JP5059505B2 - 高強度で成形が可能なアルミニウム合金冷延板 - Google Patents
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本発明Al合金冷延板における化学成分組成の、各合金元素の意義及びその限定理由について以下に説明する。本発明では、Al合金冷延板として、例えば、引張強度が500MPa以上、600MPa未満である場合の全伸びが10%以上である、高強度でプレス成形が可能な特性を有する。このような、高強度で、かつ、所望の強度−伸びバランスを得るためには、前提として、冷延板を、Mg:6.0〜15.0質量%を含み、残部がAlおよび不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金組成とする。なお、各元素の含有量の%表示は全て質量%の意味である。
MgはAl合金板の強度、延性を高める重要合金元素である。Mg含有量が少な過ぎると、本発明の高強度でプレス成形が可能な特性が出ず、強度や、あるいは延性(伸び)、成形性が不足する。一方、Mg含有量が多過ぎると、製造方法や条件の制御を行なっても、Al−Mg系化合物の晶析出が多くなる。この結果、延性(伸び)、成形性が著しく低下する。また、加工硬化量が大きくなり、冷間圧延性も低下させる。したがって、Mgは6.0〜15.0%の範囲、好ましくは8%を超え14%以下の範囲とする。
Mn、Cr、Zr、Vなどの遷移元素は、結晶粒内にもβ相を析出させ、結晶粒内のMg系析出物の本発明規定を満足させるための好ましい元素である。即ち、β相析出環境下では、これら結晶粒内の遷移元素の遷移元素系析出物が、結晶粒内のβ相の核生成サイト(駆動力)となって、結晶粒内にもβ相を微細析出させる。これによって、高強度でプレス成形が可能な特性を発揮させる。このため、Mn:1.0%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下の一種または二種以上を選択的に含有させる。
本発明Al−Mg系Al合金冷延板の結晶粒組織は、例えば、引張強度が500MPa以上、600MPa未満である場合の全伸びが10%以上であり、高強度で、プレス成形が可能であるような特性をもたせるために重要となる。このために、本発明結晶粒組織は、板厚方向の平均結晶粒径が30μm以下であり、かつ圧延方向の平均結晶粒径と板厚方向の平均結晶粒径との比であるアスペクト比が平均で3.0以上とする。
アルミニウム合金冷延板の結晶粒を、通常の等軸粒ではなく、平均圧延方向の平均結晶粒径と板厚方向の平均結晶粒径との比であるアスペクト比が、平均で3.0以上の、圧延方向に伸長させたものにすることによって、前記した高強度でプレス成形が可能な特性をもたせることができる。
結晶粒のアスペクト比は、板厚方向中央部の上面観察(偏光観察)によって測定される。冷間圧延後で、最終焼鈍などの調質処理後の冷延板の板厚方向中央部、圧延面上面を、機械研磨、電解研磨、およびバーカー液による陽極酸化処理後、偏光観察によって行う。
また、ここで、前記した測定において、個々の結晶粒の板厚方向の最大長さの平均値を、板厚方向の平均結晶粒径とする。この板厚方向の平均結晶粒径が30μmを超えて粗大化した場合、前記した高強度でプレス成形が可能な特性をもたせることができない。
本発明Al−Mg系Al合金冷延板では、結晶粒内のMg系析出物(Al−Mg系化合物)をナノレベルに微細に析出させて強度−伸びバランスを向上させる。結晶粒内のMg系析出物の析出状態は、塑性変形挙動に大きく影響し、これまで説明した前記他の要件と同様に、本発明Al−Mg系Al合金冷延板に、上記した高強度でプレス成形が可能であるような特性をもたせるために重要となる。したがって、より具体的には、本発明結晶粒内析出物組織は、結晶粒内のMg系析出物の平均粒径が各析出物の球相当径で換算して100nm以下であるとともに、これらMg系析出物の平均数密度が4×104 個/μm3 以下であることとする。
