ところで、上記特許文献1の苗移植機においては、積層形態のときに上段に位置し且つ展開形態のときに機体前方に位置する予備苗載せ台の機体後部側に操作グリップが配置されているので、予備苗載せ台への苗の積み込み作業を機体前方から行う際、可動式予備苗枠における展開形態と積層形態との切り替え操作を機体前方から行い難い。これにより、この従来の苗移植機においては、作業者が切り替えの度に走行車体上から可動式予備苗枠の切り替え操作を行う必要があり、作業能率の低下や作業者の労力の増大を招いてしまう。
また、この特許文献1の苗移植機においては、操作グリップが予備苗載せ台よりも機体外側に配置されているので、走行車体上の作業者が苗の積み込み後に可動式予備苗枠を展開形態から積層形態へと切り替え操作する際、作業者が誤って苗と一緒に操作グリップを掴んでしまう虞がある。そして、この様なときには、苗の折れや曲がり、潰れ等を引き起こし、苗の生育不良による収穫量の減少や品質の低下を招いてしまう可能性がある。また、苗を掴むことで、作業者は、汚れた手を洗ったりするのに時間や労力を取られてしまう可能性もある。これにより、この従来の苗移植機においては、作業者が苗を掴まぬように注意して切り替え操作を行うなど、作業能率の低下や作業者の労力の増大を招いてしまう。
また、この特許文献1の苗移植機においては、予備苗載せ台への積み込み作業の際に苗を取り出す苗取板の収納場所が無いので、その苗取板を走行車体上に載置している。これにより、その苗取板が風や機体の振動で走行車体から落下してしまうこともあり、この苗移植機は、作業者が落下した苗取板を拾わなければならず、作業能率の低下や作業者の労力の増大を招いてしまう。更に、この苗移植機では、走行車体上の苗取板が機体の振動で騒音を発し、作業者に不快感を与えてしまう虞もある。
また、上記特許文献2の苗移植機においては、前側操作ハンドルを機体前方且つ機体下方に向けて回動させると、センタマーカも一緒になって倒れてくる。これにより、機体前方の作業者は、そのセンタマーカを避けた姿勢で前側操作ハンドルを操作しなければならず、その操作性の低下による作業能率の低下や作業者の労力の増大を招いてしまう。更に、長尺物であるセンタマーカが機体前方に倒れてくるので、前側操作ハンドルを操作して苗移植機を軽トラック等に積み込む際又は軽トラック等から降ろす際には、広い作業スペースが必要になり、作業能率の低下を招く虞がある。
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、苗植え作業に係る一連の作業の作業性を向上させる苗移植機を提供することを、その目的とする。
上記目的を達成する為、請求項1に記載の本発明は、動力源(20)を備えた走行車体(2)と、該走行車体(2)の後部に昇降リンク装置(40)を介して取り付けられた苗植付装置(3)と、前記走行車体(2)の前部に配設され、作業者が前記走行車体(2)及び前記苗植付装置(3)を操作する為の各種操作部を有する操縦装置(60)と、前記走行車体(2)の前部における前記操縦装置(60)の左右夫々に配設され、前記苗植付装置(3)に補充する為の補給用の苗が載置される複数の予備苗載せ台(81a,81b,82a,82b)を各々備えた予備苗枠(81,82)と、を有し、左右何れか一方の前記予備苗枠(81)は、前記複数の予備苗載せ台(81a,81b)が機体上下方向に並ぶ積層形態と、該複数の予備苗載せ台(81a,81b)が機体前後方向に並ぶ展開形態と、に切り替え可能なリンク機構(85)を備えた切り替え操作部を有する可動式予備苗枠であり、他方の前記予備苗枠(82)は、前記複数の予備苗載せ台(82a,82b)を機体上下方向に等間隔に並べて固定配置した苗枠フレーム(89)を有する固定式予備苗枠であり、前記切り替え操作部は、前記走行車体(2)の上から前記積層形態と前記展開形態との切り替え操作が可能な主操作部材(86a)と、前記走行車体(2)の前方から当該切り替え操作が可能な補助操作部材(86b)と、を備えたことを特徴としている苗移植機(1)である。
請求項2に記載の本発明は、前記可動式予備苗枠(81)は、前記展開形態としたときに、前記各予備苗載せ台(81a,81b)の内の機体前側に位置するものが前記走行車体(2)の前端よりも機体前方に突出するよう構成したことを特徴としている請求項1に記載の苗移植機(1)である。
請求項3に記載の本発明は、前記リンク機構(85)は、前記可動式予備苗枠(81)の前記予備苗載せ台(81a,81b)に対して機体内側に配設し、前記主操作部材(86a)は、前記各予備苗載せ台(81a,81b)の内の前記展開形態としたときに機体前側に位置し且つ前記積層形態としたときに最上段となるものの機体後部側と前記リンク機構(85)との間に配設し、前記補助操作部材(86b)は、前記展開形態としたときに機体前側に位置し且つ前記積層形態としたときに最上段となる予備苗載せ台(81a)の機体前部側と前記リンク機構(85)との間に配設したことを特徴としている請求項1又は2に記載の苗移植機(1)である。
請求項4に記載の本発明は、前記主操作部材(86a)と前記補助操作部材(86b)は、前記可動式予備苗枠(81)の前記予備苗載せ台(81a,81b)の機体前後方向における長さの範囲内に収まるよう配設し、前記予備苗載せ台(81a,81b)は、機体左右方向における両側に苗の機体左右方向への落下を防止する側壁(87)を備えると共に、前記主操作部材(86a)と前記補助操作部材(86b)の機体側方に配置されている前記各予備苗載せ台(81a,81b)については、該主操作部材(86a)に対向する機体側方部分と当該補助操作部材(86b)に対向する機体側方部分とを除いて前記側壁(87)を設けることを特徴としている請求項3に記載の苗移植機(1)である。
請求項5に記載の本発明は、前記リンク機構(85)は、機体前後方向に並べて配置された2本のリンクアーム(85a,85b)と、前記積層形態としたときに当該各リンクアーム(85a,85b)の回動動作を禁止する回動ロック部(88)と、を備え、機体前側の前記リンクアーム(85a)は、前記積層形態としたときの前記可動式予備苗枠(81)の前記各予備苗載せ台(81a,81b)における機体前部側の機体側方に空間を形成する屈曲形状とし、且つ、機体後側の前記リンクアーム(85b)は、前記積層形態としたときの前記可動式予備苗枠(81)の前記各予備苗載せ台(81a,81b)における機体後部側の機体側方に空間を形成する屈曲形状とすることを特徴としている請求項1から4の内の何れか1つに記載の苗移植機(1)である。
請求項6に記載の本発明は、前記固定式予備苗枠(82)は、前記苗枠フレーム(89)に設けられ、苗取板(P)を収納及び保持する少なくとも2つの支持部材(91a,91b)からなる苗取板支持部と、前記苗枠フレーム(89)及び前記苗取板支持部における前記苗取板(P)との接触部分及び近接部分に設けた緩衝部材(92,93)と、を備えたことを特徴としている請求項1から5の内の何れか1つに記載の苗移植機(1)である。
