JP4076807B2 - アルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。更に詳しくは、各種機械加工方法で製造されたアルミニューム合金形状物に熱可塑性樹脂を一体化した構造物に関し、電子機器の筐体、家庭用電化製品の筐体、自動車等の構造用部品、各種構造用機械部品等に用いられるアルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属と樹脂を一体化する技術は、自動車、家庭電化製品、産業機器等の部品製造等の広い分野から求められており、このために多くの接着剤が開発されている。この中には非常に優れた接着剤がある。常温、又は加熱により機能を発揮する接着剤は、金属と合成樹脂を一体化する接合に使われ、この接合方法は現在では一般的な技術である。
しかしながら、接着剤を使用しない、より合理的な接合方法がないか従来から研究されて来た。マグネシューム、アルミニュームやその合金である軽金属類、ステンレスなど鉄合金類に対して、接着剤の介在なしで高強度のエンジニアリング樹脂を一体化する方法、例えば、金属側に樹脂成分を射出成形等の方法で接着(固着)する方法、略して本発明者が定義し銘々する「射出接着法」(ただし、射出成形による成形方法のみを意味しない。)は、現在のところ実用化されていない。
【0003】
本発明者らは鋭意研究開発を進め、水溶性還元剤の水溶液にアルミニウム合金形状物を浸漬した後、アルキレンテレフタレート樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物と高温高圧下で接触させると特異的に接着力(本発明では、「固着力」と同義に用いる。)が上昇することを発見した。これを日本国特許願2001−314854号として提案した。
本発明者らは、金属合金のうち特にアルミニューム合金に注目した。アルミニュームは軽量であり資源としても豊富である。この合金化や表面処理で、本来の物性である優れた伸展性、電導性、熱伝導性に加え、合金化で高強度化、高耐食性化、快削性化、高伸展性化などが可能であり、現在、広い分野で用いられているためである。特に今後、個人の情報化が更に進展しモバイル電子機器が汎用的に使われるようになれば、これらの機器の軽量化への要望はより高くなることが予想される。この点でアルミニューム合金は更に利用度が大きくなると予想される。
【0004】
本発明者らは、本発明者らによる前述した発明のうちアルミニュ−ム合金とポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」という。)を主に含有する熱可塑性樹脂組成物に対象を絞って、前述した発明に関する水平展開に関し実験を繰り返した。前述した発明ではアルミニューム合金を、水溶性還元剤の水溶液で処理するのが特徴であったが、還元剤を使用しても処理水溶液から取り出すと空気中の酸素により瞬時に表面は酸化され、最終的な表面状態で言えば表面はゼロ価のアルミニューム金属状態ではないことがX線電子分光法(XPS)による表面分析等で観察された。
一方、前述した発明で主に使用したヒドラジンは特に危険なものではないが、これ以外で表面処理した有効な処理薬品を確認することも大事なことと考えた。これらを勘案し、射出接着理論の仮説作りと実証実験を行なうこととした。これは、確実な射出接着法を開発する上で役立つと考えたからである。
【0005】
前述した本発明者らの発明を発展させ、ヒドラジンや高価な水素化ホウ素ナトリューム(NaBH4)、扱いが難しい水素化アルミニウムリチューム(LiAlH4)等の還元剤を使用しないでアルミニューム合金の表面を処理し、同じ目的を達成する方法を開発しようとした。
また、アルミニューム合金には強度やその他の性質を改良した多くの種類がある。マグネシューム、珪素、銅、その他の金属が含有されるアルミニューム合金に対しても満足できる射出接着力で樹脂が接着できるような前処理方法も必要であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述のような技術背景のもとになされたものであり、下記目的を達成する。
本発明の目的は、アルミニューム合金の表面を処理して、熱可塑性樹脂組成物とアルミニューム合金形状物とは容易に剥がれることない、アルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法を得ることにある。
本発明の他の目的は、形状、構造上も機械的強度の上でも問題がない各種機器の筐体や部品、構造物等を作ることができる、アルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法を得ることにある。
本発明の更に他の目的は、電子機器等の筐体、部品、構造物等の軽量化や機器製造工程の簡素化に役立つ、アルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法を得ることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するため、次の手段を採る。
本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体は、
5%濃度の水和ヒドラジンの50℃水溶液に2分間浸漬させる浸漬工程を経たアルミニューム合金形状物と、
前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上が射出成形により付着している
ことを特徴とする。
【0008】
本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法は、前記アルミニューム合金を機械加工してアルミニューム合金形状物とする加工工程と、前記アルミニューム合金形状物をアンモニア、ヒドラジン、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の化合物と接触させる接触工程と、成形用の金型に前記接触工程で接触処理された前記アルミニューム合金形状物を挿入して、前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリアルキレンテレフタレート、前記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリアルキレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上を加圧、加熱して一体にする成形工程とからなることを特徴とする。
