JP4097515B2 - ボールエンドミル - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本願発明は、エンドミル本体先端部に回転軌跡が略半球状形状を形成する2枚以上のボール刃を有するボールエンドミルの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
ボールエンドミルは、使用用途が多彩で、例えば、金型の三次元加工等に用いられ、切削に関与する切れ刃部位も送り方向も多岐に渡ることから、工具先端、即ち、エンドミル中心まで切れ刃が必要とされる。エンドミル中心まで切れ刃を設けるために、相対するボール刃の逃げ面同士で形成されるチゼルエッジを設けたものがある。基本的にエンドミル中心部は切削速度が得られず、切削性が劣る部位であると共に、チゼルエッジにより、非常に大きな負のすくい角を有し、切り屑排出性が劣り、切削性が一層劣化する。ここで、切り屑排出性を向上させるために、相対するボール刃を直接エンドミル中心で繋ぐ、所謂、中心合わせタイプのものがあるが、前述の通り、エンドミル中心部は切削速度が得られず、切削性が劣る部位であるため、切り屑排出性に優れても、エンドミル中心部における強度面が不十分であり、現実的には、強度面に優れるチゼルエッジを設けたものが主流となっている。その中で、切り屑排出性を改善したものに特開2001−334405号公報に記載されるボールエンドミルがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特開2001−334405号公報に記載されるボールエンドミルにおいても、相対するボール刃の逃げ面同士で形成されるチゼルエッジを有するため、チゼルエッジ部における被削材とのクリアランスが不十分であり、切り屑は排出性に対し、十分に改善されておらず、チゼルエッジによって生成された切り屑は排出性が悪く、切り屑の噛み込みや溶着を生じ易く、工具寿命、加工精度に課題があった。
【0004】
【本発明の目的】
本発明は、以上のような背景をもとになされたものであり、強度と切り屑排出性を含む切削性を兼ね備えることにより、長寿命で、加工精度に優れるボールエンドミルを提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ボールエンドミルにおいて、該エンドミルの中心部に該ボール刃と連続して該ボール刃のすくい面同士で形成された中心刃を有し、該ボール刃の逃げ面と該中心刃の逃げ面の境界に段差を有し、該ボール刃の逃げ角が該中心刃の逃げ角より小さいことを特徴とするボールエンドミルである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本願発明の中心刃は、ボール刃のすくい面がエンドミル底面視でエンドミル軸心を超えて伸延させボール刃のすくい面同士で形成したことから、中心刃の形状が逃げ面同士で形成されるチゼルエッジ様となり、中心刃の強度が得られると共に、チゼルエッジを有するものよりも、中心部における被削材とのクリアランスも十分に得ることができ、切り屑の噛み込みや溶着を抑制でき、切り屑の噛み込みや溶着が抑制できる。また、ボール刃のすくい面がRギャッシュ加工により形成されており、ボール刃のすくい面が工具中心を超えて存在することになるから、中心刃の切り屑スペースが十分であると共に、中心刃に対して180°オープンスペースとなり、且つ、中心刃によって生成された切り屑はすくい面を介して直接排出でき、切り屑の流れがスムーズになり、切削性が向上し、一層切り屑の噛み込みや溶着の抑制に寄与する。更に、ボール刃は切削速度が得られ、回転方向に負荷が掛かることからボール刃の逃げ面と中心刃の逃げ面の境界に段差を有し、ボール刃の逃げ角が中心刃の逃げ角より小さくすることにより、ボール刃における切削性を維持しつつ、強度を得ることができる。中心刃は、対向するボール刃のすくい面同士で形成させることにより、中心刃における逃げ角が大きくなりすぎ、強度面が懸念されるが、中心刃の工具軸方向すくい角を大きな負のすくい角にすることで解決できるから、中心刃の軸方向断面における刃物角は60°〜120°に設定すれば良く、ボールエンドミルの中心部の切削性が確実に得られ、強度面においても優れる。