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JP3808744B2 - 車両運動制御装置 - Google Patents

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JP3808744B2
JP3808744B2 JP2001314527A JP2001314527A JP3808744B2 JP 3808744 B2 JP3808744 B2 JP 3808744B2 JP 2001314527 A JP2001314527 A JP 2001314527A JP 2001314527 A JP2001314527 A JP 2001314527A JP 3808744 B2 JP3808744 B2 JP 3808744B2
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    • G05CONTROLLING; REGULATING
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    • G05D1/08Control of attitude, i.e. control of roll, pitch, or yaw
    • G05D1/0891Control of attitude, i.e. control of roll, pitch, or yaw specially adapted for land vehicles
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
    • B60VEHICLES IN GENERAL
    • B60GVEHICLE SUSPENSION ARRANGEMENTS
    • B60G17/00Resilient suspensions having means for adjusting the spring or vibration-damper characteristics, for regulating the distance between a supporting surface and a sprung part of vehicle or for locking suspension during use to meet varying vehicular or surface conditions, e.g. due to speed or load

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  • Control Of Driving Devices And Active Controlling Of Vehicle (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に左右連続転舵時の走行状態の安定制御を行う車両運動制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車などにおいて、ヨーレイトの偏差により旋回時などにおける車両運動制御の制御量を求めて、車両状態に応じて制御するようにした車両運動制御装置がある。上記車両運動制御装置にあっては、操舵角から求めた目標となる規範ヨーレイトとヨーレイトセンサによる検出値(ヨーレイト)との差をモーメントに変換して、そのモーメントに対応した制御量に基づいて、制御対象車輪に制動力を発生させるものである。例えば、オーバーステアの場合には旋回外側の2輪に制動力を発生させ、アンダーステアの場合には旋回内側の車輪に制動力を発生させる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の車両運動制御装置による制御にあっては、車体スリップ角が大きくついたような状態から運転手の操作あるいは自動制御により安定方向に戻す時に、慣性モーメントにより車両が反対側にオーバーシュートしてしまって、蛇行状態になるなど安定性を損なうという問題があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決して、車両の走行安定性を確保するために、本発明に於いては、操舵方向を含む操舵角を検出する操舵角センサ(1)と、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ(2)と、前記ヨーレイトの変化量を求める実ヨーレイト変化量算出部(ΔYRR)と、車体スリップ角を推定する車体スリップ角算出部(β)と、車両の左右前輪の制動力を制御する制動力制御手段(VEU・Pmn)と、前記操舵角と前記ヨーレイトとに基づきカウンタステア中であると判別するカウンタステア判別部(CS)とを有し、カウンタステア中であると判別しかつ前記車体スリップ角がしきい値以上となった後、前記ヨーレイトの符号が反転しかつ前記ヨーレイトの変化量がしきい値以上の場合には旋回外側となる前記操舵方向とは反対側の前輪を前記制動力制御手段による制動力で制御するものとした。
【0005】
これによれば、例えば連続するカーブを走行中にカウンタステア操作を伴うような状況下で、車体スリップ角と実ヨーレイト変化量がしきい値以上になったら旋回外側の前輪を制動力で制御することから、カウンタステアにより車体スリップ角が最大になって戻る場合(例えるなら振り子の運動のような場合)でも、その最大車体スリップ角になる手前でヨーレイト及び実ヨーレイト変化量の増大を予測・監視した制御を行うことができ、安定した走行を行うことができる。
【0006】
特に、前記カウンタステア判別部が、前記操舵角と前記ヨーレイトとの符号の不一致をもってカウンタステア中であると判別するものであると良い。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下に添付の図面に示された具体例に基づいて本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0008】
図1は、本発明が適用された自動車のシステム構成図である。図に示されるように、前輪FR・FLの転舵を操作するためのステアリング装置に舵角センサ1が設けられていると共に、車体の適所にはヨーレイトセンサ2・横加速度センサ3・前後加速度センサ4が設けられている。前後の各タイヤFR・FL・RR・RLには、タイヤ毎の車輪速を検出するための各車輪速センサ5a・5b・5c・5dがそれぞれ設けられている。それら各センサは制御装置6及びブレーキ液圧制御アクチュエータHUに接続されている。制御装置6には制動力を制御するためのHU(ハイドロリックユニット)が備えられると共に、エンジンのスロットル弁の開度を制御するDBW(電子制御スロットル)コントローラ及びエンジンに供給する噴射量や点火時期を制御するPGM−FIコントローラが接続されており、HUにより各輪の制動力が分配制御されるようになっている。なお、制御装置6にはモニタ7が接続されており、そのモニタ7により本装置の正常または異常状態を監視することができる。
【0009】
図2は、上記制御装置6による本発明が適用された各制御値の推定ロジックを示すブロック図である。図示例にあっては、上記した各センサ1・2・3・4・5a〜5dにより検出された各検出値を用いて、走行制御、特にスタビリティ(stability)とステアアビリティ(steerability)とを両立させる制御を前輪駆動車だけでなく後輪駆動車と4輪駆動車とにも適用可能にするために、各制御値を求めるように構成されている。なお、上記制御の実行には、4輪のスリップを最適に制御する必要があり、4輪ブレーキアクチュエータを用いたスリップ制御を主とする。
【0010】
その際に必要となるものとして、主となるものは、旋回時を示す図3に示されるように、タイヤスリップ角αFR(αFL・αRR・αRL)、タイヤ横力(コーナリングフォース)CFFR(CFFL・CFRR・CFRL)、車体の横加速度LGE、タイヤ前後力としての制動・駆動力FXFR(FXFL・FXRR・FXRL)である。また、車体の前後加速度FGE、及び制動・駆動力(タイヤ前後力)やタイヤ横力を求める時に用いると良いタイヤ・路面間の路面摩擦係数を求める。
【0011】
上記各センサにあっては、舵角センサ1により操舵角STCが検出され、各車輪速センサ5a〜5dにより前輪右車輪速VWFR・前輪左車輪速VWFL・後輪右車輪速VWRR・後輪左車輪速VWRLがそれぞれ検出され、ヨーレイトセンサ2によりヨーレイトYAWRが検出され、横加速度センサ3により車体横加速度LGが検出され、前後加速度センサ4により車体前後加速度FGが検出される。
【0012】
