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JP2010183056A - 軟磁性材料の製造方法、軟磁性材料、及び圧粉磁心 - Google Patents

軟磁性材料の製造方法、軟磁性材料、及び圧粉磁心 Download PDF

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JP2010183056A JP2009185073A JP2009185073A JP2010183056A JP 2010183056 A JP2010183056 A JP 2010183056A JP 2009185073 A JP2009185073 A JP 2009185073A JP 2009185073 A JP2009185073 A JP 2009185073A JP 2010183056 A JP2010183056 A JP 2010183056A
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和嗣 草別
Yasushi Mochida
恭志 餅田
Atsushi Sato
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Abstract

【課題】軟磁性金属粒子の外周に健全なシリコーン被膜が形成された複合磁性粒子からなる軟磁性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】軟磁性金属粒子からなる材料粉末を用意すると共に、加水分解・縮重合反応により硬化するシリコーンを含む樹脂材料を、前記材料粉末の特徴量に応じた量、用意する。そして、混合容器内に材料粉末を投入すると共に、樹脂材料を複数回に分けて投入し、80〜160℃の加熱雰囲気で混合することで、軟磁性金属粒子の外周に複数層のシリコーン被膜を形成する。
【選択図】なし

Description

本発明は、圧粉磁心の材料であり、軟磁性金属粒子の外周にシリコーン被膜を有する複合磁性粒子からなる軟磁性材料、およびその製造方法に関するものである。
ハイブリッド自動車などは、モータへの電力供給系統に昇圧回路を備えている。この昇圧回路の一部品として、リアクトルが利用されている。リアクトルは、コアにコイルを巻回した構成である。このようなリアクトルを交流磁場で使用した場合、コアに鉄損と呼ばれるエネルギー損失が生じる。鉄損は、概ね、ヒステリシス損と渦電流損との和で表され、特に、高周波での使用において顕著になる。
リアクトルのコアにおける鉄損を低減するために、圧粉磁心でできたコアを用いることがある。圧粉磁心は、軟磁性金属粒子の表面に絶縁被膜を形成した複合磁性粒子からなる軟磁性材料を加圧して形成され、金属粒子同士が絶縁被膜により絶縁されているので、特に、渦電流損を低減する効果が高い。
しかし、圧粉磁心は、加圧成形を経て作製されるため、この加圧成形時の圧力により複合磁性粒子の絶縁被膜が損傷する虞がある。その結果、圧粉磁心における軟磁性金属粒子同士が接触して渦電流損の増大を招き、圧粉磁心の高周波特性が低下する虞がある。
また、加圧成形後に軟磁性金属粒子に導入された歪みや転移は、ヒステリシス損を増加させる要因となるため、加圧成形後に熱処理を行わなければならないが、絶縁被膜を劣化させる虞があるため、高温での熱処理を行うことが難しい。熱処理温度が十分でないと、金属粒子に導入された歪みなどを十分に除去することができず、その結果、ヒステリシス損の増大を招き、圧粉磁心の高周波特性が低下する虞がある。
このような問題に対して、例えば、特許文献1に記載の技術は、軟磁性金属粒子の表面に多層の絶縁被膜を形成することで、加圧成形および熱処理による問題を解決している。この文献の技術では、内側にある絶縁被膜としてリン化合物やケイ素化合物などを、外側にある絶縁被膜としてシリコーンなどを利用できるとしている。
特開2006−202956号公報
ここで、組成の異なる複数層の絶縁被膜を形成することは生産性が悪く、層間で剥離が生じる虞もあるため、出来れば単一組成の絶縁被覆を備える複合磁性粒子からなる軟磁性材料が望まれている。その絶縁被膜として、可撓性と耐熱性に優れるシリコーン被膜が好適であると考えられる。一般に、シリコーン被膜を形成するには、被覆対象となる軟磁性金属粒子とシリコーンとを混合した後、乾燥処理にてシリコーンを加水分解・縮重合反応により硬化させる。
