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JP3740578B2 - 酸素還元用電極の製造方法ならびに酸素還元用電極及びそれを用いた電気化学素子 - Google Patents

酸素還元用電極の製造方法ならびに酸素還元用電極及びそれを用いた電気化学素子 Download PDF

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英弘 佐々木
正 外邨
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正洋 出口
昭 田尾本
豊一 尾崎
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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を還元する反応に用いられる酸素還元用電極の製造方法ならびに酸素還元用電極及びそれを用いた電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素(O2)を電解反応により還元した場合には、1電子還元、2電子還元又は4電子還元が起こることが知られている。1電子還元では、スーパーオキシドが生成する。2電子還元では、過酸化水素が生成する。4電子還元では、水が生成する(例えば、非特許文献1)。
【0003】
酸素の還元反応を電池の正極反応として用いる場合、大容量で、高電圧でしかも高出力電流の電池等を得ることが要求される。この場合、酸素の還元反応では、a)できるだけ多くの電子を移動させること、b)できるだけ貴な(プラスの)電位とすること、c)過電圧をできるだけ抑える必要がある。そのためには、4電子還元反応を高電位で小さな過電圧で進行させる触媒を用いることが好ましい。このような触媒のひとつとして、白金(Pt)がある。
【0004】
しかしながら、白金は、次のような問題がある。(1)白金は高価な貴金属であり、コスト的に不利である。また、(2)白金は、酸素の還元のみならず、エタノール、水素等の燃料物質の酸化反応にも活性を示すため、反応の選択性に乏しい。このため、実際の利用にあたって、酸化反応、還元反応が行われる場所をセパレータ等で分けなければならない。(3)白金の表面は一酸化炭素又は水酸基により不活性化されやすく、高い触媒活性を維持することが困難なことがある。
そこで、白金に代わる触媒を開発するため、これまでいくつかの取り組みがなされている。
【0005】
例えば、特許文献1又は特許文献2には、酸素ガス還元能を有する鉄フタロシアニン、コバルトポルフィリン等の金属キレート化合物を担持した導電性粉末とフッ素樹脂の多孔質成形体よりなる触媒が提案されている。また、金属キレート化合物の2量体(二核錯体)を使うことによって、高い酸素還元能(4電子還元能)が達成でき、大きな出力の空気電池への応用に期待できることが知られている。
【0006】
例えば、コバルトポルフィリン二核錯体等のように、Cr、Mn、Fe、Co等の遷移金属を中心金属とする大環状錯体を用いる酸素還元触媒の技術が開示されている(非特許文献2)。
【0007】
特許文献3には、酸素還元用マンガン錯体触媒が開示されている。この錯体は、酸素の4電子還元反応を高い選択率で行うための触媒となる。この文献には、マンガン原子が、2価から7価の価数をとり、マイナス0.5Vからプラス2Vの電位範囲で酸素還元反応を触媒すると述べられている。
【0008】
これら触媒を実際に用いる場合には、安定性に優れる担体に触媒を担持されることが多い。電気化学素子の電極反応に用いる場合には、導電性のある担体としてカーボン材料が広く使用されている。例えば、カーボンブラック、活性炭、グラファイト、導電性炭素、ガラス状カーボン等のカーボン材料が用いられる。これらカーボン材料は、通常では酸素を電解還元した際に、2電子還元反応を起こし、過酸化水素を与えることが知られている。
【0009】
【特許文献1】
特公平2−30141号公報
【特許文献2】
特公平2−30142号公報
【特許文献3】
特開平11−253811号公報
【特許文献4】
特開平7−24315号公報
【特許文献5】
特開2003−1107号公報
【特許文献6】
特開昭55−25916号公報
【非特許文献1】
JACEK KIPKOWSKI、PHILIP N. ROSS編集、 ELECTROCATALYSIS、 WILEY-VCH 出版、1998年、204−205頁
【非特許文献2】
JACEK KIPKOWSKI、PHILIP N. ROSS編集、 ELECTROCATALYSIS、 WILEY-VCH 出版、1998年、232−234頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記のような触媒を用いることによって高い電位を得ようとすれば、価数の大きな中心金属原子をもつ金属錯体が必要となる。このような金属錯体は反応性が高いため、金属錯体が接触する部材(例えば、電解液、電極リード、集電体、電池ケース、セパレータ、ガス選択透過膜等)と反応し、これら部材の劣化を引き起こすという難点がある。
【0011】
担体として用いるカーボン材料に関して、ヤシ殻活性炭、木質炭化物等は過酸化水素を分解する作用をもつことが知られている。例えば、過酸化水素分解触媒として高い性能をもつ活性炭としてアクリル繊維の炭化物、ビール粕の炭化物等が開示されている(特許文献4、特許文献5等)。
【0012】
この他、特許文献6には、椰子殻などの天然樹脂を炭化した繊維状活性炭を含む空気極を備えているボタン型電池が開示されている。
【0013】
しかしながら、これらの文献においては、カーボン材料自体のもつ触媒作用に関しては、一般的に知られている電極反応(すなわち、2電子還元反応)しか知られていない。酸素を還元する電極触媒としての触媒作用や有効性については、特に開示されていない。
【0014】
したがって、本発明の主な目的は、酸素を還元する反応において4電子還元反応をより高い選択率で与える酸素還元用電極を提供することにある。
【0015】
本発明のさらなる目的は、電解質に可溶の燃料物質に対してほとんど酸化活性を示さない安定な酸素還元用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、下記の酸素還元用電極及びそれを用いた電気化学素子に係る。
【0017】
1. 酸素を4電子還元する酸素還元用電極を製造する方法であって、(1)窒素含有合成高分子を含む出発原料を、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で500℃以上1000℃以下で炭化することにより炭化物を得た後に前記炭化物を水蒸気賦活する第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて前記酸素還元用電極を製造する第二工程を有する製造方法。
【0018】
2. 窒素含有合成高分子が、分子中に窒素原子を有するモノマーの1種又は2種以上の重合体である前記項1に記載の製造方法。
【0019】
3. 窒素含有合成高分子が、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリイミド系高分子、ポリアミド系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリウレア系高分子及びポリアニリン系高分子の少なくとも1種である前記項1に記載の製造方法。
【0022】
6. 前記雰囲気が不活性ガス雰囲気である前記項に記載の製造方法。
【0023】
7. 第一工程において、炭化物をさらに賦活処理する前記項1に記載の製造方法。
【0024】
8. 第二工程において、前記電極材料を所定の形状に成形して成形体を得た後、前記成形体を導電体基体に積層又は圧着することにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
【0025】
9. 第二工程において、前記電極材料をペースト状にして電極材料を含有するペーストを得た後、前記ペーストを導電性基体にコーティングすることにより前記酸素還元用電極が製造される、前記項1に記載の製造方法。
【0026】
