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JP2020132572A - シラノール組成物、硬化物及び製造方法 - Google Patents

シラノール組成物、硬化物及び製造方法 Download PDF

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JP2020132572A
JP2020132572A JP2019028419A JP2019028419A JP2020132572A JP 2020132572 A JP2020132572 A JP 2020132572A JP 2019028419 A JP2019028419 A JP 2019028419A JP 2019028419 A JP2019028419 A JP 2019028419A JP 2020132572 A JP2020132572 A JP 2020132572A
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一浩 山内
Kazuhiro Yamauchi
一浩 山内
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Abstract

【課題】透明性を維持できるシラノール組成物、硬化物及び製造方法の提供。【解決手段】下記式(2)で表される環状シラノール(B1)及びその立体異性体、並びにそれらの脱水縮合物を含むシラノール組成物であって、X線回折分析において、2θ=8.7±0.1°、16.9±0.1°、11.4±0.1°、及び11.7±0.1°の全てにピークトップが実質的に見られないシラノール組成物。(式(2)中R1〜R4は各々独立してF、アリール、ビニル、アリル、Fで置換/非置換の直鎖若しくは分岐状のC1〜4のアルキル)【選択図】図1

Description

本発明は、シラノール組成物、硬化物及び製造方法に関する。
環状シラノールは、シラノール基を含有し、かつシロキサン結合により形成された環状構造を有する化合物である。このような化合物及び/又はその脱水縮合物を含む硬化性組成物は、発光ダイオード素子等の半導体素子の保護、封止、及び接着に使用される。また、環状シラノールは、発光ダイオード素子から発せられる光の波長を変更又は調整することができ、レンズ等の用途に用いられる。
近年、構造が精密に制御された環状シラノールが報告されている。例えば、非特許文献1には、all−cis体のテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンが開示されている。
Inorganic Chemistry Vol.49, No.2,2010, 572-577.
しかしながら、非特許文献1に開示されているall−cis体のテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンを含む硬化性組成物の硬化物は、all−cis体由来の結晶が析出し、透明度が低下するという課題がある。特に、従来の硬化性組成物では、時間が経つにつれて硬化性組成物の透明度が低下し、得られる硬化物の透明度も低下するという問題がある。したがって、硬化性組成物には、透明性を維持することが求められている。
そこで、本発明は、透明性を維持することができるシラノール組成物、硬化物及び製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進めた結果、X線回折分析した際に特定の回折パターンを有するシラノール組成物は、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
下記式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその脱水縮合物(A2)を含み、前記環状シラノール(A1)が、下記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含む、シラノール組成物であって、
X線回折分析において、2θ=8.7±0.1°、2θ=16.9±0.1°、2θ=11.4±0.1°、及び2θ=11.7±0.1°のすべてにピークトップが実質的に見られない、シラノール組成物。
(式(1)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
(式(2)〜(5)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
[2]
前記環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する前記環状シラノール(B2)の割合(モル%)をbとするとき、0<b≦20を満たす、
[1]に記載のシラノール組成物。
[3]
前記環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する前記環状シラノール(B3)の割合(モル%)をcとするとき、60≦c<100を満たす、
[1]又は[2]に記載のシラノール組成物。
[4]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定において、前記脱水縮合物(A2)の面積が、前記環状シラノール(A1)及び前記脱水縮合物(A2)の総面積に対して、0%超過50%以下である、
[1]〜[3]のいずれかに記載のシラノール組成物。
[5]
前記シラノール組成物中の遷移金属の割合が、1質量ppm未満である、
[1]〜[4]のいずれかに記載のシラノール組成物。
[6]
10%以下のヘイズを有する、
[1]〜[5]のいずれかに記載のシラノール組成物。
[7]
溶媒を含む、
[1]〜[6]のいずれかに記載のシラノール組成物。
[8]
接着剤として用いられる、
[1]〜[7]のいずれかに記載のシラノール組成物。
[9]
[1]〜[8]のいずれかに記載のシラノール組成物の硬化物。
[10]
下記式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその脱水縮合物(A2)を含み、前記環状シラノール(A1)が、下記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含む、組成物を、再結晶する工程を含む、シラノール組成物の製造方法であって、
前記再結晶における再結晶溶媒として芳香族炭化水素を用いる、シラノール組成物の製造方法。
(式(1)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
(式(2)〜(5)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
[11]
前記芳香族炭化水素が、トルエンである、[10]に記載の製造方法。
本発明によれば、透明性を維持することができるシラノール組成物を提供することができ、透明性に優れる硬化物及び透明性を維持することができるシラノール組成物の製造方法を提供することができる。