【0009】
以下、本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造を構成する各要件毎に詳細に説明する。
〔アルミニューム合金形状物〕
アルミニューム合金形状物の素材として使用されるアルミニューム合金は、JIS(日本工業規格)規格化されている1000〜7000番系の物、またダイキャスト用の各種のアルミニューム合金が使用できる。この1000番系は高純度アルミ系の合金であるが、その他はアルミニューム以外にマグネシューム、珪素、銅、マンガン、その他が含まれた多種の目的に合わせた合金系である。この表面の前処理工程は、アルミニューム以外の金属が比較的多く含まれる合金では、後述する「前処理工程I」が好ましい方法であるが、必ずしもこの前処理工程は必要なものではない。何れにせよ、高純度アルミニューム合金のみならず現在実際に各種機器の筐体等に使用されているアルミニューム合金の多くが使用可能である。
【0010】
射出成形による樹脂の接着を行う場合、アルミニウム合金形状物は、アルミニウム合金の塊、板材、棒材等から塑性加工、鋸加工、フライス加工、放電加工、ドリル加工、プレス加工、研削加工、研磨加工等を単独、又はこれらの加工を組み合わせて所望の形状に機械加工する。この機械加工により、射出成形加工のインサート用として必要な形状、構造のアルミニウム合金形状物が加工される。加工されたこのアルミニウム合金形状物は、接着される表面が酸化や水酸化された錆等の厚い被膜がないことが必要であり、長期間の自然放置で表面に錆の存在が明らかなものは研磨して取り除くことが必要である。
【0011】
(i)表面加工
研磨と兼ねてもよいが、以下に述べる水溶液を使った前処理工程の直前にサンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等で表面の錆等の被膜層を機械加工により除去するための表面加工することが好ましい。後述する熱可塑性樹脂組成物と接着(固着)する面がこれらの表面加工によって表面が粗い面、即ち表面粗さを大きくして、この表面と熱可塑性樹脂組成物との接着効果を高めることが好ましい。
加えて、この表面加工は、金属加工工程で残った表面の油脂層の除去と、機械加工後にアルミニューム合金形状物の保存保管期間中に、その表面に生じた酸化物層、腐食物層等を剥ぎ取ってアルミニューム合金表面を更新する等、の重要な役目がある。これで次工程の効果を更新された表面全体に均一に作用させることができる。また、本発明者等の実験によれば、ブラスト処理をしたアルミニューム合金形状物は、乾燥空気下での1週間程度の保管であれば、即日、次工程で処理したものとその表面状態は大差ないことを確認した。
【0012】
(ii)洗浄工程
この洗浄工程は、前述した表面加工を行うので、本発明では必ずしも必要な工程ではない。しかしながら、アルミニューム合金形状物の表面には、油脂類や微細な塵が付着している。特に、機械加工された表面には、機械加工時に用いられるクーラント液、切粉等が付いておりこれらを洗浄することが好ましい。汚れの種類によるが、有機溶剤での洗浄と水洗浄の組合せで行なうのが好ましい。水溶性の有機溶剤、例えば、アセトン、メタノール、エタノールなどであれば、有機溶剤に浸漬して油性汚れを除いた後で水洗して溶剤を除くのが容易である。もし強く油性物が付着している状況であれば、ベンジン、キシレンなどの有機溶剤で洗浄する。
この場合も後で水洗浄して乾燥することが好ましい。洗浄後の保存期間も可能な限り短くする。出来れば、洗浄工程と次に示す工程(前処理工程)は時間を置かずに連続的に処理されるのが好ましい。連続的に処理する場合は、洗浄工程の後に乾燥する必要はない。
【0013】
〔前処理工程I〕
(i)アルカリエッチング
後述する接触工程の前処理として、次に説明する前処理工程Iを行うと、アルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着がより効果的である。アルミニューム合金表面に微細なエッチング面を形成するための処理である。アルミニューム合金形状物をまず塩基性水溶液(pH>7)に浸漬し、その後にアルミニューム合金形状物を水洗する。塩基性水溶液に使う塩基としては、水酸化ナトリューム(NaOH)、水酸化カリューム(KOH)等の水酸化アルカリ金属類の水酸化物、又はこれらが含まれた安価な材料であるソーダ灰(Na2CO3、無水炭酸ナトリューム)、アンモニア等が使用できる。
また、水酸化アルカリ土類金属(Ca,Sr,Ba,Ra)類も使用できるが、実用上は安価で効能のよい前者の群から選べばよい。水酸化ナトリューム使用の場合は0.1〜10%濃度の水溶液、ソーダ灰使用の場合も0.1〜10%が好ましく、浸漬時間は常温では数分である。この浸漬処理後、水洗する。塩基性水溶液に浸漬することにより、アルミニューム合金の表面は水素を放ちつつアルミン酸イオンになって溶解しアルミニューム合金表面は微細なエッチング面になる。
【0014】
(ii)中和処理
次に酸水溶液に浸漬し、その後水洗する。酸水溶液を使用する目的は中和である。水酸化ナトリュームなどが前工程でアルミニューム形状物の表面に残存すると、これが製品として使用されるときに腐食の進行を早めることが予想されるので中和が必要である。また、マグネシューム、銅、珪素等のアルミニューム合金内に固溶していた金属が、塩基性水溶液の前処理工程では完全溶解せずに表面近傍に水酸化物その他の組成物となって存在しているので、酸水溶液に浸漬することでこれらを取り除くこともできる。
