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JP2012036504A - 塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、及びアルミニウム合金塑性加工品の製造方法、アルミニウム合金塑性加工品 - Google Patents

塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、及びアルミニウム合金塑性加工品の製造方法、アルミニウム合金塑性加工品 Download PDF

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Abstract

【課題】強度が向上し、再結晶粒の発生しにくい塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法を提供する。
【解決手段】Mgを0.8wt%〜1.2wt%、Siを0.7wt%〜1.0wt%、Cuを0.3wt%〜0.6wt%、Mnを0.14wt%〜0.3wt%、Crを0.14wt%〜0.3wt%、Feを0.5wt%以下、Tiを0.01wt%〜0.15wt%、Bを0.0001wt%〜0.03wt%含有し、残部をAlと不可避的不純物とし、晶出物の平均粒径が8μm以下、デンドライト二次アーム間隔が40μm以下、かつ、結晶粒径が300μm以下の組織を有するように塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を鋳造して製造する際、連続鋳造した後に470℃で均質化処理を施す。
【選択図】図1

Description

この発明は、Al(アルミニウム)−Mg(マグネシウム)−Si(ケイ素)系の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法、及びアルミニウム合金塑性加工品の製造方法、アルミニウム合金塑性加工品に関するものである。
自動車部品、例えばサスペンション部品は、専ら鉄系材料が使用されていたが、軽量化を主目的としてアルミニウム材料またはアルミニウム合金材料に置き換えることが多くなってきた。これら自動車部品では、優れた耐食性、高強度および優れた加工性が要求されることから、アルミニウム合金材料としてAl−Mg−Si系合金、特に、A6061が多用されている。そして、このような自動車部品は、強度の向上を図るため、アルミニウム合金材料を加工用素材として用いて塑性加工の1つである鍛造加工で製造される。
また、最近では、コストダウンを図る必要があるため、押出をせずに鋳造部材をそのまま素材として鍛造した後、T6処理して得られたサスペンション部品が実用化され始めており、さらに軽量化を目的にとして、従来のA6061に代わる高強度合金の開発が進められている(例えば特開平5−59477号公報、特開平5−247574号公報、特開平6−256880号公報に開示されている。)。
特開平5−59477号公報 特開平5−247574号公報 特開平6−256880号公報
これらA6061およびAl−Mg−Si系合金の高強度合金は、鍛造および熱処理工程において加工組織が再結晶し、粗大結晶粒が発生することにより、十分な高強度を得ることができないという問題があった。そのため、粗大再結晶粒防止のため、Zr(ジルコニウム)を添加して再結晶を防止している例が多い(例えば特開平5−59477号公報、特開平5−247574号公報に開示されている。)。
しかしながら、Zrの添加は、再結晶防止に効果があるものの、次のような問題を有している。
(1)Zrの添加により、Al−Ti(チタン)−B(ホウ素)系合金の結晶粒微細化効果が弱められ、鋳塊自体の結晶粒が粗くなり、逆に塑性加工後の加工品の強度低下をきたすことが多くなる。
(2)鋳塊自体の結晶粒微細化効果が弱められるため、鋳塊割れが発生し易くなり、内部欠陥が増加し、歩留まりが悪化する。
(3)ZrはAl−Ti−B系合金と化合物を形成し、合金溶湯を貯留する炉の底に化合物が堆積し、炉を汚染するとともに、製造した鋳塊においてもこれら化合物が鋳塊中に粗大に晶出し、強度を低下させる。
このため、Zrの添加は効果があるものの、強度の安定性を維持するのが難しく、製品の品質が不安定となり、材料コストの上昇を招いていた。
