JP3596844B2 - 電子放出素子およびその製造方法、並びに電子源および画像形成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面伝導型電子放出素子、該電子放出素子を用いた電子源、該電子源を用いた画像形成装置および該電子放出素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、電子放出素子としては大別して熱電子放出素子と冷陰極電子放出素の2種類が知られている。冷陰極電子放出素子には電界放出型(以下、「FE型」という。)、金属/絶縁層/金属型(以下、「MIM型」という。)や、表面伝導型電子放出素子等がある。
【0003】
FE型の例としてはW.P.Dyke&W.W.Dolan、“Fieldemission”、Advance in Electron Physics、8、89(1956)あるいはC.A.Spindt、“PHYSICALProperties of thin−film field emission cathodes with molybdenium cones”、J.Appl.Phys.,47,5248(1976)等に開示されたものが知られている。
【0004】
MIM型の例としてはC.A.Mead、”Operation of Tunnel−Emission Devices”、J.Apply.Phys.、32、646(1961)等に開示されたものが知られている。
【0005】
表面伝導型電子放出素子の例としては、M.I.Elinson、RadioEng.Electron Phys.、10、1290(1965)等に開示されたものがある。
【0006】
表面伝導型電子放出素子は、基体上に形成された小面積の薄膜に、膜面に平行に電流を流すことにより、電子放出が生ずる現象を利用するものである。この表面伝導型電子放出素子としては、前記Elinson等によるSnO2 薄膜を用いたもの、Au薄膜によるもの[G.Dittmer:“Thin SolidFilms”、9、317(1972)]、In2 O3 /SnO2 薄膜によるもの[M.Hartwell and C.G.Fonstad:”IEEE
Trans.ED Conf.”、519(1975)]、カーボン薄膜によるもの[荒木久 他:真空、第26巻、第1号、22頁(1983)]等が報告されている。
【0007】
これらの表面伝導型電子放出素子の典型的な例として前述のM.Hartwellの素子構成を図16に模式的に示す。同図において1は基体である。4は導電性薄膜で、H型形状のパターンに、スパッタで形成された金属酸化物薄膜等からなり、後述の通電フォーミングと呼ばれる通電処理により電子放出部5が形成される。尚、図中の素子電極間隔Lは0.5〜1mm、Wは0.1mmで設定されている。
【0008】
従来、これらの表面伝導型電子放出素子においては、電子放出を行う前に導電性薄膜4を予め通電フォーミングと呼ばれる通電処理によって電子放出部5を形成するのが一般的である。即ち、通電フォーミングとは前記導電性薄膜4両端に直流電圧あるいは非常にゆっくりとした昇電圧例えば1V/分程度を印加通電し、導電性薄膜を局所的に破壊、変形もしくは変質せしめ、電気的に高抵抗な状態にした電子放出部5を形成することである。尚、電子放出部5は導電性薄膜4の一部に亀裂が発生しその亀裂付近から電子放出が行われる。前記通電フォーミング処理をした表面伝導型電子放出素子は、上述導電性薄膜4に電圧を印加し、素子に電流を流すことにより、上述の電子放出部5より電子を放出せしめるものである。
【0009】
本出願人は、例えば特開平7−235255号に開示されているように、電子放出部を含む導電性薄膜を、素子電極とは別の適当な材質により形成するのが好ましいことを報告している。この導電性薄膜の材料としては、Pd等の白金族の金属またはその酸化物が好ましく用いられる。しかしながら水素ガスなど、該導電性薄膜の凝集を促進するガスを含む特定の雰囲気の下では、電気的な耐熱温度が400℃以下になってしまい、製造工程上の制約となる場合があった。なお本明細書において、「電気的な耐熱温度」とは、導電性薄膜の凝集が進行し、導通がとれなくなる温度のことを指す。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、電子放出素子の電気的な耐熱温度および機械的な強度を高めることにより、製造工程上の制限を緩和することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、メッキ技術におけるZn置換およびZn合金置換のようなメッキ被覆の均一性向上の効果を電子放出素子の電子放出部が形成される導電性薄膜(「導電性無機微粒子膜」あるいは「導電性微粒子膜」とも称する)に応用できないか検討した結果、従来のPd,Pt,Ruなどの白金族元素を主成分とした導電性微粒子膜にBiを添加することによって、導電性微粒子膜の電気的な耐熱温度および機械的な強度が高くなることを見出した。
【0012】
すなわち本発明の電子放出素子は、基体上に対向する一対の素子電極と、該一対の素子電極に電気的に接続された導電性薄膜と、該導電性薄膜の一部に形成された電子放出部を有する電子放出素子において、該導電性薄膜は、白金族元素化合物とBi化合物とを含有する溶液を、基体上に付与し、焼成して形成された、白金族元素とBiとを含有する導電性薄膜であることを特徴とする。
【0013】
導電性薄膜の主成分である白金族元素としては、Pd,Pt,Ruが好ましく、Pdが特に好ましい。またBi含有量は、導電性薄膜に含まれる全金属量を100mol%とした場合、1〜25mol%の範囲が適当であり、好ましくは5〜25、より好ましくは5〜15、更に好ましくは10mol%である。1mol%未満では実験結果より添加効果は殆ど見られないことが確認されている。
【0014】
本発明の電子放出素子の製造方法は、基体上に設けた対向する素子電極間に、白金族元素化合物およびBi化合物を含有する水溶液(以下、場合により「金属化合物溶液」と称する)の液滴を付与する工程と、これを焼成して前記液滴が付与された位置に導電性薄膜を形成する工程と、フォーミング処理して前記導電性薄膜の一部に電子放出部を形成する工程とを具備することを特徴とする。
【0015】
上記白金族元素化合物としては、焼成可能な錯体または塩であれば特に制約されないが、水溶液中で安定なアミン錯体などが好ましい。白金族元素としてはPd,Pt,Ruが好ましく、Pdが特に好ましい。また、Bi化合物としては、白金族化合物と同様に特に制約はないが、水溶液中で白金族と共に安定に存在できるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)錯体が好ましい。
【0016】
前記水溶液の金属濃度は、用いる金属元素の種類や金属塩の種類によって最適な範囲が多少異なるが、一般には重量で0.01〜5%の範囲が適当である。金属濃度が低すぎる場合、基体に所望の量の金属を付与するために多量の前記水溶液の液滴の付与が必要になり、その結果液滴付与に要する時間が長くなるのみならず、基体上に無用に大きな液溜りを生じてしまい所望の位置のみに金属を付与するという目的が達成できなくなる。逆に前記水溶液の金属濃度が高すぎると、基体に付与された液滴が後の工程で乾燥あるいは焼成される際に著しく不均一化し、その結果として電子放出部を形成する導電性薄膜が不均一になり電子放出素子の特性を悪化させる。
【0017】
前記水溶液には水溶性ポリマーを添加することによって、基体に付与された液滴の凝集を防ぐことができる。その水溶性ポリマーとして、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどが用いられる。その水溶性ポリマーの添加量は、0.01〜0.5重量%が好ましく、0.01重量%未満では基体に付与された液滴の凝集を防ぐことはできない。また、0.5重量%超では水溶液粘度が高くなり取扱いが困難になる。
【0018】
さらに、この水溶性ポリマーを含有する水溶液に1価の低級アルコールを添加することによって、水溶性ポリマーの添加によって高くなった水溶液粘度を低下させることができ、取扱いが容易になる。1価の低級アルコールとしては炭素数が1〜4のものが好ましく、具体的には例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノールなどが用いられる。その低級アルコールの添加量は、5〜35重量%であり、35重量%超では基体に付与された液滴が後の工程で乾燥あるいは焼成される際に著しく不均一化し、その結果として電子放出部を形成する導電性薄膜が不均一になり電子放出素子の特性を悪化させる。また、5重量%未満では低級アルコール添加の効果は見られない。
【0019】
上記の金属化合物溶液を基体に付与する手段は、液滴を形成し付与することが可能ならば任意の方法でよいが、特に微小な液滴を効率良く適度な精度で発生付与でき制御性も良好なインクジェット方式が便利である。インクジェット方式にはピエゾ素子等のメカニカルな衝撃により液滴を発生付与するものや、微小ヒータ等で液を加熱し突沸により液滴を発生付与するバブルジェット方式があるが、いずれの方式でも十ng程度から数十μg程度までの微小液滴を再現性良く発生し基体に付与することができる。
