JP3714284B2 - 二次電池の充電率推定装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、二次電池の充電率(SOC)を推定する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
二次電池の充電率SOC(充電状態とも言う)は開路電圧V0(通電遮断時の電池端子電圧であり、起電力、開放電圧とも言う)と相関があるので、開路電圧V0を求めれば充電率を推定することが出来る。しかし、二次電池の端子電圧は、通電を遮断(充放電を終了)した後も安定するまでに時間を要するので、正確な開路電圧V0を求めるには、充放電を終了してから所定の時間が必要である。したがって充放電中や充放電直後では、正確な開路電圧V0を求めることが出来ないので、上記の方法で充電率SOCを求めることが出来ない。そのため、従来は、下記のような方法を用いて開路電圧V0を推定している。
二次電池の充電率(SOC)を推定する技術に関する公知例としては、「論文“適応デジタルフィルタを用いた鉛電池の開路電圧と残存容量の推定”四国総研、四国電力、湯浅電池 T.IEEE Japan Vol.112-C,No.4 1992」がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のごとき従来例においては、実際の電池の物理特性とは全く異なる「非回帰型の電池モデル(出力値が入力値の現在値および過去値だけで決るモデル)」に「適応デジタルフィルタ(逐次型のモデルパラメータ同定アルゴリズム)」を用いて開路電圧を算出し、この値から充電率SOCを算出している。そのため、実際の電池特性(入力:電流、出力:電圧)に応用した場合、電池特性によっては推定演算が全く収束しなかったり、真値に収束しないため、正確な充電率SOCを推定することが困難である、という問題があった。
【0004】
本発明は上記のごとき従来技術の問題を解決するためになされたものであり、充電率SOCおよびその他のパラメータを正確に推定することの出来る二次電池の充電率推定装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明においては特許請求の範囲に記載するように構成している。すなわち、請求項1においては、二次電池の電池モデルを(数1)式に示すように定義し、開路電圧V0を(数2)式で近似することで(数1)式を下記(数3)式とし、(数3)式と等価な(数4)式に対して適応デジタルフィルタ演算を行い、A(s)とB(s)の係数パラメータを一括推定する適応デジタルフィルタ演算手段と、これらの推定値を(数1)式と等価な(数5)式に代入してGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用とする開路電圧演算手段と、予め求めた開路電圧V0と充電率SOCとの関係に基づいて充電率を推定する充電率推定手段と、を備え、かつ、(数5)式におけるローパスフィルタGlp2(s)の応答性を、(数4)式におけるローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定したものである。つまり請求項1においては、観測ノイズを低減するためにローパスフィルタGlp1(s)の応答性は遅くし、かつ、Glp2(s)の応答性は適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しないため、応答遅れを小さくするようにローパスフィルタGlp2(s)の応答性は速くするように構成している。
【0006】
【発明の効果】
本発明においては、二次電池の電流Iと端子電圧Vの関係を示す(数1)式を、(数4)式のように近似することで開路電圧V0(オフセット項)を含まない。そのため通常の適応デジタルフィルタを連続時間系のまま適用することが可能になるので、未知パラメータを一括推定することができ、推定した未知パラメータを(数5)式に代入することで、開路電圧V0の推定値の代用としてGlp2(s)・V0を容易に算出できる。そして開路電圧V0と充電率SOCの関係(図5)は、温度や劣化度に影響されにくく一定の関係があるため、これを予め記憶しておけば開路電圧V0の推定値から充電率SOCを正確かつ容易に推定できる。
さらに、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度を良くするためには、観測ノイズを低減するようローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅く設定する必要があり、かつ、ローパスフィルタGlp2(s)の応答性は、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しないため、Glp2(s)の応答性はGlp1(s)の応答性よりも速く設定できる。本発明においては、(数5)式のローパスフィルタGlp2(s)の応答性を(数4)式のローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定するという構成であるために、適応デジタルフィルタで逐次推定されるパラメータの精度を良好にし、かつ、(数5)式から得るGlp2(s)・V0の応答遅れを小さくできる、という特別の効果がある。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施例を機能ブロックで表した図である。図1において、1は電池の端子電圧を検出する端子電圧V(k)検出手段、2は電池の電流を検出する電流I(k)検出手段、3a、3b、4a、4b、5a、5b、5c、6a、6bはそれぞれフィルタ演算手段である。これらのフィルタ演算手段のうち、3a、3b、5a、5b、5cはGlp1(s)のローパスまたはバンドパスフィルタであり、4a、4b、6a、6bはGlp2(s)のローパスまたはバンドパスフィルタである。そしてローパスフィルタGlp2(s)の応答性をローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定している。また、7は適応デジタルフィルタ演算手段〔パラメータθ(k)を推定〕、8は開路電圧演算手段〔V0(k)を演算〕、9は開路電圧から充電率を演算する充電率推定手段である。なお、請求項に記載の適応デジタルフィルタ演算手段は上記フィルタ演算手段3〜6と適応デジタルフィルタ演算手段7を合わせた部分に相当する。