上記操舵角STCはタイヤ実舵角算出部STAnに入力し、そこで算出された前輪の左右各輪毎の各タイヤ実舵角STAR・STALがタイヤスリップ角算出部αmnに入力する。また、各車輪速VWFR・VWFL・VWRR・VWRLはタイヤのスリップ率算出部SLPmnに入力し、ヨーレイトYAWRは実ヨーレイト変化量算出部ΔYRRに入力し、各加速度LG・FGが輪荷重算出部FZmnに入力する。
【0013】
上記輪荷重算出部FZmnでは、本図示例では、タイヤ力学モデルを設定したタイヤモデルTMと各加速度LG・FGとに基づいて各輪荷重FZFR・FZFL・FZRR・FZRLを算出する。輪荷重算出部FZmnから出力される各値は、タイヤ横力(コーナリングフォース)算出部CFmnとタイヤ前後力算出部FXmnとに入力する。なお、輪荷重を他の方法で求めも良い。
【0014】
タイヤ前後力算出部FXmnでは、輪荷重算出部FZmnからの各輪荷重と、上記スリップ率算出部SLPmnからの各輪毎のタイヤスリップ率SLPFR・SLPFL・SLPRR・SLPRLと、後記する路面摩擦係数算出部μで算出された路面摩擦係数μとに基づいて、前後輪の各輪の制動・駆動力FXFR・FXFL・FXRR・FXRLが算出される。そのタイヤ前後力算出部FXmnから出力される各値が推定前後加速度算出部FGEに入力し、推定前後加速度算出部FGEでは制動・駆動力FXFR・FXFL・FXRR・FXRLに基づいて推定前後加速度FGEを求める。推定前後加速度FGEは、推定前後加速度フィルタFGEFによりフィルタ処理される。そのフィルタ処理された推定前後加速度フィルタ処理値FGEFが路面摩擦係数算出部μに入力する。
【0015】
また、上記推定前後加速度フィルタFGEFの出力は、推定車体速度X方向算出部VVXβにも入力する。この推定車体速度X方向算出部VVXβでは車体速度の車体前後方向(X方向)成分である推定車体速度X方向値VVXβを算出し、その推定車体速度X方向値VVXβが接地点速度X方向算出部VCXmnに入力する。
【0016】
この接地点速度X方向算出部VCXmnでは、上記推定車体速度X方向値VVXβの他に、後記する推定ヨーレイト算出部CFYAWRからの推定ヨーレイトCFYAWRが入力しており、それら各値に基づいて各輪の車体前後方向推定車輪速としての接地点速度X方向値VCXFR・VCXFL・VCXRR・VCXRLを求める。なお、接地点速度X方向値は、各輪の接地点における車体前後方向の車速に対応するものであって良い。
【0017】
また、上記推定車体速度X方向値VVXβと推定ヨーレイトCFYAWRとが接地点速度Y方向算出部VCYmnに入力する。この接地点速度Y方向算出部VCYmnでは、上記推定車体速度X方向値VVXβ及び推定ヨーレイトCFYAWRの他に、後記する車体スリップ角算出部βからの車体スリップ角βが入力し、それら各値に基づいて各輪の車体横方向推定車輪速としての接地点速度Y方向値VCYFR・VCYFL・VCYRR・VCYRLが算出される。この場合の接地点速度Y方向値は、各輪の接地点における車体横(幅)方向の車速に対応するものであって良い。
【0018】
接地点速度X方向算出部VCXmnから出力される各値はタイヤスリップ角算出部αmnと輪転方向速度算出部VCmnとに入力する。また、接地点速度Y方向算出部VCYmnから出力される各値もタイヤスリップ角算出部αmnと輪転方向速度算出部VCmnとに入力する。タイヤスリップ角算出部αmnでは、本図示例では、タイヤ実舵角STAnと接地点速度X方向値及び接地点速度Y方向値とに基づいて各輪毎のタイヤスリップ角αFR・αFL・αRR・αRLを算出し、それら各値がコーナリングフォース算出部FYmnと輪転方向速度算出部VCmnとに入力する。なお、タイヤスリップ角を他の方法で求めても良い。
【0019】
輪転方向速度算出部VCmnでは、タイヤスリップ角算出部αmnからの各タイヤスリップ角と、上記した接地点速度X方向算出部VCXmn及び接地点速度Y方向算出部VCYmnからの各値とに基づいて各輪毎の輪転方向速度VCFR・VCFL・VCRR・VCRLを算出する。その輪転方向速度算出部VCmnから出力される各値がスリップ率算出部SLPmnに入力し、スリップ率算出部SLPmnでは、本図示例では、各輪転方向速度と、上記した各車輪速VWFR・VWFL・VWRR・VWRLとに基づいて、各輪毎のタイヤスリップ率SLPFR・SLPFL・SLPRR・SLPRLを算出する。なお、タイヤスリップ率を他の方法で求めても良い。
【0020】
また、タイヤスリップ角算出部αmnから出力される各タイヤスリップ角がコーナリングフォース算出部FYmnに入力する。そのコーナリングフォース算出部FYmnでは、各輪毎のコーナリングフォースFYFR・FYFL・FYRR・FYRLを上記各タイヤスリップ角に基づいて算出する。そのコーナリングフォース算出部FYmnから出力される各コーナリングフォースが上記タイヤ横力算出部CFmnに入力する。
【0021】
タイヤ横力算出部CFmnには、上記各コーナリングフォースの他に、スリップ率算出部SLPmnからの各スリップ率と、輪荷重算出部FZmnからの各輪荷重と、路面摩擦係数算出部μからの路面摩擦係数μとが入力する。それらに基づいて各輪毎のタイヤ横力CFFR・CFFL・CFRR・CFRLが求められ、タイヤ横力算出部CFmnの出力が推定横加速度算出部LGEに入力する。
【0022】
推定横加速度算出部LGEでは上記タイヤ横力算出部CFmnからの各タイヤ横力に基づいて推定横加速度LGEが求められる。推定横加速度LGEは、推定横加速度フィルタLGEFによりフィルタ処理される。その推定横加速度フィルタ処理値LGEFが上記した路面摩擦係数算出部μに出力される。また、タイヤグリップ力算出部TGMでは車体横加速度LGと車体前後加速度FGとに基づいてトータルグリップ力TGMを求め、そのトータルグリップ力TGMと、各加速度センサ値LG・FGとを路面摩擦係数算出部μに入力する。
【0023】
なお、トータルグリップ力TGMは、車体横加速度LGと車体前後加速度FGとの二乗和のルート(=(FG+LG1/2)で算出される。
【0024】
また、ヨーレイトセンサ値YAWRに基づき実ヨーレイト変化量算出部ΔYRRで実ヨーレイト変化量ΔYRRが求められ、その実ヨーレイト変化量ΔYRRが前後輪モーメント補正係数算出部CFKxに出力される。前後輪モーメント補正係数算出部CFKxでは、実ヨーレイト変化量ΔYRRの他にタイヤ横力算出部CFmnからの各タイヤ横力が入力しており、それらの値に基づいてヨーレイト補正係数としての前輪・後輪モーメント補正係数CFK1・CFK2が算出される。それら前輪・後輪モーメント補正係数CFK1・CFK2は推定ヨーレイト変化量算出部ΔYREに出力される。
【0025】
推定ヨーレイト変化量算出部ΔYREでは、上記前輪・後輪モーメント補正係数CFK1・CFK2の他にタイヤ横力算出部CFmnからの各タイヤ横力が入力しており、それらの値に基づいて推定ヨーレイト変化量ΔYREが算出される。その推定ヨーレイト変化量ΔYREは推定ヨーレイト算出部CFYAWRに出力される。
【0026】
推定ヨーレイト算出部CFYAWRでは、上記推定ヨーレイト変化量ΔYREに基づいて推定ヨーレイトCFYAWRが算出される。その推定ヨーレイトCFYAWRは、上記した接地点速度X方向算出部VCXmn及び接地点速度Y方向算出部VCYmnへ出力され、また車体スリップ角変化量算出部Δβに出力される。
【0027】
推定車体速度算出部VVβにて推定車体速度X方向値VVXβと車体スリップ角βとに基づいて推定車体速度VVβが求められる。その推定車体速度VVβと上記推定ヨーレイトCFYAWRと推定横加速度フィルタ処理値LGEFとが車体スリップ角変化量算出部Δβに入力する。それら各値に基づいて車体スリップ角変化量算出部Δβで車体スリップ角変化量Δβが算出され、その車体スリップ角変化量Δβに基づいて車体スリップ角算出部βで車体スリップ角βが求められる。なお、車体スリップ角を他の方法で求めても良い。
【0028】
このようにして構成された制御装置における本発明の制御要領を図4のフロー図を参照して以下に示す。
【0029】
まず第1ステップST1では、タイヤ実舵角算出部STAnで舵角センサによる操舵角STCを読み込んで、例えばステアリングギアボックスのギア比などの設計値から前輪の各タイヤ実舵角STAR・STALを求める。次の第2ステップST2では、ヨーレイトセンサYAWRによるヨーレイトYAWRを読み込み、次の第3ステップST3では各加速度センサLG・FGによる車体横加速度LG・車体前後加速度FGを読み込み、第4ステップST4に進む。
【0030】
第4ステップST4では、推定車体速度算出部VVβにて推定車体速度X方向値VVXβを算出する。この推定車体速度X方向値VVXβの算出にあっては、図5に示すサブフローチャートに示されるようにして行うものであって良い。
【0031】
図5において、ステップST4aでは車体スリップ角(横滑り角)βの絶対値がしきい値βc以上か否かを判別する。車体スリップ角βの絶対値がしきい値βc以上の場合にはステップST4bに進み、そこで、車体進行方向の車体速度変化量VVBGを次式により算出する。