実施例5のシラノール組成物(硬化後)のX線回折分析によって得られた回折パターンを示す図である。 比較例1のシラノール組成物(硬化後)のX線回折分析によって得られた回折パターンを示す図である。 比較例2のシラノール組成物(硬化後)のX線回折分析によって得られた回折パターンを示す図である。 比較例3のシラノール組成物(硬化後)のX線回折分析によって得られた回折パターンを示す図である。 比較例4のシラノール組成物(硬化後)のX線回折分析によって得られた回折パターンを示す図である。 比較例5のシラノール組成物(硬化後)のX線回折分析によって得られた回折パターンを示す図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[シラノール組成物]
本実施形態のシラノール組成物(硬化性組成物ともいう。)は、下記式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその脱水縮合物(A2)を含み、前記環状シラノール(A1)が、下記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含む、シラノール組成物である。また、本実施形態のシラノール組成物は、X線回折分析において、2θ=8.7±0.1°、2θ=16.9±0.1°、2θ=11.4±0.1°、及び2θ=11.7±0.1°のすべてにピークトップが実質的に見られない。
式(1)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。
式(2)〜(5)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。
本実施形態のシラノール組成物のX線回折分析において、2θ=8.7±0.1°は、式(2)で表されるall−cis型の環状シラノール(B1)の結晶構造に由来するピークである。2θ=16.9±0.1°は式(3)で表されるcis−trans−cis型の環状シラノール(B2)に由来するピークである。2θ=11.4±0.1°は式(4)で表されるtrans−trans−cis型の環状シラノール(B3)である。2θ=11.7±0.1°は式(4)で表されるall−trans型の環状シラノール(B4)に由来するピークである。
本実施形態における環状ヒドロシラン化合物のシス及びトランスとは、それぞれ、隣接する2つのヒドロキシ基又は隣接する2つのR基が環状シロキサン骨格に対し同じ配向であること(シス)、隣接する2つのヒドロキシ基又は隣接する2つのR基が環状シロキサン骨格に対し異なる配向であること(トランス)を指す。
本実施形態のシラノール組成物は、透明性を維持することができ、当該シラノール組成物から得られる硬化物の透明性にも優れる。本実施形態のシラノール組成物が透明性を維持できる理由は、以下の理由が考えられる。但し、以下の理由は、透明性の維持の発現機序を限定するものではない。
本発明者の検討の結果、環状シラノール(B1)〜(B4)を含むシラノール組成物中に、式(2)で表されるcis−trans−cis型の環状シラノール(B2)が多量に存在すると、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)の析出を誘発し易くなることがわかった。この現象は、cis−trans−cis型の環状シラノール(B2)が核となり、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)の結晶成長を促進するためであると考えられる。また、この現象は、特に、室温にて長時間シラノール組成物を放置した場合に顕著である。
結晶成長したtrans−trans−cis型の環状シラノール(B3)の析出に伴い、X線回折分析において、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)に由来するピークが見られるようになる。したがって、シラノール組成物中の環状シラノール(B2)の割合を小さくすることにより、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)の析出を抑制することができる。すなわち、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)に由来するピークは、透明性の維持のための指標となる。
また、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)、all−cis型の環状シラノール(B1)、all−trans型の環状シラノール(B4)は、cis−trans−cis型の環状シラノール(B2)に比べて結晶性は低いものの、単独であれば結晶析出し易く、シラノール組成物の十分な透明性を得られない。環状シラノール(B1)〜(B4)がシラノール組成物で共存することにより、シラノール組成物中で各々の環状シラノールが結晶化して析出することを抑制できる。
以上のように、本発明者は、特定の回折角にピークトップが見られないシラノール組成物は、trans−trans−cis型の環状シラノール(B3)が経時的に析出することを抑制できるため透明性が維持され、当該シラノール組成物から得られる硬化物も透明性に優れることを見出した。
なお、本明細書において、「ピークトップが実質的に見られない」とは、上記2θの範囲においてピークが存在しないことを指す。ここで、本明細書におけるピークは、シグナル/ノイズ比(S/N比)=10倍以上のシグナルをピークとする。したがって、本実施形態における「X線回折分析した際、2θ=8.7±0.1°、2θ=16.9±0.1°、2θ=11.4±0.1°、及び2θ=11.7±0.1°のすべてに、ピークトップが実質的に見られない」とは、「X線回折分析した際、2θ=8.7±0.1°、2θ=16.9±0.1°、2θ=11.4±0.1°、及び2θ=11.7±0.1°のすべてに観測されるシグナルが、10倍未満のシグナル/ノイズ比(S/N比)である」と換言することもできる。
本実施形態における式(1)〜(5)のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、耐熱分解性の観点から、フェニル基が好ましい。
本実施形態における式(1)〜(5)のフッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、以下の基が挙げられる。
CF3−,
CF3CF2−,
CF3CF2CF2−,
(CF32CF−,
CF3CF2CF2CF2−,
HCF2CF2CF2CF2−,
(CF32CFCF2
上記の中でも、耐熱分解性の観点から、直鎖のフルオロアルキル鎖が好ましい。
本実施形態における式(1)〜(5)の非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル等が挙げられ、中でも、耐熱分解性の観点から、メチル基またはエチル基が好ましい。
