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JP2020146027A - 糖鎖への親和性が向上したフコース結合性タンパク質、およびその製造方法 - Google Patents

糖鎖への親和性が向上したフコース結合性タンパク質、およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】糖鎖への結合親和性および/または熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質およびその製造方法の提供。【解決手段】特定のアミノ酸配列で示されるフコース結合性タンパク質を構成するアミノ酸配列において、39番目として特定されるグルタミン残基をロイシン残基へ置換すること、65番目として特定されるグルタミン残基をロイシン残基へ置換すること、72番目として特定されるシステイン残基をグリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基へ置換すること、さらに、81番目として特定されるグルタミン酸残基をシステイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基およびアスパラギン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基へ置換する方法。【選択図】なし

Description

本発明は、糖鎖に対する結合親和性および/または熱に対する安定性を改良したフコース結合性タンパク質に関する。より詳しくは、タンパク質工学的手法を用いて改変することにより、特定のフコース含有糖鎖に対する結合親和性および/または熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質に関する。
グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L−CレクチンのN末端ドメインに由来するBC2LCNは、フコース残基を含む糖鎖への結合親和性を有するレクチンであり、例えば、非特許文献1、特許文献1および特許文献2に記載の未分化糖鎖マーカーとして知られているHタイプ1型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc)およびHタイプ3型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GalNAc)以外に、ルイスY型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc)やルイスX型糖鎖(Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc)等のフコース残基を含む複数種の糖鎖に高い結合親和性を有することが知られている(非特許文献2)。また、BC2LCNは、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖が高発現している未分化状態のヒトES細胞やiPS細胞には結合するが、ヒト体細胞には結合しないことが知られている(非特許文献3)。さらに、BC2LCNは前記未分化糖鎖マーカーに結合親和性を有することから、例えば、未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出や、ヒトES細胞やiPS細胞等の未分化細胞の検出に使用されている(特許文献1および特許文献2)。また、Hタイプ1型糖鎖はSSEA−5として特定のがん細胞に高発現していることが知られている(非特許文献4)。
しかしながら、BC2LCNは既知の未分化細胞検出用抗体である抗Nanog抗体等と同等の未分化幹細胞検出能をもっているものの(特許文献2)、BC2LCNと未分化細胞の糖鎖の結合は静電相互作用によるものであり、結合の強さは溶媒や塩濃度等の外環境の影響を受ける。このため、実験条件によっては前記未分化細胞および/または前記未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出において、当該糖鎖とBC2LCNの結合親和性が低くなる可能性が考えられることから、前記未分化糖鎖マーカーへの結合親和性が向上したBC2LCNが求められている。
タンパク質の機能を向上させる方法として、タンパク質工学的手法によりタンパク質にアミノ酸変異を導入し、目的とする機能を向上させる方法が公知であり、例えば特許文献3には特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、熱、酸および/またはアルカリに対する安定性が向上したFc結合性タンパク質が記載されている。しかしながら、アミノ酸変異導入により糖鎖への結合親和性や熱に対する安定性が向上したBC2LCNに関する報告はこれまでにない。
国際公開第2013/065302号 国際公開第2013/128914号 特開2011−206046号公報
Tateno,H等,Stem Cells Transl Med.2013,2(4):265−273. Sulak,O等,Structure.2010,18(1):59−72. Tateno,H等,J Biol Chem.2011,286(23):20345−20353. Tang,C等,Nat Biotechnol.2011,29(9):829−835.
本発明の課題は、優れた性質を有するフコース結合性タンパク質を提供することである。
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、配列番号1で示される155アミノ酸残基からなるBC2LCNを構成するアミノ酸配列において、81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基およびアスパラギン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換することにより、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性が向上したフコース結合性タンパク質が得られることを見出した。さらに、配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換すること、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換すること、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基をグリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換することにより、前記糖鎖に対する結合親和性を維持しつつ、熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の[1]から[11]に記載した発明を包含するものである。
[1]
以下の(a)〜(c)のいずれかであるフコース結合性タンパク質。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)から(4)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含む、フコース結合性タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、グルタミン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、システイン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、グルタミン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基の、グルタミン酸残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(b)前記(a)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目、72番目および81番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、前記(1)〜(4)の少なくとも1つのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
[2]
前記(1)〜(4)に記載のアミノ酸置換が、それぞれ以下の(5)〜(8)に記載のアミノ酸置換である、[1]に記載のフコース結合性タンパク質。
(5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
(7)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
(8)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基の、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基およびアスパラギン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
[3]
配列番号2から配列番号19のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、[1]または[2]に記載のフコース結合性タンパク質。
[4]
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する[1]から[3]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[5]
C末端に付加したアミノ酸配列がシステイン残基を含むオリゴペプチドである、[1]から[4]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[6]
N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、[1]から[5]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
[7]
[1]から[7]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
[8]
[7]に記載のDNAを含有する発現ベクター。
[9]
[8]に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した、[1]から[6]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
[10]
宿主がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、[9]に記載の形質転換体。
[11]
[9]または[10]に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を生産する工程、得られた培養物から生産されたフコース結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、[1]から[6]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質の製造方法。
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcからなる構造を持つHタイプ1型糖鎖、Fucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を持つHタイプ3型糖鎖、Fucα1−2Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcからなる構造を持つルイスY型糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性を有するレクチンであるBC2LCNを構成するアミノ酸配列(配列番号1で示される155アミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から156番目までのアミノ酸配列と一致する。)において、特定の位置にあるアミノ酸残基に変異を導入し、形質転換Escherichia coliで組換えタンパク質として発現させたものである。具体的には、配列番号1に示されるアミノ酸配列における39番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換、および/または、配列番号1に示されるアミノ酸配列における65番目のグルタミン残基のロイシン残基への置換、および/または、配列番号1に示されるアミノ酸配列における72番目のシステイン残基をグリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列における81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基およびアスパラギン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換を行い、形質転換Escherichia coliで組換えタンパク質として発現させたものである。配列番号1で示されるアミノ酸配列における39番目のグルタミン残基をロイシン酸残基で置換すること、および/または、65番目のグルタミン残基をロイシン酸残基で置換すること、および/または、72番目のシステイン残基をグリシン残基またはアラニン残基で置換することにより、前記組換えタンパク質のFucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を維持しながら、熱に対する安定性を向上させることができる。