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JP2008308488A - 非麦角系の選択的d2受容体アゴニストを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤 - Google Patents

非麦角系の選択的d2受容体アゴニストを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤 Download PDF

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和義 岡本
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圭一 柴垣
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Abstract


【課題】後眼部疾患の新たな予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】非麦角系の選択的D受容体アゴニストであるプラミペキソールは、脈絡膜、網膜といった後眼部組織において、優れた血管新生阻害作用、視細胞障害抑制作用及び血管透過性亢進抑制作用を発揮するので、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症または糖尿病黄斑浮腫などの後眼部疾患の予防又は治療剤として有用である。

【選択図】 なし

Description

本発明は、選択的D受容体アゴニストを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤であって、該アゴニストが非麦角系アゴニストである、予防又は治療剤に関する。
ドーパミン受容体は、ドーパミンと特異的に結合してその作用発現に働く受容体で、脳のドーパミンニューロン部位に分布している。ドーパミン受容体は、主にアデニル酸シクラーゼへの連関形態から2つの受容体サブファミリーに分類されている。すなわち、興奮性Gタンパク質(Gs)を介してアデニル酸シクラーゼに促進的に連関しているD受容体サブファミリー(D受容体、D受容体)と、抑制性Gタンパク質(Gi)を介してアデニル酸シクラーゼに抑制的に作用し、ホスファチジルイノシトール代謝、アラキドン酸遊離に促進的に連関し、又は、カリウムチャネル若しくはカルシウムチャネルを連関するD受容体サブファミリー(D受容体、D受容体、D受容体)である。
選択的D受容体アゴニストは、D受容体サブファミリーに選択的に結合してその作用発現に働く化合物である。該アゴニストは、ドーパミン前駆物質のレボドパ(L−ドーパ)と同様に、パーキンソン病の治療に用いられており、いくつかの点でレボドパより有用であることが報告されている。例えば、該アゴニストは酵素的変換が薬物活性に必要とされないので、黒質線条体ニューロンの機能的能力に依存しないこと、作用持続時間がしばしばレボドパより長く、運動状態の用量依存性の変動に対する処置にしばしば有用であることが報告されている。また、選択的D受容体アゴニストは作用の点で選択的であり、脳全体のドーパミン受容体のすべてのタイプに活性を示すレボドパと異なり、該アゴニストはドーパミン受容体の異なったサブタイプに対し相対的な選択性を示す。例えば、プラミペキソールなどはD受容体サブファミリーに選択的活性を有し、D受容体サブファミリーにはほとんど作用しない。なお、プラミペキソールはパーキンソン病治療薬として上市されている。
一方で、ドーパミンが血管新生や血管透過性亢進に関与することを示唆する報告として、非特許文献1〜3がある。非特許文献1では、MOT(マウス卵巣腫瘍)を腹腔内に投与された動物モデル(マウス)を用いて、ドーパミンの血管透過性亢進や血管新生への影響を検討している。本文献では、ドーパミンがVEGFを介した血管透過性亢進及び血管新生を抑制したこと、また、ドーパミンがD受容体を介してVEGFR2のエンドサイトーシスを促進し、VEGFの受容体結合及びVEGFR2リン酸化を抑制したことが報告されている。非特許文献2には、ヒトおよびラット胃癌組織において、ドーパミン及びチロシンヒドロキシラーゼが確認されなかったこと、及び、ドーパミンが腫瘍血管内皮細胞におけるVEGFR2リン酸化を阻害することにより腫瘍血管新生を抑制したことが報告されている。非特許文献3には、末梢ドーパミン神経切除マウスにおいて、VEGFを介した血管新生の増加、微小血管透過性の亢進による悪性腫瘍の増殖が報告されている。
また、プラミペキソールは、上述のように、選択的D受容体アゴニストであり、パーキンソン病治療薬として上市されている。プラミペキソールに関する他の報告として、特許文献1〜2がある。特許文献1には、プラミペキソールが記載されており、該化合物がパーキンソン病や中枢神経系神経精神疾患に有用であることが記載されている。特許文献2には、プラミペキソールの緑内障治療用途が示唆されている。
