JP3984387B2 - ポリマーフィルムを用いたコーティング方法および金属箔積層体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属層などの素地に圧着された、光学的異方性の溶融相を形成し得るポリマー(以下、「液晶ポリマー」ということがある)から成形されるフィルム(以下、「液晶ポリマーフィルム」ということがある)の一部を引き剥がして得られる、等方性のコート層を有するコート体、およびこの製造方法に関する。本発明は、さらに、金属箔に圧着された液晶ポリマーフィルムの一部を層の厚さ方向に引き裂いて得られる、液晶ポリマーの金属箔積層体、およびこの製造方法に関する。ここで、コート体とは、被コート体に液晶ポリマーをコートして液晶ポリマーコート層を形成させた物体をいう。
【0002】
【従来の技術】
液晶ポリマーには、(1) 金属箔と直接熱圧着できること、(2) 高い耐熱性を有すること、(3) 低吸湿性であること、(4) 熱寸法安定性に優れること、(5) 湿度寸法安定性に優れること、(6) 高周波数特性に優れること、(7) 有毒なハロゲン、燐、アンチモン等を含んだ難燃剤を加えなくても難燃性であること、(8) 耐薬品性に優れること、(9) 耐放射線性に優れること、(10)熱膨張係数が制御できること、(11)低温でもしなやかであること、(12)高ガスバリヤ性(酸素などの気体の透過率が非常に低いこと)であることなどの特長がある。
【0003】
近年この優れた液晶ポリマーを金属箔やシリコン平板やセラミックス平板などの被コート体に薄くコーティングすることで、精密回路基板、多層回路基板、封止材、パッケージなどに用いる材料を構成したいとする要求が特に高まっている。また、耐熱性、耐薬品性、低吸水性、ガスバリヤ性を活かして、腐食されやすい金属等の保護層としてのコーティングが要求されている。
【0004】
まず、第1の問題点について述べる。
物体の表面に樹脂などの薄い皮膜を形成させることは、ライニング加工、コーティング加工としてよく知られており、両者は一般には次のように区別されている。コーティングは素地に連続した皮膜を形成し、汚染、腐食からの保護と美観を与える装飾性が主目的であるが、非粘着性や低摩擦性付与の目的にも利用され、ライニングは腐食、エロージョンなどの化学的、物理的に厳しい環境下で使用される容器(槽)、管の保護用内装肉厚皮膜形成法であり、両者は種々の点で類似した面があって区別は難しい。一般に、一つは皮膜の厚さ0.5mm 以上のものをライニング、それ以下のものをコーティングと称するのが普通であるとされ、他方では、コーティングは主として構造物の表面上に数十ミクロン程度の膜を形成することであり、ライニングは数百ミクロン以上の場合をいうとされている。
いずれにせよ、本発明は、液晶ポリマーの非常に薄い皮膜(厚さ25μm以下、主として15μm以下)を素地に形成する技術に関連しているから、コーティングに関するものであると言える。
【0005】
コーティングの性能の重要な項目として温度変化に対する耐久性がまず注目されるが、これは被コート体とコーティング層の熱膨張係数の違いに如何に対処できるかが問題となるとされている。コーティング方法の代表的なものは、▲1▼ディッピング法(浸漬法)、▲2▼フローコーター法、▲3▼カーテンコーター法、▲4▼ロールコーター法、▲5▼電着法、▲6▼刷毛塗り法、▲7▼スプレー法、▲8▼気相コーティング法であるが、液晶ポリマーのコーティングの場合はこれら従来のコーティング法を適用することができない。その理由は、液晶ポリマー分子は分子が相互に同じ方向に配列しやすい、すなわち配向しやすい、という液晶ポリマー特有の性質に起因して、溶融液晶ポリマーを薄く膜状にする過程で加わる力によって配向してしまい、配向の方向とその直角方向では熱膨張係数などの物性が大幅に異なる(すなわち異方性である)ために、例えば被コート体と液晶ポリマーコート層の熱膨張係数を平面内すべての方向において合わせることができないためである。従来技術により被コート体表面に比較的厚く、例えば厚さ50μm以上で、液晶ポリマー膜を形成することは可能であるが、形成された液晶ポリマー膜は異方性であり、コート層としては実用に供することはできなかった。まして、等方性の向上した液晶ポリマーコート層を薄く、例えば厚さ15μm以下に、する技術は従来なかったものである。
【0006】
次に、第2の問題点について述べる。
エレクトロニクス分野における回路基板等には、導電性の金属箔と電気絶縁性のフィルム状絶縁材料(フィルムあるいはシートあるいはフィルムやシート形状に金属箔上にコートされたもの)とを重ね合わせて圧着してなる金属箔積層体が用いられる。かかる金属箔積層体には、2つの金属箔層の間に電気絶縁層が挟み込まれた形態の両面金属箔積層体と、1つの金属箔層と電気絶縁層が合わされた形態の片面金属箔積層体の2形態があり、電気絶縁層には、上記の特長を有する液晶ポリマーが理想的な材料の一つであるとされている。
【0007】
上記の液晶ポリマーの特長を消失させない液晶ポリマー金属箔積層体の製造方法として、従来より次に述べる方法が知られている。▲1▼両面積層体の場合は、2枚の金属箔の間に液晶ポリマーフィルムを挟み、熱平板あるいは熱ロールで熱プレスして、液晶ポリマーフィルムを溶融させ、金属箔と液晶ポリマーとを熱圧着させることにより製造する。▲2▼一方、片面積層体の場合は、1枚の金属箔と1枚の離型フィルムとの間に液晶ポリマーフィルムを挟み、熱平板あるいは熱ロールで熱プレスして、液晶ポリマーフィルムを溶融させ、金属箔と液晶ポリマーとを熱圧着させたあと、該離型フィルムを剥がし除去することによって製造する。
