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JP2019059658A - 酸素含有シリコン材料及びその製造方法 - Google Patents

酸素含有シリコン材料及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】二次電池の容量維持率を好適化可能な、シリコン材料及びその製造方法を提供する。【解決手段】酸素質量%(WO%)が16<WO<27であり、シリコン質量%(WSi%)が62<WSi<81であることを特徴とする酸素含有シリコン材料。【選択図】図1

Description

本発明は、酸素含有シリコン材料に関する。
シリコンは半導体、太陽電池、二次電池などの構成要素として用いられることが知られており、それゆえに、シリコンに関する研究が活発に行われている。
例えば、特許文献1には、CaSiと酸とを反応させてCaを除去した層状ポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成したこと、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させたシリコン材料を製造したこと、及び、当該シリコン材料を負極活物質として具備するリチウムイオン二次電池が記載されている。
国際公開第2014/080608号
シリコン材料を二次電池の負極活物質として採用する場合、電荷担体を吸蔵及び放出するとの負極活物質としての機能を発揮するのは、シリコンそのものである。そのため、電荷担体を吸蔵及び放出するとの機能を向上させるには、シリコン材料の純度を高くする必要がある。しかしながら、シリコンの割合が高いシリコン材料を負極活物質として用いた二次電池においては、(初期放電容量)/(初期充電容量)で示される初期効率が改善されるものの、充放電を繰り返した際の容量が大きく減少することが判明した。
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、二次電池の容量維持率を好適化可能な、シリコン材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者は、試行錯誤を繰り返し、シリコン材料の製造方法を検討した。その結果、シリコン以外の元素をある程度含有するシリコン材料を採用した二次電池が、容量維持率に優れることを見出した。
本発明は、シリコン以外の元素として酸素に着目した、酸素含有シリコン材料に関するものであり、特に、酸素含有シリコン材料の酸素含有量を制御し得る製造方法を提供するものである。
本発明の酸素含有シリコン材料は、酸素質量%(W%)が16<W<27であり、シリコン質量%(WSi%)が62<WSi<81であることを特徴とする。
本発明の酸素含有シリコン材料の製造方法の一態様は、
a−1)CaSiを15〜50℃の酸水溶液と反応させて、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程、
b)前記酸素含有層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して、酸素含有シリコン材料を合成する工程、
を含むことを特徴とする。
本発明の酸素含有シリコン材料の製造方法の他の一態様は、
a−2−1)CaSiを−20〜10℃の酸水溶液と反応させる工程、
a−2−2)前記a−2−1)工程に引き続き、反応液の温度を15〜50℃として、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程、
b)前記酸素含有層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して、酸素含有シリコン材料を合成する工程、
を含むことを特徴とする。
本発明により、二次電池の容量維持率を好適化可能な、酸素含有シリコン材料及びその製造方法を提供することができる。
評価例2における、各リチウムイオン二次電池の積算容量と放電容量の関係を示すグラフである。 評価例9における、各リチウムイオン二次電池の積算容量と放電容量の関係を示すグラフである。
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
本発明の酸素含有シリコン材料は、酸素質量%(W%)が16<W<27であり、シリコン質量%(WSi%)が62<WSi<81であることを特徴とする。
本発明の酸素含有シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極活物質として使用できる。本発明の酸素含有シリコン材料は酸素とシリコンの割合が適切であるため、本発明の酸素含有シリコン材料を具備する二次電池は、容量維持率、容量、及び初期効率のすべてをバランス良く満足する。
酸素質量%が過度に低く、シリコン質量%が過度に高い酸素含有シリコン材料は、負極活物質としての容量及び初期効率に優れるものの、容量維持率に劣る。他方、酸素質量%が過度に高く、シリコン質量%が過度に低い酸素含有シリコン材料は、負極活物質としての容量及び初期効率に劣る。
本発明の酸素含有シリコン材料における酸素質量%(W%)は、16.5≦W≦26.5が好ましく、17≦W≦26がより好ましく、18≦W≦25.5がさらに好ましく、19≦W≦25が特に好ましい。
本発明の酸素含有シリコン材料におけるシリコン質量%(WSi%)は、65≦WSi≦80を満足するのが好ましく、68≦WSi≦79を満足するのがより好ましく、70≦WSi≦78を満足するのがさらに好ましく、70≦WSi≦76を満足するのが特に好ましい。
本発明の酸素含有シリコン材料は、酸素及びシリコン以外の元素を含有してもよい。かかる元素としては、Alが好ましい。Alを含有する本発明の酸素含有シリコン材料は、抵抗が低減する。そのため、Alを含有する本発明の酸素含有シリコン材料は、負極活物質としての機能に優れるといえる。
また、二次電池の充放電条件下においては、電解液の構成成分が分解して、負極活物質の表面に酸素を含むSEI(Solid Electrolyte Interphase)被膜が形成することが知られている。ここで、負極活物質がシリコンを含有する場合、シリコンがSEI被膜に含まれる酸素によって酸化されて劣化することが懸念される。
しかしながら、Alを含有する本発明の酸素含有シリコン材料は、Alを含有するので、シリコンの酸化劣化が抑制されると考えられる。その理由は、Alはシリコンよりも電気陰性度が低いため酸素と優先的にかつ安定に結合すると考えられる点、Alと酸素とのAl−O結合がSi−O結合よりも安定である点、及び、安定なAl−O結合を形成した酸素はAlよりも電気陰性度の高いシリコンの酸化には関与し難いといえる点にある。
したがって、Alを含有する本発明の酸素含有シリコン材料を負極活物質として具備する二次電池は、長寿命であることが期待できる。
本発明の酸素含有シリコン材料におけるAl質量%(WAl%)は、0<WAl<1を満足するのが好ましく、0<WAl≦0.8を満足するのがより好ましく、0.01≦WAl≦0.6を満足するのがさらに好ましく、0.05≦WAl≦0.4を満足するのが特に好ましい。
本発明の酸素含有シリコン材料には、製造工程由来の不純物や、原料由来の不純物が含有される場合がある。後述するように、本発明の酸素含有シリコン材料の製造方法においては、酸を使用する。当該酸のアニオン由来の元素は、不純物として本発明の酸素含有シリコン材料に含有されやすい。
