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JP2020068725A - 試料の前処理方法 - Google Patents

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JP2020068725A JP2018205797A JP2018205797A JP2020068725A JP 2020068725 A JP2020068725 A JP 2020068725A JP 2018205797 A JP2018205797 A JP 2018205797A JP 2018205797 A JP2018205797 A JP 2018205797A JP 2020068725 A JP2020068725 A JP 2020068725A
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Abstract

【課題】本発明は、微生物の検出において必要とされる試料の前処理方法であって、フェノール等の有機溶媒を使用する一般的な核酸抽出方法を必要とすることなく、簡便に実施できる前処理方法を提供すること。【解決手段】微生物を検出する方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程A〜D:(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、を包含する、方法。【選択図】 なし

Description

本発明は、試料中に含まれる微生物を検出するための、試料の前処理方法等に関する。
試料中に含まれる微生物を検出することは臨床診断、食品衛生などにおいて重要である。しかしながら、試料を直接検出に供すると核酸検出中に反応阻害などが起こり、正しい測定結果が得られないことがある。この点はとりわけ、夾雑物を多く含む生体試料(例えば、糞便検体など)を対象として微生物を検出する方法において大きな問題である。そこで、試料中に含まれる微生物を検出する際に、試料を直接検出に供するのではなく、何らかの前処理を行うことが一般的である。これは、試料中に含まれる夾雑物の除去や測定に供するための標識作業などを目的としており、試料中の微生物検出のために必要な操作と考えられている。
特に、微生物を検出する方法が微生物由来の核酸を検出する方法である場合、前処理として、試料中の核酸を精製することが一般的に行われる(例えば、特許文献1、非特許文献1)。これは、核酸を検出するために、例えば、PCRなどの核酸増幅反応に供する場合、試料中の夾雑物により反応が阻害されることを抑制するためである。精製法の一つとして核酸抽出法があり、BOOM法を原理とした方法等がある。
しかしながら、核酸精製は、操作が非常に複雑、操作時間が長い、有機溶媒を使用する、試薬コストが高いといった課題があった。特に、核酸抽出は操作が煩雑であるとともに、タンパク質変性作用がある毒性の高い試薬を必要とすることがある。
特開2016−67291号公報
R. Boom et al, Rapid and Simple Method for Purification of Nucleic Acids, Journal of Clinical Microbiology, 1990, vol.28, no.3, p.495-503.
本発明は、微生物の検出において必要とされる試料の前処理方法であって、フェノール等の有機溶媒を必須とする一般的な核酸抽出方法を必要とすることなく、簡便に実施できる前処理方法の提供を一つの目的とする。また、その前処理方法によって調製された前処理液を検出対象試料液として微生物を検出する方法の提供を一つの目的とする。さらに、その前処理方法によって、微生物を検出する方法に供される検出対象試料液の調製方法の提供を一つの目的とする。さらにまた、微生物検出のための前処理用キットの提供を一つの目的とする。また、微生物検出用キットの提供を一つの目的とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、試料(生体試料、食品試料等)をアルカリ性溶液で懸濁した後、懸濁液中の微生物を溶菌又は破砕する、簡便な、有機溶媒を必須としない、試料の前処理方法によって、微生物の検出に適した検出対象試料液が得られることを見出し本発明を完成させた。代表的な本発明を以下のとおりである。
[項1]
微生物の検出方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程A〜D:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含する、方法。
[項2]
微生物の検出方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程C1〜D1:
(C1)試料をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D1)前記工程C1で得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含する、方法。
[項3]
前記工程A、工程C又は工程C1において、アルカリ性溶液が、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つである、項1又は2に記載の方法。
[項4]
前記工程A、工程C又は工程C1において、アルカリ性溶液のpHが8.0以上である、項1〜3のいずれかに記載の方法。
[項5]
前記工程Bにおいて集菌する工程が、限外ろ過処理及び/又は遠心分離処理を含む、項1及び3〜4のいずれかに記載の方法。
[項6]
前記工程D又は工程D1において溶菌又は破砕する工程が、撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、アルカリ処理及び酵素処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、項1〜5のいずれかに記載の方法。
[項7]
前記工程Aにおいて試料を懸濁する液がアルカリ性溶液であり、前記工程Bにおいて集菌する工程が遠心分離処理を含み、前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が撹拌処理、ビーズ破砕処理及びアルカリ処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、項1及び3〜6のいずれかに記載の方法。
[項8]
前記工程A又は工程C1において試料が糞便である、項1〜7のいずれかに記載の方法。
[項9]
微生物の検出方法が、微生物由来の核酸を検出する方法である、項1〜8のいずれかに記載の方法。
[項10]
検出対象微生物が、クロストリジウム・ディフィシル、赤痢菌、サルモネラ菌、大腸菌、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、結核菌群、非結核性抗酸菌、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマ、百日咳菌、パラ百日咳菌、肺炎クラミジア、クラミジア・トラコマチス、オウム病クラミジア、ウレアプラズマ、HIV及びHPVからなる群より選択される少なくとも一つである、項1〜9のいずれかに記載の方法。
[項11]
更に以下の工程Eを包含する、項1〜10のいずれかに記載の方法:
(E)前記工程D又は工程D1で得られた溶菌液又は破砕液を精製する工程。
[項12]項1〜11の工程D又は工程D1で得られた溶菌液又は破砕液、或いは項11の工程Eで得られた精製液を検出対象試料液とする微生物の検出方法。
[項13]
微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、
以下の工程A〜D:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液のいずれかに懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含する、方法。
