以下本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明の光学フィルムは、少なくともセルロースエステル樹脂と前記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とし、かかる構成により、セルロースエステル光学フィルムを製造する際に生じる流延済みフィルムの端部、切り屑、塊状溶融物等を再利用しながら、光学特性が良好で、馬の背故障や凸状故障等のフィルム原反の変形故障が発生しない光学フィルムを提供するものである。
前記一般式(1)で表される化合物は、セルロースエステル光学フィルムの構成材料に対する酸化防止、光または熱によるラジカル種基因の分解反応を抑制または禁止する等、様々な分解反応を含めて、フィルムの着色や分子量低下に代表される変質や機械特性の劣化、あるいは構成材料の分解に伴い発生する揮発成分を抑制することを可能とすることを一つの目的とする。
特に、加熱溶融法によるセルロースエステル光学フィルムの製造過程においては、フィルム構成材料の加熱溶融処理により、高温環境に晒されることによる分解反応が著しくなり、この分解反応によって、着色度の上昇や分子量の低下に由来したフィルム構成材料の強度劣化を伴うことがある。また、この様なフィルム構成材料の分解等により、好ましくない揮発成分の発生も併発することもある。
上記のような課題に対し、フィルム構成材料を加熱溶融するときに、本発明に係る前記一般式(1)で表される化合物を共存させることで、フィルム構成材料の劣化や分解に起因する強度劣化を抑制し、形成されたセルロースエステル光学フィルムの所望の強度を維持できる。特に、本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法の特徴であるセルロースエステルの一部にセルロースエステルフィルムの返材を用いる場合には、特に顕著な効果を発現する。
また、本発明に係る前記一般式(1)で表される化合物の添加により、加熱溶融時における可視光領域での着色物生成を抑制すること、あるいは揮発成分がフィルム中に混入することによって生じる透過率やヘイズ値といった光学フィルムの光学特性への影響を抑制することができる。
また、セルロースエステル光学フィルムは通常巻芯に巻かれてフィルム原反となり、保存、輸送されているが、前記一般式(1)で表される化合物を共存させることにより、前述のようにフィルム構成材料の強度劣化を抑制し、またフィルム材料の固有強度を維持することができ、その結果、セルロースエステルフィルムの返材をフィルム構成材料とした時の物性劣化による馬の背故障や凸状故障等のフィルム原反の変形故障等のセルロースエステル光学フィルムの製造過程で生じる各課題の発生を防止することができる。
このように前記一般式(1)で表される化合物は、特に返材を用いた場合に顕著な効果を発現するが、これは前記一般式(1)で表される化合物が長期間に渡って分解抑制機能を維持しているからと推測する。
前記一般式(1)で表される化合物はホスファイト系化合物に属するが、このホスファイト系化合物はリン原子が分解抑制反応に関与している。通常、リン原子の周りの置換基の大きさにより分解抑制能が左右され、置換基の立体障害が大きい程分解抑制能が低く、置換基の立体障害が小さい程分解抑制能が高い。一方、ホスファイト系化合物は加水分解しやすいという欠点があり、リン原子の周りの置換基の立体障害が大きい程加水分解しにくく、置換基の立体障害が小さい程加水分解しやすい。このように、分解抑制能と加水分解性はトレードオフの関係にあり、従来、ホスファイト系化合物を使用するにあたり、この点に注意して、目的、用途に応じて化合物を使い分けていた。しかしながら、本発明に係る返材を用いるという長期間に渡る分解抑制においは、どのようなホスファイト系化合物がそのような目的に適しているのか、従来知られていなかった。本発明に係る前記一般式(1)で表される化合物は、リン原子に結合するフェノール誘導体の酸素原子に対してオルト位とパラ位がフェニル基を有する三級炭素で置換されており、詳細な理由は不明であるが、その部分が長期間に渡る分解抑制能の維持に寄与しているものと推測している。
以下、一般式(1)で表される化合物について説明する。
《一般式(1)で表される化合物》
本発明の前記一般式(1)の化合物について詳細に説明する。
前記一般式(1)において、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11は水素原子またはアルキル基を表す。R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11で表されるアルキル基として例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11がそれぞれアルキル基を表すとき、R1とR2、R4とR5、R7とR8、またはR10とR11は互いに結合して環を形成してもよい。
R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11で表されるアルキル基は置換基を有しても良く、該置換基としては例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、2−プロペニル基、3−ブテニル基、1−メチル−3−プロペニル基、3−ペンテニル基、1−メチル−3−ブテニル基、4−ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、沃素原子等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、複素環基(例えば、ピリジル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イミダゾリル基等)、アルキルスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基等)、アルキルスルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(例えば、フェニルスルフィニル基等)、ホスホノ基、アシル基(例えば、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基等)、シアノ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、複素環オキシ基、シロキシ基、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等)、アミノカルボニルオキシ基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ基、クロロフェニルアミノ基、トルイジノ基、アニシジノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等)、イミド基、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ基、フェノキシカルボニルアミノ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェノキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル基等)、複素環チオ基、チオウレイド基、ヒドロキシル基、メルカプト基等の各基が挙げられる。これらの置換基は更に同様の置換基によって置換されていてもよい。
前記一般式(1)において、R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11はメチル基が特に好ましい。
前記一般式(1)において、R3,R6、R9及びR12は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基を表す。R3,R6、R9及びR12で表されるアルキル基として例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。R3,R6、R9及びR12で表されるシクロアルキル基として例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基等を挙げることができる。R3,R6、R9及びR12で表されるアリール基として例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナンスリル基等を挙げることができる。
R3,R6、R9及びR12で表されるアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基は置換基を有しても良く、該置換基としては例えば、前記R1、R2、R4、R5、R7、R8、R10及びR11がアルキル基を表すときに有してもよい置換基と同様の基を挙げることができる。
前記一般式(1)において、R3,R6、R9及びR12はアルキル基が好ましい。
前記一般式(1)において、n1、n2、n3及びn4は0〜3の整数を表し、n1、n2、n3及びn4が2以上のとき、それぞれ複数のR3,R6、R9及びR12は同じであっても異なっていてもよい。
前記一般式(1)において、n1、n2、n3及びn4は0が好ましい。
本発明において、前記一般式(1)で表される化合物の添加量は本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、セルロースエステル100質量部に対して、通常0.0001〜1.0質量部、好ましくは0.001〜0.5質量部、更に好ましくは、0.01〜0.3質量部である。これらは2種以上を併用してもよい。
以下に、本発明に係る前記一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、一般式(1)で表される化合物は下記合成例に従って合成されるが、市販もされており、その一例として、ドーバー・ケミカル・コーポレーションのDoverphos S−9228が挙げられる。
(合成例)
以下、本発明に係る前記一般式(1)で表される化合物の合成法を具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
合成例1
(例示化合物1の合成)
n−ヘプタン150mlとトルエン150mlの混合溶媒に、2,4−ジクミルフエノール150gを添加して35℃に加熱した。その後撹拌しながら三塩化リン62.6gを滴下して、その反応混合物を90℃に加熱した。90℃で3時間撹拌した後、45℃に冷却し、そこへペンタエリスリトール31.4gを分割添加した。その後50℃で3時間撹拌した後、n−ヘプタン150mlを添加して100℃に8時間加熱した。その後、析出した固体をろ過し、乾燥することで白色の固体129gを得た。得られた固体を1H−NMR及びMASSスペクトルで分析することにより、例示化合物1であることが確認された。
《セルロースエステル光学フィルム》
次に、本発明のセルロースエステル光学フィルムの詳細について説明する。
本発明においてセルロースエステル光学フィルムとは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等の各種表示装置に用いられる機能フィルムのことであり、詳しくは液晶表示装置用の偏光板保護フィルム、位相差フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム、ハードコートフィルム、防眩フィルム、帯電防止フィルム、視野角拡大等の光学補償フィルム等を含む。
本発明のセルロースエステル光学フィルムの基材となる樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、セルロースエステル系樹脂単独、或いはセルロースエステル系樹脂に加えて、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル系樹脂(共重合体も含む)、オレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、環状共役ジエン系樹脂、ビニル脂環式炭化水素系樹脂等)、セルロースエーテル系樹脂、ビニル系樹脂(ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等も含む)等の樹脂を併用したものを挙げることができる。この中で、セルロースエステル系樹脂単独、或いはセルロースエステル系樹脂にアクリル系樹脂を併用させたものが好ましい。
セルロースエステル系樹脂以外の樹脂の含有量としては0.1〜70質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムは、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、光学補償フィルムに好ましく用いられる。位相差フィルムが偏光板保護フィルムを兼ねてもよい。
《セルロースエステル》
次に、本発明に係るセルロースエステル光学フィルム(以下、単にセルロースエステルフィルム、光学フィルムという場合もある。)について、詳述する。
本発明のセルロースエステル光学フィルムは、溶融流延法により製造される。溶融流延法はフィルム製造時の有機溶媒使用量を、大幅に少なくすることができるため、従来の有機溶媒を多量に使用する溶液流延法に比較して、環境適性が大幅に向上したフィルムが得られるため好ましい。
本発明における溶融流延とは、溶媒を用いずにセルロースエステルを流動性を示す温度まで加熱溶融しこれを用いて製膜する方法であり、例えば流動性のセルロースエステルをダイスから押し出して製膜する方法である。なお溶融セルロースエステルを調製する過程の一部で溶媒を使用してもよいが、フィルム状に成形を行う溶融製膜プロセスにおいては溶媒を用いずに成形加工する。
セルロースエステル光学フィルムを構成するセルロースエステルとしては、溶融製膜可能なセルロースエステルであれば特に限定はされず、例えば芳香族カルボン酸エステル等も用いられるが、光学特性等の得られるフィルムの特性を鑑みると、セルロースの低級脂肪酸エステルを使用するのが好ましい。本発明においてセルロースの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは炭素原子数が5以下の脂肪酸を意味し、例えばセルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースピバレート等がセルロースの低級脂肪酸エステルの好ましいものとして挙げられる。炭素原子数が6以上の脂肪酸で置換されたセルロースエステルでは、溶融製膜性は良好であるものの、得られるセルロースエステルフィルムの力学特性が低く、実質的に光学フィルムとして用いることが難しいためである。力学特性と溶融製膜性の双方を両立させるために、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等のように混合脂肪酸エステルを用いてもよい。また、セルロースアセテートの残存ヒドロキシ基に、ヒドロキシ酸(例えば、ラクチド、ε−カプロラクトン等)が重合したセルロースエステルのグラフト体と用いてもよい。なお溶液流延製膜で一般に用いられているセルロースエステルであるトリアセチルセルロースについては、分解温度よりも溶融温度の方が高いセルロースエステルであるため、溶融製膜には用いることは困難である。
上記セルロースエステルの中でも、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが好ましく用いられる。
次に、本発明に用いられるセルロースエステルのアシル基の置換度について説明する。
セルロースには、1グルコース単位の2位、3位、6位に1個ずつ、計3個の水酸基があり、総置換度とは、平均して1グルコース単位にいくつのアシル基が結合しているかを示す数値である。従って、最大の置換度は3.0である。これらアシル基は、グルコース単位の2位、3位、6位に平均的に置換していてもよいし、分布をもって置換していてもよい。
混合脂肪酸エステルの置換度として、更に好ましいセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートの低級脂肪酸エステルは炭素原子数2〜4のアシル基を置換基として有し、アセチル基の置換度をXとし、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時、下記式(I)、(II)及び(III)を同時に満たすセルロースエステルを含むセルロース樹脂である。なお、アセチル基の置換度と他のアシル基の置換度は、ASTM−D817−96に規定の方法により求めたものである。
式(I) 2.3≦X+Y≦3.0
式(II) 0≦X≦2.9
式(III) 0.5≦Y≦2.9
この内、特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられ、中でも0.6≦X≦2.4であり、0.7≦Y≦2.0であることが好ましい。アシル基の置換度の異なるセルロースエステルをブレンドして、セルロースエステルフィルム全体として上記範囲に入っていてもよい。上記アシル基で置換されていない部分は通常水酸基として存在しているものである。これらは公知の方法で合成することができる。
本発明に用いられるセルロースエステルは、50000〜150000の数平均分子量(Mn)を有することが好ましく、55000〜120000の数平均分子量を有することが更に好ましく、60000〜100000の数平均分子量を有することが最も好ましい。
