以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。まず初めに、本実施形態で用いている加速度脈波波形の類型について述べることとする。図2(a)には色々なタイプの加速度脈波波形を示してある。血液循環が良好な場合、ピークaに対してバレイbは大きく下降し、ピークcは基線の近傍まで上昇し、バレイdの下降が少ない波形(同図((1)又は(2))が見られる。一方、血液循環が不十分になってくると、心臓の負担が増加してバレイbとバレイdが同じ程度(同図(3))となる。さらに、本格的に血液循環が悪くなってくると、バレイdがバレイbより下となる波形(同図(4))、ピークcがバレイbと同位置となる波形(同図(5))、ピークcがバレイbより下になる波形(同図(6))などに変容する。
測定した加速度脈波が、図2(a)の(1)〜(6)の何れのパターンに属するかの判断基準としては、図2(b)に示すように、ピークaの振幅とこれ以外のピーク或いはバレイの振幅との比を用いることが考えられる。まず、バレイdとピークaの振幅比d/aを基準とする場合、この値が10%以内であればパターン(1),10〜35%であればパターン(2),35〜60%であればパターン(3),60〜100%であればパターン(4)乃至(6)に区分される。
一方、ピークcとピークaの振幅比c/aを基準とする場合、この値が−10%以内であればパターン(1),10〜15%であればパターン(2),−15%以内であればパターン(3),0〜20%であればパターン(4),20〜40%であればパターン(5),40%以上であればパターン(6)に区分される。もっとも、パターン(2)〜(4)は互いに範囲が重複するため、パターン(4)〜(6)のみの区別に使用するか、振幅比d/aの値と組み合わせて用いることになる。なお、振幅比が負となることがあるが、これは、ピークcやバレイdが基線の上側に位置していることを意味する。
ここで、ある一人の使用者に着目した場合、当該使用者の加速度脈波の波形がパターン(1)に近いほど健康状態は良好であると言え、逆に、パターン(6)に近いほど健康状態は悪いという傾向が見られる。このように、加速度脈波の波形を見ることによって使用者の健康状態を推知することができ、例えば、虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)或いは脳血管障害(脳卒中やくも膜下出血)の発生の予知にも有用であると考えられる。
一方、使用者の年齢と加速度脈波との関連を調べてみると、加齢に従って加速度脈波の波形がパターン(1)からパターン(6)へと移行してゆく傾向が見られる。そこで、使用者から測定した加速度脈波の波形が、その人の年齢から推定される加速度脈波の波形に比べて極端にパターン(6)側へ偏っているようであれば、やはり上記のような疾病の前兆を示すものであると推断することができる。
[第1実施形態]
次に、本実施形態による健康状態管理装置の構成を説明する。図1は、同装置の構成を示すブロック図である。この図において、CPU(中央処理装置)1は健康状態管理装置内の各回路を制御する中枢部であって、その機能に関しては、後述する動作の項にて説明する。
ROM(リードオンリーメモリ)2にはCPU1が実行する制御プログラムや各種の制御データ等が格納されているほか、振幅比d/aなどの使用者の健康状態のパターンに対応して、望ましい運動を実現するための運動強度の目標値(平均的な運動強度),運動強度の上限値および下限値,運動時間の目標値がそれぞれ格納されている。RAM(ランダムアクセスメモリ)3は、CPU1が演算を行う際の作業領域(例えば、運動中の総運動量の格納域)として使われるほか、次述する各種センサからの計測値,演算結果などが格納される。
脈波センサ4は本装置の使用者(或いは携帯者)の手の指,例えば第2指,に装着された光学式の脈波検出センサである。この脈波センサ4は、例えば、発光ダイオードと、フォトトランジスタ等を用いた光センサとから構成されている。そして、発光ダイオードから放射された光が、皮膚下の血管を介して反射され、光センサにて受光されて光電変換された結果、脈波検出信号が得られる。なお、信号対雑音(SN)比を考慮した場合、発光ダイオードには青色光の発光ダイオードを用いると良い。
加速度センサ5は、使用者の体の動きを捉える体動センサであって、上記の脈波センサ4と同じ場所、例えば手の指、に取り付けられている。センサインターフェース6は、脈波センサ4および加速度センサ5の出力を、それぞれ所定の間隔で取り込み、取り込まれたアナログ信号をデジタル信号へ変換して出力する。
表示装置7は使用者に対してメッセージ等の各種情報を表示するための装置であって、例えば、腕時計に設けられた液晶表示装置である。また、表示制御回路8は、CPU1から表示情報を受け取って、これを表示装置7が使用するフォーマットへ変換して表示装置7へ表示を行わせる。時計回路9は、通常の計時機能のほか、CPU1が予め設定した時刻に達した時点或いはCPU1が予め設定した時間が経過した時点で、CPU1へ割り込み信号を送出する機能を有している。
ここで、健康状態管理装置を「携帯機器」として人体へ装着する方法として幾つかの態様が考えられる。以下にはその一例を示すが、これら以外の様々な携帯機器と組み合わせることも当然可能である。まず、第1の態様として、図3に示すような腕時計と組み合わせた形態が挙げられる。
この図に示すように、本態様における健康状態管理装置は、腕時計構造を有する装置本体100,この装置本体100に接続されたケーブル101,このケーブル101の先端側に設けられたセンサユニット102から構成されている。また、装置本体100には、腕時計の12時方向から使用者の腕に巻き付いて、腕時計の6時方向で固定されるリストバンド103が取り付けられている。そして、装置本体100は、このリストバンド103によって使用者の腕から着脱自在となっている。
また、センサユニット102は、センサ固定用バンド104によって遮光されており、使用者の人指し指の根元〜第2指関節の間に装着されている。センサユニット102をこのように指の根元に装着すると、ケーブル101が短くて済む上、運動中においてもケーブル101が使用者の邪魔にならない。また、掌から指先までの体温の分布を計測してみると、周囲の温度が低い場合に、指先の温度は著しく低下するのに対して、指の根元の温度は比較的低下しないことが知られている。従って、指の根元にセンサユニット102を装着すれば、寒い日に屋外で運動した場合であっても、脈拍数などを正確に計測することができる。
一方、腕時計の6時の方向の表面側には、コネクタ部105が設けられている。このコネクタ部105には、ケーブル101の端部に設けられたコネクタピース106が着脱自在に取り付けられており、コネクタピース106をコネクタ部105から外すことにより、本装置を通常の腕時計やストップウオッチとして用いることができる。なお、コネクタ部105を保護する目的から、ケーブル101とセンサユニット102をコネクタ部105から外した状態では、所定のコネクタカバーを装着する。このコネクタカバーは、コネクタピース106と同様に構成された部品から電極部などを除いたものが用いられる。