【0008】
かかる従来技術の製造方法において、両面金属積層体の場合は特に問題はないが、片面金属積層体の場合は、離型フィルムを剥がし除去しなければならないために、離型フィルムが無駄になり、製造コストがそれだけ高くなることが重大な問題であった。しかも、液晶ポリマーフィルムを溶融するためには300℃付近の高温にする必要があるために、離型フィルムとしては、優れた耐熱性フィルムでなければならないので、テフロン、ポリイミド等の高価なものが必要であり、離型フィルムのためのコスト高は、実際上、液晶ポリマーの片面金属箔積層体のコマーシャルベースの製造を非常に困難にするものであった。
【0009】
また、近年エレクトロニクス分野を中心に、回路基板の厚さを薄くしたいという要求は益々強くなってきている。上述したように、液晶ポリマーは回路基板の電気絶縁層に適しているため、薄い液晶ポリマー層と金属箔層とで構成される回路基板の実現は強く要請されている。
【0010】
したがって、薄い液晶ポリマー層として、液晶ポリマーフィルムが必要であるが、普通に製膜すれば一方向に強い分子配向をもつフィルムとなる。一方向に強い分子配向をもつフィルムは、分子配向の方向に引き裂けやすく、また熱寸法変化率も分子配向の方向とその直角方向とでは著しく異なるフィルム、すなわち異方性フィルムであって、回路基板の電気絶縁層材料として用いることは難しい。しかし、第1の問題点で示したように、電気絶縁材料としての等方性液晶ポリマーを15μm以下の薄いフィルムにはしにくく、特に膜厚が10μm以下のフィルムは、非常に製造しにくいものであって、これまで報告された例はない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、第1の問題を解消するために、異方性を解消した、すなわち等方性を向上した、液晶ポリマーコート層を形成する手段を提供するものであり、特に厚さが薄い液晶ポリマーコート層を形成する手段を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、第2の問題を解消するために、液晶ポリマーの片面金属箔積層体の製造において、離型フィルムを必要としない片面金属箔積層体の製造方法を提供するものである。さらに、本発明は、異方性を解消した液晶ポリマー電気絶縁層と金属箔層とで構成される積層体をも提供する。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るコーティング方法は、液晶ポリマーから成形されて分子配向度SORが1.3以下のフィルムを被コート体に熱圧着により接合した後、前記フィルムの薄い層を被コート体上に残すように、フィルムを引き剥がす。これにより、容易に薄い液晶ポリマーコート層を形成することができる。
本発明に係る被コート体上に残されたコート層を有するコート体は、光学的異方性の溶融層を形成し得るポリマーのコート層を有し、前記ポリマーの層の分子配向度が1.3以下である。また、本発明に係る被コート体の好ましい実施形態は、前記コート層の厚さが15μm以下である。したがって、本発明に係るコート体のコート層は、薄さを確保しながらも、等方性であるので、液晶ポリマーの上述の優れた特長を利用して、精密回路基板、多層回路基板、封止材、パッケージなどの材料とすることができる。
【0014】
ここで、分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio) とは、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、従来のMOR (Molecular Orientation Ratio) とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。この分子配向度SORは、以下のように算出される。
【0015】
まず、周知のマイクロ波分子配向度測定機、例えば、図6に示す、KSシステムズ社製のマイクロ波分子配向度測定機61を用いて、液晶ポリマーフィルムを透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)が測定される。この測定機61は、液晶ポリマーフィルム65に照射する所定波長のマイクロ波MWを発生させるマイクロ波発生装置63、マイクロ波共振導波管64および透過強度検出手段68を備えている。上記マイクロ波共振導波管64は、その中央部に、マイクロ波MWの進行方向にフィルム面が垂直になるようにフィルム65を配置し、このフィルム65を、図示しない回転機構により、マイクロ波MWの進行方向と垂直な面内でR方向に回転可能な状態にして保持するとともに、フィルム65を透過するマイクロ波MWを、両端部に設けられた一対の反射鏡67,67で反射させることにより共振させるものである。上記フィルム65を透過した後のマイクロ波透過強度は、透過強度検出手段68により検出される。上記透過強度検出手段68は、上記マイクロ波共振導波管64内の後方の所定位置に挿入した検出素子68aにより、マイクロ波の透過強度を測定する。
【0016】
そして、このマイクロ波透過強度の測定値に基づいて、次式により、m値(屈折率と称する)が算出される。
m=(Z0 /△z)×(1−νmax /ν0 )