更に、本発明に用いられるセルロースエステルは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比が1.3〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは1.5〜5.0であり、更に好ましくは1.7〜4.0であり、更に好ましくは2.0〜3.5のセルロースエステルが好ましく用いられる。
なお、Mn及びMw/Mnは下記の要領で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより算出した。
測定条件は以下の通りである。
溶媒 :テトヒドロフラン
装置 :HLC−8220(東ソー(株)製)
カラム :TSKgel SuperHM−M(東ソー(株)製)
カラム温度:40℃
試料濃度 :0.1質量%
注入量 :10μl
流量 :0.6ml/min
校正曲線 :標準ポリスチレン:PS−1(Polymer Laboratories社製)Mw=2,560,000〜580までの9サンプルによる校正曲線を使用した。
本発明で用いられるセルロースエステルの原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロースエステルは適宜混合して、或いは単独で使用することができる。
例えば、綿花リンター由来セルロースエステル:木材パルプ(針葉樹)由来セルロースエステル:木材パルプ(広葉樹)由来セルロースエステルの比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
セルロースエステルは、例えば、原料セルロースの水酸基を無水酢酸、無水プロピオン酸及び/または無水酪酸を用いて常法によりアセチル基、プロピオニル基及び/またはブチル基を上記の範囲内に置換することで得られる。このようなセルロースエステルの合成方法は、特に限定はないが、例えば、特開平10−45804号或いは特表平6−501040号に記載の方法を参考にして合成することができる。
本発明に用いられるセルロースエステルのアルカリ土類金属含有量は、1〜50ppmの範囲であることが好ましい。50ppmを超えるとリップ付着汚れが増加或いは熱延伸時や熱延伸後でのスリッティング部で破断しやすくなる。1ppm未満でも破断しやすくなるがその理由はよく分かっていない。1ppm未満にするには洗浄工程の負担が大きくなり過ぎるためその点でも好ましくない。更に1〜30ppmの範囲が好ましい。ここでいうアルカリ土類金属とはCa、Mgの総含有量のことであり、X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて測定することができる。
本発明に用いられるセルロースエステル中の残留硫酸含有量は、硫黄元素換算で0.1〜45ppmの範囲であることが好ましい。これらは塩の形で含有していると考えられる。残留硫酸含有量が45ppmを超えると熱溶融時のダイリップ部の付着物が増加するため好ましくない。また、熱延伸時や熱延伸後でのスリッティングの際に破断しやすくなるため好ましくない。少ない方が好ましいが、0.1未満とするにはセルロースエステルの洗浄工程の負担が大きくなり過ぎるため好ましくないだけでなく、逆に破断しやすくなることがあり好ましくない。これは洗浄回数が増えることが樹脂に影響を与えているのかもしれないがよく分かっていない。更に1〜30ppmの範囲が好ましい。残留硫酸含有量は、ASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
本発明に用いられるセルロースエステル中の遊離酸含有量は、1〜500ppmであることが好ましい。500ppmを超えるとダイリップ部の付着物が増加し、また破断しやすくなる。洗浄で1ppm未満にすることは困難である。更に1〜100ppmの範囲であることが好ましく、更に破断しにくくなる。特に1〜70ppmの範囲が好ましい。遊離酸含有量はASTM−D817−96に規定の方法により測定することができる。
合成したセルロースエステルの洗浄を、溶液流延法に用いられる場合に比べて、更に十分に行うことによって、残留酸含有量を上記の範囲とすることができ、溶融流延法によってフィルムを製造する際に、リップ部への付着が軽減され、平面性に優れるフィルムが得られ、寸法変化、機械強度、透明性、耐透湿性、後述するRt値、Ro値が良好なフィルムを得ることができる。また、セルロースエステルの洗浄は、水に加えて、メタノール、エタノールのような貧溶媒、或いは結果として貧溶媒であれば貧溶媒と良溶媒の混合溶媒を用いることができ、残留酸以外の無機物、低分子の有機不純物を除去することができる。更に、セルロースエステルの洗浄は、ヒンダードアミン、亜リン酸エステルといった酸化防止剤の存在下で行うことが好ましく、セルロースエステルの耐熱性、製膜安定性が向上する。
また、セルロースエステルの耐熱性、機械物性、光学物性等を向上させるため、セルロースエステルの良溶媒に溶解後、貧溶媒中に再沈殿させ、セルロースエステルの低分子量成分、その他不純物を除去することができる。この時、前述のセルロースエステルの洗浄同様に、酸化防止剤の存在下で行うことが好ましい。
更に、セルロースエステルの再沈殿処理の後、別のポリマー或いは低分子化合物を添加してもよい。
また、本発明で用いられるセルロースエステルはフィルムにした時の輝点異物が少ないものであることが好ましい。輝点異物とは、2枚の偏光板を直交に配置し(クロスニコル)、この間にセルロースエステルフィルムを配置して、一方の面から光源の光を当てて、もう一方の面からセルロースエステルフィルムを観察した時に、光源の光が漏れて見える点のことである。このとき評価に用いる偏光板は輝点異物がない保護フィルムで構成されたものであることが望ましく、偏光子の保護にガラス板を使用したものが好ましく用いられる。輝点異物はセルロースエステルに含まれる未酢化もしくは低酢化度のセルロースがその原因の1つと考えられ、輝点異物の少ないセルロースエステルを用いる(置換度の分散の小さいセルロースエステルを用いる)ことと、溶融したセルロースエステルを濾過すること、或いはセルロースエステルの合成後期の過程や沈殿物を得る過程の少なくともいずれかにおいて、一度溶液状態として同様に濾過工程を経由して輝点異物を除去することもできる。溶融樹脂は粘度が高いため、後者の方法の方が効率がよい。
フィルム膜厚が薄くなるほど単位面積当たりの輝点異物数は少なくなり、フィルムに含まれるセルロースエステルの含有量が少なくなるほど輝点異物は少なくなる傾向があるが、輝点異物は、輝点の直径0.01mm以上が200個/cm2以下であることが好ましく、100個/cm2以下であることがより好ましく、50個/cm2以下であることが更に好ましく、30個/cm2以下であることがさらにより好ましく、10個/cm2以下であることが更に好ましいが、皆無であることが最も好ましい。また、0.005〜0.01mm以下の輝点についても200個/cm2以下であることが好ましく、100個/cm2以下であることがより好ましく、50個/cm2以下であることがさらにより好ましく、30個/cm2以下であることが更に好ましく、10個/cm2以下であることが更に好ましいが、皆無であることが最も好ましい。
輝点異物を溶融濾過によって除去する場合、セルロースエステルを単独で溶融させたものを濾過するよりも可塑剤、劣化防止剤、酸化防止剤等を添加混合したセルロースエステル組成物を濾過することが輝点異物の除去効率が高く好ましい。もちろん、セルロースエステルの合成の際に溶媒に溶解させて濾過により低減させてもよい。紫外線吸収剤、その他の添加物も適宜混合したものを濾過することができる。濾過はセルロースエステルを含む溶融物の粘度が10000Pa・s以下で濾過されることが好ましく、5000Pa・s以下がより好ましく、1000Pa・s以下が更に好ましく、500Pa・s以下であることがさらにより好ましい。濾材としては、ガラス繊維、セルロース繊維、濾紙、四フッ化エチレン樹脂等の弗素樹脂等の従来公知のものが好ましく用いられるが、特にセラミックス、金属等が好ましく用いられる。絶対濾過精度としては50μm以下のものが好ましく用いられ、30μm以下のものがより好ましく、10μm以下のものがさらにより好ましく、5μm以下のものが更に好ましく用いられる。これらは適宜組み合わせて使用することもできる。濾材はサーフェースタイプでもデプスタイプでも用いることができるが、デプスタイプの方が比較的目詰まりしにくく好ましく用いられる。
別の実施態様では、原料のセルロースエステルは少なくとも一度溶媒に溶解させた後、溶媒を乾燥させたセルロースエステルを用いてもよい。その際には可塑剤、紫外線吸収剤、劣化防止剤、酸化防止剤及びマット剤の少なくとも1つ以上と共に溶媒に溶解させた後、乾燥させたセルロースエステルを用いる。溶媒としては、メチレンクロライド、酢酸メチル、ジオキソラン等の溶液流延法で用いられる良溶媒を用いることができ、同時にメタノール、エタノール、ブタノール等の貧溶媒を用いてもよい。溶解の過程で−20℃以下に冷却したり、80℃以上に加熱したりしてもよい。このようなセルロースエステルを用いると、溶融状態にした時の各添加物を均一にしやすく、光学特性を均一にできることがある。
本発明のセルロースエステル光学フィルムはセルロースエステル以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにした時の透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。
《酸化防止剤》
本発明のセルロースエステル光学フィルムの基材となる樹脂は、熱だけでなく酸素によっても分解が促進されるため、本発明のセルロースエステル光学フィルムにおいては安定化剤として酸化防止剤を含有することが好ましい。
特に、溶融製膜が行われるような高温環境下では、フィルム成形材料の熱、及び酸素による分解が促進されるため、酸化防止剤を含有することが好ましい。
本発明において有用な酸化防止剤としては、酸素によるフィルム成形材料の劣化を抑制する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも有用な酸化防止剤としては、フェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、イオウ系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾフラノン系化合物、酸素スカベンジャー等が挙げられ、これらの中でも、特にフェノール系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾフラノン系化合物が好ましい。これらの化合物を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、熱や熱酸化劣化等による成形体の着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
(フェノール系化合物)
フェノール系化合物は既知の化合物であり、例えば、米国特許第4,839,405号明細書の第12〜14欄に記載されており、2,6−ジアルキルフェノール誘導体化合物が含まれる。このような化合物のうち好ましい化合物として、下記一般式(A)で表される化合物が好ましい。
式中、R111〜R116は水素原子または置換基を表す。置換基としては、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子等)、アルキル基(例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ヒドロキシエチル基、メトキシメチル基、トリフルオロメチル基、t−ブチル基等)、シクロアルキル基(例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アラルキル基(例えばベンジル基、2−フェネチル基等)、アリール基(例えばフェニル基、ナフチル基、p−トリル基、p−クロロフェニル基等)、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、シアノ基、アシルアミノ基(例えばアセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、ブチルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)、スルホニルアミノ基(例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基等)、ウレイド基(例えば3−メチルウレイド基、3,3−ジメチルウレイド基、1,3−ジメチルウレイド基等)、スルファモイルアミノ基(ジメチルスルファモイルアミノ基等)、カルバモイル基(例えばメチルカルバモイル基、エチルカルバモイル基、ジメチルカルバモイル基等)、スルファモイル基(例えばエチルスルファモイル基、ジメチルスルファモイル基等)、アルコキシカルボニル基(例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル基等)、スルホニル基(例えばメタンスルホニル基、ブタンスルホニル基、フェニルスルホニル基等)、アシル基(例えばアセチル基、プロパノイル基、ブチロイル基等)、アミノ基(メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基等)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、ニトロソ基、アミンオキシド基(例えばピリジン−オキシド基)、イミド基(例えばフタルイミド基等)、ジスルフィド基(例えばベンゼンジスルフィド基、ベンゾチアゾリル−2−ジスルフィド基等)、カルボキシル基、スルホ基、ヘテロ環基(例えば、ピロール基、ピロリジル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ピリジル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、ベンズオキサゾリル基等)等が挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。
また、R111は水素原子、R112、R116はt−ブチル基であるフェノール系化合物が好ましい。フェノール系化合物の具体例としては、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−アセテート、n−オクタデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、n−ヘキシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、n−ドデシル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルベンゾエート、ネオ−ドデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ドデシルβ(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)イソブチレート、オクタデシルα−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(n−オクチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾエート、2−(2−ヒドロキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ジエチルグリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−フェニル)プロピオネート、2−(n−オクタデシルチオ)エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ステアルアミドN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、n−ブチルイミノN,N−ビス−[エチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2−ステアロイルオキシエチルチオ)エチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,2−プロピレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ネオペンチルグリコールビス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレングリコールビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、グリセリン−l−n−オクタデカノエート−2,3−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス−[3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス−{2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、1,1,1−トリメチロールエタン−トリス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ソルビトールヘキサ−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−ヒドロキシエチル7−(3−メチル−5−tブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2−ステアロイルオキシエチル7−(3−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ヘプタノエート、1,6−n−ヘキサンジオール−ビス[(3′,5′−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナメート)が含まれる。
