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JP3843505B2 - 高分子電解質及び電池 - Google Patents

高分子電解質及び電池 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はイオン伝導性を有する高分子電解質及びこの高分子電解質を含む電池に関し、さらに詳しくは、リチウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオン系の伝導性キャリアを含有することにより、高いイオン伝導性を発揮し、かつ、成膜性、柔軟性、機械的強度に優れた高分子電解質及びこの高分子電解質を含む電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
高分子電解質を用いた電池は、漏液がなく信頼性が向上すると共に、電池の薄型化、積層化、フレキシブル化が可能であり、また、有機溶媒を電解液に用いた場合より難燃性が高い等の利点がある。このような観点から、高分子電解質は電気化学デバイス材料として注目されている。この高分子電解質として要求される特性としては一般的に、イオン導電性が高く、電子伝導性がないこと、薄く成形できるように成膜性が優れていること、および可撓性に優れていること等が挙げられる。
【0003】
このような高分子電解質としては
(A)高分子と金属塩とからなる全固体型高分子電解質
(B)高分子と金属塩と低分子溶媒からなるゲル型高分子電解質
の2種類に大別できる。
【0004】
(A)の全固体型高分子電解質として、ポリエーテル構造を有するポリエチレンオキサイド〔(−CH2 CH2 O−)n 〕:(PEO)と、Li塩やNa塩等のアルカリ金属塩との複合体が比較的高いアルカリ金属イオン伝導性を示すものとして知られている。しかしながら、PEOとアルカリ金属塩との複合体膜の場合、それを構成している有機高分子の分子量が10000程度では、成膜性に優れ、イオン導電率も100℃以上の温度では10-3〜10-4S/cm程度の比較的高い値を有する。しかし、この複合体膜は60℃以下の温度では急激にイオン導電率は低下し、室温では10-7S/cm程度以下の非常に低い値を示す。このため、室温を使用温度領域とする通常の電池の材料として組み入れることが不可能となってくる。
【0005】
そこで、化学式(2)、(3)、(4)に示すように、PEOと類似構造を有する種々の有機高分子とアルカリ金属塩からなる高分子電解質の開発が行われているが、イオン導電率は10-5S/cm程度であり、PEOとアルカリ金属塩からなる複合体膜に比べてやや改善されてはいるものの、実用上は未だ不十分であり、また、成膜性や可撓性にも劣るものである。
【0006】
【化2】
Figure 0003843505
【化3】
Figure 0003843505
【化4】
Figure 0003843505
但し、m,n:任意の整数
【0007】
一方、(B)のゲル型高分子電解質の高分子に用いられるものとして、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等が挙げられる。これらの高分子に金属塩を溶解させた低分子溶液を膨潤させることによって得られたゲル型の高分子電解質は10-3S/cm程度の高いイオン導電率を示す。尚、この際、溶媒を膨潤しても高分子自体が溶解してしまうことがないように、活性放射線、光、電子線、加熱等によって架橋させる等の改良も施され、機械的強度を確保する方法も検討されている。
【0008】
しかしながら、従来の有機溶媒と金属塩とからなる電解液に比べ、そのイオン導電率は低く、さらに機械的強度の高いものが求められているのが実情である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の課題は、室温近傍でも高いイオン伝導性を発揮し、かつ成膜性、柔軟性、機械的強度に優れた高分子電解質及びこの高分子電解質を含む電池を提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、フッ素原子と官能基にリチウムのカルボン酸塩を含む構造繰り返しモノマーとする有機高分子と、有機溶媒とを含有してなる高分子電解質を構成し、更には前記高分子電解質に金属塩が添加されている高分子電解質を構成する。また、前記金属塩はアルカリ金属の塩もその一つとする。
【0011】
また、本発明は、化学式(1)で示されるトリフルオロメタクリル酸リチウムと、共重合可能なモノマーユニットとの共重合体を含有する高分子電解質を構成する。
【化5】
Figure 0003843505
【0012】