請求項7に記載の本発明は、前記固定式予備苗枠(82)は、前記苗枠フレーム(89)の機体上部側に設けた基部(95a)と当該基部(95a)から機体下方に向けて突出させた突出部(95b)とで苗取板(P)を収納及び保持する苗取板支持部(95)を有することを特徴としている請求項1から5の内の何れか1つに記載の苗移植機(1)である。
請求項8に記載の本発明は、前記操縦装置(60)は、機体左右方向における機体中央部分に配設された筐体(74)と、機体左右における前記固定式予備苗枠(82)を設けた側に配設され、前記走行車体(2)の前後進切り替え操作及び走行速度調整操作に使われる走行操作部(62)と、前記筐体(74)と前記可動式予備苗枠(81)との間に配設され、前記動力源(20)の動力伝達を断接する動力断接装置の前記走行車体(2)上からの断接操作に使われる第1動力断接操作部(63)と、前記筐体(74)と前記可動式予備苗枠(81)との間に配設され、前記動力断接装置の前記走行車体(2)の前方からの断接操作に使われる第2動力断接操作部(64)と、前記筐体(74)の下部に対して機体前方に配設され、前記走行車体(2)を当該走行車体(2)の前方から案内する為の車体案内操作部(65)と、該車体案内操作部(65)における機体左右の前記固定式予備苗枠(82)を設けた側に配設され、前記走行車体(2)の全機能を強制停止させる為の緊急停止操作部(66)と、を備えたことを特徴としている請求項1から7の内の何れか1つに記載の苗移植機(1)である。
請求項9に記載の本発明は、前記車体案内操作部(65)は、ループ状のグリップを有すると共に、該グリップの機体下方を支点にして機体前後方向へと回動できるよう配設し、前記車体案内操作部(65)と前記筐体(74)との間で且つ機体左右方向における機体中央部分に、機体上方へと突出させた直進走行時の目安となるセンタマーカ(67)を設け、前記センタマーカ(67)は、前記車体案内操作部(65)よりも機体上下方向に対する機体前方への回動角度が小さく、且つ、該車体案内操作部(65)よりも機体上下方向に対する機体後方への回動角度が大きくなるように、機体下部側を支点にして機体前後方向へと回動できるよう配設したことを特徴としている請求項8に記載の苗移植機(1)である。
請求項10に記載の本発明は、前記センタマーカ(67)は、その回動支点(106)を前記車体案内操作部(65)の回動支点(105)よりも機体上方側に備え、且つ、前記車体案内操作部(65)を機体前方に回動させなければ機体前方へと回動できぬよう構成したことを特徴としている請求項9に記載の苗移植機(1)である。
請求項11に記載の本発明は、前記車体案内操作部(65)は、前記走行車体(2)の下部側に設けた動力伝達部の下方まで回動できるように構成したことを特徴としている請求項9又は10に記載の苗移植機(1)である。
請求項1に記載の本発明は、可動式予備苗枠81を有するので、予備苗載せ台81a,81bを積層させることで、走行車体2の上からの予備苗載せ台81a,81bへの苗の積み込み作業が可能になる一方、予備苗載せ台81a,81bを展開させることで、走行車体2の前方からの予備苗載せ台81a,81bへの苗の積み込み作業が可能になる。従って、走行車体2の上からも走行車体2の前方からも苗を積み込むことができるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、走行車体2の上から切り替え操作を行う為の主操作部材86aと、走行車体2の前方から切り替え操作を行う為の補助操作部材86bと、を備えているので、走行車体2の上からも走行車体2の前方からも可動式予備苗枠81の積層形態と展開形態の切り替えを行うことができ、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、可動式予備苗枠81と比較して、固定式予備苗枠82の予備苗載せ台82a,82bの動きは強固に規制されているので、その予備苗載せ台82a,82bに載せた苗が振動等で落下する可能性が低く、落ちた苗を拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の発明の効果に加えて、圃場と圃場外との間に水路等があっても、その水路等を跨いで各予備苗載せ台81a,81bの内の機体前側に位置するもの(予備苗載せ台81a)を作業者に近づけることができるので、苗の積み込み作業が容易になり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
請求項3に記載の本発明は、請求項1又は2に記載の発明の効果に加えて、積層形態と展開形態との切り替え操作を行う際に、作業者の手と予備苗載せ台81aの上の苗との間に間隔を設けることができる。従って、この苗移植機1は、その苗を作業者の手で折り曲げたり潰したりする可能性を減らすことができるので、その可能性に気を取られることなく苗の積み卸しを行うことができ、また、その積み卸しの際に主操作部材86aと補助操作部材86bが邪魔にならないので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。また、これにより苗の育成不良等も回避できるので、無駄になる苗を減少させることもできる。
請求項4に記載の本発明は、請求項3に記載の発明の効果に加えて、主操作部材86aと補助操作部材86bを可動式予備苗枠81の予備苗載せ台81a,81bの機体前後方向における長さの範囲内に収まるよう配設しているので、その主操作部材86aと補助操作部材86bが走行車体2の側方からの作業者の乗り降りの邪魔にならない。これにより、その側方からの乗り降りが容易になり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、補助操作部材86bが予備苗載せ台81a,81bから機体前方に食み出ないので、この補助操作部材86bが壁等に接触せず、この補助操作部材86bの耐久性を向上させることができる。
また、主操作部材86aに対向する機体側方部分と補助操作部材86bに対向する機体側方部分とを除いた側壁87を設けることで、主操作部材86aや補助操作部材86bを持つ作業者の手がより予備苗載せ台81aに接触し難くなり、可動式予備苗枠81の切り替え操作の操作性が向上するので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
