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JP3768835B2 - 3−ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸をモノマーユニットとして含むポリヒドロキシアルカノエート及びその製造方法 - Google Patents

3−ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸をモノマーユニットとして含むポリヒドロキシアルカノエート及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は新規なポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと略す場合もある)に関する。また、PHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物を用いた当該PHAの極めて効率的な製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまで、多くの微生物がポリ-3-ヒドロキシ酪酸(以下、PHBと略す場合もある)あるいはその他のPHAを生産し、菌体内に蓄積することが報告されてきた(「生分解性プラスチックハンドブック」、生分解性プラスチック研究会編、(株)エヌ・ティー・エス、P178-197)。これらのポリマーは従来のプラスチックと同様に、溶融加工等により各種製品の生産に利用することができる。さらに、生分解性であるがゆえに、自然界で微生物により完全分解されるという利点を有しており、従来の多くの合成高分子化合物のように自然環境に残留して汚染を引き起こすことがない。また、生体適合性にも優れており、医療用軟質部材等としての応用も期待されている。
【0003】
このような微生物産生PHAは、その生産に用いる微生物の種類や培地組成,培養条件等により、様々な組成や構造のものとなり得ることが知られており、これまで主に、PHAの物性の改良という観点から、このような組成や構造の制御に関する研究がなされてきた。
【0004】
《1》まず、3-ヒドロキシ酪酸(以下、3HBと略す)をはじめとする比較的簡単な構造のモノマーユニットを重合させたPHAの生合成としては、次のものが挙げられる。
【0005】
例えば、アルカリゲネス・ユウトロファス H16株(Alcaligenes eutropus H16、ATCC No.17699)及びその変異株は、その培養時の炭素源を変化させることによって、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸との共重合体を様々な組成比で生産することが報告されている(特公平6-15604 号公報、特公平7-14352 号公報、特公平8-19227 号公報など)。
【0006】
特開平5-74492 号公報では、メチロバクテリウム属(Methylobacterium sp.)、パラコッカス属(Paracoccus sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)の微生物を、炭素数3から7の第一アルコールに接触させることにより、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシ吉草酸との共重合体を生産させる方法が開示されている。
【0007】
特開平5-93049号公報及び特開平7-265065号公報では、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)を、オレイン酸やオリーブ油を炭素源として培養することにより、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸との2成分共重合体を生産することが開示されている。
【0008】
特開平9-191893 号公報では、コマモナス・アシドボランス・IFO 13852 株(Comamonas acidovorans IFO 13852)が、炭素源としてグルコン酸及び1,4-ブタンジオールを用いた培養により、3-ヒドロキシ酪酸と4-ヒドロキシ酪酸とをモノマーユニットに持つポリエステルを生産することが開示されている。
【0009】
また、近年、炭素数が 12 程度までの中鎖長(medium-chain-length:mclと略記)の3-ヒドロキシアルカン酸からなるPHAについての研究が精力的に行なわれている。このようなPHAの合成経路は大きく2つに分類することが可能であり、その具体例を下記(1)および(2)に示す。
(1)β酸化を利用した合成:
特許公報第 2642937 号では、シュードモナス・オレオボランス・ATCC 29347 株(Pseudomonas oleovorans ATCC 29347)に、炭素源として非環状脂肪族炭化水素を与えることにより、炭素数が6から 12 までの3-ヒドロキシアルカン酸のモノマーユニットを有するPHAが生産されることが開示されている。また、Appl.Environ.Microbiol,58(2),746(1992)には、シュードモナス・レジノボランス(Pseudomonas resinovorans)が、オクタン酸を単一炭素源として、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシデカン酸(量比 1:15:75:9)をモノマーユニットとするポリエステルを生産し、また、ヘキサン酸を単一炭素源として、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシデカン酸(量比 8:62:23:7)をユニットとするポリエステルを生産することが報告されている。ここで、原料の脂肪酸よりも鎖長の長い3-ヒドロキシアルカン酸モノマーユニットは(2)で説明する脂肪酸合成経路を経由していると考えられる。
(2)脂肪酸合成経路を利用した合成
Int.J.Biol.Macromol.,16(3),119(1994)には、シュードモナスsp.61-3株(Pseudomonas sp.61-3 strain)が、グルコン酸ナトリウムを単一炭素源として、3-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシドデカン酸といった3-ヒドロキシアルカン酸および、3-ヒドロキシ-5-cis-デセン酸、3-ヒドロキシ-5-cis-ドデセン酸といった3-ヒドロキシアルケン酸をユニットとするポリエステルを生産することが報告されている。
【0010】
ところで、通常、PHAの生合成は、細胞内の様々な代謝経路の中間体として生じる「D-3-ヒドロキシアシル-CoA」を基質とし、PHAシンターゼ(PHA synthase)により行なわれる。
【0011】
ここで、「CoA」とは「補酵素A(coenzyme A)」のことである。そして上記(1)の先行技術に記載されている様に、オクタン酸やノナン酸等の脂肪酸を炭素源とした場合、PHAの生合成は、「β酸化サイクル」中に生じた「D-3-ヒドロキシアシル-CoA」が出発物質として行なわれるとされている。
【0012】
以下に、「β酸化サイクル」を経由してPHAが生合成されるまでの反応を示す。
【0013】
【化 15】
Figure 0003768835
【0014】
一方、上記(2)の先行技術に記載されている様に、グルコース等の糖類を基質とし、PHAを生合成する場合は、「脂肪酸合成経路」中に生じた「D-3-ヒドロキシアシル-ACP」から変換された「D-3-ヒドロキシアシル-CoA」が出発物質として行なわれるとされている。
ここで、「ACP」とは「アシルキャリアプロテイン(acyl carrier protein)」のことである。
【0015】
ところで、先に述べたとおり、上記(1)および(2)で合成されているPHAは、いずれも側鎖にアルキル基を有するモノマーユニットからなるPHA、即ち、「usual PHA」である。
【0016】
《2》しかし、このような微生物産生PHAのより広範囲な応用、例えば機能性ポリマーとしての応用を考慮した場合、アルキル基以外の置換基を側鎖に導入したPHA(「unusual PHA」)が極めて有用であることが期待される。置換基の例としては、芳香環を含むもの(フェニル基、フェノキシ基、ベンゾイル基など)や、不飽和炭化水素、エステル基、アリル基、シアノ基、ハロゲン化炭化水素、エポキシドなどが挙げられる。これらの中でも、特に、芳香環を有するPHAの研究が盛んになされている。
【0017】
(a)フェニル基もしくはその部分置換体を含むもの
Makromol.Chem.,191,1957-1965(1990)及びMacromolecules,24,5256-5260(1991)には、5-フェニル吉草酸を基質として、シュードモナス オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)が3-ヒドロキシ-5-フェニル吉草酸をユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。
【0018】
具体的には、シュードモナス・オレオボランスが5-フェニル吉草酸とノナン酸とを基質として(モル比2:1、総濃度 10mmol/L)、3-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシノナン酸、3-ヒドロキシウンデカン酸、3-ヒドロキシ-5-フェニル吉草酸をモノマーユニットとして、0.6:16.0:41.1:1.7:40.6 の量比で含むPHAを、培養液1Lあたり 160mg(菌体に対する乾燥重量比 31.6%)生産し、また、5-フェニル吉草酸とオクタン酸とを基質として(モル比1:1、総濃度 10mmol/L)、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシデカン酸、3-ヒドロキシ-5-フェニル吉草酸をモノマーユニットとして、7.3:64.5:3.9:24.3 の量比で含むPHAを、培養液1Lあたり 200mg(菌体に対する乾燥重量比 39.2%)生産することが報告されている。この報告におけるPHAは、ノナン酸やオクタン酸が用いられていることからも主にβ酸化経路を経て合成されているものと考えられる。