これらのアミノ酸残基の置換の中では、熱安定性が高く、かつ、前記組換えタンパク質のFucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよびFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の双方に対する結合親和性を向上させることができる点で、39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、および/または、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換することが好ましく、双方の置換を組合せることがより好ましい。また、前記81番目のグルタミン酸残基を前記13種類のアミノ酸残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基で置換することにより、前記組換えタンパク質のFucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を向上させることができる。これらのアミノ酸残基の置換の中では、前記組換えタンパク質のFucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよびFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖の双方に対する結合親和性を向上させることができる点で、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基およびメチオニン残基に置換することが好ましい。後述する実施例および比較例で示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列における任意の位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換するのではなく、特定の位置のアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基に置換することにより、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性および/または熱に対する安定性を向上させることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の具体例としては、配列番号2(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号3(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号4(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号5(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号6(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号7(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をリジン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号8(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号9(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号10(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をチロシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号11(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号12(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号13(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号14(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をアスパラギン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号15(配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号16(配列番号1の72番目のシステイン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号17(配列番号1の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号18(配列番号1の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)および配列番号19(配列番号1の39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、配列番号1の65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質を挙げることができる。これらのフコース結合性タンパク質の中では、後述する実施例で示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む組換えBC2LCNcysに比べてHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖の双方に対する結合親和性が向上している点で、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号15および配列番号16で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質が好ましく、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖の双方に対する結合親和性が向上し、かつ、熱に対する安定性が高い点で、配列番号15、配列番号16、配列番号17および配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質がより好ましい。
本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列において以下の(1)〜(4)の何れか1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列のバリアント配列であってもよい:
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、グルタミン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換;
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、システイン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換;
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、グルタミン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換;
(4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基の、グルタミン酸残基以外の任意のアミノ酸残基への置換。
バリアント配列としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、39番目、65番目、72番目および81番目のアミノ酸残基以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加を含むアミノ酸配列が挙げられる。前記「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によって異なり得るが、例えば1〜15個、1〜12個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、または1個を意味してよい。上記のアミノ酸残基の置換の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸残基としては、側鎖の性質が類似したアミノ酸残基が挙げられる。側鎖の性質が類似したアミノ酸残基は下記に例示する。
バリアント配列としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列において前記(1)〜(4)の何れか1以上のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列も挙げられる。「高い相同性」とは、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上の相同性を意味してよい。「相同性」とは、同一性(identity)または類似性(similarity)を意味してよい。本明細書においては、比較対照とするアミノ酸配列において、アミノ酸残基の種類が同一な部分の割合を「同一性(identity)」とし、さらに、アミノ酸残基の側鎖の性質が類似している部分を加えた割合を「類似性(similarity)」とする(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。ここで、側鎖の性質が類似しているアミノ酸残基としては、例えば、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基としてはグリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、メチオニン残基およびトリプトファン残基を挙げることができる。また、親水性の酸性側鎖を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基を、親水性の塩基性側鎖を有するアミノ酸としてはリジン残基、アルギニン残基およびヒスチジン、親水性の電荷を持たない側鎖を有するアミノ酸としてはアスパラギン残基、グルタミン残基、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基およびチロシン残基を挙げることができる。アミノ酸配列の相同性は、BLAST等のアラインメントプログラムを利用して決定することができる。例えば、アミノ酸配列の同一性とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。
また、本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。これらの付加的なアミノ酸配列の中では、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドであることが好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数に特に制限はないが、ヒスチジンの繰返し配列が短い場合はニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が困難となり、長い場合は、本発明のフコース結合性タンパク質の前記糖鎖への結合親和性が損なわれる可能性がある。従って、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数はヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列であることが好ましく、5個から10個からなる繰返し配列であることがより好ましい。また、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドの長さは、前記ヒスチジンの繰返し配列が含まれていれば特に制限はなく、ヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列を含む20個以下のオリゴペプチドであることが好ましく、ヒスチジン残基が5個から10個からなる繰返し配列を含む15個以下のオリゴペプチドであることがより好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が効率的に行える点で、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のN末端側に付加されていることが好ましい。