10. 前記出発原料、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに無機成分を添加する前記項1に記載の製造方法。
【0027】
11.無機成分が、マンガン、ケイ素、アルミニウム、リン、カルシウム、カリウム及びマグネシウムの少なくとも1種を含む前記項10に記載の製造方法。
【0028】
12. 前記炭化物が、約3000から3500cm-1範囲の赤外吸収を示す前記項1に記載の製造方法。
【0029】
13. 前記赤外吸収が窒素(N)−水素(H)の伸縮に基づく、前記項12に記載の製造方法。
【0030】
14. 前記炭化物が、約2000から2300cm-1範囲の赤外吸収を示す前記項1に記載の製造方法。
【0031】
15. 前記赤外吸収が炭素(C)≡窒素(N)のニトリルの伸縮に基づく、前記項14に記載の製造方法。
【0032】
16. 前記赤外吸収が窒素(N)=炭素(C)=窒素(N)のカルボジイミドの伸縮の伸縮に基づく、前記項14に記載の製造方法。
【0033】
17. 前記赤外吸収が炭素(C)=窒素(N)の伸縮の伸縮に基づく、前記項14に記載の製造方法。
【0034】
18. 前記炭化物が、約1600から1800cm-1範囲の赤外吸収を示す前記項1に記載の製造方法。
【0035】
19. 前記赤外吸収が窒素(N)−炭素(C)=酸素(O)のアミド又はイミドの伸縮に基づく、前記項18に記載の製造方法。
【0036】
20. 前記炭化物が、1)約3000から3500cm-1範囲の赤外吸収、2)約2000から2300cm-1範囲の赤外吸収、3)約1600から1800cm-1範囲の赤外吸収を示す前記項1に記載の製造方法。
【0037】
21. 前記出発原料、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、金属及びその酸化物の少なくとも1種を添加する前記項1に記載の製造方法。
【0038】
22. 酸化物が一般式MnOy(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である前記項21に記載の製造方法。
【0094】
本発明における酸素還元用電極は、特に、窒素含有合成高分子の炭化物を用いることによって、効率的に電気化学的に酸素還元可能な電極を得ることができる。すなわち、本発明に係る電極は、酸素分子の2電子還元反応を触媒する従来の炭素系材料では知られていなかった、実質的な4電子還元反応作用を示す。
【0095】
本発明に係る電極は、イオンの経路と酸素の経路の交差点に配置されることによって、酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能になる。その結果、大きな起電力でかつ大きな電流値を得ることができる電気化学素子を提供できる。
【0096】
特に、本発明に係る電極は、酸素分子の還元反応が実質的に4電子で進行するために、従来の4電子還元触媒である白金等の貴金属触媒の代替品となる。これによって、1)安価である、2)酸化反応・還元反応が行われる場所をセパレータ等で分ける必要がない、3)被毒等による触媒の不活性化を抑制できる、等の特徴を兼ね備えた電極を提供することが可能になる。
【0097】
また、合成高分子を炭化して得られた炭化物を触媒の担体として酸素還元用電極に用いることにより、担持体自体が電気化学的に還元反応を触媒するため、白金等の貴金属触媒の使用量を低減することも可能になる。
【0098】
さらには、おそらく白金等の貴金属触媒の被毒等による性能低下を抑制する効果も保有しているものと考えられ、より高い性能向上を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0099】
1.酸素還元用電極の製造方法
本発明の酸素還元用電極は、(1)窒素含有合成高分子を含む出発原料を炭化することにより炭化物を得る第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて電極を製造する第二工程を有する製造方法により作製される。
【0100】
(1)第一工程
第一工程では、窒素含有合成高分子を含む出発原料を炭化することにより炭化物を得る。
【0101】
出発原料
出発原料は、窒素含有合成高分子を少なくとも含む。窒素含有合成高分子(以下、単に「合成高分子」ともいう。)としては、炭化処理により、窒素を含む炭化物となるものであれば限定されない。但し、合成高分子であるため、生体由来の高分子は含まれない。
【0102】
合成高分子としては、主として、分子中に窒素原子を有するモノマーの1種又は2種以上の重合体(オリゴマーも含む。)を好適に用いることができる。このような合成高分子としては、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリイミド系高分子(ポリアミドイミド系高分子を含む。)、ポリアミド系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリウレア系高分子及びポリアニリン系高分子の少なくとも1種を用いることが望ましい。なお、炭化の生じやすさから芳香族系分子構造を含むものを好ましく用いることができる。これらの窒素含有高分子は、公知又は市販のものを使用することができる。
【0103】
本発明では、これらのうち、特に、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリイミド系高分子及びポリアミド系高分子の少なくとも1種をより好ましく用いることができる。
【0104】
ポリアクリロニトリル系高分子は、アクリロニトリルが主たる構成単位であるため、高分子の繰り返し単位当たりの窒素含有量が高い上に、加熱によるニトリル基の環化を伴う反応で窒素を炭素成分に取り込んで炭化が進行しやすい。このため、炭素成分中に窒素を含む官能基が多く存在し、所望の効果をより確実に得ることができる。
【0105】
ポリアクリロニトリル系高分子としては、ポリアクリロニトリルが100%のものだけでなく、アクリロニトリルを主成分とした共重合体のほか、これらの高分子と他の高分子との混合物であっても良い。アクリロニトリル共重合体としては、アクリロニトリルと、アクリルアミド、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン等との共重合体が例示できる。
【0106】
ポリイミド系高分子は、一般的にポリイミドとして分類されるもの以外に、例えばポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のように、イミド環構造を主鎖骨格に有する合成高分子を包含する。これらの高分子は、イミド環部分から炭化が進行し、その炭化部に窒素が含有するため、本発明の合成高分子として好ましく用いることができる。
【0107】
ポリイミド系高分子は、一般的には無水ジカルボン酸化合物とジアミン化合物との縮重合反応で合成される。その反応過程では中間的なポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を経由して合成されることが一般的であり、ポリアミド酸を炭化物の前駆体として用いることも可能である。なお、高分子の分子構造は原料の化合物の選択で決まり、炭化物を形成するためには芳香族系又は環状構造の原料が好ましい。
【0108】
例えば、上記無水ジカルボン酸化合物としては、無水ピロメリット酸、ビスフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−ヘキサフルオロイソプロピリデンビス(フタル酸無水物)、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物等が用いられる。また、上記ジアミン化合物としては、例えばパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノトリフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、4,4'−ジアミノ−4"−ヒドロキシトリフェニルメタン、3,3'−ジヒドロキシ−4,4 '−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、3,5−ジアミノ安息香酸等が挙げられる。