しかし、上記のようなシリコーン被膜の形成方法では、軟磁性金属粒子にシリコーン被膜が形成されていない箇所が生じ、この磁性粒子を使用した圧粉磁心において鉄損(特に、渦電流損)が十分に低減されない虞がある。例えば、生産性に優れる水アトマイズ法で作製された軟磁性金属粒子は、非常に凹凸の大きな形状であり、特に、金属粒子の凸部の先端にシリコーン被膜が形成され難い。これは、金属粒子とシリコーンとを混合する際、金属粒子の凸部が別の金属粒子に接触するからであると推察される。加えて、加水分解・縮重合の過程で、シリコーンが凝集したり、加水分解の生成物である有機物が離脱することでシリコーン被膜にピンホールができたりすることもシリコーン被膜が形成されていない箇所が生じる原因ではないかと推察される。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、軟磁性金属粒子の外周に健全なシリコーン被膜が形成された複合磁性粒子からなる軟磁性材料の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するために、シリコーン被膜の形成方法について種々検討した。まず、樹脂材料の量を多くしたり、樹脂材料の加水分解・縮重合反応を促進させた場合、樹脂材料が凝集してしまい、金属粒子の表面をシリコーン被膜で実質的に覆うことは難しかった。次に、被覆し損なった箇所を補うように、樹脂材料を追加で投入してみると、シリコーン被膜の形成状態の改善が認められたものの、軟磁性材料に占める樹脂材料の割合が大きいため、圧粉磁心としたときの磁気特性が低下する傾向にあった。最後に、シリコーン被膜を形成するために必要と考えられる分だけ樹脂材料を用意し、その用意した樹脂材料を複数回に分けて投入することを検討した。当初、少量の樹脂材料を投入した場合、雰囲気中の水分子に触れる割合が高く、樹脂材料の縮重合反応が促進され、樹脂材料が凝集してしまうと予想していた。しかし、樹脂材料を分割投入すると共に、樹脂材料と材料粉末を加熱雰囲気で混合することで、比較的健全なシリコーン被膜を形成できることが判った。これら試行錯誤の末、得られた知見に基づいて本発明軟磁性材料の製造方法を規定する。
本発明は、軟磁性金属粒子の外周にシリコーン被膜を備える複合磁性粒子からなる軟磁性材料の製造方法であって、以下の工程を備えることを特徴とする。
・軟磁性金属粒子からなる材料粉末を用意する工程。
・加水分解・縮重合反応により硬化するシリコーンを含む樹脂材料を、前記材料粉末の特徴量に応じた量、用意する工程。
・混合容器内に材料粉末を投入すると共に、樹脂材料を複数回に分けて投入し、80〜160℃の加熱雰囲気で混合することで、軟磁性金属粒子の外周に複数層のシリコーン被膜を形成する工程。
本発明軟磁性材料の製造方法によれば、軟磁性金属粒子の表面を実質的に覆うようにシリコーン被膜を形成した複合磁性粒子からなる軟磁性材料を製造することができる。従って、この軟磁性材料を使用すれば、金属粒子同士の絶縁が確保された圧粉磁心を作製できる。
以下、本発明軟磁性材料の製造方法に備わる各工程の構成要素を順次詳細に説明する。
≪材料粉末の用意≫
用意する材料粉末は、軟磁性金属粒子を集合したものである。軟磁性金属粒子としては、鉄を50質量%以上含有するものが好ましく、例えば、純鉄(Fe)が挙げられる。その他、鉄合金、例えば、Fe−Si系合金、Fe−Al系合金、Fe−N系合金、Fe−Ni系合金、Fe−C系合金、Fe−B系合金、Fe−Co系合金、Fe−P系合金、Fe−Ni−Co系合金、及びFe−Al−Si系合金から選択される1種からなるものが利用できる。特に、透磁率及び磁束密度の点から、99質量%以上がFeである純鉄が好ましい。
軟磁性金属粒子の平均粒径は、1μm以上70μm以下とすると良い。軟磁性金属粒子の平均粒径を1μm以上とすることによって、軟磁性材料の流動性を落とすことがなく、軟磁性材料を用いて製作された圧粉磁心の保磁力およびヒステリシス損の増加を抑制できる。逆に、軟磁性金属粒子の平均粒径を70μm以下とすることによって、1kHz以上の高周波域において発生する渦電流損を効果的に低減できる。より好ましい軟磁性金属粒子の平均粒径は、40μm以上70μm以下である。この平均粒径の下限が40μm以上であれば、渦電流損の低減効果が得られると共に、軟磁性材料の取り扱いが容易になり、より高い密度の成形体とすることができる。なお、この平均粒径とは、粒径のヒストグラム中、粒径の小さい粒子からの質量の和が総質量の50%に達する粒子の粒径、つまり50%粒径をいう。
