JP3559790B2 - 食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は酸添加焙焼デキストリンを酸の存在下に加水分解して得た物質を食品に添加、または食品成分の一部と置換することにより食品にビフィズス菌の増殖を促進する作用を付与する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヒトの腸内には100種類、100兆個もの細菌が生息して腸内細菌叢を構成し、食餌成分や腸内に分泌された成分を栄養として増殖し、種々の物質を生成している。腸内細菌叢はヒトの加齢に伴って変化し、乳児ではビフィズス菌(Bifidobacterium)が優勢であるが、離乳期に近くなるとバクテロイデス(Bacteroidaceae)などの嫌気性菌が出現し、成人に近い細菌叢を構成するようになる。一方、高齢者では健康成人にはほとんど認められないような異常菌叢がしばしば認められるようになり、ビフィズス菌が減少し、大腸菌(Escherichia)、腸球菌(Enterococcus)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)などの増加が認められるようになる。このような腸内菌叢の変化は人体に種々の悪影響を及ぼすことが知られており、腸内菌のバランスをビフィズス菌優勢、ウエルシュ菌などの有害菌劣勢の状態に維持することが重要であると考えられている。
【0003】
近年、ビフィズス菌を増加させるために種々のビフィズス菌含有製剤やそれを含む乳製品が開発されている。しかしながら、ビフィズス菌の菌体を経口的に摂取しても一般的には体内に定着しにくいとされている。従って、腸内のビフィズス菌を増加させるためには、消化吸収されずに大腸まで到達し、そこでビフィズス菌に利用されるような難消化性の糖質を含む食品を、経口的に摂取することが有効である。
【0004】
しかし、難消化性多糖類であるセルロースや、リグニンなどの不溶性食物繊維は、ほとんど大腸まで到達するが、腸内細菌に利用されず、またペクチンやグアーガムなどの水溶性食物繊維は、腸内細菌に一部利用されるものの、ビフィズス菌を選択的に増加させるには至らない。またフラクトオリゴ糖や、大豆オリゴ糖、イソマルトオリゴ糖などのオリゴ糖は大腸でビフィズス菌に利用される糖であるが、ビフィズス菌選択性が低かったり、熱や酸に弱いために食品への使用範囲が限定されたり、製造コストがかかり高価になるため、日常的に続けて摂取することが困難である。
【0005】
焙焼デキストリンの酸加水分解に関しては、特開平4−135495号に無機酸添加焙焼デキストリンの水溶液をそのままか、または更に無機酸または有機酸を添加して加圧加熱、中和してグルコースの発生量が約10%の酸加水分解物を得て、これに糖化型アミラーゼを作用させて難消化性多糖類と消化性糖類に糖化し、次に難消化性多糖類を分離する方法と、この難消化性多糖類が低粘性で低カロリーであるため、摂取カロリーや糖類の摂取を制限する人の食餌療法に用いられることと、食物繊維として健康維持のための食品素材として利用されることがが記載されているが、難消化性成分とDE、分子量との相関やビフィズス菌増殖活性については全く記載されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、強いビフィズス菌選択増殖活性を有する食品を開発することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は難消化性成分を30〜60重量%含有する焙焼デキストリンを酸加水分解することにより、酸加水分解前にはほとんど見られなかったビフィズス菌選択増殖活性が発現することと、酸加水分解物のDEと難消化性成分の平均分子量が後記する特定の条件を満たすときに、特に強いビフィズス菌増殖活性を有する物質が得られ、この物質は水飴や粉飴と同様の一般的物性を有し、各種の食品の構成成分の一部として食品を製造することができるとの知見を得て、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
【発明の作用並びに構成】
澱粉などの糖質は、生体内の酵素で分解されてできた単糖だけが、上部消化管で吸収され、二糖類以上の糖は吸収されずに大腸に達する。従って、本発明をα−アミラーゼ、グルコアミラーゼで加水分解した後のグルコース以外の部分が、難消化性成分として、上部消化管で吸収されずに大腸まで達し、そこでビフィズス菌の増殖に利用されるので、ある程度の難消化性成分の含量が必要である。