請求項5に記載の本発明は、請求項1から4の内の何れか1つに記載の発明の効果に加えて、回動ロック部88を有するので、走行車体2が圃場の凹凸等で上下に大きく揺れたとしても、可動式予備苗枠81が勝手に積層形態から展開形態に移る等の様な予備苗載せ台81aの無用な動きを回避できる。従って、その予備苗載せ台81aに載せた苗が振動等で落下しないので、落ちた苗を拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、各リンクアーム85a,85bの屈曲形状により当該リンクアーム85a,85bに邪魔されることなく、各予備苗載せ台81a,81bの機体前方又は機体後方から苗の出し入れを行うことができるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
請求項6に記載の本発明は、請求項1から5の内の何れか1つに記載の発明の効果に加えて、苗取板支持部によって、苗取板Pが振動や風等で揺れたり飛ばされたりすることを抑制できる。従って、苗取板Pが苗枠フレーム89や支持部材91a,91bに接触したとしても、大きな接触音の発生を抑えることができる。また、落ちた苗取板Pを拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、緩衝部材92,93によって、苗取板Pが細かい微振動等で苗枠フレーム89や支持部材91a,91bと接触した際の音や衝撃の発生を回避でき、苗取板Pの破損を防ぐことができる。
また、その支持部材91a,91bを固定式予備苗枠82に設けているので、形態の変わる可動式予備苗枠81に設けるよりも確実に苗取板Pの収納スペースを確保でき、苗取板Pの収納と保持、そして苗取板Pの出し入れ作業を行うことができる。
請求項7に記載の本発明は、請求項1から5の内の何れか1つに記載の発明の効果に加えて、苗取板支持部95によって、苗取板Pが振動や風等で揺れたり飛ばされたりすることを抑制できる。従って、苗取板Pが苗枠フレーム89や苗取板支持部95に接触したとしても、大きな接触音の発生を抑えることができる。また、落ちた苗取板Pを拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。更に、苗取板支持部95の構成部品を減らすことができる。
また、その苗取板支持部95を固定式予備苗枠82に設けているので、形態の変わる可動式予備苗枠81に設けるよりも確実に苗取板Pの収納スペースを確保でき、苗取板Pの収納と保持、そして苗取板Pの出し入れ作業を行うことができる。
請求項8に記載の本発明は、請求項1から7の内の何れか1つに記載の発明の効果に加えて、走行操作部62と可動式予備苗枠81とを機体左右方向にて逆側に配置しているので、走行車体2の上の作業者が可動式予備苗枠81の切り替え操作を行う際に、誤って走行操作部62を操作してしまうと云う事態を回避することができる。故に、この苗移植機1は、無用な走行車体2の前後進を防ぐことができるので、例えば誤って動いた走行車体2を元の位置に戻す等の作業が不要になり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、走行車体2上の足元に配置される第1動力断接操作部63と第2動力断接操作部64を筐体74と可動式予備苗枠81との間に配設しているので、筐体74と固定式予備苗枠82との間に隙間ができ、この隙間から作業者が容易に乗り降りできる。更に、この苗移植機1は、その様な隙間が走行車体2の左右何れか一方にでき、圃場の泥内に作業者が入ることなく乗降可能なので、走行車体2上の作業場の泥による汚れを軽減でき、走行車体2の掃除が容易になる。この様に、この苗移植機1は、その第1動力断接操作部63と第2動力断接操作部64の配置により、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、車体案内操作部65を操作している作業者がもう一方の手で第2動力断接操作部64を操作することができる。従って、この苗移植機1は、その作業者が走行車体2の停止を望んだ時に、片手による簡便な操作で走行車体2の減速及び停止が可能になるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、車体案内操作部65と共に緊急停止操作部66が走行車体2の前端部分に配置されているので、その車体案内操作部65を操作している作業者が走行車体2の緊急停止を要すると判断した際に、車体案内操作部65を操作している作業者がもう一方の手で緊急停止操作部66を操作することができる。従って、この苗移植機1は、片手による簡便な操作で走行車体2を緊急停止させることができるので、安全性の確保と機体の破損防止を図ることができる。
請求項9に記載の本発明によれば、請求項8に記載の発明の効果に加えて、作業者が車体案内操作部65を機体前方で且つ機体下方に操作した際に、センタマーカ67が作業者に当たらない。これにより、その作業者は、車体案内操作部65を操作し易い姿勢で操作することができる。従って、車体案内操作部65を操作する際の作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
請求項10に記載の本発明は、請求項9に記載の発明の効果に加えて、センタマーカ67を機体前方に回動させようとしても、車体案内操作部65が係止部となってセンタマーカ67を機体前方へと回動させることができない。従って、走行中に勝手にセンタマーカ67が機体前方に倒れないので、このセンタマーカ67が走行車体2上の作業者から見え難いと云う事態を回避でき、このセンタマーカ67を目印とした走行車体2の直進操作が容易になる。
請求項11に記載の本発明は、請求項9又は10に記載の発明の効果に加えて、狭い建屋や小さい輸送手段の荷台に収納する場合でも、十分な収納スペースを確保することができる。また、建屋や輸送手段の荷台から車体案内操作部65とセンタマーカ67がはみ出る事態を回避することができ、その車体案内操作部65やセンタマーカ67の耐久性を向上させることができる。
以下に、本発明に係る苗移植機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例により、この発明が限定されるものではない。
[実施例]
本発明に係る苗移植機の実施例を図1から図20に基づいて説明する。
図1及び図2の符号1は、本実施例の苗移植機を示す。以下においては、機体の前進方向を前方と定義し、その進行方向から観て左右を定義する。
この苗移植機1は、機体を前進や転回等させる走行車体2と、この走行車体2の後方に配置した苗植付装置3と、に大別される。
ここで例示する走行車体2は、4つの車輪Wが駆動輪となる所謂四輪駆動車とする。尚、この走行車体2は、常に全ての車輪Wで駆動力を発生させるフルタイム四輪駆動車であってもよく、二輪駆動と四輪駆動とを切り替え可能なパートタイム四輪駆動車であってもよい。