【0109】
ポリアミド系高分子は、一般的にポリアミドとして分類されるもののほか、例えばポリアミドイミド、ポリエーテルアミド等のように、アミド基を主鎖骨格に有する合成高分子を包含する。これらは、アミド基から炭化が進行して、その炭化部に窒素が含有するために好ましく用いることができる。ポリアミド系高分子は、一般的にはカルボン酸化合物とアミン化合物との縮重合反応で合成される。
【0110】
カルボン酸化合物としては、重合反応基が2つのものは、例えばアジピン酸、コハク酸、フタル酸、マレイン酸、テレフタル酸等が挙げられる。また、重合反応基が3つ以上のものは、例えばトリカルバリル酸、トリメシン酸(1,3,5−ベンゼントリカルボン酸)、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸、ビスフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、4,4'−ヘキサフルオロイソプロピリデンビスフタル酸、シクロブタンテトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸等が挙げられる。また、上記の酸化合物のハロゲン化物、特に酸クロリド化合物を用いることもできる。
【0111】
アミン化合物としては、重合反応基が2つのものは、例えばヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、ビス(4−アミノフェニル)エーテル、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノトリフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、4,4'−ジアミノ−4"−ヒドロキシトリフェニルメタン、3,3'−ジヒドロキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、3,5−ジアミノ安息香酸等が挙げられる。また、重合反応基が3つ以上のものは、例えばメラミン、ジアミノベンジジン等が挙げられる。
【0112】
本発明では、これらの3種の窒素含有合成高分子のうち、ポリアクリロニトリル系高分子が最も好ましい。
【0113】
合成高分子の形態としては限定的でなく、例えば繊維、粒、粉、シート、小片等の任意の形態で炭化処理を行うことができる。また、これらの合成高分子としては、他の用途に用いるために生産された際の廃棄物を利用したり、製品として使用した後に回収したものを利用したりすることができるために、廃棄物の再資源化という効果も得られる。例えば、アクリル繊維の再資源化等に適用することも可能である。
【0114】
本発明では、必要に応じて、出発原料に他の添加剤を配合することもできる。その添加量は、添加剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0115】
例えば、炭化物の取り扱い性を向上するために、有機バインダー(ポリビニルアルコール、ブチラール樹脂等)又は無機バインダー(無水ケイ酸等)のバインダーを添加することができる。
【0116】
また、溶剤を出発原料中に配合することもできる。例えば、フェノール又はフェノール誘導体(例えば、モノニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、レジルシノール、1,4−ジ−ヒドロキシベンゼン、m−クレゾール、p−クレゾール等)の有機溶剤を用いることができる。
【0117】
炭化処理及び賦活処理
前記出発原料を炭化することにより炭化物をつくる。通常は、合成高分子を熱処理することによって炭化物を得ることができる。熱処理条件は、用いる合成高分子の種類、所望の炭化物の特性等に応じて適宜設定することができる。
【0118】
熱処理温度は、一般的には300℃以上1200℃以下程度の範囲で設定することができる。1200℃を超える場合には、黒鉛化が進行するため、それ以下の温度で処理するのが好ましい。より好ましくは、500℃以上1000℃以下の範囲とする。500℃以上とすることにより、より良好な導電性を付与することができる。また、1000℃以下とすることにより、酸素還元活性を与えて反応を効率的に行わせるための後述する炭素(C)≡窒素(N)ニトリル結合、窒素(N)=炭素(C)=窒素(N)カルボジイミド結合、炭素(C)=窒素(N)結合等を炭素成分中に残存させることができる。
【0119】
熱処理時間は、炭化が十分進行するように、熱処理温度、使用する合成高分子の種類・量等に応じて適宜設定すれば良い。
【0120】
熱処理雰囲気としては、約300℃以上で加熱する場合には合成高分子を燃焼させないために酸素濃度が低い状態又は酸素が実質的に存在しない状態にしておくことが好ましい。具体的には、酸素濃度が10体積%以下の雰囲気、さらには1体積%以下の雰囲気に設定することが好ましい。特に、不活性ガス雰囲気(窒素、アルゴン、ヘリウム等)又は真空中とすることが望ましい。
【0121】
炭化処理の後、得られた炭化物を賦活処理することが望ましい。賦活処理によって、炭化物の比表面積を高めて活性を向上させたり、被反応物との親和性を高めたり、担持する際の他の材料との親和性を高めたり、表面の酸性度を調節したりすることができる。
【0122】
賦活処理の方法は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、1)水蒸気、二酸化炭素等によるガス賦活法、2)塩化アンモニウム、塩化亜鉛、水酸化カリウム等による薬品賦活法を用いることができる。賦活処理の温度は処理方法によって異なる。例えば、ガス賦活法では、前記炭化処理と同程度の温度が好ましい。薬品賦活法では、室温で処理したり、薬品に晒した後に前記炭化処理と同程度の温度までの範囲で処理することができる。
【0123】
(2)第二工程
第二工程では、前記炭化物を含む電極材料を用いて電極を製造する。
【0124】
炭化物
炭化物は、一般に、用いる合成高分子(モノマーの種類、分子量等)に由来する構造を有する有機成分を含む。
【0125】
特に、上記炭化物は、その炭素成分が非晶質であって導電性を有しており、炭化前の分子構造に由来する構造を有しているときに、本発明の所望の効果が発揮される。特に、合成高分子中の窒素に起因した構造を有効である。このような構造としては、用いる窒素含有合成高分子の種類等によって異なる。したがって、本発明における炭化物では、合成高分子の種類等によって、炭化の過程でさまざまな官能基も生じている。このため、その合成高分子に由来する構造が、赤外吸収分光の特性吸収に起因する吸収として確認できる。例えば、おおよそ波数3000cm-1から3500cm-1の範囲になる窒素(N)−水素(H)伸縮振動;、おおよそ波数2000cm-1から2300cm-1の範囲になる炭素(C)≡窒素(N)ニトリル伸縮振動、窒素(N)=炭素(C)=窒素(N)カルボジイミド伸縮振動、炭素(C)=窒素(N)伸縮振動等;おおよそ波数1600cm-1から1800cm-1の範囲になる窒素(N)−炭素(C)=酸素(O)アミド、イミド伸縮振動等である。この特徴は、他の活性炭、カーボンブラック等には見られない。
【0126】
これらの吸収を示す成分を含む炭化物を用いることによって、電極特性の向上により効果的に寄与することができる。合成高分子の炭化物の組成としては、一般的には炭素を主成分とする。炭素成分は、結晶質又は非晶質のいずれであってもよいが、特に非晶質であることが望ましい。また、上記炭素成分は、一般的には、導電性を有することが好ましい。
【0127】
本発明では、炭化物に無機成分を積極的に添加することができる。無機成分を添加することにより、より優れた特性を得ることができる。特に、本発明では、マンガン、ケイ素、アルミニウム、リン、カルシウム、カリウム及びマグネシウムの少なくとも1種を添加することが望ましい。これらの無機成分は、酸化物、リン酸塩、炭酸塩等の形態で存在していてもよい。無機成分の添加量は、炭化物中の総含有量が10質量%以上、特に20質量%以上となるように添加すれば良い。この点においても、無機成分の総含有量が数質量%である活性炭、カーボンブラック等と異なる。無機成分の含有量の下限値は、所望の特性等に応じて適宜決定すれば良いが、通常5質量%程度である。
【0128】