このように構成されたコネクタ構造によれば、コネクタ部105が使用者から見て手前側に配置されることとなり、使用者にしてみれば操作が簡単になる。また、コネクタ部105が、装置本体100から腕時計の3時の方向に張り出さないために、運動中に使用者が手首を自由に動かすことができ、使用者が運動中に転んだとしても、手の甲がコネクタ部105にぶつからない。
なお、図3におけるその他の部品については、図4を参照して、以下に詳細に説明することとする。図4は、本態様における装置本体100の詳細を、ケーブル101やリストバンド103を外した状態で示したものである。ここで、同図において、図3と同一の部品には同一の符号を付してあり、ここではその説明を省略する。
この図において、装置本体100は樹脂製の時計ケース107を具備している。時計ケース107の表面には、現在時刻や日付に加えて、脈拍数などの脈波情報をデジタル表示するための液晶表示装置108が設けられている。この液晶表示装置108は、表示面の左上側に位置する第1のセグメント表示領域108-1、右上側に位置する第2のセグメント領域108-2、右下側に位置する第3のセグメント領域108-3、左下側に位置するドット表示領域108-Dから構成されている。
ここで、第1のセグメント領域108-1には、日付,曜日,現在時刻などが表示される。また、第2のセグメント領域108-2には、各種の時間測定を実施するにあたって経過時間などが表示される。また、第3のセグメント領域108-3には、脈波の測定において計測された脈拍数などが表示される。さらに、ドット表示領域108-Dには各種の情報をグラフィック表示することが可能であって、ある時点において本装置がどのようなモードにあるかを表わすモード表示,脈波の原波形/速度脈波波形/加速度脈波波形の表示,脈拍数の時間的変化の棒グラフ表示などの様々な表示が可能である。なお、上記のモードには、健康状態管理装置としての使用する本来のモードのほかに、時刻や日付を設定するためのモード,ストップウォッチとして使用するためのモードなどがある。
一方、時計ケース107の内部には、脈拍数の変化などを液晶表示装置108で表示するための信号処理等を行う制御部109が内蔵されている。この制御部109は、計時を行うための時計回路を含んでおり、液晶表示装置108には、通常の時刻表示のほかに、ストップウォッチとして動作するモードにおいてはラップタイム,スプリットタイムなどの表示もなされる。
他方、時計ケース107の外周部と表面部には、ボタンスイッチ111〜117が設けられている。腕時計の2時の方向にあるボタンスイッチ111を押すと、当該ボタンの押下時点から1時間を経過した時にアラーム音が発生する。また、腕時計の4時の方向にあるボタンスイッチ112は、本装置が通常の時計として有している各種モードの切り換えを指示するためのものである。
腕時計の11時方向にあるボタンスイッチ113を押すと、液晶表示装置108のEL(Electro Luminescence)バックライトが例えば3秒間点灯して、しかる後に、自動的に消灯する。また、腕時計の8時方向にあるボタンスイッチ114は、ドット表示領域108-Dに表示すべきグラフィック表示の種類を切り換えるためのものである。また、腕時計の7時方向にあるボタンスイッチ115を押すことによって、時刻,日付を修正するモードにおいて、時分秒,年月日,12/24時間表示切り換えの何れを設定するのかを切り換えることができる。
液晶表示装置108の下側に位置するボタンスイッチ116は、上記の時刻,日付を修正するにあたって設定値を1ずつ繰り下げるのに使用されるほか、ラップを計測する場合において、各ラップをCPU1へ教示するためのスイッチとしても使用される。また、液晶表示装置108の上側に位置するボタンスイッチ117は、健康状態管理装置としての動作を開始/停止する指示を行うために使用される。また、このボタンスイッチは、上記の時刻,日付の修正モードにおいて設定値を1ずつ繰り上げるのに使用され、さらに、各種の経過時間測定の開始/停止の指示を行うためにも使用される。
また、本装置の電源として用意されているのは、時計ケース107に内蔵されたボタン形の電池118であって、図3に示すケーブル101は電池118からセンサユニット102に電力を供給し、センサユニット102の検出結果を制御部109に送出する役割を果たしている。
また、本装置においては、装置が備える機能を増やすに伴って、装置本体100を大型化する必要が生じてくる。しかし、装置本体100は腕に装着されるという制約があるために、装置本体100を腕時計の6時の方向や12時の方向には拡大することができない。そこで、本態様においては、腕時計の3時の方向及び9時の方向における長さ寸法が、6時の方向及び12時の方向における長さ寸法よりも長い横長の時計ケース107を用いることとしている。
また、本態様では、リストバンド103を3時の方向側に偏った位置で時計ケース107に接続している。さらに、リストバンド103から見た場合に、腕時計の9時の方向に大きな張り出し部分119を有するが、かかる大きな張り出し部分は、腕時計の3時の方向には存在しない。従って、横長の時計ケース107を用いたわりには、使用者が手首を曲げることができ、使用者が転んでも手の甲を時計ケース107にぶつけることがない。
また、時計ケース107の内部には、電池118に対して9時の方向に、ブザーとして用いる偏平な圧電素子120が配置されている。ここで、電池118は圧電素子120に比較して重く、装置本体100の重心位置は3時の方向に偏った位置にある。しかるに、重心が偏っている側にリストバンド103が接続されていることから、装置本体100を安定した状態で腕に装着することができる。さらに、電池118と圧電素子120とを面方向に配置してあるため、装置本体100を薄型化でき、腕時計の裏面部に電池蓋を設けることによって、使用者が電池118を容易に交換することができる。
なお、図1と図3乃至図4との対応であるが、図4の制御部109が、図1のCPU1,ROM2,RAM3,センサインターフェース6,表示制御回路8,時計回路9に相当する。また、図3のセンサユニット102が、図1の脈波センサ4,加速度センサ5に相当し、図3乃至図4の液晶表示装置108が、図1の表示装置7に相当する。
また、この態様においては、脈波を使用者の手の指の根元で測定することとした。しかし、脈波の測定部位はこれに限られるものではなく、例えば、橈骨動脈部あるいはその周辺部において脈波の測定を行うようにしても良い。さらに、この態様を一部変形したものとして、図5に示すように、センサユニット102とセンサ固定用バンド104とを指尖部へ取り付けるようにして、指尖容積脈波を測定するようにした態様が考えられる。
次に、第2の態様として、図6のようなネックレス等のアクセサリーと組み合わせる形態が考えられる。この図において、図3乃至図5に示したものと同一の部品については同じ符号を付してあり、その説明を省略する。この図において、31はセンサパッドであって、たとえばスポンジ状の緩衝材である。センサパッド31の中には、図1の脈波センサ4/加速度センサ5が取り付けられている。これにより、ネックレスを首にかけることで、首の後ろ側の皮膚に接触して脈波を測定することができる。