上記タイプのフェノール化合物は、例えば、チバ・ジャパン株式会社から、“Irganox1076”及び“Irganox1010”という商品名で市販されている。
(ヒンダードアミン系化合物)
本発明において有用な酸化防止剤の一つとして、下記一般式(B)で表されるヒンダードアミン系化合物が好ましい。
式中、R121〜R127は置換基を表す。置換基としては前記一般式(A)のR111〜R116で表される置換基と同義である。R124は水素原子、メチル基、R127は水素原子、R122、R123、R125、R126はメチル基が好ましい。
ヒンダードアミン系化合物の具体例としては、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)スクシネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−オクトキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−ベンジルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(N−シクロヘキシルオキシ−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1−アクロイル−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)2,2−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)デカンジオエート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルメタクリレート、4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−1−[2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アミノ−N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート等が挙げられる。
また、高分子タイプの化合物でもよく、具体例としては、N,N′,N″,N″′−テトラキス−[4,6−ビス−〔ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ〕−トリアジン−2−イル]−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジン−N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、1,6−ヘキサンジアミン−N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ[(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)〔(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕]等の、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物等の、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物等で、数平均分子量(Mn)が2,000〜5,000のものが好ましい。
上記タイプのヒンダードアミン化合物は、例えば、チバ・ジャパン株式会社から、“Tinuvin144”及び“Tinuvin770”、株式会社ADEKAから“ADK STAB LA−52”という商品名で市販されている。
(イオウ系化合物)
本発明において有用な酸化防止剤の一つとして、下記一般式(D)で表されるイオウ系化合物が好ましい。
式中、R131及びR132は置換基を表す。置換基としては前記一般式(A)のR111〜R116で表される置換基と同義である。
イオウ系化合物の具体例としては、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられる。
上記タイプのイオウ系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“Sumilizer TPL−R”及び“Sumilizer TP−D”という商品名で市販されている。
(アクリレート系化合物)
アクリレート系化合物としては、2−tert−ブチル−6−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−tert−ペンチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
上記タイプのアクリレート系化合物は、例えば、住友化学株式会社から、“SumilizerGM”及び“SumilizerGS”という商品名で市販されている。
(ベンゾフラノン系化合物)
ベンゾフラノン系化合物としては、3−[4−(2−アセトキシエトキシ)フェニル]−5,7−ジ第三ブチルベンゾフラン−2−オン、5,7−ジ第三ブチル−3−[4−(2−ステアロイルオキシエトキシ)フェニル]ベンゾフラン−2−オン、3,3’−ビス[5,7−ジ第三ブチル−3−(4−[2−ヒドロキシエトキシ]フェニル)ベンゾフラン−2−オン]、5,7−ジ第三ブチル−3−(4−メトキシフェニル)ベンゾフラン−2−オン、5,7−ジ第三ブチル−3−フェニルベンゾフラン−2−オン、5,7−ジ第三ブチル−4−メチル−3−フェニルベンゾフラン−2−オン、3−(4−アセトキシ−3,5−ジメチルフェニル)−5,7−ジ第三ブチルベンゾフラン−2−オン、3−(3,5−ジメチル−4−ピバロイルオキシフェニル)−5,7−ジ第三ブチルベンゾフラン−2−オン、3−(3,4−ジメチルフェニル)−5,7−ジ第三ブチルベンゾフラン−2−オン、3−(2,3−ジメチルフェニル)−5,7−ジ第三ブチル−ベンゾフラン−2−オン等が挙げられる。
上記タイプのベンゾフラノン系化合物は、例えば、チバ・ジャパン株式会社から“HP−136”という商品名で市販されている。
酸化防止剤は、前述のセルロースエステル同様に、製造時から持ち越される、或いは保存中に発生する残留酸、無機塩、有機低分子等の不純物を除去することが好ましく、より好ましくは純度99%以上である。残留酸及び水としては、0.01〜100ppmであることが好ましく、セルロースエステルを溶融製膜する上で、熱劣化を抑制でき、製膜安定性、フィルムの光学物性、機械物性が向上する。
本発明においては、これらの酸化防止剤は、樹脂に対して各々0.01〜10質量%添加することが好ましく、更に0.1〜5質量%添加することが好ましく、更に0.2〜2質量%添加することが好ましい。これらの酸化防止剤は、一種のみを用いるよりも数種の異なった系の化合物を併用することで相乗効果を得ることができる。例えば、フェノール系化合物、アクリレート系化合物、ベンゾフラノン系化合物の併用は好ましい。
《酸捕捉剤》
セルロースエステルは、溶融製膜が行われるような高温環境下では酸によっても分解が促進されるため、本発明のセルロースエステル光学フィルムにおいては安定化剤として酸捕捉剤を含有することが好ましい。本発明において有用な酸捕捉剤としては、酸と反応して酸を不活性化する化合物であれば制限なく用いることができるが、中でも米国特許第4,137,201号明細書に記載されているような、エポキシ基を有する化合物が好ましい。このような酸捕捉剤としてのエポキシ化合物は当該技術分野において既知であり、種々のポリグリコールのジグリシジルエーテル、特にポリグリコール1モル当たりに約8〜40モルのエチレンオキシド等の縮合によって誘導されるポリグリコール、グリセロールのジグリシジルエーテル等、金属エポキシ化合物(例えば、塩化ビニルポリマー組成物において、及び塩化ビニルポリマー組成物と共に、従来から利用されているもの)、エポキシ化エーテル縮合生成物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(即ち、4,4′−ジヒドロキシジフェニルジメチルメタン)、エポキシ化不飽和脂肪酸エステル(特に、2〜22個の炭素原子の脂肪酸の4〜2個程度の炭素原子のアルキルのエステル(例えば、ブチルエポキシステアレート)等)、及び種々のエポキシ化長鎖脂肪酸トリグリセリド等(例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等)の組成物によって代表され例示され得るエポキシ化植物油及び他の不飽和天然油(これらはときとしてエポキシ化天然グリセリドまたは不飽和脂肪酸と称され、これらの脂肪酸は一般に12〜22個の炭素原子を含有している)が含まれる。また、市販のエポキシ基含有エポキシド樹脂化合物として、EPON 815C、及び下記一般式(E)の他のエポキシ化エーテルオリゴマー縮合生成物も好ましく用いることができる。
式中、nは0〜12の整数である。用いることができるその他の酸捕捉剤としては、特開平5−194788号公報の段落87〜105に記載されているものが含まれる。
酸捕捉剤は0.1〜10質量%添加することが好ましく、更に0.2〜5質量%添加することが好ましく、更に0.5〜2質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
なお酸捕捉剤は、樹脂に対して酸掃去剤、酸捕獲剤、酸キャッチャー等と称されることもあるが、本発明においてはこれらの呼称による差異なく用いることができる。
《紫外線吸収剤》
紫外線吸収剤は、偏光子や表示装置の紫外線に対する劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。本発明に用いられる紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物、トリアジン系化合物等を挙げることができるが、ベンゾフェノン系化合物や着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号、同8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号、特開2003−113317号公報記載の高分子紫外線吸収剤を用いてもよい。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−(2−オクチルオキシカルボニルエチル)−フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(1−メチル−1−フェニルエチル)−5′−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)900、チヌビン(TINUVIN)928、チヌビン(TINUVIN)360(いずれもチバ・ジャパン社製)、LA31(株式会社ADEKA社製)、RUVA−100(大塚化学製)が挙げられる。
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明においては、紫外線吸収剤は樹脂に対して0.1〜5質量%添加することが好ましく、更に0.2〜3質量%添加することが好ましく、更に0.5〜2質量%添加することが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
またベンゾトリアゾール構造やトリアジン構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、可塑剤、酸化防止剤、酸掃去剤等の他の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
従来公知の紫外線吸収性ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、RUVA−93(大塚化学製)を単独重合させたポリマー及びRUVA−93と他のモノマーとを共重合させたポリマー等が挙げられる。具体的には、RUVA−93とメチルメタクリレートを3:7の比(質量比)で共重合させたPUVA−30M、5:5の比(質量比)で共重合させたPUVA−50M等が挙げられる。更に、特開2003−113317号公報に記載のポリマー等が挙げられる。
《可塑剤》
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造においては、フィルム成形材料中に少なくとも1種の可塑剤を添加することが好ましい。
可塑剤とは、一般的には高分子中に添加することによって脆弱性を改良したり、柔軟性を付与したりする効果のある添加剤であるが、例えば、本発明における好ましい態様のセルロースエステルの場合、単独での溶融温度よりも溶融温度を低下させるため、また同じ加熱温度においてセルロース樹脂単独よりも可塑剤を含むフィルム構成材料の溶融粘度を低下させるために、可塑剤を添加する。また、セルロースエステルの親水性を改善し、光学フィルムの透湿度改善するためにも添加されるため透湿防止剤としての機能を有する。
ここで、フィルム構成材料の溶融温度とは、該材料が加熱され流動性が発現された状態の温度を意味する。セルロースエステルを溶融流動させるためには、少なくともガラス転移温度よりも高い温度に加熱する必要がある。ガラス転移温度以上においては、熱量の吸収により弾性率或いは粘度が低下し、流動性が発現される。しかしセルロースエステルでは高温下では溶融と同時に熱分解によってセルロースエステルの分子量の低下が発生し、得られるフィルムの力学特性等に悪影響を及ぼすことがあるため、なるべく低い温度でセルロースエステルを溶融させる必要がある。フィルム構成材料の溶融温度を低下させるためには、セルロースエステルのガラス転移温度よりも低い融点またはガラス転移温度をもつ可塑剤を添加することで達成することができる。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムは、可塑剤を好ましくは1〜25質量%含有することを特徴とする光学フィルムである。1質量%よりも少ないと平面性改善の効果が認められず、25質量%よりも多いとブリードアウトが発生しやすくなり、フィルムの経時安定性が低下するために好ましくない。より好ましくは可塑剤を3〜20質量%含有する光学フィルムであり、更に好ましくは5〜15質量%含有する光学フィルムである。
本発明においては、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤はセルロースエステルと親和性が高く、好ましい。
本発明において好ましく用いられるエステル系可塑剤の原料である多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール等を挙げることができる。特に、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパンが好ましい。
多価アルコールエステル系の一つであるエチレングリコールエステル系の可塑剤としては、具体的には、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールジブチレート等のエチレングリコールアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジシクロプロピルカルボキシレート、エチレングリコールジシクロヘキルカルボキシレート等のエチレングリコールシクロアルキルエステル系の可塑剤、エチレングリコールジベンゾエート、エチレングリコールジ4−メチルベンゾエート等のエチレングリコールアリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にエチレングリコール部も置換されていてもよく、エチレングリコールエステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
多価アルコールエステル系の一つであるグリセリンエステル系の可塑剤としては、具体的にはトリアセチン、トリブチリン、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンオレートプロピオネート等のグリセリンアルキルエステル、グリセリントリシクロプロピルカルボキシレート、グリセリントリシクロヘキシルカルボキシレート等のグリセリンシクロアルキルエステル、グリセリントリベンゾエート、グリセリン4−メチルベンゾエート等のグリセリンアリールエステル、ジグリセリンテトラアセチレート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンテトララウレート、等のジグリセリンアルキルエステル、ジグリセリンテトラシクロブチルカルボキシレート、ジグリセリンテトラシクロペンチルカルボキシレート等のジグリセリンシクロアルキルエステル、ジグリセリンテトラベンゾエート、ジグリセリン3−メチルベンゾエート等のジグリセリンアリールエステル等が挙げられる。これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にグリセリン、ジグリセリン部も置換されていてもよく、グリセリンエステル、ジグリセリンエステルの部分構造がポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