さらに、本発明のフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、本発明のフコース結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の担体に固定化する際に有用な、システイン残基またはリジン残基を含むオリゴペプチドからなる付加的なアミノ酸配列(以下、担体固定化用タグと呼ぶ。)を有していても良い。前記担体固定化用タグの長さは、本発明のフコース結合性タンパク質がFucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有している限り、特に制限はない。担体固定化用タグとしては、不溶性担体への固定化が高選択的かつ高効率に行える点で、システイン残基を1つ以上含む2から10アミノ酸残基からなるオリゴペプチドが好ましく、具体的には、「Gly−Gly−Cys」の3アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、「Ala−Ser−Gly−Gly−Cys」の5アミノ酸残基からなるオリゴペプチドおよび「Gly−Gly−Gly−Ser−Gly−Gly−Cys」の7アミノ酸残基からなるオリゴペプチドを例示することができる。前記システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、フコース結合性タンパク質の担体への固定化が効率的に行える点で、前記システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のC末端側に付加されていることが好ましい。
加えて、本発明のフコース結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)の場合における前記シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等といったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。
次に、本発明のフコース結合性タンパク質をコードするDNA(以下、本発明のDNAとする。)および本発明のDNAを含有する発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターとする。)について説明する。
本発明のDNAは、Polymerase Chain Reaction(PCR)法といったDNA増幅法を利用し、Burkholderia cenocepaciaのゲノムDNAのBC2L−C遺伝子領域をもとに改変して作製する方法、組換えBC2LCNのアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸配列から塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に作製し、それをさらにDNA増幅法を利用し改変して作製する方法、そして例えば配列番号2から配列番号16に記載のアミノ酸配列を塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に作製する方法等により得ることができる。これらの方法において、アミノ酸配列から塩基配列に変換する際には、本発明のフコース結合性タンパク質の生産に利用する微生物や細胞(宿主)におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましい。一例として、Escherichia coliを宿主として利用する場合、アルギニン(Arg)ではAGA、AGG、CGGまたはCGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないコドン(レアコドン)であるため、これらのコドン以外のコドンを選択して変換することが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2018年2月1日)を利用することによっても可能である。また、本発明のDNAを作製する際には、アミノ酸残基置換操作を簡便に行うため、アミノ酸残基置換部位周辺のアミノ酸配列を変えずに、適当な制限酵素認識配列を導入してもよい。
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号20の塩基配列からなるDNA、配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号21の塩基配列からなるDNA、配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号22の塩基配列からなるDNA、配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号23の塩基配列からなるDNA、配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号24の塩基配列からなるDNA、配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号25の塩基配列からなるDNA、配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号26の塩基配列からなるDNA、配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号27の塩基配列からなるDNA、配列番号10のアミノ酸配列をコードする配列番号28の塩基配列からなるDNA、配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号29の塩基配列からなるDNA、配列番号12のアミノ酸配列をコードする配列番号30の塩基配列からなるDNA、配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号31の塩基配列からなるDNA、配列番号14のアミノ酸配列をコードする配列番号32の塩基配列からなるDNA、配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号33の塩基配列からなるDNA、配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号34の塩基配列からなるDNA、配列番号17のアミノ酸配列をコードする配列番号35の塩基配列、配列番号18のアミノ酸配列をコードする配列番号36の塩基配列からなるDNAおよび配列番号19のアミノ酸配列をコードする配列番号37の塩基配列からなるDNAを例示することができる。
本発明のDNAを用いて宿主を形質転換するには、本発明のDNAそのものを用いて形質転換してもよいが、例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に本発明のDNAを挿入して本発明の発現ベクターとし、それを用いて形質転換することが、安定した形質転換が実施できる点で好ましい。ここで、適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、および伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。またベクターに本発明のDNAを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性DNAに連結される状態でベクターに挿入することが好ましい。
本発明の発現ベクターとして使用するベクターは、宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、例えばEscherichia coliを宿主とする場合、pETベクター、pUCベクター、pTrcベクター、pCDFベクターおよびpBBRベクター等が例示できる。また本願発明において使用するプロモータとしては、例えばEscherichia coliを宿主とする場合、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータ等を挙げることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体(以下、本発明の形質転換体とする。)は、本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換することで得ることができる。本発明の形質転換体として使用する宿主に特に制限はないが、遺伝子工学に関する実験が容易な点でEscherichia coliが好ましい。また、本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行えばよく、例えば、宿主としてEscherichia coliのJM109株、BL21(DE3)株、W3110株等を選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等を使用することができる。なお、本発明の形質転換体から適当な抽出方法または市販のキット等を用いることで、本発明の発現ベクターを抽出することができる。例えば宿主がEscherichia coliの場合には、アルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(商品名、キアゲン製)等の市販の抽出キットを用いることができる。
次に、本発明のフコース結合性タンパク質の製造方法(以下、本発明の製造方法とする。)について説明する。本発明の製造方法は、本発明の形質転換体を培養することで本発明のフコース結合性タンパク質を生産する工程(以下、第1工程という。)、得られた培養物から本発明のフコース結合性タンパク質を回収する工程(以下、第2工程という。)の2つの工程を含む。なお本明細書において、培養物とは、培養された形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。
本発明の製造方法における第1工程では、形質転換体をその培養に適した培地で培養すればよい。例えば、宿主としてEscherichia coliを用いた場合、必要な栄養源を補ったTerrific Broth(TB)培地、Luria−Bertani(LB)培地等を使用することが好ましい。本発明の発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、その遺伝子に対応した薬剤を培地に添加して第1工程を実施すれば、形質転換体の選択的増殖が可能となり、例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加することが好ましい。培養温度は利用する宿主に関して一般的に知られた温度であればよく、例えば宿主がEscherichia coliである場合、10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃であり、本発明のフコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。また、培地のpHは、利用する宿主に関して一般的に知られたpH範囲とすればよく、例えば宿主がEscherichia coliである場合、pH6.8からpH7.4の範囲、好ましくはpH7.0前後であり、本発明のフコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。
本発明の発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合は、本発明のフコース結合性タンパク質が良好に製造可能な条件下で培地に誘導剤を添加してその発現を誘導すればよい。好ましい誘導剤としてはisopropyl−β−D−thiogalactopyranoside(IPTG)を例示することができ、その添加濃度は0.005から1.0mMの範囲、好ましくは0.01から0.5mMの範囲である。IPTG添加による発現誘導は、利用する宿主に関して一般的に知られた条件で行なえばよい。また、本発明の発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合であっても、本発明のフコース結合性タンパク質が良好に製造可能であれば誘導剤を添加しなくてもよい。
本発明の製造方法における第2工程では、第1工程で得られた培養物から一般的に知られた回収方法によって本発明のフコース結合性タンパク質を回収する。例えば本発明のフコース結合性タンパク質が培養液中に分泌生産される場合は細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のフコース結合性タンパク質を回収すればよく、細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合は、遠心分離操作により細胞を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加する等により細胞を破砕し、細胞破砕液から回収すればよい。