【0009】
本発明の基本的な特徴は、(a)澱粉に無機酸を添加し、低水分状態で加熱して生成する焙焼デキストリンを原料として用い、その水溶液に無機酸または有機酸を添加し、加圧加熱して加水分解せしめるという方法で製造された酸加水分解物であり、またコーンスターチを原料とした場合には(b)原料の焙焼デキストリンをα−アミラーゼ、グルコアミラーゼで加水分解した後のグルコース以外の難消化性成分が30〜60重量%であること、(c)酸加水分解物のDEが17〜44であり、難消化性成分が26〜44重量%の範囲内であること、及び(d)この酸加水分解物が、ビフィズス菌選択増殖活性を有するものであることである。
【0010】
本発明に使用される焙焼デキストリンの原料である澱粉としては、特に限定されないが、例えばコーン(とうもろこし)、ワキシー・コーン(もちとうもろこし)、馬鈴薯、甘藷、タピオカ、小麦、大麦、米、等の澱粉が使用できる。以下上記方法について更に詳細に説明する。
【0011】
澱粉に対して鉱酸(例えば、塩酸、硝酸、硫酸)、好ましくは塩酸を澱粉100重量部に対して、例えば、1重量%の塩酸水溶液として3〜10重量%添加、加熱処理して、中間物質である焙焼デキストリンを得る。この加熱処理の前に澱粉と鉱酸の水溶液を均一に混合するために、適当なミキサー中で攪拌、熟成させてから好ましくは100℃〜120℃程度で予備乾燥して、混合物中の水分を5重量%程度まで減少させることが好ましい。加熱処理は従来技術の加酸焙焼デキストリン(白色デキストリン、黄色デキストリン)の加熱条件とは異なり、140〜200℃で2分〜120分、好ましくは10分〜120分が適当である。加熱処理の温度は高い方が目的生成物中の難消化性成分の含量が増加するが、180℃付近から着色物質が増加するので、より好ましくは150℃前後である。
【0012】
加熱装置を選択することによって高温短時間の反応を行うことも可能であるので、例えばエクストルーダーのようにごく短時間に均一な反応を行うことができる装置を用いれば、効率的に加熱処理することができる。また、粉末状態での反応であるから大規模生産の場合は、加熱条件を変更する必要もあるので、加熱処理後の製品の品質を検討した上で、適宜加熱条件を変更することが望ましい。
【0013】
このようにして得られた焙焼デキストリンは水に易溶性であるので、水を加えて攪拌すると水溶液が得られる。この水溶液をそのままか、または酸、特に塩酸や蓚酸等を加えて、pHを1.6〜2.0に調整し、100〜140℃好ましくは120〜140℃で15〜60分間、0〜2.7Kgf/cm 2 、好ましくは1.0〜2.7Kgf/cm 2 で加圧加熱を行って加水分解させる。このようにして得られた酸加水分解物は、中和後、常法に従って脱色、脱塩、濃縮して液状の製品とするか、またはスプレードライして粉末製品とすることができる。
【0014】
本発明において、後記する測定方法によって求められる出発原料の焙焼デキストリン中の難消化性成分の含量は酸の添加量、焙焼時間により変化するが、難消化性成分が60重量%以上のものについては着色やこげがはなはだしくなり、製品の品質が低下して食品用として不適当である。また、本発明の効果を発現させるためには、1日当りの摂取量が難消化性成分換算で約4g以上が必要である。従って焙焼デキストリン中の難消化性成分の含量が30重量%以下のものでは、大腸に達する量が少なく、かなり大量に摂取することが必要となるため、コストが高くなり、添加できる食品が限定される。従って本発明においてビフィズス菌の増殖促進作用を発揮するのは原料焙焼デキストリン中の難消化性成分の含量が30〜60重量%の範囲内のものである。次に焙焼デキストリンを酸加水分解することによって、難消化性成分の含量が低下するが、特にコーンスターチを原料とした場合には、酸加水分解後の含量が26〜44重量%の範囲内であることが好ましい。また酸加水分解によって後記するDEの値が上昇するが、このDEは好ましくは約17〜44の範囲内、さらに好ましくは約28〜39の範囲内のものがビフィズス菌の増殖促進作用を強く発揮する。さらに酸加水分解物中の難消化性成分の平均分子量が1085以下、好ましくは約722〜908であるときビフィズス菌の増殖作用を強く発揮する。
【0015】