ただし、Z0 は装置定数、△zは被測定物体の平均厚、νmax はマイクロ波の振動数を変化させたときの最大マイクロ波透過強度を与える振動数、ν0 は平均厚ゼロのとき(すなわち物体がないとき)の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。
【0017】
つぎに、マイクロ波の振動方向に対する物体の上記R方向の回転角が0°のとき、つまり、マイクロ波の振動方向と、物体の分子が最もよく配向されている方向であって、最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致しているときのm値をm0 、回転角が90°のときのm値をm90として、分子配向度SORはm0 /m90により算出される。
【0018】
理想的な等方性フィルムでは、この指標SORは1であり、通常Tダイ製膜法で得られる一方向に強く分子配向した液晶ポリマーフィルムのSORは1.5程度である。また、通常等方性インフレーション製膜法で得られる等方性フィルムのSORは1.3以下である。
また、液晶ポリマーとは、半1型液晶ポリマー、全1型液晶ポリマー、半2型液晶ポリマー、全2型液晶ポリマー[末長純一著「成形・設計のための液晶ポリマー」シグマ出版]などすべての液晶ポリマーを含むものである。
【0019】
液晶ポリマーの代表例として、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。ただし、高分子液晶を形成するためには、種々の原料化合物の組合せに適当な範囲があることは言うまでもない。
【0020】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【0021】
【表1】
【0022】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【0023】
【表2】
【0024】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【0025】
【表3】
【0026】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0027】
【表4】
【0028】
(5)これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として、表5に示す構造単位を有する共重合体(a)〜(e)を挙げることができる。
【0029】
【表5】
【0030】
これらの液晶ポリマーは、フィルムの耐熱性、加工性の点で200〜400℃、特に250〜350℃の範囲内に光学的異方性の溶融相への転移温度を有するものが好ましい。また、フィルムとしての物性を損なわない範囲内で、滑剤、酸化防止剤、充填材等を配合してもよい。
【0031】
上記液晶ポリマーよりなるフィルムは、Tダイ法、インフレーション法、これらの方法を組み合わせた方法等の公知の製造方法によって成形される。特にインフレーション法では、フィルムの機械軸方向(以下、MD方向と略す)だけでなく、これと直交する方向(以下、TD方向と略す)にも応力が加えられて、MD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスのとれたフィルムが得られるので、より好適に用いることができる。
【0032】
本発明の重要な点は、コーティング材料として等方性液晶ポリマーフィルムを用いることであり、仮に分子配向度SORが1.3を越える異方性液晶ポリマーフィルムをコーティング材料として用い、これをコーティングした後に加熱して異方性液晶ポリマーコート層を溶融したとしても、これが等方性液晶ポリマーコート層に転じるものではない。このことは液晶ポリマーの分子物性に関する基本的な挙動であって、異方性液晶ポリマーコート層を液晶ポリマーの融点より35℃高い温度に加熱しても等方性にならないことが、本発明者らにより確認されている。
【0033】
また、被コート体の材質は、金属、ガラス、セラミックスなどの無機物質、プラスチック、木材、繊維などの有機物質で、液晶ポリマーを熱圧着させるに必要な温度以上の軟化点をもつものが用い得る。ここには液晶ポリマー自体も被コート体の材質として含まれる。例えば、フィラーやガラスクロスなどの強化材入りあるいはフィラーやガラスクロスなしの被コート体の表面改質(接着性、力学物性、摩擦物性、表面濡れ性、ガスバリヤ性、耐薬品性、耐溶剤性、溶剤親和性、美的外観、などの向上)などのために、被コート体の表面に液晶ポリマーコート層を設けることがある。
【0034】
特に本発明の液晶ポリマーコート層は、電子回路基板を構成する部品、あるいは電子回路を保持することに適しており、かかる場合は金属箔が被コート体となることが多い。金属箔の材質としては、電気的接続に使用されるような金属等から選択され、好ましくは金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄、鋼、錫、真鍮、マグネシウム、モリブデン、銅/ニッケル合金、銅/ベリリウム合金、ニッケル/クロム合金、炭化珪素合金、グラファイト、およびこれらの混合物からなる群から選択することが可能である。
【0035】
本発明における第2の特徴は、先ず厚い等方性液晶ポリマーフィルムを被コート体に熱圧着して、しかる後に、被コート体より該フィルムを引き剥がし、該被コート体上に薄い液晶ポリマーコート層を残すことにある。これは、通常のポリマーでは難しいことであるが、液晶ポリマーフィルム特有の優れた層内剥離性(フィルム内部で雲母のように薄い層状に剥離される性質)を利用して初めて可能になるコーティング方法である。この優れた層内剥離性を維持したまま等方性液晶ポリマーフィルムを被コート体に熱圧着するためには、加熱温度を液晶ポリマーの融点以上に上げないことが重要である。