本実施形態のシラノール組成物において、特定の回折角にピークトップが見られないように制御する方法としては、当該組成物中の環状シラノール(B1)、(B2)、(B3)、(B4)の割合を調整する方法が挙げられる。調整する方法としては、後述のシラノール組成物の製造方法にて述べるように、環状シラノール(B1)、(B2)、(B3)、(B4)を含むシラノール組成物を再結晶操作と結晶の除去とを組み合わせる方法が好適に挙げられる。
透明性の高いシラノール組成物を得る観点から、シラノール組成物中の環状シラノール(B1)、(B2)、(B4)の割合は少なく抑えることが好ましい。より具体的には、環状シラノール(B1)、(B2)、(B3)、(B4)を含むシラノール組成物の良溶媒溶液に、貧溶媒を添加することにより、環状シラノール(B1)、(B2)、(B4)が結晶として析出する。析出した環状シラノール(B1)、(B2)、(B4)を除去し、可溶部の溶液を濃縮することにより、シラノール組成物中の環状シラノール(B1)、(B2)、(B4)の割合を抑え、透明性の高いシラノール組成物を得ることができる。シラノール組成物中の環状シラノール(B1)、(B2)、(B4)の割合を少なく抑えるために、別途調製した環状シラノール(B3)をシラノール組成物に添加してもよい。
また、再結晶の際に用いる溶媒(貧溶媒)として芳香族炭化水素を用いることにより、環状シラノール(B2)が結晶化し、容易に除くことが可能となる。さらに、環状シラノール(B2)の結晶化は、European Polymer Journal 48 (2012) p1073-1081を参照して行うこともできる。
本実施形態におけるX線回折分析は、具体的には実施例に記載の方法によって行われる。
本実施形態における環状シラノール(A1)は、上記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含有する。環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する環状シラノール(B2)の割合(モル%)をbとするとき、割合bは、好ましくは0<b≦20であり、より好ましくは0<b≦15であり、さらに好ましくは0<b≦10であり、よりさらに好ましくは0.5≦b≦9であり、さらにより好ましくは1≦b≦8である。これにより、シラノール組成物は、硬化形態における透明性に一層優れる傾向にある。また、シラノール組成物は透明性を維持できる傾向にある。
割合bを0<b≦10に調整する方法としては、上述したように、例えば、再結晶操作と結晶の除去とを組み合わせる方法等が挙げられる。
環状シラノール(B1)〜(B4)の割合は、合成により得られた環状シラノールを1H−NMR測定することより算出することができる。具体的には、1H−NMR測定において、環状シラノール(B1)〜(B4)が有するR1〜R4基に含まれる水素は、環状シラノールの他の異性体が有するR1〜R4基中の水素に対して、特定の位置にて観測される。したがって、これらの水素の積分値から環状シラノール(B2)の割合を算出する。
本実施形態のシラノール組成物の1H−NMRを測定した場合、環状シラノール(A1)に由来する4種類の異性体の6種類のピークが観測される(ここで、trans−trans−cisについては、3種類のピークが観測される。)。R1〜R4基中の水素は、高磁場側から、all−cis(環状シラノール(B1))、trans−trans−cis(環状シラノール(B3))、trans−trans−cis(環状シラノール(B3))、cis−trans−cis(環状シラノール(B2))、all−trans(環状シラノール(B4))、trans−trans−cis(環状シラノール(B3))型の順に観測されるため、かかる水素の積分値から、前記環状シラノール(B1)〜(B4)のそれぞれの割合を算出する。環状シラノール(B1)〜(B4)の割合は、具体的には実施例に記載の方法によって算出することができる。
環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する環状シラノール(B3)の割合(モル%)をcとするとき、割合cは、好ましくは60≦c<100であり、より好ましくは70≦c<100であり、さらに好ましくは80≦c<100である。
割合cを60≦c<100とする方法としては、上述したように、例えば、再結晶操作と結晶の除去とを組み合わせる方法等が挙げられる。また、割合cを70≦c<100とする方法としては、例えば、(B1)〜(B4)の混合物にtrans−trans−cis体の環状シラノール(B3)を添加する方法等が挙げられる。
環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する環状シラノール(B1)の割合(モル%)をaとするとき、割合aは、好ましくは0<a≦30であり、より好ましくは0.5≦a≦20であり、さらに好ましくは1≦a≦10である。
環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する環状シラノール(B4)の割合(モル%)をdとするとき、割合dは、好ましくは0<d≦50であり、より好ましくは0.5≦d≦40であり、さらに好ましくは1≦d≦30である。
本実施形態のシラノール組成物は、式(1)で表される環状シラノール(A1)の脱水縮合物(A2)を含む。脱水縮合物(A2)とは、式(1)で表される環状シラノールが有するシラノール基の少なくとも一つが、少なくとも一つの式(1)で表される別の環状シラノール分子における少なくとも一つのシラノール基と脱水縮合し、シロキサン結合を生成する反応により得られる化合物である。
式(1)で表される環状シラノールの脱水縮合物は、例えば、模式的に以下の式(7)で表すことができる。
式(7)中、Rは、前記式(1)中のR1〜R4と同義であり、mは、2以上の整数である。環状シラノールにおける脱水縮合するシラノール基は、いずれのシラノール基であってもよい。このとき、式(7)で表される脱水縮合物においては、2分子以上の環状シラノール構造間で2以上のシロキサン結合が形成されていてもよい。
脱水縮合物(A2)としては、具体的には、以下の化合物が挙げられる。ただし、脱水縮合物(A2)は以下の化合物に限定されるものではない。
なお、以下の化合物における、環状シラノール骨格に対するヒドロキシ基(−OH)及びR基の配向は制限されない。また、以下の化合物におけるRは、各々独立して、式(1)におけるR1〜R4と同義である。
脱水縮合物(A2)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定によって算出した分子量が、好ましくは500〜1,000,000であり、より好ましくは500〜100,000であり、さらに好ましくは500〜10,000である。