[項14]
微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、
以下の工程C1〜D1:
(C1)試料をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D1)前記工程C1で得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含する、方法。
また、本発明は下記に代表される発明をさらに含みうる。
[項A]
微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、
以下の工程A〜D:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含し、
前記微生物の検出方法が、微生物由来の核酸を増幅して検出する方法である、方法。
[項B]
前記微生物由来の核酸の増幅がPCRである、項Aに記載の方法。
[項C]
前記工程A及び/又は工程Cにおいて、アルカリ性溶液が、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つである、項A又はBに記載の方法。
[項D]
前記工程A及び/又は工程Cにおいて、アルカリ性溶液のpHが8.0以上である、項A〜Cのいずれかに記載の方法。
[項E]
前記工程Bにおいて集菌する工程が、限外ろ過処理及び/又は遠心分離処理を含む、項A〜Dのいずれかに記載の方法。
[項F]
前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が、撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、アルカリ処理及び酵素処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、項A〜Eのいずれかに記載の方法。
[項G]
前記工程Aにおいて試料を懸濁する液がアルカリ性溶液であり、前記工程Bにおいて集菌する工程が遠心分離処理を含み、前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が撹拌処理、ビーズ破砕処理及びアルカリ処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、項A〜Fのいずれかに記載の方法。
[項H]
前記工程Aにおいて試料が糞便である、項A〜Gのいずれかに記載の方法。
[項I]
検出対象微生物が、クロストリジウム・ディフィシル、赤痢菌、サルモネラ菌、大腸菌、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、結核菌群、非結核性抗酸菌、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマ、百日咳菌、パラ百日咳菌、肺炎クラミジア、クラミジア・トラコマチス、オウム病クラミジア、ウレアプラズマ、HIV及びHPVからなる群より選択される少なくとも一つである、項A〜Hのいずれかに記載の方法。
[項J]
更に以下の工程Eを包含する、項A〜Iのいずれかに記載の方法:
(E)前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液を精製する工程。
[項K]項A〜Jの方法で調製された検出対象試料液を用いて微生物を検出する方法。
[項L]
上記工程A、工程C又は工程C1に使用するためのアルカリ性溶液を含む、試料の前処理方法用、検出対象試料液の調製方法用又は微生物の検出方法用試薬。
[項M]
前記アルカリ性溶液が工程C又は工程C1に使用するためのアルカリ性溶液である、項Lに記載の試薬。
[項N]
前記アルカリ性溶液のpHが8.0以上である、項L又はMに記載の試薬。
[項O]
上記工程D又は工程D1に使用するためのビーズを含む、試料の前処理方法用、検出対象試料液の調製方法用又は微生物の検出方法用試薬。
[項P]
ビーズがジルコニアビーズである、項Oに記載の試薬。
[項Q]
項L〜Pのいずれかに記載の試薬を含む、試料の前処理方法用、検出対象試料液の調製方法用又は微生物の検出方法用キット。
[項R]
工程C又は工程C1用のアルカリ性溶液及び工程D又はD1用のビーズを含む、項Qに記載のキット。
[項S]
試料又は試料の集菌物を懸濁するためのアルカリ性溶液と、
微生物を破砕するためのビーズと、
を含む、微生物検出のための前処理用キット。
[項T]
試料又は試料の集菌物を懸濁するためのアルカリ性溶液と、
プライマーセットからなるプライマーミックスを含むPCR用反応試薬と、
を含む、微生物検出用キット。
[項U]
微生物を破砕するためのビーズをさらに含む、項Mに記載のキット。
本発明によれば、微生物の検出、特に核酸検出に基づく微生物の検出、に適した検出対象試料液を、有機溶媒を必須とせず、簡便に調製できる。また、検出対象試料液を調製する過程において実効的なタンパク質変性剤が必須ではないため、薬傷の危険性もない。
以下、上述の代表的な発明を中心に説明する。
[前処理方法]
生体試料、食品、環境試料等の一部を採取し、採取試料に微生物の検出が可能になる程度にまで各種の前処理を施し、得られた前処理物に含まれる微生物を検出することが一般的に行われている。本発明の一実施形態は、微生物の検出方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程A〜D:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含する、方法、である。
また、更なる本発明の一実施形態は、微生物の検出方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程C1〜D1:
(C1)試料をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
(D1)前記工程C1で得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
を包含する、方法、であり得る。
[試料]
本発明において使用できる試料は、検出目的の微生物を含む可能性のあるものであれば特に限定されない。試料は工程A又は工程C1において懸濁される。試料としては、例えば、生体試料や食品、環境試料等が挙げられる。なお、本発明でいう微生物とは、広義の意味で小さな生物を示し、バクテリア、真菌、ウイルス、寄生虫、線虫等を含むがこれらに限定されない。また、微生物の検出とは、微生物そのものの有無だけでなく、微生物構成成分(タンパク質、核酸、脂質等)及びそれらをコードする遺伝子等を検出することも含む。検出の対象となる微生物は生きた微生物、死んだ微生物のいずれであってもよいが、生きた微生物が好ましい。
生体試料の例として、特に制限されないが、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、ウイルス等が挙げられる。さらに挙げると、血液、血漿、血清、血液培養液、尿、唾液、羊水、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻咽頭拭い液、直腸拭い液、喀痰、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、鼓膜切開液、肺胞洗浄液、胃洗浄液、腸洗浄液、子宮頸管拭い液、尿道擦過物、臓器抽出液、組織抽出液分離培養コロニー、カテーテル洗浄液等が挙げられる。本発明は、夾雑物を多く含む生体試料を対象とする場合であっても、感度のよい微生物検出が可能である。このような観点から、本発明が対象とする生体試料としては、例えば、排泄物、吐瀉物、糞便、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、鼻咽頭拭い液、喀痰が好適であり、糞便、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰がより好適であり、これらの中でも哺乳動物由来、殊にヒト由来のものがより一層好適である。
