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JP2011172533A - マイクロ空間構造体を用いた高密度三次元細胞培養法 - Google Patents

マイクロ空間構造体を用いた高密度三次元細胞培養法 Download PDF

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JP2011172533A JP2010040610A JP2010040610A JP2011172533A JP 2011172533 A JP2011172533 A JP 2011172533A JP 2010040610 A JP2010040610 A JP 2010040610A JP 2010040610 A JP2010040610 A JP 2010040610A JP 2011172533 A JP2011172533 A JP 2011172533A
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Fusao Komada
富佐夫 駒田
Yuichi Uchiumi
裕一 内海
Atsushi Kinoshita
淳 木下
Tomoya Omukai
智也 大向
Takeshi Yonezawa
健 米澤
Yuji Honda
祐二 本多
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Abstract

【課題】多量の細胞を長期期間にわたって安定的に高密度で培養することができ、人工臓器細胞の培養等に応用可能な高密度細胞培養リアクターを提供すること。また当該リアクターに用いられる細胞培養担体基材を提供すること。
【解決手段】細胞培養担体基板6として、多孔構造部を有する細胞培養担体基板であって、当該多孔構造部に形成された貫通孔4が一辺の長さ若しくは直径が50μm〜500μm未満の三角〜六角のいずれかの多角形状の貫通孔であることを特徴とするものを使用する。当該細胞培養担体基板を、少なくとも流体の流入口と流出口を有する細胞培養槽内に、2枚以上間隔をおいて積層された状態で配置したものを細胞培養リアクター0として用いる。
【選択図】図2

Description

本発明は、細胞の高密度培養、及びそれによる3次元細胞集塊(スフェロイド)を効率的に形成するために有用な細胞培養担体基板に関する。また本発明は、当該細胞培養担体基板を用いた細胞培養リアクター及びそれを含む細胞培養システムに関する。さらに本発明は、上記当該細胞培養担体基板、細胞培養リアクターまたは細胞培養システムを用いた細胞の培養方法に関する。
生細胞は、様々な物理的・化学的・機械的な相互作用を用いて生体組織と結合している。その機構は複雑であり、系統的な解釈がなされていない。生細胞を樹脂等の担体に高密度に固定化して培養するためには細胞と担体との間の相互作用を制御することが必要である。即ち、担体表面の物性とモフォロジの両者を制御することが必要となる。担体には、一般に細胞との親和性が高く、微細加工が可能な樹脂が用いられるが、細胞培養期間の長期に亘って細胞を安定に保持できる担体は未だ存在しない。
現在、研究開発、医療、一般家庭などの様々な分野で、酵素、モノクローナル抗体(抗体医薬品を含む)、ワクチン、ホルモンなどの生理活性を有するタンパク質が多用されている。これらの有用タンパク質の多くは動物細胞などを利用して生産されている。しかし、従来のバッチ式培養法では、大量培養や長期連続培養が不可能なため生産効率が悪い。また、従来のバッチ式培養法では、分離精製過程が複雑であり、その結果、製品が高価になる。さらに、バッチ式培養法は、ニーズの多様化に伴う多品種少量生産にも不向きである。加えて、かかる二次元的且つ人工的な方法で培養された細胞は、本来的に細胞が有する酵素活性や生合成活性等を発揮し得ないことが報告されている(非特許文献1及び2参照)。
そこで、細胞の生着や増殖を促進させ、細胞機能を維持、向上させて、細胞形態を生体内により近い形態で保持した状態で培養するために、培養フラスコによるバッチ式平面培養ではなく、細胞の足場となる担体を用いた三次元高密度培養が種々提案されている。
かかる三次元高密度培養に用いられる培養担体としては、例えば、ポリウレタンなどを用いた発泡素材により形成された多孔質の細胞培養担体(特許文献1)、セルロース繊維や炭素繊維等の細胞が入り込む隙間を多数有する小片からなる細胞培養担体(特許文献2)、球体、楕円体、多面体、柱状体または錐体の外部形状を有する微小中空体の外部を切断した立体を有する細胞培養担体(特許文献3)など、多孔構造を有する細胞培養担体を挙げることができる。
また、特許文献4には、基板表面上にアレイ状やハニカム状等に規則配列されてなる、細胞を凝集させて保持するための細胞培養セルを備えた細胞培養チップが記載されている。しかし、当該ハニカム状等に規則配列されてなる細胞培養セルは、細胞が保持できるように、基板表面上に凹みを形成してなる有底孔であったり、また無底孔の開口部を透水膜などで覆設してなるものであって、貫通孔を有するものではない。
このように従来より提案されている培養担体でも、細胞がほとんど付着しなかったり、細胞が付着してもほとんど増殖しなかったりする等といった問題がある。
また、近年、ニーズの多様化に合わせた高品質、多品種、少量生産方式、低コスト化をかなえるために、小型、高品質かつ連続操作式で長期間使用可能な高密度細胞培養リアクターを開発することが求められている。
特開平4-281784号公報 特開2004-135668号公報 特開2009-247334号公報 特開2005-27598号公報
Nature, 424, 870 (2003) Science, 302, 46 (2003)
本発明は、良好な細胞接着性を有し、細胞を高密度培養することが可能な細胞培養担体基板、並びに3次元細胞集塊(スフェロイド)を効率的に形成するために有用な細胞培養担体基板を提供することを目的とする。また本発明は、連続式の超高密度細胞培養リアクターの細胞培養槽内部に設置して用いられる細胞培養担体基板を提供することを目的とする。
また本発明は、当該細胞培養担体基板を細胞培養槽内部に設置してなる細胞培養リアクター、細胞培養リアクターを備えた細胞培養システム、並びに上記細胞培養担体基板、上記細胞培養リアクターおよび細胞培養システムを用いた細胞の培養方法を提供することを目的とする。
本発明者らが独自で開発した中性原子線プロセスや高分子重合を利用した表面改質技術(Y. Utsumi et al., “Enhancement of the adhesive force of metal films on PTFE surface achieved bu fast-atom-beam surface modification”, Microsystem Technology, 14, pp.1467-1473, 2008)を応用することにより、ナノレベルの厚さの基板表面層の物性を高精度かつ安定に制御することが可能である。本発明者らは、この技術を用いて検討した結果、すでに細胞培養担体基板の表面に数百ナノレベルの微細構造を設けることによって、基板表面を疎水性にすることができること、また基板表面に細胞を固定化するアンカー効果が得られることを見出している(未発表)。
今回、これらの知見に基づいて、細胞の高密度培養を可能にし、また連続式の高密度細胞培養リアクターに応用できる細胞培養担体基板の開発を目指して、鋭意検討を重ねていたところ、貫通孔構造(以下、「キャピラリ構造」ともいう)を有する三次元微細構造体を用いることにより、貫通孔内部で、その内壁に細胞を接着させた状態で高密度培養することが可能で、細胞増殖効率も上昇すること、また貫通孔の内壁が曲面を有するよりも、例えば直線的な平面を有するほうがより多くの細胞が接着すること、また細胞培養面を粗面化する等、加工処理することによってさらに細胞接着数を増加させることができること等を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の構成を有するものである:
(I)細胞培養担体基板
(I-1)多孔構造部を有する細胞培養担体基板であって、当該多孔構造部に形成された貫通孔が一辺の長さ若しくは直径が50μm〜500μm未満の三角〜六角のいずれかの多角形状の貫通孔であることを特徴とする細胞培養担体基板。
(I-2)上記多角形状が菱形形状、平行四辺形またはハニカム形状であることを特徴とする、(I-1)に記載する細胞培養担体。
(I-3)上記多角形状が30°〜60°の鋭角を有する菱形形状または平行四辺形であることを特徴とする、(I-1)に記載する細胞培養担体。
(I-4)基板の少なくとも多孔構造部の厚みが200μm〜2mmである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する細胞培養担体基板。
(I-5)ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、パリレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ系感光性樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、およびシクロオレフィンポリマーからなる群から選択される1種または2種以上の樹脂から形成されてなる、(I-1)乃至(I-4)のいずれかに記載する細胞培養担体基板。
(I-6)細胞培養担体基板の少なくとも細胞培養表面が加工処理されてなるものである、(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する細胞培養担体基板。
(I-7)細胞培養担体基板の表面が化学処理、または放射光照射処理によって加工処理されてなるものである、(I-6)に記載する細胞培養担体基板。
(II)細胞培養リアクター及び細胞培養システム
(II-1)少なくとも流体の流入口と流出口を有する細胞培養槽内に、(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する細胞培養担体基板が2枚以上間隔をおいて積層された状態で配置されてなる細胞培養リアクター。
(II-2)上記細胞培養担体基板が、その基板の多孔構造部に、培養する生細胞が付着してなるか、またはスフェロイドが形成してなるものである、(II-1)記載の細胞培養リアクター。