中心刃の刃物角を60°〜120°としたのは、60°未満では強度面で問題が生じる場合があり、120°を超えると、すくい角が負角で60°を超えることになり、切削性が劣り、切り屑の排出スペースも狭くなることからであり、好ましくは75°〜105°が望ましい。中心刃の長さはエンドミルのボール直径の5%〜30%としても良く、この範囲内であればボールエンドミルの中心部の切削性が確実に得られ、強度面においても優れる。中心刃の長さがボール直径の5%未満であると、中心刃部分の切り屑排出性が劣ると共に強度面が懸念される。また、ボール直径の30%を越えると、形状面からボール刃より切削性が劣る中心刃が長くなり過ぎ、切削性に問題が生じる場合があるからであり、好ましくは、10%〜20%が望ましい。ボール刃については、ボール刃の逃げ角が中心刃の逃げ角より小さくしたことから、切れ刃強度が得られるため、ボール刃の法線方向のすくい角をエンドミル中心から外周方向に漸次正側に大きくすることができ、ボール刃における切削性や切り屑の排出性を向上することができる。また、ボール刃は中心刃との繋ぎ付近から外周方向に刃径が大きくなることから、ボール刃の逃げ角を中心刃との繋ぎ付近から外周方向に、被削材とのクリアランスが保つことができる範囲で漸次小さくすることができ、強度が一層向上する。以上のように本発明では、中心刃、ボール刃共に、強度と切り屑排出性を含む切削性を兼ね備えることになり、寿命や加工精度が向上することができた。なお、加工精度と中心刃とボール刃からなるボール部全体のアール精度とは密接な関係があることは言うまでもなく、アール精度は±0.02mm、好ましくは±0.01mm以下にすることが望ましい。また、エンドミル材料として超硬合金やサーメット等の硬質合金の使用、コーティングとしてTiAlN等の硬質皮膜やCr系の潤滑皮膜を施してもよい。以下、実施例に基づき本発明を説明する。
【0007】
(実施例1)
図1、図2は本発明例1であり、図1はその正面図、図2は図1のA−A断面図であり、中心刃1に直角な軸断面の拡大図である。中心刃1はね相対するボール刃2のすくい面3同士で形成されており、中心刃1とボール刃2からなるボール部全体のアール精度が±0.01mm以下の超硬ソリッドボールエンドミルであり、中心刃の長さ4を1.5mm、ボール刃の逃げ面5と中心刃1の逃げ面の境界に段差を有し、エンドミル軸方向断面における中心刃1の刃物角6が90°、即ち、中心刃1のすくい角を−45°、逃げ角を45°、ボール刃2の逃げ角を15°にし、たものである。更に、ボール刃2の法線方向のすくい角を−45°〜−10°に中心から外周方向に漸次正側に大きくしている。工具母材は超微粒子超硬合金製、ボール径10mm、刃数が2枚刃、外周ねじれ角30°、TiAlNコ−ティングを3μm被覆している。従来例2として、上記、従来の技術で述べた特開2001−334405号公報に記載されるボールエンドミルを本発明例1と同寸法で製作、コーティングし、切削テストを行った。ここで、図3、図4は、従来例2であり、図3はその正面図、図4は図3のA−A断面図でありチゼルエッジ7に直角な軸断面の拡大図である。従来例2は、本発明例1とは異なりチゼルエッジ7が相対するボール刃2の逃げ面7同士で形成されておりチゼルエッジ7の刃物角5は150°である。切削条件は、被削材にS50C材を用い、回転数9600min−1、送り速度3500mm/min、軸方向切り込み1.0mm、径方向切り込み3.0mmで、長さ100mm、幅50mm、深さ50mm、側壁に1°の勾配を有するポケット加工を乾式エアブローで等高線加工で行い、前記ポケット形状を1形状加工後のエンドミル摩耗状態及び加工面の状態を観察した。その結果、本発明例1は、安定した切削状態であり、中心刃1、ボール刃2共に溶着、チッピングが認められず、均一な摩耗形態であり、まだまだ切削可能であったのに対し、従来例2はチゼルエッジ7に溶着が認められ、ポケット形状の深さが5mmの時点からチゼルエッジ7の溶着が起因と考えられるビビリ振動を生じ、ボール刃2において、溶着及びチッピングが認められ、チゼルエッジ7、ボール刃2共に摩耗幅が大きく、ポケット形状を1形状加工終了時点で、すでに切削できる状態ではなく、寿命となっていた。また、加工面を観察すると、本発明例1は、ポケット形状の側壁面、底面共に、切り屑の凝着もなく、良好であったのに対し、従来例2は、ポケット形状の壁面がビビリ面であり、切り屑の凝着も所々認められ、底面は、更に凝着が激しく、ムシレ面であり、加工面が悪かった。