【0019】
関連する記述は、上記の他Chirality,3,492-494(1991)にもあり、3-ヒドロキシ-5-フェニル吉草酸ユニットが含まれていることに起因すると思われる、ポリマー物性の変化が認められている。
【0020】
Macromolecules,29,1762-1766(1996)には、5-(4'-トリル)吉草酸を基質として、シュードモナス オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)が3-ヒドロキシ-5-(4'-トリル)吉草酸をユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。
【0021】
Macromolecules,32,2889-2895(1999)には、5-(2',4'-ジニトロフェニル)吉草酸を基質として、シュードモナス オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)が3-ヒドロキシ-5-(2',4'-ジニトロフェニル)吉草酸及び3-ヒドロキシ-5-(4'-ニトロフェニル)吉草酸をユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。
【0022】
(b)フェノキシ基もしくはその部分置換体を含むもの
Macromol.Chem.Phys.,195,1665-1672(1994)には、11-フェノキシウンデカン酸を基質として、シュードモナス オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)が3-ヒドロキシ-5-フェノキシ吉草酸と3-ヒドロキシ-9-フェノキシノナン酸のPHAコポリマーを生産することが報告されている。
【0023】
また、Macromolecules,29,3432-3435(1996)には、シュードモナス・オレオボランスを用いて、6-フェノキシヘキサン酸から3-ヒドロキシ-4-フェノキシ酪酸および3-ヒドロキシ-6-フェノキシヘキサン酸をユニットとして含むPHAを、8-フェノキシオクタン酸から3-ヒドロキシ-4-フェノキシ酪酸、3-ヒドロキシ-6-フェノキシヘキサン酸および3-ヒドロキシ-8-フェノキシオクタン酸をユニットとして含むPHAを、11-フェノキシウンデカン酸から3-ヒドロキシ-5-フェノキシ吉草酸および3-ヒドロキシ-7-フェノキシヘプタン酸をユニットとして含むPHAを生産することが報告されている。この報告におけるポリマーの収率を抜粋すると以下のとおりである。
【0024】
【表1】
Figure 0003768835
【0025】
特許公報第 2989175号には、3-ヒドロキシ-5-(モノフルオロフェノキシ)ペンタノエート(3H5(MFP)P)ユニットあるいは3-ヒドロキシ-5-(ジフルオロフェノキシ)ペンタノエート(3H5(DFP)P)ユニットからなるホモポリマー、少なくとも3H5(MFP)Pユニットあるいは3H5(DFP)Pユニットを含有するコポリマー;これらのポリマーを合成するシュードモナス・プチダ;シュードモナス属を用いた前記のポリマーの製造法に関する発明が開示されており、 特許第 2989175号公報には、3-ヒドロキシ-5-(モノフルオロフェノキシ)ペンタノエート(3H5(MFP)P)ユニットあるいは3-ヒドロキシ-5-(ジフルオロフェノキシ)ペンタノエート(3H5(DFP)P)ユニットからなるホモポリマー、少なくとも3H5(MFP)Pユニットあるいは3H5(DFP)Pユニットを含有するコポリマー;これらのポリマーを合成するシュードモナス・プチダ;シュードモナス属を用いた前記のポリマーの製造法に関する発明が開示されている。
【0026】
これらの生産は以下の様な「二段階培養」で行なわれている。
培養時間: 一段目、24時間 ; 二段目、96時間
各段における基質と得られるポリマーを以下に示す。
(1)得られるポリマー:3-ヒドロキシ-5-(モノフルオロフェノキシ)ペンタノエートホモポリマー
一段目の基質:クエン酸、イーストエキス
二段目の基質:モノフルオロフェノキシウンデカン酸
(2)得られるポリマー:3-ヒドロキシ-5-(ジフルオロフェノキシ)ペンタノエートホモポリマー
一段目の基質:クエン酸、イーストエキス
二段目の基質:ジフルオロフェノキシウンデカン酸
(3)得られるポリマー: 3-ヒドロキシ-5-(モノフルオロフェノキシ)ペンタノエートコポリマー
一段目の基質:オクタン酸あるいはノナン酸、イーストエキス
二段目の基質:モノフルオロフェノキシウンデカン酸
(4)得られるポリマー: 3-ヒドロキシ-5-(ジフルオロフェノキシ)ペンタノエートコポリマー
一段目の基質:オクタン酸あるいはノナン酸、イーストエキス
二段目の基質:ジフルオロフェノキシウンデカン酸
その効果としては、置換基をもつ中鎖脂肪酸を資化して、側鎖末端が1から2個のフッ素原子で置換されたフェノキシ基を有するポリマーを合成することができ、融点が高く良い加工性を保ちながら、立体規則性、撥水性を与えることができるとしている。
【0027】
この様なフッ素基置換体以外に、シアノ基やニトロ基の置換体の研究もなされている。
【0028】
Can.J.Microbiol.,41,32-43(1995)及び Polymer International,39,205-213(1996)には、シュードモナス オレオボランス(Pseudomonas oleovorans)ATCC 29347株及びシュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)KT 2442株を用いて、オクタン酸とp-シアノフェノキシヘキサン酸或いはp-ニトロフェノキシヘキサン酸を基質として、3-ヒドロキシ-p-シアノフェノキシヘキサン酸或いは3-ヒドロキシ-p-ニトロフェノキシヘキサン酸をモノマーユニットとして含むPHAの生産が報告されている。
【0029】
これらの報告は側鎖がアルキル基である一般的なPHAとは異なり、いずれもPHAの側鎖に芳香環を有しており、それに由来する物性を有するポリマーを得る上で有益である。
【0030】
(c)シクロヘキシル基をモノマーユニット中に含むPHAは、通常の脂肪族ヒドロキシアルカン酸をユニットとして含むPHAとは異なる高分子物性を示すことが期待されており、シュードモナス・オレオボランスによる生産の例が報告されている(Macromolecules,30,1611-1615(1997))。
【0031】
この報告によれば、シュードモナス・オレオボランスを、ノナン酸とシクロヘキシル酪酸あるいはシクロヘキシル吉草酸の共存する培地中で培養すると、シクロヘキシル基を含むユニットと、ノナン酸由来のユニットを含むPHAが得られている(各割合は不明)。
【0032】
その収率等に関しては、シクロヘキシル酪酸に対して、基質濃度トータル 20 mmol/Lの条件で、シクロヘキシル酪酸とノナン酸の量比を変化させ、表2に示すような結果を得たと報告されている。
【0033】
【表2】
Figure 0003768835
【0034】
CDW:乾燥菌体重量(mg/L)、PDW:乾燥ポリマー重量(mg/L)、収率:PDW/CDW(%)
しかしながら、この例では、培養液当たりのポリマー収率は十分なものではなく、また、得られたPHA自体も、そのモノマーユニット中にはノナン酸由来の脂肪族ヒドロキシアルカン酸が混在しているものである。
【0035】
《3》また新たなカテゴリーとして、単に物性の変化に留まらず、側鎖に適当な官能基を有するPHAを生産し、その官能基を利用して新たな機能を生み出そうとする研究も行なわれている。
【0036】
例えばMacromolecules,31,1480-1486(1996)及び、Journal of PolymerScience:Part A:Polymer Chemistry,36,2381-2387(1998)などでは、側鎖の末端にビニル基を持つユニットを含むPHAを合成した後、酸化剤によりエポキシ化し、側鎖末端に反応性の高いエポキシ基を含むPHAを合成出来たと報告されている。
【0037】
またビニル基以外にも、高い反応性が期待されるスルフィドを持つユニットを含むPHAの合成例として、Macromolecules,32,8315-8318(1999)においては、シュードモナス プチダ(Pseudomonas putida)27N01株が 11-フェニルスルファニル吉草酸を基質とし、3-ヒドロキシ-5-(フェニルスルファニル)吉草酸及び3-ヒドロキシ-7-(フェニルスルファニル)ヘプタン酸のPHAコポリマーを生産することが報告されている。
【0038】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、微生物産生PHAにおいては、その製造に用いる微生物の種類や培地組成、培養条件等を変えることにより、各種の組成・構造のものが得られているが、プラスチックとしての応用を考えた場合、物性的に未だ十分であるとは言えない。微生物産生PHAの利用範囲をさらに拡大していくためには、物性の改良をより幅広く検討していくことが重要であり、そのためにはさらに多様な構造のモノマーユニットを含むPHAと、その製造方法、ならびに所望のPHAを効率的に生産しうる微生物の開発、探索が必須である。
【0039】
一方、前述のような、置換基を側鎖に導入したタイプのPHA(unusual PHA)は、導入した置換基を所望とする特性等に応じて選択することで、導入した置換基の特性等に起因する、極めて有用な機能や特性を具備した「機能性ポリマー」としての展開も期待でき、そのような機能性と生分解性とを両立可能であるような優れたPHAと、その製造方法、ならびに、所望のPHAを効率的に生産しうる微生物の開発、探索もまた重要な課題である。
【0040】
すなわち、様々な置換基を側鎖に導入したPHAを微生物により生産しようとする場合、先に挙げたシュードモナス・オレオボランスの報告例等に見られるように、導入しようとする置換基を有するアルカノエートを、ポリマー原料としての利用に加えて増殖用炭素源としても利用する方法が用いられている。
【0041】