(II-3)上記細胞培養担体基板が、その基板の多孔構造部の貫通孔に培養する生細胞が付着しているものであって、液体培地が流入口から細胞培養槽内に流入し、当該槽内の細胞培養担体基板の多孔構造部の貫通孔を通って流出口から細胞培養槽外に排出されるように、液体培地の流路が形成されていることを特徴とする、(II-1)記載の細胞培養リアクター。
(II-4)少なくとも流体の流入口と流出口を有する細胞培養槽内に、
(A)貫通孔内にスフェロイドを形成しえる生細胞が付着してなる細胞培養担体基板が2枚以上間隔をおいて積層されており、
(B)(a)流入口から液体培地を細胞培養槽内に流入するための少なくとも1つの流入路、
(b)上記流入路から分岐し、2枚以上間隔をおいて積層された細胞培養担体基板の層間に連通した3以上の分岐路、及び
(c)3以上の分岐路が合流する少なくとも1つの流出路を有し、
流入口から流入した液体培地が、これらの流路を通じて流出口から細胞培養槽外に排出されるように、液体培地の流路が形成されてなることを特徴とする、(II-1)に記載する細胞培養リアクター。
(II-5)上記流入路が流体の流れる方向に向かって先細になるように形成され、上記流出路が流体の流れる方向に向かって幅広になるように形成されてなるものである、(II-4)請に記載する細胞培養リアクター。
(II-6)(II-1)乃至(II-5)のいずれかに記載する細胞培養リアクターに加えて、液体培地の溶存酸素量、pHまたは電解質濃度に反応して、細胞培養リアクターに送液する液体培地の流速、pHまたは電解質濃度を調節する装置を含む、細胞培養システム。
(III)細胞の培養方法
(III-1)(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する細胞培養担体基板、(II-1)乃至(II-5)のいずれかに記載する細胞培養リアクター、または(II-6)に記載する細胞培養システムを用いることを特徴とする細胞の培養方法。
(III-2)多孔構造部の貫通孔内に細胞が付着した(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する細胞培養担体基板を、液体培地を入れた細胞培養槽内に配置し、当該細胞培養担体基板の多孔構造部で細胞を培養する工程を有する、(III-1)記載の細胞の培養方法。
(III-3)細胞培養担体基板を液体培地中で浮遊させた状態で培養するか、細胞培養担体基板を液体培地中で浮遊させた状態で撹拌しながら培養するか、または細胞培養担体基板を液体培地中で浮遊させた状態で液体培地を循環させながら培養することを特徴とする(III-1)または(III-2)に記載する細胞の培養方法。
(III-4)(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する細胞培養担体基板を、ポリジメチルシロキサンの塗布面上に配置して細胞を培養する工程を有する、(III-1)または(III-2)に記載する細胞の培養方法。
(III-5)(II-1)乃至(II-5)のいずれかに記載する細胞培養リアクターとして、(III-4)に記載する細胞培養方法により得られた細胞培養担体基板を積層したものを用いることを特徴とした、(III-1)に記載する細胞の培養方法。
本発明の細胞培養担体基板によれば、その多孔構造部(複数の貫通孔内)に形成されたマイクロ空間を用いて三次元高密度細胞培養を行うことができる。また、本発明の細胞培養担体基板によれば、細胞接着に必要な表面積を増大させることができる。さらに当該基板の細胞培養表面、特に貫通孔内面を粗面化処理する等、基板の細胞培養表面の物性を制御することで細胞接着をより高めることが可能であり、その結果、当該貫通孔内で安定して細胞を増殖させることができ、三次元細胞集塊(スフェロイド)を形成することもできる。すなわち、本発明の細胞培養担体基板によれば、三次元高密度細胞培養が可能であるため、細胞培養装置(細胞培養リアクター)の小型化と高収率化を図ることが可能となる。
また、本発明の細胞培養担体基板若しくはその積層物、またはこれらを有する細胞培養リアクターや細胞培養システムを用いて、当該基板またはその積層物に培養液を連続的に通過させることで、長期間にわたり高活性でかつ安定した機能を有する細胞を培養することが可能となると考えられる。
本発明の細胞培養リアクターの一態様を示す概要図である。 本発明の細胞培養リアクターの別の一態様を示す概要図である。 図2に示す細胞培養リアクターの好適な態様を示す概要図である(CFD解析によるリアクター内における流速分布の解析)。カラー図で示すように、細胞培養担体基板(マイクロ担体)内を流れる液体培地の流速・流量は一定に維持されている。 細胞凝集体の形成状況を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。(A)は直径200μm程度の細胞凝集体、(B)は直径300μm程度の細胞凝集体、(C)は直径500μm程度の細胞凝集体の画像を示す。直径が500μm程度になると、中心部が壊死し始めることがわかる。 実験例1でポリメチルメタクリレート(PMMA)製の基板に作成したキャピラリ構造の形状の一例(円形、四角形、五角形、星型、菱形)を示す。 各種形状の三次元微細構造(キャピラリ構造)を有する細胞培養担体基板(マイクロ担体)上での培養3日後の細胞接着の様子を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。(a)(左上段)はハニカム形状、(b)(右上段)は菱形、(c)(左中段)は長方形、(d)(右中段)は五角形、(e)(左下段)は三角形、(f)(右下段)は円形の場合の結果をそれぞれ示す。 ハニカム形状及び菱形形状に関して、それぞれ異なるサイズ(1辺の長さ)の三次元微細構造を有する細胞培養担体基板(マイクロ担体)上で3日間培養した後の細胞接着の様子を蛍光顕微鏡で観察した結果を示す。(a)(左最上段)ハニカム形状200μm、(b)(右最上段)ハニカム形状150μm、(c)(左2段目)ハニカム形状100μm、(d)(右2段目)ハニカム形状50μm、(e)(左3段目)ハニカム形状30μm、(f)(右3段目)菱形200μm、(g)(左最下段)菱形100μm、(h)(右最下段)菱形50μmの場合の結果それぞれ示す。 実験例2で細胞接着の定性的評価に使用したPMMA製の三次元微細構造担体(細胞培養担体基板:マイクロ担体)の構造を示す(厚み:1mm、フィルター部径:12mm、パターン部径:8mm)。パターン部に、一辺がl00μmのハニカム形状または一辺が150μmで内角60゜の菱形形状の貫通孔を有する多孔構造部を有している。 (a)一辺100μmのハニカム形状の細胞培養担体基板(マイクロ担体)、(b)一辺150μm、内角60°の菱形形状のマイクロ担体、及び(c)円形状のマイクロ担体の貫通孔(キャピラリ)内での細胞接着の様子を共焦点レーザー顕微鏡で観察した結果を示す(細胞培養4日目)。底面図(各図の左欄)は培養ディッシュ底面の顕微鏡画像、側面図(各図の右欄)は培養ディッシュ側面の顕微鏡画像を示す。ディッシュ底面側からの細胞が進展している様子が観察される。 細胞培養担体基板(マイクロ担体)のハニカム形状の貫通孔(キャピラリ)内における細胞の経時変化の様子を観察した結果を示す。(a)は培養3日目の結果を、(b)は培養11日目の結果を示す。各図において、左欄は底面図、右欄は側面図である。 実験例3で細胞接着の定量評価に使用したPMMA製の三次元微細構造担体(細胞培養担体基板:マイクロ担体)の構造を示す(厚み:1mm、フィルター部径:12mm、パターン部径:8mm)。(A)は、パターン部にハニカム形状の貫通孔からなる多孔構造を有する三次元微細構造担体(マイクロ担体)、及び菱形形状の貫通孔からなる多孔構造を有する三次元微細構造担体(マイクロ担体)を、また(B)は、対照PMMAとして使用した (a)平板PMMA及び (b)リング状PMMAの形状を示す。 HepG2-pEGFP細胞数(×10cells)とその細胞質分画の蛍光強度(GFP量)の間に相関関係があることを示す図である。 (A)ハニカム形状(一辺:50、100、150、200及び300μm)のキャピラリ構造を有するPMMA製担体と対照PMMA(平板PMMA、リング状PMMA)に対する経時的な細胞接着数を対比した結果を示す。(B)菱形形状(1辺が150μmで鋭角:30°、45°、60°)のキャピラリ構造を有するPMMA製担体と対照PMMA(平板PMMA、リング状PMMA)に対する経時的な細胞接着数を対比した結果を示す。(C)円形状(直径:100、200、300及び600μm)のキャピラリ構造を有するPMMA製担体と対照PMMA(平板PMMA、リング状PMMA)に対する経時的な細胞接着数を対比した結果を示す。なお、細胞接着数として、細胞質分画のGFP蛍光強度から算出したGFP量(μg)を指標とした(平均値±標準偏差、n=3-8)。 (A)ハニカム形状(一辺:50、100、150、200及び300μm)のキャピラリ構造を有するPMMA製担体におけるキャピラリ内壁面積あたりの経時的細胞接着数を示す。(B)菱形形状(1辺が150μmで鋭角:30°、45°、60°)のキャピラリ構造を有するPMMA製担体におけるキャピラリ内壁面積あたりの経時的細胞接着数を示す。なお、細胞接着数として、細胞質分画のGFP蛍光強度から算出したGFP量(μg)を指標として評価した(平均値±標準偏差、n=3-8)。 培養14日目までに得られた細胞内GFP量の積分値を、貫通孔の形状パターン(平板PMMA、円形(直径100μm、200μm、300μm)、ハニカム形状(一辺長さ50μm、100μm、150μm、200μm、300μm)、菱形(鋭角30°、45°、60°))ごとに解析した結果を示す。 一辺300μmのハニカム形状のキャピラリ構造を有するPMMA製担体(マイクロ担体)を培養液中で17日間、(a)静置培養、(b)浮遊培養、及び(c)攪拌培養した際の細胞接着の状態を蛍光顕微鏡にて観察した結果を示す。 一辺300μmのハニカム形状のキャピラリ構造を有するPMMA製担体(マイクロ担体)を培養液中に浮遊させ、かつ培養液を攪拌しながら17日間培養した際の細胞接着の状態を共焦点レーザー顕微鏡にて観察した結果を示す。(a)斜め底面図:細胞凝集体を形成していることが認められる。