【0008】
図2は、実施例の具体的な構成を示すブロック図である。この実施例は、二次電池でモータ等の負荷を駆動したり、モータの回生電力で二次電池を充電するシステムに、二次電池の充電率推定装置を設けた例を示す。
図2において、10は二次電池(単に電池ともいう)、20はモータ等の負荷、30は電池の充電状態を推定する電子制御ユニットで、プログラムを演算するCPUやプログラムを記憶したROMや演算結果を記憶するRAMから成るマイクロコンピュータと電子回路等で構成される。40は電池から充放電される電流を検出する電流計、50は電池の端子電圧を検出する電圧計、60は電池の温度を検出する温度計であり、それぞれ電子制御ユニット30に接続される。上記の電子制御ユニット30は前記図1のフィルタ演算手段3a、3b、4a、4b、5a、5b、5c、6a、6b、適応デジタルフィルタ演算手段7、開路電圧V0(k)演算手段8および充電率推定手段9の部分に相当する。また、電流計40は電流I(k)検出手段2に、電圧計50は端子電圧V(k)検出手段1に、それぞれ相当する。
【0009】
本発明は、通電中の二次電池の端子電圧Vと電流Iの計測データに、適応デジタルフィルタを用いて開路電圧V0を推定し、公知の開路電圧V0と充電率SOCの関係から充電率を推定する装置であり、二次電池の電池モデルを前記請求項1に記載の(数1)式に示すように定義し、開路電圧V0を前記(数2)式で近似することで(数1)式を前記(数3)式とし、(数3)式と等価な前記(数4)式に対して適応デジタルフィルタ演算を行い、A(s)とB(s)の係数パラメータを一括推定し、これらの推定値を(数1)式と等価な前記(数5)式に代入してGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用として、予め求めた開路電圧V0と充電率SOCとの関係に基づいて充電率を推定するものである。
【0010】
上記の内容を具体的に説明すると次のようになる。
まず、本実施例で用いる「電池モデル」を説明する。図3は、二次電池の等価回路モデルを示す図であり、二次電池の電池モデルは下記(数13)式で示される。
【0011】
【数13】
(数13)式において、モデル入力は電流I[A](正値は充電、負値は放電)、モデル出力は端子電圧V[V]、R1〔Ω]は電荷移動抵抗、R2[Ω]は純抵抗、C1[F]は電気二重層容量、V0[V]は開路電圧である。なお、sはラプラス演算子である。本モデルは、正極、負極を特に分離していないリダクションモデル(一次)であるが、実際の電池の充放電特性を比較的正確に示すことが可能である。このように本実施例においては、電池モデルの次数を1次にした構成(請求項2または請求項3に相当)を例として説明する。
【0012】
上記(数13)式の電池モデルから適応デジタルフィルタまでの導出を最初に説明する。
(数13)式を変形すると(数14)式(=数7)になる。
【0013】
【数14】
ただし、T1=C1・R1、 T2=C1・R1・R2/(R1+R2)
K=R1+R2
開路電圧V0は、電流Iに可変な効率dを乗じたものを、ある初期状態から積分したものと考えれば、(数15)式(=数2=数8)で書ける。
【0014】
【数15】
(数15)式を(数14)式に代入すれば(数16)式になり、整理すれば(数17)式(=数9)になる。
【0015】
【数16】
【0016】
【数17】
安定なローパスフィルタGlp1(s)を(数17)式の両辺に乗じて、整理すれば(数18)式になる。
【0017】
【数18】
実際に計測可能な電流Iや端子電圧Vに、ローパスフィルタやバンドパスフィルタを処理した値を、下記(数19)式のように定義する。
【0018】
【数19】
上記変数を用いて(数18)式を書き直せば(数20)式になる。
【0019】
【数20】
更に変形すれば(数21)式になる。
【0020】
【数21】
(数21)式は、計測可能な値と未知パラメータの積和式になっているので、一般的な適応デジタルフィルタの標準形(数22)式と一致する。
【0021】
【数22】
ただし、y=V2、 ωT=[V3,I3,I2,I1]
θT=[−T1,K・T2,K,d]
従って、電流Iと端子電圧Vにフィルタ処理した信号を、適応デジタルフィルタ演算に用いることで、未知パラメータベクトルθを推定する。本実施例では、単純な「最小二乗法による適応デジタルフィルタ」の論理的な欠点(一度推定値が収束すると、その後パラメータが変化しても再度正確な推定ができないこと)を改善した「両限トレースゲイン方式」を用いる。
【0022】
(数22)式を前提に未知パラメータベクトルθを推定するためのパラメータ推定アルゴリズムは(数23)式となる。ただし、k時点のパラメータ推定値をθ(k)とする。
【0023】
【数23】
ただし、λ1、λ3(k)、γU、γLは初期設定値で、0<λ1<1、0<λ3(k)<∞とする。P(0)は十分大きな値、θ(0)は非ゼロな十分小さな値を初期値とする。trace{P}は行列Pのトレースを意味する。
以上が、電池モデルから適応デジタルフィルタまでの導出である。
【0024】
図4は、電子制御ユニット30のマイコンが行う処理のフローチャートであり、同図のルーチンは一定周期T0毎に実施される。例えば、I(k)は今回の値、I(k−1)は1回前の値を意味する。なお、本実施例は、電池モデルの次数を1次にしたものである。
【0025】
図4において、まず、ステップS10では、電流I(k)、端子電圧V(k)を計測する。
ステップS20では、二次電池の遮断リレーの判断する。電子制御ユニット30は二次電池の遮断リレーの制御も行っており、リレー遮断時(電流I=0)はステップS30へ進む。リレー締結時はステップS40へ進む。
ステップS30では、端子電圧V(k)を端子電圧初期値V_iniとして記憶する。
ステップS40では、端子電圧差分値△V(k)を算出する。
ただし、△V(k)=V(k)−V_ini
これは、適応デジタルフィルタ内の推定パラメータの初期値を約0としているので、推定演算開始時に推定パラメータが発散しないように、入力を全て0とするためである。リレー遮断時はステップS30を通るため、I=0かつ△V(h)=0なので、推定パラメータは初期状態のままである。
