化学研究所製、商品名:NK2684)をエタノールに溶解して、濃度4×10-4モル/リットルの第1色素の吸着用色素溶液を調製した。
【0069】
【化1】
Figure 0004185285
【0070】
透明導電膜2と多孔質半導体層3を具備したガラス基板1を、約50℃に加温した第1色素の吸着用色素溶液に10分間浸漬させて、多孔質半導体層3に第1色素を吸着させた。その後、ガラス基板1を無水エタノールで数回洗浄し、約60℃で約20分間乾燥させた。
次いで、ガラス基板1を0.5N−塩酸に約10分間浸漬させ、その後エタノールで洗浄して、第2層多孔質半導体層に吸着された第1色素を脱着した。さらに、ガラス基板1を約60℃で約20分間乾燥させた。
【0071】
次に、吸収スペクトルにおける最大感度吸収波長領域を長波長側に有する色素(第2色素)として、式(2)で表されるフタロシアニン系色素(Journal of Porphyins and Phthalocyanines 3、230−237、1999の文献に記されている手法により合成)をジメチルホルムアミドに溶解して、濃度4×10-4モル/リットルの第2色素の吸着用色素溶液を調製した。
【0072】
【化2】
Figure 0004185285
【0073】
透明導電膜2と多孔質半導体層3を具備したガラス基板1を、室温、常圧で第2色素の吸着用色素溶液に15分間浸漬させて、多孔質半導体層3に第2色素を吸着させた。その後、ガラス基板1を無水エタノールで数回洗浄し、約60℃で約20分間乾燥させた。
ここで多孔質半導体層のへイズ率を測定したところ、84%であった。
【0074】
次に、3−メトキシプロピオニトリル溶媒に、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨージドが濃度0.5モル/リットル、ヨウ化リチウムが濃度0.1モル/リットル、ヨウ素が濃度0.05モル/リットルになるように溶解させて、酸化還元性電解液を調製した。
第1色素と第2色素を吸着させた多孔質半導体層3を具備したガラス基板1の多孔質半導体層3側と、対向電極層8として白金を具備したITOガラスからなる対極側支持体20の白金側とが対向するように設置し、その間に調製した酸化還元性電解液を注入し、周囲をエポキシ系樹脂の封止材9により封止して、色素増感型太陽電池を完成した。
【0075】
得られた太陽電池を測定条件:AM−1.5(100mW/cm2)で評価したところ、電流値(Jsc):12.2mA/cm2、開放電圧(Voc):0.62V、フィールファクタ(FF):0.71、エネルギー変換効率(η):5.4%であった。
【0076】
(比較例1)
第2層多孔質半導体層を第1多孔質半導体層と同じ層とする、すなわち第1多孔質半導体層を形成する酸化チタン懸濁液を用いて第2層多孔質半導体層を形成すること以外は、実施例1と同様にして太陽電池を作製し、評価した。
多孔質光電変換層のヘイズ率は15%であった。
得られた太陽電池は、電流値:10.1mA/cm2、開放電圧:0.61V、フィールファクタ(FF):0.72、エネルギー変換効率:4.4%であった。
【0077】
実施例1の太陽電池は、比較例1の太陽電池よりも照射光を有効に使用し、光電変換効率に優れていることがわかる。
【0078】
(実施例2)
実施例1と同様にして、透明導電膜2としてSnO2膜を形成したガラス基板1の透明導電膜2側に、第1多孔質光電変換層4の第1多孔質半導体層となる酸化チタン膜を形成した。
【0079】
次に、チタンイソプロポキシド(キシダ化学株式会社製、純度:99%)125mlを0.1M−硝酸水溶液(キシダ化学株式会社製)750mlに滴下し、80℃で8時間加熱して、加水分解反応をさせることにより、ゾル液を調製した。得られたゾル液をチタン製オートクレーブにて250℃で15時間保持し、粒子成長させ、その後、超音波分散を30分間行うことにより、平均一次粒径20nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を得た(酸化チタンA)。
【0080】
得られた酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を、エバポレーターにて、酸化チタンが10wt%の濃度になるまでゆっくりと濃縮した後、市販の酸化チタン微粒子(テイカ社製、製品名:TITANIX JA−1、粒径約180nm)をコロイド溶液中の酸化チタンAに対する重量比で20%、ポリエチレングリコール(キシダ化学株式会社製、重量平均分子量:200000)をコロイド溶液中の酸化チタンAに対する重量比で40%、酸化マグネシウム粉末(キシダ化学株式会社製)を酸化チタンの総量に対する重量比で8%添加し、攪拌することにより、酸化チタン粒子が分散した懸濁液を得た。