(b)細胞ディッシュ側面からみた画像、(c)細胞ディッシュの底面からみた画像をそれぞれ示す。 実験例4での、ハニカム形状(一辺長さ100μm、300μm)のPMMA製担体(マイクロ担体)を用いた静置培養および浮遊培養における接着細胞数の定量評価結果を示す。横軸は培養期間(日)、縦軸は、細胞接着数として細胞質分画のGFP蛍光強度から算出したGFP量(μg)を示す。 実験例4の結果を示す。左端から順に、PMMA製担体(マイクロ担体)を細胞培養ディッシュ底面に静置した状態で17日間培養した場合の接着細胞数(GFP量:μg)(白棒);細胞播種から6日目にPMMA製担体(マイクロ担体)を培養液中に浮遊させて11日間培養した場合の接着細胞数(GFP量:μg)(灰色棒);細胞播種から6日目にPMMA製担体を培養液中に浮遊させ且つ撹拌しながら11日間培養した場合の接着細胞数(GFP量:μg)(黒棒)を示す。平均値±標準偏差(n=1-3)。 浮遊培養により形成した細胞スフェロイドをマイクロ担体からピペットにより剥がし、細胞培養ディッシュ上で培養をした結果を示す。(a)は剥離後3日間培養した結果、(b)は剥離後10日間培養した結果、及び(c)は剥離後14日間培養した結果をに示す。 (a)実験例5において、表面を粗面化したPMMA製担体(粗面化PMMA)(―◆―)と無処理のPMMA製担体(平板PMMA)(―×―)とで、細胞接着数の経時的変化を追跡した結果を示す。なお、細胞接着数として、細胞質分画のGFP蛍光強度から算出したGFP量(μg)を指標とした(平均値±標準偏差、n=4-5)。(b)培養14日目までのGFP量の積分値を台形法によって見積もった結果を示す。白棒は無処理のPMMA製担体(通常PMMA)の結果、黒棒は表面を粗面化したPMMA製担体(粗面化PMMA)の結果を示す。 粗面化PMMAと平板PMMA(無処理PMMA)上で細胞を培養し、細胞接着及び増殖の様子を比較した結果を示す((1)培養4日目、(2)培養7日目、(3)培養11日目)。 放射光で照射処理((a)dose 0、(b)dose 2000、(c)dose 5000、(d)dose 10000)したPMMAへの細胞接着の様子を示す(実験例5(2))。 放射光で照射処理(dose 0、2000、5000、10000)したPMMA製担体への細胞接着の定量評価結果を示す(実験例5(2))。 底面にポリジメチルシロキサン(PDMS)を薄く塗布した細胞培養ディッシュ(PDMS処理ディッシュ:図中「on PDMS」)および未処理の細胞培養ディッシュ(図中「on cell culture dish」))上に、ハニカム1辺100μmのキャピラリ構造を有する細胞培養担体基板(マイクロ担体)を静置し、これにHepG2-pEGFP細胞を播種して培養し、細胞数をGFP量(μg)から定量した結果を示す(実験例6)。 本発明の細胞培養リアクターの一態様を示す。(A)内側セル、(B)外側セル、(C)外側セル内に内側セルを組み込んだ状態をそれぞれ示す。内側セルの内部には複数の溝があり、その溝(符合13)に細胞培養担体基板(マイクロ担体)を複数枚、一定の間隔をおいて配置できるようになっている。また内側セルと外側セルの側面部には、それぞれ複数の孔が形成されており、組み立て時にはその孔が連通して外部の測定器具との連結部(符合14)となる。 図26で示す細胞培養リアクターの断面を示す概要図である。外側セル(12)内に、20枚のマイクロ担体(6)が間隔をあけて積層されてなる内側セル(11)が収納されている(図面作成の都合、10枚のマイクロ担体を積層した状態を記載)。内側セルには、培養液が流れるための階段状のテーパーの溝が掘ってあり、この内側セルの溝と外側セルで形成される空間を培養液が流れるようになっている。この作られた空間の厚みは階段状に変化するものの、幅は上下とも一定に設定している。内側セルにはセル内部に培養液が流れ込むための穴が形成されている。なお、流体(培養液)の流れを示す矢印は簡略化するため半分のみの記載に留めている。 本発明の細胞培養システムの一態様を示す。 実験例7において、ハニカム形状の1辺の長さの違いが細胞接着数に及ぼす影響を調べた結果を示す(細胞培養リアクターにて培養後12日目の結果)。送液速度10ml/hr。なお、細胞接着数として、細胞質分画のGFP蛍光強度から算出したGFP量(μg)を指標とした。 実験例7において、細胞培養リアクターへの送液量(0.83、3、10ml/h)の違いが細胞接着数に及ぼす影響を示す。なお、細胞接着数として、細胞質分画のGFP蛍光強度から算出したGFP量(μg)を指標とした。 実験例7で使用した細胞培養リアクターの概要図を示す(CFD解析によるリアクター内における流速分布の解析)。カラー図で示すように、細胞培養担体基板(マイクロ担体)内を流れる液体培地の流速・流量は一定に維持されている。 実験例7で使用した細胞培養リアクターの概要図を示す(CFD解析によるリアクター内における流速分布の解析)。カラー図で示すように、細胞培養担体基板(マイクロ担体)内を流れる液体培地の流速・流量は一定に維持されている。
(I)細胞培養担体基板
本発明の細胞培養担体基板は、細胞の足場となり細胞が接着し増殖するための部位として、横断面の形状が多角形状である複数の貫通孔からなる多孔構造部を有するものである。
多角形状としては、三角〜六角のいずれかの多角形状を挙げることができる。ここで三角〜六角とは外角の数が3〜6つであることを意味し、例えば三角形(正三角形や二等辺三角形等が含まれる)、四角形(正方形、長方形、平行四辺形、台形及び菱形等が含まれる)、五角形(正五角形、及び外角と内角がそれぞれ5つの星形が含まれる)、六角形(ハニカム形状、平行六辺形、及び外角と内角がそれぞれ6つの星形が含まれる)などを挙げることができる。好ましくは、菱形、平行四辺形およびハニカム形状である。なお、ハニカム形状とは蜂の巣のように正六角形を隙間なく並べた形状を意味する。
当該多角形状は、一辺の長さ若しくは直径が50μm〜500μm未満の範囲にあることが好ましい。ここで「一辺の長さ」とは多角形の一つの辺の長さを意味し、「直径」とは多角形の一つの外角頂点から中心を通って反対側の一辺まで引いた線分の長さを意味する。より好ましくは一辺の長さ若しくは直径が50μm〜300μmであり、特に好ましくは100μm〜300μmである。また、3次元細胞集塊(スフェロイド)の形成を目的とする場合、細胞培養担体基板の多角形状の一辺の長さ若しくは直径は、50μm〜150μmであることが好ましい。
多角形状のうち菱形や平行四辺形としては、15°〜60°の鋭角を有するものが好ましい。より好ましくは30°〜60°、特に好ましくは30°〜45°の鋭角を有する菱形または平行四辺形である。
横断面の形状が上記多角形状である貫通孔とは、すなわち多角柱状の孔(多角柱状のキャピラリー)を意味する。ここで貫通孔の長さ(孔の深さ)、つまり細胞培養担体基板の少なくとも多孔構造部の厚みとしては、制限されないが、通常100μm〜10mm、好ましくは200μm〜5mm、より好ましくは200μm〜2mmを挙げることができる。孔径に対する孔の深さ(基板の多孔構造部の厚み)の割合(アスペクト比)としては、通常0.1以上、好ましくは1〜500、より好ましくは1〜200を挙げることができる。すなわち、本発明の細胞培養担体基板はアスペクト比の高い微細孔を多数有する多孔構造(高アスペクト比構造)を有することを特徴とする。
かかる高アスペクト比の微細孔の数としては、制限されないが、細胞培養担体基板一枚あたり少なくとも150個を挙げることができる。好ましくは1000以上、より好ましくは3000〜20000個程度を挙げることができる。
なお、一枚の細胞培養担体基板に形成される複数の貫通孔は、全てが同一の大きさの形状を有するものであってもよいし、また種々異なる2種以上の形状や大きさを有するものであってもよい。
かかる多孔構造を有する本発明の細胞培養担体基板において、細胞はその貫通孔の内壁表面に付着し増殖し、自発的に凝集することで3次元細胞集塊(スフェロイド)を形成する。実験例1に示すように、当該スフェロイドは、直径が500μm程度まで大きく成長すると、中心部への栄養供給が困難になるため、中心部の細胞から壊死が生じる。本発明の細胞培養担体基板によれば、貫通孔内で形成されたスフェロイドは、貫通孔の大きさ(孔径やその形、孔の深さ)に達すると増殖が鈍化するため、貫通孔の大きさに応じて直径500μm未満の所望のサイズにスフェロイドの大きさをコントロールすることができる。このため、中心壊死を生じさせることなく、スフェロイドを効率よく形成することができる。
細胞培養担体基板は、細胞接着性を有する樹脂から形成されていてもよいし、または細胞接着性や細胞親和性を有する物質で表面が被覆(コーティング)されてなる樹脂から形成されていてもよい。
細胞接着性を有する樹脂として、好ましくは細胞接着性を有し、上記貫通孔の微細加工が可能な樹脂である。かかる樹脂としては、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、パリレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エポキシ系感光性樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、およびシクロオレフィンポリマーを挙げることができる。ここでエポキシ系感光性樹脂としては下式で示されるSU-8(商標名)を挙げることができる。
Figure 2011172533
好ましくは、PMMA、PDMS、パリレン、ポリイミド、及びPTFEであり、より好ましくはPMMA、及びPDMSである。
また基板は、板状、好ましくは平板状を有することが好ましい。その限りにおいて形状は問わず、三角形、四角形、多角形、円形等、基板を配置する細胞培養槽の大きさや形状に応じて適宜設定することができる。
なお、上記細胞培養担体基板を構成する樹脂に対して上記微細孔加工をする方法としては、例えばX線リソグラフィーを用いる方法を挙げることができる(例えば、Y. Ukita et al.,“Fluid filter fabricated by deep X-ray lithography for micro fluidics”, Microsystem Technology, 13, pp.435-439, 2007参照)。
