JP3539560B2 - パルス信号を用いた水中物体計測方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、パルス信号を用いた水中物体計測装置に関し、特に水中物体の奥行きを計測する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
水中の目標物体にパルス信号を送波し、目標からのエコーを受信して水中物体の奥行きを計測する方法として、従来図5に示す方法が知られている。
【0003】
図5において、送信処理部51で生成されたパルス信号は送波器52で水中に送波される。水中物体からの反射を含む音響信号が受波器53で受波され、受信処理部54で増幅及び帯域制限された後、目標検出部55で雑音の中からエコーが検出される。
【0004】
検出されたエコーは、検出処理部56で検波及び積分処理され、時間対レベルのデータとなる。エコー長検出部57では、特定の信号対雑音比を満たすレベルの継続時間がエコー長として特定され、演算処理部58で水中物体の奥行きが計算される。
【0005】
図6は、水中物体の奥行きの計算原理を示しており、物体最前部からの反射波と物体最後部からの反射波の到達時間差は物体の奥行きLの2倍を音速Cで割った値であり、エコー長Teはこれにパルス幅τを加えた値2L/C+τである。
【0006】
この時、パルス幅の等価距離τ×Cが水中物体の奥行きに比べて十分に短いなら、
Te=2L/C+τ≒2L/C
が成り立ち、水中物体の奥行きは次式となる。
【0007】
L=Te×C/2(ただしτ×C≪L)
このように、従来の方法では、パルス幅を水中物体に対して極めて短くすることにより、受信エコー長Teから直接水中物体の奥行きを求めている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の方法では、エコーレベルが小さく信号対雑音比が低いため、エコーの検出及びエコー長の特定が困難であった。特に寸法の小さな物体に対しては、エコーが雑音中に完全に埋もれてしまい、奥行きの計測は極めて困難となる。
【0009】
以下、図3〜図4を参照してその理由を述べる。
【0010】
送波レベルをSL、音波伝搬時のエネルギー損失をTL、水中物体からの反射の大きさを表すターゲットストレングスをTS、エコーレベルをELとすると、EL=SL−2TL+TSとなり、送波レベルと伝搬時のエネルギー損失が一定ならエコーレベルとターゲットストレングスは比例する。
【0011】
一方、ターゲットストレングスTSは、図3に示すとおり、飽和パルス幅τs=2L/Cを境にパルス幅τの減少に対して低下を始め、パルス幅が小さくなるほど低下量も大きくなる。従来の方法では、パルス幅を小さくする必要があるため、ターゲットストレングスが飽和ターゲットストレングスに比べて非常に小さいものとなる。
【0012】
この原理をエコーレベルの観点から説明すると、図4に示すように、計測物体に入射するパルス波のパルス幅τがτ>2L/Cすなわち物体最前部からの反射波と物体最後部からの反射波の到達時間差より大きい場合、物体最前部から物体最後部までの各所で生じる反射波が全て重なり合う区間が生じ、その区間では最大のピークレベルを持つエコーが生じることとなる。
【0013】
しかし、τ<2L/Cすなわちパルス幅が物体最前部からの反射波と物体最後部からの反射波の到達時間差より小さい場合には、パルス幅に応じた奥行き方向の距離上からの反射波しか重なり合わず、パルス幅に応じてエコーのピークレベルも小さくなる。
【0014】
したがって、計測物体に入射するパルス波のパルス幅τが物体最前部から物体最後部までの各所で生じる反射波が全て重なり合う区間が生じ得る大きさ即ち飽和パルス幅τsよりも小さくなるとそれに伴ってエコーレベルも小さくなり、エコーの検出が困難になるわけである。
【0015】
また、ターゲットストレングスは物体の照射断面積に比例するため、寸法の小さな物体ではターゲットストレングスがさらに低下し、その結果エコーレベルもさらに小さくなり、エコーが雑音に完全にマスクされるとエコーの検出は不可能となる。
【0016】
本発明の目的は、エコーの検出を容易にするとともに、寸法の小さな物体にも適用可能な水中物体の奥行き計測装置を提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、パルス幅の異なる複数の信号の生成及び送信を制御する制御部と、エコーのピークレベルを読み取り、パルス幅の異なる信号間でのピークレベルの変化を評価するレベル評価部と、ピークレベルの変化を生じたパルス幅から目標の奥行きを計算する演算出力部を設けたことを特徴としている。