【0036】
かかる方法で被コート体の表面に形成された液晶ポリマーコート層は、さらに融点以上に加熱することにより、層内剥離性を失わせることができる。また、液晶ポリマーコート層表面を他の物体表面にあわせ液晶ポリマーの融点以上の温度で、被コート体と他の物体とを熱圧着する場合においては、この熱圧着の過程で液晶ポリマーコート層が融点以上に加熱されるために液晶ポリマーコート層で層内剥離が起こることはない。
【0037】
本発明に係る等方性液晶ポリマーを有するコート体は、液晶ポリマーコート層の厚さが15μm以下であることが好ましい。
液晶ポリマーフィルムの製膜技術は非常に高度な技術であり、薄いフィルムを製造することは困難で製造コストが高くなる。通常、厚さ20μm以上の液晶ポリマーフィルムは安定に製造することができるので、液晶ポリマーコート層を20μm以上で形成することは比較的容易であって、場合によっては上述の引き剥がし過程を必要とせず液晶ポリマーコート層を形成することもできる。むろん、引き剥がすことにより引き剥がし面が微細な粗さを有するようになり接着剤で接着する面として好ましいものになるので、厚さ20μm以上の液晶ポリマーコート層を引き剥がし過程を経て形成することが重要であることも多い。本発明に係るコート体は、特に電子回路基板およびその部品用途において、薄い液晶ポリマーコート層が要求される場合に有効なものであって、厚さ20μm以下、特に厚さ15μm以下の等方性液晶ポリマーコート層を設けるためには、請求項1に述べられた方法が実用上唯一のものである。実現できる液晶ポリマーコート層の平均厚の下限は限りなく0に近く、例えば平均厚が1μm以下であるような液晶ポリマーコート層は容易に実現することができ、精密に制御された条件下では平均厚0.1μm以下であるような等方性液晶ポリマーコート層も実現することができる。
【0038】
本発明に係る等方性液晶ポリマーコート層を有するコート体は、等方性液晶ポリマーコート層の熱膨張係数が被コート体の熱膨張係数と同等であることが好ましい。
先に「従来の技術」の項で述べたように液晶ポリマーコート層の熱膨張係数が被コート体の熱膨張係数とできる限り近いことが望ましい。特に、100℃の温度変化に対して被コート体とコート層の寸法変化のずれが0.2%以下であれば、エレクトロニクス部品等の精密なコート層として使用できる。したがって、ここで等方性液晶ポリマーコート層の熱膨張係数と被コート体の熱膨張係数が同等であるとは、被コート体表面の熱膨張係数に対してプラスマイナス20ppm/℃(すなわち、プラスマイナス1000分の2%/℃)であることである。このように、被コート体とコート層の熱膨張係数を近づけることは、最も単純にはコート層の原料となる液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数を被コート体の熱膨張係数と同等にしておくことであるが、原材料である液晶ポリマーフィルムの熱膨張係数が被コート体の熱膨張係数と異なっていても、該液晶ポリマーフィルムを用いて形成された液晶ポリマーコート層を加熱処理することにより、双方の熱膨張係数を同等にすることが可能である。加熱処理において非常に精密に加熱温度をコントロールすれば被コート体とコート層の熱膨張係数を測定誤差範囲内で一致させることも可能である。液晶性を示さない通常の熱可塑性ポリマーやエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂をコート層に用いる場合に熱膨張係数を制御するためには、無機粉体や無機クロスをコート層に組み入れてその分率を制御することやコート層を構成するポリマー分子の架橋密度を制御するなどの特別の操作を実施しなければならないが、液晶ポリマーコート層の場合は、液晶ポリマー分子の特異な性質を利用することによって、加熱処理という単純な操作で実現することが可能である。
【0039】
上述したように、本発明は液晶ポリマーの分子が配向しやすく、フィルム状に成形した場合には優れた層内剥離性をもつという特徴を利用したもので、被コート体表面に熱圧着した液晶ポリマーフィルムを引き剥がす過程において層内剥離を発生させ、原材料である液晶ポリマーフィルムの厚さ方向の一部を被コート体上に残留させることにより、容易に薄い液晶ポリマーコート層を形成するものである。
【0040】
次に説明する本発明の液晶ポリマーの金属箔積層体の製造方法は、上記の液晶ポリマーコーティングにおいて、被コート体が金属箔の場合であり、液晶ポリマーの層内剥離性という特徴を利用して製造する点で、本発明の液晶ポリマーコーティングと関連性がある。
【0041】
本発明の片面金属箔積層体の製造方法は、液晶ポリマーの層とその上面に接合された金属箔層と下面に接合された金属箔層とからなる両面金属箔積層体を、前記ポリマーの層の厚さ方向に上面と下面に引き裂くことによって、液晶ポリマーの層とその上面の金属箔層とからなる第1の片面金属箔積層体と、液晶ポリマーの層とその下面の金属箔層とからなる第2の片面金属箔積層体とに分割する。これにより、片面金属箔積層体が、従来手法では必要であった離型フィルムを使用することなく製造でき、また、一回のプロセスで2枚の片面金属箔積層体が製造できるので製造速度はほぼ2倍になる。
【0042】
本発明の片面金属箔積層体の製造方法では、前記両面金属箔積層体は、液晶ポリマーから成形されるフィルムを2枚の金属箔で層状に挟み、これを熱プレスして製造されることが好ましい。