従って、この目的に合う酸水溶液であれば如何なる酸水溶液であってもよい。具体的には、希硝酸が好ましく、珪素含有のアルミニューム合金では酸化ケイ素対策でフッ化水素酸を添加することも好ましい。硝酸(HNO3)の濃度は数%程度、フッ化水素酸(液体フッ化水素の水溶液)の濃度は0〜1.0%が好ましく使用できる。硝酸の濃度が高いと、アルミニューム合金の表面がアルマイト状態に近づき次工程で不都合が生じ易い。
【0015】
浸漬時間は数分で十分である。この前工程で、表面に灰汁(アルミニュームに添加されている金属の水酸化物や酸化ケイ素が主成分)のような物が付着して汚れ付着の様になっている場合は、この灰汁状物が溶けるか剥がれればこの工程を終了してよいと判断する。次に、アルミニューム合金形状物を酸水溶液から引き上げて水洗する。
なお、中和処理は、必ずしも行う必要はなく、この中和処理しないものでもアルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との付着強度は実用的に耐えられる程度のものが得られた。
【0016】
〔前処理工程II〕
前述した前処理工程Iに換えて次に説明する前処理工程IIを行っても良い。この前処理工程IIを行うと、アルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との接着が効果的である。アルミニューム合金形状物をまず水溶性還元剤の水溶液に浸漬し水洗する。水溶性還元剤としては、亜硫酸アルカリ金属、亜硫酸水素アルカリ金属、ヒドラジン(N2H4)、水素化ホウ素アルカリ金属(例えば、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等)、水素化アルミニュームアルカリ金属(例えば、水素化アルミニウムリチューム(LiAlH4)等)等が使用できるが、特に、亜硫酸ナトリュームが好ましく使用できる。亜硫酸ナトリューム水溶液を使用する場合、濃度は1〜5%程度、浸漬時間は常温で数分〜10分である。
【0017】
〔接触処理工程〕
前述した前処理工程I又はIIが完了した後、次の(i)、又は(ii)の接触処理工程で処理する。
(i)水溶液浸漬法
アルミニューム合金形状物の表面の接触処理法として、次記する化合物の水溶液に浸漬する水溶液浸漬法がある。アルミニューム合金形状物をアンモニア(NH3)、ヒドラジン(N2H4)、及び水溶性アミン系化合物から選択される1種以上の水溶液に浸漬する。アンモニアの水溶液は、市販のアンモニア水をそのまま、又は希釈して使用できる。ヒドラジンを使用するときは、原料としてヒドラジン水和物やヒドラジン60%水溶液が市販されておりこれを希釈して使用できる。
【0018】
水溶性アミン系化合物としては低級アミン類が使え、特にメチルアミン(CH3NH2)、ジメチルアミン((CH3)2NH)、トリメチルアミン((CH3)3N)、エチルアミン(C2H5NH2)、ジエチルアミン((C2H5)2NH)、トリエチルアミン((C2H5)3N)、エチレンジアミン(H2NCH2CH2NH2)、エタノールアミン(モノエタノールアミン(HOCH2CH2NH2)、アリルアミン(CH2CHCH2NH2)、ジエタノールアミン((HOCH2CH2)2NH)、等が好ましく、これらを水に溶解して使用する。
【0019】
使用する水溶液での上記化合物濃度は、2〜30%程度が使用でき、浸漬時間は常温〜60℃で数分〜30分である。例えば、アンモニアであれば、濃度10〜30%、常温下で15〜120分の浸漬が好ましい。これらの水溶液で浸漬処理後、水洗して乾燥する。
アンモニア水溶液にアルミニューム合金を浸漬することで、その中のアルミニュームは水素を発泡しつつアルミン酸イオンとなって溶解し、表面は微細なエッチング面となる。このアンモニア水溶液に浸漬し、水洗乾燥した後のアルミニューム合金の表面のX線電子分光法(XPS)による分析では、アルミニューム合金の表面に窒素が残存しており、これが射出成形による接着に有効なものと推定される。
【0020】
(ii)ガス接触法
アルミニューム合金形状物の表面の接触処理法として、次記する化合物をガス化して、このガスに接触させるガス接触法がある。ただし、このガス接触法は、アルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との固着強度の確保という観点からは、前処理工程Iを行ったものをガス処理することが好ましい。
アルミニューム合金形状物をアンモニア(NH3)、ヒドラジン(N2H4)、ピリジン(C5H5N)、アミン系化合物から選択される1種以上と接触させる。前工程で得たアルミニューム合金形状物にこれら窒素含有化合物を吸着させるのがこの工程の目的である。窒素含有化合物としては、広い意味のアミン系化合物と言える、アンモニア、ヒドラジン、ピリジン、メチルアミン((CH3NH2)、ジメチルアミン((CH3)2NH)、トリメチルアミン((CH3)3N)、エチルアミン(C2H5NH2)、ジエチルアミン((C2H5)2NH)、トリエチルアミン((C2H5)3N)、エチレンジアミン(H2NCH2CH2NH2)、エタノールアミン(モノエタノールアミン(HOCH2CH2NH2)、アリルアミン(CH2CHCH2NH2)、ジエタノールアミン((HOCH2CH2)2NH)、トリエタノールアミン((HOCH2CH2)3N)、アニリン(C6H7N)、その他アミン類が好ましい。
【0021】
蒸気圧の高いアンモニアや低級アミン類はそのガス中をくぐらす(接触)ことでこの工程を進めることができるし、ヒドラジンや蒸気圧の低いアミン系化合物は水に溶解してその中にアルミ合金形状物を浸漬することや、希釈せず直接浸漬させること、又、アルミ合金形状物にこれら水溶液を噴霧すること等で接触を終えることも可能である。
ガス接触させる場合、例えばアンモニアの場合は、市販のアンモニアボンベを使用するか、市販のアンモニア水を容器に半分満たしその気層部を通過させる方法も使用できる。低級アミンなどは水溶液としてから若干加熱することでその蒸気にアルミ合金を触れさせることができる。ヒドラジンやエタノールアミン類は水溶液が適している。低級アミンは水溶液でもトルエン溶液でも使用できる。液化アンモニアやピリジンに直接浸漬することも効果があるが、前者では工業的な設備の作成が大きくなり、後者では処理後のピリジンの処理が大変であり、実際的でない。