なお、無機成分の含有量は、炭化物をCHN元素分析した際の灰分で測定され、元素量に関しては蛍光X線元素分析、イオンクロマト分析等で測定することができる。
【0129】
無機成分は、炭化物に対して添加する場合のほか、出発原料又は電極材料に配合することもできる。
【0130】
炭化物の形態は、上記のような物性を有していれば限定されないが、通常は粒状ないしは粉末状(粉粒体)であることが好ましい。炭化物が粉粒体である場合は、タイラー篩200メッシュ以上を通過する粒度とすることが好ましい。さらに、最大粒径(直径)が20μm以下、特に1μm以上20μm以下とすることがより好ましい。一般に還元反応は粉粒体の表面で生じるため、20μmを超えると使用量に対する効率が低下するおそれがある。粒度の調整は、公知の粉砕機、分級機等を使用すればよい。
【0131】
電極材料
上記炭化物を含む電極材料を用いて電極を作製する。電極材料には、電極特性等の向上のために各種の材料を必要に応じて配合することができる。これらの材料は、本発明の効果を妨げない範囲内で予め上記出発原料に配合しておくことも可能である。
【0132】
例えば、酸素を取り込んだり又は酸素を放出したりする能力(酸素交換能力)をより高めるために金属及びその酸化物の少なくとも1種を配合することができる。例えば、Mn23、Mn34、Mn58、γ−MnOOH(Mn34とMn58のとの混合物)等のマンガン低級酸化物MnOy(yは、マンガンの価数で決まる酸素の原子数であり、2未満である);酸化ルテニウム、Cux-1SrxTiO3(x=0〜0.5)、LaxSr1-xMnO3(x=0〜0.5)、SrTiO3等のペロブスカイト酸化物のほか、酸化バナジウム、白金黒等が挙げられる。
【0133】
この中でも、マンガン低級酸化物は、過酸化水素の分解活性が高く、劣化が少なく、しかも安価であるという点で好ましい。マンガン低級酸化物とは、マンガン原子の原子価が4に満たないマンガン酸化物のことである。これは、たとえば使用後のマンガン乾電池の二酸化マンガン正極をそのまま使用したり、あるいは焼成したものを用いることができるので、資源の有効利用という観点からも特に好ましい。
【0134】
また、例えばポリリン酸、リン酸水素カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等を電極材料に配合することができる。また、酸化ケイ素を主成分とするシリカゲル、シリカのキセロゲル、シリカのエアロゲルのほか、アルミノケイ酸塩であるゼオライト化合物等も電極材料に添加することができる。特に、ゼオライトは、数オングストロームのサイズの細孔が形成されており、高い比表面積を有しているために反応を促進する効果が高い。
【0135】
これらの無機化合物は、電極材料に添加しても良いが、出発原料又は炭化物に配合することもできる。出発原料に配合する場合は、例えば窒素含有合成高分子を粉末状に加工し、フェノール又はフェノール誘導体(例えば、モノニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール、レジルシノール、1,4−ジ−ヒドロキシベンゼン、m−クレゾール、p−クレゾール等)の溶液又はピッチを用いて液状とし、これに所望の無機化合物の粉末あるいは無機化合物を溶解した溶液を加えた混合物を炭化することによって得ることもできる。
【0136】
上記金属又はその酸化物の添加量は、用いる金属又はその化合物の種類、所望の電極特性等に応じて適宜決定することができるが、最終的に得られる電極中において1重量%以上50重量%以下、特に5重量%以上20重量%以下となるように設定することが望ましい。
【0137】
また、その他にも各種の添加剤を電極材料に配合することができる。添加剤は、例えば1)他の材料との親和性の調節、2)表面(電極表面)の酸性度の調節、3)触媒活性の付与、4)助触媒の提供、5)過電圧の低減等の目的で用いることができる。このような添加剤としては、上記添加目的に応じて有機材料、無機材料、これらの複合材料、これらの混合物等のいずれも使用することができる。より具体的には、白金、コバルト、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、金、銀、銅、白金−コバルト合金、白金−ルテニウム合金等の金属又は合金;黒鉛、活性炭等の炭素材料;酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ルテニウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、酸化マンガン、ランタン−マンガン−銅ペロブスカイト酸化物等の金属酸化物;鉄フタロシアニン、コバルトフタロシアニン、銅フタロシアニン、マンガンフタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等のポルフィリン環を有する金属フタロシアニンあるいは金属ポルフィリン、ルテニウムアンミン錯体、コバルトアンミン錯体、コバルトエチレンジアミン錯体等の金属錯体等を用いることができる。
【0138】
上記金属錯体の中心金属元素としては限定的ではないが、特に白金、ルテニウム、コバルト、マンガン、鉄、銅、銀及び亜鉛の少なくとも1種が好ましい。これらの金属元素を用いることにより、酸素の還元反応をより小さな過電圧で進行できる。また、金属元素の価数は4以下が好ましい。価数を4以下とすることにより、触媒の酸化力をより効果的に抑制することができる。その結果、電気化学素子の構成要素(例えば、電解質、電極リード、集電体、電池ケース、セパレータ、ガス選択透過膜等)の酸化による劣化を有効に防止することができる。
【0139】
上記添加物の添加量は、用いる材料の種類、所望の電極特性等に応じて適宜決定することができるが、最終的に得られる電極中1重量%以上80重量%以下、特に20重量%以上60重量%以下となるようにすることが望ましい。
【0140】
上記電極材料は、公知の電極材料に添加される材料を含んでいてもよい。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ナフィオン等のフッ素樹脂バインダー、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等の樹脂バインダー、グラファイト、導電性カーボン、親水性カーボンブラック、疎水性カーボンブラック等の導電助剤等を必要に応じて適宜添加することができる。
【0141】
電極の作製
電極の作製については、上記電極材料を用い、公知の電極の製法に従って製造すればよい。例えば、予め作製された電極材料の成形体を導電性基体(集電体)に積層又は圧着する方法、電極材料を含むペーストを導電性基体上にコーティングする方法、導電性材料と電極材料を混合して成形する方法等により作製することができる。
【0142】
上記導電性基体は、例えばカーボン繊維を紙すき法で製紙したカーボンペーパー;ステンレス鋼メッシュ、ニッケルメッシュ等の金属メッシュ;カーボン粉末、金属粉末等をフッ素樹脂バインダー等の合成高分子バインダーでつなぎ合わせてシート状に加工した導電性の複合材料シート等を有効に用いることができる。
また、上記ペーストを調製する場合は、バインダを適当な溶媒に溶解することによりペーストを得ることができる。例えば、バインダとしてポリテトラフルオロエチレンを用いる場合、溶媒としてエタノール等のアルコール類を使用することができる。バインダの濃度は、用いるバインダの種類等に応じて適宜決定すればよい。
【0143】
2.酸素還元用電極
本発明は、本発明の製造方法で得られる酸素還元用電極も包含する。すなわち、窒素含有合成高分子を含む出発原料を炭化して得られる炭化物を含む電極であって、酸素を4電子還元するために用いる酸素還元用電極が包含される。従って、本発明に係る電極において、上記出発原料等の構成要素は、前記で掲げたものを採用すればよい。
【0144】
本発明の酸素還元電極では、上記炭化物の含有量は制限されず、電極の用途、使用目的等に応じて適宜設定することができる。特に、電極中に上記炭化物が1重量%以上80重量%以下、特に20重量%以上60重量%以下含まれていることが望ましい。かかる範囲に設定することによって、より優れた4電子還元性能を得ることができる。
【0145】