【0018】
本発明では、様々なパルス幅の信号を送信してエコーのピークレベルが低下を始めるパルス幅を検出し、そのパルス幅から水中物体の奥行きを計算する。
【0019】
本発明によれば、パルス幅とターゲットストレングス及びエコーレベルの関係により、エコーのピークレベルが低下を始める前後のパルス幅ではエコーレベルが十分に大きくなるため、エコーの検出が容易となり、寸法の小さな物体にも適用可能となる。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態における構成を示すブロック図である。
【0021】
図1において、送信処理部1は送信するパルス信号の生成及び増幅を行う。送波器2は送信処理部1で生成、増幅されたパルス信号を水中に送波する。受波器3は水中物体からの反射を含む音響信号を受波する。受信処理部4は受波した信号の増幅、帯域制限及び整相処理を行う。目標検出部5は雑音の中からエコーの検出及び切り出しを行う。検波処理部6は切り出されたエコーの検波及び積分処理を行う。
【0022】
レベル評価部7はエコーのピークレベルの検出を行う。また、現ステップのパルス幅のピークレベルと1ステップ前のパルス幅のピークレベルとの差を計算するとともに、2ステップ前からのピークレベル差の変化を計算し、ピークレベルの低下量が増加したか否かを判定する。
【0023】
演算処理部8は、レベル評価部7でピークレベルの低下量増加の判定がなされたとき、該判定された時に送出されたパルス幅より1ステップ前に送出されたパルス幅の値から水中物体の奥行きを計算し出力する。
【0024】
制御部9は、レベル評価部7でピークレベル判定の結果、低下量増加がみとめられなかった場合、次ステップのパルス幅の信号を設定し、送信処理部1に対して送信を指示する。
【0025】
本発明の実施の形態では、送信パルス幅を順次小さくしながら様々なパルス幅の音響信号を送出していく繰り返しステップの動作を有しており、これに応じた構成となっている。
【0026】
図2は、本発明の実施形態の動作と処理概念を示すフローチャートである。以下、本実施形態の動作について図1〜図4を参照して説明する。
【0027】
本発明は、図3に示すように、送信信号のパルス幅とターゲットストレングスTSの関係において、飽和パルス幅τsより大きいパルス幅の信号では一定のターゲットストレングス(飽和ターゲットストリングスTSs)となり、飽和パルス幅より小さいパルス幅の信号ではパルス幅の減少とともにターゲットストレングスも急激に低下する原理に着目し、送信パルス幅に対するターゲットストレングスの変化を監視することにより飽和パルス幅τsを検出するものである。
【0028】
図4に示すように、τ>2L/Cすなわちパルス幅が物体最前部からの反射波と物体最後部からの反射波の到達時間差より大きい場合、物体最前部から物体最後部までの各所で生じる反射波が重なり合い、一定のピークレベルを持つエコーが生じるが、τ<2L/Cすなわちパルス幅が物体最前部からの反射波と物体最後部からの反射波の到達時間差より小さい場合には、パルス幅に応じた奥行き方向の距離上からの反射波しか重なり合わず、パルス幅に応じてエコーのピークレベルも小さくなる。
【0029】
ここで、エコーレベルをEL、ターゲットストレングスをTS、送波レベルをSL、音波伝搬時のエネルギー損失をTLとすればEL=SL−2TL+TSが成り立ち、SLとTLが一定の場合にはELとTSが比例するため、前記原理のターゲットストレングスをエコーレベルと読み替えることができる。
【0030】
従って、送信パルス幅が飽和パルス幅より大きいと一定のエコーレベルとなり、飽和パルス幅より小さいとパルス幅の減少とともにエコーレベルも急激に低下するので、この原理にもとづき、様々なパルス幅の信号を送信しエコーのピークレベルが一定値から低下し始めるときの送信パルス幅を検出すれば、それが飽和パルス幅τsであり、このτsを用いて水中物体の奥行きLを、L=τs×C/2によって求めることができる。
【0031】
次に、図2のフローチャートを参照して、本実施形態の動作の詳細について説明する。
【0032】