本発明の酸素含有シリコン材料における、酸のアニオン由来の元素質量%(W%)は、小さい値が好ましい。W%が大きい場合、酸素含有シリコン材料の不可逆容量が増加するため、初期効率が低下する。W%の範囲として、0<W<8を例示できる。W%の範囲は、0<W<6を満足するのが好ましく、0<W≦4を満足するのがより好ましく、0<W≦3を満足するのがさらに好ましく、0<W≦2を満足するのが特に好ましい。酸のアニオンがハロゲンの場合には、酸のアニオン由来の元素質量%(W%)を、ハロゲン質量%(W%)と読み替える。
本発明の酸素含有シリコン材料に含有され得る不純物として、CaとFeを例示できる。Caは、原料のCaSiに由来する。Feは、原料中の不純物である。
本発明の酸素含有シリコン材料における、Ca質量%(WCa%)は、小さい値が好ましい。本発明の酸素含有シリコン材料におけるCa質量%(WCa%)は、0≦WCa<5を満足するのが好ましく、0≦WCa≦1を満足するのがより好ましく、0≦WCa≦0.5を満足するのがさらに好ましく、0≦WCa≦0.3を満足するのが特に好ましい。Caの混入容易性及び除去困難性を鑑みると、本発明の酸素含有シリコン材料におけるCa質量%(WCa%)は、0<WCaとなる場合が想定される。
本発明の酸素含有シリコン材料における、Fe質量%(WFe%)は、小さい値が好ましい。本発明の酸素含有シリコン材料におけるFe質量%(WFe%)は、0≦WFe≦3を満足するのが好ましく、0≦WFe≦1を満足するのがより好ましく、0≦WFe≦0.5を満足するのがさらに好ましく、0≦WFe≦0.3を満足するのが特に好ましく、0≦WFe≦0.1を満足するのが最も好ましい。Feの混入容易性及び除去困難性を鑑みると、本発明のAl含有シリコン材料におけるFe質量%(WFe%)は、0<WFeとなる場合が想定される。
また、Al質量%(WAl%)とFe質量%(WFe%)の関係が、WAl>WFeを満足するのが好ましく、WAl>2×WFeを満足するのがより好ましい。
構造の面からは、本発明の酸素含有シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するのが好ましい。この積層構造は、走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。本発明の酸素含有シリコン材料をリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用することを考慮すると、リチウムイオンの効率的な挿入及び脱離反応のためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。また、板状シリコン体の長軸方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長軸方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。なお、板状シリコン体の積層構造は、原料のCaSiにおけるSi層の名残りと考えられる。
本発明の酸素含有シリコン材料は、アモルファスシリコン及びシリコン結晶のいずれかを含有してもよいし、両者を含有してもよい。シリコン結晶のサイズとしては、ナノサイズのものが好ましい。具体的には、シリコン結晶のサイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定(XRD測定)を行い、得られたXRDチャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
本発明の酸素含有シリコン材料のシリコンにおける、結晶とアモルファスとの比率としては、0:100〜100:0、1:99〜50:50、0:100〜30:70、5:95〜30:70、10:90〜20:80の範囲を例示できる。
本発明の酸素含有シリコン材料は粉末状態のものが好ましく、一定の粒度分布を示す粒子の集合体であるのが好ましい。本発明の酸素含有シリコン材料の平均粒子径としては、0.5〜30μmの範囲内が好ましく、1〜20μmの範囲内がより好ましく、2〜10μmの範囲内がさらに好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合のD50を意味する。
本発明の酸素含有シリコン材料におけるBET比表面積としては、0.5〜15m/gの範囲内、0.5〜10m/gの範囲内、1〜10m/gの範囲内、3〜10m/gの範囲内を例示できる。
次に、本発明の酸素含有シリコン材料の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ということがある。)について説明する。
本発明の製造方法において鍵となるのは、CaSiを酸水溶液と反応させて、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程において、反応液の温度を15〜50℃に設定することにより、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物、及び本発明の酸素含有シリコン材料における酸素含有量を制御することにある。
本発明の製造方法の一態様は、
a−1)CaSiを15〜50℃の酸水溶液と反応させて、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程(以下、単に「a−1)工程」ということがある。)、
b)前記酸素含有層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して、酸素含有シリコン材料を合成する工程(以下、単に「b)工程」ということがある。)、を含むことを特徴とする。
a−1)工程において、酸水溶液として塩化水素水溶液(塩酸)を使用する場合は、以下の式(1)で示す反応が進行し、次いで、層状ポリシランであるSiの表面において、例えば式(2)で示す反応が進行すると考えられる。よって、a−1)工程は、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物、及び本発明の酸素含有シリコン材料における、酸素含有量を決定する鍵工程であるといえる。
式(1) 3CaSi+6HCl→Si+3CaCl
式(2) Si+3HO→Si(OH)+3H
a−1)工程の上記温度としては、18〜45℃の範囲内が好ましく、20〜40℃の範囲内がより好ましい。a−1)工程の温度を制御するには、恒温槽などの恒温装置を使用すればよい。a−1)工程の処理時間としては、1〜50時間、5〜40時間、10〜30時間を例示できる。
a−1)工程に替えて、以下のa−2−1)工程及びa−2−2)工程を採用してもよい。
a−2−1)CaSiを−20〜10℃の酸水溶液と反応させる工程
a−2−2)前記a−2−1)工程に引き続き、反応液の温度を15〜50℃として、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程
a−2−1)工程においては、主に式(1)で示す反応が進行すると考えられ、a−2−2)工程においては、主に式(2)で示す反応が進行すると考えられる。よって、a−2−2)工程は、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物、及び本発明の酸素含有シリコン材料における、酸素含有量を決定する鍵工程であるといえる。