本発明の片面金属箔積層体は上記の製造方法によって得られるものである。
本発明の片面金属箔積層体は前記液晶ポリマーの層が15μm以下であることが好ましい。
本発明の片面金属箔積層体は、前記液晶ポリマーの層の分子配向度が1.3以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の実装回路基板は、上記の片面金属箔積層体を用い、その積層体上に電子部品を搭載して接続してなる。
本発明の多層実装回路基板は、上記の片面金属箔積層体に、この積層体または他の積層体を重ねてなる多層積層体を用い、その多層積層体上に電子部品を搭載して接続してなる。
【0044】
本発明の両面金属箔積層体の製造方法では、前記片面金属箔積層体の前記ポリマーの層側に金属箔を重ね合わせて熱プレスして、両面金属箔積層体を製造する。
本発明の両面金属箔積層体は上記の製造方法によって得られるものである。
【0045】
本発明の片面金属箔積層体の製造装置は、2枚の金属箔で層状に挟まれた、液晶ポリマーから成形されるフィルムを厚さ方向に熱プレスする熱プレス装置と、熱プレスによって形成された液晶ポリマーの層とその上面の金属箔層と下面の金属箔層とからなる両面金属箔積層体を、前記ポリマーの層の厚さ方向に上面と下面に引き裂く分割装置とを備える。
【0046】
本発明における重要なポイントは、液晶ポリマー層が、上述した層内剥離性により厚さ方向で2分される性質を利用することであり、この性質を消失せしめることなく目的とする片面金属箔積層体を作るに至らしめることである。このためには、液晶ポリマー層を軟化させても溶融させないことが必須であり、液晶ポリマー層の温度を融点を越えて上昇せしめてはならない。しかし、液晶ポリマー層は、必ずしも一定の融点を示すものではなく、融点は液晶ポリマー層に加えられる熱履歴などに依存する。例えば、液晶ポリマーフィルムあるいは層を、融点付近ではあるが融点より低い温度(例えば継続して常に15℃低い温度)の環境におけば、融点は時間と共に上昇し、終には融点がもとの出発時点の融点よりも120℃程度上昇してしまう。このように出発時点よりも融点が上昇した時点では、そのときの融点を越えない温度であれば液晶ポリマー層が厚さ方向で2分される性質が損なわれることはない。
【0047】
また、熱プレスの方法としては、熱プレス機、真空熱プレス機、熱ロールプレス機、および加熱手段が別に実質上隣接されて設置されているプレス機、真空プレス機、ロールプレス機などを用いることができる。
【0048】
片面金属箔積層体は、回路基板用途だけでなく、汎用のプラスチックと金属箔の積層体用途に用いることができる。しかし、特に回路基板用途においては、原料となる液晶ポリマーフィルムの製膜方向と、それに直角な方向で熱膨張係数などの物性ができる限り同じであることが望ましい。しかしながら、液晶ポリマーは分子が非常に配向しやすく、通常の製膜方法により液晶ポリマーフィルムを製膜するとフィルムを構成する液晶ポリマーが製膜方向に強く分子配向(分子配向度SORが1.5程度以上)してしまう。このような製膜方向に強く分子配向した液晶ポリマーフィルムを片面金属箔積層体の原料とする場合には、片面金属箔積層体の液晶ポリマー層が原料フィルムと同等の製膜方向に強く配向したものとなり、製膜方向とその直角な方向で熱膨張係数などの物性が食い違うものとなる。
【0049】
そこで、特に回路基板用途向けには、片面金属箔積層体製造のために用いられる液晶ポリマーフィルムは等方性であること(分子配向度SORが1.3以下、理想的に望ましいSORは1)が望ましい。
【0050】
以上述べたように、本発明は、液晶ポリマー電気絶縁層と金属箔層とで構成される積層体を提供するものであり、また、液晶ポリマー層は薄くすることが可能であり、特に回路基板に望ましいものとして、液晶ポリマー電気絶縁層の分子配向が等方性である積層体を提供するものである。したがって、本発明の片面積層体の液晶ポリマー層は、薄さを確保しながらも、等方性であるため、実現が強く要請されていた薄い液晶ポリマー層と金属箔層とで構成される回路基板の実現を可能とする。
【0051】
【発明の実施の形態】
図1(a)から(c)に、本発明の第1実施形態である等方性液晶ポリマーフィルムを用いたコーティング方法を示す。図1(a)に示すように、コート体1は、液晶ポリマーフィルム2を被コート体3に熱圧着したものである。液晶ポリマーフィルム2の分子配向度SORは1.3以下であり、厚さは15μm以上である。図1(b)に示すように、薄い液晶ポリマーコート層2aを被コート体3上に残して、他の液晶ポリマーフィルム2bを引き剥がす。この液晶ポリマーフィルム2bを引き剥がす工程は、液晶ポリマーフィルムの層内剥離性を利用するため、容易に行うことができる。液晶ポリマーフィルム2bが引き剥がされた後は、図1(c)に示すように、被コート体3に薄い液晶ポリマー層2aがコーティングされたコート体1となる。
このコーティング方法により、分子配向度SORが1.3以下で液晶ポリマーコート層の厚さが15μm以下のコート体を製造することができる。
【0052】
図2(a)から(g)に、本発明の第2実施形態である片面金属箔積層体の製造方法を示す。図2(a)に示す液晶ポリマーフィルム2と上面の金属箔層3と下面の金属箔層3とからなる両面金属箔積層体11を、図2(b)のように液晶ポリマー層2の厚さ方向Zに上面と下面とに、例えば厚さ方向の中央で引く裂く。これによって、図2(c)に示すように、上面の金属箔層3と液晶ポリマー層2とからなる第1の片面金属箔積層体11aと下面の金属箔層3と液晶ポリマー層2とからなる第2の片面金属箔積層体11bとに分割される。