この走行車体2は、図1及び図2に示すように、フロントフレーム11に取り付けられた動力源(エンジン)20を備える。そのエンジン20は、ディーゼル機関やガソリン機関等の熱機関であって、機体左右方向において略中央に配置される。この例示の走行車体2においては、出力軸20aが機体左方に向けて突出されるようにエンジン20を搭載する。従って、その出力軸20aにプーリ等を介して巻き掛けられているエンジンベルト21も機体左方に配置される。この走行車体2は、エンジン20の動力伝達を断接する図示しない動力断接装置(クラッチ)を備える。
このエンジン20の動力は、そのエンジンベルト21を介して主変速機としての油圧式無段変速機31に伝達される。その油圧式無段変速機31とは、HST(Hydro Static Transmission)と云われる静油圧式の無段変速機である。この油圧式無段変速機31においては、エンジン20の動力で駆動する油圧ポンプによって油圧を発生させ、その油圧を油圧モータで機械的な力(回転力)に変換して出力する。その変換された力は、ミッションケース32の入力軸に伝達される。そのミッションケース32に伝達された力は、内部の副変速機(図示略)に伝わって変速され、駆動輪Wへの走行用動力と苗植付装置3への駆動用動力とに分けて出力される。
苗植付装置3は、昇降リンク装置40を介して走行車体2の後部に取り付ける。その昇降リンク装置40は、走行車体2の後部と苗植付装置3とを連結させる平行リンク機構41を備えており、油圧昇降シリンダ42の伸縮動作によって苗植付装置3を昇降させる。この昇降リンク装置40は、その昇降動作によって、苗植付装置3を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(対地植付位置)まで下降させたりする。
この苗植付装置3は、機体左右方向に往復移動可能な植付条数分の苗載せ台51と、一株分の苗床を掻き取って圃場面に植え込む植込杆52aを有する苗植付具52と、苗植付面を滑走しながら整地する機体左右のサイドフロート53と、機体左右方向における機体中央部分のセンタフロート54と、を備える。
苗移植機1には、この様な走行車体2や苗植付装置3を作業者が操作する為の各種操作部を有する操縦装置60が設けられている。
操縦装置60は、走行車体2の機体前部において機体左右方向における機体中央部分に配置される。また、この操縦装置60は、その機体前部の床面(作業者が乗車時に足を載せる床面)71よりも機体上方に設けられている。尚、この操縦装置60の機体後方には、その床面71よりも機体上方に突出させられたエンジン20がエンジンカバー72で覆われた状態で配置されている。そのエンジンカバー72の上部には、操縦席73が設置されている。
操縦装置60は、筐体(フロントカバー)74又はその近傍に設置される。尚、そのフロントカバー74の内部には、エンジン用燃料の燃料タンク等が配設されている。操縦装置60としては、例えば、走行車体2の操舵輪を操舵操作する為の操舵操作部(ハンドル)61と、油圧式無段変速機31を操作する為の走行操作部(HSTレバー)62と、上記の動力断接装置(クラッチ)を走行車体2の上から断接操作する為の第1動力断接操作部(クラッチペダル)63と、その動力断接装置を走行車体2の前方から断接操作する為の第2動力断接操作部(クラッチレバー)64と、走行車体2を当該走行車体2の前方から作業者が案内する為の車体案内操作部(前側ハンドル)65と、走行車体2の全機能を強制停止させる為の緊急停止操作部(緊急停止スイッチ)66と、が設けられている。
HSTレバー62は、油圧式無段変速機31を操作することで、走行車体2の前後進切り替えや走行速度調整を行うものであり、後述する機体左右における固定式予備苗枠82を設けた側(換言するならば機体左右における可動式予備苗枠81を設けない側)に配設する。また、このHSTレバー62は、フロントカバー74の上部から機体上方に向けて突出させている。この例示では、HSTレバー62を機体左側に配置している。
クラッチペダル63は、図2及び図3に示すように、フロントカバー74と可動式予備苗枠81との間に配設する。例えば、このクラッチペダル63は、フロントカバー74の側面から走行車体2の上の作業者の足元近くに突出させている。この作業者は、走行車体2の上からクラッチペダル63を足で踏み込んで動力断接装置を操作し、エンジン20の動力伝達を断つ。走行車体2は、この動力伝達が断たれることによって減速し、その後停止する。
クラッチレバー64は、図2及び図3に示すように、走行車体2の前方から動力断接装置の断接操作を行えるように、機体前部の床面71から機体上方で且つ機体前方に向けて突出させている。例えば、この例示では、クラッチペダル63と同じように、フロントカバー74と可動式予備苗枠81との間にクラッチレバー64を配設している。機体前方の作業者は、走行車体2の前方からクラッチレバー64を手で上げる(又は下げる)ことで動力断接装置を操作し、エンジン20の動力伝達を断つ。この様に、この苗移植機1は、走行車体2の前方から動力断接装置の断接操作を行えるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
前側ハンドル65は、図2及び図3に示すように、フロントカバー74の下部に対して機体前方に配設する。つまり、この前側ハンドル65は、走行車体2の前端部分において機体左右方向における機体中央部分に配設されている。この前側ハンドル65は、機体下部側を支点にして機体前後方向に回動することができる。この前側ハンドル65は、フロントフレーム11に取り付けられている。例えば、この前側ハンドル65は、ループ状に形成したグリップを備える。作業者は、例えば傾斜地において苗移植機1を運ぶ際に、そのグリップを持って前側ハンドル65を機体前方に回動させることで、苗移植機1の浮き上がりを抑えて運搬時のバランスを保つ。この様に、この苗移植機1は、前側ハンドル65を操作している作業者がもう一方の手でクラッチレバー64を操作することができる。従って、この苗移植機1は、その作業者が走行車体2の停止を望んだ時に、片手による簡便な操作で走行車体2の減速及び停止が可能になるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
緊急停止スイッチ66は、例えば動作中のエンジン20等を強制的に停止させるものであり、前側ハンドル65に設ける。例えば、この例示では、前側ハンドル65のグリップにおける機体左右の固定式予備苗枠82を設けた側に緊急停止スイッチ66を配設する。この様に、この苗移植機1は、前側ハンドル65と共に緊急停止スイッチ66が走行車体2の前端部分に配置されているので、その前側ハンドル65を操作している作業者が走行車体2の緊急停止を要すると判断した際に、前側ハンドル65を操作している作業者がもう一方の手で緊急停止スイッチ66を操作することができる。従って、この苗移植機1は、片手による簡便な操作で走行車体2を緊急停止させることができるので、安全性の確保と機体の破損防止を図ることができる。