またこの焙焼デキストリンの酸加水分解物を食品に添加するか、または食品の成分の1部と置換することによって、食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与することができる。その添加量または置換量は、その食品の1食分あたり難消化性成分換算で約4g以上であることが好ましい。ただし難消化性成分が生理作用に及ぼす影響は個人差があることから、効果を見ながら適宜増減するのが良い。
【0016】
以下に実験例を示して、本発明を詳細に説明する。本明細書においてDEとはDextrose Equivalent(ブドウ糖当量)の略で、澱粉加水分解物の加水分解の程度を表すのに広く用いられる指標である。即ち還元糖をブドウ糖として測定し、その還元糖の固形分100に対する比をDEとする。この還元糖の測定には各種の方法があるが、本発明ではウィルシュテッター・シューデル法を用いた。また表中に%と記載したものはすべて重量%である。
次に本発明に使用される各定量法及び試験法を詳細に記す。
【0017】
〔難消化性成分の定量法〕
難消化性デキストリン中の難消化性成分の含量は、以下に説明する方法(「難消化性成分の定量法」(澱粉科学、第37巻、第2号、107頁、1990)に記載の方法の改良法)によって測定したものである。
【0018】
難消化性デキストリン試料1gを精秤し、0.05Mリン酸緩衝液(pH6.0)50mlを加え、α−アミラーゼ(ノボ・ノルディスク・バイオインダストリー社製造:ターマミル120L、力価:120KNU/g)0.1mlを添加し95℃で30分間反応させる。冷却後、pH4.5に調整しアミログルコシダーゼ(シグマ社製造:No.A−3042、力価:6100単位/ml)0.1mlを添加し、60℃で30分間反応させた後、90℃まで昇温し反応を終了させた。終了後、反応液を水で100mlにフィルアップし、ピラノース・オキシダーゼ法によりグルコース量(B)(g)を求め、反応前の試料についても同様にグルコース量(A)(g)を求め、次式により難消化性成分の含量(重量%)を算出した。
【0019】
難消化性成分含量(重量%)=〔1−A−(B−A)×0.9〕×100
A=反応前のグルコース量(g)
B=反応後のグルコース量(g)
【0020】
〔グルコースの定量法〕
1gの試料を100mlのメスフラスコに精秤し、蒸留水で溶解してメスアップする。この溶液についてピラノースオキシダーゼ(協和メデック社製造:デターミナーGL−Eを使用)法により定量した。
【0021】
〔平均分子量の測定法〕
グルコースの定量に用いた溶液を混床式イオン交換樹脂のカラムにSV1.0で通液して脱塩し、溶出液をロータリーエバポレーターを用いて5重量%濃度まで濃縮して試料液とした。この試料20μlを下記の条件で液体クロマトグラフィーを行い測定した。
【0022】
【0023】
測定結果から下式を用いて平均分子量を求めた。
【0024】
【0025】
〔ビフィズス菌によるin vitroの資化性試験法〕
(1)Fildes Solution
生理食塩水150ml、濃塩酸6ml、馬血液50ml及びペプシン(1:10000)1gを250mlフラスコに入れてよく混合し、55℃に保ったウォーターバス中に一夜放置して馬血液をペプシンにより消化させた。次に20重量%NaOH溶液12mlを加え、pHが正確に7.6になるようにNaOHまたはHClで修正し、クロロフォルム2mlを添加して冷蔵保存した。
【0026】
(2)Salts Solution
無水CaCl2O.2gとMgSO40.2gを300mlの精製水に溶解し、次いでこの溶液をよく攪拌しながら精製水500mlを加え、K2HPO41g、KH2PO41g、NaHCO310g及びNaCl2gを加えて完全に溶解し、更に200mlの精製水を加えて混合して4℃で保存した。
【0027】
(3)BL寒天平板
BL寒天培地(日水製薬社製造)100mlに対し馬脱繊維血液(コージン社製造)5mlを添加したものを約15〜20ml宛シャーレーに分注し、寒天平板として用いた。
【0028】
(4)Fildes Solution加GAM半流動寒天培地
GAMブイヨン(日水製薬製造)に、Fildes Solutionを0.4重量%と寒天0.15重量%を添加して4ml宛試験管に分注して用いた。
【0029】
(5)供試菌株の培養
供試菌株をBL寒天平板に画線培養し、単離集落を得ることを2回繰り返すことにより純粋培養菌株を得、これをFildes Solution加GAM半流動寒天培地で、37℃、24時間の培養条件で植え継いだ。