本工程で使用する広義のアミン類に属する窒素化合物は何れも臭気が強く酷いから、その意味では希釈溶液での扱いが最も好ましいが、常圧のアンモニアガスとの接触で工程を組むのであれば、その設備はそれほど厄介でないかもしれない。常圧のアンモニアガス中に曝す場合の条件としては、常温で数十分〜数日が好ましい。ただし、低級アミンやヒドラジン、アニリン、ピリジンは、水溶液への浸漬が好ましい。
【0022】
(iii)前処理後のアルミニューム合金形状物の保管
乾燥後のアルミニューム合金形状物は乾燥空気下で保管する。この保管時間は短いほうがよいが、常温で1週間以内であれば問題はない。
【0023】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明において、アルミニューム合金形状物に固着される熱可塑性樹脂組成物について述べる。熱可塑性樹脂組成物は、アルミニューム合金形状物の表面にポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合体、及びポリアルキレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上からなる。ポリアルキレンテレフタレートとしてポリブチレンテレフタレート(PBT)が好ましい。
このPBTを含むポリマーは、PBT単独のポリマー、PBTとポリカーボネート(以下、「PC」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(以下、「ABS」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」という。)のポリマーコンパウンド、PBTとポリスチレン(以下、「PS」という。)のポリマーコンパウンドから選択される1種以上が好ましく使用できる。
【0024】
また、これらポリマーにフィラーを含有させて機械的特性を改善する。フィラーの含有は、特にアルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物との線膨張率を一致させるという観点から非常に重要である。フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、その他これらに類する高強度繊維が良い。
前記ポリマーコンパウンドには、物性を改良するための充填材が加えられていると良い。充填材は、カーボンブラック、炭酸カルシューム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、リグニン、アスベスト、雲母、石英粉、ガラス球等のように公知の材料から選択される1種以上からなると良い。
前記フィラーを含まない場合でも強固に接着し、金属に接着した樹脂成形物を取り去るには非常に強い力が必要である。しかしながら成形された複合体を温度サイクル試験にかけると、前記フィラーを含まない熱可塑性樹脂組成物の系ではサイクルを重ねることで急速に接着強度が低下する。これには二つの原因があると推定される。
【0025】
一つは、線膨張率でアルミニューム合金形状物と熱可塑性樹脂組成物に大きな差があることによる。純アルミニュームの線膨張率は金属の中では大きい方だが、それでも熱可塑性樹脂組成物よりかなり小さい。フィラーの存在は熱可塑性樹脂組成物の線膨張率を下げ、アルミニューム合金の線膨張率(純アルミニュームで2.4×10-5)に近づける。フィラーの種類とその含有率を選べば線膨張率はアルミニューム合金にかなり近い値にできる。
もう一つは、インサート成形後のアルミニウム合金形状物の冷却縮みと熱可塑性樹脂組成物の成形収縮の関係である。フィラーを含まない熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は小さなものでも0.6%程度である。一方、アルミニューム合金の冷却縮み、例えば熱可塑性樹脂組成物を射出してから室温まで150℃程度冷えるとして約0.3%、は熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率より小さく、差がある。射出成形金型から離型して時間が経ち、熱可塑性樹脂組成物が落ち着いてくると、界面に内部歪が生じ僅かな衝撃で界面破壊が起こって剥がれてしまう。
【0026】
この現象をより具体的に述べると次のようになる。アルミニューム合金では熱膨張率、詳しくは温度変化に対する線膨張率は2〜3×10-5℃-1である。一方、PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドのそれは7〜8×10-5℃-1である。線膨張率を下げるため、フィラーの熱可塑性樹脂組成物における含有率は高い方が好ましく、含有率は20%以上、より好ましくは30%以上が好ましい。PBTやPBT含有のポリマーコンパウンドに高強度繊維や無機フィラーを含有率で30〜50%含ませると線膨張率は2〜3×10-5℃-1となりアルミニュームとほぼ一致する。
また、このとき成形収縮率も低下する。成形収縮率について言えば、PBTの高い結晶性が収縮率を上げているので、結晶性の低い樹脂、PET、PC、ABS、PS、その他を混ぜてコンパウンド化した方が更に低下できる。しかし、PBT濃度も下がるのでその最適含有率はまだ詳細には調べていない。
【0027】
〔成形/射出成形〕
射出成形金型を用意し、金型を開いてその一方にアルミニューム合金形状物をインサートし、金型を閉め、前記の熱可塑性樹脂組成物を射出し、金型を開き離型する方法である。形状の自由度、生産性など最も優れた成形法である。大量生産では、インサート用にロボットを用意すればよい。