また本発明は、上記本発明の製造方法に従い製造された電子放出素子、上記本発明の電子放出素子を具備する電子源および画像形成装置にも関する。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明を適用し得る電子放出素子の好ましい形態、即ち表面伝導型電子放出素子の基本的構成を、図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式図であり、同図中(a)は平面図、(b)は断面図である。また1は基体、2と3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部である。
【0021】
基体1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少したガラス、青板ガラス、青板ガラスにスパッタ法等により形成したSiO2 を積層したガラス基体等及びアルミナ等のセラミックス及びSi基体等を用いることができる。
【0022】
対向する素子電極2、3の材料としては、一般的な導体材料を用いることができる。これは例えばNi,Cr,Au,Mo,W,Pt,Ti,Al,Cu,Pd等の金属或は合金およびPd,Ag,Au,RuO2 ,Pd−Ag等の金属或は金属酸化物とガラス等から構成される印刷導体、In2 O3 −SnO2 等の透明導電体およびポリシリコン等の半導体材料等より適宜選択することができる。素子電極間隔L、素子電極長さW、導電性薄膜4の形状等は、応用される形態等を考慮して設計される。素子電極間隔Lは、数千Åから数百μmの範囲とすることができ、素子電極間に印加する電圧等を考慮して好ましくは数μmから数十μmの範囲とすることができる。素子電極長さWは、電極の抵抗値、電子放出特性を考慮して、数μmから数百μmの範囲とすることができる。素子電極2、3の膜厚dは、数百Åから数μmの範囲とすることができる。
尚、図1に示した構成だけでなく、基体1上に、導電性薄膜4、対向する素子電極2、3の順に積層した構成とすることもできる。
【0023】
導電性薄膜4には、良好な電子放出特性を得るために、微粒子で構成された微粒子膜を用いるのが好ましい。また該薄膜を構成する材料は前述の通りである。その膜厚は、素子電極2、3へのステップカバレージ、素子電極2、3間の抵抗値及び後述するフォーミング条件等を考慮して適宜設定されるが、通常は数Åから数千Åの範囲とすることが好ましく、より好ましくは10Åから500Åの範囲とするのが良い。その抵抗値は、RS が102 から107 Ω/□の値である。なおRS は、厚さがt、幅がwで長さがlの薄膜の長さ方向に測定した抵抗Rを、R=RS (l/w)とおいたときに現れる値である。本明細書において、フォーミング処理については、通電処理を例に挙げて説明するが、フォーミング処理はこれに限られるものではなく、膜に亀裂を生じさせて高抵抗状態を形成する処理を包含するものである。
【0024】
ここで述べる微粒子膜とは、複数の微粒子が集合した膜であり、微視的に微粒子が個々に分散配置した状態のみならず、微粒子が互いに隣接あるいは重なり合った状態(いくつかの微粒子が集合し、全体として島状構造を形成している場合も含む)の膜をも指す。また微粒子膜の粒径とは、前記状態で粒子形状が認識可能な微粒子についての径を意味し、数Åから数千Åの範囲、好ましくは10Åから200Åの範囲である。
なお、本明細書では頻繁に「微粒子」という言葉を用いるので、その意味について説明する。
【0025】
小さな粒子を「微粒子」と呼び、これよりも小さなものを「超微粒子」と呼ぶ。「超微粒子」よりもさらに小さく原子の数が数百個程度以下のものを「クラスター」と呼ぶことは広く行われている。
【0026】
しかしながら、それぞれの境は厳密なものではなく、どの様な性質に注目して分類するかにより変化する。また「微粒子」と「超微粒子」を一括して「微粒子」と呼ぶ場合もあり、本明細書中での記述はこれに沿ったものである。
【0027】
「実験物理学講座14 表面・微粒子」(木下是雄 編、共立出版 1986年9月1日発行)では次のように記述されている。「本稿で微粒子と言うときにはその直径がだいたい2〜3μm程度から10nm程度までとし、特に超微粒子と言うときは粒径が10nm程度から2〜3nm程度までを意味することにする。両者を一括して単に微粒子と書くこともあってけっして厳密なものではなく、だいたいの目安である。粒子を構成する原子の数が2個から数十〜数百個程度の場合はクラスターと呼ぶ」(195ページ 22〜26行目)。
【0028】
付言すると、新技術開発事業団の“林・超微粒子プロジェクト”での「超微粒子」の定義は、粒径の下限はさらに小さく、次のようなものであった。「創造科学技術推進制度の“超微粒子プロジェクト”(1981〜1986)では、粒子の大きさ(径)がおよそ1〜100nmの範囲のものを“超微粒子”(ultra fine particle )と呼ぶことにした。すると1個の超微粒子はおよそ100〜108 個くらいの原子の集合体という事になる。原子の尺度でみれば超微粒子は大〜巨大粒子である。」(「超微粒子−創造科学技術−」林主税、上田良二、田崎明編;三田出版 1988年 2ページ1〜4行目)。「超微粒子よりさらに小さいもの、すなわち原子が数個〜数百個で構成される1個の粒子は、ふつうクラスターと呼ばれる」(同書2ページ12〜13行目)。
【0029】
上記のような一般的な呼び方をふまえて、本明細書において「微粒子」とは多数の原子・分子の集合体で、粒径の下限は数Å〜10Å程度、上限は数μm程度のものを指すこととする。
【0030】
電子放出部5は、導電性薄膜4の一部に形成された高抵抗の亀裂により構成され、導電性薄膜4の膜厚、膜質、材料及び後述する通電フォーミング等の手法等に依存したものとなる。電子放出部5の内部には、数Åから数百Åの範囲の粒径の導電性微粒子が存在する場合もある。この導電性微粒子は、導電性薄膜4を構成する材料の元素の一部、あるいは全ての元素を含有するものとなる。電子放出部5及びその近傍の導電性薄膜4には、炭素及び炭素化合物を有することもできる。
【0031】
上述の表面伝導型電子放出素子の製造方法としては様々な方法があるが、その一例を図3に模式的に示す。以下、図1及び図3を参照しながら製造方法の一例について説明する。図3においても、図1に示した部位と同じ部位には図1に付した符号と同一の符号を付している。
【0032】
1)基体1を洗剤、純水および有機溶剤等を用いて十分に洗浄し、真空蒸着法、スパッタ法等により素子電極材料を堆積後、例えばフォトリソグラフィー技術を用いて基体1上に素子電極2、3を形成する(図3(a))。
【0033】
2)素子電極2、3を設けた基体1に、インクジェット方式により金属化合物溶液を塗布(液滴付与)して(図3(b))、金属化合物薄膜を形成する(図3(c))。
【0034】
インクジェット方式としてはバブルジェット(BJ)またはピエゾジェット等により液滴を吐出し、基体上の導電性薄膜が形成されるべき位置に付着させる方法が好ましい。この方法で使用されるインクジェットのヘッドの例を図2に示す。図2(a)は単発ヘッド、図2(b)は単発ヘッドを並列に配置し、液滴の吐出及び基体への付着に要する時間を短縮しようとするものであり、ノズル数は特に限定されない。
【0035】
金属化合物溶液には、前述の導電性薄膜4の材料と同様な組成の金属化合物の溶液を用いることができる。特にそれらの水溶液を主体とする溶液が望ましい。この金属化合物薄膜を乾燥、焼成して導電性無機微粒子膜とすることにより、基体上に電子放出のための導電性薄膜4(無機微粒子膜)を形成する。乾燥工程は通常用いられる自然乾燥、送風乾燥、熱乾燥等を用いればよい。焼成工程は通常用いられる加熱手段を用いれば良い。乾燥工程と焼成工程とは必ずしも区別された別工程として行う必要はなく、連続して同時に行ってもかまわない。
ここでは、金属化合物溶液の塗布(液滴付与)法を挙げて説明したが、導電性薄膜4の形成法はこれに限られるものではなく、真空蒸着法、スパッタ法、化学的気相堆積法、ディッピング法、スピンナー法等を用いることもできる。
【0036】
3)つづいて、フォーミング工程を施す。このフォーミング工程の方法の一例として通電処理による方法を説明する。素子電極2、3間に不図示の電源を用いて通電を行うと、導電性薄膜4の部位に、構造の変化した電子放出部5が形成される(図3(d))。通電フォーミングによれば導電性薄膜4を局所的に破壊、変形もしくは変質等の構造の変化した部位が形成される。該部位が電子放出部5を構成する。通電フォーミングの電圧波形の例を図4に示す。
電圧波形は、パルス波形が好ましい。これにはパルス波高値を定電圧としたパルスを連続的に印加する図4(a)に示した手法と、パルス波高値を増加させながら電圧パルスを印加する図4(b)に示した手法がある。
【0037】
図4(a)におけるT1及びT2は電圧波形のパルス幅とパルス間隔である。通常T1は1μ秒〜10m秒、T2は10μ秒〜100m秒の範囲で設定される。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、表面伝導型電子放出素子の形態に応じて適宜選択される。このような条件の下、例えば、数秒から数十分間電圧を印加する。パルス波形は三角波に限定されるものではなく、矩形波など所望の波形を採用することができる。