本発明の製造方法により回収された本発明のフコース結合性タンパク質の純度を向上したい場合には、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製法を挙げることができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を使用することが好ましく、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて行なうことがより好ましい。また、前記クロマトグラフィーにより精製した本発明のフコース結合性タンパク質の純度は当該技術分野において公知の方法を用いて調べればよく、一例として、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)法やゲルろ過クロマトグラフィー法を挙げることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の糖鎖への結合親和性の評価は、Enzyme−linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法等により評価することができる。一例として、表面プラズモン共鳴法について説明する。表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価は、例えば、Biacore T100機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを組換えタンパク質、固相を糖鎖として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製は、ビオチン標識糖鎖を利用して、ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップ(Sensor Chip SA、GEヘルスケア製)や、デキストランがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip CM5、GEヘルスケア製)にあらかじめストレプトアビジンを固定したものを利用して行うことができる。また、結合親和性評価は当該機器に付属のカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の熱に対する安定性の評価は、加熱処理前後の糖鎖への結合親和性をEnzyme−linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法で比較することにより評価することができる。前記加熱処理を行う温度は、熱に対する安定性の高いフコース結合性タンパク質とそうでないフコース結合性タンパク質の違いを判別できる範囲で適宜設定すればよく、例えば、50℃から90℃の範囲、好ましくは60℃から80℃の範囲を挙げることができる。また、前記表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価は、例えば、Biacore T100機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを加熱処理していない組換えタンパク質または加熱処理した組換えタンパク質、固相を組換えタンパク質が結合性をもつ糖鎖として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製およびカイネティクス解析は前記の糖鎖への結合親和性の評価と同様に行うことができる。さらに、熱に対する安定性をより詳細に評価する方法として、示差走査熱量計による測定法がある。示差走査熱量計による測定は、一定速度で試料の温度を上昇させ、タンパク質の熱変性によって生じる熱量変化を測定する。このとき、測定対象のタンパク質の半分が変性する変性中点温度が熱安定性の指標となり、一般に変性中点温度が高いタンパク質は熱に対して安定性が高いとされる。
本発明により、アミノ酸残基置換前のフコース結合性タンパク質に比べてFucα1−2Galβ1−3GlcNAcからなる構造を持つHタイプ1型糖鎖および/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を持つHタイプ3型糖鎖への結合親和性が向上したフコース結合性タンパク質、および/または、熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質、およびそれらの製造方法が提供される。
Hタイプ1型糖鎖やHタイプ3型糖鎖はヒトiPS細胞やES細胞等の未分化細胞に特異的に存在する未分化マーカーとして知られており、また、SSEA−5としても知られるHタイプ1型糖鎖は特定のがん細胞に高発現していることが知られている(例えば、非特許文献4)。従って、本発明のフコース結合性タンパク質は前記未分化細胞やがん細胞への高い結合親和性が期待され、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質を蛍光標識することにより、前記未分化細胞やがん細胞を高感度に検出することができる。また、本発明のフコース結合性タンパク質を水に不溶性の担体に固定化することにより、前記未分化細胞やがん細胞を選択的に吸着可能な細胞吸着剤を作製することができる。さらに、本発明のフコース結合性タンパク質はHタイプ1型糖鎖やHタイプ3型糖鎖への結合性を維持しながら熱に対する安定性が向上していることから、前記未分化細胞やがん細胞の検出、細胞吸着剤の作製および細胞吸着剤を使用した細胞分離において、温度変化による機能低下を抑えることができる。
作製例2の(3)における加熱処理前後の各組換えタンパク質のHタイプ3型糖鎖への結合量を示したものである。
以下、作製例、実施例、比較例および参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
作製例1
(1)発現ベクターpET−BC2LCNcysおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysの作製
発現ベクターpET−BC2LCNcysは、組換えBC2LCNcysを発現させるための発現ベクターである。組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列は配列番号38であり、具体的には、配列番号38の5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号1のアミノ酸配列(GenPept登録番号:WP_006490828の2番目から156番目の領域のアミノ酸配列)、170番目から174番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。発現ベクターpET−BC2LCNcysは、特開2018−000038号公報で開示されているプラスミドpET−BC2LCNcysと同一の塩基配列であり、当該公報に開示されている方法で作製した。次いで、発現ベクターpET−BC2LCNcysを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysを作製した。
(2)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基への変異導入
組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基への変異導入を行った。すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号38)の95番目のグルタミン酸残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例1の(1)に記載の発現ベクターpET−BC2LCNcysを鋳型として、配列番号39および配列番号40に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018−000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号39に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT、B=C,GまたはT)を有し、配列番号38の95番目のグルタミン酸残基(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムで置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET−BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表1に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表1における組換えタンパク質の製造は、後述する作製例1の(3)に記載した。
(3)組換えタンパク質の製造
前記作製例1の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysおよび前記作製例1の(2)で作製した形質転換体L1aからL19aまで(表1)を、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB培地(24g/L Yeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPOおよび4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、一晩培養することで各組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表1に記載した19種類の組換えタンパク質)を発現させた。超音波破砕またはBugBuster Protein extraction kit(メルクミリポア製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、His・Bind Resin(メルクミリポア製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。
(4)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(3)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表1の組換えタンパク質)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、Biacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを各組換えタンパク質、固相をHタイプ1型糖鎖またはHタイプ3型糖鎖としてカイネティクス解析を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を使用し、デキストランにストレプトアビジン(富士フイルム和光純薬製)をアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ1型糖鎖(Glycotech製)またはHタイプ3型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ1型糖鎖またはHタイプ3型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。
糖鎖結合親和性の測定には緩衝液としてHBS−EP+(GEヘルスケア製)を用い、測定条件は流速を30μL/分、結合時間を6分間、解離時間を3分間または6分間とした。センサーチップの再生は25mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間30秒で行った。解析はBiacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器に付属の解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、versionまたはBiacore T200 Evaluation Software、version)を用いて行い、1:1 Bindingのフィッティングにより解離定数(K)を算出した。
表2に、実施例1から4および比較例1として、前記(3)で製造した組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質E81C:実施例1、フコース結合性タンパク質E81Q:実施例2、フコース結合性タンパク質E81H:実施例3、フコース結合性タンパク質E81M:実施例4)および組換えBC2LCNcys(比較例1)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。なお、解離定数の値は小さいほど結合親和性が高いことを示す。表2に示すように、実施例1として記載のフコース結合性タンパク質E81C(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がシステイン残基に置換)、実施例2として記載のフコース結合性タンパク質E81Q(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がグルタミン残基に置換)、実施例3としての記載のフコース結合性タンパク質E81H(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がヒスチジン残基に置換)および実施例4として記載のフコース結合性タンパク質E81M(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がメチオニンに置換)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