次に、射出条件について述べる。金型温度、射出温度は高い方が良い結果が得られるが無理に上げることはなく、前記の熱可塑性樹脂組成物を使う通常の射出成形時とほぼ同様の条件で十分な接着効果が発揮できる。接着力を上げるためには、むしろ金型のゲート構造において出来るだけピンゲートを使うことに留意した方がよい。ピンゲートでは樹脂通過時に生じるせん断摩擦で瞬時に樹脂温度が上がりこれが良効果を生むことが多い。要するに、円滑な成形を阻害しない範囲で出来るだけ接着面に高温の樹脂溶融物が接するように工夫するのが良いようにみられた。
【0028】
〔成形/射出成形以外の方法〕
金型にアルミニューム合金形状物と薄い熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂形状物の双方をインサートし、他方の金型で閉めて加熱しつつ押し付ける成形法、即ち加熱プレス成形でも一体化品を得ることができる。量産に適した方法ではないが、形状によっては使える可能性はある。接着の原理は、前述した射出成形による接着と同じである。
その他に、パイプ状物、板状物などの一体化品が求められる場合に、押し出し成形という方法が使用されるが、この押し出し成形でも本発明は利用可能である。前述した熱可塑性樹脂組成物が、加熱溶融状態の時に処理されたアルミニューム合金形状物の表面と接触することが重要であるだけであり、理論的には成形方法を選ばないはずである。ただ、押し出し成形では溶融樹脂とアルミニューム合金形状物の表面の間にかかる圧力が射出成形等と比較すると著しく低い。この点で最強の接着力を示すことは期待できないが実用性との関係で十分使用に耐える設計があるはずである。
【0029】
【発明の実施の形態】
図1は、携帯電話ケースカバーの外観図である。図2は、図1で示す携帯電話ケースカバーをI−I線で切断したときの断面図である。ケースカバー1は、アルミニューム合金製の板材から機械加工により作られた金属フレーム2から形成されている。金属フレーム2は、詳細にはプレス機とこれで駆動される金型により塑性加工し、更に必要に応じて切削加工して作られたものである。
金属フレーム2の内面には、隔壁と補強にために熱可塑性樹脂組成物のリブ3が一体に固着されている。この固着は後述する方法により射出成形されて金属フレーム2と一体化されている。射出に使用する熱可塑性樹脂組成物については前述したものである。リブ3を射出成形する前に金属フレーム2の表面は前述した各種化合物の水溶液による浸漬処理、又はガス化された化合物で接触処理されている。
【0030】
以下、リブ3等を射出成形法で固着する方法(射出固着)について詳細に説明する。前述した金属フレーム2は、浸漬による表面処理後、可能な限り保管開始1週間以内に取り出され、リブ3を射出するための射出成形金型にインサートされる。図3は、金属フレーム2の表面に射出成形により熱可塑性樹脂組成物が充填される射出成形金型の断面図である。可動側型板10のキャビティーに、前処理された金属フレーム2を挿入配置する。
金属フレーム2をキャビティーに挿入した状態で可動側型板10を閉じる。キャビティー11は、可動側型板10と固定側型板13とを閉めた状態で、金属フレーム2、可動側型板10、固定側型板13で形成された空間である。このキャビティー11にランナー15、ゲート14を介してリブ3を構成する溶融樹脂が供給され、リブ3の成形を行う。完成されたケースカバー1の筐体は、金属フレーム2と熱可塑性樹脂組成物で作られたリブ3とが一体に接合されて、強度的にも、外観のデザイン上も金属の特徴を生かし、しかも筐体内部の形状、構造も複雑な形状とすることができる。
【0031】
[実験例]
以下、本発明の実施の形態を実験により確認するために次のような簡易的な実験を行った。
(i)実験例1(水溶液への浸漬)
市販の1mm厚のA1100(日本工業規格(JIS))アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片100個に切断した。このアルミニュウーム片を両面テープでゴムシートに貼り付けブラスト装置(図示せず)に入れた。研磨量が約5μレベルになるようにエヤーパルス時間を設定し、エヤーブラスト処理した。ブラスト装置から取り出し、平均で5時間以内置いた後、エタノール4リットルに超音波をかけつつ10分浸漬して取り出し、イオン交換水4リットルに漬けてかき混ぜプラスチック製ザルにあけ、更にイオン交換水2リットルをかけて洗浄し、高圧空気で乾燥した。
【0032】
次に、28%濃度のアンモニア水をポリエチレン製ビーカーに0.5リットル用意し、先ほどのアルミニューム片を浸漬した。これを25分後に引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した。更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。
2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出て、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。金型を閉め、ガラス繊維20%、超微粉タルク20%含有のPBT/PET樹脂(PBT約70%とPET約30%、三菱レイヨン(株)社製)を射出し、図4で示すように一体化した複合体を得た。
【0033】
図4に示す矩形の基台は板状の金属片21である。これは先ほど得たアルミニューム片と同じ厚さ1mmであり20mm×50mmの長方形形状である。ここへ2個のピンゲート22、23から樹脂組成物が注入されボス形状物24とリブ形状物25が形成される。ボス形状物24は接着面が直径8mmの円形状であり、リブ形状物25は接着面が8mm×25mmの長方形状である。ボス形状物24、リブ形状物25とも高さが8mmあり、ボス形状物24の方は中心に直径2mmの穴が開いておりトルク測定用のネジ山付き測定端をねじ込めるようにしてある。
金型温度は100℃とし、射出成形機の加熱筒の最終部分温度とノズル温度は270℃とした。成形品を成形後室内に1週間放置した後、接着力を検査した。アルミ板部分を机の上に押さえ付けボス形状物24、及びリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。この簡易的な試験を10個の成形品について実施したが全て同じであった。