【0081】
第1層多孔質半導体層の酸化チタン膜を形成したガラス基板1の第1層多孔質半導体層上に、調製した酸化チタン懸濁液をドクターブレード法で塗布し、塗膜を得た。この塗膜を80℃で20分間予備乾燥し、さらに酸素雰囲気下、約500℃で60分間焼成し、第2層多孔質光電変換層5の第2層多孔質半導体層となる、膜厚が21μm程度の酸化チタン膜を形成した。
多孔質半導体層のへイズ率を測定したところ、87%であった。
【0082】
実施例1と同様にして太陽電池を作製し、評価した。
得られた太陽電池は、電流値:13.1mA/cm2、開放電圧:0.62V、フィールファクタ(FF):0.70、エネルギー変換効率:5.7%であった。
【0083】
(実施例3:比較
実施例2と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、第2層多孔質半導体層を形成する際に、粒径約180nmの酸化チタン粒子を酸化チタンAに対する重量比で1%加えること以外は実施例2と同様にして、太陽電池を作製し、評価した。得られた結果を表1および図2にまとめる。
【0084】
(実施例4:比較
実施例2と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、第2層多孔質半導体層を形成する際に、粒径約180nmの酸化チタン粒子を酸化チタンAに対する重量比で5%加えること以外は実施例2と同様にして、太陽電池を作製し、評価した。得られた結果を表1および図2にまとめる。
【0085】
(実施例5:比較
実施例2と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、第2層多孔質半導体層を形成する際に、粒径約180nmの酸化チタン粒子を酸化チタンAに対する重量比で10%加えること以外は実施例2と同様にして、太陽電池を作製し、評価した。得られた結果を表1および図2にまとめる。
【0086】
(実施例6:比較
実施例2と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、第2層多孔質半導体層を形成する際に、粒径約180nmの酸化チタン粒子を酸化チタンAに対する重量比で15%加えること以外は実施例2と同様にして、太陽電池を作製し、評価した。得られた結果を表1および図2にまとめる。
【0087】
(実施例7)
実施例2と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、第2層多孔質半導体層を形成する際に、粒径約180nmの酸化チタン粒子を酸化チタンAに対する重量比で16%加えること以外は実施例2と同様にして、太陽電池を作製し、評価した。得られた結果を表1および図2にまとめる。
【0088】
(実施例8)
実施例2と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、第2層多孔質半導体層を形成する際に、粒径約180nmの酸化チタン粒子を酸化チタンAに対する重量比で18%加えること以外は実施例2と同様にして、太陽電池を作製し、評価した。得られた結果を表1および図2にまとめる。
【0089】
【表1】
Figure 0004185285
【0090】
実施例2〜8の結果から、ヘイズ率の増加に伴ってJscが増加すること、特にヘイズ率が60%以上のとき、Jscの増加が顕著になることがわかる。このように、ヘイズ率を制御した多層構造の多孔質光電変換層を用いることにより、Jscの増加をさせ、光電変換効率を向上させることができることが明らかになった。
【0091】
(実施例9)
チタンイソプロポキシド(キシダ化学株式会社製、純度:99%)125mlを0.1M−硝酸水溶液(キシダ化学株式会社製)750mlに滴下し、80℃で8時間加熱して、加水分解反応をさせることにより、ゾル液を調製した。得られたゾル液をチタン製オートクレーブにて250℃で10時間保持し、粒子成長させ、その後、超音波分散を30分間行うことにより、平均一次粒径15nmの酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を得た。
【0092】
得られた酸化チタン粒子を含むコロイド溶液を、エバポレーターにて、酸化チタンが20wt%の濃度になるまでゆっくりと濃縮した後、エチルセルロース(キシダ化学株式会社製)をテルピネオール(キシダ化学株式会社製)とエタノールとの混合溶媒に溶解させた混合溶液に加え、攪拌することにより、酸化チタン粒子が分散した懸濁液を得た。懸濁液は、酸化チタンが濃度15wt%、エチルセルロースが濃度10wt%、テルピネオールが濃度64wt%になるように調整した(酸化チタンA)。