この操縦装置60の機体左方及び機体右方には、複数の予備苗載せ台を備えた予備苗枠が設けられている。予備苗載せ台には、苗植付装置3に補充する為の補給用の苗が載置される。この走行車体2においては、機体左右の何れか一方に可動式予備苗枠81を配置し、他方に固定式予備苗枠82を配置する。この例示では、図3に示すように、フロントフレーム11の機体右側に第1及び第2の保持部材83a,83bを介して可動式予備苗枠81が配置され、フロントフレーム11の機体左側に保持部材84を介して固定式予備苗枠82が配置されている。
可動式予備苗枠81は、複数の予備苗載せ台(この例示では2つの予備苗載せ台81a,81b)が機体上下方向に並ぶ図4に示す積層形態と、その複数の予備苗載せ台(予備苗載せ台81a,81b)が機体前後方向に並ぶ図5に示す展開形態と、を切り替えることのできる予備苗枠である。
この様に、この苗移植機1は、可動式予備苗枠81を操作して第1予備苗載せ台81aと第2予備苗載せ台81bを積層形態とすることで、走行車体2の上から第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bに積み込んだ苗の取り出し作業が可能になると共に、可動式予備苗枠81の前後幅を短く抑えられることにより、走行車体2を移動させる際に可動式予備苗枠81が圃場外の壁等の障害物に接触し、破損することが防止される。一方、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bを展開形態とすることで、走行車体2の前方からの第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bへの苗の積み込み作業が可能になる。従って、この苗移植機1は、走行車体2の上からも走行車体2の前方からも苗を積み込むことができるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
ここで、この可動式予備苗枠81は、展開形態としたときに、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bの内の機体前側に位置するもの(第1予備苗載せ台81a)が走行車体2の前端よりも機体前方に突出するように構成することが望ましい。これにより、この苗移植機1は、圃場と圃場外との間に水路等があっても、その水路等を跨いで第1予備苗載せ台81aを作業者に近づけることができるので、苗の積み込み作業が容易になり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
この可動式予備苗枠81は、その積層形態と展開形態とを切り替える為の切り替え操作部を有する。
その切り替え操作部は、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bの間に介在させたリンク機構85を有しており、このリンク機構85を動作させることで積層形態と展開形態との切り替えが行われる。リンク機構85は、図3に示すように、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bに対して機体内側に配設する。また、このリンク機構85は、機体前側の第1リンクアーム85aと、機体後側の第2リンクアーム85bと、第1予備苗載せ台81aの機体内側部分に固定された第1保持部材85cと、第2予備苗載せ台81bの機体内側部分に固定された第2保持部材85dと、を備える。第1リンクアーム85aと第2リンクアーム85bは、機体前後方向に並べて配置される。第1リンクアーム85aは、その一端が第1保持部材85cに対して回動自在に保持され、且つ、その他端が第2保持部材85dに対して回動自在に保持される。一方、第2リンクアーム85bは、その一端が第1リンクアーム85aの保持部分よりも機体後方で第1保持部材85cに対して回動自在に保持され、且つ、その他端が第1リンクアーム85aの保持部分よりも機体後方で第2保持部材85dに対して回動自在に保持される。
機体前側の第1リンクアーム85aは、図4に示すように、積層形態としたときの可動式予備苗枠81の第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bにおける機体前部側の機体側方に空間を形成する屈曲形状とすることが望ましい。これにより、この苗移植機1は、その第1リンクアーム85aに邪魔されることなく、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bの機体前方から苗の出し入れを行うことができる。また、機体後側の第2リンクアーム85bは、図4に示すように、積層形態としたときの可動式予備苗枠81の第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bにおける機体後部側の機体側方に空間を形成する屈曲形状とすることが望ましい。これにより、この苗移植機1は、その第2リンクアーム85bに邪魔されることなく、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bの機体後方から苗の出し入れを行うことができる。従って、この苗移植機1は、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
ここで、第1保持部材85cの機体後部側には、機体下方に向けて突出させた第1係止部85eが形成されている。そして、第2保持部材85dの機体前部側には、機体上方に向けて突出させた第2係止部85fが形成されている。その第1係止部85eと第2係止部85fは、可動式予備苗枠81が展開形態のときに、第1予備苗載せ台81aをそれ以上機体下方へと移動させない為のものである。故に、第1係止部85eと第2係止部85fは、可動式予備苗枠81が展開形態のときに第1予備苗載せ台81aが機体下方へと移動できぬように接触する形状と配置にする。尚、ここでは、その第1係止部85eと第2係止部85fを2箇所に分けて配置しているので、第1係止部85eと第2係止部85fを小さくでき、その第1係止部85eと第2係止部85fが例えば苗の積み卸しの際に邪魔にならない。
更に、この切り替え操作部には、走行車体2の上から作業者が積層形態と展開形態との切り替え操作を行うことができる主操作部材(後方グリップ)86aと、走行車体2の前方から作業者が当該切り替え操作を行うことができる補助操作部材(前方グリップ)86bと、が設けられている。これにより、この苗移植機1は、走行車体2の上からも走行車体2の前方からも可動式予備苗枠81の積層形態と展開形態の切り替えを行うことができ、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