a−2−1)工程をa−2−2)工程に切り替えるタイミングとしては、反応に由来する発熱が一段落した時点や、反応液からの発泡が一段落した時点を挙げることができる。a−2−1)工程をa−2−2)工程に切り替えるには、a−2−1)工程で用いた恒温装置を昇温してもよいし、a−2−1)工程で用いた恒温装置を、あらかじめ15〜50℃の温度範囲内に調整した他の恒温装置と交換してもよい。
a−2−1)工程の温度としては、−10〜5℃の範囲内が好ましく、−5〜5℃の範囲内がより好ましい。a−2−1)工程の具体的な時間としては、CaSiと酸水溶液との混合が終了してから、10分間、20分間、1時間又は2時間などを例示できる。
a−2−2)工程の温度としては、18〜45℃の範囲内が好ましく、20〜40℃の範囲内がより好ましい。a−2−2)工程の具体的な時間としては、1〜50時間、5〜40時間、10〜30時間を例示できる。
以下、CaSiを酸水溶液と反応させて層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程を総称して、a)工程ということがある。
原料であるCaSiは、一般にCa層とSi層が積層した構造からなる。CaSiは、公知の製造方法で合成してもよく、市販されているものを採用してもよい。a)工程に用いるCaSiは、あらかじめ粉砕し、粉末状にしておくことが好ましい。
CaSiは、Alを含有しているものが好ましい。Alの含有量としては、4.5%未満が好ましく、0.01〜3%の範囲内がより好ましく、0.05〜2%の範囲内がさらに好ましく、0.1〜1%の範囲内が特により好ましい。
酸としては、フッ化水素酸、塩化水素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、蟻酸、酢酸、メタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロヒ素酸、フルオロアンチモン酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロゲルマン酸、ヘキサフルオロスズ(IV)酸、トリフルオロ酢酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸が例示される。これらの酸を単独又は併用して使用すれば良い。
酸は、1モルのCaSiに対して、2モル以上のプロトンを供給できる量を用いるのが好ましい。a)工程において水を溶媒として使用する理由は、技術的観点からは、CaClなどの不要物の除去が容易な点と、a)工程で製造される層状ポリシランに酸素を導入するのが極めて簡単な点にある。
酸水溶液中における酸の濃度としては、5〜36質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、13〜25質量%が特に好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。酸の濃度が低すぎると、反応の進行が緩慢になるため、生産効率が低下する。他方、酸の濃度が高すぎると、酸のアニオン由来の元素が本発明の酸素含有シリコン材料に多量に含有される。
a)工程における反応条件は、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下とすることが好ましく、また、撹拌条件下とすることが好ましい。
a)工程で得られる酸素含有層状シリコン化合物を単離するために、適宜、濾過工程、洗浄工程、乾燥工程を実施してもよい。酸素含有層状シリコン化合物の酸素量を制御するために、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下でこれらの工程を実施するのが好ましい。
次に、b)工程について説明する。b)工程は、酸素含有層状シリコン化合物を300℃以上で加熱する工程である。
化学的な観点から述べると、b)工程は、加熱により、酸素含有層状シリコン化合物から水素などを離脱させて、酸素含有シリコン材料を合成する工程である。b)工程において、層状ポリシランから水素を離脱させた場合の反応式を示すと、以下のとおりとなる。
Si→6Si+3H
b)工程は、通常の大気下よりも酸素含有量の少ない非酸化性雰囲気下で行われるのが好ましい。非酸化性雰囲気としては、真空を包含する減圧雰囲気、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気を例示できる。加熱温度は、300℃〜1000℃の範囲内が好ましく、500℃〜900℃の範囲内がより好ましく、600℃〜800℃の範囲内がさらに好ましい。加熱温度が低すぎると水素の離脱が十分でない場合がある。他方、加熱温度が高すぎると、酸素含有シリコン材料におけるシリコンの結晶化が過剰に進行して、負極活物質としての性能低下に繋がる虞がある。加熱時間は加熱温度に応じて適宜設定すれば良く、また、反応系外に抜けていく水素などの量を測定しながら加熱時間を決定するのも好ましい。加熱温度及び加熱時間を適宜選択することにより、製造される酸素含有シリコン材料に含まれるアモルファスシリコン及びシリコン結晶の割合、並びに、シリコン結晶の大きさを調製することもでき、さらには、製造される酸素含有シリコン材料に含まれる、アモルファスシリコン及びシリコン結晶を含むナノ水準の厚みの層の形状や大きさを調製することもできる。
本発明の酸素含有シリコン材料は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粒子としてもよい。
既述したとおり、本発明の酸素含有シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の負極活物質として使用することができる。その際には、本発明の酸素含有シリコン材料を炭素で被覆して用いるのが好ましい。炭素被覆により、導電性が向上するためである。
炭素被覆の方法としては、酸素含有シリコン材料及び炭素粉末の混合物に対して、強い圧力を付した上で撹拌して一体化するメカニカルミリング法や、炭素源から生じる炭素を酸素含有シリコン材料に蒸着させるCVD(chemical vapor deposition)法を例示できる。
酸素含有シリコン材料の表面を薄い炭素層で均一に被覆できる点から、炭素被覆の方法としては、CVD法が好ましい。そして、CVD法のうち、炭素源である気体状態の有機物を熱で分解して炭素を発生させる熱CVD法が好ましい。
炭素被覆された本発明の酸素含有シリコン材料における炭素質量%(W%)は、1≦W≦10を満足するのが好ましく、3≦W≦9を満足するのがより好ましく、5≦W≦8を満足するのがさらに好ましい。炭素被覆された本発明の酸素含有シリコン材料における炭素以外の元素の含有量については、本発明の酸素含有シリコン材料で説明した数値範囲を援用する。
以下、本発明の酸素含有シリコン材料を負極活物質として具備する二次電池について、その代表としてリチウムイオン二次電池を例にして、説明する。本発明の酸素含有シリコン材料を負極活物質として具備するリチウムイオン二次電池を、以下、本発明のリチウムイオン二次電池という。具体的には、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、本発明の酸素含有シリコン材料を負極活物質として具備する負極、電解液及び必要に応じてセパレータを具備する。
正極は、集電体と、集電体の表面に結着させた正極活物質層を有する。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