この発明は、上記したような不都合を解消するためになされたもので、Mg(マグネシウム)、Si(ケイ素)、Cu(銅)、Mn(マンガン)、Cr(クロム)などの合金元素の含有量を調整し、かつ、晶出物の平均粒径、鋳塊組織のデンドライト二次アーム間隔(Dendrite Arm Space:以下、DASと記す。)、結晶粒径を調整することにより、強度が向上し、再結晶粒の発生しにくい塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法と、この方法を経て製造するアルミニウム合金塑性加工品の製造方法、アルミニウム合金塑性加工品を提供するものである。
この発明にかかる塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法は、Mg(マグネシウム)を0.8wt%〜1.2wt%、Si(ケイ素)を0.7wt%〜1.0wt%、Cu(銅)を0.3wt%〜0.6wt%、Mn(マンガン)を0.14wt%〜0.3wt%、Cr(クロム)を0.14wt%〜0.3wt%、Fe(鉄)を0.5wt%以下、Ti(チタン)を0.01wt%〜0.15wt%、B(ホウ素)を0.0001wt%〜0.03wt%含有し、残部をAlと不可避的不純物とし、晶出物の平均粒径が8μm以下、デンドライト二次アーム間隔が40μm以下、かつ、結晶粒径が300μm以下の組織を有するように塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を鋳造して製造する塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法であって、連続鋳造した後に470℃で均質化処理を施して、前記塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造するものである。
さらに、アルミニウム合金塑性加工品の製造方法は、上記した製造方法により製造した塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を用い、塑性加工用アルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施すとき、〔430+塑性加工率(%)〕℃以上550℃以下で加熱する。上記塑性加工は、鍛造加工であることが好ましい。なお、塑性加工後に520℃〜550℃で溶体化処理を施すのが望ましい。また、アルミニウム合金塑性加工品は、上記した製造方法で製造すればよい。
なお、この明細書中におけるwt%は、重量%を意味し、SI単位系の質量%と等価である。したがって、例えば0.7wt%は、0.7重量%または0.7質量%のことである。
この発明の製造方法により製造した塑性加工用アルミニウム合金鋳塊によれば、微細化材〔Ti(チタン)およびB(ホウ素)〕を添加して結晶粒径を300μm以下にしたので、鍛造加工性に優れた鋳造合金を得ることができる。したがって、高強度、高靱性、時効硬化性の大きいことが要求される部品、例えば自動車用のサスペンションなどに好適な材料となるとともに、その部品を得ることができる。
また、塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法によれば、連続鋳造した後に470℃で均質化処理を施して塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造するので、晶出物の平均粒径が8μm以下、DASが40μm以下、かつ、結晶粒径が300μm以下の組織を有する塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を鋳造することができる。
また、アルミニウム合金塑性加工品の製造方法によれば、塑性加工用アルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施すとき、〔430+塑性加工率(%)〕℃以上550℃以下で加熱するので、熱間加工中に導入された歪みが減少するため、溶体化処理時の再結晶成長のエネルギーが小さくなり、健全な製品を得ることができる。そして、520℃〜550℃で溶体化処理を施すので、時効硬化を著しく促進させ、時効処理後の強度をさらに高めることができる。さらに、この発明のアルミニウム合金塑性加工品は、機械的強度に優れたものとなる。
この発明の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造する製造装置の一例である半連続鋳造装置を示す説明図である。 この発明の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造する製造装置の他の例である水平続鋳造装置を示す説明図である。