しかしながら、導入しようとする置換基を有するアルカノエートを、ポリマー原料としての利用に加えて増殖用炭素源としても利用する方法は、当該アルカノエートからのβ酸化によるアセチルCoAの生成に基づくエネルギー源の供給が期待されており、このような方法においては、ある程度の鎖長を有する基質でないとβ酸化によりアセチルCoAを生成することができず、このためPHAの基質として用いうるアルカノエートが限定されてしまう点が大きな課題である。また、一般的に、β酸化により鎖長がメチレン鎖2つ分ずつ短くなった基質が新たに生成し、これらがPHAのモノマーユニットとして取り込まれるため、合成されるPHAは鎖長がメチレン鎖2つ分ずつ異なるモノマーユニットからなる共重合体となることが多い。前述の報告例では、基質である8-フェノキシオクタン酸由来の3-ヒドロキシ-8-フェノキシオクタン酸と、代謝産物由来の副生物である3-ヒドロキシ-6-フェノキシヘキサン酸及び3-ヒドロキシ-4-フェノキシ酪酸の3種類のモノマーユニットからなる共重合体が生産される。この点で、単一のモノマーユニットからなるPHAを得ようとする場合、この方法を用いることは極めて難しい。さらに、β酸化によるアセチルCoAの生成に基づいたエネルギー源の供給を前提とした方法では、微生物の増殖が遅く、PHAの合成に時間がかかる点、合成されたPHAの収率が低くなりがちな点も大きな課題である。
【0042】
このため、導入しようとする置換基を有するアルカノエートに加えて、増殖用炭素源として、オクタン酸やノナン酸といった中鎖の脂肪酸等を共存させた培地で微生物を培養したのち、PHAを抽出する方法が有効と考えられ、一般的に用いられている。
【0043】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記のようにオクタン酸やノナン酸といった中鎖の脂肪酸等を増殖用炭素源とし、β酸化経路を経て合成されたPHAは、その純度が低く、得られるポリマーの 50%以上が、増殖用炭素源に由来するモノマーユニット(例えば、3-ヒドロキシオクタン酸や3-ヒドロキシノナン酸等)である、mclの3-ヒドロキシアルカン酸モノマーユニット(以下、mcl-3HAと略す場合がある)、すなわち「usual PHA」のユニットである。これらのmcl-3HAユニットは、単独の組成においては常温で粘着性のポリマーであり、本発明の目的とするPHAに多量に混在した場合、ポリマーのガラス転移温度(Tg)を著しく降下させる。このため、常温で硬いポリマー物性を得ようとする場合、mcl-3HAモノマーユニットの混在は望ましくない。また、このようなヘテロな側鎖構造は分子内あるいは分子間での側鎖構造に由来する相互作用を妨害し、結晶性あるいは配向性に大きな影響を与えることが知られている。
【0044】
ポリマー物性の向上、機能性の付与を達成するにあたり、これらのmcl-3HAモノマーユニットの混在は大きな課題である。この課題の解決手段としては、特定の置換基を有するモノマーユニットのみで構成されたPHAを取得するために、増殖用炭素源由来のmcl-3HAモノマーユニット等の「目的外」のモノマーユニットを分離/除去するための精製工程を設けることが挙げられる。しかしながら、操作が煩雑となる上、収率の大幅な低下も避けられない点が課題となる。
【0045】
さらに大きな問題点は、目的のモノマーユニットと目的外のモノマーユニットとが共重合体を形成している場合、目的外のモノマーユニットのみを除去するのは極めて困難な点である。特に、不飽和炭化水素から得られる基、エステル基、アリル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン化炭化水素から得られる基、エポキシド等が導入された基を側鎖構造として有するようなモノマーユニットを含むPHAの合成を目的とする場合、mcl-3HAモノマーユニットは目的のモノマーユニットと共重合体を形成する場合が多く、PHA合成後のmcl-3HAモノマーユニット除去は極めて困難である。
【0046】
このため、本発明者らは、機能性ポリマーへの応用を考慮した場合、「unusual PHA」を高純度で得られる生合成方法の開発が是非とも必要であるとの認識を持つに至った。よって、前記のような機能性と生分解性とを兼ね備えた優れたポリマーと、当該ポリマーを生産し菌体内に蓄積し得る微生物、並びに、当該PHAを高純度で効率的に生合成する方法の開発は極めて有用かつ重要であると考えられた。
【0047】
本発明は前記の課題を解決するものであり、デバイス材料や医用材料等として有用な置換基を側鎖に有する多様な構造のモノマーユニットを含むPHA(unusual PHA)の提供、ならびに、当該「unusual PHA」を微生物を利用して製造する方法の提供、特には、目的外のモノマーユニットの混在が少なく、目的とする「unusual PHA」を高純度で得ることができ、しかも高収率な製造方法を提供することにある。
【0048】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者らは、デバイス材料や医用材料等として有用な官能基を側鎖に有するPHAの開発を目指して、各種のPHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物の探索、及び、このような微生物を用いた所望のPHAの生産方法について鋭意研究を重ねてきた。その結果、化学式[7]、
【0049】
【化 16】
Figure 0003768835
【0050】
(ただし、式中nは1から8の整数のいずれかを表し、Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される置換ベンゾイルアルカン酸を原料として、化学式[8]、
【0051】
【化 17】
Figure 0003768835
【0052】
(ただし、式中mはn,n-2,n-4,n-6からなる群より選択される少なくとも1つ以上でありかつ1以上の整数を表し、nは前記化学式[7]中のnと対応する1から8の整数のいずれかを表し、Rは前記化学式[7]中のRと対応するハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットを含む新規なPHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物を見出し、さらに、これら微生物を前記化学式[7]で表される置換ベンゾイルアルカン酸と、糖類,TCAサイクルに関与する有機酸,酵母エキスまたはポリペプトンの共存下で培養することにより、当該PHAを生合成することができること、それによって得られる当該PHAが比較的高純度であることを見出した。
【0053】
詳しくは、例えば、化学式[9]、
【0054】
【化 18】
Figure 0003768835
【0055】
(ただし、式中Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される置換ベンゾイル吉草酸を原料として、化学式[5]、
【0056】
【化 19】
Figure 0003768835
【0057】
(ただし、式中Rは前記化学式[9]中のRと対応するハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される3-ヒドロキシ置換ベンゾイル吉草酸ユニットを含む新規なPHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物を見出し、さらに、これら微生物を前記化学式[9]で表される置換ベンゾイル吉草酸と、糖類,TCAサイクルに関与する有機酸,酵母エキスまたはポリペプトンの共存下で培養することにより、当該PHAを生合成することができること、それによって得られる当該PHAが比較的高純度であることを見出した。
さらに詳しくは、例えば、化学式[10]、
【0058】
【化 20】
Figure 0003768835
【0059】
で表される5-(4-フルオロベンゾイル)吉草酸(以下、FBzVAと略す)を原料として、化学式[6]、
【0060】
【化 21】
Figure 0003768835
【0061】
で表される3-ヒドロキシ-5-(4-フルオロベンゾイル)吉草酸ユニット(以下、3HFBzVと略す場合がある)を含む新規なPHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物を見出し、さらに、これら微生物を置換ベンゾイルアルカン酸と、糖類,TCAサイクルに関与する有機酸,酵母エキスまたはポリペプトンとの共存下で培養することにより、当該PHAを生合成することができること、それによって得られる当該PHAが比較的高純度であることを見出し、本発明を為すに至った。
【0062】
すなわち、本発明は、化学式[2]、
【0063】
【化 22】
Figure 0003768835
【0064】
(ただし、式中nは1から8の整数のいずれかを表し、Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットをモノマーユニットとして含むPHAに関するものである。
なお、本発明のPHAでは、目的とするモノマーユニットである前記化学式[2]で示されるもの以外のモノマーユニットは、すべて下記化学式[3]または下記化学式[4]で表されるモノマーユニットから選択される少なくとも1つ以上である。
【化31】
Figure 0003768835
(ただし、式中pは0から10の整数のいずれかを表す。)
【化32】
Figure 0003768835
(ただし、式中qは3または5の整数のいずれかを表す。)
本発明のPHAにおいては前記化学式[2]で示されるモノマーユニットの割合は0.01以上1以下である。
さらに好ましくは本発明のPHAは、前記化学式[2]で示されるモノマーユニットの一部として、下記化学式[5]で示されるモノマーユニットを含む。
【化33】
Figure 0003768835
(ただし、式中Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