その後方グリップ86aと前方グリップ86bは、機体左右方向において、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bの内の展開形態のときに機体前側に位置し且つ積層形態のときに最上段となるもの(第1予備苗載せ台81a)とリンク機構85との間に配設することが望ましい。後方グリップ86aは、その第1予備苗載せ台81aの機体後部側とリンク機構85との間に配設している。一方、前方グリップ86bは、その第1予備苗載せ台81aの機体前部側とリンク機構85との間に配設している。これにより、この苗移植機1は、積層形態と展開形態との切り替え操作を行う際に、作業者の手と第1予備苗載せ台81aの上の苗との間に間隔を設けることができる。従って、この苗移植機1は、その苗を作業者の手で折り曲げたり潰したりする可能性を減らすことができるので、その可能性に気を取られることなく苗の積み卸しを行うことができ、また、その積み卸しの際に後方グリップ86aと前方グリップ86bが邪魔にならないので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。また、これにより苗の育成不良等も回避できるので、無駄になる苗を減少させることもできる。ここで、これらの効果をより高めるべく、後方グリップ86aや前方グリップ86bは、リンク機構85の機体上方にまで第1予備苗載せ台81aから引き離して配置してもよい。尚、リンク機構85と操縦装置60との間にクラッチペダル63等の突出物が設けられていない場合には、第1予備苗載せ台81aとリンク機構85との間又はリンク機構85の機体上方に後方グリップ86aと前方グリップ86bを設けることで、作業者の乗り降りのスペースを確保することができる。
更に、その後方グリップ86aと前方グリップ86bは、可動式予備苗枠81の第1及び第2の予備苗載せ台81a,81b(特に第1予備苗載せ台81a)の機体前後方向における長さの範囲内に収まるよう配設することが望ましい。これにより、この苗移植機1は、その後方グリップ86aと前方グリップ86bが走行車体2の側方からの作業者の乗り降りの邪魔にならないので、その側方からの乗り降りが容易になり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。更に、この苗移植機1は、前方グリップ86bが第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bから機体前方にはみ出ないので、この前方グリップ86bが旋回走行中等の際に壁等に接触せず、この前方グリップ86bの耐久性を向上させることができる。
また、後方グリップ86aは、前方グリップ86bよりも機体上下方向にて高い位置に配置することが望ましい。走行車体上の作業者の方が走行車体2の前方の作業者よりも高い位置で切り替え操作を行うからである。
ところで、第1及び第2の予備苗載せ台81a,81bは、図3から図6に示すように、機体左右方向における両側に苗の機体左右方向への落下を防止する側壁87が機体上方に向けて立設されている。これが為、その側壁87に後方グリップ86aや前方グリップ86bを持つ作業者の手が触れないように、後方グリップ86aや前方グリップ86bの機体側方に配置されている第1及び第2の予備苗載せ台81a,81b(ここでは特に第1予備苗載せ台81a)については、その後方グリップ86aに対向する機体側方部分と前方グリップ86bに対向する機体側方部分とを除いて側壁87を設けることが望ましい。例えば、この例示では、図4及び図5に示すように、後方グリップ86aに対向する機体側方部分と前方グリップ86bに対向する機体側方部分とに各々切欠き87aと切欠き87bとを形成する。これにより、この苗移植機1においては、後方グリップ86aや前方グリップ86bを持つ作業者の手がより第1予備苗載せ台81aに接触し難くなり、可動式予備苗枠81の切り替え操作の操作性が向上するので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
ここで、リンク機構85には、可動式予備苗枠81が積層形態のときに、第1リンクアーム85aと第2リンクアーム85bの回動動作を禁止する回動ロック部88が設けられている。これにより、この苗移植機1は、走行車体2が圃場の凹凸等で上下に大きく揺れたとしても、可動式予備苗枠81が勝手に積層形態から展開形態に移る等の様な第1予備苗載せ台81aの無用な動きを回避できる。従って、この苗移植機1は、その第1予備苗載せ台81aに載せた苗が振動等で落下しないので、落ちた苗を拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
その回動ロック部88は、図7に示すように、予備苗載せ台81bの保持部85gに固定されたブラケット88aと、このブラケット88aに対して回動自在なロック部材88bと、このロック部材88bをブラケット88aに回動自在な状態で保持する支持部材88cと、を有する。この回動ロック部88においては、ロック部材88bをバネ材で第2リンクアーム85bに引っ掛かる形に成形する。ここでは、図8の上図に示すように、そのロック部材88bがロック解除時に第2リンクアーム85bから離れる方向のバネ力を発生させる。そして、振動等で勝手にロックが解除されないように、ロック部材88bは、図8の中央の図に示す如く、弾発力を発生させながら第2リンクアーム85bの表面を乗り越える形状に成形する。また、このロック部材88bは、図8の下図に示すように、ロック時に第2リンクアーム85bから離れて勝手にロック解除されない方向のバネ力を発生させる。その為に、このロック部材88bは、その下図に示すように、支点と先端との間に差を設けている。
前述したように、HSTレバー62は、その可動式予備苗枠81とは機体左右方向において逆側に配置している。従って、この苗移植機1は、走行車体2の上の作業者が可動式予備苗枠81の切り替え操作を行う際に、誤ってHSTレバー62を操作してしまうと云う事態を回避することができる。故に、この苗移植機1は、無用な走行車体2の前後進を防ぐことができるので、例えば誤って動いた走行車体2を元の位置に戻す等の作業が不要になり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、前述したように、走行車体上の足元に配置されるクラッチペダル63とクラッチレバー64は、フロントカバー74と可動式予備苗枠81との間に配設している。これが為、この苗移植機1では、フロントカバー74と固定式予備苗枠82との間に隙間ができるので、この隙間から作業者が容易に乗り降りできる。更に、この苗移植機1は、その様な隙間が走行車体2の左右何れか一方にでき、圃場の泥内に作業者が入ることなく乗降可能なので、走行車体上の作業場の泥による汚れを軽減でき、走行車体2の掃除が容易になる。この様に、この苗移植機1は、そのクラッチペダル63とクラッチレバー64の配置により、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