食品の例として、水、アルコール飲料、清涼飲料水、加工食品、野菜、畜産物、海産物、卵、乳製品、生肉、生魚、惣菜等が挙げられる。また、食品を試料とする場合、その食品の一部あるいは全部を使用できるだけでなく、食品表面を拭き取ったものも使用できる。さらに、調理器具等の食品接触部又は人接触部やドアノブ等の人接触部を拭き取ったものあるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。液体成分が多い試料については、必要に応じて、乾燥、限外ろ過、蒸留等を行い、液体成分の一部あるいは全部を除去した試料を用いてもよい。
環境試料の例として、水、氷、土壌等が挙げられる。ここでいう水とは、例として、水道水、海水あるいは川、滝、湖、池等から採取した水等が挙げられる。また、施設の壁面、床面、設備や備品、便器等を拭き取ったものあるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。液体成分が多い試料については、必要に応じて、乾燥、限外ろ過、蒸留等を行い、液体成分の一部あるいは全部を除去した試料を用いてもよい。
試料の採取方法は、特に制限されず、試料の種類、大きさ、目的に応じて公知の方法を用いることができる。例えば、綿棒、スワブ、白金耳、スポイト、へら、さじなどの採取具を用いた採取方法である。
[工程A]
工程Aでは、試料をそのまま、又は試料の一部を採取して、水又はアルカリ性溶液に懸濁する。水、アルカリ性溶液のどちらを使用するかは、試料によって適宜選択することができる。例えば、pH調整や夾雑物除去を目的として、アルカリ性溶液を選択できる。アルカリ性溶液を使用することで、目的の微生物以外の夾雑物を分解又は溶解しやすくなる。
水としては、例えば精製水、滅菌水、水道水等が挙げられるが、不純物が少ない点で精製水又は滅菌水が好ましい。また、試料が水の場合は、必要に応じて精製水又は滅菌水で希釈することもできるし、工程Aを省略することもできるが、アルカリ性溶液を使用することが好ましい。
アルカリ性溶液としては、例えば水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つが挙げられ、水酸化カリウム水溶液及び/又は水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。これらのアルカリ性溶液は、微生物の検出に不適切な大きな影響を与えない。
また、アルカリ性溶液として緩衝作用を持つ緩衝液を使用してもよい。緩衝液として、例えば、当該分野で周知のTris、BES、MOPS、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、CAPSO、CAPS等が挙げられるが、これらに限定されない。
アルカリ性溶液のpHは、8.0以上、9.0以上、10.0以上、11.0以上等とすることができ、また、14.0以下、13.0以下、12.5以下、12.0以下、11.0以下等とすることができ、8.0〜14.0が好ましく、9.0〜13.0がより好ましく、pH10.0〜12.5がさらに好ましい。なお、ここでいうアルカリ性溶液のpHとは、試料を懸濁する前のアルカリ性溶液のpHをいうが、工程A、工程C又は工程C1で得られるアルカリ性溶液添加後の懸濁液のpHも上記範囲にあることが好ましい。
水又はアルカリ性溶液に対する試料の量は、以降の工程を行うことができる量であれば制限されず、例えば、水又はアルカリ性溶液100mlに対して、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、下限としては0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上とすればよい。
工程Aにおいて、必要に応じてさらに添加剤等を加えてもよい。添加剤として、EDTA、ポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、エタノール、イソプロパノール、ジメチルスルホキシド、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、これらに限定されない。添加剤の添加量は、特に制限されないが、たとえば、水又はアルカリ性溶液100mlに対して、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
工程Aにおける懸濁は、公知の方法で実施できる。例えば、試料、及び水又はアルカリ性溶液を含んだチューブを手動で振動させて懸濁する方法(タッピング)、ピペットマン等によるピペッティング、転倒混和、ボルテックスミキサー等による懸濁などである。
工程Aにおいて試料を懸濁後、大きな夾雑物や異物があれば取り除いてもよい。除去方法として、限外ろ過、遠心分離等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、加工食品、野菜、畜産物、海産物、卵、乳製品、生肉、生魚、惣菜、土壌等を試料とする場合、大きな夾雑物や異物を含む可能性があるため、除去することが好ましい。
[工程B]
工程Bでは、工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する。集菌とは、懸濁液中に含まれる微生物を集めることであり、懸濁中に含まれる夾雑物の一部を分離及び除去することができる。集菌は、目的の微生物を集菌できれば特に制限はなく、例えば、限外ろ過や遠心分離等による処理で実施できるがこれらに限定されない。
限外ろ過では、目的とする微生物の大きさ、懸濁液中に存在する固形物の大きさ等に応じて適切な孔径を有するフィルター等を用い、目的の微生物とそれ以外の夾雑物等を分離することができる。目的の微生物より大きい孔を有するフィルターを使用すれば、目的の微生物はフィルターを通ってろ液に集菌され、孔より大きい夾雑物等はフィルター上にトラップされて除去できる。あるいは、目的の微生物より小さい孔を有するフィルターを使用することで目的の微生物をフィルター上にトラップし、孔より小さい夾雑物等を含むろ液を除去できる。好ましくは、目的の微生物より大きい孔を有するフィルターによる限外ろ過である。使用するフィルターの種類や孔径は、目的の微生物や夾雑物の大きさや種類等によって適宜選択できる。例えば、目的の微生物より大きい孔を有するフィルターとしては、孔径が0.65μm〜0.1mm、0.8μm〜50μm、5μm〜30μmのフィルターが挙げられ、目的の微生物より小さい孔を有するフィルターとしては、孔径が0.45μm以下、0.22μm以下のフィルターが挙げられる。
遠心分離は、懸濁液に遠心力をかけることで、比重の異なる物質を分離あるいは分画する方法である。目的の微生物が沈降物にならないほどの遠心力をかければ、目的の微生物は上清に残り、夾雑物等は沈降物として分離される。一方で、目的の微生物が沈降物になるほどの遠心力をかければ、目的の微生物は沈降物として分離され、沈降物にならない夾雑物等は上清に残る。好ましくは目的の微生物が沈降物となる遠心分離である。遠心分離での遠心力は、目的の微生物や懸濁液中の物質に応じて適宜選択できる。遠心力は、例えば2,000g以上、5,000g以上、7,000g以上、8,000g以上、9,000g以上、10,000g以上等とでき、目的の微生物を沈降物とする場合には5,000g以上が好ましく、8,000g以上がより好ましく、10,000g以上がより一層好ましいが、これらに限定されない。遠心力の上限値は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、一例として、200,000g以下とすることができ、好ましくは50,000g以下とすることができる。また、遠心分離を行う時間も目的の微生物や懸濁液中の物質に応じて適宜選択できる。一般的に遠心分離を行う時間を長くすれば、沈降物はできやすくなるが、時間を要する。したがって、遠心分離を行う時間は短いほうが好ましく、例えば10分以内、5分以内、3分以内等とすることができるが、これらに限定されない。