さらに、ブローチ様の形状をしたケース32には、図1のCPU1,ROM2,RAM3,センサインターフェース6,表示制御回路8,時計回路9が組み込まれているとともに、上記のケーブル101は鎖33の中に埋め込まれている。このように、本実施形態では首の付け根の部分の脈波が測定されることになる。また、本態様においては時計機能が格別必要ではないことから、表示装置7がグラフィック表示可能なドット表示領域108-Dだけから構成されていても良い。
次に、第3の態様として、図7のように眼鏡と組み合わせることも考えられる。この図において、図3乃至図6に示したものと同一の部品については同じ符号を付してあり、その説明を省略する。図7に示すように、ここでは装置本体が眼鏡のフレームの蔓41に取り付けられており、その本体はさらにケース42aとケース42bに分かれ、蔓41内部に埋め込まれたリード線を介して接続されている。なお、このリード線は蔓41に沿って這わせるようにしても良い。
また、ケース42aにおいて、そのレンズ43側の側面の全面には液晶パネル44が取り付けられている。さらに、該側面の一端には鏡45が所定の角度で固定されている。加えて、ケース42aには、光源(図示略)を含む液晶パネル44の駆動回路が組み込まれている。そして、この光源から発射された光は、液晶パネル44を介して鏡45で反射されて、眼鏡のレンズ43に投射される。従って、この場合にはレンズ43が図1の表示装置7に相当すると言える。
また、ケース42bには、図1のCPU1,ROM2,RAM3,センサインターフェース6,表示制御回路8,時計回路9が組み込まれている。脈波センサ4は、パッド46,46に内蔵されており、これらパッドで耳朶を挟むことにより耳へ固定するようになっている。なお、この態様においては加速度センサ5の図示を省略してある。また、本実施形態では耳朶における脈波が測定されることになる。
次に、上記構成による健康状態管理装置の動作を説明する。まず、使用者は運動開始前において、本装置の機能を有効化するためにボタンスイッチ117を押す。そうすると、脈波センサ4と加速度センサ5からそれぞれ脈波波形と加速度値とがセンサインターフェース6へ送出され、デジタル信号に変換される。これと並行して、CPU1は、読み取った脈波の波形を表示制御回路8へ送出して脈波の波形を表示装置7上へ表示させる。これにより使用者は、例えば図4の液晶表示装置108のドット表示領域108-D上において、刻々と変化する脈波の波形をグラフィック表示により観察することができる。
続いて、CPU1は、ボタンスイッチ117が押された後であって使用者が運動を開始する前に一度だけ安静時脈拍数を計測するようにする。ここで、CPU1は、使用者が運動をしているか否か(換言すれば、使用者が安静状態にあるか否か)を、使用者の体動に伴う脈波センサ4の動きが脈波の検出に悪影響を及ぼす程度にまで達しているかどうかにより判断する。すなわち、CPU1は、加速度センサ5の出力値が所定値(一例を挙げれば、0.1G)を越えていれば、使用者が運動をしている状態(即ち、安静でない状態)にあるものと判断する。そして、このような状態においては脈波の検出が正しく実施できないので、CPU1は使用者に対して身体を動かさないように注意を促すためのメッセージを表示装置7上に表示させる。
そして、CPU1は、加速度センサ5の出力値が所定値以下となると、使用者が運動をしていない状態(即ち、安静状態)にあるものと判断して、センサインターフェース6から脈波の波形を所定時間だけ読み取ってRAM3に格納した後、この期間内に取り込んだ脈波波形を波長単位に分割して波長の数をカウントし、これを1分当たりに換算して脈拍数を算出する。そして、算出した脈拍数を安静時の脈拍数としてRAM3へ格納する。
次に、CPU1はRAM3に格納された脈波波形の中から一波長分を読み取る。次いで、この波形に対して時間微分を2回とり、図15に示すごとき加速度脈波波形を求める。そして、CPU1は加速度脈波の波形の変曲点を求めてピークa,バレイb,ピークc,バレイdを決定し、各変曲点における振幅値を求める。なお、これらの変曲点は、加速度脈波の時間微分をとるなどの一般的な手法によって求めることができる。また、算出された加速度脈波の波形や、該加速度脈波を求める過程で得られる速度脈波の波形を、表示装置7にグラフィック表示するようにしても良い。
次いで、CPU1は、バレイb,ピークc,バレイdの各振幅値をピークaの振幅値で正規化した値、つまり振幅比b/a,c/a,d/a、を算出して算出結果をRAM3へ格納する。ここで、これらの振幅比のうち、血液循環の状態を表わす指標としては、振幅比d/aが最も有用である。そこで、以後、本実施形態では原則として振幅比d/aだけを用いて説明する。なお、後述するように、より厳密には振幅比d/aと振幅比c/aとを用いるのが望ましいが、以下では最も簡便な方法として振幅比d/aだけを用いた判定を行うものとする。
次に、CPU1は使用者に対してどの程度の運動をすべきかを指導する。そこでまずCPU1は、上記のようにして求めた振幅比d/aと図2(b)に示したテーブルに基づいて、運動前の加速度脈波波形がパターン(1)〜(6)の何れに属するかを判定し、そのパターンの種類を運動前における加速度脈波波形のパターンとしてRAM3へ格納するとともに、当該パターンの種類を表示装置7に表示する。しかるに、パターンの種類だけを告知されても、使用者にとってはわかりづらい面がある。そこで、例えばパターン(3)と決定された場合に、「健康状態が不十分になり始めています。」などという補助的なメッセージを表示装置7へ表示させるようにする。次いで、得られた脈波のパターンに対応した運動強度の目標値,上限値,下限値および運動時間の目標値とをROM2から読み出してRAM3に格納するとともに、これらの値を表示装置7上に表示させて、使用者に対し運動の目標を提示する。
次に、使用者が運動を開始すると、身体の動きが激しくなるにつれて加速度センサ5の出力値が徐々に大きくなってゆく。そして、ある時点から加速度センサ5の出力値が上述した所定値を上回ると、CPU1は使用者の運動開始を認識する。すると、CPU1は、時計回路9から時刻を読み取って、運動開始時の時刻としてRAM3へ格納するとともに、上記の目標運動時間だけ経過した時点で割り込みが発生するように時計回路9へ設定を行う。また、CPU1は、運動中の総運動量を算出するためにRAM3上に設けた記憶域を「0」に初期化する。
そして、使用者が運動をしている間、CPU1は使用者の脈拍数と運動量を計測して運動の指導を行う。そのために、まずCPU1は、所定の時間間隔でセンサインターフェース6から脈波波形を読み取って使用者の脈拍数を算出する。そして、この脈拍数を表示情報へ変換して表示制御回路8へ送出すると、脈拍数が表示装置7上に表示される。
また、CPU1は運動量の算出を行うが、ここでは運動量をカロリーで表示することとする。カロリーは近似的に「脈拍数と運動時間の積」で算出されるので、CPU1は、上記で求めた脈拍数と直前の脈拍数測定時から今回の脈拍数測定時までの経過時間を乗算して運動量を計算する。なお、運動量の算出にあたっては、直前の脈拍数と今回の脈拍数は異なるのが普通であるから、直前の脈拍数と今回の脈拍数の平均をとるなどしても良い。さらに、CPU1は、前回までの総運動量に今回の運動量を加えることにより運動開始時からの総運動量を求める。そして、運動開始時からの総運動量と、直前の脈拍数測定時から今回の脈拍数測定時までの運動量とをRAM3へ格納するとともに、これらを表示装置7上にも表示する。