フコース結合性タンパク質E81Cのアミノ酸配列は配列番号41であり、その15番目から169番目までは配列番号2のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をシステイン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L1の配列解析の結果、発現ベクターpET−L1には配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号20の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Qのアミノ酸配列は配列番号41であり、その15番目から169番目までは配列番号3のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をグルタミン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L2の配列解析の結果、発現ベクターpET−L2には配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号21の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Hのアミノ酸配列は配列番号42であり、その15番目から169番目までは配列番号4のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をヒスチジン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L3の配列解析の結果、発現ベクターpET−L3には配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号22の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Mのアミノ酸配列は配列番号43であり、その15番目から169番目までは配列番号5のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をメチオニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L4の配列解析の結果、発現ベクターpET−L4には配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号23の塩基配列が含有されることが確認された。
表3に、実施例5から13として、前記(3)で製造した組換えタンパク質(実施例5:フコース結合性タンパク質E81V、実施例6:フコース結合性タンパク質E81K、実施例7:フコース結合性タンパク質E81S、実施例8:フコース結合性タンパク質E81I、実施例9:フコース結合性タンパク質E81Y、実施例10:フコース結合性タンパク質E81G、実施例11:フコース結合性タンパク質E81P、実施例12:フコース結合性タンパク質E81L、実施例13:フコース結合性タンパク質E81N)および組換えBC2LCNcys(比較例1)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表3に示すように、実施例5として記載のフコース結合性タンパク質E81V(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がバリン残基に置換)、実施例6として記載のフコース結合性タンパク質E81K(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がリジン残基に置換)、実施例7としての記載のフコース結合性タンパク質E81S(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がセリン残基に置換)、実施例8としての記載のフコース結合性タンパク質E81I(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がイソロイシン残基に置換)、実施例9としての記載のフコース結合性タンパク質E81Y(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がチロシン残基に置換)、実施例10としての記載のフコース結合性タンパク質E81G(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がグリシン残基に置換)、実施例11としての記載のフコース結合性タンパク質E81P(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がプロリン残基に置換)、実施例12としての記載のフコース結合性タンパク質E81L(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がロイシン残基に置換)および実施例13として記載のフコース結合性タンパク質E81N(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基がアスパラギンに置換)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)よりもHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
フコース結合性タンパク質E81Vのアミノ酸配列は配列番号45であり、その15番目から169番目までは配列番号6のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L5の配列解析の結果、発現ベクターpET−L5には配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号24の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Kのアミノ酸配列は配列番号46であり、その15番目から169番目までは配列番号7のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をリジン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L6の配列解析の結果、発現ベクターpET−L6には配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号25の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Sのアミノ酸配列は配列番号47であり、その15番目から169番目までは配列番号8のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L7の配列解析の結果、発現ベクターpET−L7には配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号26の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Iのアミノ酸配列は配列番号48であり、その15番目から169番目までは配列番号9のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L8の配列解析の結果、発現ベクターpET−L8には配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号27の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Yのアミノ酸配列は配列番号49であり、その15番目から169番目までは配列番号10のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をチロシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L9の配列解析の結果、発現ベクターpET−L9には配列番号10のアミノ酸配列をコードする配列番号28の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Gのアミノ酸配列は配列番号50であり、その15番目から169番目までは配列番号11のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L10の配列解析の結果、発現ベクターpET−L10には配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号29の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Pのアミノ酸配列は配列番号51であり、その15番目から169番目までは配列番号12のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L11の配列解析の結果、発現ベクターpET−L11には配列番号12のアミノ酸配列をコードする配列番号30の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Lのアミノ酸配列は配列番号52であり、その15番目から169番目までは配列番号13のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L12の配列解析の結果、発現ベクターpET−L12には配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号31の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質E81Nのアミノ酸配列は配列番号53であり、その15番目から169番目までは配列番号14のアミノ酸配列(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基をアスパラギン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L13の配列解析の結果、発現ベクターpET−L13には配列番号14のアミノ酸配列をコードする配列番号32の塩基配列が含有されることが確認された。
表4に、比較例2から比較例7として、前記(3)で製造した組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質E81F:比較例2、フコース結合性タンパク質E81D:比較例3、フコース結合性タンパク質E81A:比較例4、フコース結合性タンパク質E81W:比較例5、フコース結合性タンパク質E81T:比較例6、フコース結合性タンパク質E81R:比較例7)および組換えBC2LCNcysのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表4に示すように、比較例2から比較例7として記載の組換えタンパク質は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が低いことがわかる。
作製例2
(1)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基への変異導入
作製例1に記載の組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基への変異導入を行った。すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号38)の86番目のシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例1の(1)に記載の発現ベクターpET−BC2LCNcysを鋳型として、配列番号54および配列番号55に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018−000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号53に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT、B=C,GまたはT)を有し、配列番号38の86番目のシステイン残基(配列番号1の72番目のシステイン残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムで置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET−BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表5に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表5における組換えタンパク質の製造は、後述する作製例2の(2)に記載した。
(2)組換えタンパク質の製造
前記作製例1の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysおよび前記作製例2の(1)で作製した形質転換体L1bからL19bまで(表5)を、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB培地(24g/L Yeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPOおよび4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、一晩培養することで各組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表5に記載した19種類の組換えタンパク質)を発現させた。BugBuster Proytein extraction kit(メルクミリポア製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、His・Bind Resin(メルクミリポア製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。
(3)組換えタンパク質の熱に対する安定性評価