本発明の酸素還元用電極では、これを電池の正極として用いる場合には、以下の反応が起こる。
【0146】
本発明の酸素還元用電極においては、O2+H2O+2e-→OH-+ HO2-(アルカリ液中)で表される酸素の2電子還元反応(1)が起こり、過酸化水素(H22、アルカリ液中ではHO2-で表される過酸化水素イオン)が生成する。さらに、生成した過酸化水素イオンが2HO2-→O2+2OH-で表される分解反応(2)を起こし、再び酸素を生成する。この酸素は、再び2電子還元を受け、過酸化水素イオンを生成する。
【0147】
酸素1分子が、2電子還元反応(1)により過酸化水素イオン1分子を生成する。生成した過酸化水素イオン1分子は、分解反応(2)により1/2分子の酸素を与える。1/2分子の酸素分子は、2電子還元反応(1)により1/2分子の過酸化水素イオンを生成する。生成した1/2分子の過酸化水素イオンは、分解反応(2)により1/4分子の酸素を再生する。1/4分子の酸素分子は、2電子還元反応(1)により1/4分子の過酸化水素イオンを生成する。生成した1/4分子の過酸化水素イオンは、分解反応(2)により1/8分子の酸素を与える。このように、2電子還元反応(1)と分解反応(2)とが繰り返し起こる。
【0148】
すなわち、酸素1分子の還元に対し、2電子、1電子、1/2電子、1/4電子、1/8電子、・・・・、(1/2)n電子(n→無限大)の合計4電子が用いられ、実質的に酸素1分子が2電子還元反応の電位で4電子還元反応を受けたことになる。換言すれば、O2+2H2O+4e-→4OH-の反応が起こったことと同じ結果となる。
【0149】
窒素含有合成高分子を含む出発原料(特に無機成分を含む場合も包含する。)を炭化してなる炭化物の働きとして見れば、まず酸素分子の2電子還元反応が炭素成分で生じてその際に過酸化水素が生成される。その生成した過酸化水素が、そのすぐ近傍に存在する上述の窒素を含有する官能部あるいは無機成分により分解されると考えられる。さらに、この反応で生成した酸素は、すぐに近傍に存在する炭素成分が2電子還元反応することによって次々と繰り返されることにより実質的な4電子還元反応が生じると考えられる。このような反応は、炭素成分と、炭素成分中の過酸化水素の分解活性を有する窒素を含有する官能部あるいは無機成分が極めて近傍に存在していることにより生じると考えられる。おそらく炭素成分中のさまざまな活性状態が存在しており、または炭素成分と混在した無機成分がいろいろな酸化状態を取っているために、酸素交換能力が高く過酸化水素の分解を促進されていると考えられる。
【0150】
また、これらは炭素成分の近傍において、酸素に対する親和性の高さに加えて水や過酸化水素に対する親和性が高くなっているために2電子還元反応も促進していると考えられる。さらに、無機成分も酸化状態として存在しているため、反応を促進する助触媒的な働きもしている可能性が考えられる。また、炭素成分や無機成分については、その多孔性も影響していると考えられ、それぞれの反応部位において細孔によって比表面積が高くなっていることから被反応物質が集まって濃度が高くなることにより反応が活性化していることも考えられる。いずれにしても、各成分や反応部位の単独の効果ではなく、相乗的な作用によって、高い選択率で4電子還元反応が進行しているものと推察される。
【0151】
このように、本発明の酸素還元用電極は、特に窒素含有合成高分子の炭化物による電気化学的な触媒作用によって、酸素を電極反応物質とした電気化学還元に対して酸素の還元経路を与え、4電子還元反応を高い選択率(100%に近い選択率)で起こすことができる。
【0152】
本発明の効果は、酸素の還元反応ができる限り4電子還元反応が好ましく、2電子より大きい還元反応で発揮される。実用上、白金触媒を代替することを考慮すると、少なくとも3電子以上、特に3.5電子還元反応以上4電子還元反応以下の範囲であることが白金と同等の性能が得られるために好ましい。なお、酸素の還元反応の電子数については、回転リング電極法によって求めることができる。
【0153】
3.電気化学素子
本発明の電気化学素子は、a)酸素の還元反応を正極反応とする正極、b)負極及びc)電解質を含み、かつ、上記正極が窒素含有合成高分子を含む出発原料を炭化して得られる炭化物を含むことを特徴とする。
【0154】
すなわち、本発明の電気化学素子では、基本的には上記正極として本発明に係る酸素還元用電極を用いる。負極としては、例えば白金、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、鉄等の公知の電極を使用することができる。
【0155】
本発明の電気化学素子は、正極として本発明の酸素還元用電極を使用するほかは、公知の電気化学素子の構成要素を適用することができる。例えば、電解質、セパレータ、容器、電極リード等は、公知又は市販のものを用いることができる。
【0156】
特に、電解質としては、電解液又は固体電解質のいずれでもよいが、特に電解液を好適に用いることができる。電解液を用いる場合、その溶媒は水又は有機溶媒のいずれであってもよい。この中でも、水溶液を電解液として用いることが好ましい。電解液のpHは限定的ではないが、特にpH6からpH9の中性領域とすることが好ましい。本発明では、より高い活性が得られるという点で中性水溶液を電解質として用いることが望ましい。
【0157】
電解質には、燃料物質が含まれていることが望ましい。特に、中性水溶液に燃料物質が溶解されていることが好ましい。このときの負極の反応としては、電解質に溶解した燃料物質から電気化学的に電子を取り出す酸化反応であることが好ましい。上記燃料物質としては、用いる電解質(特に中性水溶液)に可溶なものであれば特に限定されないが、好ましくは糖類及びアルコール類の少なくとも1種である。糖類としては、たとえばグルコース、フルクトース、マンノース、スターチ、セルロール等が挙げられる。アルコール類としては、たとえばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール等が挙げられる。
【0158】
電解質中における燃料物質の含有量(濃度)は、用いる燃料の種類、溶媒の種類等によるが、一般的には0.01重量%以上100重量%以下程度、特に1重量%以上20重量%以下とすることが望ましい。
【0159】
本発明の電気化学素子において、酸素還元用電極は、たとえば1)酸素を含む気体、2)電解質溶液からなる液体、3)導電材からなる固体の三相が接触する場所に配置して用いるのが好ましい。このように、本発明に係る電極(特に窒素含有合成高分子)をイオンの経路と電子の経路の交差点に配置することにより、酸素の電気化学的還元を小さな過電圧(抵抗)でスムーズに起こすことが可能となり、大きな電流値を得ることができる。
【0160】
本発明の酸素還元用電極は、電解質に可溶の燃料である糖類あるいはアルコール類に対してほとんど酸化活性を示さない。このため、本発明に係る電極をプラス極(正極)として用い、糖類又はアルコール類の溶液を電解質とし、糖類又はアルコール類を酸化するためのマイナス極(負極)をすることによって、発電セルを構成することができる。この場合、正極側と負極側とをセパレータで隔離しなくても、正極に電解質に溶解した燃料である糖類あるいはアルコール類が直接接触しても発電セルの電圧が低下することはない。もちろん、本発明の電気化学素子では、必要に応じてセパレータを使用してもよい。
【0161】
本発明の電気化学素子では、窒素含有合成高分子を炭化して得られる炭化物を含む電極を正極として用いるので、前記で説明したような酸素の4電子還元反応が起こる。換言すれば、本発明の電気化学素子を用いることによって、酸素の4電子還元反応を行うことができる。
【0162】
実施例
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0163】
(実施例1)
試験電極1及び2の作製
窒素を含有する合成高分子としてポリアクリロニトリルを用いた。この合成高分子を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、水蒸気賦活を900℃で行った。得られた炭化物を用いて試験電極1及び2をそれぞれ作製した。これらの炭化物は、X線分析によって窒素が含有されていることが確認された。また、赤外分光によって、特性吸収としておおよそ波数2000cm-1から2300cm-1の範囲に窒素を有する分子結合に起因する吸収ピークが観察された。この結果より、炭素のみの完全な炭化物ではなく、炭化前の前駆体の分子構造に由来する炭化物であることを確認した。