正極活物質としては、層状化合物のLiNiCoMn(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、LiNiCoAl(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、LiMnOを挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO、LiMVO又はLiMSiO(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePOFなどのLiMPOF(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBOなどのLiMBO(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiSなどの金属硫化物、V、MnOなどの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/または負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.02〜1:0.15であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.05〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.02〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
負極活物質としては、本発明の酸素含有シリコン材料を含むものであればよく、本発明の酸素含有シリコン材料のみを採用してもよいし、本発明の酸素含有シリコン材料と公知の負極活物質を併用してもよい。
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
また、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル類等が使用できる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを例示でき、環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネートを例示でき、鎖状エステルとしては、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(FSO等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO、LiPF、LiBF、LiN(FSOなどのリチウム塩を0.5〜3.5mol/L、1〜3mol/L、1.6〜2.5mol/Lの濃度で溶解させた溶液を例示できる。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
次に、正極、負極及び電解液を用いた本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、実施例および比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
a)工程
a−1)工程
不純物としてFeを含有するCaSi粉末を準備した。
35質量%塩酸を入れた反応容器を、18℃の恒温槽に設置した。塩酸の温度が18℃になったのを確認後、窒素ガス雰囲気下及び撹拌条件下で、上記CaSi粉末を塩酸に徐々に投入した。CaSi粉末の投入後、2時間撹拌を継続し、その後、反応液を濾過した。残渣を蒸留水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥して実施例1の酸素含有層状シリコン化合物を得た。
b)工程
実施例1の酸素含有層状シリコン化合物を、窒素ガス雰囲気下にて900℃で1時間加熱し、酸素含有シリコン材料を得た。これを実施例1の酸素含有シリコン材料とした。
実施例1の負極及びリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
負極活物質として実施例1の酸素含有シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤として固形分が14質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレス、180℃でのベークをすることで、負極活物質層が形成された実施例1の負極を製造した。
エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液を電解液とした。
負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容した。電池ケースに電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例2)
a)工程にて、恒温槽の温度を40℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例1)
a)工程にて、恒温槽の温度を0℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例2)
a)工程にて、恒温槽の温度を60℃とした以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(評価例1)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の酸素含有シリコン材料に対して、蛍光X線分析装置(XRF)を用いて、Si、Cl、Fe及びCaを対象とした元素分析を行った。また、酸素・窒素・水素分析装置(不活性ガス溶融法)を用いて、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の酸素含有シリコン材料に対して、酸素を対象とした元素分析を行った。
これらの元素分析の結果を、質量%として、表1に示す。表1から、a)工程の温度が高くなるに従い、シリコン含有量が低くなり、かつ、酸素含有量が高くなることがわかる。
(評価例2)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで充電を行い、その後、電流0.2mAで1.0Vまで放電を行うとの初期充放電を行った。
さらに、初期充放電後の実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2のリチウムイオン二次電池につき、電流0.5mAで0.01Vまで充電を行い、その後、電流0.5mAで1.0Vまで放電を行うとの充放電サイクルを50回行った。
初期効率及び容量維持率を以下の各式で算出した。
初期効率(%)=100×(初期放電容量)/(初期充電容量)
容量維持率(%)=100×(50サイクル時の放電容量)/(1サイクル時の放電容量)
初期効率及び容量維持率の結果を、元素分析の結果の一部とともに表2に示す。また、50回の充放電サイクルにおける、各リチウムイオン二次電池の積算容量と放電容量の関係を図1に示す。
表2の初期効率の結果から、比較例2のリチウムイオン二次電池における初期効率の値が著しく低いことがわかる。比較例2の酸素含有シリコン材料よりも、シリコン質量%が高く、酸素質量%が低い酸素含有シリコン材料が、初期効率に優れるといえる。製造条件の点では、a)工程の温度が60℃未満であることが、初期効率に優れる酸素含有シリコン材料を製造する好適な条件であるといえる。
