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JP3720774B2 - (フェニルメチル)スルファニル構造を側鎖に有するユニットを含む新規なポリヒドロキシアルカノエート及びその製造方法 - Google Patents

(フェニルメチル)スルファニル構造を側鎖に有するユニットを含む新規なポリヒドロキシアルカノエート及びその製造方法 Download PDF

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JP3720774B2 JP2002039259A JP2002039259A JP3720774B2 JP 3720774 B2 JP3720774 B2 JP 3720774B2 JP 2002039259 A JP2002039259 A JP 2002039259A JP 2002039259 A JP2002039259 A JP 2002039259A JP 3720774 B2 JP3720774 B2 JP 3720774B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な構成ユニットを含むポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと略す場合がある)と、その製造方法に関する。より具体的には、側鎖末端に(フェニルメチル)スルファニル基を有する3-ヒドロキシアルカン酸ユニットを含む新規な生分解性PHA及び、PHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物を利用し、側鎖末端に(フェニルメチル)スルファニル基を有するアルカン酸を原料とする、前記PHAの製造方法に関する。
【0002】
【背景技術】
これまで、多くの微生物がポリ-3-ヒドロキシ酪酸(以下、PHBと略す場合がある)あるいはその他のPHAを生産し、菌体内に蓄積することが報告されてきた(「生分解性プラスチックハンドブック」,生分解性プラスチック研究会編,(株)エヌ・ティー・エス,P178-197(1995))。これらのポリマーは、従来のプラスチックと同様に、溶融加工等により各種製品の生産に利用することができる。更に、生分解性であるがゆえに、自然界で微生物により完全に分解されるという利点を有していることから、従来の多くの合成高分子化合物のように自然環境に残留して汚染を引き起こすことがない。また、生体適合性にも優れており、医療用軟質部材料等としての応用も期待されている。
【0003】
このように微生物産生PHAは、その生産に用いる微生物の種類や培地組成、培養条件等により、様々な組成や構造のものとなり得ることが知られており、これまで主に、PHAの物性の改良という観点から、このような組成や構造の制御に関する研究がなされてきた。
【0004】
[1]まず、3-ヒドロキシ酪酸(以下、3HBと略す)をはじめとする比較的簡単な構造のモノマーユニットを重合させたPHAの生合成についての報告や開示としては、次のものが挙げられる。
【0005】
例えば、アルカリゲネス・ユウトロファスH16株(Alcaligenes eutropus H16、ATCC No.17699)及びその変異株は、その培養時の基質を変化させることによって、3-ヒドロキシ酪酸(以下、3HBと略す)と3-ヒドロキシ吉草酸(以下、3HVと略す)との共重合体を様々な組成比で生産することが報告されている(特公平6-15604号公報、特公平7-14352号公報、特公平8-19227号公報等)。
【0006】
また、特許公報第2642937号には、シュードモナス・オレオボランス・ATCC 29347株(Pseudomonas oleovorans ATCC 29347)に基質として非環状脂肪族炭化水素を与えることにより、炭素数6から 12までの3-ヒドロキシアルカノエートをモノマーユニットとするPHAを生産することが開示されている。
【0007】
特開平5-7492号公報には、メチロバクテリウム属(Methylobacterium sp.)、パラコッカス属(Paracoccus sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)の微生物を、炭素数3から7の第一級アルコールに接触させることにより、3HBと3HVとの共重合体を生産させる方法が開示されている。
【0008】
特開平5-93049号公報、及び特開平7-265065号公報には、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)をオレイン酸やオリーブ油を基質として培養することにより、3HBと3-ヒドロキシヘキサン酸との二成分共重合体を生産することが開示されている。
【0009】
特開平9-191893号公報には、コマモナス・アシドボランス・IFO 13852株(Comamonas acidovorans IFO 13852)が、基質としてグルコン酸及び1,4-ブタンジオールを用いた培養により、3HBと4-ヒドロキシ酪酸とをモノマーユニットに持つポリエステルを生産することが開示されている。
【0010】
これらはいずれも微生物による炭化水素等のβ酸化や糖からの脂肪酸合成により合成された、いずれも側鎖にアルキル基を有するモノマーユニットからなるPHA、即ち、「usual PHA」である。
【0011】
[2]しかし、このような微生物産生PHAのより広範囲な応用、例えば機能性ポリマーとしての応用を考慮した場合、アルキル基以外の置換基を側鎖に導入したPHA「unusual PHA」が極めて有用であることが期待される。そして、ある種の微生物では、これら「unusual PHA」を生産することが報告されており、このような手法によって微生物産生PHAの物性改良を目指す試みもなされている。
【0012】
置換基の例としては、不飽和炭化水素、エステル基、シアノ基、ハロゲン化炭化水素、エポキシド、さらには芳香環を含むものなどが挙げられる。これらの中でも、特に、芳香環を有するPHAの研究が盛んになされている。
【0013】
例えば、Makromol.Chem.,191,1957-1965,(1990)、Macromolecules,24,5256-5260,(1991)、Chirality,3,492-494,(1991)等では、シュードモナス・オレオボランスが3-ヒドロキシ-5-フェニル吉草酸(以下、3HPVと略す)をモノマーユニットをして含むPHAを生産することが報告されており、3HPVが含まれることに起因すると思われる、ポリマー物性の変化が認められている。
【0014】
また、置換基を側鎖に導入したPHAのうち、近年フェノキシ基を側鎖に有するPHAの開発が盛んである。
【0015】
Macromol.Chem.Phys.,195,1665-1672,(1994)には、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)が、11-フェノキシウンデカン酸から3-ヒドロキシ-5-フェノキシ吉草酸ならびに3-ヒドロキシ-9-フェノキシノナン酸をユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。
【0016】
Macromolecules,29,3432-3435,(1996)には、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)を用いて、6-フェノキシヘキサン酸から、3-ヒドロキシ-4-フェノキシ酪酸と3-ヒドロキシ-6-フェノキシヘキサン酸をユニットとして含むPHAを、8-フェノキシオクタン酸から、3-ヒドロキシ-4-フェノキシ酪酸、3-ヒドロキシ-6-フェノキシヘキサン酸及び3-ヒドロキシ-8-フェノキシオクタン酸をユニットとして含むPHAを、11-フェノキシウンデカン酸から、3-ヒドロキシ-5-フェノキシ吉草酸と3-ヒドロキシ-7-フェノキシヘプタン酸をユニットとして含むPHAを、それぞれ生産することが報告されている。
