JP3686576B2 - 自己潤滑性絶縁電線 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、表面に形成された絶縁層自体が良好な滑り性を有する自己潤滑性絶縁電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、絶縁電線はその製造及び加工時に加わる負荷によって絶縁層の損傷や断線を生じ易い。この負荷を軽減するには絶縁電線の表面の滑り性を高めて摩擦抵抗を低下させることが有効であるため、当初は、滑り性を高める手段として、絶縁層の表面に潤滑油,パラフィン類,ワックス等の滑性成分を塗布する方法、ナイロンやポリエチレンの如き摩擦係数の低い樹脂からなる上塗り層を設ける方法、上記滑性成分を絶縁層中に含有させる方法等が採用されていた。
【0003】
しかるに、近年においては、製造及び加工工程全体の高速化と空間効率の向上を目的として、巻線速度並びに占有率(一定空間内に配位させる電線量)をますます高める傾向にあり、これに伴って必然的に絶縁電線に加わる負荷が増大することになり、前記手段では最早対処できなくなっている。そこで、前記に代わる手段として、絶縁層中にポリエチレン,フッ素系樹脂,シリコーン系樹脂等の粉末を配合する方法が多用されているが、これら樹脂粉末は絶縁層形成用の絶縁塗料中で均一に分散しにくいため、塗料の安定性が悪くなると共に、絶縁層の機械的及び物理的特性の低下や、上記微粉末の分散不均一に起因した外観低下を招き易いという難点があった。
【0004】
一方、上述の事情に照らし、本出願人は先に、特開平7−220530号として、ポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体を含む絶縁塗料を塗布、焼付けてなる絶縁層を有する自己潤滑性絶縁電線を提案している。この絶縁電線は、表面の絶縁層自体が良好な滑り性を発揮すると共に、耐熱性等の本来の電線特性を充分に具備し、しかも絶縁層形成用の絶縁塗料の安定性がよいという、優れた特徴を備えている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記提案の自己潤滑性絶縁電線は、その後の研究により、絶縁層に高度の潤滑性を付与する上で、前記のポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体の配合量を多くする必要があるが、この配合量を多くした場合に絶縁層の吸水性が強くなるため、経日的に吸湿による電線特性の低下を生じ易くなることが判明した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述の状況に鑑みて鋭意検討を重ねた結果、絶縁層の形成に用いる絶縁塗料中に、ポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体と、天然ワックス及びポリオレフィンワックスより選ばれるワックス成分とを含有させた場合に、形成される絶縁層の吸水性が抑えられて経日的な電線特性の低下を生じにくくなり、しかも絶縁層の滑り性が著しく向上し、近年の巻線速度の高速化ならびに占有率の増大に充分に対処できる高性能な自己潤滑性絶縁電線が得られ、また前記絶縁塗料の安定性も良好となることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
すなわち、本発明の請求項1に係る自己潤滑性絶縁電線は、導体上に直接に又は他の絶縁層を介して、a)平均分子量が300〜3000であるポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体と、b)天然ワックス及びポリオレフィンワックスより選ばれる少なくとも一種のワックス成分とを含有する、ポリウレタン塗料、ポリエステル塗料、ポリエステルイミド塗料、ポリアミドイミド塗料より選ばれる少なくとも一種の絶縁塗料を塗布、焼付けてなる絶縁層が形成され、前記絶縁塗料におけるa成分のポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体の配合量が、絶縁塗料の樹脂成分100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲にあり、且つ前記b成分のワックス成分に対して25〜200重量%であることを特徴としている。
【0008】
請求項2の発明は、上記請求項1の自己潤滑性絶縁電線において、前記a成分のポリアルキレングリコール誘導体がポリアルキレングリコールの脂肪酸モノエステル又はジエステルである構成を採用したものである。
【0011】
【発明の細部構成と作用】