VVBG=(FGEFcosβ+LGEFsinβ)×KX …(1)
ここで、KXは車両設計値に基づく所定の係数である。
【0032】
次のステップST4cでは、車体前後方向の速度変化量VVXBGを次式により算出する。
VVXBG=VVBGcosβ …(2)
【0033】
また、上記ステップST4aで車体スリップ角βの絶対値がしきい値βc未満の場合にはステップST4dに進み、そこで推定前後加速度の車速変換値を次式により算出する。
車速変換値=FGEF×KX …(3)
【0034】
そして、ステップST4cまたはステップST4dの次に進むステップST4eでは、ステップST4cを経た場合には推定車体速度X方向値VVXβを次の式
VVXβ(n)=VVXβ(n-1)+VVXBG(n) …(4)
により算出し、ステップST4dを経た場合には推定車体速度X方向値VVXβを次の式
VVXβ(n)=VVXβ(n-1)+FGEF×KX …(5)
により算出する。ここで、(n)は今回の計算ループを示し、(n-1)は前回の計算ループを示す。
【0035】
このようにして第4ステップST4におけるサブルーチンのステップST4a〜ステップST4eにより推定車体速度X方向値VVXβを算出して、図2における推定車体速度X方向算出部VVXβにて推定車体速度を求めている。
【0036】
図2に示されるように、推定車体速度算出部VVβに、推定車体速度X方向値VVXβと車体スリップ角βとを入力している。上記サブフロー(第4aステップST4a〜第4eステップST4e)で示したようにして推定車体速度X方向値VVXβを求める。したがって、車体速度の推定にあっては、路面摩擦係数μ、車体スリップ角β、タイヤスリップ率SLPmn、制動・駆動力FXmn、推定前後加速度FGE(FGEF)、タイヤ横力CFmn、推定横加速度LGE(LGEF)の各値を用いており、車両の運動状態を路面の状況も含めた形で車両モデル化を行い、制動時にタイヤのスリップが生じたり、前後加速度センサのみを用いた場合に影響を受けていた路面からのノイズあるいは登坂時のオフセットを排除でき、正確な推定車体速度を求めることができる。
【0037】
これにより、特に旋回中の車輪にスリップが生じているような場合に正確な車速を求めることができ、車速を用いた走行制御の精度を高めることができる。このようにして推定車体速度X方向値VVXβを算出したら、第5ステップST5に進む。
【0038】
第5ステップST5では、各タイヤの基準となる輪転方向速度VCFR・VCFL・VCRR・VCRLを算出する。このとき、まず接地点速度X方向算出部VCXmnで、上記したように推定車体速度X方向値VVXβに推定ヨーレイトCFYAWRを加味した結果に基づき各輪毎の挙動を知ることができる。これにより各輪毎の接地点速度X方向値VCXFR・VCXFL・VCXRR・VCXRLを算出する。同様に、接地点速度Y方向算出部VCYmnで、推定車体速度X方向値VVXβと推定ヨーレイトCFYAWRとに基づき、さらに車体スリップ角βを含めることにより、各輪毎の接地点速度Y方向値VCYFR・VCYFL・VCYRR・VCYRLを求める。したがって、車体スリップ角βが0の時は接地点速度Y方向値は0になる。
【0039】
なお、上記接地点速度X方向値と接地点速度Y方向値とがタイヤの輪転方向に対してX方向成分とY方向成分とになることから、接地点速度X方向算出部VCXmnと接地点速度Y方向算出部VCYmnとによりXY方向車輪速推定算出部が構成される。そして、接地点速度X方向値VCXmn(値として表す場合には、mにはFまたはRが入り、nにはRまたはLが入るものとする。以下同様。)と接地点速度Y方向値VCYmnとに基づいて、輪転方向速度算出部VCmnでは各輪毎の輪転方向速度VCFR・VCFL・VCRR・VCRLを求める。
【0040】
次の第6ステップST6では、各輪毎のタイヤスリップ率SLPmnを求める。このスリップ率の算出にあっては、上記輪転方向速度VCmnを基準とする場合と、車輪速VWmnを基準とする場合とのいずれであっても良い。輪転方向速度VCmnを基準とする場合には、
SLPmn=100×(VCmn−VWmn)/VCmn …(6)
により求め、車輪速VWmnを基準とする場合には、
SLPmn=100×(VCmn−VWmn)/VWmn …(7)
により求める。
【0041】
次の第7ステップST7では、タイヤスリップ角(タイヤ横滑り角)αmnを、接地点速度X方向値VCXmnと接地点速度Y方向値VCYmnとに基づいて求め、図6に示される第8ステップST8に進む。
【0042】
第8ステップST8では、制動・駆動力(タイヤ前後力)FXmnを、上記したようにタイヤ前後力算出部FXmnに入力される輪荷重FZmnとタイヤスリップ率SLPmnと推定路面摩擦係数μとに基づいて算出する。なお、計算を簡単に行うために図7に示されるように推定路面摩擦係数μを高・中・低の3段階に分けて、それぞれのタイヤスリップ率に対するタイヤ前後力(制動・駆動力)係数を求めるテーブル(マップ)を用いると良い。この場合には、図7から求めた係数に輪荷重を乗算して制動・駆動力FXmnを求めることができる。
【0043】
図7に示されるような推定路面摩擦係数μの違いに応じた三次元マップを用いることにより、推定精度を向上することができる。なお、マップの作成にあっては、図示例のように3段階(高μ・中μ・低μ)以上にすることが望ましい。
【0044】
次の第9ステップST9では、第8ステップST8で算出した制動・駆動力FXmnから推定前後加速度FGEを求める。この算出式は、次式であって良い。
FGE=(FXFR+FXFL+FXRR+FXRL)/(車両総重量) …(8)
次の第10ステップST10では、推定前後加速度FGEを推定前後加速度フィルタFGEFによりフィルタ処理する。この場合には、推定前後加速度FGEをローパスフィルタでノイズ除去するものであって良い。
【0045】
次の第11ステップST11では、第6ステップST6で求めた各輪毎のタイヤスリップ率SLPmnと輪荷重FZmnとコーナリングフォースFYmnと推定路面摩擦係数μとに基づいてタイヤ横力CFmnを求める。なお、この場合にも計算を簡単に行うために図8に示されるように推定路面摩擦係数μを高中低の3段階に分けて、それぞれのタイヤスリップ(横滑り)角に対するタイヤ横力係数を求めるテーブル(マップ)を用いる。そして、図8から求めた係数に輪荷重を乗算して、スリップ率0の時のタイヤ横力CFmnを求める。
【0046】
さらに、図9に示されるテーブル(マップ)を用いてタイヤ横力係数を求める。図9は、上記図7・8と同様に推定路面摩擦係数μを高中低の3段階に分けて、それぞれのタイヤスリップ率に対するタイヤ横力減少係数を求めるものである。この三次元マップから求めた横力減少係数をタイヤスリップ率に応じて求め、上記スリップ率を0として求めたタイヤ横力CFmnに乗算し、高精度なタイヤ横力CFmnを求める。
【0047】
次の第12ステップST12では、タイヤ横力算出部CFmnからの各タイヤ横力に基づき推定横加速度算出部LGEにて推定横加速度LGEを次式により算出する。
LGE=(CFFR+CFFL+CFRR+CFRL)/(車両総重量) …(9)
【0048】
ここで、上記第11ステップST11と第12ステップST12との間で、推定ヨーレイトCFYAWRを求めると良い。その推定ヨーレイト算出サブフローチャートを図10に示す。
【0049】
図10の第21ステップST21では、タイヤ前後力で発生するモーメントMOMFXを算出する。その算出式は次式であって良い。
MOMFX=(FXFR−FXFL)×TRDF+(FXRR−FXRL)×TRDR …(10)
なお、TRDF及びTRDRは前輪トレッド及び後輪トレッドである(図3参照)。
【0050】
次の第22ステップST22では、前後輪モーメント(ヨーレイト補正係数)算出部CFKxで、式(10)のMOMFXを用いた次式により前輪モーメント補正係数CFK1を求める。
CFK1=[LSR×(CFFR+CFFL+CFRR+CFRL)+(ΔYRR/KDYR)+MOMFX]/(LSF+LSR)/(CFFR+CFFL) …(11)
なお、LSFは、車両重心からの前輪軸までの長さであり、LSRは車両重心からの後輪軸までの長さであり(図3参照)、KDYRは実ヨーレイト変化量ΔYRRをモーメントに変換するものである。
【0051】
次の第23ステップST23では、上記と同様にして次式により後輪モーメント補正係数CFK2を求める。
CFK2=[LSF×(CFFR+CFFL+CFRR+CFRL)+(ΔYRR/KDYR)+MOMFX]/(LSF+LSR)/(CFRR+CFRL) …(12)
【0052】
次の第24ステップST24では、上記ステップで求めたCFK1及びCFK2を用いて、推定ヨーレイト変化量算出部ΔYREで推定ヨーレイト変化量(推定ヨーモーメント)ΔYREを次式により求める。