また、運動量は「運動強度と運動時間の積」でも求められるから、これらの積で求めた運動量を、上述したカロリーの代わりに表示しても良い。つまり、計測された脈拍数と運動強度は、次に示す周知のカルボーネの式を満足するから、予めRAM3に格納しておいた安静時の脈拍数と運動中に計測した脈拍数とから運動強度が算出でき、これから運動量が求められる。計測された脈拍数=(安静時の脈拍数)+{(220−年齢)−安静時の脈拍数}*運動強度 …(1)
この式における「運動強度」が80%程度となるとかなりきつい運動と言え、50%程度であってもややきつい運動であると言える。なお、この式の「年齢」については、図示を省略した入力手段により使用者が指定した年齢が、予めRAM3上に格納されている。
一方、CPU1は、計測された脈拍数から(1)式によって算出される運動強度が、上述した運動強度の上限値と下限値で決まる範囲を逸脱していないかどうかを調べる。そして、上限値を上回っているのであれば、もう少し運動を軽くするように指示し、他方、下限値を下回っているのであればもう少し運動の強さを増すように指示を出す。以上のように、脈拍数と運動量を表示装置7へ表示することで実施する運動を使用者自身が加減できるようにするとともに、適正な運動強度で運動がなされているかが調べられ、過度に強い運動をしたり効果的でない運動を漫然と行うことなく、適度な運動強度となるような監視がなされる。
そして、上記の目標とした運動時間が経過して時計回路9から割り込みが入ると、CPU1は運動を終えるように使用者へ指示を出す。すると、使用者はすぐに運動を止めるか或いは区切りの良いところで運動を止めるので、加速度センサ5の出力値が徐々に低下してゆく。他方、CPU1は、加速度センサ5の出力値を監視しているので、出力値が再び上述した所定値以下となったことを検出して、使用者が実際に運動を中断したことを認識する。次に、CPU1は、運動開始前と同様の手順にしたがって振幅比d/aを算出するとともに、現時点の時刻を時計回路9から読み出して運動終了の時刻とし、これらの値をRAM3へ格納する。さらに、CPU1は運動開始時刻と運動終了時刻から正味の運動時間を算出して同様にRAM3へ格納する。
次いで、CPU1は、運動前の振幅比d/a,運動後の振幅比d/a,運動中の総運動量,正味の運動時間を使用者のボタンスイッチの操作にしたがって表示装置7へ表示する。また、CPU1は、運動強度の目標値及び運動時間の目標値から運動量の目標値を求め、実測による総運動量がこの目標値を中心とした所定の範囲内に存在するかどうかを調べる。もし、運動量が適正でなければ、運動量の目標値とともにこの旨を使用者へ通知して、指示通りの運動が行われていないことを知らせる。またCPU1は、運動時間に関しても同様の処理を施し、目標値と実測値とが著しく相違する場合はその旨を通知して使用者の注意を喚起させる。
次に、CPU1は、運動実施前と同様にして、運動後に測定した振幅比d/aの値が図2(b)に示す何れのパターンに属するかを決定して、運動後におけるパターンの種類を表示装置7に表示させる。さらに、運動前のパターンと運動後のパターンを比較した結果、パターンが(1)側へ変化しており状態に改善が見られるのであれば、「健康状態が改善されてきています。」などと言うメッセージを表示装置7上に表示させる。他方、パターンが(6)側へ変化しており状態が悪化している場合は、それ以上の運動が好ましくないことも考えられるので、運動を中止して必要であれば医師の診断を仰ぐように、使用者へ警告をおこなう。
このような警告がない場合で、例えば、使用者がインターバルトレーニングを実施中であってこれ以後も引き続いて運動を行うのであれば、運動後において求めたパターン(すなわち振幅比d/a)を、これから行う運動についての運動実施前のパターン(振幅比d/a)として設定する。そして、このパターン(振幅比d/a)から新たな目標値が設定され、引き続き運動の指導がなされる。その後、使用者が必要な運動をすべて終えた時点でボタンスイッチ117を再度押下すれば、これをCPU1は運動が終了したもの判断して、以後は運動の指導を停止する。
他方、使用者が翌日以降に運動を行うのであれば、一旦ボタンスイッチ117を押して運動の指導を中止させる。そして、後日に再び運動を行う際、上記と同様の手順にしたがえば、その日の健康状態に応じた加速度脈波のパターンが決定されて、当該パターンに対応する運動の目標値に則った運動の指導が行われる。以上のようにして、適正な運動を指導して使用者の健康状態を良好な状態へ移行させてゆくことができる。
なお、上記実施形態においては、運動の前後を含めて、計測した脈拍数を表示装置7へ常時表示するようにしても良い。また、使用者の実施した運動を評価する手法としては、以下に述べるようなものも考えられる。
図8は、使用者が実施した運動の運動量と、運動の前後における振幅比d/aの変化率との関係の一例を示したものである。この図に示すように、運動量が少ない場合には、振幅比d/aの変化率は小さく、概ね+5%未満の値が得られる(図8の”I”の領域)。次に、これよりも運動量を多くしてゆくと、振幅比d/aの変化率は徐々に上昇して+5%を越えるようになり、その後は、ある時点から該変化率が下降を始め、振幅比d/aの変化率が再び+5%程度となる(図8の”II”の領域)。次いで、運動量をもっと増やすと、振幅比d/aの変化率はさらに下降して+5%を下回り、−10%程度まで下降する(図8の”III”の領域)。さらに運動量を増やしてゆくと、振幅比d/aの変化率はさらに下降して、−10%を下回るようになる(図8の”IV”の領域)。
CPU1は、上述した運動量と振幅比d/aの変化率との関係をもとに運動の評価を行う。そのために、CPU1は、運動後の振幅比d/aと運動前の振幅比d/aとの差分を求め、この差分を運動前の振幅比d/aで除して、振幅比d/aの変化率を算出する。そして、得られた振幅比d/aの変化率と運動中に計測された運動量とを図8のグラフにプロットした場合に、このプロットが領域I〜IVの何れの領域に位置するかに応じて評価を下す。
すなわち、図8の”I”の領域に存在すれば、実施した運動が弱すぎたものと評価し、図8の”II”の領域に存在すれば運動が適度であったと評価し、図8の”III”の領域に存在すれば運動がやや強かったものと評価し、図8の”IV”の領域に存在すれば運動が強すぎたと評価する。そして、この評価結果をもとに、領域I,II,III,IVの各々の場合について、それぞれ「運動が軽すぎます」,「丁度良い運動です」,「運動がやや強い状態です」,「運動が強すぎます」などというメッセージを表示装置7上へ表示させて、評価結果を使用者へ告知する。