検出の対象となる微生物がウイルスのように細菌より小さい場合は、遠心分離によって微生物又は微生物の核酸が沈降しないことがあり、そのような場合は上清を集菌物とすることが好ましい。
なお、試料又は検出の対象となる微生物に応じて、工程A及び工程Bを省略して、後述する工程Cから実施してもよい。その場合、工程Cにおいて、「前記工程Bで得られた集菌物」を「試料」に置き換えて実施することができ、本明細書においてこの工程を工程C1と称することがある。
例えば、試料中に含まれる夾雑物が少ない場合、工程A及び工程Bを省略することが可能であり、工数が減ることでより簡便な前処理方法になる。また、保存状態が悪い試料や採取してから時間が経過した試料を使用する場合、検出の対象となる微生物が死菌化又は溶菌していることがある。その場合に、工程Bにおける集菌によって夾雑物の一部が分離及び除去される際に、検出に必要な核酸等の微生物構成成分等も除去され得るため、工程A及び工程Bを省略することが好ましい。さらに、検出対象微生物がウイルスのように細菌より小さい場合も、工程Bにおける集菌によって検出に必要な核酸等の微生物構成成分等も除去され得るため、工程A及び工程Bを省略することが好ましい。
[工程C]
工程Cでは、工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する。集菌物は、工程Bによって集菌されたものであり、例えば、工程Bが限外ろ過で実施された場合は、ろ取された固形分又はろ液であり、工程Bが遠心分離で実施された場合は、沈降物又は上清である。好ましくはろ液又は沈降物である。
工程A及び工程Bを省略する場合、工程Cでは、集菌物に代えて試料をアルカリ性溶液に懸濁する(工程C1)。工程C1の詳細については工程Cの説明が適用されるが、工程C1における試料については工程Aの説明が適用される。
工程Cにおいてアルカリ性溶液としては、前記工程Aで説明したと同様のアルカリ性溶液を使用できる。また、工程Cでは、工程Aで説明したと同様に、添加剤等を懸濁液に更に加えてもよい。
また、工程Cにおいて、アルカリ性溶液に対する集菌物の量は、以降の工程を行うことができる量であれば制限されない。例えば、集菌物が沈降物又はろ取された固形分の場合、アルカリ性溶液100mlに対して、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、下限としては0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上とすればよい。
工程Cにおいて懸濁は、公知の方法で実施できる。例えば、集菌物とアルカリ性溶液を含んだチューブを手動で振動させて懸濁する方法(タッピング)、ピペットマン等によるピペッティング、転倒混和、ボルテックスミキサー等による懸濁などである。
[工程D]
工程Dでは、工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する。この工程では、微生物内に含まれる核酸、タンパク質、脂質等が液中に放出されうる。放出された核酸、タンパク質、脂質等をターゲットにすることで、後の、微生物の検出が感度よく効率的に実施できる。また、工程A及び工程Bを省略する場合、工程Dでは、工程C1で得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する。本明細書において、この工程を工程D1と称することがある。工程D1の詳細については工程Dの説明が適用される。
工程Dは、撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、アルカリ処理及び酵素処理の少なくとも一つの処理を含む方法により好ましく実施できる。
撹拌処理は懸濁液を撹拌して微生物を破砕する方法である。撹拌処理は、転倒混和、ボルテックスミキサー、撹拌機などにより行うことができる。
ビーズ破砕処理は、懸濁液にビーズを加えて撹拌することで微生物を破砕する方法である。用いるビーズの種類は特に制限はなく微生物破砕用のものであれば使用でき、例えば、ジルコニアビーズ、ガラスビーズ等が挙げられるが、ジルコニアビーズがより好ましい。また、ビーズのサイズは例えば5mm以下が好ましく、複数のサイズのビーズを組み合わせて使用してもよい。複数のサイズのビーズを用いることで、破砕効率の向上が期待できる。処理時間は例えば10秒間〜5分間、好ましくは20秒間〜3分間である。
超音波処理は、懸濁液に超音波を当てることで、微生物を破砕する方法である。例えば、超音波ホモジナイザーは簡便に細胞壁を壊すことができ、微生物が破砕されやすい。処理時間は例えば10秒間〜2分間、好ましくは10秒間〜1分間であり、1回のみでも複数回(例えば2〜6回、2〜4回等)繰り返してもよい。
加熱処理は、懸濁液に熱を加えることで微生物を溶菌させる方法である。加熱温度は特に制限されないが、80℃以上が好ましく、85℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましい。加熱時間は例えば10秒間〜5分間、好ましくは20秒間〜4分間である。
アルカリ処理は、懸濁液にアルカリ性物質を加えて微生物を溶菌する方法である。アルカリ性物質は、懸濁液を溶菌できる程度のアルカリ性とでき、微生物の検出を阻害しないもの、あるいは阻害しても簡便に除去できるものであれば、特に制限されない。例えば、前記のアルカリ性溶液であっても、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム又は炭酸カルシウムであってもよく、これらを単独で又は複数種を組み合わせて使用できる。懸濁液に添加されるアルカリ性溶液は、pH8.0〜14.0であることが好ましく、pH9.0〜13.0であることがより好ましい。水酸化カリウム等の固形のアルカリ性物質の使用量は使用後の液のpHが、例えば8.0〜14.0となる量、好ましくは9.0〜13.0となる量である。
なお、工程Cにおいて得られる懸濁液が溶菌に適したアルカリ性(例えばpH8.0〜14.0、pH9.0〜13.0等)であるときは、工程Dの溶菌又は破砕工程を省略することもできる。例えば工程Cにおいて懸濁後、放置することで溶菌を進行させてもよい。
酵素処理は、懸濁液に細胞壁溶解酵素等を加えて微生物を溶菌する方法である。使用する酵素は、目的の微生物を溶菌できる酵素であることを除き、制限されない。また、酵素反応は酵素の活性が大きくなる温度等の条件で行うことが好ましい。
工程Dでは、一つ又は複数の処理を連続して行ってもよいし、可能であれば複数の処理を組み合わせて同時に行ってもよい。複数の処理を組み合わせることで、より溶菌又は破砕されやすくなるので好ましい。一実施形態において、工程Cで溶菌に適したアルカリ性溶液に懸濁し、工程Dにおいて他の処理、例えば撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、酵素処理等、を行う。また、他の実施形態では、工程Cで得られた懸濁液に撹拌処理及びビーズ破砕処理を行う。さらに別の実施形態では、工程Cで得られた懸濁液にビーズ破砕処理を行う。
[工程E]
本発明では工程Eとして、工程D又は工程D1で得られた溶菌液または破砕液を精製する工程を設けてもよい。工程Eにより該液が精製され、微生物の検出を高感度に行うことができる。ここでいう精製とは、工程Dにて液中に放出された核酸、タンパク質、脂質等の純度を上げることをいう。すなわち、溶液中に放出された核酸、タンパク質、脂質等以外の夾雑物の量を工程Dで得られた液より低減させることをいう。精製する方法は特に制限されないが、抽出処理、限外ろ過処理、分離処理等が挙げられ、これらの処理は単独でも複数組み合わせてもよい。工程数を小さく、前処理を簡便にする観点からは工程Eを設けないことが好ましい。