しかしながら、プラミペキソールに代表される非麦角系の選択的D受容体アゴニストに関する報告として、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、血管新生阻害作用、視細胞障害抑制作用又は血管透過性亢進抑制作用を検討した報告はない。また、該アゴニストの後眼部疾患に対する薬理作用を検討した報告はなく、特に、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などに対する予防、改善効果について検討した報告はない。
加齢黄斑変性は、加齢に伴い黄斑部の網膜組織に障害が生じ、視力障害を来たすことを特徴とする疾患であり、失明にいたることもある、高齢者の視力障害の原因の一つである。加齢黄斑変性は3つの主要な病型に分類できる。即ち、これは、(1)ドルーゼンの形成と色素沈着又は色素脱落を特徴とする初期加齢黄斑変性(加齢黄斑変性の前駆病変とされることもある)、(2)黄斑部の網膜色素上皮細胞の萎縮変性、及び、網膜色素上皮細胞の萎縮変性に続発する網膜視細胞の萎縮変性を本態とする萎縮型加齢黄斑変性、ならびに、(3)黄斑部の網膜下に脈絡膜由来の新生血管が発育し、出血や細胞の滲出を来す滲出型加齢黄斑変性とに分類できる。

国際公開91/01136号パンフレット 特公平05−72907号公報 Nature Med., 7, 569-574(2001) Cancer Res., 64, 5551-5555(2004) Clinical Cancer Research, 10, 4349-4356(2004)
従って、選択的D受容体アゴニストの中でも非麦角系アゴニストに関して、新たな医薬用途を探索することは興味深い課題である。
萎縮型加齢黄斑変性の治療法について様々な研究が行われているが、臨床上有効と言える治療法は未だ確立されていない。また、滲出型加齢黄斑変性の治療法についても様々な研究が行われているが、低下した視力を完全に回復するような有効な治療法は見出されていない。よって、低分子化合物であって低コストに経口投与できる可能性がある加齢黄斑変性の治療薬、特に、萎縮型加齢黄斑変性に有効な治療薬を見出すことは臨床上極めて重大な意味を持つ。
さらに、糖尿病網膜症及び糖尿病黄斑浮腫の治療法の検討も精力的に行われているが、臨床上有効性の高い治療薬は見出されておらず、これらの疾患の治療薬を見出すことは極めて意義深い。
本発明者等は、選択的D受容体アゴニストであって、非麦角系である該アゴニストの新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究を行ったところ、該アゴニストであるプラミペキソールが、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、優れた血管新生阻害作用、視細胞障害抑制作用及び血管透過性亢進抑制作用を有することを見出し、本発明に至った。一方で、選択的D受容体アゴニストであって、麦角系アゴニストであるブロモクリプチン、及び、非選択的ドーパミン受容体アゴニストであるドーパミンについても血管新生阻害作用の評価を行ったが、これらの化合物では、脈絡膜や網膜において血管新生阻害作用はほとんど又は全く認められなかった。同様に、ブロモクリプチンについて視細胞障害抑制作用の評価を行ったが、ブロモクリプチンは視細胞障害抑制作用を示さなかった。すなわち、この結果は、プラミペキソールに代表される非麦角系の選択的D受容体アゴニストが、麦角系の選択的D受容体アゴニスト及び非選択的ドーパミン受容体アゴニストに比べてはるかに高い薬理学的な効果を示し、非麦角系D受容体アゴニストの優れた有用性を裏付けるものであった。
また、プラミペキソール、ブロモクリプチン及びドーパミンの3化合物は、ドーパミン受容体サブタイプの親和性に差異を有するものの、いずれもドーパミン受容体アゴニストであり、これらの3化合物は薬理学的に同じ作用を有する。しかし、上述したように、脈絡膜や網膜において血管新生阻害作用が認められたのは、プラミペキソールのみであり、ブロモクリプチン及びドーパミンではほとんど又は全く認められなかった。またプラミペキソールとブロモクリプチンの視細胞障害抑制作用を比較すると、プラミペキソールにのみ顕著な視細胞障害抑制作用が認められ、ブロモクリプチンには視細胞障害抑制作用はほとんど又は全く認められなかった。特に、プラミペキソール及びブロモクリプチンはいずれも選択的なD受容体アゴニストであるのに、脈絡膜や網膜における血管新生阻害作用及び視細胞障害抑制作用において、これらの2化合物がその薬理学的な効果に明確な差異を有することは驚くべき結果である。
すなわち、本発明は、選択的D受容体アゴニストであって、該アゴニストが非麦角系アゴニスト(以下、これらを総称して「本化合物」ともいう)を有効成分として含有する、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害等の後眼部疾患の予防又は治療剤に関する。