本実施形態のシラノール組成物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定において、前記脱水縮合物(A2)の面積が、前記環状シラノール(A1)及び前記脱水縮合物(A2)の総面積に対して、0%超過50%以下であることが好ましい。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定により求められる各化合物の面積は、シラノール組成物中の各化合物の含有量を表す。(A2)の面積が0%超過50%以下であることにより、シラノール組成物を製造する際に、粘度が高くなり過ぎず、有機溶媒や水を含むシラノール組成物から有機溶媒や水を除去しやすくなる傾向にある。(A2)の面積は、より好ましくは0%超過40%以下であり、さらに好ましくは0%超過25%以下である。
脱水縮合物(A2)の面積、すなわち脱水縮合物(A2)の含有量は、例えば、シラノール組成物の製造において、ヒドロシラン化合物を酸化させ環状シラノールを得るとき、酸化反応後の精製により制御することができる。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる(A1)及び(A2)の面積、すなわち、(A1)及び(A2)の含有量の測定は、具体的には実施例に記載の方法によって行うことができる。
本実施形態のシラノール組成物は、10%以下のヘイズを有することが好ましい。シラノール組成物のヘイズが10%以下であることにより、硬化形態における透明性に一層優れ、さらに接着性に優れる傾向にある。なお、ここでいうヘイズは、シラノール組成物を後述する実施例の方法にて乾燥させて、3μmの膜厚としたときのヘイズをいう。
シラノール組成物におけるヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる金属量を抑える方法等が挙げられる。
シラノール組成物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
シラノール組成物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
[シラノール組成物の製造方法]
本実施形態のシラノール組成物は、例えば、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させること等によって調製することができる。ヒドロシラン化合物(例えば、環状構造を有する環状ヒドロシラン化合物)は、水素を含有する四置換テトラシクロシロキサンであればいずれも使用することができ、市販品を使用することができる。
ヒドロシラン化合物は、好ましくは、以下の式(8)で表される四置換テトラシクロシロキサンである。また、ヒドロシラン化合物として式(8)で表される四置換テトラシクロシロキサンを原料に用いて酸化させた場合、得られるテトラヒドロキシ四置換テトラシクロシロキサンは、下記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)が混在してよく、好ましくは環状シラノール(B1)〜(B4)からなる。
式(8)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。ここで、R1〜R4の各置換基の具体例は、式(1)中のR1〜R4で表される各置換基の具体例と同様である。
環状ヒドロシラン化合物としては、具体的には、テトラメチルテトラシクロシロキサン等が挙げられる。
一般的に、前記環状ヒドロシラン化合物は、ヒドロキシ又はアルコキシ官能基を有しないが、このような官能基は、酸化反応前に一定量含まれていてもよい。
ヒドロシラン化合物を酸化する方法としては、例えば、触媒及び/又は酸化剤を使用する方法等が挙げられる。
触媒としては、例えば、Pd、Pt及びRh等の金属触媒を使用することができる。これらの金属触媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの金属触媒は、炭素等の担体に担持されていてもよい。
酸化剤としては、例えば、ペルオキシド類等を使用することができる。ペルオキシド類としては、いずれも使用することができ、例えば、ジメチルジオキシランのようなオキシラン類等が挙げられる。
ヒドロシラン化合物を酸化する方法としては、反応性、及び反応後の触媒除去が容易であるとの観点から、Pd/炭素を用いることが好ましい。
水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって調製される環状シラノールは、環状構造であるために、原料のSiH基の水素原子のシス、トランスに由来する種々の異性体を含む。
前記式(8)で表される環状ヒドロシラン化合物は、クロロシランの加水分解や、ポリメチルシロキサンの平衡化重合反応により得られるが、シス、トランスに由来する異性体の割合を制御することは困難であるため、環状ヒドロシラン化合物中には様々なシス、トランスに由来した異性体が混在する。
本実施形態のシラノール組成物は、式(8)で表される四置換テトラシクロシロキサンをさせる工程を含む製造方法により得ることができる。このとき、本実施形態のシラノール組成物は、特定の回折パターンを有するものとするために、再結晶する工程を含む製造方法によって製造することが好ましい。
再結晶操作を行う際、透明性の高いシラノール組成物を得る観点から、冷却温度は10℃未満が好ましい。また、環状シラノールの収量向上の観点から、貧溶媒の量(体積)は、良溶媒の等量以上、20倍以下が好ましい。
良溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。これらの良溶媒は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
貧溶媒としては、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素;クロロホルム;ヘキサン;ジクロロメタン;キシレン;シクロヘキサン;等が挙げられる。これらの貧溶媒は一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の貧溶媒の中でも芳香族炭化水素を用いることが好ましく、より安定してcis−trans−cis体の割合を減らすことが可能であることから、トルエンを用いることがより好ましい。再結晶操作における溶媒として、芳香族炭化水素を用いることにより、マイナス40℃等の低温条件での再結晶操作をすることなく、マイナス5℃〜10℃の温度でも安定してcis−trans−cis体の割合を減らすことができる。マイナス40℃等の低温条件において再結晶をすることにより結晶の除去は容易にできるものの、低温条件により水が組成物系内に混入し、組成物中の成分の変性が起こりやすくなる。
したがって、本実施形態の一つは、式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその脱水縮合物(A2)を含み、前記環状シラノール(A1)が、式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含む、組成物を、再結晶する工程を含む、シラノール組成物の製造方法であって、前記再結晶における再結晶溶媒として芳香族炭化水素を用いる、シラノール組成物の製造方法である。