【0038】
図4(b)におけるT1及びT2は、図4(a)に示したのと同様とすることができる。三角波の波高値(通電フォーミング時のピーク電圧)は、例えば0.1Vステップ程度ずつ、増加させることができる。
【0039】
通電フォーミング処理の終了は、パルス間隔T2中に、導電性薄膜4を局所的に破壊、変形しない程度の電圧を印加し、電流を測定して検知することができる。例えば0.1V程度の電圧印加により流れる素子電流を測定し、抵抗値を求めて、1MΩ以上の抵抗を示した時、通電フォーミングを終了させる。
【0040】
4)フォーミングを終えた素子には活性化工程と呼ばれる処理を施すのが好ましい。活性化工程とは、この工程により、素子電流If、放出電流Ieが、著しく変化する工程である。
【0041】
活性化工程は、例えば、有機物質のガスを含有する雰囲気下で、通電フォーミングと同様に、パルスの印加を繰り返すことで行うことができる。この雰囲気は例えば油拡散ポンプやロータリーポンプなどを用いて真空容器内を排気した場合に雰囲気内に残留する有機ガスを利用して形成することができる他、イオンポンプなどにより一旦十分に排気した真空中に適当な有機物質のガスを導入することによっても得られる。このときの好ましい有機物質のガス圧は、前述の応用の形態、真空容器の形状や、有機物質の種類などにより異なるため場合に応じ適宜設定される。適当な有機物質としては、アルカン、アルケン、アルキンの脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類、フェノール、カルボン、スルホン酸等の有機酸類等を挙げることができ、具体的には、メタン、エタン、プロパンなどCn H2n+2で表される飽和炭化水素、エチレン、プロピレンなどCn H2n等の組成式で表される不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミン、エチルアミン、フェノール、蟻酸、酢酸、プロピオン酸等が使用できる。この処理により、雰囲気中に存在する有機物質から、炭素あるいは炭素化合物が素子上に堆積し、素子電流If、放出電流Ieが、著しく変化するようになる。
活性化工程の終了判定は、素子電流Ifと放出電流Ieを測定しながら、適宜行う。なお、パルス幅、パルス間隔、パルス波高値などは適宜設定される。
【0042】
炭素及び炭素化合物とは、グラファイト(いわゆるHOPG,PG,GC)を包含する、HOPGはほぼ完全なグラファイトの結晶構造、PGは結晶粒が200Å程度で結晶構造がやや乱れたもの、GCは結晶粒が20Å程度になり結晶構造の乱れがさらに大きくなったものを指す。)、非晶質カーボン(アモルファスカーボン及び、アモルファスカーボンと前記グラファイトの微結晶の混合物を指す。)であり、その膜厚は、500Å以下の範囲とするのが好ましく、300Å以下の範囲とするのがより好ましい。
【0043】
5)このような工程を経て得られた電子放出素子は、安定化工程を行うことが好ましい。この工程は、真空容器内の有機物質を排気する工程である。真空容器を排気する真空排気装置は、装置から発生するオイルが素子の特性に影響を与えないように、オイルを使用しないものを用いるのが好ましい。具体的には、ソープションポンプ、イオンポンプ等の真空排気装置を挙げることが出来る。
【0044】
前記活性化の工程で、排気装置として油拡散ポンプやロータリーポンプを用い、これから発生するオイル成分に由来する有機ガスを用いた場合は、この成分の分圧を極力低く抑える必要がある。真空容器内の有機成分の分圧は、上記の炭素及び炭素化合物がほぼ新たに堆積しない分圧で1×10−8Torr以下が好ましく、さらには1×10−10 Torr以下が特に好ましい。さらに真空容器内を排気するときには、真空容器全体を加熱して、真空容器内壁や、電子放出素子に吸着した有機物質分子を排気しやすくするのが好ましい。このとき出来るだけ高温で、長時間処理するのが望ましいが、真空容器の大きさや形状、電子放出素子の構成などの諸条件により適宜選ばれる条件により行う。真空容器内の圧力は極力低くすることが必要で、1〜3×10−7Torr以下が好ましく、さらに1×10−8Torr以下が特に好ましい。
【0045】
安定化工程を行った後の、駆動時の雰囲気は、上記安定化処理終了時の雰囲気を維持するのが好ましいが、これに限るものではなく、有機物質が十分除去されていれば、真空度自体は多少低下しても十分安定な特性を維持することが出来る。
このような真空雰囲気を採用することにより、新たな炭素あるいは炭素化合物の堆積を抑制でき、結果として素子電流If、放出電流Ieが、安定する。
【0046】
上述した工程を経て得られた本発明を適用可能な電子放出素子の基本特性について図5、図6を参照しながら説明する。
図5は、真空処理装置の一例を示す模式図であり、この真空処理装置は測定評価装置としての機能をも兼ね備えている。図5においても、図1に示した部位と同じ部位には図1に付した符号と同一の符号を付している。図5において、55は真空容器であり、56は排気ポンプである。真空容器55内には電子放出素子が配されている。即ち、1は電子放出素子を構成する基体であり、2及び3は素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部である。51は電子放出素子に素子電圧Vfを印加するための電源、50は素子電極2・3間の導電性薄膜4を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、54は素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極である。53はアノード電極54に電圧を印加するための高圧電源、52は素子の電子放出部5より放出される放出電流Ieを測定するための電流計である。一例として、アノード電極の電圧を1kV〜10kVの範囲とし、アノード電極と電子放出素子との距離Hを2mm〜8mmの範囲として測定を行うことができる。
【0047】
真空容器55内には、不図示の真空計等の真空雰囲気下での測定に必要な機器が設けられていて、所望の真空雰囲気中での測定評価を行えるようになっている。排気ポンプ56は、ターボポンプ、ロータリーポンプからなる通常の高真空装置系と更に、イオンポンプ等からなる超高真空装置系とにより構成されている。ここに示した電子源基体を配した真空処理装置の全体は、不図示のヒーターにより加熱できる。従って、この真空処理装置を用いると、前述の通電フォーミング以降の工程も行うことができる。
【0048】
図6は、図5に示した真空処理装置を用いて測定された放出電流Ie、素子電流Ifと素子電圧Vfの関係を模式的に示した図である。図6においては、放出電流Ieが素子電流Ifに比べて著しく小さいので、任意単位で示している。尚、縦、横軸ともリニアスケールである。
図6からも明らかなように、本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子は、放出電流Ieに関して三つの特徴的性質を有する。
【0049】
即ち、(i)本素子はある電圧(しきい値電圧と呼ぶ、図6中のVth)以上の素子電圧を印加すると急激に放出電流Ieが増加し、一方しきい値電圧Vth以下では放出電流Ieがほとんど検出されない。つまり、放出電流Ieに対する明確なしきい値電圧Vthを持った非線形素子である。
(ii)放出電流Ieが素子電圧Vfに単調増加依存するため、放出電流Ieは素子電圧Vfで制御できる。
(iii )アノード電極54に捕捉される放出電荷は、素子電圧Vfを印加する時間に依存する。すなわち、アノード電極54に捕捉される電荷量は、素子電圧Vfを印加する時間により制御できる。
【0050】
以上の説明により理解されるように、本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子は、入力信号に応じて、電子放出特性を容易に制御できることになる。この性質を利用すると複数の電子放出素子を配して構成した電子源、画像形成装置等、多方面への応用が可能となる。
【0051】
図6においては、素子電流Ifが素子電圧Vfに対して単調増加する(以下、「MI特性」という。)例を実線に示した。素子電流Ifが素子電圧Vfに対して電圧制御型負性抵抗特性(以下、「VCNR特性」という。)を示す場合もある(不図示)。これら特性は、前述の工程を制御することで制御できる。
【0052】
本発明を適用可能な電子放出素子の応用例について以下に述べる。本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子の複数個を基体上に配列すると、例えば電子源あるいは画像形成装置が構成できる。
【0053】
電子放出素子の配列については、種々のものが採用できる。
一例として、並列に配置した多数の電子放出素子の個々を両端で接続し、電子放出素子の行を多数個配し(行方向と呼ぶ)、この配線と直行する方向(列方向と呼ぶ)で、該電子放出素子の上方に配した制御電極(グリッド電極とも呼ぶ)により、電子放出素子からの電子を制御駆動するはしご状配置のものがある。これとは別に、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数配し、同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続するものが挙げられる。このようなものはいわゆる単純マトリクス配置である。まず単純マトリクス配置について以下に詳述する。