図2(b)に示す液晶ポリマー層2を引き裂く工程は、第1実施形態と同様に液晶ポリマーフィルムの層内剥離性を利用するため、容易に行うことができる。図2(a)から(c)の工程により、離型フィルムを使用することなく、液晶ポリマーの片面金属箔積層体を同時に2つ製造できる。
【0053】
また、図2(d)に示すように、この片面金属箔積層体11bの液晶ポリマー層2側に金属箔3aを重ね合わせて熱プレスすると、図2(e)に示す両面金属箔積層体11cが得られるが、分割前の両面金属箔積層体11に比べて、液晶ポリマー層2の厚さが約半分である。さらに、図2(f)に示すように、この両面金属箔積層体11cを厚さ方向Zに上面と下面とに引き裂くと、図2(g)に示すように、上面の金属箔層3aと液晶ポリマー層2とからなる第1の片面金属箔積層体11dと下面の金属箔層3と液晶ポリマー層2とからなる第2の片面金属箔積層体11eとに分割される。図2(d)から(g)の工程を繰り返すことで、液晶ポリマー層2の厚さをさらに薄くすることが可能である。
【0054】
図3に本発明の片面金属箔積層体の製造設備の具体例を示す。片面金属箔積層体の製造方法は、以下のとおりである。片面金属箔積層体11a,11bの原材料ともいうべき上面の金属箔3、液晶ポリマーフィルム2、下面の金属箔3を、重ね合わせて、予熱チャンバー20において金属箔3,3と液晶ポリマーフィルム2を同一温度の雰囲気中を通過させ、その直後に熱プレス装置である熱プレスローラ21,21で熱プレスすることによって液晶ポリマーの両面金属箔積層体11を形成する。次いで、該両面金属箔積層体11を上下面に2分するための適切な温度に調整するために温度調整チャンバー22を通過させた後、分割装置23において該両面金属箔積層体11を上面側と下面側に厚さ方向で2分し、片面金属箔積層体11aおよび片面金属箔積層体11bが巻き取られる。
【0055】
図4に本発明の第3実施形態に係る実装回路基板の概念図を示す。実装回路基板12は、第2実施形態で製造される片面金属箔積層体11a(図2(c))における金属箔3が銅箔であり、印刷されたパターン部分以外の銅箔をエッチングにより除去して、回路パターンが形成されている。この回路パターン上に、抵抗、コイル、コンデンサおよびICなどの電子部品13が搭載され、回路パターンに接続されている。本発明の片面金属箔積層体11aは、電気絶縁層である液晶ポリマー層2を薄くすることが可能であるため、厚さの薄い実装回路基板12が実現できる。
【0056】
図5に本発明の両面金属箔積層体同士を液晶ポリマーフィルム4を挟んで重ねた多層回路基板14の断面概略図を示す。両面金属箔積層体11c(図2(e))における金属箔3は銅箔であり、両面金属箔積層体11cは、エッチングにより印刷されたパターン部分以外の銅箔を除去して、回路パターンが形成されている。この回路パターンが形成された2つの両面金属箔積層体11cの間に、液晶ポリマーフィルム4を挟んで熱プレスした後、部品取り付け穴をあけてメッキ5を施し、スルーホール6を形成する。本発明の両面金属箔積層体11cは、電気絶縁層である液晶ポリマー層2を薄くすることが可能であるため、厚さの薄い多層回路基板14が実現できる。
【0057】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0058】
〔実施例1〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位27モル%、p−ヒドロキシ安息香酸単位73モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて280〜300℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押し出し、厚さ75μmの液晶ポリマーフィルムを得た。得られた液晶ポリマーフィルムの融点は280℃で、その分子配向度SORは1.2であった。厚さ200μmのアルミ箔(被コート体)と該液晶ポリマーフィルムとを重ね合わせ、上下より真空平板熱プレス機を用いて全体を40mmHgの真空とし、温度275℃、圧力20Kg/cm2 で熱圧着した後、該液晶ポリマーフィルムの一部が残るように引き剥がした。
しかる後に、アルミ箔を化学エッチングにより除去し、得られた液晶ポリマーコート層の分子配向度SORを測定したところ1.2で、厚さは30μmであった。
比較のために、同じアルミ箔(被コート体)に上記の液晶ポリマーを溶融してロールコーター法でコーティングして液晶ポリマーコート層を得、上に述べたようにして該液晶ポリマーコート層の分子配向度SORを測定したところ1.5であった。
【0059】
〔実施例2〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位27モル%、p−ヒドロキシ安息香酸単位73モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて280〜300℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押し出し、厚さ20μmの液晶ポリマーフィルムを得た。得られた液晶ポリマーフィルムの融点は280℃で、その分子配向度SORは1.03であった。