前記有機溶媒は、酸素原子または窒素原子のうち、少なくとも1つを構造中に有する有機溶媒、若しくはこれら有機溶媒を複数種混合した溶媒を用いて上記課題を解決する。また、本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、上記高分子電解質を含む電池を構成する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明者らはメタクリル酸のメチル基をフッ素置換し、更にそのカルボン酸基をリチウム塩にしたトリフルオロメタクリル酸リチウムと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子が課題を解決する材料として有望であると考えた。
【0014】
従来より、メタクリル酸のリチウム塩、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子が開発されてきた。しかし、そのカルボン酸基の酸性が弱いため、リチウムイオンが解離しにくく、本目的の高イオン導電性高分子電解質材料としては不十分であり、これらはカルボン酸の状態から媒体中のリチウムイオン等の金属塩を捕らえるイオン交換膜等の材料として主に用いられてきた。
【0015】
そこで、カルボン酸基の酸性度を高めるために、メタクリル酸のメチル基の水素原子を電気陰性度の高いフッ素原子で置換したトリフルオロメタクリル酸塩を用いた。これにより、カルボン酸基の酸素原子上の電子密度が導入したフッ素原子により薄まり、リチウムイオンが解離し易くなる。即ち、膨潤させた電解液によって伝導キャリアイオンが解離し、伝導性が発現する。そのトリフルオロメタクリル酸リチウム塩(以下、「TFMALi」と略記する)、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子を高分子電解質の構成材料として使用することにより、本発明の目的が達成できることを見いだした。
【0016】
即ち、本発明はそのTFMALi、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子と溶媒を含有してなることを特徴とする高分子電解質を提供し、更に汎用のゲル型電解質と同様に前述の高分子電解質にアルカリ金属塩を含有してなることを特徴とする高分子電解質を提供するものである。
【0017】
TFMALiと共重合可能なモノマーユニットである化学式(1)中のXとしては、ビニル系のモノマーユニットを適宜使用することができる。このようなビニル系モノマーユニットを構成するビニル系モノマーとしては、一種類のモノマーを使用してもよいが二種類以上のモノマーを併用してもよい。このようなビニル系モノマーの具体例としては、例えば、CH2 =CHCOOH、CH2 =CHCOOM(ここでMは金属イオンである)、CH2 =CHCOOR(ここでRはアルキル基である)、CH2 =CHCOO(CH2 CH2 O)n CH3 (ここでnは1〜23の整数である)、CH2 =CHCOO(CH2 CH2 O)n H(ここでnは1〜23の整数である)、アクリル酸グリシジル等のアクリル系モノマー、およびこれらの一部置換体であるメタクリル系モノマー、CH2 =C〔COO(CH2 CH2 O)n CH3 2 (ここでnは1〜23の整数である)、CH2 =CH(C6 5 )、CH2 =CH(CN)、CH2 =CH(OH)、CH2 =CHCONH2 、ビニルピロリドン等を好ましく例示することができる。
【0018】
化学式(1)の有機高分子は、有機高分子の物理的性質および化学的性質をコントロールするためにTFMALiに加えて一種類以上の他のモノマーユニットを含有させたものであるが、この場合、物理的性質および化学的性質のコントロールの方法としては、これらのモノマーユニットの構成比を変えることにより、各モノマーユニットの特性を所望の程度で発現させればよい。
【0019】
例えば、TFMALi以外のモノマーとして、ポリエーテル骨格を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には有機高分子の結晶性が低下して逆に可撓性が増加し、更に有機溶媒を膨潤させたときの機械的強度は増加する。また、水酸基を側鎖の一部に有するモノマーを含有させた場合、架橋反応させるときにこの水酸基が架橋サイトとして作用するため、そのモノマーの含有率が高くなるほど架橋化度が高くなり、強いては高分子電解質の機械的強度を増加させることができる。
【0020】
但し、化学式(1)の有機高分子中に占めるTFMALiモノマーユニットの割合は10mol%以上、より好ましくは30mol%以上である。TFMALiモノマーユニットの割合が5mol%を下回ると、イオン伝導性が低下する。一方、90mol%以上になると、有機溶媒に対する溶解度(相溶性)が極度に低下してしまい、加工が困難になる。