【0054】
本発明を適用可能な表面伝導型電子放出素子については、前述したとおり(i)〜(iii )の特性がある。即ち、表面伝導型電子放出素子からの放出電子は、しきい値電圧以上では、対向する素子電極間に印加するパルス状電圧の波高値と巾で制御できる。一方、しきい値電圧以下では、殆ど放出されない。この特性によれば、多数の電子放出素子を配置した場合においても、個々の素子に、パルス状電圧を適宜印加すれば、入力信号に応じて、表面伝導型電子放出素子を選択して電子放出量を制御できる。
【0055】
以下この原理に基づき、本発明を適用可能な電子放出素子を複数配して得られる電子源について、図7を用いて説明する。図7において、71は電子源基体、72はX方向配線、73はY方向配線である。74は表面伝導型電子放出素子、75は結線である。尚、表面伝導型電子放出素子74は、平面型あるいは垂直型のどちらであってもよい。
【0056】
m本のX方向配線72はDx1,Dx2,・・・Dxmからなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、巾は、適宜設定される。Y方向配線73はDy1,Dy2,・・・Dynのn本の配線よりなり、X方向配線72と同様に形成される。これらm本のX方向配線72とn本のY方向配線73との間には、不図示の層間絶縁層が設けられており、両者を電気的に分離している(m,nは、共に正の整数)。
【0057】
不図示の層間絶縁層は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO2 等で構成される。例えば、X方向配線72を形成した基体71の全面或は一部に所望の形状で形成され、特に、X方向配線72とY方向配線73の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が適宜設定される。X方向配線72とY方向配線73は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0058】
表面伝導型放出素子74を構成する一対の素子電極(不図示)は、m本のX方向配線72とn本のY方向配線73と、導電性金属等からなる結線75によって電気的に接続されている。
【0059】
配線72と配線73を構成する材料、結線75を構成する材料、結線75を構成する材料、及び一対の素子電極を構成する材料はその構成元素の一部あるいは全部が同一であっても、またそれぞれ異なってもよい。これら材料は、例えば前述の素子電極の材料より適宜選択される。素子電極を構成する材料と配線材料が同一である場合には、素子電極に接続した配線は素子電極ということもできる。X方向配線72には、X方向に配列した表面伝導型放出素子74の行を選択するための走査信号を印加する不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線73には、Y方向に配列した表面伝導型放出素子74の各列を入力信号に応じて変調するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0060】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択し、独立に駆動可能とすることができる。
【0061】
このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した画像形成装置について、図8〜10を用いて説明する。図8は、画像形成装置の表示パネルの一例を示す模式図であり、図9は、図8の画像形成装置に使用される蛍光膜の模式図である。図10はNTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行うための駆動回路の一例を示すブロック図である。
【0062】
図8において、71は電子放出素子を複数配した電子源基体、81は電子源基体71を固定したリアプレート、86はガラス基体83の内面に蛍光膜84とメタルバック85等が形成されたフェースプレートである。82は支持枠であり、該支持枠82には、リアプレート81、フェースプレート86がフリットガラス等を用いて接続されている。88は外囲器であり、例えば大気中あるいは、窒素中で、400〜500度の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。
【0063】
74は電子放出素子に相当する。72、73は、表面伝導型電子放出素子の一対の素子電極と接続されたX方向配線及びY方向配線である。
【0064】
外囲器88は上述の如く、フェースプレート86、支持枠82、リアプレート81で構成される。リアプレート81は主に基体71の強度を補強する目的で設けられるため、基体71自体で十分な強度を持つ場合は別体のリアプレート81は不要とすることができる。即ち、基体71に直接支持枠82を封着し、フェースプレート86、支持枠82及び基体71で外囲器88を構成しても良い。一方、フェースプレート86、リアプレート81間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器88を構成することもできる。
【0065】
図9は、蛍光膜を示す模式図である。蛍光膜84は、モノクロームの場合は蛍光体のみから構成することができる。カラーの蛍光膜の場合は、蛍光体の配列によりブラックストライプあるいはブラックマトリクスなどと呼ばれる黒色導電材91と蛍光体92とから構成することができる。ブラックストライプ、ブラックマトリクスを設ける目的は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体92間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることと、蛍光膜84における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。ブラックストライプの材料としては、通常用いられている黒鉛を主成分とする材料の他、導電性があり、光の透過及び反射が少ない材料を用いることができる。
【0066】
ガラス基体83に蛍光体を塗布する方法はモノクローム、カラーによらず、沈殿法、印刷法等が採用できる。蛍光膜84の内面側には通常メタルバック85が設けられる。メタルバックを設ける目的は、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート86側へ鏡面反射することにより輝度を向上させること、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光体を保護すること等である。メタルバックは、蛍光膜作製後、蛍光膜の内面側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる)を行い、その後A1を真空蒸着等で堆積することで作製できる。またフェースプレート86には、更に蛍光膜84の導電性を高めるため、蛍光膜84の外面側に透明電極(不図示)を設けてもよい。
前述の封着を行う際には、カラーの場合は各色蛍光体と電子放出素子とを対応させる必要があり、十分な位置合わせが不可欠となる。
【0067】
図8に示した画像形成装置は、例えば以下のようにして製造される。
外囲器88は、前述の安定化工程と同様に、適宜加熱しながら、イオンポンプ、ソープションポンプなどのオイルを使用しない排気装置により不図示の排気管を通じて排気し、10−7Torr程度の真空度の有機物質の十分少ない雰囲気にした後、封止が成される。外囲器88の封止後の真空度を維持するために、ゲッター処理を行うこともできる。これは、外囲器88の封止を行う直前あるいは封止後に、抵抗加熱あるいは高周波加熱等を用いた加熱により、外囲器88内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、たとえば1×10 −5 ないしは1×10−7Torrの真空度を維持するものである。ここで、表面伝導型電子放出素子のフォーミング処理以降の工程は、適宜設定できる。
【0068】
次に、単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した表示パネルに、NTSC方式のテレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行う為の駆動回路の構成例について、図10を用いて説明する。図10において、101は画像表示パネル、102は走査回路、103は制御回路、104はシフトレジスタである。105はラインメモリ、106は同期信号分離回路、107は変調信号発生器、VxおよびVaは直流電圧源である。
【0069】
表示パネル101は、端子Dox1〜Doxm、端子Doy1〜Doyn、及び高圧端子Hvを介して外部の電気回路と接続している。端子Dox1〜Doxmには、表示パネル内に設けられている電子源、即ち、M行N列の行列状にマトリクス配線された表面伝導型電子放出素子群を一行(N素子)ずつ順次駆動する為の走査信号が印加される。