抽出とは、溶液中に放出された微生物由来の核酸、タンパク質、脂質等を選択的に収集する方法である。例えば、核酸抽出法、タンパク質抽出法、脂質抽出法等は現在までそれぞれ複数の方法が発明されており、のちの検出を行うターゲットに合わせて選べばよい。一例を挙げれば、核酸検出法を行うのであれば、核酸抽出法を選択することが好ましい。
限外ろ過とは、目的に応じた孔径を有するフィルター等を用いて目的物とそれ以外の夾雑物を分離する方法である。例えば、溶液中に放出された微生物由来の核酸、タンパク質、脂質等を選択的に分離するため、それらが通過する大きさの孔を有するフィルターを用いることが好ましい。該フィルターを用いることで、核酸、タンパク質、脂質等の小分子はろ液として通過し、孔よりも大きい夾雑物を除去することができる。
分離とは、物理的あるいは化学的な方法で核酸、タンパク質、脂質等を選択的に収集することをいう。例えば、遠心分離、HPLC等をはじめとするクロマトグラフィー、磁気分離、電気分離等が挙げられるが、これらに限定されない。一例として遠心分離にて選択的に分離する場合、核酸、タンパク質、脂質等が沈降物にならない程度の遠心力を加えることが好ましい。該遠心力を加えて処理することで、核酸、タンパク質、脂質等の目的物は上清に残るため、上清をのちの検出に使用することができる。遠心力は、5,000g以上が好ましく、8,000g以上がより好ましく、10,000g以上がさらに好ましく、13,000g以上がより一層好ましいが、これらに限定されない。遠心力の上限値は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、一例として、200,000g以下とすることができ、好ましくは50,000g以下とすることができる。また、遠心分離を行う時間は10分以内が好ましく、5分以内がより好ましく、3分以内がさらに好ましいが、これらに限定されない。
[微生物を検出する方法]
本発明において検出対象試料液とは、試料が前処理されることで、試料中の夾雑物が微生物検出操作に使用できる程度にまで低減された液である。したがって、該液をそのまま、あるいは該液に必要に応じて、微生物の検出に必要な各種標識、核酸増幅、核酸検出等のための成分等が添加され、場合によっては反応させられることによって、微生物検出処理に使用することができる。なお、検出対象試料液には、微生物の検出を阻害しない限りにおいて、適宜の、他の成分を加えたり、他の処理を加えたりできる。
微生物を検出する方法は、核酸検出法、抗原検査法、抗体検査法、培養同定法、質量分析法、生化学的性状試験等が挙げられるが、微生物由来の核酸を検出する方法である核酸検出法が好ましい。
核酸を検出する方法は、さらに、核酸増幅を含む方法であることが好ましい。核酸増幅を行うことで、より高感度に目的の微生物由来の核酸を検出することができる。核酸増幅の方法としては、PCR法、LAMP法、LCR法、TMA法、SDA法、RT−PCR法、RT−LAMP法、NASBA法、TRC法、TMA法等が挙げられる。これらの技術は既に当該技術分野において確立されており、目的に合わせて適宜選択できる。好ましい核酸増幅法はPCRである。
PCRは、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応であり、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって標的核酸を増幅する。DNAポリメラーゼとしては、Taq、Tth、Bst、KOD、Pfu、Pwo、Tbr、Tfi、Tfl、Tma、Tne、Vent、DEEPVENTやその変異体が挙げられる。
[検出対象の微生物(検出対象微生物)]
本発明において、検出の対象となる微生物は、特に制限されないが、例えば、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、Clostridioides difficile)、赤痢菌、サルモネラ菌、大腸菌(例えば、腸管出血性大腸菌)、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、結核菌群(Mycobacterium tuberculosis complex)、非結核性抗酸菌、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)、肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、オウム病クラミジア(Chlamydia psittaci)、ウレアプラズマ(Ureaplasma urealyticum、U.parvum等)、HIV(Human immunodeficiency virus)及びHPV(Human papillomavirus)等であり、検出対象微生物は1種単独でも複数種組み合わせてもよい。それぞれの微生物は個性(特性)があるため、目的の微生物に合わせて前処理方法を本発明の範囲内で適宜変更してもよい。
例えば、クロストリジウム・ディフィシルはグラム陰性桿菌かつ芽胞を形成するため、工程C〜工程Dで使用するアルカリ性溶液のpHを大きくすることができる。例えば、アルカリ性溶液はpH10.0以上が好ましく、pH11.0以上がさらに好ましい。
例えば、結核菌群は、ミコール酸を細胞壁に多く含み、外的因子に対して高い抵抗性を示すため、工程C〜工程Dで使用するアルカリ性溶液をpHが大きいものとすることができる。例えば、アルカリ性溶液はpH10.0以上が好ましく、pH11.0以上がさらに好ましい。
本発明の一実施形態は、本発明の前処理方法で調製された液、つまり、工程D又は工程D1で得られた溶菌液又は破砕液或いは工程Eで得られた精製液を、検出対象試料液とした、微生物の検出方法である。この方法の詳細は本発明の前処理方法と同様である。
例えば、本発明の一実施形態は、以下の微生物の検出方法である。
以下の工程A〜D及び任意にE:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液のいずれかに懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、及び任意に
(E)前記工程Dで得られた溶菌液または破砕液を精製する工程、
を包含する、微生物を検出する方法に供される試料の前処理方法によって前記工程Dで得られた溶菌液又は破砕液或いは前記工程Eで得られた精製液を検出対象試料液とする、微生物を検出する方法。この方法において、工程A及び工程Bを省略してもよく、省略する場合は、工程Cにおいて、「前記工程Bで得られた集菌物」を「試料」に置き換える。
[検出対象試料液の調製方法]
本発明の前処理方法では検出対象試料液を簡便に調製でき、したがって、検出対象試料液の調製方法として非常に有用である。本発明の一実施形態は、本発明の前処理方法を包含する、微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法である。したがって、この方法の詳細は本発明の前処理方法と同様である。
例えば、本発明の一実施形態は、微生物を検出する方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、以下の工程A〜D及び任意にE:
(A)試料を水又はアルカリ性溶液のいずれかに懸濁する工程、
(B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
(C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、
(D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、及び任意に
(E)前記工程Dで得られた溶菌液または破砕液を精製する工程、
を包含する、方法である。この方法において、工程A及び工程Bを省略してもよく、省略する場合は、工程Cにおいて、「前記工程Bで得られた集菌物」を「試料」に置き換える。
[試薬]
さらに、本発明の一実施形態は、本発明の前処理方法、検出対象試料液の調製方法、微生物の検出方法などのための試薬である。試薬の種類、個数について、本発明の方法が実施できれば特に制限されない。例えば、工程A、工程C又は工程C1で使用されるアルカリ性溶液や工程D又は工程D1で使用されるビーズや酵素(例えば、溶菌酵素)などが試薬のひとつとして挙げられる。これら試薬の詳細は、本発明の前処理方法と同様である。