また、本発明は、これらのPHAの製造方法であって、置換ベンゾイルアルカン酸を利用して該組成を有するポリヒドロキシアルカノエートを合成し得る微生物である、シュードモナス・チコリアイ・H45株(Pseudomonas cichorii H45、FERM BP-7374)、シュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2、FERM BP-7375)、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株(Pseudomonas jessenii P161、FERM BP -7376)からなる群から選択される少なくとも1つの株を、該置換ベンゾイルアルカン酸を含む培地で培養する工程と、
前記微生物が産生したポリヒドロキシアルカノエートを単離する工程とを有することを特徴とする。
好ましくは、化学式[7]、
【0065】
【化 23】
Figure 0003768835
【0066】
(ただし、式中nは1から8の整数のいずれかを表し、Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される置換ベンゾイルアルカン酸を含む培地で微生物を培養することで、該微生物に、下記化学式[8]、
【0067】
【化 24】
Figure 0003768835
【0068】
(ただし、式中mはn,n-2,n-4,n-6からなる群より選択される少なくとも1つ以上でありかつ1以上の整数を表し、nは前記化学式[7]中のnと対応する1から8の整数のいずれかを表し、Rは前記化学式[7]中のRと対応するハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
で表される、対応する3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットを有するPHAを産生させる工程を有することを特徴とする
【0069】
すなわち、本発明のPHAの製造方法は、3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットを含むPHAを生産する微生物を、置換ベンゾイルアルカン酸と、糖類,TCAサイクルに関与する有機酸,酵母エキスまたはポリペプトンとの共存下で培養する工程を有することを特徴とする。
【0070】
【発明の実施の形態】
本発明のPHAは、デバイス材料や撥水性材料、医用材料等として有用な置換基を側鎖に有する多様な構造のモノマーユニットを含むPHAであり、より具体的には、置換ベンゾイル基を側鎖に有するPHAである。また、本発明のPHAの製造方法は、微生物を利用して高純度かつ高収率に所望のPHAを製造することを可能とするものである。なお、本発明のPHAは、一般にR体のみから構成される、アイソタクチックなポリマーである。
【0071】
<糖類ならびにTCAサイクルに関与する有機酸 従来技術との差異>
本発明のPHA製造方法の1つは、微生物を培養する際、培地に所望とするモノマーユニット導入用のアルカン酸に加えて、当該アルカン酸以外の炭素源として、糖類あるいはTCAサイクルに関与する有機酸を添加することで、微生物が産生・蓄積するPHAにおいて、目的とするモノマーユニットの含有率を著しく高いものとする、あるいは目的とするモノマーユニットのみとする点を特徴としている。この特定のモノマーユニットの優先化を促進する効果は、培地中に当該アルカン酸以外の炭素源として、糖類あるいはTCAサイクルに関与する有機酸のみを添加することにより得られている。
【0072】
すなわち、発明者らは、糖類あるいはTCAサイクルに関与する有機酸を共存基質として、所望とするモノマーユニット導入用のアルカン酸と共に培養せしめたところ、ノナン酸やオクタン酸といったmcl-アルカン酸を共存基質として用いた従来の方法に比べ、目的とするPHAが格段に優れた収率および純度で得られること、そしてこのような効果が、微生物の炭素源ならびにエネルギー源であるアセチルCoAをβ酸化に拠らない方法により生成することが可能な培養方法であることにより得られるものであるとの知見を得て本発明に至ったものである。
【0073】
本発明の方法においては、糖類化合物、例えばグルコースやフルクトース,マンノース等は、微生物の増殖基質として利用されることになり、生産されるPHAは、糖類に共存させている所望とするモノマーユニット導入用のアルカノエートから構成され、グルコース等の糖類に由来するモノマーユニットが全く含まれないか、極めて少量しか含まれない。このような点で、本発明の方法は、従来のグルコースなどの糖類そのものをPHAに導入するモノマーユニットの原料基質として用いるPHA微生物生産方法とは構成及び効果ともに根本的に異なるものである。
【0074】
<酵母エキス 従来技術との差異>
本発明のPHA製造方法の1つは、微生物を培養する際、培地に所望とするモノマーユニット導入用のアルカン酸に加えて、当該アルカン酸以外の炭素源として酵母エキスのみを添加することで、微生物が産生・蓄積するPHAにおいて、目的とするモノマーユニットの含有率を著しく高いものとする、あるいは目的とするモノマーユニットのみとする点を特徴としている。この特定のモノマーユニットの優先化を促進する効果は、培地中に当該アルカン酸以外の炭素源として酵母エキスのみを添加することにより得られている。
【0075】
微生物によるPHAの製造に際して、培地に酵母エキスを利用する例として、特開平5-49487 号公報に記載の、ロドバクター属(Rhodobacter sp.)に属する微生物を用いた方法が挙げられる。しかしながら、この従来法は、置換基を有しないヒドロキシアルカノエートをモノマーユニットとする、一般的なPHBおよびポリ-3-ヒドロキシ吉草酸(以下、PHVと略す場合もある)を製造する方法である。本発明が目的とするようなPHAの合成経路は、PHBおよびPHVを生産する合成経路とは独立した経路であることが知られており、特開平5-49487 号公報においては本発明が目的とするようなPHAの合成経路における酵母エキスの効果については何ら言及がない。また、酵母エキスの効果も、微生物が一般的に生産するPHAやPHVに関して、酵母エキスを添加すると、単に菌体内のPHA蓄積量の増大が図られる効果があることを示すのみであり、増殖のために酵母エキスが添加されている訳ではないことが明記されている。
【0076】
本発明は置換ベンゾイルアルカン酸と酵母エキスとを共存させることにより、増殖とともにPHAの生産・蓄積を行なうものであり、酵母エキスの発揮する効果が全く異なる。さらに本発明の効果である、特定のモノマーユニットの優占化について何ら言及されておらず、本発明のように、微生物が生産するPHA組成における、置換ベンゾイル基を置換基として有する特定のモノマーユニットの優占化という効果は示されていない。
【0077】
さらに、微生物によるPHAの生産に酵母エキスを利用する例としては、特許第 2989175号公報に記載のシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)を用いた方法が挙げられる。ここで開示されているPHAの製造方法は2段階培養によるもののみであり、PHAの蓄積は2段階目の培養においてのみ、炭素源以外の栄養源の制限下で行なうことが開示されている。この点で、本発明における、置換ベンゾイルアルカン酸と酵母エキスとを含む培地での1段階培養のみで、所望のPHAを合成・蓄積させる方法とは構成/効果ともに全く異なる。
【0078】
また、特許第 2989175号公報における酵母エキスの効果は、2段階培養を用いる際、1段階目の培養において、単に2段階目の培養に用いる微生物の増殖のみを目的としたものであり、1段階目は栄養源の豊富な条件下で培養されると明記されている。ここで、PHAの基質は1段階目には共存していない。本発明における酵母エキスの効果は、置換ベンゾイルアルカン酸と酵母エキスとを共存させることにより、増殖とともにPHAの生産・蓄積を行なうものであり、酵母エキスの発揮する効果が全く異なる。
【0079】
また、特許第 2989175号公報では、1段階目の培養に、炭素源としてクエン酸、オクタン酸、ノナン酸のいずれかが共存しており、置換ベンゾイルアルカン酸と酵母エキスのみを共存させる本発明とは、構成においても異なるものである。
【0080】
<ポリペプトン 従来技術との差異>
本発明のPHA製造方法の1つは、微生物を培養する際、培地に所望とするモノマーユニット導入用のアルカン酸に加えて、当該アルカン酸以外の炭素源としてポリペプトンのみを添加することで、微生物が産生・蓄積するPHAにおいて、目的とするモノマーユニットの含有率を著しく高いものとする、あるいは目的とするモノマーユニットのみとする点を特徴としている。この特定のモノマーユニットの優先化を促進する効果は、培地中に当該アルカン酸以外の炭素源として、ポリペプトンのみを添加することにより得られている。
【0081】
なお、微生物によるPHAの生産にポリペプトンを利用する例として、特開平5-49487号公報、特開平5-64591号公報、特開平5-214081号公報、特開平6-145311号公報、特開平6-284892号公報、特開平7-48438公報、特開平8-89264号公報、特開平9-191893号公報、特開平 11-32789号公報等に、PHAを微生物に生産させる際に、培地中にポリペプトンを含有させていることが開示されているが、いずれも前培養、つまり、菌体を単に増殖させる段階で用いており、前培養時にPHAのモノマーユニットとなる基質は含まれていない。また、菌体にPHAを生産させる工程でポリペプトンを用いた例はない。
【0082】
これに対して、本発明は所望のモノマーユニット導入用のアルカン酸と、当該アルカン酸以外の炭素源として、ポリペプトンのみを共存させることにより、増殖とともにPHAの生産・蓄積を行なうものであり、従来のポリペプトンを利用した例とは構成および効果が全く異なる。さらに本発明の効果である、特定のモノマーユニットの優占化について何ら言及されておらず、本発明のように、微生物が生産するPHA組成における、置換ベンゾイル基を置換基として有する特定のモノマーユニットの優占化という効果は示されていない。
【0083】
以下に、本発明において利用される微生物、培養工程などについて説明する。
【0084】
<PHAモノマーユニット供給系>
先ず、目的とするPHAに混在してくるmcl-3HAモノマーユニットの供給系の1つである「脂肪酸合成経路」について詳細に説明する。