一方、固定式予備苗枠82は、図3に示すように、複数の予備苗載せ台(この例示では第3及び第4の予備苗載せ台82a,82b)を機体上下方向に等間隔に並べて固定配置した苗枠フレーム89を有する予備苗枠である。
この固定式予備苗枠82は、可動式予備苗枠81と比較して、第3及び第4の予備苗載せ台82a,82bの動きが苗枠フレーム89で強固に規制されているので、その第3及び第4の予備苗載せ台82a,82bに載せた苗が振動等で落下する可能性が低く、落ちた苗を拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、この固定式予備苗枠82の第3及び第4の予備苗載せ台82a,82bにも、機体左右方向における両側に苗の機体左右方向への落下を防止する側壁87が機体上方に向けて立設されている。
この固定式予備苗枠82には、図9−1に示すように、苗取板Pを収納及び保持する少なくとも2つの第1及び第2の支持部材91a,91bからなる苗取板支持部が設けられている。第1支持部材91aは、機体外側に折り曲げた両端が苗枠フレーム89の機体上部側で且つ機体内側に固定された部材であり、その部位から苗取板Pの板厚方向に切った断面よりも広い空間を設けた形状を成す。第2支持部材91bは、機体外側に折り曲げた両端が苗枠フレーム89の機体下部側で且つ機体内側に固定された部材であり、その部位から苗取板Pの板厚方向に切った断面よりも広い空間(第2支持部材91bが周囲の部品に大きな音を立ててぶつからない広さの空間)を設けた形状を成す。この形態の苗取板支持部においては、その空間に苗取板Pを機体上方から挿入することで、この苗取板Pの収納と保持が実現される。この苗移植機1は、その苗取板支持部によって、苗取板Pが振動や風等で揺れたり飛ばされたりすることを抑制できる。従って、この苗移植機1は、苗取板Pが苗枠フレーム89や第1及び第2の支持部材91a,91bに接触したとしても、大きな接触音の発生を抑えることができる。また、この苗移植機1は、落ちた苗取板Pを拾う作業が不要となり、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。更に、この苗移植機1では、苗取板支持部を苗枠フレーム89に設けているので、第1及び第2の支持部材91a,91bの強度を確保することができる。また更に、その苗取板支持部は、機体上方から苗取板Pを出し入れする構造なので、出し入れする際に手が周囲の部品に当り難く、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。また、その苗取板支持部は、その形状により、固定式予備苗枠82と操縦装置60との間における乗り降りのスペースを確保することができる。また、ここでは、その苗取板支持部を固定式予備苗枠82に設けているので、形態の変わる可動式予備苗枠81に設けるよりも確実に苗取板Pの収納スペースを確保でき、苗取板Pの収納と保持、そして苗取板Pの出し入れ作業を行うことができる。尚、この苗取板支持部は、重い苗を楽に扱うことができる作業者の利き手の側に設けてもよく、これにより作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。尚、苗取板Pによる苗取り作業や当該苗取板Pの苗取板支持部への収納作業を容易にするべく、この苗取板Pは、図9−2に示すように、収納時における先端に近づくにつれて苗取面を傾斜させても(つまり板厚を薄くしていっても)よい。
ここで、この苗取板支持部は、苗取板Pの出し入れのし易さを考えると、苗取板Pと苗取板支持部の上記各空間との間に隙間を設けておくことが望ましい。しかしながら、その隙間は、苗取板Pと苗枠フレーム89との接触、苗取板Pと第1及び第2の支持部材91a,91bとの接触を招き、多少なりとも接触音を発生させてしまう。これを防止すべく、苗取板Pが接触する虞のある苗枠フレーム89の所定部位(苗取板Pとの接触部分及び近接部分)には、図10に示すように、緩衝部材92を取り付けることが望ましい。更に、苗取板Pが接触する虞のある第1及び第2の支持部材91a,91bの所定部位(苗取板Pとの接触部分及び近接部分)にも、図10に示すように、緩衝部材93を取り付けることが望ましい。その緩衝部材92,93は、例えば塩ビ板やゴム等である。これにより、この苗移植機1は、苗取板Pが細かい微振動等で苗枠フレーム89や第1及び第2の支持部材91a,91bと接触した際の音や衝撃の発生を回避でき、作業者や圃場近隣に不快感を覚えさせることが防止されると共に、苗取板Pの破損を防ぐことができる。
その苗取板支持部は、機体前後方向から苗取板Pを出し入れできるものであってもよい。例えば、この場合の苗取板支持部は、図11に示すように、上記の第1及び第2の支持部材91a,91bを機体側方から観て90度回転させたもの(第1及び第2の支持部材94a,94b)と同じである。この苗取板支持部に依れば、作業者が操縦席73に着座したままでも苗取板Pを出し入れできるので、作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。但し、この苗取板支持部は、振動等によって苗取板Pが落下する虞があるので、その第1及び第2の支持部材94a,94bを斜めに配置することで、苗取板Pの落下を防ぎつつ操縦席73からの苗取板Pの出し入れを可能にしてもよい。また。この場合にも、苗枠フレーム89や第1及び第2の支持部材94a,94bに緩衝部材92,93を設けることが好ましい。
また、苗取板支持部は、図12から図14に示す構造のものであってもよい。この苗取板支持部95は、苗枠フレーム89の機体上部側に設けた基部95aと、この基部95aから機体下方に向けて突出させた突出部95bと、で苗取板Pを収納及び保持するものである。この苗取板支持部95は、上記の第1支持部材91aにおける機体内側の中央部分を突出部95bとして機体下方に突出させた形状のものに類する。この苗取板支持部95によれば、第1及び第2の支持部材91a,91bからなる苗取板支持部と同等の効果を得ることができるだけでなく、構成部品を減らすこともできる。
ここで、この苗取板支持部95を採用する場合においても、この苗取板支持部95や苗枠フレーム89における苗取板Pとの接触部分及び近接部分には、緩衝部材を取り付けることが望ましい。また、ここでは、この苗取板支持部95を機体側方から観て90度回転させて配置してもよく、傾斜させて配置してもよい。更に、これらの回転させたものについても、苗取板支持部95や苗枠フレーム89における苗取板Pとの接触部分及び近接部分に緩衝部材を取り付けることが望ましい。