かかる細胞培養担体基板は、細胞接着性を上げるために、基板の細胞培養表面、特に貫通孔内壁表面がさらに粗面化処理等の加工処理が施されていても良い。かかる粗面化処理は、細胞培養担体基板の表面を粗くする(微細凹凸部の形成)ことができる方法であれば特に制限されない。例えば、アセトンなどの有機溶媒で基板を処理する化学的処理、基板表面へのプラズマ、ナノインプリントによるナノ、サブミクロンパターンの成型を挙げることができる。使用する基板の材質によっても異なるが、例えば基板材質として上記のPMMAやPDMS等の樹脂を用いる場合、好ましくはアセトン等の有機溶媒を用いた化学的処理である。
また必要に応じて、細胞培養担体基板を構成する樹脂の表面をコラーゲン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、レシチン、これらの不飽和脂肪酸を水添したもの、ゼラチン、またはフィブロネクチン等で被覆したり、また樹脂に正電荷や負電荷を有する官能基を導入したり、また樹脂表面を各種の細胞接着因子(例えば、RGDペプチド(Arg-Gly-Asp))で修飾するなどして、細胞培養担体基板について、その細胞親和性や接着性を高めることもできる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、付着系細胞と血球系細胞の中間的性質を有する。このため、細胞培養ディッシュに対して非常に弱い力で結合するものの、わずかな応力でその結合が解離してしまう。細胞培養担体基板の粗面化処理を始めとする上記の各種加工処理は、かかるハイブリドーマ等の付着系細胞と血球系細胞の中間的性質を有する細胞の基板への接着を高めることができる点で有用である。
(II)細胞培養担体基板を用いた細胞の培養方法
上記本発明の細胞培養担体基板を用いた細胞の培養は、当該基板を、貫通孔の開口部が好ましくは重力に対して平行になるように、液体培地をいれた細胞培養槽(例えば、細胞培養ディッシュなどの細胞培養容器)内に配置し、当該基板の多孔構造部の上面(貫通孔の開口部上面)に対象とする細胞を播種し、培養することによって実施することができる。
こうすることで、細胞は基板の貫通孔に入り、その内壁表面を足場として付着し増殖する。また当該貫通孔内で細胞が自発的に凝集することで3次元細胞集塊(スフェロイド)を形成する。
なお、本発明において細胞培養とは、栄養素や酸素等の細胞の生存に必要な成分を含有する培養液(液体培地)を用いて、細胞、好ましくは接着性細胞の生存を少なくとも維持することを意味する。好ましくは細胞(好ましくは接着性細胞)を培養して増殖させることであり、また細胞がタンパク産生細胞である場合、細胞を培養して当該タンパク質を産生することを意味する。
細胞培養槽としては、上記目的で使用される汎用の容器や槽を用いることができる。例えばペトリ皿、プラスチックプレート、プラスチックチューブ、ガラスチューブ、カラム、マルチウエルプレート、撹拌培養用の培養チャンバー、各種細胞アッセイ機器の細胞保持部分などを挙げることができる。
液体培地の種類や組成並びに培養条件(培養温度や時間)は、培養する対象の細胞の種類に応じて、定法に従って適宜選択することができる。
本発明において対象とする細胞は、接着性を有する細胞(動物細胞、昆虫細胞、植物細胞等)であり、当該細胞には付着系細胞と血球系細胞の中間的性質を有する前述するハイブリドーマも含まれる。かかる細胞として、例えばヒト、ブタ、サル、イヌ、ラット、マウス、ハムスターなどの動物由来の組織や細胞(例えば、肝細胞、腎臓細胞、神経細胞、皮膚角質細胞、毛母細胞、口腔上皮細胞、食道上皮細胞、胃粘膜上皮細胞、小腸吸収上皮細胞、大腸吸収上皮細胞、胆管上皮細胞、膵臓インスリン分泌細胞、膵臓グルカゴン分泌細胞、骨細胞、軟骨細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、筋肉衛星細胞、ホルモン分泌細胞、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、骨髄)等から得られる初代細胞、または樹立された株化細胞;幹細胞(胚性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、肝臓幹細胞、膵臓幹細胞、皮膚幹細胞)等の未分化細胞;iPS細胞を挙げることができる。
株化接着系細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞由来のCHO細胞、イヌ腎臓上皮細胞由来のMDCK細胞、マウス胎児皮膚由来のNIH3T3細胞、ラット由来の副腎髄質由来のPC12細胞、ショウジョウバエ由来のS2細胞、蛾由来のSf9細胞、アフリカミドリザル腎臓由来のVero細胞、ヒト子宮ガン由来のHeLa細胞、ヒト結腸ガン由来のCaco-2細胞、ヒト肝ガン由来のHuh7細胞やHepG2細胞を挙げることができる。
また当該細胞には、外来性のタンパク質を産生するように構成された細胞や特定の遺伝子を欠損させた細胞などの、遺伝子組み換え細胞が含まれる。なお、かかるタンパク産生細胞は、産生したタンパク質を細胞外に分泌するように構成されていることが好ましい。
培養は、細胞を播種した本発明の細胞培養担体基板を、細胞培養槽内に静置した状態で行うこともできるが、貫通孔内壁表面に生着し増殖する細胞に対して栄養素や酸素を滞りなく供給するためには、細胞培養担体基板を細胞培養槽の底面に据え置きせず、槽内で浮遊させた状態で培養したり、槽内で浮遊させた状態で撹拌しながら培養したり、また槽内で浮遊させた状態で液体培地を循環させながら培養することが好ましい。
なお、細胞培養担体基板を細胞培養槽(細胞培養ディッシュなどの細胞培養容器)の底面に据え置いた状態で細胞を培養する場合は、当該細胞培養槽の底面にポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布しておくことが好ましい。PDMSは高濃度の溶液中から酸素を取り込み、低濃度の溶液中では逆に酸素を放出する性質を有する。このため、PDMS塗布面上での細胞培養は、細胞数が増加して酸素濃度が低くなるとPDMS中から酸素が放出されるため、長期にわたって細胞を生存または増殖させることができる。
なお、培養に際して、本発明の細胞培養担体基板は一枚のみならず、2枚以上を、例えば積層させた状態で使用することもできる。ここで積層とは、2枚以上が接着した状態で重なり合っている場合のほか、1枚1枚の基板がそれぞれ間隔をおいて層をなしている場合も含まれる。前者の態様で積層する場合、貫通孔の開口部が塞がれないように、各基板の開口部を揃えた状態で並べることが望ましい。
斯くして対象の細胞を、基板の貫通孔内で3次元的に高密度に増殖させることができる。また、中心壊死を生じさせることなく、スフェロイドを効率よく形成することができる。さらに対象の細胞がタンパク産生細胞である場合、当該細胞を培養することで、細胞内でタンパクを蓄積させるか、細胞外(液体培地中)に分泌させることで、所望のタンパク質を生産取得することができる。また、細胞培養担体基板の貫通孔で増殖したスフェロイドは簡便に貫通孔から取り出すことができるため、取り出されたスフェロイドは移植用組織小片などとして使用することが可能である。
(III)細胞培養リアクターまたは細胞培養システム、およびこれらを用いた細胞の培養方法
本発明の細胞培養リアクターは、少なくとも流体の流入口と流出口を有する細胞培養槽内に、前述する本発明の細胞培養担体基板が2枚以上間隔をおいて積層された状態(以下、本明細書ではこの状態を「積層」といい、積層された集合物を「積層物」ともいう)、つまり積層物として配置されてなることを特徴とする。なお、上記細胞培養担体基板の多孔構造部には、その貫通孔内壁表面に培養する生細胞が付着している。または貫通孔内にスフェロイドが形成されていてもよい。
本発明の細胞培養リアクター(0)の第1の態様として、例えば図1に示すように、少なくとも流体の流入口(2)と流出口(3)を有する細胞培養槽(1)内に、貫通孔(4)の内壁表面に生細胞(5)が付着してなる細胞培養担体基板(6)が2枚以上間隔をおいて積層されており、流体に相当する液体培地(7)が、流入口(2)から細胞培養槽(1)内に流入し、当該槽内に配置された細胞培養担体基板(6)の多孔構造部の貫通孔(4)を通って流出口(3)から槽外に排出されるように、流体(液体培地)の流路が形成されてなるものを挙げることができる。当該細胞培養リアクターによれば、細胞培養担体基板の貫通孔内に接着した細胞に栄養素や酸素などの生存や増殖に必要な成分を滞りなく供給することができる。
本発明の細胞培養リアクター(0)の第2の態様として、例えば図2に示すように、少なくとも流体の流入口(2)と流出口(3)を有する細胞培養槽(1)内に、
(A)貫通孔(4)内にスフェロイド(5’)を形成しえる生細胞(5)が付着してなる細胞培養担体基板(6)が2枚以上間隔をおいて積層されており、
(B)(a)流入口(2)から液体培地(7)を細胞培養槽(1)内に流入するための少なくとも1つの流入路(8)、
(b)上記流入路(8)から分岐し、2枚以上間隔をおいて積層された細胞培養担体基板(6)の層間に連通した3以上の分岐路(9)、及び
(c)3以上の分岐路(9)が合流する少なくとも1つの流出路(10)を有し、
流入口(2)から流入した液体培地(7)が、これらの流路を通じて流出口(3)から槽外に排出されるように、流路が形成されてなるものを挙げることができる。 なお、上記の流入路(8)と流出路(10)は、図2に示すように、細胞培養担体基板(積層物)の側面部とそれに面する細胞培養槽の内周面との間に形成され、また上記分岐路(9)は細胞培養担体基板の平面部とそれに積層される細胞培養担体基板の平面部との間、または細胞培養担体基板の平面部と細胞培養槽の底面部若しくは上面部との間に形成される。
当該細胞培養リアクターによれば、細胞培養担体基板の多孔構造部の貫通孔がスフェロイドの形成によりふさがれた場合でも、貫通孔内のスフェロイドに栄養素や酸素などの生存や増殖に必要な成分を滞りなく供給することができる。
本発明の細胞培養リアクター(0)の第2の態様として、より好ましくは、図3にその模式図を示すように、流入路(8)が流体の流れる方向に向かって先細になるように形成され、また流出路(10)が流体の流れる方向に向かって幅広になるように形成されてなるものである。流路が先細になる態様または幅広になる態様は、特に制限されず、例えば階段状に徐々に先細または幅広になってもよいし、滑らかな直線をもって徐々に先細または幅広になってもよい。かかる細胞培養リアクターによれば、細胞培養担体基板の多孔構造部の貫通孔がスフェロイドの形成によりふさがれた場合でも、液体培地の流量を安定または均一に維持調整することができる。