また、軟磁性金属粒子は、その円形度が1.0に近ければ、後工程におけるシリコーン被膜の形成が容易であるが、本発明軟磁性材料の製造方法によれば、金属粒子の円形度が0.8以下であっても健全な樹脂被膜を形成できる。円形度は、粒子の断面における面積と周囲長に基づいて粒子の形状の複雑さを測る指標であって、「4πS/L(S:面積、L:周囲長)」で表される。測定対象が真円の場合、円形度は1.0となり、測定対象が真円から遠ざかる複雑形状になるほど円形度は低くなる。円形度を算出するには、粒子を撮影した画像を2値化処理し、粒子に相当する部分の面積と周囲長を測定することにより求めれば良い。
上記円形度が0.8以下である軟磁性金属粒子は、円形度が1.0に近いもの(真円に近いもの)に比べて、圧粉磁心にしたときに反磁界係数を大きくでき、高周波特性に優れた圧粉磁心とすることができる。また、圧粉磁心の強度を向上させることができる。このような円形度の軟磁性金属粒子は、水アトマイズ法により得ることができる。水アトマイズ法は、軟磁性金属粒子を製造する一般的な手法であり、金属粒子の生産効率が良い。そのため、金属粒子の製造コスト、ひいては金属粒子を用いた軟磁性材料とこの材料を用いた圧粉磁心の製造コストを低くできる。
軟磁性金属粒子はその表面にシリコーンとは異なる絶縁被膜を有していても良い。この絶縁被膜を有することにより、金属粒子の表面にシリコーン被膜を備えることによる効果(金属粒子同士の接触を抑制し、成形体の比透磁率を抑える効果)をより向上させることが期待される。絶縁被膜の厚さは、10nm以上あれば十分である。
絶縁被膜は、絶縁性に優れるものであれば良く、例えば、リン酸塩やチタン酸塩などを好適に利用できる。特に、リン酸塩からなる絶縁被膜は変形性に優れるので、軟磁性材料を加圧して圧粉磁心を作製する際に軟磁性金属粒子が変形しても、この変形に追従して変形することができる。また、リン酸塩被膜は鉄系の軟磁性金属粒子に対する密着性が高く、金属粒子表面から脱落し難い。リン酸塩としては、リン酸鉄やリン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどのリン酸金属塩化合物を利用することができる。この絶縁被膜は、軟磁性金属粒子の円形度が低くても粒子の表面を実質的に覆うように設けることができるが、耐熱性が低い傾向にある。
上記絶縁被膜は、水和水を含有するものであることが好ましい。水和水を含有する絶縁被覆を備える材料粉末を使用すれば、後述するシリコーン被膜の形成工程において同被膜の形成時間を大幅に短くすることができる。これは、絶縁被膜に含有される水和水が、シリコーン被膜の形成を促進するからである。詳しいメカニズムは、後段で詳述する。なお、水和水を含む絶縁被膜は、予め水和水を含有する材料を用いて形成すれば良い。
≪樹脂材料の用意≫
用意する樹脂材料としては、加水分解・縮重合反応により硬化するシリコーンであれば特に限定されない。代表的には、Si(OR)(m、nは自然数)で表される化合物を利用することができる。ORは、加水分解基であり、例えば、アルコキシ基やアセトキシ基、ハロゲン基、イソシアネート基、ヒドロキシル基などを挙げることができる。アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシを挙げることができる。特に、加水分解後の反応生成物を除去する手間を考慮すると、加水分解基はメトキシが良い。これら樹脂材料は、単独で用いても、組み合わせて用いてもかまわない。
樹脂材料が加水分解・縮重合して形成されるシリコーン被膜は、変形性に優れるので、軟磁性材料を加圧する際に割れや亀裂が生じ難く、絶縁被膜の表面から剥離することも殆どない。しかも、シリコーン被膜は、耐熱性に優れるので、軟磁性材料を加圧成形した後の熱処理温度を高温にしても、優れた絶縁性を維持することができる。さらに、シリコーン被膜は、軟磁性金属粒子の表面にリン酸塩などの絶縁被膜が形成されている場合、その絶縁被膜を熱などから保護する役目も果たす。