【0017】
Can.J.Microbiol.,41,32-43,(1995)には、シュードモナス・オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)ATCC 29347株及びシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT 2422株を用いて、オクタン酸と6-(4-シアノフェノキシ)ヘキサン酸あるいは6-(p-ニトロフェノキシ)ヘキサン酸を基質として、3-ヒドロキシ-6-(4-シアノフェノキシ)ヘキサン酸あるいは3-ヒドロキシ-6-(4-ニトロフェノキシ)ヘキサン酸をモノマーユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。
【0018】
また、置換基を側鎖に導入したPHAのうち、スルフィド型(-S-)の硫黄原子を側鎖に有するPHAの開発としては、Macromolecules.,32,8315-8318,(1999)には、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)27N01株を用いて、オクタン酸と 11-(フェニルスルファニル)ウンデカン酸を基質として、3-ヒドロキシ-5-(フェニルスルファニル)吉草酸と3-ヒドロキシ-7-(フェニルスルファニル)へプタン酸をモノマーユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。ただし、その際、シュードモナス・プチダ 27N01株は、予め、増殖基質としてオクタン酸のみを含む培地で前培養し、その培養液を基質として 11-(フェニルスルファニル)ウンデカン酸のみを含む培地にイノキュレートする方法が用いられている。
【0019】
更に、Polymer Preprints,Japan Vol 49,No.5,1034,(2000)では、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)27N01株を用いて、11-[(フェニルメチル)スルファニル]ウンデカン酸を基質として3-ヒドロキシ-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸及び3-ヒドロキシ-7-[(フェニルメチル)スルファニル]へプタン酸の2つのモノマーユニットからなるPHAを生産することが報告されている。但し、この場合、シュードモナス・プチダ 27N01株は、増殖基質としてオクタン酸のみを含む培地で前培養し、その培養液を基質として 11-[(フェニルメチル)スルファニル]ウンデカン酸のみを含む培地にイノキュレートする方法が用いられている。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
これら側鎖上に官能基を有するPHAのうち、3-ヒドロキシ-ω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸ユニットを含むPHAに注目すると、その生合成に関しては、上に挙げた1例の報告があるに過ぎず、更にその生産方法も限定されているために、得られるポリマーの種類、純度、収量において十分なものではなかった。更に、上記の3-ヒドロキシ-ω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸ユニットを含むPHAの生産方法は、炭素鎖長が長いω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸のみを基質として含む培地中で微生物を培養することによりポリマー生産を行なっているが、この場合、ω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸が増殖のための基質として利用されるため、ポリマーの構造の制御が困難であるという問題点があった。
【0021】
本発明の目的は、新規な、側鎖に(フェニルメチル)スルファニル構造を有するユニットを含む新規なPHA、及びその製造方法を提供することにある。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねてきた結果、以下の様な発明に至った。即ち、本発明の第一は、化学式(1)で示すユニットを含むポリヒドロキシアルカノエート(但し、化学式(2)及び(3)に示す2つのユニットの組み合わせのみからなるポリヒドロキシアルカノエートを除く)そのものである。
【0023】
【化17】
Figure 0003720774
【0024】
(式中、R1は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、xは、1〜8から選択される任意の整数を表し、ポリマー中において、一つ以上の値をとり得る)
【0025】
【化18】
Figure 0003720774
【0026】
なお、本発明のポリヒドロキシアルカノエートは、化学式(1)に示されるユニットに加えて、化学式(4)及び(5)に示されるユニットのいずれか、或いは両方共を含んでいてもよい。
【0027】
【化19】
Figure 0003720774
【0028】
(y及びzは化学式(1)で示すユニットと独立して化学式中に示した範囲内で任意の一つ以上の整数値をとり得る)
【0029】
本発明のポリヒドロキシアルカノエートは、数平均分子量が 5000 から 300000 の範囲である。
【0030】
上記の構成を有する本発明のPHAには、例えば、下記化学式(2):
【0031】
【化20】
Figure 0003720774
【0032】
で示される3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸ユニットを含むことを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートが含まれる。(但し、それ以外のユニットが化学式(3)に示すユニットのみからなるポリヒドロキシアルカノエートを除く。)
【0033】
または、下記化学式(6):
【0034】
【化21】
Figure 0003720774
【0035】
で示される3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸ユニットを含むことを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートが含まれる。
【0036】
または、下記化学式(7):
【0037】
【化22】
Figure 0003720774
【0038】
で示される3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸ユニットを含むことを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートが含まれる。
【0039】
また、本発明は、化学式(8)で示される化合物を少なくとも1種類含む培地中で微生物を培養することを特徴とする、化学式(1)で示したポリヒドロキシアルカノエートの製造方法である。(但し、化学式(2)及び(3)に示す2つのユニットのみからなるポリヒドロキシアルカノエートを除く)
【0040】
【化23】
Figure 0003720774
【0041】
(式中、R2は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、kは、1〜8から選択される任意の整数を表し、ポリマー中において、一つ以上の値をとり得る。)
【0042】
【化24】
Figure 0003720774
【0043】
(式中、R1は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、xは、1〜8から選択される任意の整数を表し、ポリマー中において、一つ以上の値をとり得る。)
【0044】
【化25】
Figure 0003720774
【0045】