表2の容量維持率の結果から、比較例1のリチウムイオン二次電池における容量維持率の値が著しく低いことがわかる。表2の元素分析の結果からみて、酸素質量%が16%以下の酸素含有シリコン材料と、酸素質量%が16%超えの酸素含有シリコン材料では、著しい容量維持率の差があると考えられる。
製造条件の点では、a)工程の温度が0℃超であることが、酸素の導入に有利であり、容量維持率に優れる酸素含有シリコン材料を製造する条件であるといえる。
また、各リチウムイオン二次電池の積算容量と放電容量の関係を示した図1のグラフから、実施例1及び実施例2の酸素含有シリコン材料が、特に優れた負極活物質であることがわかる。
(評価例3)
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2の酸素含有シリコン材料のBET比表面積を測定した。
また、ラマン分光装置にて、各酸素含有シリコン材料のラマン分光を測定した。各ラマン分光スペクトルにおいて、520cm−1付近にシリコン結晶に由来するピークが観察され、480cm−1付近にアモルファスシリコンに由来するピークが観察された。アモルファスシリコンとシリコン結晶を重量比1:1で混ぜたサンプルを測定し、当該サンプルの測定結果を基準として、各ピークの強度比からシリコン結晶とアモルファスシリコンの割合を算出した。
以上の結果を表3に示す。
表3から、酸素含有シリコン材料のBET比表面積は、a)工程の温度が上昇するに伴い、大きくなる傾向にあるものの、40℃以上では、ほぼ一定になるといえる。なお、酸素含有シリコン材料におけるシリコン結晶及びアモルファスシリコンの割合については、a)工程の温度とは相関がないと考えられる。
(実施例3)
以下のとおり、Alを含有するCaSi粉末を準備した。
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯することで冷却して固体とした。当該固体を粉砕して、CaSi粉末にした後に、a)工程に供した。
a)工程
a−2−1)工程
18質量%塩酸を入れた反応容器を、0℃の恒温槽に設置した。塩酸の温度が0℃になったのを確認後、窒素ガス雰囲気下及び撹拌条件下で、上記CaSi粉末を塩酸に徐々に投入した。CaSi粉末の投入後、15分間撹拌を継続した。
a−2−2)工程
前記a−2−1)工程後に、恒温槽を1℃/分の速度で20℃まで昇温し、反応液を終夜撹拌した。その後、反応液を濾過した。残渣を蒸留水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥して実施例3の酸素含有層状シリコン化合物を得た。
b)工程
実施例3の酸素含有層状シリコン化合物を、窒素ガス雰囲気下にて900℃で1時間加熱し、酸素含有シリコン材料を得た。これを実施例3の酸素含有シリコン材料とした。
以下、実施例1と同様の方法で、実施例3の負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例4)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で30℃まで昇温した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例4の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例5)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で40℃まで昇温した以外は、実施例3と同様の方法で、実施例5の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例6)
a)工程を以下のとおりとした以外は、実施例3と同様の方法で、実施例6の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
a−1)工程
18質量%塩酸を入れた反応容器を、20℃の恒温槽に設置した。塩酸の温度が20℃になったのを確認後、窒素ガス雰囲気下及び撹拌条件下で、CaSi粉末を塩酸に徐々に投入した。CaSi粉末の投入後、反応液を終夜撹拌した。その後、反応液を濾過した。残渣を蒸留水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥して実施例6の酸素含有層状シリコン化合物を得た。
(比較例3)
a−2−2)工程にて、恒温槽を昇温せず、0℃を維持した以外は、実施例3と同様の方法で、比較例3の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例4)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で60℃まで昇温した以外は、実施例3と同様の方法で、比較例4の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(評価例4)
実施例3〜実施例6、比較例3〜比較例4の酸素含有シリコン材料に対して、評価例1と同様の方法で、元素分析を行った。これらの元素分析の結果を、質量%として、表4に示す。
表4の結果から、a−2−2)工程の反応温度が上昇するに従い、酸素含有量が増加することがわかる。a−2−2)工程の温度に因り、以下の式(2)の反応速度を制御し得ると考えられる。
式(2) Si+3HO→Si(OH)+3H
また、35質量%塩酸を使用した実施例1の酸素含有シリコン材料と比較すると、18質量%塩酸を使用した実施例3〜実施例5、比較例3〜比較例4の酸素含有シリコン材料におけるCl含有量は、著しく低いことがわかる。
(評価例5)
実施例3〜実施例6、比較例3〜比較例4のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで充電を行い、その後、電流0.2mAで1.0Vまで放電を行うとの初期充放電を行った。
さらに、初期充放電後の実施例3〜実施例5、比較例3〜比較例4のリチウムイオン二次電池につき、電流0.5mAで0.01Vまで充電を行い、その後、電流0.5mAで1.0Vまで放電を行うとの充放電サイクルを50回行った。
初期効率及び容量維持率を以下の各式で算出した。
初期効率(%)=100×(初期放電容量)/(初期充電容量)
容量維持率(%)=100×(50サイクル時の放電容量)/(1サイクル時の放電容量)
初期充電容量、初期放電容量、初期効率、容量維持率の結果を、元素分析の結果の一部とともに表5及び表6に示す。
表5及び表6の結果から、a−2−2)工程の温度が60℃である比較例4の初期充電容量、初期放電容量及び初期効率の値が、著しく低いことがわかる。この結果は、a−2−2)工程の温度が60℃であったために、酸素導入反応である式(2)の反応が過剰に進行したこと、及び、酸素含有シリコン材料における酸素含有量が高すぎたことが、反映されたといえる。
また、表6の結果から、a−2−2)工程の温度が0℃である比較例3の容量維持率の値が、著しく低いことがわかる。この結果は、a−2−2)工程の温度が0℃であったために、酸素導入反応である式(2)の反応が緩慢となったこと、及び、酸素含有シリコン材料におけるシリコン含有量が高すぎたことが、反映されたといえる。
なお、表5及び表6から、CaSi粉末投入時の温度が0℃であり、その後20℃に昇温した実施例3と、CaSi粉末投入時の温度が20℃であり、20℃を維持した実施例6は、電池特性の点からは同等の結果を示したといえる。作業面での安全性の観点からは、比較的激しい反応が生じるCaSi粉末投入時は、低温条件下で反応を進行させて、次第に昇温するとの製造方法を採用するのが合理的といえる。
(実施例7)
