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JP2011058047A - 強度および延性に優れたアルミニウム合金厚板の製造方法 - Google Patents

強度および延性に優れたアルミニウム合金厚板の製造方法 Download PDF

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JP2011058047A JP2009208938A JP2009208938A JP2011058047A JP 2011058047 A JP2011058047 A JP 2011058047A JP 2009208938 A JP2009208938 A JP 2009208938A JP 2009208938 A JP2009208938 A JP 2009208938A JP 2011058047 A JP2011058047 A JP 2011058047A
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稔 林
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Abstract

【課題】1.0%以上のCuを含有するAl−Zn−Mg−Cu系熱処理型合金の熱間圧延による50mm以上の厚板の製造方法として、製造条件の制御により、粗大な金属間化合物の低減を図り、これにより高強度を確保しつつ延性(靭性)の大幅な改善を図る。
【解決手段】Cu1.0〜3.0%を含有するAl−Zn−Mg−Cu系合金について、鋳塊に450〜520℃で1時間以上の均質化処理を行なった後の冷却過程において、少なくとも400℃までの平均冷却速度を100℃/hr以上に規制し、その後300〜440℃の範囲内の温度で50mm以上の板厚まで熱間圧延した後、溶体化処理・焼入れおよび人工時効処理を施し、円相当径で5μmを越える金属間化合物の総面積率を2%以下とした厚板を得る。また前記均質化処理後、室温まで冷却した状態で測定した鋳塊の導電率が40IACS%以下となるように制御する。
【選択図】なし

Description

この発明は、航空機、鉄道車両、自動車部品などに用いられる50mm以上の板厚の高強度Al−Zn−Mg−Cu系熱処理型アルミニウム合金厚板を、熱間圧延を適用して製造する方法に関するものであり、より詳細には鋳塊の均質化処理後の冷却条件を最適化することにより、均質化処理後の金属間化合物の成長・粗大化を抑制して、低温あるいは短時間で効率よく溶体化処理を可能とし、溶体化処理、焼き入れおよび人工時効処理後の製品板として、高強度でかつ高延性(高靭性)を有するアルミニウム合金厚板を得る方法に関するものである。
周知のように7075合金や7050合金で代表されるAl−Zn−Mg−Cu系合金は、熱処理型合金として、析出強化により極めて高い強度を得ることができる。しかしながら、例えば航空機用材料として用いられる場合は、T6調質によるピーク強度では、破壊靱性が低下したり、また耐応力腐食割れ性(耐SCC性)が低下してしまうなどの問題がある。このため実用的には、2段時効による過時効調質(T7x)を行なって、T6調質のピーク強度よりも10〜15%程度強度を下げた状態のT7x調質材として用いることが多い。
このため航空機材料などとしては、さらなる軽量化のために、より高強度、高靱性の合金が強く求められている。しかしながら一般に強度と靱性、延性(伸び)との間には負の相関関係があり、高強度化すれば靱性、延性(伸び)が低下してしまうことが知られている。このため伸びや靱性向上の方法としては、破壊の起点となる金属間化合物を低減する方策が従来から適用されている。例えば7075合金では、7175合金あるいは7475合金などで不純物とされているSi、Feの含有量を従来よりも低減することにより、靱性の改良が行われてきている。またそのほか7050合金、7055合金、7085合金などにおいても、同様に不純物としてのSi、Feの含有量が低く設定されている。しかしながら不純物元素であるSi、Feの含有量を、現状よりもさらに低減するためには、高純度のAl地金を使用する必要があるため、コストが高くなってしまう問題点があり、さらにはリサイクル性にも劣るようになって、工業的に大量に生産するには問題が多くなる。