本発明の方法で製造されるポリヒドロキシアルカノエートは、前記化学式(1)で示されるユニットに加えて、下記化学式(4)及び(5)に示されるユニットのいずれか、或いは両方共を含んでいてもよい。
【0046】
【化26】
Figure 0003720774
【0047】
(y及びzは化学式(1)で示すユニットと独立して化学式中に示した範囲内で任意の一つ以上の整数値をとり得る)
【0048】
また、本発明のPHAの製造方法においては、培養工程において利用する前記培地は、ポリペプトンを含んでいることができる。あるいは、培養工程において利用する前記培地は、酵母エキスを含んでいることができる。さらに、培養工程において利用する前記培地は、糖類を含んでいることができる。この場合、培地中に含有される糖類は、グリセロアルデヒド、エリトロース、アラビノース、キシロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、グリセロール、エリトリトール、キシリトール、グルコン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マルトース、スクロース、ラクトースからなる群から選択される1種類以上の化合物であることが好ましい。
【0049】
加えて、本発明のPHAの製造方法においては、培養工程において利用する前記培地は、有機酸またはその塩を含んでいるものでもよい。その際、培地中に含有される有機酸またはその塩は、ピルビン酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、あるいはこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の化合物であることが好ましい。あるいは、培養工程において利用する前記培地は、アミノ酸またはその塩を含んでいることもできる。例えば、培地中に含有されるアミノ酸またはその塩は、グルタミン酸、アスパラギン酸あるいはこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の化合物であることが好ましい。
【0050】
場合によっては、本発明のPHAの製造方法においては、培養工程において利用する前記培地は、炭素数4から 12の直鎖アルカン酸またはその塩を含んでいることもできる。
【0051】
また、本発明のPHAの製造方法においては、前記微生物の培養において二段階以上の培養を行なうことができる。この場合、二段階目以降の培養では培地中に窒素源が含まれていないことが好ましい。
【0052】
前記微生物の培養において二段階以上の培養を行なう本発明の製造方法として、
(工程1-1)下記化学式(8):
【0053】
【化27】
Figure 0003720774
【0054】
(式中、R2は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、kは、1〜8から選択される任意の整数を表し、一つ以上の値をとり得る)で示される化合物を少なくとも一種類以上含み、かつポリペプトンを含む培地中で、ポリヒドロキシアルカノエート産生能を有する微生物を培養する工程と、これに続き、
(工程1-2)前記化学式(8)で示される化合物を少なくとも一種類以上含み、かつ有機酸またはその塩とを含む培地中で、工程1-1で培養された微生物を更に培養する工程とを有する製造方法が挙げられる。その際、前記工程1-2で用いる培地中に含有される有機酸またはその塩は、ピルビン酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸、コハク酸あるいはこれらの塩からなる群から選択される1つ以上の化合物であることが好ましい。なお、前記工程1-2で利用する培地中には、窒素源が含まれていないことがより好ましい。
【0055】
また更に
(工程1-3)下記化学式(8):
【0056】
【化28】
Figure 0003720774
【0057】
(式中、R2は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、kは、1〜8から選択される任意の整数を表し、一つ以上の値をとり得る)で示される化合物を少なくとも一種類以上含み、かつ糖類を含む培地中で、ポリヒドロキシアルカノエート産生能を有する微生物を培養する工程と、これに続き、
(工程1-4)前記一般式(8)で示される化合物を少なくとも一種類以上含み、また、糖類を含む培地中で、工程1-3で培養された微生物を更に培養する工程とを有する製造方法を挙げることもできる。その際、前記工程1-3及び工程1-4で用いるそれぞれの培地中に含有される糖類は、グリセロアルデヒド、エリトロース、アラビノース、キシロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、グリセロール、エリトリトール、キシリトール、グルコン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マルトース、スクロース、ラクトースからなる群から選択される1種類以上の化合物であることが好ましい。なお、前記工程1-4で利用する培地中には、窒素源が含まれていないことがより好ましい。
【0058】
本発明のPHAの製造方法には、例えば、下記化学式(9):
【0059】
【化29】
Figure 0003720774
【0060】
で示される5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸を含む培地中で微生物を培養し、
下記化学式(2):
【0061】
【化30】
Figure 0003720774
【0062】
で示される3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸ユニットをポリマー分子中に含むポリヒドロキシアルカノエートを生産させることを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートの製造方法が含まれる。
【0063】
本発明のPHAの製造方法には、例えば、下記化学式(10):
【0064】
【化31】
Figure 0003720774
【0065】
で示される4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸を含む培地中で微生物を培養し、
下記化学式(6):
【0066】
【化32】
Figure 0003720774
【0067】
で示される3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸ユニットをポリマー分子中に含むポリヒドロキシアルカノエートを生産させることを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートの製造方法もまた含まれる。
【0068】
本発明の製造方法には、例えば、下記化学式(11):
【0069】
【化33】
Figure 0003720774
【0070】
で示される5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸を含む培地中で微生物を培養し、
下記化学式(7):
【0071】
【化34】
Figure 0003720774
【0072】
で示される3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸ユニットをポリマー分子中に含むポリヒドロキシアルカノエートを生産させることを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートの製造方法もまた含まれる。
【0073】
なお、本発明のPHAの製造方法においては、前記の培養工程に加えて、培養細胞からポリヒドロキシアルカノエートを分離回収する工程を設けることができ、本工程は、培養された微生物細胞中に蓄積されるポリヒドロキシアルカノエートを可溶化する工程、もしくは、培養された微生物細胞を破砕する工程を含むことを特徴とする製造方法とすることが望ましい。