【0026】
ステップS50では、電流I(k)と端子電圧差分値△V(k)に、(数19)式に基づきローパスフィルタGlp1(s)、バンドパスフィルタs・Glp1(s)およびs2・Glp1(s)のフィルタ処理を施し、I1、I2、I3、V2、V3を(数24)式から算出する。この際、(数23)式のパラメータ推定アルゴリズムの推定精度を良くするために、観測ノイズを低減するようローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅く設定する。ただし、電池の応答特性(時定数T1の概略値は既知)よりも速い特性でないと、電池モデルの各パラメータを精度良く推定できないので、電池の応答特性よりは速くする。下記(数24)式のpは、Glp1(s)の応答性を決める定数である。
【0027】
【数24】
実際の演算は、連続時間系で記述された伝達関数をタスティン近似等で離散時間化し、下記(数25)式のような漸化式でフィルタ処理を行う。ただし、係数α0〜β3はGlp1(s)を離散時間化した際の定数である。
【0028】
【数25】
ステップS60では、ステップS50で算出したI1(k)、I2(k)、I3(k)、V2(k)、V3(k)を(数23)式に代入し、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムである(数23)式を行い、パラメータ推定値θ(k)を算出する。
ただし、y=V2、 ωT=[V3,I3,I2,I1]、
θT=[−T1,K・T2,K,d]
ステップS70では、ステップS60で算出したパラメータ推定値θ(k)の中からT1、K・T2、Kを用い、(数14)式と等価な下記(数26)式(=数11)に基づきGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用とする。開路電圧V0は変化が緩やかなので、Glp2(s)・V0で代用できる。ただし、ここで求まるのは推定演算開始時からの開路電圧推定値の変化分△V0(k)である。
ローパスフィルタGlp2(s)の応答性は、(数23)式の適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しない。そのため、Glp2(s)・V0の応答遅れを小さくするように、Glp2(s)の応答性をGlp1(s)の応答性よりも速く設定する。ここが、本実施例の特徴である。下記(数27)式のωおよびζはGlp2(s)の応答性を決める定数である。
【0029】
【数26】
【0030】
【数27】
ステップS80では、ステップS70で算出した△V0(k)はパラメータ推定アルゴリズム開始時からの開路電圧の変化分であるから、開路電圧初期値すなわち端子電圧初期値V_iniを加算して開路電圧推定値V0(k)を下記(数28)式から算出する。
【0031】
【数28】
ステップS90では、図5に示す開路電圧と充電率の相関マップを用いて、ステップS80で算出したV0(k)から充電率SOC(k)を算出する。
なお、図5のVLはSOC=0%に、VHはSOC=100%に相当する開路電圧である。
ステップS100では、次回の演算に必要な数値を保存して、今回の演算を終了する。以上が本実施例の動作説明である。
【0032】
次に、本出願人が先に出願した特願2001−384606号(未公開)との関係について説明する。本発明は上記先行出願をさらに改良したものである。
上記先行出願においては、通電中の二次電池(鉛蓄電池やリチウムイオン電池等の充放電可能な電池)の端子電圧と電流に、適応デジタルフィルタを用いて開路電圧(通電遮断時の端子電圧、起電力)を推定(パラメータ同定)し、予め計測された電池の充電率と開路電圧の関係に、前記開路電圧推定値を照合して、充電率を推定する方法である。
【0033】
具体的には、端子電圧Vと電流Iの関係を、開路電圧V0および過渡項T1、およびK・T2、内部抵抗Kを用いて、(数29)式(=数7)の電池モデルで表す。
【0034】
【数29】
(数29)式に示す電池モデルにおいて、開路電圧V0は初期状態からの電流Iの積分値に比例すると考えて、(数30)式(=数2)のように仮定する。
【0035】
【数30】
(数30)式を(数29)式に代入して変形すれば(数31)式(=数9)になり、オフセット項である開路電圧V0を含まない。
【0036】
【数31】
(数31)式を変形し、両辺に安定なローパスフィルタGlp(s)を乗じれば、(数32)式になる。
【0037】
【数32】
二次電池の電流Iと端子電圧Vの計測データで、(数32)式に公知の適応デジタルフィルタ演算(逐次型のモデルパラメータ同定アルゴリズム)を行い、式中のパラメータ(変数d、過渡項T1およびK・T、内部抵抗K)を一括推定することを特徴とする。
推定したパラメータ(過渡項T1およびK・T2、内部抵抗K)と電流Iと端子電圧Vを、(数29)式と等価な下記(数33)式に代入し、Glp(s)・V0を開路電圧V0として算出する。なお、sはラプラス演算子、Glp(s)は二次以上の安定な口ーパスフィルタである。
【0038】
【数33】
適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムにおいて、推定精度が観測ノイズの影響を受けないように、観測ノイズを除去するためにはGlp(s)の応答性をかなり遅く設定する必要がある。ただし、電池の応答特性(時定数T1の概略値は既知)よりも速い特性でないと、電池モデルの各パラメータを精度良く推定できないので、電池の応答特性よりは速く設定する。なお、上記の数式中で過渡項K・T2を2つの変数の積で表記しているが、K・T2で1つの変数である。
【0039】
上記の先行出願においては、(数32)式と(数33)式で同一のローパスフィルタGlp(s)を用いるという構成になっていたため、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムのパラメータ推定精度を良くするためには、(数32)式のローパスフィルタの応答性を遅く設定してノイズを低減させる必要があり、その結果、(数33)式で算出するGlp(s)・V0がローパスフィルタによる遅れの影響を大きく受けてしまい、推定SOCの遅れが大きくなるとう問題点があった。本発明は、(数5)式におけるローパスフィルタGlp2(s)の応答性を、(数4)式におけるローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定することにより、上記の問題を解決したものである。