またそのほか、破壊靱性向上の方法としては、例えば特許文献1に示されるように、再結晶を抑制して繊維(ファイバー)状組織を維持し、焼入れ速度を確保することによって高強度かつ高靱性を得る方法が提案されている。しかしながら特許文献1においては、再結晶抑制のための方法や速い焼入れ速度を得るための方法に関して、さほど具体的な方法が述べられていない。さらに特許文献1では、均質化処理温度、熱間圧延開始温度、溶体化温度および焼き戻し(時効)温度・時間については規定されているものの、これらについての具体的な説明がなされていない。したがって特許文献1の提案の方法を実際に工業的に実施して、高強度、高靭性を有する合金を確実に得ることは困難と言わざるを得なかったのである。
一方本発明者らは、繊維状組織を得るための条件、特に鋳塊の均質化処理条件について検討し、特許文献2に示すように、鋳塊に対する均質化処理時に微細なAlZrを析出させて、熱間加工および溶体化処理後も繊維状組織を得ることにより破壊靱性を向上する手段を提案しているが、破壊靱性に大きな影響を及ぼすと考えられるそのほかの金属間化合物の低減については、未だ充分な検討は行われておらず、そのため特許文献2の方法を実際に工業的に実施して、高強度、高靭性を有する合金を確実に得るには未だ不充分だったのである。
またさらに特許文献3では、熱間圧延後のホットコイルに、加熱あるいは冷却によって制御された冷却サイクルを与えることが提案されているが、この特許文献3では、具体的な作用の説明が乏しく、かつ金属内部組織の変化については充分に調査されておらず、そのため特許文献3の方法を実際に適用しても、高強度かつ高靭性の材料が得られるかは疑問であった。
一方、この発明で対象としているような、航空機用材料を主用途とし、熱間圧延を適用して50mm以上の板厚の厚板(圧延板)を得る方法とはまったく異なるが、主として建材や車両用材料、二輪車用材料を用途とし、比較的薄く(数mm程度以下)て複雑な形状に対応可能な押出材の製造方法として、特許文献4、特許文献5においては、その押出材の製造条件、特に鋳塊の均質化処理後の条件を規定している。そして特許文献4、特許文献5の方法においては、優れた押出性を確保し、また良好な溶接性を確保するとともに、耐食性の向上も図るため、合金中のCu量を0.4%以下に規制している。しかるにCu量が0.4%以下では、この発明で主用途としている航空機材料として要求される強度を充分に確保することは困難である。また一方、この発明で主用途とする航空機用材料の厚板では、溶接性はさほど要求されず、また熱間圧延によって厚板とするため、押出性も要求されない。したがって航空機用材料を主用途とする熱間圧延による厚板材では、高い強度を確保するため、Cu量を、特許文献4、特許文献5に示される如く少量(0.4%以下)に規制せず、1.0%程度以上に増量することが望ましいと考えられる。しかしながら、Cu量を増量すれば、金属間化合物の析出状況も特許文献4、特許文献5の方法による場合とは大幅に異なったものとなる。すなわち、Cu量を1.0%程度以上に増量すれば、金属間化合物として粗大なS相(AlCuMg化合物)やAlCuFeが発生しやすくなり、これらの粗大な金属間化合物は、靭性(延性)に大きな悪影響を及ぼすと考えられる。したがって、Cu量を1.0%程度以上に増量した合金を用いた場合に、その製造条件、特に均質化処理条件として、特許文献4、特許文献5に示される条件をそのままこの発明で主用途とする50mm以上の板厚の航空機材料の熱間圧延による製造に適用しても、期待されるような高強度と高靭性を兼ね備えた材料を得ることは保証され得ないのである。
特表2000−504068号公報 特開2006−257522号公報 特表2007−510061号公報 特開平9−310141号公報 特開2005−307322号公報