ところで、前側ハンドル65は、図15及び図16に示すように、その機体下部側がブラケット101を介してL字部材102に取り付けられている。そのL字部材102は、機体下方に延設され、且つ、その延設端部から機体後方に向けて延設された部材であり、フロントフレーム11にブラケット103を介して取り付けられている。つまり、前側ハンドル65は、これらの各種部材を介してフロントフレーム11に取り付けられている。この前側ハンドル65は、図16に示すように、操作されていないときのループ状のグリップが機体上下方向に対して機体前方に傾斜させて配置されている。
この前側ハンドル65は、グリップの機体下方に回動支点105を有しており、図17に示すブラケット101の夫々の側壁101a,101bにおいて機体前後方向に回動自在な状態で保持されている。その側壁101a,101bには、回動支点105に対して機体上方で且つ機体前方にグリップの機体下部側65aが回動時に移動できる切欠き101cが形成されている。前側ハンドル65は、グリップの機体下部側65aが切欠き101cに接するまで機体前方に向けて回動させることができる。つまり、その切欠き101cは、前側ハンドル65を機体前方で且つ機体下方に向けて回動させる際の当該前側ハンドル65の係止部となる。
また、そのブラケット101には、直進走行時の目安となるセンタマーカ67が機体前後方向へと回動自在に保持されている。そのセンタマーカ67は、機体上方に向けて突出させた棒状のものであり、前側ハンドル65とフロントカバー74との間で且つ機体左右方向における機体中央部分に配置する。このセンタマーカ67は、機体下部側に回動支点106を有しており、ブラケット101の夫々の側壁101a,101bにおいて回動自在な状態で保持されている。このセンタマーカ67は、図16に示すように、操作されていないときに機体上下方向に対して平行に配置されている。このセンタマーカ67は、前側ハンドル65の回動動作に連動して回動するものであってもよく、その前側ハンドル65の回動動作に拘わらず個別に回動するものであってもよい。ここでは、後者とする。
ここで、このセンタマーカ67は、図17に示すように、前側ハンドル65よりも機体上下方向に対する機体前方への回動角度が小さく、且つ、前側ハンドル65よりも機体上下方向に対する機体後方への回動角度が大きくなるように構成している。図17のθ1は、機体上下方向に対する機体前方へのセンタマーカ67の最大回動角度であり、θ2は、機体上下方向に対する機体前方への前側ハンドル65の最大回動角度である。また、θ3は、機体上下方向に対する機体後方へのセンタマーカ67の最大回動角度である。これにより、この苗移植機1は、作業者が前側ハンドル65を機体前方で且つ機体下方に操作した際に、センタマーカ67が作業者に当たらない。これにより、その作業者は、前側ハンドル65を操作し易い姿勢で操作することができる。従って、この苗移植機1は、前側ハンドル65を操作する際の作業能率の向上や作業者の負担軽減を図ることができる。
また、このセンタマーカ67は、その回動支点106を前側ハンドル65の回動支点105よりも機体上方側に備え、且つ、その前側ハンドル65を機体前方に回動させなければ機体前方へと回動できない構成にしている。つまり、このセンタマーカ67は、図17に示すように、機体前方に回動させようとしても、前側ハンドル65におけるグリップの機体上部側65bが係止部となって機体前方へと回動できない。従って、この苗移植機1は、走行中に勝手にセンタマーカ67が機体前方に倒れないので、このセンタマーカ67が走行車体上の作業者から見え難くなる事態を回避でき、このセンタマーカ67を目印とした走行車体2の直進操作が容易になる。
これら前側ハンドル65とセンタマーカ67は、走行車体2の前端部分から食み出た位置に配設されている。これにより、走行車体2を狭い建屋や軽トラック等の小さい輸送手段に収納する際には、その前側ハンドル65とセンタマーカ67が邪魔になる可能性がある。従って、例えば、ブラケット103とフロントフレーム11とをボルト等の締結部材で固定している場合には、その締結部材を外し、前側ハンドル65とセンタマーカ67を走行車体2から取り外して建屋や輸送手段に収納すればよい。また、例えば、図18に示すように、その締結部材による締結が可能な箇所を機体前後方向に余分に用意し、収納時に前側ハンドル65とセンタマーカ67を走行車体2に近づけるように構成してもよい。また、例えば、図19に示すように、センタマーカ67をブラケット101から自在に着脱できるよう構成すると共に、前側ハンドル65を走行車体2と走行路との間(例えば走行車体2の下部側に設けた動力伝達部におけるミッションケース32の下方)にまで回動できるように構成してもよい。以上により、この苗移植機1は、狭い建屋や小さい輸送手段の荷台に収納する場合でも、十分な収納スペースを確保することができる。また、この苗移植機1は、建屋や輸送手段の荷台から前側ハンドル65とセンタマーカ67が食み出る事態を回避することができ、その前側ハンドル65やセンタマーカ67の耐久性を向上させることができる。
尚、走行車体2には、図20に示すように、転倒を警告する為に傾斜センサ111が取り付けられている。その傾斜センサ111は、機体の傾斜角を検出する角度センサであり、フロントフレーム11に配設している。この走行車体2においては、その傾斜センサ111で検出された機体の傾斜角が所定角度を超えたときに、音やモニタへの表示等で作業者に転倒の虞を警告する。
この傾斜センサ111は、下方にエンジン20の出力軸20aが配置され、且つ、前方にミッションケース32が配置されているフロントフレーム11の平面部11aの上に取り付ける。従って、そのミッションケース32が壁となり、傾斜センサ111への泥の付着を抑えることができる。ここで、フロントフレーム11には、エンジン20が取り付けられている。しかしながら、そのエンジン20とフロントフレーム11の間にはインシュレータ等の緩衝部材(図示略)を介在させているので、この苗移植機1は、エンジン20の振動による傾斜センサ111の誤検出を回避できる。
また、この傾斜センサ111は、機体左右の検出ばらつきを抑える為、機体左右方向における機体中央部分に近づけて配置することが望ましい。例えば、この傾斜センサ111は、機体左右方向における機体中央部分に設けたデフロックペダル(図示略)を支えるペダル支柱部115の機体右側に、このペダル支柱部115に出来る限り近づけて配置する。これに伴い、この走行車体2では、走行ハーネス112も機体右側に配置し、この走行ハーネス112を機体右側で傾斜センサ111に接続する。これにより、その走行ハーネス112は、エンジンベルト21を回避しつつ、傾斜センサ111との接続が可能になる。ここで、傾斜センサ111や走行ハーネス112の配置を機体右側としたのはエンジンベルト21が機体左側に配置されているからであり、エンジンベルト21が機体右側に存在している場合には、傾斜センサ111や走行ハーネス112を機体左側に配置する。