【0034】
この10個を含む計70個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、70個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、10個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの60個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
更に、別の10個についてボス形状物24にある穴にネジ山付き測定端を突っ込んでトルク測定器を回した。ボス形状物24が剥がれる時のトルクを測ろうとしたが、全てのものでトルクが約200Ncmを過ぎた辺りで樹脂側の穴が削れてしまい空回りしボス形状物24は剥がれなかった。
【0035】
更に、別の10個を取って金属皿の上に乗せ、85℃と−40℃の間の温度サイクル試験を実施した。室温から+0.7℃/分で昇温して85℃にして2時間置き、次に0.7℃/分の速度で室温(実験時は25℃)まで戻し、1時間置いてからまた同じ速度で−20℃まで冷やした。−40℃に2時間置き、今度は+0.7℃/分で昇温して室温に戻し1時間置いてからまた昇温するという温度サイクル試験である。全100サイクルしてから前記と同じペンチとトルク測定器を使った試験をした。結果は温度サイクル試験をしない場合の試験結果と同じであった。
更に、別の10個について高温高湿試験を実施した。具体的には85℃、60%湿度の条件下に24時間放置し室温下に1時間かけて戻してから前期と同じペンチとトルク測定器を使った試験をした。結果は高温高湿試験を行っていない前記試験結果と同じであった。全体として見た場合、接着物の破壊試験としては驚くほど安定した結果を得た。
この様なことが可能になった理由は、アルミニューム合金をアンモニアで接触処理したことにある。この処理によりアルミニューム合金の表面が親PBT表面に変わったものと推定される。
【0036】
(ii)実験例2
市販の1mm厚のA5052(日本工業規格(JIS))アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片50個に切断した。これを実験例1と同じ方法で洗浄した。次に、1%濃度の水酸化ナトリューム水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、前述したアルミニューム片を浸漬した。2分後に引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した。
次に、1%濃度の硝酸と0.2%濃度のフッ化水素酸を含む水溶液をポリエチレン製ビーカーに500cc用意し、先ほどのアルミニューム片を1分間浸漬して中和した。引き上げてイオン交換水で十分に洗浄した。次に、1%濃度のメチルアミン水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、先ほどのアルミニューム片を1分間浸漬し、引き上げてイオン交換水で十分に洗浄した。
【0037】
更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。その後は実験例1と全く同様に成形を実施した。得られた一体化物のうち10個について、アルミ板部分を机の上に押さえつけボス形状物24、及びリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが、全て、指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
【0038】
この10個を含む計50個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、50個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、7個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの43個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
アルミニューム合金に対して、熱可塑性樹脂組成物を強固に付けられるようにするため、アミン系化合物による接触処理の前に化学的エッチングや、塩基/酸水溶液への浸漬処理を加えた方法が使えることが確認できた。
【0039】
(iii)実験例3(ガス接触法)
前述した実験例2において、アルミニューム片を水酸化ナトリューム水溶液で処理した後、フッ化水素酸で中和処理した。この中和処理後に、実験例1では28%濃度のアンモニア水にアルミニューム片を浸漬したが、これに換えて次の方法でアンモニアガスに接触させた。30リットルのアンモニアで満たした2重の大型ポリエチレン袋に前述したアルミニューム片を完全には重ならぬようにして入れ、少量のアンモニアガスを供給しつつ放置した。
これを48時間後に取り出し、高圧空気を吹き付けた後、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。この処理以外は、実験例1と実質的に同一の処理、及び強度試験を行った。この接着強度は、実験例1と実質的に同一強度であった。
【0040】
(iv)実験例4
市販の1mm厚のA1100(日本工業規格(JIS))アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片50個に切断した。これを実験例1と同じ方法で洗浄した。次に、5%濃度の亜硫酸ナトリューム水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、先ほどのアルミニューム片を浸漬した。10分後に引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した。