【0074】
一方、上述した種々の構成をとることが可能な本発明のPHAの製造方法において、利用する微生物は、前記培養方法によって、本発明のPHAを生産しうる微生物であれば如何なる微生物でもよく、その中でも特に、シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物であることが好ましい。例えば、前記シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物が、シュードモナス・チコリアイ YN2株(Pseudomonas cichorii YN2;FERM BP-7375)、シュードモナス・チコリアイ H45株(Pseudomonas cichorii H45;FERM BP-7374)、シュードモナス・ジェッセニイ P161株(Pseudomonas jessenii P161;FERM BP-7376)のうちから選択される微生物であることがより好ましい。
【0075】
【発明の実施の形態】
本発明の新規なポリヒドロキシアルカノエートは、含まれるヒドロキシアルカン酸のモノマーユニット中に、(フェニルメチル)スルファニル構造をその側鎖に有し、この構造によりこれまでに知られている微生物生産ポリヒドロキシアルカノエートとは著しく異なった物理化学的性質を有している。
【0076】
本発明の新規なポリヒドロキシアルカノエートは、例えば、PHA生産能力を有する微生物を、原料となるω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸に加えて、増殖基質を含んだ培地中で培養する工程、この培養工程において微生物により生産され、その細胞内に蓄積される、側鎖末端に(フェニルメチル)スルファニル基を有するユニットを含むポリヒドロキシアルカノエートを回収する工程、この二段階の工程を経て製造されるものである。また、かかる微生物により産生されるPHAは、化学式(1)に示されるユニットを含め、全ての3-ヒドロキシアルカン酸ユニットの、3位の炭素は不斉炭素であるが、その絶対配置は、R体となり、生分解性を示すものである。
【0077】
以下に、本発明について、より詳細に説明する。
【0078】
(生産微生物)
本発明のPHAの製造方法では、目的とする化学式(1)で示されるユニットを含むPHAの生産に用いる微生物は、原料化合物の化学式(8)で示されるω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸を含む培地中で培養した際、対応する側鎖末端に(フェニルメチル)スルファニル基を有する3-ヒドロキシアルカン酸ユニットを含むPHAを生産し、その細胞内に蓄積する微生物であれば、いかなる微生物であってもよい。例えば、PHA産生能を有するシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物が挙げられる。
【0079】
好適なシュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物の一例を挙げると、シュードモナス・チコリアイ YN2株(Pseudomonas cichorii YN2;FERM BP-7375)、シュードモナス・チコリアイ H45株(Pseudomonas cichorii H45、FERM BP-7374)、シュードモナス・ジェッセニイ P161株(Pseudomonas jessenii P161、FERM BP-7376)の三種の菌株が挙げられる。これら三種の微生物は、寄託者として本願出願人を名義として、先に国内寄託され、その後、その原寄託よりブタペスト条約に基づく寄託へと移管され、国際寄託機関としての経済産業省 産業技術総合研究所 生命工学工業技術研究所(NIBH)よりそれぞれ、前記の受託番号を付与され、現在の、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。また、新規なPHA産生能を有する菌株として、既に、特願平11-371863号(特開2001-178484号公報)に記載されている微生物である。
【0080】
(培養工程)
本発明にかかるPHAの製造方法は、原料の上記化学式(8)に示されるω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸を含む培地中で、上記するPHA産生能を有する微生物を培養することで、対応する前記化学式(1)で表される、側鎖末端に(フェニルメチル)スルファニル基を有する3-ヒドロキシアルカン酸ユニットを含むPHAを生産させ、細胞内に蓄積させる。
【0081】
本発明にかかるポリヒドロキシアルカノエートの製造方法に用いる微生物の通常の培養、例えば、保存菌株の作成、ポリヒドロキシアルカノエートの生産に必要とされる菌数や活性状態を確保するための増殖などには、用いる微生物の増殖に必要な成分を含有する培地を適宜選択して用いる。例えば、微生物の生育や生存に悪影響を及ぼすものでない限り、一般的な天然培地(肉汁培地、酵母エキスなど)や、栄養源を添加した合成培地など、いかなる種類の培地をも用いることができる。温度、通気、攪拌などの培養条件は、用いる微生物に応じて適宜選択する。
【0082】
前記したようなポリヒドロキシアルカノエート生産微生物を用いて、目的とするポリヒドロキシアルカノエートを製造するためには、ポリヒドロキシアルカノエート生産用の原料として、該モノマーユニットに対応する、上記化学式(8)で示される化合物と、微生物の増殖基質とを少なくとも含んだ無機培地などを用いることができる。上記化学式(8)で示される化合物は、培地あたり 0.01%から1%(w/v)、更に好ましくは 0.02%から 0.2%の割合で含有していることが望ましい。化学式(8)で示される化合物は、水溶性は必ずしも良好ではないが、本発明に示す微生物を用いれば、懸濁された状態であっても何ら問題は無い。
【0083】
なお、原料の化学式(8)で示される化合物は、分散性を高めるため、場合によっては1-ヘキサデセンやn-ヘキサデカンのような溶媒に溶解或いは懸濁された形で培地中に含有させることも可能である。この場合、該溶媒の濃度は培地溶液に対して3%(v/v)以下にすることが必要である。
【0084】
培地には、微生物が増殖に利用する増殖基質を別途添加することが好ましい。この増殖基質としては、酵母エキスやポリペプトン、肉エキスといった栄養素を用いることが可能である。更に、糖類、TCA回路中の中間体として生じる有機酸、或いはTCA回路から更に1段階ないしは2段階の生化学反応により得られる有機酸或いはその塩、アミノ酸或いはその塩、炭素数4から 12の直鎖アルカン酸或いはその塩等、から用いる菌株に対する基質としての有用性で適宜選択することができる。
【0085】
これらのうち、糖類としては、グリセロアルデヒド、エリスロース、アラビノース、キシロース、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースといったアルドース、グリセロール、エリスリトール、キシリトール等のアルジトール、グルコン酸等のアルドン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸等のウロン酸、マルトース、スクロース、ラクトースといった二糖等から選ばれる1つ以上の化合物が好適に利用できる。
【0086】
また、有機酸或いはその塩としては、ピルビン酸、リンゴ酸、乳酸、クエン酸、コハク酸或いはその塩から選ばれる1つ以上の化合物が好適に利用できる。
【0087】
また、アミノ酸或いはその塩としては、グルタミン酸、アスパラギン酸或いはその塩から選ばれる1つ以上の化合物が好適に利用できる。
【0088】
これらの中では、ポリペプトンや糖類を用いるのが好ましく、また糖類の中ではグルコース、フルクトース、マンノースからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。これらの基質は通常培地あたり 0.1%から5%(w/v)、更に好ましくは 0.2%から2%の割合で含有していることが望ましい。