ΔYRE=(LSF×CFK1×(FFR+CFFL)−LSR×CFK2×(CFRR+CFRL)−MOMFX)×KDYR …(13)
この推定ヨーレイト変化量(推定ヨーモーメント)ΔYREを積分すると、推定ヨーレイト(車体推定ヨーイング速度)となる。
【0053】
第25ステップST25では、推定ヨーレイト算出部CFYAWRにて今回のルーチンにおける推定ヨーレイトCFYAWR(n)を次式により求める。
CFYAWR(n)=CFYAWR(n-1)+ΔYRE(n)×Tr …(14)
ここで、CFYAWR(n-1)は前回の本サブルーチンで求められた推定ヨーレイトであり、Trは本演算を行うループタイムである。
【0054】
このようにして、推定ヨーレイトCFYAWRを求めることにより、特に旋回時の安定した走行制御に用いるヨーレイトの精度を高めることができる。
【0055】
従来の例えば車輪速の左右の差からヨーレイト(ヨーイング速度)を求めるものにあっては、制動時にヨーモーメント制御を行おうとするとヨーレイトの値が飛んでしまうため、その値をヨーモーメント制御に使用することができなかった。また、タイヤ横力・前後力からヨーレイトを求めるものにあっては、それらタイヤ横力・前後力を推定するためのタイヤ力学モデルと実タイヤとの特性の違い、あるいは車外の路面からの外乱、さらには車両運動制御に不可欠な車体スリップ角の誤差、路面摩擦係数の推定誤差などにより、タイヤ横力の推定精度が低下した。その結果として、推定ヨーレイトの精度が低下してしまうということがあった。
【0056】
それに対して、ヨーレイトセンサYAWRにより検出したヨーレイトYAWRを用いるだけでなく、タイヤスリップ率SLPmnとタイヤスリップ角αmnと路面摩擦係数μとを求め、それらに対応したタイヤ力学モデルからタイヤ前後力FXmnを算出し、タイヤ横力FYmnとタイヤ前後力FXmnとヨーレイトYAWRとからヨーレイト補正係数(CFK1・CFK2)を求め、そして、タイヤ横力FYmnとタイヤ前後力FXmnとヨーレイト補正係数(CFK1・CFK2)とに基づいて算出した推定ヨーモーメントΔYREを用いて推定ヨーレイトCFYAWRを求めている。これにより、推定ヨーレイトCFYAWRが車両運動に合致した値として算出されるため、上記従来の推定ヨーレイトの精度が低下してしまうという問題を解消することができる。
【0057】
さらに、仕様違いのタイヤや路面からの外乱などにより、タイヤ横力FYmnの推定に誤差が生じても、このヨーレイト補正係数(CFK1・CFK2)を用いることにより、タイヤ横力FYmnや横加速度LGEの誤差を排除することが可能となり、タイヤ力学モデルの適応性を向上することができる。
【0058】
また、車体スリップ角(横滑り角)βにあっては、横加速度と車体速度とヨーレイトとにより車体スリップ角変化量を求め、その車体スリップ角変化量を積分することで、車体スリップ角を求めることができる。しかしながら、そのような従来技術のものでは、ヨーレイトセンサのゼロ点がオフセットしていた場合には、車体スリップ角は(車体横加速度/車体速度−ヨーレイト)の積分になるため、車体スリップ角に常にオフセット分が含まれてしまい、正確な車体スリップ角を求めることができない。
【0059】
それに対して、ヨーレイトセンサYAWRの検出値そのままを用いるのではなく、横加速度LGE(LGEF)と車体速度VVβと推定ヨーレイトCFYAWRとに基づき車体スリップ角変化量Δβを求め、前回求めた車体スリップ角β(n-1)に車体スリップ角変化量Δβを加算して車体スリップ角βを求めている。これにより、ヨーレイトセンサにゼロ点のオフセットがあっても、その影響を受けることがなく、車体スリップ角βの精度を高めることができる。
【0060】
また、上記した本制御にあっては、路面摩擦係数μの違いに応じて車体前後方向力係数・車体横方向力係数・車体横方向力減少係数を求めるマップをそれぞれ複数(図示例では高μ・中μ・低μの3つ)用いる。これによりタイヤモデルを路面摩擦係数の違いに応じて複数用意することになり、各タイヤモデルを用いてコーナリングフォースや車体前後方向力(タイヤ横力・タイヤ前後力)を算出することから、それらの算出において路面変化(特に路面摩擦係数)を反映させることにより誤差を少なくすることができ、より一層正確な車体スリップ角βを求めることができる。
【0061】
また、推定ヨーレイトCFYAWRをヨーレイトとして使うことができるので、車両の状態判定や走行制御に用いるヨーレイトにはこの推定ヨーレイトCFYAWRを使うと良い。
【0062】
次の第13ステップST13では、路面摩擦係数として推定路面摩擦係数μを求める。この推定路面摩擦係数μは、推定横加速度フィルタ処理値LGEFと、推定前後加速度フィルタ処理値FGEFと、トータルグリップ力TGに基づき求めることができる。この推定路面摩擦係数μの算出にあっては、図11に示すサブフローチャートに示されるようにして行うものであって良い。
【0063】
図11において、そのステップST13aでは現在の推定路面摩擦係数μがタイヤグリップ力換算値より小さいか否かを判別する。そのタイヤグリップ力換算値としては、トータルグリップ力TGMに基づいた値(TGM/TIRGRP)として表せる。ここでTIRGRPは、トータルグリップ力TGMを路面摩擦係数の次元に合わせるための換算値である。なお、推定路面摩擦係数μの初期値は乾燥路に対応する1であって良い。
【0064】
ステップST13aで現在の推定路面摩擦係数μがタイヤグリップ力換算値以上であった場合には、推定路面摩擦係数μを求める処理を開始するべくステップST13bに進む。ステップST13bでは、後輪のタイヤスリップ角αRR・αRLがしきい値MUSLPよりも大きいか否かを判別する。ここで、図で絶対値としているのは、左右いずれか一方を正として演算しているためである。後輪のタイヤスリップ角が大きい場合には横方向の路面摩擦係数の推定を行うようにし、小さい(しきい値以下)場合には前後方向の路面摩擦係数の推定を行うべくステップST13cに進む。
【0065】
次のステップST13c〜ST13eでは、前後方向の路面摩擦係数の推定を行うための推定条件として、車速・タイヤスリップ率・操舵角の各条件が全て成立しているか否かを判定する。
【0066】
そこで、ステップST13cでは、推定車体速度X方向値VVXβがしきい値VVFGBT以上か否かを判別し、しきい値以上の場合にはステップST13dに進み、しきい値未満の場合には本サブフロー処理の今回のルーチンを終了する。ステップST13dでは、少なくとも1輪のタイヤスリップ率SLPmnがしきい値SLPBT以上か否かを判別し、しきい値以上の場合にはステップST13eに進み、しきい値未満の場合には本サブフロー処理の今回のルーチンを終了する。ステップST13eでは、操舵角STCがしきい値BTSTC以上か否かを判別し、しきい値以上の場合にはステップST13fに進み、しきい値未満の場合には本サブフロー処理の今回のルーチンを終了する。
【0067】
ステップST13fでは、推定前後加速度FGEがセンサによる車体前後加速度FG以上であるか否かを判別し、車体前後加速度FG以上の場合には推定路面摩擦係数μを引き下げる処理を行うために、図12に示されるステップST13gに進み、車体前後加速度FG未満の場合には推定路面摩擦係数μを持ち上げる処理を行うステップに進む。このようにして路面摩擦係数を求めることができるが、他の方法で求めても良い。
【0068】
図12に示されるように、ステップST13gでは、推定前後加速度FGEからセンサによる車体前後加速度FGを引いた差がしきい値BTFGを越えているか否かを判別し、しきい値を越えている場合にはステップST13hに進む。ステップST13hでは、ステップST13gで判別されたしきい値を越えた状態が一定時間以上続いたか否かを判別し、一定時間以上続いた場合にはμジャンプ(路面摩擦係数の大きな変化)とみなしてステップST13iに進み、μジャンプでない場合にはステップST13jに進む。
【0069】
そして、ステップST13jで、現在の推定路面摩擦係数μから一定値(例えば0.0078)を減算して、推定路面摩擦係数μを引き下げ、ステップST13kに進む。ステップST13kでは、推定路面摩擦係数μが制御に相応しくない値になることを防止するべく、ある範囲内に収まるように、上限と下限との各リミッター処理を行い、本サブフロー処理の今回のルーチンを終了する。
【0070】
また、ステップST13iでは、ステップST13hでμジャンプであるとされた回数が規定回数に達したか否かを判別し、規定回数未満であればステップST13jに進み、規定回数に達していたらステップST13lに進む。そのステップST13lでは、推定路面摩擦係数μにタイヤグリップ力換算値(TGM/TIRGRP)を代入し、ステップST13kに進む。なお、上記ステップST13gで推定前後加速度FGEから車体前後加速度FGを引いた差がしきい値BTFG以下であると判別された場合にもステップST13kに進む。