【0030】
【0031】
(7)嫌気培養及び資化性の判定
嫌気培養は、嫌気性インキュベーター(SANYO/FORMA社製造)を用い、雰囲気は、CO210容積%、H2容積10%、N2バランスの混合ガスを用いた。培養後にpHが低下した程度から次の判定基準で資化性の有無、または強弱を判定した。
【0032】
【0033】
【実験例1】
市販のコーンスターチに670ppmの塩酸を添加し、フラッシュドライヤーで水分が約2〜3重量%になるまで予備乾燥し、次にロータリーキルンで140〜145℃で約30分間焙焼し、難消化性成分の含量が53%のデキストリンを得た。この焙焼デキストリンの20重量%溶液に、1N水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH6.0に調整し、α−アミラーゼ(ターマミル60L、ノボ・ノルディスク・バイオインダストリー社製造)を焙焼デキストリンに対して0.2重量%を添加して約85℃で60分間加水分解し、次いでpH4.5に再調整した後、グルコアミラーゼ(グルクザイムNL−4、天野製薬社製造)を同様に0.1重量%を添加して約55℃で24時間加水分解し、イオン交換樹脂で脱塩を行い、約50重量%濃度に濃縮した。次にこの溶液約4リットルをナトリウム型にした強酸性陽イオン交換樹脂であるXFS−43279(ダウ・ケミカル日本社製造)10リットルを充填した連続クロマトグラフ装置(CCS−10−A型、日立製作所製造)のカラムに70℃、SV0.3で通液し、次に水で押し出してグルコアミラーゼによる加水分解で消化性画分から生成したグルコースを除去し、再度イオン交換樹脂で精製した後、濃縮後にスプレードライして、難消化性成分の分離試料を得た。この試料を用いて、ヒトにおける消化吸収性を調べるために、健康な5名のボランティアによる負荷試験を実施し、血中の糖濃度(血糖値)とインシュリン値を経時的に測定して結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1において焙焼デキストリン中の難消化性成分は血糖値、インシュリン値に対してほとんど影響を与えないこと認められる。このことはこの難消化性成分はほとんど消化吸収を受けないことを意味し、従って焙焼デキストリンを摂取した場合、難消化性成分のみが消化されずに大腸まで達し、腸内細菌に利用されると考えられる。従ってこの難消化性成分の含量が多いほど、ピフィズス菌増殖の程度は強くなると言える。
【0036】
【実験例2】
各種澱粉(コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、ワキシー・コーンスターチ、米澱粉)に塩酸を混合して均質化し、水分が約2〜3重量%になるまで予備乾燥を行い、次いで、オイルバス中で焙焼して4種類の焙焼デキストリンを得た。これらの焙焼デキストリンおよび市販の焙焼デキストリン2種(コーンスターチ原料および、馬鈴薯澱粉原料のもの)の焙焼条件と、難消化性成分の含量の分析値を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
次に表2の各焙焼デキストリンの20重量%溶液を実験例1と同様にpH調整、α−アミラーゼ加水分解、グルコアミラーゼ加水分解、イオン交換樹脂処理を行った後に濃縮し、スプレードライして、A、B、C、D、E、及びFの6種類の難消化性成分の試料を得た。
【0039】
ヒトの加齢に伴い、ビフィズス菌の菌種の構成に変化が認められるが、Bifidobacterium longumは、乳児、幼児、成人、および老人のどの年齢層にも広く検出される菌種であるため、ビフィズズ“アマノ”100(天野製薬(株)製造のBifidobacterium Longum)を用いてin vitroの資化性試験を行った。前記の試料及びグルコースを、PYF半流動寒天培地にそれぞれ最終濃度0.5重量%になるように添加したものと、対照として糖を加えないものをそれぞれ115℃で20分オートクレーブ滅菌して試験培地とした。この試験培地1.5mlにビフィズス菌の培養液0.03mlを接種し、37℃、96時間嫌気培養後、pHを測定してビフィズス菌資化性の判定結果を表3に示した。
【0040】
【表3】
【0041】
表3で明かなように、難消化性成分が25重量%以下の焙焼の程度の低い試料はBifidobacterium longumで僅かに資化されたが、難消化性成分が50重量%以上の焙焼デキストリンは資化されなかった。従って実用上充分な量、すなわち30重量%以上の難消化性成分を有する焙焼デキストリン中に存在する難消化性成分は、ビフィズス活性を有しないことを示している。