以下のとおり、Alを含有するCaSi粉末を準備した。
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯することで冷却して固体とした。当該固体を粉砕して、CaSi粉末にした後に、a)工程に供した。
a)工程
a−2−1)工程
18質量%塩酸を入れた反応容器を、0℃の恒温槽に設置した。塩酸の温度が0℃になったのを確認後、窒素ガス雰囲気下及び撹拌条件下で、上記CaSi粉末を塩酸に徐々に投入した。CaSi粉末の投入後、15分間撹拌を継続した。
a−2−2)工程
前記a−2−1)工程後に、恒温槽を1℃/分の速度で20℃まで昇温し、反応液を終夜撹拌した。その後、反応液を濾過した。残渣を蒸留水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥して実施例7の酸素含有層状シリコン化合物を得た。
b)工程
実施例7の酸素含有層状シリコン化合物を、窒素ガス雰囲気下にて900℃で1時間加熱し、酸素含有シリコン材料を得た。当該酸素含有シリコン材料を、ジェットミルを用いて粉砕し、平均粒子径5μmの粉末とした。
この粉末を実施例7の酸素含有シリコン材料とした。
・炭素被覆工程
実施例7の酸素含有シリコン材料をロータリーキルン型の反応器に入れ、プロパン−アルゴン混合ガスの通気下にて880℃、滞留時間60分間の条件で熱CVDを行い、炭素被覆された酸素含有シリコン材料を得た。これを実施例7の炭素被覆−酸素含有シリコン材料とした。
実施例7の負極及びリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
負極活物質として実施例7の炭素被覆−酸素含有シリコン材料78.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック10.5質量部、結着剤として固形分が11質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレス、180℃でのベークをすることで、負極活物質層が形成された実施例7の負極を製造した。
正極活物質としてLiNi82/100Co14/100Al4/10096質量部、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン2質量部、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。正極用集電体としてアルミニウム箔を準備した。このアルミニウム箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布されたアルミニウム箔を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレス、120℃でのベークをすることで、正極集電体の表面に正極活物質層が形成された正極を製造した。
ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びフルオロエチレンカーボネートを、体積比63:27:10で混合して、混合有機溶媒とした。混合有機溶媒にLiPFを2mol/Lの濃度で溶解して、電解液とした。
セパレータとして、ポリエチレン製の多孔質膜を準備した。
正極と実施例7の負極とでセパレータを挟持し、極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに、電解液を注入した。残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群および電解液が密閉されたリチウムイオン二次電池を得た。この電池を実施例7のリチウムイオン二次電池とした。
(実施例8)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で40℃まで昇温した以外は、実施例7と同様の方法で、実施例8の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例5)
a−2−2)工程にて、恒温槽を昇温せず、0℃を維持した以外は、実施例7と同様の方法で、比較例5の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例6)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で60℃まで昇温した以外は、実施例7と同様の方法で、比較例6の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例7)
負極活物質として、炭素被覆−酸素含有シリコン材料である炭素被覆されたSiO(信越化学工業株式会社)を採用した以外は、実施例7と同様の方法で、比較例7の負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(評価例6)
実施例7〜実施例8、比較例5〜比較例7の炭素被覆−酸素含有シリコン材料に対して、評価例1と同様の方法で、元素分析を行った。ただし、炭素を対象とした元素分析は、炭素・硫黄分析装置を用いて行った。
これらの元素分析の結果を、質量%として、表7に示す。
(評価例7)
実施例7〜実施例8、比較例5〜比較例7のリチウムイオン二次電池に対して、25℃の条件下、電圧4.28Vまで充電を行い、その後、電圧3Vまで放電を行って、初期放電容量を測定した。
また、SOC15%に調整した各リチウムイオン二次電池に対して、25℃の条件下、一定電流で10秒間放電させた場合の電圧を測定した。当該測定は、電流を変えた複数の条件下で行った。得られた結果から、SOC15%の各リチウムイオン二次電池につき、電圧2.5Vまでの放電時間が10秒となる一定電流(mA)を算出して、2.5Vとその電流値を乗算した値を25℃10秒出力(mW)とした。
さらに、SOC15%に調整した各リチウムイオン二次電池に対して、0℃の条件下、一定電流で5秒間放電させた場合の電圧を測定した。当該測定は、電流を変えた複数の条件下で行った。得られた結果から、SOC15%の各リチウムイオン二次電池につき、電圧2.5Vまでの放電時間が5秒となる一定電流(mA)を算出して、2.5Vとその電流値を乗算した値を0℃5秒出力とした。
以上の結果を、表8に示す。
表8から、酸素含有量が高い比較例6及び比較例7は、初期放電容量が低いことがわかる。酸素含有量とシリコン含有量が適切な範囲の実施例7及び実施例8は、初期放電容量、25℃出力及び0℃出力のいずれの結果も優れているといえる。
また、酸素含有量とシリコン含有量が同等である比較例6と比較例7の結果から、比較例6のリチウムイオン二次電池の方が電池特性に優れることがわかる。CaSiを原料とした酸素含有シリコン材料は、一般的なSiOでは観察されない、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる独特の構造を有する。比較例6と比較例7を比べた際に、比較例6のリチウムイオン二次電池の方が出力特性に優れていた理由は、比較例6の酸素含有シリコン材料が有する、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造にあると考えられる。
(実施例9)
以下のとおり、Alを含有するCaSi粉末を準備した。
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯することで冷却して固体とした。当該固体を粉砕して、CaSi粉末にした後に、a)工程に供した。
a)工程