以下、この発明について説明する。Siは、Mgと共存してMg2Si系析出物を形成し、最終製品の強度向上に寄与する。Siの含有量が0.7wt%よりも少ないと、析出強化の効果が少なくなる。一方、1.0wt%を越えると、Siの粒界析出が多くなり、粒界脆化が生じ易く、鋳塊の鍛造加工性(塑性加工性)、および最終製品の靭性を低下させるのみならず、鋳塊の晶出物の平均粒径が所定の上限を越えることになる。したがって、Siの含有量は、0.7wt%〜1.0wt%の範囲にする必要がある。なお、Siは、後述するMgの量に対してMg2Siを生成する量を越えて過剰に添加することにより、時効処理後の最終製品の強度をさらに高める。
Mgは、Siと共存してMg2Si系析出物を形成し、最終製品の強度向上に寄与する。Mgの含有量が0.8wt%よりも少ないと、析出強化の効果が少なくなる。一方、1.2wt%を越えると、鋳塊の鍛造加工性、および最終製品の靭性を低下させるのみならず、鋳塊の晶出物の平均粒径が所定の上限を越えることになる。したがって、Mgの含有量は、0.8wt%〜1.2wt%の範囲にする必要がある。
Cuは、Mg2Si系析出物の見かけの過飽和量を増加させ、Mg2Si析出量を増加させることにより、最終製品の時効硬化を著しく促進させる。Cuの含有量が0.3wt%よりも少ないと、上記した効果も少なくなる。一方、0.6wt%を越えると、鋳塊の鍛造加工性、および最終製品の靭性を低下させ、さらに耐食性を劣化させる。したがって、Cuの含有量は、0.3wt%〜0.6wt%の範囲にする必要がある。
MnはAlMnSi相として晶出し、晶出しないMnは、析出して再結晶を抑制する。この再結晶を抑制する作用により、鍛造後も結晶粒を微細にし、最終製品の靭性向上および耐食性向上の効果がもたらされる。Mnの含有量が0.14%よりも少ないと、上記した効果が少なくなる。一方、0.3wt%を越えると、巨大金属間化合物が生じ、この発明の鋳塊組織が満たされなくなる。したがって、Mnの含有量は、0.14wt%〜0.3wt%の範囲にする必要がある。
CrもAlCrSi相として晶出し、晶出しないCrは、析出して再結晶を抑制する。この再結晶を抑制する作用により、鍛造後も結晶粒を微細にし、最終製品の靭性向上および耐食性向上の効果がもたらされる。Crの含有量が0.14%よりも少ないと、上記した効果が少なくなる。一方、0.3wt%を越えると、巨大金属間化合物が生じ、この発明の鋳塊組織が満たされなくなる。したがって、Crの含有量は、0.14wt%〜0.3wt%の範囲にする必要がある。
Feは、合金中でAl、Siと結合して晶出するとともに、結晶粒粗大化を防止し、焼き入れ感受性を減少させ、また、強度と靭性とを向上させ、耐食性をも向上させる。Fe含有量が0.5wt%を越えると、上記した効果が得られなくなる。したがって、Feの含有量は、0.5wt%以下にする必要がある。
Tiは、結晶粒の微細化を図る上で有効な合金元素であり、かつ、連続鋳造棒に鋳塊割れなどが発生するのを防止する。さらに、この発明の鋳塊は押出などの加工を行わずに鍛造加工を施すため、鋳塊の結晶粒径を300μm以下に調整するのに、このTiが重要な役割を果たす。Tiの含有量が0.01wt%よりも少ないと、微細化効果が得られず、一方、0.15%を越えると、粗大なTi化合物が晶出し、靭性を劣化させる。したがって、Tiの含有量は、0.01wt%〜0.15wt%の範囲にする必要がある。
BもTiと同様に、結晶粒微細化に有効な元素であり、0.0001wt%よりも少ないと、その効果が得られず、一方、0.03wt%を越えると、靭性を劣化させる。したがって、Bの含有量は、0.0001wt%〜0.03wt%の範囲にする必要がある。
次に、連続鋳造した塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の組織について説明する。まず、晶出物の大きさである。この発明でいう晶出物は、AlMnSi相、Mg2Si相、Fe、Cr、金属間化合物などを含む二次相が結晶粒界に粒状または片状に晶出したものである。そして、晶出物の平均粒径は、8μm以下にする必要があり、より好ましくは7μm以下に、さらに好ましくは6.8μm以下にするのが望ましい。晶出物の平均粒径が8μm以下であれば、鍛造加工性が良好であり、かつ、均質化処理を施さずに熱間鍛造加工をする場合にも、鍛造加工性に影響を与えることがなくなる。Al−Mg−Si系であるこの発明の合金において、熱間で鍛造加工を施す場合、鍛造加工性に最も影響を与えるものは、Fe、Mn、Crなどの遷移金属の晶出物の大きさや、晶出したMg2SiがT6処理時に十分固溶できる大きさで均一に分散しているかである、と考えられる。なお、晶出物の大きさの測定は、顕微鏡を有した画像解析装置(ルーゼックス)でミクロ組織を同定し、個々の晶出の断面積を円に換算したときの直径を粒径とした。