【0042】
【実験例3】
表4の条件で実験例2と同様にコーンスターチを焙焼し、難消化性成分が異なるG、H、I、Jの4種類の焙焼デキストリンを得た。
【0043】
【表4】
【0044】
これらの焙焼デキストリンをそれぞれ0.2N塩酸に溶解し、100℃の沸騰水浴中で20分、40分、60分間加水分解し、加水分解前の焙焼デキストリンとともにそれぞれを中和した後にDEと難消化性成分を測定した。次に実験例2と同様に処理して分離した得た難消化性成分の試料合計16種類について実験例2と同様に資化性試験を行なった。また同時に平均分子量を測定し、結果を一括して表5に示す。
【0045】
【表5】
【0046】
表5の結果は難消化性成分31.6〜60.2重量%の焙焼デキストリンにはビフィズス活性が認められなかったが、酸加水分解によってDEが約17〜44の範囲のものにビフィズス活性が発現し、DEが18以下のものはビフィズス活性が僅かであるが、DEが約28〜39の範囲のものに、強いビフィズス菌増殖活性が発現することが明らかになった。また酸加水分解物中の難消化性成分の平均分子量が1085以下、好ましくは約722〜908のものが、実用上充分な量の難消化性成分を残し、強いビフィズス菌増殖活性を有する物質であることを示している。
【0047】
【実験例4】
実験例2で調製した馬鈴薯澱粉、ワキシー・コーンスターチ、米澱粉の焙焼デキストリンをそれぞれ30重量%溶液とし、0.2N塩酸でpH1.9に調整し、オートクレーブ中で121℃、1.1Kgf/cm2で60分間加水分解した。得られた3種類の試料を中和後にDEと難消化性成分を測定して表6に示す。
【0048】
【表6】
【0049】
この3種類の焙焼デキストリン酸加水分解物を実験例1と同様にpH調整、α−アミラーゼ加水分解、グルコアミラーゼ加水分解、イオン交換樹脂処理してK、L、M、の3種類の難消化性成分の試料を得、それぞれについて実験例2と同様に資化性試験を行なった。その結果を表7に示す。
【0050】
【表7】
【0051】
表7の結果はコーンスターチ以外の澱粉を原料として得た焙焼デキストリンの酸加水分解物も、コーンスターチと同様に実用上充分な量の難消化性成分とビフィズス菌増殖活性を有することを示す。
【0052】
【実験例5】
市販のコーンスターチに670ppmの塩酸を添加し、均一になるように混合した後、140〜145℃で30分間加熱処理して難消化性成分51.5重量%の焙焼デキストリンを得た。これを30重量%溶液として2分し、0.2N塩酸でpHをそれぞれ1.9、1.6に調整して約127℃、1.5Kgf/cm 2 で20分間加熱し、DE23.6、難消化性成分43.7重量%及び、DE33.0、難消化性成分43.5重量%の試料を得た。この2種類の焙焼デキストリンを実験例2と同様に酵素加水分解、グルコースの除去を行ってN、Oの2種類の難消化性成分の試料を得た。この試料N、Oについて詳細な資化性試験を実施した。
【0053】
供試菌株はBacteroides13株、Bifidobacterium18株、Clostridium25株、Eubacterium6株、Fusobacterium3株、Peptstreptpcpccus4株、Lactobacillus9株、Enterococcus5株、Escherichia coli5株、その他18株である。
【0054】
上記試料およびグルコースを、実験例1と同様にPYF半流動寒天培地にそれぞれ最終濃度0.5重量%になるように添加し、115℃で20分オートクレーブ滅菌して調製した試験培地を用いて培養し、資化性試験を行った結果を表8に示す。
【0055】
【表8−1】
【0056】
【表8−2】
【0057】
【表8−3】
【0058】
Bacteroidesでは、病原性をもつfragilisには、グルコースとくらべて弱い資化性を示した。それ以外の種も同程度か、やや弱い資化性を示した。
【0059】
Bifidobacteriumでは、adolescentis、brebeに特によく資化された。
【0060】
Clostridiumでは、整腸作用をもつ有用菌であるbutyricumによく資化されたが、perfringensやdifficileなどの病原菌には、全く資化されなかった。また、それ以外の種にもほとんど資化されなかった。