【0040】
本発明においては、上記の先行出願と同様に、二次電池の電流Iと端子電圧Vの関係を示す(数1)式を、(数4)式のように近似することで開路電圧V0(オフセット項)を含まない。そのため、計測可能な電流Iと端子電圧Vをフィルタ処理〔snGlp1(s)〕した値と、未知パラメータ〔多項式A(s)やB(s)の係数パラメータおよびd〕の積和式が得られるので、通常の適応デジタルフィルタ(最小二乗法などで、公知のパラメータ推定アルゴリズム)を連続時間系のまま適用することが可能になる。その結果、未知パラメータを一括推定することができ、推定した未知パラメータを(数5)式に代入することで、開路電圧V0の推定値の代用としてGlp2(s)・V0を容易に算出できる。これら未知パラメータは、SOCや温度や劣化度などに影響され時々刻々と変化することが分かっているけれども、適応デジタルフィルタにより精度良く逐次推定できる。そして、開路電圧V0と充電率SOCの関係(図5)は、温度や劣化度に影響されにくく一定の関係があるため、これを予め記憶しておけば開路電圧V0の推定値から充電率SOCを推定できる。
【0041】
さらに、本発明においては、次のごとき特別の効果が得られる。
適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度を良くするためには、観測ノイズを低減するようローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅く設定する必要がある(ただし、電池の応答特性よりは速い特性とする)。逐次推定された精度の良い推定パラメータを(数5)式に代入して、Glp2(s)・V0を算出するが、Glp2(s)の応答性は、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しないため、Glp2(s)・V0の応答遅れを小さくするように、Glp2(s)の応答性はGlp1(s)の応答性よりも速く設定できる。本発明においては、(数5)式のローパスフィルタGlp2(s)の応答性を(数4)式のローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定するという構成であるために、適応デジタルフィルタで逐次推定されるパラメータの精度を良好にし、かつ(数5)式から得るGlp2(s)・V0の応答遅れを小さくできる、という効果がある。
【0042】
図6は、前記実施例において、電流Iと端子電圧Vを適応デジタルフィルタに入力して、各パラメータを推定した結果を示す図である。図6において、従来例と記載してある特性は、前記本出願人の先行出願(特願2001−384606号)の特性である。
図6においては、電流と電圧共に観測ノイズが大きく、パラメータの推定精度を良くするためには、ローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅くする必要がある。従来例では、(数11)式のローパスフィルタGlp2(s)ではなく(数33)式のGlp1(s)を用いていたので、開路電圧から換算される推定SOCは応答遅れが大きい。図6の▲1▼では、放電から充電に切り替わる際に、従来例の推定SOCは上昇するのが遅く推定誤差が大きい。これに対し本実施例では、ローパスフィルタGlp1(s)よりも応答性が速い(数11)式のGlp2(s)を用いているので、開路電圧から換算される推定SOCは応答遅れが小さい。図6の▲1▼では、放電から充電に切り替わる際に、本実施例の推定SOCは、応答遅れが小さいために上昇するのが速く推定誤差が小さい。
【0043】
また、ローパスフィルタやバンドパスフィルタは、「分子の次数≦分母の次数」であることが必要であり、電池モデルに適用した場合は、「分母の次数=分子の次数+1」が良好であることを実験で確認できている。(数4)式において、Glp1(s)の分子に乗じられるsの最高次数はn+1次であり、(数5)式のGlp2(s)ではn次である。したがって、請求項4に記載のように、ローパスフィルタGlp1(s)をn+2次としGlp2(s)をn+1次とすることにより、Glp1(s)の特性を適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの精度を良好にするものとし、かつ、Glp2(s)の応答性をGlp1(s)のものよりも確実に速くできるという効果がある。
図6は、電池モデルの次数=1の場合で、ローパスフィルタGlp1(s)は3次、Glp2(s)は2次で行った実験結果である。本実施例の推定SOCは従来例の場合よりも遅れが小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を機能ブロックで表した図。
【図2】実施例の具体的な構成を示すブロック図。
【図3】二次電池の等価回路モデルを示す図。
【図4】実施例における処理のフローチャート。
【図5】開路電圧と充電率の相関マップ。
【図6】前記実施例において、電流Iと端子電圧Vを適応デジタルフィルタに入力して各パラメータを推定した結果を示す図。
【符号の説明】
1…端子電圧V(k)検出手段 2…電流I(k)検出手段
3a、3b、4a、4b、5a、5b、5c、6a、6b…フィルタ演算手段
7…適応デジタルフィルタ演算手段〔パラメータθ(k)を推定〕
8…開路電圧演算手段〔V0(k)を演算〕 9…充電率推定手段
10…二次電池 20…負荷
30…電子制御ユニット 40…電流計
50…電圧計 60…温度計
【発明の属する技術分野】
本発明は、二次電池の充電率(SOC)を推定する装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
二次電池の充電率SOC(充電状態とも言う)は開路電圧V0(通電遮断時の電池端子電圧であり、起電力、開放電圧とも言う)と相関があるので、開路電圧V0を求めれば充電率を推定することが出来る。しかし、二次電池の端子電圧は、通電を遮断(充放電を終了)した後も安定するまでに時間を要するので、正確な開路電圧V0を求めるには、充放電を終了してから所定の時間が必要である。したがって充放電中や充放電直後では、正確な開路電圧V0を求めることが出来ないので、上記の方法で充電率SOCを求めることが出来ない。そのため、従来は、下記のような方法を用いて開路電圧V0を推定している。