次に、DAS(Dendrite Arm Space)の大きさである。連続鋳造材のDASが40μmを越えると、強度が低下して所望した高強度が得られないので、DASを40μm以下にする必要があり、より好ましくは20μm以下にするのがよい。なお、DASの測定は、軽金属学会発行の『軽金属(1988年)、vol.38、No.1、p45』に記載の、『デンドライトアームスペーシング測定手順』にしたがって行った。
そして、結晶粒径の大きさである。結晶粒径の大きさは、鍛造加工された製品の強度に大きく影響する。すなわち、押出材や、圧延材などに認められる塑性加工の歪み導入によって得られる微細再結晶粒と異なり、連続鋳造の鋳造段階で得られた微細な結晶粒は組織内で歪みそのものが少なく、熱間鍛造加工を施しても粗大な再結晶が発生しにくい。しかしながら、元の鋳塊組織の結晶粒径が大きいと、例えば300μmを越えると、強度の向上が認められない。したがって、結晶粒径は、300μm以下にする必要があり、より好ましくは250μm以下にするのがよい。なお、結晶粒径の測定は、光学顕微鏡写真上で切片法によって求めた。
図1はこの発明の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造する製造装置の一例である半連続鋳造装置を示す説明図である。図1において、11は溶湯受槽を示し、アルミニウム合金の溶湯Mが供給されるものであり、溶湯Mを流出させる流出口12が下側に設けられている。21は鋳型を示し、溶湯受槽11の下側に気密状態で取り付けられ、流出口12に同軸で連通する、鋳塊Iを鋳造する円筒状内周面22が設けられている。
31は冷却媒体流路を示し、鋳型21内に周回させて設けられた環状流路部分31aと、この環状流路部分31aを鋳型21の外側へ連通させる導入部分31bとで構成され、鋳型21を冷却するための冷却媒体として水Wが供給される。32は噴出孔を示し、鋳塊Iを冷却させるために鋳塊Iの外周へ冷却媒体としての水Wを吹き付けることができるように、環状流路部分31aに連通させて、鋳型21に複数、または周回させて設けられている。
33は気体流路を示し、円筒状内周面22の溶湯受槽11との接合部分へ気体、例えば空気Aを供給できるように、鋳型21に周回させて設けられた環状流路部分33aと、この環状流路部分33aを外側へ連通させる導入部分33bとで構成されている。34は潤滑油流路を示し、円筒状内周面22へ潤滑油Oを供給できるように、鋳型21に周回させて設けられた環状流路部分34aと、この環状流路部分34aを外側へ連通させる導入部分34bとで構成されている。
次に、塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の鋳造について説明する。まず、図示を省略した溶解炉で地金、母合金、金属シリコン、銅塊などを混合して溶解させた後、保持炉で脱滓のためのフラックス処理を行う。そして、インライン脱ガス装置で溶湯中のガス(特に水素ガス)を減少させ、さらに、フラックス処理で除去できない微細な非金属介在物を除去した後、TiおよびBを添加する。
このようにして所望の組成に調整された溶湯Mが溶湯受槽11に供給されると、鋳造温度を(750±50)℃とした溶湯Mは流出口12から鋳型21内へ押し出されながら、冷却媒体流路31へ供給される水Wによって一次冷却された後、噴出孔32から噴出される水Wによって二次冷却されることにより、10℃/秒以上の冷却速度で、より好ましくは20℃/秒以上の冷却速度で冷却されて凝固し、上記したような組織を有する鋳塊Iとなる。
このようにして凝固した鋳塊Iは、この鋳塊Iを支える、図示を省略した底板を一定の速度、すなわち鋳造速度〔(240±50)mm/分〕で下降させることにより、下方へ連続的に引き抜かれる。そして、鋳塊Iの長さが一定の長さに達すると、鋳造は中断され、鋳塊Iは上方へ引き抜かれる。以後は、同様にして順次鋳塊Iを鋳造する。
なお、鋳造の際に気体流路33へ供給される空気Aは、鋳型21の円筒状内周面22に供給され、鋳型21と溶湯Mとの接触を断つ機能を有する。そして、余分な空気Aは、鋳型21と鋳塊Iとの間を下側へ流れる。また、潤滑油流路34へ供給される潤滑油Oは、鋳型21の円筒状内周面22に供給され、溶湯Mの円筒状内周面22への焼き付きを防止し、気化して鋳型21と溶湯Mとの接触を断つ機能を有する。この空気Aと潤滑油Oとにより、健全な鋳肌をもつ鋳塊Iが得られる。