なお、前述したように、上記では振幅比d/aだけを用いた場合について説明したが、振幅比d/aと振幅比c/aとを参照した評価方法を用いることによって、いっそう高い精度で運動の評価を行うことが可能となる。つまり、例えば、振幅比d/aの値が20%であれば、図2(b)から、加速度脈波の波形がパターン(2)に属するものと決定することができる。一方、振幅比d/aの値が80%であれば、パターン(4)〜(6)の何れかに属することまでは特定できるので、これらのパターンのうちの何れのパターンであるかを絞り込むために、さらに振幅比c/aの値を参照する。いま、振幅比c/aの値が例えば30%であれば、図2(b)から、加速度脈波の波形がパターン(5)に属するものと決定することができる。
また、運動の目標値としては上述した運動強度や運動時間以外にもいろいろ考えられるが、例を挙げればカロリーの消費量が考えられる。CPU1は、運動開始前にカロリーの目標値を設定することとし、運動中は、脈拍数を測定する各時点においてカロリー消費量を算出するとともに、運動開始時からのカロリー消費量を積算してRAM3へ格納するようにして、この積算値が設定した目標値を越えた時点で使用者へ通知するようにするものである。
[第2実施形態]
近年、心拍変動から得られるパワースペクトルなどの情報が心臓病,中枢神経疾患,末梢神経疾患,糖尿病,高血圧,脳血管障害,突然死などの様々な疾病の診断,治療に用いられ始めてきている。このようなことから、本実施形態では、心拍変動のゆらぎに対応する脈波のゆらぎの解析からLF,HF,RR50の各指標を得て、これらを使用者の身体の状態を表わす指標として用いることとする。そこでまず、これら指標の意味について説明する。
心電図において、ある心拍のR波と次の心拍のR波との時間間隔はRR間隔と呼ばれており、人体における自律神経機能の指標となる数値である。図9は、心電図における心拍と、これら心拍の波形から得られるRR間隔を図示したものである。同図からも見て取れるように、心電図の測定結果の解析からRR間隔が時間の推移とともに変動することが知られている。
一方、橈骨動脈部などで測定される血圧の変動は、収縮期血圧および拡張期血圧の一拍毎の変動として定義され、心電図におけるRR間隔の変動と対応している。図10は、心電図と血圧との関係を示したものである。この図からわかるように、一拍毎の収縮期および拡張期の血圧は、各RR間隔における動脈圧の最大値および該最大値の直前に見られる極小値として測定される。
これら心拍変動或いは血圧変動のスペクトル分析を行うことで、これらの変動が複数の周波数の波から構成されていることがわかる。これらの波は以下に示す3種類の変動成分に区分される。
・呼吸に一致した変動であるHF(High Frequency)成分
・10秒前後の周期で変動するLF(Low Frequency)成分
・測定限界よりも低い周波数で変動するトレンド(Trend)
これら成分を得るには、まず、測定した脈波の各々について、隣接する脈波と脈波の間のRR間隔を求めて、得られたRR間隔の離散値を適当な方法(たとえば3次のスプライン補間)により補間する(図9を参照)。そして、補間後の曲線にFFT(高速フーリエ変換)処理を施してスペクトル分析を行うことで、上記の変動成分を周波数軸上のピークとして取り出すことが可能となる。図11(a)は、測定した脈波のRR間隔の変動波形、および、該変動波形を上記3つの周波数成分に分解した場合の各変動成分の波形を示している。また図11(b)は、同図(a)に示したRR間隔の変動波形に対するスペクトル分析の結果である。
この図からわかるように、0.07Hz付近,0.25Hz付近の2つの周波数においてピークが見られる。前者がLF成分であり後者がHF成分である。なお、トレンドの成分は測定限界以下であるため図からは読み取れない。LF成分は交感神経の活動に関係しており、本成分の振幅が大きいほど緊張の傾向にある。一方、HF成分は副交感神経の活動に関係しており、本成分の振幅が大きいほどリラックスの傾向にある。
LF成分およびHF成分の振幅値には個人差があるので、このことを考慮した場合、LF成分とHF成分の振幅比である「LF/HF」が人体の状態の推定に有用である。そして、上述したLF成分とHF成分の特質から、「LF/HF」の値が大きいほど緊張の傾向にあり、「LF/HF」の値が小さいほどリラックスの傾向にあることが導かれる。一方、RR50とは、所定時間(例えば1分間)の脈波の測定において、連続する2心拍のRR間隔の絶対値が50ミリ秒以上変動した個数で定義される。RR50の値が大きいほど人体の状態は鎮静状態にあり、RR50の値が小さいほど興奮状態にあることが知られている。
ところで、使用者の身体の状態とこれらの指標との間には相関関係が存在している。強化トレーニングを実施させて、副交感神経の機能を低下させ交感神経優位の状態とすることによって、上述したような疾病を抱える患者の身体の状態に類似した状況を作り出すことができる。そして、強化トレーニングを中止した後の身体の回復期に上記の指標の変化を観察してみると、例えば、HF成分は日が経つにつれて増加する傾向を示し、他方、「LF/HF」の値は日増しに減少する傾向が見られる。
つまり、身体の状態が回復してゆくにつれて、HF成分或いは「LF/HF」の値は、緊張した状態を示す値からリラックスした状態を示す値へと増加或いは減少してゆく。したがって、HF成分や「LF/HF」のみならずLF成分やRR50も含め、これら各指標の値の増減を観察することで人体の状態の良否を判定できるという推定が成り立ち、これら指標を上述した振幅比d/aの代わりに用いることができるものと考えられる。
次に、本実施形態による健康状態管理装置について説明する。本実施形態では第1実施形態における振幅比d/aの代わりに上記4つの指標のうちの1つを用いる形態であって、その装置構成は第1実施形態と同じものである。そこで、以下、本実施形態に特有の動作を中心に装置の動作を説明することとする。なお、上記の実施形態では、加速度脈波波形を6つのパターンに分類することとしたが、本実施形態では、これら指標の値をその値に応じて幾つかのグレードに分けることとし、それぞれのグレード毎に予め運動強度の目標値と上限値と下限値,運動時間の目標値をROM2に設定しておくこととする。
運動実施前に使用者がボタンスイッチ117を押下するのを契機として、CPU1は加速度センサ5の出力値をチェックし、使用者が安静状態にあるかどうかを確認してから安静時の脈拍数を一度だけ計測して、計測値をRAM3へ格納する。次に、CPU1は脈波波形を取り込んで、該脈波波形をもとに上記の4つの指標を算出する。そこで以下、この処理を詳述する。
まず、CPU1は脈波の波形から極大点を抽出するために、脈波の波形に対して時間微分をとり、時間微分値がゼロの時刻を求めて波形が極点をとる時刻をすべて求める。次いで、各時刻の極点が極大・極小のいずれであるのかを、該極点の近傍の波形の傾斜(すなわち時間微分値)から決定する。たとえば、ある極点に対して、該極点よりも以前の所定時間分につき波形の傾斜の移動平均を算出する。この移動平均が正であれば該極点は極大であり、負であれば極小であることがわかる。
次に、CPU1は抽出した極大点の各々について該極大点の直前に存在する極小点を求める。そして、極大点および極小点における脈波の振幅をRAM3から読み出して両者の振幅差を求め、この差が所定値以上であれば該極大点の時刻を脈波のピークとする。そして、取り込んだ全ての脈波波形に対してこのピークの検出処理を行ったのち、隣接する2つのピークの時刻をもとに両者の時間間隔(心拍におけるRR間隔に相当する)を計算する。