【0071】
また、上記ステップST13aで現在の推定路面摩擦係数μがタイヤグリップ力換算値より小さいと判別された場合にはステップST13mに進む。ステップST13mで、推定路面摩擦係数μをタイヤグリップ力換算値(TGM/TIRGRP)として、ステップST13kに進む。
【0072】
また、上記ステップST13fで推定前後加速度FGEがセンサによる車体前後加速度FG以上であると判別された場合には図12のステップST13nに進む。ステップST13nでは、センサによる車体前後加速度FGから推定前後加速度FGEを引いた差がしきい値BTFGを越えているか否かを判別し、しきい値以下の場合にはステップST13kに進み、しきい値を越えている場合にはステップST13oに進む。ステップST13oでは、現在の推定路面摩擦係数μに一定値(例えば0.0078)を加算して、推定路面摩擦係数μを持ち上げ、ステップST13kに進む。
【0073】
次に、ステップST13bで後輪のタイヤスリップ角が大きいと判別されて、横方向の路面摩擦係数の推定を行う場合には、図13のステップST13pに進む。このステップST13pでは、実ヨーモーメントがしきい値を越えているか否かを判別する。この判定は図2に示されていないが、例えばヨーレイトセンサ2によるヨーレイトYAWRの検出値を路面摩擦係数算出部μに入力し、その路面摩擦係数算出部μで処理して良い。実ヨーモーメントがしきい値以下の場合には本サブフロー処理の今回のルーチンを終了する。
【0074】
このステップST13pで実ヨーモーメントがしきい値を越えていると判別された場合にはステップST13qに進む。ステップST13qでは、推定横加速度LGE(LGEF)がセンサによる車体横加速度LG以上であるか否かを判別し、車体横加速度LG以上の場合には推定路面摩擦係数μを引き下げる処理を行うために、ステップST13rに進み、車体横加速度LG未満の場合には推定路面摩擦係数μを持ち上げる処理を行うステップに進む。
【0075】
ステップST13rでは、推定横加速度LGE(LGEF)からセンサによる車体横加速度LGを引いた差がしきい値BTLGを越えているか否かを判別し、しきい値を越えている場合にはステップST13sに進む。
【0076】
ステップST13sでは、ステップST13rで判別されたしきい値を越えた状態が一定時間以上続いたか否かを判別し、一定時間以上続いた場合にはμジャンプとみなしてステップST13tに進み、μジャンプでない場合にはステップST13uに進む。
【0077】
そして、ステップST13uで、現在の推定路面摩擦係数μから一定値(例えば0.0078)を減算して、推定路面摩擦係数μを引き下げ、ステップST13vに進む。ステップST13vでは、推定路面摩擦係数μが制御に相応しくない値になることを防止するべく、ある範囲内に収まるように、上限と下限との各リミッター処理を行い、本サブフロー処理の今回のルーチンを終了する。
【0078】
また、ステップST13tでは、ステップST13sでμジャンプであるとされた回数が規定回数に達したか否かを判別し、規定回数未満であればステップST13uに進み、規定回数に達していたらステップST13wに進む。そのステップST13wでは、推定路面摩擦係数μにタイヤグリップ力換算値(TGM/TIRGRP)を代入し、ステップST13vに進む。なお、上記ステップST13rで推定横加速度LGEから車体横加速度LGを引いた差がしきい値BTLG以下であると判別された場合にもステップST13vに進む。
【0079】
また、上記ステップST13qで推定横加速度LGE(LGEF)がセンサによる車体横加速度LG以上であると判別された場合にはステップST13xに進む。ステップST13xでは、センサによる車体横加速度LGから推定横加速度LGE(LGEF)を引いた差がしきい値BTLGを越えているか否かを判別し、しきい値以下の場合にはステップST13vに進み、しきい値を越えている場合にはステップST13yに進む。ステップST13yでは、現在の推定路面摩擦係数μに一定値(例えば0.0078)を加算して、推定路面摩擦係数μを持ち上げ、ステップST13vに進む。
【0080】
このようにして推定路面摩擦係数μを求めることから、路面摩擦係数の推定精度を高めることができる。従来技術でタイヤスリップ率SLPmnのみに頼る場合には雪道や凍結路でタイヤスリップ率が小さい場合に路面摩擦係数を高く推定してしまうという問題が生じるが、上記推定路面摩擦係数μを求めるロジックによればそのような問題が生じない。
【0081】
すなわち、車体前後加速度及び車体横加速度を用いて、直進時や旋回走行時に応じた推定を行うことができると共に、μジャンプを判断することにより推定路面摩擦係数μが大きく外れた値になることを防止して、常に実際の路面摩擦係数に一致または近い値を推定することができる。また、タイヤスリップ角αmnとタイヤ横力及びタイヤ前後力を求めるためのタイヤデータマップ(図7・8)とから、前後・横加速度及びヨーモーメントを推定することができると共に、それら推定値と各センサ検出値との比較から推定路面摩擦係数μを補正することができる(上記μの引き下げまたは持ち上げ処理)。また、その補正された推定路面摩擦係数μに基づき、タイヤデータマップのゲインを適応させることができる(図示例では高・中・低のμに適応させている)。
【0082】
このようにして、加減速や旋回中などのあらゆる走行状態に応じて、常時高精度な路面摩擦係数を推定することができる。なお、推定路面摩擦係数μの目標精度は、タイヤスリップ角αmnの目標精度を0.5度とすると、0.05にすることができる。
【0083】
次の第14ステップST14では、車体スリップ角変化量(横滑り角レイト)Δβを次式により車体スリップ角変化量算出部Δβで求める。
Δβ=KLGVXD×(LGE/VVβ)−CFYAWR …(15)
ここで、KLGVXDは、推定横加速度LGE(LGEF)と推定車体速度VVβとに基づく値を、推定ヨーレイトCFYAWRと次元を合わせるための係数である。この車体スリップ角変化量(横滑り角レイト)Δβを積分すると車体スリップ角(横滑り角)となる。
【0084】
そして、第15ステップST15では、車体スリップ角(横滑り角)βの算出を次式により車体スリップ角算出部βで求める。
β(n)=β(n-1)+Δβ(n) …(16)
ここで、nは今回ルーチンの算出値であり、n-1は前回ルーチンの算出値を示す。すなわち、車体スリップ角βの算出にあっては、前回ルーチン時の車体スリップ角β(n-1)に今回ルーチンの第14ステップST14で求めた車体スリップ角変化量Δβを加算して求める。
【0085】
この車体スリップ角βを求めるために、上記したように、推定路面摩擦係数μの違い(図示例では高・中・低)に応じてタイヤ前後力及びタイヤ横力を考慮したタイヤモデルを用いることができると共に、それによりタイヤ横力及びタイヤ前後力(制動・駆動力)の推定値の誤差を少なくすることができ、より一層正確な車体スリップ角βを求めることができる。
【0086】
このようにして構成された制御装置により、スタビリティ(stability)とステアアビリティ(steerability)とを両立させる制御を行うことができ、その一例としてオーバーステア/アンダーステア時の制御について以下に示す。
【0087】
従来技術で述べたように、操舵角とヨーレイトとの各センサ値により制御量を求め、オーバーステア及びアンダーステアの走行状態のそれぞれの場合におけるモーメントをブレーキ力によって制御するものがある。それは、操舵角から求めた規範ヨーレイトとヨーレイトセンサによる検出値との偏差を制御量とし、オーバーステア時には旋回外輪の2輪にブレーキ力を付加し、アンダーステア時には旋回内輪の2輪にブレーキ力を付加し、それぞれの状態に応じて車体に生じるモーメントを制御するものである。
【0088】
しかしながら、このヨーレイト制御では、4輪の各タイヤのグリップ状態を直接監視して制御していないので、モーメント制御はできるが、車両の走行軌跡を制御することができない。例えば、走行軌跡が旋回外側に膨らんでしまう(ドリフトアウト)場合が生じる。
【0089】
それに対して、本制御装置を用いた車両運動制御にあっては、車体速度VVβ・路面摩擦係数μ・車体スリップ角β・タイヤスリップ角αmnをそれぞれ推定し、オーバーステア時には、両後輪と前輪外側との3輪を車体スリップ角βに応じた制動力で制御し、アンダーステア時には、両後輪をアンダーステアの量に応じた制動力で制御することができる。これにより、モーメントを制御すると共に、車両の運動エネルギを減らし、特に車両のドリフトアウトを抑制することができる。
【0090】