その他の多価アルコールエステル系の可塑剤としては、具体的には特開2003−12823号公報の段落30〜33記載の多価アルコールエステル系可塑剤が挙げられる。
これらアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基は、同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキレート基、シクロアルキルカルボキシレート基、アリレート基のミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更に多価アルコール部も置換されていてもよく、多価アルコールの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
上記多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤の中では、アルキル多価アルコールアリールエステルが好ましく、具体的には上記のエチレングリコールジベンゾエート、グリセリントリベンゾエート、ジグリセリンテトラベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、特開2003−12823号公報の段落31記載例示化合物16が挙げられる。
多価カルボン酸エステル系の一つであるジカルボン酸エステル系の可塑剤としては、具体的には、ジドデシルマロネート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート等のアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロペンチルサクシネート、ジシクロヘキシルアジーペート等のアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルサクシネート、ジ4−メチルフェニルグルタレート等のアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジヘキシル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート、ジデシルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3−ジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロヘキシル−1,2−シクロブタンジカルボキシレート、ジシクロプロピル−1,2−シクロヘキシルジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニル−1,1−シクロプロピルジカルボキシレート、ジ2−ナフチル−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート等のシクロアルキルジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤、ジエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、ジシクロプロピルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のアリールジカルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、ジフェニルフタレート、ジ4−メチルフェニルフタレート等のアリールジカルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また一置換でもよく、これらの置換基は更に置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
その他の多価カルボン酸エステル系の可塑剤としては、具体的にはトリドデシルトリカルバレート、トリブチル−meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロヘキシルトリカルバレート、トリシクロプロピル−2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル2−ヒドロキシ−1,2,3−プロパントリカルボキシレート、テトラ3−メチルフェニルテトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボキシレート等のアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、テトラヘキシル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、テトラブチル−1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、テトラシクロプロピル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボキシレート、トリシクロヘキシル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤、トリフェニル−1,3,5−シクロヘキシルトリカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニル−1,2,3,4,5,6−シクロヘキシルヘキサカルボキシレート等のシクロアルキル多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤、トリドデシルベンゼン−1,2,4−トリカルボキシレート、テトラオクチルベンゼン−1,2,4,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アルキルエステル系の可塑剤、トリシクロペンチルベンゼン−1,3,5−トリカルボキシレート、テトラシクロヘキシルベンゼン−1,2,3,5−テトラカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸シクロアルキルエステル系の可塑剤トリフェニルベンゼン−1,3,5−テトラカルボキシレート、ヘキサ4−メチルフェニルベンゼン−1,2,3,4,5,6−ヘキサカルボキシレート等のアリール多価カルボン酸アリールエステル系の可塑剤が挙げられる。これらアルコキシ基、シクロアルコキシ基は、同一でもあっても異なっていてもよく、また1置換でもよく、これらの置換基は更に置換されていてもよい。アルキル基、シクロアルキル基はミックスでもよく、またこれら置換基同志が共有結合で結合していてもよい。更にフタル酸の芳香環も置換されていてよく、ダイマー、トリマー、テトラマー等の多量体でもよい。またフタル酸エステルの部分構造がポリマーの一部、或いは規則的にポリマーへペンダントされていてもよく、酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。
上記多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤の中では、アルキルジカルボン酸アルキルエステルが好ましく、具体的には上記のジオクチルアジペートが挙げられる。
本発明に用いられるその他の可塑剤としては、燐酸エステル系可塑剤、炭水化物エステル系可塑剤、ポリマー可塑剤等が挙げられる。
燐酸エステル系の可塑剤としては、具体的には、トリアセチルホスフェート、トリブチルホスフェート等の燐酸アルキルエステル、トリシクロベンチルホスフェート、シクロヘキシルホスフェート等の燐酸シクロアルキルエステル、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート等の燐酸アリールエステルが挙げられる。これらの置換基は同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
また、エチレンビス(ジメチルホスフェート)、ブチレンビス(ジエチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアルキルホスフェート)、エチレンビス(ジフェニルホスフェート)、プロピレンビス(ジナフチルホスフェート)等のアルキレンビス(ジアリールホスフェート)、フェニレンビス(ジブチルホスフェート)、ビフェニレンビス(ジオクチルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアルキルホスフェート)、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)、ナフチレンビス(ジトルイルホスフェート)等のアリーレンビス(ジアリールホスフェート)等の燐酸エステルが挙げられる。これらの置換基は同一でもあっても異なっていてもよく、更に置換されていてもよい。またアルキル基、シクロアルキル基、アリール基のミックスでもよく、また置換基同志が共有結合で結合していてもよい。
更に燐酸エステルの部分構造が、ポリマーの一部、或いは規則的にペンダントされていてもよく、また酸化防止剤、酸掃去剤、紫外線吸収剤等の添加剤の分子構造の一部に導入されていてもよい。上記化合物の中では、燐酸アリールエステル、アリーレンビス(ジアリールホスフェート)が好ましく、具体的にはトリフェニルホスフェート、フェニレンビス(ジフェニルホスフェート)が好ましい。
次に、炭水化物エステル系可塑剤について説明する。炭水化物とは、糖類がピラノースまたはフラノース(6員環または5員環)の形態で存在する単糖類、二糖類または三糖類を意味する。炭水化物の非限定的例としては、グルコース、サッカロース、ラクトース、セロビオース、マンノース、キシロース、リボース、ガラクトース、アラビノース、フルクトース、ソルボース、セロトリオース及びラフィノース等が挙げられる。炭水化物エステルとは、炭水化物の水酸基とカルボン酸が脱水縮合してエステル化合物を形成したものを指し、詳しくは、炭水化物の脂肪族カルボン酸エステル、或いは芳香族カルボン酸エステルを意味する。脂肪族カルボン酸として、例えば酢酸、プロピオン酸等を挙げることができ、芳香族カルボン酸として、例えば安息香酸、トルイル酸、アニス酸等を挙げることができる。炭水化物は、その種類に応じた水酸基の数を有するが、水酸基の一部とカルボン酸が反応してエステル化合物を形成しても、水酸基の全部とカルボン酸が反応してエステル化合物を形成してもよい。本発明においては、水酸基の全部とカルボン酸が反応してエステル化合物を形成するのが好ましい。
炭水化物エステル系可塑剤として、具体的には、グルコースペンタアセテート、グルコースペンタプロピオネート、グルコースペンタブチレート、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエート等を好ましく挙げることができ、この内、サッカロースオクタアセテート、サッカロースオクタベンゾエートがより好ましく、サッカロースオクタベンゾエートが特に好ましい。
これらの化合物の一例を下記に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
モノペットSB:第一工業製薬社製
モノペットSOA:第一工業製薬社製
ポリマー可塑剤としては、具体的には、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチルとメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルとの共重合体(例えば、共重合比1:99〜99:1の間の任意の比率)等のアクリル系ポリマー、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレン、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア等が挙げられる。数平均分子量は1000〜500000程度が好ましく、特に好ましくは、5000〜200000である。1000以下では揮発性に問題が生じ、500000を超えると可塑化能力が低下し、光学フィルムの機械的性質に悪影響を及ぼす。これらポリマー可塑剤は1種の繰り返し単位からなる単独重合体でも、複数の繰り返し構造体を有する共重合体でもよい。また、上記ポリマーを2種以上併用して用いてもよい。
その他の可塑剤の添加量はセルロースエステル100質量部に対して、通常0.1〜50質量部、好ましくは1〜30質量部、更に好ましくは3〜15質量部である。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムにおいて、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤、多価カルボン酸と1価のアルコールからなるエステル系可塑剤を1〜25質量%含有することが好ましいが、それ以外の可塑剤と併用してもよい。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムにおいて、多価アルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤が更に好ましく、3価以上のアルコールと1価のカルボン酸からなるエステル系可塑剤がセルロースエステルに対する相溶性が高く、高添加率で添加することができる特徴があるため、他の可塑剤や添加剤を併用してもブリードアウトを発生することがなく、必要に応じて他種の可塑剤や添加剤を容易に併用することができるので最も好ましい。
なお、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムは、着色すると光学用途として影響を与えるため、好ましくは黄色度(イエローインデックス、YI)が1.5以下、より好ましくは1.0以下である。黄色度はJIS規格K7105−6.3に基づいて測定することができる。
《マット剤》
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムは、滑り性や光学的、機械的機能を付与するためにマット剤を添加することができる。マット剤としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
マット剤の形状は、球状、棒状、針状、層状、平板状等の形状のものが好ましく用いられる。マット剤としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の金属の酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を挙げることができる。中でも、二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを低くできるので好ましい。これらの微粒子は有機物により表面処理されていることが、フィルムのヘイズを低下できるため好ましい。
表面処理は、ハロシラン類、アルコキシシラン類、シラザン、シロキサン等で行うことが好ましい。微粒子の平均粒径が大きい方が滑り性効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れる。また、微粒子の一次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲である。好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、更に好ましくは、7〜14nmである。これらの微粒子は、光学フィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させるために好ましく用いられる。
二酸化ケイ素の微粒子としては、日本アエロジル(株)製のアエロジル(AEROSIL)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812、OX50、TT600、NAX50等、日本触媒(株)製のKE−P10、KE−P30、KE−P100、KE−P150等を挙げることができ、好ましくはアエロジル200V、R972V、NAX50、KE−P30、KE−P100である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。
2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することができる。平均粒径や材質の異なる微粒子、例えば、アエロジル200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9:0.1の範囲で使用できる。
これらのマット剤の添加方法は混練する等によって行うことが好ましい。また、別の形態として予め溶媒に分散したマット剤と樹脂及び/または可塑剤及び/または酸化防止剤及び/または紫外線吸収剤を混合分散させた後、溶媒を揮発または沈殿させた固形物を得て、これを樹脂溶融物の製造過程で用いることが、マット剤が樹脂中で均一に分散できる観点から好ましい。
上記マット剤は、フィルムの機械的、電気的、光学的特性改善のために添加することもできる。
なお、これらの微粒子を添加するほど、得られるフィルムの滑り性は向上するが、添加するほどヘイズが上昇するため、含有量は好ましくは樹脂に対して0.001〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.005〜1質量%であり、更に好ましくは0.01〜0.5質量%である。
なお、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムとしては、ヘイズ値が1.0%を超えると光学用材料として影響を与えるため、好ましくはヘイズ値は1.0%未満、より好ましくは0.5%未満である。ヘイズ値はJIS−K7136に基づいて測定することができる。