【0008】
(実施例2)
本発明例1と従来例2を用いて、硬さHRC52に熱処理されたSUS420J2材を用い、回転数9600min−1、送り速度3500mm/min、軸方向切り込み0.2mm、径方向切り込み0.2mmで、乾式エアブローで底面仕上げ切削を行い、切削長150m切削後のエンドミルの摩耗状態及び加工面の状態を観察した。その結果、本発明例1は、安定した切削状態であり、中心刃1に溶着、チッピングが認められず、均一な摩耗形態であり、まだまだ切削可能な状態であり、加工面の最大高さ面粗さRzは4.6μmと良好であったのに対し、従来例2はチゼルエッジ7に溶着を生じ、部分的にチッピングが認められ、加工面の最大高さ面粗さRzは12.4μmと劣った。
【0009】
(実施例3)
本発明例1と同様の仕様で、本発明例3として中心刃の刃物角を30°、本発明例4として45°、本発明例5して60°、本発明例6として75°、本発明例7として105°、本発明例8として120°、本発明例9として135°に変化させたものを製作し、実施例1と同様の切削テストを行った。その結果、本発明例3〜9は、ポケット形状を1形状加工終了時点の摩耗が少なく、まだまだ切削可能であり、特に本発明例6、7は、本発明例1と同様、中心刃、ボール刃共に溶着、チッピングが認められず、均一な摩耗形態であり、加工面は、ポケット形状の壁面、底面共に、切り屑の凝着もなく、良好であった。また、本発明例3は中心刃に微小なチッピングが、本発明例9は中心刃に僅かに溶着が認められ、摩耗幅も他と比べ若干大きく、加工面も若干劣る結果となった。
【0010】
(実施例4)
本発明例1と同様の仕様で、本発明例10として中心刃の長さをボール直径の3%、本発明例11として5%、本発明例12としてボール直径の10%、本発明例13として20%、本発明例14として25%、発明例15として30%、発明例16として35%に変化させたものを製作し、実施例1と同様の切削テストを行った。その結果、本発明例10〜16は、ポケット形状を1形状加工終了時点の摩耗が少なく、まだまだ切削可能であり、特に本発明例12、13は、本発明例1と同様、中心刃、ボール刃共に溶着、チッピングが認められず、均一な摩耗形態であり、加工面は、ポケット形状の壁面、底面共に、切り屑の凝着もなく、良好であった。また、本発明例10は中心刃に溶着が認められ、溶着に起因すると考えられる微小なチッピングを生じており、摩耗幅も他と比べ若干大きく、加工面も劣る結果となった。更に、本発明例16は中心刃のボール刃側に溶着が認められ、加工面が若干ビビリ面となった。
【0011】
【発明の効果】
本願発明を適用することにより、多岐に渡る使用用途及び送り方向に対して、強度と切り屑排出性を含む切削性を兼ね備え、切り屑の噛み込みや溶着を抑制し、長寿命で、加工精度に優れるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明例1を示し、その正面図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面図である。
【図3】図3は、従来例2を示し、その正面図である。
【図4】図4は、図3のA−A断面図である。
【符号の説明】
1 中心刃
2 ボール刃
3 ボール刃のすくい面
4 中心刃の長さ
5 ボール刃の逃げ面
6 中心刃の刃物角
7 チゼルエッジ
Claims (4)
- ボールエンドミルにおいて、該エンドミルの中心部に該ボール刃と連続して該ボール刃のすくい面同士で形成された中心刃を有し、該ボール刃の逃げ面と該中心刃の逃げ面の境界に段差を有し、該ボール刃の逃げ角が該中心刃の逃げ角より小さいことを特徴とするボールエンドミル。
- 請求項1記載のボールエンドミルにおいて、該中心刃の軸方向断面における刃物角が60°〜120°であることを特徴とするボールエンドミル。
- 請求項1乃至2記載のボールエンドミルにおいて、該中心刃の長さは該エンドミルのボール直径の5%〜30%であることを特徴とするボールエンドミル。
- 請求項1記載のボールエンドミルにおいて、該ボール刃の法線方向のすくい角が該エンドミル中心から外周方向に漸次正側に大きくしたことを特徴とするボールエンドミル。
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