本化合物における『塩』とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
本化合物に幾何異性体又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本発明の範囲に含まれる。また、本化合物は水和物又は溶媒和物の形態をとっていてもよい。
本発明における「選択的D受容体アゴニスト」とは、D受容体サブファミリー(D受容体、D受容体又はD受容体)に結合する作動薬又は作用薬であって、かつ、D受容体サブファミリーとの親和性が、D受容体サブファミリー(D受容体又はD受容体)との親和性より高い作動薬又は作用薬をいう。また、「麦角系アゴニスト」とは、その化学構造中に麦角アルカロイド骨格を有するアゴニストをいい、「非麦角系アゴニスト」とは、その化学構造中に麦角アルカロイド骨格を含まないアゴニストをいう。なお、麦角アルカロイドとは、主にライ麦に寄生する麦角菌の菌核に含まれるインドールアルカロイドのことをいう。
本化合物における好ましい例として、プラミペキソール、アポモルヒネ、ピリベジル、キナゴリド、タリペキソール、ロチゴチン又はそれらの塩が挙げられる。
本化合物におけるより好ましい例として、プラミペキソール又はその塩が挙げられる。
本化合物における最も好ましい例としては、下記化学構造式で示されるプラミペキソール塩酸塩が挙げられる。
Figure 2008308488
本発明において後眼部疾患とは、硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患をいい、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症(単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症)、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害といった眼疾患が挙げられる。好ましくは、加齢黄斑変性(特に、滲出型加齢黄斑変性及び/又は萎縮型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫といった眼疾患が挙げられる。なお、脈絡膜、網膜といった後眼部組織において、血管新生を阻害すること、血管透過性亢進を抑制することが、上述の疾患の治療に有用であることは公知文献(日眼会誌, 103, 923-947(1999)、新図説臨床眼科講座第5巻「網膜硝子体疾患」初版、田野保雄監修、メジカルビュー社、pp.184-189及び232-237、(2000))より明らかである。また、視細胞障害を抑制することが、上述の疾患の中でも加齢黄斑変性症などに有用であることは公知文献(黄斑疾患テキスト&アトラス 第1版、宇山昌延 他編、医学書院、pp 43-45)より明らかである。
本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、単独製剤又は配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
本化合物は、前述の眼疾患の予防又は治療に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物はこれらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断等に応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを1回又は数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、点眼剤又は挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
後述の試験を実施したところ、薬理試験において、本化合物であるプラミペキソール塩酸塩(以下、「化合物A」ともいう)が、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を顕著に阻害することが示された。すなわち、化合物A等に代表される非麦角系の選択的D受容体アゴニストが、加齢黄斑変性、特に滲出型加齢黄斑変性などの血管新生を伴う後眼部疾患の予防又は治療剤として有用である。
一方で、麦角系の選択的D受容体アゴニストであるメシル酸ブロモクリプチン(以下、「化合物B」ともいう)、及び、非選択的ドーパミン受容体アゴニストである塩酸ドーパミン(以下、「化合物C」ともいう)についても同様の試験を行ったが、これらの化合物では、脈絡膜において血管新生阻害作用はほとんど又は全く認められなかった。すなわち、この結果は、化合物Aに代表される非麦角系の選択的D受容体アゴニストが、麦角系の選択的D受容体アゴニスト及び非選択的ドーパミン受容体アゴニストに比べてはるかに高い血管新生阻害作用を示し、非麦角系D受容体アゴニストの優れた有用性を裏付けるものであった。