【0061】
下痢などの際の整腸剤として知られている、Enterococcus faecalisには少し資化された。
Lactobacillusでは、整腸作用のあるacidophilusや有害菌の働きを抑制する、caseiに資化された。
【0062】
その他、Escherichia、Staphylococcusなどの病原菌には全く資化されなかった。
【0063】
【実験例6】
実験例5で調製したサンプルOを用いて、ビフィズス菌選択増殖活性(invivo)を調べた。
【0064】
7名の成人男子(平均年齢43.3±5.0歳)に、それぞれ1日10g(難消化成分量4.4g)を14日間投与し、摂取前、摂取14日後および摂取中止後14日の便を採取し、便中の腸内細菌叢の検索を行なった。試験期間中は、乳製品などの腸内細菌叢に影響を及ぼす食品および抗生物質などの医薬品の摂取を制限した。
【0065】
採取した糞便サンプル1gを秤取し、希釈液9ml中に入れ、混和して均質にしたものを10−1希釈液として、順次10倍段階希釈を行ない、10−8希釈液までつくり、TS培地には10−5、10−6、10−7希釈液、EG、BL培地には10−6、10−7、10−8希釈液、BS、NBGT、ES、NN、VS、LBS、TATAC、DHL、PEES、P培地には10−1、10−3、10−5、10−7希釈液をそれぞれ0.05ml滴下し、コンラージ棒で均一に塗布した。TS、DHL培地は37℃、24時間、TATAC、PEES、P培地は37℃、72時間好気培養し、残りの培地はガスパック(BBL社製)で、37℃、72時間嫌気培養した。培養終了後、集落の形状、グラム染色性、細胞の形態によって菌群を決定して集計し、表9に糞便1グラムあたりの菌数を対数で、表10に糞便総菌数当りの占有率(%)を示した。
【0066】
【表9】
【0067】
【表10】
【0068】
焙焼デキストリンの酸加水分解物の投与によって、ビフィズス菌の増加が認められ、Bcteroidesの占有率が低下し、腸内細菌叢に変化をもたらした。従って難消化成分換算で、1日4.4gの投与でビフィズス菌の増殖に効果があることが明らかとなった。
【0069】
以上の実験例5、6の結果から焙焼デキストリンの酸加水分解物は表9において、投与前と投与中のBifidobacterium数に危険率5%で有意差が認められた。またビフィズス菌選択増殖活性を有し、ビフィズス菌の増殖による有機酸の生成を促進して、大腸内のpHを下げ、Bacteroides等の腐敗菌の生育を抑制し、また、腐敗菌が産生するアンモニア、フェノール、インドール等の有害物質の発生を抑制し、腸内環境の改善に有効であることが明らかとなった。
【0070】
【参考例1】
市販のコーンスターチに750ppmの塩酸を添加し、均一に混合後に160℃で20分間加熱して難消化性成分が55.9%の焙焼デキストリンを得た。この焙焼デキストリンを水に溶解して30%の溶液として10%塩酸水溶液を加えてpHを1.8に調整した。溶液をオートクレーブに移して121℃で30分間加熱して加水分解物を得た。この加水分解物を活性炭脱色、濾過に続いてイオン交換樹脂で脱塩処理後、濃度50%に濃縮してスプレードライして粉末製品を得た。
【0071】
【参考例2】
参考例1の焙焼デキストリンを同様に121℃で40分間加熱処理して加水分解物を得た。この加水分解物を参考例1と同様に精製後、濃度75%に濃縮して液状製品を得た。
【0072】
【参考例3】
市販の馬鈴薯澱粉に750ppmの塩酸を添加し、均一に混合後に175℃で120分間加熱して難消化性成分が56.9%の焙焼デキストリンを得た。この焙焼デキストリンを水に溶解して30%の溶液として10%塩酸水溶液を加えてpHを1.8に調整した。溶液をオートクレーブに移して121℃で20分間加熱して加水分解物を得た。この加水分解物を参考例1と同様に精製、スプレードライして粉末製品を得た。
【0073】
【参考例4】
参考例3の焙焼デキストリンを同様に121℃で40分間加熱処理して加水分解物を得た。この加水分解物を参考例2と同様に精製、濃縮して液状製品を得た。
【0074】
各参考例で得た加水分解物の分析値と実験例2と同様にして行った資化性を表11に示す。
【0075】
【表11】
【0076】
本発明に於いては、酸添加焙焼デキストリンの加水分解物は、従来の水あめや粉あめ等と上記ビフィズス菌増殖促進作用の有無を除けば、ほぼ同じ物性を有するので、従来の水あめや粉あめ等と同じ用途に同じ様に使用することが出来る。