上記で得られたRR間隔の値は時間軸上で離散的であるため、隣接するRR間隔の間を適当な補間方法により補間して、図11(a)に示すごとき曲線を得る。次いで、補間後の曲線に対してFFT処理を施して、図11(b)に示すようなスペクトルを得る。そこで、脈波の波形に対して実施したのと同様の極大判別処理を適用して、このスペクトルにおける極大値と該極大値に対応する周波数を求めて、低い周波数領域で得られた極大値をLF成分,高い周波数で得られた極大値をHF成分とし、各成分の振幅を求めて両者の振幅比「LF/HF」を算出する。さらに、CPU1は、上記で得られたRR間隔をもとにして隣接するRR間隔の時間差を順次求め、その各々につき該時間差が50ミリ秒を越えるかどうかを調べる。そして、これに該当する個数を数えてRR50とする。
次に、CPU1は使用者に対し、これから実施すべき運動についての指示を行う。そこでまず、CPU1は上記のようにして求めた指標の値が何れのグレードに属するかを決定する。そして、決定されたグレードと指標の値とをRAM3へ格納するとともに表示装置7上に表示したのち、当該グレードに対応した運動強度の目標値と上限値と下限値及び運動時間の目標値をROM2から読み出してRAM3に格納するとともに表示装置7に表示して、運動の目標値を使用者へ提示する。
次に、使用者が運動を開始すると、これを認識したCPU1は運動開始時の時刻をRAM3へ格納するとともに、目標運動時間を時計回路9へ設定したのち、第1実施形態同様に、運動中は脈拍数と運動量とを計測して運動の指導を行う。すなわち、CPU1は、前回脈拍数測定時から今回脈拍数測定時までの運動量と脈拍数とを算出して運動開始時からの総運動量を求め、これらの値をRAM3に格納するとともに表示装置7に表示させる。さらに、CPU1は(1)式から算出した運動強度が上限値と下限値で決まる範囲内にあるかどうかを調べて使用者へ適宜運動強度に関する指示を出す。
そして、目標の運動時間が経過して時計回路9から割り込みが入ると、CPU1は運動の終了を使用者へ指示し、加速度センサ5の出力を監視して使用者が実際に運動を止めるのを待ち合わせる。次いで、CPU1は運動開始前と同様に各指標を算出するとともに、運動終了の時刻を時計回路9から読み取り、正味の運動時間を算出して、これらの値を全てRAM3へ格納するとともに表示装置7に表示させる。また、CPU1は、いま行った運動に対する総運動量と運動時間がそれぞれの目標値から所定の範囲内に存在するかどうかを調べ、もし指示通りの運動が行われていないのであればこの旨を使用者へ知らせる。
次に、CPU1は、運動実施前と同様に、運動後の指標の値が何れのグレードに属するかを判定して、得られたグレードと指標の値とを表示装置7に表示させる。さらに、運動前後における指標の値を比較して、状態に改善が見られたのであればその旨のメッセージを表示させる一方、状態が悪化してしまっていれば、運動を中止して医師の診断を仰ぐように警告を行う。
ここで、状態が改善されたか悪化したかの判断基準についてであるが、LF或いは「LF/HF」の場合は、運動したことによって値が減少していれば改善されたものとし、増加していれば悪化したものと見なす。一方、HF或いはRR50の場合は、減少していれば悪化しているものとし、増加していれば改善されたものとみなす。
そして、使用者がこれ以後も引き続いて運動を行うのであれば、運動後に求めたグレードを、これから行う運動の運動実施前のグレードとして設定し、当該グレードから新たな目標値を得て運動の指導を継続して行う。なお、以上の説明では、4つの指標の何れか1つを用いることとしたが、これら指標の幾つかを総合的に勘案するようにしても良い。
[第3実施形態]
本実施形態は、第1実施形態において説明した健康状態管理装置を一部変形した形態である。すなわち第1実施形態では、使用者が安静状態にあるか否かを、装置(より詳細に言えばCPU1)が加速度センサ5の測定結果に基づいて自動的に判別していた。これに対し、本実施形態では、使用者自らが安静状態にあるかどうかを判断してこの旨を装置へ指示するようにしたものである。
また、前述したように、第1実施形態における動作モードは大きく分けて2種のモードから構成されていた。つまり、健康状態管理装置として動作するモードと、時刻や日付を設定したりストップウォッチとして使用するといった普通の時計として用いるモードの2つのモードである。これに対し、本実施形態における動作モードは3種類のモードを有している。
第1のモードは、健康状態管理装置として機能しないモードであって、装置を腕時計に組み込んだ場合であれば、通常の時計として機能するモードである。また、残りの2つのモードは健康状態管理装置として機能するモードである。すなわち、第2のモードは脈波測定モードであって、使用者が安静状態にあることを前提に、使用者の運動実施前或いは運動実施後において脈波を計測して解析を行うためのモードである。さらに、第3のモードは脈拍測定モードであって、使用者が運動をしている最中に脈拍数を測定して運動の指導を行うためのモードである。
そして、これら3種類のモード間の切り換えは、前述したボタンスイッチ117を用いて使用者が手動で行う。ここで、第1実施形態におけるボタンスイッチ117は健康状態管理装置としての動作を開始/停止するためのスイッチであった。これに対し、本実施形態におけるボタンスイッチ117は上記の3種類のモードをサイクリックに切り換えるためのボタンスイッチとして機能する。つまり、ボタンスイッチ117を押下する度に、第1→第2→第3→第1の如くモードが循環的に遷移してゆく。なお、モードの切り換えを行っている最中はモードが確定しないようになっており、使用者は所望のモードになるまでボタンスイッチ117を繰り返し押下すれば良い。さらに、上記の説明から明らかなように、第1実施形態における加速度センサ5を用いた安静状態の判断を、本実施形態では使用者自身が行っているために、本実施形態では本質的に加速度センサ5が不要となっている。
次に、本実施形態による健康状態管理装置の動作を概説する。まず、使用者は運動開始前において、脈波センサ4が動かないように注意しつつボタンスイッチ117を操作して装置を脈波測定モードへ設定する。これにより、CPU1はセンサインターフェース6から脈波波形を所定時間読み取り、読み取った脈波波形から安静時の脈拍数を算出してRAM3へ格納する。
次いで、CPU1は脈波波形を一波形分読み取り、加速度脈波波形を求めてピークa,バレイb,ピークc,バレイdを決定して振幅比d/aを算出するとともに、この振幅比d/aから加速度脈波波形のパターンを決定し、これらの値をRAM3へ格納する。次に、このパターンに対応する運動の目標値をROM2から読み出してRAM3に格納するとともに、これらの値を表示装置7に表示する。その際、運動前における脈波測定が完了した旨のメッセージを一緒に表示装置7に表示する。
すると、当該メッセージを確認した使用者は、ボタンスイッチ117を操作して装置を脈拍測定モードへ設定するので、これを契機にCPU1は時計回路9から運動開始時刻を読み取ってRAM3へ格納するとともに、時計回路9へ運動時間の設定を行う。一方、ボタンスイッチ117を操作した使用者が運動を開始すると、使用者の運動中、CPU1は脈拍数と運動量を計測して、第1実施形態と同様に運動の指導を行う。