二次電池の充電率(SOC)を推定する技術に関する公知例としては、「論文“適応デジタルフィルタを用いた鉛電池の開路電圧と残存容量の推定”四国総研、四国電力、湯浅電池 T.IEEE Japan Vol.112-C,No.4 1992」がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のごとき従来例においては、実際の電池の物理特性とは全く異なる「非回帰型の電池モデル(出力値が入力値の現在値および過去値だけで決るモデル)」に「適応デジタルフィルタ(逐次型のモデルパラメータ同定アルゴリズム)」を用いて開路電圧を算出し、この値から充電率SOCを算出している。そのため、実際の電池特性(入力:電流、出力:電圧)に応用した場合、電池特性によっては推定演算が全く収束しなかったり、真値に収束しないため、正確な充電率SOCを推定することが困難である、という問題があった。
【0004】
本発明は上記のごとき従来技術の問題を解決するためになされたものであり、充電率SOCおよびその他のパラメータを正確に推定することの出来る二次電池の充電率推定装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明においては特許請求の範囲に記載するように構成している。すなわち、請求項1においては、二次電池の電池モデルを(数1)式に示すように定義し、開路電圧V0を(数2)式で近似することで(数1)式を下記(数3)式とし、(数3)式と等価な(数4)式に対して適応デジタルフィルタ演算を行い、A(s)とB(s)の係数パラメータを一括推定する適応デジタルフィルタ演算手段と、これらの推定値を(数1)式と等価な(数5)式に代入してGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用とする開路電圧演算手段と、予め求めた開路電圧V0と充電率SOCとの関係に基づいて充電率を推定する充電率推定手段と、を備え、かつ、(数5)式におけるローパスフィルタGlp2(s)の応答性を、(数4)式におけるローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定したものである。つまり請求項1においては、観測ノイズを低減するためにローパスフィルタGlp1(s)の応答性は遅くし、かつ、Glp2(s)の応答性は適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しないため、応答遅れを小さくするようにローパスフィルタGlp2(s)の応答性は速くするように構成している。
【0006】
【発明の効果】
本発明においては、二次電池の電流Iと端子電圧Vの関係を示す(数1)式を、(数4)式のように近似することで開路電圧V0(オフセット項)を含まない。そのため通常の適応デジタルフィルタを連続時間系のまま適用することが可能になるので、未知パラメータを一括推定することができ、推定した未知パラメータを(数5)式に代入することで、開路電圧V0の推定値の代用としてGlp2(s)・V0を容易に算出できる。そして開路電圧V0と充電率SOCの関係(図5)は、温度や劣化度に影響されにくく一定の関係があるため、これを予め記憶しておけば開路電圧V0の推定値から充電率SOCを正確かつ容易に推定できる。
さらに、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度を良くするためには、観測ノイズを低減するようローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅く設定する必要があり、かつ、ローパスフィルタGlp2(s)の応答性は、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しないため、Glp2(s)の応答性はGlp1(s)の応答性よりも速く設定できる。本発明においては、(数5)式のローパスフィルタGlp2(s)の応答性を(数4)式のローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定するという構成であるために、適応デジタルフィルタで逐次推定されるパラメータの精度を良好にし、かつ、(数5)式から得るGlp2(s)・V0の応答遅れを小さくできる、という特別の効果がある。
【0007】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の一実施例を機能ブロックで表した図である。図1において、1は電池の端子電圧を検出する端子電圧V(k)検出手段、2は電池の電流を検出する電流I(k)検出手段、3a、3b、4a、4b、5a、5b、5c、6a、6bはそれぞれフィルタ演算手段である。これらのフィルタ演算手段のうち、3a、3b、5a、5b、5cはGlp1(s)のローパスまたはバンドパスフィルタであり、4a、4b、6a、6bはGlp2(s)のローパスまたはバンドパスフィルタである。そしてローパスフィルタGlp2(s)の応答性をローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定している。また、7は適応デジタルフィルタ演算手段〔パラメータθ(k)を推定〕、8は開路電圧演算手段〔V0(k)を演算〕、9は開路電圧から充電率を演算する充電率推定手段である。なお、請求項に記載の適応デジタルフィルタ演算手段は上記フィルタ演算手段3〜6と適応デジタルフィルタ演算手段7を合わせた部分に相当する。
【0008】
図2は、実施例の具体的な構成を示すブロック図である。この実施例は、二次電池でモータ等の負荷を駆動したり、モータの回生電力で二次電池を充電するシステムに、二次電池の充電率推定装置を設けた例を示す。