前記作製例2の(2)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表5の組換えタンパク質)の熱に対する安定性を調べるため、加熱処理後の組換えタンパク質の糖鎖結合親和性の評価を表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には前記作製例2の(2)で製造した組換えタンパク質を紫外吸収法により濃度を測定し、D−PBS(−)(富士フイルム和光純薬製)を用いて30μg/mLになるよう希釈した。室温または73℃で30分間保持した後、Biacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを組換えタンパク質、固相をHタイプ3型糖鎖として糖鎖結合性評価を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を用い、デキストランにストレプトアビジン(富士フイルム和光純薬製)をアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ3型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ3型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。Hタイプ3型糖鎖に対する結合性の有無の測定はBinding Assay法により行った。緩衝液としてHBS−EP+(GEヘルスケア製)を用い、温度25℃で測定を行った。結合条件は、流速30μL/分、結合時間を2分間、解離時間を1分間とした。センサーチップの再生条件は、25mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間15秒で行った。解析はBiacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器に付属の解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、versionまたはBiacore T200 Evaluation Software、version)を用いて行った。図1および表6に、糖鎖結合性評価の結果を示す。
図1において、縦軸はセンサーチップ上に固定化したHタイプ3型糖鎖への結合量を示す。図1に示すように、73℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を保持していた組換えタンパク質は、アミノ酸残基置換前の組換えBC2LCNcys、フコース結合性タンパク質C72G、フコース結合性タンパク質C72Aおよびフコース結合性タンパク質C72Wであった。
表6にも、73℃で30分間の加熱処理後の各組換えタンパク質の糖鎖結合性評価の結果を示す。なお、表6において、各組換えタンパク質の糖鎖結合性は、室温で処理後の糖鎖結合性を100%とした場合の相対値を示したものである。また、室温で処理後の糖鎖結合性が消失したフコース結合性タンパク質C72R、フコース結合性タンパク質C72E、フコース結合性タンパク質C72D、フコース結合性タンパク質C72V、フコース結合性タンパク質C72Lおよびフコース結合性タンパク質C72Iは、表6において糖鎖結合性を「−」として記載した。表6に示すように、73℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を保持していた組換えタンパク質は、アミノ酸残基置換前の組換えBC2LCNcys、フコース結合性タンパク質C72G、フコース結合性タンパク質C72Aおよびフコース結合性タンパク質C72Wであった。
(4)変性中点温度の測定
次に、前記作製例2の(3)において、73℃、30分間の加熱処理後も糖鎖結合性を示したフコース結合性タンパク質C72G、フコース結合性タンパク質C72Aおよびフコース結合性タンパク質C72Wと、組換えBC2LCNcysの変性中点温度の測定を行った。具体的には、前記作製例2の(2)で製造した組換えタンパク質を再生セルロース膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、分画分子量3500)を用いて、透析用緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム、pH5.5)中で緩衝液交換を行った。透析内液の組換えタンパク質を紫外吸収法により濃度を測定し、透析用緩衝液を用いて500μg/mLになるよう希釈し、示差走査熱量計(マルバーン・パナテリティカル製、MicroCalVP−Capillary DSC)を用いて変性中点温度を測定した。変性中点温度の測定条件は、各組換えタンパク質の溶液量を400μL、昇温速度を60℃/h、加熱温度を40℃−110℃とした。
表7に、実施例14と15および比較例8と9として、前記作製例2の(2)で製造した組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質C72G:実施例14、フコース結合性タンパク質C72A:実施例15、フコース結合性タンパク質C72W:比較例8)および組換えBC2LCNcys(比較例9)の変性中点温度を示す。なお、変性中点温度はタンパク質の半分が変性する温度である。変性中点温度が高いほど熱に対する安定性が高いことを示す。表7に示すように、実施例14として記載のフコース結合性タンパク質C72G(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がグリシン残基に置換)および実施例15として記載のフコース結合性タンパク質C72A(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がアラニン残基に置換)は、比較例9として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。一方、比較例8として記載のフコース結合性タンパク質C72W(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がトリプトファン残基に置換)は、比較例9として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が低く、熱安定性が低下したことがわかる。
(5)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記作製例2の(4)において、組換えBC2LCNcysに比べて熱に対する安定性が高いことが判明したフコース結合性タンパク質C72Gおよびフコース結合性タンパク質C72Aについて、前記作製例1の(4)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を行った。
表8に、実施例16と17として、フコース結合性タンパク質C72G(実施例16)およびフコース結合性タンパク質C72A(実施例17)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。また、表8に、比較として前記比較例1の組換えBC2LCNcysのHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表8に示すように、実施例16として記載のフコース結合性タンパク質C72G(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がグリシン残基に置換)および実施例17として記載のフコース結合性タンパク質C72A(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がアラニン残基に置換)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の81番目のグルタミン酸残基として特定されるグルタミン酸残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
フコース結合性タンパク質C72Gのアミノ酸配列は配列番号56であり、その15番目から169番目までは配列番号15のアミノ酸配列(配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L1の配列解析の結果、発現ベクターpET−L1には配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号33の塩基配列が含有されることが確認された。
フコース結合性タンパク質C72Aのアミノ酸配列は配列番号57であり、その15番目から169番目までは配列番号16のアミノ酸配列(配列番号1の72番目のシステイン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET−L2の配列解析の結果、発現ベクターpET−L2には配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号34の塩基配列が含有されることが確認された。
作製例3
(1)発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L)cysおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L)cysの作製
発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L)cysは、フコース結合性タンパク質Q39Lを発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質Q39Lのアミノ酸配列は、配列番号58であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号17のアミノ酸配列(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基をロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、170番目から174番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
前記作製例1の(1)に記載の発現ベクターpET−BC2LCNcysを鋳型として、配列番号52および配列番号59に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018−000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびHindIIIで消化した。さらに、発現ベクターpET−BC2LCNcysを鋳型として、配列番号60および配列番号40に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、同様にPCRを実施し、得られたPCR産物を制限酵素XhoIおよびHindIIIで消化した。制限酵素NcoIおよびXhoIで制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET−BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L)cysには配列番号17のアミノ酸配列をコードする配列番号35の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えEscherichia coliを用いたフコース結合性タンパク質Q39Lの製造
前記作製例1の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNcysおよび前記作製例3の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L)cysを、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB培地(24g/L Yeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPOおよび4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、一晩培養することで組換えBC2LCNcysおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L)cysが生産したフコース結合性タンパク質Q39Lを発現させた。BugBuster Proytein extraction kit(メルクミリポア製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、His・Bind Resin(メルクミリポア製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。
(3)変性中点温度の測定
前記作製例3の(2)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよびフコース結合性タンパク質Q39L)の変性中点温度の測定を行った。具体的には、前記作製例2の(2)で製造した組換えタンパク質を再生セルロース膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、分画分子量3500)で透析したのち、前記作製例2の(4)に記載の方法により、変性中点温度を測定した。
表9に、実施例18と比較例9として、前記作製例3の(2)で製造したフコース結合性タンパク質Q39L(実施例18)および組換えBC2LCNcys(比較例9)の変性中点温度を示す。表9に示すように、実施例18として記載のフコース結合性タンパク質Q39L(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基がロイシン残基に置換)は、比較例9として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。