フィルム構成材料は溶融及び製膜工程において、揮発成分が少ないまたは発生しないことが求められる。これは加熱溶融時に発泡して、フィルム内部の欠陥やフィルム表面の平面性劣化を削減または回避するためである。
フィルム構成材料が溶融されるときの揮発成分の含有量は、1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.2質量%以下、さらにより好ましくは0.1質量%以下であることが望まれる。本発明においては、示差熱重量測定装置(セイコー電子工業社製TG/DTA200)を用いて、30℃から250℃までの加熱減量を求め、その量を揮発成分の含有量としている。
用いるフィルム構成材料は、前記水分や前記溶媒等に代表される揮発成分を、製膜する前に、または加熱時に除去することが好ましい。除去する方法は、公知の乾燥方法が適用でき、加熱法、減圧法、加熱減圧法等の方法で行うことができ、空気中または不活性ガスとして窒素を選択した雰囲気下で行ってもよい。これらの公知の乾燥方法を行うとき、フィルム構成材料が分解しない温度領域で行うことがフィルムの品質上好ましい。
製膜前に乾燥することにより、揮発成分の発生を削減することができ、樹脂単独、または樹脂とフィルム構成材料の内、樹脂以外の少なくとも1種以上の混合物または相溶物に分割して乾燥することもできる。乾燥温度は70℃以上が好ましい。乾燥する材料にガラス転移温度を有する物が存在するときには、そのガラス転移温度よりも高い乾燥温度に加熱すると、材料が融着して取り扱いが困難になることがあるので、乾燥温度は、ガラス転移温度以下であることが好ましい。複数の物質がガラス転移温度を有する場合は、ガラス転移温度が低い方のガラス転移温度を基準とする。より好ましくは70℃以上、(ガラス転移温度−5)℃以下、更に好ましくは110℃以上、(ガラス転移温度−20)℃以下である。乾燥時間は、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜18時間、更に好ましくは1.5〜12時間である。乾燥温度が低くなり過ぎると揮発成分の除去率が低くなり、また乾燥するのに時間にかかり過ぎることになる。また、乾燥工程は2段階以上にわけてもよく、例えば、乾燥工程が、材料の保管のための予備乾燥工程と、製膜する直前〜1週間前の間に行う直前乾燥工程を含むものであってもよい。
《溶融流延法》
本発明のセルロースエステル樹脂、及びセルロースエステルフィルムの返材を含有するセルロースエステル光学フィルムは、溶融流延法によって製造することが好ましい。溶液流延法において用いられる溶媒(例えば塩化メチレン等)を用いずに、加熱溶融する溶融流延による成形法は、更に詳細には、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法等に分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度等に優れる偏光板保護フィルムを得るためには、溶融押し出し法が優れている。
(セルロースエステルフィルムの返材)
本発明におけるセルロースエステルフィルムの返材とは、溶液流延法によって製造されたセルロースエステルフィルムの返材、及び溶融流延法で製造されたセルロースエステルフィルムの返材の両者を包含する。また、両者の混合物でもよい。
本発明の効果は、特に溶融流延法によって製造されたセルロースエステルフィルムの返材を用いる場合に対してより有用である。
返材とは、最終的に製品フィルムとして使用されないものをいい、セルロースエステル単体または2種以上のセルロースエステルの混合物の他に、可塑剤や酸化防止剤といった添加剤または他の高分子材料を含有していてもよい。セルロースエステルフィルムの返材としては、例えば、
1)所望の特性を備えていない部分、例えば、製膜開始直後や条件調整時期に製膜したセルロースエステルフィルム、
2)広幅のセルロースエステルフィルムを製膜する際、延伸時にテンター等の把持部分や両端部に付与したナーリング加工部分、
3)広幅原反を規定の幅にスリッティングする際に生じる端部や切り屑、
4)セルロースエステルフィルムの基準を満たしていない不良品や、故障の発生箇所等の製膜された後、製品に供さない部分、
5)ロール状に積層したセルロースエステル光学フィルムの加工時に、ロールの芯部に残った部分、
等である。
これらのセルロースエステルフィルムの返材は、必要に応じて断裁、粉砕、圧縮成形、造粒等の処理を行った後、同じ品種のセルロースエステルフィルム用原料として、または異なる品種のセルロースエステルフィルム用原料として再利用する。
以下、溶融押し出し法を例にとり、本発明のセルロースエステル光学フィルムの製造方法について説明する。
図1は、本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの製造方法を実施する装置の全体構成を示す概略フローシートであり、図2は、流延ダイから冷却ロール部分の拡大図である。
図1と図2において、本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法は、セルロース樹脂等のフィルム材料とセルロースエステルフィルムの返材とを後述するように混合した後、押出し機1を用いて、流延ダイ4から第1冷却ロール5上に溶融押し出し、第1冷却ロール5に外接させるとともに、更に、第2冷却ロール7、第3冷却ロール8の合計3本の冷却ロールに順に外接させて、冷却固化してフィルム10とする。次いで、剥離ロール9によって剥離したフィルム10を、次いで延伸装置12によりフィルムの両端部を把持して幅方向に延伸した後、巻取り装置16により巻き取る。また、平面性を矯正するために溶融フィルムを第1冷却ロール5表面に挟圧するタッチロール6が設けられている。このタッチロール6は表面が弾性を有し、第1冷却ロール5との間でニップを形成している。タッチロール6についての詳細は後述する。
本発明によるセルロースエステル光学フィルムの製造方法において、溶融押し出しの条件は、他のポリエステル等の熱可塑性樹脂に用いられる条件と同様にして行うことができる。材料は予め乾燥させておくことが好ましい。真空または減圧乾燥機や除湿熱風乾燥機等で水分を1000ppm以下、好ましくは200ppm以下に乾燥させることが望ましい。
例えば、熱風や真空または減圧下で乾燥したセルロースエステル系樹脂を押出し機1を用いて、押し出し温度200〜300℃程度で溶融し、リーフディスクタイプのフィルター2等で濾過し、異物を除去する。
供給ホッパー(図示略)から押出し機1へ導入する際は、真空下または減圧下や不活性ガス雰囲気下にして、酸化分解等を防止することが好ましい。
可塑剤等の添加剤を予め混合しない場合は、それらを押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサー3等の混合装置を用いることが好ましい。
本発明において、セルロースエステル系樹脂と、その他必要により添加される安定化剤等の添加剤は、溶融する前に混合しておくことが好ましく、セルロースエステル系樹脂と添加剤を加熱前に混合することが更に好ましい。混合は、混合機等により行ってもよく、また、前記したようにセルロース樹脂調製過程において混合してもよい。混合機を使用する場合は、V型混合機、円錐スクリュー型混合機、水平円筒型混合機等、ヘンシェルミキサー、リボンミキサー一般的な混合機を用いることができる。
上記のようにフィルム構成材料を混合した後に、その混合物を押出し機1を用いて直接溶融して製膜するようにしてもよいが、一旦、フィルム構成材料をペレット化した後、該ペレットを押出し機1で溶融して製膜することが好ましい。また、フィルム構成材料が、融点の異なる複数の材料を含む場合には、融点の低い材料のみが溶融する温度で一旦、いわゆるおこし状の半溶融物を作製し、半溶融物を押出し機1に投入して製膜することも可能である。フィルム構成材料に熱分解しやすい材料が含まれる場合には、溶融回数を減らす目的で、ペレットを作製せずに直接製膜する方法や、上記のようなおこし状の半溶融物を作ってから製膜する方法をとることもできる。
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法は、少なくともセルロースエステル樹脂を含有するペレットと、セルロースエステルフィルムの返材とを押出機に供給し、前記押出機で溶融した樹脂を吐出してダイに供給し、前記ダイから流延することが好ましい。
また、始めにセルロースエステル樹脂を含有するペレットだけを加熱溶融を開始し、所定の加熱時間を経た後に、セルロースエステルフィルムの返材の全量あるいはその一部を添加して、更に所定の加熱溶融温度で、攪拌を行いながら加熱溶融して製膜する方法をとっても良い。
一般に、より着色度の低く、かつ高い機械的強度を持つセルロースエステルフィルムの返材を用いて、返材の高い混合比率を達成する観点(再利用効率)から、使用する返材が既に受けている加熱溶融回数としては、通常少ない方が好ましいが、本発明においては前記一般式(1)で表される化合物を用いることにより、加熱溶融回数によらず、着色度の低い、かつ高い機械的強度を持つセルロースエステル光学フィルムを得ることができる。
押出し機1は、市場で入手可能な種々の押出し機を使用可能であるが、溶融混練押出し機が好ましく、単軸押出し機でも2軸押出し機でもよい。フィルム構成材料からペレットを作製せずに、直接製膜を行う場合、適当な混練度が必要であるため2軸押出し機を用いることが好ましいが、単軸押出し機でも、スクリューの形状をマドック型、ユニメルト型、ダルメージ等の混練型のスクリューに変更することにより、適度の混練が得られるので、使用可能である。フィルム構成材料として、一旦、ペレットやおこし状の半溶融物を使用する場合は、単軸押出し機でも2軸押出し機でも使用可能である。
押出し機1内及び押し出した後の冷却工程は、窒素ガス等の不活性ガスで置換するか、或いは減圧することにより、酸素の濃度を下げることが好ましい。
押出し機1内のフィルム構成材料の溶融温度は、フィルム構成材料の粘度や吐出量、製造するシートの厚み等によって好ましい条件が異なるが、一般的には、フィルムのガラス転移温度Tgに対して、Tg以上、Tg+100℃以下、好ましくはTg+10℃以上、Tg+90℃以下である。押し出し時の溶融粘度は、1〜10000Pa・s、好ましくは10〜1000Pa・sである。また、押出し機1内でのフィルム構成材料の滞留時間は短い方が好ましく、5分以内、好ましくは3分以内、より好ましくは2分以内である。滞留時間は、押出し機1の種類、押し出す条件にも左右されるが、材料の供給量やL/D、スクリュー回転数、スクリューの溝の深さ等を調整することにより短縮することが可能である。
押出し機1のスクリューの形状や回転数等は、フィルム構成材料の粘度や吐出量等により適宜選択される。本発明において押出し機1でのせん断速度は、1/秒〜10000/秒、好ましくは5/秒〜1000/秒、より好ましくは10/秒〜100/秒である。
本発明に使用できる押出し機1としては、一般的にプラスチック成形機として入手可能である。
押出し機1から押し出されたフィルム構成材料は、流延ダイ4に送られ、流延ダイ4のスリットからフィルム状に押し出される。流延ダイ4はシートやフィルムを製造するために用いられるものであれば特に限定はされない。流延ダイ4の材質としては、ハードクロム、炭化クロム、窒化クロム、炭化チタン、炭窒化チタン、窒化チタン、超鋼、セラミック(タングステンカーバイド、酸化アルミ、酸化クロム)等を溶射もしくはメッキし、表面加工としてバフ、#1000番手以降の砥石を用いるラッピング、#1000番手以上のダイヤモンド砥石を用いる平面切削(切削方向は樹脂の流れ方向に垂直な方向)、電解研磨、電解複合研磨等の加工を施したもの等が挙げられる。流延ダイ4のリップ部の好ましい材質は、流延ダイ4と同様である。またリップ部の表面精度は0.5S以下が好ましく、0.2S以下がより好ましい。
この流延ダイ4のスリットは、そのギャップが調整可能なように構成されている。これを図3に示す。流延ダイ4のスリット32を形成する一対のリップのうち、一方は剛性の低い変形しやすいフレキシブルリップ33であり、他方は固定リップ34である。そして、多数のヒートボルト35が流延ダイ4の幅方向すなわちスリット32の長さ方向に一定ピッチで配列されている。各ヒートボルト35には、埋め込み電気ヒータ37と冷却媒体通路とを具えたブロック36が設けられ、各ヒートボルト35が各ブロック36を縦に貫通している。ヒートボルト35の基部はダイ本体31に固定され、先端はフレキシブルリップ33の外面に当接している。そしてブロック36を常時空冷しながら、埋め込み電気ヒータ37の入力を増減してブロック36の温度を上下させ、これによりヒートボルト35を熱伸縮させて、フレキシブルリップ33を変位させてフィルムの厚さを調整する。ダイ後流の所要箇所に厚さ計を設け、これによって検出されたウェブ厚さ情報を制御装置にフィードバックし、この厚さ情報を制御装置で設定厚み情報と比較し、同装置から来る補正制御量の信号によってヒートボルトの発熱体の電力またはオン率を制御するようにすることもできる。ヒートボルトは、好ましくは、長さ20〜40cm、直径7〜14mmを有し、複数、例えば数十本のヒートボルトが、好ましくはピッチ20〜40mmで配列されている。ヒートボルトの代わりに、手動で軸方向に前後動させることによりスリットギャップを調節するボルトを主体とするギャップ調節部材を設けてもよい。ギャップ調節部材によって調節されたスリットギャップは、通常200〜1000μm、好ましくは300〜800μm、より好ましくは400〜600μmである。
第1〜第3冷却ロールは、肉厚が20〜30mm程度のシームレスな鋼管製で、表面が鏡面に仕上げられている。その内部には、冷却液を流す配管が配置されており、配管を流れる冷却液によってロール上のフィルムから熱を吸収できるように構成されている。
第1冷却ロール5に当接するタッチロール6は、表面が弾性を有し、第1冷却ロール5への押圧力によって第1冷却ロール5の表面に沿って変形し、第1冷却ロール5との間にニップを形成する。タッチロール6は挟圧回転体ともいう。タッチロール6としては、登録特許3194904号、登録特許3422798号、特開2002−36332、特開2002−36333などで開示されているタッチロールを好ましく用いることができる。これらは市販されているものを用いることもできる。以下にこれらについて、さらに詳細に説明する。
図4は挟圧回転体の一例を示す断面図である。(タッチロール6の第1の例(以下、タッチロールA)の概略断面)を示す。図に示すように、タッチロールAは、可撓性の金属スリーブ41の内部に弾性ローラ42を配したものである。
金属スリーブ41は厚さ0.3mmのステンレス製であり、可撓性を有する。金属スリーブ41が薄過ぎると強度が不足し、逆に厚過ぎると弾性が不足する。これらのことから、金属スリーブ41の厚さとしては、0.1〜1.5mmが好ましい。弾性ローラ42は、軸受を介して回転自在な金属製の内筒43の表面にゴム44を設けてロール状としたものである。そして、タッチロールAが第1冷却ロール5に向けて押圧されると、弾性ローラ42が金属スリーブ41を第1冷却ロール5に押しつけ、金属スリーブ41及び弾性ローラ42は第1冷却ロール5の形状になじんだ形状に対応しつつ変形し、第1冷却ロールとの間にニップを形成する。金属スリーブ41の内部で弾性ローラ42との間に形成される空間には、冷却水45が流される。
図5は挟圧回転体の第2の例(以下、タッチロールB)を示す回転軸に垂直な平面での断面図である。
図6は挟圧回転体の第2の例(タッチロールB)の回転軸を含む平面の一例を示す断面図である。
図5、図6は挟圧回転体の別の実施形態であるタッチロールBを示している。タッチロールBは、可撓性を有する、シームレスなステンレス鋼管製(厚さ4mm)の外筒51と、この外筒51の内側に同一軸心状に配置された高剛性の金属内筒52とから概略構成されている。外筒51と内筒52との間の空間53には、冷却液54が流される。詳しくは、タッチロールBは、両端の回転軸55a、55bに外筒支持フランジ56a、56bが取付けられ、これら両外筒支持フランジ56a、56bの外周部間に薄肉金属外筒51が取付けられている。また、一方の回転軸55aの軸心部に形成されて流体戻り通路57を形成する流体排出孔58内に、流体供給管59が同一軸心状に配設され、この流体供給管59が薄肉金属外筒51内の軸心部に配置された流体軸筒60に接続固定されている。この流体軸筒60の両端部に内筒支持フランジ61a、61bがそれぞれ取り付けられ、これら内筒支持フランジ61a、61bの外周部間から他端側外筒支持フランジ56bにわたって約15〜20mm程度の肉厚を有する金属内筒52が取付けられている。そしてこの金属内筒52と薄肉金属外筒51との間に、例えば10mm程度の冷却液の流送空間53が形成され、また金属内筒52に両端部近傍には、流送空間53と内筒支持フランジ61a、61b外側の中間通路62a、62bとを連通する流出口52a及び流入口52bがそれぞれ形成されている。