再結晶操作においては、温度をマイナス5℃〜10℃の範囲とすることが好ましく、0℃〜8℃の範囲とすることがより好ましい。
また、本実施形態のシラノール組成物は、特定の回折パターンを有するものとするために、結晶を析出させるために良溶媒及び/又は貧溶媒を添加した後、さらに貧溶媒を追加することが好ましい。追加する貧溶媒の量は特に制限されず、最初に使用した貧溶媒の体積の0.1〜10倍であればよい。貧溶媒を追加することにより、シラノール組成物中の環状シラノール(B2)の割合を一層低く抑えることができる。
ヒドロシラン化合物の酸化を行う際金属触媒を用いた場合、上述した再結晶操作により、不溶物残渣中に金属触媒中に含まれる遷移金属が残るため、結晶を除去する操作によって、ろ液中の遷移金属の割合を低減することができる。したがって、再結晶操作によって、金属触媒が残留することに由来するシラノールの着色を低減することも可能となる。
シラノール組成物の透過性に一層優れる観点から、遷移金属の割合は、シラノール組成物の全重量に対し、10質量ppm未満であることが好ましく、5質量ppm未満であることがより好ましく、1質量ppm未満であることがさらに好ましい。
遷移金属の割合は、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
遷移金属としては、例えば、パラジウムが挙げられる。
本実施形態のシラノール組成物は、上述したように、水又はアルコールの存在下で、ヒドロシラン化合物を酸化させることによって環状シラノールを調製し、当該環状シラノールの合成で得られた生成物の良溶媒溶液に貧溶媒を添加することによる再結晶、ろ過を経て、ろ過により得られる可溶部の溶液を濃縮することにより、好適に製造される。
本実施形態のシラノール組成物の製造において、可溶部の溶液の濃縮は任意で行えばよく、可溶部の溶液そのものをシラノール組成物として使用してもよい。また、可溶部の溶液の濃縮では当該溶液に含まれるすべての溶媒を除去する必要はないため、本実施形態のシラノール組成物は、可溶部の溶液に含まれる溶媒の一部を留去して得られる粗濃縮物であってもよい。またさらに、本実施形態のシラノール組成物は、可溶部の溶液を濃縮した後に、溶媒で再希釈したものであってもよい。以上のように、本実施形態の好ましい態様の一つは、溶媒を含むシラノール組成物である。
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒の量は、特に制限されないが、シラノール組成物全量に対し、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、さらに好ましくは85質量%以下である。溶媒の量の下限値は特に限定されないが、通常1質量%以上である。
溶媒を含むシラノール組成物における溶媒としては、反応に使用した水及び/又はアルコール、再結晶時に使用した良溶媒及び貧溶媒等が挙げられる。溶媒としては、以下に限定されるものではないが、具体的には、水、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、グリセリン、エチレングリコール、メチルエチルケトン、トルエン、クロロホルム、ヘキサン、ジクロロメタン、キシレン等が挙げられる。これらの溶媒は、一種単独であってもよく、二種以上の組み合わせであってもよい。
本実施形態のシラノール組成物に析出した白色物質の同定にはX線回折を用いることができる。具体的には、X線回折の測定の結果、2θピークトップにおいて、all−cis型の環状シラノール(B1)、cis−trans−cis型の環状シラノール(B2)、trans−tras−cis型の環状シラノール(B3)、all−trans型の環状シラノール(B4)は以下にピークシグナルが観測されることから、結晶物質を同定することができる。
all−cis型の環状シラノール(B1):8.7±0.1°
cis−trans−cis型の環状シラノール(B2):16.9±0.1°
trans−tras−cis型の環状シラノール(B3):11.4±0.1°
all−trans型の環状シラノール(B4):11.7±0.1°
[硬化物]
本実施形態の硬化物は、本実施形態のシラノール組成物を硬化することにより得られる。すなわち、本実施形態の一つは、本実施形態のシラノール組成物の硬化物である。
本実施形態の硬化物は、シラノール組成物中の環状シラノール及びその脱水縮合物に含まれるシラノール基(−Si−OH)の脱水縮合反応により、シロキサン結合(−Si−O−Si−)を形成させることにより得られる。また、本実施形態の硬化物は、テトラヒドロフラン、トルエン等の溶媒に対して不溶なものである。
本実施形態の硬化物は、X線回折における2θピークトップにおいて、特定のピークが観測されない事により、透明性に優れる。
また、硬化物において析出した白色物質の同定にはX線回折による手法が有効に用いることができる。具体的には、X線回折の測定の結果、2θピークトップにおいて、all−cis型の環状シラノール(B1)、cis−trans−cis型の環状シラノール(B2)、trans−tras−cis型の環状シラノール(B3)、all−trans型の環状シラノール(B4)は以下にピークシグナルが観測されることから、結晶物質を同定することができる。
all−cis型の環状シラノール(B1):8.7±0.1°
cis−trans−cis型の環状シラノール(B2):10.6±0.1°
trans−tras−cis型の環状シラノール(B3):11.4±0.1°
all−trans型の環状シラノール(B4):11.7±0.1°
硬化物のX線回折における2θピークトップは、それぞれ後述する実施例に記載された方法に従って測定することができる。
本実施形態の硬化物のヘイズは、10%以下であることが好ましい。シラノール硬化物のヘイズが10%以下であることにより、透明性及び接着性に一層優れる傾向にある。
硬化物のヘイズを10%以下とする方法としては、例えば、式(1)で表される環状シラノール(A1)における異性体の割合を調整して結晶性の高い異性体の割合を低下させる方法や、シラノール組成物に含まれる金属量を抑える方法等が挙げられる。
硬化物のヘイズは、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
硬化物のヘイズは、具体的には、実施例に記載の方法によって測定することができる。
環状シラノールは、触媒非存在下で硬化(脱水縮合)してもよく、触媒を添加して硬化してもよい。
環状シラノールの硬化に使用される触媒は、環状シラノールの加水分解及び縮合反応を促進させる作用をする。触媒としては、酸触媒又はアルカリ触媒を使用することができる。
酸触媒としては、特に制限はないが、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ酸、ホルム酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、マレイン酸、オレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、p−アミノ安息香酸、及びp−トルエンスルホン酸等が好適に挙げられる。