図2において、10は二次電池(単に電池ともいう)、20はモータ等の負荷、30は電池の充電状態を推定する電子制御ユニットで、プログラムを演算するCPUやプログラムを記憶したROMや演算結果を記憶するRAMから成るマイクロコンピュータと電子回路等で構成される。40は電池から充放電される電流を検出する電流計、50は電池の端子電圧を検出する電圧計、60は電池の温度を検出する温度計であり、それぞれ電子制御ユニット30に接続される。上記の電子制御ユニット30は前記図1のフィルタ演算手段3a、3b、4a、4b、5a、5b、5c、6a、6b、適応デジタルフィルタ演算手段7、開路電圧V0(k)演算手段8および充電率推定手段9の部分に相当する。また、電流計40は電流I(k)検出手段2に、電圧計50は端子電圧V(k)検出手段1に、それぞれ相当する。
【0009】
本発明は、通電中の二次電池の端子電圧Vと電流Iの計測データに、適応デジタルフィルタを用いて開路電圧V0を推定し、公知の開路電圧V0と充電率SOCの関係から充電率を推定する装置であり、二次電池の電池モデルを前記請求項1に記載の(数1)式に示すように定義し、開路電圧V0を前記(数2)式で近似することで(数1)式を前記(数3)式とし、(数3)式と等価な前記(数4)式に対して適応デジタルフィルタ演算を行い、A(s)とB(s)の係数パラメータを一括推定し、これらの推定値を(数1)式と等価な前記(数5)式に代入してGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用として、予め求めた開路電圧V0と充電率SOCとの関係に基づいて充電率を推定するものである。
【0010】
上記の内容を具体的に説明すると次のようになる。
まず、本実施例で用いる「電池モデル」を説明する。図3は、二次電池の等価回路モデルを示す図であり、二次電池の電池モデルは下記(数13)式で示される。
【0011】
【数13】
(数13)式において、モデル入力は電流I[A](正値は充電、負値は放電)、モデル出力は端子電圧V[V]、R1〔Ω]は電荷移動抵抗、R2[Ω]は純抵抗、C1[F]は電気二重層容量、V0[V]は開路電圧である。なお、sはラプラス演算子である。本モデルは、正極、負極を特に分離していないリダクションモデル(一次)であるが、実際の電池の充放電特性を比較的正確に示すことが可能である。このように本実施例においては、電池モデルの次数を1次にした構成(請求項2または請求項3に相当)を例として説明する。
【0012】
上記(数13)式の電池モデルから適応デジタルフィルタまでの導出を最初に説明する。
(数13)式を変形すると(数14)式(=数7)になる。
【0013】
【数14】
ただし、T1=C1・R1、 T2=C1・R1・R2/(R1+R2)
K=R1+R2
開路電圧V0は、電流Iに可変な効率dを乗じたものを、ある初期状態から積分したものと考えれば、(数15)式(=数2=数8)で書ける。
【0014】
【数15】
(数15)式を(数14)式に代入すれば(数16)式になり、整理すれば(数17)式(=数9)になる。
【0015】
【数16】
【0016】
【数17】
安定なローパスフィルタGlp1(s)を(数17)式の両辺に乗じて、整理すれば(数18)式になる。
【0017】
【数18】
実際に計測可能な電流Iや端子電圧Vに、ローパスフィルタやバンドパスフィルタを処理した値を、下記(数19)式のように定義する。
【0018】
【数19】
上記変数を用いて(数18)式を書き直せば(数20)式になる。
【0019】
【数20】
更に変形すれば(数21)式になる。
【0020】
【数21】
(数21)式は、計測可能な値と未知パラメータの積和式になっているので、一般的な適応デジタルフィルタの標準形(数22)式と一致する。
【0021】
【数22】
ただし、y=V2、 ωT=[V3,I3,I2,I1]
θT=[−T1,K・T2,K,d]
従って、電流Iと端子電圧Vにフィルタ処理した信号を、適応デジタルフィルタ演算に用いることで、未知パラメータベクトルθを推定する。本実施例では、単純な「最小二乗法による適応デジタルフィルタ」の論理的な欠点(一度推定値が収束すると、その後パラメータが変化しても再度正確な推定ができないこと)を改善した「両限トレースゲイン方式」を用いる。
【0022】
(数22)式を前提に未知パラメータベクトルθを推定するためのパラメータ推定アルゴリズムは(数23)式となる。ただし、k時点のパラメータ推定値をθ(k)とする。
【0023】
【数23】
ただし、λ1、λ3(k)、γU、γLは初期設定値で、0<λ1<1、0<λ3(k)<∞とする。P(0)は十分大きな値、θ(0)は非ゼロな十分小さな値を初期値とする。trace{P}は行列Pのトレースを意味する。
以上が、電池モデルから適応デジタルフィルタまでの導出である。
【0024】
図4は、電子制御ユニット30のマイコンが行う処理のフローチャートであり、同図のルーチンは一定周期T0毎に実施される。例えば、I(k)は今回の値、I(k−1)は1回前の値を意味する。なお、本実施例は、電池モデルの次数を1次にしたものである。
【0025】
図4において、まず、ステップS10では、電流I(k)、端子電圧V(k)を計測する。
ステップS20では、二次電池の遮断リレーの判断する。電子制御ユニット30は二次電池の遮断リレーの制御も行っており、リレー遮断時(電流I=0)はステップS30へ進む。リレー締結時はステップS40へ進む。
ステップS30では、端子電圧V(k)を端子電圧初期値V_iniとして記憶する。
ステップS40では、端子電圧差分値△V(k)を算出する。
ただし、△V(k)=V(k)−V_ini
これは、適応デジタルフィルタ内の推定パラメータの初期値を約0としているので、推定演算開始時に推定パラメータが発散しないように、入力を全て0とするためである。リレー遮断時はステップS30を通るため、I=0かつ△V(h)=0なので、推定パラメータは初期状態のままである。
【0026】
ステップS50では、電流I(k)と端子電圧差分値△V(k)に、(数19)式に基づきローパスフィルタGlp1(s)、バンドパスフィルタs・Glp1(s)およびs2・Glp1(s)のフィルタ処理を施し、I1、I2、I3、V2、V3を(数24)式から算出する。この際、(数23)式のパラメータ推定アルゴリズムの推定精度を良くするために、観測ノイズを低減するようローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅く設定する。ただし、電池の応答特性(時定数T1の概略値は既知)よりも速い特性でないと、電池モデルの各パラメータを精度良く推定できないので、電池の応答特性よりは速くする。下記(数24)式のpは、Glp1(s)の応答性を決める定数である。