【0085】
グルコース等の糖類を基質とした場合、細胞成分として必要なアルカン酸は、糖類から「解糖系」を経て生産されるアセチルCoAを出発物質とした「脂肪酸合成経路」から生合成される。なお、脂肪酸合成には新規(de novo)合成経路と炭素鎖延長経路があり、以下にこれらについて説明する。
【0086】
(1)新規(de novo)合成経路
アセチルCoAカルボキシラーゼ(EC 6.4.1.2)と脂肪酸合成酵素(EC 2.3.1.85)の2つの酵素で触媒される。なお、アセチルCoAカルボキシラーゼは、ビオチンを介在し、最終的に以下の反応を触媒し、アセチルCoAからマロニルCoAを生成する酵素であり、反応は下記式で表わされる。
アセチルCoA+ATP+HCO3 -⇔マロニルCoA+ADP+Pi
また、脂肪酸合成酵素は、転移-縮合-還元-脱水-還元の反応サイクルを触媒する酵素であり、全反応は次の反応式で示される。
アセチルCoA+nマロニルCoA+2nNADPH+2nH+ ⇒ CH3(CH2)2nCOOH+nCO2+2nNADP++(n-1)CoA
なお、酵素の種類によって、反応産物が遊離酸、CoA誘導体、あるいはACP誘導体の場合がある。ここで、アセチルCoAは以下の化学式で示され、
【0087】
【化 25】
Figure 0003768835
【0088】
マロニルCoAは以下の化学式で示される。
【0089】
【化 26】
Figure 0003768835
【0090】
また、CoAとは補酵素A(coenzyme A)の略称であり、以下の化学式で示される。
【0091】
【化 27】
Figure 0003768835
【0092】
本反応経路のうち、以下に示す経路により、PHA生合成のモノマー基質となる「D-3-ヒドロキシアシルACP」が中間体として供給される。また、以下の反応式に示すように経路は炭素を2個ずつ付加しながら最終的にはパルミチン酸まで延長される。それゆえPHA生合成のモノマー基質としては「D-3-ヒドロブチリルACP」から「D-3-ヒドロキシパルミチルACP」の炭素数が偶数の7種類の「D-3-ヒドロキシアシルACP」が供給されることになる。
【0093】
【化 28】
Figure 0003768835
【0094】
(2)炭素鎖延長経路
この経路は、アシルACPにマロニルACPが付加し、最終的に炭素鎖が2つ延長されたアシルACP(及びCO2)となる経路(経路Aとする)と、アシルCoAにアセチルCoAが付加し、最終的に炭素鎖が2つ延長されたアシルCoAとなる経路(経路Bとする)の2経路に大別される。以下に各経路について説明する。
Figure 0003768835
・経路B
R-CO-CoA+アセチル-CoA→R-CO-CH2-CO-CoA
R-CO-CH2-CO-CoA→R-CHOH-CH2-CO-CoA→
R-CH=CH-CO-CoA→R-CH2-CH2-CO-CoA
A、Bいずれの系も、中間体として「D-3-ヒドロキシアシルCoA」あるいは「D-3-ヒドロキシアシルACP」が生じ、「D-3-ヒドロキシアシルCoA」はそのままPHA合成のモノマー基質として利用され、「D-3-ヒドロキシアシルACP」はACP-CoA転移酵素により「D-3-ヒドロキシアシルCoA」に変換された後に、PHA合成のモノマー基質として利用されると考えられる。
【0095】
グルコース等の糖類を基質とした場合、微生物細胞中では以上のような「解糖系」及び「脂肪酸合成経路」を経由してmcl-3HAモノマーユニットが生成されると考えられる。また、TCAサイクルに関与する有機酸を基質とした場合、ピルビン酸からはピルビン酸デヒドロゲナーゼにより直接アセチルCoAが生成する。オキサロ酢酸からはホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼによりホスホエノールピルビン酸がピルビン酸キナーゼにより触媒されてピルビン酸が生成し、さらに上記反応によりアセチルCoAが生成する。これらの反応により生成したアセチルCoAが「脂肪酸合成経路」を経由してmcl-3HAモノマーユニットが生成されると考えられる。
【0096】
ここで、例えばオクタン酸、ノナン酸等のmcl-アルカン酸、あるいは、例えば、5-フェニル吉草酸、4-フェノキシ酪酸、4-シクロヘキシル酪酸といった、末端に直鎖脂肪族アルキル以外の官能基が付加されたアルカン酸はCoAリガーゼ(EC 6.2.1.3等)によりCoA誘導体となり、β酸化系を担う酵素群により直接的にPHA生合成のモノマー基質となる「D-3-ヒドロキシアシルCoA」となると考えられる。
【0097】
つまり、糖類あるいはTCAサイクルに関与する有機酸から生成するmcl-3HAモノマーユニットが、きわめて多段階の酵素反応を経て(つまり間接的に)生成されるのに比較し、mcl-アルカン酸からはきわめて直接的にmcl-3HAモノマーユニットが生成されてくることになる。
【0098】
ここで、微生物の増殖を担うアセチルCoAの生成について説明する。目的とするモノマーユニット導入用のアルカン酸に加えてmcl-アルカン酸を共存させる方法では、これらのアルカン酸がβ酸化系を経由することによりアセチルCoAが生成する。一般に、バルキーな置換基を有するアルカン酸(フェニル基、フェノキシ基、シクロヘキシル基等の置換基を有するアルカン酸)に比較し、mcl-アルカン酸はβ酸化系の酵素群との基質親和性に優れていると考えられ、mcl-アルカン酸の共存により効果的にアセチルCoAが生成される。このため、アセチルCoAをエネルギー源及び炭素源として用いる微生物の増殖には有利となる。
【0099】
しかしながら、β酸化系を経由するmcl-アルカン酸が直接的にPHAのモノマーユニットとなるために、生産されるPHAは、目的のモノマーユニットに加えてmcl-3HAモノマーユニットの混在が多いものとなってしまうことが大きな課題である。
【0100】
この課題を解決するためには、mcl-アルカン酸以外で、効果的にアセチルCoAあるいはエネルギー源及び炭素源を供給し得るような基質を選択し、目的とするアルカン酸と共存させる方法が望ましい。前述のように、アセチルCoAは脂肪酸合成経路を経ることによりPHAのモノマーユニットとなり得るが、mcl-アルカン酸に比較すればより多段階の反応を経由する必要がある間接的なものであり、また、アセチルCoAを生成し得るような基質の濃度等、培養条件を適宜選択することにより、実質的にはmcl-3HAの混在のない、あるいは少ない製造方法の実現が可能である。
【0101】
また、1段階目で微生物の増殖のみを目的に培養し、2段階目においては炭素源として目的とするアルカン酸のみを培地に加える製造方法が汎用されている。ここで、当該アルカン酸をアシルCoA化するβ酸化系の初発酵素であるアシルCoAリガーゼがATPを要求することから、発明者らの検討によれば2段階目においても微生物がエネルギー源として利用し得る基質を共存させる製造方法がより効果的であるとの結果を得て、本発明を完成した。
【0102】
本発明の方法におけるアセチルCoAあるいはエネルギー源および炭素源を効果的に供給し得る基質としては、グリセロアルデヒド,エリスロール,アラビノース,キシロース,グルコース,ガラクトース,マンノース,フルクトースといったアルドース、グリセロール,エリスリトール,キシリトール等のアルジトール、グルコン酸等のアルドン酸,グルクロン酸やガラクツロン酸等のウロン酸、マルトース,スクロース,ラクトースといった二糖等の糖類のほか、乳酸,ピルビン酸,リンゴ酸,クエン酸,コハク酸,フマル酸及びその塩等のTCAサイクルに関与する有機酸、さらには酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス,カザミノ酸などの天然物由来の培地成分など、β酸化系を経ずにアセチルCoAあるいはエネルギー源および炭素源を供給し得る化合物であれば、いかなる化合物でも用いることができ、用いる菌株に対する基質としての有用性で適宜選択することができる。また、mcl-3HAの混入の少ない組み合わせであれば、複数の化合物を選択して用いることも可能である。
【0103】
<微生物>
本発明に用いる微生物としては、前記の置換ベンゾイルアルカン酸を原料とし、前記の3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットを含むPHAを産生可能であれば、いかなる微生物をも使用することができる。また、本発明の目的を達成できる範囲内で、必要に応じて複数の微生物を混合して用いることもできる。
【0104】
本発明者らは、FBzVA等を基質として用いて、前記の3HFBzV等をモノマーユニットとして含むPHAを生産し菌体内に蓄積する能力を有する微生物の探索を行なった。その結果、本発明者らが土壌より分離した微生物であり、PHAの生産能力を有する、シュードモナス・チコリアイ・H45株(Pseudomonas cichorii H45)、シュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichoriiYN2)、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株(Pseudomonas jessenii P161)等が所望の能力を有することを見出した。なお、H45株は寄託番号「FERM BP-7374」として、YN2株は寄託番号「FERM BP-7375」として、P161株は寄託番号「FERM BP-7376」として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(旧経済産業省生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センター)にそれぞれ寄託されている。
【0105】
前記のH45株、YN2株およびP161株の菌学的性質を列挙すれば以下の通りである。また、P161株については、16srRNAの塩基配列を配列番号:1に示す。
<H45株の菌学的性質>
Figure 0003768835
(2)生理学的性質
カタラーゼ :陽性
オキシダーゼ :陽性
O/F試験 :酸化型
硝酸塩の還元 :陰性
インドールの生成 :陰性
ブドウ糖酸性化 :陰性
アルギニンジヒドロラーゼ :陰性
ウレアーゼ :陰性