【0021】
また、本発明において使用するTFMALi系共重合高分子を単独で用いるだけでなく、これらと相溶性のある他の高分子とブレンドすることにより得られるポリマーブレンドを使用することもできる。このような他の高分子としては、例えばPEOや化学式(2)〜(4)で示される有機高分子、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の従来からの高分子電解質に用いられてきた有機高分子、また、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を有する類似高分子や鎖状カーボネート基を介し、直鎖または分岐メチレンにより結合して有機高分子等を使用することができる。ブレンドの割合としては、必要なイオン導電率やフィルムの柔軟性等、必要とする物理的性質および化学的性質に応じて適宜選択することができる。
【0022】
この発明における高分子電解質を構成する金属塩としては、従来より高分子電解質に用いられているものが可能であり、例えばリチウム塩ではLiBr、LiI、LiSCN、LiBF4 、LiAsF6 、LiClO4 、LiCF3 SO3 、LiPF6 、LiN(CF3 SO2 2 、LiC(CF3 SO2 3 等が挙げられる。また、これらのリチウム塩のアニオンと、リチウム塩以外のアルカリ金属塩、例えばカリウム、ナトリウム等の塩を使用することもできる。この場合、塩としては複数の塩を同時に使用してもよい。尚、高分子構成ユニットのトリフルオロメタクリル酸金属塩における金属イオン種と異なる金属塩を用いることも可能であるが、電池等に応用する場合には同一の金属イオン種で構成したほうが好ましい。
【0023】
高分子電解質を構成する金属塩と有機高分子の比率は、使用する金属塩の種類や有機高分子の誘導体の種類等により異なるが、有機溶媒に金属塩を溶かした溶液濃度で、0.1〜2.0mol/l程度の範囲とすることが好ましい。この比が低すぎるとイオン導電率が低下してしまい、高すぎてもイオン導電率が低下すると共に、塩の析出により成膜性が低下する。
【0024】
この発明における高分子電解質を構成する溶媒としては従来の高分子電解質に用いられているものが可能であり、一般的にリチウム系の非水電解液として用いているような、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジオキソラン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアルデヒド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)等が適宜使用することが可能であり、更に、これら有機溶媒を同時に複数使用することも可能である。
【0025】
高分子電解質における金属塩と有機溶媒からなる電解液の膨潤量〔電解液(g)/有機高分子(g)×100〕(w%)は使用する金属塩、有機溶媒の種類、およびその濃度、更に構造材となる有機高分子の種類などにより異なるが、架橋していない高分子を用いる場合には膨潤量を多くするにつれイオン導電率は高くなるものの、150w%以上では機械的強度、膜性(自己支持性)が低下し、粘着体の様相を呈するようになる。更に、200w%以上ではフィルム状にならず、粘着性のゲルになる。従って、使用目的に合致する膜性とイオン導電率とにより選択することが可能となる。尚、有機高分子の平均分子量が高くなるほど、有機溶媒の含有量が高くなっても膜性の低下が抑えられる傾向が見られることから、本発明の有機溶媒を含む高分子電解質の場合には高分子の平均分子量が高いほど有効である。
【0026】
一方、架橋した高分子を用いる場合には、架橋化度によって状況は異なるが、概して1000w%程度までは膨潤量を多くしても機械的強度は極度に低下することはなく、高イオン導電性のものを得ることができる。
【0027】
架橋構造を有する高分子の作製法は常法によることができる。即ち、架橋構造を付与することが可能なモノマーユニットを共重合させた高分子に活性放射線、光、電子線、加熱等の手法が有効である。その際、必要に応じて、トリメチルシリルベンゾフェノン、ベンゾイン、2−メチルベンゾイン等の光重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、アゾイソビスブチロニトリル等の重合開始剤、トルエン−2,4−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等をはじめとする架橋剤を添加することも有効である。
【0028】