本発明の細胞培養リアクターは、上記で説明する細胞培養槽内の流路に沿って液体培地が流れるように、液体培地供給装置または液体培地循環装置を備えていることが好ましい。かかる装置としては、細胞培養槽内に液体培地を送液するためのポンプを挙げることができる(図27の符合21)。また本発明の細胞培養リアクターは、細胞培養槽内の液体培地の温度を管理するために、例えば内部が空洞の温度調節ジャケットの形態を有する培養槽用温度調節装置やサーモスタットなどを備えていても良い。
また、本発明の細胞培養リアクターは、細胞への酸素供給の状況を管理するために、液体培地の溶存酸素量を測定する装置(DOTプローブなど)、並びに当該溶存酸素量を関知して、それに応じて液体培地の流速や培地への酸素供給量を調節する装置を含んでいてもよい。
さらに、本発明の細胞培養リアクターは、液体培地のpHを管理するために、液体培地のpHを測定する装置(pHプローブ等)、並びに当該pHを検出して、それに応じて液体培地のpHを調節する装置(図27の符合22)を含んでいてもよい。
さらにまた本発明の細胞培養リアクターは、液体培地の電解質濃度を管理するために、液体培地の電解質濃度を測定する装置、並びに当該電解質濃度を検出してそれに応じて液体培地の電解質を調節する装置(図27の符合23)を含んでいてもよい。
かかる細胞培養リアクターおよび各種装置を備えた細胞培養システムを用いることにより、本発明の細胞培養担体基板の多孔構造部(貫通孔内)において細胞を効率よく、三次元高密度培養することができる。対象とする細胞は前述の通りである。例えば、細胞がタンパク産生細胞である場合、かかる培養により所望のタンパク質を連続的に大量に生産することができる。
以下、実験例を用いて本発明の構成と効果を具体的に説明する。但し、これらの実験例は、本件発明の一態様であり、発明を制限するものではない。
実験例1 三次元微細構造担体材料への細胞接着の定性的評価(その1)
通常、in vitroにおける細胞培養は細胞培養ディッシュにて行われ、付着系細胞の場合には細胞培養ディッシュ底面への2次元空間を利用した培養しか出来ない。しかしながら、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製のスフェロイドアレイチップなどを用いた方法では細胞凝集体が形成され、3次元での培養が可能となる。この方法で得られた肝細胞の細胞凝集体は、2次元培養肝細胞と比較してアルブミンの分泌活性や薬物代謝活性が高いなどの利点を持つことから注目されている。しかしながら、細胞凝集体が形成されると凝集体中心部に存在する細胞への栄養供給が困難となり、その結果、凝集体中心部の細胞が壊死に至る。図4に示すように、これらの細胞凝集体は、直径およそ500μm程度に成長した段階でその中心部の細胞が壊死し始めるため、解決策が必要であると考えられる。
(1)三次元微細構造担体の作製
そこで実験例1では、一辺の長さ若しくは直径が50μm〜300μmの大きさを持つ円形及び多角形(三角形、四角形、五角形、星形、菱形およびハニカム)の貫通孔構造(以下、これを「キャピラリ構造」または「三次元微細構造」ともいう)を有する厚さ1mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)製の基板をX線リソグラフィーにより作製し、細胞接着の可否について検討した(図5参照)。
(2)三次元微細構造担体の貫通孔内での細胞培養
上記で作製した三次元微細構造を有する基板(以下、「三次元微細構造担体」または「マイクロ担体」という)を、70%エタノールで滅菌した後、Dulbecco’s Modified Eagle’s Mediumに10%牛胎児血清ならびに抗生物質(50 U/mLペニシリン、50 mg/mLストレプトマイシン)を添加した培養液10mlを加えた100mm細胞培養ディッシュ底面に静置し、その上に、ヒト肝がん由来細胞であるHepG2細胞にenhanced green fluorescent protein(EGFP)遺伝子を導入したHepG2-pEGFP細胞(2×106cells)を播種し、5%炭酸ガスの条件下、37℃で培養した。
EGFPは励起光のみにて蛍光を発するタンパク質であるため、蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡下での生細胞の経時的観察が可能である。また、この培養系でEGFPの発現・産生が確認できれば、EGFP遺伝子に代えて外来タンパク質遺伝子を導入することにより、この細胞培養系で有用タンパク質産生細胞が培養できること、すなわち有用タンパク質の産生も可能と考えられる。
マイクロ担体の貫通孔(以下「キャピラリ」ともいう)内における細胞接着及び増殖の様子を、蛍光顕微鏡(オリンパス製 CKX41)により観察した。蛍光顕微鏡は励起光源として水銀ランプを使用し、励起波長460-490 nm、吸収波長520 nmの条件で測定した。
(3)結果
培養3日目におけるマイクロ担体のキャピラリ内での細胞接着の様子を蛍光顕微鏡下で観察した様子を図6及び7に示す。図に示すように、マイクロ担体のキャピラリ内壁においてHepG2-pEGFP細胞の発光が認められたことから、マイクロ担体のキャピラリ内で細胞培養ができることが確認された。図に示すように、キャピラリ構造(三次元微細構造)の形状およびその大きさによって、細胞接着効率が異なることが観察された。具体的には、キャピラリの内壁面が直線的な平面形状、特にハニカム、菱形、長方形、五角形、三角形の形状の孔を有する基板への細胞接着は高い傾向があるのに対して、キャピラリの内壁面が曲面状、つまり円柱状の孔を有する基板には細胞接着はほとんど確認されなかった(図6(f))。このことから、多角形、特に菱形(平行四辺形)及びハニカム形状の貫通孔を有するキャピラリ構造(三次元微細構造)をもつPMMA製の基板が、細胞培養担体として、また細胞培養リアクターの細胞培養担体として有用であることが示唆された。また、キャピラリの形状(ハニカム形状、菱形)の一辺の長さを変えて同様の実験を行ったところ、内面が直線的な平面形状をもつ貫通孔であっても、貫通孔の一辺の長さが30μmと短い場合には、細胞接着がほとんど確認されなかった(図7(e)参照)。これはHepG2-pEGFP細胞の直径が約30〜50μmと、マイクロ担体の貫通孔の一辺の長さより大きいためと考えられる。
実験例2 三次元微細構造担体への細胞接着の定性的評価(その2)
実験例1の結果を受けて、図8に示すように、厚さ1mm、フィルター径12mm、パターン部径8mmを有し、パターン部に、一辺がl00μmのハニカム形状の貫通孔を有する多孔構造部をもつPMMA製の三次元微細構造担体(マイクロ担体)を作成した。またハニカム形状に代えて、一辺が150μmで内角60゜の菱形形状の貫通孔を有する多孔構造部をもつPMMA製の三次元微細構造担体(マイクロ担体)を作成した(図8参照)。これらのマイクロ担体について、実験例1と同様の方法で、細胞接着の可否について検討した。
具体的には、培養液を加えた100mm細胞培養ディッシュ底面に、上記微細加工を施したPMMA製のマイクロ担体をそれぞれ静置し、その上にHepG2-pEGFP細胞を播種培養し、培養4日目における細胞接着の様子を、共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス社製LSM510)にて観察した。共焦点レーザー顕微鏡は励起光源としてArレーザーを使用し、励起波長488nm、吸収波長505nmの条件で測定した。
一辺100μmのハニカム形状のマイクロ担体に対する細胞接着の様子を図9(a)に、一辺150μm、内角60゜の菱形形状のマイクロ担体に対する細胞接着の様子を図9(b)に示す。これからわかるように、蛍光顕微鏡下での観察結果(実験例1)と同様に、貫通孔の内面が直線的な平面形状((a)ハニカム、(b)菱形)である場合は貫通孔の内壁面に細胞接着が良好に行われている様子が確認された。培養ディッシュ底面からの細胞進展距離はハニカム形状の担体では100μm程度、菱形形状の担体では200μm程度であった(各側面図参照)。一方、貫通孔の内面が曲線的な円形形状である場合は細胞接着がほとんど確認されなかった(図6(c)参照)。以上の結果より、貫通孔の形状およびその大きさによって細胞接着効率が異なることが明らかとなった。
さらに、ハニカム形状のマイクロ担体内における細胞の経時変化の様子を観察した(図10)。培養ディッシュ底面からの細胞進展距離は培養3日目で100 mm程度であったが(図10(a))、さらに培養11日目においては200〜300μm程度まで細胞の進展が認められ、貫通孔内で細胞が増殖している様子が観察された(図10(b))。
以上の結果に示すように、ハニカム形状および菱形形状の貫通孔を有するキャピラリ構造を施したPMMA製基板のキャピラリ内壁に細胞が接着し、時間経過とともにディッシュ底面から垂直方向に進展しながら増殖していくことが確認された。このことから、ハニカム形状および菱形形状の貫通孔を有するキャピラリ構造を施したPMMA製基板は、連続式細胞培養リアクターに用いる細胞培養担体として適切な材料であることが示唆された。
実験例3 三次元微細構造担体材料への細胞接着の定量評価(その3)
(1)図11(A)に示すように、厚さ1mm、フィルター径12mm、パターン部径8mmを有し、パターン部に一辺が50〜300μmのハニカム形状の貫通孔を有する多孔構造部をもつPMMA製の三次元微細構造担体(マイクロ担体)、及びハニカム形状に代えて、一辺が150μmで鋭角30,45,60°の菱形形状の貫通孔を有する多孔構造部をもつPMMA製の三次元微細構造担体(マイクロ担体)をそれぞれ作成し、細胞接着におよぼす影響について検討した。また、対照実験として、図11(B)に示すように、微細加工を施していない直径12mm、厚さ1mmの円盤状のPMMA製基板((a)平板PMMA)、および直径l2mm、厚さ1mmの円盤状の中心に直径8mmの貫通孔を有するリング状のPMMA製基板 ((b)リング状PMMA)(以下、これらを総称して「対照PMMA」という)についても同様に細胞接着におよぼす影響を検討した。これらの2種類の対照PMMAを用いることで、平板PMMAの結果からリング状PMMAの結果を引くことで担体のパターン部(多孔構造部)のみの対照とみなすことができる。