【0070】
端子Dy1〜Dynには、前記走査信号により選択された一行の表面伝導型電子放出素子の各素子の出力電子ビームを制御する為の変調信号が印加される。高圧端子Hvには、直流電圧源Vaより、例えば10k[V]の直流電圧が供給されるが、これは表面伝導型電子放出素子から放出される電子ビームに蛍光体を励起するのに十分なエネルギーを付与する為に加速電圧である。
【0071】
走査回路102について説明する。同回路は、内部にM個のスイッチング素子を備えたもので(図中、S1〜Smで模式的に示している)ある。各スイッチング素子は、直流電圧源Vxの出力電圧もしくは0[V](グランドレベル)のいずれか一方を選択し、表示パネル101の端子Dx1〜Dxmと電気的に接続される。S1〜Smの各スイッチング素子は、制御回路103が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものであり、例えばFETのようなスイッチング素子を組み合わせるごとにより構成することができる。
【0072】
直流電圧源Vxは、本例の場合には表面伝導型電子放出素子の特性(電子放出しきい値電圧)に基づき、走査されていない素子に印加される駆動電圧が電子放出しきい値電圧以下となるような一定電圧を出力するよう設定されている。
【0073】
制御回路103は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行われるように各部の動作を整合させる機能を有する。制御回路103は、同期信号分離回路106より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscanおよびTsftおよびTmryの各制御信号を発生する。
【0074】
同期信号分離回路106は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号から、同期信号成分と輝度信号成分とを分離する為の回路で、一般的な周波数分離(フィルター)回路等を用いて構成できる。同期信号分離回路106により分離された同期信号は、垂直同期信号と水平同期信号より成るが、ここでは説明の便宜上、Tsync信号として図示した。前記テレビ信号から分離された画像の輝度信号成分を便宜上DATA信号と表した。該DATA信号はシフトレジスタ104に入力される。
【0075】
シフトレジスタ104は、時系列的にシリアルに入力される前記DATA信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのもので、前記制御回路103より送られる制御信号Tsftに基づいて動作する(すなわち、制御信号Tsftは、シフトレジスタ104のシフトクロックであると言うこともできる)。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子N素子分の駆動データに相当)のデータは、Id1〜IdnのN個の並列信号として前記シフトレジスタ104より出力される。
【0076】
ラインメモリ105は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、制御回路103より送られる制御信号Tmryに従って適宜Id1〜Idnの内容を記憶する。記憶された内容は、Id’1〜Id’nとして出力され、変調信号発生器107に入力される。
【0077】
変調信号発生器107は、前記画像データId’1〜Id’nの各々に応じて、表面伝導型電子放出素子の各々を適切に駆動変調する為の信号源であり、その出力信号は、端子Doy1〜Doynを通じて表示パネル101内の表面伝導型電子放出素子に印加される。
【0078】
前述したように、本発明を適用可能な電子放出素子は放出電流Ieに対して以下の基本特性を有している。即ち、電子放出には明確なしきい値電圧Vthがあり、Vth以上の電圧を印加された時のみ電子放出が生じる。電子放出しきい値以上の電圧に対しては、素子への印加電圧の変化に応じて放出電流も変化する。このことから、本素子にパルス状の電圧を印加する場合、例えば電子放出しきい値以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出しきい値の電圧を印加する場合には電子ビームが出力される。その際、パルスの波高値Vmを変化させることにより出力電子ビームの強度を制御する事が可能である。また、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御する事が可能である。
【0079】
従って、入力信号に応じて、電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等が採用できる。電圧変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器107として、一定長さの電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いることができる。
【0080】
パルス幅変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器107として、一定の波高値の電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いることができる。
【0081】
シフトレジスタ104やラインメモリ105は、デジタル信号式のものでもアナログ信号式のものでも採用できる。画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行われれば良いからである。
【0082】
デジタル信号式を用いる場合には、同期信号分離回路106の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があるが、これは106の出力部にA/D変換器を設ければ良い。これに関連してラインメモリ105の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器107に用いられる回路が若干異なったものとなる。即ち、デジタル信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器107には、例えばD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付加する。パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器107には、例えば、高速の発振器および発振器の出力する波数を計数する計数器(カウンタ)及び計数器の出力値と前記メモリの出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合せた回路を用いる。必要に応じて、比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を表面伝導型電子放出素子の駆動電圧にまで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0083】
アナログ信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器107には、例えばオペアンプなどを用いた増幅回路を採用でき、必要に応じてレベルシフト回路などを付加することもできる。パルス幅変調方式の場合には、例えば、電圧制御型発振回路(VCO)を採用でき、必要に応じて表面伝導型電子放出素子の駆動電圧まで電圧増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0084】
このような構成をとり得る本発明を適用可能な画像表示装置においては、各電子放出素子に、容器外端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを介して電圧を印加することにより、電子放出が生ずる。高圧端子Hvを介して、メタルバック85、あるいは透明電極(不図示)に高圧を印加し、電子ビームを加速する。加速された電子は、蛍光膜84に衝突し、発光が生じて画像が形成される。
【0085】
ここで述べた画像形成装置の構成は、本発明を適用可能な画像形成装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。入力信号については、NTSC方式を挙げたが、入力信号はこれに限られるものではなく、PAL、SECAM方式などの他、これよりも、多数の走査線からなるTV信号(例えば、MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式をも採用できる。
【0086】
次に、はしご型配置の電子源及び画像形成装置について図11、図12を用いて説明する。