【0089】
微生物にポリヒドロキシアルカノエートを生産・蓄積させる方法としては、一旦十分に増殖させて後に、塩化アンモニウムのような窒素源を制限した培地へ菌体を移し、目的ユニットの基質となる化合物を加えた状態で更に培養すると生産性が向上する場合がある。例えば、異なる培養条件からなる工程を複数段接続した多段方式の採用が挙げられる。
【0090】
より具体的には、化学式(8)で示される化合物、及びポリペプトンを含む培地中で微生物を培養する工程(工程1-1)を対数増殖後期から定常期の時点まで続け、菌体を遠心分離等で回収したのち、これに続く、化学式(8)で示される化合物と先に列挙したような有機酸或いはその塩とを含む培地中(好ましくは、窒素源を含まない)で、工程1で培養された微生物を更に培養する工程(工程1-2)を行なう方法、あるいは、化学式(8)で示される化合物、及び先に列挙したような糖類を含む培地中で微生物を培養する工程(工程1-3)を対数増殖後期から定常期の時点まで続け、菌体を遠心分離等で回収したのち、これに続く、化学式(8)で示される化合物と糖類とを含む培地中(好ましくは、窒素源を含まない)で、工程1で培養された微生物を更に培養する工程(工程1-4)を行なう方法等である。
【0091】
培養温度としては上記の菌株が良好に増殖可能な温度であれば良く、例えば 15〜40℃、好ましくは 20〜35℃、更に好ましくは 20℃から 30℃程度が適当である。
【0092】
培養は液体培養、固体培養等該微生物が増殖し、ポリヒドロキシアルカノエートを生産する培養方法ならいかなる培養方法でも用いることができる。さらに、バッチ培養、フェドバッチ培養、半連続培養、連続培養等の種類も問わない。液体バッチ培養の形態としては、振とうフラスコによって振とうさせて酸素を供給する方法、ジャーファーメンターによる攪拌通気方式の酸素供給方法がある。
【0093】
上記の培養方法に用いる無機培地としては、リン源(例えば、リン酸塩など)、窒素源(例えば、アンモニウム塩、硝酸塩など)等、当該微生物の増殖に必要な成分を含んでいるものであればいかなるものでも良く、例えば、MSB培地、M9培地等を挙げることができる。
【0094】
本発明の一方法に用いた無機塩培地(M9培地)の組成を以下に示す。
【0095】
[M9培地]
Na2HPO4 6.2g
KH2PO4 3.0g
NaCl 0.5g
NH4Cl 1.0g
(培地1リットル中、pH 7.0)
【0096】
更に、良好な増殖及びポリヒドロキシアルカノエートの生産のためには、上記の無機塩培地に以下に示す微量成分溶液を 0.3%(v/v)程度添加する必要がある。
【0097】
[微量成分溶液]
ニトリロ三酢酸: 1.5g;MgSO4: 3.0g ;
MnSO4: 0.5g ;NaCl: 1.0g ;FeSO4: 0.1g ;
CaCl2: 0.1g ;CoCl2: 0.1g ;ZnSO4: 0.1g ;
CuSO4: 0.1g ;AlK(SO4)2: 0.1g ;
3BO3: 0.1g ;Na2MoO4: 0.1g ;NiCl2: 0.1g
(溶液1リットル中、pH 7.0)
【0098】
(PHA回収工程)
本発明に用いる微生物は、このような培養方法により、上記化学式(1)で示される、側鎖末端に(フェニルメチル)スルファニル基を有する3-ヒドロキシアルカン酸ユニットを含むポリヒドロキシアルカノエートを生産し、その菌体内に蓄積する。従って、本発明のポリヒドロキシアルカノエート製造方法では、培養後、その菌体内から、目的とするポリヒドロキシアルカノエートを回収する工程を設ける。
【0099】
この微生物の培養菌体からのポリヒドロキシアルカノエートの回収には、溶媒抽出法を利用して、可溶化したポリヒドロキシアルカノエートを細胞由来の不溶成分と分離し、回収する手段を用いることができる。通常行なわれているクロロホルム抽出が最も簡便ではあるが、クロロホルム以外にジクロロメタン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトンが用いられる場合もある。
【0100】
また、有機溶媒が使用しにくい環境中においては、SDS等の界面活性剤による処理、リゾチーム等の酵素による処理、EDTAによる処理によってポリヒドロキシアルカノエート以外の菌体成分を除去して、菌体内成分を除去することによってポリヒドロキシアルカノエートのみを回収する方法を採ることもできる。或いは、超音波破砕法、ホモジナイザー法、圧力破砕法、ビーズ衝撃法、摩砕法、擂潰法、凍結融解法等の微生物細胞を破砕する処理によって細胞中に蓄積されたポリヒドロキシアルカノエートのみを分離、回収する方法を採ることもできる。
【0101】
なお、本発明の微生物の培養、本発明の微生物によるポリヒドロキシアルカノエートの生産と菌体への蓄積、並びに、本発明における菌体からのポリヒドロキシアルカノエートの回収は、上記の方法に限定されるものではない。
【0102】
本発明の方法により製造される、微生物産生のポリヒドロキシアルカノエートは、化学式(1)のユニットに加えて、培地中に添加する増殖基質を利用して、脂肪酸合成系を介して生合成する、化学式(4)で示される3-ヒドロキシアルカン酸ユニット、あるいは、化学式(5)で示される3-ヒドロキシアルカ-5-エン酸ユニットを含むこともある。なお、含まれる3-ヒドロキシアルカン酸ユニットは、いずれも、その3位の炭素原子は不斉炭素であるが、その絶対配置は同じくR-体であり、その生分解性を保持することは勿論のことである。化学式(1)のユニット中の、(フェニルメチル)スルファニル基を有することで、ポリマーそのものに新たな物理化学的な性質が加わり、物性の改良が見込まれ、これまでに応用し得なかった分野への展開が期待できる。
【0103】
【実施例】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。これら実施例は、本発明の最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は、これら実施例により限定されうるものではない。なお、以下における「%」は特に標記した以外は重量基準である。
【0104】
[実施例1]
D-グルコース 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%を含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0105】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 159mg得た。
【0106】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、以下の条件でNMR分析を行なった。
Figure 0003720774
1H-NMR、13C-NMRスペクトルチャートをそれぞれ図1、図2に、その同定結果を表1、表2にそれぞれ示す。
【0107】
【表1】
Figure 0003720774
【0108】
【表2】
Figure 0003720774
【0109】
表1及び表2に示す通り、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸をモノマーユニットとして含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 85.9mol%含むことがわかった。
【0110】
【化35】
Figure 0003720774
【0111】
また、得られたポリヒドロキシアルカノエートの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8220、カラム;東ソー TSK-GEL SuperHM-H、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=14400、Mw=56700 であった。