その後、時計回路9から割り込みが入ると、CPU1は運動を止めるように使用者へ指示する。この指示に従って運動を止めると、使用者はボタンスイッチ117を操作して装置を再び脈波測定モードへ切り換える。これにより、CPU1は、運動終了時刻を読み取って正味の運動時間を算出してこれらをRAM3に格納する。さらにCPU1は、今回の脈波測定モードが運動後の脈波測定のためであることを認識し、運動開始前と同様の手順に従って、取り込んだ脈波波形から振幅比d/aを算出するとともに、加速度脈波のパターンを決定して、これらの値をRAM3へ格納する。
次いで、CPU1は、運動前の振幅比d/a,運動後の振幅比d/a,運動中の総運動量を表示装置7へ表示するとともに、運動量及び運動時間が適正であったかどうかを調べて、必要に応じ使用者へ警告を行う。また、運動前後における加速脈波波形のパターンの変化状態を調べて、状態の改善あるいは悪化の程度に応じた指示を適宜使用者に対して行う。これ以後は、上記と同様であって、使用者は安静時脈拍数が測定できるように呼吸を整えたのち、運動開始前の脈波測定の動作から上述した動作を繰り返す。
なお、不注意により使用者の身体が動いてしまって、脈波測定モードにおける測定に支障をきたす場合も考えられなくはない。そこで、このような場合も考慮して加速度センサ5を補助的に用いることとしても良い。すなわち、CPU1は運動前及び運動後の脈波の測定中において、加速度センサ5の出力を定期的に読み取り、万一使用者の身体が動いていることを検出した場合、表示装置7上に警告メッセージを表示するか装置に内蔵したアラームを用いて音で警告を発するなどすれば良い。
また、運動前の脈波測定と運動後の脈波測定を別々のモードとして設けることとして、運動の前後に応じて使用者がこれら2つのモードの何れか1つを選択するようにしても良い。さらに、本実施形態は第1実施形態に適用するものとして説明したが、振幅比d/aをLF,HF,「LF/HF」,RR50で置き換えれば、第2実施形態にも当然に適用可能である。
[第4実施形態]
次に、上記構成による健康状態管理装置をリハビリテーション(以下、リハビリと称する)の指導に応用した形態を、加速度脈波から得られる振幅比d/aを用いた場合について説明する。通常、リハビリは幾つかの段階から成り、治療が進むに従ってより強度の運動が課された段階へと移行してゆき、それにつれて患者の状態が改善してゆくようになっている。本実施形態は、このようなリハビリ対象者への運動の指導を付き添い人の介在なしに自動的に行うようにするものである。
本実施形態において、図1のROM2には、リハビリの段階毎に振幅比d/a等の「標準的な」目標値が格納されるとともに、振幅比の値に対応して当該振幅比を有する身体の状態を達成するために適当と考えられる運動強度の目標値,上限値,下限値および運動時間の目標値が格納されている。
まず、リハビリを開始するにあたっての準備を行う。すなわち、CPU1は患者の脈波を取り込み、加速度脈波を求めて各振幅比を求めるとともに、安静時の脈拍数を算出する。以下に述べるように、これらの値はリハビリを実施する当日のリハビリ対象者の状態を表わしている。そこで、ROM2に格納されている振幅比の「標準的な」目標値を、測定した振幅比と安静時の脈拍数の値で補正し、リハビリ開始時点における患者の体調等に合致した目標振幅比を算出して、これをRAM3へ格納する。次いで、この目標振幅比に対応した運動強度の目標値,上限値,下限値および運動時間の目標値をROM2から読み出し、目標振幅比とともに患者へ告知する。なお、標準振幅比の補正にあたっては、測定した振幅比と脈拍数の両方を使用しても良いし、何れかの情報だけを使用しても良い。
次に、CPU1はリハビリの開始を促すメッセージを表示装置7へ表示させる。これにより、メッセージを見た患者が第1段階の運動を開始する。そしてCPU1は、患者が運動中は脈拍数を測定して、測定した脈拍数から運動強度を算出し、上述した上限値と下限値の範囲内にあるかどうかをチェックして、適正な運動強度を維持するように適宜患者へ指示を行う。またその一方で、所定時間間隔で運動量を求めて積算してゆく。
そして、上記の目標運動時間を経過後に、CPU1が運動の終了を患者へ指示して患者が一旦運動を中断させると、CPU1は再び脈波を取り込んで運動後の振幅比を算出し、この段階における振幅比の目標値に達したかどうかを調べる。そして、目標値にいまだ達していなければ、測定値が目標値に達するまで、引き続き運動を行うように患者へ指示を出す。
他方、測定結果が現段階の運動の目標値に達した時点で、CPU1は次の段階の運動に移行することを促すメッセージを表示装置7へ表示させるとともに、第2段階における新たな振幅比の標準的な目標値をROM2から読み出し、上記と同様に補正を行ったのち、補正後の振幅比の目標値に対応する新たな運動強度の目標値,上限値,下限値および運動時間の目標値を表示させる。これにより、患者は第1段階の運動を終了させて、第2段階の運動へ移行することができる。このようにして、患者は段階を追ってリハビリのメニューをこなしてゆくことができる。
そして、全ての段階が完了した時点で、CPU1がリハビリ終了の旨のメッセージを表示装置7に表示させると、患者はリハビリを終わらせる。なお、本実施形態では振幅比d/aを用いることとして説明したが、これをLF,HF,「LF/HF」,RR50で置き換えることも当然に可能である。
[第5実施形態]
次に、上記構成による健康状態管理装置を、使用者が自らの健康管理に適用する場合について説明する。CPU1は、毎日、決められた測定時刻においてセンサインターフェース6から脈波の取り込みを行う。ここで、本実施形態においては、2時間おきに測定を実施するものとする。そして、第1実施形態と同様の手順により、振幅比d/a等を算出して、時計回路9から読み取った時刻と共にこれら算出結果をRAM3へ格納する。なお、測定時刻において使用者が運動中であると振幅比の算出ができないが、その場合には、加速度センサ5の出力を監視して、運動が終わるのを待ってから振幅比の算出を行うようにする。
一方、各測定時刻(例えば、午後2時)で、CPU1は、過去所定期間(本実施形態では一週間)において同時刻(すなわち、午後2時)に求めた振幅比をそれぞれRAM3から読み出して、これらの振幅比と現時点(すなわち、午後2時)の振幅比とから移動平均を求める。そして、この移動平均を、現時点における振幅比と測定時刻と一緒にしてRAM3へ格納する。
次いで、前日の同時刻(すなわち、前日の午後2時)に算出しておいた移動平均の値をRAM3から読み出して、この移動平均の値を現時点の振幅比と比較する。そして、両者の差が一定値を越えたかどうかを調べ、一定値を越えていれば警告メッセージを表示装置7へ表示させることで、現時点における状態が過去一週間の平均的な状態から逸脱したことがわかり、使用者に警告を与えることができる。