図11は、はしご型配置の電子源の一例を示す模式図である。図11において、110は電子源基体、111は電子放出素子である。112、Dx1〜Dx10は、電子放出素子111を接続するための共通配線である。電子放出素子111は、基体110上に、X方向に並列に複数個配されている(これを素子行と呼ぶ)。この素子行が複数個配されて、電子源を構成している。各素子行の共通配線間に駆動電圧を印加することで、各素子行を独立に駆動させることができる。即ち、電子ビームを放出させたい素子行には、電子放出しきい値以上の電圧を、電子ビームを放出しない素子行には、電子放出しきい値以下の電圧を印加する。各素子行間の共通配線Dx2〜Dx9は、例えばDx2、Dx3を同一配線とすることもできる。
【0087】
図12は、はしご型配置の電子源を備えた画像形成装置におけるパネル構造の一例を示す模式図である。120はグリッド電極、121は電子が通過するための空孔、122はDox1,Dox2・・・Doxmよりなる容器外端子である。123はグリッド電極120と接続されたG1、G2・・・Gnからなる容器外端子、110は各素子行間の共通配線を同一配線とした電子源である。図12においては、図8、11に示した部位と同じ部位には、これらの図に付したのと同一の符号を付している。ここに示した画像形成装置と図8に示した単純マトリクス配置の画像形成装置との大きな違いは、電子源基体110とフェースプレート86の間にグリッド電極120を備えているか否かである。
【0088】
図12においては、基体110とフェースプレート86の間には、グリッド電極120が設けられている。グリッド電極120は、表面伝導型放出素子から放出された電子ビームを変調するためのものであり、はしご型配置の素子行と直交して設けられたストライプ状の電極に電子ビームを通過させるため、各素子に対応して1個ずつ円形の空孔121が設けられている。グリッドの形状や設置位置は図12に示したものに限定されるものではない。例えば、空孔としてメッシュ状に多数の通過口を設けることもでき、グリッドを表面伝導型放出素子の周囲や近傍に設けることもできる。
容器外端子122およびグリッド容器外端子123は、不図示の制御回路と電気的に接続されている。
【0089】
本例の画像形成装置では、素子行を1列ずつ順次駆動(走査)していくのと同期してグリッド電極列に画像1ライン分の変調信号を同時に印加する。これにより、各電子ビームの蛍光体への照射を制御し、画像を1ラインずつ表示することができる。
【0090】
本発明の画像形成装置は、テレビジョン放送の表示装置、テレビ会議システムやコンピューター等の表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることもできる。
【0091】
【作用】
本発明の電子放出素子の導電性粒子膜は、Biを添加することによって、電気的な耐熱温度が高くなる。これは、Biが導電性微粒子膜と基体との間のバッファー層的な機能を果たし、微粒子膜の形状を安定化しているのではないかと推定している。この作用は、Biの融点の低温性(271.3℃)または電子配置構造(最深項 4S3/2 )に起因しているのではないかと推定している。
また、Pd以外の白金族元素としてPtを検討した結果、導電性微粒子膜の機械的安定性が高くなることを確認した。
【0092】
【実施例】
以下に実施例および比較例に基づいて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0093】
実施例1
電子放出素子として図1に示すタイプの電子放出素子を作成した。図1(a)は本素子の平面図を、図1(b)は断面図を示している。また、図1(a)、(b)中の符号1は基体、2および3は素子に電圧を印加するための一対の素子電極、4は導電性薄膜、5は電子放出部を示す。なお、図中のLは素子電極2と3の素子電極間隔、Wは素子電極長さを表している。
【0094】
図3を用いて、本実施例の電子放出素子の作成方法を述べる。基体1として石英ガラス基体を用い、これを有機溶剤により充分に洗浄後、基体面上にNiからなる素子電極2、3を形成した(図3(a))。素子電極間隔Lは3μmとし、素子電極長さWを500μm、その厚さdを1000Åとした。
【0095】
ポリビニルアルコールを重量濃度で0.05%、2−プロパノールを重量濃度で25%溶解した水溶液に、テトラモノエタノールアミン−パラジウム酢酸(Pd(NH2 CH2 CH2 OH)4 (CH3 COO)2 )をパラジウム重量濃度が約0.5%となるように溶解して黄色の溶液を得た。
【0096】
この水溶液に、ビスマス重量濃度が約4%のエチレンジアミン四酢酸−ビスマス(EDTA−Bi錯体)水溶液を重量濃度で約0.7%添加した(Pd量を100mol%とするとBiの添加量は3mol%となる)。
【0097】
得られた金属化合物−ビスマス化合物混合溶液の液滴を、バブルジェット方式のインクジェット装置によって電極2、3を形成した石英基体の上に電極2、3にまたがるように付与し(図3(b))、80℃で2分間乾燥させた。次に350℃で15分間焼成して導電性薄膜4を形成した(図3(c))。
【0098】
次に、真空容器中で素子電極2および3の間に電圧を印加し、導電性薄膜4を通電処理(フォーミング処理)することにより、電子放出部5を作成した(図3(d))。フォーミング処理の電圧波形を図4(b)に示す。
【0099】
本実施例では電圧波形のパルス幅T1を1ミリ秒、パルス間隔T2を10ミリ秒とし、三角波の波高値(フォーミング時のピーク電圧)を漸増させ、フォーミング処理は約1×10−6Torrの真空雰囲気下で行った。
【0100】
以上のようにして作成された素子について、その電子放出特性を図5の構成の測定評価装置により測定した。本電子放出素子およびアノード電極54は真空装置55内に設置されており、その真空装置には排気ポンプ56および不図示の真空計等の真空装置に必要な機器が具備されており、所望の真空下で本素子の測定評価を行えるようになっている。なお本実施例では、アノード電極と電子放出素子間の距離Hを4mm、アノード電極の電位を1kV、電子放出特性測定時の真空装置内の真空度を1×10−6Torrとした。
【0101】
以上のような測定評価装置を用いて、本電子放出素子の電極2および3の間に素子電圧を印加し、その時に流れる素子電流Ifおよび放出電流Ieを測定したところ、図6に示したような電流−電圧特性が得られた。本素子では、素子電圧7V程度から急激に放出電流Ieが増加し、素子電圧12Vでは素子電流Ifが0.8mA、放出電流Ieが0.4μAとなり、電子放出効率η=Ie/If(%)は0.05%であった。
【0102】
以上説明した実施例中、電子放出部を形成する際に、素子の電極間に三角波パルスを印加してフォーミング処理を行っているが、素子の電極間に印加する波形は三角波に限定することはなく、矩形波など所望の波形を用いても良く、その波高値およびパルス幅・パルス間隔等についても上述の値に限ることなく、電子放出部が良好に形成されれば所望の値を選択することができる。
【0103】
実施例2
実施例1と同様の方法で得られたNiからなる素子電極が形成された石英ガラス基体上に、実施例1と同様の方法で得られた金属化合物−ビスマス化合物混合溶液をバブルジェット方式のインクジェット装置により基体に付与し、80℃で2分間乾燥させ、350℃で15分間焼成することによって導電性薄膜を形成した。
【0104】
さらに、実施例1と同様なフォーミング処理によって電子放出部となる亀裂を形成した。その後、実施例1と同様な処理を行うことによって電子放出が見られることを確認した。アノード電極54の替わりに、前述した蛍光膜とメタルバックを有するフェースプレートを真空装置内に配置した。こうして電子源からの電子放出を試みたところ蛍光膜の一部が発光し、放出電流Ieに応じて発光の強さが変化した。こうして本素子が発光表示素子として機能することがわかった。
【0105】
実施例3
16行×16列の256個の素子電極とマトリクス状配線72、73とを形成した電子源基体71(図7参照)の各対向電極に対して、実施例1と同様にして金属化合物−Bi化合物混合溶液をバブルジェット方式のインクジェット装置により付与し、焼成したのち、フォーミング処理を行い電子源を作成した。
この電子源に、リアプレート81、支持枠82、フェースプレート86を接続し、真空封止して、図8の概念図に従う画像形成装置を作成した。端子Dox1〜Dox16と端子Doy1〜Doy16を通じて各素子に時分割で所定電圧を印加し、端子Hvを通じてメタルバック85に高電圧を印加することによって、任意のマトリクス画像パターンを表示することができた。
【0106】
実施例4〜7および比較例1
実施例1と同様の方法で、素子電極間隔Lを10μm、素子電極長さWを300μmとしたPtからなる素子電極を形成した石英ガラス基体上に、実施例1と同様の方法で得られた金属化合物−Bi化合物混合溶液をバブルジェット方式のインクジェット装置により基体に付与し、80℃で2分間乾燥させ、350℃で15分間焼成することによって厚さ150Å程度の導電性薄膜を形成した。
【0107】
この際Biの添加量を、金属化合物−Bi化合物混合溶液中のPd量を100mol%とすると、1、3、5、10mol%と変えた導電性薄膜を作成した(実施例4〜7)。また、参照素子としてBiを添加しない導電性薄膜も作成した(比較例1)。
【0108】
これらの素子について電気的な耐熱温度測定を行った。測定は、2%H2 /98%N2 ガス中の大気圧還元雰囲気下で、素子を加熱しながら電気抵抗値を測定することによって行った。これらの導電性薄膜の電気的な耐熱温度を測定した結果を図13に示す。同図中、(a)は比較例1の素子についてのグラフを、(b)〜(e)は順に実施例4〜7の素子についてのグラフである。