本実施の形態においては、水中物体の奥行きが出力されるまで、パルス幅を少しずつ小さくしながらパルス幅の送信及びエコーの評価が繰り返される。繰り返しの各ステップでは、先ず、送信処理部1においてパルス信号が生成、増幅され、送波器2に出力される。
【0033】
この時、送信されるパルス信号は制御部9において設定されたパルス幅に応じた時間長で生成される(29)。パルス信号は送波器2から水中に送波され、計測対象となる水中物体で反射される。水中物体からの反射を含む音響信号が受波器3で受波される。
【0034】
受波された信号に対して、受信処理部4で増幅、帯域制限及び整相処理が行われる(21)。目標検出部5において雑音の中からエコーが検出され、時間軸上のエコー部分が切り出される(22)。
【0035】
切り出されたエコーは、検波処理部6で検波及び積分処理され、時間に対するレベル変化を表すデータとなる(23)。レベル評価部7では、エコーのピークレベルPmの読み取りが行われるとともに、1ステップ前のパルス幅で検出されたエコーのピークレベルPm−1との差ΔPmが計算される(24)。
【0036】
ΔPm=Pm−1−Pm
ここで、添字mはステップ番号をあらわす。さらに、レベル評価部7では、2ステップ前からのピークレベル差ΔPm−2、ΔPm−1、ΔPmが比較され、次の大小関係が満たされる場合、パルス幅変更の繰り返しステップを外れ、満たされない場合、次のパルス幅のステップに移行する(25、26)。
【0037】
ΔPm−2<ΔPm−1<ΔPm
ピークレベル差の比較の概念を図2の30に示す。τm−3とτm−2が2L/Cより大きいとすれば、
ΔPm−2=Pm−3−Pm−2≒0
となる。
【0038】
τm−1とτmが2L/Cより小さいとすれば、
ΔPm−1=Pm−2−Pm−1>ΔPm=Pm−1−Pm
となる。
【0039】
したがって、これら連続する3ステップ間のピークレベル低下量を比較することにより、ピークレベルが低下し始める最初のパルス幅τm−1を検出できるとともに、その低下がパルス幅とピークレベルとの関係に則った確実な低下であることを確認できる。
【0040】
なお、原理的には、ΔPm−2<ΔPm−1を満たした時点でピークレベル低下と判定し、飽和パルス幅τm−1を検出することも可能であるが、受信レベルは他の要因によっても変動する場合があるので、ピークレベル低下判定の精度を上げるために、本実施例では、ΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmを満たしたときに、その低下がパルス幅とピークレベルとの関係に則った低下であると判定している。
【0041】
こうして求められたτm−1の値は、ほぼ飽和パルス幅に近い値であり、これにより水中物体の奥行きが求められる。ΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmが満たされた場合、演算処理部8では、1ステップ前のパルス幅τm−1をもとに水中物体の奥行きLが次式で計算され、結果が表示部等に出力される(S27)。
【0042】
L=τm−1×C/2
一方、ΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmが満たされない場合、制御部9では、現ステップのパルス幅よりわずかに小さい次ステップのパルス幅が設定され、送信処理部1に対する送信指示が出される(S28)。
【0043】
こうして、ΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmが満たされるまで、送信パルス幅を順次変更して計測するステップが繰り返される。
【0044】
上記実施形態では、各送信パルス幅による計測ステップは1回ずつ行っているが、同じ送信パルス幅による計測ステップを複数回繰り返し、受信ピークレベルを例えば該複数回の計測による平均値により求めることも、本発明の実施形態として実現することができる。
【0045】
このような実施の形態とすれば、受信ピークレベルが雑音等の影響により変動するような状況でも、それを吸収することができるので計測精度を上げることが可能となる。
【0046】
【発明の効果】
本発明は、パルス幅の大きい送信パルスを用いることができ、エコーのピークレベルが低下を始めるパルス幅を検出することにより奥行きを求めているため、受信エコーレベルが大きな状態での計測を行えるので、エコーの検出が容易となり、寸法の小さな物体の奥行き計測にも容易に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態の動作と処理概念を示すフローチャートである。