上記した鋳造温度が750℃で未満では、鋳造前の溶湯の温度が低く、凝固時の温度勾配がなだらかになり、高温に保持された溶湯中で粗大化した結晶粒がそのまま鋳造されるため、鋳塊の一部に粗大な結晶粒が存在する浮遊晶が発生する。これに対し、鋳造温度が800℃を越えると、凝固時の温度勾配が急になり、微細化材の効果が低下するため、通常の粒状晶に比べて羽毛状晶の結晶粒径が大きくなり、強度および延性が低下する。したがって、鋳造温度は、(750±50)℃とするのが好ましいが、より好ましくは(750±20)℃とし、さらに好ましくは750℃とするのがよい。
また、鋳造速度が190mm/分未満では、冷却速度が遅くなるため、結晶粒径が大きくなる。これに対し、鋳造速度が290mm/分を越えると、中心部の凝固時期と外周部の凝固時期との大きくなるため、鋳塊内の残留熱応力の発生が多くなって鋳塊割れが発生し、鋳塊が製造できなくなる。したがって、鋳造速度は、(240±30)mm/分とするのが好ましいが、より好ましくは(240±10)mm/分とし、さらに好ましくは240mm/分とするのがよい。
この連続鋳造した合金鋳塊を熱間鍛造する場合、鍛造加工率と、このアルミニウム合金鋳塊の加熱温度とを制御することにより、粗大再結晶の発生をより抑制し、強度を一層向上させることができる。すなわち、加熱温度を、〔430℃+塑性加工率(鍛造加工率)(%)〕℃以上550℃以下の範囲に制御する。ここで、塑性加工率(鍛造加工率)について説明すると、例えば据込加工のような場合は〔(変形した高さ)÷(初期高さ)×100〕(%)であり、また、押出加工のような場合は、〔(変形を受ける断面積)÷(初期断面積)×100〕(%)である。
塑性加工率(鍛造加工率)が50(%)を越えるような大きな加工を合金鋳塊に加えると、加工中に導入される歪みが大きく、鋳塊の微細結晶であっても溶体化処理時に結晶成長のための大きなエネルギーとなり、粗大再結晶が発生し易くなる。しかし、加熱温度を上げることにより、熱間加工中に導入された歪みが減少するため、溶体化処理時の再結晶成長のエネルギーが小さくなる。しかしながら、加熱温度が550℃を越えると、バーニングの発生により、健全な製品ができなくなる。
したがって、塑性加工率が50(%)の鍛造加工を施す場合、480℃(430℃+50℃)以上550℃以下の加熱温度で熱間鍛造する必要がある。なお、製品が部分的に塑性加工率が大きい場合も、その鍛造加工率の最も大きい部分に合わせて加熱温度を設定することにより、全体的に健全な製品が得られる。また、荒地工程、仕上げ工程などの複数の工程に分けて鍛造する場合も、特に、高い塑性加工率を有する工程では、この加熱温度で熱間鍛造することが健全な製品を得るために大切である。
次に、この発明の実施例について説明する。
Figure 2012036504
表1に示す実施例1〜実施例10と、比較例1〜比較例5および実施例8とは、組成および組織を評価するものである。そして、実施例1〜実施例10と、比較例6とは、微細化材(Ti、B)の効果を評価するものである。また、実施例1〜実施例10と、比較例7とは、冷却速度(鋳造速度)を比較するものである。
各組成となるように配合して各実施例および各比較例の、直径が4インチまたは8インチの鋳塊を連続鋳造法で製造した。なお、鋳造温度は、各実施例および各比較例とも、(750±50)℃であった。また、冷却速度は、比較例7が1℃/秒〜9℃/秒で、比較例7以外が10℃/秒〜15℃/秒であった。さらに、鋳造速度は、比較例7が90mm/分〜190mm未満/分で、比較例7以外が190mm/分〜290mm/分であった。
上記のようにして鋳造した各実施例および各比較例の鋳塊の中心軸に対して対称位置となる4個所から直径が30mmで、長さが34mmの試料を採取して組織観察を行い、晶出物平均粒径(μm)、DAS(μm)および結晶粒径(μm)を測定した。そして、各試料に対して470℃で6時間の均質化処理を行い、各試料を520℃に加熱した後、各試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行った。その後、各試料を、530℃で3時間保持した後、70℃の温水中に焼き入れし、180℃で6時間保持した後に室温で放置し、各試料に対して引張強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)および伸び(%)を測定した。