本発明の自己潤滑性絶縁電線は、表面に、a)ポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体と、b)天然ワックス及びポリオレフィンワックスより選ばれる少なくとも一種のワックス成分とを含む絶縁塗料を塗布、焼付けてなる絶縁層を有しており、この絶縁層の吸水性が小さいために、吸湿による経日的な電線特性の低下を生じにくい上、該絶縁層が非常に優れた自己潤滑性を具備することから、近年の巻線速度の高速化ならびに占有率の増大に充分に対処できる非常に優れた滑り性を発揮する。また、上記絶縁塗料は安定性が良いため、該塗料を長期保存後に使用しても、滑り性を含めた各種電線特性の低下を生じにくく、表面が滑らかで良好な外観を呈する絶縁電線が得られる。
【0012】
上述のように絶縁層の吸水性が小さくなるのは、明確ではないが、ワックス成分が持つ撥水性により、ポリアルキレングリコール及びその誘導体による吸水性が相殺される結果であると考えられる。また、絶縁層の自己潤滑性については、前記ワックス成分が優れた潤滑機能を持ち、しかもポリアルキレングリコール及びその誘導体も分子構造的に潤滑機能を具備する上にワックス成分に対する相溶性を有し、且つ絶縁塗料に一般的に使用される溶剤に可溶であって該塗料中に均一に溶け込むことから、ワックス成分に対する分散剤として作用し、もって優れた潤滑機能を持つワックス成分が絶縁層中に均一に含有された状態となり、絶縁層表面に現れた両成分が協働して効率よく高い潤滑作用を発揮することになると考えられる。一方、絶縁塗料においては、上記のようにポリアルキレングリコール及びその誘導体とワックス成分とが共に塗料中に均一に溶け込んで樹脂成分と混じり合うため、該塗料の安定性が良好になると想定される。
【0013】
しかして、a成分のポリアルキレングリコール及びその誘導体としては、いずれを使用してもb成分の天然ワックス及びポリオレフィンワックスを絶縁塗料中に均一に溶け込ませることができるが、ポリアルキレングリコールの末端の水酸基に脂肪族炭化水素誘導体を反応させたポリアルキレングリコール誘導体、特にポリアルキレングリコールの脂肪酸モノエステル又はジエステルが好適であり、更にこれら脂肪酸モノエステル及びジエステルにおいても脂肪酸の炭素数が16以上であるものが最適である。これは、上記の脂肪酸モノエステル及びジエステルに由来する脂肪族炭化水素基の炭素数が多いほど、b成分の天然ワックス及びポリオレフィンワックスとより相溶し易くなる上、該脂肪族炭化水素基に基づく潤滑作用も向上することによる。
【0014】
このようなポリアルキレングリコール及びその誘導体は、ポリアルキレングリコール成分の平均分子量が300〜3000の範囲にあるものが好適である。すなわち、この平均分子量が小さ過ぎるものでは、絶縁塗料及びこれより形成される絶縁層の吸水性が大きくなり、吸湿に起因した絶縁電線の経日的な特性低下を生じ易くなる。また、該平均分子量が大き過ぎては、b成分の天然ワックス及びポリオレフィンワックスとの相溶性が低下する。なお、このポリアルキレングリコール成分は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレングリコールのいずれでもよいが、特にポリエチレングリコールが好適である。しかして、このa成分のポリアルキレングリコール及びその誘導体は2種以上を併用しても差支えない。
【0015】
上記a成分のポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体の配合量は、絶縁塗料の樹脂成分100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲にあって、且つ前記b成分のワックス成分に対して25〜200重量%となる範囲が好ましい。すなわち、前者の樹脂成分に対する配合量については、0.1重量部未満では実質的な配合効果が得られず、逆に10重量部を越えると絶縁層の吸水性を充分に抑制することが困難になる。また、後者のワックス成分に対する配合比については、25重量%未満ではワックス成分を絶縁塗料中に均一に溶解できず、逆に200重量%を越える場合はワックス成分の潤滑機能を阻害するために絶縁層の自己潤滑性を却って低下させることになる。
【0016】
b成分のワックス成分としては、天然ワックス及びポリオレフィンワックスの何れかに属するものであれば特に制約なく、天然ワックスとポリオレフィンワックスの一方のみを使用してもよいし、両方を併用してもよく、また天然ワックスの複数種を併用したり、ポリオレフィンワックスの複数種を併用することも可能である。しかして、好適な天然ワックスとしては、カルナバワックス、ラノリンワックス、ミツロウ、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、セレシン、鯨ロウ等が挙げられる。また、好適なポリオレフィンワックスとしては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等が挙げられる。