次に、1%濃度のエチレンジアミン水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、先ほどのアルミニューム片を1分間浸漬し、引き上げてイオン交換水で十分に洗浄した。更に、ビーカーに満たしたアセトンに数秒漬けた後、高圧空気を吹き付けて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。
【0041】
2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。その後は実験例1と全く同様に成形を実施した。得られた一体化物のうち10個についてアルミ板部分を机の上に押さえ付けボス形状物24、及びリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが、全て、指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
【0042】
この10個を含む計50個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、50個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、12個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂の残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの38個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
【0043】
(v)実験例5
市販の1mm厚のA5052(日本工業規格(JIS))アルミニューム合金板を購入した。20mm×50mmの長方形片50個に切断した。これを実験例1と同じ方法で洗浄した。次に、1%濃度の水酸化ナトリューム水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、前述したアルミニューム片を浸漬した。2分後に引き上げ、イオン交換水で十分に洗浄した。
次に、1%濃度の硝酸をポリエチレン製ビーカーに500cc用意し、前述したアルミニューム片を1分間浸漬して中和した。引き上げてイオン交換水で十分に洗浄した。次に、5%濃度の水和ヒドラジン水溶液をポリエチレン製ビーカーに500g用意し、加熱して水溶液を50℃とし、前述したアルミニューム片を2分間浸漬し、引き上げてイオン交換水で十分に洗浄した。
【0044】
更に、温風乾燥機に移して70℃で20分かけて乾燥し、乾燥空気で満たされている保管箱内に収納した。2日後、保管箱からアルミニューム片を取り出し、油分等が付着せぬよう手袋で摘まんで射出成形金型にインサートした。その後は実験例1と全く同様に成形を実施した。得られた一体化物のうち10個について、アルミ板部分を机の上に押さえ付けボス形状物24、及びリブ形状物25の先端を親指で水平方法に強く押して樹脂部分を剥がそうとしたが、全て、指に傷が行きそうになるまで押しても剥がすことは出来なかった。
この10個を含む計50個について、ペンチでリブ形状物25の樹脂部を真上から(ペンチが垂直方向になるようにして)掴み、そのままペンチを傾けリブ形状物25を剥がそうとした。しかし、50個とも接着面は全く剥がれずリブ形状物25が途中から折れた。ボス形状物24を同様にペンチで挟んで折り曲げたところ、7個はアルミニューム板から剥がすことが出来たが、ボス形状物24の接着していたアルミ面には点々と小さな樹脂残砕が残っており材料破壊が生じていた。残りの43個は剥がすことはできずボス形状物24が途中で折れた。
【0045】
[本発明の利用分野]
本発明の利用分野は、モバイル用の各種電子機器、家庭用電化製品、医療機器、自動車の車体、車両搭載用品、建築資材の部品、その他の各種機械の構造用部品、各種内装・外装用部品等に用いることができる。
【0046】
【発明の効果】
本発明のアルミニューム合金と樹脂の複合体とその製造方法は、アルミニューム合金の表面を処理して、熱可塑性樹脂組成物とアルミニューム合金形状物とが容易に剥がれることない、また、形状、構造上も機械的強度の上でも問題がない各種機器の筐体や部品、構造物等を作ることができる、更に、電子機器等の筐体、部品、構造物等の軽量化や機器製造工程の簡素化に役立つことができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、携帯電話ケースカバーの外観図である。
【図2】図2は、図1で示す携帯電話ケースカバーのI−I線で切断したときの断面図である。
【図3】図3は、金属フレームの表面に射出成形により熱可塑性樹脂組成物が充填される射出成形金型の断面図である。
【図4】図4は、アルミニューム合金と樹脂の複合体の実験片である。
【符号の説明】
1…ケースカバー
2…金属フレーム
3…リブ
10…可動側型板
13…固定側型板
Claims (14)
- 5%濃度の水和ヒドラジンの50℃水溶液に2分間浸漬させる浸漬工程を経たアルミニューム合金形状物と、
前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及び前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上が射出成形により付着している
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項1に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記アルミニューム合金形状物は、前記接触工程の前に水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、次に硝酸水溶液に浸漬する中和処理工程を経たものである