エスクリン加水分解 :陰性
ゼラチン加水分解 :陰性
β-ガラクトシダーゼ :陰性
King'sB寒天での蛍光色素産生:陽性
4%NaClでの生育 :陰性
ポリ-β-ヒドロキシ酪酸の蓄積 :陰性
(3)基質資化能
ブドウ糖 :陽性
L-アラビノース :陰性
D-マンノース :陽性
D-マンニトール :陽性
N-アセチル-D-グルコサミン :陽性
マルトース :陰性
グルコン酸カリウム :陽性
n-カプリン酸 :陽性
アジピン酸 :陰性
dl-リンゴ酸 :陽性
クエン酸ナトリウム :陽性
酢酸フェニル :陽性
<YN2株の菌学的性質>
Figure 0003768835
(2)生理学的性質
カタラーゼ :陽性
オキシダーゼ :陽性
O/F試験 :酸化型
硝酸塩の還元 :陰性
インドールの生成 :陽性
ブドウ糖酸性化 :陰性
アルギニンジヒドロラーゼ :陰性
ウレアーゼ :陰性
エスクリン加水分解 :陰性
ゼラチン加水分解 :陰性
β-ガラクトシダーゼ :陰性
King'sB寒天での蛍光色素産生:陽性
4%NaClでの生育 :陽性(弱い生育)
ポリ-β-ヒドロキシ酪酸の蓄積 :陰性
Tween 80 の加水分解 :陽性
(3)基質資化能
ブドウ糖 :陽性
L-アラビノース :陽性
D-マンノース :陰性
D-マンニトール :陰性
N-アセチル-D-グルコサミン :陰性
マルトース :陰性
グルコン酸カリウム :陽性
n-カプリン酸 :陽性
アジピン酸 :陰性
dl-リンゴ酸 :陽性
クエン酸ナトリウム :陽性
酢酸フェニル :陽性
<P161株の菌学的性質>
Figure 0003768835
(2)生理学的性質
カタラーゼ :陽性
オキシダーゼ :陽性
O/F試験 :酸化型
硝酸塩の還元 :陽性
インドールの生成 :陰性
ブドウ糖酸性化 :陰性
アルギニンジヒドロラーゼ :陽性
ウレアーゼ :陰性
エスクリン加水分解 :陰性
ゼラチン加水分解 :陰性
β-ガラクトシダーゼ :陰性
King'sB寒天での蛍光色素産生:陽性
(3)基質資化能
ブドウ糖 :陽性
L-アラビノース :陽性
D-マンノース :陽性
D-マンニトール :陽性
N-アセチル-D-グルコサミン :陽性
マルトース :陰性
グルコン酸カリウム :陽性
n-カプリン酸 :陽性
アジピン酸 :陰性
dl-リンゴ酸 :陽性
クエン酸ナトリウム :陽性
酢酸フェニル :陽性
また、シュードモナス属に属する微生物に加えて、アエロモナス属(Aeromonas sp.)、コマモナス属(Comamonas sp.)、バークホルデリア属(Burkholderia sp.)などに属し、前記の置換ベンゾイルアルカン酸を原料とし、前記の3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットをモノマーユニットとして含むPHAを生産する微生物を用いることも可能である。
【0106】
<培養>
これらの微生物を所望とするモノマーユニット導入用のアルカン酸と、本発明の増殖用基質とを含む培地で培養することで、目的とするPHAを生産することができる。このようなPHAは、一般にR-体のみから構成され、アイソタクチックなポリマーである。
【0107】
本発明にかかるPHAの製造方法に用いる微生物の通常の培養、例えば、保存菌株の作成、PHAの生産に必要とされる菌数や活性状態を確保するための増殖などには、用いる微生物の増殖に必要な成分を含有する培地を適宜選択して用いる。例えば、微生物の生育や生存に悪影響を及ぼすものでない限り、一般的な天然培地(肉汁培地,酵母エキスなど)や、栄養源を添加した合成培地など、いかなる種類の培地をも用いることができる。
【0108】
培養は液体培養、固体培養等該微生物が増殖し、PHAを生産する培養方法ならいかなる培養方法でも用いることができる。さらに、バッチ培養,フェドバッチ培養,半連続培養,連続培養等の種類も問わない。液体バッチ培養の形態としては、振とうフラスコによって振とうさせて酸素を供給する方法、ジャーファーメンターによる攪拌通気方式の酸素供給方法がある。また、これらの工程を複数段接続した多段方式を採用してもよい。
【0109】
前記したようなPHA生産微生物を用いて、3-ヒドロキシ置換ベンゾイルアルカン酸ユニットを含むPHAを製造する場合は、PHA生産用の原料としてそれぞれ対応する置換ベンゾイルアルカン酸と、微生物の増殖用炭素源とを少なくとも含んだ無機培地などを用いることができる。
増殖用炭素源としては、酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス,カザミノ酸などの天然物由来の培地成分を用いることが可能であり、さらに、糖類,TCAサイクルに関与する有機酸(TCA回路中の中間体として生じる有機酸及びTCA回路から一段階ないしは二段階の生化学反応を経て生じる有機酸)或いはその塩等,β酸化サイクルを経ずにアセチルCoAを生じる化合物であれば、いかなる化合物でも用いることができ、用いる菌株に対する基質としての有用性で適宜選択することができる。また、mcl-3HAの混入の少ない組み合わせであれば、複数の化合物を選択して用いることも可能である。
【0110】
これらのうち、糖類としては、グリセロアルデヒド,エリスロース,アラビノース,キシロース,グルコース,ガラクトース,マンノース,フルクトースといったアルドース、グリセロール,エリスリトール,キシリトール等のアルジトール、グルコン酸等のアルドン酸,グルクロン酸,ガラクツロン酸等のウロン酸、マルトース,スクロース,ラクトースといった二糖等から選ばれる1つ以上の化合物が好適に利用できる。
【0111】
また、有機酸或いはその塩としては、ピルビン酸,オキサロ酢酸,クエン酸,イソクエン酸,ケトグルタル酸,コハク酸,フマル酸,リンゴ酸,乳酸などがその例であり、或いはその塩から選ばれる1つ以上の化合物が好適に利用できる。
これらの中でも、特に糖類を用いるのが好ましく、中でもグルコース,フルクトース,マンノースからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0112】
微生物にPHAを生産・蓄積させる方法としては、一旦十分に増殖させて後に、塩化アンモニウムのような窒素源を制限した培地へ菌体を移し、目的ユニットの基質となる化合物を加えた状態で更に培養すると生産性が向上する場合がある。具体的には、前記の工程を複数段接続した多段方式の採用が挙げられる。例えば、D-グルコースを 0.05%から 5.0%程度、および、置換ベンゾイルアルカン酸を 0.01%から 1.0%程度含んだ無機培地等で対数増殖後期から定常期の時点まで培養し、菌体を遠心分離等で回収したのち、置換ベンゾイルアルカン酸を 0.01%から 1.0%程度含んだ、窒素源を制限した、あるいは実質的に存在しない無機培地でさらに培養する方法がある。
【0113】
上記の培養方法に用いる無機培地としては、リン源(例えば、リン酸塩等)、窒素源(例えば、アンモニウム塩,硝酸塩等)等、微生物が増殖し得る成分を含んでいるものであればいかなるものでも良く、例えば無機塩培地としては、MSB培地、E培地(J.Biol.Chem.,218,97-106(1956))、M9培地等を挙げることができる。なお、本発明における実施例で用いるM9培地の組成は以下の通りである。
Na2HPO4 : 6.2g
KH2PO4 : 3.0g
NaCl : 0.5g
NH4Cl : 1.0g
(培地1リットル中、pH 7.0)
更に、良好な増殖及びPHAの生産のためには、上記の無機塩培地に培地に以下に示す微量成分溶液を 0.3%(v/v)程度添加するのが好ましい。
微量成分溶液
ニトリロ三酢酸: 1.5g
MgSO4 : 3.0g
MnSO4 : 0.5g
NaCl : 1.0g
FeSO4 : 0.1g
CaCl2 : 0.1g
CoCl2 : 0.1g
ZnSO4 : 0.1g
CuSO4 : 0.1g
AlK(SO4)2 : 0.1g
3BO3 : 0.1g
Na2MoO4 : 0.1g
NiCl2 : 0.1g
(1リットル中)
培養温度としては上記の菌株が良好に増殖可能な温度であれば良く、例えば 15〜40℃、好ましくは 20〜35℃、更に好ましくは 20℃から 30℃程度が適当である。
【0114】
具体的な例としては、D-グルコースを 0.05%から 5.0%程度、および、置換ベンゾイルアルカン酸を 0.01%から 1.0%程度含んだ無機培地等で培養し、対数増殖後期から定常期の時点で菌体を回収して目的外のモノマーユニットの混在が少ない、あるいは全くない所望のPHAを抽出することができる。このようなPHAは、一般にR-体のみから構成され、アイソタクチックなポリマーである。
【0115】
D-グルコースの代わりに同量のTCAサイクルに関与する有機酸や、酵母エキス,ポリペプトンを与えても良い。また、それらの組み合わせを用いてもよい。
【0116】
<PHAの回収>
本発明にかかる培養液からのPHAの取得には、通常行なわれている方法を適用することができる。PHAが培養液中に分泌される場合は、培養液からの抽出精製方法が、また、菌体に蓄積される場合は、菌体からの抽出精製方法が用いられる。例えば、微生物の培養菌体からのPHAの回収には、通常行なわれているクロロホルムなどの有機溶媒による抽出が最も簡便ではあるが、クロロホルム以外にジオキサン,テトラヒドロフラン,アセトニトリル,アセトンが用いられる場合もある。また、有機溶媒が使用しにくい環境中においては、SDS等の界面活性剤による処理、リゾチーム等の酵素による処理、EDTA等の薬剤による処理によってPHA以外の菌体成分を除去して、PHAを回収する方法を用いることもできる。
【0117】
なお、本発明の微生物の培養、本発明の微生物によるPHAの生産と菌体への蓄積、並びに、本発明における菌体からのPHAの回収は、上記の方法に限定されるものではない。
【0118】
以下に実施例を示す。なお、以下における「%」は特に標記した以外は重量基準である。
【0119】
【実施例】
(参考例) 4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノンの合成