【0017】
上記ワックス成分の配合量は、絶縁塗料の樹脂成分100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲が好ましく、0.1重量部未満では実質的な配合効果が得られず、逆に10重量部を越えると絶縁塗料中での分散性が悪化し、形成される絶縁層の表面が荒れて絶縁電線の外観低下をきたすことになる。
【0018】
本発明の自己潤滑性絶縁電線を製造するには、絶縁塗料中に前記a,b成分を配合し、この絶縁塗料を軟銅線等の導体上に直接に又は下地となる他の絶縁層を介して塗布、焼付けして所要の厚みの絶縁層を形成すればよい。この下地となる他の絶縁層としては、電気絶縁を主目的とした通常の絶縁層の他、モーター,トランス,コイル等の巻線に供する場合の自己融着性を付与するための融着用絶縁層がある。
【0019】
前記a,b成分を配合する絶縁塗料としては、一般的にエナメル線用として用いられるものであればよく、例えば、ポリウレタン塗料、ポリエステル塗料、ポリエステルイミド塗料、ポリアミドイミド塗料等が挙げられる。また下地とする融着用絶縁層を形成するための絶縁塗料としては、例えば、ポリアミド系塗料、ポリエステル系塗料、エポキシ系塗料、ポリビニルブチラール塗料、これらの混合塗料等が挙げられる。更に、下地とする通常の絶縁層を形成するための絶縁塗料としては、上記の前記a,b成分を配合する絶縁塗料と同様のものを使用できる。
【0020】
本発明の自己潤滑性絶縁電線における前記a,b成分を含む絶縁層の厚さは、導体の径、絶縁層構成樹脂の種類、電線の用途、下地となる他の絶縁層の有無等によって異なるが、一般に5〜50μm程度である。
【0021】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。なお、これら実施例及び比較例で使用した絶縁塗料とこれに配合した潤滑成分の詳細は、次のとおりである。
【0022】
<絶縁塗料>
PU …ポリウレタン絶縁塗料(東特塗料社製のTPU−5100)
PES…ポリエステル絶縁塗料(日東シンコー社製のDE−220)
PAI…ポリアミドイミド絶縁塗料(日立化成社製のHI−405)
【0023】
<潤滑成分>
PEG−200…平均分子量200のポリエチレングリコール
PEG−300…平均分子量300のポリエチレングリコール
PEG−2000…平均分子量2000のポリエチレングリコール
PEG−3500…平均分子量3500のポリエチレングリコール
PEG誘導体A…ポリエチレングリコールモノステアレート(ポリエチレングリコール成分の平均分子量1000)
PEG誘導体B…ポリエチレングリコールジオレート(ポリエチレングリコール成分の平均分子量600)
天然ワックスA…モンタンワックス(ビーエーエスエフ・ジャパン社製のS−WAX)
天然ワックスB…カルナバワックス(東洋ペトライト社製のT−1号)
POワックスA…ポリエチレンワックス(三洋化成社製の151P)
POワックスB…ポリプロピレンワックス(三洋化成社製の660P)
【0024】
実施例1〜16、比較例11〜14
後記表1及び表2に記載の絶縁塗料に、その樹脂成分100重量部に対し、同表記載の各成分を表記の重量部で添加し、40〜60℃にて1時間加熱攪拌して絶縁塗料を調製した。そして、この絶縁塗料を0.5mm径の軟銅線上に複数回塗布、焼付けして厚さ23μmの絶縁層を形成し、自己潤滑性絶縁電線を製造した。
【0025】
比較例1〜7
後記表3記載の絶縁塗料に、その樹脂成分100重量部に対し、同表記載の各成分を表記の重量部で添加し、前記実施例と同様にして絶縁塗料を調製し、この絶縁塗料を用いて前記実施例と同様にして自己潤滑性絶縁電線を製造した。
【0026】
比較例8
実施例1で用いたポリウレタン絶縁塗料を潤滑成分の配合なしに使用し、当該実施例と同様にして形成した絶縁層の表面に固形パラフィンを塗布し、絶縁電線を製造した。
【0027】
以上の実施例及び比較例の絶縁電線について、外観(JIS C 30034.による)、滑り性、吸湿試験後のピンホール、塗料安定性をそれぞれ試験評価した。その結果を後記表1及び表2に示す。なお、滑り性、吸湿試験後のピンホール、塗料安定性の各試験方法は次の通りである。しかして、吸湿試験後のピンホールは、引張応力が働いた際、絶縁層中の水の存在によって樹脂成分の分子鎖が切れることによってピンホールを生成するものであり、吸湿によるど経日的な電線特性の劣化の指標となり、数値が多いほど劣化し易い。