【0077】
【実施例】
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。実施例中に部とあるのは重量部を示す。
【0078】
【実施例1】
表12の配合で原料を溶解して180℃まで煮詰め、1個当り5gの型に流し込んで放冷してハードキャンデーを試作した。このキャンデー6個中の難消化性成分量の合計が4.2gである。
【0079】
【表12】
【0080】
【実施例2】
表13の配合で水に水あめを加え80℃まで加熱し、他の全原料を追加して125℃になるまで煮詰め、トレーに移して冷却、成型して1個当り5gのキャラメルを試作した。このキャラメル7個中の難消化性成分量の合計が4.3gである。
【0081】
【表13】
【0082】
【実施例3】
表14の配合で小型ニーダーで120℃で風船ガムベースと酢酸ビニールを混合し、そこに他の原料も順次混合し、均一になるまで撹拌し、20℃まで放冷後に成型して1枚7gの風船ガムを試作した。この風船ガム7枚の難消化性成分量の合計が4.1gである。
【0083】
【表14】
【0084】
【実施例4】
表15の配合で水に全原料をよく分散撹拌させながら95℃まで加熱し、30℃まで冷却してクリームフィリングを試作した。このフイリングの70gの難消化性成分量が4.9gである。
【0085】
【表15】
【0086】
【実施例5】
表16の配合で水に全原料を混合し80℃まで加熱後、30℃まで冷却した。予備乳化後、本乳化して24時間エージングし、フリージングして急冷後、冷蔵庫で保存してアイスクリームを試作した。この80gカップ2個の難消化性成分量が4.3gである。
【0087】
【表16】
【0088】
【実施例6】
表17の配合で水に粉砕したイチゴと糖分の半量を加えて、弱火で煮詰め、水が蒸発してから、残りの半量とペクチン、クエン酸を加えてよく撹拌しながら全体が80部になるまで煮詰め、放冷してイチゴジャムを試作した。この50gの難消化性成分量が5.0gである。
【0089】
【表17】
【0090】
【効果】
本発明によれば、食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与出来るので、得られる食品は極めて優れた健康食品となるという優れた効果を発揮する。
Claims (7)
- 難消化性成分の含有量が30〜60重量%の酸添加焙焼デキストリンを、酸の存在下に加水分解して得た物質を、食品に添加または食品の構成成分の一部と置換することを特徴とする、食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法。
- 酸加水分解後の上記物質の難消化性成分の含有量が26〜50重量%である、請求項1に記載する食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法。
- 上記焙焼デキストリンがコーンスターチを原料として使用した焙焼デキストリンである場合にその酸加水分解後の上記物質の難消化性成分の含有量が、26〜44重量%である請求項1に記載する食品にビフィズズ菌の増殖作用を付与する方法。
- 酸加水分解後の上記物質のDEが17〜44であり、難消化性成分の平均分子量が1085以下であることを特徴とする、請求項3に記載する食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法。
- 酸加水分解後の上記物質のDEが28〜39であり、且つ該物質に含有されている難消化性成分の平均分子量が722〜908であることを特徴とする、請求項3に記載する食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法。
- ビフィズス菌がBifidobacterium longumであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載する食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法。
- 食品への添加量または置換量が食品の1食あたり上記物質に含まれている難消 化性成分換算で約4g以上であることを特徴とする、請求項1〜6に記載する食品にビフィズス菌の増殖促進作用を付与する方法。
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