用意する樹脂材料の量は、作製する圧粉磁心に要求される特性を満たす厚さのシリコーン被膜が形成できるように適宜選択すれば良い。この量は、軟磁性金属粒子の表面を実質的に覆うことができるように、金属粒子(材料粉末)の特徴量(代表的には比表面積(cm/cm)や粒径など)から決定すると良い。但し、用途が概ね限定されている軟磁性材料において、使用する金属粒子の粒径も比表面積もある程度決まった範囲に収まるので、材料粉末の質量を材料粉末の特徴量としてもかまわない。具体的には、樹脂材料の量を、材料粉末に対する質量比で決定すると良い。具体的には、用意する樹脂材料の量は、材料粉末の質量の0.5〜2.5質量%とすると良い。樹脂材料の量がこの範囲であれば、複合磁性粒子の表面全体を実質的にシリコーン被膜で覆うことができるので、軟磁性金属粒子間の絶縁性を高めることができる。
≪シリコーン被膜の形成≫
材料粉末と樹脂材料の混合は、80〜160℃の加熱雰囲気で行う。混合により、複合磁性粒子の表面に樹脂材料がまぶされた状態になる。そして、混合雰囲気中に含まれる水分子が樹脂材料を加水分解・縮重合させ、シリコーン被膜を形成させる。この加水分解・縮重合反応は、高温になるほど促進される。また、高温にすると、加水分解・縮重合時に生成する有機物、例えば、加水分解基がメトキシであればメタノールを容易に除去することができる。加熱雰囲気に上限を設けたのは、混合時の温度が高すぎると、軟磁性金属粒子の表面に柔軟性のない被膜が形成される虞があるからである。柔軟性のない被膜は割れ易く、割れてしまえばその絶縁性が著しく低下する虞がある。
軟磁性金属粒子の表面に絶縁被膜を有し、さらにこの絶縁被膜に水和水が含まれる場合、加熱雰囲気での混合の際に絶縁被膜の水和水を樹脂材料の加水分解・縮重合反応に利用することができる。絶縁被膜に含まれる水和水の離脱は、約80℃程度から始まり、高温になるほど離脱の速度が上がるし、樹脂材料の加水分解・縮重合反応も促進する。また、この構成では、樹脂材料の直下に水分子の発生源である絶縁被膜が存在するので、非常に短時間で絶縁材料の加水分解・縮重合が進行する。しかも、水分子の発生源が樹脂材料の近傍に存在することから、数10kgオーダーの大バッチでの混合を行っても、絶縁被膜の表面にまぶされた樹脂材料を確実にシリコーン被膜にすることができる。
その他、混合工程におけるシリコーン被膜の形成を促進する手段として、触媒を添加しても良い。触媒としては、蟻酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸などの有機酸や、塩酸、リン酸、硝酸、ほう酸、硫酸などの無機酸などを用いることができる。触媒の添加量は、多すぎると樹脂材料のゲル化を招くので、適切な量を選択すると良い。
用意した樹脂材料は、複数回に分けて混合容器に投入される。各投入量は、等しい必要はなく、また投入間隔も一定である必要はない。但し、1回目の樹脂材料の投入量は、材料粉末の質量の0.25〜0.5質量%であることが好ましい。この範囲の投入量であれば、金属粒子の表面全体に樹脂材料がまぶされた状態となるし、樹脂材料が凝集することも抑制されるものと考えられる。2回目以降の樹脂材料の投入量は、1回目の樹脂材料の投入により金属粒子の表面にある程度シリコーン被膜が形成されるため、1回目よりも少なくても多くても同じでも良い。
また、樹脂材料を投入する毎に混合時の混合条件を変化させて、シリコーン被膜の各層の硬度を内側から外側に向かって低くしても良い。例えば、混合時の雰囲気温度や混合時間を調整することで、被膜の各層を内側から外側に向かって硬度が小さくなるようにすることができる。雰囲気温度を低くするほど、樹脂材料の縮重合が進みにくくなるので、シリコーン被膜の硬度が小さくなる傾向にある。そのため、例えば、1回目の樹脂材料の投入時に設定した温度よりも2回目以降の樹脂材料を投入する際、投入前よりも温度を低く設定し直せば良い。温度の設定は、使用する樹脂材料の種類によって適宜選択すれば良い。例えば、メチル系シリコーンの場合、縮重合の開始温度は80〜160℃である。
シリコーン被膜の各層の硬度を内側から外側に向かって低くなるようにすると以下の利点がある。まず、内側の層は、金属粒子の凹凸により、そもそも形成され難いし、形成されても剥離し易いという問題があるが、内側の層の硬度が高くなるようにするとこの問題を改善することができる。内側の層が形成されてしまえば、その外側に層を形成することが容易なので、外側の層は硬度を低くしても良く、外側の層の硬度を低くすれば、内側の層と外側の層とを含むシリコーン被膜を可撓性に優れる被膜とできる。