既に述べたように7075合金や7050合金で代表される熱処理型のAl−Zn−Mg−Cu系合金は、航空機用部材などの大型構造部材として50mm以上の板厚の厚板で用いられることが多く、軽量化、燃費向上などの観点からさらなる高強度化が要求されている。またこのような材料においては、損傷許容設計の観点から、構造部材の設計時に亀裂の進展に対する抵抗を示す破壊靱性が重要視されることが多く、強度と同時に靱性、延性の向上も望まれている。しかしながら、一般に強度と靱性、延性との間には負の相関関係があるため、強度と延性、靱性を同時に向上させるために、従来は不純物元素であるSi、Feの抑制による金属間化合物の低減策が実施されているが、それだけでは強度と延性、靭性とを同時に充分に向上させることは困難であった。また一方、航空機用材料等として充分な強度を得るためにCu量を1.0%程度以上としたAl−Zn−Mg−Cu系合金においては、金属間化合物として、粗大なS相(Al−CuMg化合物)やAlCuFe化合物が生じやすく、したがってこのような1.0%程度以上のCuを含有するAl−Zn−Mg−Cu系合金の厚板として、さらなる延性、靱性向上を図るためには製造プロセス条件の制御による金属間化合物の低減が必要である。そこでこの発明では、Cuを多量に含有するAl−Zn−Mg−Cu系(7000系)高強度合金の熱間圧延による厚板材の製造方法として、その製造条件の制御により、主としてCu系金属間化合物からなる粗大な金属間化合物の充分な低減を図り、これによって、高強度を確保すると同時に、延性、靭性の大幅な改善を図ることを課題としている。
本発明者等は、主として航空機用材料として使用される板厚50mm以上のAl−Zn−Mg−Cu系熱処理型合金厚板、特に1.0%以上のCuを含有するAl−Zn−Mg−Cu系合金の厚板の圧延による製造方法として、高延性(高靭性)を有すると同時に高強度を有する厚板を製造する方法を見出すべく、種々実験・検討を重ねた結果、鋳塊に対する均質化処理の後の冷却速度を適切に制御し、併せて熱間圧延の温度を適切に制御することによって、主としてCu系からなる金属間化合物の粗大化を抑制し、その後の溶体化処理時に金属間化合物を効率よく再固溶させることが可能となり、続く人工時効処理により、高強度、高延性(高靭性)を兼ね備えた厚板が得られることを見出し、この発明をなすに至ったのである。
具体的には、請求項1の発明のアルミニウム合金厚板の製造方法は、Zn5.0〜7.0%(mass%、以下同じ)、Mg1.0〜3.0%、Cu1.0〜3.0%を含有し、かつCr0.05〜0.3%、Zr0.05〜0.25%、Mn0.05〜0.40%、Sc0.05〜0.35%のうちから選ばれた1種もしくは2種以上を、合計量が0.05〜0.5%の範囲内で含有し、さらに不純物としてSiを0.25%以下、Feを0.25%以下に規制し、残部がAlおよびその他の不可避的不純物としたAl−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金を用い、その鋳塊に、450〜520℃の範囲内の温度で1時間以上保持する均質化処理を行なった後、鋳塊を冷却する過程において、少なくとも400℃までの平均冷却速度を100℃/hr以上に規制し、その後300〜440℃の範囲内の温度で50mm以上の板厚まで熱間圧延を行なった後、溶体化処理・焼入れおよび人工時効処理を施し、円相当径で5μmを越える金属間化合物の総面積率を2%以下とした厚板を得ることを特徴とするものである。
また請求項2の発明は、請求項1に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法において、前記均質化処理後、室温まで冷却した状態で測定した鋳塊の導電率が40IACS%以下となるように制御することを特徴とするものである。
そしてまた請求項3の発明は、請求項1に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法において、前記溶体化処理を、460〜520℃の範囲内の温度で1〜10時間行なうことを特徴とするものである。
この発明によれば、板厚50mm以上でかつ1.0%以上のCuを含有するAl−Zn−Mg−Cu系熱処理型アルミニウム合金厚板の、熱間圧延による製造方法として、鋳塊に対する均質化処理の後の冷却条件を最適化するとともに、その後の熱間圧延の温度を適切に制御することにより、主としてCu系からなる金属間化合物の粗大化を抑制して、その後の溶体化処理により容易かつ確実に金属間化合物を再固溶させ、引続き人工時効処理を施すことにより、高強度を有すると同時に高延性(高靭性)を有する厚板を確実かつ容易に得ることができ、そのため、特に高強度と高延性(高靭性)が同時に要求される航空機用材料などの厚板構造材の製造方法として最適である。