【0027】
【数24】
実際の演算は、連続時間系で記述された伝達関数をタスティン近似等で離散時間化し、下記(数25)式のような漸化式でフィルタ処理を行う。ただし、係数α0〜β3はGlp1(s)を離散時間化した際の定数である。
【0028】
【数25】
ステップS60では、ステップS50で算出したI1(k)、I2(k)、I3(k)、V2(k)、V3(k)を(数23)式に代入し、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムである(数23)式を行い、パラメータ推定値θ(k)を算出する。
ただし、y=V2、 ωT=[V3,I3,I2,I1]、
θT=[−T1,K・T2,K,d]
ステップS70では、ステップS60で算出したパラメータ推定値θ(k)の中からT1、K・T2、Kを用い、(数14)式と等価な下記(数26)式(=数11)に基づきGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用とする。開路電圧V0は変化が緩やかなので、Glp2(s)・V0で代用できる。ただし、ここで求まるのは推定演算開始時からの開路電圧推定値の変化分△V0(k)である。
ローパスフィルタGlp2(s)の応答性は、(数23)式の適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しない。そのため、Glp2(s)・V0の応答遅れを小さくするように、Glp2(s)の応答性をGlp1(s)の応答性よりも速く設定する。ここが、本実施例の特徴である。下記(数27)式のωおよびζはGlp2(s)の応答性を決める定数である。
【0029】
【数26】
【0030】
【数27】
ステップS80では、ステップS70で算出した△V0(k)はパラメータ推定アルゴリズム開始時からの開路電圧の変化分であるから、開路電圧初期値すなわち端子電圧初期値V_iniを加算して開路電圧推定値V0(k)を下記(数28)式から算出する。
【0031】
【数28】
ステップS90では、図5に示す開路電圧と充電率の相関マップを用いて、ステップS80で算出したV0(k)から充電率SOC(k)を算出する。
なお、図5のVLはSOC=0%に、VHはSOC=100%に相当する開路電圧である。
ステップS100では、次回の演算に必要な数値を保存して、今回の演算を終了する。以上が本実施例の動作説明である。
【0032】
次に、本出願人が先に出願した特願2001−384606号(未公開)との関係について説明する。本発明は上記先行出願をさらに改良したものである。
上記先行出願においては、通電中の二次電池(鉛蓄電池やリチウムイオン電池等の充放電可能な電池)の端子電圧と電流に、適応デジタルフィルタを用いて開路電圧(通電遮断時の端子電圧、起電力)を推定(パラメータ同定)し、予め計測された電池の充電率と開路電圧の関係に、前記開路電圧推定値を照合して、充電率を推定する方法である。
【0033】
具体的には、端子電圧Vと電流Iの関係を、開路電圧V0および過渡項T1、およびK・T2、内部抵抗Kを用いて、(数29)式(=数7)の電池モデルで表す。
【0034】
【数29】
(数29)式に示す電池モデルにおいて、開路電圧V0は初期状態からの電流Iの積分値に比例すると考えて、(数30)式(=数2)のように仮定する。
【0035】
【数30】
(数30)式を(数29)式に代入して変形すれば(数31)式(=数9)になり、オフセット項である開路電圧V0を含まない。
【0036】
【数31】
(数31)式を変形し、両辺に安定なローパスフィルタGlp(s)を乗じれば、(数32)式になる。
【0037】
【数32】
二次電池の電流Iと端子電圧Vの計測データで、(数32)式に公知の適応デジタルフィルタ演算(逐次型のモデルパラメータ同定アルゴリズム)を行い、式中のパラメータ(変数d、過渡項T1およびK・T、内部抵抗K)を一括推定することを特徴とする。
推定したパラメータ(過渡項T1およびK・T2、内部抵抗K)と電流Iと端子電圧Vを、(数29)式と等価な下記(数33)式に代入し、Glp(s)・V0を開路電圧V0として算出する。なお、sはラプラス演算子、Glp(s)は二次以上の安定な口ーパスフィルタである。
【0038】
【数33】
適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムにおいて、推定精度が観測ノイズの影響を受けないように、観測ノイズを除去するためにはGlp(s)の応答性をかなり遅く設定する必要がある。ただし、電池の応答特性(時定数T1の概略値は既知)よりも速い特性でないと、電池モデルの各パラメータを精度良く推定できないので、電池の応答特性よりは速く設定する。なお、上記の数式中で過渡項K・T2を2つの変数の積で表記しているが、K・T2で1つの変数である。
【0039】
上記の先行出願においては、(数32)式と(数33)式で同一のローパスフィルタGlp(s)を用いるという構成になっていたため、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムのパラメータ推定精度を良くするためには、(数32)式のローパスフィルタの応答性を遅く設定してノイズを低減させる必要があり、その結果、(数33)式で算出するGlp(s)・V0がローパスフィルタによる遅れの影響を大きく受けてしまい、推定SOCの遅れが大きくなるとう問題点があった。本発明は、(数5)式におけるローパスフィルタGlp2(s)の応答性を、(数4)式におけるローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定することにより、上記の問題を解決したものである。
【0040】