【0164】
得られた炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。得られた粉末25μgをプロトン伝導性のナフィオン(製品名「Nafion112」、デュポン社製)を0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を通気性の導電性基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより炭化物とナフィオンを含む試験電極を作製した。
【0165】
通気性の導電性基体としては、厚さ0.36mmのカーボンペーパー(TGPH−120、東レ(株))を用いた。カーボンブラック粒子1重量部及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cm2となるようにカーボンペーパーに保持させて得た防水性のカーボンペーパー基体と、防水性処理をしていないカーボンペーパー基体を用いた。
防水性カーボンペーパー基体の表面に、前述の方法で炭化物が4.2mg/cm2となるようにコートすることにより、試験電極1を得た。また、防水性カーボンペーパー基体に対して、前述の方法で炭化物が2mg/cm2となるように形成することにより、試験電極2を得た。
【0166】
(実施例2)
試験電極3の作製
窒素を含有する合成高分子としてポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維を窒素雰囲気下800℃で炭化した後に、900℃で水蒸気賦活した。得られた炭化物(平均粒径約5μm)4重量部、マンガン低級酸化物(Mn34とMn58との混合物、平均粒径約10μm)4重量部、カーボンブラック1重量部及びフッ素樹脂バインダー(PTFE)0.2重量部を混合した。得られた混合物を通気性の導電性基体のニッケルめっきステンレス金網(厚み0.15mm、25メッシュ)を芯材とするシートを作製した後、このシートの片面にフッ素樹脂多孔質シート(空孔率約50%、厚み0.2mm)を圧着して厚み約3mmの試験電極3を作製した。
【0167】
(実施例3)
試験電極4の作製
窒素を含有する合成高分子としてポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維を用いた。この合成高分子5重量部とゼオライト粉2重量部を、水を溶剤として混合して成形固化して混合物を得た。この混合物を窒素雰囲気下900℃で炭化した。さらに、水蒸気による賦活処理を900℃で行って活性炭を得た。得られた炭化物は固形物の中が炭素成分部と無機成分部で構成されていた。元素を調べるためにX線分析を実施した。その結果、炭素成分部では窒素が含有されていることが確認され、無機成分部ではゼオライトによるケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)が含有されていることが確認された。上記炭化物を最大直径が20μm以下となるように粉砕した。得られた粉末25μgを、ナフィオンを0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を実施例1で用いた防水処理したカーボンペーパー基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させることにより、炭化物とナフィオンを含む試験電極4を作製した。なお、この電極では、炭化物を2mg/cm2となるように形成した。
【0168】
(実施例4)
試験電極5の作製
窒素を含有する合成高分子としてポリアクリロニトリルを用いた。この合成高分子を窒素雰囲気下800℃で炭化した後、水蒸気賦活を900℃で行うことにより炭化物を得た。次いで、この炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。得られた粉末を塩化白金酸の3mmol/Lのエタノール溶液に含浸することにより白金塩の添着を行った。これに室温で水素化ホウ素ナトリウムを加えて還元することにより白金を担持した。このときの白金担持率は、約10質量%であった。この白金を添着した炭化物25μgを、プロトン伝導性のナフィオン(製品名「Nafion112」、デュポン社製)を0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を実施例1で用いた防水処理したカーボンペーパー基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同じ分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより、炭化物とナフィオンを含む試験電極5を作製した。この試験電極5においては、炭化物を2mg/cm2となるように形成した。このときの白金量は、約0.2mg/cm2であった。
【0169】
(実施例5)
試験電極6の作製
窒素を含有する合成高分子としてポリイミド系樹脂を用いた。このポリイミド系樹脂は、無水ジカルボン酸として無水ピロメリット酸、ジアミン化合物としてビス(4−アミノフェニル)エーテルから縮合重合して得られたものである。このポリイミド系樹脂のシートを窒素雰囲気下800℃で炭化した後、水蒸気賦活を900℃で行った。得られた炭化物を用いて試験電極6を作製した。この炭化物は、X線分析によって窒素を含むことが確認された。さらに赤外分光分析によって、特性吸収としておおよそ波数1600cm-1から1800cmー1の範囲に窒素を有する分子結合に起因する吸収ピークが観察された。これにより、炭素のみの完全な炭化物ではなく、炭化前の前駆体の分子構造に由来した炭化物であることが確認された。
【0170】
得られた炭化物を最大直径が10μm以下となるように粉砕した。得られた粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオン(製品名「Nafion112」、デュポン社製)を0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。この分散液を厚さ0.36mmのカーボンペーパー(TGPH−120、東レ(株))からなる通気性の導電性基体に全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同じ分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより、炭化物とナフィオンを含む試験電極6を作製した。カーボンペーパー基体には炭化物が2mg/cm2となるように形成した。
【0171】
(比較例)
比較電極1、2、3、4、5の作製
50質量%の白金担持率のカーボンブラック粉末25μgを、プロトン伝導性のナフィオン(製品名「Nafion112」、デュポン社製)を0.05質量%溶解したエタノール溶液5μlに分散した。通気性の導電性基体であるカーボンブラック粒子1重量部及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cm2となるように厚さ0.36mmのカーボンペーパー(TGPH−120、東レ(株))に保持させた防水性のカーボンペーパー基体にこの分散液を全面を覆うように滴下し、温風乾燥してエタノールを蒸発させ、さらに同分散液を再度滴下し、エタノールを蒸発させることにより、白金量を約0.35mg/cm2とした比較電極1を作製した。
【0172】
この際に、上述のカーボンブラック粉末の代わりに白金担持率30質量%のカーボンブラック粉末を用いたほかは、同じような処理を行うことにより、白金量を約0.2mg/cm2とした比較電極2を作製した。
【0173】
また、上述の防水性のカーボンペーパー基体を比較電極3(すなわち、通気性の導電性基体であるカーボンブラック粒子1重量部及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)バインダー0.1重量部からなる混合物を2.25mg/cm2となるように厚さ0.36mmのカーボンペーパー(TGPH−120、東レ(株))に保持させた防水性のカーボンペーパー基体)とし、防水性を施していないカーボンペーパーのみ(TGPH−120、東レ(株)そのもの)を比較電極4とし、上述の炭化物を含まないプロトン伝導性のナフィオンのエタノール溶液をカーボンペーパー基体に形成して比較電極5とした。