以下にこの発明の製造方法についてさらに詳細に説明する。
先ずこの発明の製造方法において対象となるアルミニウム合金の成分組成の限定理由について説明する。
Zn:
Znは、この発明で対象とする系の合金において、人工時効処理時にη’相(MgZn)として0.01〜1μmのサイズでマトリックス中に析出し、析出硬化により強度を高める元素である。Znの添加量が5.0%未満では充分な強度が得られず、一方7.0%を越えればその効果が飽和すると同時に、耐SCC性が低下するから、Zn量は5.0〜7.0%の範囲内とした。
Mg:
Mgは、Znと同様にこの発明で対象とする系の合金において人工時効処理時にη’相(MgZn)として析出し、強度を高める作用を示す。Mgの添加量が1.0%未満では充分な強度向上効果が得られず、一方3.0%を越えればその効果が飽和するとともに、MgSiの金属間化合物が生成されやすくなって、靭性(延性)を低下させるおそれがあるから、Mg量は1.0〜3.0%の範囲内とした。
Cu:
Cuはマトリックス中に固溶して、固溶硬化により強度を高める作用を示す。ここで、Cu量が1.0%未満では、航空機材料などの高強度構造材として強度が不充分となり、一方Cu量が3.0%を越えれば、S相(AlCuMg化合物)やAlCuFeの体積率が増加し、破壊靭性値が低下し、また腐食性の高いAl−Cu−Mg系析出物が多くなり、耐SSC性や耐剥離腐食性を劣化させてしまう。そこでCu量は1.0〜3.0%の範囲内とした。
Cr、Zr、Mn、Sc:
Cr、Zr、Mn、Scは、いずれも熱間圧延工程あるいは溶体化処理時において再結晶抑制および粒成長抑制元素として機能する。それらの添加量を、Cr0.05〜0.3%、Zr0.05〜0.25%、Mn0.05〜0.40%、Sc0.05〜0.35%と限定したのは、それぞれ単独で添加した場合に下限値未満では、上記の添加効果が不充分となり、一方上限値を越えれば、その効果が飽和するとともに、粗大な金属間化合物を形成しやすくなるからである。なおこれらの元素は単独での添加でも充分な効果が得られるが、複数種を同時に添加してもその効果が得られることはもちろんである。但し、これらの元素の合計添加量が0.05%未満では充分な添加効果が得られず、一方0.5%を越えればその効果が飽和するとともに粗大な金属間化合物が生成されやすくなるから、これらの元素の合計含有量は0.05〜0.5%の範囲内とした。
Fe:
Feは、通常のアルミニウム合金においても不可避的に含有される元素であり、この発明のアルミニウム合金厚板の場合、FeはAlCuFeとして不溶性の金属間化合物を形成し、伸びや靭性を低下させるから、この発明でもFeは不純物として扱い、その含有量は可及的に少ないことが望ましいが、工業的にはコスト面を考慮して0.25%以下であれば良く、好ましくは0.15%以下が良い。
Si:
SiもFeと同様に通常のアルミニウム合金においても不可避的に含有される元素であり、この発明の系の合金においてはMgSiの金属間化合物を形成し伸びや靭性を低下させるから、この発明でもSiは不純物扱いとして、その含有量は可及的に少ないことが望ましいが、工業的にはコスト面を考慮して0.25%以下であれば良く、好ましくは0.15%以下が良い。
以上の各元素の残部は、基本的にはAlと、上記のFe、Si以外の不可避的不純物とすれば良い。なお特に限定するものではないが、通常のアルミニウム合金においては、鋳造時の結晶粒微細化の目的でTiBあるいはTiCを含んだ微細化剤を少量添加することがあり、この発明の場合もこれらの微細化剤を、Ti量で0.05%程度添加することは許容される。
さらにこの発明の方法により得られる最終板においては、金属間化合物の分布密度条件として、円相当径で5μmを越える金属間化合物の総面積率を2%以下に規制する。その金属間化合物総面積率条件の限定理由について次に説明する。