アルカリ触媒としては、特に制限はないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水及び有機アミン等が好適に挙げられる。また、無機塩基が使用される場合には、金属イオンを含まない絶縁膜を形成するための組成物が使用される。
酸触媒及びアルカリ触媒は、それぞれ、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
触媒の添加量は、反応条件によって調節することができ、環状シラノールの水酸基1モルに対して、好ましくは0.000001〜2モルである。添加量が環状シラノールの水酸基1モルに対して2モルを超える場合には、低濃度でも反応速度が非常に速いため分子量の調節が難しく、ゲルが発生しやすい傾向にある。
硬化物を得る際に、シラノール組成物を酸触媒及びアルカリ触媒を利用することにより、段階的に加水分解及び縮合反応することができる。具体的には、シラノール組成物を酸で加水分解及び縮合反応を行った後、塩基で再び反応させたり、あるいは、塩基で先に加水分解及び縮合反応を行って、再び酸で反応させたりして、硬化物を得ることができる。また、酸触媒とアルカリ触媒とで各々反応させた後、縮合物を混合してシラノール組成物として使用することもできる。
[接着剤]
本実施形態のシラノール組成物は、接着剤として使用することができる。すなわち、本実施形態の一つは、接着剤として用いられるシラノール組成物である。接着剤としての使用例を以下で説明する。まず、本実施形態のシラノール組成物を基材に塗布することにより、基材上に接着層を形成させる。次に、接着層を硬化させることにより硬化物が形成される。この硬化物が、接着剤に相当する。基材としては、例えば、ガラス、シリコンウエハー、SiO2ウエハー、SiNウエハー、化合物半導体等が挙げられる。
[硬化方法]
本実施形態の一つは、環状シラノール及びその脱水縮合物を含むシラノール組成物を硬化させる方法である。本実施形態のシラノール組成物を硬化させる方法としては、例えば、熱硬化することが挙げられる。シラノール組成物を熱硬化させるときの温度(硬化温度)は、特に制限はないが、好ましくは25〜200℃であり、より好ましくは50〜200℃であり、さらに好ましくは75〜180℃であり、特に好ましくは100〜150℃である。
また、熱硬化させる時間は、10分〜72時間が好ましく、より好ましくは30分〜48時間、さらに好ましくは1〜24時間、特に好ましくは1〜12時間である。
本発明を実施例及び比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。本発明及び以下の実施例、比較例により得られるシラノール組成物及びその硬化物、硬化物変性体の物性の測定方法および評価方法は以下のとおりである。
(溶媒を含む硬化性組成物における環状シラノール及びその脱水縮合物の質量パーセント濃度の算出)
溶液中の環状シラノール及びその重合体(脱水縮合物)の重量パーセント濃度は、日本電子株式会社製ECZ400Sを用い、プローブはTFHプローブを用いて、以下のようにしてNMR測定を行うことにより求めた。
硬化性組成物が、例えば、テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその脱水縮合物のイソプロパノール溶液の場合は、テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその脱水縮合物のイソプロパノール溶液0.1gに重アセトン1gを添加したサンプルを用いて、1H−NMRを測定した。なお、重溶媒の基準ピークを2.05ppmとし、積算回数は64回で測定を行った。
テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその脱水縮合物の質量パーセント濃度は近似的に下記式により算出できる。
テトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサン及びその脱水縮合物の質量パーセント濃度(%)=(−0.1−0.3ppmの領域のSiに結合するメチル基のピーク積分比/12×304.51)/{(−0.1−0.3ppmの領域のSiに結合するメチル基のピーク積分比/12×304.51)+(3.7−4.1ppmの領域のイソプロパノールの炭素に結合する水素のピーク積分値/1×60.1)}
なお、前記式中、304.51はテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンの分子量、60.1はイソプロパノールの分子量を示す。
1H−NMR測定を用いた環状シラノールの立体異性体割合の算出)
日本電子株式会社製ECZ400Sを用い、プローブはTFHプローブを用いて、以下のようにしてNMR測定を行った。
得られたシラノール組成物に生成物0.1g、及び重アセトン1gを添加し、1H−NMRを測定した。なお、重溶媒の基準ピークを2.05ppmとし、積算回数は64回で測定を行った。
ヒドロシラン化合物としてテトラメチルテトラシクロシロキサンを原料に用いて酸化させた場合、得られるテトラヒドロキシテトラメチルテトラシクロシロキサンの1H−NMRでは、0.04−0.95ppmの領域に4種類の異性体に由来する6種類のSiに結合するメチル基のピークが観測された。
メチル基の水素は、高磁場側から、all−cis型(0.057ppm)、trans−trans−cis型(0.064ppm)、trans−trans−cis型(0.067ppm)、cis−trans−cis型(0.074ppm)、all−trans型(0.080ppm)、trans−trans−cis型(0.087ppm)の順に観測された。Delta5.2.1(日本電子製)を用いて前記6つのピークに関してローレンツ変換による波形分離を行い、これらの水素のピーク強度から、環状シラノールのそれぞれの立体異性体割合を算出した。
(各立体異性体の調製)
・all−cis体(環状シラノール(B1))
Inorganic Chemistry Vol.49, No.2,2010,572−577の合成例に従って合成した。
・cis−trans−cis体(環状シラノール(B2))
実施例1にて得られた再結晶物を用いた。
・all−trans体(環状シラノール(B4))
実施例1にて作製したシラノール10wt%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液をさらに濃縮し、シラノール20wt%となるまで濃縮した溶液を用いて、液体クロマトグラフィーを用いて立体異性体の分取を行った。
<液体クロマトグラフィーの条件>
装置 GLサイエンス製液体クロマトグラフィー
ポンプ :PU715
カラムオーブン :CO705
フラクションコレクラー :FC204YMC−PackSIL−06 φ30mm×250mm
溶離液 :Cyclohexane/EtoAc =60/40