また、後述の薬理試験において、化合物Aがマウス光障害モデルにおける視細胞障害を顕著に抑制することが示された。すなわち、化合物Aに代表される非麦角系の選択的D2受容体アゴニストが、加齢黄斑変性、特に萎縮型加齢黄斑変性などの視細胞障害を伴う後眼部疾患の予防又は治療剤として有用である。
これに対し、麦角系の選択的D2受容体アゴニストである化合物Bについても同様の試験を行ったが、視細胞障害に対する抑制効果はほとんど又は全く認められなかった。すなわち、この結果は、化合物Aに代表される非麦角系の選択的D2受容体アゴニストが、麦角系の選択的D2受容体アゴニストに比べてはるかに強い視細胞障害抑制作用を示し、非麦角系D2受容体アゴニストの優れた有用性を裏付けるものであった。
さらに、後述の薬理試験において、化合物Aが、トロンビン誘発ラット網膜血管透過性亢進モデルにおける網膜血管透過性亢進を顕著に抑制することが示された。すなわち、化合物Aに代表される非麦角系の選択的D2受容体アゴニストが、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの網膜血管障害が関与する後眼部疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
以下に、薬理試験及び製剤例の結果を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
[薬理試験1]
レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを用いて、本化合物、麦角系の選択的D受容体アゴニスト及び非選択的ドーパミン受容体アゴニストの有用性を評価した。
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルの作製方法)
ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、クリプトンレーザー光凝固装置により光凝固を行った。光凝固は、眼底後局部において、太い網膜血管を避け、焦点を網膜深層に合わせて1眼につき8ヶ所散在状に実施した(凝固条件:スポットサイズ100μm、出力100mW、凝固時間0.1秒)。光凝固後、眼底撮影を行い、レーザー照射部位を確認した。
(薬物投与方法)
化合物Aを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に0.06mg/ml又は0.2mg/mlになるように溶解し、これらの濃度の化合物A溶液を調製した。0.3mg/kg又は1mg/kgの用量でこれらの濃度の化合物A溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回経口投与した。化合物Bも同様に経口投与した。すなわち、化合物Bを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に0.06mg/ml又は0.2mg/mlになるように溶解し、これらの濃度の化合物B溶液を調製した。0.3mg/kg又は1mg/kgの用量でこれらの濃度の化合物B溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回経口投与した。一方、化合物CはPBS(リン酸緩衝液)に100mg/mlになるように溶解し、100mg/kgの用量で化合物C溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回腹腔内投与した。なお、基剤投与群には1%(W/V)メチルセルロース液又はPBSを同様に投与した。
(評価方法)
光凝固後7日目、ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、10%フルオレセイン溶液0.1mlを尾静脈から注入して、蛍光眼底造影を行った。蛍光眼底造影で、蛍光漏出が認められなかったスポットを陰性(血管新生なし)、蛍光漏出が認められたスポットを陽性(血管新生あり)と判断した。また、若干の蛍光漏出が認められる光凝固部位は、それが2箇所存在した時に陽性(血管新生あり)と判定した。その後、式1に従い、レーザー照射8ヶ所のスポットに対する陽性スポット数から脈絡膜血管新生発生率(%)を算出し、式2に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。化合物A〜Cの結果を表1に示す。なお各投与群の例数は7乃至8である。
[式1]
脈絡膜血管新生発生率(%)=(陽性スポット数/全光凝固部位数)×100
[式2]
抑制率(%)=(A−A)/A×100
:基剤投与群の脈絡膜血管新生発生率
:薬物投与群の脈絡膜血管新生発生率
Figure 2008308488
(考察)