【0093】
透明導電膜2としてSnO2膜を形成したガラス基板1の透明導電膜2側に、調製した酸化チタン懸濁液をスクリーン印刷法で印刷し、面積10mm×10mm程度の塗膜を得た。この塗膜を120℃で30分間予備乾燥し、さらに酸素雰囲気下、500℃で60分間焼成し、第1層多孔質光電変換層4の第1層多孔質半導体層となる、膜厚が13μm程度の酸化チタン膜を形成した。
【0094】
次に、酸化チタン懸濁液に、市販の酸化チタン粒子(テイカ社製、商品名:AM600、アナターゼ型、平均一次粒径30nm)を懸濁液中の酸化チタンAに対する重量比で20%、酸化マグネシウム粉末(キシダ化学株式会社製)を懸濁液中の酸化チタンAに対する重量比で8%添加し、攪拌することにより、酸化チタン粒子が分散した懸濁液を得た。
【0095】
第1層多孔質半導体層の酸化チタン膜を形成したガラス基板1の第1層多孔質半導体層上に、調製した酸化チタン懸濁液をスクリーン印刷法で印刷し、面積10mm×10mm程度の塗膜を得た。この塗膜を120℃で30分間予備乾燥し、さらに酸素雰囲気下、約500℃で60分間焼成し、第2層多孔質光電変換層5の第2層多孔質半導体層となる、膜厚が14μm程度の酸化チタン膜を形成した。多孔質半導体層3のトータル膜厚は27μmであった。
多孔質半導体層のへイズ率を測定したところ、86%であった。
【0096】
吸収スペクトルにおける最大感度吸収波長領域を短波長側に有する色素(第1色素)として、式(3)で表されるルテニウム色素(Solaronix社製、商品名:Ruthenium535)をエタノールに溶解して、濃度4×10-4モル/リットルの第1色素の吸着用色素溶液を調製した。
【0097】
【化3】
Figure 0004185285
【0098】
透明導電膜2と多孔質半導体層3を具備したガラス基板1を、約50℃に加温した第1色素の吸着用色素溶液に10分間浸漬させて、多孔質半導体層3に第1色素を吸着させた。その後、ガラス基板1を無水エタノールで数回洗浄し、約60℃で約20分間乾燥させた。
次いで、ガラス基板1を0.5N−塩酸に約10分間浸漬させ、その後エタノールで洗浄して、第2層多孔質半導体層に吸着された第1色素を脱着した。さらに、ガラス基板1を約60℃で約20分間乾燥させた。
【0099】
次に、吸収スペクトルにおける最大感度吸収波長領域を長波長側に有する色素(第2色素)として、式(2)で表されるフタロシアニン系色素(Journal of Porphyins and Phthalocyanines 3、230−237、1999の文献に記されている手法により合成)をジメチルホルムアミドに溶解して、濃度4×10-4モル/リットルの第2色素の吸着用色素溶液を調製した。
【0100】
透明導電膜2と多孔質半導体層3を具備したガラス基板1を、室温、常圧で第2色素の吸着用色素溶液に15分間浸漬させて、多孔質半導体層3に第2色素を吸着させた。その後、ガラス基板1を無水エタノールで数回洗浄し、約60℃で約20分間乾燥させた。
【0101】
次に、3−メトキシプロピオニトリル溶媒に、ジメチルプロピルイミダゾリウムヨージドが濃度0.5モル/リットル、ヨウ化リチウムが濃度0.1モル/リットル、ヨウ素が濃度0.05モル/リットルになるように溶解させて、酸化還元性電解液を調製した。
第1色素と第2色素を吸着させた多孔質半導体層3を具備したガラス基板1の多孔質半導体層3側と、対向電極層8として白金を具備したITOガラスからなる対極側支持体20の白金側とが対向するように設置し、その間に調製した酸化還元性電解液を注入し、周囲をエポキシ系樹脂の封止材9により封止して、色素増感型太陽電池を完成した。
【0102】
得られた太陽電池を測定条件:AM−1.5(100mW/cm2)で評価したところ、電流値:14.2mA/cm2、開放電圧:0.64V、フィールファクタ(FF):0.70、エネルギー変換効率:6.4%であった。
【0103】
(実施例10)
実施例1と同様にして、第1層多孔質半導体層を形成した後、実施例3と同様にして、式(3)で表されるルテニウム色素を吸着させ、第1層多孔質光電変換層を形成した。
【0104】
次いで、多孔質酸化亜鉛からなる第2層多孔質光電変換層を電析法により形成した。