以上のようにして作製された軟磁性材料は、軟磁性金属粒子の表面全体を実質的に覆うようにシリコーン被膜が形成された複合磁性粒子からなるので、この軟磁性材料を加圧して成形しても、軟磁性金属粒子同士が直接接触することが殆どない。また、軟磁性金属粒子の表面を覆うシリコーン被膜は、成形体を熱処理したときにバインダーの役割を果たし、各金属粒子間の絶縁を維持した状態でシリカ化する。その結果、加圧成形後に熱処理することで完成した圧粉磁心は、磁気特性に優れた圧粉磁心、特に、高周波での使用においてエネルギー損失の少ない圧粉磁心となる。
本発明軟磁性材料の製造方法により製造された軟磁性材料は、その軟磁性材料を構成する各複合磁性粒子において、軟磁性金属粒子の表面に複数層のシリコーン被膜が形成されると考えられる。既に述べたように、軟磁性材料の製造の際に投入される樹脂材料は、時期をずらして投入されるため、金属粒子の表面に形成されるシリコーン被膜も層状に順次形成されることになる。
この軟磁性材料において、シリコーン被膜を構成する各層について硬度を変化させた場合、各層の硬度が異なることの評価は、作製時の条件を種々変化させたシリコーンからなる評価試料の硬度に基づいて行えば良い。例えば、ガラス基板上に樹脂材料を塗布し、この材料を種々の条件の下、シリコーン被膜とし、その被膜の硬度をJIS K5600−5−4に記載される鉛筆法によるひっかき強度(鉛筆硬度)で測定する。そして、本発明軟磁性材料においてシリコーン被膜を形成する際の雰囲気温度を樹脂材料の硬化温度と見做し、シリコーン被膜を構成する各層の硬度を推定できる。
≪圧粉磁心の製造≫
圧粉磁心は、軟磁性材料を加圧して成形する工程と、この工程の後に行われる熱処理工程とを経ることにより得ることができる。
加圧成形工程は、代表的には、所定の形状の成形金型内に本発明軟磁性材料を投入し、圧力をかけて押し固めることで行うことができる。このときの圧力は、適宜選択することができるが、例えば、リアクトルのコアとなる圧粉磁心を製造するのであれば、約900〜1300MPa(好ましくは、960〜1280MPa)程度とすることが好ましい。
熱処理工程は、加圧成形工程で軟磁性金属粒子に導入された歪みや転移などを除去すると共に、シリコーン被膜をシリカ化して圧粉磁心の形状を固定するために行う。つまり、シリコーン被膜は、圧粉磁心を製造する際のバインダーとして機能する。熱処理温度が高いほど、歪みの除去を十分に行うことができることから、熱処理温度は、400℃以上、特に550℃以上、さらに650℃以上が好ましい。金属粒子の歪みなどを除去する観点から、熱処理の上限は約800℃程度とする。このような熱処理温度であれば、歪みの除去と共に、加圧時に金属粒子に導入される転移などの格子欠陥も除去できるし、シリコーン被膜中の有機物を効果的に除去することができる。
本発明軟磁性材料の製造方法によれば、軟磁性金属粒子と、この金属粒子の表面全体を実質的に覆うシリコーン被膜とを備える複合磁性粒子からなる軟磁性材料を製造することができる。製造された軟磁性材料は、シリコーン被膜により、加圧成形のときにも、加圧成形後の熱処理のときにも、各金属粒子間の絶縁が十分に確保される。その結果、高周波での使用においてエネルギー損失が少ない圧粉磁心となるので、例えば、この圧粉磁心をリアクトルのコアとして利用した場合、優れた磁気特性を有するコアとなる。この圧粉磁心は直流重畳特性に優れるため、ギャップレスのコアとすることも可能である。
試作材と比較材の磁気特性を示すグラフである。
本発明軟磁性材料の製造方法により作製した軟磁性材料を使用して圧粉磁心(試作材)を作製し、その物理特性を測定した。また、従来の軟磁性材料の製造方法により作製した軟磁性材料を使用して圧粉磁心(比較材A〜D、X)を作製し、その物理特性を測定した。そして、これら試作材と比較材の物理特性を比較した。試作材と比較材の具体的な作製手順は次の通りである。
<試作材の作製>
(a) 軟磁性金属粒子を集合した材料粉末を用意する工程。
(b) 水分子の存在下で加水分解・縮重合反応により硬化するシリコーン(樹脂材料)を用意する工程。