【0112】
[実施例2]
D-グルコース 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・H45株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%を含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。47時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0113】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 138mg得た。
【0114】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 95.2mol%含むことがわかった。
【0115】
[実施例3]
D-グルコース 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%を含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。47時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0116】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 164mg 得た。
【0117】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 96.7mol%含むことがわかった。
【0118】
[実施例4]
ポリペプトン(販売元 和光純薬工業) 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0119】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 161mg 得た。
【0120】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるPHAであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 83.8mol%含むことがわかった。
【0121】
[実施例5]
ポリペプトン(販売元 和光純薬工業) 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・H45株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0122】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 113mg 得た。
【0123】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 96.2mol%含むことがわかった。
【0124】
[実施例6]
ポリペプトン(販売元 和光純薬工業) 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0125】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 126mg 得た。
【0126】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 89.8mol%含むことがわかった。
【0127】
[実施例7]
ノナン酸 0.1%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0128】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 90mg 得た。
【0129】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 29.2mol%含むことがわかった。
【0130】
[実施例8]
酵母エキス 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0131】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 103mg 得た。
【0132】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 96.0mol%含むことがわかった。
【0133】
[実施例9]
グルタミン酸ナトリウム 0.5%、5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0134】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 87mg 得た。
【0135】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例1と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(12)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 86.4mol%含むことがわかった。
【0136】
表3は、各実施例における菌体乾燥重量、ポリマー乾燥重量、ポリマー乾燥重量/菌体乾燥重量及び得られたポリマーの3-ヒドロキシ-5-[(フェニルメチル)スルファニル]吉草酸(3HBzyTVと略す。)ユニットのmol%を示したものである。
【0137】
【表3】
Figure 0003720774
【0138】
[実施例10]
3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸モノマーユニットを含むポリヒドロキシアルカノエートの製造方法
酵母エキス 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。また、凍結乾燥された菌体の重量(菌体乾燥重量)を秤量した。
【0139】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。この濃縮液を、冷メタノール中に加えて、PHAを再沈澱させた。更に、沈澱物のみを回収し、次いで、真空乾燥した後、PHAポリマーの乾燥重量(回収量)を秤量した。本例では、PHA 39mg(乾燥重量)が得られた。
【0140】
得られたPHAの平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8220、カラム;東ソー TSK-GEL SuperHM-H、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した。その結果、数平均分子量 Mn=44500、質量平均分子量 Mw=106800 であった。
【0141】
更に、得られたPHAの構造を特定するため、以下の条件でNMR分析を行なった。
Figure 0003720774
図3に、測定された1H-NMRスペクトルチャートを示し、また、表4に、その同定結果を示す。
【0142】
【表4】
Figure 0003720774
【0143】
表4に示す結果より、当該PHAは3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸モノマーユニットを含んでおり、加えて、それ以外のモノマーユニットとして、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの3-ヒドロキシアルカン酸、または3-ヒドロキシアルケン酸をも含んでおり、具体的には、その構成は
下記化学式(13):
【0144】
【化36】
Figure 0003720774
【0145】