Al−Mg系Al合金冷延板の板厚中心部から試料を採取し、試料表面を0.05〜0.1mm機械研磨した後、電解エッチングした表面 (板厚方向でも板の長手方向でもどちらでも良い) を、20000倍のFE−TEM(透過型電子顕微鏡)により観察する。板厚中心部におけるFE−TEMによる組織観察は、板厚中心部1 箇所につき、観察視野の合計面積が4μm2 以上となるように行い、これを板の長手方向に適当に距離を置いた10箇所観察する。また、各観察位置の膜厚に関しては、等厚干渉縞により求める。そして、各々観察される結晶粒内の各Mg系析出物の、球相当径で換算した粒径と、単位体積当たりの数密度とを求めて、各々平均化する。
以下に、本発明におけるAl−Mg系Al合金冷延板の製造方法につき説明する。以上説明した、本発明の平均結晶粒径、平均アスペクト比、結晶粒内のMg系析出物の規定を満足させるためには、好ましくは等軸な再結晶組織を有するようなAl−Mg系Al合金板を、冷間圧延して、冷延板とすることが必須となる。言い換えると、冷間圧延しなければ、本発明のような平均結晶粒径、平均アスペクト比、結晶粒内のMg系析出物の規定を満足できない。
ただ、通常の製造方法にするにしても、双ロール式にするにしても、本発明の冷延板組織とするためには、冷延される前の板を、予め等軸な再結晶組織を有するものとすることが好ましい。これに対して、冷延される前の板が加工組織を有していた場合には、冷延の途中で板が、Mg系析出物であるβ相による割れを生じる可能性が高く、結果として、本発明の平均結晶粒径、平均アスペクト比、結晶粒内のMg系析出物の規定を満足できなくなる可能性が高くなる。
冷延後のAl合金板は、β相を出さず、かつ強度を低下させずに、結晶粒をサブグレイン化でき、伸びを改善できる回復効果を得るために、低温短時間の最終焼鈍を施す。この低温短時間の最終焼鈍は、溶体化効果が得られる400℃以上の比較的高温の通常の最終焼鈍とは異なり、焼鈍温度は250℃以下の低温とする。
このように得られた最終焼鈍後のAl−Mg系Al合金板の長手方向( 圧延方向) に亙って、互いの間隔を100mm以上開けた任意の測定箇所、10箇所における板厚中心部から試料を採取し、前記した各測定方法により、平均結晶粒径(μm )、アスペクト比、結晶粒内のMg系析出物の平均粒径(μm )、数密度(個/μm2) を各々測定した。表3 に測定結果を示す。ここで、FE−TEMは日立製作所製電界放射型透過電子顕微鏡:HF−2000を用いた。
引張試験はJIS Z 2201にしたがって行うとともに、試験片形状はJIS 5 号試験片で行い、試験片長手方向が圧延方向と一致するように作製した。また、クロスヘッド速度は5mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
Claims (4)
- Mg:6.0〜15.0質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl−Mg系アルミニウム合金冷延板であって、この冷延板の板厚方向の平均結晶粒径が30μm以下であり、かつ圧延方向の平均結晶粒径と板厚方向の平均結晶粒径との比であるアスペクト比が平均で3.0以上であり、結晶粒内のMg系析出物の平均粒径が各析出物の球相当径で換算して100nm以下であるとともに、これらMg系析出物の平均数密度が4×104 個/μm3 以下であり、圧延方向の引張強度が500MPa以上で、全伸びが10%以上であることを特徴とするアルミニウム合金冷延板。
- 前記アルミニウム合金冷延板が、等軸な再結晶組織を有するAl−Mg系アルミニウム合金板を冷間圧延、調質した冷延板である請求項1に記載のアルミニウム合金冷延板。
- 前記アルミニウム合金冷延板が、更に、質量%で、Mn:0.3%以下、Cr:0.3%以下、Zr:0.3%以下、V:0.3%以下の一種または二種以上を含む請求項1または2に記載のアルミニウム合金冷延板。
- 前記アルミニウム合金冷延板が、更に、質量%で、Cu:0.14%以下、Fe:0.37%以下、Si:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Zn:0.33%以下の含有を許容する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金冷延板。
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