この発明で対象とする系の合金においては、最終板においても、MgSi、AlCuFe、あるいはS相(AlCuMg)、η’相(MgZn)などの金属間化合物が存在する。これらのうち5μmを越える粗大な金属間化合物は、ボイドの発生起点あるいは亀裂の伝播経路となるため、延性や靭性を低下させてしまう。したがって延性や靭性を向上させるためには、これらの金属間化合物のサイズあるいは数(密度)を減少させることが有効である。そこで本発明者等が、金属間化合物のサイズおよび総面積率と延性(靭性)との関係について詳細に調査した結果、MgSi、AlCuFe、あるいはS相(AlCuMg)などの、円相当径で5μmを越える金属間化合物の総面積率が2%以下であれば、優れた延性が得られることが判明し、その条件を最終板において規定した。なおこの発明で用いる合金では、上述のようにη’相も析出するが、このη’相は、円相当径で5μmを越えるような粗大なものとなることは少ない。いずれにしても、要は金属間化合物の種類を問わず、円相当径5μmを越える粗大な金属間化合物が、総面積率で2%以下であれば、良好な延性、靭性を確保することができる。なおまた、ここで5μmを越える金属間化合物の総面積率とは、最終板である厚板における板面と平行な断面、すなわち圧延方向−圧延直角方向よりなる面(L−LT面)の断面で金属間化合物を観察した総面積率とする。
さらにこの発明では、最終的に得るべき厚板の厚みを50mm以上に限定しているが、その理由は次の通りである。
すなわち、既に述べたように、航空機材料などの大型構造部材に用いられる場合、強度とともに靭性、延性が要求される。一般に強度と靭性(延性)は相反する特性であり、強度が高くなれば靭性(延性)が低下する傾向を示す。板厚が薄い場合には、溶体化処理後の焼入れ時に充分な高い冷却速度が得られるが、肉厚が厚くなれば、冷却速度が低下するため、特性が低下してしまいやすい。この発明では、主として航空機に用いられる2インチ(50.8mm)程度以上の厚肉材においても充分な特性が得られることを目的として開発された製造方法であり、そこでこの発明の対象は50mm以上の厚板とした。
次にこの発明の方法で規定する製造条件について説明する。
この発明の方法においては、基本的には一般的なAl−Zn−Mg−Cu系合金(7000番系合金)と同様に、鋳造後、鋳塊に対して均質化処理を施し、急速に冷却してから、熱間圧延を行なって所要の板厚(50mm以上)とし、その後、溶体化処理、焼入れ後、人工時効処理を施す。そこでこれらの各工程について、さらに詳細に説明する。
先ず均質化処理は、Al−Zn−Mn−Cu系合金の鋳造時の成分偏析の低減や鋳造時に生じた粗大な金属間化合物の固溶および分断、球状化などを主目的に実施される。均質化処理温度が450℃未満では、均質化の効果が不充分で、粗大な金属間化合物を分断、球状化することができないため、450℃以上で行なうことが必要である。また均質化処理温度が520℃を越えれば、マトリックスの溶融が生じるおそれがあるため、520℃以下とする。また均質化処理の保持時間が1時間未満では、充分な均質化の効果が得られないから、保持時間は1時間以上(望ましくは4時間以上)とする。なお均質化処理の保持時間の上限に関しては特に限定するものではないが、あまり長時間ではエネルギーが無駄になり、コスト面で不利となるから、通常は8時間以下が好ましい。
次に均質化処理後の冷却過程における冷却速度の限定について説明する。
この発明で対象とする系の合金のように、溶体化処理・焼入れ、人工時効処理が施される、いわゆる熱処理型アルミニウム合金では、溶体化処理・焼入れ時の冷却速度に関して、既に多くの調査がなされている。しかしながら従来は、通常の溶体化処理により析出物の再固溶が充分に行なわれると考えられていたため、それよりも前の段階である鋳塊に対する均質化処理後の冷却時に生じる固溶・析出挙動に関しては、充分な注意が払われていなかったのが実情である。しかるに、本発明者等が詳細に調査したところ、この発明で対象とする系の合金のように、Cuを1%以上含有する合金では、溶体化処理前の段階で、特にS相(AlCuMg)で代表される粗大な金属間化合物が数多く存在して、これらの粗大な金属間化合物は、溶体化処理時においても完全には再固溶させることが困難であって、最終板中にも数多く存在してしまい、そのため延性、靭性を低下させていることが判明した。このS相についてさらに詳細に調査した結果、鋳造時に晶出して、鋳塊に対する均質化処理によって一部は固溶もしくは球状化するが、均質化処理後の冷却過程において析出して粗大化することが判明した。さらにこの析出温度は約420℃にピークを持つため、均質化処理後にこの析出温度域を速やかに冷却させることが重要となることが判明した。そしてこれらの知見に基いて、均質化処理後の冷却速度の効果について検討した結果、均質化処理温度から400℃までの温度域を、平均冷却速度100℃/hr以上で冷却させることにより、延性、靭性に有害な金属間化合物の析出、粗大化を抑制し得ることが判明した。そこでこの発明の方法では、均質化処理後の冷却について、少なくとも400℃までは平均冷却速度100℃/hr以上で冷却することを規定した。