四つ口丸底フラスコに 100mlのテトラヒドロフランを入れ、4-フルオロベンゾイルクロライド 7.92 g(0.05 mol)及びトリス(アセチルアセトン)鉄(III)0.53 g(1.5 mmol)を加え、窒素雰囲気下で攪拌した。この溶液に、室温においてペンチルマグネシウムブロマイドを加えて、室温 10 分間攪拌した。反応終了後、氷浴下において、希塩酸により酸性化し、ジエチルエーテルにより有機相を抽出した。さらに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にて中和し、飽和塩化ナトリウム水溶液にて、有機相を洗浄した。有機相は、無水硫酸マグネシウムにて脱水後、ジエチルエーテルをロータリーエバポレーターにより留去し、真空ポンプにより乾燥し、粗製の4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノンを得た。
【0120】
精製は、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒;n-ヘキサン:酢酸エチル= 30 :1)にて単離し、更にn-ヘキサンにより再結晶を行ない、4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノン 5.23 gを得た。
【0121】
得られた化合物は、以下の条件でNMR分析を行なった。
Figure 0003768835
1H-NMRスペクトルを図1に、その帰属結果(化学式[11]参照)を表3にそれぞれ示した。
【0122】
【表3】
Figure 0003768835
【0123】
【化 29】
Figure 0003768835
【0124】
また、得られた精製物は、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、同定を行なった。そのGC-MSスペクトルデータを図2に示す。その結果、4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノンは、GC-MS TIC エリア比で 87%であった。
(実施例1)
D-グルコース 0.5%、4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノン 0.05%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125 ストローク/分で振盪培養した。5日間後、菌体を遠心分離によって回収し、10%次亜塩素酸ナトリウム溶液に懸濁し、4℃で2時間振盪してPHAを抽出した。抽出液を遠心分離して沈殿を回収し、これを水洗したのち、真空乾燥してPHAを得た。
得られたPHAについて、核磁気共鳴装置(FT-NMR:Bruker DPX 400)を用いて、下記の測定条件で分析した。
<測定条件>
測定核種:1
使用溶媒:CDCl3(TMS/CDCl3をキャピラリ封入でreferenceとして使用)
共鳴周波数:1H= 400 MHz
1H-NMRスペクトルを図3に、その帰属結果(化学式[12]参照)を表4にそれぞれ示した。
【0125】
【表4】
Figure 0003768835
【0126】
【化 30】
Figure 0003768835
【0127】
さらに、得られたPHAは、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS,島津QP-5050,EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果、表5に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0128】
【表5】
Figure 0003768835
【0129】
このPHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソー HLC-8220、カラム;ポリマーラボラトリー PLgel MIXED-C(5μm)、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn= 26,000、Mw= 142,000 であった。
【0130】
(実施例2)
D-グルコース 0.5%、4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノン 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0131】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0132】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS,島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果を表6に示す。
【0133】
【表6】
Figure 0003768835
【0134】
上記の結果から、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0135】
(実施例3)
グルタミン酸ナトリウム 0.5%、4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノン 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125 ストローク/分で振盪培養した。7日間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0136】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0137】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS,島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果を表7に示す。
【0138】
【表7】
Figure 0003768835
【0139】
上記の結果から、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0140】
(実施例4)
グルタミン酸ナトリウム 0.5%、4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノン 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0141】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0142】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS,島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果を表8に示す。
【0143】
【表8】
Figure 0003768835
【0144】
上記の結果から、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0145】
(実施例5)
D-グルコース 0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、D-グルコース 0.5%とFBzVA 0.1%とを含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mlに再懸濁して、更に 30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。40時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して凍結乾燥した。
【0146】
この凍結乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0147】
得られたPHAは、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果、表9に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0148】
【表9】
Figure 0003768835
【0149】
このPHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソー HLC-8220、カラム;ポリマーラボラトリー PLgel MIXED-C(5μM)、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn= 30,000、Mw= 78,000 であった。
【0150】
(実施例6)
D-グルコース 0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0151】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0152】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果、表 10 に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0153】
【表 10】
Figure 0003768835
【0154】
(実施例7)
リンゴ酸二ナトリウム 0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。4日間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0155】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0156】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果、表 11 に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0157】
【表 11】
Figure 0003768835
【0158】
(実施例8)