一般に、本発明の高分子固体電解質は膜の形態で使用するが、成膜する方法は常法によることができる。有機溶媒の配合割合、方法およびその順序は特に制限はないが、例えば、有機溶媒に有機高分子と金属塩とを溶解し、この溶液を平坦な基板に広げ、溶媒を蒸発させることにより複合体フィルムを得るというキャスト法により膜状のものを得ることができる。この場合、キャスト溶媒としては高分子および金属塩を共に溶解させることができる溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)やテトラヒドロフラン(THF)等、適度に極性を有する有機溶媒を適宜使用することができる。この際、溶媒を完全に蒸発させず、固体フィルム状態を保持できる程度の溶媒を残留させた状態で作製する手法と、完全に除去した後に有機溶媒、更には金属塩を溶解させたものを膨潤させる手法が挙げられ、いずれの手法を用いても良い。
尚、これら有機媒体のかわりに、水を用いて同様に作製することができる。しかし、リチウム電池等に本発明の高分子電解質を用いる場合においては適当でなく、その他の用途に限られる。
【0029】
また、本発明の架橋反応を行った高分子固体電解質に関しては、有機溶媒の配合方法およびその順序は特に制限はないが、例えば、有機化合物を架橋反応する際に金属塩と有機溶媒を前述の濃度に調節したものを、共に窒素雰囲気下で加え、架橋反応して高分子固体電解質を作製する手法と、架橋反応させた有機高分子に金属塩を有機溶媒に溶解させた有機電解液を膨潤させて高分子固体電解質を得る手法等が挙げられ、いずれの手法を用いてもよい。
【0030】
本発明の高分子固体電解質は、メタクリル酸リチウムのメチル基の水素をフッ素置換したトリフルオロメタクリル酸リチウムを構成ユニットとする高分子を用いるために、カルボン酸基の酸性度が高まり、有機溶媒を膨潤することによって、高イオン解離する。従って、高イオン伝導性と成膜性、可撓性、機械的強度を同時に実現することが可能となる。更に、有機高分子を一部架橋化させることにより、イオン導電率を低下させることなく、機械的強度を増加させることが可能となる。
【0031】
以下、この発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0032】
TFMALi共重合体の合成
50gトリフルオロメタクリル酸をクルルホルム200mlに溶解させ、1N−LiOHaqを等量加え、中和させる。この溶液を濃縮、乾固させ、TFMALiを得る。
【0033】
つぎに、封管用ガラス製反応容器にDMFを100ml秤取する。そこに、TFMALi、ポリエーテル構造を側鎖に有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレート〔CH2 =C(CH3 )COO(CH2 CH2 O)4 CH3 :PEM4〕、末端部に水酸基を有するヒドロキエンクリレート〔CH2 =C(CH3 )COOCH2 CH2 OH:HEMA〕、メタクリル酸メチル〔CH2 =C(CH3 )COOCH3 :MMA〕、アクリロニトリル〔CH2 =CH(CN):AN〕を所定のモノマー構成比(mol%)にしたがって加える。更に、アゾビスブチロニトリル(AIBN)を総モノマー重量に対して0.4w%を加える。この反応容器を窒素置換装置につなぎ、内容物をドライアイスーメタノール浴で冷却固化した後、高真空下で脱気、窒素導入、溶解の操作を3回繰り返し、最後に高真空下で封管した。
【0034】
この反応容器を振盪式恒温槽中80℃で24時間重合反応させる。この間、重合系は粘度が増す。その後、室温まで冷却させ、開封して反応溶液を5倍量のメタノール中に撹拌しながら注ぎ入れる。これにより白色の繊維状の固体が得られる。これを濾過した後、メタノールを用いて十分に洗浄する。この得られた固体をDMF−メタノール系にて再沈操作を2〜3回繰り返し、精製を行う。
【0035】
その結果、収率は略80%で所期の有機高分子を得た。この有機高分子をFT−IRおよびCDCl3 1H−NMRで同定したところ、各モノマーの共重合化は合成時の仕込み比に準じていることが確認された。
【0036】
また、この有機高分子の平均分子量はモノマーの仕込み濃度、反応時間で制御することが比較的容易であり、種々の条件で作製した有機高分子の平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した結果、1×103 〜106 程度であった。
【0037】
高分子固体電解質フィルムの作製