a−2−1)工程
18質量%塩酸を入れた反応容器を、0℃の恒温槽に設置した。塩酸の温度が0℃になったのを確認後、窒素ガス雰囲気下及び撹拌条件下で、上記CaSi粉末を塩酸に徐々に投入した。CaSi粉末の投入後、15分間撹拌を継続した。
a−2−2)工程
前記a−2−1)工程後に、恒温槽を1℃/分の速度で20℃まで昇温し、反応液を終夜撹拌した。その後、反応液を濾過した。残渣を蒸留水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥して実施例9の酸素含有層状シリコン化合物を得た。
b)工程
実施例9の酸素含有層状シリコン化合物を、窒素ガス雰囲気下にて900℃で1時間加熱し、酸素含有シリコン材料を得た。当該酸素含有シリコン材料を、ジェットミルを用いて粉砕し、平均粒子径5μmの粉末とした。
この粉末を実施例9の酸素含有シリコン材料とした。
・炭素被覆工程
実施例9の酸素含有シリコン材料をロータリーキルン型の反応器に入れ、プロパン−アルゴン混合ガスの通気下にて880℃、滞留時間60分間の条件で熱CVDを行い、炭素被覆された酸素含有シリコン材料を得た。これを実施例9の炭素被覆−酸素含有シリコン材料とした。
実施例9の負極及びリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
重量平均分子量80万のポリアクリル酸をN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、ポリアクリル酸が10質量%で含有されるポリアクリル酸溶液を製造した。また、4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.2g(1.0mmol)を0.4mLのN−メチル−2−ピロリドンに溶解して、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液を製造した。撹拌条件下、ポリアクリル酸溶液7mL(アクリル酸モノマー換算で、9.5mmolに該当する。)に、4,4’−ジアミノジフェニルメタン溶液の全量を滴下して、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。その後、ディーンスターク装置を用いて、混合物を130℃で3時間撹拌して脱水反応を進行させることで、結着剤溶液を製造した。
負極活物質として実施例9の炭素被覆−酸素含有シリコン材料78.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック10.5質量部、結着剤として固形分が11質量部となる量の上記結着剤溶液、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレス、180℃ベークすることで、負極活物質層が形成された実施例9の負極を製造した。
エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液を電解液とした。
負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容した。電池ケースに電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例9のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例10)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で40℃まで昇温した以外は、実施例9と同様の方法で、実施例10の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例8)
a−2−2)工程にて、恒温槽を昇温せず、0℃を維持した以外は、実施例9と同様の方法で、比較例8の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例9)
a−2−2)工程にて、恒温槽を1℃/分の速度で60℃まで昇温した以外は、実施例9と同様の方法で、比較例9の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(評価例8)
実施例9〜実施例10、比較例8〜比較例9の炭素被覆−酸素含有シリコン材料に対して、評価例6と同様の方法で、元素分析を行った。これらの元素分析の結果を、質量%として、表9に示す。
(評価例9)
評価例2と同様の方法で、実施例9〜実施例10、比較例8〜比較例9のリチウムイオン二次電池に対して、充放電試験を行った。結果を表10に示す。また、50回の充放電サイクルにおける、各リチウムイオン二次電池の積算容量と放電容量の関係を図2に示す。
表10及び図2の結果から、酸素質量%及びシリコン質量%が適切な範囲にある、実施例9及び実施例10の酸素含有シリコン材料を具備するリチウムイオン二次電池は、初期効率、容量維持率及び積算容量をバランス良く満足するといえる。
(実施例11)
以下のとおり、Alを含有するCaSi粉末を準備した。
Ca、Al及びSiを炭素坩堝に秤量した。Ca及びSiの元素組成比は1:2であり、Alの添加量はCa、Al及びSiの全体の質量に対して1%とした。アルゴンガス雰囲気下の高周波誘導加熱装置にて、炭素坩堝を1300℃付近で加熱してCa、Al及びSiを含む溶湯とした。前記溶湯を所定の鋳型に注湯することで冷却して固体とした。当該固体を粉砕して、CaSi粉末にした後に、a)工程に供した。
a)工程
a−2−1)工程
18質量%塩酸を入れた反応容器を、0℃の恒温槽に設置した。塩酸の温度が0℃になったのを確認後、窒素ガス雰囲気下及び撹拌条件下で、上記CaSi粉末を塩酸に徐々に投入した。CaSi粉末の投入後、15分間撹拌を継続した。
a−2−2)工程
前記a−2−1)工程後に、恒温槽を1℃/分の速度で40℃まで昇温し、反応液を終夜撹拌した。その後、反応液を濾過した。残渣を蒸留水で洗浄した後、さらにメタノールで洗浄し、減圧乾燥して実施例11の酸素含有層状シリコン化合物を得た。
b)工程
実施例11の酸素含有層状シリコン化合物を、窒素ガス雰囲気下にて700℃で1時間加熱し、酸素含有シリコン材料を得た。当該酸素含有シリコン材料を、ジェットミルを用いて粉砕し、平均粒子径5μmの粉末とした。
この粉末を実施例11の酸素含有シリコン材料とした。
・炭素被覆工程
実施例11の酸素含有シリコン材料をロータリーキルン型の反応器に入れ、ヘキサン−アルゴン混合ガスの通気下にて700℃、滞留時間60分間の条件で熱CVDを行い、炭素被覆された酸素含有シリコン材料を得た。これを実施例11の炭素被覆−酸素含有シリコン材料とした。
実施例11の負極及びリチウムイオン二次電池を以下のとおり製造した。
負極活物質として実施例11の炭素被覆−酸素含有シリコン材料72.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック13.5質量部、結着剤としてポリアミドイミド14質量部、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーを製造した。負極用集電体として銅箔を準備した。この銅箔の表面に、ドクターブレードを用いて、上記スラリーを膜状に塗布した。スラリーが塗布された銅箔を乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを除去した。その後、プレス、180℃ベークすることで、負極活物質層が形成された実施例11の負極を製造した。
エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートを体積比1:1で混合した混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解した溶液を電解液とした。
負極を径11mmに裁断し、評価極とした。厚さ500μmの金属リチウム箔を径13mmに裁断し対極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。対極、ガラスフィルター、celgard2400、評価極の順に、2種のセパレータを対極と評価極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容した。電池ケースに電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例11のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例12)
Alを含有するCaSi粉末を準備する工程にて、Alの添加量をCa、Al及びSiの全体の質量に対して0.5%とした以外は、実施例11と同様の方法で、実施例12の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例13)
Alを含有するCaSi粉末を準備する工程にて、Alを添加せず、Alを含有しないCaSi粉末を準備した以外は、実施例11と同様の方法で、実施例13の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例14)
b)工程の加熱温度を900℃として、かつ、炭素被覆工程の条件を、プロパン−アルゴン混合ガスの通気下にて880℃、滞留時間60分間とした以外は、実施例11と同様の方法で、実施例14の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例15)
b)工程の加熱温度を900℃として、かつ、炭素被覆工程の条件を、プロパン−アルゴン混合ガスの通気下にて880℃、滞留時間60分間とした以外は、実施例13と同様の方法で、実施例15の酸素含有層状シリコン化合物、酸素含有シリコン材料、炭素被覆−酸素含有シリコン材料、負極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(評価例10)
実施例11〜実施例15の炭素被覆−酸素含有シリコン材料に対して、評価例6と同様の方法で、元素分析を行った。これらの元素分析の結果を、質量%として、表11に示す。
(評価例11)
実施例11〜実施例15の炭素被覆−酸素含有シリコン材料のBET比表面積を測定した。結果を、a)工程以外の製造方法の特徴と共に表12に示す。
(評価例12)
実施例11〜実施例15のリチウムイオン二次電池に対して、電流0.2mAで0.01Vまで充電を行い、その後、電流0.2mAで1.0Vまで放電を行うとの初期充放電を行った。
さらに、初期充放電後の実施例11〜実施例15のリチウムイオン二次電池につき、電流0.5mAで0.01Vまで充電を行い、その後、電流0.5mAで1.0Vまで放電を行うとの充放電サイクルを50回行った。
初期効率及び容量維持率を以下の各式で算出した。
初期効率(%)=100×(0.8Vまでの初期放電容量)/(初期充電容量)
容量維持率(%)=100×(50サイクル時の放電容量)/(1サイクル時の放電容量)
以上の結果を、炭素被覆−酸素含有シリコン材料の元素分析などのデータと共に表13に示す。
表13の結果から、好適な酸素質量%の炭素被覆−酸素含有シリコン材料は、負極活物質として優れた特性を示すといえる。また、炭素被覆−酸素含有シリコン材料の酸素質量%、シリコン質量%及びAl質量%が、二次電池の容量維持率に影響を与えることがわかる。

Claims (16)

  1. a−1)CaSiを15〜50℃の酸水溶液と反応させて、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程、
    b)前記酸素含有層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して、酸素含有シリコン材料を合成する工程、
    を含むことを特徴とする酸素含有シリコン材料の製造方法。
  2. a−2−1)CaSiを−20〜10℃の酸水溶液と反応させる工程、
    a−2−2)前記a−2−1)工程に引き続き、反応液の温度を15〜50℃として、層状ポリシランを含む酸素含有層状シリコン化合物を合成する工程、
    b)前記酸素含有層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して、酸素含有シリコン材料を合成する工程、
    を含むことを特徴とする酸素含有シリコン材料の製造方法。
  3. 前記酸水溶液における酸の濃度が5〜30質量%の範囲内である請求項1又は2に記載の酸素含有シリコン材料の製造方法。
  4. 前記酸素含有シリコン材料が前記酸のアニオン由来の元素を含有し、前記酸素含有シリコン材料における当該元素質量%(W%)が0<W<6である請求項3に記載の酸素含有シリコン材料の製造方法。
  5. 前記酸素含有シリコン材料における酸素質量%(W%)が16<W<27である請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸素含有シリコン材料の製造方法。
  6. 前記酸素含有シリコン材料におけるシリコン質量%(WSi%)が62<WSi<81である請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸素含有シリコン材料の製造方法。
  7. 前記CaSiがAlを含有し、かつ、前記酸素含有シリコン材料におけるAl質量%(WAl%)が0<WAl<1である請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸素含有シリコン材料の製造方法。
  8. 前記酸素含有シリコン材料におけるシリコン結晶とアモルファスシリコンとの比が、0:100〜30:70の範囲内である請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸素含有シリコン材料の製造方法。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法で製造された酸素含有シリコン材料を用いる、負極の製造方法。
  10. 請求項9に記載の製造方法で製造された負極を用いる、二次電池の製造方法。
  11. 酸素質量%(W%)が16<W<27であり、シリコン質量%(WSi%)が62<WSi<81であることを特徴とする酸素含有シリコン材料。
  12. AlをAl質量%(WAl%):0<WAl<1で含有する請求項11に記載の酸素含有シリコン材料。
  13. ハロゲンをハロゲン質量%(W%):0<W<6で含有する請求項11又は12に記載の酸素含有シリコン材料。
  14. 前記酸素含有シリコン材料におけるシリコン結晶とアモルファスシリコンとの比が、0:100〜30:70の範囲内である請求項11〜13のいずれか1項に記載の酸素含有シリコン材料。
  15. 請求項11〜14のいずれか1項に記載の酸素含有シリコン材料を具備する負極。
  16. 請求項15に記載の負極を具備する二次電池。
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