実施例1〜実施例10は、組成、組織などがともにこの発明の範囲内であるため、引張強度、0.2%耐力および伸びにおいて優れている。これに対し、比較例1〜比較例5および比較例8は、組成、組織の少なくとも1つがこの発明の範囲外であるため、引張強度、0.2%耐力、伸びにおいて劣っている。そして、比較例6は、通常、微細化材(Ti、B)を投入してから30分以内に鋳造するところ、微細化材を投入してから2時間後に鋳造したため、微細化材の効果が現れず、結晶粒径がこの発明の範囲外となり、引張強度、0.2%耐力、伸びにおいて劣っている。また、比較例7は、この発明の鋳造速度よりも遅く、晶出物平均粒径およびDASがこの発明の範囲外であるため、引張強度、0.2%耐力、伸びにおいて劣っている。
このように、組成、組織などをこの発明の範囲内にすることにより、鍛造加工性に優れた鋳造合金を得ることができる。したがって、高強度、高靱性、時効硬化性の大きいことが要求される部品、例えば自動車用のサスペンションなどに好適な材料となるとともに、その部品を得ることができる。
Figure 2012036504
表2に示す実施例1、参考例1〜参考例4、実施例15〜実施例17は、均質化処理を評価するものである。各組成となるように配合して各実施例の、直径が4インチまたは8インチの鋳塊を連続鋳造法で製造した。なお、各実施例等の鋳造温度は(750±50)℃で、冷却速度は10℃/秒〜15℃/秒で、鋳造速度は190mm/分〜290mm/分であった。
上記のようにして鋳造した各実施例の鋳塊の中心軸に対して対称位置となる4個所から直径が30mmで、長さが34mmの試料を採取して組織観察を行い、晶出物平均粒径(μm)、DAS(μm)および結晶粒径(μm)を測定した。そして、参考例1〜参考例4の試料に対して均質化処理を行わず、実施例1および実施例15〜実施例17の試料に対して470℃で6時間の均質化処理を行った。
次に、実施例1、参考例1、参考例2および実施例15の試料を520℃に加熱した後、参考例2および実施例15の試料に対して鍛造加工率75%となるように鍛伸加工を行い、実施例1および参考例1の試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行った。また、参考例3および実施例16の試料を480℃に加熱した後、参考例3および実施例16の試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行った。
また、参考例4および実施例17の試料を460℃に加熱した後、参考例4および実施例17の試料に対して鍛造加工率30%となるように鍛伸加工を行った。その後、各試料を、530℃で3時間保持した後、70℃の温水中に焼き入れし、180℃で6時間保持した後に室温で放置し、各試料に対して引張強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)および伸び(%)を測定した。
実施例1、参考例1〜参考例4、実施例15〜実施例17は、均質化処理を行ってはいるものの、組成、組織などがともにこの発明の範囲内であるため、引張強度、0.2%耐力および伸びにおいて優れている。これに対し、参考例1〜参考例4は、均質化処理を省略した上、組成、組織などがともにこの発明の範囲内であるため、引張強度、0.2%耐力および伸びにおいてより優れている。
このように、均質化処理を施さないものが、均質化処理を施したものに対して引張強度、0.2%耐力および伸びにおいてより優れているので、均質化処理工程が不要となり、その設備が不要になるとともに、消費エネルギーが少なくなることにより、生産性が向上する。
Figure 2012036504
表3に示す実施例15〜実施例19と、比較例9〜比較例12とは、鍛造加工率(塑性加工率)に対する鍛造加熱温度を評価するものである。各組成となるように配合して各実施例および各比較例の、直径が4インチまたは8インチの鋳塊を連続鋳造法で製造した。なお、各実施例および各比較例とも、鋳造温度は(750±50)℃で、冷却速度は10℃/秒〜15℃/秒で、鋳造速度は190mm/分〜290mm/分であった。
上記のようにして鋳造した各実施例および各比較例の鋳塊の中心軸に対して対称位置となる4個所から直径が30mmで、長さが34mmの試料を採取して組織観察を行い、晶出物平均粒径(μm)、DAS(μm)および結晶粒径(μm)を測定した。そして、各試料に対して470℃で6時間の均質化処理を行った。