[キット]
さらに、本発明の一実施形態は、前記試薬を含む、本発明の前処理方法、検出対象試料液の調製方法、微生物の検出方法などのためのキットである。キットの構成について、前記試薬を含み、本発明の方法が実施できれば特に制限されない。例えば、工程A、工程C又は工程C1で使用されるアルカリ性溶液、工程D又は工程D1で使用されるビーズのいずれかひとつを少なくとも含むキットが挙げられる。また、例えば、試料又は試料の集菌物を懸濁するためのアルカリ性溶液と、微生物を破砕するためのビーズと、を含む、微生物検出のための前処理用キットや、試料又は試料の集菌物を懸濁するためのアルカリ性溶液と、プライマーセットからなるプライマーミックスを含むPCR用反応試薬と、を含む、微生物検出用キットなども挙げられる。これらキットの詳細は、本発明の前処理方法と同様である。
以下に試験例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は試験例に限定されるものではない。
〔試験例1:工程Aで用いる溶液の検討〕
(1−1)前処理方法
精製水、アルカリ性溶液として、以下のpHの水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液、あるいはpH2.0又はpH5.0の塩化水素水溶液(塩酸)を用いて本発明の前処理方法を行った。
水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液のpH
8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0
(工程A)
まず、生体試料としてクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、別名:Clostridioides difficile)(トキシンB産生株)を含むヒト糞便を用いこれから綿棒を用いてその一部を採取し、約5%(w/v)で上記の各液(約1ml)に懸濁しサンプル液を得た。
(工程B)
得られた懸濁液の全量で遠心分離(13,000g×3分)を行い、上清を廃棄して沈降物(集菌物)を得た。
(工程C)
沈降物(集菌物)を、それぞれ工程Aで使用した液と同じ液(約0.2ml)で懸濁して懸濁液を得た。ただし、工程Aにおいて精製水で懸濁したサンプル液については水酸化カリウム水溶液(pH8.0、約0.2ml)で懸濁して懸濁液を得た。
(工程D)
得られた懸濁液をジルコニア・ビーズが充填されているジーンキューブ(登録商標)専用イージー・ビーズに分注してビーズ破砕(ボルテックスミキサーで30秒間撹拌)を行い破砕液を得た。
(1−2)微生物の検出
工程Dで得られた破砕液を検出対象試料液とし、核酸検出用の下記反応液に直接供して検出対象試料液中の検出対象微生物の核酸を増幅し、C. difficileトキシンB遺伝子(tcdB)の検出を行った。また、ポジティブコントロールとして同じ糞便検体をMagExtractor(TM)−Genome−(東洋紡社)にて核酸抽出した溶液、及びネガティブコントロールとして糞便検体を精製水に懸濁して(工程A)、それ以降の処理を行わない未処理懸濁液も同様に測定した。なお、核酸抽出操作では、70%エタノールの使用を必要とし、B/F分離を4回実施する等、約10工程が必要であった。
(反応液)
核酸増幅反応用の基礎となる液としてジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製等はジーンキューブ(登録商標)テストベーシックの取扱説明書に従った。
(添加成分)
1.5μMの配列番号1で示されるプライマー
0.5μMの配列番号2で示されるプライマー
0.3μMの配列番号3で示されるオリゴヌクレオチドプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
(核酸増幅・検出)
核酸増幅及び検出機であるGENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液に検出対象試料液の4μLを自動で分注し、以下の条件でPCRを行うとともに融解曲線分析を実施した。
(PCR条件)
94℃ 30秒、
98℃ 1秒−52℃ 10秒−63℃ 10秒(サイクル数60回)
94℃ 30秒、
39℃ 30秒、
40−75℃ 0.09℃/秒
(1−3)結果
結果を表1に示す。判定は融解曲線分析にて取得した蛍光値に基づき以下の基準で行った。なお、この判定基準は以降の試験例でも使用した。
(判定基準)
「−」:蛍光強度が10未満
「+」:蛍光強度が10以上20未満
「++」:蛍光強度が20以上30未満
「+++」:蛍光強度が30以上
Figure 2020068725
ポジティブコントロールの核酸抽出液と同様、工程Aにおいて精製水又はアルカリ性溶液で懸濁した試料液でも判定が+以上となりtcdB遺伝子を検出することができた。一方で、塩酸にて処理した試料液では偽陰性となり、正しい結果が得られないことを確認した。また、ネガティブコントロールの未処理懸濁液でも偽陰性となったことから、本発明が微生物を検出するために用いられる前処理方法として有用であることを確認できた。
〔試験例2:工程Bの検討〕
(2−1)前処理方法
工程Bにおける集菌方法の検討を行った。
(工程A)
試験例1と同様にして、クロストリジウム・ディフィシルを含むヒト糞便から綿棒を用いてその一部を採取し、約5%(w/v)でpHが約11.0の水酸化カリウム水溶液(約1mL)に懸濁した。
(工程B)
続いて、この懸濁液を以下のいずれかの処理に供して集菌した。
(集菌方法)
・限外ろ過(フィルター孔径0.1mm)
・綿栓ろ過
・遠心分離(5,000g×3分)
・遠心分離(8,000g×3分)
・遠心分離(10,000g×3分)
・遠心分離(13,000g×3分)
本工程Bにおいて、限外ろ過処理及び綿栓ろ過処理についてはろ液を、遠心分離処理については沈降物を、集菌物として取得した。
(工程C)
それぞれの集菌物について、工程Aで使用した水酸化カリウム水溶液と同じ液(約0.2ml)で懸濁して懸濁液を得た。
(工程D)
それぞれの懸濁液を、試験例1と同様のビーズ破砕に供し破砕液を得た。
(2−2)微生物の検出
工程Dで得られた破砕液を検出対象試料液として用い、試験例1と同様にして、C. difficileトキシンB遺伝子(tcdB)の検出を行った。また、ポジティブコントロールとして同じ糞便検体をMagExtractor(TM)−Genome−(東洋紡社)にて核酸抽出した溶液も検出対象試料液として用い、同様に測定した。
(2−3)結果
結果を表2に示す。ろ過又は遠心分離による集菌工程を行うことで、ポジティブコントロールの核酸抽出物と同様に判定が+以上となりtcdB遺伝子を検出することができた。また、遠心分離の回転数を上げるほど、検出での蛍光値が上がることを確認した。これは、遠心分離によって検出反応を阻害する夾雑物等を除去できたためと考えられる。
Figure 2020068725
〔試験例3:工程Cで用いるアルカリ性溶液の検討〕
(3−1)前処理方法
工程(C)で用いるアルカリ性溶液の検討の検討を行った。
(工程A)
試験例1と同様にして、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、別名:Clostridioides difficile)(トキシンB産生株)を含むヒト糞便から綿棒を用いてその一部を採取し、約5%(w/v)でpHが約11.0の水酸化カリウム水溶液に懸濁した。
(工程B)
得られた懸濁液の全量で遠心分離(13,000g×3分)を行い、上清を廃棄して沈降物(集菌物)を得た。
(工程C)
得られた沈降物(集菌物)をそれぞれ、アルカリ性溶液として以下のpHの水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液、あるいはpH2.0又はpH5.0の塩化水素水溶液(塩酸)(いずれも約0.2ml)で懸濁して懸濁液を得た。