に示されるPHAであることが確認された。また、得られたPHAは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸ユニットを 85.4mol%含んでいることがわかった。
【0146】
[実施例11]
ノナン酸 0.1%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。また、凍結乾燥された菌体の重量(菌体乾燥重量)を秤量した。
【0147】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 68mg 得た。
【0148】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10 と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(13)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを 27.7mol%含むことがわかった。
【0149】
[実施例12]
グルタミン酸ナトリウム 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。また、凍結乾燥された菌体の重量(菌体乾燥重量)を秤量した。
【0150】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 72mg 得た。
【0151】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10 と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(13)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを 50.3mol%含むことがわかった。
【0152】
[実施例13]
D-グルコース 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含み、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。また、凍結乾燥された菌体の重量(菌体乾燥重量)を秤量した。
【0153】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 148mg 得た。
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10 と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(13)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを 66.7mol%含むことがわかった。
【0154】
[実施例14]
ポリペプトン(販売元 和光純薬工業)0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・H45株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、ピルビン酸ナトリウム 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含み、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。また、凍結乾燥された菌体の重量(菌体乾燥重量)を秤量した。
【0155】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 20mg 得た。
【0156】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10 と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(13)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを 57.2mol%含むことがわかった。
【0157】
[実施例15]
D-グルコース 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含むM9培地 200mLに、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸 0.1%を含み、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。また、凍結乾燥された菌体の重量(菌体乾燥重量)を秤量した。
【0158】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 64mg 得た。
【0159】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10 と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(13)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸のモノマーユニットを 31.6mol%含むことがわかった。
【0160】
表5は、各実施例における菌体乾燥重量、ポリマー乾燥重量、ポリマー乾燥重量/菌体乾燥重量及び得られたポリマーの3-ヒドロキシ-4-[(フェニルメチル)スルファニル]酪酸(3HBzyTBと略す。)ユニットのmol%を示したものである。
【0161】
【表5】
Figure 0003720774
【0162】
[実施例16]
3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸モノマーユニットを含むポリヒドロキシアルカノエートの製造方法
D-グルコース 0.5%、5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸 0.1%を含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0163】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 96mg 得た。
【0164】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10 と同様の方法でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸をモノマーユニットとして含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(14)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 41.0mol%含むことがわかった。
【0165】
【化37】
Figure 0003720774
【0166】
また、得られたポリヒドロキシアルカノエートの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソーHLC-8220、カラム;東ソー TSK-GEL SuperHM-H、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn=21500、Mw=83200 であった。
【0167】
[実施例17]
D-グルコース 0.5%、5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・チコリアイ・H45株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸 0.1%を含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。47時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0168】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 82mg 得た。