このオーバーステア/アンダーステア時の制御の具体例を図14〜16のフローチャート及び図17の制御ロジックブロック図を参照して以下に示す。図14の第31ステップST31に示されるように、まず、運動量低減制御中か否かの判別を行う。これは、上記したように、オーバーステア/アンダーステア時の制御にあっては少なくとも両後輪を制動制御することから、現在両後輪を制動制御中であるか否かを判定するものである。被制御中の場合には本制御を開始するべく第32ステップST32に進み、制御中の場合には運動量低減制御終了条件のフローを実行する第33ステップST33に進む。
【0091】
第32ステップST32では、運動量低減制御開始条件の成立を判定するべく、推定車体速度VVβがしきい値VVALST(例えば20km/h)以上か否かを判別し、しきい値VVALST以上の場合には第34ステップST34に進む。その第34ステップST34では、一定以上の滑りがあることを前輪と後輪とを個別に判断するべく、後輪のタイヤスリップ角αRnの絶対値がしきい値ALFIN以上であるか否かを判別し、しきい値ALFIN以上の場合には第35ステップST35に進む。
【0092】
このように、運動量低減制御の開始条件を車速と後輪のタイヤスリップ角とにより判定する。各ステップST32・33でそれぞれしきい値未満である場合には今回のルーチンを終了する。
【0093】
第35ステップST35では、車両の減速制御に必要な後輪基本目標車輪速VIRnを算出する。この後輪基本目標車輪速VIRnは、図17に示されるように、操舵角STCから算出した規範ヨーレイトMYRNOと、ヨーレイトYAWRとから目標車輪速変更率RUDVRを算出し、また推定車体速度X方向値VVXβから輪転方向速度VCmnを算出し、それら目標車輪速変更率RUDVRと輪転方向速度VCmnとに基づいて算出される。
【0094】
なお、上記第33ステップST33に進んだ場合には、そこで、車速条件が成立したか否かを、ほぼ停止状態と判断できる下限車速(例えば10km/h)との比較で行い、下限車速以下の場合には終了条件成立として本ルーチンを終了し、それ以外の場合には不成立であるとして第36ステップST36に進む。すなわち、ある程度の運動状態でないと制御を開始せず、また一旦開始したら直ぐには止めないようにしている。第36ステップST36では、車体スリップ角条件が成立したか否かを下限車体スリップ角との比較で行い、下限車体スリップ角以上の場合には第37ステップST37に進む。これは、後輪制御中には、車体スリップ角が大きくなり過ぎると、更に制御を続行することにより車両が不安定(オーバーステアまたはスピン)となることから、ある程度車体スリップ角が大きくなったら制御を終了させるためである。
【0095】
第37ステップST37では、タイヤスリップ角条件が成立したか否かを下限タイヤスリップ角(安定状態に戻ったと判断し得る値)との比較で行い、下限タイヤスリップ角以上の場合には第38ステップST38に進む。第38ステップST38では、横加速度条件が成立したか否かを下限横加速度(安定状態(限界内)に戻ったと判断し得る値)との比較で行い、下限横加速度以下の場合には第39ステップST39に進み、下限横加速度以下になっていない場合には運動量低減制御を続行するべく上記第35ステップST35に進む。なお、第36ステップST36で車体スリップ角条件が成立した場合、第37ステップST37でタイヤスリップ角条件が成立した場合には、それぞれ第39ステップST39に進む。
【0096】
そして、第39ステップST39では、運動量低減制御終了として良い時間としてのディレイ時間(例えば200ms)が終了したか否かを判別し、ディレイ時間が終了していない場合には運動量低減制御を続行するべく上記第35ステップST35に進み、終了していた場合には本ルーチンを終了する。
【0097】
上記第35ステップST35に進んだ場合には、次の第40ステップST40で、アンダーステアか否(オーバーステア)かを判別する。この判別にあっては、規範ヨーレイトMYRNOとヨーレイトYAWRとの偏差から判断することができ、例えば規範ヨーレイト算出部MYRNOとヨーレイトセンサYAWRとの各出力値に基づいて目標車輪速変更率算出部RUDVRで判別する(O/U)ことができ、このようにしてオーバ−ステア/アンダーステアを判別する手段が構成されている。そして、アンダーステアの場合には第41ステップST41に進み、オーバーステアの場合には第42ステップST42に進む。
【0098】
第41ステップST41では、アンダーステアの量に応じて算出される目標車輪速変更量(目標車輪速変更率RUDVR)を基準目標車輪速(輪転方向速度VCmn)から減算して制御目標車輪速(車両運動量低減制御目標車速)VIRnを求める。次の第43ステップST43(図15参照)では内輪の目標制御量を、続く第44ステップST44では外輪の目標制御量を、それぞれ対応する後輪車輪速(VWRR/VWRL)と制御目標車輪速VIRnとの偏差から算出する(VERR・VERL)。
【0099】
次の第45ステップST45では、旋回内側のリミッター値(ILIN)を、タイヤ横力CFmnとタイヤ前後力FXmnと路面摩擦係数μとに基づいて求め(図17参照)、第46ステップST46では同様にして旋回外側のリミッター値(ILOUT)を求める。
【0100】
また、上記したようにオーバーステアとして第42ステップST42に進んだ場合には、そこで後輪制御量(目標制御量)を算出する。まず、基準目標車輪速(輪転方向速度VCmn)を制御目標車輪速(車両運動量低減制御目標車速)VIRnとし、次にその制御目標車輪速VIRnと両後輪車輪速検出値VWRR・VWRLとの偏差から、左右後輪のそれぞれの目標制御量VERnを算出する。
【0101】
次の第47ステップST47では、上記アンダーステアの場合と同様にリミッター値(ILTOT)を求め、第48ステップST48に進む。また、上記第46ステップST46からも第48ステップST48に進む。
【0102】
第48ステップST48では、第46ステップST46または第47ステップST47で算出したリミッター値を用いて後輪制御量の上限値を規制し、そのようにしてリミッター処理された後輪制御量(車両運動量低減制御量)ITRnを求める。
【0103】
次の第49ステップST49からは、オーバーステアの場合に車体スリップ角βから求めたモーメントを用いて制御する場合のモーメント制御を抑制する制御量を算出する。
【0104】
まず、第49ステップST49で、モーメント(β角)制御中か否かを判別する。これは車体スリップ角βの大きさで判別できる。モーメント制御中でなければ第50ステップST50に進み、モーメント制御開始条件のフローから始め、モーメント制御中であれば第51ステップST51に進み、モーメント制御終了条件のフローを実行する。
【0105】
第50ステップST50に進んだ場合には、そこで、操舵角STCの推定処理が終了したか否かを判別し、終了した場合には第52ステップST52に進み、終了していない場合には本ルーチンを終了する。第52ステップST52では、推定車体速度VVβがしきい値VVALST(例えば20km/h)以上か否かを判別し、しきい値VVALST以上の場合には第53ステップST53に進む。その第53ステップST53では、タイヤスリップ角αRnの条件の成立を、タイヤスリップ角αRnの絶対値がしきい値ROTIN1以上であり、かつタイヤスリップ角変化率Dα(度/s)がしきい値DROTIN以上の時、またはタイヤスリップ角αRnの絶対値が絶対値がしきい値ROTIN2(>ROTIN1)の時として、成立か否かを判別し、成立の場合には第54ステップST54(図16)に進む。
【0106】
第54ステップST54では、車体スリップ角βと車体スリップ角変化量Δβとの条件が成立しているか否かを判別する。この場合も、車体スリップ角βがしきい値β1以上であり、かつ車体スリップ角変化率Dβ(度/s)がしきい値Dβ以上の時、または車体スリップ角βがしきい値β2(>β1)の時として、成立か否かを判別し、しきい値以上の場合には第55ステップST55に進む。
【0107】
なお、第50ステップST50及び第52ステップST52〜第54ステップST54でモーメント制御開始条件が成立しているか否かを判定し、それら各ステップで成立していない(NO)場合には本ルーチンを終了する。
【0108】
また、上記第51ステップST51に進んだ場合には、そこで車速終了条件(例えば10km/h)が成立しているか否かを判別しする。車速が下限車速以下の場合には終了条件成立として本ルーチンを終了し、それ以外の場合には不成立であるとして第56ステップST56に進む。第56ステップST56では、車体スリップ角とヨーレイトとの符号が同じであるか否かを判別し、同じである場合には第57ステップST57に進む。
【0109】