【図3】本発明の原理を示す図である。
【図4】本発明の原理の詳細を示す図である。
【図5】従来の方法の構成を示すブロック図である。
【図6】従来の方法の原理を示す図である。
【符号の説明】
1 送信処理部
2 送波器
3 受波器
4 受信処理部
5 目標検出部
6 検波処理部
7 レベル評価部
8 演算処理部
9 制御部
21〜29 処理ブロック
30 ピークレベル変化検出の概念
51 送信処理部
52 送波器
53 受波器
54 受信処理部
55 目標検出部
56 検波処理部
57 エコー長検出部
58 演算処理部
Claims (6)
- 目標に向けて送波する一定振幅の送信パルスのパルス幅が順次小さくなるように設定して送信し、該設定された各送信パルスに対する目標からの反射波の受信ピークレベルが低下し始めた時点における前記送信パルス幅の値から前記目標の奥行きを求めることを特徴とする水中物体計測方法。
- 前記送信パルスとして、同一の送信パルス幅の送信パルスを複数回送信し、該複数回の送信パルスに対する各受信ピークレベルの平均値を前記反射波の受信ピークレベルとすることを特徴とする請求項1記載の水中物体計測方法。
- 目標に向けて送波する一定振幅の送信パルスのパルス幅がステップ毎に順次小さくなるように設定して送信し、各ステップにおける送信パルスに対する目標からのエコーのピークレベルを検出し、現ステップの送信パルス幅によるエコーのピークレベルと1ステップ前の送信パルス幅によるエコーのピークレベルのレベル差ΔPm(添字mは現ステップ番号)を計算するとともに、2ステップ前からのレベル差の変化を計算して、前記レベル差の変化がΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmを満たしたとき、前記1ステップ前の送信パルス幅の値から前記目標の奥行きを求めることを特徴とする水中物体計測方法。
- 目標に向けて送波する一定振幅の送信パルスのパルス幅が順次小さくなるように設定して送信する送信パルス送出手段と、前記設定された各送信パルスに対する目標からの反射波の受信ピークレベルを検出するピークレベル検出手段と、該検出した受信ピークレベルが低下し始めた時点における前記送信パルス幅を判定する送信パルス判定手段と、該判定した前記送信パルス幅の値から前記目標の奥行きを演算して出力する演算処理手段を備えていることを特徴とする水中物体計測装置。
- 前記送信パルス送出手段は、前記送信パルスとして、同一の送信パルス幅の送信パルスを複数回送信する機能を有し、前記ピークレベル検出手段は、前記複数回の送信パルスに対する各受信ピークレベルの平均値を前記反射波の受信ピークレベルとして出力する機能を有していることを特徴とする請求項4記載の水中物体計測装置。
- 送信ステップ毎に水中に送波する送信パルス信号のパルス幅を所定幅小さくするように制御する制御部と、該制御部により制御されたパルス幅の送信パルス信号の生成及び増幅を行う送信処理部と、該送信処理部で生成、増幅されたパルス信号を水中に送波する送波部と、水中物体からの反射を含む音響信号を受波する受波部と、受波した信号の増幅、帯域制限及び整相処理を行う受信処理部と、該受信処理部で処理された信号の中からエコーの検出及び切り出しを行う目標検出部と、切り出されたエコーの検波及び積分処理を行う検波処理部と、該検波処理部で処理されたエコーのピークレベルの検出およびレベル評価を行うレベル評価部と、該レベル評価部におけるレベル評価結果に基づいて水中物体の奥行きを計算し出力する演算処理部とを備え、
前記レベル評価部は、現ステップの送信パルス幅によるエコーのピークレベルと1ステップ前の送信パルス幅によるエコーのピークレベルのレベル差ΔPm(添字mは現ステップ番号)を計算する機能と、2ステップ前からのレベル差の変化を計算して、前記レベル差の変化がΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmを満たしたとき、前記1ステップ前の送信パルス幅の値を前記演算出力部へ送出する機能と、前記レベル差の変化がΔPm−2<ΔPm−1<ΔPmを満たさないとき、前記制御部に対して次ステップのパルス幅による送信を指示する機能を有していることを特徴とする水中物体の奥行き計測装置。
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