【0109】
図13から明らかな様に、温度変化による電気抵抗値変化の現象としては、まず室温では還元雰囲気によるPdO→Pdの還元が進行するため、電気抵抗値が低下する。その後、金属の温度特性(PTC)による電気抵抗値の僅かな上昇が続く。そしてある温度以上になると、導電性薄膜の凝集と思われる現象によって電気抵抗値が急激に高くなる。
【0110】
図13より、電気抵抗値が急激に上昇し始める温度を見ると、Biの添加量が1mol%の素子を除くと、Biの添加量が多くなるに従ってその温度は高くなっており(0mol%:360℃,1mol%:340℃,3mol%:400℃,5mol%:500℃,10mol%:600℃)、すなわち電気的な耐熱温度が高くなっていることがわかる。
【0111】
Biの添加量が1mol%の素子については、電気抵抗値が急激に上昇し始める温度はBi無添加の素子と大きな差はないか逆に低下している傾向にあるが、電気抵抗値が1MΩ以上となる温度は高くなっており(Bi1mol%添加素子は450℃、Bi無添加素子は420℃)、Bi添加による電気的な耐熱温度の高温化の効果が現れていると考えられる。
【0112】
実施例8
実施例1と同様の方法により、図1に示すタイプの電子放出素子を作成した。但し、金属化含物−ビスマス化合物混合溶液の調製は、前記エチレンジアミン四酢酸−ビスマス(EDTA−Bi錯体)水溶液を前記黄色の水溶液へ重量濃度で約2.5%添加することにより行い(Pdを100mol%とするとBiの添加量は10mol%となる)、この混合溶液の液滴付与はバブルジェット方式のインクジェット装置(キヤノン(株)製バブルジェットプリンタヘッドBC−01を使用)によって行った。
【0113】
この作成された素子について、実施例1と同様の方法、装置を用いてその電子放出特性を評価したところ、図6に示したような電流−電圧特性が得られた。本素子では、素子電圧7V程度から急激に放出電流Ieが増加し、素子電圧12Vでは素子電流Ifが0.8mA、放出電流Ieが0.4μAとなった。
【0114】
以上説明した実施例中、電子放出部を形成する際に、素子の電極間に三角波パルスを印加してフォーミング処理を行っているが、素子の電極間に印加する波形は三角波に限定することはなく、矩形波など所望の波形を用いても良く、その波高値及びパルス幅・パルス間隔等についても上述の値に限ることなく、電子放出部が良好に形成されれば所望の値を選択することができる。
【0115】
実施例9
実施例8と同様の方法で得られたNiからなる素子電極が形成された石英ガラス基体上に、実施例8と同様の方法で得られた金属化合物−Bi化合物混合溶液をピエゾジェット方式のインクジェット装置(キヤノン(株)製ピエゾジェットプリンタFP510使用)により基体に付与し、80℃で2分間乾燥させ、350℃で15分間焼成することによって導電性薄膜を形成した。
【0116】
さらに、実施例8と同様なフォーミング処理によって電子放出部となる亀裂を形成した。その後、実施例8と同様な処理を行うことによって電子放出が見られることを確認した。アノード電極54の替わりに、前述した蛍光膜とメタルバックを有するフェースプレートを真空装置内に配置した。こうして電子源からの電子放出を試みたところ蛍光膜の一部が発光し、放出電流Ieに応じて発光の強さが変化した。こうして本素子が発光表示素子として機能することがわかった。
【0117】
実施例10
多数の素子電極とマトリクス状配線72、73とを形成した電子源基体71(図7参照)の各対向電極に対して、実施例1と同様にして金属化合物−Bi化合物混合溶液をバブルジェット方式のインクジェット装置(キヤノン(株)製バブルジェットプリンタヘッドBC−01を使用)により付与し、焼成したのち、フォーミング処理を行い電子源を作成した。
この電子源に、リアプレート81、支持枠82、フェースプレート86を接続し、真空封止して、図8の概念図に従う画像形成装置を作成した。端子Dox1〜Doxmと端子Doy1〜Doynを通じて各素子に時分割で所定電圧を印加し、端子Hvを通じてメタルバック85に高電圧を印加することによって、任意のマトリクス画像パターンを表示することができた。
【0118】
実施例11〜16および比較例2
実施例8と同様の方法で、素子電極間隔Lを10μm、素子電極長さWを300μmとしたPtからなる素子電極を形成した石英基体上に、実施例8と同様の方法で得られた金属化合物−Bi化合物混合溶液をバブルジェット方式のインクジェット装置(キヤノン(株)製バブルジェットプリンタヘッドBC−01を使用)により基体に付与し、80℃で2分間乾燥させ、350℃で15分間焼成することによって厚さ100Å程度の導電性薄膜を形成した。
【0119】
この際Biの添加量を、金属化合物−Bi化合物混合溶液中のPd量を100mol%とすると、3、5、10、15、25、50mol%と変えた導電性薄膜を作成した(実施例11〜16)。また、参照素子としてBiを添加していない導電性薄膜(比較例2)も作成した。
【0120】
これらの素子について電気的な耐熱温度測定を行った。測定は、2%H2/98%N2ガス中の大気圧還元雰囲気下で、素子を加熱しながら電気抵抗値を測定することによって行った。これらの導電性薄膜の電気的な耐熱温度を測定した結果を図14に示す。同図中、(a)は比較例2の素子についてのグラフを、(b)〜(g)は順に実施例11〜16の素子についてのグラフである。
【0121】
図14から明らかな様に、温度変化による電気抵抗値変化の現象としては、まず室温では還元雰囲気によるPdO→Pdの還元が進行するため、電気抵抗値が低下する。その後、金属の温度特性(PTC)による電気抵抗値の僅かな上昇が続く。そしてある温度以上になると、導電性薄膜の凝集と思われる現象によって電気抵抗値が急激に高くなる。
【0122】
図14より、電気抵抗値が急激に上昇し始める温度を見ると、Biの添加量が5〜25mol%の範囲で500℃以上と、Bi無添加の約260℃よりも240℃以上温度が高くなっており(0mol%(Bi無添加):260℃、 3mol%:420℃、5mol%:520℃、10mol%:600℃、15mol%:500℃、25mol%:500℃、50mol%:420℃)、すなわち電気的な耐熱温度が高くなっていることがわかる。
【0123】
Biの添加量が3mol%と50mol%の導電性薄膜でも、Bi無添加の導電性薄膜に比べると電気的な耐熱温度は160℃程度高くなっており、ある程度Bi添加の効果は現われているが、製造工程上の加熱工程の温度が500℃以下であるとすると、Biの添加量は5〜25mol%の範囲が特に好ましい。
【0124】
また、Biの添加量が10mol%では耐熱温度が600℃程度なので好ましいが、25mol%では抵抗値変動が顕著になるため、5〜15mol%がより好ましい。尚、本実施例、比較例と、実施例4〜7、比較例1の素子とでは、耐熱温度が異なっているが、これは膜厚による差と推定され、本実施例の方が膜厚が薄いため、特にBi添加を行わない素子でその耐熱温度に顕著な差が生じていると思われる。
【0125】
以上のような導電性薄膜の凝集と思われる現象によってもたらされる素子の電気抵抗値の急上昇は、導電性薄膜の融解現象によるものと思われるが、本実施例の導電性薄膜を構成する主たる金属はPdであり、Pdの融解温度は1555℃(化学大辞典、共立出版)であることから、本発明で扱っている導電性薄膜が先に記述した微粒子膜であるための特有な現象であると思われる。
【0126】
実施例17〜20および比較例3
実施例8と同様の方法で得られた金属化合物−Bi化合物混合溶液を、バブルジェット方式のインクジェット装置(キヤノン(株)製バブルジェットプリンタヘッドBC−01を使用)により石英基体上に付与し、80℃で2分間乾燥させ、350℃で15分間焼成することによって導電性薄膜を形成した。
【0127】
この際Biの添加量を、金属化合物−Bi化合物混合溶液中のPd量を100mol%とすると、5、10、25、50mol%と変えた導電性薄膜を作成した(実施例17〜20)。また、参照素子としてBiを添加していない導電性薄膜(比較例3)を作成した。これらの導電性薄膜について、2%H2/98%N2ガス中の大気圧還元雰囲気下でPdO→Pdの還元処理を施した。
【0128】
これらの還元処理された導電性薄膜について機械的な強度を測定した。測定は、原子間力顕微鏡(AFM;Digital Instruments 製 Nanoscope II)によって以下のように行った。
【0129】
スキャン領域は5μm□とし、スキャンする時の荷重を変化させ、スキャン領域(5μm□)全体の還元処理された導電性薄膜が完全に剥がれた時の荷重(以下、「膜剥がれ荷重」と称する)を測定した。これらの還元された導電性薄膜の膜剥がれ荷重を測定した結果を図15に示す。同図中、(a)は比較例3の導電性薄膜についての膜剥がれ荷重の値を、(b)〜(e)は順に実施例17〜20の導電性薄膜についての膜剥がれ荷重の値である。実施例18と19((c)と(d))の導電性薄膜の膜剥がれ荷重の値については、使用したAFMのカンチレバーのバネ定数より制限される最大の荷重(85nN)をかけても導電性薄膜が完全に剥がれることはなかったため、図15のような表記とした。