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項1に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記ポリブチレンテレフタレートのポリマーが、ポリブチレンテレフタレート単独のポリマー、ポリブチレンテレフタレートとポリカーボネートのポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂のポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのポリマーコンパウンド、及びポリブチレンテレフタレートとポリスチレンのポリマーコンパウンドから選択される1種以上である
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項3に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記ポリマーには、物性を改良するための充填材が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項3に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記ポリマーには、機械的強度を高めるために高強度繊維が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項4に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記充填材は、カーボンブラック、炭酸カルシューム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、リグニン、アスベスト、雲母、石英粉、及びガラス球から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - 請求項5に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体において、
前記高強度繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体。 - アルミニューム合金と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
前記アルミニューム合金を機械加工してアルミニューム合金形状物とする加工工程と、
5%濃度の水和ヒドラジンの50℃水溶液に2分間浸漬させる浸漬させる浸漬工程と、
成形用の金型に前記浸漬工程で浸漬処理された前記アルミニューム合金形状物を挿入して、前記アルミニューム合金形状物の表面に、ポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを主体とする共重合体、及びポリブチレンテレフタレート、前記ポリブチレンテレフタレートを成分として含む熱可塑性樹脂組成物から選択される1種以上を射出成形により一体にする成形工程と
からなることを特徴とするアルミニューム合金形状物と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項8に記載のアルミニューム合金と熱可塑性樹脂組成物の複合体の製造方法であって、
前記加工工程と前記浸漬工程の間に、
前記アルミニューム合金形状物を水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する第1浸漬工程と、
前記第1浸漬工程で浸漬処理された前記アルミニューム合金形状物を中和処理するために硝酸水溶液に浸漬する第2浸漬工程とからなる工程を有する
ことを特徴とするアルミニューム合金形状物と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項8に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記ポリブチレンテレフタレートのポリマーが、ポリブチレンテレフタレート単独のポリマー、ポリブチンテレフタレートとポリカーボネートのポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂のポリマーコンパウンド、ポリブチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートのポリマーコンパウンド、及びポリブチレンテレフタレートとポリスチレンのポリマーコンパウンドから選択される1種以上である
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項10に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記ポリマーには、機械的強度を高めるために高強度繊維が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項11に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記高強度繊維は、ガラス繊維、炭素繊維、及びアラミド繊維から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項10に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法において、
前記ポリマーには、物性を改良するための充填材が加えられている
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。 - 請求項13に記載のアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造において、
前記充填材は、カーボンブラック、炭酸カルシューム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシューム、シリカ、タルク、粘土、リグニン、アスベスト、雲母、石英粉、及びガラス球から選択される1種以上からなる
ことを特徴とするアルミニューム合金と樹脂の複合体の製造方法。
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