具体的には、培養液を加えた100mm細胞培養ディッシュの底面に、上記微細加工を施したPMMA製の三次元微細構造担体(これを「PMMA製担体」という)及び対照PMMA(以下、この実験例ではこれらを一括して「マイクロ担体」と称する)を静置し、HepG2-pEGFP細胞を播種した。播種から4,7,10,12,14,18日目にこれらのマイクロ担体を取り出し、これらをphosphate buffered salineにて2回洗浄後、0.1%Tween-20水溶液中にて凍結融解を繰り返すことで各マイクロ担体に付着した細胞を破壊し、次いで遠心分離を行うことで細胞質分画を得た。この細胞質分画中の蛍光強度を、蛍光光度計(島津製作所製RF-5300PC、励起波長490nm、吸収波長510nm)にて測定し、標準GFPにて作成した検量線にあてはめて得られたGFP量を用いて各マイクロ担体への細胞接着数を評価した。なお、本検討に先立ち、HepG2-pEGFP細胞数とその細胞質分画中の蛍光強度の間には線形性のあることを確認している(図12参照)。
一辺が50〜300μmのハニカム形状のキャピラリ構造を有するPMMA製担体と対照PMMAに対する細胞接着数を対比した結果を図13(A)に示す。図13(A)に示すように、対照PMMA(リング状PMMA:―○―、平板PMMA:―●―)と比較して、ハニカム形状の微細加工を施したPMMA製担体のほうがGFP量(接着細胞数)が多く、またハニカム形状のなかでも一辺の長さが短いほどGFP量(接着細胞数)が多くなる傾向が認められた。ハニカム形状の一辺が小さいものほど貫通孔内壁における表面積が大きいため細胞接着数が増加するものと考えられる。
また鋭角30,45,60°の菱形形状のキャピラリ構造をもつPMMA製担体と対照PMMAに対する細胞接着数を対比した結果を図13(B)に示す。図13(B)に示すように、対照PMMA(リング状PMMA:―○―、平板PMMA:―●―)と比較して、菱形形状の微細加工を施したPMMA製担体のほうがGFP量(接着細胞数)が多く、また菱形形状のなかでも、内角が鋭角となるほどGFP量(接着細胞数)が多くなる傾向が認められた。菱形形状の内角が鋭角のものほど貫通孔内壁における表面積が大きいため細胞接着数が増加するものと考えられる。
一方、比較実験として行った円形パターンにおいては、平板PMMA(―●―)と比較してほとんど同等、もしくはそれ以下のGFP量であった(図13(C)参照)。また、平板PMMAおよび微細加工を施したPMMA製担体ともに、培養開始から10〜12日目に細胞数のピークを認め、それ以降は維持される傾向がみられた。
(2)さらに、ハニカム形状及び菱形形状のキャピラリ構造をもつPMMA製担体について、キャピラリ内壁表面積あたりのGFP量を算出した。結果を図14に示す。
その結果、ハニカム形状では、一辺の長さが長いほどキャピラリ内壁の表面積あたりのGFP量が多くなる傾向があり(図14(A))、菱形形状では、内角が鈍角であるほどキャピラリ内壁の表面積あたりのGFP量が多くなる傾向が認められた(図14(B))。
(3)また、培養14日目までに得られた細胞内GFP量の積分値を、貫通孔の形状パターンごとに解析した。この解析結果から、培養期間中、マイクロ担体のキャピラリ内に存在していた細胞数を評価した。また、マイクロ担体の直径8 mmのパターン部(多孔構造部)における接着細胞数を評価するため、得られたGFP量の積分値から、リング状PMMAにおけるGFP量の積分値をそれぞれ差し引いた値を縦軸とした。結果を図15に示す。円形状、及び1辺の長さが200及び300μmのハニカム形状では、平板PMMAとほぼ同等、もしくはそれ以下の値となっていたが、1辺が50〜150μmのハニカム形状、鋭角が30°〜60°の菱形では、平板PMMAのGFP量の積分値よりも高く、特に1辺が50μmのハニカム形状、及び鋭角が45°及び30°の菱形では、平板PMMAと比較して3倍程度のGFP量の積分値を得た。
また、図12の図に基づいてGFP量から細胞数を算出すると、マイクロ担体のキャピラリ内での最大接着細胞数は、ハニカム1辺50μmのパターン部(容量:50.27 mm2)に関して7.4×105 cells/scaffold(1.47×107 cells/ml)であった。細胞培養シャーレ上において、5×106 cells/ml程度の密度にて細胞培養ができれば高密度培養だといわれていることを考えると、本発明のマイクロ担体によれば、それより2倍以上の高密度培養が可能であることが示された。
以上実験例1〜3の結果から、細胞培養リアクターに用いる細胞培養担体材料としてPMMAは適当な材料であり、さらにこれらにハニカム形状または菱形形状の貫通孔を有する三次元微細構造加工を施すことにより、同面積の二次元構造体と比べて、高密度の状態で細胞を培養することが可能になることが確認された。
また、大きさおよび角度の異なるハニカム形状または菱形形状のキャピラリ構造の三次元微細加工を施したPMMA製担体への細胞接着を比較した結果、キャピラリ内壁表面積あたりの細胞接着数は、一辺300μmのハニカム形状のキャピラリ構造物が最も高かった(図14(A))。
実験例2に示したように、共焦点レーザー顕微鏡での観察では、キャピラリ内壁への細胞進展は底面から200μm程度に留まっている。このことから、本検討で用いた三次元構造物のうち、細胞培養担体または細胞培養リアクターの材料として、キャピラリ内壁表面積あたりの細胞接着数が最も高かった一辺300μmのハニカム形状のキャピラリ構造(三次元微細構造)を有するPMMA製の基板が最も好ましいと考えられた。
実験例4 培養液中における培養担体の浮遊および培養液の撹伴による細胞増殖効果
上記実験例に示すように、三次元微細構造を施したPMMA製担体(マイクロ担体)においてキャピラリ内壁への細胞接着と進展が確認されたが、いずれの担体についても接着細胞数は、培養開始から10〜12日目にピークを認め、それ以降は維持される傾向が認められた。この理由としては、培養細胞への栄養素や酸素の供給は、マイクロ担体を配置した細胞培養ディッシュの上からの分子拡散に依存しているところ、これまでの培養方法は担体を細胞培養ディッシュの底面に静置したままの状態であり、さらに担体の厚みが1mmあるため、時間経過とともにある一定量まで増殖した細胞をさらに増殖させるために必要な栄養素や酸素の供給量が不足していたことなどが考えられる。これらの問題を解決する目的で、キャピラリ内壁に細胞を接着させたマイクロ担体を培養液中に浮遊させ、さらに培養液を撹拌しながら培養することを試みた。
具体的には、培養液を含む細胞培養ディッシュの底面に一辺100μm及び300μmのハニカム形状のキャピラリ構造を有するPMMA製の担体(マイクロ担体)を静置した状態で細胞を播種し、細胞がマイクロ担体のキャピラリ内に十分量接着したと考えられる播種6日後に、ディッシュ上のマイクロ担体に足場を与えて浮遊培養を開始した(浮遊培養)。また、攪拌培養は、オートクレーブにより滅菌した回転子をディッシュ中へ沈め、マグネティックスターラーにより培養液を攪拌させて培養した。これらをインキュベータ内にて培養し、それぞれにおける細胞の様子を蛍光顕微鏡、及び共焦点レーザー顕微鏡により観察した。培養条件および顕微鏡観察条件は、実験例1及び2と同じ条件で行った。
各培養方法((a)静置培養、(b)浮遊培養、(c)攪拌培養)における培養17日目のマイクロ担体のキャピラリ内での細胞の存在状況を、蛍光顕微鏡画像を図16に、攪拌培養における培養17日目のマイクロ担体のキャピラリ内での細胞の存在状況を、共焦点レーザー顕微鏡画像を図17に示す。その結果、静置培養と比較して、浮遊培養及び攪拌培養のほうが、細胞数が多くなる傾向があった。
図13(a)に示すように、静置培養では、キャピラリ内壁面にはほとんど細胞が接着していない様子がわかる。一方、図16(b)及び(c)に示すように、浮遊培養及び攪拌培養においては、キャピラリ内に細胞がスフェロイド状(細胞凝集体)になっている様子が確認できた。この理由としては、培養液中でのマイクロ担体の浮遊および培養液の撹拌によって栄養素や酸素の供給が良好となった結果、キャピラリ内壁面に接着した細胞の増殖が活発になったものの、重力等の影響を受けてキャピラリ壁面の上部に向けての細胞進展が起こりにくく、結果的にキャピラリ壁面の下部に留まり凝集体を形成したものと推察された。
また、浮遊培養及び攪拌培養で得られた細胞は、静置培養と比較して蛍光強度が強く、細胞活性が非常に高い様子が伺えた。また図17に示すように、攪拌培養の共焦点レーザー顕微鏡画像において、直径100μm程度の細胞スフェロイドが形成されているのが確認できた。
静置培養および浮遊培養における接着細胞数の定量評価結果を図18に示す。図18に示すように、静置培養は1辺が100μm及び300μmのどちらのハニカム形状の場合も、培養14及び10日目付近でGFP量のピークを迎えた。一方、浮遊培養では、1辺が100μm及び300μmのどちらのハニカム形状の場合も、培養18日目までGFP量が増加し続け、静置培養よりも高いGFP量が得られた。また18日目以降もGFP量が増える傾向が認められた。
また、図19に、左端から順にマイクロ担体を細胞培養ディッシュ底面に静置した状態で17日間培養した場合の接着細胞数(GFP量:μg)(白棒)、細胞播種から6日目にマイクロ担体を培養液中に浮遊させて11日間培養した場合の接着細胞数(GFP量:μg)(灰色棒)、細胞播種から6日目にマイクロ担体を培養液中に浮遊させ且つ撹拌しながら11日間培養した場合の接着細胞数(GFP量:μg)(黒棒)を示す。図19に示すように、静置培養(白棒)と比較して、浮遊培養(灰色棒)および攪拌培養(黒棒)のほうが、接着細胞数が多かった。
静置培養では、マイクロ担体を細胞ディッシュ上に静置しているため、マイクロ担体底部からの培養液中の栄養分や酸素の供給がほとんどなく、マイクロ担体上部からの拡散のみにより行われている。これに対して、浮遊培養や攪拌培養では、マイクロ担体底部にも新鮮な培養液が接触する。従って、重力による影響もあるものの、培養環境が良好なマイクロ担体の底部に細胞が集まるのではないかと思われる。これらの結果より、マイクロ担体の多孔構造部の各キャピラリー内に酸素や栄養分が適度に供給される浮遊培養や攪拌培養は高密度細胞培養に対して有用であるといえる。また、細胞スフェロイドを担体に接着した状態にて培養可能なことから、連続式細胞培養リアクターへの応用もできる。また、連続式培養に適用することで、さらに高密度培養が可能になると考えられる。