【0130】
図15より、Biの添加量が5〜25mol%の範囲で膜剥がれ荷重の値が60nN以上と、Bi無添加の約20nNの3倍以上も、還元された導電性薄膜の機械的な強度が高くなっている。
【0131】
Biの添加量が50mol%の導電性薄膜でも、Bi無添加の導電性薄膜に比べると機械的な強度は2倍程度高くなっていることから、ある程度添加の効果は現われているが、前記実施例の電気的な耐熱温度の結果と合せると、Biの添加量は5〜25mol%(抵抗値の変動を考えると更に5〜l5mol%)の範囲が好ましく、特に10mol%が好ましいと考えられる。
【0132】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電子放出素子の電子放出部が形成される導電性薄膜にBiを添加することによって、導電性薄膜の電気的な耐熱温度を高め、さらに導電性薄膜の機械的な強度も高めることから、製造工程上の制限を緩和することが可能となる。具体的には、素子を製造する際の安定化工程や画像形成装置製造の際に、耐熱温度付近まで真空容器を加熱して容器内の有機物質を排気することが可能となり、また製造工程上の機械的な衝撃で導電性薄膜が破損するようなことを防ぐこともできる。
【0133】
したがって、素子の耐熱温度によって制限されるような温度制御や工程を省くことによる製造コストの低減が図られたり、ベーキング(加熱)温度の高温化による素子特性の安定化や長寿命化などの効果も奏する。
【0134】
また、本発明の製造方法の一工程である金属化合物を含む溶液を基体に付与する工程は、水を溶媒とする液体を用いるので、万一の火災等の事故が起こり難い安全な電子源用導電性薄膜の形成工程である。
【0135】
さらに、本発明の方法に従い電子放出素子を製造するならば、所定の位置に必要なだけの有機金属化合物溶液を付与することができ、また前記溶液付与工程が電子放出用薄膜の二次元パターニング工程をも兼ねるため、材料コストと作業コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の適用可能な表面伝導型電子放出素子の構成を示す模式的平面図及び断面図である。
【図2】本発明に適用可能な電子放出素子用または電子源形成用材料吐出ヘッドの構成の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の適用可能な表面伝導型電子放出素子の製造方法の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の適用可能な表面伝導型電子放出素子の製造に際して採用できる通電フォーミング処理における電圧波形の一例を示す模式図である。
【図5】測定評価機能を備えた真空処理装置の一例を示す模式図である。
【図6】本発明の適用可能な表面伝導型電子放出素子についての放出電流Ie、素子電流Ifと素子電圧Vfの関係の一例を示すグラフである。
【図7】本発明の適用可能な単純マトリクス配置の電子源の一例を示す模式図である。
【図8】本発明の適用可能な単純マトリクス配置の画像形成装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【図9】蛍光膜の一例を示す模式図である。
【図10】画像形成装置にNTSC方式のテレビ信号に応じて表示を行うための駆動回路の一例を示すブロック図である。
【図11】本発明の適用可能な梯子配置の電子源の一例を示す模式図である。
【図12】本発明の適用可能な梯子配置の画像形成装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【図13、14】本発明の適用可能な表面伝導型電子放出素子および従来の表面伝導型電子放出素子の電気的な耐熱温度の一例を示すグラフである。
【図15】本発明の適用可能な表面伝導型電子放出素子および従来の表面伝導型電子放出素子の機械的な強度の一例を示すグラフである。
【図16】Hartwellの表面伝導型電子放出素子の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1:基体、2,3:素子電極、4:導電性薄膜、5:電子放出部、21:ヘッド本体、22:ヒーターまたはピエゾ素子、23:インク流路、24:ノズル、25:インク供給管、26:インク溜め、50:素子電極2,3間の導電性薄膜4を流れる素子電流Ifを測定するための電流計、51:電子放出素子に素子電圧Vfを印加するための電源、52:電子放出部5−アノード電極54間を流れる放出電流Ieを測定するための電流計、53:アノード電極54に電圧を印加するための高圧電源、54:素子の電子放出部より放出される放出電流Ieを捕捉するためのアノード電極、55:真空装置、56:排気ポンプ、71:電子源基体、72:X方向配線、73:Y方向配線、74:表面伝導型電子放出素子、75:結線、81:リアプレート、82:支持枠、83:ガラス基体、84:蛍光膜、85:メタルバック、86:フェースプレート、88:外囲器、91:黒色導電材、92:蛍光体、101:表示パネル、102:走査回路、103:制御回路、104:シフトレジスタ、105:ラインメモリ、106:同期信号分離回路、107:変調信号発生器、Vx,Va:直流電圧源、110:電子源基体、111:電子放出素子、112:Dx1〜Dx10は、電子放出素子111を接続するための共通配線、120:グリッド電極、121:電子が通過するための空孔、122:Dox1,Dox2・・・・・・Doxmよりなる容器外端子、123:グリッド電極120と接続されたG1,G2・・・Gnからなる容器外端子。
Claims (19)
- 基体上に対向する一対の素子電極と、該一対の素子電極に電気的に接続された導電性薄膜と、該導電性薄膜の一部に形成された電子放出部を有する電子放出素子において、該導電性薄膜は、白金族元素化合物とBi化合物とを含有する溶液を、基体上に付与し、焼成して形成された、白金族元素とBiとを含有する導電性薄膜であることを特徴とする電子放出素子。
- 前記白金族元素がPdであることを特徴とする請求項1記載の素子。
- 前記Bi含有量が、導電性薄膜に含まれる全金属量を100mol%とした場合、1〜25mol%の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載の素子。
- 前記Bi含有量が、導電性薄膜に含まれる全金属量を100mol%とした場合、5〜15mol%の範囲であることを特徴とする請求項3記載の素子。
- 基体上に設けた対向する素子電極間に白金族元素化合物およびBi化合物を含有する水溶液の液滴を付与する工程と、これを焼成して前記液滴が付与された位置に導電性薄膜を形成する工程と、フォーミング処理して前記導電性薄膜の一部に電子放出部を形成する工程とを具備することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
- 前記Bi化合物が、EDTA錯体であることを特徴とする請求項5記載の製造方法。
- 前記水溶液の全金属含有量が0.01〜5重量%の範囲であることを特徴とする請求項5または6記載の製造方法。
- 前記水溶液が水溶性ポリマーを含有することを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の製造方法。
- 前記水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンのいずれかであることを特徴とする請求項8記載の電子放出素子製造方法。
- 前記水溶液の前記水溶性ポリマー濃度が、0.01〜0.5重量%であることを特徴とする請求項8または9記載の製造方法。
- 前記水溶液が1価で炭素数1〜4の低級アルコールを含有することを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の製造方法。
- 前記低級アルコールが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノールのいずれかであることを特徴とする請求項11記載の製造方法。
- 前記水溶液の前記低級アルコールの濃度が、5〜35重量%であることを特徴とする請求項11または12記載の製造方法。
- 前記液滴の付与手段がインクジェット方式であることを特徴とする請求項5ないし13のいずれかに記載の製造方法。
- 前記のインクジェット方式がバブルジェット方式であることを特徴とする請求項14記載の製造方法。
- 前記のインクジェット方式がピエゾジェット方式であることを特徴とする請求項14記載の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の電子放出素子を具備することを特徴とする電子源。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の電子放出素子を具備することを特徴とする画像形成装置。
- 更に、テレビ信号に基づいたテレビジョン表示を行うための駆動回路を具備する請求項18に記載の画像形成装置。
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