(4)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記作製例3の(2)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよびフコース結合性タンパク質Q39L)について、前記作製例1の(4)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を行った。表10に、実施例19と比較例1として、フコース結合性タンパク質Q39L(実施例19)および組換えBC2LCNcys(比較例1)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表10に示すように、実施例18として記載のフコース結合性タンパク質Q39L(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基がロイシン残基に置換)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
作製例4
(1)発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysの作製
発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysは、フコース結合性タンパク質Q39L/C72Gを発現させるための発現ベクターである。フコース結合性タンパク質Q39L/C72Gのアミノ酸配列は、配列番号61であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号18のアミノ酸配列(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基をロイシン残基に、配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)、170番目から174番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。
前記作製例3の(1)に記載の発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L)cysを鋳型として、配列番号52および配列番号62に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018−000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L)cysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysには配列番号18のアミノ酸配列をコードする配列番号35の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えEscherichia coliを用いたフコース結合性タンパク質Q39L/C72Gの製造
前記作製例1の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNcys、前記作製例3の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L)cys、前記作製例2の(1)で作製した形質転換体L1bおよび前記作製例3の(1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysを、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB培地(24g/L Yeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L KHPO、2.2g/L KHPOおよび4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、一晩培養することで組換えBC2LCNcysおよびフコース結合性タンパク質Q39L、フコース結合性タンパク質C72Gおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCN(Q39L/C72G)cysが生産したフコース結合性タンパク質Q39L/C72Gを発現させた。BugBuster Proytein extraction kit(メルクミリポア製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、His・Bind Resin(メルクミリポア製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。
(3)変性中点温度の測定
前記作製例4の(2)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcys、フコース結合性タンパク質Q39L、フコース結合性タンパク質C72Gおよびフコース結合性タンパク質Q39L/C72G)の変性中点温度の測定を行った。具体的には、前記作製例4の(1)で製造した組換えタンパク質を再生セルロース膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、分画分子量3500)で透析したのち、前記作製例2の(4)に記載の方法により、変性中点温度を測定した。
表11に、実施例18、実施例14、実施例20および比較例9として、前記作製例4の(2)で製造した組換えタンパク質(フコース結合性タンパク質Q39L:実施例18、フコース結合性タンパク質C72G:実施例14、フコース結合性タンパク質Q39L/C72G:実施例20)および組換えBC2LCNcys(比較例9)の変性中点温度を示す。表11に示すように、実施例20として記載のフコース結合性タンパク質Q39L/C72G(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基がロイシン残基に、配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)は、比較例9として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基および72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。さらに、実施例20として記載のフコース結合性タンパク質Q39L/C72Gは、実施例18として記載のフコース結合性タンパク質Q39L(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基がロイシン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例14として記載のフコース結合性タンパク質C72G(配列番号1の72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基がグリシン残基に置換したアミノ酸配列)に比べ変性中点温度が高く、熱に対する安定性が向上したアミノ酸置換を集積することで、さらに熱安定性が向上したことがわかる。
(4)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記作製例3の(2)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよびフコース結合性タンパク質Q39L/C72G)について、前記作製例1の(4)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を行った。表12に、実施例21と比較例1として、フコース結合性タンパク質Q39L(実施例21)および組換えBC2LCNcys(比較例1)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。表12に示すように、実施例21として記載のフコース結合性タンパク質Q39L/C72G(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基がロイシン残基に、配列番号1の72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の39番目のグルタミン残基として特定されるグルタミン残基および72番目のシステイン残基として特定されるシステイン残基は置換されていない)よりもHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性が高いことがわかる。
比較例10
(1)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の74番目のトレオニン残基として特定されるトレオニン残基への変異導入
作製例1に記載の組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の74番目のトレオニン残基として特定されるトレオニン残基への変異導入、すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号36)の88番目のシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例1の(1)に記載の発現ベクターpET−BC2LCNcysを鋳型として、配列番号54および配列番号63に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018−000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号54に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT、B=C,GまたはT)を有し、配列番号38の88番目のトレオニン残基(配列番号1の74番目のトレオニン残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムで置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET−BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表13に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表13における組換えタンパク質の製造は、後述する比較例10の(2)に記載した。
(2)組換えタンパク質の製造
前記比較例10の(1)で作製した形質転換体L1cからL19cまで(表12)を、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。以後、作製例1の(3)に記載の方法に従って培養することにより、表13に記載した19種類の組換えタンパク質の発現と精製を行った。
(3)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記比較例10の(2)で製造した19種類の組換えタンパク質のHタイプ1型糖鎖に対する結合親和性評価を表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、Biacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを各組換えタンパク質、固相をHタイプ1型糖鎖として糖鎖結合性評価を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を用い、デキストランにストレプトアビジン(富士フイルム和光純薬製)をアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ1型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ1型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。Hタイプ1型糖鎖に対する結合性の有無の測定はBinding Assay法により行った。緩衝液としてHBS−EP+(GEヘルスケア製)を用い、温度25℃で測定を行った。結合条件は、流速30μL/分、結合時間を2分間、解離時間を1分間とした。センサーチップの再生条件は、25mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間15秒で行った。解析はBiacore T100(T200 Sensitivity Enhanced)機器に付属の解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、versionまたはBiacore T200 Evaluation Software、version)を用いて行った。
前記比較例10の(2)で製造した19種類の組換えタンパク質のHタイプ1型糖鎖への結合性を評価した結果、19種類全ての組換えタンパク質でHタイプ1型糖鎖への結合親和性が著しく低減していた。
比較例11
(1)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の75番目のチロシン残基として特定されるチロシン残基への変異導入