また、外筒51は、ゴム弾性に近い柔軟性と可撓性、復元性をもたせるために、弾性力学の薄肉円筒理論が適用できる範囲内で薄肉化が図られている。この薄肉円筒理論で評価される可撓性は、肉厚t/ロール半径rで表されており、t/rが小さいほど可撓性が高まる。このタッチロールBではt/r≦0.03の場合に可撓性が最適の条件となる。通常、一般的に使用されているタッチロールは、ロール径R=200〜500mm(ロール半径r=R/2)、ロール有効幅L=500〜1600mmで、r/L<1で横長の形状である。そして図6に示すように、例えばロール径R=300mm、ロール有効幅L=1200mmの場合、肉厚tの適正範囲は150×0.03=4.5mm以下であるが、溶融シート幅を1300mmに対して平均線圧を98N/cmで挟圧する場合、同一形状のゴムロールと比較して、外筒51の肉厚を3mmとすることで相当ばね定数も等しく、外筒51と冷却ロールとのニップのロール回転方向のニップ幅kも約9mmで、このゴムロールのニップ幅約12mmとほぼ近い値を示し、同じような条件下で挟圧できることが分かる。なお、このニップ幅kにおけるたわみ量は0.05〜0.1mm程度である。
ここで、t/r≦0.03としたが、一般的なロール径R=200〜500mmの場合では、特に2mm≦t≦5mmの範囲とすると、可撓性も十分に得られ、また機械加工による薄肉化も容易に実施でき、極めて実用的な範囲となる。肉厚が2mm以下では加工時の弾性変形で高精度な加工ができない。
この2mm≦t≦5mmの換算値は、一般的なロール径に対して0.008≦t/r≦0.05となるが、実用にあたってはt/r≒0.03の条件下でロール径に比例して肉厚も大きくするとよい。例えばロール径:R=200ではt=2〜3mm、ロール径:R=500ではt=4〜5mmの範囲で選択する。
このタッチロールA、Bは不図示の付勢手段により第1冷却ロールに向けて付勢される。その付勢手段の付勢力をF、ニップにおけるフィルムの、第1冷却ロール5の回転軸に沿った方向の幅Wを除した値F/W(線圧)は、9.8〜147N/cmに設定される。本実施の形態によれば、タッチロールA、Bと第1冷却ロール5との間にニップが形成され、当該ニップをフィルムが通過する間に平面性を矯正すればよい。従って、タッチロールが剛体で構成され、第1冷却ロールとの間にニップが形成されない場合と比べて、小さい線圧で長時間かけてフィルムを挟圧するので、平面性をより確実に矯正することができる。すなわち、線圧が9.8N/cmよりも小さいと、ダイラインを十分に解消することができなくなる。逆に、線圧が147N/cmよりも大きいと、フィルムがニップを通過しにくくなり、フィルムの厚さにかえってムラができてしまう。
また、タッチロールA、Bの表面を金属で構成することにより、タッチロールの表面がゴムである場合よりもタッチロールA、Bの表面を平滑にすることができるので、平滑性の高いフィルムを得ることができる。なお、弾性ローラ42のゴム44の材質としては、エチレンプロピレンゴム、ネオプレンゴム、シリコンゴム等を用いることができる。
さて、タッチロール6によってダイラインを良好に解消するためには、タッチロール6がフィルムを挟圧するときのフィルムの粘度が適切な範囲であることが重要となる。また、セルロースエステルは温度による粘度の変化が比較的大きいことが知られている。従って、タッチロール6が光学フィルムを挟圧するときの粘度を適切な範囲に設定するためには、タッチロール6が光学フィルムを挟圧するときのフィルムの温度を適切な範囲に設定することが重要となる。光学フィルムのガラス転移温度をTgとしたとき、フィルムがタッチロール6に挟圧される直前のフィルムの温度Tを、Tg<T<Tg+110℃を満たすように設定することが好ましい。フィルム温度TがTgよりも低いとフィルムの粘度が高過ぎて、ダイラインを矯正できなくなる。逆に、フィルムの温度TがTg+110℃よりも高いと、フィルム表面とロールが均一に接着せず、やはりダイラインを矯正することができない。好ましくはTg+10℃<T2<Tg+90℃、更に好ましくはTg+20℃<T2<Tg+70℃である。タッチロール6が光学フィルムを挟圧するときのフィルムの温度を適切な範囲に設定するには、流延ダイ4から押し出された溶融物が第1冷却ロール5に接触する位置P1から第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップの、第1冷却ロール5の回転方向に沿った長さLを調整すればよい。
本発明において、第1冷却ロール5、第2冷却ロール7に好ましい材質は、炭素鋼、ステンレス鋼、樹脂、等が挙げられる。また、表面精度は高くすることが好ましく表面粗さとして0.3S以下、より好ましくは0.01S以下とする。
本発明においては、流延ダイ4の開口部(リップ)から第1冷却ロール5までの部分を70kPa以下に減圧させることにより、上記、ダイラインの矯正効果がより大きく発現することを発見した。好ましくは減圧は50〜70kPaである。流延ダイ4の開口部(リップ)から第1冷却ロール5までの部分の圧力を70kPa以下に保つ方法としては、特に制限はないが、流延ダイ4からロール周辺を耐圧部材で覆い、減圧する等の方法がある。このとき、吸引装置は、装置自体が昇華物の付着場所にならないようヒーターで加熱する等の処置を施すことが好ましい。本発明では、吸引圧が小さ過ぎると昇華物を効果的に吸引できないため、適当な吸引圧とする必要がある。
本発明において、流延ダイ4から溶融状態のフィルム状のセルロースエステル系樹脂を、第1冷却ロール5、第2冷却ロール7、及び第3冷却ロール8に順次密着させて搬送しながら冷却固化させ、未延伸のセルロースエステル系樹脂フィルム10を得る。
図1に示す本発明の実施形態では、第3冷却ロール8から剥離ロール9によって剥離した冷却固化された未延伸のフィルム10は、ダンサーロール(フィルム張力調整ロール)11を経て延伸機12に導き、そこでフィルム10を横方向(幅方向)に延伸する。この延伸により、フィルム中の分子が配向される。
フィルムを幅方向に延伸する方法は、公知のテンター等を好ましく用いることができる。特に延伸方向を幅方向とすることで、偏光フィルムとの積層がロール形態で実施できるので好ましい。幅方向に延伸することで、セルロースエステル光学フィルムの遅相軸は幅方向になる。
一方、偏光フィルムの透過軸も、通常、幅方向である。偏光フィルムの透過軸と光学フィルムの遅相軸とが平行になるように積層した偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、液晶表示装置の表示コントラストを高くすることができるとともに、良好な視野角が得られるのである。
フィルム構成材料のガラス転移温度Tgはフィルムを構成する材料種及び構成する材料の比率を異ならしめることにより制御できる。光学フィルムとして位相差フィルムを作製する場合、Tgは120℃以上、好ましくは135℃以上とすることが好ましい。液晶表示装置においては、画像の表示状態において、装置自身の温度上昇、例えば光源由来の温度上昇によってフィルムの温度環境が変化する。このときフィルムの使用環境温度よりもフィルムのTgが低いと、延伸によってフィルム内部に固定された分子の配向状態に由来するリターデーション値及びフィルムとしての寸法形状に大きな変化を与えることとなる。フィルムのTgが高過ぎると、フィルム構成材料をフィルム化するとき温度が高くなるために加熱するエネルギー消費が高くなり、またフィルム化するときの材料自身の分解、それによる着色が生じることがあり、従って、Tgは250℃以下が好ましい。
また延伸工程には公知の熱固定条件、冷却、緩和処理を行ってもよく、目的とする光学フィルムに要求される特性を有するように適宜調整すればよい。
光学フィルムに視野角拡大のための位相差フィルムの機能付与する場合、更に偏光板保護フィルムの機能を複合させる場合には、光学フィルムに屈折率制御を行う必要が生じるが、その屈折率制御は延伸操作により行うことが可能であり、また延伸操作が好ましい方法である。このような延伸工程は、熱固定処理を含む。
以下、その延伸方法について説明する。
位相差フィルムの延伸工程において、セルロースエステル樹脂の1方向に1.0〜2.0倍及びフィルム面内にそれと直交する方向に1.01〜2.5倍延伸することで、必要とされるリターデーションRo及びRtを制御することができる。ここで、Roとは面内リターデーションを示し、Rtとは厚み方向リターデーションを示す。
リターデーションRo、Rtは下記式により求められる。
式(i) Ro=(nx−ny)×d
式(ii) Rt=((nx+ny)/2−nz)×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzはフィルムの厚み方向の屈折率(屈折率は23℃、55%RHの環境下、波長590nmで測定)、dはフィルムの厚さ(nm)を表す。)
光学フィルムの屈折率は、アッベ屈折率計(4T)を用いて、フィルムの厚さは市販のマイクロメーターを用いて、リターデーション値は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)等を用いて、各々測定することが出来る。
延伸は、例えばフィルムの流延方向である長手方向及びそれとフィルム面内で直交する方向、即ち幅方向に対して、逐次または同時に行うことができる。このとき少なくとも1方向に対しての延伸倍率が小さ過ぎると十分な位相差が得られず、大き過ぎると延伸が困難となりフィルム破断が発生してしまう場合がある。
例えば溶融流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大き過ぎると、nzの値が大きくなり過ぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制、或いは幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅方向で屈折率に分布が生じることがある。この分布は、テンター法を用いた場合に現れることがあり、フィルムを幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボーイング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボーイング現象を抑制でき、幅方向の位相差の分布を少なくできる。
互いに直行する2軸方向に延伸することにより、得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。位相差フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなり、液晶ディスプレイに用いたとき着色等のムラが問題となることがある。
セルロースエステル光学フィルムの膜厚変動は、±3%、更に±1%の範囲とすることが好ましい。以上のような目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ最終的には流延方向に1.0〜2.0倍、幅方向に1.01〜2.5倍の範囲とすることが好ましく、流延方向に1.01〜1.5倍、幅方向に1.05〜2.0倍に範囲で行うことが必要とされるリターデーション値を得るためにより好ましい。
偏光子の長手方向に吸収軸が存在する場合、光学フィルムの幅方向と偏光子の透過軸が一致することになる。長尺状の偏光板を得るためには、位相差フィルムは、幅方向に遅相軸を得るように延伸することが好ましい。
応力に対して、正の複屈折性を得るセルロースエステルを用いる場合、上述の構成から、幅方向に延伸することで、位相差フィルムの遅相軸が幅方向に付与することができる。この場合、表示品質の向上のためには、位相差フィルムの遅相軸が、幅方向にあるほうが好ましく、目的とするリターデーション値を得るためには、
式、(幅方向の延伸倍率)>(流延方向の延伸倍率)
の条件を満たすことが必要である。
延伸後、フィルムの端部をスリッター13により製品となる幅にスリットして裁ち落とした後、エンボスリング14及びバックロール15よりなるナール加工装置によりナール加工(エンボッシング加工)をフィルム両端部に施し、巻取り機16によって巻き取ることにより、セルロースエステル光学フィルム(元巻き)F中の貼り付きや、すり傷の発生を防止する。ナール加工の方法は、凸凹のパターンを側面に有する金属リングを加熱や加圧により加工することができる。なお、フィルム両端部のクリップの把持部分は通常、変形しており、フィルム製品として使用できないので、切除されて、上記返材として再利用される。
次に、フィルムの巻取り工程は、円筒形巻きフィルムの外周面とこれの直前の移動式搬送ロールの外周面との間の最短距離を一定に保持しながらフィルムを巻取りロールに巻き取るものである。かつ巻取りロールの手前には、フィルムの表面電位を除去または低減する除電ブロア等の手段が設けられている。
本発明のセルロースエステル光学フィルムに用いられる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の巻き取り方法で巻き取ることができる。なお、セルロースエステル光学フィルムの巻取り時の初期巻取り張力が90.2〜300.8N/mであるのが好ましい。
本発明の方法におけるフィルムの巻き取り工程では、温度20〜30℃、湿度20〜60%RHの環境条件にて、フィルムを巻き取ることが好ましい。このように、フィルムの巻き取り工程での温度及び湿度を規定することにより、厚み方向リターデーション(Rt)の湿度変化の耐性が向上する。
巻き取り工程における温度が20℃未満であれば、シワが発生し、フィルム巻品質劣化のため実用に耐えないので、好ましくない。フィルムの巻き取り工程における温度が30℃を超えると、やはりシワが発生し、フィルム巻品質劣化のため実用に耐えないので、好ましくない。
また、フィルムの巻き取り工程における湿度が20%RH未満であれば、帯電しやすく、フィルム巻品質劣化のため実用に耐えないので、好ましくない。フィルムの巻き取り工程における湿度が60%RHを超えると、巻品質、貼り付き故障、搬送性が劣化するので、好ましくない。
セルロースエステル光学フィルムをロール状に巻き取る際の、巻きコアとしては、円筒上のコアであれは、どのような材質のものであってもよいが、好ましくは中空プラスチックコアであり、プラスチック材料としては加熱処理温度にも耐える耐熱性プラスチックであればどのようなものであってもよく、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂が挙げられる。またガラス繊維等の充填材により強化した熱硬化性樹脂が好ましい。例えば、中空プラスチックコア:FRP製の外径6インチ(以下、インチは2.54cmを表す。)、内径5インチの巻きコアが用いられる。
これらの巻きコアへの巻き数は、100巻き以上であることが好ましく、500巻き以上であることが更に好ましく、巻き厚は5cm以上であることが好ましく、フィルム基材の幅は80cm以上であることが好ましく、1m以上であることが特に好ましい。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムの膜の厚さは、使用目的によって異なるが、仕上がりフィルムとして、10〜500μmが好ましい。特に、下限は20μm以上、好ましくは35μm以上である。上限は150μm以下、好ましくは120μm以下である。特に好ましい範囲は25〜90μmである。セルロースエステル光学フィルムが位相差フィルムであり、偏光板保護フィルムを兼ねる場合、フィルムが厚いと偏光板加工後の偏光板が厚くなり過ぎノート型パソコンやモバイル型電子機器に用いる液晶表示においては、特に薄型軽量の目的に適さない。一方、フィルムが薄いと、位相差フィルムとしてのリターデーションの発現が困難となり、加えてフィルムの透湿性が高くなり、偏光子を湿度から保護する能力が低下してしまうために好ましくない。
位相差フィルムの遅相軸または進相軸がフィルム面内に存在し、製膜方向とのなす角度をθ1とすると、θ1は−1〜+1°、好ましくは−0.5〜+0.5°となるようにすることが好ましい。
このθ1は配向角として定義でき、θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器社製)を用いて行うことができる。
θ1が各々上記関係を満たすことは、表示画像において高い輝度を得ること、光漏れを抑制または防止することに寄与し、カラー液晶表示装置においては忠実な色再現に寄与する。
位相差フィルムがマルチドメイン化されたVAモードに用いられるとき、位相差フィルムの配置は、位相差フィルムの進相軸がθ1として上記領域に配置することで、表示画質の向上に寄与し、偏光板及び液晶表示装置としてMVAモードとしたとき、例えば図7に示す構成をとることができる。
図7において、21a、21bは保護フィルム、22a、22bは位相差フィルム、25a、25bは偏光子、23a、23bはフィルムの遅相軸方向、24a、24bは偏光子の透過軸方向、26a、26bは偏光板、27は液晶セル、29は液晶表示装置を示している。
セルロースエステル光学フィルムの面内方向のリターデーションRo分布は、5%以下に調整することが好ましく、より好ましくは2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。また、フィルムの厚み方向のリターデーションRt分布を10%以下に調整することが好ましいが、更に好ましくは、2%以下であり、特に好ましくは、1.5%以下である。
位相差フィルムとしては、リターデーション値の分布変動が小さい方が好ましく、液晶表示装置に位相差フィルムを含む偏光板を用いるとき、該リターデーション分布変動が小さいことが色ムラ等を防止する観点で好ましい。
位相差フィルムを、VAモードまたはTNモードの液晶セルの表示品質の向上に適したリターデーション値を有するように調整し、特にVAモードとして上記のマルチドメインに分割してMVAモードに好ましく用いられるようにするには、面内リターデーションRoを30nmよりも大きく、95nm以下に、かつ厚み方向リターデーションRtを70nmよりも大きく、400nm以下の値に調整することが求められる。