上述したようにして得られた有機高分子を十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一溶液とし、その後、孔径0.45μmのフィルターを通して不溶物を除去し、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、40〜60℃の温度範囲で設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、更に真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させ、高分子電解質フィルムを得た。
【0038】
このフィルム状の高分子膜を、プロピレンカーボネート(PC)にLiClO4 を適当量溶解させた溶液中に浸析し、高分子膜に溶液を膨潤させる。所定の時間経過後、高分子膜を溶液から取り出し、余分な溶液を取り去り、高分子電解質を得た。この時、浸析させる時間、余分な溶液の取り方によって、膨潤させる電解液の量を制御することができる。
【0039】
また、PCにLiClO4 を適当量溶解させた溶液に上述したようにして得られた高分子を加え、窒素雰囲気下で加熱撹拌しながら高分子を均一に溶解させる。この溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、徐冷して高分子電解質を得た。
【0040】
こうして得られた高分子電解質フィルムは可撓性に富んだ無色、ないしは淡黄色のフィルムであり、その膜厚は目的に応じ、適宜作製することができるが、イオン導電率を評価するものとしては50〜150μmのものを用いた。
【0041】
架橋化高分子電解質フィルムの作製
架橋化高分子電解質フィルムの作製法は電解液を膨潤した高分子電解質フィルムに不活性ガス雰囲気下、加速電圧250kV、電子線量8Mradの電子線を照射することにより得た。HEMA等の端末に水酸基を有するモノマーを含む場合には、ジイソシアネート系の架橋化剤を加えることによって、架橋化の反応効率を促進することができる。
【0042】
こうして得られた架橋化高分子電解質フィルムは可撓性に富んだ無色、ないしは淡黄色のフィルムであり、その膜厚は目的に応じ、適宜作製することができるが、イオン導電率を評価するものとしては50〜150μmのものを用いた。
【0043】
イオン導電率の評価
上述のようにして得られた高分子電解質フィルムのイオン導電率の評価を次のように行った。即ち、高分子電解質フィルムを白金電極、或いはリチウム金属電極に圧着し、90℃で数時間加熱保存することによって、電極とフィルムの接触が十分に保たれるようにする。その後、定電圧複素インピーダンス法により得られた半円弧部からイオン導電率を解析的に算出した。尚、これらの測定は温度可変式の恒温装置の中に評価セルを入れ、任意の温度で約1時間要して定常状態にした後に行った。
【0044】
この場合、得られる複数個の半円弧成分の電極を白金、リチウム金属と変え、またそれらの電極面積を変えることにより高分子固体電解質中のイオン導電に寄与する抵抗部を帰属した。このとき測定に用いる交流電圧の振幅は30〜100mV程度に設定し、交流の周波数帯域は10-2〜107 Hzとした。
【0045】
以下に述べる実施例の結果から、本発明の高分子電解質フィルムは従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域におけるイオン導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0046】
実施例1〜18
TFMALi−PEM4の共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するTFMALiモノマーユニットの割合を実施例1〜6で80%、実施例7〜12で50%、実施例13〜18で20%とし、それぞれのPCの添加量を変えた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図1に示す。
【0047】
図1から明らかなように、高分子中のTFMALiユニット比が20%(実施例13〜18)、50%(実施例7〜12)、80%(実施例1〜6)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。また、PCの添加重量が高分子の重量に対して多くなるほど導電率も高くなる傾向があるが、2重量倍を超えると高分子フィルムの機械的強度が低下しはじめ、更に4重量倍を超えると成膜性が著しく低下し、6重量倍となると自己支持性のフィルムにはならず、粘着性体になる。
【0048】
従って、TFMALi−PEM4の共重合体にPCを膨潤させた系では、膨潤させるPCが増加するほどイオン導電率が高くなるが、それに伴って成膜性が低下することから、膨潤させるPCの量が4重量倍以下であることが望ましい。しかし、用途上、成膜性、即ち高分子フィルムの機械的強度が問題とならない場合には、膨潤させるPCが多い程よい。
