JP2011162848A - 強度異方性が小さく曲げ加工性に優れた銅合金 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Ni:1.0〜3.6%、Si:0.2〜1.0%、Sn:0.05〜3.0%、Zn:0.05〜3.0%を含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、平均結晶粒径が25μm以下であり、Cube方位の平均面積率が20〜60%で、Brass方位、S方位、Copper方位の平均合計面積率が20〜50%である集合組織を有すると共に、KAM値が0.8〜3.0である。
【選択図】 なし
Description
銅合金において、平均結晶粒径が小さいほど、強度−曲げ加工性バランスが向上することが知られている。本発明者らは、集合組織を制御することで、比較的粗大な結晶粒径においても良好な曲げ加工性を得られることを知見した。この平均結晶粒径は、25μm以下とすることが好ましく、15μm以下とすることがより好ましい。
本発明者らは、曲げ加工時の亀裂が変形帯やせん断帯に沿って進むことに着目し、集合組織(方位粒)によって、180°の密着曲げ加工の際の変形帯やせん断帯の生成挙動が異なることを知見した。
Cube方位{001}<100>は、より多くのすべり系が活動できる方位である。このCube方位を面積率で20%以上集積させることにより、局所的な変形の発達を抑制し、180°の密着曲げ加工性を向上させることが可能となる。このCube方位粒の集積率が低すぎると、前記した局所的な変形の発達を抑制することができず、180°の密着曲げ加工性が低下する。従って、本発明では、Cube方位{001}<100>の平均面積率を20%以上、好ましくは30%以上と規定する。
本発明のように、集合組織制御を、前記した結晶粒径の微細化の組織制御と組み合わせで行う場合、180°の密着曲げ加工に対しては、前記した通り、Cube方位の平均面積率だけでなく、更に、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、Copper方位{112}<111>の3つの方位の平均合計面積率を、よりバランス良く存在させる必要がある。
電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)に、後方散乱電子回折像[EBSP:ElectronBack Scattering(Scattered)Pattern]システムを搭載した結晶方位解析法を用いて、本発明では、製品銅合金の板厚方向の表面部の集合組織を測定し、平均結晶粒径の測定を行う。
Goss方位{011}<100>
Rotated−Goss方位{011}<011>
Brass方位{011}<211>
Copper方位{112}<111>
(若しくはD方位{4411}<11118>
S方位{123}<634>
B/G方位{011}<511>
B/S方位{168}<211>
P方位{011}<111>
次に、本発明に係る銅合金の化学成分組成について説明する。本発明に係る銅合金の化学成分組成は、圧延直角方向の耐力0.2%が、650MPa以上の高強度レベルで、180°の密着曲げで割れが発生しない、強度−曲げ加工性バランスに優れたコルソン合金を得るための前提条件となる。これに基づく本発明に係る銅合金の化学成分組成は質量%で、Ni:1.0〜3.6%、Si:0.2〜1.0%、Sn:0.05〜3.0%、Zn:0.05〜3.0%含有し、更に、必要により、Fe、Mn、Mg、Co、Ti、Cr、Zrのうち一種または二種以上を、合計で0.01〜3.0%含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金とする。尚、本明細書に記載の含有量の%は、全て質量%を示す。
Ni:1.0〜3.6%
Niは、Siとの化合物を晶出または析出させることにより、銅合金の強度および導電率を確保する作用がある。Niの含有量が1.0%未満と少な過ぎると、析出物の生成量が不十分となり、所望の強度が得られなくなり、また、銅合金組織の結晶粒が粗大化する。一方、Niの含有量が3.6%を超えて多くなり過ぎると、導電率が低下するのに加えて、粗大な析出物の数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下する。従って、Ni量は1.0〜3.6%の範囲とする。
Siは、Niとの前記化合物を晶・析出させて銅合金の強度および導電率を向上させる。Siの含有量が0.20%未満と少な過ぎる場合は、析出物の生成が不十分となり、所望の強度が得られないばかりか、結晶粒が粗大化する。一方、Siの含有量が1.0%を超えて多くなり過ぎると、粗大な析出物の数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下する。従って、Si含有量は0.20〜1.0%の範囲とする。
Znは、電子部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させるためには、0.005%以上含有させる必要がある。しかし、過剰に含有すると、却って溶融Snやはんだの濡れ広がり性を劣化させ、また、導電率も大きく低下してしまう。また、過剰に添加すると、Cube方位面積率が低下し、Brass方位、S方位、Copper方位の面積率が増加して、前記した両者の面積率のバランスが崩れる。従って、Znは、耐熱剥離性向上効果と導電率低下作用とを考慮したうえで、0.005〜3.0%の範囲、好ましくは0.005〜1.5%の範囲から、含有量を決定する。
Snは、銅合金中に固溶して強度向上に寄与し、この効果を有効に発揮させるためには、0.05%以上含有させる必要がある。しかし、過剰に含有すると、その効果が飽和し、また、導電率を大きく低下させる。また、過剰に添加するとCube方位面積率が低下し、Brass方位、S方位、Copper方位の面積率が増加する。従って、Snは、強度向上効果と導電率低下作用とを考慮したうえで、0.05〜3.0%の範囲、好ましくは0.1〜1.0%の範囲の範囲から、含有量を決定する。