【0028】
〔滑り性〕・・・金属ブロックに2本の絶縁電線を平行に取り付け、これを平面上に固定された2本の平行な同じ絶縁電線の上に相互の電線が直角に交差するように置き、前者の金属ブロックが後者の平面上の絶縁電線に沿って動くのに必要な最小荷重を測定し、この最小荷重(g)/金属ブロックの荷重(g)=滑り性として表した。
【0029】
〔吸湿試験後のピンホール〕
長さ15mの試験電線を温度40℃、湿度99.5%以上の恒温恒湿槽内で3ヵ月放置後、JIS C 3003.6に準拠してピンホール試験を行った。
【0030】
〔塗料安定性〕
内径1mm、長さ120mmの試験管内に絶縁塗料10mlを入れ、この試験管を60℃の高温水槽に浸漬して2週間放置したのちに目視観察し、塗料中の潤滑成分の分離や塗料の濁りを生じている場合を『不良』、生じていない場合を『良』として判定した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
表1〜表3より、本発明の自己潤滑性絶縁電線は、非常に優れた滑り性を発揮すると共に、吸湿による経日的な電線特性の低下を生じにくく、また外観及び絶縁塗料の安定性も良好であることが判る。これに対し、潤滑成分としてポリエチレングリコールのみを使用した絶縁電線(比較例1,2)では、絶縁層の吸水性が大きいため、吸湿による経日的な電線特性の低下を生じ易く、滑り性の面でもやや劣ることが判る。また、潤滑成分として潤滑作用に優れるポリエチレングリコールモノステアレートのみを使用した絶縁電線(比較例3)では滑り性の面でやや劣り、天然ワックスとポリオレフィンワックスの一方のみを使用した絶縁電線(比較例4,5)では外観不良を生じる上に絶縁塗料の安定性も悪く、天然ワックスとポリオレフィンワックスを併用した絶縁電線(比較例6,7)でも絶縁塗料の安定性が悪く、更に潤滑成分を絶縁層に含有させずに表面に塗布した絶縁電線(比較例8)では充分な滑り性が得られないことが明らかである。
【0035】
一方、実施例1,2,4と比較例13,14との対比から、ポリアルキレングリコール又はその誘導体におけるポリアルキレングリコール成分の平均分子量が300未満(比較例13)になると、絶縁層の吸水性を充分に抑制できず、同3000を越える場合(比較例14)は絶縁塗料の安定性の悪化を招くことが示唆される。また、実施例2,5と比較例11,12の対比より、天然ワックスとポリオレフィンワックスの合量に対してポリアルキレングリコール又はその誘導体の配合量が少な過ぎては絶縁塗料の安定性が低下し(比較例11)、逆に同配合量が多過ぎては滑り性が不充分になる(比較例12)ことが判る。更にポリエチレングリコールとその誘導体との比較では、後者のポリエチレングリコール誘導体の方が概して好結果が得られている。なお、ワックス成分は、天然ワックスとポリオレフィンワックスを併用した方が滑り性はより高くなる傾向を示すが、一方のみの配合(実施例13〜16)でも充分な滑り性が得られている。
【0036】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、表面部の絶縁層自体が滑り性を有する自己潤滑性絶縁電線として、近年の巻線速度の高速化ならびに占有率の増大に充分に対処できる高い自己潤滑性を具備し、しかも吸湿による経日的な電線特性の低下を生じにくく、また外観もよい上、絶縁層形成用の絶縁塗料の安定性も良好であるものが提供される。
【0038】
請求項2の発明によれば、上記の自己潤滑性絶縁電線の滑り性と絶縁塗料の安定性がより向上するという利点がある。
Claims (2)
- 導体上に直接に又は他の絶縁層を介して、a)平均分子量が300〜3000であるポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体と、b)天然ワックス及びポリオレフィンワックスより選ばれる少なくとも一種のワックス成分とを含有する、ポリウレタン塗料、ポリエステル塗料、ポリエステルイミド塗料、ポリアミドイミド塗料より選ばれる少なくとも一種の絶縁塗料を塗布、焼付けてなる絶縁層が形成され、
前記絶縁塗料におけるa成分のポリアルキレングリコール又は/及びその誘導体の配合量が、絶縁塗料の樹脂成分100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲にあり、且つ前記b成分のワックス成分に対して25〜200重量%であることを特徴とする自己潤滑性絶縁電線。 - 前記a成分のポリアルキレングリコール誘導体がポリアルキレングリコールの脂肪酸モノエステル又はジエステルである請求項1記載の自己潤滑性絶縁電線。
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