水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液のpH
8.0、9.0、10.0、11.0、12.0、13.0
(工程D)
それぞれの懸濁液を、試験例1と同様のビーズ破砕に供し破砕液を得た。
(3−2)微生物の検出
工程Dで得られた破砕液を検出対象試料液として用い、試験例1と同様にして、C. difficileトキシンB遺伝子(tcdB)の検出を行った。また、ポジティブコントロールとして同じ糞便検体をMagExtractor(TM)−Genome−(東洋紡社)にて核酸抽出した溶液、及びネガティブコントロールとして糞便検体を精製水に懸濁して(工程A)、それ以降の処理を行わない未処理懸濁液も検出対象試料液として用い、同様に測定した。
(3−3)結果
結果を表3に示す。工程Cにおいてアルカリ性溶液で懸濁した試料は、ポジティブコントロールの核酸抽出物と同様に判定が+以上となりtcdB遺伝子を検出することができた。一方で、工程Cにおいて塩酸で処理した試料では偽陰性となり、正しい結果が得られないことを確認した。
Figure 2020068725
〔試験例4:工程Dの検討〕
(4−1)前処理方法
工程Dで用いる破砕処理又は溶菌処理の検討を行った。
(工程A)
試験例1と同様にして、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、別名:Clostridioides difficile)(トキシンB産生株)を含むヒト糞便から綿棒を用いてその一部を採取し、約5%(w/v)でpHが約11.0の水酸化カリウム水溶液(約1mL)に懸濁した。
(工程B)
得られた懸濁液の全量で遠心分離(13,000g×3分)を行い、上清を廃棄して沈降物(集菌物)を得た。
(工程C)
集菌物について、工程Aで使用した水酸化カリウム水溶液と同じ液(約0.2ml)で懸濁して懸濁液を得た。
(工程D)
得られた懸濁液を以下のいずれかの処理に供して処理液を得た。
(溶菌処理又は破砕処理)
・試験例1の工程Dと同じビーズ破砕処理
・ボルテックスミキサー撹拌処理(30秒間)
・超音波ホモジナイザー処理(15秒間×4)
・80℃加熱処理(3分間)
・85℃加熱処理(3分間)
・90℃加熱処理(3分間)
・静置処理(アルカリ処理に該当する;3分間)
(4−2)微生物の検出
工程Dで得られた処理液を検出対象試料液として用い、試験例1と同様にして、C. difficileトキシンB遺伝子(tcdB)の検出を行った。また、ポジティブコントロールとして同じ糞便検体をMagExtractor(TM)−Genome−(東洋紡社)にて核酸抽出した溶液も検出対象試料液として用い、同様に測定した。
(4−3)結果
結果を表4に示す。工程Dにおいて、ビーズ破砕処理、超音波処理、撹拌処理、加熱処理又はアルカリ処理を実施することで、ポジティブコントロールの核酸抽出物と同様に判定が+以上となりtcdB遺伝子を検出することができた。コントロールの核酸抽出物と同様、tcdB遺伝子を検出することができた。
Figure 2020068725
〔試験例5:工程Eの検討〕
(5−1)前処理方法
工程Eにおける溶菌液又は破砕液の精製方法の検討を行った。
(工程A〜工程D)
試験例2において遠心分離(5,000g×3分)を経て得られた破砕液(判定;+)及び試験例4においてビーズ破砕を経て得られた破砕液(判定;++)と同様にして2種の破砕液を調製した。
(工程E)
得られた破砕液について以下のいずれかの処理に供して上清(精製液)を得た。
(精製処理)
・遠心分離(5,000g×3分)
・遠心分離(8,000g×3分)
・遠心分離(10,000g×3分)
・遠心分離(13,000g×3分)
(5−2)微生物の検出
工程Eで得られた上清を検出対象試料液として用い、試験例1と同様にして、C. difficileトキシンB遺伝子(tcdB)の検出を行った。
(5−3)結果
結果を表5に示す。工程(E)を行うことによって、試験例2あるいは試験例4での結果と比較して、融解曲線分析にて取得した蛍光値が大きくなった。これは、工程Eによって夾雑物が除去されたためと考えられる。
Figure 2020068725
〔試験例6:工程A及び工程Bを省略した前処理方法の検討1〕
(6−1)前処理方法
工程Aと工程Bを省略して工程C〜Dを行う前処理方法の検討を行った。また、懸濁する溶液種の検討も行った。
対象微生物として、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile、別名:Clostridioides difficile)(トキシンB産生株)の培養菌を使用した。なお、培養後、すぐに検討に使用した場合(生菌)と、好気条件下で2日間放置して死菌化した場合(死菌)の2条件にて前処理法を実施した。
また、試料として、C. difficileを含まないヒト糞便検体を使用した。
(工程C)
ヒト糞便から綿棒を用いてその一部を採取し、約10%(w/v)あるいは約5%(w/v)でpHが約11.0の水酸化カリウム水溶液(約1mL)あるいはpH2.0の塩化水素水溶液(塩酸)に懸濁した。続いて、C. difficile培養菌(生菌あるいは死菌)をMcFarland1.0となるように生理食塩水に懸濁し、さらに1000倍希釈した。該溶液それぞれ10μLを便懸濁液に追添した。得られた懸濁液の一部(約0.2ml)を工程Dに使用した。
(工程D)
得られた懸濁液を試験例1と同様のビーズ破砕に供し破砕液を得た。
(6−2)微生物の検出
工程Dで得られた処理液を検出対象試料液として用い、試験例1と同様にして、C. difficileトキシンB遺伝子(tcdB)の検出を行った。
(6−3)結果
結果を表6に示す。工程Aと工程Bを省略して工程Cで水酸化カリウム水溶液にて前処理を行った場合、生菌、死菌に関わらず検出することができた。なお、工程Aと工程Bを省略して工程Cで塩酸にて前処理を行った場合、菌の状態に関わらずC. difficileを検出することができなかった。本試験によって、試料や微生物によって工程Aと工程Bを省略してもよいことが示唆された。
Figure 2020068725
〔試験例7:試料による前処理方法の検討2〕
(7−1)前処理方法
工程Aと工程Bを省略して工程C〜Dを行う前処理方法の検討を行った。また、工程Cで懸濁する溶液種の検討も行った。
対象微生物として、ノロウイルスG1粒子あるいはノロウイルスG2粒子を使用した。
また、生体試料として、ノロウイルスを含まない試験例6で使用したヒト糞便検体を使用した。
(工程C)
ヒト糞便から綿棒を用いてその一部を採取し、約10%(w/v)あるいは約5%(w/v)でpHが約11.0の水酸化カリウム水溶液(約1mL)又はpHが2.0の塩化水素水溶液(塩酸)に懸濁した。続いて、不活化されたノロウイルスG1粒子あるいはノロウイルスG2粒子(NATtrolTM norovirus GI positive contorol及びNATtrolTM norovirus GII positive contorol)3000コピー/μLを約20μL添加し、終濃度が約62コピー/μLとした。得られた懸濁液の一部(約0.2ml)を工程Dに使用した。
(工程D)
得られた懸濁液を試験例1と同様のビーズ破砕に供し破砕液を得た。
(7−2)微生物の検出
工程Dで得られた処理液を検出対象試料液とし、核酸検出用の下記反応液に直接供して検出対象試料液中の検出対象微生物の核酸を増幅し、ノロウイルスG1あるいはノロウイルスG2の検出を行った。なお、RevertraAceは、逆転写酵素を含む試薬である。
(反応液)
核酸増幅反応用の基礎となる液としてジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液をそれぞれ調製した。反応液の調製等はジーンキューブ(登録商標)テストベーシックの取扱説明書に従った。
ノロウイルスG1検出系
1.5μMの配列番号4で示されるプライマー