ここで、均質化処理後の冷却過程における400℃より低い温度域での冷却速度に関しては特に限定しないが、通常はこの温度域でも速やかに冷却することが望ましく、工業的には20℃/hr以上で冷却することが好ましい。
なおまた均質化処理後の冷却到達温度に関しても、特に規定するものではない。一般的には熱間圧延設備の稼働状況の関係から、均質化処理後は室温まで冷却を行うことが多いが、前述のように400℃までの温度域を、平均冷却速度100℃/hr以上で冷却すれば有害な金属間化合物の成長が抑制されるため、さらに冷却することなくそのまま熱間圧延を開始しても良い。もちろん均質化処理後に熱間圧延温度300〜440℃よりも低い温度まで冷却した場合には、続いて熱間圧延温度まで鋳塊を加熱するための再加熱を行えば良い。なおエネルギーコストの点からは、均質化処理後は、熱間圧延温度域まで冷却して、そのまま熱間圧延することが好ましい。
また、均質化処理後の鋳塊冷却の具体的方法に関しては特に限定するものではないが、冷風により強制的にファン冷却を行なう方法や、スプレーなどを用いて水冷する方法などを適用すれば良い。
またここで、均質化処理・冷却後は、室温で測定した場合の導電率がIACS%で40%以下であることが望ましい。すなわち、均質化処理・冷却後の室温における導電率は、均質化処理およびその後の冷却による固溶/析出量、言い換えれば金属間化合物の量に対応し、導電率が低いほど金属間化合物の粗大化が生じていないことを意味する。均質化処理・冷却後の導電率が40IACS%以下であれば、充分な元素が固溶された状態を維持しており、一方40IACS%を越えていれば、金属間化合物の析出、粗大化が生じていて、最終の溶体化処理によっても金属間化合物を微細にすることが困難となって延性、靭性の低下を引起す。
前述のようにして均質化処理後、少なくとも400℃までの温度域を、平均冷却速度で100℃/hr以上で冷却し、そのまま、あるいはさらに室温もしくは室温近くの温度まで冷却した後、改めて熱間圧延開始温度まで再加熱し、50mm以上の板厚まで熱間圧延する。この熱間圧延の条件について次に説明する。
熱間圧延工程では、所定の厚さや形状に加工するため、高温での加工が行なわれる。しかしながら、前述のように均質化処理後に急冷を行なって金属間化合物の粗大化を抑制しても、熱間圧延時に金属間化合物の析出温度域で長時間保持されれば、金属間化合物が再び粗大化してしまうおそれがある。そこで適切な熱間圧延温度について詳細に調査した結果、熱間圧延温度が300℃未満では、金属間化合物の粗大化は小さいものの変形抵抗が大きくなって、工業的な生産が困難となり、一方熱間圧延温度が440℃を越えれば、金属間化合物の粗大化が生じやすくなると同時に、熱間加工性が劣化して熱間圧延割れが発生しやすくなることが判明した。したがって、熱間圧延は、300〜440℃の範囲内の温度で行なうこととした。
なおここで、熱間圧延のための加熱から熱間圧延終了までのトータル時間、すなわち300〜440℃の範囲内の温度に滞留する時間については特に限定するものではないが、金属間化合物の粗大化が生じる前にすみやかに熱間圧延を終了させることが望ましい。すなわち、拡散による金属間化合物の成長・粗大化を抑制する観点から、熱間圧延前の加熱における300〜440℃の範囲内の温度到達後、熱間圧延終了までの時間を8hr以内とすることが望ましく、さらに工業的には4hr以内に熱間圧延を終了させることが生産性の観点から好ましい。
なお熱間圧延前の加熱における室温から熱延開始温度までの加熱速度については特に限定するものではないが、工業的には30℃/hr以上とすることが好ましい。
以上のようにして熱間圧延により50mm以上の板厚まで圧延した後には、溶体化処理を行なう。