【0174】
(実施例6)
試験電極1、2の電極特性の評価
図3に示す構成の3極セルを構成し、試験電極での酸素の還元特性を電圧−電流特性で評価した。図3において、1は空気電極、1aは試験電極又は比較電極、1bはフッ素樹脂多孔質シート、1cは電極リード、2は対極、3は参照電極、4は電解液、5は空気極を配置するための直径16mmの開口部を有するガラスセルである。空気極1は、ガラスセル5の開口部に図3に示すように、フッ素樹脂多孔質シート1b側の面は大気に曝され、他方の面は電解液4に接するように(すなわち、試験電極又は比較電極1aに接するように)配置されている。電解液4としては、pH7.0の0.1Mりん酸緩衝溶液を用いた。対極2は白金を用い、参照電極3はAg/AgCl(飽和KCl)電極を用いた。なお、試験電極又は比較電極1aとフッ素樹脂多孔質シート1bとは密着させた。
【0175】
図1に、試験電極1と2、及び各比較電極を空気極1とした場合の電圧―電流特性を比較して示す。なお、印加電流は少なくとも10分間維持して測定し、起電力はセル抵抗で補正して標準水素電極(NHE)基準で表している。カーボンブラックを含む防水性カーボンペーパーからなる比較電極3に対して、試験電極1及び2は過電圧が小さくかつ高い起電力が得られる上に、白金触媒による比較電極1及び2と同程度の起電力が得られた。このことは、従来の炭素系材料では酸素が2電子還元されているのに対し、試験電極に用いた炭化物が実質的に4電子還元しているために、白金における4電子還元反応に匹敵する特性が得られたものと考えられる。なお、これらの電極を回転リング電極法で酸素の還元反応の電子数を調べたところ約3.5電子から3.7電子であり、実質的に4電子還元反応が進行していることが確認された。
【0176】
(実施例7)
試験電極3、4、5、6の電極特性の評価
実施例6と同様に、図3に示す構成の3極セルを構成して、試験電極での酸素の還元特性を電圧−電流特性で評価した。
【0177】
図2に、試験電極3、4、5、6と各比較電極を空気極1とした場合の電圧―電流特性を比較して示す。カーボンブラックを含む防水性カーボンペーパーからなる比較電極3に対して、実施例6と同じように各試験電極では過電圧が小さく高い起電力が得られ、酸素が実質的に4電子還元反応で触媒されていることがわかる。
【0178】
試験電極3においては、空気極に含まれるマンガン低級酸化物が酸素分子の2電子還元反応で生成した過酸化水素を分解する作用が強いために、実質的に4電子還元反応が起こり、白金による比較電極1とほぼ等しい起電力を得られた。
【0179】
試験電極4においては、無機化合物を用いて成形固化して形成した炭化物においても粉粒体での電気化学的な触媒効果として高い起電力が得られている。このことから、粉粒体としなくても炭化物の成形体を形成して電極とする等取り扱い性の向上が期待される。
【0180】
試験電極5においては、炭化物に添着している白金量が同じである比較電極2に対して高い起電力が得られている。このことは、添着している白金に加えて窒素を含有する高分子を炭化した炭化物の還元作用が加わって効率的な還元反応を生じているためである。この炭化物を触媒担持体として使用することによって、高価な貴金属触媒の使用量を低減することが可能になる。
【0181】
また、試験電極5を用いた空気極における起電力の保持時間を比較電極1と比べた場合に、起電力の10%低下までの時間において試験電極5の方が比較電極1よりも5倍以上長く保持されることがわかった。この起電力低下の大きな要因の1つは触媒である白金の被毒による要因がある。試験電極5では白金量が少ないため起電力低下が少ないが、単に白金量の違い(試験電極5:比較電極1=0.2:0.35)以上の効果があるために、被毒だけでは説明できなく、他の効果も寄与していると考えられる。その効果については明らかではないが、炭化物が実質的に酸素の4電子還元反応を進行させる効果によって、白金の被毒を抑制する効果のあるものと考えられる。
【0182】
試験電極6においては、ポリアクリロニトリル系樹脂以外のポリイミド系樹脂を炭化した炭化物においても同様に4電子還元反応の効果が得られることがわかる。
【0183】
(実施例8)
発電セル特性の評価
実施例1の試験電極1を含む空気極をプラス極(正極)、対極の白金をマイナス極(負極)とし、グルコースを100mM溶解したpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液を電解液として発電セルaを構成した。発電セルaと同じ正極、負極を用いて、メタノールを3質量%溶解したpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液を電解液とする発電セルbを構成した。また、空気極を白金板Ptとして正極とする以外は同様の構成とした発電セルc、発電セルdを構成した。それぞれの発電セルの開路電圧と、発電セルを1mAの一定電流値で10時間放電した際の電圧を表1に示す。
【0184】
【表1】
Figure 0003740578
【0185】
本発明による炭化物を有効成分として含む空気極をプラス極として用いた発電セルa、bでは、白金板をプラス極に用いた発電セルc、dに比べて開放電圧が0.2〜0.4V高い電圧を得ることができた。このことは、窒素を含有する高分子材料を炭化した炭化物を有効成分として含む空気極よりなるプラス極は、グルコースあるいはメタノールと直接接触しても酸化反応を起こさず、酸素の還元反応で決定される電位を与えるので発電セルは高い電圧を与える。これに対し、白金板よりなるプラス極は、グルコースあるいはメタノールと直接接触すると酸化反応を起こすため、グルコースあるいはメタノールの酸化反応と酸素の還元反応で決定される低い電位を与えるために発電セルが低い電圧を与えていると考えられる。
【0186】
なお、電解質に可溶な燃料物質としてグルコースあるいはメタノールを用いたが、グルコースの他の糖類、たとえばフルクトース、マンノース、スターチ、セルロール等のほか、たとえばエタノール、プロパノール、ブタノール、グリセロール等を用いても同様な結果を得ることができる。また、電解質としてpH6.8の0.1Mりん酸緩衝液に代えて、0.1NのKOH水溶液やNaClを3質量%溶解した塩水を用いても同様な結果を得ることができる。
【0187】
(実施例9)
発電セルの組み立て
図4に示す構成の発電セルA及び発電セルBを組み立てた。
【0188】
図4において、正極として作用する空気極11は、発電セルAでは、実施例1で得た試験電極1を用いて作製した。図4において、15は負極リード、16は正極リード、17は透明のシリコンラバーよりなる封止材である。
【0189】
図4において負極として作用する光触媒電極は、ガラス基板6、ITO薄膜7、酸化チタン(TiO2)微粒子膜8、及び色素分子層9よりなる。厚さ1mmのガラス基板6上に表面抵抗が10オーム/cm2のインジウム・錫酸化物(ITO)薄膜7が形成された光透過性導電性基板を用意した。平均粒径が10nmのTiO2粒子を11質量%分散したポリエチレングリコールを30質量%含むアセトニトリル溶液を、浸漬法により前記ITO薄膜上に塗布し、80℃で乾燥したのち、空気中で400℃で1時間焼成した。これにより、厚さ約10μmのTiO2微粒子膜8を形成した。次に、TiO2微粒子膜8を、以下の化学式で示されるルテニウム金属錯体色素分子9を10mM溶解したエタノール中に浸漬することにより、色素分子9をTiO2微粒子膜8に添着した。さらに、4−tert−ブチルピリジンに浸漬した後、アセトニトリルで洗浄したのち乾燥することにより上記光触媒電極を作製した。
【0190】
【化1】
Figure 0003740578
【0191】