すなわち、透明導電膜2と第1層多孔質光電変換層を具備したガラス基板1の透明導電膜2にリード線を取り付け、ポテンシオスタットの作用極側に接続し、対向電極側には白金板対極からのリード線を接続し、参照電極として飽和甘コウ電極をリファレンスに接続した後、前記の一式を非導電性であるガラス製の容器に設置した。次いで、濃度5×10-4モル/リットルの硝酸亜鉛水溶液に、式(2)で表されるフタロシアニン色素を濃度4×10-4モル/リットルで溶解した水溶液を容器に入れた。
【0105】
容器内を70℃に設定し、安定化電源により電解電位−0.7V(vs.SCE)を60分間印加し、電解反応させて、式(2)の色素を担持した多孔質酸化亜鉛を第1層多孔質半導体層上に形成して、第2層多孔質光電変換層を得た。その後、ガラス基板1をエタノールで数回洗浄し、約60℃で約15分間乾燥させた。
第2層多孔質光電変換層の膜厚は8μm、その表面の平均粒径は約300nm、多孔質半導体層3のトータル膜厚は18μmであった。
多孔質半導体層のへイズ率を測定したところ、89%であった。
【0106】
実施例1と同様にして太陽電池を作製し、評価した。
得られた太陽電池は、電流値:11.5mA/cm2、開放電圧:0.61V、フィールファクタ(FF):0.71、エネルギー変換効率:5.0%であった。
【0107】
【発明の効果】
本発明の光電変換素子は、多孔質光電変換層が多層構造を有し、かつ多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率が60%以上であるので、Jscの向上により高効率の光電変換素子およびそれを用いた太陽電池を得ることができる。
【0108】
また、受光面側に位置する第1層多孔質光電変換層の多孔質半導体層の形成に粒径の小さい粒子を用いて、長波長光の散乱を低減することにより、第2層以後の多孔質光電変換層に到達する光を多くすることができ、光電変換素子として高い光電変換効率を得ることができる。
【0109】
さらに、第2層以後の多孔質光電変換層において光を散乱させることにより、光電変換素子として優れた光電変換効率を得ることができる。
そして、多層構造の多孔質光電変換層を、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を短波長側に有する層から吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を長波長側に有する層の順で受光面側から配置することにより、吸収可能な波長領域が広がり、有効に太陽光を利用することができ、Jscの向上により、光電変換素子として高い光電変換効率を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の色素増感型光電変換素子の概略断面図である。
【図2】実施例2〜8の太陽電池のヘイズ率とJscの関係を示す図である。
【符号の説明】
1 基板
2 透明導電膜
3 多孔質光電変換層
4 第1層多孔質光電変換層(第1層多孔質半導体層/光増感色素)
5 第2層多孔質光電変換層(第2層多孔質半導体層/光増感色素)
6 ホール輸送層
7 基板
8 対向電極層
9 封止材
10 導電性支持体
20 対極側支持体

Claims (5)

  1. 導電性支持体と、色素を含む多孔質半導体層で構成された多孔質光電変換層と、ホール輸送層と、対極とからなる色素増感型光電変換素子において、前記多孔質光電変換層が多層構造を有し、かつ前記多孔質半導体層の可視光領域の波長におけるヘイズ率が62〜89%であり、前記多層構造の多孔質光電変換層が、吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を短波長側に有する層から吸収スペクトルにおける最大感度波長領域を長波長側に有する層の順で受光面側から配置されていることを特徴とする色素増感型光電変換素子。
  2. 前記多層構造の多孔質光電変換層が半導体粒子によって形成され、各層を形成する前記半導体粒子が異なる平均粒径を有している請求項1に記載の色素増感型光電変換素子。
  3. 前記多層構造の多孔質光電変換層が、粒径の小さい半導体粒子によって形成された層から粒径の大きい半導体粒子によって形成された層の順で受光面側から配置されている請求項1または2に記載の色素増感型光電変換素子。
  4. 前記多層構造の多孔質光電変換層の受光面側に位置する多孔質光電変換層(第1層)が、粒径の揃った半導体粒子によって形成されている請求項1〜3のいずれか1つに記載の色素増感型光電変換素子。
  5. 請求項1〜のいずれか1つに記載の光電変換素子を用いた太陽電池。
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