これらの元素は、結晶粒の微細化に効果がある。また、Siとの間に化合物を形成させることで、強度、導電率が向上する。これらの効果を発揮させる場合には、選択的に、Fe、Mn、Mg、Co、Ti、Cr、Zrのうち一種または二種以上を、合計で0.01%以上含有させる必要がある。しかし、これらの元素の合計含有量(総量)が3.0%を超えると、化合物が粗大になり、曲げ加工性を損なう。従って、選択的に含有させる場合のこれら元素の含有量は、合計で(総量で)0.01〜3.0%の範囲とする。
次に、この銅合金の組織を本発明で規定した組織とするための、好ましい製造条件について、以下に説明する。本発明に係る銅合金は、基本的には、圧延された銅合金板であり、これを幅方向にスリットした条や、これら板、条をコイル化したものも本発明銅合金の範囲に含まれる。
熱間圧延の終了温度は550〜850℃とすることが好ましい。この温度が550℃より低い温度域で熱間圧延を行うと、再結晶が不完全なため不均一組織となり、曲げ加工性が劣化する。一方、熱間圧延の終了温度が850℃より高いと、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が劣化する。尚、この熱間圧延後は水冷することが望ましい。
この熱延板に対して、中延べといわれる冷間圧延を施す。この中延べ後の銅合金板に対し、溶体化処理と仕上げ冷間圧延が施され、更に、時効処理されて、製品板厚の銅合金板とされる。
通常、この仕上げ冷間圧延は、最終の溶体化処理を挟んで(溶体化処理の前後で)、前半と後半の2段に分けて行われる。本発明では、溶体化焼鈍前の冷延率を高めて90%以上とすることが好ましく、より好ましくは93%以上とする。この冷延率が90%より低いと、最終のCube方位の面積率が小さくなり、所望の集合組織を得ることができない。また、溶体化処理直前の圧下率が90%以上であれば、必要に応じて熱間圧延後に圧延焼鈍工程を繰り返しても良い。
最終溶体化処理は、所望の、結晶粒径、集合組織を得るために重要な工程である。発明者らは、最終溶体化処理(溶体化焼鈍)の各温度域における組織を詳細に調査することにより、昇温速度が遅いほど、また、結晶粒径が大きいほど、Cube方位粒が優先的に成長し、Cube方位の面積率が大きくなることを見出した。そのため、所望の本発明の組織を得るためには、溶体化焼鈍の温度と昇温速度を制御する必要がある。
溶体化焼鈍に引き続いて、時効処理を行う。Cu−Ni−Si系合金の一般的な製造方法では、溶体化焼鈍後に冷間圧延を施し、その後、時効処理を施す方法が採用される。このように冷間圧延後に時効処理を施すと、時効処理過程では、20nm以下の微細な第2相粒子が析出すると共に、回復が起きてしまう。そのため、20nm以下の微細な第2相粒子の析出量を増やすために、時効温度を高温・長時間化すると転位密度が過剰に低下してしまい、異方性が大きくなる。一方、転位密度を高くするために、時効温度を低温・短時間とすると、20nm以下の微細な第2相粒子の析出量が少なくなってしまい、強度が低くなりすぎてしまう。そのため、溶体化焼鈍後に時効処理を行い、冷間圧延を行うことが望ましい。このような工程では、時効処理により、20nm以下の微細な第2相粒子の析出を、冷間圧延工程により転位密度を、それぞれ別の工程にて制御しており、高強度で異方性を小さくすることが可能となる。
平均結晶粒径、各方位の平均面積率およびKAM値:
得られた各試料の銅合金薄板から組織観察片を採取し、上述した要領で、平均結晶粒径および各方位の平均面積率を、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した。具体的には、製品銅合金の圧延面表面を機械研磨し、更に、バフ研磨に次いで電解研磨して、表面を調整した試料を準備した。その後、日本電子社製FESEM(JEOL JSM 5410)を用いて、EBSPによる結晶方位測定並びに結晶粒径測定を行った。測定領域は300μm×300μmの領域であり、測定ステップ間隔を0.5μmとした。
引張試験は、試験片の長手方向を圧延方向としたJIS13号B試験片を用いて、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で実施し、0.2%耐力(MPa)を測定した。尚、この引張試験では、同一条件の試験片を3本試験し、それらの平均値を採用した。この引張試験結果が、圧延直角方向(T.D.方向)の0.2%耐力(YP)が650MPa超のものを、高強度と評価する。
導電率は、試験片の長手方向を圧延方向として、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。尚、この測定でも、同一条件の試験片を3本測定し、それらの平均値を採用した。この測定で、導電率が30%IACS以上のものを、高導電性を有していると評価する。
銅合金板試料の曲げ試験は、以下の方法により実施した。板材を幅10mm、長さ30mmに切出し、1000kgf(約9800N)の荷重をかけて曲げ半径0.15mmで、GoodWay(曲げ軸が圧延方向に直角)に90°曲げを行った。その後、1000kgf(約9800N)の荷重をかけて180°密着曲げを実施し、曲げ部における割れの発生の有無を、50倍の光学顕微鏡で目視観察した。その際に、割れの評価は日本伸銅協会技術標準JBMA−T307に記載のA〜Eにより評価した。尚、その評価がA〜Cのものを、曲げ加工性が優れているとする。
Claims (2)
- 質量%で、Ni:1.0〜3.6%、Si:0.2〜1.0%、Sn:0.05〜3.0%、Zn:0.05〜3.0%を含有し、残部が銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、
この銅合金の平均結晶粒径が25μm以下で、
且つ、SEM−EBSP法による測定結果で、Cube方位{001}<100>の平均面積率が20〜60%であり、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、Copper方位{112}<111>の3つの方位の平均合計面積率が20〜50%である集合組織を有すると共に、
KAM値が1.00〜3.00であることを特徴とする強度異方性が小さく曲げ加工性に優れた銅合金。 - 更に、質量%で、Fe、Mn、Mg、Co、Ti、Cr、Zrのうち一種または二種以上を、合計で0.01〜3.0%含有する請求項1記載の強度異方性が小さく曲げ加工性に優れた銅合金。
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