上記の液晶ポリマーフィルムを液晶ポリマーコート層材料とし、厚さ18μmの電解銅箔(被コート体)と重ね合わせて真空熱プレス機を用いて実施例1と同様に熱圧着した後、該液晶ポリマーフィルムの一部が残るように引き剥がして、液晶ポリマーコート層を得た。電解銅箔を化学エッチングにより除去して、液晶ポリマーコート層の分子配向度SOR、厚さを測定したところ、それぞれ1.03、および9μmであった。
【0060】
〔実施例3〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位27モル%、p−ヒドロキシ安息香酸単位73モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて280〜300℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押し出し、厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを得た。得られた液晶ポリマーフィルムの融点は280℃で、分子配向度SORは1.02、熱膨張係数は−8ppm/℃であった。
上記の液晶ポリマーフィルムを液晶ポリマーコート層材料とし、厚さ10μm、熱膨張係数18ppm/℃の圧延銅箔を被コート体材料とし、両者を重ね合わせて真空熱プレス機を用いて実施例1と同様に熱圧着した後、該液晶ポリマーフィルムの一部が残るように引き剥がして液晶ポリマーコート層を得た。圧延銅箔を化学エッチングして、得られた液晶ポリマーコート層の分子配向度SORと厚さを測定したところ、それぞれ1.02および15μmであった。また熱膨張係数は−8ppm/℃であった。
【0061】
〔実施例4〕
実施例3において得られた液晶ポリマーコート層を有する被コート体を、熱風循環式オーブンを用いて、292℃に加熱した。圧延銅箔を化学エッチングにより除去した。得られた液晶ポリマーコート層の分子配向度SORは1.02、厚さは15μm、熱膨張係数は18ppm/℃であった。
【0062】
〔実施例5〕
厚さ18μmの電解銅箔を上面の金属箔とし、厚さ18μmの電解銅箔を下面の金属箔として、これら2枚の金属箔の間に、実施例3で用いたものと同じ厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを挟み、真空平板熱プレス機を用いて、全体を30mmHgの真空とし、プレス温度270℃、プレス圧60Kg/cm2 で熱プレスし、厚さ86μmの両面金属箔積層体を作製した。ここで用いた液晶ポリマーフィルムの分子配向度SORは1.02であった。
上記の両面金属箔積層体を上面側と下面側に厚さ方向に中央部で分離し、2枚の片面金属箔積層体を得た。液晶ポリマー層における分離面は毛羽立ちがなく平滑であった。これら2枚の片面金属箔積層体の厚さはいずれも43μmで、金属箔の厚さ18μmを差し引けば、液晶ポリマー層の厚さは25μmである。
こうして得られた片面金属箔積層体より電解銅箔を化学エッチングにより除去した。残されたフィルム状の液晶ポリマー層の分子配向度SORは1.02であって、分子配向度は変化しなかった。
【0063】
〔実施例6〕
実施例5で作製した厚さ86μmの両面金属箔積層体の上面の金属箔層側と下面の金属箔層側とを、実施例5とは別の位置で引き剥がすように力を加えて、液晶ポリマー層を上下に2分し、上側の金属箔層と液晶ポリマー層とからなる第1の積層体と、下側の金属箔層と液晶ポリマー層とからなる第2の積層体を作製した。
第1の積層体の厚さは48μm、したがって、液晶ポリマー層の厚さは30μm、また第2の積層体の厚さは38μm、したがって、液晶ポリマー層の厚さは20μmであった。
上記の第1の積層体および第2の積層体の金属箔層を化学エッチングすることにより除去した。得られた液晶ポリマー層の分子配向度SORは、第1の積層体も第2の積層体も1.02であった。
【0064】
〔実施例7〕
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位27モル%、p−ヒドロキシ安息香酸単位73モル%からなるサーモトロピック液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて280〜300℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押し出し、厚さ16μmの液晶ポリマーフィルムを得た。得られた液晶ポリマーフィルムの融点は280℃で、分子配向度SORは1.02であった。
上記の厚さ16μmの液晶ポリマーフィルムを、厚さ18μmの電解銅箔2枚の間に挟み、一対の熱プレスロールを用いてロール温度280℃、線圧100kg/cmで熱接着して、上面の金属箔層、液晶ポリマー層、下面の金属箔層で構成される積層体を作製した。該積層体の厚さは52μmであった。
次いで、厚さ52μmの上記積層体の上面の金属箔層側と下面の金属箔層側とを引き剥がすように力を加え、液晶ポリマー層を上下に2分し、上側の金属箔層と液晶ポリマー層とからなる第1の積層体と、下側の金属箔層と液晶ポリマー層とからなる第2の積層体を作製した。
第1の積層体の厚さは26μm、したがって、液晶ポリマー層の厚さは8μm、また第2の積層体の厚さも26μm、したがって、液晶ポリマー層の厚さは8μmであった。
上記の第1の積層体および第2の積層体の金属箔層を化学エッチングすることにより除去した。得られた液晶ポリマー層の分子配向度SORは、第1の積層体も第2の積層体も1.02であった。
【0065】