0.5μMの配列番号5で示されるプライマー
0.3μMの配列番号6で示されるオリゴヌクレオチドプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
0.05unit/μL RevertraAce(東洋紡社)
ノロウイルスG2検出系
0.5μMの配列番号7で示されるプライマー
1.5μMの配列番号8で示されるプライマー
0.3μMの配列番号9で示されるオリゴヌクレオチドプローブ(3’末端をBODIPY-FLで標識)
0.05unit/μL RevertraAce(東洋紡社)
(核酸増幅・検出)
核酸増幅及び検出機であるGENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液に検出対象試料液の4μLを自動で分注し、以下の条件でPCRを行うとともに融解曲線分析を実施した。
42℃ 180秒(逆転写反応)、
94℃ 30秒、
98℃ 1秒−52℃ 10秒−63℃ 10秒(サイクル数60回)、
94℃ 30秒、
39℃ 30秒、
40−75℃(昇温速度0.09℃/秒)。
(7−3)結果
結果を表7、表8に示す。表7がノロウイルスG1検出系の結果、表8がノロウイルスG2検出系の結果を示す。工程C〜Dの前処理方法で、ノロウイルスを検出できることを確認した。
一方で、工程Aと工程Bを省略し、工程Cにおいて塩酸にて前処理を行った場合、ノロウイルスを検出することができなかった。
本試験によって、ウイルスの検出には工程C〜Dの前処理方法が適していることが確認された。
Figure 2020068725
Figure 2020068725
本発明の前処理方法で処理した液(検出対象試料液)を核酸増幅反応に直接供したところ、驚くべきことに、優れた結果が得られた(試験例1〜5)。この結果は、本発明の前処理方法で後の検出反応に悪影響を及ぼす夾雑物等を高度に除去でき、その結果、核酸増幅・検出反応において夾雑物による反応阻害が抑制されたことを示唆する。理論に束縛されることは望まないが、本発明の前処理方法は、工程Bにて集菌することで、目的物以外の夾雑物等を除くことができるとともに、工程Cと工程Dの作用が相俟って微生物に含まれる核酸、タンパク質、脂質等を液中に効率的に放出できるため、本発明で前処理された液を微生物を検出する方法に直接供することができると考えられる。
また、試験例6及び7では、糞便検体に工程C及び工程Dを行う前処理方法が、クロストリジウム・ディフィシルの検出及びノロウイルスの検出に適していることが明らかとなった。従って、本発明の工程C及び工程Dから構成される前処理で試料液を調製後は、1つの試料液で様々な種類の微生物の検出を行うことが可能となり、臨床診断等の場面で非常に有益である。
本発明の前処理方法を用いることで、核酸精製することなく、試料中に含まれる微生物由来の核酸を検出することができるため、臨床診断の分野に大きく貢献できる。

Claims (14)

  1. 微生物の検出方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程A〜D:
    (A)試料を水又はアルカリ性溶液懸濁する工程、
    (B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
    (C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
    (D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
    を包含する、方法。
  2. 微生物の検出方法に供される試料の前処理方法であって、以下の工程C1〜D1:
    (C1)試料をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
    (D1)前記工程C1で得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
    を包含する、方法。
  3. 前記工程A、工程C又は工程C1において、アルカリ性溶液が、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、及び炭酸カルシウム水溶液からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記工程A、工程C又は工程C1において、アルカリ性溶液のpHが8.0以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記工程Bにおいて集菌する工程が、限外ろ過処理及び/又は遠心分離処理を含む、請求項1及び3〜4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記工程D又は工程D1において溶菌又は破砕する工程が、撹拌処理、ビーズ破砕処理、超音波処理、加熱処理、アルカリ処理及び酵素処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 前記工程Aにおいて試料を懸濁する液がアルカリ性溶液であり、前記工程Bにおいて集菌する工程が遠心分離処理を含み、前記工程Dにおいて溶菌又は破砕する工程が撹拌処理、ビーズ破砕処理及びアルカリ処理からなる群より選択される少なくとも一つの処理を含む、請求項1及び3〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記工程A又は工程C1において試料が糞便である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 微生物の検出方法が、微生物由来の核酸を検出する方法である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
  10. 検出対象微生物が、クロストリジウム・ディフィシル、赤痢菌、サルモネラ菌、大腸菌、ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、結核菌群、非結核性抗酸菌、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、肺炎マイコプラズマ、百日咳菌、パラ百日咳菌、肺炎クラミジア、クラミジア・トラコマチス、オウム病クラミジア、ウレアプラズマ、HIV及びHPVからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 更に以下の工程Eを包含する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法:
    (E)前記工程D又は工程D1で得られた溶菌液又は破砕液を精製する工程。
  12. 請求項1〜11の工程D又は工程D1で得られた溶菌液又は破砕液、或いは請求項11の工程Eで得られた精製液を検出対象試料液とする微生物の検出方法。
  13. 微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、
    以下の工程A〜D:
    (A)試料を水又はアルカリ性溶液のいずれかに懸濁する工程、
    (B)前記工程Aで得られた懸濁液に含まれる微生物を集菌する工程、
    (C)前記工程Bで得られた集菌物をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
    (D)前記工程Cで得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
    を包含する、方法。
  14. 微生物の検出方法に供される検出対象試料液の調製方法であって、
    以下の工程C1〜D1:
    (C1)試料をアルカリ性溶液に懸濁する工程、及び
    (D1)前記工程C1で得られた懸濁液に含まれる微生物を溶菌又は破砕する工程、
    を包含する、方法。
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