さらに、浮遊培養により形成した細胞スフェロイドをマイクロ担体からピペットにより剥がし、細胞培養ディッシュ上で培養をした(培養21日目)。結果を図20に示す。剥離3日目では細胞スフェロイドの状態で変わらなかったが(図20(a))、10日目になると細胞スフェロイドの周りから細胞が単層に増殖している様子が確認された(図20(b))。また、14日目になると、さらに細胞スフェロイドの周りから細胞が単層に増殖しており、細胞スフェロイドの中心部分が壊死している様子が観察された(図20(c))。これは、細胞スフェロイドが大きく成長しすぎると、スフェロイドの中心部分に栄養分が到達せず、中心部分の細胞が壊死するものと思われる。中心部分が壊死を起こすと、周りの細胞へも影響を与える可能性があるため、細胞スフェロイドを利用した細胞培養リアクターには、細胞スフェロイドが大きくなりすぎないような工夫が必要になる。
実験例5 PMMA製担体の表面粗面化の細胞接着に対する影響
実験例4の結果から、三次元微細加工を施したPMMA製担体(マイクロ担体)への細胞接着は可能であるものの、通常の培養方法では、キャピラリ内壁面の下部における接着にとどまり、キャピラリ内壁面の上部への細胞進展はあまり進まないことが明らかとなった。これを解決する方法として、マイクロ担体の表面(特にキャピラリ内表面)を粗面化することを考えた。
(1)アセトンによる表面粗面化
まず直径12mm、厚さ1mmのPMMA製の円形状平板(平板PMMA)をアセトンに10分間浸漬(アセトン処理)して表面を粗面化した。得られた粗面化PMMAを、培養液を含む細胞培養ディッシュの底面に静置した状態で細胞を播種し、培養4,7, 11,14日目にこれを取り出し、phosphate buffered salineにて洗浄して担体に付着した細胞を回収した。次いで回収した細胞を0.1%Tween-20水溶液中にて凍結融解を繰り返すことにより細胞質分画を得た。この細胞質分画中の蛍光強度を測定し、標準GFPにて作成した検量線(図12)にあてはめて得られたGFP量を用いて、粗面化PMMAに接着した細胞数の経時的変化を評価した。
結果を図21(a)に示す。その結果、平板PMMA(無処理PMMA)(―×―)に比べて粗面化PMMA(―◆―)のほうが細胞接着速度(細胞増殖速度)が速く、多くの細胞が接着する傾向が認められた。また、培養14日目までのGFP量の積分値を台形法によって見積もった結果を図21(b)に示す。その結果、粗面化PMMAの積分値(図21(b):黒棒)のほうが、平板PMMA(無処理PMMA)の積分値(図21(b):白棒)よりも2倍近く高かったことから、PMMA製担体表面の粗面化が、細胞接着および細胞増殖に有効であることが判明した。
図22に粗面化PMMAと平板PMMA(無処理PMMA)上での細胞接着及び増殖の様子を比較した結果を示す((1)培養4日目、(2)培養7日目、(3)培養11日目)。培養4及び7日目における平板PMMA上では、細胞は単層にて接着、増殖している様子が分かる。しかし、粗面化PMMA上では、細胞同士が乗り上げたような形になっており、スフェロイドを形成しながら増殖している様子が伺えた。このように、細胞接着担体の表面を粗面化させることにより、細胞接着や増殖の仕方に影響を与えることが示された。
さらに、PMMA表面に正電荷負荷あるいは生体親和性ペプチドによる化学修飾などすることで、さらに細胞接着および細胞増殖を高めることができると考えられる。
(2)放射光照射による表面改質
(2-1)実験方法
PMMAへの放射光照射は、NewSUBARU放射光施設BL-2にて、1.0 GeV運転時にて行い、X線露光量(dose)0、2000、5000、10000 [mA*s]の4サンプルを用意した。
放射光照射処理したPMMA(放射線処理PMMA)を、培養液を含む細胞培養ディッシュの底面に静置した状態で細胞を播種し、培養開始から2、5、7、9日目に、これを細胞培養ディッシュ中から取り出した。これをPBSにて2回洗浄後、trypsin-EDTAを添加して細胞を剥離した。剥離後、DMEMにて置換して酵素反応を停止させ、遠心分離した後、血球計算板により放射線処理PMMAに付着した細胞数を測定した。
(2-2)実験結果
放射光を照射したPMMAへの細胞接着の様子を図23に、定量評価結果を図24に示す。図23から露光量(dose)の増加と共に細胞接着数が増加している様子が分かる。また、図24の定量評価結果によると、培養7日目までは放射光を照射しなかったPMMAより照射したPMMAに対して細胞数が多いのが分かる。しかし、9日目になると照射したPMMA上の細胞数は総じて減少している。これは、露光したPMMA表面の細胞が飽和状態になり、細胞同士が悪影響を及ぼしているためだと考えられる。露光していないPMMA表面上ではまだまだ細胞が増殖する余地があるため、増殖しているものだと考えられる。これらの結果より、X線エネルギー吸収により生じるPMMAの構造変化が細胞培養に良好に働いたことがわかる。
PMMAにX線が照射されるとX線エネルギーの吸収に伴って光電子やオージェ電子を発生して、PMMA中にラジカルが発生しプラス電荷を帯びる。細胞膜はマイナス電荷を持っているので、細胞接着担体であるPMMAに放射光を照射することによりプラス電荷を帯び、静電気的にPMMAと細胞間の接着性が良好になると考えられる。
実験例6 ポリジメチルシロキサン(PDMS)を塗布した培養容器での細胞接着に対する影響
実験例4の結果から、三次元微細加工を施したPMMA製担体(マイクロ担体)への細胞接着は可能であるものの、通常の培養方法では、キャピラリ内壁の下部における接着にとどまり、キャピラリ内壁の上部への細胞進展はあまり進まないことが明らかとなった。これを解決する方法として、底面に細胞非接着性材料であるPDMSを塗布した細胞培養ディッシュ上で、細胞を培養することを考えた。
具体的には、底面にポリジメチルシロキサン(PDMS)を薄く塗布した細胞培養ディッシュ(PDMS処理ディッシュ)上に、ハニカム1辺100μmのキャピラリ構造を有するマイクロ担体を静置し、これにHepG2-pEGFP細胞を播種した。播種から3,8, 10,13, 15, 17, 20日間培養した後にこれを取り出し、phosphate buffered salineにて洗浄して担体に付着した細胞を回収した。次いで回収した細胞を0.1%Tween-20溶液中にて凍結融解を繰り返すことにより細胞質分画を得た。この細胞質分画中の蛍光強度を測定し、標準GFPにて作成した検量線(図12参照)にあてはめて得られたGFP量を用いてマイクロ担体に接着した細胞数の経時的変化を評価した。また比較のため、PDMSを塗布しない細胞培養ディッシュ(PDMS未処理ディッシュ)を用いて同様に実験を行った。
結果を図25に示す。培養開始当初の増殖速度はPDMS未処理ディッシュ上とPDMS処理ディッシュ上とでほとんど違いはみられなかった。しかし、PDMS未処理ディッシュ上では培養10日程度でGFP量のピークが存在するのに対し、PDMS処理ディッシュ上では培養20日目を迎えてもGFP量が増加しており、長期にわたり細胞培養が可能であった。この結果の要因としては、PDMSの良好な酸素透過性、PDMS内における多量の酸素含有量などが考えられる。つまり、PDMSの、高濃度の溶液中の酸素を取り込み、低濃度の溶液中には酸素を放出するという性質が関係していると考えられる。細胞培養ディッシュ上のマイクロ担体のキャピラリ内培養では、培養日数を重ねるごとにキャピラリ内の細胞数が増加し、酸素供給が追いつかない状態に陥ると思われる。これが、PDMS上であれば、PDMSから酸素供給がなされるため、細胞培養ディッシュ上で培養した場合よりも、細胞の増殖が長期間続くものと思われる。
この結果よりPDMS上におけるマイクロ担体内細胞培養は、高密度細胞培養において有用であると考えられる。
また、図25より、PDMS上での培養でマイクロ担体内にて得られた最大接着細胞数は、ハニカム1辺100 mmのパターン部(多孔構造体)(容量:50.27 mm2)において、1.63×106 cells/scaffold(3.24×107 cells/ml)となる。したがって、細胞培養シャーレ上において、5×106cells/ml程度の密度にて細胞培養ができれば高密度培養だといわれていることを考えると、それよりも6倍以上の高密度培養が可能なことが示された。
この結果より、PDMS上でのマイクロ担体内の細胞培養は、長期にわたる高密度細胞培養に対して有効であると考えられる。
実験例7 細胞培養リアクターによる細胞培養
本発明の細胞培養リアクターの一態様を図26に示す。当該細胞培養リアクターは、本発明の三次元微細構造を有する基板(マイクロ担体)(6)を複数枚、一定の間隔を置いて積層させた状態で収納することができる溝部(13)を有する内側セル(11)と、当該内側セルを収納し培養液をシーリングするための外側セル(12)とから構成される。内側セルにはマイクロ担体を固定する上記溝部を20箇所設け、マイクロ担体を20枚積層した。当該マイクロ担体は長方形形状とし、細胞接着数をできるだけ稼ぐように、16×16 mmのキャピラリ面積を有する(キャピラリ担体の支持のための外枠を含めると19×21 mmの大きさ)。このキャピラリ担体の外枠が内側セルの溝に填るように設計した。また、細胞培養リアクター内の培養液のpH変化が、培養液の色の変化として目視で確認できるようにするため、リアクター材料として光透過性に優れるアクリルを使用した。
図27に当該細胞培養リアクターの内部セル内の概要を示す。ここでは、説明の都合、細胞培養リアクターの内部セルにマイクロ担体(細胞培養担体基板)が10枚、間隔をおいて積層させた状態で配置した状態を示している。ここで、少なくとも流体の流入口(2)と流出口(3)を有するセル(1)内に、キャピラリの内壁表面に生細胞が付着してなるマイクロ担体(6)が10枚間隔をおいて積層されており、液体培地が、流入口(2)からセル内に流入し、当該セル内に配置されたマイクロ担体の積層間を通って流出口(3)からセル外に排出されるように、液体培地の流路(流入路(8)、分岐路(9)、流出路(10))が形成されている。
より具体的には当該細胞培養リアクターは、少なくとも流体の流入口(2)と流出口(3)を有するセル(1)内に、