【0049】
実施例19〜36
TFMALi−MMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するTFMALiモノマーユニットの割合を実施例19〜24で80%、実施例25〜30で50%、実施例31〜36で20%とし、それぞれのPCの添加量を変えた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図2に示す。
【0050】
図2から明らかなように、高分子中のTFMALiユニット比が20%(実施例31〜36)、50%(実施例25〜30)、80%(実施例19〜24)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。また、PCの添加重量が高分子の重量に対して多くなるほどイオン導電率も高くなる傾向があるが、2重量倍を超えると高分子フィルムの機械的強度が低下しはじめ、更に4重量倍を超えると成膜性が著しく低下し、6重量倍となると自己支持性のフィルムにはならず、粘着性体になる。
【0051】
従って、TFMALi−MMAの共重合体にPCを膨潤させた系では、膨潤させるPCが増加するほどイオン導電率が高くなるが、それに伴って成膜性が低下することから、膨潤させるPCの量が4重量倍以下であることが望ましい。しかし、用途上、成膜性、即ち高分子フィルムの機械的強度が問題とならない場合には、膨潤させるPCが多い程よい。
【0052】
実施例37〜54
TFMALi−ANの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するTFMALiモノマーユニットの割合を実施例37〜42で80%、実施例43〜48で50%、実施例49〜54で20%とし、それぞれのPCの添加量を変えた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図3に示す。
【0053】
図3から明らかなように、高分子中のTFMALiユニット比が20%(実施例49〜54)、50%(実施例43〜48)、80%(実施例37〜42)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。また、PCの添加重量が高分子の重量に対して多くなるほど導電率も高くなる傾向があるが、2重量倍を超えると高分子フィルムの機械的強度が低下しはじめ、更に4重量倍を超えると成膜性が著しく低下し、6重量倍となると自己支持性のフィルムにはならず、粘着性体になる。
【0054】
従って、TFMALi−ANの共重合体にPCを膨潤させた系では、膨潤させるPCが増加するほどイオン導電率が高くなるが、それに伴って成膜性が低下することから、膨潤させるPCの量が4重量倍以下であることが望ましい。しかし、用途上、成膜性、即ち高分子フィルムの機械的強度が問題とならない場合には、膨潤させるPCが多い程よい。
【0055】
実施例55〜66
TFMALi−MMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するTFMALiモノマーユニットの割合が50%のもの(実施例55〜60)と、TFMALi−ANの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するTFMALiモノマーユニットの割合が50%のもの(実施例61〜66)に、それぞれ1M−LiClO4 /PCの添加量を変えた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図4に示す。
【0056】
図4から明らかなように、1M−LiClO4 /PCの添加量が高分子の重量に対して多くなるほど導電率も高くなる傾向があるが、2重量倍を超えると高分子フィルムの機械的強度が低下しはじめ、更に4重量倍を超えると成膜性が著しく低下し、6重量倍となると自己支持性のフィルムにはならず、粘着性体になる。また、先に示したPCのみを添加した実施例と比較すると、1M−LiClO4 /PCを添加した場合には若干ながら高いイオン導電性を示す。
【0057】
従って、TFMALi−MMAの共重合体、TFMALi−ANの共重合体に1M−LiClO4 /PCを膨潤させた系でも、PCのみを膨潤させた系と同様に、膨潤させる1M−LiClO4 /PCが増加するほどイオン導電率が高くなるが、それに伴って成膜性が低下することから、膨潤させる1M−LiClO4 /PCの量が4重量倍以下であることが望ましい。しかし、用途上、成膜性、即ち高分子フィルムの機械的強度が問題とならない場合には、膨潤させる1M−LiClO4 /PCが多い程よい。但し、1M−LiClO4 /PCの電解液を膨潤させるために、系中のキャリアイオンが増加するため、イオン導電率は若干高くなる。特に膨潤量が低いとき程、その現象は顕著になる。