本発明においては、上記の先行出願と同様に、二次電池の電流Iと端子電圧Vの関係を示す(数1)式を、(数4)式のように近似することで開路電圧V0(オフセット項)を含まない。そのため、計測可能な電流Iと端子電圧Vをフィルタ処理〔snGlp1(s)〕した値と、未知パラメータ〔多項式A(s)やB(s)の係数パラメータおよびd〕の積和式が得られるので、通常の適応デジタルフィルタ(最小二乗法などで、公知のパラメータ推定アルゴリズム)を連続時間系のまま適用することが可能になる。その結果、未知パラメータを一括推定することができ、推定した未知パラメータを(数5)式に代入することで、開路電圧V0の推定値の代用としてGlp2(s)・V0を容易に算出できる。これら未知パラメータは、SOCや温度や劣化度などに影響され時々刻々と変化することが分かっているけれども、適応デジタルフィルタにより精度良く逐次推定できる。そして、開路電圧V0と充電率SOCの関係(図5)は、温度や劣化度に影響されにくく一定の関係があるため、これを予め記憶しておけば開路電圧V0の推定値から充電率SOCを推定できる。
【0041】
さらに、本発明においては、次のごとき特別の効果が得られる。
適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度を良くするためには、観測ノイズを低減するようローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅く設定する必要がある(ただし、電池の応答特性よりは速い特性とする)。逐次推定された精度の良い推定パラメータを(数5)式に代入して、Glp2(s)・V0を算出するが、Glp2(s)の応答性は、適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの推定精度には関与しないため、Glp2(s)・V0の応答遅れを小さくするように、Glp2(s)の応答性はGlp1(s)の応答性よりも速く設定できる。本発明においては、(数5)式のローパスフィルタGlp2(s)の応答性を(数4)式のローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定するという構成であるために、適応デジタルフィルタで逐次推定されるパラメータの精度を良好にし、かつ(数5)式から得るGlp2(s)・V0の応答遅れを小さくできる、という効果がある。
【0042】
図6は、前記実施例において、電流Iと端子電圧Vを適応デジタルフィルタに入力して、各パラメータを推定した結果を示す図である。図6において、従来例と記載してある特性は、前記本出願人の先行出願(特願2001−384606号)の特性である。
図6においては、電流と電圧共に観測ノイズが大きく、パラメータの推定精度を良くするためには、ローパスフィルタGlp1(s)の応答性を遅くする必要がある。従来例では、(数11)式のローパスフィルタGlp2(s)ではなく(数33)式のGlp1(s)を用いていたので、開路電圧から換算される推定SOCは応答遅れが大きい。図6の▲1▼では、放電から充電に切り替わる際に、従来例の推定SOCは上昇するのが遅く推定誤差が大きい。これに対し本実施例では、ローパスフィルタGlp1(s)よりも応答性が速い(数11)式のGlp2(s)を用いているので、開路電圧から換算される推定SOCは応答遅れが小さい。図6の▲1▼では、放電から充電に切り替わる際に、本実施例の推定SOCは、応答遅れが小さいために上昇するのが速く推定誤差が小さい。
【0043】
また、ローパスフィルタやバンドパスフィルタは、「分子の次数≦分母の次数」であることが必要であり、電池モデルに適用した場合は、「分母の次数=分子の次数+1」が良好であることを実験で確認できている。(数4)式において、Glp1(s)の分子に乗じられるsの最高次数はn+1次であり、(数5)式のGlp2(s)ではn次である。したがって、請求項4に記載のように、ローパスフィルタGlp1(s)をn+2次としGlp2(s)をn+1次とすることにより、Glp1(s)の特性を適応デジタルフィルタでのパラメータ推定アルゴリズムの精度を良好にするものとし、かつ、Glp2(s)の応答性をGlp1(s)のものよりも確実に速くできるという効果がある。
図6は、電池モデルの次数=1の場合で、ローパスフィルタGlp1(s)は3次、Glp2(s)は2次で行った実験結果である。本実施例の推定SOCは従来例の場合よりも遅れが小さいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を機能ブロックで表した図。
【図2】実施例の具体的な構成を示すブロック図。
【図3】二次電池の等価回路モデルを示す図。
【図4】実施例における処理のフローチャート。
【図5】開路電圧と充電率の相関マップ。
【図6】前記実施例において、電流Iと端子電圧Vを適応デジタルフィルタに入力して各パラメータを推定した結果を示す図。
【符号の説明】
1…端子電圧V(k)検出手段 2…電流I(k)検出手段
3a、3b、4a、4b、5a、5b、5c、6a、6b…フィルタ演算手段
7…適応デジタルフィルタ演算手段〔パラメータθ(k)を推定〕
8…開路電圧演算手段〔V0(k)を演算〕 9…充電率推定手段
10…二次電池 20…負荷
30…電子制御ユニット 40…電流計
50…電圧計 60…温度計
Claims (4)
- 二次電池の電流Iと端子電圧Vとを計測し、適応デジタルフィルタを用いて、上記電流Iと端子電圧Vの計測値から開路電圧V0を推定し、予め求めた開路電圧V0と充電率SOCとの関係に基づいて充電率を推定する充電率推定装置であって、
二次電池の電池モデルを下記(数1)式に示すように定義し、開路電圧V0を下記(数2)式で近似することで(数1)式を下記(数3)式とし、(数3)式と等価な下記(数4)式に対して適応デジタルフィルタ演算を行い、A(s)とB(s)の係数パラメータを一括推定する適応デジタルフィルタ演算手段と、
これらの推定値を(数1)式と等価な下記(数5)式に代入してGlp2(s)・V0を算出し、これを開路電圧V0の代用とする開路電圧演算手段と、
予め求めた開路電圧V0と充電率SOCとの関係に基づいて充電率を推定する充電率推定手段と、を備え、
かつ、(数5)式におけるローパスフィルタGlp2(s)の応答性を、(数4)式におけるローパスフィルタGlp1(s)の応答性よりも速く設定したことを特徴とする二次電池の充電率推定装置。
- 上記電池モデルの次数を1次にしたことを特徴とする請求項1に記載の二次電池の充電率推定装置。
- 前記(数4)式のGlp1(s)をn+2次のローパスフィルタ、前記(数5)式のGlp2(s)をn+1次のローパスフィルタにしたことを特徴とする請求項1に記載の二次電池の充電率推定装置。
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