その後、実施例15、実施例18および実施例19の試料を520℃に加熱した後、実施例15の試料に対して鍛造加工率75%となるように鍛伸加工を行い、実施例18の試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行い、実施例19の試料に対して鍛造加工率30%となるように鍛伸加工を行った。また、実施例16および比較例9の試料を480℃に加熱した後、比較例9の試料に対して鍛造加工率75%となるように鍛伸加工を行い、実施例16の試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行った。また、比較例10の試料を470℃に加熱した後、比較例10の試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行った。さらに、実施例17の試料を460℃に加熱した後、実施例17の試料に対して鍛造加工率30%となるように鍛伸加工を行った。また、比較例11および比較例12の試料を435℃に加熱した後、比較例11の試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行い、比較例12の試料に対して鍛造加工率30%となるように鍛伸加工を行った。
その後、各試料を、530℃で3時間保持した後、70℃の温水中に焼き入れし、180℃で6時間保持した後に室温で放置し、各試料に対して引張強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)および伸び(%)を測定した。
実施例15〜実施例19は、組成、組織、鍛造加工率に対する鍛造加熱温度などがともにこの発明の範囲内であるため、引張強度、0.2%耐力および伸びにおいて優れている。これに対し、比較例9〜比較例12は、鍛造加工率に対する鍛造加熱温度が、この発明の〔430℃+塑性加工率(%)〕℃以上550℃以下の範囲外であるため、引張強度、0.2%耐力、伸びにおいて劣っている。
Figure 2012036504
表4に示す実施例20および実施例21と、比較例13および比較例14とは、溶体化処理を評価するものである。各組成となるように配合して各実施例および各比較例の、直径が4インチまたは8インチの鋳塊を連続鋳造法で製造した。なお、各実施例および各比較例とも、鋳造温度は(750±50)℃で、冷却速度は10℃/秒〜15℃/秒で、鋳造速度は190mm/分〜290mm/分であった。
上記のようにして鋳造した各実施例および各比較例の鋳塊の中心軸に対して対称位置となる4個所から直径が30mmで、長さが34mmの試料を採取して組織観察を行い、晶出物平均粒径(μm)、DAS(μm)および結晶粒径(μm)を測定した。そして、各試料に対して470℃で6時間の均質化処理を行い、各試料を520℃に加熱した後、各試料に対して鍛造加工率50%となるように鍛伸加工を行った。
その後、比較例13の試料を515℃で、実施例20の試料を525℃で、実施例21の試料を545℃で、また、比較例14の試料を555℃で3時間保持した後、70℃の温水中に焼き入れし、180℃で6時間保持した後に室温で放置し、各試料に対して引張強度(MPa)、0.2%耐力(MPa)および伸び(%)を測定した。
実施例20および実施例21は、組成、組織、溶体化温度などがともにこの発明の範囲内であるため、引張強度、0.2%耐力および伸びにおいて優れている。これに対し、比較例13および比較例14は、溶体化温度がこの発明の範囲外であるため、引張強度、0.2%耐力、伸びにおいて劣っている。
図2はこの発明の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造する製造装置の他の例である水平続鋳造装置を示す説明図である。図2において、41は溶湯受槽を示し、アルミニウム合金の溶湯Mが供給されるものであり、溶湯Mを流出させる流出口42が下側側面に設けられている。51は耐火物製板体を示し、溶湯受槽41の、流出口42が設けられた外側に気密状態で取り付けられ、流出口42に同軸で連通する流出口52が設けられている。61は鋳型を示し、耐火物製板体51に気密状態で取り付けられ、流出口52に同軸で連通する、鋳塊Iを鋳造する円筒状内周面62が設けられている。
71は冷却媒体流路を示し、鋳型61内に周回させて設けられた環状流路部分71aと、この環状流路部分71aを鋳型61の外側へ連通させる導入部分71bとで構成され、鋳型61を冷却するための冷却媒体として水Wが供給される。72は噴出孔を示し、鋳塊Iを冷却させるために鋳塊Iの外周へ冷却媒体としての水Wを吹き付けることができるように、環状流路部分71aに連通させて、鋳型61に複数、または周回させて設けられている。