流速 :40mL/min
注入量 :5mL
温度 :40℃
検出 :得られたフラクションをELSD測定にて評価し、検出した。
得られたall−trans体の溶離液を静置することでall−trans体の結晶が得られたため、濾別により回収した。
・trans−trans−cis体(環状シラノール(B3))
all−trans体と同様の方法にて得られた溶離液を濃縮後イソプロパノールに置換することで得た。
(環状シラノール(A1)及び脱水縮合物(A2)のGPCによる面積比の測定)
シラノール組成物0.03gに対して、1.5mLの割合でテトラヒドロフランに溶解した溶液を測定試料とした。
この測定試料を用いて、東ソー社製HLC−8220GPCで測定した。
カラムは東ソー社製のTSKガードカラムSuperH−H、TSKgel SuperHM−H、TSKgel SuperHM−H、TSKgel SuperH2000、TSKgel SuperH1000を直列に連結して使用し、テトラヒドロフランを移動相として0.35ml/分の速度で分析した。
検出器はRIディテクターを使用し、American Polymer Standards Corporation製ポリメタクリル酸メチル標準試料(分子量:2100000、322000、87800、20850、2000、670000、130000、46300、11800、860)、及び1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン(分子量240.5、東京化成製)を標準物質として、数平均分子量及び重量平均分子量を求め、p=0及び、p≧1のピークを特定し、環状シラノール(A1)及び脱水縮合物(A2)それぞれのピークの面積比を算出した。
(遷移金属(Pd)の含有量)
シラノール組成物にフッ硝酸を加えて密閉加圧酸分解後、試料をテフロン(登録商標)ビーカーに移し、加熱乾固させた。その後、試料に王水を加え、完全溶解した溶解液を20mLに定容し、ICP質量分析装置(Themo Fisher Scientifi社製 iCAP Qc)による試料中の金属割合の定量分析を行った。
(ヘイズの測定)
ヘイズは濁度計NDH5000W(日本電色工業製)を用い、JISK7136に基づき測定を行った。以下に具体的操作を示す。
シラノール組成物のヘイズは、素ガラス基板5cm×5cm×0.7mm厚(テクノプリント社製)にシラノール組成物42wt%イソプロパノール溶液をバーコーターNo.40(アズワン製)にて塗布後、60℃1時間にて減圧下で乾燥し、ヘイズを測定した。なお、ヘイズ測定において、シラノール組成物42wt%イソプロパノール溶液は室温で24時間置いたものを使用した。また、ヘイズ測定のブランクは素ガラス基板5cm×5cm×0.7mm厚(テクノプリント社製)のみを用いた。
硬化物のヘイズはシラノール組成物のヘイズ測定で作製したサンプルを常圧にて所定時間加熱することにより得られたサンプルを用いて測定した。
(X線回折における2θピークトップの算出)
ヘイズの測定用に作製したサンプルの作製に準じて、得られたシラノール組成物(上述の24時間置いていないものではない)のX線回折測定用サンプルを作製した。得られたシラノール組成物のX線回折における2θピークトップ、及び、得られたシラノール組成物を60度で1時間真空乾燥後、100度で2時間硬化を行い、得られた硬化物のX線回折における2θピークトップをω=1度で測定した。X線回折装置(株式会社リガク製、型式:SmartLab)により測定した。
(膜厚の測定)
膜厚はヘイズの測定用に作製したサンプルを表面形状測定機計(製造所名:(株)小坂研究所型式:ET4000AK31製)にて測定し、膜厚を算出した。
(接着力の確認)
シラノール組成物のヘイズ測定で作製したサンプルの上に、T−3000−FC3マニュアルダイボンダー(TRESKY製)を用いて直径2ミリの半球石英レンズを荷重400g3秒で乗せた。その後、常圧下、100℃2時間加熱した後に、得られた半球レンズが載ったガラスを横から押し、接着の有無を確認した。
[実施例1]
(シラノール組成物の調製工程)
反応容器に、蒸溜水28g、テトラヒドロフラン(和光純薬製)960mL、Pd/C(10%パラジウム/炭素、エヌ・イー ケムキャット社製)3.7gを入れて混合した後、反応容器の温度を5℃に維持した。
前記反応容器に1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン81g(東京化成製、D4Hとも記載する)を徐々に加え、2時間撹拌後、1H−NMRにてSiH基が消失するまでPd/C(10%パラジウム/炭素)1.8gずつ3回に分け、計17時間反応を行った。SiH基の消失は、反応液を、日本電子製NMR(ECZ400S)を用いて反応液1wt%濃度の重アセトン溶液で1H−NMRを測定し、4〜5ppmに存在するSiH基の消失を確認した。
反応液に硫酸マグネシウム75gを添加し、5℃で30分撹拌した。セライトNo.545(和光純薬製)450gを、テトラヒドロフランを用いて漏斗へ充填した。続いて、反応液を、当該セライトを通過させ、テトラヒドロフラン1.5Lによってセライトを洗浄し、1,3,5,7−テトラヒドロキシ−1,3,5,7−テトラメチルテトラシクロシロキサン(以下、D4OHとも記載する)含有THF溶液2057gを得た。この溶液をエバポレーターで水浴15℃にて残量587g(649mL)となるまで濃縮した。
(再結晶工程)
濃縮した溶液を用いて、ジクロロメタン4.4Lとテトラヒドロフラン217mLとの混合溶媒中へ投じる再結晶操作を行った。混合液にさらにジクロロメタンを1L追加した。混合液を、再結晶温度5℃で4時間静置後、析出した不溶物を減圧濾過し、結晶固体を22g回収した。可溶部のろ液6169gを減圧下で濃縮し、シラノール組成物10質量%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液となるまで濃縮した。シラノール組成物10質量%のテトラヒドロフラン及びジクロロメタン混合溶液10gを1gまで減圧下で濃縮後、再度100gのイソプロパノールを添加した。さらに、再度減圧下で濃縮を行い、所定濃度のシラノール組成物(イソプロパノール溶液)を作製した。
(シラノール組成物の物性評価)
得られたシラノール組成物を用いてヘイズ等の物性を評価した。また、環状シラノールの立体異性体割合を1H−NMRにより算出した。得られたシラノール組成物を用いてヘイズ測定用サンプルを作成し、X線回折における2θピークトップについて、8.7度、16.9度、11.7度いずれかのピークの有無を測定した。
(硬化工程)
再結晶工程で作製したシラノール組成物を、60℃1時間真空乾燥後、100℃2時間熱硬化を行うことにより硬化物を得た。得られた硬化物のX線回折における2θピークトップを8.6度、10.6度、11.7度いずれかのピークの有無を測定した。
[実施例2]