酵母エキス(オリエンタル酵母工業(株)製)0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0159】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0160】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果を表12 に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0161】
【表 12】
Figure 0003768835
【0162】
(実施例9)
ポリペプトン(日本製薬(株)製)0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・YN2株を植菌し、30℃、125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して真空乾燥した。
【0163】
この真空乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0164】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果を表 13 に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0165】
【表 13】
Figure 0003768835
【0166】
(実施例 10)
D-グルコース 0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・チコリアイ・H 45 株を植菌し、30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、D-グルコース 0.5%とFBzVA 0.1%とを含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mlに再懸濁して、更に 30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。40時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して凍結乾燥した。
【0167】
この凍結乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0168】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果、表 14 に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0169】
【表 14】
Figure 0003768835
【0170】
このPHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソー HLC-8220、カラム;ポリマーラボラトリー PLgel MIXED-C(5μM)、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn= 26,000、Mw= 61,000 であった。
【0171】
(実施例 11)
D-グルコース 0.5%、FBzVA 0.1%を含むM9培地 200mlにシュードモナス・ジェッセニイ・P161株を植菌し、30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。48時間後、菌体を遠心分離によって回収し、D-グルコース 0.5%とFBzVA 0.1%とを含む、窒素源(NH4Cl)を含まないM9培地 200mlに再懸濁して、更に 30℃,125 ストローク/分で振盪培養した。40時間後、菌体を遠心分離によって回収し、冷メタノールで一度洗浄して凍結乾燥した。
【0172】
この凍結乾燥ペレットを 20mlのクロロホルムに懸濁し、60℃で 20時間攪拌してPHAを抽出した。抽出液を孔径 0.45μmのメンブレンフィルターでろ過したのち、ロータリーエバポレーターで濃縮し、濃縮液を冷メタノール中で再沈殿させ、更に沈殿のみを回収して真空乾燥してPHAを得た。
【0173】
このPHAについて、常法に従ってメタノリシスを行なったのち、ガスクロマトグラフィー-質量分析装置(GC-MS、島津QP-5050、EI法)で分析し、PHAモノマーユニットのメチルエステル化物の同定を行なった。その結果、表 15 に示す通り、当該PHAは3HFBzVをモノマーユニットとして含むPHAであることが確認された。
【0174】
【表15】
Figure 0003768835
【0175】
このPHAの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC;東ソー HLC-8220、カラム;ポリマーラボラトリー PLgel MIXED-C(5μM)、溶媒;クロロホルム、ポリスチレン換算)により評価した結果、Mn= 41,000、Mw= 110,000 であった。
【0176】
【発明の効果】
本発明により、デバイス材料や医用材料等として有用な置換基を側鎖に有する多様な構造のモノマーユニットを含むPHA(unusual PHA)の提供、ならびに、当該「unusual PHA」を微生物を利用して製造する方法が可能となった。
【0177】
特に、目的外のモノマーユニットの混在が少なく、目的とする「unusual PHA」を高純度で得ることができ、しかも高収率な製造方法の提供が可能となった。
【0178】
【配列表】
Figure 0003768835
Figure 0003768835

【図面の簡単な説明】
【図1】参考例における1H-NMRスペクトルチャートを示す。
【図2】参考例において得られた4'-フルオロ-n-ヘプタノフェノンをGC-MS測定した際のTIC及びマススペクトルを示す。
【図3】実施例1における1H-NMRスペクトルチャートを示す。

Claims (4)

  1. 下記式[1]で表されるモノマーユニット組成を有することを特徴とするポリヒドロキシアルカノエート。
    x(1-x)[1]
    (ただし、式中Aは下記化学式[2]で表される少なくとも1つ以上であり、Bは下記化学式[3]または下記化学式[4]で表されるモノマーユニットから選択される少なくとも1つ以上であり、xは0.01以上1以下である。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中nは1から8の整数のいずれかを表し、Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中pは0から10の整数のいずれかを表す。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中qは3または5の整数のいずれかを表す。)
  2. 化学式[5]で表されるモノマーユニットを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカノエート。
    Figure 0003768835
    (ただし、式中Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
  3. 下記式[1]で表されるモノマーユニット組成を有するポリヒドロキシアルカノエートの製造方法であって、
    置換ベンゾイルアルカン酸を利用して該組成を有するポリヒドロキシアルカノエートを合成し得る微生物である、シュードモナス・チコリアイ・H45株(Pseudomonas cichorii H45、FERM BP-7374)、シュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2、FERM BP-7375)、シュードモナス・ジェッセニイ・P161株(Pseudomonas jessenii P161、FERM BP -7376)からなる群から選択される少なくとも1つの株を、該置換ベンゾイルアルカン酸を含む培地で培養する工程と、
    前記微生物が産生したポリヒドロキシアルカノエートを単離する工程とを有することを特徴とするポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
    x(1-x)[1]
    (ただし、式中Aは下記化学式[2]で表される少なくとも1つ以上であり、Bは下記化学式[3]または下記化学式[4]で表されるモノマーユニットから選択される少なくとも1つ以上であり、xは0.01以上1以下である。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中nは1から8の整数のいずれかを表し、Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中pは0から10の整数のいずれかを表す。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中qは3または5の整数のいずれかを表す。)
  4. 置換ベンゾイルアルカン酸が下記化学式[7]で表される置換ベンゾイルアルカン酸であり、ポリヒドロキシアルカノエートが下記化学式[8]で表されるモノマーユニットを含むポリヒドロキシアルカノエートである、請求項3に記載のポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
    Figure 0003768835
    (ただし、式中nは1から8の整数のいずれかを表し、Rはハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
    Figure 0003768835
    (ただし、式中mはn,n-2,n-4,n-6からなる群より選択される少なくとも1つ以上でありかつ1以上の整数を表し、nは前記化学式[7]中のnと対応する1から8の整数のいずれかを表し、Rは前記化学式[7]中のRと対応するハロゲン原子,-CN,-NO2,-CH3,-C25,-C37,-CF3,-C25,-C37からなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
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