【0058】
実施例67〜90
TFMALi−HEMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するTFMALiモノマーユニットの割合を実施例67〜74で80%、実施例75〜82で50%、実施例83〜90で20%としたものであって、トルエンジイソシアネートを架橋材とし、電子線照射によって架橋化させた高分子で、それぞれ1M−LiClO4 /PCの電解液を膨潤させた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図5に示す。
【0059】
図5から明らかなように、いずれの共重合組成の高分子を用いた場合でも、膨潤させる1M−LiClO4 /PC電解液の量が増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この場合、高分子電解質に架橋構造を導入したため、10重量倍の1M−LiClO4 /PC電解液を膨潤させても成膜性の低下は起きない。但し、10重量倍以上になると破断等に対する機械的強度が低下する。
【0060】
本発明の高分子電解質は、高分子にフッ素系の高分子や、アルカリ金属塩の対アニオンとしてフッ素やリンを含むもの(BF4 - 、PF6 - )を用い、また、溶媒として高沸点の有機溶媒を用いる等により、元来可燃性である高分子電解質材料に難燃性を付与することが可能であり、高エネルギー密度電池の安全性、信頼性を確保できるものとなる。従って、電気自動車用や電力貯蔵用の大型電池への応用も可能となる。
【0061】
また、本発明において使用する化学式(1)で示される有機高分子は、例えばカチオン重合法や配位重合法等を用いることにより容易に得ることができ、更にその共重合比も制御することが容易である。
【0062】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、この発明によれば、従来の高分子電解質と比較して、室温付近でも高いイオン伝導性を発揮し、かつ成膜性、柔軟性、機械的強度にも優れた高分子固体電解質及びこの高分子固体電解質を含む電池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 TFMALi−PEM4系共重合体比率を変化させた高分子にPCを膨潤させた場合の30℃に於けるイオン導電率。
【図2】 TFMALi−MMA系共重合体比率を変化させた高分子にPCを膨潤させた場合の30℃に於けるイオン導電率。
【図3】 TFMALi−AN系共重合体比率を変化させた高分子にPCを膨潤させた場合の30℃に於けるイオン導電率。
【図4】 TFMALi−MMA系、TFMALi−AN系共重合体比率を変化させた高分子に1M−LiClO4 /PCを膨潤させた場合の30℃に於けるイオン導電率。
【図5】 TFMALi−HEMA系共重合体比率を変化させた高分子にPCを膨潤させた場合の30℃に於けるイオン導電率。
【符号の説明】
TFMALi…トリフルオロメタクリル酸リチウム塩、PEM4…メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、MMA…メタクリル酸メチル、AN…アクリロニトリル、HEMA…ヒドロキエンクリレート、PC…プロピレンカーボネート

Claims (6)

  1. フッ素原子と官能基にリチウムのカルボン酸塩を含む構造繰り返しモノマーとする有機高分子と、有機溶媒とを含有してなることを特徴とする高分子電解質。
  2. 請求項1に記載の高分子電解質に金属塩が添加されていることを特徴とする高分子電解質。
  3. 上記有機高分子は、化学式(1)で示されるトリフルオロメタクリル酸リチウムと、共重合可能なモノマーユニットとの共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質。
    Figure 0003843505
  4. 前記金属塩はアルカリ金属の塩であることを特徴とする請求項2に記載の高分子電解質。
  5. 前記有機溶媒は、酸素原子または窒素原子のうち、少なくとも1つを構造中に有する有機溶媒、若しくはこれら有機溶媒を複数種混合した溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質。
  6. 請求項1乃至請求項5に記載の高分子電解質を含むことを特徴とする電池。
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