【0169】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(14)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 56.2mol%含むことがわかった。
【0170】
[実施例18]
D-グルコース 0.5%、5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸 0.1%とを含むM9培地 200mLに、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株を植菌し、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離により回収し、D-グルコース 0.5%、5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸 0.1%を含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mLに再懸濁して、更に、30℃、125ストローク/分で振盪培養した。47時間後、菌体を遠心分離により回収し、冷メタノールにて一度洗浄して凍結乾燥した。
【0171】
この凍結乾燥ペレットを 20mLクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してポリヒドロキシアルカノエートを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブランフィルターで濾過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノールで再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してポリヒドロキシアルカノエートを 75mg 得た。
【0172】
得られたポリヒドロキシアルカノエートは、実施例10と同様の条件でNMR分析を行なった結果、当該ポリヒドロキシアルカノエートは3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを含み、且つそれ以外のモノマーユニットが3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸などの炭素数4から 12までの飽和、不飽和脂肪酸である3-ヒドロキシアルカン酸または3-ヒドロキシアルケン酸を含む、化学式(14)で表されるポリヒドロキシアルカノエートであることが確認された。また、得られたポリヒドロキシアルカノエートは、1H-NMRスペクトル積分比より、3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸のモノマーユニットを 38.8mol%含むことがわかった。
【0173】
表6は、各実施例における菌体乾燥重量、ポリマー乾燥重量、ポリマー乾燥重量/菌体乾燥重量及び得られたポリマーの3-ヒドロキシ-3-ヒドロキシ-5-[[(4-メチルフェニル)メチル]スルファニル]吉草酸(3HMBzyTVと略す。)ユニットのmol%を示したものである。
【0174】
【表6】
Figure 0003720774
【0175】
【発明の効果】
本発明により、側鎖に(フェニルメチル)スルファニル構造を有するユニットである3−ヒドロキシ−ω-[(フェニルメチル)スルファニル]アルカン酸をモノマーユニットとして含むポリヒドロキシアルカノエートが提供される。また、これらのポリヒドロキシアルカノエートの微生物を用いて生産する方法が提供される。
【0176】
これにより、機能性ポリマーとして有用なポリヒドロキシアルカノエートが効率的に生産でき、デバイス材料や医薬材料等の各分野への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1におけるポリヒドロキシアルカノエートの1H-NMRスペクトルチャートを示す。
【図2】実施例1におけるポリヒドロキシアルカノエートの13C-NMRスペクトルチャートを示す。
【図3】実施例10 におけるポリヒドロキシアルカノエートの1H-NMRスペクトルチャートを示す。

Claims (8)

  1. 化学式(1):
    Figure 0003720774
    (式中、R1は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、xは、1〜8から選択される任意の整数を表し、ポリマー中において、一つ以上の値をとり得る)で示されるユニットを分子中に含むことを特徴とするポリヒドロキシアルカノエート(但し、化学式(2)及び(3)に示す2つのユニットの組み合わせのみからなるポリヒドロキシアルカノエートを除く)。
    Figure 0003720774
  2. 化学式(1)に示されるユニット以外に、化学式(4)及び(5)に示されるユニットの少なくとも一つを含む、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカノエート。
    Figure 0003720774
    (y及び zは化学式(1)で示すユニットと独立して化学式中に示した範囲内で任意の一つ以上の整数値をとり得る。)
  3. 化学式(8)で示される化合物を少なくとも一種類含む培地中で微生物を培養する工程と、
    前記微生物細胞からポリヒドロキシアルカノエートを分離回収する工程とを有することを特徴とする、化学式(1)で示すユニットを含むポリヒドロキシアルカノエート(化学式(2)及び(3)に示す2つのユニットの組み合わせのみからなるポリヒドロキシアルカノエートを除く)の製造方法。
    Figure 0003720774
    (式中、R2は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、kは、1〜8から選択される任意の整数を表し、一つ以上の値をとり得る)
    Figure 0003720774
    (式中、R1は芳香環への置換基を示し、H原子、CH3基、C25基、CH3CH2CH2基、(CH3)2CH基、(CH3)3C基から選択される基であり、また、xは、1〜8から選択される任意の整数を表し、ポリマー中において、一つ以上の値をとり得る)
    Figure 0003720774
  4. 前記微生物の培養が、二段階以上の培養工程を含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  5. 前記微生物の培養において、二段階目以降の培地中に窒素源を含まないことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
  6. 前記微生物の培養が、
    (工程1-1)化学式(8)で示される化合物を少なくとも一種類含み、且つポリペプトンを含む培地中で微生物を培養する工程と、これに続き、(工程1-2)化学式(8)で示される化合物を少なくとも一種類含み、且つ有機酸或いはその塩とを含む培地中で、工程1-1で培養された微生物を更に培養する工程とを有することを特徴とする請求項またはに記載の製造方法。
  7. 前記微生物の培養が、(工程1-3)化学式(8)で示される化合物を少なくとも一種類含み、且つ糖類を含む培地中で微生物を培養する工程と、これに続き、
    (工程1-4)化学式(8)で示される化合物を少なくとも一種類含み、且つ糖類を含む培地中で、工程1-3で培養された微生物を更に培養する工程とを有することを特徴とする請求項またはに記載の製造方法。
  8. 前記ポリヒドロキシアルカノエート分離回収工程が、微生物細胞を破砕する工程を含むことを特徴とする請求項3〜7のいずれかに記載の製造方法。
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