(c) 粉末材料と樹脂材料とを加熱雰囲気で混合し、各金属粒子の表面に複数層のシリコーン被膜を形成した複合磁性粒子からなる軟磁性材料を作製する工程。
(d) 軟磁性材料を加圧して成形する工程。
(e) 加圧成形時に軟磁性金属粒子に導入される歪みを取り除くための熱処理工程。
≪工程a≫
軟磁性金属粒子として、株式会社神戸製鋼所製のアトマイズ純鉄粉(商品名:アトメル300NH)を用意した。この金属粒子は、水アトマイズ法により作製された、純度が99.8%以上である異形状の鉄粉であり、その平均粒径が100μm、平均の円形度が0.7であった。平均粒径は、50%粒径により求めた。また、金属粒子の円形度は、次のようにして求めた。まず、複数(n=10)の金属粒子を撮影し、その画像を2値化処理して、各粒子に相当する部分の面積Sと周囲長Lを求めた。求めた面積Sと周囲長Lを式「4πS/L」に代入することにより求めた。
≪工程b≫
加水分解・縮重合反応により硬化するシリコーン(樹脂材料)として、分子末端がアルコキシシリル基(≡Si−R)で封鎖されたアルコキシレジンタイプのシリコーンオリゴマーであって、加水分解基(−R)がメトキシである樹脂を用意した。この樹脂材料を、軟磁性金属粒子の全量に対して1.0質量%用意した。なお、工程aと工程bの順序は問わない。
≪工程c≫
工程aで用意した材料粉末を混合容器であるミキサーに投入すると共に、工程bで用意した樹脂材料を3回に分けて投入し、150℃の加熱雰囲気で合計1時間混合した。樹脂材料の1回の投入量は、用意した量の1/3とし、各投入間隔は20分とした。つまり、用意した材料粉末を全量投入したミキサー内に、1回目の樹脂材料の投入を行って加熱雰囲気で混合を開始し、20分後に2回目の樹脂材料の投入を、40分後に3回目の樹脂材料の投入を行い、60分後に混合を終了した。この工程cにより複合磁性粒子の表面に複数層のシリコーン被膜がコートされた複合磁性粒子からなる軟磁性材料を得た。この工程cにおいて、樹脂材料を投入する毎に雰囲気温度を低く設定し直しても良い。この場合、シリコーン被膜の内側から外側に向かって硬度を低くできる。
また、この複合磁性粒子について、シリコーン被膜の形成状態を確認したところ、実質的に金属粒子の表面の90%以上にシリコーン被膜が形成されていた。金属粒子の表面を樹脂被覆が実質的に覆っているか否かは、金属粒子の比表面積と樹脂の添加量と実際の重量から求めた。
≪工程d≫
工程cで得られた軟磁性材料を所定の形状の金型内に注入し、1cmあたり13tonの面圧(約1275MPa)をかけて加圧成形することで、リング状の試験片を得た。試験片のサイズは以下の通りである。
リング状の試験片
外形34mm、内径20mm、厚み5mm
≪工程e≫
工程dで得られたリング状の試験片を窒素雰囲気下で500℃×1時間、熱処理した。熱処理を終えた試験片が、いわゆる圧粉磁心である。
<比較材A〜Dの作製>
比較材A〜Dの製造方法は、以下に示す点が試作材と異なる。
・比較材A:用意した樹脂材料を1回で全量投入した。
・比較材B:用意した樹脂材料を1回で全量投入した。また、混合時間は2時間とした。
・比較材C:用意した樹脂材料を1回で全量投入した。また、混合温度は225℃とした。
・比較材D:用意した樹脂材料を1回で全量投入した。また、混合温度は300℃とした。
<比較材Xの作製>
比較材Xの製造方法は、以下に示す点が試作材と異なる。
・軟磁性金属粒子の表面にリン酸塩被膜を有するものを材料粉末として用意した。
・シリコーン被膜の形成を行わず、材料粉末を加圧成形に供した。
これらの比較材についても、試作材と同様に、リング状の試験片を作製し、試作材と同じように磁気特性を測定した。
以上説明した試作材と比較材A〜D、Xの製造条件を次段の表1にまとめる。
Figure 2010183056
<評価>
作製した試作材と各比較材について、以下に列挙する特性値を測定した。
≪磁気特性≫
リング状の試験片に巻線を施し、試験片の磁気特性を測定するための測定部材を作製した。この測定部材について、AC−BHカーブトレーサを用いて、励起磁束密度Bm:1kG(=0.1T)、測定周波数f:10kHzにおける鉄損W1/10k、および、励起磁束密度Bm:2kG(=0.2T)、測定周波数f:10kHzにおける鉄損W2/10k(W/kg)を測定した。また、鉄損の周波数曲線を下記の3つの式で最小二乗法によりフィッティングし、各Bmにおけるヒステリシス損係数Kh(mWs/kg)および渦電流損係数Ke(mWs/kg)を算出した。