第57ステップST57では、タイヤスリップ角条件(安定状態に戻ったと判断し得る値)が成立しているか否かを判別する。タイヤスリップ角条件が成立している場合には第58ステップST58に進み、不成立の場合には上記第55ステップST55に進む。また、上記第56ステップST56で車体スリップ角とヨーレイトとの符号が違っていた場合にも第58ステップST58に進む。
【0110】
第58ステップST58では、車体スリップ角制御終了として良い時間(例えば200ms)としてのディレイ時間が終了したか否かを判別し、ディレイ時間が終了していない場合には車体スリップ角制御を続行するべく上記第55ステップST55に進み、終了していた場合には本ルーチンを終了する。
【0111】
第55ステップST55に進んだ場合には、車体スリップ角制御の条件が成立した場合であることから、その制御を行うための目標車体スリップ角ROTAを、図16に示されるように路面摩擦係数μに基いて算出する。次の第59ステップST59では、目標車体スリップ角ROTAと車体スリップ角βとの偏差からモーメント制御量(VEβ・dVEβ・dVEβ)を算出する。ここで、VEβは、推定車体スリップ角βから目標車体スリップ角β(ROTALM)を引いた値であり、目標車体スリップ角(限界角)との偏差であり、dVEβは、上記偏差の変化量(微分値であり、目標車体スリップ角βが固定値であればヨーレイト相当値)であり、dVEβは、上記変化量の変化量(偏差の2階微分であり、目標車体スリップ角βが固定値であればヨーレイト変化量相当値)である。次の第60ステップST60では、路面摩擦係数μと輪荷重FZmnとに基づき制御量のリミッター値(ROTLH・ROTLL)を算出する。そして、第61ステップST61で、モーメント制御量(VEβ・dVEβ・dVEβ)をリミッター値(ROTLH・ROTLL)により規制して旋回外側前輪制御量ROTTOTLを決定し、本ルーチンを終了する。
【0112】
そして、目標車輪速変更率算出部RUDVRで判別したオーバーステア/アンダーステア(O/U)に応じ、かつ後輪制御量ITRnと旋回外側前輪制御量ROTTOTLとに応じて目標油圧設定部Pmnで制動制御における各輪の目標油圧PFR・PFL・PRR・PRLを設定する。それに応じて制動力制御装置VEUにより各輪の制動力を制御する。これら目標油圧設定部Pmnと制動力制御装置VEUとにより制動力制御手段が構成されている。これにより、モーメントのコントロールと共に、車両の運動エネルギを減らし、車両のドリフトアウトを抑制することができる。
【0113】
例えば図18に示されるように、車両の旋回走行におけるニュートラルな軌跡が図の実線の矢印Nで示されるような場合に、アンダーステアになる場合には図の破線の矢印USのようになり、オーバーステアになる場合には図の想像線の矢印OSに示されるようになる。
【0114】
アンダーステアUSの場合には、車両の運動状態や路面状況などに応じて上記したようにして求めた目標油圧PRR・PRLにより両後輪RR・RLに制動力FXRR・FXRLをかける。これにより車両をニュートラルな旋回軌跡上を走行させることができる。オーバーステアOSの場合には、同様にして求めた目標油圧PRR・PRLにより両後輪RR・RLに制動力FXRR・FXRLをかけると共に、前輪旋回外側(図示例では右側前輪FR)に目標油圧PFRにより制動力FXFRをかける。これにより、車両をニュートラルな旋回軌跡上を走行させることができる。
【0115】
また、従来例で述べたように、車体スリップ角が大きくついたような状態から運転手の操作あるいは自動制御により安定方向に戻す時に、慣性モーメントにより車両が反対側にオーバーシュートしてしまって、蛇行状態になるなど安定性を損なうという問題があった。これは、車体スリップ角βが大きい状態から小さくする方向に戻る時に、振り子の原理により、慣性モーメントが大きくなるためである。このようなオーバーシュートを防止して車両の安定走行を確保するための制御要領について以下に示す。
【0116】
この場合の車両運動制御にあっては、図19の車体スリップ角制御ロジックと図20の慣性モーメント制御ロジックを用いると良い。車体スリップ角βを制御するためには、図19に示されるように、各センサの検出値に基づいて推定値ブロック11で、推定車体速度X方向値VVXβ・車体スリップ角β・推定ヨーレイトCFYAWR・推定車体横加速度LGE・推定車体前後加速度FGEの各推定値を求める。それら推定値と各センサの検出値とが、車両運動低減制御ブロック12と、車体スリップ角制御ブロック13と、慣性モーメント制御ブロック14とに入力する。なお、推定値ブロック11にはカウンタステア判別部CSが設けられている。
【0117】
車両運動低減制御ブロック12では、推定車体速度X方向値VVXβ・後輪基本目標車輪速VIRn・車両運動量低減制御量INmn・タイヤスリップ角αmn・目標車輪速変更率RUDVR・制御量リミッター値ILを求める。なお、車両運動量低減制御量INmnは、制御すべき後輪の前後力の目標前後力と実前後力との偏差をINとし、比例項であるINPmn、積分項であるINImn、微分項であるINDmn、それらのトータル値であるINETOmnからなり、制御量リミッター値ILは、アンダーステア判定時の後輪外側のリミッター値であるINELMOUT、アンダーステア判定時の後輪内側のリミッター値であるINELMIN、アンダーステア非判定時の右後輪のリミッター値であるINELMRR、アンダーステア非判定時の左後輪のリミッター値であるINELMRLからなる。上記車両運動量低減制御量INmnは、リミッター処理された最終的な値となる。
【0118】
車体スリップ角制御ブロック13では、推定車体速度X方向値VVXβ・タイヤスリップ角αmn・車体スリップ角制御量ROT・制御量リミッター値ROTLを求める。なお、車体スリップ角制御量ROTは、ROTPBT・ROTIBT・ROTDBT・ROTDDBT・ROTTOTLからなり、制御量リミッター値ROTLは、ROTLH・ROTLLからなる。
【0119】
慣性モーメント制御ブロック14では、推定車体速度X方向値VVXβ・ヨーモーメントΔYRR/ΔYRE・慣性モーメント制御量YRRTO・制御量リミッター値ROTLを求める。この慣性モーメント制御ブロック14における制御ロジックを図20を参照して以下に示す。
【0120】
図20に示されるように、操舵角STCと車体スリップ角βと推定車体速度X方向値VVXβとが、慣性モーメント制御目標偏差算出部YEYRRに入力する。その慣性モーメント制御目標偏差算出部YEYRRには実ヨーレイト変化量ΔYRRが入力する。また、路面摩擦係数μに基づいて慣性モーメント制御開始しきい値YRRSTTを慣性モーメント制御開始しきい値算出部YRRSTTで求め、慣性モーメント制御終了しきい値YRRENを慣性モーメント制御終了しきい値算出部YRRENで求める。上記各値STC・β・VVXβ・ΔYRR・YRRSTT・YRRENに基づいて慣性モーメント制御目標偏差YEYRRを慣性モーメント制御目標偏差算出部YEYRRで求める。
【0121】
また、路面摩擦係数μと輪荷重FZmnとに基づいて制御量リミッター値ROTLH・ROTLLを制御量リミッター値算出部ROTLで求める。上記慣性モーメント制御目標偏差算出部YEYRRと制御量リミッター値算出部ROTLとの各値に基づいて慣性モーメント制御量算出部YRRTOで慣性モーメント制御量YRRTOを算出する。そして、慣性モーメント制御量YRRTOに基づいて前輪の目標油圧PFnを目標油圧算出部Pmnで求める。
【0122】
図19に示されるように、車体スリップ角制御ロジックでは、車両運動低減制御ブロック12・車体スリップ角制御ブロック13・慣性モーメント制御ブロック14からの各値が車輪制御部15に入力する。そして、車輪制御部15で、各入力値に基づいて制御輪選択値CFNCmnと目標油圧Pmnとを求め、それらの値に応じて制御対象車輪に制動力を発生させる制御を行う。
【0123】
次に、左右連続転舵時の車両運動制御について図21のフロー図及び図22の走行説明図、図23の振り子運動説明図を参照して以下に示す。なお、この制御はサブフローチャートで行って良いものである。
【0124】
まず、ステップST71で車体スリップ角β・ヨーレイトYAWR・操舵角STCを読み込む。次のステップST72では、制御フラグ(制御FLAG)が立っている(オン)か否かを判別する。制御FLAGがオン(本運動制御の制御中)の場合にはステップST73に進み、そこでは、旋回外側外輪の上限制動力を設定する。この上限制動力は、前輪の旋回外側のものに対して、ロックしないで最大制動力を発生させることができる値である。また、旋回外側の判別は、操舵角STCが左方向の場合には右側前輪であり、右側方向の場合には左側前輪である。
【0125】
次のステップST74では、ヨーレイトYAWRが減速しているか否かを判別し、ヨーレイトYAWRが減速している場合にはステップST75に進み、そのステップST75ではフラグのリセットを行う。なお、ステップST74で減速していないと判別された場合には本ルーチンを終了する。
【0126】