この溶体化処理は、例えばAMS(米国航空機材料規格) 2772に規定されている代表的な7000系合金と同様に、460℃以上、520℃以下の温度域で実施することが望ましい。溶体化処理温度が460℃未満では、溶体化の効果が充分に得られず、一方520℃を越えればマトリックスの溶融が生じるおそれがある。また溶体化処理時間(溶体化処理温度での保持時間)は、通常は1時間以上、10時間以下が好ましい。溶体化処理時間が1時間未満では元素が固溶するのに不充分となり、一方10時間を越えても溶体化の効果が飽和し、経済性を損なうだけである。
溶体化処理後の冷却(焼き入れ)の条件も特に限定するものではないが、通常は、200℃/分以上の冷却速度で、50℃程度以下の温度まで、水焼き入れなどにより急冷すれば良い。
溶体化処理・焼入れ後には、必要に応じて、残留応力の除去を目的として、引張りあるいは圧縮を行なってもよい。
溶体化処理・焼入れ後、必要に応じて引張もしくは圧縮を行なった後には、最終的に必要な強度を得るために人工時効処理を施す。この人工時効処理における処理温度、時間(時効温度、時間)に関しては、特に限定するものではなく、従来から7000番系合金に適用されている条件で実施すればよく、例えばAMS 2772に準拠して、T6x調質の場合は120〜135℃×14〜48hrとし、T7x調質の場合は、1段目時効として107〜138℃×3〜24hr程度の熱処理後に、2段目時効として163〜177℃×4〜30hrで実施することが望ましい。
表1に示すようなこの発明の成分組成範囲内にある合金A〜Iについて、DC鋳造法により厚み400mm、幅1200mm、長さ3500mmの鋳塊を作製し、面削・切断により厚み380mm、幅1200mm、長さ3000mmに切断した。続いてこれらの鋳塊に均質化処理を行なった。均質化処理温度から400℃までの冷却方法としては、冷媒に水を用いたミストスプレー冷却、強制ファン冷却および空冷のうちのいずれかを適用して、冷却速度を変化させた。冷却速度の測定は、鋳塊の端部に熱電対を埋め込んで冷却曲線から算出した。400℃以下の冷却条件に関しては、ミストスプレー,ファン冷却,炉内冷却を組み合わせて実施し、No.1〜No.8については、室温まで冷却した。No.9については、390℃まで冷却した後、熱間圧延のための再加熱を行った。ここで鋳塊の一部をスライスして切取り、そのまま室温まで冷却して導電率を測定した。均質化処理条件、冷却方法、均質化処理後400℃までの平均冷却速度および冷却後の鋳塊の導電率についてそれぞれ表2に示す。
上述のように均質化処理を行なった後、熱間圧延のために40℃/hrの加熱速度で再加熱を行い、420℃で2hr保持した後、熱間圧延を開始し、厚み60mmの圧延板を製造した。その後AMS2772にしたがい、475℃×2hrの溶体化処理、水焼入れを行った。焼入れ後、残留応力除去を目的としてストレッチャーにより2%の引張り歪みを付与し、さらに自然時効後、121℃×4hr+163℃×18hrの2段人工時効処理を施し、T7451調質材の最終製品板とした。
製品板(T7451調質材)について、金属間化合物の測定を行なった。この金属間化合物の測定としては、製品板の板厚中央部からサンプルを切り出し、圧延方向−圧延直角方向よりなる面(以後L−LT面)を機械研磨により鏡面仕上げした後、20%硫酸にてエッチングを施し、光学顕微鏡にて100倍で10視野観察を行い、画像解析により円相当径が5μm以上の金属間化合物の面積率を調査した。
また強度および延性の評価のため、圧延直角方向(LT方向)の機械的特性を評価した。すなわち、引張り試験を、ASTM E8に規定されたφ6.35mmの丸棒試験片を用いて実施し、引張り強度、耐力、伸びについて測定を行った。機械的特性および円相当径5μmを越える金属間化合物の総面積率について調べた結果を表3に示す。
表3に示すように、No.1〜No.9の本発明例では、均質化処理後の400℃までの冷却速度を100℃/hr以上に制御することにより、均質化処理後も充分に高い固溶度が維持されていることが導電率の結果からわかる。さらに引張り試験の結果から、T7451調質処理を行った後の製品板として、本発明例ではいずれもが強度、伸びともに高い値を示していることが判明した。このような伸び(延性)の向上は、金属間化合物の面積率の減少によるものであることが理解できる。