作製例1に記載の組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の75番目のチロシン残基として特定されるチロシン残基への変異導入を行った。すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号38)の89番目のチロシン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例1の(1)に記載の発現ベクターpET−BC2LCNcysを鋳型として、配列番号50および配列番号64に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018−000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号64に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT、B=C,GまたはT)を有し、配列番号38の89番目のチロシン残基(配列番号1の75番目のチロシン残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムで置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素NcoIおよびKpnIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1)の発現ベクターpET−BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表14に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表14における組換えタンパク質の製造は、後述する比較例11の(2)に記載した。
(2)組換えタンパク質の製造
前記比較例11の(1)で作製した形質転換体L1dからL19dまで(表14)を、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。以後、作製例1の(3)に記載の方法に従って培養することにより、表14に記載した19種類の組換えタンパク質の発現と精製を行った。
(3)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記比較例11の(2)で製造した19種類の組換えタンパク質について、前記比較例10の(3)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖に対する結合親和性評価を表面プラズモン共鳴法により行った結果、19種類全ての組換えタンパク質でHタイプ1型糖鎖への結合親和性が著しく低減していた。
参考例1
(1)組換えEscherichia coliBL21(DE3)/pET−BC2LCNs(Q39L/C72G)cysおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNs(Q39L/C72G)cysの作製
発現ベクターpET−BC2LCNs(Q39L/Q65L/C72G)cysは、低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72Gを発現させるための発現ベクターである。低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/C72Gのアミノ酸配列は、配列番号65であり、その5番目から10番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、15番目から141番目までは配列番号66のアミノ酸配列、142番目から148番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。なお、配列番号66のアミノ酸配列は配列番号1に示すアミノ酸配列の1番目から127番目に相当し、配列番号1に示すアミノ酸配列における39番目のグルタミン残基をロイシン残基に、65番目のグルタミン残基をロイシン残基に、72番目のシステイン残基をグリシン残基に置換したアミノ酸配列である。
低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72Gをコードする塩基配列(配列番号67に示すXbaIとXhoIの制限酵素サイトを有する塩基配列、GenScript社)を合成し、制限酵素XbaIおよびXhoIで消化したのち、制限酵素XbaIおよびXhoIで処理した発現ベクターpET28a(+)(メルクミリポア製)とライゲーション反応を行った。なお、配列番号67に示す塩基配列の54番目から71番目まではポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、84番目から464番目までは配列番号66のアミノ酸配列に相当するポリペプチド、465番目から485番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチドをそれぞれコードするポリヌクレオチドに相当する。
次に、作製例3の(1)に記載の方法により、組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET−BC2LCNs(Q39L/C72G)cysおよび発現ベクターpET−BC2LCNs(Q39L/Q65L/C72G)cysを得た。配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET−BC2LCNs(Q39L/Q65L/C72G)cysには配列番号66のアミノ酸配列をコードする配列番号68(配列番号67の84番目から464番目までに相当)の塩基配列が含まれることを確認した。
(2)組換えEscherichia coliを用いた低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72Gの製造
前記参考例1の(1)で作製した形質転換体を用い、作製例3の(1)に記載の方法により組換えタンパク質の生産、可溶性タンパク質抽出液の回収、およびニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる可溶性タンパク質抽出液からのフコース結合性タンパク質の精製を行い、低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72Gを製造した。
(3)変性中点温度の測定
前記参考例1の(2)で製造した低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72Gの変性中点温度の測定を行った。具体的には、前記作製例2の(2)で製造した組換えタンパク質を再生セルロース膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、分画分子量3500)で透析したのち、前記作製例2の(4)に記載の方法により、変性中点温度を測定した結果、変性中点温度は95.6±0.5℃であった。
表15に、低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72G(参考例1)、フコース結合性タンパク質C72G(実施例14)、フコース結合性タンパク質Q39L(実施例18)、フコース結合性タンパク質Q39L/C72G(実施例20)および組換えBC2LCNcys(比較例9)の変性中点温度を示す。
(4)糖鎖への結合親和性評価
前記参考例1の(2)で製造した低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72Gについて、前記作製例1の(4)に記載の方法により、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合親和性評価を行った。表16に、低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72G(参考例1)、フコース結合性タンパク質C72G(実施例16)、フコース結合性タンパク質Q39L(実施例19)、フコース結合性タンパク質Q39L/C72G(実施例21)および組換えBC2LCNcys(比較例1)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示す。低分子化フコース結合性タンパク質Q39L/Q65L/C72GのHタイプ1型糖鎖に対する結合親和性は組換えBC2LCNcysと同等であるが、Hタイプ3型糖鎖に対する結合親和性は組換えBC2LCNcysよりも高いことがわかる。

Claims (11)

  1. 以下の(a)〜(c)のいずれかであるフコース結合性タンパク質。
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)から(4)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列を含む、フコース結合性タンパク質
    (1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、グルタミン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
    (2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、システイン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
    (3)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、グルタミン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
    (4)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基の、グルタミン酸残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
    (b)前記(a)のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の39番目、65番目、72番目および81番目以外の領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
    (c)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、前記(1)〜(4)の少なくとも1つのアミノ酸置換を有するアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、前記少なくとも1つのアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcおよび/またはFucα1−2Galβ1−3GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
  2. 前記(1)〜(4)に記載のアミノ酸置換が、それぞれ以下の(5)〜(8)に記載のアミノ酸置換である、請求項1に記載のフコース結合性タンパク質。

    (5)配列番号1で示されるアミノ酸配列の39番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
    (6)配列番号1で示されるアミノ酸配列の72番目のシステイン残基の、グリシン残基およびアラニン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
    (7)配列番号1で示されるアミノ酸配列の65番目のグルタミン残基の、ロイシン残基への置換
    (8)配列番号1で示されるアミノ酸配列の81番目のグルタミン酸残基の、システイン残基、グルタミン残基、ヒスチジン残基、メチオニン残基、バリン残基、リジン残基、セリン残基、イソロイシン残基、チロシン残基、グリシン残基、プロリン残基、ロイシン残基およびアスパラギン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換
  3. 配列番号2から配列番号19のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載のフコース結合性タンパク質。
  4. N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する請求項1から3のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
  5. C末端に付加したアミノ酸配列がシステイン残基を含むオリゴペプチドである、請求項1から4のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
  6. N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、請求項1から5のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
  7. 請求項1から7のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
  8. 請求項7に記載のDNAを含有する発現ベクター。
  9. 請求項8に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した、請求項1から6のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
  10. 宿主がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項9に記載の形質転換体。
  11. 請求項9または10に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を生産する工程、得られた培養物から生産されたフコース結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、請求項1から6のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質の製造方法。
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