上記の面内リターデーションRoは、2枚の偏光板がクロスニコルに配置され、偏光板の間に液晶セルが配置された、例えば図7に示す構成であるときに、表示面の法線方向から観察するときを基準にしてクロスニコル状態にあるとき、表示面の法線から斜めに観察したとき、偏光板のクロスニコル状態からのずれが生じ、これが要因となる光漏れを、主に補償する。厚さ方向のリターデーションは、上記TNモードやVAモード、特にMVAモードにおいて液晶セルが黒表示状態であるときに、同様に斜めから見たときに認められる液晶セルの複屈折を主に補償するために寄与する。
図7に示すように、液晶表示装置において、液晶セルの上下に偏光板が二枚配置された構成である場合、図中の22a及び22bは、厚み方向リターデーションRtの配分を選択することができ、上記範囲を満たしかつ厚み方向リターデーションRtの両者の合計値が140nmよりも大きくかつ500nm以下にすることが好ましい。このとき22a及び22bの面内リターデーションRo、厚み方向リターデーションRtが両者同じであることが、工業的な偏光板の生産性向上において好ましい。特に好ましくは面内リターデーションRoが35nmよりも大きくかつ65nm以下であり、かつ厚み方向リターデーションRtが90nmよりも大きく180nm以下で、図7の構成でMVAモードの液晶セルに適用することである。
液晶表示装置において、一方の偏光板に例えば市販の偏光板保護フィルムとして面内リターデーションRo=0〜4nm及び厚み方向リターデーションRt=20〜50nmで厚さ35〜85μmのTACフィルムが、例えば図7の22bの位置で使用されている場合、他方の偏光板に配置される偏光フィルム、例えば、図7の22aに配置する位相差フィルムは、面内リターデーションRoが30nmよりも大きく95nm以下であり、かつ厚み方向リターデーションRtが140nmよりも大きく400nm以下であるものを使用するようにする。表示品質が向上し、かつフィルムの生産面からも好ましい。
《偏光板》
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。本発明のセルロースエステル光学フィルムの裏面側をアルカリ鹸化処理し、処理したセルロースエステル光学フィルムを、ヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の少なくとも一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせることが好ましい。もう一方の面にも本発明のセルロースエステル光学フィルムを用いても、別の偏光板保護フィルムを用いてもよい。本発明のセルロースエステル光学フィルムに対して、もう一方の面に用いられる偏光板保護フィルムは市販の光学フィルムを用いることが出来る。例えば、市販の光学フィルムとして、KC8UX2M、KC4UX、KC5UX、KC4UY、KC8UY、KC12UR、KC8UCR−3、KC8UCR−4、KC4FR−1、KC8UY−HA、KC8UX−RHA(以上、コニカミノルタオプト(株)製)等が好ましく用いられる。或いは更にディスコチック液晶、棒状液晶、コレステリック液晶などの液晶化合物を配向させて形成した光学異方層を有している光学補償フィルムを兼ねる偏光板保護フィルムを用いることも好ましい。例えば、特開2003−98348記載の方法で光学異方性層を形成することが出来る。本発明のセルロースエステル光学フィルムと組み合わせて使用することによって、平面性に優れ、安定した視野角拡大効果を有する偏光板を得ることが出来る。或いは、セルロースエステルを有してなる光学フィルム以外の環状オレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート等のフィルムをもう一方の面の偏光板保護フィルムとして用いてもよい。
上記アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、同6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施して偏光板加工を行ってもよい。
偏光板の主たる構成要素である偏光膜とは、一定方向の偏波面の光だけを通す素子であり、現在知られている代表的な偏光膜は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムで、これはポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと二色性染料を染色させたものがある。偏光膜は、ポリビニルアルコール水溶液を製膜し、これを一軸延伸させて染色するか、染色した後一軸延伸してから、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理を行ったものが用いられている。偏光膜の膜厚は5〜40μm、好ましくは5〜30μmであり、特に好ましくは5〜20μmである。該偏光膜の面上に、本発明のセルロースエステル光学フィルムの片面を貼り合わせて偏光板を形成する。好ましくは完全鹸化ポリビニルアルコール等を主成分とする水系の接着剤によって貼り合わせる。
偏光膜は一軸方向(通常は長手方向)に延伸されているため、偏光板を高温高湿の環境下に置くと延伸方向(通常は長手方向)は縮み、延伸と垂直方向(通常は幅方向)には伸びる。偏光板保護用フィルムの膜厚が薄くなるほど偏光板の伸縮率は大きくなり、特に偏光膜の延伸方向の収縮量が大きい。通常、偏光膜の延伸方向は偏光板保護用フィルムの流延方向(MD方向)と貼り合わせるため、偏光板保護用フィルムを薄膜化する場合は、特に流延方向の伸縮率を抑えることが重要である。本発明のセルロースエステル光学フィルムは極めて寸法安定に優れる為、このような偏光板保護フィルムとして好適に使用される。
即ち60℃、90%RHの条件での耐久性試験によっても波打ち状のむらが増加することはなく、裏面側に光学補償フィルムを有する偏光板であっても、耐久性試験後に視野角特性が変動することなく良好な視認性を提供することが出来る。
偏光板は偏光子及びその両面を保護する保護フィルムで構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成することが出来る。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶セルへ貼合する面側に用いられる。
《液晶表示装置》
本発明のセルロースエステル光学フィルムを用いた偏光板保護フィルム(位相差フィルムを兼ねる場合も含む)を含む偏光板は、通常の偏光板と比較して高い表示品質を発現させることができ、特にマルチドメイン型の液晶表示装置、より好ましくは複屈折モードによってマルチドメイン型の液晶表示装置への使用に適している。
本発明の偏光板は、MVA(Multi−domein Vertical Alignment)モード、PVA(Patterned Vertical Alignment)モード、CPA(Continuous Pinwheel Alignment)モード、OCB(Optical Compensated Bend)モード、IPS(In Place Switching)モード等に用いることができ、特定の液晶モード、偏光板の配置に限定されるものではない。
液晶表示装置はカラー化及び動画表示用の装置としても応用されつつあり、本発明により表示品質が改良され、コントラストの改善や偏光板の耐性が向上したことにより、疲れにくく忠実な動画像表示が可能となる。
液晶表示装置は、本発明のセルロースエステル光学フィルムを位相差フィルムとして、かつ偏光板保護フィルムとして有する偏光板を、液晶セルに対して、一枚配置するか、或いは液晶セルの両側に二枚配置する。このとき偏光板に含まれる本発明のセルロースエステル光学フィルム側が液晶表示装置の液晶セルに面するように用いることで表示品質の向上に寄与できる。図7においては22a及び22bのフィルムが液晶表示装置の液晶セルに面することになる。
このような構成において、本発明のセルロースエステル光学フィルムは、液晶セルを光学的に補償することができる。本発明の偏光板を液晶表示装置に用いる場合は、液晶表示装置の偏光板の内の少なくとも一つの偏光板を、本発明の偏光板とすればよい。本発明の偏光板を用いることで、表示品質が向上し、視野角特性に優れた液晶表示装置が提供できる。
本発明の偏光板において、偏光子からみて本発明のセルロースエステル光学フィルムとは反対側の面には、セルロース誘導体の偏光板保護フィルムが用いられ、汎用のTACフィルム等を用いることができる。更に液晶セルから遠い側に位置する偏光板保護フィルムは、表示装置の品質を向上する上で、他の機能性層を配置することも可能である。
例えば、反射防止、防眩、耐キズ、ゴミ付着防止、輝度向上のためにディスプレイとしての公知の機能層を構成物として含むフィルムや、または本発明の偏光板表面に貼付してもよいがこれらに限定されるものではない。
一般に位相差フィルムでは、上述のリターデーションRoまたはRtの変動が少ないことが安定した光学特性を得るために求められている。特に複屈折モードの液晶表示装置は、これらの変動が画像のムラを引き起こす原因となることがある。
本発明に従い溶融流延法により製造される長尺状光学フィルムは、セルロースエステルを主体として構成されるため、セルロースエステル固有のケン化を活用して偏光子に容易に接着することができる。このために本発明は、従来の偏光板加工方法が適用できる点で優れており、特に長尺状であるロール偏光板が得られる点で優れている。
本発明により得られる偏光板製造における生産性向上効果は、特に100m以上の長尺の巻物においてより顕著となり、1500m、2500m、5000mとより長尺化する程、該生産性向上効果を得る。
例えば、偏光板保護フィルム製造において、ロール長さは、生産性と運搬性を考慮すると、10〜5000m、好ましくは50〜4500mであり、このときのフィルムの幅は、偏光子の幅や製造ラインに適した幅を選択することができる。0.5〜4.0m、好ましくは0.6〜3.0mの幅でフィルムを製造してロール状に巻き取り、偏光板加工に供してもよく、また、目的の倍幅以上のフィルムを製造してロールに巻き取った後、断裁して目的の幅のロールを得て、このようなロールを偏光板加工に用いるようにしてもよい。
偏光板保護フィルム製造に際し、延伸の前及び/または後で帯電防止層、ハードコート層、易滑性層、接着層、防眩層、バリアー層等の機能性層を塗設してもよい。この際、コロナ放電処理、プラズマ処理、薬液処理等の各種表面処理を必要に応じて施すことができる。
また、前述の可塑剤、紫外線吸収剤、マット剤等の添加物濃度が異なるセルロースエステルを含む組成物を共押し出しして、積層構造の光学フィルムを作製することもできる。例えば、スキン層/コア層/スキン層といった構成の光学フィルムを作ることができる。例えば、マット剤は、スキン層に多く、またはスキン層のみに入れることができる。可塑剤、紫外線吸収剤はスキン層よりもコア層に多く入れることができ、コア層のみに入れてもよい。また、コア層とスキン層で可塑剤、紫外線吸収剤の種類を変更することもでき、例えば、スキン層に低揮発性の可塑剤及び/または紫外線吸収剤を含ませ、コア層に可塑性に優れた可塑剤、或いは紫外線吸収性に優れた紫外線吸収剤を添加することもできる。スキン層とコア層のガラス転移温度が異なっていてもよく、スキン層のガラス転移温度よりコア層のガラス転移温度が低いことが好ましい。このとき、スキンとコアの両者のガラス転移温度を測定し、これらの体積分率より算出した平均値を上記ガラス転移温度Tgと定義して同様に扱うこともできる。また、溶融流延時のセルロースエステルを含む溶融物の粘度もスキン層とコア層で異なっていてもよく、スキン層の粘度>コア層の粘度でも、コア層の粘度≧スキン層の粘度でもよい。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムは、寸度安定性が、23℃、55%RHに24時間放置したフィルムの寸法を基準としたとき、80℃、90%RHにおける寸法の変動値が±2.0%未満であることが好ましく、より好ましくは1.0%未満であり、特に好ましくは0.5%未満である。
本発明に係るセルロースエステル光学フィルムを位相差フィルムとして偏光板保護フィルムに用いる際に、位相差フィルム自身が上記の範囲内の変動であると、偏光板としてのリターデーションの絶対値と配向角が当初の設定からずれないために、表示品質を長期にわたり保持することが可能となる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
〔セルロースエステルを有してなる光学フィルム(以下、単に光学フィルムと称する)の作製〕
(ペレット1−1の製造)
下記のように、セルロースエステルと各種添加剤を用いてペレット1を作製した。
セルロースエステルC−1(後述参照) 100質量部
PETB(後述参照) 8.0質量部
IRGANOX1010(チバ・ジャパン社製) 0.50質量部
SumilizerGS(住友化学社製) 0.20質量部
例示化合物1 0.10質量部
TINUVIN928(チバ・ジャパン社製) 1.5質量部
アエロジルNAX50(日本アエロジル社製) 0.2質量部
KE−P100(日本触媒社製) 0.02質量部
セルロースエステルC−1を130℃、4時間減圧下で乾燥を行ったものに、上記の各種添加剤を添加した。
これらを混合したものを60℃のホッパーに入れ、真空排気付き2軸混練押出し機を用い、ダイ温度230℃、スクリュー回転数300rpm、混練時間40秒、押出し量200kg/hrでダイから押出し20℃の水中で固化した後、裁断し直径2mm、長さ3mmの円柱状のペレットを得た。裁断後のペレットは65℃の温風で乾燥した。これをペレット1−1とする。
(光学フィルム1−1の作製):本発明の光学フィルム
このペレット1−1を用いて窒素雰囲気下、250℃にて溶融して流延ダイ4から第1冷却ロール5上に押し出し、第1冷却ロール5とタッチロール6との間にフィルムを挟圧して成形した。
流延ダイ4のギャップの幅がフィルムの幅方向端部から30mm以内では0.5mm、その他の場所では1mmとなるようにヒートボルトを調整した。タッチロールとしては、タッチロールAを使用し、その内部に冷却水として80℃の水を流した。
流延ダイ4から押し出された樹脂が第1冷却ロール5に接触する位置P1から第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップの第1冷却ロール5回転方向上流端の位置P2までの、第1冷却ローラ5の周面に沿った長さLを20mmに設定した。その後、タッチロール6を第1冷却ロール5から離間させ、第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tを測定した。本実施例において、第1冷却ロール5とタッチロール6とのニップに挟圧される直前の溶融部の温度Tは、ニップ上流端P2よりも更に1mm上流側の位置で、温度計(安立計器株式会社製HA−200E)により測定した。本実施例では測定の結果、温度Tは141℃であった。タッチロール6の第1冷却ロール5に対する線圧は14.7N/cmとした。更に、テンターに導入し、巾方向に160℃で1.3倍延伸した後、巾方向に3%緩和しながら30℃まで冷却し、その後クリップから開放し、クリップ把持部を裁ち落とし、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施し、巻き取り張力220N/m、テーパー40%で巻芯に巻き取った。なお、フィルムは、厚さが80μmとなるように、押し出し量及び引き取り速度を調整し、仕上がりのフィルム幅は、1430mm幅になるようにスリットし、巻き取った。なお、スリットして不要になった部分を返材1−1とする。巻芯の大きさは、内径152mm、外径165〜180mm、長さ1550mmであった。この巻芯母材として、エポキシ樹脂をガラス繊維、カーボン繊維に含浸させたプリプレグ樹脂を用いた。巻芯表面にはエポキシ導電性樹脂をコーティングし、表面を研磨して、表面粗さRaは0.3μmに仕上げた。なお、巻長は2500mとした。このフィルム原反試料を光学フィルム1−1とする。
(光学フィルム1−2の作製):本発明の光学フィルム
光学フィルム1−1の作製時に得られた返材1−1を5〜10mmに細かく断裁した後、ペレット1−1を70%、及び返材1−1を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム1−2を作製した。なお、この時得られた返材を返材1−2とする。
(光学フィルム1−3の作製):本発明の光学フィルム
ペレット1−1を70%、及び返材1−2を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム1−3を作製した。
(光学フィルム1−4の作製):本発明の光学フィルム
ペレット1−1を50%、及び返材1−1を50%の質量比(返材率50%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム1−4を作製した。
(ペレット2−1の製造)
ペレット1−1の作製において、例示化合物1の代わりに同じ質量部の例示化合物2を用いた以外はペレット1−1の作製に記載の方法と同様にして、ペレット2−1を作製した。
(光学フィルム2−1の作製):本発明の光学フィルム
光学フィルム1−1の作製において、ペレット1−1の代わりにペレット2−1を用いた以外は光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして、光学フィルム2−1を作製した。なお、この時得られた返材を返材2−1とする。
(光学フィルム2−2の作製):本発明の光学フィルム