このヨーレイトYAWRの減速判断は、ヨーレイトYAWRと実ヨーレイト変化量ΔYRRとの乗算結果が負であって(YAWR×ΔYRR<0)、かつ実ヨーレイト変化量ΔYRRの絶対値がしきい値以下(|ΔYRR|≦しきい値)の条件を満たした場合である。したがって、実ヨーレイト変化量ΔYRRの符号が反転したら(ヨーレイトYAWRの増加率が減じたら)制御終了となる。
【0127】
上記ステップST72で制御FLAGがオフ(本運動制御前)の場合にはステップST76に進む。ステップST76では、条件フラグ(条件FLAG)が立っている(オン)か否かを判別する。条件FLAGがオン(監視中)の場合にはステップST77に進み、ステップST77と次のステップST78と合わせて監視・制御の判断を行う。
【0128】
まずステップST77では、ヨーレイトYAWRの符号が反転したか否かを判別する。この判別には、今回ルーチンのヨーレイトYAWR(n)と前回ルーチンのヨーレイトYAWR(n-1)との乗算結果が負(YAWR(n)×YAWR(n-1)<0)になったか否かで可能である。
【0129】
ここで、図22に示されるようにS字カーブのような連続転舵を行う必要がある道路を走行する場合に、図のIに示される車両状態でカウンタステアを当てた場合には、図に示されるようにヨーレイトYAWR(図ではγで示す)が発生し、大きな実ヨーレイト変化量ΔYRR(図ではΔγで示す)が生じる。そして、図22のIIで示される位置で、ヨーレイトYAWRが0で最大車体スリップ角βmaxとなるとすると、この時点がヨーレイトYAWRの符号の反転位置となる。
【0130】
この走行状態を車両の真上から常に監視すると、図23に示されるように車両が振り子運動していると模擬できる。なお、図では、その上側を進行方向として、車体速度Vの向きをその進行方向に一致させて図示している。したがって、最大車体スリップ角βmaxが生じた状態は、図の右端(図のII)に示したようになる。
【0131】
ステップST77でヨーレイトYAWRの符号が反転したと判別したらステップST78に進み、反転していない場合には本ルーチンを終了する。ステップST78では、実ヨーレイト変化量ΔYRRの絶対値がしきい値γa以上であるか否かを判別する。しきい値γa以上になったと判別した場合にはステップST79に進み、そこで、制御を開始するべく、制御フラグ(制御FLAG)を立て(オン)、本ルーチンを終了する。
【0132】
なお、次の制御サイクルでは、ステップST72からステップST73に進むことになる。したがって、上記したステップST73で行う制御により、図22のIIIに示されるように、図示例では前輪を右側に転舵していることから左側前輪に制動力FXFLを発生させる。これにより、車体スリップ角βが減少し、走行が安定化する。
【0133】
ステップST76で条件FLAGがオフ(安定状態)であると判別された場合、またはステップST78で実ヨーレイト変化量ΔYRRの絶対値がしきい値γa未満であると判別された場合にはステップST80に進む。ステップST80では、次のステップST81と合わせて不安定条件の判断を行う。
【0134】
まずステップST80では、上記カウンタステア判別部CSによりカウンタステア中であるか否かの判別を行う。この判別には、ヨーレイトYAWRと操舵角STCとの乗算結果が負(YAWR×STC<0)になったか否かで行うことができる。カウンタステア中である場合にはステップST81に進む。カウンタステア中でない場合にはステップST82に進み、そこで、安定状態であるとして条件FLAGをオフにする。
【0135】
ステップST81では、車体スリップ角βの絶対値がしきい値βa以上であるか否かを判別し、しきい値 βa以上である場合にはステップST83に進み、そこで、不安定状態であるとして条件FLAGをオンにする。すなわち、車体スリップ角βの絶対値がしきい値βa以上であり、かつカウンタステアが入ると、危険と判断する。なお、ステップST82及びステップST83を経た場合には本ルーチンを終了する。
【0136】
したがって、ステップST83で条件FLAGがオンされた場合には、次の制御サイクルでステップST77に進むことになり、上記したようにステップST77から次のステップST78に進んで不安定である判別された場合にはステップST79で制御FLAGをオンすることから、その次の制御サイクルでステップST73の処理を行うことになる。この場合にも、上記と同様に旋回外側外輪に制動力を発生させて、慣性モーメントを抑制し、車体スリップ角βを低減させて、走行状態を安定化させる。このようにして、図22のIV及びVに示されるように車両が走行していくことになる。
【0137】
なお、従来技術で述べた制御では、図23の想像線に示される状態からIVに示される状態になるタイミングで制御を開始することになり、図22のIVで示される状態で図の破線の矢印に示されるように制動力が発生するため、その制御が遅かった。
【0138】
それに対して、本制御によれば、カウンタステア・ヨーレイトYAWR・実ヨーレイト変化量ΔYRRを条件として判断している。したがって、車両がその最大車体スリップ角βmaxになる時点から戻る手前で、次のコーナにおけるヨーレイトYAWR・実ヨーレイト変化量ΔYRRの増大を予測/監視/制御することができ、安定した走行を行うことができる。
【0139】
なお、上記図示例では制動力による制御について示したが、駆動力による制御も可能である。その場合には、各輪毎に駆動力を任意に分配可能な駆動力分配装置を設ければ良い。
【0140】
【発明の効果】
このように本発明によれば、カウンタステアを当ててカーブを走行しようとする場合に、車体スリップ角と実ヨーレイト変化量がしきい値以上になったら旋回外側の前輪を制動力で制御することから、カウンタステアにより車体スリップ角が最大になって戻るという振り子運動が生じる場合でも、その最大車体スリップ角になる手前でヨーレイト及び実ヨーレイト変化量の増大を予測・監視した制御を行うことができ、転舵が連続するS字カーブなどにおいても安定して走行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用された自動車のシステム構成図。
【図2】本発明が適用された各制御値の推定ロジックを示すブロック図。
【図3】旋回時の車両におけるタイヤスリップ角・タイヤ横力・車体の横加速度・タイヤ前後力・ヨーイングを示す図。
【図4】制御要領を示すフローチャート。
【図5】推定車体速度を算出するサブフローチャート。
【図6】図4に続くフローチャート。
【図7】タイヤ前後力係数を求めるマップ。
【図8】タイヤ横力係数を求めるマップ。
【図9】タイヤ横力減少係数を求めるマップ。
【図10】推定ヨーレイトを算出するサブフローチャート。
【図11】路面摩擦係数を推定するサブフローチャート。
【図12】図11に続くフローチャート。
【図13】図11に続くフローチャート。
【図14】車両運動制御制御量を演算するフローチャート。
【図15】図14に続くフローチャート。
【図16】図15に続くフローチャート。
【図17】車両運動制御における各制御値の推定ロジックを示すブロック図。。
【図18】アンダーステア/オーバーステア時の制御要領を示す説明図。
【図19】車体スリップ角制御ロジックを示すブロック図。
【図20】慣性モーメント制御ロジックを示すブロック図。
【図21】車両運動制御要領を示すフローチャート。
【図22】車両の走行状態を示す模式図。
【図23】図22に対応する振り子運動を示す図。
【符号の説明】
1 操舵角センサ
2 ヨーレイトセンサ
ΔYRR 実ヨーレイト変化量算出部(
β 車体スリップ角算出部
Pmn 目標油圧設定部(制動力制御手段)
VEU 制動力制御装置(制動力制御手段)

Claims (2)

  1. 操舵方向を含む操舵角を検出する操舵角センサと、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサと、前記ヨーレイトの変化量を求める実ヨーレイト変化量算出部と、車体スリップ角を推定する車体スリップ角算出部と、車両の左右前輪の制動力を制御する制動力制御手段と、前記操舵角と前記ヨーレイトとに基づきカウンタステア中であると判別するカウンタステア判別部とを有し、
    カウンタステア中であると判別しかつ前記車体スリップ角がしきい値以上となった後、前記ヨーレイトの符号が反転しかつ前記ヨーレイトの変化量がしきい値以上の場合には旋回外側となる前記操舵方向とは反対側の前輪を前記制動力制御手段による制動力で制御することを特徴とする車両運動制御装置。
  2. 前記カウンタステア判別部が、前記操舵角と前記ヨーレイトとの符号の不一致をもってカウンタステア中であると判別することを特徴とする請求項1に記載の車両運動制御装置。
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