〔実施例8〕
実施例7で得られた厚さ26μmの積層体の液晶ポリマー層側に厚さ18μmの電解銅箔1枚を重ね、実施例7と同様に熱接着して、上面の金属箔層、液晶ポリマー層、下面の金属箔層とで構成される積層体を作製した。積層体の厚さは44μmであった。
次いで、厚さ44μmの上記積層体の上面の金属箔層側と下面の金属箔層側とを引き剥がすように力を加え、液晶ポリマー層を上下に2分し、上側の金属箔層と液晶ポリマー層とからなる第1の積層体と、下側の金属箔層と液晶ポリマー層とからなる第2の積層体を作製した。
第1の積層体の厚さは22μm、したがって、液晶ポリマー層の厚さは4μm、また第2の積層体の厚さも22μm、したがって、液晶ポリマー層の厚さは4μmであった。
上記の第1の積層体および第2の積層体の金属箔層を化学エッチングすることにより除去した。得られた液晶ポリマー層の分子配向度SORは、第1の積層体1も第2の積層体も1.02であった。
【0066】
〔実施例9〕
実施例8において得られた厚さ22μmの積層体の液晶ポリマー層側に厚さ18μmの電解銅箔1枚を重ね、熱プレス機を用いてプレス温度294℃、圧力20kg/cm2 で熱接着して、上面の金属箔層、液晶ポリマー層、下面の金属箔層とで構成される積層体を作製した。積層体の厚さは40μmであった。該積層体の金属箔層をエッチングして15×15mm角の範囲で回路を形成し、該回路を半導体チップに熱固定して貼り付け、実装回路基板を作製した。
【0067】
〔実施例10〕
実施例8において得られた厚さ22μmの積層体の液晶ポリマー層側に厚さ18μmの電解銅箔1枚を重ね、熱プレス機を用いて、プレス温度294℃、圧力20kg/cm2 で熱接着して、上面の金属箔層、液晶ポリマー層、下面の金属箔層とで構成される積層体を2枚作製した。積層体の厚さは40μmであった。こうして作製した2枚の厚さ40μmの積層体の金属箔に回路パターンを、エッチングにより形成した。この2枚の回路パターンが形成された積層体の間に、実施例3で使用したものと同じ厚さ50μmの液晶ポリマーフィルムを挟み、プレス温度284℃、圧力10kg/cm2 で熱プレスして多層化した。ついで、回路パターン中の接続部の位置にドリルによって貫通孔をあけた後に、クリムソン無電解銅メッキ法によってメッキスルーホール部を形成して多層回路基板を作製した。
【0068】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明により、等方性液晶ポリマーコート層を形成する手段が提供され、また特に厚さ15μm以下の等方性液晶ポリマーコート層、さらに等方性液晶ポリマーコート層の熱膨張係数が被コート体の熱膨張係数と同等であるような等方性液晶ポリマーコート層を形成する手段が提供される。
【0069】
また、上述したように、本発明の手段によれば、離型フィルムを必要とせず、液晶ポリマーの片面金属箔積層体を製造することができる。このために、離型フィルムに要するコストが削減される。さらに、両面金属箔積層体1枚から一回のプロセスで2枚の片面金属箔積層体が製造されるので、従来技術による片面金属箔積層体の製造方法よりほぼ2倍の速度で生産できるので生産性向上が可能となる。
【0070】
さらに、以上述べたように、本発明は、超薄液晶ポリマー層と金属箔層とで構成される積層体、さらには該液晶ポリマー層の分子配向が平面内のどの方向でも均等な積層体を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態に係る等方性液晶ポリマーフィルムを用いたコーティング方法を示す説明図である。
【図2】(a)〜(g)は、本発明の第2実施形態に係る片面金属箔積層体の製造方法を示す説明図である。
【図3】本発明の片面金属箔積層体の製造装置の正面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る実装回路基板を示す概念図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る多層実装回路基板の断面概略図である。
【図6】分子配向度の測定機を示す概略側面図である。
【符号の説明】
1…コート体、2,2a,2b…液晶ポリマーフィルム、3,3a…被コート体、11,11c…両面金属箔積層体、11a,11b,11d,11e…片面金属箔積層体、12…実装回路基板、14…多層回路基板、21…熱プレス装置、23…分割装置。
Claims (5)
- 光学的異方性の溶融相を形成し得るポリマーから成形されて分子配向度が1.3以下のフィルムを被コート体に熱圧着した後、前記フィルムの薄い層を被コート体上に残すように、フィルムを引き剥がすことを特徴とするコーティング方法。
- 請求項1に記載のコーティング方法によって得られる前記被コート体上に残された、引き裂き面に微細な粗さを有するコート層を有するコート体。
- 請求項1に記載のコーティング方法によって得られる前記被コート体上に残された、厚さが15μm以下のコート層を有するコート体。
- 請求項1に記載のコーティング方法によって得られる、厚さが15μm以下の光学的異方性の溶融相を形成し得るポリマーのコート層と被コート体とを有し、前記ポリマーの層の分子配向度が1.3以下であるコート体。
- 請求項2ないし4のいずれかにおいて、前記コート層の熱膨張係数が前記被コート体の熱膨張係数と同等であることを特徴とするコート体。
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