ペレット2−1を70%、及び返材2−1を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム2−2を作製した。なお、この時得られた返材を返材2−2とする。
(光学フィルム2−3の作製):本発明の光学フィルム
ペレット2−1を70%、及び返材2−2を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム2−3を作製した。
(光学フィルム2−4の作製):本発明の光学フィルム
ペレット2−1を50%、及び返材2−1を50%の質量比(返材率50%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム2−4を作製した。
(ペレット3−1の製造)
ペレット1−1の作製において、例示化合物1の代わりに同じ質量部の比較化合物1を用いた以外はペレット1−1の作製に記載の方法と同様にして、ペレット3−1を作製した。
(光学フィルム3−1の作製):比較の光学フィルム
光学フィルム1−1の作製において、ペレット1−1の代わりにペレット3−1を用いた以外は光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして、光学フィルム3−1を作製した。なお、この時得られた返材を返材3−1とする。
(光学フィルム3−2の作製):比較の光学フィルム
ペレット3−1を70%、及び返材3−1を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム3−2を作製した。なお、この時得られた返材を返材3−2とする。
(光学フィルム3−3の作製):比較の光学フィルム
ペレット3−1を70%、及び返材3−2を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム3−3を作製した。
(光学フィルム3−4の作製):比較の光学フィルム
ペレット3−1を50%、及び返材3−1を50%の質量比(返材率50%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム3−4を作製した。
(ペレット4−1の製造)
ペレット1−1の作製において、例示化合物1の代わりに同じ質量部の比較化合物2を用いた以外はペレット1−1の作製に記載の方法と同様にして、ペレット4−1を作製した。
(光学フィルム4−1の作製):比較の光学フィルム
光学フィルム1−1の作製において、ペレット1−1の代わりにペレット4−1を用いた以外は光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして、光学フィルム4−1を作製した。なお、この時得られた返材を返材4−1とする。
(光学フィルム4−2の作製):比較の光学フィルム
ペレット4−1を70%、及び返材4−1を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム4−2を作製した。なお、この時得られた返材を返材4−2とする。
(光学フィルム4−3の作製):比較の光学フィルム
ペレット4−1を70%、及び返材4−2を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム4−3を作製した。
(光学フィルム4−4の作製):比較の光学フィルム
ペレット4−1を50%、及び返材4−1を50%の質量比(返材率50%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム4−4を作製した。
(ペレット5−1の製造)
ペレット1−1の作製において、例示化合物1の代わりに同じ質量部の比較化合物3を用いた以外はペレット1−1の作製に記載の方法と同様にして、ペレット5−1を作製した。
(光学フィルム5−1の作製):比較の光学フィルム
光学フィルム1−1の作製において、ペレット1−1の代わりにペレット5−1を用いた以外は光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして、光学フィルム5−1を作製した。なお、この時得られた返材を返材5−1とする。
(光学フィルム5−2の作製):比較の光学フィルム
ペレット5−1を70%、及び返材5−1を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム5−2を作製した。なお、この時得られた返材を返材5−2とする。
(光学フィルム5−3の作製):比較の光学フィルム
ペレット5−1を70%、及び返材5−2を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム5−3を作製した。
(光学フィルム5−4の作製):比較の光学フィルム
ペレット5−1を50%、及び返材5−1を50%の質量比(返材率50%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム5−4を作製した。
(ペレット6−1の製造)
ペレット1−1の作製において、例示化合物1を除いた以外はペレット1−1の作製に記載の方法と同様にして、ペレット6−1を作製した。
(光学フィルム6−1の作製):比較の光学フィルム
光学フィルム1−1の作製において、ペレット1−1の代わりにペレット6−1を用いた以外は光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして、光学フィルム6−1を作製した。なお、この時得られた返材を返材6−1とする。
(光学フィルム6−2の作製):比較の光学フィルム
ペレット6−1を70%、及び返材6−1を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム6−2を作製した。なお、この時得られた返材を返材6−2とする。
(光学フィルム6−3の作製):比較の光学フィルム
ペレット6−1を70%、及び返材6−2を30%の質量比(返材率30%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム6−3を作製した。
(光学フィルム6−4の作製):比較の光学フィルム
ペレット6−1を50%、及び返材6−1を50%の質量比(返材率50%)で混合した後、前記光学フィルム1−1の作製に記載の方法と同様にして光学フィルム6−4を作製した。
使用した化合物の詳細を以下に示す。
(セルロースエステル)
C−1:セルロースアセテートプロピオネート(アセチル基置換度1.4、プロピオニル基置換度1.3、分子量Mn=86,000、Mw/Mn=2.5)
(各種添加剤)
得られた光学フィルムに対して、下記方法で評価を行った。評価の結果を表1に示す。また、原反試料から一部分光学フィルムを切り出し、下記方法でイエローインデックス、及びヘイズの評価を行った。
(馬の背故障、巻芯転写)
巻き取った光学フィルム原反試料をポリエチレンシートで2重に包み、図8(a)、(b)、(c)に示すような保存方法で、25℃、50%の条件下で30日間保存した。その後、箱から取り出し、ポリエチレンシートを開け、光学フィルム原反試料表面に点灯している蛍光灯の管を反射させて映し、その歪み或いは細かい乱れを観察し、馬の背故障を下記レベルにランク分けした。
A:蛍光灯が真っすぐに見える
B:蛍光灯が部分的に曲がって見える
C:蛍光灯がまだらに映って見える
また、保存後の光学フィルム原反試料を巻き返して、50μm以上の点状の変形、または幅手方向の帯状の変形がはっきり見える巻芯転写が、巻芯部分より何mまで発生しているかを測定し、下記レベルにランク分けを行った。
A:巻芯部分より15m未満
B:巻芯部分より15〜30m未満
C:巻芯部分より30〜50m未満
D:巻芯部分より50m以上
(巻始めシワ)
巻芯に原反フィルムを巻き取る作業を行い、巻始めでシワが発生して不良となった場合は巻芯から原反フィルムを取り外して、再度巻き取る作業を行った。この時の不良回数をカウントした。この作業を10回行平均値を求め、下記レベルにランク分けを行った。
A:0回以上1回未満
B:1回以上3回未満
C:3回以上5回未満
D:5回以上
(イエローインデックス(YI)値の測定)
YIはJIS規格K7105−6.3に記載の方法で求められる。本発明におけるYIは、上記作製した各々の光学フィルムについて、日立製作所製分光光度計U−3310と付属の彩度計算プログラム等を用いて、色の三刺激値X、Y、Zを求め、以下の式に従ってYIを求めた。
YI=100(1.28X−1.06Z)/Y
次いで、上記測定した光学フィルムのYI値を、下記のランクに分類した。
A:YI値が1.0未満
B:YI値が1.0〜1.5未満
C:YI値が1.5〜2.0未満
D:YI値が2.0以上
(ヘイズ)
ヘイズ計(1001DP型、日本電色工業(株)製)を用いて測定した結果から、試料の厚さが80μmの場合のヘイズの値に換算し、下記基準に従って評価を行った。
A:ヘイズが0.5%未満
B:ヘイズが0.5〜1.0%未満
C:ヘイズが1.0〜1.5%未満
D:ヘイズが1.5%以上
表1より、本発明に係る前記一般式(1)で表される化合物を含有する光学フィルム1−1〜1−4、2−1〜2−4は、比較の光学フィルム3−1〜3−4、4−1〜4−4、5−1〜5−4、6−1〜6−4に対して、長期間保存しても馬の背故障、巻芯転写が少なく、巻始めシワ等のフィルム原反の変形故障が発生しにくい光学フィルムであることが分かる。また、イエローインデックス、ヘイズが良好で光学特性に優れていることが分かる。更には、本発明の光学フィルムは、それぞれ返材を用いない光学フィルム1−1、2−1の性能(馬の背故障、巻芯転写、巻始めシワ等のフィルム原反の変形故障、及びイエローインデックス、ヘイズ等の光学特性)から劣化が全くないか、或いは比較の光学フィルムに対して、劣化程度が極めて小さいことが分かる。
実施例2
下記の組成物を調製した。
(帯電防止層塗布組成物(1))
ポリメチルメタアクリレート(重量平均分子量55万、Tg:90℃)0.5質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 60質量部
メチルエチルケトン 16質量部
乳酸エチル 5質量部
メタノール 8質量部
導電性ポリマー樹脂P−1(0.1〜0.3μm粒子) 0.5質量部
(ハードコート層塗布組成物(2))
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート単量体 60質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート2量体 20質量部
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート3量体以上の成分 20質量部
ジエトキシベンゾフェノン光反応開始剤 6質量部
シリコーン系界面活性剤 1質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 75質量部
メチルエチルケトン 75質量部
(カール防止層塗布組成物(3))
アセトン 35質量部
酢酸エチル 45質量部
イソプロピルアルコール 5質量部
ジアセチルセルロース 0.5質量部
超微粒子シリカ2%アセトン分散液(アエロジル:200V、日本アエロジル(株)製) 0.1質量部
下記に従って、機能付与した偏光板保護フィルムを作製した。
(偏光板保護フィルム)
実施例1で作製した本発明の光学フィルム1−1をポリエチレンシートで2重に包み、図8に示すような保存方法で25℃、50%RHの条件下で30日間、この後、40℃、80%RHの条件下で保存した。その後、それぞれポリエチレンシートを外して、それぞれの原反試料から巻き出したセルロースエステルフィルムの片面に、カール防止層塗布組成物(3)をウェット膜厚13μmとなるようにグラビアコートし、乾燥温度80±5℃にて乾燥させた。これを試料1−1Aとする。
このセルロースエステルフィルムのもう1方の面に帯電防止層塗布組成物(1)を28℃、82%RHの環境下でウェット膜厚で7μmとなるようにフィルムの搬送速度30m/minで塗布幅1mで塗布し、次いで80±5℃に設定された乾燥部で乾燥して乾燥膜厚で約0.2μmの樹脂層を設け、帯電防止層付きセルロースエステルフィルムを得た。これを試料1−1Bとする。
更に、この帯電防止層の上にハードコート層塗布組成物(2)をウェット膜厚で13μmとなるように塗設し、乾燥温度90℃にて乾燥させた後、紫外線を150mJ/m2となるように照射して、乾燥膜厚で5μmのクリアハードコート層を設けた。これを試料1−1Cとする。
得られた本発明の光学フィルム試料1−1A、試料1−1B、試料1−1Cはともにブラッシングを起こすこともなく、乾燥後の亀裂の発生も認められず、塗布性は良好であった。
光学フィルム1−1に代えて、本発明の光学フィルム1−2〜1−4、2−1〜2−4に変更した以外は同様の方法で塗布行った。その結果、試料1−2A〜1−4A、2−1A〜2−4A、1−2B〜1−4B、2−1B〜2−4B、1−2C〜1−4C、2−1C〜2−4Cの何れもブラッシングを起こすこともなく、乾燥後の亀裂の発生も認められず、塗布性は良好であった。
比較として、比較の光学フィルム3−1〜3−4、4−1〜4−4、5−1〜5−4、6−1〜6−4について、それぞれ上記と同様な方法で塗布を行った。
カール防止層塗布組成物(3)を塗布したものをそれぞれ試料3−1A〜3−4A、4−1A〜4−4A、5−1A〜5−4A、6−1A〜6−4A、更に帯電防止層塗布組成物(1)を塗布したものをそれぞれ試料3−1B〜3−4B、4−1B〜4−4B、5−1B〜5−4B、6−1B〜6−4B、更にこの帯電防止層の上にハードコート層塗布組成物(2)を塗布したものをそれぞれ試料3−1C〜3−4C、4−1C〜4−4C、5−1C〜5−4C、6−1C〜6−4Cとした。
その結果、高湿度環境で塗布したとき、試料3−1A〜3−4A、4−1A〜4−4A、5−1A〜5−4A、6−1A〜6−4Aでブラッシングが起こった。また、試料3−1B〜3−4B、4−1B〜4−4B、5−1B〜5−4B、6−1B〜6−4Bでは乾燥後微細な亀裂が認められることがあり、試料3−1C〜3−4C、4−1C〜4−4C、5−1C〜5−4C、6−1C〜6−4Cでは乾燥後微細な亀裂が明確に認められた。
(偏光板の作製と評価)
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを沃素1質量部、沃化カリウム2質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液に浸漬し50℃で4倍に延伸し偏光子を作製した。
実施例1で作製した本発明の光学フィルム1−2〜1−4、2−2〜2−4及び比較の光学フィルム3−2〜3−4、4−2〜4−4、5−2〜5−4、6−2〜6−4をポリエチレンシートで2重に包み、図8に示すような保存方法で25℃、50%RHの条件下で30日間、この後、40℃、80%RHの条件下で保存した。その後、それぞれポリエチレンシートを外して、それぞれの原反試料から巻き出した光学フィルムを40℃の2.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液で60秒間アルカリ処理し、更に水洗乾燥して表面をアルカリ処理した。
前記偏光子の両面に、本発明の試料1−1〜1−4、2−1〜2−4、及び比較の試料3−1〜3−4、4−1〜4−4、5−1〜5−4、6−1〜6−4のアルカリ処理面を、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として両面から貼合し、保護フィルムが形成された本発明の偏光板1−1〜1−4、2−1〜2−4、及び比較の偏光板3−1〜3−4、4−1〜4−4、5−1〜5−4、6−1〜6−4を作製し、平面性を評価した。
(液晶表示装置としての特性評価)
VA型液晶表示装置である、シャープ(株)製32型テレビAQ−32AD5の偏光板を剥がし、上記で作製した各々の偏光板を液晶セルのサイズに合わせて断裁した。液晶セルを挟むようにして、前記作製した偏光板2枚を偏光板の偏光軸が元と変わらないように互いに直交するように貼り付け、32型VA型カラー液晶ディスプレイを作製し、光学フィルムの偏光板としての特性を評価した。
〈平面性〉
得られた偏光板をA4サイズにカットし、水平なテーブルの上で少し引っ張りながら長手方向の両端をテープでテーブルに貼り付けて、偏光板表面の平面性を下記基準で目視評価した。
A:表面に波打ち状のムラは全く認められない
B:表面にわずかに波打ち状のムラが認められる
C:表面に細かい波打ち状のムラが認められる
D:表面に大きな波打ち状のムラが認められる
(コントラスト)
23℃55%RHの環境で、この液晶テレビのバックライトを点灯して30分そのまま放置してから、コントラストを目視により以下の基準に従い評価した。
A:黒がしまって見え、鮮明である
B:黒がしまって見えるが、やや鮮明さが低い
C:黒のしまりがなく、鮮明さがやや低い
D:黒のしまりがなく、鮮明さが低い
上表より、本発明の偏光板1−1〜1−4、2−1〜2−4は比較の偏光板3−1〜3−4、4−1〜4−4、5−1〜5−4、6−1〜6−4に対して、平面性、物性に優れた保護フィルムで両面が保護されているため、平面性、物性の良好な偏光板を提供するという優れた効果を奏することがわかった。
また、上表より、本発明の偏光板1−1〜1−4、2−1〜2−4を用いた液晶表示装置は、比較の偏光板3−1〜3−4、4−1〜4−4、5−1〜5−4、6−1〜6−4を用いた液晶表示装置に対してコントラストも高く、優れた表示性を示した。これにより、液晶ディスプレイ等の画像表示装置用の偏光板として優れていることが確認された。