73は気体流路を示し、円筒状内周面62の溶湯受槽41との接合部分へ気体、例えば空気Aを供給できるように、鋳型61に周回させて設けられた環状流路部分73aと、この環状流路部分73aを外側へ連通させる導入部分73bとで構成されている。74は潤滑油流路を示し、円筒状内周面62へ潤滑油Oを供給できるように、鋳型61に周回させて設けられた環状流路部分74aと、この環状流路部分74aを外側へ連通させる導入部分74bとで構成されている。
図2に示す水平続鋳造装置において、所望の組成に調整された溶湯Mが溶湯受槽41に供給されると、鋳造温度を(750±50)℃とした溶湯Mは流出口12から鋳型21内へ押し出されながら、冷却媒体流路31へ供給される水Wによって一次冷却された後、噴出孔32から噴出される水Wによって二次冷却されることにより、10℃/秒以上の冷却速度で、より好ましくは20℃/秒以上の冷却速度で冷却されて凝固し、上記したような組織を有する鋳塊Iとなる。
このようにして所望の組成に調整された溶湯Mが溶湯受槽11に供給されると、鋳造温度を(750±50)℃とした溶湯Mは流出口12から鋳型21内へ押し出されながら、冷却媒体流路31へ供給される水Wによって一次冷却された後、噴出孔32から噴出される水Wによって二次冷却されることにより、10℃/秒以上の冷却速度で、より好ましくは20℃/秒以上の冷却速度で冷却されて凝固し、上記したような組織を有する鋳塊Iとなる。
このようにして凝固した鋳塊Iは、一定の速度、すなわち鋳造速度〔(240±50)mm/分〕で連続的に引き抜かれて順次所定長に切断される。なお、空気A、潤滑油Oの機能は、先の説明と同じなので、説明を省略する。
上記した実施形態の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を利用する例として、自動車のシャーシ部品では、アッパアーム、ロアーアーム、ナックル、ホイール、ダンパ、サブフレームなどが挙げられる。また、自動車のエンジン廻り部品では、エンジンマウントブラケット、高圧燃料噴射ポンプボディなどが挙げられる。さらに、自転車部品は、ギヤクランクなどが挙げられる。また、オートバイ用部品では、クッションアーム、ブラケット、フォークボトムブリッジなどが挙げられる。なお、これらは一例であり、この発明の鋳塊の特性を利用できる部品であれば、他の部品などにも適用できることはいうまでもない。
11,41 溶湯受槽
12,42 流出口
21,61 鋳型
22,62 円筒状内周面
31,71 冷却媒体流路
31a,71a 環状流路部分
31b,71b 導入部分
32,72 噴出孔
33,73 気体流路
33a,73a 環状流路部分
33b,73b 導入部分
34,77 潤滑油流路
34a,73a 環状流路部分
34b,74b 導入部分
51 耐火物製板体
52 流出口
M 溶湯
A 空気
O 潤滑油
W 水
I 鋳塊

Claims (4)

  1. Mgを0.8wt%〜1.2wt%、Siを0.7wt%〜1.0wt%、Cuを0.3wt%〜0.6wt%、Mnを0.14wt%〜0.3wt%、Crを0.14wt%〜0.3wt%、Feを0.5wt%以下、Tiを0.01wt%〜0.15wt%、Bを0.0001wt%〜0.03wt%含有し、残部をAlと不可避的不純物とし、晶出物の平均粒径が8μm以下、デンドライト二次アーム間隔が40μm以下、かつ、結晶粒径が300μm以下の組織を有するように塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を鋳造して製造する塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法であって、
    連続鋳造した後に470℃で均質化処理を施して、前記塑性加工用アルミニウム合金鋳塊を製造する、
    ことを特徴とする塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法。
  2. 請求項1に記載の塑性加工用アルミニウム合金鋳塊の製造方法により製造した塑性加工用アルミニウム合金鋳塊に塑性加工を施すとき、〔430+塑性加工率(%)〕℃以上550℃以下で加熱する、
    ことを特徴とするアルミニウム合金塑性加工品の製造方法。
  3. 請求項2に記載のアルミニウム合金塑性加工品の製造方法において520℃〜550℃で溶体化処理を施す、
    ことを特徴とするアルミニウム合金塑性加工品の製造方法。
  4. 請求項2または請求項3に記載のアルミニウム合金塑性加工品の製造方法で製造されたアルミニウム合金塑性加工品。
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