表1から明らかなように、化合物Aが、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を阻害することが示された。一方、麦角系の選択的D受容体アゴニストである化合物B、及び、非選択的ドーパミン受容体アゴニストである化合物Cでは、脈絡膜おいて血管新生阻害作用はほとんど又は全く認められなかった。化合物A〜Cのいずれの化合物もD受容体を活性化させる作用を有するのに対し、非麦角系の選択的D受容体アゴニストである化合物Aのみが、脈絡膜において高い血管新生阻害作用を示したことは驚くべき結果である。
以上の結果から、化合物Aに代表される本化合物が、脈絡膜において優れた血管新生阻害作用を有し、加齢黄斑変性、特に、滲出型加齢黄斑変性などの血管新生が関与する後眼部疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。

[薬理試験2]
マウス光障害モデルを用いて、本化合物及び麦角系の選択的D受容体アゴニストの有用性を評価した。なお、マウス光障害モデルは光照射により、主に視細胞及び網膜色素上皮細胞層に障害を誘発させたモデル動物であり、主に網膜変性(例えば、加齢黄斑変性、特に萎縮型加齢黄斑変性や、網膜色素変性症)のモデル動物として汎用されている(Invest. Ophthalmol. Vis.Sci., 2005; 46: 979-987)。
(マウス光障害モデルの作製方法)
マウスに0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、光障害装置(酒見医科器機)によりマウスに光照射(照射条件:照度5000Lux、照射時間2時間)を行うことで、光障害を誘発させた。
(薬物投与方法)
化合物Aを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に0.006、0.02、0.06又は0.2mg/mlになるように溶解して薬物A溶液を調製した。0.03、0.1、0.3又は1mg/kgの用量で化合物A溶液を光照射1時間前に1回経口投与した。また、化合物Bも同様に経口投与した。すなわち、化合物Bを1%(W/V)メチルセルロース液に0.02又は0.2mg/mlになるように溶解して化合物B溶液を調製した。0.1又は1mg/kgの用量で化合物B溶液を光照射1時間前に1回経口投与した。なお、基剤投与群には1%(W/V)メチルセルロース液を同様に投与した。
(評価方法)
光照射1日後、マウスに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液、2%塩酸キシラジン注射液及び生理食塩液の混合液(7:1:8)2ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、ポータブルERG&VEP LE−3000(株式会社トーメーコーポレーション)を用いてElectroretinogram(ERG;網膜電位図)を測定し(測定条件:刺激輝度3000 cd/m、刺激時間10 msec、背景光輝度0 cd/m)、得られた波形からa波およびb波の振幅を算出した。その後、式3及び4に従い、光照射が引き起こすa波及びb波の振幅減少(視細胞障害)に対する、評価薬物の抑制率(%)を算出した。化合物A及び化合物Bの結果を表2に示す。なお各投与群の例数は1群あたり6乃至8であり、その平均値を抑制率算出に用いた。
[式3]
a波視細胞障害抑制率(%)=(AAZ−AAY)/(AAX−AAY)×100
AX:正常群(無処置)のa波振幅
AY:光照射+基剤投与群のa波振幅
AZ:光照射+薬物投与群のa波振幅
[式4]
b波視細胞障害抑制率(%)=(ABZ−ABY)/(ABX−ABY)×100
BX:正常群(無処置)のb波振幅
BY:光照射+基剤投与群のb波振幅
BZ:光照射+薬物投与群のb波振幅
Figure 2008308488
(考察)
表2から明らかなように、化合物Aが、マウス光障害モデルにおける視細胞障害を顕著に抑制することが示された。一方、麦角系の選択的D2受容体アゴニストである化合物Bでは、視細胞障害に対する抑制効果はほとんど又は全く認められなかった。化合物A及びBのいずれの化合物もD2受容体を活性化させる作用を有するのに対し、非麦角系の選択的D2受容体アゴニストである化合物Aのみが、高い視細胞障害抑制作用を示したことは驚くべき結果である。
以上の結果から、化合物Aに代表される非麦角系の選択的D2受容体アゴニストが、視細胞障害において優れた保護効果を有し、加齢黄斑変性、特に萎縮型加齢黄斑変性や網膜色素変性症などの視細胞障害が関与する後眼部疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
[薬理試験3]
トロンビン誘発ラット網膜血管透過性亢進モデルを用いて、本化合物の有用性を評価した。なおトロンビンは、硝子体内投与により網膜血管における血栓形成を誘発することが報告されており(日眼会誌 1989; 93:978−985)、網膜血管障害(血管閉塞)を伴う病態(例えば、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症、網膜動脈閉塞症など)のモデルとして汎用されている。
(トロンビン誘発ラット網膜血管透過性亢進モデルの作製方法)
ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1ml/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた。その後、水晶体及び網膜を傷つけないよう33G針を用いて、硝子体内にトロンビン(600U/mL)を5μL注入した。正常群のラットにはトロンビンの代わりにPBS(リン酸緩衝液)を投与した。
(薬物投与方法)
化合物Aを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に0.2mg/mlになるように溶解して化合物A溶液を調製した。1mg/kgの用量で化合物A溶液をトロンビン硝子体内投与直前及び20時間後に経口投与した。なお、基剤投与群には1%(W/V)メチルセルロース液を同様に投与した。
(評価方法)
トロンビン硝子体内投与の24時間後に、ラットを放血致死せしめた後、ラットの眼球を血液が混入しないように摘出した。眼球摘出後、視神経乳頭付近に手術用メスを用いて小さく切開し、速やかに硝子体を採取した。採取した硝子体を精製水にて適宜希釈し、Bradford法によりタンパク濃度を測定した。このように測定した硝子体タンパク濃度を網膜血管透過性の指標とした。その後、式5に従い、トロンビンが引き起こす網膜血管透過性亢進に対する、評価薬物の抑制率(%)を算出した。化合物Aの結果を表3に示す。なお各投与群の例数は1群あたり7乃至8であり、その平均値を抑制率算出に用いた。
[式5]
網膜血管透過性抑制率(%)=(P−P)/(P−P)×100
X:正常群(無処置)の硝子体中タンパク濃度
Y:トロンビン硝子体内投与+基剤投与群の硝子体中タンパク濃度
Z:トロンビン硝子体内投与+薬物投与群の硝子体中タンパク濃度
Figure 2008308488
以上の結果から、化合物Aが、網膜血管透過性亢進に対して優れた抑制効果を有し、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの網膜血管障害が関与する後眼部疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
処方例1 点眼剤
100ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物A及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
処方例2 眼軟膏
100g中
化合物A 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、化合物Aを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
処方例3 錠剤
100mg中
化合物A 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
化合物A、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物Aの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの錠剤を調製できる。
処方例4 注射剤
10ml中
化合物A 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
化合物A及び塩化ナトリウムを滅菌精製水に溶解して注射剤を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの注射剤を調製できる。

Claims (7)

  1. 選択的D2受容体アゴニストを有効成分として含有する後眼部疾患の予防又は治療剤であって、該アゴニストがプラミペキソール又はその塩である後眼部疾患の予防又は治療剤。
  2. 後眼部疾患が硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患である、請求項1記載の予防又は治療剤。
  3. 後眼部疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害又は虚血性視神経障害である請求項1記載の予防又は治療剤。
  4. 後眼部疾患が加齢黄斑変性、糖尿病網膜症又は糖尿病黄斑浮腫である、請求項1記載の予防又は治療剤。
  5. 加齢黄斑変性が滲出型加齢黄斑変性又は萎縮型加齢黄斑変性である、請求項4記載の予防又は治療剤。
  6. 投与形態が点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与又は経口投与である請求項1〜5いずれか1記載の予防又は治療剤。
  7. 剤型が、点眼剤、眼軟膏、挿入剤、貼布剤、注射剤、錠剤、細粒剤又はカプセル剤である請求項1〜6いずれか1記載の予防又は治療剤。
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