(A)キャピラリ(4)内にスフェロイド(5)が形成されたマイクロ担体(6)が20枚間隔をおいて積層されており、
(B)(a)流入口(2)から液体培地(7)をセル(1)内に流入するための少なくとも1つの流入路(8)、
(b)上記流入路(8)から分岐し、2枚以上間隔をおいて積層されたマイクロ担体(6)の層間に連通した3以上の分岐路(9)、及び
(c)21つの分岐路(9)が合流する少なくとも1つの流出路(10)を有し、
流入口(2)から流入した液体培地(7)が、これらの流路を通じて流出口(3)からセル外に排出されるように、流路が形成されている。さらにこの細胞培養リアクターは、図3にその模式図を示すように、流入路(8)が流体の流れる方向に向かって先細になるように形成され、また流出路(10)が流体の流れる方向に向かって幅広になるように形成されてなる。こうした細胞培養リアクターを用いることで、更なる培養細胞の増殖によりスフェロイドが形成され、マイクロ担体のキャピラリ内がスフェロイドによりふさがれた場合にも、液体培地の流路ならびに流量を安定・均一に確保することができる。
当該細胞培養リアクターを用いた細胞培養システムを図28に示す。内側セル(11)の細胞培養エリアに、事前にハニカム形状の貫通孔内(キャピラリ内)に細胞を播種したマイクロ担体(ハニカム形状の一辺の長さ:200mm、100mm、50mm)(6)を20段設置し、培養液をポンプ(21)を用いて0.83ml/hour、3ml/hourまたは10ml/hourの流速で環流した。なお、送液は0.83ml/hourおよび3ml/hourの流速ではシリンジポンプにより、また10ml/hour流速ではペリスタホンプにより行った。その結果、図29に示すように、キャピラリサイズ(ハニカム形状の一辺の長さ)の別にかかわらず細胞が良好に増殖すること、また継続して細胞が培養できることが認められた。また、図30に示すように、マイクロ担体の貫通孔を通過する細胞培養液の流速が遅いと、溶存酸素濃度ならびに栄養分の不足を招くため培養成績は低下する傾向がみられた。このため、細胞培養リアクターは、図28に示すように、液体培地の溶存酸素濃度を測定するための「溶存酸素濃度測定装置」とともに、当該濃度に反応して液体培地の流速を調節する「流速コントロール装置」を備えていることが好ましい。「溶存酸素濃度測定装置」としては、例えばLED等の光源(24)と分光器(25)を有する光学式溶存酸素濃度測定装置(C)を挙げることができる。当該装置はコンピューター(D)を介して「流速コントロール部」と連動しており、液体培地の流速が調整できるようになっていることが好ましい。
また本発明の細胞培養リアクターは、図28に示すように、さらに「pH測定装置」(22)または「電解質濃度測定装置」(23)を有するととともに、当該pHまたは電解質濃度に反応して液体培地のpH,電解質濃度または流速を調節する「pHコントロール部」、「電解質コントロール部」または「流速コントロール部」を備えていることが好ましい。「pH測定装置」(22)としては、例えばpH測定用電極、「電解質濃度測定装置」(23)としては、例えば導電率測定用電極を挙げることができる。当該測定部はコンピューターを介して「pHコントロール部」、「電解質コントロール部」または「流速コントロール部」と連動しており、液体培地のpH、電解質濃度または流量が調整できるようになっていることが好ましい。
細胞培養リアクター内の流速分布を数値流体力学(Computational Fluid Dynamics,CFD)の手法により、CFD解析ソフトウェアFLUENT(ANSYS JAPAN製)を用いて解析した。キルヒホッフの法則に従い、流入口と、流入路から分岐してマイクロ担体の層間に形成された分岐路における流量の総和を一定にすることにより、流路の最適化を行った。流入路は、液体培地が流れる方向に向かって先細になるように、流入路から流路が分岐するごとに流路幅を0.8、0.6、0.4および0.2 mmとし、また流出路は、液体培地が流れる方向に向かって幅広になるように、分岐路から合流するごとに流路幅を0.2、0.4、0.6および0.8 mmとした(図31の(A))。ここで図の左側に示すカラム(カラーグラデーション)は流路内を流れる流体(液体培地)の流速(m/s、メートル/秒)を示す。図31(カラー図)に示すように、マイクロ担体中のカラーが同じであることから、セル内に積層されたマイクロ担体間で流速のバラツキが少ないことがわかる。
この結果から、流入路については、そこから流路を分岐するたびに、マイクロ担体の層間に形成された流路幅分だけ狭くし、流出路については、分岐路から合流するたびに、マイクロ担体の層間に形成された流路幅分だけ広くしたリアクター形状が最適であることがいえる。
また、細胞スフェロイドが形成されずキャピラリ部(貫通穴)が存在している形状にてCFD解析を行った結果を図31(B)に示す。その結果、マイクロ担体の貫通孔においても流れが生じているため、細胞スフェロイドが形成されていない状態においても、リアクターの性能は減少せず細胞培養は可能であることが示された。
図32に実際のリアクターと同等のスケールのモデルにてCFD解析を行った結果を示す。キャピラリ内にスフェロイドが形成されたマイクロ担体を20枚積層した状態の細胞培養リアクター内において、マイクロ担体層にはほぼ均一に流れが生じている様子が分かる。
0:本発明の細胞培養リアクター
1:細胞培養槽
2:細胞培養担体基板における流体の流入口
3:細胞培養担体基板における流体の流出口
4:貫通孔(キャピラリ)
5:生細胞
5’: スフェロイド
6:細胞培養担体基板(マイクロ担体)
7:液体培地(流体)
8:流入路
9:分岐路
10:流出路
11:細胞培養層の内側セル
12:細胞培養層の外側セル
13:溝部
14:測定器具との連結部
21:ポンプ
22:pH測定装置
23:電解質濃度測定装置
24:光源
25:分光度
26:ドレイン
(A):細胞培養リアクタ部
(B):pH、電解質濃度測定システム
(C):光学式溶存酸素濃度測定システム
(D)コンピュータ

Claims (15)

  1. 多孔構造部を有する細胞培養担体基板であって、当該多孔構造部に形成された貫通孔が一辺の長さ若しくは直径が50μm〜500μm未満の三角〜六角のいずれかの多角形状の貫通孔であることを特徴とする細胞培養担体基板。
  2. 上記多角形状が菱形形状、平行四辺形またはハニカム形状であることを特徴とする、請求項1に記載する細胞培養担体基板。
  3. 基板の少なくとも多孔構造部の厚みが200μm〜10mmである、請求項1または2に記載する細胞培養担体基板。
  4. ポリメチルメタクリレート、ポリジメチルシロキサン、パリレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、エポキシ系感光性樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、およびシクロオレフィンポリマーからなる群から選択される1種または2種以上の樹脂から形成されてなる、請求項1乃至3のいずれかに記載する細胞培養担体基板。
  5. 細胞培養担体基板の少なくとも細胞培養表面が加工処理されてなるものである、請求項1乃至4のいずれかに記載する細胞培養担体基板。
  6. 少なくとも流体の流入口と流出口を有する細胞培養槽内に、請求項1乃至5のいずれかに記載する細胞培養担体基板が2枚以上間隔をおいて積層された状態で配置されてなる細胞培養リアクター。
  7. 上記細胞培養担体基板が、その多孔構造部の貫通孔に生細胞が付着しているものであって、液体培地が流入口から細胞培養槽内に流入し、当該槽内の細胞培養担体基板の多孔構造部の貫通孔を通って流出口から細胞培養槽外に排出されるように、液体培地の流路が形成されてなることを特徴とする、請求項6に記載する細胞培養リアクター。
  8. 少なくとも流体の流入口と流出口を有する細胞培養槽内に、
    (A)貫通孔内にスフェロイドを形成しえる生細胞が付着してなる細胞培養担体基板が2枚以上間隔をおいて積層されており、
    (B)(a)流入口から液体培地を細胞培養槽内に流入するための少なくとも1つの流入路、
    (b)上記流入路から分岐し、2枚以上間隔をおいて積層された細胞培養担体基板の層間に連通した3以上の分岐路、及び
    (c)3以上の分岐路が合流する少なくとも1つの流出路を有し、
    流入口から流入した液体培地が、これらの流路を通じて流出口から細胞培養槽外に排出されるように、液体培地の流路が形成されてなることを特徴とする、請求項6に記載する細胞培養リアクター。
  9. 上記流入路が流体の流れる方向に向かって先細になるように形成され、上記流出路が流体の流れる方向に向かって幅広になるように形成されてなるものである、請求項8に記載する細胞培養リアクター。
  10. 請求項6乃至9のいずれかに記載する細胞培養リアクターに加えて、液体培地の溶存酸素量、pHまたは電解質濃度に反応して、細胞培養リアクターに送液する液体培地の流速、pHまたは電解質濃度を調節する装置を含む、細胞培養システム。
  11. 請求項1乃至5のいずれかに記載する細胞培養担体基板、請求項6乃至9のいずれかに記載する細胞培養リアクター、または請求項10に記載する細胞培養システムを用いることを特徴とする細胞の培養方法。
  12. 多孔構造部の貫通孔内に細胞が付着した請求項1乃至5のいずれかに記載する細胞培養担体基板を、液体培地を入れた細胞培養槽内に配置し、細胞培養担体基板の貫通孔内で細胞を培養する工程を有する、請求項11に記載する細胞の培養方法。
  13. 細胞培養担体基板を液体培地中で浮遊させた状態で培養するか、細胞培養担体基板を液体培地中で浮遊させた状態で撹拌しながら培養するか、細胞培養担体基板を液体培地中で浮遊させた状態で液体培地を循環させながら培養することを特徴とする請求項11または12に記載する細胞の培養方法。
  14. 請求項1乃至5のいずれかに記載する細胞培養担体基板を、ポリジメチルシロキサン塗布面上に配置して細胞を培養する工程を有する、請求項11または12に記載する細胞の培養方法。
  15. 請求項6乃至9のいずれかに記載する細胞培養リアクターとして、請求項14に記載する細胞の培養方法により得られた細胞培養担体基板を積層したものを用いることを特徴とした、請求項11に記載する細胞の培養方法。
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