(鉄損)=(ヒステリシス損)+(渦電流損)
(ヒステリシス損)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)
(渦電流損)=(渦電流損係数)×(周波数)
また、測定部材を利用して、最大比透磁率(μmax)を測定した。最大比透磁率の測定にはDC/AC−BHトレーサ(メトロン技研株式会社製)を用いた。
≪密度≫
リング状の試験片の水中密度(g/cm)を測定した。
≪比抵抗≫
リング状の試験片を用いて、四端子法により電気抵抗(Ω)を測定し、その結果に基づいて比抵抗(μΩ・m)を求めた。
特性値の測定・算出結果を以下の表2および表3にまとめて記載する。また、試作材と比較材A〜Dの渦電流損((渦電流損係数Ke)×(周波数))を比較したグラフを図1に示す。なお、図1では、測定周波数f=10kHz、励起磁束密度Bm=0.1Tのときの渦電流損と比抵抗を示す。
Figure 2010183056
Figure 2010183056
≪評価結果≫
表1、2および図1に示すように、試作材は、比抵抗が高く、渦電流損が小さいので、例えば、リアクトル用のコアとしたときに優れた磁気特性を発揮することが期待できる。これは、試作材の作製に用いた軟磁性材料の個々の複合磁性粒子においてシリコーン被膜が比較的健全に形成されており、軟磁性金属粒子同士の絶縁が確保されていたからであると推察される。
これに対して、樹脂材料を1回で全量投入した比較材Aと、リン酸塩被膜のみを備える比較材Xは、極端に比抵抗が低い、即ち、各軟磁性金属粒子同士の絶縁が確保されておらず、そのため、鉄損(渦電流損)が測定できないほど大きかった。また、比較材Aと同様に、比較材B〜Dのように、樹脂材料を1回で全量投入する場合、混合時の時間を長くする、あるいは温度を高くしても試作材に匹敵する磁気特性を備える圧粉磁心とはならなかった。
なお、本発明の実施形態は、上述したものに限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
本発明の軟磁性材料の製造方法により製造された軟磁性材料は、高周波特性に優れた圧粉磁心の作製に好適に利用可能である。

Claims (7)

  1. 軟磁性金属粒子の外周にシリコーン被膜を備える複合磁性粒子からなる軟磁性材料の製造方法であって、
    軟磁性金属粒子からなる材料粉末を用意する工程と、
    加水分解・縮重合反応により硬化するシリコーンを含む樹脂材料を、前記材料粉末の特徴量に応じた量、用意する工程と、
    混合容器内に材料粉末を投入すると共に、樹脂材料を複数回に分けて投入し、80〜160℃の加熱雰囲気で混合することで、軟磁性金属粒子の外周に複数層のシリコーン被膜を形成する工程と、
    を備えることを特徴とする軟磁性材料の製造方法。
  2. 用意する樹脂材料の量は、材料粉末の質量の0.5〜2.5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の軟磁性材料の製造方法。
  3. 1回目の樹脂材料の投入量が、材料粉末の質量の0.25〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の軟磁性材料の製造方法。
  4. 軟磁性金属粒子の表面にシリコーンとは異なる絶縁被膜が被覆された材料粉末を使用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の軟磁性材料の製造方法。
  5. 絶縁被膜は、水和水を含有することを特徴とする請求項4に記載の軟磁性材料の製造方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟磁性材料の製造方法により得られたことを特徴とする軟磁性材料。
  7. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の軟磁性材料の製造方法により得られた軟磁性材料を加圧成形することで得られたことを特徴とする圧粉磁心。
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