実施例1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans−trans−cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans−trans−cis体比率を77%としたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。
[実施例3]
実施例1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans−trans−cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans−trans−cis体比率を86%としたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。
[実施例4]
実施例1にて作製したシラノール組成物(イソプロパノール溶液)に、前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans−trans−cis体(環状シラノール(B3))を加え、trans−trans−cis体比率を91%としたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。
[実施例5]
再結晶溶媒をトルエンとしたこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。X線回折分析により得られたスペクトルデータ(硬化後)を図1に示す。
[比較例1]
再結晶工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。X線回折分析により得られたスペクトルデータ(硬化後)を図2に示す。
[比較例2]
前記(各立体異性体の調製)にて調製したall−cis体(環状シラノール(B1))を用い、再結晶工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。X線回折分析により得られたスペクトルデータ(硬化後)を図3に示す。
[比較例3]
前記(各立体異性体の調製)にて調製したcis−trans−cis体(環状シラノール(B2))を用い、再結晶工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。X線回折分析により得られたスペクトルデータ(硬化後)を図4に示す。
[比較例4]
前記(各立体異性体の調製)にて調製したall−tranas体(環状シラノール(B4))を用い、再結晶工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。X線回折分析により得られたスペクトルデータ(硬化後)を図5に示す。
[比較例5]
前記(各立体異性体の調製)にて調製したtrans−trans−cis体(環状シラノール(B3))を用い、再結晶工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の実験を行った。X線回折分析により得られたスペクトルデータ(硬化後)を図6に示す。
実施例及び比較例で得られたシラノール組成物及び硬化物の物性及び評価結果を表1及び表2に示す。
本発明のシラノール組成物を硬化して得られる硬化物は、発光ダイオード素子等の半導体素子の保護、封止、及び接着や、発光ダイオード素子から発せられる光の波長の変更又は調整、並びに、レンズ等の分野において産業上の利用可能性を有する。さらに、本発明の硬化物は、レンズ材料、光学デバイス、光学部品用材料、ディスプレイ材料等の各種の光学用材料、電子デバイス、電子部品用絶縁材料、コーティング材料等の分野において産業上の利用可能性を有する。

Claims (11)

  1. 下記式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその脱水縮合物(A2)を含み、前記環状シラノール(A1)が、下記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含む、シラノール組成物であって、
    X線回折分析において、2θ=8.7±0.1°、2θ=16.9±0.1°、2θ=11.4±0.1°、及び2θ=11.7±0.1°のすべてにピークトップが実質的に見られない、シラノール組成物。
    (式(1)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
    (式(2)〜(5)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
  2. 前記環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する前記環状シラノール(B2)の割合(モル%)をbとするとき、0<b≦20を満たす、
    請求項1に記載のシラノール組成物。
  3. 前記環状シラノール(B1)〜(B4)の総量に対する前記環状シラノール(B3)の割合(モル%)をcとするとき、60≦c<100を満たす、
    請求項1又は2に記載のシラノール組成物。
  4. ゲルパーミエーションクロマトグラフィーの測定において、前記脱水縮合物(A2)の面積が、前記環状シラノール(A1)及び前記脱水縮合物(A2)の総面積に対して、0%超過50%以下である、
    請求項1〜3のいずれか1項に記載のシラノール組成物。
  5. 前記シラノール組成物中の遷移金属の割合が、1質量ppm未満である、
    請求項1〜4のいずれか一項に記載のシラノール組成物。
  6. 10%以下のヘイズを有する、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載のシラノール組成物。
  7. 溶媒を含む、
    請求項1〜6のいずれか一項に記載のシラノール組成物。
  8. 接着剤として用いられる、
    請求項1〜7のいずれか一項に記載のシラノール組成物。
  9. 請求項1〜8のいずれか一項に記載のシラノール組成物の硬化物。
  10. 下記式(1)で表される環状シラノール(A1)、及びその脱水縮合物(A2)を含み、前記環状シラノール(A1)が、下記式(2)〜(5)で表される環状シラノール(B1)〜(B4)を含む、組成物を、再結晶する工程を含む、シラノール組成物の製造方法であって、
    前記再結晶における再結晶溶媒として芳香族炭化水素を用いる、シラノール組成物の製造方法。
    (式(1)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
    (式(2)〜(5)中、R1〜R4は、各々独立して、フッ素原子、アリール基、ビニル基、アリル基、フッ素で置換された直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基、又は、非置換の直鎖状若しくは分岐状の炭素数1〜4のアルキル基である。)
  11. 前記芳香族炭化水素が、トルエンである、請求項10に記載の製造方法。
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