これに対して比較例のNo.10では、均質化処理時の温度が低いため、金属間化合物の分断・再固溶が不充分であり、そのため強度、伸びともに低下していることが認められた。また比較例のNo.11〜No.14では、均質化処理後400℃までの冷却速度が遅く、冷却中に金属間化合物の析出および粗大化が生じていることが導電率より伺える。このため溶体化・焼入れおよび時効処理を実施しても金属間化合物の面積率が高くなっており、製品板の機械的特性では、強度、伸びの低下が認められた。
Figure 2011058047
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次に、この発明の成分組成範囲内の合金Aを用いて、熱間圧延時の温度の影響について確認を行った。鋳塊は実施例1と同様に厚み400mm、幅1200mm、長さ3500mmに作製し、面削・切断により厚み380mm、幅1200mm、長さ3000mmに切断した。これに475℃×12hrの均質化処理を行い、均質化処理後ファン冷却により急冷し室温まで冷却した。均質化処理後400℃までの平均冷却速度は152℃/hrで、室温における導電率は32.9IACS%であった。その後、熱間圧延のための再加熱を実施した。加熱時の昇温速度は40℃/hrで一定とし、熱間圧延を表4に示す条件で実施し、No.21〜No.28の厚み60mmの圧延板を製造した。さらに475℃×2hrの溶体化処理に続いて水焼入れを行った。焼入れ後、残留応力除去を目的としてストレッチャーにより2%の引張り歪みを付与し、さらに自然時効後、121℃×4hr+163℃×18hrの2段人工時効処理を施して、T7451調質材の製品板とした。
製品板について、金属間化合物の測定を実施例1と同様に行なって、円相当径が5μm以上の金属間化合物の総面積率を調査した。
また機械的特性の評価についても、実施例1と同様にφ6.35mmの丸棒試験片を用いて、LT方向の機械的特性を評価した。これらの結果を表5に示す。
Figure 2011058047
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No.26〜No.28の比較例は、いずれも熱間圧延温度条件がこの発明の範囲を外れた例であるが、これらの場合は、表5に示すように最終板の特性として金属間化合物の面積率が高く、強度、耐力および伸びが低下していることが判明した。これに対して本発明例のNo.21〜No.25では、金属間化合物の面積率も2%以下で、強度・伸びともに良好な値を示していることがわかる。

Claims (3)

  1. Zn5.0〜7.0%(mass%、以下同じ)、Mg1.0〜3.0%、Cu1.0〜3.0%を含有し、かつCr0.05〜0.3%、Zr0.05〜0.25%、Mn0.05〜0.40%、Sc0.05〜0.35%のうちから選ばれた1種もしくは2種以上を合計量が0.05〜0.5%の範囲内で含有し、さらに不純物としてSiを0.25%以下、Feを0.25%以下に規制し、残部がAlおよびその他の不可避的不純物としたAl−Zn−Mg−Cu系アルミニウム合金を用い、その鋳塊に、450〜520℃の範囲内の温度で1時間以上保持する均質化処理を行なった後、鋳塊を冷却する過程において、少なくとも400℃までの平均冷却速度を100℃/hr以上に規制し、その後300〜440℃の範囲内の温度で50mm以上の板厚まで熱間圧延を行なった後、溶体化処理・焼入れおよび人工時効処理を施し、円相当径で5μmを越える金属間化合物の総面積率を2%以下とした厚板を得ることを特徴とする、強度および延性に優れたアルミニウム合金厚板の製造方法。
  2. 請求項1に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法において、
    前記均質化処理後、室温まで冷却した状態で測定した鋳塊の導電率が40IACS%以下となるように制御することを特徴とする、強度および延性に優れたアルミニウム合金厚板の製造方法。
  3. 請求項1に記載のアルミニウム合金厚板の製造方法において、
    前記溶体化処理を、460〜520℃の範囲内の温度で1〜10時間行なうことを特徴とする、強度および延性に優れたアルミニウム合金厚板の製造方法。
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