なお、上記の説明では、脈波から得られた振幅比をそのまま使用することとした。しかるに、加速度センサ5を活動量モニタと見なせば、使用者の体の動きと加速度脈波との間の相関関係を得ることができる。そこで、振幅比の算出にあたっては、この相関情報と加速度センサ5の出力値とをもとにして、計測された振幅比の値を補正するようにしても良い。
また、RAM3に格納した過去所定期間(一週間,一ヶ月,一年など)の振幅比の推移を表示装置7上にグラフ表示させて、血液循環の状態の変化を使用者へ告知することも可能である。また、上記の説明では振幅比d/aを用いることとしたが、LF,HF,「LF/HF」,RR50を用いることも当然に可能である。
[応用形態]
なお、上記実施形態では、使用者に対する様々な告知をメッセージで表示するようにしたが、音で告知するようにしても良い。例えば、本装置を腕時計と組み合わせれば、腕時計に組み込まれている既存のアラーム機能を流用することができる。また、それ以外の携帯機器の場合についても、圧電素子やスピーカなどを用いた音源を設ければ、アラーム音のみならず音声メッセージなどによる告知も実現することができる。こうした音による告知を行えば、視覚障害を持つ人であっても本装置を何らの支障もなく使用することができる。また、使用者が運動の最中においては、いちいち表示されたメッセージを見る必要がなくなるため、健常者にしてみても煩わしくなくて好ましいと言える。
また、運動の評価結果や使用者への指示内容に応じて、鳴らす音楽の種類を変えたり音のピッチを変えるなどして、使用者に違いがわかるような工夫をすることも考えられる。さらに、メッセージと音とを併用して告知するようにしても良い。また、聴力障害者のためには、メッセージや音の代わりに触覚へ訴えるようにしても良い。例えば、腕時計の裏面に振動板を取り付けてこの振動板を振動させるか、あるいは、腕時計全体を振動させる構造として、振動によって使用者へ告知することが考えられる。さらに、振動の強弱や振動時間に変化を持たせることによって、メッセージや音声と同様に様々な態様での告知が可能となる。
また、上記実施形態では、加速度センサ5を脈波センサ4に近接配置することとしたが、実際のところ、加速度センサ5は人体のどこに取り付けても良い。また、上記実施形態では、加速度脈波を用いることとしたが、これは加速度脈波が最も良く知られており、理解しやすいからに過ぎない。従って、本発明は、脈波の原波形,1次微分の波形,加速度脈波よりも高次の微分波形,の何れにも適用することができるのは勿論である。
ここでは、その一例として、脈波の原波形を用いた場合について若干の説明を行うこととする。図12は、典型的な脈波の原波形を示したものである。この図において、(a)は、いわゆる平脈と呼ばれているものであり、3つの峰を持つことを特徴とした三峰波である。ここで、同図におけるP1〜P5は脈波の変曲点(ピーク)である。一方、図12(b)はいわゆる滑脈と言われている脈波であり、2つの峰を持つことを特徴とした二峰波である。他方、図12(c)は弦脈と呼ばれている脈波である。
これらの各脈波と使用者が行う運動との関連を調べてみると、一般に、運動前においては、図12(a)に示す平脈が見られる。また、運動を行った場合であっても、その運動が軽すぎるような場合には、運動後においても平脈が観察される。一方、実施した運動が適度なものであれば、運動後においては図12(b)に示す滑脈が観察されるようになる。他方、実施した運動が過度なものであると、運動後においては図12(c)に示す弦脈の状態を呈することとなる。
このように、脈波の原波形を用いた場合には、運動後における脈波の波形が平脈,滑脈,弦脈の何れに分類されるかを判別することによって、使用者が行った運動を評価できることがわかる。ここで、測定された脈波から変曲点P1〜P5を抽出して該脈波の特徴を捉えるには、例えば、本発明の発明者による特許出願(特願平5−197569号,ストレス評価装置および生理的年齢評価装置)に詳述された手法を用いることが可能である。そこで、以下にその概要を述べることとする。
この手法によれば、脈波の各拍の波形について、次のような情報を採取して脈波の特徴を抽出するものである。すなわち、図13に示すように、
1)脈波の各拍内に順次現れる変曲点P1〜P5における脈圧y1〜y5,
2)脈波が立ち上がる脈波開始時刻t0 を基準とした場合において、各変曲点P1〜P5が出現するまでの経過時間T1〜T5と次の拍の脈波が立ち上がるまでの経過時間T6 ,
3)変曲点P1〜P5の各々が極大であるか極小であるかの別、である。なお、図1のROM2には、平脈,滑脈,弦脈の各々に関する脈波の特徴である経過時間T1 〜T6 ,脈圧y1〜y5,各変曲点の極大/極小の別などを、予め格納しておくようにする。
また、この場合における健康状態管理装置の動作は大略次のようなものである。まず、CPU1は、取り込んだ脈波の波形から所定のカットオフ周波数よりも低域の周波数成分だけを取り出して、得られた波形のデータをRAM3へ格納する。次に、低周波数成分だけからなる脈波波形について、その時間微分を求める処理を施す。次いで、算出された時間微分値について所定期間内の移動平均を算出し、この算出結果を傾斜情報としてRAM3へ格納する。この傾斜情報は、脈圧が上昇する傾向にあれば正の値をとり、下降する傾向にあれば負の値をとる。
次に、CPU1は、上記の演算の結果を調べて、時間微分値として0が出力された場合には、これを変曲点として、この時点における波形の採取時刻及び脈圧(脈圧y1〜y5に相当する)を求めておく。また、上記の傾斜情報を参照することにより、それぞれの変曲点が極大であるのか極小であるのかを決定する。すなわち、ある変曲点に対応して求めた傾斜情報が正であればこの変曲点は極大点であり、傾斜情報が負であればこの変曲点は極小点である。さらに、CPU1は、変曲点が検出される度に、変曲点における脈圧と直前に検出された変曲点における脈圧との差分を求め、得られた差分データをストローク情報としてRAM3へ格納する。
そして、測定時間内のすべての脈波について以上の処理を行ったあとで、CPU1は、脈波を1拍毎に分離する処理を行う。まずCPU1は、各変曲点に対応した傾斜情報とストローク情報をRAM3から取り出し、取り出されたストローク情報の中から正の傾斜情報を有するものを選び出す。次いで、これらの中からストローク情報の大きなものを上位から所定個数だけ選択し、さらにその中から中央値に相当するものを選び、脈波の各拍における立ち上がり部分が決定される。これにより、この立ち上がりの開始時点を脈波開始時刻t0 として求めることができる。
以上のようにして、変曲点P1〜P5と、これら変曲点に対する極大/極小の別,各変曲点における脈圧y1〜y5が決定される。また、上述した各変曲点における波形採取時刻と脈波開始時刻t0 との差分を求めることにより、経過時間T1 〜T5 が算出される。さらに、隣接する脈波の拍の間で、脈波開始時刻t0 の間の時刻の差を求めることにより、脈波の各拍に対して経過時間T6 が得られる。
そして、経過時間T1〜T5,脈圧y1 〜y5 ,変曲点P1〜P5における極大/極小の別の各々につき、測定された脈波のものとROM2に格納されている既定の脈波のものとを比較すれば、測定された脈波に最も適合する脈波のタイプが、平脈,滑脈,弦脈の中から選択でき、脈波のタイプから使用者が行った運動を評価することができる。