電解液・燃料液10としてpH7.0の0.1Mりん酸緩衝溶液に燃料のメタノール5質量%、補酵素ニコチンアミドヌクレオチド(NADH)を5mM、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)を16.0U/ml、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(AlDH)を1.0U/ml、ホルメートデヒドロゲナーゼ(FDH)を0.3U/ml溶解したものを用いた。電解液・燃料液10は、電解液・燃料液注入口13aより注入され、発電後、排出口13bより排出される。空気は、酸素透過性撥水膜12を通して外部より発電セル内部に供給される。
【0192】
ここで、図4に記載されている発電セルの構造について説明する。この発電セルの負極側は、主としてガラス基板6からなり、このガラス基板6の表面にはITO薄膜7が積層されている。ITO薄膜7には負極リード15が設けられている。発電セルの正極側は、主として板状の空気極11からなり、空気極11の表面には酸素透過性撥水膜12が積層されている。空気極11の内部からは正極リード16が伸び出している。このようなガラス基板6の表面及び板状の空気極11の裏面とを向かい合わせにし、これらの間に封止材17を介在させた。これにガラス基板6及び空気極11とを貼り合わせることにより発電セルが形成されている。
【0193】
ガラス基板6と空気極11との間には、空気極11側に電解液(又は燃料液)10が、ガラス基板6側に酸化チタンからなる微粒子が分散された微粒子薄膜8が位置している。そして、電解液(又は燃料液)10と微粒子薄膜8との間には、色素分離層9が挟まれている。
【0194】
また、封止材17には、封止材17を貫通する電解液・燃料液注入口13a及び電解液・燃料液排出口13bが設けられ、これらの電解液・燃料液注入口13a及び電解液・燃料液排出口13bには液バルブ14a・14bがそれぞれ設けられている。これらの電解液・燃料液注入口13a及び電解液・燃料液排出口13bを介して、ガラス基板6と空気極11との間に電解液(又は燃料液)10を外部から注入及び外部に排出することができる。
【0195】
なお、発電セルBは、実施例2で得た試験電極3を用いて作製した空気極を使用した以外は、発電セルAと同じ構成となるように作製した。
【0196】
発電セルの動作特性
発電セルを電解液・燃料液で満たした後、ガラス基板6側より太陽光シミュレータ(AM1.5、100mW/cm2)からの光を照射して、発電セルの起電力(OCV)及び、100μAの一定電流で発電セルを20分間放電した際の発電セルの電圧を測定した。OCVは、発電セルAでは、0.80V、発電セルBでは、0.65Vであった。また、20分間放電後の発電セルの電圧は、発電セルAでは、0.75V、発電セルBでは、0.55Vであった。このように高い起電力が得られるとともに、放電に際しても、高い電圧を維持することができた。
なお、本実施例では、発電セルの負極として光触媒電極を用い、メタノールを燃料とする電池を示したが、負極として、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム等の金属を用いても、本発明に従う酸素還元用電極と組み合わせることにより、電気化学素子として起電力ならびに放電時の電池電圧が高い電池を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明によれば、酸素の電気化学還元に対して、実質上4電子還元反応を100%に近い選択率で与える安定性にも優れた酸素還元用電極を提供することができる。このような酸素還元用電極を、酸素の還元反応を正極反応として用いる電気化学素子の酸素極、空気極等に利用することができる。例えば、亜鉛―空気電池、アルミニウム―空気電池、砂糖―空気電池等の空気電池;酸素水素燃料電池、メタノール燃料電池等の燃料電池;酵素センサ、酸素センサ等の電気化学センサ;等に好適に用いることができる。
【0198】
以上のように、本発明の電極及びその製造方法は、工業的規模での生産に適した方法であり、実用性の高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0199】
【図1】図1は、試験電極1と2、及び各比較電極における酸素還元反応に対する電圧(起電力)−電流特性を示す図である。
【図2】図2は、試験電極3、4、5、6、及び各比較電極における酸素還元反応に対する電圧(起電力)−電流特性を示す図である。
【図3】図3は、本発明の一実施例の測定における3極電極セルの断面図である。
【図4】図4は、本発明の他の一実施例における発電セルの断面図である。
【符号の説明】
【0200】
1 空気電極
1a 空気極混合物
1b フッ素樹脂多孔質シート
1c 電極リード
2 対極
3 参照電極
4 電解液
5 ガラスセル
6 ガラス基板
7 ITO薄膜
8 TiO2微粒子薄膜
9 色素分子層
10 電解液・燃料液
11 空気極
12 酸素透過性撥水膜
13a 電解液・燃料液注入口
13b 電解液・燃料液排出口
14a、14b 液バルブ
15 負極リード
16 正極リード
17 封止材

Claims (19)

  1. 酸素を4電子還元する酸素還元用電極を製造する方法であって、(1)窒素含有合成高分子を含む出発原料を、酸素濃度が10体積%以下である雰囲気下で500℃以上1000℃以下で炭化することにより炭化物を得た後に前記炭化物を水蒸気賦活する第一工程及び(2)前記炭化物を含む電極材料を用いて前記酸素還元用電極を製造する第二工程を有する製造方法。
  2. 窒素含有合成高分子が、分子中に窒素原子を有するモノマーの1種又は2種以上の重合体である請求項1に記載の製造方法。
  3. 窒素含有合成高分子が、ポリアクリロニトリル系高分子、ポリイミド系高分子、ポリアミド系高分子、ポリウレタン系高分子、ポリウレア系高分子及びポリアニリン系高分子の少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
  4. 前記雰囲気が不活性ガス雰囲気である請求項に記載の製造方法。
  5. 第二工程において、前記電極材料を所定の形状に成形して成形体を得た後、前記成形体を導電体基体に積層又は圧着することにより前記酸素還元用電極が製造される、請求項1に記載の製造方法。
  6. 第二工程において、前記電極材料をペースト状にして電極材料を含有するペーストを得た後、前記ペーストを導電性基体にコーティングすることにより前記酸素還元用電極が製造される、請求項1に記載の製造方法。
  7. 前記出発原料、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに無機成分を添加する請求項1に記載の製造方法。
  8. 無機成分が、マンガン、ケイ素、アルミニウム、リン、カルシウム、カリウム及びマグネシウムの少なくとも1種を含む請求項7に記載の製造方法。
  9. 前記炭化物が、約3000から3500cm−1範囲の赤外吸収を示す請求項1に記載の製造方法。
  10. 前記赤外吸収が窒素(N)−水素(H)の伸縮に基づく、請求項9に記載の製造方法。
  11. 前記炭化物が、約2000から2300cm−1範囲の赤外吸収を示す請求項1に記載の製造方法。
  12. 前記赤外吸収が炭素(C)≡窒素(N)のニトリルの伸縮に基づく、請求項11に記載の製造方法。
  13. 前記赤外吸収が窒素(N)=炭素(C)=窒素(N)のカルボジイミドの伸縮の伸縮に基づく、請求項11に記載の製造方法。
  14. 前記赤外吸収が炭素(C)=窒素(N)の伸縮の伸縮に基づく、請求項11に記載の製造方法。
  15. 前記炭化物が、約1600から1800cm−1範囲の赤外吸収を示す請求項1に記載の製造方法。
  16. 前記赤外吸収が窒素(N)−炭素(C)=酸素(O)のアミド又はイミドの伸縮に基づく、請求項15に記載の製造方法。
  17. 前記炭化物が、1)約3000から3500cm−1範囲の赤外吸収、2)約2000から2300cm−1範囲の赤外吸収、3)約1600から1800cm−1範囲の赤外吸収を示す請求項1に記載の製造方法。
  18. 前記出発原料、炭化物及び電極材料の少なくともいずれかに、金属及びその酸化物の少なくとも1種を添加する請求項1に記載の製造方法。
  19. 酸化物が一般式MnO(ただし、yはマンガン(Mn)の価数で決まる酸素の原子数であって、2未満である。)で表されるマンガン低級酸化物である請求項18に記載の製造方法。
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